説明

画像データ処理装置、液体吐出装置及びプログラム

【課題】吐出口に係る液体の吐出特性を回復させつつ、画像品質が低下するのを抑制する。
【解決手段】補正データ生成部は、画像データから、不吐出継続時間が最大許容時間t1に達したときの吐出口108に関する画素81に係る補正濃度値が、最小吐出濃度値となると共に、不吐出継続時間が未処理時間t2を超え且つ最大許容時間t1未満であるときの吐出口108に対応する画素82に係る補正濃度値が、最小吐出濃度値未満の範囲において、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて大きくなるように変化する補正データ80を生成する。濃度値加算部が、画像データにおける画素の濃度値に、当該画素に対応する補正データ80に係る画素81、82の補正濃度値を加算し、量子化部が、加算結果における各画素の濃度値を、誤差拡散しつつ大滴、中滴、小滴及び吐出無しの4値に量子化することによって量子化データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吐出口から液滴を吐出することによって記録媒体に記録される画像に係る画像データを処理する画像データ処理装置、これを備える液体吐出装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドに係るノズル内のインクが増粘することで悪化したインク吐出特性を回復させるため、印刷用紙に係る印刷すべき画像が形成されない空白部分に、当該画像の形成に寄与しないノズルから所定時間間隔でインク滴を予備吐出させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−144681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した技術では、インク滴が予備吐出されることによって、画像が形成されない空白部分ではあるものの、画像に係るデータと全く無関係な領域に所定間隔でドットが形成されるため、印刷品質が低下することがある。
【0005】
本発明の目的は、吐出口に係る液体の吐出特性を回復させつつ、画像品質が低下するのを抑制することができる画像データ処理装置、液体吐出装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の画像データ処理装置は、複数の吐出口から画像を形成するための液滴及び予備吐出に係る液滴を記録媒体に吐出する液体吐出装置に関する画像データ処理装置であって、記録媒体上の互いに異なる位置に対応した複数の画素それぞれについて、前記吐出口から液滴が吐出される所定値以上の濃度値又は前記所定値未満の濃度値を画像に係る画像濃度値として記憶する画像データ記憶手段と、前記複数の画素のうち、前記画像データ記憶手段に記憶された前記画像濃度値が前記所定値未満である前記画素について、当該画像濃度値に前記予備吐出に関する補正濃度値を加える画像濃度値加算手段と、連続して液滴が吐出されない不吐出継続時間が第1所定時間に達したときの前記吐出口に対応する前記画素について、当該画素の前記補正濃度値を加えた後の前記画像濃度値が前記所定値以上となる第1補正値を前記補正濃度値として生成すると共に、前記不吐出継続時間が前記第1所定時間未満であるときの前記吐出口に対応する前記画素について、前記所定値未満の第2補正値を前記補正濃度値として生成する補正データ生成手段とを備えている。
【0007】
本発明の液体吐出装置は、複数の吐出口から液滴を吐出する液体吐出ヘッドと、上記の画像データ処理装置とを備えている。
【0008】
本発明のプログラムは、複数の吐出口から画像を形成するための液滴及び予備吐出に係る液滴を記録媒体に吐出する液体吐出装置を制御するコンピュータを、記録媒体上の互いに異なる位置に対応した複数の画素それぞれについて、前記吐出口から液滴が吐出される所定値以上の濃度値又は前記所定値未満の濃度値を画像に係る画像濃度値として記憶する画像データ記憶手段、前記複数の画素のうち、前記画像データ記憶手段に記憶された前記画像濃度値が前記所定値未満である前記画素について、当該画像濃度値に前記予備吐出に関する補正濃度値を加える画像濃度値加算手段、及び、連続して液滴が吐出されない不吐出継続時間が第1所定時間に達したときの前記吐出口に対応する前記画素について、当該画素の前記補正濃度値を加えた後の前記画像濃度値が前記所定値以上となる第1補正値を前記補正濃度値として生成すると共に、前記不吐出継続時間が前記第1所定時間未満であるときの前記吐出口に対応する前記画素について、前記所定値未満の第2補正値を前記補正濃度値として生成する補正データ生成手段として機能させる。
【0009】
本発明によると、全ての吐出口について第1所定時間以内に液滴が吐出されるため、吐出口に係る液体の吐出特性を回復させることができる。また、画像濃度値に補正濃度値を加算することで、液滴の吐出に至らない所定値未満の範囲で画像濃度値が高くなるに連れて、液滴が予備吐出される可能性が高くなるため、各画素が有する画像濃度値と無関係に予備吐出を行う場合と比較して、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【0010】
本発明においては、前記補正データ生成手段は、前記吐出口に係る前記不吐出継続時間が前記第1所定時間に近づくに連れて、当該吐出口に対応する前記画素に係る前記第2補正値を大きくすることが好ましい。これによると、吐出口から液滴が吐出されない時間が長くなるに連れて、当該吐出口から液滴が予備吐出される可能性が高くなるため、予備吐出の回数が増加するのを抑制しつつ、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【0011】
このとき、前記補正データ生成手段は、前記吐出口に係る前記不吐出継続時間が前記第1所定時間に近づくに連れて、当該吐出口に対応する前記画素に係る前記第2補正値の増加率を大きくすることがより好ましい。これによると、予備吐出の回数が増加するのをさらに抑制しつつ、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【0012】
本発明においては、前記補正データ生成手段が、前記吐出口からの前記不吐出継続時間が前記第1所定時間より短い第2所定時間に達するまでは、当該吐出口に対応する前記画素に係る前記第2補正値を前記所定値の半値未満である第2所定値以下とすることが好ましい。これによると、予備吐出の回数が増加するのを抑制することができるため、液体を無駄に消費するのを抑制することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記画像データ処理装置が、前記複数の画素それぞれについて、前記吐出口から吐出される液滴の体積に対応する量子化濃度値を前記画像濃度値から生成する量子化手段をさらに備えており、前記量子化手段は、前記画素について前記量子化濃度値が生成されたときに発生する前記画像濃度値の誤差を当該画素に隣接する他の前記画素に誤差拡散値として拡散させる誤差拡散手段を有しており、各画素について、前記画像濃度値と前記誤差拡散値との合計値から、前記量子化濃度値を生成することが好ましい。これによると、第2補正値の補正濃度値が加算された画素について液滴が予備吐出されることによって、当該画素に隣接する画素に誤差拡散される濃度値が低下し、当該画素に隣接する画素について液滴が吐出されなくなることがある。つまり、誤差拡散によって発生する画像の形成に寄与する液滴の吐出が、予備吐出に係る液滴の吐出に置き換えられるため、省液体化を図ることができる。
【0014】
さらに、本発明においては、前記補正データ生成手段は、互いに隣接する前記画素において、前記吐出口から予備吐出に係る液滴が吐出されないように、前記補正濃度値を生成することが好ましい。これによると、予備吐出に係るドットの視認性を低下させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、全ての吐出口について第1所定時間以内に液滴が吐出されるため、吐出口に係る液体の吐出特性を回復させることができる。また、画像濃度値に補正濃度値を加算することで、液滴の吐出に至らない所定値未満の範囲で画像濃度値が高くなるに連れて、液滴が予備吐出される可能性が高くなるため、各画素が有する画像濃度値と無関係に予備吐出を行う場合と比較して、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態によるインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】図1に示す制御装置の機能ブロック図である。
【図3】図2に示す画像データ記憶部に記憶されている画像データの構造を模式的に表した図である。
【図4】図2に示す補正データ生成部が生成する補正データの構造を模式的に表した図である。
【図5】図2に示す補正データ生成部の機能を説明するための補正濃度値とインク滴が吐出されてからの経過時間との関係を示したグラフである。
【図6】図2に示す濃度値加算部によって生成された補正画像データを説明するための図である。
【図7】図2に示す量子化部によって生成された量子化データを説明するための図である。
【図8】図2に示す画像データ処理部の動作手順を示すフローチャートである。
【図9】変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
インクジェットプリンタ101は、図1に示すように、図1上方から下方に向かって用紙Pを搬送する搬送ユニット20と、搬送ユニット20によって搬送された用紙Pに、ブラック、マゼンタ、シアン、イエローのインク滴をそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド1と、インクジェットプリンタ101全体を制御する制御装置16とを有している。なお、本実施形態において、副走査方向とは搬送ユニット20で用紙Pを搬送するときの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
【0019】
搬送ユニット20は、2つのベルトローラ6、7と、両ローラ6、7間に架け渡されるように巻回されたエンドレスの搬送ベルト8とを有している。ベルトローラ7は、駆動ローラであって、図示しない搬送モータから駆動力が与えられることで回転する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、ベルトローラ7の回転により搬送ベルト8が走行するのに伴って回転する。搬送ベルト8の外周面に載置された用紙Pは、図1下方へと搬送される。
【0020】
4つのインクジェットヘッド1は、それぞれ主走査方向に沿って延在し、副走査方向には互いに平行に配置されている。すなわち、インクジェットプリンタ101は、主走査方向にインク滴が吐出される複数の吐出口108が配列された(図3参照)ライン式のカラーインクジェットプリンタである。各インクジェットヘッド1の下面は、複数の吐出口108が配列された吐出面となっている。
【0021】
搬送ベルト8の上側ループの外周面と吐出面とが対向しつつ平行となっている。搬送ベルト8によって搬送されてきた用紙Pが4つのインクジェットヘッド1のすぐ下方を通過する際に、各インクジェットヘッド1から用紙Pの上面に向けて各色のインク滴が順に吐出され、用紙P上に所望のカラー画像が形成される。
【0022】
次に、図2を参照しつつ、制御装置16について説明する。制御装置16は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。制御装置16を構成する各機能部は、これらハードウェアとEEPROM内のソフトウェアとが協働して構築されている。図2に示すように、制御装置16は、インクジェットプリンタ101全体を制御するものであり、搬送制御部31と、画像データ処理部33と、ヘッド制御部34とを有している。
【0023】
搬送制御部31は、搬送方向に沿って用紙Pが所望の速度で搬送されるように搬送ユニット20の搬送モータを制御する。
【0024】
画像データ処理部33は、用紙Pに印刷すべき画像に係る画像データの前処理を行う。画像データ処理部33は、画像データ記憶部41と、補正データ生成部42と、濃度値加算部43と、量子化部45とを有している。画像データ記憶部41は、図3に示すように、用紙Pに印刷される画像に係るマゼンタ、シアン、イエロー及びブラックに対応する4つの画像データ70を記憶している。各画像データ70は、用紙Pの印刷領域に対応するマトリクス配置された各画素について、対応する色の濃度値を有している。画像データ70における各画素の濃度値は、吐出口108からインク滴が吐出されるときの最小(インク小滴に相当)のインク吐出量に対応する濃度値である最小吐出濃度値(所定値)以上の濃度値、又は、インク滴が吐出されない濃度値である最小吐出濃度値未満の濃度値である。なお、図3においては、最小吐出濃度値以上の濃度値(インク大滴、中滴、小滴に相当)を有する画素71が黒ドットで示されており、最小吐出濃度値未満の濃度値を有する画素72が、最小吐出濃度値を100としたときの濃度値の比率(%)で示されている。なお、画像データ70は、600dpi×600dpiの解像度を有しているが、より高い解像度を有する画像データ(例えば、1200dpi×1200dpi)を低解像度化することによって生成されてもよいし、より低い解像度を有する画像データ(例えば、300dpi×300dpi)を高解像度化することによって同様のデータが生成されてもよい。もちろん画像データは、600dpi×600dpiの解像度に限定されるものではない。
【0025】
補正データ生成部42は、図4に示すように、各吐出口108について、インク滴を予備吐出させることで、印刷時に連続してインク滴が吐出されない時間(以下、不吐出継続時間と称す)が最大許容時間t1(第1所定時間)以内になるように、画像データ70に係る画素72の濃度値に濃度値加算部43で加算される補正濃度値を含む補正データ80を生成する。なお、図4には、説明の都合上、補正データ80と共に画像データ70に係る画素71を示している。
【0026】
補正データ生成部42は、不吐出継続時間が最大許容時間t1に達したときの吐出口108に対応する画素81に係る補正濃度値である第1補正値を、最小吐出濃度値(100%)とする。これにより、画素81に対応する画像データ70に係る画素72の濃度値は、必ず最小吐出濃度値以上になるように補正され、当該画素72について吐出口108からインク滴が予備吐出される。
【0027】
また、補正データ生成部42は、図4及び図5に示すように、不吐出継続時間が、最大許容時間t1より短い未処理時間t2を超え且つ最大許容時間t1未満であるときの吐出口108に対応する画素82に係る補正濃度値である第2補正値を、最小吐出濃度値未満の範囲において、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて増加率が大きくなるように変化させる。具体的には、補正データ生成部42は、第2補正値を、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて最小吐出濃度値の1%、2%、5%、10%、20%、40%の順に大きくする。これにより、画素82に対応する画像データ70に係る画素72の濃度値は、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて大きくなるように補正され、当該画素72について吐出口108からインク滴が予備吐出される可能性が高くなる。なお、例としては、未処理時間t2は最大許容時間t1の半分に設定される。
【0028】
さらに、補正データ生成部42は、不吐出継続時間が、未処理時間t2未満であるときの吐出口108に対応する画素83に係る補正濃度値である第3補正値を0にする。これにより、画素83に対応する画像データ70に係る画素72の濃度値は補正されず、当該画素72について吐出口108からインク滴が予備吐出されない。
【0029】
図6(a)に示すように、濃度値加算部43は、画像データ70における画素72の濃度値に、当該画素72に対応する補正データ80に係る画素81、82、83の補正濃度値を加算することによって、当該画素72の濃度値が補正された補正画像データ70’を生成する。図6(a)には、濃度値加算部43による加算結果の例を示している。
【0030】
濃度値加算部43は、加算処理を行うことによって、濃度値が最小吐出濃度値未満から最小吐出濃度値以上に変化する画素Xを検出した場合には、画素Xの搬送方向に関する上流側に連続して配列された画素72について、補正データ生成部42に、画素Xの濃度値が最小吐出濃度値以上であることを前提として補正濃度値を生成させると共に、新たに生成された補正濃度値を用いて再び上述の加算処理を行う。画素Xが検出されなくなるまで以上の処理を繰り返すことによって、補正画像データ70’が生成される。
【0031】
量子化部45は、補正画像データ70’の各画素の濃度値が、吐出口108から吐出されるインク滴の体積(大滴、中滴、小滴及び吐出無し)に対応する4つの量子化濃度値に量子化された量子化データ70’’を生成する。また、量子化部45は、図2に示すように、誤差拡散部46を有している。
【0032】
具体的には、図6(a)及び図6(b)に示すように、量子化部45が、補正画像データ70’における搬送方向に関する下流側から順に、主走査方向に配列された各画素列の主走査方向に関する一方から他方(図6における左方から右方)に向かって、各画素の濃度値を所定の閾値に基づいて4値のいずれかに量子化する。誤差拡散部46は、量子化に伴って発生した各画素の濃度値と所定の閾値との差分から補正データ80に係る画素の補正濃度値を差し引いた値を拡散値として、当該画素の他方側に隣接する画素の濃度値に加算することによって、誤差拡散を行う。このとき、拡散値が負の値であるときは、当該画素の他方側に隣接する画素の濃度値に拡散値を加算しない。なお、図6(b)には、図6(a)における補正画像データ70’における破線で囲まれた領域の画素を量子化する過程が示されている。
【0033】
例えば、図6(b)の場合、補正画像データ70’に係る画素Xの左側に位置する画素の濃度値は全て40%であるため、画素Xの左側に隣接する画素の濃度値は最小吐出濃度値未満であり、0の量子化濃度値に量子化される。このとき、各画素の濃度値(40%)と所定の閾値(0%)との差分(40%)から各画素に対応する補正濃度値(40%)を差し引いた拡散値が0となるため、画素Xの濃度値に拡散値が加算されない。次に、補正画像データ70’に係る画素Xの濃度値は最小吐出濃度値の100%であり、小滴の量子化濃度値に量子化される。このとき、画素Xの濃度値(100%)と所定の閾値(100%)との差分(0%)から画素Xに対応する補正濃度値(40%)を差し引いた拡散値が負となるため、画素Xの右側に隣接する画素Y1の濃度値に拡散値が加算されない。さらに、補正画像データ70’に係る画素Y1の濃度値は60%であり、0の量子化濃度値に量子化される。このとき、画素Y1の濃度値(60%)と所定の閾値(0%)との差分(60%)から画素Y1に対応する補正濃度値(0%)を差し引いた拡散値が60%となるため、画素Y1の右側に隣接する画素Y2の濃度値に拡散値が加算されて、画素Y2の濃度値が70%になる。この誤差拡散を繰り返すことにより、画素Y2の右側に隣接する画素Y3の濃度値が120%(60%+10%+50%)となり、最小吐出濃度値を超える。最小吐出濃度値を超えた濃度値は、小滴、中滴、大滴のいずれかの量子化濃度値に量子化される。図6(b)の場合は、画素Y3の濃度値が小滴の量子化濃度値に量子化される。このとき、画素Y3の濃度値(120%)と所定の閾値(100%)との差分(20%)から画素Y3に対応する補正濃度値(40%)を差し引いた拡散値が負となるため、画素Y3の右側に隣接する画素Y4の濃度値に拡散値が加算されない。このように、小滴の量子化濃度値に量子化された画素を除く他の画素について、濃度値加算部43によって濃度値に加算された補正濃度値が、誤差拡散部46によって拡散値を算出する過程において差し引かれることになる。図7に示すように、量子化部45が全ての画素の濃度値を量子化したときに、量子化データ70’’の生成が完了する。
【0034】
ヘッド制御部34は、量子化部45が生成した量子化データ70’’に基づいて、各吐出口108から所望の体積のインク滴を所望のタイミングで吐出させる。
【0035】
次に画像データの前処理について説明する。画像データの前処理は、上位のコンピュータから印刷指令を受信することによって開始される。図8に示すように、画像データ処理が開始されると、補正データ生成部42が、画像データ記憶部41に記憶された画像データ70に係る最小吐出濃度値未満の濃度値を有する画素72に対応する各画素について補正濃度値を有する補正データ80を生成する(S101)。このとき、補正データ生成部42は、不吐出継続時間が未処理時間t2未満であるときの吐出口108に対応する画素83に係る補正濃度値である第3補正値が0となるように、不吐出継続時間が未処理時間t2を超え且つ最大許容時間t1未満であるときの吐出口108に対応する画素82に係る補正濃度値(第2補正値)が、最小吐出濃度値未満の範囲において、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて増加率が大きくなるように、及び、不吐出継続時間が最大許容時間t1に達したときの吐出口108に関する画素81に係る補正濃度値(第1補正値)が、最小吐出濃度値となるように、補正データ80を生成する。
【0036】
そして、濃度値加算部43が、画像データ70における画素72の濃度値に、当該画像72に対応する補正データ80に係る画素81、82、83の補正濃度値を加算して補正画像データ70’を生成する(S102)。量子化部45が、補正画像データ70’に係る各画素の濃度値を、誤差拡散しつつ大滴、中滴、小滴及び吐出無しの4値に対応する量子化濃度値に量子化することによって量子化データを生成する(S103)。以上で画像データの前処理が完了する。
【0037】
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ101によると、各吐出口108に係る不吐出継続時間が最大許容時間t1以内となるため、吐出口108に係るインク吐出特性を回復させることができる。また、画像データ70に係る画素72の濃度値に、補正データ80に係る画素82の補正濃度値を加算することで、インク滴の吐出に至らない最小吐出濃度値未満の範囲で濃度値が高くなるに連れて、インク滴が予備吐出される可能性が高くなる。このため、インク滴の吐出に至らない濃度値を有する画素72(例えば、図6における画素X)についてインク滴が予備吐出されることがあり、所定のパターンで吐出口108からインク滴を予備吐出させる場合と比較して、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【0038】
また、不吐出継続時間が、未処理時間t2を超え且つ最大許容時間t1未満であるときの吐出口108に対応する画素82に係る補正濃度値は、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて増加率が大きくなるように変化するため、不吐出継続時間が長くなるに連れて、吐出口108からインク滴が予備吐出される可能性がさらに高くなり、予備吐出の回数が増加するのを抑制しつつ、画像品質が低下するのを抑制することができる。
【0039】
さらに、不吐出継続時間が、未処理時間t2未満であるときの吐出口108に対応する画素83に係る補正濃度値が0であるため、予備吐出の回数が増加するのを抑制することができる。これにより、インクを無駄に消費するのを抑制することができる。
【0040】
加えて、量子化部45の誤差拡散部46が、量子化に伴って発生した差分を、当該画素の他方側に隣接する画素に拡散させるため、第2補正値の補正濃度値が加算された画素についてインク滴が予備吐出されるとき、当該画素に隣接する画素に誤差拡散される濃度値が低下し、当該画素についてインク滴が吐出されなくなることがある。例えば、図6の場合、補正濃度値が加算された画素Xについて予備吐出が行われることによって、補正濃度値を加算しなければ誤差拡散の結果によりインク滴が吐出される画素Y1(60%+60%=120%)について、インク滴の吐出が行われなくなる。このように、誤差拡散によって発生する画像の形成に寄与する画素Y1のインク滴の吐出が、画素Zの予備吐出に替る画素Xの予備吐出に係るインク滴の吐出に置き換えられるため、省インク化を図ることができる。
【0041】
<変形例>
本実施形態においては、補正データ生成部42が、不吐出継続時間が最大許容時間t1に達したときの吐出口108に対応する画素81に係る補正濃度値を最小吐出濃度値とすることによって、画素81において必ずインク滴が予備吐出される構成となっているが、画像品質を向上させるという観点からは、図9に示すように、補正データ生成部が、補正濃度値を最小吐出濃度値とする画素を、互いに隣接しないようにランダムに決定することによって、補正データを生成することが好ましい。これにより、予備吐出されたインク滴によって形成されたドットの視認性を低下させることができる。この場合においても、各吐出口108について、不吐出継続時間が最大許容時間t1内に収まるように、補正濃度値を最小吐出濃度値とする画素の配置を決定する。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。上述の実施形態では、不吐出継続時間が、未処理時間t2を超え且つ最大許容時間t1未満であるときの吐出口108に対応する画素82に係る第2補正値は、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて増加率が大きくなるように変化する構成であるが、第2補正値は、不吐出継続時間が最大許容時間t1に近づくに連れて、一定の増加率で大きくなるように変化してもよいし、変化しなくてもよい。また、未処理時間t2は0であってもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、不吐出継続時間が、未処理時間t2未満であるときの吐出口108に対応する画素83に係る第3補正値が0となる構成であるが、第3補正値は、最小吐出濃度値の半値以下であれば任意の濃度値であってよい。
【0044】
さらに、上述の実施形態では、量子化部45が、量子化に伴って発生した差分を、当該画素の他方側に隣接する画素に拡散させる構成であるが、誤差拡散させる方向及び範囲は任意に選択可能である。また、量子化に伴って誤差拡散を行わない構成であってもよい。
【0045】
また、上述の実施形態では、4つのインクジェットヘッド1が互いに異なる色のインク滴を吐出する構成であるが、2、3又は5以上のインクジェットヘッド1が互いに異なる色のインク滴を吐出する構成であってもよいし、1つのインクジェットヘッドが複数の色のインク滴を吐出する構成であってもよい。
【0046】
加えて、上述の実施形態では、ライン式のインクジェットプリンタに本発明を適用した例について説明したが、シリアル式のインクジェットプリンタにも本発明は適用可能である。
【0047】
本発明は、インク以外の液体を吐出する記録装置にも適用可能である。さらに、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。
【0048】
また、上述の実施形態においては、インクジェットプリンタ101に本発明を適用した例について説明したが、画像データを処理する画像データ処理装置にも本発明は適用可能である。
【0049】
さらに、上述の実施形態においては、画像データ処理部33がインクジェットプリンタ101に組み込まれている構成であるが、PC(Personal Computer)などのコンピュータにインストールされたソフトウェア、例えば、インクジェットプリンタを制御するドライバソフトウェアや画像処理を行うアプリケーションソフトウェアによって、コンピュータを画像データ処理装置として機能させてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 インクジェットヘッド
16 制御装置
20 搬送ユニット
31 搬送制御部
33 画像データ処理部
34 ヘッド制御部
41 画像データ記憶部
42 補正データ生成部
43 濃度値加算部
45 量子化部
46 誤差拡散部
70 画像データ
70’ 補正画像データ
71、72 画素
80 補正データ
81〜83 画素
101 インクジェットプリンタ
108 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出口から画像を形成するための液滴及び予備吐出に係る液滴を記録媒体に吐出する液体吐出装置に関する画像データ処理装置であって、
記録媒体上の互いに異なる位置に対応した複数の画素それぞれについて、前記吐出口から液滴が吐出される所定値以上の濃度値又は前記所定値未満の濃度値を画像に係る画像濃度値として記憶する画像データ記憶手段と、
前記複数の画素のうち、前記画像データ記憶手段に記憶された前記画像濃度値が前記所定値未満である前記画素について、当該画像濃度値に前記予備吐出に関する補正濃度値を加える画像濃度値加算手段と、
連続して液滴が吐出されない不吐出継続時間が第1所定時間に達したときの前記吐出口に対応する前記画素について、当該画素の前記補正濃度値を加えた後の前記画像濃度値が前記所定値以上となる第1補正値を前記補正濃度値として生成すると共に、前記不吐出継続時間が前記第1所定時間未満であるときの前記吐出口に対応する前記画素について、前記所定値未満の第2補正値を前記補正濃度値として生成する補正データ生成手段とを備えていることを特徴とする画像データ処理装置。
【請求項2】
前記補正データ生成手段は、前記吐出口に係る前記不吐出継続時間が前記第1所定時間に近づくに連れて、当該吐出口に対応する前記画素に係る前記第2補正値を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の画像データ処理装置。
【請求項3】
前記補正データ生成手段は、前記吐出口に係る前記不吐出継続時間が前記第1所定時間に近づくに連れて、当該吐出口に対応する前記画素に係る前記第2補正値の増加率を大きくすることを特徴とする請求項2に記載の画像データ処理装置。
【請求項4】
前記補正データ生成手段は、前記吐出口に係る前記不吐出継続時間が前記第1所定時間より短い第2所定時間に達するまでは、当該吐出口に対応する前記画素に係る前記第2補正値を前記所定値の半値未満である第2所定値以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像データ処理装置。
【請求項5】
前記画像データ処理装置は、前記複数の画素それぞれについて、前記吐出口から吐出される液滴の体積に対応する量子化濃度値を前記画像濃度値から生成する量子化手段をさらに備えており、
前記量子化手段は、前記画素について前記量子化濃度値が生成されたときに発生する前記画像濃度値の誤差を当該画素に隣接する他の前記画素に誤差拡散値として拡散させる誤差拡散手段を有しており、
各画素について、前記画像濃度値と前記誤差拡散値との合計値から、前記量子化濃度値を生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像データ処理装置。
【請求項6】
前記補正データ生成手段は、互いに隣接する前記画素において、前記吐出口から予備吐出に係る液滴が吐出されないように、前記補正濃度値を生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像データ処理装置。
【請求項7】
複数の吐出口から液滴を吐出する液体吐出ヘッドと、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の画像データ処理装置とを備えていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
複数の吐出口から画像を形成するための液滴及び予備吐出に係る液滴を記録媒体に吐出する液体吐出装置を制御するコンピュータを、
記録媒体上の互いに異なる位置に対応した複数の画素それぞれについて、前記吐出口から液滴が吐出される所定値以上の濃度値又は前記所定値未満の濃度値を画像に係る画像濃度値として記憶する画像データ記憶手段、
前記複数の画素のうち、前記画像データ記憶手段に記憶された前記画像濃度値が前記所定値未満である前記画素について、当該画像濃度値に前記予備吐出に関する補正濃度値を加える画像濃度値加算手段、及び、
連続して液滴が吐出されない不吐出継続時間が第1所定時間に達したときの前記吐出口に対応する前記画素について、当該画素の前記補正濃度値を加えた後の前記画像濃度値が前記所定値以上となる第1補正値を前記補正濃度値として生成すると共に、前記不吐出継続時間が前記第1所定時間未満であるときの前記吐出口に対応する前記画素について、前記所定値未満の第2補正値を前記補正濃度値として生成する補正データ生成手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−177898(P2011−177898A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41429(P2010−41429)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】