説明

異方導電性接着剤及び電気装置

【課題】腐食防止性、導通信頼性が高い電気装置を製造可能な異方導電性接着剤を提供する。
【解決手段】本発明の異方導電性接着剤30は、バインダー31と、バインダー31中に分散された導電性粒子35とを有している。バインダー31には、熱硬化性樹脂と、下記一般式(1)で示されるシルセスキオキサンが含有されており、熱硬化性樹脂と、シルセスキオキサンが重合するので、バインダー31の硬化物は疎水性が高く、硬度も高くなる。
(RSi−O3/2)n……一般式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤の技術分野に関し、特に、電気部品の接続に用いられる異方導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体チップや配線板等の電気部品の接続には、バインダー中に導電性粒子が分散された異方導電性接着剤が用いられる。
バインダー中に残留する不純物イオン(例えば塩素イオン)は、電気部品の腐食の原因となるので、従来より異方導電性接着剤にはイオン補足材が添加されている。
【0003】
しかし、イオン補足材は通常粒子状であり、ファインピッチ化によって、端子間距離が短くされた電気部品では、隣接する端子間がイオン補足材粒子により導通してしまい、導通不良が生じるという問題があった。
【0004】
また、導電性粒子には、ニッケル被膜金粒子等の金属粒子等が用いられているが、金属粒子が劣化し、ニッケルイオン等の金属イオンがバインダー中に放出されると、該金属イオンによっても電気部品が腐食されるという問題がある。
更に、バインダーに用いられるエポキシ樹脂は、高い導通信頼性が得られるという利点があるが、極性が高いため、電気部品の腐食の原因となる。
【特許文献1】特開2006−274120号公報
【特許文献2】特開2004−4612号公報
【特許文献3】特開2004−123698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、電気部品の腐食を防止し、かつ、導通信頼性の高い異方導電性接着剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、熱硬化性樹脂を含有するバインダー中に、導電性粒子が分散された異方導電性接着剤であって、前記バインダーには、下記一般式(1)で示されるシルセスキオキサンが含有された異方導電性接着剤である。
(RSi−O3/2)n……一般式(1)
(上記一般式(1)中の置換基Rは化学構造中に炭素原子を含有し、前記熱硬化性樹脂と重合可能な置換基である。シルセスキオキサン1分子中の置換基Rは全部が同じ種類であってもよいし、2種類以上の置換基Rが存在してもよい。上記一般式(1)中nは8以上の整数である。)
本発明は異方導電性接着剤であって、前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂であり、前記一般式(1)の置換基Rは、アクリロイル基と、オキセタン基と、エポキシ基とからなる置換基群より選択されるいずれか1種類の置換基である異方導電性接着剤である。
本発明は、第一、第二の電気部品を有し、前記第一、第二の電気部品の間には、バインダーの硬化物が前記第一、第二の電気部品の部品本体と密着して配置され、前記硬化物には導電性粒子が分散され、前記第一の電気部品の接続端子と、前記第二の電気部品の接続端子とで前記導電性粒子が挟み込まれ、前記硬化物は、熱硬化性樹脂と、下記一般式(1)で示されるシルセスキオキサンの重合物を含有する電気装置である。
(RSi−O3/2)n……一般式(1)
(上記一般式(1)中の置換基Rは化学構造中に炭素原子を含有し、前記熱硬化性樹脂と重合可能な置換基である。シルセスキオキサン1分子中の置換基Rは全部が同じ種類であってもよいし、2種類以上の置換基Rが存在してもよい。置換基Rは全部が熱硬化性樹脂と重合してもよいし、一部が熱硬化性樹脂と重合せずに置換基Rのまま残留してもよい。上記一般式(1)中nは8以上の整数である。)
【0007】
シルセスキオキサンと熱硬化性樹脂の重合物は疎水性が高く、該重合物が電気部品の腐食を防止するので、異方導電性接着剤にイオン補足材粒子を含有させる必要が無い。
異方導電性接着剤にイオン補足材粒子が含有されないと、電気部品がファインピッチ化され、端子間間隔が狭くされた場合であっても、隣接する端子間が導通せず、導通不良が起こらない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の異方導電性接着剤を用いた電気装置は、電気部品の腐食が起こり難く、しかも、導通信頼性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1の符号30は本発明の異方導電性接着剤の一例を示しており、異方導電性接着剤30はバインダー31と、バインダー31中に分散された導電性粒子35とを有している。
【0010】
本発明の異方導電性接着剤30はバインダー31がペースト状で、全体が流動性を有するペースト状のまま用いてもよいし、乾燥や半硬化によってバインダーを固化させ、全体をフィルム状に成形したものを用いてもよい。
【0011】
バインダー31は熱硬化性樹脂と、上記一般式(1)で示されるシルセスキオキサンを含有する。一般式(1)の置換基Rは炭素原子を有する有機系置換基なので、熱硬化性樹脂との相溶性が高く、バインダー31中でシルセスキオキサンは熱硬化性樹脂と均一に混ざり合っている。
【0012】
図2(b)の符号1は上記異方導電性接着剤30を用いて電気部品を接続して作成された本発明の電気装置を示している。
電気装置1は第一、第二の電気部品10、20を有している。第一、第二の電気部品10、20は、部品本体11、21と部品本体11、21表面に配置された接続端子15、25とを有している。
【0013】
例えば、第一、第二の電気部品10、20はLCDやフレキシブル配線板であり、接続端子15、25はLCDのITO電極や、フレキシブル配線板の金属配線膜の一部で構成されている。
【0014】
この電気装置1を作成するには、第一、第二の電気部品10、20の接続端子15、25を互いに対向させた状態で、異方導電性接着剤30を挟み込み(図2(a))、その状態で加熱押圧し、押圧によって、部品本体11、21をバインダー31に密着させ、接続端子15、25の間に導電性粒子35を挟みこんで第一、第二の電気部品10、20を電気的に接続させる。
【0015】
加熱押圧を続け、加熱によってバインダー31中の熱硬化性樹脂を重合させると、バインダー31が部品本体11、21に密着した状態で硬化し、バインダーの硬化物33によって第一、第二の電気部品10、20が機械的に接続される。
【0016】
シルセスキオキサンの置換基Rは熱硬化性樹脂と重合するので、硬化物33は、熱硬化性樹脂とシルセスキオキサンの重合物を含有する。そのような重合物は、熱硬化性樹脂だけを重合させた場合よりも硬度が高いので、本発明の電気装置1は第一、第二の電気部品10、20が硬化物33で強固に固定され、導通信頼性が高い。
【0017】
また、シルセスキオキサンの無機ユニット(Si−O)は、重合物の疎水性を向上させ、硬化物33の吸湿性を低下させるので、第一、第二の電気部品10、20と、硬化物33中の導電性粒子35は腐食され難い。
【0018】
例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、置換基Rは下記構造式(A)で示されるアクリロイル基と、下記構造式(B)で示されるオキセタン基と、下記構造式(C)で示されるエポキシ基とからなる置換基群より選択されるいずれか1種類以上の置換基であり、エポキシ樹脂のエポキシ環と、これらの置換基が重合する。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
上記構造式(A)〜(C)中の(CH2a、(CH2b、(CH2cがそれぞれ一般式(1)中のSiと結合する。尚、a〜cの数は合成技術上可能という点では3以上である。
【0023】
熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂は、特に限定されず、例えば、ナフタレンエポキシ樹脂、エポキシアクリレート、ノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができる。また、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂以外にも、アクリル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、尿素樹脂、アミノ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、イソシアネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0024】
本発明の熱硬化型異方導電性接着剤は、金属に対する密着性向上のために、添加剤としてシランカップリング剤を含有することができる。
バインダー31には、加熱により熱硬化性樹脂のラジカル重合反応やカチオン重合を開始させる重合開始剤を含有させることが望ましい。例えば、パーオキシエステル等の有機過酸化物、AIBN等のラジカル重合開始剤、イミダゾール系潜在性硬化剤等を例示することができる。
【0025】
導電性粒子35としては、従来より異方導電性接着剤において用いられている導電性粒子を使用することができる。例えば、ニッケル粒子、金粒子、半田粒子、これらの金属で被覆された樹脂粒子等が挙げられる。これらの表面を絶縁被覆してもよい。これらの導電性粒子の粒子径は、通常、2〜10μm、好ましくは3〜5μmであり、配合量は、熱硬化型異方導電性接着剤中に、通常1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%である。
【0026】
本発明の熱硬化型異方導電性接着剤は、必要に応じて、熱可塑性樹脂、溶剤、製膜成分、ゴム成分等を含有することができる。
第一、第二の電気部品10、20はLCDやフレキシブル配線板に限定されず、本発明の異方導電性接着剤は、リジッド基板、半導体チップ、抵抗素子等の種々の電気部品に広く用いることができる。
【実施例】
【0027】
熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂(東都化成社製の商品名「FX280S」)、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製の商品名「YL980」と、大日本インキ化学工業社製の商品名「HP−4032D」)、オキセタン型シルセスキオキサン(東亞合成社製の商品名「OX−SQ−H」)と、カチオン系硬化剤(三新化学工業社製の商品名「SI−60L」)と、シランカップリング剤(日本ユニカ社製の商品名「A−187」)と、導電性粒子(金粒子、積水化学工業社製の商品名「AUE003A」)とを下記表1の配合で配合し、更に溶剤としてトルエン50重量部を加えて、混合機を用いて混合し、その混合物を剥離処理済みポリエチレンテレフタレートフィルムにバーコーダーを用いて塗布し、70℃で5分間乾燥し、20μm厚の実施例1〜3、比較例1、2の異方導電性フィルムを作成した。
【0028】
【表1】

【0029】
尚、ここで用いたシルセスキオキサンは、図3(a)に示すラダー型と、同図(b)に示すランダム型と、図4(a)〜(c)に示すかご型の混合物であり、置換基Rは全て上記構造式(B)に示したオキセタン基である(CH2基の数bが3)。
【0030】
実施例1〜3、比較例1、2の異方導電性フィルムを液晶パネルのITO電極部(ITO電極が露出する部分)にそれぞれ貼り、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がし、露出した異方導電性フィルムにフレキシブル配線板の電極部(接続端子が露出する部分)をそれぞれ貼り、加熱押圧(160℃、60Mpa線圧、10秒)することにより接続し、実施例1〜3、比較例1、2の電気装置1を得た。
実施例1〜3、比較例1、2の電気装置1を用いて下記「導通信頼性」試験と、「腐食性」試験を行った。
【0031】
<導通信頼性>
実施例1〜3、比較例1、2の電気装置1を85℃、相対湿度85%の恒温恒湿槽中で125時間放置し、エージングを行った。
エージング後の抵抗値が、エージング前の初期抵抗値の1.8倍未満の場合を”◎”、1.8倍以上2倍未満の場合を”○”、2倍以上5倍未満の場合を”△”、5倍以上の場合を”×”として評価した。
【0032】
<腐食性>
エージング後の電気装置1について、接続部のITO電極を光学顕微鏡(50倍)で目視観察し、腐食が観察されない場合を”○”、エッジ部にのみ腐食が観察される場合を”△”、全体に腐食が観察される場合を”×”と評価した。
「導通信頼性」試験と「腐食性」試験の評価結果を下記表2に記載する。
【0033】
【表2】

【0034】
上記表1、2から明らかなように、バインダー31中にシルセスキオキサンを含有させた実施例1〜3は、シルセスキオキサンを含有しない比較例1、2に比べて腐食性の試験結果が良好であり、しかも、導通信頼性も高いことが確認された。
【0035】
従って、バインダーの固形成分(ここでは、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シルセスキオキサン、カップリング材、硬化剤)の合計100重量部中に、少なくともシルセスキオキサンが17.4重量部以上含有されていれば、腐食が起こり難く、導通信頼性も高い電気装置が得られることが分かる。
【0036】
また、実施例1、2と実施例3、比較例1と比較例2をそれぞれ比較すると、導通信頼性は、エポキシ樹脂としてナフタレン型エポキシ樹脂を含有させることでも向上することが分かるが、実施例3と比較例1を比較すると、ナフタレン型エポキシ樹脂を用いた場合であっても、シルセスキオキサンを含有させたものの方が、シルセスキオキサンを含有させないものに比べて導通信頼性が高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の異方導電性接着剤を説明する断面図
【図2】(a)、(b):本発明の電気装置を製造する工程を説明する断面図
【図3】(a):ラダー型構造を説明する構造式、(b):ランダム型構造を説明する構造式
【図4】(a)〜(c):かご型構造を説明する構造式
【符号の説明】
【0038】
1……電気装置 10、20……電気部品 30……異方導電性接着剤 31……バインダー 33……硬化物 35……導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含有するバインダー中に、導電性粒子が分散された異方導電性接着剤であって、
前記バインダーには、下記一般式(1)で示されるシルセスキオキサンが含有された異方導電性接着剤。
(RSi−O3/2)n……一般式(1)
(上記一般式(1)中の置換基Rは化学構造中に炭素原子を含有し、前記熱硬化性樹脂と重合可能な置換基である。シルセスキオキサン1分子中の置換基Rは全部が同じ種類であってもよいし、2種類以上の置換基Rが存在してもよい。上記一般式(1)中nは8以上の整数である。)
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂であり、
前記一般式(1)の置換基Rは、アクリロイル基と、オキセタン基と、エポキシ基とからなる置換基群より選択されるいずれか1種類の置換基である請求項1記載の異方導電性接着剤。
【請求項3】
第一、第二の電気部品を有し、前記第一、第二の電気部品の間には、バインダーの硬化物が前記第一、第二の電気部品の部品本体と密着して配置され、
前記硬化物には導電性粒子が分散され、
前記第一の電気部品の接続端子と、前記第二の電気部品の接続端子とで前記導電性粒子が挟み込まれ、
前記硬化物は、熱硬化性樹脂と、下記一般式(1)で示されるシルセスキオキサンの重合物を含有する電気装置。
(RSi−O3/2)n……一般式(1)
(上記一般式(1)中の置換基Rは化学構造中に炭素原子を含有し、前記熱硬化性樹脂と重合可能な置換基である。シルセスキオキサン1分子中の置換基Rは全部が同じ種類であってもよいし、2種類以上の置換基Rが存在してもよい。置換基Rは全部が熱硬化性樹脂と重合してもよいし、一部が熱硬化性樹脂と重合せずに置換基Rのまま残留してもよい。上記一般式(1)中nは8以上の整数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−179682(P2008−179682A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13287(P2007−13287)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】