説明

異物の識別方法

【課題】試料に付着した異物の存否のみならず、異物の種類をも簡易に識別できる異物の識別方法を提供する。
【解決手段】既知の物質に異なる励起波長の紫外線を照射し、各励起波長における試料からの蛍光強度と波長を分析して、蛍光強度がピークとなるときの励起波長を基準励起波長とし、蛍光強度がピークとなった蛍光波長を基準蛍光波長とするとき、次の過程を含む。(A)試料に前記基準励起波長の紫外線を照射して、試料からの蛍光波長を分析する過程。(B)その試料からの蛍光波長が前記基準蛍光波長と合致すれば、試料に前記既知の物質が異物として存在すると判定し、合致しなければ試料に既知の物質がないと判定する過程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物の識別方法に関するものである。特に、FPC(フレキシブルプリント回路)やコネクタなどの電子部品における有機物質の付着の有無と種類を簡易に判定できる異物の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FPCやコネクタなどの電子部品において、有機物質が異物として付着することがある。この有機物質の具体例としては、端子などのめっき層に施される封孔処理剤や、半田に含まれるフラックスが挙げられる。これらの異物の存否が製品検査の過程で迅速に確認できれば、製品の品質や歩留まり向上の点で好ましい。また、その異物の種類までもが識別できれば、異物の発生原因をつきとめる有力な手がかりになる。
【0003】
従来のこのような異物の検知を行う技術として、蛍光顕微鏡を用いた技術がある。蛍光顕微鏡による異物の検知は、試料に紫外線を照射し、試料からの蛍光を観察して、蛍光が認められた場合に、試料に蛍光物質(例えば有機物質)が異物として存在すると判断することで行う。
【0004】
また、蛍光を利用した類似の技術として、特許文献1に記載の汚染物の検査方法がある。この方法では、紙などの表面に付着した汚染物を含む部位に紫外線を照射して、照射部位からの蛍光を調べることで汚染物が油分を含有するか否かを判定し、さらに汚染物の拡大像を観察して油分の種類を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-273757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の蛍光顕微鏡を用いた技術では、単に試料からの蛍光を観察して異物の存否を判定する程度であり、その異物が具体的にどのような種類の物質かを識別することが困難である。
【0007】
一方、特許文献1に係る技術は、蛍光を調べて汚染物が油分を含有するか否かを判定しているが、この判定は油分に含まれる芳香族化合物のπ電子が紫外線の照射により励起され、励起状態から基底エネルギー準位に戻る際に放出する蛍光を観察することで行っている。そのため、この技術では、汚染物がπ電子を有する物質であることがわかる程度にすぎず、より具体的な物質の特定までは困難である。さらに、特許文献1に係る技術では、汚染物の拡大像を観察して油分の種類の判定も行っている。しかし、この判定は、グリースが基油と増稠剤の混和物からなり、前者が紙に浸透して蛍光を発するのに対して、後者は紙の表面に留まって殆ど蛍光を発しないことに着目し、蛍光を発している領域の一部に蛍光を発していないか又は発光強度の小さい部位を含む場合に汚染物がグリースであると判定するというものである。そのため、グリース固有の付着形態を判定基準としており、グリースか他の物質かの判定に利用できるにすぎず、より具体的に異物の種類を特定できる簡易な識別方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、試料に付着した異物の存否のみならず、異物の種類をも簡易に識別できる異物の識別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における異物の識別方法は、試料に紫外線を照射し、その試料からの蛍光を分析する異物の識別方法に係る。そして、既知の物質に異なる励起波長の紫外線を照射し、各励起波長における試料からの蛍光強度と波長を分析して、蛍光強度がピークとなるときの励起波長を基準励起波長とし、蛍光強度がピークとなった蛍光波長を基準蛍光波長とするとき、次の過程を含むことを特徴とする。
(A)試料に前記基準励起波長の紫外線を照射して、試料からの蛍光波長を分析する過程。
(B)その試料からの蛍光波長が前記基準蛍光波長と合致すれば、試料に前記既知の物質が異物として存在すると判定し、合致しなければ試料に既知の物質がないと判定する過程。
【0010】
この構成によれば、予め確認しておいた基準励起波長の紫外線を試料に照射し、得られた蛍光波長が基準蛍光波長に合致するか否かを判定するだけで、試料の異物の存否のみならず、異物の種類も識別することが容易にできる。
【0011】
本発明の一実施形態として、複数の既知の物質の各々に対する基準励起波長を順次切り替えて試料に照射し、試料からの蛍光波長が既知の各物質ごとの基準蛍光波長と合致するか否かを判定することが挙げられる。
【0012】
この構成によれば、基準励起波長を切り替えて順次試料に紫外線を照射することで、一つの試料における複数種の異物の存否および種類の識別を容易に行うことができる。
【0013】
本発明の一実施形態として、前記異物がフラックスで、「基準励起波長:基準蛍光波長」の組み合わせが、「295nm:325nm」又は「320nm:410nm」であることが挙げられる。
【0014】
この構成によれば、異物としてフラックスの存在を識別することができる。
【0015】
本発明の一実施形態として、前記異物が封孔処理剤で、「基準励起波長:基準蛍光波長」の組み合わせが、「345nm:385nm」であることが挙げられる。
【0016】
この構成によれば、異物として封孔処理剤の存在を識別することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の異物の識別方法によれば、蛍光観察を利用した異物の識別方法において、異物の存否のみならず、異物の種類まで簡易に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態において、予備試験で行った蛍光分光分析の結果を三次元表示したグラフである。
【図2】本発明の実施形態において、本試験で用いる蛍光顕微鏡の基本構成を示す模式説明図である。
【図3】(a)は蛍光顕微鏡による従来の識別方法による観察結果の説明図、(b)は選択的蛍光観察を行う本発明の実施形態に係る識別方法による観察結果の説明図、(c)は蛍光観察と選択的蛍光観察の両方を行う本発明の実施形態に係る識別方法による観察結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
<概要>
本例の識別方法には、予備試験と本試験とが含まれる。予備試験では、予め既知の物質における基準励起波長と基準蛍光波長の組み合わせを求めておく。この基準励起波長と基準蛍光波長の組み合わせを求めるには、蛍光分光光度計による測定が利用できる。但し、既知の物質における基準励起波長と基準蛍光波長の組み合わせが予めわかっているのであれば、予備試験を省略して本試験から開始してもよい。一方、本試験では、試料に付着した未知の異物の解析を行う。その際、試料に基準励起波長の紫外線を照射して、その試料から発せられる蛍光の波長が基準蛍光波長に合致するか否かを判定する。この本試験には、蛍光顕微鏡が利用できる。以下、本例の識別方法をより詳しく説明する。
【0021】
《予備試験》
蛍光分光光度計は、通常、光源、励起側分光器、試料室、蛍光側分光器、及び検出器を備える。光源は、例えば、広い波長域で強い連続スペクトルの光が得られるキセノンランプが用いられる。光源から放射された紫外線はまず励起側分光器により分光され、所定の狭い波長域の励起光として試料に照射される。試料室には、透明で無蛍光の石英からなる試料セルが配置され、同セル内には、例えば液状の試料が入れられる。試料は、既知の蛍光性を有する成分が含まれているものとする。その成分は励起光の波長がその成分に固有の波長に合致したときに励起され、成分固有の波長の蛍光を発する。蛍光は蛍光側分光器に入射し、蛍光側分光器によって選択された波長の蛍光が、光電子増倍管を使った検出器に入る。検出器からの出力信号はコンピュータに送られ、同コンピュータで光度計の制御とデータ処理が行われる。なお、試料は液体に限られず、固体試料においても光学系を適宜変更することにより同様の測定が可能である。
【0022】
このような分光光度計を用いた測定は、例えば、次のように行う。まず、蛍光側分光器をある波長に固定し、励起側分光器の波長を走査して、この走査による蛍光強度の変化を励起スペクトルとして記録する。次に、蛍光側分光器の波長を所定波長分変化させた値に固定して、前記と同様に励起スペクトルを測定する。この操作を繰り返すことによって多数の蛍光波長における励起スペクトル群が得られる。
【0023】
得られた測定データは、三次元表示することが好ましい。一例として、フラックスの三次元表示グラフを用いて、基準励起波長と基準蛍光波長の組み合せを求める場合を説明する。図1は、励起波長EXを縦軸、蛍光波長EMを横軸にとり、蛍光強度を等高線で表している。この横軸の250nm付近から右斜め上方に伸びる一対の直線状の表示は、試料からの散乱光を示し、その散乱光は励起波長と実質的に同一の波長である。一方、等高線で示される表示には、2つの蛍光ピークがあることがわかり、それぞれ「基準励起波長:基準蛍光波長」の組み合わせは、「295nm:325nm」又は「320nm:410nm」となる。
【0024】
同様に、封孔処理剤についても測定を行ったところ、「基準励起波長:基準蛍光波長」の組み合わせが、「345nm:385nm」であった。
【0025】
このように、予め物質名のわかっている試料に対して蛍光分光光度計による測定を行うことで、その物質に固有の基準励起波長と基準蛍光波長の組み合せを確認することができる。
【0026】
《本試験》
本試験では、蛍光顕微鏡にて試料を観察する。蛍光顕微鏡は、通常、図2に示すように、対物レンズ1、接眼レンズ2、フィルタブロック3、及び光源4を備え、必要に応じてカメラ5も備える。対物レンズ1と接眼レンズ2との間には、フィルタブロック3が配置されている。このフィルタブロック3の側方には、光源4とシャッタ6が配置され、シャッタ6を開いた際に光源4からの紫外線をフィルタブロック3側に照射することができる。一方、フィルタブロック3は、光源4に対向した側面に励起フィルタ31を、上面(接眼レンズ側)に吸収フィルタ32を備え、内部にダイクロイックミラー33を備える。そして、試料Sは対物レンズ1の下方にセットされる。
【0027】
本試験における試料Sの具体例としては、各種プリント基板、コネクタ、接続端子、ワイヤー、エナメル線、ICなどの電子部品が挙げられる。もちろん、試料Sは紫外線を照射できるものであればよいため、電子部品以外の種々の製品を対象とすることも可能である。一方、これら試料Sに付着する異物としては、蛍光性の物質、例えば有機物質が挙げられる。具体的には半田のフラックス、めっき層の封孔処理剤、その他、部品や製造設備から発生した樹脂片、塗料片などが挙げられる。
【0028】
この蛍光顕微鏡を用いた観察は、例えば次のように行う。試料Sを対物レンズ1の前方にセットした状態で、シャッタ6を開いて、紫外線(励起光)と可視光を含む光を光源4から発生させる。光源4からの光は、励起フィルタ31で励起光だけが透過される。励起光はダイクロイックミラー33で下方に反射され、対物レンズ1を透過して試料Sに照射される。この励起光の照射により、試料Sに蛍光物質が含まれていると、その蛍光物質から蛍光が発せられる。この蛍光は、試料Sからの蛍光以外の光と共に、対物レンズ1及びダイクロイックミラー33を透過する。さらに、ダイクロイックミラー33を透過した光は、吸収フィルタ32で蛍光以外の光が除去されて蛍光のみが透過される。そして、この蛍光が接眼レンズ2を介して肉眼で、又はカメラ5により観察される。
【0029】
ここで、励起フィルタ31が透過する光の波長を基準励起波長に、吸収フィルタ32が透過する光の波長を基準蛍光波長になるように各フィルタの31,32選択を行う。各フィルタ31,32が透過する光の波長は、基準励起(蛍光)波長を中心として±5nm程度の幅があっても構わない。この幅が狭い方が異なる物質同士を区別して観察しやすい。さらに、ダイクロイックミラー33は、基準励起波長の光は反射するが、基準蛍光波長の光は透過するものとする。このような各フィルタ31,32の選択、さらに必要に応じてミラー33の選択により、基準励起波長の紫外線が試料Sに照射され、基準蛍光波長の蛍光のみが観察されることになる。つまり、試料Sを観察して蛍光が認められれば、試料Sからの蛍光波長が基準蛍光波長と合致したことになり、試料には基準励起波長及び基準蛍光波長の組み合せを持つ物質が含まれることがわかる。試料Sからの蛍光波長の合致判定は、基準蛍光波長に対して若干のずれ幅(例えば±5nm程度)を許容する。
【0030】
具体的には、予備試験において述べたフラックスと封孔処理剤とが付着した銅箔を試料として観察を行った場合、図3に示すような観察結果となる。
【0031】
まず、一般的な蛍光顕微鏡による観察では、図3(a)の「蛍光観察」に示すように、励起フィルタで透過される励起光の波長域がフラックスと封孔処理剤の両基準励起波長を含んだり、吸収フィルタで透過される蛍光の波長域がフラックスと封孔処理剤の両基準蛍光波長を含んだりするため、フラックスも封孔処理剤も蛍光を発した状態(白抜き楕円)として観察される。そのため、フラックスと封孔処理剤を区別して認識することができない。ちなみに、この試料を可視光観察した場合、図3の「可視光観察」に示すように、異物の付着箇所を認識することが殆どできない。
【0032】
これに対して、本実施形態の本試験に係る方法では、検出したい物質に応じて各フィルタ・ミラーを順次切り替える。つまり、図3(b)の「選択的蛍光観察」に示すように、フラックスの検出を行う場合には、フラックスの基準励起波長と基準蛍光波長に適合した各フィルタ・ミラーを選択することで、フラックスのみを蛍光状態で観察することができる。また、封孔処理剤の検出を行う場合は、封孔処理剤の基準励起波長と基準蛍光波長に適合した各フィルタ・ミラーを選択することで、封孔処理剤のみを蛍光状態で観察することができる。従って、銅箔に付着した異物を、フラックスと封孔処理剤に区別して認識することができる。
【0033】
その他、図3(c)に示すように、一般的な蛍光顕微鏡の「蛍光観察」によりフラックスと封孔処理剤の付着箇所を確認しておいてから、各異物の基準励起波長と基準蛍光波長に適合したフィルタやミラーの選択を行って、「選択的蛍光観察」によりフラックスと封孔処理剤とを区別して認識しても良い。
【0034】
なお、本発明の範囲は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、種々の変形を行うことができる。例えば、励起フィルタや吸収フィルタを取り替える代わりに、波長可変フィルタを励起フィルタ及び吸収フィルタに用いたり、分光器を用いて基準励起波長や基準蛍光波長を可変することが考えられる。その他、基準励起波長や基準蛍光波長の変更に際し、ダイクロイックミラーの取り替えも必須ではない。また、ダイクロイックミラーの代わりにハーフミラーを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の異物の識別方法は、電子部品に付着した有機物質の識別など各種製品に付着した異物の識別に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 対物レンズ
2 接眼レンズ
3 フィルタブロック
31 励起フィルタ 32 吸収フィルタ 33 ダイクロイックミラー
4 光源
5 カメラ
6 シャッタ
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に紫外線を照射し、その試料からの蛍光を分析する異物の識別方法であって、
既知の物質に異なる励起波長の紫外線を照射し、各励起波長における試料からの蛍光強度と波長を分析して、蛍光強度がピークとなるときの励起波長を基準励起波長とし、蛍光強度がピークとなった蛍光波長を基準蛍光波長とするとき、
試料に前記基準励起波長の紫外線を照射して、試料からの蛍光波長を分析する過程と、
その試料からの蛍光波長が前記基準蛍光波長と合致すれば、試料に前記既知の物質が異物として存在すると判定し、合致しなければ試料に既知の物質がないと判定する過程とを含むことを特徴とする異物の識別方法。
【請求項2】
複数の既知の物質の各々に対する基準励起波長を順次切り替えて試料に照射し、
試料からの蛍光波長が既知の各物質ごとの基準蛍光波長と合致するか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の異物の識別方法。
【請求項3】
前記異物がフラックスで、
「基準励起波長:基準蛍光波長」の組み合わせが、「295nm:325nm」又は「320nm:410nm」であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異物の識別方法。
【請求項4】
前記異物が封孔処理剤で、
「基準励起波長:基準蛍光波長」の組み合わせが、「345nm:385nm」であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異物の識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−197173(P2010−197173A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41404(P2009−41404)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】