説明

発光ダイオード

【課題】 安定した品質特性が得られる発光ダイオードを提供する。
【解決手段】 同一発光色を示して組成材料の異なる少なくとも2種の蛍光体8a、8bを含有させる。この組成材料の異なる少なくとも2種の蛍光体8a、8bは、蛍光体の一部の品質特性に関し、その品質特性が劣る組成材料の蛍光体であれば、その特性に優れた組成材料の蛍光体を組み合わせてその品質特性の向上を図るものである。また、少なくとも2種の蛍光体8a、8bの発光スペクトルのそれぞれのピーク波長の差を0〜10nmの範囲内に抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードに関し、特に発光効率などに優れて信頼性の高い白色発光の発光ダイオード、並びに、カラーフィルタを用いた液晶表示装置のバックライト光源に適した発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、白色発光をなす発光ダイオード(以降、LEDという)には、青色光を発光する発光素子の発光波長に励起されて波長変換を起こし、長波長の光を発光する蛍光体を用いた構成が知られている。このように蛍光体を用いた白色LEDとしては、黄色光を発光するYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体を用いた白色LEDが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、YAG系蛍光体以外の蛍光体を用いたものとしては、CaSiAlNなる黄色光を発光する窒化物系蛍光体を用いた白色LEDが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3700502号公報
【特許文献2】特開2008−163078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LEDの発光効率や信頼性などの品質特性は蛍光体の組成材料によって大きく影響を受ける。蛍光体はその組成材料によって品質特性が異なり、例えば、蛍光体の耐湿性や耐熱性をとって考えると、耐湿性や耐熱性に劣る蛍光体は長い期間の中で蛍光体が劣化して発光効率が低下し、品質の安定性がなくなって信頼性を低下させる。また、温度特性を考えると、温度特性の優れた蛍光体は温度が高くなってもその明るさはさほど低下しないが、温度特性の劣る蛍光体は温度が高くなるに従って発光の明るさが低下すると言う問題が起きる。
【0006】
このような品質特性を考えると、引用文献1に記載されたYAG系蛍光体は温度特性にやや難があり、温度が高くなるに従って発光の明るさが低下するという問題を有する。
【0007】
また、特許文献2に記載されたCaSiAlNなる蛍光体は、温度特性には優れているが、反面において、耐湿性などにはやや劣るという問題を有する。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、安定した品質が得られるLEDを得ると共に、表示装置のバックライト光源として利用できるLEDを得ることを目的にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための手段として、本発明の発光ダイオードの特徴は、発光素子と発光素子の発光した光で励起されて発光する蛍光体を有する発光ダイオード(本発明においても、以降LEDと呼ぶ)において、蛍光体は同一発光色を示して組成材料の異なる少なくとも2種の蛍光体を有しており、この少なくとも2種の蛍光体の発光スペクトルのそれぞれのピーク波長の差が0〜10nmの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のLEDの特徴は、発光素子が窒化ガリウム系化合物半導体素子であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のLEDの特徴は、蛍光体が緑色発光を示すバリウムシリケート系蛍光体,クロロシリケート系蛍光体,サイアロン系蛍光体,アルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体の少なくとも2種からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のLEDの特徴は、同一発光色を示す蛍光体以外に他の発光色を示す蛍光体が少なくとも1種有することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のLEDの特徴は、他の発光色を示す蛍光体が赤色発光する赤色蛍光体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
蛍光体はその組成材料によって品質特性が決まり、その品質特性にはそれぞれ一長一短がある。そのため、1種の蛍光体で全て満足する品質特性を得ることは難しい。
そこで、同一発光色を示して、組成材料の異なる蛍光体を少なくとも2種を用いることで、品質特性を高めることができる。例えば、耐湿性に係る品質特性について考えると、同一発光色をなして、耐湿性に劣る組成材料の蛍光体と耐湿性に優れた組成材料の蛍光体とを組み合わせることによって、耐湿性の劣る組成材料を耐湿性に優れた組成材料がカバーして耐湿性能が向上する。
【0015】
また、温度特性(温度消光特性とも言われている)について考えると、同一発光色をなして、温度特性に優れた蛍光体と温度特性に劣る蛍光体を組み合わせることによって、同じ発光色での温度特性の向上が得られる。
蛍光体の品質特性には、耐湿性や耐熱性、温度特性、初期発光の明るさ、などが代表的な品質特性として挙げられるが、その材料が持っている品質特性の長所や短所を少なくとも2種の材料を巧く組み合わせることで、これらの品質特性を向上させる効果を得る。
【0016】
更に、同じ発光色をなして、少なくとも2種の蛍光体のそれぞれの発光スペクトルのピーク波長の差を0〜10nmの範囲内に抑えることで、色ズレの少ない発光色を得ることができる。例えば、緑色発光の蛍光体を用いれば色ズレの少ない緑色発光の光量が多く得られ、また、赤色発光の蛍光体を用いれば色ズレの少ない赤色発光の光量が多く得られる。これは、特にカラーフィルタを用いた半透過型液晶表示装置のR(赤色)G(緑色)B(青色)のバックライト光源として用いると、光の分光透過率を高める効果を得る。そして、演色性を高めて色の再現性を保証し、十分な色の明るさを得ることができる。
【0017】
また、発光素子に窒化ガリウム系化合物半導体素子を用いる。GaN,AlGaN,InGaN,AlGaInNなどの窒化ガリウム系化合物半導体素子は紫外光〜青色光の領域、あるいは青色光の領域の光を発光する。蛍光体の励起光として利用できる共に青色発光の光として利用することができる。
【0018】
また、蛍光体は緑色発光を示すバリウムシリケート系蛍光体,クロロシリケート系蛍光体,サイアロン系蛍光体,アルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体の少なくとも2種からなるのが好ましい。
緑色発光を示すバリウムシリケート系蛍光体にはバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体(一般的な化学式は、(Ba1−pSrSiO:Eu(式中、0<p<1)で示される)がある。このバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体は耐湿性や耐熱性には劣るが初期発光の明るさに優れた明るさを示す。
緑色発光を示すクロロシリケート系蛍光体にはカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体(一般的な化学式は、CaMg(SiOCl:Euで示される)がある。このカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体は耐湿性や耐熱性、並びに、温度特性には優れた特性をもつが、初期発光の明るさの面では劣る。
サイアロン系蛍光体には緑色発光を示す蛍光体としてβ−サイアロン蛍光体(一般的な化学式は、Si6−zAl8−z:Eu(式中0<z<4.2)示される)がある。このβ−サイアロン蛍光体は耐湿性や耐熱性、並びに、温度特性には優れた特性をもつが、初期発光の明るさの面ではバリウムシリケート系蛍光体よりやや劣る。
緑色発光を示すアルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体には、一般的な化学式、CaSc:Ce、CaScSi12:Ceで示される蛍光体が好ましいものとして挙げられる。これらの蛍光体は耐湿性や耐熱性には優れた特性をもち、また、温度特性にも優れている。
【0019】
このような特性を持つ蛍光体を少なくとも2種組み合わせることにより全体的に品質特性の向上を図ることができる。例えば、バリウムシリケート系蛍光体とクロロシリケート系蛍光体とを組み合わせると耐湿性や耐熱性、温度特性、初期発光の明るさなどに優れた品質特性が現れる。
【0020】
また、同一発光色を示す蛍光体以外に他の発光色を示す蛍光体を含有させることによって、長波長の発光色も得ることができる。そして、LEDの発光色を変化させることができると共に色度の範囲を広げることができる。
例えば、緑色発光するバリウムシリケート系蛍光体及びクロロシリケート系蛍光体の中に赤色発光する赤色蛍光体を混ぜ合わせると、窒化ガリウム系化合物半導体素子の青色光とバリウムシリケート系蛍光体及びクロロシリケート系蛍光体の緑色光と赤色蛍光体の赤色光とが混ざり合って白色発光のLEDを得ることができる。また、この場合にはRGBの光が混ざり合っていることから演色性が高く、色再現性の良いLEDが得られる。
そして、このようにして得られた白色LEDはカラーフィルタを用いた半透過型液晶表示装置にもRGBの光源として利用することができる。
【0021】
以上述べた発光体の効果によって、LEDの発光効率や品質の安定性、信頼性が向上し、LEDの寿命を延ばすことができる。また、演色性も向上して色の再現性も良くなる。
【0022】
また、カラーフィルタを用いる半透過型液晶表示装置のバックライト光源として利用でき、色の再現性を保証し、十分な色の明るさを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係るLEDの構造を模式的に示した要部断面図である。
【図2】実施例1に係る蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【図3】図2に示された発光スペクトルの蛍光体を用いた時のLEDから発光される光の発光スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2に係るLEDの構造を模式的に示した要部断面図である。
【図5】図4に示したLEDの発光スペクトルを示した図である。
【図6】実施例3に係るLEDの構造を模式的に示した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るLEDについて図1を用いながら説明する。図1は本実施形態に係るLEDの構造を模式的に示した要部断面図である。
【0025】
[実施形態に係るLEDの構造説明:図1]
図1において、1はガラスエポキシ樹脂やBTレジンなどの樹脂で形成した基板である。2は基板1の表面上に形成した電極である。電極2はアノード用電極2aとカソード用電極2bとに分かれている。アノード用電極2a及びカソード用電極2bは導電性の良いAu,Ag,Cuなどの金属膜でもって構成される。3は金などからなるバンプで、5は発光素子である。このバンプ3は発光素子5のp電極(アノード電極)とアノード用電極2aとを接続し、発光素子5のn電極(カソード電極)とカソード用電極2bとを接続している。図1に示した構造はダイボンディング構造を取っており、発光素子5の裏面側でもって基板1上のアノード用電極2a及びカソード用電極2bに発光素子5を実装した構造をなしている。なお、発光素子5はGaN,AlGaN,InGaN,AlGaInNなどの窒化ガリウム系化合物半導体素子が好適に用いられる。
【0026】
6はリフレクタである。ポリカーボネイト樹脂やBTレジンなどの樹脂から形成されて中心部に中空部を有し、中空部の内周面6aは傾斜面をなして、反射手段を設けた反射面をなしている。そして、中空部のほぼ中央部に発光素子5を配置している。7はエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂で、8は発光素子5である窒化ガリウム系化合物半導体素子の発光する光で励起されて発光する蛍光体である。樹脂7の中に蛍光体8が分散している。本実施形態においては、蛍光体8は組成材料の異なる2種類の蛍光体で構成しており、蛍光体8aと蛍光体8bとで蛍光体8を構成している。この2種類の蛍光体8aと蛍光体8bはそれぞれ異なった組成材料からなるものであるが、それぞれの発光スペクトルのピーク波長の差は0〜10nmの範囲内にあって同一発光色を示すものである。
【0027】
それぞれ組成材料が異なる2種類の蛍光体8は、例えば、耐湿性に劣る組成材料の蛍光体である場合は耐湿性に優れた組成材料の蛍光体との組合せで蛍光体8を構成する。
耐湿性が劣ると長い期間の中で蛍光体物質が劣化して発光効率が低下し、品質の安定性は低下する。一方、耐湿性の優れた組成材料であると長期間にわたって発光効率は維持され、安定した品質が得られる。
このような構成をとると、耐湿性に優れた組成材料が耐湿性に劣る組成材料の品質をカバーして耐湿特性が向上する。このため、LEDの品質特性は、耐湿性に優れた組成材料の作用が大きく働いて品質特性の低下は抑えられて安定した品質特性が得られる。しかも、蛍光体8からの発光色は、2種類の蛍光体8a、8bの発光スペクトルのそれぞれのピーク波長の差が0〜10nmの範囲内にあるので、色ズレの殆どない同一の発光色が得られる。
【0028】
上記は耐湿性の品質特性について述べたものであるが、耐熱性などの品質特性に関しても同様である。耐湿性や耐熱性、温度特性、発光初期の明るさ、などの品質特性も考慮して、できるだけこれらの品質特性が向上するように蛍光体の組成材料を選択するのが好ましい。また、組成材料の異なる蛍光体を2種類に限るものではなく、3種類以上の蛍光体の組合せを行っても構わない。
【0029】
ここで、蛍光体の品質特性について説明する。耐湿性とは蛍光体が水や湿気に耐え得る特性を表しており、長期間使用の中で水や湿気によって蛍光体が劣化するか否かの劣化度合いを言う。耐熱性とは一定の温度での使用に耐え得る特性を表し、長期間の使用温度の中で蛍光体が劣化するか否かの劣化度合いを言う。温度特性とは温度消光特性とも言い、温度が上昇するに従って発光の光度が低下して行くか否かの低下度合いを言う。初期発光の明るさとは発光初期の明るさ加減の度合いを表している。
【0030】
蛍光体は蛍光染料や蛍光顔料からなり、一般に、短波長の光によって励起し、励起波長より長波長光を発光する。発光素子5である窒化ガリウム系化合物半導体素子は近紫外光領域から青色光領域の光、あるいは青色光領域の光などの短波長の光を出射するので、蛍光体の励起光として好適に利用することができる。
【0031】
10はLEDである。上記で述べた構成部品が主要構成部品となってLED10を構成している。
なお、図1に示したLED10の構造は一例を示したもので、必ずしもこの構造に限るものではない。
【0032】
[効果の説明]
同一発光色をなして組成材料が異なり、それぞれ品質特性が異なる蛍光体を少なくとも2種類用いることにより、上述したように、発光効率の面や品質安定性の面などの品質特性を低下させることなく良い状態で維持することができる。
また、少なくとも2種類の蛍光体の発光スペクトルのそれぞれのピーク波長の差が0〜10nmの範囲内に納まるようにしている。これは、差が10nmより大きいと2種類の蛍光体からの発光色の間に色ズレが確認されるようになり、発光色の同一性が得られなくなるからである。ピーク波長の差を0〜10nmの範囲内に納めることで発光色の色ズレを防止している。また、これによって発光色の発光強度も強く現れる。
【0033】
更には、次のような効果も得ることができる。通常、励起光となる発光素子の発光波長が変動すると、それに伴って蛍光体からの発光の強度も変動する。そして、結果として発光素子からの光と蛍光体からの発光の混色バランスが崩れ、LEDの発光色度にバラツキが発生する。組成材料の異なる蛍光体を少なくとも2種を含有させることで、その励起スペクトルも異なってくるので、発光素子からの発光波長が多少シフトしてもいずれかの蛍光体が励起される。そのため、蛍光体からの発光の強度は著しく低下しない。これにより、発光色度のバラツキ幅の小さいLEDを実現することができる。
【実施例1】
【0034】
[実施例1の説明:図2、図3]
次に、実施例1における蛍光体について図2、図3を用いて説明する。図2は実施例1に係る蛍光体の発光スペクトルを示す図であり、図3は図2に示された発光スペクトルの蛍光体を用いた時のLEDから出射される光の発光スペクトルを示す図である。発光素子5はInGaNの窒化ガリウム系化合物半導体素子を用いている。
【0035】
図2において、paは蛍光体8aのピーク波長、pbは蛍光体8bのピーク波長を表している。
【0036】
実施例1では、組成材料が異なる2種類の蛍光体は、即ち、蛍光体8aはクロロシリケート系蛍光体を用いており、蛍光体8bはバリウムシリケート系蛍光体を用いている。つまり、蛍光体8はクロロシリケート系蛍光体なる蛍光体8aとバリウムシリケート系蛍光体なる蛍光体8bとを混ぜ合わせて蛍光体8を構成している。
いずれの蛍光体8a、8bもInGaNの窒化ガリウム系化合物半導体素子なる発光素子5からの発光した光に励起されて緑色の発光色を示す。
【0037】
蛍光体8aのクロロシリケート系蛍光体はカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体を用いている。一般的な化学式はCaMg(SiOCl:Euで表される。このカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体は発光素子5からの励起光によって図2に示す発光スペクトルを持った発光が得られる。図2に示されるように、ピーク波長paはほぼ525nm、半値幅は50〜80nmを示して、緑色の発光色を示す。
【0038】
このカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体の品質特性は、耐湿性や耐熱性に優れており、また、温度特性にも優れている。しかし反面、初期発光の明るさは低い。
【0039】
蛍光体8bのバリウムシリケート系蛍光体はバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体を用いている。一般的な化学式は(Ba1−pSrSiO:Eu(式中、0<p<1)で表される。このバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体は発光素子5からの励起光によって図2に示す発光スペクトルを持った発光が得られる。図2に示されるように、ピーク波長paはほぼ530nm、半値幅は60〜100nmを示して、緑色の発光色を示す。
【0040】
このバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体の品質特性は、耐湿性や耐熱性に劣り、反面、初期発光の明るさは明るく優れている。また、温度特性はクロロシリケート系蛍光体より若干劣る。
【0041】
このように、組成材料が異なり、品質特性の異なるバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体とカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体を混ぜ合わせることにより、耐湿性や耐熱性についてはバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体の劣る所をカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体がカバーして耐湿性や耐熱性を向上させ、初期発光の明るさについてはカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体の劣る所をバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体がカバーして初期発光の明るさを高めている。また、温度特性についても温度特性に優れたカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体によってその特性の向上が図れる。
これによって、LEDの品質特性は良い状態での品質特性が得られるようになる。
【0042】
また、バリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体のピーク波長530nmとカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体のピーク波長525nmとの差は5nmと、10nmより小さいために、双方の発光色の色ズレも殆ど現れない。双方のピーク波長の差を0〜10nmの範囲内に抑えることで、双方の発光色の色ズレを抑えている。
また、バリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体のピーク波長530nm、及びカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体のピーク波長525nmは緑色の標準色(ここで、標準色とは色の三原色R(赤色)G(緑色)B(青色)の原色のことを言い、緑の標準色とはG(緑色)なる原色をいう)の波長に非常に近い値であるので、発光スペクトルのピーク波長をなす領域部分はほぼ緑色の標準色を呈する。
【0043】
バリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体とカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体の混合割合は重量比で1:1の割合が良い。また、この2種類の蛍光体8の樹脂7に対する配合量は5〜25重量%が好ましい。5重量%より少ないと発光する光の強度が低くなり所要の強度が得られない。また、25重量%より多いと発光効率が低下し、光の強度も低下する。配合量は5〜25重量%の範囲の中で要求仕様に応じて適宜に設定するのが好ましい。
【0044】
図3は上記の蛍光体8を用いた時のLED10の発光スペクトルを示したものである。青色光領域の450nm付近の所と緑色光領域の525nm付近の所の2箇所に波長ピークが現れている。それぞれ標準色に近い青色光及び緑色光が強い強度を持って出射する。
【0045】
カラーフィルタを用いた半透過型液晶表示装置にあってはRGBの発光スペクトルを有するバックライト光源を必要とする。半透過型液晶表示装置に用いられるカラーフィルタには赤色画素、緑色画素、青色画素の区画が設けられており、RGBの光が分光してそれぞれ対応する画素を透過する。また、光を分光して透過させる波長領域もそれ程広くない。
【0046】
図3に示す発光スペクトルにおいては、青色の標準色を示す波長と緑色の標準色を示す波長の近傍でそれぞれピーク波長を持っており、ピーク波長を示す領域は急崚なるカーブで立ち上がってその光の強度も高い。
このような発光スペクトルを有するLEDをカラーフィルタを用いた半透過型液晶表示装置のバックライト光源に用いると、前述したカラーフィルタの青色画素と緑色画素を透過する青色(B)光、緑色(G)光の透過光量を多くすることができ、明るさが増す。つまり、G,B光を得るバックライト光源として好適に利用できることになる。
【0047】
これは、組成材料の異なる2種類の緑色発光の蛍光体8a、8bの発光スペクトルのそれぞれのピーク波長の差を0〜10nmの範囲内に収めることによって、緑色発光色の色ズレがなくなると共に発光強度が強くなり、緑色画素を透過する透過光量を多くすることができ、カラーフィルタへの利用が可能になるものである。
【0048】
なお、以上説明した実施例1は、蛍光体に緑色発光色を示すバリウムシリケート系蛍光体とクロロシリケート系蛍光体の2種を選択したものであるが、これ以外の蛍光体としては、同じ緑色発光色を示すサイアロン系蛍光体、アルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体なども好適な蛍光体として用いることができる。
【0049】
緑色発光を示すサイアロン系蛍光体としてはβ−サイアロン蛍光体がある。このβ−サイアロン蛍光体は、一般的な化学式はSi6−zAl8−z:Eu(式中0<z<4.2)示される。このβ−サイアロン蛍光体は耐湿性や耐熱性、並びに、温度特性には優れた特性をもつ。
【0050】
緑色発光を示すアルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体には、一般的な化学式、CaSc:Ce、CaScSi12:Ceで示される蛍光体が好ましく挙げられる。蛍光体CaScSi12:Ceの発光ピーク波長は510nm付近にあり、蛍光体CaSc:Ceの発光ピーク波長は520nm付近にある。
これらの蛍光体は耐湿性や耐熱性には優れた特性をもち、また、温度特性にも優れている。
【0051】
バリウムシリケート系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、サイアロン系蛍光体、アルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体の4種から適宜に少なくとも2種を選択し、耐湿性や耐熱性などの特性、温度特性、初期発光の明るさ特性などの品質特性を更に高めるのが好ましい。また、これらの蛍光体の3種を用いても何ら支障はない。
【0052】
以上、実施例1においては緑色発光を示す蛍光体について説明した。緑色発光の蛍光体に代えて赤色発光の蛍光体を用いることもできる。
赤色発光の蛍光体を用いる場合は、材料組成の異なる2種類の蛍光体としては、例えば一般的な化学式CaAlSiN:Euで表される窒化物系蛍光体と、化学式(Zn1−pSeO:Eu(式中、0<p<1、XはCd,Ca,Mg,Li,Ba,Srより選択された少なくとも1つ以上の元素)で表される亜鉛セレニウム系蛍光体などを挙げることができる。
【0053】
赤色発光の蛍光体を用いた場合、青色領域と赤色領域にピーク波長を持つ発光スペクトルが得られる。そして、カラーフィルタを用いた半透過型液晶表示装置にこのLEDを用いた場合にはR,B光が得られ、バックライト光源としての利用が可能になる。
【実施例2】
【0054】
[実施例2の説明:図4、図5]
次に、実施例2に係るLEDについて図4、図5を用いて説明する。図4は実施例2に係るLEDの構造を模式的に示した要部断面図で、図5は図4に示したLEDの発光スペクトルを示した図である。なお、前述の実施形態での図1に示した構成部品と同じ仕様をなす構成部品は同一符号を付してある。
【0055】
実施例2におけるLEDの構成で前述の実施例1の構成と違うところは、蛍光体を3種類用いていることである。つまり、図4に示すように、緑色発光して組成材料が異なる2種類の蛍光体8a、8b以外に、赤色発光する蛍光体18が1種類、樹脂7の中に含有していることである。以降の説明においては、構成の仕様が異なるところを中心に説明し、同じ仕様をなす構成のところは必要限度の説明に留めることにする。
【0056】
緑色発光して組成材料が異なる2種類の蛍光体8a、8bは前述の実施例1で説明した仕様の蛍光体と同じ仕様の蛍光体である。即ち、蛍光体8aはカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体で、一般的な化学式はCaMg(SiOCl:Euで表される蛍光体である。このカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体は発光素子5からの励起光によってピーク波長が525nm、半値幅が50〜80nmを示して、緑色の発光色を示す。
【0057】
また、蛍光体8bはバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体で、一般的な化学式は(Ba1−pSrSiO:Eu(式中、0<p<1)で表される蛍光体である。このバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体は発光素子5からの励起光によってピーク波長が530nm、半値幅が60〜100nmを示して、緑色の発光色を示す。
【0058】
実施例2のLED20においては、上記の緑色発光を示して組成材料が異なる2種類の蛍光体8a、8b以外に、赤色発光する蛍光体18を含有する。この赤色発光する蛍光体18はInGaNの窒化ガリウム系化合物半導体素子なる発光素子5からの発光した光に励起されて赤色に発光する蛍光体で、一般的な化学式CaAlSiN:Euで表される蛍光体を用いている。
【0059】
緑色発光をなして組成材料の異なる2種類の蛍光体8a、8bと赤色発光する蛍光体18を含有するLED20からは、図5に示されるように、青色光領域での450nm付近と、緑色光領域での525nmの付近と、赤色光領域での635nm付近にそれぞれピーク波長を持った発光スペクトルが得られる。そして、LED20からはRGB光混色による白色発光のLEDが得られる。
【0060】
この白色発光のLED20は、RGB光の混色によって得られた白色であることから、演色性が高く、色の再現性が良い。
【0061】
また、この白色発光のLED20からはRGBの光が強い強度を持って出射されることから、この白色発光のLEDでカラーフィルタを用いる半透過型液晶表示装置のバックライトのRGB光源として好適に利用することができる。
【0062】
なお、実施例2においては、赤色発光の蛍光体として化学式CaAlSiN:Euで表される窒化物系蛍光体を用いたが、赤色発光の蛍光体はこれに限るものでは、例えば亜鉛セレニウム系蛍光体(ZnSe)などの他の組成材料の赤色発光の蛍光体を用いても良いものである。
【0063】
また、実施例2においては、赤色発光する蛍光体を1種類用いたが、例えば前述の実施例1で説明したように、組成材料の異なる2種類の赤色発光する蛍光体で構成しても良い。発光効率や品質安定性などに優れた品質特性が得られる。
【実施例3】
【0064】
[実施例3の説明:図6]
次に、実施例3に係るLEDについて図6を用いて説明する。図6は実施例3に係るLEDの構造を模式的に示した要部断面図である。なお、前述の実施形態において図1でもって説明した構成部品と同じ仕様の構成部品は同一符号を付してある。
【0065】
実施例3のLED30は、図6に示すように、樹脂7に分散した蛍光体の層を2層、積層した構成をなしている。1層目(下層)は樹脂7に蛍光体8bを分散した蛍光体層9bであり、2層目(上層)は樹脂7に蛍光体8aを分散した蛍光体層9aである。蛍光体8aが分散した蛍光体層9aが上層に配置され、蛍光体8bが分散した蛍光体層9bが下層に配置されている。
【0066】
ここでの蛍光体8a、8bは前述の実施例1で用いた仕様と同じもので、蛍光体8aは化学式CaMg(SiOCl:Euで表されるカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体である。発光素子5からの励起光によってピーク波長525nm、半値幅50〜80nmを示して、緑色の発光色を示す。
また、蛍光体8bは化学式(Ba1−pSrSiO:Eu(式中、0<p<1)で表されるバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体である。発光素子5からの励起光によって発光し、ピーク波長530nm、半値幅60〜100nmを示して、緑色の発光色を示す。
【0067】
前述の実施例1で説明したように、蛍光体8aのカルシウム・マグネシウム・クロロシリケート蛍光体は、耐湿性や耐熱性に優れていて、また、温度特性も優れている。反面、発光初期の明るさは劣る。
【0068】
一方、蛍光体8bのバリウム・ストロンチウム・シリケート蛍光体は耐湿性や耐熱性に劣るが、反面、発光初期の明るさは優れている。
【0069】
蛍光体8a、8bの有する品質特性を利用して、耐湿性に弱い蛍光体8bの蛍光体層9bを下層に配置し、耐湿性に優れた蛍光体8aの蛍光体層9aを上層に配置して蛍光体8bを保護している。
【0070】
つまり、耐湿面を考えると、樹脂への水分の浸透は樹脂表面の露出面側から徐々に内部に浸透していく。従って、耐湿性に劣る蛍光体を露出面から離れて少しでも遠くの位置に配置することで蛍光体の劣化を遅らせることができる。そこで、耐湿性に劣る蛍光体8bを含有する蛍光体層9bを露出表面から離れた位置にある下層に配置し、耐湿性に優れた蛍光体8aを含有する蛍光体層9aを露出表面側の上層に配置している。このような配置構造をとることにより、耐湿性に劣る蛍光体でもその劣化を遅らせることができ、より長く良好な品質状態を維持することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 基板
2 電極
2a アノード用電極
2b カソード用電極
3 バンプ
5 発光素子
6 リフレクタ
6a 内周面
7 樹脂
8、8a、8b、18 蛍光体
9a、9b 蛍光体層
10、20、30 LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と発光素子の発光した光で励起されて発光する蛍光体を有する発光ダイオードにおいて、
前記蛍光体は同一発光色を示して組成材料の異なる少なくとも2種の蛍光体を有しており、該少なくとも2種の蛍光体の発光スペクトルのそれぞれのピーク波長の差は0〜10nmの範囲内にあることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
前記発光素子は窒化ガリウム系化合物半導体素子であることを特徴とする請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】
前記蛍光体は緑色発光を示すバリウムシリケート系蛍光体,クロロシリケート系蛍光体,サイアロン系蛍光体,アルカリ土類金属スカンジウム塩系蛍光体の少なくとも2種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記同一発光色を示す蛍光体以外に他の発光色を示す蛍光体が少なくとも1種有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の発光ダイオード。
【請求項5】
前記他の発光色を示す蛍光体は赤色発光する赤色蛍光体であることを特徴とする請求項4に記載の発光ダイオード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−171590(P2011−171590A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35140(P2010−35140)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】