説明

発信機および通信システム

【課題】データの転送速度を向上させられる発信機および通信システムを提供する。
【解決手段】発信機としてLED素子10は、発光部130と、複数の変調部120とを備える。変調部120はそれぞれ変調用電極層106とモスアイ構造層105とを含み、それぞれ信号入力用電源121が接続される。変調用電極層106およびn側電極103に電圧を印加することによって、モスアイ構造層105の材料に変化する電界を生じさせ、その屈折率を変化させて発光部130からの光を変調する。複数の変調部120が、同一の発光部130から放射される光を、それぞれ異なる信号に基づいて変調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発信機および通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物半導体による短波長のLED素子と蛍光体の組み合わせによる白色LEDが実用化され、白色LEDは今後の照明用光源として期待されている。白色LEDは、従来の照明光源である白熱電球や蛍光灯とは異なり、比較的高速での光の変調が可能であり、この特徴を生かした可視光通信への応用が見込まれている。照明装置からの1〜10Mbpsの可視光通信によって、インターネットをはじめとするオフィス、家庭内の情報通信網を構築することを目指した研究プロジェクトが国内外で活発に推進されている。
【0003】
また、この種の可視光通信用装置として、送信データに基づいて生成された駆動電流信号に基づいて青色光励起型白色LEDを駆動し、可視光信号を受信機に対して出力するものが提案されている。特許文献1には、この可視光通信用装置は、送信データの立ち上がり時に立ち上がりパルスを付加するとともに、送信データの立ち下がり時に立ち下がりパルスを付加して、多階調の駆動電流信号を生成する多階調駆動手段を備えると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−103979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在の光ファイバーなどによるブロードバンド通信は、1000Mbpsにも達しており、これと比較すると、従来のLEDや白熱電球の光を用いた構成での転送速度は十分とは言い難い。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、データの全転送速度を向上させられる発信機および通信システムを提供することにある。なお、本明細書において「全転送速度」とは、単一の発信機による転送速度と、複数の発信機を並列的に動作させる容量との双方を考慮した、全体的なデータの転送速度を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の問題点を解決するため、この発明に係る発信機は、少なくとも1つの発光部と、少なくとも1つの発光部から放射される光を変調する、複数の変調手段であって、表面に凹部または凸部が周期的に形成された材料を含む構造体と、材料に変化する電界を生じさせ、当該材料の屈折率を変化させる電界調整部とを有する、複数の変調手段とを備え、変調手段の少なくとも2つは、同一の発光部から放射される光を、それぞれ異なる信号に基づいて変調する。
【0008】
このような構成によれば、電界調整部は屈折率を変化させることにより、屈折率の変化と同じ速度で光量を変化させる。また、複数の変調手段は、共通の発光部から放射される光を変調する。
【0009】
光は複数の波長を含み、変調手段の少なくとも2つは、複数の波長のいずれかに応じて、凹部または凸部が形成される周期が互いに異なってもよい。
複数の変調手段のそれぞれにおいて、凹部または凸部が形成される周期は、その変調手段が変調する光の光学波長より大きく、その変調手段が変調する光のコヒーレント長より小さいものであってもよい。
【0010】
また、この発明に係る通信システムは、上述の発信機と、複数の変調手段から出射する光を、変調手段ごとに復調する復調器を有する受信機とを備える。
【0011】
受信機は、複数の変調手段から出射する光を検出する複数の受光素子を含み、複数の受光素子の少なくとも2つは、互いに異なる変調手段から出射する光を検出してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発信機および通信システムは、データの転送速度および転送容量を向上させることにより、データの全体的な全転送速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る通信システムの構成の概略を示す模式図である。
【図2】図1のLED素子の構成の概略を示す模式図である。
【図3】図2のIII−III線における断面図である。
【図4】異なる屈折率の界面における光の回折作用を示す説明図であり、(a)は界面にて反射する状態を示し、(b)は界面を通過する状態を示す。
【図5】図3のモスアイ構造層から出射する光の回折作用を示す説明図である。
【図6】図1のLED素子とCCDカメラとの位置関係を模式的に示す図である。
【図7】図1の変調手段の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は本発明に係る通信システムの構成の概略を示す模式図である。本発明に係る通信システムは、LED素子10および受信機20を備える。後述するように、LED素子10は発信機または送信機として機能する。LED素子10には直流電源30が接続され、この直流電源30がLED素子10に電源を供給する。
【0015】
図2および図3に、LED素子10の構成を模式的に示す。図3は図2のIII−III線における断面図である。
【0016】
図3に示すように、LED素子10は、SiC基板101と、SiC基板101の片側の面上に形成される半導体積層部110と、を備えている。半導体積層部110は、バッファ層111、n型GaN層112、多重量子井戸活性層113、電子ブロック層114、p型GaN層115をSiC基板101側からこの順に有している。P型GaN層115上にはp側電極102が形成されるとともに、n型GaN層112上にはn側電極103が形成されている。
【0017】
SiC基板101は、N及びBが添加された単結晶6H型SiCからなり、紫外光により励起されると、ドナー・アクセプタ・ペア発光により、複数の波長を含む電球色の可視光を発する。SiC基板101は、例えば、500nm〜650nmにピークを有する500nm〜750nmの波長の光を発する。本実施形態においては、SiC基板101は、ピーク波長が580nmの光を発するよう調整されている。SiC基板101におけるB及びNのドーピング濃度は、1015/cm〜1019/cmである。ここで、SiC基板101は、408nm以下の光により励起可能である。
【0018】
バッファ層111はGaNで構成されている。本実施形態においては、バッファ層111は、n型GaN層112等よりも低温にて成長されている。第1導電型層としてのn型GaN層112は、バッファ層111上に形成され、n−GaNで構成されている。発光層としての多重量子井戸活性層113は、n型GaN層112上に形成され、GaInN/GaNで構成され、電子及び正孔の再結合により紫外光を発する。
【0019】
電子ブロック層114は、多重量子井戸活性層113上に形成され、p−AlGaNで構成されている。第2導電型層としてのp型GaN層115は、電子ブロック層114上に形成され、p−GaNで構成されている。バッファ層111からp型GaN層115までは、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長により形成される。尚、第1導電型層、活性層及び第2導電型層を少なくとも含み、第1導電型層及び第2導電型層に電圧が印加されると、電子及び正孔の再結合により活性層にて光が発せられるものであれば、半導体層の層構成は任意である。
【0020】
アノード電極としてのp側電極102は、p型GaN層115上に形成され、p側GaN層115側の面が反射面102aをなしている。p側電極102は、多重量子井戸活性層113から発せられる光に対して高い反射率を有する。p側電極102は、多重量子井戸活性層113から発せられる光に対して80%以上の反射率を有することが好ましい。本実施形態においては、p側電極102は、例えばAg系、Rh系の材料からなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0021】
カソード電極としてのn側電極103は、p型GaN層115からn型GaN層112をエッチングして、露出したn型GaN層112上に形成される。n側電極103は、例えばTi/Al/Ti/Auから構成され、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等により形成される。
【0022】
このLED素子10は、フリップチップ型であり、SiC基板101の裏面(図3中では上側の面)から主として光が取り出される。このように、LED素子10において、SiC基板101、半導体積層部110およびp側電極102が発光部130を構成する。
【0023】
SiC基板101の光取り出し面(すなわち、半導体積層部110が形成される面とは反対側の面、図3中では上側の面)には、透明導電膜104と、構造体としてのモスアイ構造層105とがこの順に形成される。透明導電膜104は周知の構成を有し、たとえば電子ビーム蒸着法によって堆積させることで形成される。
モスアイ構造層105上には、複数の変調用電極層106が形成される。複数の変調用電極層106は互いに接触しない形状となっている。変調用電極層106は、SiC基板101から発せられる光に対して透明であることが好ましく、例えばITO(Indium Tin Oxide)を用いることができる。尚、変調用電極層106は、モスアイ構造層105よりもシート抵抗が小さい材料であれば、他の材料を用いてもよい。
【0024】
変調用電極層106上には、それぞれ屈折率調整用のパッド107が設けられる。パッド107は、屈折率変調用電極であり、例えばTi/Auから構成することができ、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等により形成される。
【0025】
図2および図3に示すように、1つの変調用電極層106と、モスアイ構造層105のうちこの変調用電極層106に対応する部分(すなわち、モスアイ構造層105のうち、その変調用電極層106と透明導電膜104とに挟まれた部分)とが、変調手段としての変調部120を構成する。このように、変調部120はそれぞれ変調用電極層106とモスアイ構造層105とを含む。図2の例では4行4列に配列された合計16個の変調部120が設けられており、図3にはこのうち4個の変調部120の断面が示されている。各変調部120において、モスアイ構造層105には、外側すなわちSiC基板101とは反対側へ突出する凸部105aが周期的に形成されており、変調用電極層106はそれぞれ、この凸部105aが形成された部分に対応して形成される。
【0026】
モスアイ構造層105は、圧電体からなり、例えば、KTP(KTiOPO:potassium titanyl phosphate)、LiNbO、LiNbO等の可視光に対して透明な材料を用いることが好ましい。各凸部105aの形状は、円錐、多角錐等の先端に向けて縮径する形状とすることができる。なお、各凸部105aの先端は、尖った形状としてもよく、尖っていない形状としてもよい。本実施形態においては、周期的に配置される各凸部105aにより、光の回折作用を得ることができる。
【0027】
本実施形態では、各変調部120において、各凸部105aは、平面視(図2と同じ方向)にて、中心が正三角形の頂点の位置となるように、所定の周期で仮想の三角格子の交点に整列して形成される。各凸部105aの周期は、変調部120ごとに異なる。
ここで、SiC基板101から放射される光は複数の波長を含むものであるが、変調部120は、それぞれこの光に含まれる異なる波長の光を変調するように構成される。この構成を実現するために、各変調部120における凸部105aの周期は、その変調部120が変調する特定の波長に対応して決定される。凸部105aの周期は、その変調部120が変調する光の光学波長より大きく、当該光のコヒーレント長より小さくなっている。具体的に、凸部105aの周期は、当該光の光学波長の2倍より大きく、かつ、コヒーレント長の半分以下となっている。
【0028】
尚、ここでいう周期とは、隣接する凸部105aにおける深さのピーク位置の距離をいう。また、光学波長とは、実際の波長を屈折率で除した値を意味する。さらに、コヒーレント長とは、所定のスペクトル幅のフォトン群の個々の波長の違いによって、波の周期的振動が互いに打ち消され、可干渉性が消失するまでの距離に相当する。コヒーレント長lcは、光の波長をλ、当該光の半値幅をΔλとすると、おおよそlc=(λ/Δλ)の関係にある。
【0029】
また、変調部120にはそれぞれ信号入力用電源121が接続されている。信号入力用電源121の一方の極はパッド107を介して変調用電極層106に接続され、他方の極はn側電極103に接続される。信号入力用電源121は、送信すべき信号に基づいて、変調用電極層106およびn側電極103の間に印加される電圧を制御する。このようにして、変調部120はそれぞれ光を変調する。
【0030】
以上のように構成されたLED素子10は、p側電極102とn側電極103に順方向の電圧を印加すると、多重量子井戸活性層113から紫外光が発せられる。紫外光のうち、p側電極102側へ向かう光は、p側電極102の反射面102aにて反射してSiC基板101へ向かう。多重量子井戸活性層113から発せられた紫外光は、その殆どがSiC基板101へ直接的又は間接的に入射する。
【0031】
SiC基板101は、紫外光により励起されると、電球色の可視光を発する。そして、n側電極103と屈折率変調用電極としてのパッド107に電圧を印可して、モスアイ構造層105に電界を生じさせると、モスアイ構造層105の材料の屈折率が変化する。ここで、パッド107および変調用電極層106は変調部120ごとに設けられているので、モスアイ構造層105の材料の屈折率は、変調部120ごとに独立して変化することになる。
【0032】
ここで、図4(a)に示すように、ブラッグの回折条件から、モスアイ構造層105の界面にて光が反射する場合において、入射角θinに対して反射角θrefが満たすべき条件は、
d・n1・(sinθin−sinθref)=m・λ・・・(1)
である。ここで、n1は入射側の媒質の屈折率、λは入射する光の波長、mは整数である。本実施形態では、n1は、モスアイ構造層105の屈折率となる。
【0033】
一方、図4(b)に示すように、ブラッグの回折条件から、モスアイ構造層105の界面にて光が透過する場合において、入射角θinに対して透過角θoutが満たすべき条件は、
d・(n1・sinθin−n2・sinθout)=m’・λ・・・(2)
である。ここで、n2は出射側の媒質の屈折率であり、m’は整数である。本実施形態では、n2は、空気の屈折率となる。すなわち、モスアイ構造層105の屈折率が変化すると、光の透過条件が変化する。
【0034】
上記(1)式及び(2)式の回折条件を満たす反射角θref及び透過角θoutが存在するためには、各凸部105aの周期は、素子内部の光学波長である(λ/n1)や(λ/n2)よりも大きくなければならない。一般的に知られているモスアイ構造は、周期が(λ/n1)や(λ/n2)よりも小さく設定されており、回折光は存在しない。そして、各凸部105aの周期は、光が波としての性質を維持できるコヒーレント長より小さくなければならず、コヒーレント長の半分以下とすることが好ましい。コヒーレント長の半分以下とすることにより、回折による反射光及び透過光の強度を確保することができる。
【0035】
図5に示すように、LED素子10においてSiC基板101から等方的に放出される光のうち、モスアイ構造層105へ入射角θinで入射する光は、上記(1)式を満たす反射角θrefで反射するとともに、上記(2)式を満たす透過角θoutで透過する。ここで、全反射臨界角以上の入射角θinでは、強い反射光強度となる。反射光は、p側電極102の反射面102aにて反射して、再びモスアイ構造層105へ入射するが先に入射したときの入射角θinと異なる入射角θinで入射するため、先の入射条件とは異なる透過特性となる。
【0036】
このように、各変調部120が変調する光の光学波長より大きく、当該光のコヒーレント長より小さい周期で凸部105aが形成され、各凸部105aが形成されたモスアイ構造層105の回折面にて反射した光を反射して回折面へ再入射させる反射面102aを備えることにより、全反射臨界角を超える角度で入射する光についても回折作用を利用して素子外部へ光を取り出すことができる。
【0037】
そして、n側電極103とパッド107に電圧を印可して、モスアイ構造層105に電界を生じさせると、変調部120ごとにモスアイ構造層105の材料の屈折率が変化する。本実施形態においては、モスアイ構造層105は、圧電性を有することから、ポッケルス効果を利用して効率よく屈折率を変化させることができる。モスアイ構造層105の屈折率が変化すると、上記(2)式のn2が変化して回折の透過条件が変化する。これにより、LED素子10の発光時、変調部120ごとにパッド107の電位を変化させて、LED素子10から取り出される光量を変調部120ごとに独立して変化させることができる。
このように、LED素子10は発信機または送信機として機能し、パッド107および変調用電極層106は屈折率変調用電極として機能する。また、パッド107、変調用電極層106およびn側電極103は、モスアイ構造層142の材料の屈折率を変化させる電界調整部として機能する。
【0038】
これにより、LED素子10の発光時、各パッド107の電位を変化させて、LED素子10から取り出される光量を変調部120ごとに変化させることができる。従って、モスアイ構造層105にて生じる電界に応じて光を変調させることができ、n側電極103及びp側電極102から注入される電子と正孔の量を調整して変調する従来の方式よりも、格段に変調速度を向上させることができる。
【0039】
また、モスアイ構造層105に電圧を印加するための一対の電極のうち、一方についてはn側電極103を利用するようにしたので、LED素子10に設けられる電極の数を少なくすることができる。尚、LED素子10の形態に応じて、n側電極103でなくp側電極102を利用してもよいことは勿論であるし、アノード電極及びカソード電極とは別個に屈折率変調用に一対の電極を設けても良い。
【0040】
さらに、複数の変調部120が同一の発光部130から放射される光を利用して変調を行うので、変調部120ごとに発光部130を独立に設ける必要がなく、構成および製造工程を簡素にするとともにコストを削減することができる。
また、多くの層が複数の変調部120に共通して設けられるので、構成および製造工程をさらに簡素にすることができる。図3の例では、発光部130の他に、n側電極103、透明導電膜104、およびモスアイ構造層105が複数の変調部120に共通に設けられている。
【0041】
また、モスアイ構造層105を、モスアイ構造層105よりもシート抵抗の小さな一対の層で挟むようにしたので、モスアイ構造層105に確実に電界を生じさせることができる。さらに、本実施形態においては、モスアイ構造層105及び変調用電極層106を、半導体積層部110と同じIII属窒化物半導体で構成したので、素子の作製が比較的容易である。
【0042】
図1に戻り、受信機20の構成を説明する。受信機20は光検出手段としてのCCDカメラ21を備える。CCDカメラ21は、複数の受光素子と、入射する光を屈折させて受光素子に導くレンズとを含み、これらの受光素子が、各変調部120から出射する光La〜Ldを検出する。このような構成によって、CCDカメラ21は、変調部120のそれぞれから出射する光を、変調部120ごとに検出する。
【0043】
図6は、LED素子10とCCDカメラ21との位置関係を模式的に示す。CCDカメラ21は、LED素子10のすべての変調部120を撮影できる位置に配置される。LED素子10(または変調部120)とCCDカメラ21との距離は、CCDカメラ21の分解能に応じて決定される。すなわち、変調部120のそれぞれから出射される光が、CCDカメラ21の異なる受光素子において独立に検出できる距離であればよい。
【0044】
また、図1に示すように、受信機20は、CCDカメラ21によって検出される光が表す信号を、変調部120ごとに復調する復調器22を備える。復調器22の構成は当業者に周知であるため具体的構成については説明を省略する。なお復調器22はCCDカメラ21の一部として設けられてもよく、または受信機20の外部に設けられてもよい。
このように、受信機20は、それぞれの信号に基づいて光を変調する変調部120からの信号光を、空間的に分解して復調することにより、空間的に重畳された信号を変調部120ごとに区別して再生することができる。
【0045】
本実施形態においては、凸部105aの周期は、ある変調部120について500nmとすることができる。この変調部120が変調する光の波長は450nmであり、III族窒化物半導体層の屈折率が2.4であることから、その光学波長は187.5nmである。また、多重量子井戸活性層113から発せられる光の半値幅は63nmであることから、当該光のコヒーレント長は、3214nmである。すなわち、この変調部120において、各凸部105aの周期は、対応する光学波長の2倍より大きく、かつ、コヒーレント長の半分以下となっている。
なお、他の変調部120における凸部105aの周期は、上記の説明および各変調部120が変調の対象とする波長に基づき、当業者が適宜決定することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、各凸部105aは、円錐状に形成される。具体的に、各凸部105aは、基端部の直径が200nmであり、深さは250nmとなっている。
構造体としてのモスアイ構造層105は、ポッケルス効果の大きい材料が好ましい。具体的には、圧電性を有することが好ましく、等方性結晶であることがより好ましい。本実施形態においては、周期的に配置される各凸部105aにより、光の回折作用を得ることができる。
【0047】
尚、実施の形態1においては、p側電極102が反射面102aをなすものを示したが、反射面102aとして機能しなかったり、反射面102aが存在しない場合であっても、モスアイ構造層105に生じる電界により、LED素子10からの光取り出し量が変化する。要は、モスアイ構造層105と、モスアイ構造層105の材料に電界を生じさせて屈折率を変化させる電界調整部とを備えていればよい。
【0048】
また、前記実施形態においては、モスアイ構造層105をAlNから形成したものを示したが、例えば図7に示すように、n型GaN層105xとAlN層105yを交互に積層して形成してもよい。この場合、各AlN層105yに生じる電界が強くなるため、モスアイ構造層105の屈折率変化を大きくすることができる。尚、光の変調には、ポッケルス効果を利用してモスアイ構造層105の屈折率を変えることが好ましいが、ポッケルス効果より屈折率の変化量は小さいものの、カー効果を利用して屈折率を変えることもできる。
【0049】
また、前記実施形態においては、屈折率変調構造をLED素子10に設けたものを示したが、多重量子井戸活性層113等を省略することにより、発光部130を持たない屈折率変調器とすることもできる。この屈折率変調器は、屈折率変調器を透過する光の変調を行うことができ、例えば、白熱電球等の発光体と組み合わせ使用することで、発光体から発せられる光の変調が可能となる。
【0050】
また、実施の形態1においては、SiC基板101をN及びBが添加された単結晶6H型SiCとして電球色を発するようにしたものを示したが、例えばAl、N及びBが添加された6H型SiCとして白色光を発するようにしたり、N及びBが添加された6H型SiCとN及びAlが添加された6H型SiCの2層構造として白色光を発するようにしてもよい。
【0051】
また、実施の形態1においては、LED素子10がフリップチップ型であるものを示したが、フェイスアップ型としてもよいことは勿論である。また、モスアイ構造層105に周期的に凸部105aが形成されたものを示したが、周期的に凹部を形成してもよい。また、例えば、凸部又は凹部を角柱状とし、所定の周期で仮想の正方格子の交点に整列して形成してもよい。さらに、凸部又は凹部を三角錐状、四角錐状のような多角錐状としてもよく、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【0052】
また、実施の形態1においては、LED素子10は単一の発光部130のみを備え、16個の変調部120がすべて同一の発光部130から放射される光を変調するが、変形例として、LED素子は複数の発光部を備えてもよく、また発信機が複数のLED素子を備えてもよい。このような構成であっても、変調手段のうち少なくとも2つが共通の発光部から放射される光を変調する構成であれば、構成および製造工程を簡素にするとともにコストを削減することができる。
また、変調部120の数は複数であれば16個でなくともよく、少なくとも2個であればよい。たとえば2個である場合、CCDカメラ21の受光素子のうち少なくとも2つが、互いに異なる変調部120から出射する光を検出すればよい。
【0053】
また、実施の形態1においては、各変調部120における凸部105aの周期は、その変調部120が変調する特定の波長に対応してそれぞれ異なるものであるが、変形例として、必ずしもすべての変調部120における周期を異ならせる必要はなく、少なくとも2つの変調部120において周期が異なっていればよい。
【0054】
さらに、凸部105aの周期はすべての変調部120について同一であってもよい。この場合には、すべての変調部120から同一の波長(または同一の波長の範囲)を有する光が出射することになるので、LED素子10(または変調部120)とCCDカメラ21との距離)はCCDカメラ21の分解能に応じて決定する必要がある。
なお、複数の変調部120は、それぞれ異なる信号に基づいて光を変調してもよく、一部または全部の変調部120が同じ信号に基づいて光を変調してもよい。
【0055】
また、実施の形態1ではCCDカメラ21によって光検出手段を構成したが、光検出手段はCCDカメラでなくともよく、変調部120の変調速度に対応できる動作速度を持つフォトトランジスタ、フォトダイオード、フォトIC、等によって構成することができる。
【0056】
また、実施の形態1では、LED素子10と受信機20との距離(あるいは変調部120とCCDカメラ21との距離)は、CCDカメラ21の分解能に応じて決定されるが、変形例として、この距離はCCDカメラ21の分解能を超えるものであってもよい。すなわち、CCDカメラ21の各受光素子から変調部120のそれぞれが独立に認識できる距離の範囲を超えてもよい。そのような場合であっても、各変調部120における凸部105aの周期はそれぞれ異なるので、出射する光の波長は変調部120ごとに異なり、波長に基づいて各変調部120からの光を区別することができる。この場合は、LED素子10において、同一の波長を出射する変調部120が隣接しない構成(すなわち、互いに隣接する変調部120から出射される光の波長が異なる構成)とし、同一の波長の光を出射する変調部120がCCDカメラ21において互いに識別できる距離であればよい。光検出手段としては、異なる波長の光を検出する受光素子を備えたCCDカメラを用いてもよく、またCCDカメラの各受光素子の前に特定の波長を通過させる光学フィルタ備えたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 LED素子(発信機)、20 受信機、21 CCDカメラ、22 復調器、30 直流電源、101 SiC基板、102 p側電極、102a 反射面、103 n側電極(電界調整部)、104 透明導電膜、105 モスアイ構造層(構造体)、105a 凸部、105x n型GaN層、105y AlN層、106 変調用電極層(電界調整部)、107 パッド(電界調整部)、110 半導体積層部、111 バッファ層、112 n型GaN層、113 多重量子井戸活性層、114 電子ブロック層、115 p型GaN層、120 変調部(変調手段)、121 信号入力用電源、130 発光部、θin 入射角、θout 透過角、θref 反射角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの発光部と、
前記少なくとも1つの発光部から放射される光を変調する、複数の変調手段であって、
表面に凹部または凸部が周期的に形成された材料を含む構造体と、
前記材料に変化する電界を生じさせ、当該材料の屈折率を変化させる電界調整部と
を有する、複数の変調手段と
を備え、
前記変調手段の少なくとも2つは、同一の前記発光部から放射される光を、それぞれ異なる信号に基づいて変調する、発信機。
【請求項2】
前記光は複数の波長を含み、
前記変調手段の前記少なくとも2つは、前記複数の波長のいずれかに応じて、前記凹部または凸部が形成される周期が互いに異なる、請求項1に記載の発信機。
【請求項3】
前記複数の変調手段のそれぞれにおいて、前記凹部または凸部が形成される周期は、その変調手段が変調する光の光学波長より大きく、その変調手段が変調する光のコヒーレント長より小さい、請求項1または2に記載の発信機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の発信機と、
前記複数の変調手段から出射する光を、前記変調手段ごとに復調する復調器を有する受信機と
を備える通信システム。
【請求項5】
前記受信機は、前記複数の変調手段から出射する前記光を検出する複数の受光素子を含み、
前記複数の受光素子の少なくとも2つは、互いに異なる前記変調手段から出射する光を検出する
請求項4に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−137542(P2012−137542A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288393(P2010−288393)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】