説明

発光素子

【課題】電子や正孔などの電荷を、発光層を構成する窒化物半導体粒子内へ効率よく注入できる発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、前記一対の電極間に挟まれて設けられた発光層とを備え、前記発光層は、窒化物半導体粒子で構成されており、前記窒化物半導体粒子の粒界には金属ナノ構造体が析出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体粒子からなる発光層を用いたエレクトロルミネッセンス(以下、ELと略記)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系窒化物半導体は発光材料として優れた特性を持ち、単結晶薄膜を用いるLEDやレーザーは既に実用化されている。しかし、単結晶薄膜は大面積の発光デバイスへの適用は難しい。一方、窒化物半導体は粒子の作成方法も種々提案されており、発光デバイスへの応用も期待される。窒化物半導体粒子を利用した発光デバイスとしては、分散型EL素子への適用が考えられる。
【0003】
図4は、一般的な分散型直流EL素子50の構成を示す概略断面図である。この分散型直流EL素子50は、基板51の上に、透明電極52、発光層53、背面電極54が順に積層されて構成される。発光層53は、蛍光体粒子56が有機バインダ59に分散されている。蛍光体粒子56としては、例えば、CuxSで被覆されたZnS:Mn蛍光体等が挙げられる。透明電極52と背面電極54は直流電源55を介して電気的に接続されている。電源55から透明電極52と背面電極54の間に電圧を印加すると、発光層53の蛍光体粒子56が発光し、その光が透明電極52及び基板51を透過して発光素子50の外部に取り出される(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
【非特許文献1】A.G.Fischer,J.Electrochem.Soc.,109,1043,(1962)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化物半導体は、電子と正孔の再結合によって発光することが知られているが、発光効率を向上させるには、これら電子や正孔などの電荷が半導体粒子内へ効率よく注入される必要がある。従って、窒化物半導体粒子を分散型EL構造に適用する場合、窒化物半導体粒子は極力隙間無く充填され、電極からの電荷移動や粒子への電荷注入が効率よく行われることが望ましい。
【0006】
しかし、窒化物半導体粒子においては、粒子間の結晶粒界において非発光再結合中心が多く存在し、移動してきた電荷が非発光再結合中心でトラップされ粒子内への電荷注入を妨げるという問題がある。従って、粒子内への電荷注入の効率を向上させる手段が必須となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電子や正孔などの電荷を、発光層を構成する窒化物半導体粒子内へ効率よく注入できる発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発光素子は、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、
前記一対の電極間に挟まれて設けられた発光層と
を備え、
前記発光層は、窒化物半導体粒子からなる層で構成されており、
前記窒化物半導体粒子の粒界には金属ナノ構造体が析出していることを特徴とする。
【0009】
また、前記窒化物半導体粒子は、Ga,Al、Inのうち少なくとも一種類以上の元素を含む窒化物半導体であってもよい。さらに、前記窒化物半導体粒子は、Li、Be、C、Mg、Si、Cr、Mn、Zn、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。
【0010】
また、前記金属ナノ構造体は、粒子サイズがナノサイズのナノ粒子、又は、長さがナノサイズのナノワイヤであってもよい。前記金属ナノ構造体は、銀のナノ構造体であってもよい。前記銀のナノ構造体は、硫化銀に電子ビームを照射して析出させたものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高輝度、高効率で面発光が実現でき、大面積化が可能となる窒化物半導体を用いた発光素子が実現できる。すなわち、本発明に係る発光素子では、発光層を構成する窒化物半導体粒子に金属イオン担持体を被覆し、電子線を照射することで、窒化物半導体粒子の粒界に金属ナノ構造を析出させている。これによって、結晶粒界の抵抗を下げ、粒子への電荷の注入効率を向上させることができる。また、析出した金属がナノ構造を形成することで、ナノ構造における電界強度が強まり、半導体粒子への電荷の注入効率が飛躍的に増大することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る発光素子について添付図面を用いて説明する。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0013】
(実施の形態1)
<EL素子の概略構成>
図1は、本実施の形態の発光素子10の構成を示す概略断面図である。この発光素子10は、第1の電極である透明電極2と、第2の電極である背面電極4との間に挟んで設けられた発光層3を備える。この発光層3は、窒化物半導体、例えば、窒化ガリウム(GaN)からなる複数の窒化物半導体粒子6からなる層で構成されている。各窒化物半導体粒子6の粒界の一部にはナノメータサイズの金属ナノ構造体7、例えば、銀ナノワイヤ、又は、銀ナノ粒子が析出している。また、全体を支持するものとして、基板1が、第1の電極である透明電極2に隣接して設けられている。透明電極2と背面電極4とは、電源5を介して電気的に接続されている。電源5に電圧を印加すると、正極に接続された透明電極2からは正孔が、負極に接続された背面電極4からは電子が発光層に注入される。発光層3に注入された電子と正孔は、更に窒化物半導体粒子6内に注入され、粒子6内で再結合が起こり発光し、その光が透明電極2及び基板1を透過して発光素子10の外部に取り出される。
【0014】
本発明の実施の形態1に係る発光素子10の特徴は、発光層3を構成する窒化物半導体粒子6の粒界の一部に金属ナノ構造体7、例えば、銀ナノワイヤ等を析出させている点である。
従来の構造では、窒化物半導体粒子6の結晶粒界において非発光再結合が起こり、高輝度の発光が期待できない。
このような非発光再結合を抑制する方法としては、例えば、界面の抵抗を下げる、非発光再結合中心となりうる格子欠陥を抑制する、などの方法がある。
一方、本発明者は、上記の窒化物半導体粒子6の結晶粒界に金属ナノ構造体7を析出させた構造を実現することにより、結晶粒界における非発光再結合が減り、窒化物半導体粒子への電子の注入性が改善されることを見出し、本発明に至ったものである。これによって、窒化物半導体粒子6における発光効率が向上し、低電圧で高輝度発光する発光素子を実現することができる。
【0015】
次に、この発光素子10の各構成部材について説明する。
<基板>
基板1には、例えば、ガラス基板,セラミックス基板,サファイア基板,窒化ホウ素(BN)基板,窒化アルミニウム基板,窒化ガリウム基板,窒化アルミニウム・ガリウム基板,窒化インジウム・ガリウム基板,炭化ケイ素(SiC)基板,シリコン(Si)基板、あるいは、金属基板、またはポリカーボネート樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,アクリル樹脂あるいはABS(Acrylonitrile−Butadiene−Styrene copolymer)樹脂等からなる樹脂基板を用いることができる。
【0016】
なお、基板1側から光を取り出さない構成の場合は、上述の光透過性は不要であり、光透過性を有していない材料も用いることができる。
【0017】
<電極>
電極として、透明電極2と背面電極4とがある。これらは、光を取り出す側の電極を透明電極2として、他方の電極を背面電極4としている。それぞれの電極2,4は、光を取り出す側であるか否かでその材料等が限定される。なお、両方の電極を透明電極としてもよい。
【0018】
まず、透明電極2について説明する。透明電極2の材料は、発光層3内で生じた発光を外部に取り出せるように光透過性を有するものであればよく、特に可視光領域において高い透過率を有することが好ましい。また、電極として低抵抗であることが好ましく、更には基板1や発光層3との密着性に優れていることが好ましい。透明電極2の材料として、特に好適なものは、ITO(InにSnOをドープしたものであり、インジウム錫酸化物ともいう。)やInZnO、ZnO、SnO等を主体とする金属酸化物、Pt、Au、Pd、Ag、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Ir等の金属薄膜、あるいはポリアニリン、ポリピロール、PEDOT/PSS、ポリチオフェンなどの導電性高分子等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらの透明電極2はその透明性を向上させ、あるいは抵抗率を低下させる目的で、スパッタリング法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法、等の成膜方法で成膜できる。また成膜後に、抵抗率制御の目的でプラズマ処理などの表面処理を施してもよい。透明電極2の膜厚は、必要とされるシート抵抗値と可視光透過率から決定される。
【0019】
透明電極2のキャリア濃度は、1E17〜1E22cm−3の範囲であることが望ましい。また、透明電極2として性能を出すために、透明電極2の体積抵抗率は1E−3Ω・cm以下であって、透過率は380〜780nmの波長において75%以上であることが望ましい。また、透明電極2の屈折率は、1.85〜1.95が良い。さらに、透明電極2の膜厚は30nm以下の場合に緻密で安定した特性を持つ膜が実現できる。
【0020】
次に、背面電極4について説明する。背面電極4には、一般に良く知られている導電材料であればいずれでも適用できる。好適な例としては、例えば、ITOやInZnO、ZnO、SnO等の金属酸化物、Pt、Au、Pd、Ag、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Ir、Cr、Mo、W、Ta、Nb等の金属、これらの積層構造体、あるいは、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT〔ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)〕/PSS(ポリスチレンスルホン酸)等の導電性高分子、あるいは導電性カーボンなどを用いることができる。
【0021】
<発光層>
発光層3は、窒化物半導体粒子6からなる層で構成されている。また、各窒化物半導体粒子6の粒界の一部には金属ナノ構造体7が析出している。なお、発光層3は、窒化物半導体粒子6及びその粒界の一部に析出した金属ナノ構造体7とから構成されるが、粒界の一部に金属ナノ構造体7を析出させるために用いた金属化合物が存在していてもよい。
【0022】
<窒化物半導体粒子>
ここで窒化物導体粒子6としては、GaN、AlN、InNやこれらの混晶(例えばGaInN等)、を用いることができる。また、窒化物導体粒子は、Li、Be、C、Mg、Si、Cr、Mn、Zn、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群より選択される1又は複数種の原子もしくはイオンを添加剤として含んでいてもよい。
【0023】
さらに、窒化物半導体粒子6の微細構造としては、図2の(a)〜(c)に示すように、粒子全体として均一組成(図2(a))である他にも、複数の半導体物質が2層以上積層された構造(図2(b))、複数の半導体物質の混晶(図2(c))である構造でもかまわない。
【0024】
<金属ナノ構造体>
金属ナノ構造体7は、窒化物半導体粒子6の粒界の一部に析出している。金属ナノ構造体7は、銀、金、白金等のように導電性の金属が好ましい。また、金属ナノ構造体7は、ナノサイズの粒子、ナノサイズのナノワイヤ等の形状であってもよい。また、この金属ナノ構造体7は、窒化物半導体粒子6からなる層を形成する際に同時に界面に析出させるか、又は、その後に界面に析出させることが好ましい。
【0025】
本発明者は、文献(K.Terabe, et.al., Nature,433, 47, (2005))及び特許文献(特許第3409126号)にヒントを得て、発光層3を構成する窒化物半導体粒子6の粒界の一部に上記金属ナノ構造体7を析出させることを着想し、本発明に至ったものである。
【0026】
なお、文献(K.Terabe, et.al., Nature,433, 47, (2005))によれば、硫化銀の電極と白金の電極を1ナノメートル(ナノは10億分の1)ほどの間隔で向かい合わせて電圧をかけると、硫化銀の電極から10個程度の銀原子でできた微小な突起が伸びたり縮んだりして、電流を流したり切ったりできることを確認されている。また、特許文献(特許第3409126号)によれば、金属イオン担持体に電子線を照射すると金属イオンが電子線により還元されて金属になり、金属ナノワイヤ及び金属ナノパーティクルを形成することを確認されている。
【0027】
なお、上述の構成に限られず、発光層3を複数層設ける、電極と発光層との間に電流制限を目的として薄い誘電体層を複数設ける、交流電源により駆動する、背面電極も透明電極とする、発光素子10の全部又は一部を封止する構造を更に備える、発光取出し方向の前方に発光層3からの発光色を色変換する構造を更に備える等、適宜変更が可能である。
【0028】
(実施例1)
以下、実施の形態1の具体的な実施例1の発光素子10の製造方法を説明する。なお、前述の他の材料からなる発光層についても同様の製造方法が利用可能である。
(1)基板1としてコーニング1737を準備する。
(2)基板1上に、透明電極2として、スパッタリング法によりITOを厚さ1μm堆積した。
(3)透明電極2上に、GaN粒子6をAD法(Aerosol Deposition法)により厚さ1μm堆積させた。
(4)GaN粒子6を堆積させた基板1に硫化銀AgS(8)を堆積させ、発光層3を形成する。具体的には、蒸発源にAgSの粉体を投入し、真空中(10−6Torr台)にてエレクトロンビームを照射し、GaN粒子6からなる層の上に硫化銀AgS(8)を蒸着させた。この膜をX線回折やSEMによって調べたところ、硫化銀AgS(8)の一部は還元され、GaN粒子6の粒界にAgナノワイヤ7aとして析出していることが分かった(図3)。
(5)続いて発光層3上にPtを電子ビーム蒸着法で厚さ200nm堆積し、背面電極4を形成した。
以上の工程によって、本実施例1の発光素子10を得た。
【0029】
この発光素子10の透明電極2と背面電極4とを直流電源に接続して発光評価を行なったところ、印加電圧5Vで発光し始め、10Vで約300cd/mの発光輝度を示した。
なお、各層の成膜方法は上記に述べた方法には限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る発光素子は、低電圧駆動で高輝度表示が得られる表示装置を提供するものである。特にデジタルカメラ、カーナビーゲーションシステム、テレビ等のディスプレイデバイスとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1に係る発光素子の構成を示す概略断面図である
【図2】(a)〜(c)は、図1の発光層を構成する各窒化物半導体粒子の微細構造の例を示す断面図である
【図3】本発明の実施の形態1に係る発光層の詳細な構成を示す概略図である
【図4】従来の分散型EL素子の構成を示す概略断面図である
【符号の説明】
【0032】
1 基板
2 透明電極
3 発光層
4 背面電極
5 電源
6 窒化物半導体粒子
7 金属ナノ構造体
7a 銀ナノワイヤ
8 硫化銀
10 発光素子
11 第1の窒化物半導体物質
12 第2の窒化物半導体物質
50 分散型直流EL素子
51 基板
52 透明電極
53 発光層
54 背面電極
55 電源
56 蛍光体粒子
59 有機バインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、
前記一対の電極間に挟まれて設けられた発光層と
を備え、
前記発光層は、窒化物半導体粒子からなる層で構成されており、
前記窒化物半導体粒子の粒界には金属ナノ構造体が析出していることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記窒化物半導体粒子は、Ga,Al、Inのうち少なくとも一種類以上の元素を含む窒化物半導体であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記窒化物半導体粒子は、Li、Be、C、Mg、Si、Cr、Mn、Zn、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記金属ナノ構造体は、粒子サイズがナノサイズのナノ粒子、又は、長さがナノサイズのナノワイヤであることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
前記金属ナノ構造体は、銀のナノ構造体であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
前記銀のナノ構造体は、硫化銀に電子ビームを照射して析出させたものであることを特徴とする請求項5に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−243647(P2008−243647A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83638(P2007−83638)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】