説明

発振器

【課題】消費電流を増大させることなしに高速起動可能なMEMS発振器の提供。
【解決手段】ドライバアンプと、LC共振回路を備える第1共振器と、MEMS共振器を備える第2共振器と、接続および開放を切り換え可能なスイッチ回路と、スイッチ回路を制御するスイッチ制御部と、を有するMEMS発振器であって、ドライバアンプ、第1共振器、および、スイッチ回路は、ドライバアンプの出力信号の少なくとも一部をドライバアンプへ帰還させる第1閉ループ回路を形成し、ドライバアンプ、および、第2共振器は、第1閉ループ回路とは別の、ドライバアンプの出力信号の少なくとも一部をドライバアンプへ帰還させる第2閉ループ回路を形成し、スイッチ制御部は、MEMS発振器の起動期間の少なくとも一部においてスイッチ回路を接続し、所定の条件が満たされる場合に、スイッチ回路を開放する、MEMS発振器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器に関し、特に、微小電気機械共振器(MEMS共振器)を用いた発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
発振器は、電子機器の動作の基準を示すクロック信号を生成するデバイスとして、電子機器にとって必要不可欠のデバイスである。そのような発振器の代表例として、水晶振動子を用いた水晶発振器を挙げることができる。
【0003】
水晶発振器は発振精度に優れた発振器であるが、小型化が困難であり、かつ集積化に不向きである。加えて、水晶発振器の製造プロセスにおいては天然水晶から高純度の人工水晶を精製する必要がある。人工水晶の精製では、オートクレーブと呼ばれる耐圧性のある鋼鉄製の炉の中で天然水晶を溶解し、高温・高圧下で時間をかけて結晶を成長させる。このため、水晶発振器にあっては、その納期を短縮することは非常に困難である。
【0004】
水晶発振器にかかる上述の課題を解決できる発振器として、水晶振動子の代わりに微小電気機械共振器(MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振器)を用いた発振器が知られる。MEMS共振器は、例えば、シリコンに振動部や電極等の微細構造を形成して構成される共振器であり、水晶振動子と較べて半導体プロセスとの親和性が高く小型化が容易である。なお、以下では、MEMS共振器を用いた発振器を「微小電気機械発振器」(「MEMS発振器」)と称する。
【0005】
図7は、従来のMEMS発振器の構成を示すブロック図である。
【0006】
従来のMEMS発振器は、増幅回路であるドライバアンプ1001と、共振回路であるMEMS共振器1002とを有し、ドライバアンプ1001の出力の一部がMEMS共振器1002を介して帰還されることにより増幅される帰還型発振回路である。
【0007】
図8に、MEMS共振器1002の共振特性1003および典型的な水晶振動子(水晶共振器)の共振特性1103を示す。MEMS共振器1002のゲインgmは、当然のことながらそのインピーダンスや浮遊容量の大きさ等により変化するものの、共振周波数frにおいて概ね−20〜−40dB程度である。これに対し、水晶振動子のゲインgqtzは、共振周波数frにおいて0dB以上に達する。よって、従来のMEMS発振器のループゲインは、一般的に、水晶発振器のループゲインよりも小さい。そのため、従来のMEMS発振器の起動期間は、一般に、水晶発振器の起動期間よりも長くなる傾向を有する。
【0008】
電子機器のためのクロック生成手段として発振器を使用する場合、低消費電力化のため、クロック信号を必要とするときだけ発振器を動作させる(間欠的に動作させる)ことが一般的に行われる。よって、低消費電力化の観点からは、発振器の起動期間(起動から発振状態(所望の周波数で安定的に発振する状態)に至るまでの期間)は短いことが望ましい。
【0009】
水晶発振器の起動期間の短縮化に寄与する技術文献として以下の特許文献が存在する。
【0010】
特許文献1および特許文献2は、水晶発振器の起動期間を短縮化するための技術を開示する。図9は、特許文献1および特許文献2に記載の技術を用いた水晶発振器の構成を示すブロック図である。当該水晶発振器は、ドライバアンプ1201および水晶発振子を備えた水晶共振器1202に加え、起動期間短縮のために、専用のブースターアンプ1201bを備える。
【0011】
図9を参照すれば、水晶共振器1202の出力端子はブースターアンプ1201bの入力端子に接続され、ブースターアンプ1201bの出力端子がドライバアンプ1201の入力端子に接続される。ブースターアンプ1201bは、水晶発振器の起動時にその帰還回路のループゲインを拡大させる作用を有する。これにより、水晶発振器の起動が高速化される。
【0012】
特許文献3もまた、水晶発振器の起動期間を短縮化するための技術を開示する。同文献に記載の水晶発振器では、共振回路内に水晶振動子と並列にインダクタを設け、該インダクタと、同インダクタと直列に接続されたキャパシタとの共振作用を用いて起動時の発振出力の立ち上がりが高速化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−136032号公報
【特許文献2】特開2009−239971号公報
【特許文献3】特開昭61−120506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の構成(図9参照。)では、ブースターアンプ1201bが動作する間、消費電流が増大するという課題を有していた。
【0015】
また、特許文献3に記載の技術方策は、共振回路が、水晶発振子といったゲインが比較的大きい振動子を備える場合に有効な技術方策であり、共振回路のゲインがMEMS共振器のように水晶発振子と比較して小さい場合には有効に機能しない。
【0016】
本発明は、上記課題を鑑みてなされるものであり、起動時に消費電流を増大させることなしに高速起動可能なMEMS発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、ドライバアンプと、LC共振回路を備える第1共振器と、MEMS共振器を備える第2共振器と、接続および開放を切り換え可能なスイッチ回路と、スイッチ回路を制御するスイッチ制御部と、を有するMEMS発振器であって、ドライバアンプ、第1共振器、および、スイッチ回路は、ドライバアンプの出力信号の少なくとも一部をドライバアンプへ帰還させる第1閉ループ回路を形成し、ドライバアンプ、および、第2共振器は、第1閉ループ回路とは別の、ドライバアンプの出力信号の少なくとも一部をドライバアンプへ帰還させる第2閉ループ回路を形成し、スイッチ制御部は、MEMS発振器の起動期間の少なくとも一部においてスイッチ回路を接続し、所定の条件が満たされる場合に、スイッチ回路を開放する、MEMS発振器である。
【0018】
本発明の一態様においては、所定の条件は、ドライバアンプへの帰還信号およびドライバアンプからの出力信号の少なくともいずれかの大きさが所定値以上であること、であってよい。
【0019】
本発明の一態様においては、所定の条件は、MEMS共振器が起動された時点から所定の時間が経過したこと、であってよい。
【0020】
本発明の一態様においては、所定の条件は、ドライバアンプへの帰還信号およびドライバアンプからの出力信号の少なくともいずれかの大きさの時間変化が所定値未満であること、であってよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるMEMS発振器においては、MEMS共振器の共振周波数におけるゲインよりも大きいゲインを有する別の共振回路を用いて起動時における発振信号の成長を促進させる。これにより、本発明にかかるMEMS発振器は、消費電流を増大させずに高速に起動する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1によるMEMS発振器の構成を示すブロック図
【図2】第1共振器の等価回路図
【図3】(a)第2共振器の斜視図、および、(b)第2共振器の等価回路図
【図4】第1共振器および第2共振器の共振特性を示す図
【図5】(a)振幅モニタの構成を示すブロック図、および、(b)振幅モニタ変形例の構成を示すブロック図
【図6】実施の形態1によるMEMS発振器および従来のMEMS発振器の発振信号の時間発展を示す図
【図7】従来のMEMS発振器の構成を示すブロック図
【図8】水晶発振子およびMEMS共振器の共振特性を示す図
【図9】従来の水晶発振器の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0024】
(実施の形態1)
1.概要
実施の形態1によるMEMS発振器は、入力信号を増幅して出力する増幅部と増幅部へその出力の一部を帰還させる帰還部とを備えた帰還型発振器である。本MEMS発振器の帰還部は、MEMS共振器を備える第1閉ループ回路と、MEMS共振器の共振周波数においてMEMS共振器のゲインよりも大きなゲインを有する直列LC共振回路を備える第2閉ループ回路とを備える。本MEMS発振器は、起動から所定の期間にわたり、直列LC共振回路(第1閉ループ回路)を介して増幅部の出力の一部を増幅部へ帰還させ、発振信号の振幅成長の促進を図る。そうすることにより、本MEMS発振器は高速起動可能であり、かつ従来技術のブースターアンプを用いる例のように起動時に消費電流が増大されない。
【0025】
2.構成
図1は、実施の形態1によるMEMS発振器100の構成を示すブロック図である。
【0026】
MEMS発振器100は、ドライバアンプ101と、(直列)LC共振回路を備える第1共振器102と、MEMS共振器を備える第2共振器103と、ドライバアンプ101と第1共振器102とを接続および切断するスイッチ回路104と、所定の条件に基づいて、例えばドライバアンプ101が出力する発振信号の振幅の大きさに基づいて、スイッチ回路104を制御する振幅モニタ(スイッチ制御部)105と、を有する。
【0027】
ドライバアンプ101の出力端子は、スイッチ回路104を介してLC共振回路を備える第1共振器102の入力端子と接続される。そして、第1共振器102の出力端子は、ドライバアンプ101の入力端子と接続される。これにより、ドライバアンプ101、第1共振器102、および、スイッチ回路104は、閉ループ回路106を構成する。スイッチ回路104は、例えば、MOS(Metal Oxide Semiconductor)型トランジスタで構成されてよく、また、これに限定されない。なお、スイッチ回路104は、第1共振器102の出力端子と接続されてもよい。
【0028】
また、ドライバアンプ101の出力端子は、MEMS共振器を備える第2共振器103の入力端子と接続される。そして、第2共振器103の出力端子は、ドライバアンプ101の入力端子と接続される。これにより、ドライバアンプ101、および、第2共振器103は、閉ループ回路107を構成する。
【0029】
ドライバアンプ101の出力端子は、振幅モニタ105(スイッチ制御部)の入力端子とも接続され、振幅モニタ105は、ドライバアンプ101が出力する発振信号の大きさをモニタする。振幅モニタ105は、該発振信号の大きさにもとづいてスイッチ回路104を制御する。スイッチ回路104の構成および動作については、後でさらに詳しく説明する。
【0030】
なお、振幅モニタ105は、第1共振器102の出力端子とドライバアンプ101の入力端子とを繋ぐラインに接続されてもよい。この場合、振幅モニタ105は、第1共振器102からドライバアンプ101へ帰還される帰還信号の大きさをモニタすることができ、該帰還信号の大きさにもとづいてスイッチ回路104を制御すればよい。
【0031】
図2は、第1共振器102の構成を示す等価回路図である。第1共振器102は、キャパシタンス値C1を有するキャパシタ201、インダクタンス値L1を有するインダクタ202、および、レジスタンス値R1を有するレジスタ203を直列に接続したRLC回路と等価な回路を有する。これらのうち、キャパシタ201およびインダクタ202は、直列LC共振回路を構成する。
【0032】
LC共振回路においては、キャパシタ201のキャパシタンス(等価直列容量)C1と、インダクタ202のインダクタンス(等価直列インダクタンス)L1とが共振周波数f1で共振する。共振周波数f1は、次式で表される。
f1=1/(2π×(√(L1×C1))) ・・・(1)
【0033】
また、LC共振回路のQ値Q1は、
Q1=(√(L1/C1))/R1
=2π×f1×L1/R1
=1/(2π×f1×C1×R1) ・・・(2)
で表される。LC共振回路の共振特性を示すQ値Q1は、キャパシタンスC1、インダクタンスL1、および、レジスタンスR1の値に応じて変化するが、本実施の形態においては、数十程度でよい。つまり、本実施の形態においては、第1共振器102(LC共振器)の共振特性は、第2共振器103(MEMS共振器)の共振特性と較べて、尖鋭でなく、周波数精度が低くてよい。LC共振回路のゲインは、レジスタンス(等価直列抵抗)R1の値に応じて変化するが、本実施の形態においては、レジスタンスR1の値は数ミリΩでよい。そのため、LC共振回路のピークゲイン(共振周波数f1におけるゲイン)は、MEMS共振器のそれとの比較において大きい。
【0034】
図3は、第2共振器103が備えるMEMS共振器の構成を示す斜視図(図3(a))および等価回路図(図3(b))である。
【0035】
図3(a)を参照すれば、MEMS共振器は、埋め込み酸化膜135(BOX(Buried Oxide)膜)およびシリコン基板136等で形成されるSOI(Silicon On Insulator)基板に形成された、入力電極131、振動子132、および、出力電極133を備える。振動子132は、支持部134においてSOI基板に繋留される両持ち梁型の振動子である。ただし、MEMS共振器の構成は図3(a)のような構成に限定されるものではない。
【0036】
図3(b)に示すように、第2共振器103のMEMS共振器は、LC共振器(図2)と同様、キャパシタンス値C2を有するキャパシタ301、インダクタンス値L2を有するインダクタ302、および、レジスタンス値R2を有するレジスタ303を直列に接続したRLC回路と等価である。
【0037】
よって、MEMS共振器においては、キャパシタ301のキャパシタンス(等価直列容量)C2と、インダクタ302のインダクタンス(等価直列インダクタンス)L2とが共振周波数f2で共振する。共振周波数f2は、次式で表される。
f2=1/(2π×(√(L2×C2))) ・・・(3)
【0038】
また、MEMS共振器のQ値Q2は、
Q2=(√(L2/C2))/R2
=2π×f2×L2/R2
=1/(2π×f2×C2×R2) ・・・(4)
で表される。ここで、第2共振器103のMEMS共振器の共振周波数f2は、第1共振器102のLC共振回路の共振周波数f1と略一致することが好ましい。ただし、第2共振器103のMEMS共振器の共振周波数f2は、必ずしも第1共振器102のLC共振回路の共振周波数f1と略一致せずともよい。
【0039】
MEMS共振器の共振特性を示すQ値Q2は、キャパシタンスC2、インダクタンスL2、および、レジスタンスR2の値に応じて変化するが、本実施の形態においては、数万から数十万と高く、その共振特性は、第1共振器102の共振特性との比較において尖鋭であり周波数精度が高い。MEMS共振器のゲインは、レジスタンス(等価直列抵抗)R2の値に応じて変化するが、本実施の形態においては、レジスタンスR2の値は数キロΩから数十キロΩでよい。つまり、MEMS共振器の共振周波数f2におけるゲイン(ピークゲイン)は、LC共振回路のゲインと比較して小さくてよい。
【0040】
図4は、第1共振器102のLC共振回路の共振特性401および第2共振器103のMEMS共振器の共振特性402を示す図である。LC共振回路およびMEMS共振回路は、それぞれ、共振周波数f1および共振周波数f2においてピークゲインgLCおよびピークゲインgmを示す。図4では、共振周波数f1と共振周波数f2は同一であるとしている。しかしながら、LC共振回路の共振特性401とMEMS共振器の共振特性402は、ピークゲインgLCおよびgmの大きさ、および、上述のQ値Q1およびQ2で表されるピークの尖鋭さに顕著な違いがある。
【0041】
本実施の形態においては、LC共振回路の共振特性401とMEMS共振器の共振特性402との関係は特に限定されず、任意である。ただし、閉ループ回路106に関し、第2共振器103のMEMS共振器の共振周波数f2において、閉ループ回路106のループゲインはゼロdBよりも大きい。
【0042】
次に、図5を参照し、振幅モニタ105(スイッチ制御部)の構成について説明する。図5(a)は、振幅モニタ105(スイッチ制御部)の構成を示すブロック図である。また、図5(b)には、振幅モニタの変形例105aの構成を示す。
【0043】
図5(a)に示される振幅モニタ105は、ドライバアンプ101が出力する発振信号を入力して包絡線信号703(DC信号)を出力するピークホールド回路701と、包絡線信号703および所定の基準電圧704を入力し、包絡線信号703の大きさと基準電圧704の大きさとを比較するコンパレータ702を有する。コンパレータ702は、包絡線信号703の大きさが基準電圧704の大きさ以上である場合にハイ(High)の制御信号をスイッチ回路104へ出力し、包絡線信号703の大きさが基準電圧704の大きさよりも小さい場合にロー(Low)の制御信号をスイッチ回路104へ出力する。
【0044】
スイッチ回路104は、MOS型トランジスタを含む。コンパレータ702から出力された制御信号は、スイッチ回路104を構成するMOS型トランジスタのゲートに入力される。これにより、スイッチ回路104は、制御信号がハイである場合には開放状態となり、制御信号がローの場合には接続状態となる。このようにして、振幅モニタ105は、ドライバアンプ101から出力される発振信号の大きさにもとづいて、ドライバアンプ101と第1共振器102とを接続および切断する。
【0045】
次に、図5(b)に示される振幅モニタ105の変形例105aについて説明する。振幅モニタ105aは、ピークホールド回路701が出力する包絡線信号703を入力する演算回路702aを有する。演算回路702aは、包絡線信号703の大きさが所定の閾値以上であるか否かを判断する。演算回路702aが包絡線信号703の大きさが閾値以上であると判断した場合には、当該判断の時点からカウントを開始し、カウント数が所定値を越えた場合に、スイッチ回路104へ出力する制御信号をローからハイに切り換え、帰還部の構成を閉ループ回路106から閉ループ回路107に切り換える。
【0046】
または、演算回路702aは、包絡線信号703の時間変化の大きさに基づいて制御信号をローからハイに切り換えてもよい。演算回路702aは、ドライバアンプ1010が出力する発振信号の時間変化が所定値未満になると、ドライバアンプ101と第1共振器102との接続を切断する。つまり、演算回路702aは、ドライバアンプ1010が出力する発振信号の成長が緩やかになると、ドライバアンプ101と第1共振器102との接続を切断する。このように、振幅モニタ105aは、ドライバアンプ101が出力する発振信号の振幅の成長の度合いに基づいてスイッチ回路104を制御するように構成されてもよい。
【0047】
または、演算回路702aは、起動時からカウントを開始し、起動からの時間にもとづいてスイッチ回路104を制御してもよい。例えば、演算回路702aは、ドライバアンプ101が発振信号の出力を開始すると計時を開始し、起動から所定の時間が経過したときに制御信号をローからハイに切り換えてもよい。
【0048】
なお上述したスイッチ回路104および振幅モニタ105の構成は一例であり、これに限定されない。上述のように、スイッチ回路104の位置は第1共振器102の出力側でもよい。
【0049】
3.動作
次に、MEMS発振器100の動作について説明する。以下では、特に、MEMS発振器100の起動から発振信号が安定するまでの起動期間における動作について説明する。
【0050】
MEMS発振器100の起動時においては、スイッチ回路104は、接続状態に制御され、第1共振器102がドライバアンプ101に接続される。このとき、振幅モニタ105(スイッチ制御部)は、起動時、例えばローの制御信号をスイッチ回路104へ出力する。よって、第1閉ループ回路106を通じてドライバアンプ101へ帰還信号が入力される。なお、スイッチ回路104は、起動時において接続状態でなくともよい。スイッチ回路104は、MEMS発振器100の起動期間の少なくとも一部において接続状態であればよい。なお、起動期間とは、上述のように、起動時から発振状態(所望の周波数例えばf2、で安定的に発振する状態)に至る時点までの期間である。
【0051】
LC共振回路を備える第1発振部102のインピーダンスは、MEMS共振器を備える第2発振部103のインピーダンスよりも小さい。また、LC共振回路を備える第1発振部102のゲインは、MEMS共振器を備える第2発振部103のゲインよりも大きい。そのため、MEMS共振器の共振周波数f2において、閉ループ回路106のループゲインは、閉ループ回路107のループゲインよりも大きい。よって、スイッチ回路104が接続状態にあるMEMS発振器100の起動初期においては、ドライバアンプ101および第1共振器102で構成される閉ループ回路106により、共振周波数f1を中心に共振周波数f2を含む比較的広い周波数帯域で信号がドライバアンプ101へフィードバックされ、共振周波数f2の成分を含む発振信号は、閉ループ回路107と比較して、高速に成長する。
【0052】
振幅モニタ105は、ドライバアンプ101が出力する発振信号をモニタリングし、発振信号の電圧振幅が所定の基準電圧以上であると判断すると、スイッチ回路104へ出力する制御信号をローからハイに切り換え、スイッチ回路104を接続状態から開放状態に変化させる。
【0053】
つまり、振幅モニタ105から入力される制御信号がハイになると、スイッチ回路104は開放状態になり、それ以降は、第2共振器103を備えた閉ループ回路107のみを通じて発振信号の一部がドライバアンプ101へ帰還される。
【0054】
スイッチ回路104が開放状態になると、発振信号は、閉ループ回路107のみで成長し、共振周波数f2を中心に尖鋭さを増し、やがて発振安定状態に達する。
【0055】
図6(a)は、MEMS発振器100における発振信号の成長の様子を示した図である。図6(b)は、図7に示した従来のMEMS共振器のみで構成されたMEMS発振器における発振信号の成長の様子を示した図である。図6(a)および図6(b)においては、横軸は、起動時からの時間を示し、時間スケールは同一であり、縦軸は、発振信号の電圧振幅を示し、電圧スケールは同一である。本実施の形態によるMEMS発振器100では、図6(a)に示すようにナノ秒のオーダで起動から発振安定状態に達することができる。これに対し、従来のMEMS発振器では、図6(b)に示すように起動から発振安定状態に達するまでミリ秒のオーダの期間を要している。本図から、本実施の形態によるMEMS発振器100においては、従来のMEMS発振器との比較において、起動からより短時間のうちに発振安定状態に達することがわかる。つまり、MEMS発振器100においては、起動期間は著しく短縮されている。
【0056】
4.まとめ
このように、本実施の形態によるMEMS発振器100は、起動初期においては、MEMS共振器よりも高ゲインを有するLC共振回路(第1共振器102)を用いて高速に発振信号を所定の条件を満たすまで、例えば所定の基準電圧まで、成長させ、その後、MEMS共振器(第2共振器103)を用いて周波数精度に優れた発振信号を生成する。そのため、従来例のように消費電流を増大させることなく起動期間を短縮しつつ、発振安定時には、周波数精度に優れた発振信号を出力することが可能になっている。
【0057】
なお、スイッチ回路104においては入力された発振信号に位相遅れが生じてもよい。その場合、第2共振器103は、入力された発振信号の位相を遅延させる遅延素子を備えてもよい。当該遅延素子は、第2共振器103に含まれる寄生容量の大きさを適切に調整することで実現することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、低い消費電力で起動時から短期間に発振安定状態に達することができかつ周波数精度に優れた発振器であり、例えば、電子機器において利用されるクロック生成手段として有用である。
【符号の説明】
【0059】
100 ・・・ MEMS発振器
101 ・・・ ドライバアンプ
102 ・・・ 第1共振器
103 ・・・ 第2共振器
104 ・・・ スイッチ回路
105 ・・・ 振幅モニタ(スイッチ制御部)
105a・・・ 振幅モニタ(変形例)
106 ・・・ 閉ループ回路
107 ・・・ 閉ループ回路
131 ・・・ 入力電極
132 ・・・ 振動子
133 ・・・ 出力電極
134 ・・・ 支持部
135 ・・・ 埋め込み酸化膜
136 ・・・ シリコン基板
201 ・・・ 等価直列キャパシタ
202 ・・・ 等価直列インダクタ
203 ・・・ 等価直列抵抗
301 ・・・ 等価直列キャパシタ
302 ・・・ 等価直列インダクタ
303 ・・・ 等価直列抵抗
701 ・・・ ピークホールド回路
702 ・・・ コンパレータ
702a・・・ 演算回路
703 ・・・ 包絡線信号
704 ・・・ 基準電圧
1001 ・・・ ドライバアンプ
1002 ・・・ MEMS共振器
1201 ・・・ ドライバアンプ
1201b・・・ ブースターアンプ
1202 ・・・ 水晶共振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバアンプと、
LC共振回路を備える第1共振器と、
MEMS共振器を備える第2共振器と、
接続および開放を切り換え可能なスイッチ回路と、
前記スイッチ回路を制御するスイッチ制御部と、を有するMEMS発振器であって、
前記ドライバアンプ、前記第1共振器、および、前記スイッチ回路は、前記ドライバアンプの出力信号の少なくとも一部を前記ドライバアンプへ帰還させる第1閉ループ回路を形成し、
前記ドライバアンプ、および、前記第2共振器は、前記第1閉ループ回路とは別の、前記ドライバアンプの出力信号の少なくとも一部を前記ドライバアンプへ帰還させる第2閉ループ回路を形成し、
前記スイッチ制御部は、前記MEMS発振器の起動期間の少なくとも一部において前記スイッチ回路を接続し、所定の条件が満たされる場合に、前記スイッチ回路を開放する、MEMS発振器。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記ドライバアンプへの帰還信号および前記ドライバアンプからの出力信号の少なくともいずれかの大きさが所定値以上であること、である請求項1に記載のMEMS発振器。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記MEMS共振器が起動された時点から所定の時間が経過したこと、である請求項1に記載のMEMS発振器。
【請求項4】
前記所定の条件は、前記ドライバアンプへの帰還信号および前記ドライバアンプからの出力信号の少なくともいずれかの大きさの時間変化が所定値未満であること、である請求項1に記載のMEMS発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−175602(P2012−175602A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37998(P2011−37998)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】