説明

発振器

【課題】負荷容量に応じて最適な波形を出力可能な発振器を提供する。
【解決手段】発振回路12からの出力を、出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)を介して負荷回路に出力する発振器10であって、発振器10は、出力バッファ22の駆動能力を出力バッファから流れる電流に応じて調整可能なバッファ制御回路48を有する。ここで出力バッファ22は、発振回路12の後段に複数並列に接続されるとともに、バッファ制御回路48は、出力バッファから流れる電流に応じて出力バッファ22の稼動数を調整する信号を出力バッファ22に出力することにより出力バッファ22の駆動能力を調整している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の電子機器に用いられる発振器に関し、特に接続先の負荷容量に応じて駆動能力を可変させる発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロコンピュータや携帯電話機等の電子機の基準クロック源として、周囲の温度や電気素子の固有の特性に左右されず、安定した発振回路として優れた温度補償型水晶発振器(Temperature Compensated Crystal Oscillator:TCXO)などの水晶発振器が使用されている。この水晶発振器に接続される負荷回路は、その負荷容量が小容量から大容量までの広範囲にわたって多くの種類が存在しており、またこれらの負荷回路は水晶発振器を使用するユーザの用途によっても異なっている。
【0003】
従来の一般的な発振器は、製造時において、ユーザの仕様に応じて該当する出力駆動回路の配線パターンを切断して所望の出力波形を得ている。したがって、多くの出力波形を得るには出力駆動回路の種類が多くなって多大な開発コストが発生したり、多種類の出力駆動回路の在庫管理をしなければならないなど、生産コストを増大させる要因となる。また従来の水晶発振器は、特に、多くのユーザに対応させるために、出力駆動回路は最大負荷に対応できるように設計されているため、必然的に水晶発振器の消費電流が大きくなるばかりか、出力信号の立ち上がり・立ち下がり特性が急峻となって高調波の発生原因となり、ユーザの仕様によっては不適切なものとなる。一方、消費電流を抑えて回路設計した場合は、予め設定した負荷よりも大きな負荷を接続すると、出力信号の立ち上がり・立ち下がり特性が劣化し、ジッターの悪化要因となる。
【0004】
上記問題を解決するため、特許文献1においては、図4に示すように、所定の周波数の発振波形の信号を出力する発振回路204と、前記発振波形の信号を入力して所望の波形特性を有する出力波形のクロック信号を出力する出力駆動手段205とを備え、前記出力駆動手段205は、前記出力波形の波形特性を調整するための制御データVmを記憶する記憶手段254と、前記記憶手段254に記憶された前記制御データVmを抽出し、前記出力波形の波形特性調整用として前記制御データVcntを出力する制御手段253と、外部から第1の電源電圧Vdd1を入力し、前記出力波形の出力振幅を規定する第2の電源電圧Vdd2を生成して出力する電圧制御手段252と、前記発振波形の信号及び前記第2の電源電圧Vdd2をそれぞれ入力し、前記制御データVcntに基づいて前記出力波形の波形特性を調整して外部にクロック信号を出力するバッファ回路251とを備える発振器201が開示されている。これにより、ユーザから指定された所定の仕様に応じた出力波形の波形特性のクロック信号を得るために、予め製造工程において、バッファ回路251を制御する制御データVcntを記憶手段254に書き込んでおき、制御手段253が、記憶手段254に記憶された制御データに基づいて出力駆動手段205を制御することでユーザの所望する波形特性に調整する。これにより従来の発振器のように、開発工程においてユーザの仕様に応じた何種類もの集積回路(IC)を重複して開発・製造しておく必要が無くなる。したがって、1種類のICを開発・製造しておけばよいので、生産管理が極めて簡素化される。またバッファ回路251から所望のクロック信号を出力供給するために、ユーザの使用に応じた水晶振動子やICを実装して水晶発振器を製造する必要がなく、1種類の水晶発振器を製造すればよいので在庫管理コストの低減化が図れる。また類似の発明については特許文献2乃至4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−338710号公報
【特許文献2】特許第3374820号公報
【特許文献3】特開2007−259052号公報
【特許文献4】特開2000−91506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の発振器においては、予め発振器の出力端子に接続される負荷回路の負荷容量の大きさを知る必要がある。一方、負荷容量の大きさに対応したデータをメモリに書き込む作業は発振器の出荷段階で行う必要があり、予めユーザ側の使用態様や使用時の負荷容量が既知である場合は問題ないが、明確に負荷容量が分からない場合、または接続条件が変わった場合は対応に時間が必要であった。
【0007】
そこで本発明は、負荷回路の負荷容量が既知でない場合であっても接続される負荷回路の負荷容量に応じてバッファ回路の駆動能力を調整し、ユーザの仕様に対応した適切な出力波形を出力可能な発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
[適用例1]発振回路からの出力を、出力バッファを介して外部へ出力する発振器であって、前記出力バッファの出力電流の大きさを検知する電流検出回路と、前記電流検出回路によって検出された前記出力電流の大きさに応じて、前記出力バッファの駆動能力を調整するバッファ制御回路と、を有することを特徴とする発振器。
【0009】
出力バッファ側から流れる電流の大きさは負荷回路の負荷容量に依存する。よって、この電流をモニターすることによって負荷容量の大きさを発振器側で判別でき、測定される電流値に応じて出力バッファの出力を調整することができる。これにより負荷容量が既知でなくてもユーザの仕様に対応した出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【0010】
[適用例2]前記出力バッファは、前記発振回路の後段に複数並列に接続され、前記バッファ制御回路は、前記出力バッファの前記出力電流の大きさに応じて前記出力バッファの稼動数を調整する信号を前記出力バッファに出力することを特徴とする適用例1に記載の発振器。
これにより、簡単な構成で出力バッファの駆動能力を調整することができる。
【0011】
[適用例3]前記バッファ制御回路は、前記稼動数に対応した電流の閾値を記憶したメモリを有し、前記出力バッファの前記出力電流に対応する閾値を選択することにより前記出力バッファの前記稼動数を調整することを特徴とする適用例2に記載の発振器。
【0012】
これにより、閾値を適切に設定することにより出力波形の立ち上がり・立ち下がり特性の調整を行うことが可能となり、負荷容量が既知でない負荷回路に対してもユーザの仕様に応じた出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【0013】
[適用例4]前記発振器は、前記発振回路のクロックをトリガとしてカウントし、所定のカウント数にてキャリーを出力するカウンタと、前記バッファ制御回路と前記出力バッファとの間に介装され、前記キャリーをトリガとして前記信号を出力する保持回路と、を有することを特徴とする適用例2または3に記載の発振器。
【0014】
発振器の発振が安定するまでには一定の時間を要するが、上記構成により発振器の発振後カウント数に相当する時間後に出力バッファの駆動能力の調整を行うことができるので、負荷回路に対して安定した出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【0015】
[適用例5]前記バッファ制御回路と電源電圧との間に切替回路が介装され、前記切替回路は前記キャリーをトリガとして前記電源電圧から前記バッファ制御回路への導通を遮断することを特徴とする適用例4に記載の発振器。
【0016】
出力バッファの駆動能力の調整は発振器の立ち上げ後一度だけ行われるため、その後バッファ制御回路を用いる必要はない。よって調整後にバッファ制御回路と電源電圧との接続を遮断することにより消費電力を低減することができる。
【0017】
[適用例6]前記出力バッファと前記負荷回路との間に、第2切替回路と抵抗との直列回路と第3切替回路により形成される並列回路が介装され、前記出力電流は、前記抵抗の両端の電位差により測定され、前記第2切替回路は、前記キャリーをトリガとして前記出力バッファから前記外部への導通を遮断し、前記第3切替回路は、前記キャリーをトリガとして前記出力バッファから前記外部へ導通することを特徴とする請求項4または5に記載の発振器。
【0018】
出力バッファから流れる電流値の測定は上述の抵抗の両端の電位差により測定するが、測定後も抵抗に電流が流れる状態であるので、抵抗により出力バッファからの出力に電圧降下が発生する。よって上記構成にすることにより、測定後は出力バッファと負荷回路とが抵抗を介さずに接続されるので、電圧降下を抑制して振幅の大きな出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係る発振器の回路図である。
【図2】発振器から出力されるクロック信号の模式図を示す。
【図3】第2実施形態に係る発振器の回路図である。
【図4】従来技術に係る発振器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0021】
図1に第1実施形態に係る発振器の回路図を示す。第1実施形態に係る発振器10は、発振回路12からの出力を、出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)を介して外部へ出力する発振器であって、出力バッファの出力電流の大きさを検知する電流検出回路44と、電流検出回路44によって検出された出力電流の大きさに応じて、出力バッファの駆動能力を調整するバッファ制御回路48と、を有する構成である。そして出力バッファは、発振回路12の後段に複数並列に接続され、バッファ制御回路48は、出力バッファの出力電流の大きさに応じて出力バッファの稼動数を調整する信号を出力バッファに出力するものである。さらに、バッファ制御回路48は、稼動数に対応した電流の閾値を記憶したメモリ66を有し、出力バッファの出力電流に対応する閾値を選択することにより出力バッファの稼動数を調整するものである。なお、出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)の駆動能力とは、負荷回路を駆動する能力である。この駆動能力により、負荷回路を接続した場合の出力信号の振幅、立ち上がり時間及び立ち下がり時間等の特性が変化する。
【0022】
発振回路12は、水晶の圧電材料により形成された圧電振動子を所定の発振周波数でクロック信号を発振させる例えばインバータ型の発振回路である。
前段出力バッファ14は、発振回路12から出力された所定の発振周波数のクロック信号の波形を矩形波に変換しつつ増幅する回路である。前段出力バッファ14はP型MOSトランジスタ16とN型MOSトランジスタ18により構成されている。P型MOSトランジスタ16のドレイン端子16aとN型MOSトランジスタ18のドレイン端子18aとが互いに接続され、P型MOSトランジスタ16のソース端子16bが電源電圧(VDD)に接続され、N型MOSトランジスタのソース端子18bがグランド(GND)と接続されている。またP型MOSトランジスタのバックゲート端子16cがソース端子16bと接続され、N型MOSトランジスタ18のバックゲート端子18cがソース端子18bと接続されている。そして、P型MOSトランジスタ16のゲート端子16d、及びN型MOSトランジスタ18のゲート端子18dはそれぞれ発振回路12に接続されている。さらにP型MOSトランジスタ16及びN型MOSトランジスタ18の接続点20は後段の出力バッファ22(第1出力バッファ24、第2出力バッファ26、第3出力バッファ28)及び配線30を介して抵抗に接続される。ここで、前段出力バッファ14のゲート端子側の入力インピーダンスは極めて大きいので、発振回路12に何ら影響を及ぼすことなく前段出力バッファ14は発振回路12からの信号を矩形波に変形しつつ増幅することができる。そして発振回路12からの出力されるクロック信号の電圧が高い(H)ときはN型MOSトランジスタ18がONとなるので前段出力バッファ14の出力電圧は低い電圧(L)となり、逆にクロック信号の電圧が低い(L)ときはP型MOSトランジスタ16がONとなるので前段出力バッファ14の出力電圧は高い電圧(H)となる。したがって前段出力バッファ14は発振回路12からのクロック信号を逆相で増幅することができる。なお前段出力バッファ14は、発振器10を起動後、配線30及び抵抗を介して負荷容量に増幅されたクロック信号を常時出力する。
【0023】
第1出力バッファ24、第2出力バッファ26、第3出力バッファ28は、後述のコンパレータ50からの信号を待って発振回路12からの信号を矩形波に変換しつつ増幅するものであって互いに並列に接続されている。なお本実施形態においては並列接続された出力バッファ22を3個用いているがそれ以上用いてもよい。またいずれの出力バッファ22においても矩形波を出力する駆動能力は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
第1出力バッファ24、第2出力バッファ26、第3出力バッファ28はいずれも図1中の詳細図に示す構成を有している。各出力バッファはN型MOSトランジスタとP型MOSトランジスタにより構成されている。
【0025】
第1P型MOSトランジスタ32のドレイン端子32aと第1N型MOSトランジスタ34のドレイン端子34aとが互いに接続され、P型MOSトランジスタ32のソース端子32bが第2P型MOSトランジスタ36のドレイン端子36aに接続され、第2P型MOSトランジスタ36のソース端子36bが電源電圧(VDD)に接続される。
【0026】
一方、第1N型MOSトランジスタ34のソース端子34bが第2N型MOSトランジスタ38のドレイン端子38aと接続され、第2N型MOSトランジスタ38のソース端子38bがグランドと接続されている。また第1N型MOSトランジスタ34のバックゲート端子34cがソース端子34bと接続され、第1P型MOSトランジスタ36のバックゲート端子36cがソース端子36bと接続されている。
【0027】
そして、第1P型MOSトランジスタ32のゲート端子32d(IN)、及び第1N型MOSトランジスタ34のゲート端子34d(IN)はそれぞれ発振回路12に接続されている。さらに第1P型MOSトランジスタ32及び第1N型MOSトランジスタ34の接続点42(OUT)は後段の抵抗46に接続される。
【0028】
さらに、第2P型MOSトランジスタ36のバックゲート端子26cは、ソース端子36bに接続され、第2N型MOSトランジスタ38のバックゲート端子38cは、ソース端子38bと接続されている。また第2P型MOSトランジスタ36のゲート端子36dはインバータ40を介して後述のコンパレータ50に接続され、第2N型MOSトランジスタ38のゲート端子38dも後述のコンパレータ50に接続される。
【0029】
電流検出回路44は、抵抗46の両端の電位差を測定し、測定された電位差と抵抗46の抵抗値から電流(実効値)の大きさを検出し、前記電流に対応した電圧を後述のコンパレータに出力するものである。測定された電流は負荷回路に流れる電流と値がほぼ一致するので、この電流をモニターすることで上述の出力バッファ22の稼動数を調整することができる。
【0030】
バッファ制御回路48は、負荷回路側へ流れる電流に基づいて、すなわち電流検出回路44が検出した電流に基づいて出力バッファ22の稼動数を調整する回路であり、並列接続された出力バッファ22と同数設けられたコンパレータ50と、コンパレータ50と同数のD/A変換器58と、D/A変換器58と同数のレジスタを有しPROM(Programmable Read Only Memory)等により形成されたメモリ66を有する。
【0031】
コンパレータ50(第1コンパレータ52、第2コンパレータ54、第3コンパレータ56)はD/A変換器58(第1D/A変換器60、第2D/A変換器62、第3D/A変換器64)から出力される電圧と電流検出回路44から出力される電圧の大小関係を信号として出力バッファ22側に出力するものである。コンパレータ50の入力(+)は電流検出回路44に接続され、入力(−)はD/A変換器58に接続されている。ここで電流検出回路44から出力される電圧がD/A変換器から出力される電圧より高い場合、コンパレータ50は電圧の高い信号(H)を出力し、逆に低い場合は電圧の低い信号(L)を出力する。よってコンパレータ50からの信号が高い電圧の信号(H)である場合は第2P型MOSトランジスタ36及び第2N型MOSトランジスタ38が導通するため、出力バッファ22は稼動可能となる。なお第1P型MOSトランジスタ32、第1N型MOSトランジスタ34の動作は、それぞれP型MOSトランジスタ16、N型MOSトランジスタ18と同様なので説明を省略する。
【0032】
メモリ66はPROMで形成された製造段階で書き込み可能なメモリであり、コンパレータ50及びD/A変換器58と同数のレジスタ(第1レジスタ68、第2レジスタ70、第3レジスタ72)を有している。各レジスタには電流検出回路44から検出される電流に対応する設定値(閾値)が書き込まれて記憶され、各レジスタに対応するD/A変換器58に出力することができる。
【0033】
D/A変換器58はメモリ66内においてそれぞれ対応するレジスタに接続され、レジスタから上述の設定値を読み出しD/A変換を行うことにより閾値に対応する電圧に変換してコンパレータ50に出力している。
【0034】
なお、図1において、メモリ66から出力バッファ22までの電気的な接続経路は第1レジスタ68、第1D/A変換器60、第1コンパレータ52、第1出力バッファ24までの経路、第2レジスタ70、第2D/A変換器62、第2コンパレータ54、第2出力バッファ26までの経路、第3レジスタ72、第3D/A変換器64、第3コンパレータ56、第3出力バッファ28までの経路がある。
【0035】
さらに図1には、周波数ごとのレジスタテーブルの設定例が示されている。例えば発振回路12の発振周波数が50MHzの場合であって電流検出回路44が検出する電流が4mA以下の場合はいずれの出力バッファ22も稼動させず、電流が4〜6mAの場合は、第3レジスタ64に電気的に接続された第3出力バッファ28が稼動し、電流が6〜8mAの場合は、第3出力バッファ28、及び第2レジスタ70に電気的に接続された第2出力バッファ26がそれぞれ稼動し、8mA以上の場合は、第3出力バッファ28、第2出力バッファ26、及び第3レジスタに電気的に接続された第1出力バッファ24がそれぞれ稼動することを意味する。
【0036】
ところで、各レジスタに記憶される設定値は発振器10の発振周波数及びユーザの仕様によって調整される。図2に発振器10から出力されるクロック信号の模式図を示す。
【0037】
一般に負荷回路74は負荷容量(C)を有するため、負荷回路74に電流を流すと負荷回路74において充放電され、これにより電力が消費される。このとき負荷回路74で消費される電力Pdは、
【数1】

となる。ここで、Ptはスイッチング確率(発振器は必ず遷移するので1)、Cは負荷容量、VDDは電源電圧、fは発振周波数である。これにより負荷回路72に流れる電流Idは、
【数2】

と概算され、発振周波数が高いほど、またCが大きいほど電流値が大きくなることがわかる。一方、出力バッファ22(第1出力バッファ24、第2出力バッファ26、第3出力バッファ28)は、所定の電流を一定の駆動能力の範囲で供給することができる。よって負荷回路74の負荷容量が小さく1つの出力バッファ22で負荷回路74が必要とする電流を充分賄える場合は図2に示すように、出力バッファ22からの出力波形(出力電圧)は矩形波に近い形状を有しているが、負荷容量が大きく出力バッファ22で負荷回路74が必要とする電流を充分に賄えなくなると図2に示すように、矩形波の立ち上がり及び立ち下がりにおいて傾きが発生する。
【0038】
ここで、立ち上がり領域の時間幅をTf、立ち下がり領域の時間幅をTrとするとスルーレートはTfとTrのそれぞれの大きさで評価することができる。スルーレートが大きくなると(負荷容量が大きくなると)矩形波の波形がなまってきてジッター特性が劣化することになる。一方スルーレートが小さくなるとTf及びTrが小さくなるため高周波の高周波比が大きくなる。よって一定のスルーレートを維持することによって良好なジッター特性を維持するとともに高調波の発生を抑制することができる。またユーザの仕様によりスルーレートを意図的に小さくしたり大きくしたりする場合も考えられる。そこで本実施形態においてはメモリ66に記憶される設定値(閾値)を適切に設定することにより、ユーザ側の負荷容量が既知でなくても負荷容量の大きさに応じて出力バッファ22の稼動数を調整可能であり、発振器10は一定のスルーレートを持った出力波形を出力することができる。
【0039】
例えば、図1のレジスタテーブルにおいて各レジスタの設定値(閾値)を全体的に小さくすると、一定の負荷容量を有する負荷回路74に対して大きな駆動能力をもつ出力バッファ22が負荷回路74に対して電流を供給することになるのでスルーレートは小さくなり、出力波形の立ち上がり・立ち下がりは急峻となるが、場合によっては高調波の発生が考えられる。逆に各レジスタの設定値(閾値)を全体的に大きくすると、一定の負荷容量を有する負荷回路74に対して小さな駆動能力をもつ出力バッファ22が負荷回路74に対して電流を供給することになるのでスルーレートは大きくなり、出力波形の立ち上がり・立ち下がりはなだらかとなり高調波の発生は抑制されるが、ジッター特性が劣化することが考えられる。
【0040】
したがって、予め発振器10の設計段階で出力波形特性、ジッター特性、高調波特性のCとの関係を評価しておき、これに基づいてメモリ66に書き込む設定値(閾値)を決定し、書き込みは製造の最終段階(検査前)で実施する。そして発振器10に負荷回路74を接続したのちは、[数2]に示すように負荷回路74側に流れる電流Idと負荷容量Cとが比例関係にあることを利用して、測定される電流Idから設定値に基づいて出力波形が最適となる出力バッファ22の稼動数に調整することができる。
【0041】
第2実施形態に係る発振器を図3に示す。第2実施形態に係る発振器80は基本的には第1実施形態と共通する構成を有するが、発振回路のクロックをトリガとしてカウントし、所定のカウント数にてキャリーを出力するカウンタと、前記バッファ制御回路と前記出力バッファとの間に介装され、前記キャリーをトリガとして前記信号を出力する保持回路と、を有している。
【0042】
カウンタ82は、発振回路12のクロック信号(前段バッファ14の出力でもよい)をクロック源とし、所定のカウント数の間でカウントアップもしくはカウントダウンし、フルカウントもしくはゼロカウントになったらキャリー84を出力するものであり、バイナリカウンタのようなフィルドコードカウンタ、またはジョンソンカウンタのようなアンフィルドコードカウンタを用いてもよい。ここではキャリー84はカウンタ82のカウント中は電圧の低い状態(L)としカウント終了後電圧の高い信号(H)を出力するものとする。発振回路12は起動後発振が安定するまでしばらくの時間(数ms)を要するため、カウンタ82はこの時間に相当するカウント数を有する必要がある。
【0043】
保持回路86(第1保持回路88、第2保持回路90、第3保持回路92)は、コンパレータ50(第1コンパレータ52、第2コンパレータ54、第3コンパレータ56)と出力バッファ22(第1出力バッファ24、第2出力バッファ26、第3出力バッファ28)との間にそれぞれ介装されたDフリップフロップである。保持回路86はカウンタ82からのキャリー84をトリガとしてコンパレータ50から出力される信号をストアして出力バッファ22に出力する。したがって出力バッファ22は発振器10の起動後、カウンタ82からのキャリー84が出力された後にコンパレータ50からの信号が入力され、その信号に基づいて稼動することになる。なお保持回路86には電源電圧(不図示)から常時給電されており、ストアされた信号が消去されることはないため、出力バッファ22はその後の稼動数を維持することになる。
【0044】
また、バッファ制御回路48と電源電圧(VDD)との間に切替回路94が介装され、切替回路94はキャリー84をトリガとして電源電圧(VDD)からバッファ制御回路48への導通を遮断する構成を有している。切替回路94は例えばP型MOSトランジスタによって構成され、ゲート端子94aにカウンタ82のキャリー84が入力される。よってキャリー84が入力される前は電源電圧(VDD)はバッファ制御回路48に給電するが、キャリー84が入力されたのちは給電を遮断することができる。上述のように出力バッファ22の稼動数の調整が行われたのちはバッファ制御回路48を用いることはないので、バッファ制御回路48への給電を停止して発振器10の消費電力を低減することができる。
【0045】
さらに、出力バッファ22と負荷回路74との間に、第2切替回路96と抵抗46との直列回路と第3切替回路98により形成される並列回路100が介装され、負荷回路74へ流れる電流は、抵抗46の両端の電位差により測定されるとともに、第2切替回路96は、キャリー84をトリガとして出力バッファ22から負荷回路74への導通を遮断し、第3切替回路98は、キャリー84をトリガとして出力バッファ22から負荷回路74へ導通する構成を有している。
【0046】
第2切替回路96は例えばP型MOSトランジスタにより構成され、第3切替回路98は例えばN型MOSトランジスタにより構成されている。第2切替回路96のソース端子96aは出力バッファ22側に接続され、ドレイン端子96bが抵抗46の一端46aに接続されている。第3切替回路98のソース端子98aは出力バッファ22側に接続され、ドレイン端子98bは抵抗46の一端46aに接続されている。また抵抗46の一端46aの反対側の他端46bは負荷回路74側に接続されている。さらに前記一端46a及び他端46bはそれぞれ電流検出回路44に接続されている。そして第2切替回路96のゲート端子96a、及び第3切替回路98のゲート端子98cはカウンタ82のキャリー84に接続されている。
【0047】
ここで、カウンタ82からのキャリー84が来る前は、第2切替回路96は導通し、第3切替回路98は導通を遮断しているため、前段出力バッファ14及び出力バッファ22からの電流は抵抗46を介して負荷回路74に流れることになる。よって抵抗46の両端が電流検出回路44に接続されるため、両端の電位差と抵抗46の抵抗値により、電流検出回路44は電流値を求めることができるが、抵抗46により電圧降下が発生することになる。一方カウンタ82からのキャリー84が来たのちは、第2導通回路96は導通を遮断し、第3切替回路98は導通することになる。よって前段出力バッファ14及び出力バッファ22からの電流は第3切替回路98を介して負荷回路74に流れるので電圧降下が起きることはない。
【0048】
以上述べたように、本実施形態に係る発振器10、80において、出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)側から流れる電流の大きさは負荷回路74の負荷容量に依存する。よって、この電流をモニターすることによって負荷容量の大きさを発振器10側で判別でき、測定される電流値に応じて出力バッファ22の出力を調整することができる。これにより負荷容量が既知でなくてもユーザの仕様に対応した出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【0049】
また、出力バッファ22は、発振回路12の後段に複数並列に接続され、バッファ制御回路48は、出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ14)の出力電流の大きさに応じて出力バッファ22の稼動数を調整する信号を出力バッファ22に出力する構成とした。これにより、簡単な構成で出力バッファ22の駆動能力を調整することができる。
【0050】
さらに、バッファ制御回路48は、稼動数に対応した電流の閾値を記憶したメモリ66を有し、出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)から流れる電流に対応する閾値を選択することにより出力バッファ22の稼動数を調整する構成とした。これにより、閾値を適切に設定することにより出力波形の立ち上がり・立ち下がり特性の調整を行うことが可能となり、負荷容量が既知でない負荷回路74に対してもユーザの仕様に応じた出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【0051】
第2実施形態において、発振器80は、発振回路12のクロックをトリガとしてカウントし、所定のカウント数にてキャリー84を出力するカウンタ82と、バッファ制御回路48と出力バッファ22との間に介装され、キャリー84をトリガとして信号を出力する保持回路86と、を有する構成とした。発振器80の発振が安定するまでには一定の時間を要するが、上記構成により発振器80の発振後カウント数に相当する時間後に出力バッファ22の駆動能力の調整を行うことができるので、負荷回路74に対して安定した出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【0052】
また、バッファ制御回路48と電源電圧(VDD)との間に切替回路94が介装され、切替回路94はキャリー84をトリガとして電源電圧(VDD)からバッファ制御回路48への導通を遮断する構成とした。出力バッファ22の駆動能力の調整は発振器10の立ち上げ後一度だけ行われるため、その後バッファ制御回路48を用いる必要はない。よって調整後にバッファ制御回路48と電源電圧(VDD)との接続を遮断することにより消費電力を低減することができる。
【0053】
さらに、出力バッファ22と負荷回路74との間に、第2切替回路96と抵抗46との直列回路と第3切替回路98により形成される並列回路100が介装され、出力電流は、抵抗46の両端の電位差により測定され、第2切替回路96は、キャリー84をトリガとして出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)から外部への導通を遮断し、第3切替回路98は、キャリー84をトリガとして出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)から外部へ導通する構成とした。出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)から流れる電流値の測定は上述の抵抗46の両端の電位差により測定するが、測定後も抵抗46に電流が流れる状態であるので、抵抗46により出力バッファ(前段出力バッファ14、出力バッファ22)からの出力に電圧降下が発生する。よって上記構成にすることにより、測定後は出力バッファ(前段出力バッファ、出力バッファ22)と負荷回路74とが抵抗46を介さずに接続されるので、電圧降下を抑制して振幅の大きな出力波形を有するクロック信号を出力することができる。
【符号の説明】
【0054】
10………発振器、12………発振回路、14………前段出力バッファ、16………P型MOSトランジスタ、18………N型MOSトランジスタ、20………接続点、22………出力バッファ、24………第1出力バッファ、26………第2出力バッファ、28………第3出力バッファ、30………配線、32………第1P型MOSトランジスタ、34………第1N型MOSトランジスタ、36………第2P型MOSトランジスタ、38………第2N型MOSトランジスタ、40………インバータ、42………接続点、44………電流検出回路、46………抵抗、48………バッファ制御回路、50………コンパレータ、52………第1コンパレータ、54………第2コンパレータ、56………第3コンパレータ、58………D/A変換器、60………第1D/A変換器、62………第2D/A変換器、64………第3D/A変換器、66………メモリ、68………第1レジスタ、70………第2レジスタ、72………第3レジスタ、74………負荷回路、80………発振器、82………カウンタ、84………キャリー、86………保持回路、88………第1保持回路、90………第2保持回路、92………第3保持回路、94………切替回路、96………第2切替回路、98………第3切替回路、100………並列回路、201………発振器、204………発振回路、205………出力駆動手段、251………バッファ回路、252………電圧制御手段、253………制御手段、254………記憶手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路からの出力を、出力バッファを介して外部へ出力する発振器であって、
前記出力バッファの出力電流の大きさを検知する電流検出回路と、
前記電流検出回路によって検出された前記出力電流の大きさに応じて、前記出力バッファの駆動能力を調整するバッファ制御回路と、
を有することを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記出力バッファは、前記発振回路の後段に複数並列に接続され、
前記バッファ制御回路は、前記出力バッファの前記出力電流の大きさに応じて前記出力バッファの稼動数を調整する信号を前記出力バッファに出力することを特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記バッファ制御回路は、前記稼動数に対応した電流の閾値を記憶したメモリを有し、前記出力バッファの前記出力電流に対応する閾値を選択することにより前記出力バッファの前記稼動数を調整することを特徴とする請求項2に記載の発振器。
【請求項4】
前記発振器は、前記発振回路のクロックをトリガとしてカウントし、所定のカウント数にてキャリーを出力するカウンタと、前記バッファ制御回路と前記出力バッファとの間に介装され、前記キャリーをトリガとして前記信号を出力する保持回路と、を有することを特徴とする請求項2または3に記載の発振器。
【請求項5】
前記バッファ制御回路と電源電圧との間に切替回路が介装され、前記切替回路は前記キャリーをトリガとして前記電源電圧から前記バッファ制御回路への導通を遮断することを特徴とする請求項4に記載の発振器。
【請求項6】
前記出力バッファと前記負荷回路との間に、第2切替回路と抵抗との直列回路と第3切替回路により形成される並列回路が介装され、
前記出力電流は、前記抵抗の両端の電位差により測定され、
前記第2切替回路は、前記キャリーをトリガとして前記出力バッファから前記外部への導通を遮断し、
前記第3切替回路は、前記キャリーをトリガとして前記出力バッファから前記外部へ導通することを特徴とする請求項4または5に記載の発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−245609(P2010−245609A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89052(P2009−89052)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】