説明

発光素子およびその製造方法

【課題】発光効率が向上可能な発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、n型シリコン酸化膜2と、p型シリコン窒化膜3とを備える。p型シリコン窒化膜3は、n型シリコン酸化膜2に接して形成され、n型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3は、p−n接合を形成する。n型シリコン酸化膜2は、n型Siからなる複数の量子ドット21を含む。p型シリコン窒化膜3は、p型Siからなる複数の量子ドット31を含む。n型シリコン酸化膜2側から電子を注入し、p型シリコン窒化膜3側から正孔を注入することによって、n型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3との界面で発光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光素子およびその製造方法に関し、特に、量子ドットを用いた発光素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体島構造(量子ドット)を用いた半導体発光素子が知られている(特許文献1)。この半導体発光素子は、n型AlGaAs/n型GaAs/InGaAs島構造/窒素を含む化合物半導体/p型GaAs/p型AlGaAsからなる。
【0003】
そして、InGaAs島構造は、圧縮応力からなる内部応力を有する。また、窒素を含む化合物半導体は、引っ張り応力を有する。従って、窒素を含む化合物半導体をInGaAs島構造に接するように配置し、InGaAs島構造が有する内部応力を窒素を含む化合物半導体によって減少させる。
【0004】
その結果、発光層であるInGaAs島構造における内部応力が減少し、1.55μmの発光スペクトルが室温で得られている。
【特許文献1】特開2003−332695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の半導体発光素子は、発光層である量子ドット自体がp型またはn型に制御されていないため、発光層へのキャリア(電子および正孔)の注入量が少なく、発光効率が低いという問題がある。
【0006】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、発光効率が向上可能な発光素子を提供することである。
【0007】
また、この発明の別の目的は、発光効率が向上可能な発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、発光素子は、第1および第2の絶縁部材を備える。第1の絶縁部材は、第1の導電型を有する第1の量子ドットを含む。第2の絶縁部材は、第1の絶縁部材に接して配置され、第1の導電型と異なる第2の導電型を有する第2の量子ドットを含む。
【0009】
好ましくは、第1の絶縁部材は、複数個の第1の量子ドットを含む。第2の絶縁部材は、複数個の第2の量子ドットを含む。
【0010】
好ましくは、複数個の第1の量子ドットは、第1の絶縁部材の膜厚方向にランダムに配置され、複数個の第2の量子ドットは、第2の絶縁部材の膜厚方向にランダムに配置される。
【0011】
好ましくは、第1の導電型は、n型であり、第2の導電型は、p型である。
【0012】
好ましくは、第1の絶縁部材において、正孔に対する障壁エネルギーは、電子に対する障壁エネルギーよりも大きく、第2の絶縁部材において、電子に対する障壁エネルギーは、正孔に対する障壁エネルギーよりも大きい。
【0013】
好ましくは、第1および第2の量子ドットは、シリコンドットからなり、第1の絶縁部材は、シリコン酸化膜からなり、第2の絶縁部材は、シリコン窒化膜からなる。
【0014】
好ましくは、発光素子は、第3の絶縁部材をさらに備える。第3の絶縁部材は、第2の絶縁部材に接して形成されるとともに、第2の導電型を有する第3の量子ドットを含み、電子に対する障壁エネルギーが第2の絶縁部材よりも大きい。
【0015】
好ましくは、第3の絶縁部材は、複数個の第3の量子ドットを含む。
【0016】
好ましくは、複数個の第3の量子ドットは、第3の絶縁部材の膜厚方向にランダムに配置される。
【0017】
好ましくは、第1から第3の量子ドットは、シリコンドットからなり、第1の絶縁部材は、シリコン酸化膜からなり、第2の絶縁部材は、シリコン窒化膜からなり、第3の絶縁部材は、シリコン酸窒化膜からなる。
【0018】
また、この発明によれば、発光素子は、発光層と、第1および第2の絶縁部材とを備える。第1の絶縁部材は、n型の量子ドットを介して電子を発光層へ供給する。第2の絶縁部材は、p型の量子ドットを介して正孔を発光層へ供給する。
【0019】
好ましくは、第1の絶縁部材は、シリコン酸化膜からなり、第2の絶縁部材は、シリコン窒化膜からなる。
【0020】
さらに、この発明によれば、発光素子の製造方法は、量子ドットを含む第1の絶縁部材を半導体基板の一主面に堆積する第1の工程と、量子ドットを含む第2の絶縁部材を第1の絶縁部材上に堆積する第2の工程と、第1の絶縁部材中へ第1の導電型の不純物を導入する第3の工程と、第2の絶縁部材中へ第1の導電型と異なる第2の導電型の不純物を導入する第4の工程と、第1の導電型の不純物を含む第1の絶縁部材と、第2の導電型の不純物を含む第2の絶縁部材とを熱処理する第5の工程とを備える。
【0021】
好ましくは、第1の工程において、酸素を含む第1の材料ガスの流量に対するシリコンを含む第2の材料ガスの流量の比を第1の基準値以上に設定してシリコン酸化膜からなる第1の絶縁部材が前記一主面に堆積される。第2の工程において、窒素を含む第3の材料ガスの流量に対する第2の材料ガスの流量の比を第2の基準値以上に設定してシリコン窒化膜からなる第2の絶縁部材が第1の絶縁部材上に堆積される。
【0022】
好ましくは、第3の工程において、n型の不純物が第1の絶縁部材中へ導入され、第4の工程において、p型の不純物が第2の絶縁部材中へ導入される。
【0023】
好ましくは、第5の工程において、n型の不純物を含む第1の絶縁部材およびp型の不純物を含む第2の絶縁部材は、窒素雰囲気中で熱処理される。
【0024】
さらに、この発明によれば、発光素子の製造方法は、量子ドットを含む第1の絶縁部材を半導体基板の一主面に堆積する第1の工程と、量子ドットを含む第2の絶縁部材を第1の絶縁部材上に堆積する第2の工程と、量子ドットを含み、電子に対する障壁エネルギーが第2の絶縁部材よりも大きい第3の絶縁部材を第2の絶縁部材上に堆積する第3の工程と、第1の絶縁部材中へ第1の導電型の不純物を導入する第4の工程と、第2および第3の絶縁部材中へ第1の導電型と異なる第2の導電型の不純物を導入する第5の工程と、第1の導電型の不純物を含む第1の絶縁部材と、第2の導電型の不純物を含む第2および第3の絶縁部材とを熱処理する第6の工程とを備える。
【発明の効果】
【0025】
この発明による発光素子においては、第1および第2の絶縁部材のいずれか一方に含まれる量子ドットを介して電子および正孔の一方が第1の絶縁部材と第2の絶縁部材との界面に供給され、第1および第2の絶縁部材のいずれか他方に含まれる量子ドットを介して電子および正孔の他方が第1の絶縁部材と第2の絶縁部材との界面に供給される。そして、第1の絶縁部材と第2の絶縁部材との界面に供給された電子および正孔が再結合して発光する。つまり、この発明による発光素子においては、電子および正孔の両方が第1の絶縁部材と第2の絶縁部材との界面に供給されて発光する。
【0026】
したがって、この発明によれば、発光効率を高くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0028】
図1は、この発明の実施の形態による発光素子の断面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による発光素子10は、基板1と、n型シリコン酸化膜2と、p型シリコン窒化膜3と、p型ポリシリコン(poly−Si)膜4と、電極5,6とを備える。
【0029】
基板1は、約0.1Ω・cmの比抵抗を有するn型シリコン(n−Si)からなる。n型シリコン酸化膜2は、後述するように、n型Siからなる複数の量子ドットを含み、基板1の一主面に形成される。そして、n型シリコン酸化膜2は、約150nmの膜厚を有する。
【0030】
p型シリコン窒化膜3は、後述するように、p型Siからなる複数の量子ドットを含み、n型シリコン酸化膜2に接してn型シリコン酸化膜2上に形成される。そして、p型シリコン窒化膜3は、約100nmの膜厚を有する。
【0031】
型poly−Si膜4は、p型poly−Si膜41〜44からなり、p型シリコン窒化膜3に接してp型シリコン窒化膜3上に形成される。そして、p型poly−Si膜4は、約1020cm−3のボロン濃度を含み、約50nmの膜厚を有する。
【0032】
電極5は、電極51〜54からなる。そして、電極51〜54は、それぞれ、p型poly−Si膜41〜44に接してp型poly−Si膜41〜44上に形成される。電極51〜54の各々は、アルミニウム(Al)からなる。
【0033】
電極6は、Alからなり、基板1の裏面(n型シリコン酸化膜2等が形成された面と反対面)に形成される。
【0034】
図2は、図1に示すn型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3の拡大断面図である。図2を参照して、n型シリコン酸化膜2は、複数の量子ドット21を含む。複数の量子ドット21の各々は、n型Siドットからなり、約1019cm−3のリン(P)濃度を含む。そして、複数の量子ドット21は、n型シリコン酸化膜2中に不規則に配置される。
【0035】
p型シリコン窒化膜3は、複数の量子ドット31を含む。複数の量子ドット31の各々は、p型Siドットからなり、約1019cm−3のB濃度を含む。そして、複数の量子ドット31は、p型シリコン窒化膜3中に不規則に配置される。
【0036】
このように、n型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3は、それぞれ、n型Siドットからなる量子ドット21およびp型Siドットからなる量子ドット31を含み、p−n接合を形成する。
【0037】
図3は、図1に示す発光素子10のゼロバイアス時のエネルギーバンド図である。図3を参照して、基板1を構成するnSi中には、伝導帯Ec1および価電子帯Ev1が存在し、nSiは、1.12eVのエネルギーバンドギャップEg1を有する。
【0038】
また、ppoly−Si膜4中には、伝導帯Ec2および価電子帯Ev2が存在し、ppoly−Si膜4は、1.12eVのエネルギーバンドギャップEg1を有する。
【0039】
基板1を構成するnSiは、Pが高濃度にドーピングされ、ppoly−Si膜4は、Bが高濃度にドーピングされているため、nSiの伝導帯Ec1の端は、ppoly−Si膜4の価電子帯Ev2の端にエネルギー的に近い。
【0040】
n型シリコン酸化膜2は、上述したように、複数の量子ドット21を含むため、量子ドット21と、量子ドット21を含まないシリコンダイオキサイド(SiO)層22との積層構造からなる。その結果、量子ドット21は、SiO層22によって挟み込まれる。
【0041】
SiO層22は、約9eVのエネルギーバンドギャップを有する。また、量子ドット21は、2つのSiO層22によって挟み込まれているので、量子サイズ効果によって、nSiの伝導帯Ec1側にサブ準位Lsub1を有し、nSiの価電子帯Ev1側にサブ準位Lsub2を有する。
【0042】
サブ準位Lsub1は、nSiの伝導帯Ec1よりもエネルギー的に高く、サブ準位Lsub2は、nSiの価電子帯Ev1の端よりもエネルギー的に高い。その結果、サブ準位Lsub1とサブ準位Lsub2とのエネルギー差は、nSiのエネルギーギャップEg1よりも大きい。
【0043】
また、nSiの伝導帯Ec1の端とSiO層22の伝導帯の端とのエネルギー差ΔE1は、約3.23eVであり、nSiの価電子帯Ev1の端とSiO層22の価電子帯の端とのエネルギー差ΔE2は、約4.65eVである。したがって、n型シリコン酸化膜2は、nSi中の正孔に対する障壁エネルギー(=ΔE2)よりも小さい障壁エネルギー(=ΔE1)をnSi中の電子に対して有する。
【0044】
p型シリコン窒化膜3は、上述したように、複数の量子ドット31を含むため、量子ドット31と、量子ドット31を含まないシリコン窒化膜(Si)層32との積層構造からなる。その結果、量子ドット31は、Si層32によって挟み込まれる。
【0045】
Si層32は、約5.2eVのエネルギーバンドギャップを有する。また、量子ドット31は、2つのSi層32によって挟み込まれているので、量子サイズ効果によって、ppoly−Si膜4の伝導帯Ec2側にサブ準位Lsub3を有し、ppoly−Si膜4の価電子帯Ev4側にサブ準位Lsub4を有する。
【0046】
サブ準位Lsub3は、ppoly−Si膜4の伝導帯Ec2の端よりもエネルギー的に高く、サブ準位Lsub4は、ppoly−Si膜4の価電子帯Ev2の端よりもエネルギー的に高い。その結果、サブ準位Lsub3とサブ準位Lsub4とのエネルギー差は、ppoly−Si膜4のエネルギーギャップEg1よりも大きい。
【0047】
また、ppoly−Si膜4の伝導帯Ec2の端とSi層32の伝導帯の端とのエネルギー差ΔE3は、約2.3eVであり、ppoly−Si膜4の価電子帯Ev2の端とSi層32の価電子帯の端とのエネルギー差ΔE4は、約1.78eVである。したがって、p型シリコン窒化膜3は、ppoly−Si膜4中の電子に対する障壁エネルギー(=ΔE3)よりも小さい障壁エネルギー(=ΔE4)をppoly−Si膜4中の正孔に対して有する。
【0048】
図4は、図1に示す発光素子10の電流通電時のエネルギーバンド図である。電極5側をプラス、電極6側をマイナスとして電極5,6間に電圧を印加すると、図4に示すように、基板1を構成するnSiのエネルギーバンドが持ち上がり、nSi中の電子11は、n型シリコン酸化膜2中の複数の量子ドット21を介してn型シリコン酸化膜2中を伝導し、n型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3との界面に最も近い量子ドット31Nに注入される。
【0049】
一方、ppoly−Si膜4中の正孔12は、p型シリコン窒化膜3中の量子ドット31を介してp型シリコン窒化膜3中を伝導し、正孔に対するシリコン酸化膜の高い障壁によって、n型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3との界面に最も近い量子ドット31Nに蓄積される。
【0050】
そうすると、量子ドット31Nに蓄積された電子13は、量子ドット31Nに蓄積された正孔14と再結合して発光する。
【0051】
このように、発光素子10は、シリコン酸化膜の高い障壁によって正孔をn型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3との界面に蓄積させることを特徴とする。その結果、発光素子10は、n型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3との界面で発光する。
【0052】
発光素子10においては、n型シリコン酸化膜2中の複数の量子ドット21は、n型にドーピングされ、p型シリコン窒化膜3中の複数の量子ドット31は、p型にドーピングされているため、複数の量子ドット21は、n型にドーピングされていない場合よりもサブ準位Lsub1が低くなり、複数の量子ドット31は、p型にドーピングされていない場合よりもサブ準位Lsub4が低くなる。その結果、nSi中の電子は、複数の量子ドット21がn型にドーピングされていない場合よりもn型シリコン酸化膜2中を伝導し易くなり、より多くの電子が量子ドット31Nに蓄積される。また、ppoly−Si4中の正孔は、複数の量子ドット31がp型にドーピングされていない場合よりもp型シリコン窒化膜3中を伝導し易くなり、より多くの正孔が量子ドット31Nに蓄積される。
【0053】
したがって、この発明によれば、発光効率を高くできる。
【0054】
また、n型シリコン酸化膜2は、複数の量子ドット21を不規則に含み、p型シリコン窒化膜3は、複数の量子ドット31を不規則に含むので、不規則に配置された量子ドット21,31の電界増強効果によって電子および正孔の注入効率が向上する。
【0055】
したがって、この発明によれば、発光効率を高くできる。
【0056】
図5は、図1に示す発光素子10の製造に用いるプラズマCVD(Chemical Vapour Deposition)装置の概略図である。図5を参照して、プラズマCVD装置100は、反応室101と、電極板102と、サンプルホルダー103と、ヒーター104と、RF(Radio Frequency)電源105と、配管106〜108と、ガスボンベ109〜111とを備える。
【0057】
反応室101は、中空の容器からなり、排気口101Aを有する。電極板102およびサンプルホルダー103は、平板形状からなり、反応室101内に50mmの間隔で略平行に配置される。そして、電極板102およびサンプルホルダー103の各々は、200mmφの直径を有する。ヒーター104は、サンプルホルダー103内に配置される。
【0058】
RF電源105は、電極板102とサンプルホルダー103とに接続される。配管106は、一方端が反応室101に接続され、他方端がガスボンベ109に接続される。また、配管107は、一方端が反応室101に接続され、他方端がガスボンベ110に接続される。さらに、配管108は、一方端が反応室101に接続され、他方端がガスボンベ111に接続される。
【0059】
サンプルホルダー103は、基板1を保持する。ヒーター104は、基板1を所定の温度に加熱する。RF電源105は、電極板102とサンプルホルダー103との間に、13.56MHzのRF電力を印加する。
【0060】
ガスボンベ109は、NO(100%)ガスを保持し、ガスボンベ110は、水素(H)ガスによって希釈された10%のSiHガスを保持し、ガスボンベ111は、NH(100%)ガスを保持する。
【0061】
配管106は、NOガスを反応室101内に供給する。配管107は、SiHガスを反応室101内に供給する。配管108は、NHガスを反応室101内に供給する。反応室101内に供給されたNOガス、SiHガスおよびNHガスは、ロータリーポンプ等の排気装置(図示せず)によって排気口101Aから排気される。その結果、反応室101内は、所定の圧力に設定される。
【0062】
プラズマCVD装置100は、NOガスおよびSiHガスが反応室101内に供給された状態でRF電源105によってRF電力を電極板102とサンプルホルダー103との間に印加してシリコン酸化膜を基板1上に堆積する。また、プラズマCVD装置100は、NHガスおよびSiHガスが反応室101内に供給された状態でRF電源105によってRF電力を電極板102とサンプルホルダー103との間に印加してシリコン窒化膜を基板1上に堆積する。
【0063】
図6および図7は、それぞれ、図1に示す発光素子10の製造方法を説明するための第1および第2の工程図である。図6を参照して、発光素子10の製造が開始されると、nSiからなる基板1が準備され(工程(a)参照)、基板1を洗浄した後、プラズマCVD装置100のサンプルホルダー103上に基板1をセットする。
【0064】
そして、表1に示す反応条件によってシリコン酸化膜11を基板1の一主面に堆積する。
【0065】
【表1】

その後、表2に示す反応条件によってシリコン窒化膜12をシリコン酸化膜11上に堆積する。
【0066】
【表2】

引き続いて、表2に示す反応条件においてNHガスを停止させた反応条件によって、アモルファスシリコン(a−Si)膜13をシリコン窒化膜12上に堆積する(図6の工程(b)参照)。
【0067】
その後、リンイオン(P)をイオン注入によってシリコン酸化膜11中へ注入する(図6の工程(c)参照)。この場合、Pイオンがシリコン酸化膜11中にのみ注入されるように、イオン注入の加速電圧が設定される。これによって、n型シリコン酸化膜2が形成される(図6の工程(d)参照)。
【0068】
そして、ボロンイオン(B)をイオン注入によってシリコン窒化膜12およびa−Si膜13中へ注入する(図6の工程(d)参照)。この場合、Bイオンがシリコン窒化膜12およびa−Si膜13中に注入されるように、イオン注入の加速電圧が設定される。これによって、p型シリコン窒化膜3およびp型a−Si膜13Aが形成される(図7の工程(e)参照)。
【0069】
そして、基板1/n型シリコン酸化膜2/p型シリコン窒化膜3/p型a−Si膜13Aを表3に示す条件によってアニールする。
【0070】
【表3】

これによって、n型シリコン酸化膜2中へイオン注入されたP原子が電気的に活性化され、p型シリコン窒化膜3中へイオン注入されたB原子が電気的に活性化され、さらに、p型a−Si膜13Aがppoly−Si膜4になる(図7の工程(f)参照)。
【0071】
その後、フォトリソグラフィー技術を用いてppoly−Si膜4をppoly−Si膜41〜44にパターンニングする(図7の工程(g)参照)。
【0072】
そして、Alのスパッタリングによって、電極5(51〜54)をそれぞれppoly−Si膜41〜44上に形成するとともに、電極6を基板1の裏面に形成する(図7の工程(h)参照)。これによって、発光素子10が完成する。
【0073】
上述したように、表1に示す反応条件を用いることによって量子ドットを含むシリコン酸化膜11が形成され、表2に示す反応条件を用いることによって量子ドットを含むシリコン窒化膜12が形成されるので、1回の膜形成によって量子ドットを含むシリコン酸化膜11またはシリコン窒化膜12を形成できる。
【0074】
上述したシリコン酸化膜11を形成する条件(表1)におけるNOガスに対するSiHガスの流量比は、絶縁膜としてのSiO膜を形成するときのNOガスに対するSiHガスの流量比(=基準流量比)よりも大きい。すなわち、この発明においては、シリコン酸化膜11は、SiHガスの流量を基準よりも多くして形成され、所謂、シリコンリッチ酸化膜と呼ばれる。
【0075】
また、上述したシリコン窒化膜12を形成する条件(表2)におけるNHガスに対するSiHガスの流量比は、絶縁膜としてのSi膜を形成するときのNHガスに対するSiHガスの流量比(=基準流量比)よりも大きい。すなわち、この発明においては、シリコン窒化膜12は、SiHガスの流量を基準よりも多くして形成され、所謂、シリコンリッチ窒化膜と呼ばれる。
【0076】
したがって、この発明においては、Siドットからなる量子ドットを含むシリコン酸化膜11は、シリコンリッチ酸化膜を形成するときの形成条件を用いて形成され、Siドットからなる量子ドットを含むシリコン窒化膜12は、シリコンリッチ窒化膜を形成するときの形成条件を用いて形成されることを特徴とする。
【0077】
なお、n型シリコン酸化膜2中の量子ドット21およびp型シリコン窒化膜3中の量子ドット31の密度を高くするには、NOガスおよびNHガスに対するSiHガスの流量比を相対的に高くし、図7の工程(e)における熱処理時間を数秒程度に短くする。
【0078】
一方、n型シリコン酸化膜2中の量子ドット21およびp型シリコン窒化膜3中の量子ドット31の密度を低くするには、NOガスおよびNHガスに対するSiHガスの流量比を相対的に低くし、図7の工程(e)における熱処理時間を数十分以上に長くする。
【0079】
このように、n型シリコン酸化膜2中の量子ドット21およびp型シリコン窒化膜3中の量子ドット31の密度は、NOガスおよびNHガスに対するSiHガスの流量比および図7の工程(e)における熱処理時間によって制御され得る。
【0080】
また、図6および図7に示す発光素子10の製造方法においては、量子ドットを含むシリコン酸化膜11および量子ドットを含むシリコン窒化膜12をプラズマCVD法によって形成した後に、イオン注入によって、PイオンおよびBイオンを注入してn型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3を形成すると説明したが、この発明においては、これに限らず、プラズマCVD法を用いてn型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3を形成するようにしてもよい。
【0081】
この場合、PのソースガスとしてPHガスを用いてn型シリコン酸化膜2がプラズマCVD法によって形成され、BのソースガスとしてBガスを用いてp型シリコン窒化膜3が形成される。
【0082】
そして、n型シリコン酸化膜2を形成する反応条件は、PHガスの流量を表1に示す反応条件に追加した反応条件であり、p型シリコン窒化膜3を形成する反応条件は、Bガスの流量を表2に示す反応条件に追加した反応条件である。
【0083】
さらに、上記においては、Pを用いてn型シリコン酸化膜2を形成すると説明したが、この発明においては、これに限らず、ヒ素(As)を用いてn型シリコン酸化膜2を形成してもよい。この場合、図6の工程(c)において、Asイオンがn型シリコン酸化膜11のみへイオン注入される。また、Asを用いてプラズマCVD法によってn型シリコン酸化膜2を形成する場合、AsのソースガスとしてAsHガスが用いられる。
【0084】
図8は、図1に示す発光素子10の発光特性を示す図である。また、図9は、図1に示す発光素子10の比較例としての発光素子の断面図である。図9の(a)を参照して、発光素子200は、図1に示す発光素子10のn型シリコン酸化膜2を削除したものであり、その他は、発光素子10と同じである。また、図9の(b)を参照して、発光素子210は、図1に示す発光素子10のp型シリコン窒化膜を削除したものであり、その他は、発光素子10と同じである。すなわち、発光素子200は、p型シリコン窒化膜3のみを発光層に用いた発光素子であり、発光素子210は、n型シリコン酸化膜2のみを発光層に用いた発光素子である。
【0085】
図8において、縦軸は、単位電流当たり、かつ、単位膜厚当たりの光強度を表し、横軸は、波長を表す。また、曲線k1は、図1に示す発光素子10の発光強度を示し、曲線k2は、図9の(a)に示す発光素子200の発光強度を示し、曲線k3は、図9の(b)に示す発光素子210の発光強度を示す。そして、発光素子10の発光強度の膜厚による規格化においては、n型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3のうち、p型シリコン窒化膜の膜厚が用いられた。これは、発光素子10における発光の95%がp型シリコン窒化膜3において生じるからである。
【0086】
なお、図8の縦軸におけるSROは、表1に示すシリコンリッチな反応条件で形成したシリコンリッチ酸化膜を表し、SRNは、表2に示すシリコンリッチな反応条件で形成したシリコンリッチ窒化膜を表す。また、曲線k1〜k3は、電極5,6間に20Vの電圧を印加した場合の各発光素子10,200,210の発光強度を示す。
【0087】
図8に示す結果から、発光素子10の発光強度は、発光素子200の発光強度に対して33%強くなっており、発光素子210の発光強度に対して10倍以上強くなっている。これは、発光素子10は、上述したように、n型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3とを接合した構造からなっており、n型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜3を用いて電子および正孔の両方を発光層へ供給するためである。
【0088】
一方、発光素子200,210では、電子および正孔のいずれか一方のみを発光層へ供給する構造であるので、発光強度が発光素子10よりも弱くなる。
【0089】
したがって、n型シリコン酸化膜2とp型シリコン窒化膜3とを接合した構造を採用することによって、発光強度が強くなることが実験的に実証された。
【0090】
図10は、この発明の実施の形態による他の発光素子の断面図である。この発明による発光素子は、図10に示す発光素子10Aであってもよい。図10を参照して、発光素子10Aは、図1に示す発光素子10のn型シリコン酸化膜2をシリコン酸化膜60に代え、p型シリコン窒化膜3をシリコン窒化膜70に代えたものであり、その他は、発光素子10と同じである。
【0091】
シリコン酸化膜60は、基板1上に形成される。シリコン窒化膜70は、シリコン酸化膜60に接してシリコン酸化膜60上に形成される。
【0092】
シリコン酸化膜60は、複数のSiO膜61と、複数のn型シリコン酸化膜62とからなる。複数のSiO膜61および複数のn型シリコン酸化膜62は、厚さ方向に交互に積層される。そして、複数のn型シリコン酸化膜62の各々は、膜厚方向に不規則に配置された複数のn型Siドット63を含む。複数のSiO膜61の各々は、1〜5nmの膜厚を有し、複数のn型シリコン酸化膜62の各々は、3〜10nmの膜厚を有する。
【0093】
シリコン窒化膜70は、複数のSi膜71と、複数のp型シリコン窒化膜72とからなる。複数のSi膜71および複数のp型シリコン窒化膜72は、厚さ方向に交互に積層される。そして、複数のp型シリコン窒化膜72の各々は、膜厚方向に不規則に配置された複数のp型Siドット73を含む。そして、複数のSi膜71の各々は、1〜5nmの膜厚を有し、複数のp型シリコン窒化膜72の各々は、3〜10nmの膜厚を有する。
【0094】
複数のn型Siドット63の各々は、量子ドット21中のP濃度と略同じP濃度を含む。複数のp型Siドット73の各々は、量子ドット31中のB濃度と略同じB濃度を含む。
【0095】
このように、発光素子10Aは、ドーパントを含まないSiO膜61によってn型シリコン酸化膜62を挟み込み、ドーパントを含まないSi膜71によってp型シリコン窒化膜72を挟み込んだ構造からなる。したがって、この発明による発光素子は、量子ドット(n型Siドット63またはp型Siドット73)をドーパントを含まない絶縁部材(SiO膜61またはSi膜71)によって挟み込んだ構造によって構成されていてもよい。
【0096】
次に、発光素子10Aの製造方法について説明する。図11から図14は、それぞれ、図10に示す半導体素子10Aの製造方法を示す第1から第4の工程図である。図11を参照して、発光素子10Aの製造が開始されると、基板1が準備され(工程(a)参照)、基板1を洗浄した後、SiHガスおよびNOガスを原料ガスとしてプラズマCVD法によって基板1の全面にSiO膜61を形成する(工程(b)参照)。この場合、表1に示す反応条件において、SiHガスの流量を86sccm、NOガスの流量を200sccmに設定してSiO膜61が形成される。
【0097】
その後、SiHガスおよびNOガスを原料として、表1に示す反応条件を用いてプラズマCVD法によってSiO膜61上にシリコン酸化膜80を堆積する(図11の工程(c)参照)。
【0098】
そして、工程(b)および工程(c)を繰り返し実行し、複数のSiO膜61と複数のシリコン酸化膜80とを交互に基板1上に形成する(図11の工程(d)参照)。
【0099】
引き続いて、SiHガスおよびNHガスを原料として、表2に示す反応条件を用いてプラズマCVD法によってSiO膜61上にシリコン窒化膜90を堆積する(図11の工程(e)参照)。
【0100】
その後、SiHガスおよびNHガスを原料として、プラズマCVD法によってシリコン窒化膜90上にSi膜71を堆積する(図12の工程(f)参照)。この場合、表2に示す反応条件において、SiHガスの流量を92sccm、NHガスの流量を150sccmに設定してSi膜71が形成される。そして、工程(e)および工程(f)を繰り返し実行し、複数のSi膜71と複数のシリコン窒化膜90とを交互にSiO膜61上に形成する。引き続いて、表2に示す反応条件においてNHガスを停止させた反応条件によって、a−Si膜13をSi層71上に堆積する(図12の工程(g)参照)。
【0101】
その後、Pイオンをイオン注入によってシリコン酸化膜80中へ注入する(図12の工程(h)参照)。この場合、Pイオンが複数のシリコン酸化膜80中にのみ注入されるように、イオン注入の加速電圧が設定される。これによって、複数のn型シリコン酸化膜62が形成される(図13の工程(i)参照)。
【0102】
そして、Bイオンをイオン注入によってシリコン窒化膜90およびa−Si膜13中へ注入する(図13の工程(i)参照)。この場合、Bイオンが複数のシリコン窒化膜90およびa−Si膜13中に注入されるように、イオン注入の加速電圧が設定される。これによって、複数のp型シリコン窒化膜72およびp型a−Si膜13Aが形成される(工図13の程(j)参照)。
【0103】
そして、基板1/SiO膜61/シリコン酸化膜62/・・・/SiO膜61/p型シリコン窒化膜72/Si膜71/・・・/Si膜71/p型a−Si膜13Aを表3に示す条件によってアニールする。
【0104】
これによって、n型シリコン酸化膜62中へイオン注入されたP原子が電気的に活性化され、p型シリコン窒化膜72中へイオン注入されたB原子が電気的に活性化され、さらに、p型a−Si膜13Aがppoly−Si膜4になる(図13の工程(k)参照)。
【0105】
その後、フォトリソグラフィー技術を用いてppoly−Si膜4をppoly−Si膜41〜44にパターンニングする(図14の工程(l)参照)。
【0106】
そして、Alのスパッタリングによって、電極5(51〜54)をそれぞれppoly−Si膜41〜44上に形成するとともに、電極6を基板1の裏面に形成する(図14の工程(m)参照)。これによって、発光素子10Aが完成する。
【0107】
図10に示す発光素子10Aのゼロバイアス時のエネルギーバンド図は、図3に示すエネルギーバンド図になり、図10に示す発光素子10Aの電流通電時のエネルギーバンド図は、図4に示すエネルギーバンド図になる。その結果、発光素子10Aは、上述した発光素子10と同じ機構によって発光する。
【0108】
したがって、発光素子10Aにおいても、発光効率を高くできる。
【0109】
図15は、この発明の実施の形態によるさらに他の発光素子の断面図である。この発明の実施の形態による発光素子は、図15に示す発光素子10Bであってもよい。図15を参照して、発光素子10Bは、図1に示す発光素子10のp型シリコン窒化膜3をp型シリコン窒化膜30に代え、p型シリコン酸窒化膜8を追加したものであり、その他は、発光素子10と同じである。
【0110】
p型シリコン窒化膜30は、p型シリコン窒化膜3と同じ組成からなり、約10nmの膜厚を有する。
【0111】
p型シリコン酸窒化膜8は、p型シリコン窒化膜3およびppoly−Si膜4に接して、p型シリコン窒化膜3とppoly−Si膜4との間に形成される。そして、p型シリコン酸窒化膜8は、後述するように、p型Siからなる複数の量子ドットを含み、SiO0.33の組成を有する。また、p型シリコン酸窒化膜8は、約100nmの膜厚を有する。
【0112】
図16は、図15に示すp型シリコン酸窒化膜8の拡大断面図である。図16を参照して、p型シリコン酸窒化膜8は、複数の量子ドット81を含む。複数の量子ドット81の各々は、p型Siドットからなり、約1019cm−3のB濃度を含む。そして、複数の量子ドット81は、p型シリコン酸窒化膜8中に不規則に配置される。
【0113】
図17は、図15に示す発光素子10Bのゼロバイアス時のエネルギーバンド図である。図17を参照して、n型シリコン酸化膜2およびp型シリコン窒化膜30のエネルギーバンド図は、図3において説明したとおりである。
【0114】
p型シリコン酸窒化膜8は、上述したように、複数の量子ドット81を含むため、量子ドット81と、量子ドット81を含まないシリコン酸窒化膜層82との積層構造からなる。その結果、量子ドット81は、シリコン酸窒化膜層82によって挟み込まれる。
【0115】
シリコン酸窒化膜層82は、7.1eVのエネルギーバンドギャップを有する。また、量子ドット81は、2つのシリコン酸窒化膜層82によって挟み込まれているので、量子サイズ効果によって、pSiの伝導帯Ec2側にサブ準位Lsub5を有し、pSiの価電子帯Ev2側にサブ準位Lsub6を有する。
【0116】
サブ準位Lsub5は、pSiの伝導帯Ec2よりもエネルギー的に高く、サブ準位Lsub6は、pSiの価電子帯Ev2の端よりもエネルギー的に高い。その結果、サブ準位Lsub5とサブ準位Lsub6とのエネルギー差は、pSiのエネルギーギャップEg1よりも大きい。
【0117】
また、pSiの伝導帯Ec2の端とシリコン酸窒化膜層82の伝導帯の端とのエネルギー差ΔE5は、4.2eVであり、pSiの価電子帯Ev2の端とシリコン酸窒化膜層82の価電子帯の端とのエネルギー差ΔE6は、エネルギー差ΔE4と同じである。したがって、p型シリコン酸窒化膜8は、pSi中の電子に対する障壁エネルギー(=ΔE5)よりも小さい障壁エネルギー(=ΔE6)をpSi中の正孔に対して有する。
【0118】
図18は、図15に示す発光素子10Bの電流通電時のエネルギーバンド図である。電極5側をプラス、電極6側をマイナスとして電極5,6間に電圧を印加すると、図18に示すように、基板1を構成するnSiのエネルギーバンドが持ち上がり、nSi中の電子11は、n型シリコン酸化膜2中の複数の量子ドット21を介してn型シリコン酸化膜2中を伝導し、p型シリコン窒化膜30中に注入される。
【0119】
そして、p型シリコン酸窒化膜8は、電子に対してp型シリコン窒化膜30よりも大きい障壁を有するので、p型シリコン窒化膜30中に注入された電子は、p型シリコン酸窒化膜8によってブロックされ、p型シリコン窒化膜30の量子ドット31中に蓄積される。
【0120】
一方、ppoly−Si膜4中の正孔12は、p型シリコン酸窒化膜8中の量子ドット81を介してp型シリコン酸窒化膜8中を伝導し、p型シリコン窒化膜30中に注入される。そして、n型シリコン酸化膜2は、正孔に対してp型シリコン窒化膜30よりも大きい障壁を有するので、p型シリコン窒化膜30中に注入された正孔は、n型シリコン酸化膜2によってブロックされ、p型シリコン窒化膜30の量子ドット31中に蓄積される。
【0121】
そうすると、量子ドット31に蓄積された電子13は、量子ドット31に蓄積された正孔14と再結合して発光する。
【0122】
このように、発光素子10Bは、nSi1からp型シリコン窒化膜30へ注入された電子をp型シリコン酸窒化膜8によってp型シリコン窒化膜30中に閉じ込め、ppoly−Si膜4からp型シリコン窒化膜30へ注入された正孔をn型シリコン酸化膜2によってp型シリコン窒化膜30中に閉じ込めることを特徴とする。つまり、発光素子10Bは、p型シリコン酸窒化膜8を発光素子10に追加することによって、正孔および電子の両方をp型シリコン窒化膜30中に閉じ込めることを特徴とする。その結果、発光素子10Bの発光効率を発光素子10の発光効率よりも高くできる。
【0123】
また、n型シリコン酸化膜2は、複数の量子ドット21を不規則に含み、p型シリコン窒化膜3は、複数の量子ドット31を不規則に含み、p型シリコン酸窒化膜8は、複数の量子ドット81を不規則に含むので、不規則に配置された量子ドット21,31,81の電界増強効果によって電子および正孔の注入効率が向上する。
【0124】
したがって、この発明によれば、発光効率を高くできる。
【0125】
図19および図20は、それぞれ、図15に示す発光素子10Bの製造方法を説明するための第1および第2の工程図である。図19を参照して、発光素子10Bの製造が開始されると、nSiからなる基板1が準備され(工程(a)参照)、基板1を洗浄した後、プラズマCVD装置100のサンプルホルダー103上に基板1をセットする。
【0126】
そして、表1に示す反応条件によってシリコン酸化膜11を基板1の一主面に堆積する。その後、表2に示す反応条件によってシリコン窒化膜12をシリコン酸化膜11上に堆積する。
【0127】
引き続いて、表4に示す反応条件によってシリコン酸窒化膜15をシリコン窒化膜12上に堆積する。
【0128】
【表4】

その後、表2に示す反応条件においてNHガスを停止させた反応条件によって、アモルファスシリコン(a−Si)膜13をシリコン酸窒化膜15上に堆積する(図19の工程(b)参照)。
【0129】
その後、Pイオンをイオン注入によってシリコン酸化膜11中へ注入する(図19の工程(c)参照)。この場合、Pイオンがシリコン酸化膜11中にのみ注入されるように、イオン注入の加速電圧が設定される。これによって、n型シリコン酸化膜2が形成される(図19の工程(d)参照)。
【0130】
そして、Bイオンをイオン注入によってシリコン窒化膜12、シリコン酸窒化膜15およびa−Si膜13中へ注入する(図19の工程(d)参照)。この場合、Bイオンがシリコン窒化膜12、シリコン酸窒化膜15およびa−Si膜13中に注入されるように、イオン注入の加速電圧が設定される。これによって、p型シリコン窒化膜30、p型シリコン酸窒化膜8およびp型a−Si膜13Aが形成される(図20の工程(e)参照)。
【0131】
そして、基板1/n型シリコン酸化膜2/p型シリコン窒化膜30/p型シリコン酸窒化膜8/p型a−Si膜13Aを表3に示す条件によってアニールする。
【0132】
これによって、n型シリコン酸化膜2中へイオン注入されたP原子が電気的に活性化され、p型シリコン窒化膜30およびp型シリコン酸窒化膜8中へイオン注入されたB原子が電気的に活性化され、さらに、p型a−Si膜13Aがppoly−Si膜4になる(図20の工程(f)参照)。
【0133】
その後、図7に示す工程(g),(h)が順次実行され、発光素子10Bが完成する(図20の工程(g),(h)参照)。
【0134】
なお、この発明による発光素子は、電子と正孔との再結合により発光する発光層と、n型の量子ドットを介して発光層に電子を供給する第1の絶縁部材と、p型の量子ドットを介して発光層に正孔を供給する第2の絶縁部材とを備えていればよい。電子および正孔の両方を発光層に供給する第1および第2の絶縁部材を備えていれば、発光層における発光効率を高くできるからである。
【0135】
この発明においては、n型シリコン酸化膜2,60の各々は、「第1の絶縁部材」を構成し、p型シリコン窒化膜3,70の各々は、「第2の絶縁部材」を構成する。
【0136】
また、p型シリコン酸窒化膜8は、「第3の絶縁部材」を構成する。
【0137】
さらに、量子ドット21,63の各々は、「第1の量子ドット」を構成し、量子ドット31,73の各々は、「第2の量子ドット」を構成し、量子ドット81は、「第3の量子ドット」を構成する。
【0138】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0139】
この発明は、発光効率が向上可能な発光素子に適用される。また、この発明的は、発光効率が向上可能な発光素子の製造方法に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】この発明の実施の形態による発光素子の断面図である。
【図2】図1に示すn型シリコン酸化膜およびp型シリコン窒化膜の拡大断面図である。
【図3】図1に示す発光素子のゼロバイアス時のエネルギーバンド図である。
【図4】図1に示す発光素子の電流通電時のエネルギーバンド図である。
【図5】図1に示す発光素子の製造に用いるプラズマCVD(Chemical Vapour Deposition)装置の概略図である。
【図6】図1に示す発光素子の製造方法を説明するための第1の工程図である。
【図7】図1に示す発光素子の製造方法を説明するための第2の工程図である。
【図8】図1に示す発光素子の発光特性を示す図である。
【図9】図1に示す発光素子の比較例としての発光素子の断面図である。
【図10】この発明の実施の形態による他の発光素子の断面図である。
【図11】図10に示す半導体素子の製造方法を示す第1の工程図である。
【図12】図10に示す半導体素子の製造方法を示す第2の工程図である。
【図13】図10に示す半導体素子の製造方法を示す第3の工程図である。
【図14】図10に示す半導体素子の製造方法を示す第4の工程図である。
【図15】この発明の実施の形態によるさらに他の発光素子の断面図である。
【図16】図15に示すp型シリコン酸窒化膜の拡大断面図である。
【図17】図15に示す発光素子のゼロバイアス時のエネルギーバンド図である。
【図18】図15に示す発光素子の電流通電時のエネルギーバンド図である。
【図19】図15に示す発光素子の製造方法を説明するための第1の工程図である。
【図20】図15に示す発光素子の製造方法を説明するための第2の工程図である。
【符号の説明】
【0141】
2 n型シリコン酸化膜、3 p型シリコン窒化膜、21,31 量子ドット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型を有する第1の量子ドットを含む第1の絶縁部材と、
前記第1の絶縁部材に接して配置され、前記第1の導電型と異なる第2の導電型を有する第2の量子ドットを含む第2の絶縁部材とを備える発光素子。
【請求項2】
前記第1の絶縁部材は、複数個の前記第1の量子ドットを含み、
前記第2の絶縁部材は、複数個の前記第2の量子ドットを含む、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記複数個の第1の量子ドットは、前記第1の絶縁部材の膜厚方向にランダムに配置され、
前記複数個の第2の量子ドットは、前記第2の絶縁部材の膜厚方向にランダムに配置される、請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1の導電型は、n型であり、
前記第2の導電型は、p型である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第1の絶縁部材において、正孔に対する障壁エネルギーは、電子に対する障壁エネルギーよりも大きく、
前記第2の絶縁部材において、電子に対する障壁エネルギーは、正孔に対する障壁エネルギーよりも大きい、請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1および第2の量子ドットは、シリコンドットからなり、
前記第1の絶縁部材は、シリコン酸化膜からなり、
前記第2の絶縁部材は、シリコン窒化膜からなる、請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記第2の絶縁部材に接して形成されるとともに、前記第2の導電型を有する第3の量子ドットを含み、電子に対する障壁エネルギーが前記第2の絶縁部材よりも大きい第3の絶縁部材をさらに備える、請求項4に記載の発光素子。
【請求項8】
前記第3の絶縁部材は、複数個の前記第3の量子ドットを含む、請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記複数個の第3の量子ドットは、前記第3の絶縁部材の膜厚方向にランダムに配置される、請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記第1から第3の量子ドットは、シリコンドットからなり、
前記第1の絶縁部材は、シリコン酸化膜からなり、
前記第2の絶縁部材は、シリコン窒化膜からなり、
前記第3の絶縁部材は、シリコン酸窒化膜からなる、請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
発光層と、
n型の量子ドットを介して電子を前記発光層へ供給する第1の絶縁部材と、
p型の量子ドットを介して正孔を前記発光層へ供給する第2の絶縁部材とを備える発光素子。
【請求項12】
前記第1の絶縁部材は、シリコン酸化膜からなり、
前記第2の絶縁部材は、シリコン窒化膜からなる、請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
量子ドットを含む第1の絶縁部材を半導体基板の一主面に堆積する第1の工程と、
量子ドットを含む第2の絶縁部材を前記第1の絶縁部材上に堆積する第2の工程と、
前記第1の絶縁部材中へ第1の導電型の不純物を導入する第3の工程と、
前記第2の絶縁部材中へ前記第1の導電型と異なる第2の導電型の不純物を導入する第4の工程と、
前記第1の導電型の不純物を含む前記第1の絶縁部材と、前記第2の導電型の不純物を含む前記第2の絶縁部材とを熱処理する第5の工程とを備える発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1の工程において、酸素を含む第1の材料ガスの流量に対するシリコンを含む第2の材料ガスの流量の比を第1の基準値以上に設定してシリコン酸化膜からなる前記第1の絶縁部材が前記一主面に堆積され、
前記第2の工程において、窒素を含む第3の材料ガスの流量に対する前記第2の材料ガスの流量の比を第2の基準値以上に設定してシリコン窒化膜からなる前記第2の絶縁部材が前記第1の絶縁部材上に堆積される、請求項13に記載の発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記第3の工程において、n型の不純物が前記第1の絶縁部材中へ導入され、
前記第4の工程において、p型の不純物が前記第2の絶縁部材中へ導入される、請求項14に記載の発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記第5の工程において、前記n型の不純物を含む前記第1の絶縁部材および前記p型の不純物を含む前記第2の絶縁部材は、窒素雰囲気中で熱処理される、請求項15に記載の発光素子の製造方法。
【請求項17】
量子ドットを含む第1の絶縁部材を半導体基板の一主面に堆積する第1の工程と、
量子ドットを含む第2の絶縁部材を前記第1の絶縁部材上に堆積する第2の工程と、
量子ドットを含み、電子に対する障壁エネルギーが前記第2の絶縁部材よりも大きい第3の絶縁部材を前記第2の絶縁部材上に堆積する第3の工程と、
前記第1の絶縁部材中へ第1の導電型の不純物を導入する第4の工程と、
前記第2および第3の絶縁部材中へ前記第1の導電型と異なる第2の導電型の不純物を導入する第5の工程と、
前記第1の導電型の不純物を含む前記第1の絶縁部材と、前記第2の導電型の不純物を含む前記第2および第3の絶縁部材とを熱処理する第6の工程とを備える発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−194283(P2009−194283A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35661(P2008−35661)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】