説明

発振回路

【課題】小型かつノイズ抑制に優れる発振回路を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる発振回路100は、インバータ1及び2、タンク回路3を有する。タンク回路3は、出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間に並列に接続される。インバータ1は、ドレインが出力ノードOUTBに接続されたn型MISトランジスタM1及びp型MISトランジスタM3を有する。インバータ2は、ドレインが出力ノードOUTTに接続されたn型MISトランジスタM2及びp型MISトランジスタM4を有する。p型MISトランジスタM3及びM4のゲート端子は、それぞれ出力ノードOUTT及びOUTBと直接的に接続される。n型MISトランジスタM1及びM2のゲート端子は、それぞれ結合容量CG1及びCG2を介して出力ノードOUTT及びOUTBと接続され、抵抗CG1及びCG2を介してバイアス電圧VBIASが印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発振回路に関し、特に低雑音の発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、無線LAN、Bluetooth及び地上波デジタルTVなどの、種々の高速なデジタル無線方式が実用化されている。特に、GHz以上の高速な動作をするデジタルの半導体集積回路では、無線回路と同様のアナログ技術が使用される。
【0003】
図9は、シリコン基板上に形成される通常のLC発振器400のモデルを示す構成図である。LC発振器400は、LCタンク部41及びインバータ部42により構成される。LCタンク部41は、LC発振器400の発振周波数を決定する回路である。LCタンク部41は、インダクタLp及び容量Cpにより構成される。インダクタLp及び容量Cpは、出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間に、並列に接続される。容量Cpは、固定容量または可変容量(バラクタ)である。容量Cpが可変容量である場合には、容量を変化させることにより、LC発振器400の発振周波数を変化させることができる。抵抗Rpは、インダクタLp及び容量Cpの等価的な寄生抵抗を示す。よって、実際に抵抗素子が接続されるものではない。
【0004】
インバータ部42は、LCタンク部41での損失による振幅の減少を補い、発振を持続させるための回路である。インバータ部42は、インバータINV1及びINV2により構成される。インバータINV1の入力は、出力ノードOUTBと接続される。インバータINV1の出力は、出力ノードOUTTと接続される。インバータINV2の入力は、出力ノードOUTTと接続される。インバータINV2の出力は、出力ノードOUTBと接続される。インバータ部42は、シリコン基板上ではMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)トランジスタにより実現される。MISトランジスタはノイズを発するため、図9ではMISトランジスタのノイズを電流ノイズ源|In|で示している。
【0005】
LC発振器400の発振周波数は、インダクタLpのインダクタンス値と容量Cpの容量値で決まる。そのため、能動素子のみで構成された発振器に比べて、安定した発振を得ることが出来る。しかし、LC発振器における発振周波数は、構成する素子が発するノイズによって変動する。このノイズ源としては、抵抗Rpが発する熱ノイズとMISトランジスタの電流ノイズ源|In|によるものとが存在する。LC発振器の発振周波数の変動は、位相ノイズとして観測される。
【0006】
図10は、一般的なLC発振器のオフセット周波数foに対する位相ノイズの依存性を示すグラフである。図10に示すように、低周波側における位相ノイズは、1/fo(破線NL)に比例して減少する。一方、高周波側における位相ノイズは、1/fo(破線NH)に比例して減少する。低周波側のノイズは、主にMISトランジスタが発する1/fノイズが原因である。高周波側のノイズは、インダクタの直列抵抗の熱ノイズが原因である。
【0007】
MISトランジスタが発するノイズを低減する手法として、Class−C型LC発振器が提案されている(非特許文献1)。Class−C型LC発振器の構成を、従来型LC発振器と比較して説明する。図11Aは、従来型LC発振器500の基本構成を示す回路図である。図11Aに示すように、従来型LC発振器500では、インダクタLB及びLTの一端が固定電位に接続される。インダクタLBの他端は、MISトランジスタM11のドレインと接続される。インダクタLTの他端は、MISトランジスタM12のドレインと接続される。MISトランジスタM11のソース及びMISトランジスタM12のソースは、電流源であるMISトランジスタMCNのドレインと接続される。MISトランジスタM11のゲート端子は、出力ノードOUTT(MISトランジスタM12のドレイン)と直結される。MISトランジスタM12のゲート端子は、出力ノードOUTB(MISトランジスタM11のドレイン)と直結される。MISトランジスタMCNのドレインは、グランドと接続される。MISトランジスタMCNのゲートは、制御電圧VREFが入力される。出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間には、可変容量Cv11及びCv12が直列に接続される。可変容量Cv1と及び可変容量Cv2との接続点には、制御電圧VCNTが入力される。
【0008】
図11Bは、Class−C型LC発振器600の基本構成を示す回路図である。Class−C型LC発振器600は、従来型LC発振器500に、抵抗RG11及びRG12、結合容量CG11及びCG12を追加したものである。結合容量CG11は、MISトランジスタM11のゲートと出力ノードOUTTとの間に接続される。結合容量CG12は、MISトランジスタM12のゲートと出力ノードOUTBとの間に接続される。抵抗RG11は、MISトランジスタM11のゲートとバイアス電圧VBIASが供給されるノードとの間に接続される。抵抗RG12は、MISトランジスタM12のゲートとバイアス電圧VBIASが供給されるノードとの間に接続される。Class−C型LC発振器600のその他の構成は、従来型LC発振器500と同様であるので、説明を省略する。
【0009】
従来型LC発振器500及びClass−C型LC発振器600は、いずれもn型MISトランジスタのみを使用し、p型MISトランジスタは使用しない。以降では、n型MISトランジスタのみで構成されるLC発振器を、n型LC発振器と称する。
【0010】
図12は、従来型LC発振器500及びClass−C型LC発振器600の電圧波形及び電流波形を示すグラフである。図12は、MISトランジスタM1に流れる電流、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧の時間変化を示している。従来型LC発振器500及びClass−C型LC発振器600は、いずれも差動回路である。よって、出力ノードOUTTの電圧波形と出力ノードOUTBの電圧波形とは反転する。ここで、出力ノードOUTTの電圧波形と出力ノードOUTBの電圧波形とが交差する時点では、出力ノードOUTTの電圧VTと出力ノードOUTBの電圧VBとが等しくなる。この時、ロジック的には、出力がHからL、もしくはLからHに遷移する。このタイミングのずれが、位相ノイズとして観測される。
【0011】
LC発振器の回路内の各ノイズ源は、常にノイズを発する。特に、VT=VBとなる時に発生するノイズは、他のタイミングで発生するノイズと比べて、位相ノイズに対する寄与が大きい。
【0012】
従来型LC発振器500では、VT=VBとなる時のMISトランジスタM11のゲート電圧とドレイン電圧とは等しくなる。同様に、VT=VBとなる時のMISトランジスタM12のゲート電圧とドレイン電圧とは等しくなる。このバイアス条件では、MISトランジスタM11及びM12は飽和領域で動作するので、飽和動作でのノイズが出力に加わる。
【0013】
これに対して、Class−C型LC発振器600では、VT=VBとなる時のMISトランジスタM11のゲート電圧とドレイン電圧とは異なる。同様に、VT=VBとなる時のMISトランジスタM12のゲート電圧とドレイン電圧とは異なる。この場合に、MISトランジスタM11及びM12のゲートバイアスを、MISトランジスタM11及びM12の両方がオフとなるように設定する。これにより、MISトランジスタM11及び12は、MISトランジスタの主要なノイズであるチャネルノイズを発しない。従って、Class−C型LC発振器600の出力で観測されるノイズを低減できる。
【0014】
従来型LC発振器500では、VT=VBとなる時に電流が流れる。一方、Class−C型LC発振器600では、VT=VBとなる時に電流は流れない。つまり、Class−C型LC発振器600では、MISトランジスタのバイアスを深くしてC級(Class−C)動作させることにより、ノイズを低減することができる。
【0015】
次に、CMOS型のLC発振器(以下、COMS−LC発振器)について説明する。CMOS−LC発振器型では、信号振幅が電源電圧を超えないので、微細MISトランジスタにおける耐圧の問題を回避できる。また、同じ電流を流したときの位相ノイズを、n型LC発振器よりも低減できるという利点がある。
【0016】
図13は、従来型CMOS−LC発振器700の基本構成を示す回路図である。従来型CMOS−LC発振器700は、p型MOSトランジスタMC2のソースが固定電位と接続される。p型MOSトランジスタMC2のドレインは、p型MOSトランジスタM23のソース及びp型MOSトランジスタM24のソースと接続される。p型MOSトランジスタMC2のゲート端子は、制御電圧VREFが入力される。p型MOSトランジスタM23のゲート端子は、出力ノードOUTT(すなわち、p型MOSトランジスタM24ドレイン)と接続される。p型MOSトランジスタM24のゲート端子は、出力ノードOUTB(すなわち、p型MOSトランジスタM23のドレイン)と接続される。
【0017】
出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間には、可変容量(バラクタ)Cv11及びCv12が直列に接続される。出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間には、更にインダクタL11が接続される。並列接続されたインダクタL11と可変容量Cv11及びCv12とは、共振回路を構成する。この共振回路の共振周波数は、可変容量Cv11と可変容量Cv12との接続点の制御電圧VCNTを変化させることで調整する。
【0018】
n型MOSトランジスタM21のドレインは、出力ノードOUTTと接続される。n型MOSトランジスタM22のドレインは、出力ノードOUTBと接続される。n型MOSトランジスタM21のソース及びn型MOSトランジスタM22のソースは、グランドと接続される。
【0019】
図14は、Class−C型CMOS−LC発振器800の基本構成を示す回路図である。Class−C型LC発振器800は、従来型CMOS−LC発振器700に、抵抗RG11〜14及び結合容量CG11〜14を追加したものである。結合容量CG11は、n型MOSトランジスタM21のゲートと出力ノードOUTTとの間に接続される。結合容量CG12は、n型MOSトランジスタM22のゲートと出力ノードOUTBとの間に接続される。結合容量CG13は、p型MOSトランジスタM23のゲートと出力ノードOUTBとの間に接続される。結合容量CG14は、p型MOSトランジスタM24のゲートと出力ノードOUTBとの間に接続される。抵抗RG11は、n型MOSトランジスタM21のゲートとバイアス電圧VBIASnが供給されるノードとの間に接続される。抵抗RG12は、n型MOSトランジスタM22のゲートとバイアス電圧VBIASnが供給されるノードとの間に接続される。抵抗RG13は、p型MOSトランジスタM23のゲートとバイアス電圧VBIASpが供給されるノードとの間に接続される。抵抗RG14は、p型MOSトランジスタM24のゲートとバイアス電圧VBIASpが供給されるノードとの間に接続される。Class−C型LC発振器800のその他の構成は、従来型CMOS−LC発振器700と同様であるので、説明を省略する。
【0020】
また、特許文献1には、図14に示すClass−C型LC発振器800に類似する、p型MOSトランジスタ対及び型MOSトランジスタ対の両方にバイアス電圧を供給する半導体集積回路装置の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2009−284329号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】"A 1.4mW 4.90-to-5.65GHz Class-C CMOS VCO with an Average FoM of 194.5dBc/Hz", ISSCC Tech. Dig., 2008, pp474-475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
Class−C型LC発振器600は、ノイズを低減できるものの、発振を開始できないという問題がある。以下では、Class−C型LC発振器600において、発振を開始できない問題について説明する。Class−C型LC発振器600の電源をオンとした瞬間では、Class−C型LC発振器600は発振していない。よって、VT=VBである。この状態から発振が始まるには、何らかの要因(ノイズ・ばらつきなど)により、出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間に、微小な電位差が生じる必要がある。Class−C型LC発振器600は、この微小な電位差を、MISトランジスタのゲインによって増幅することで発振する。
【0024】
しかし、Class−C型LC発振器600では、VT=VBとなるバイアス条件では、MISトランジスタM11及びM12がオフとなる。よって、MISトランジスタのゲインが得られず、発振を開始できない。そのため、通常のClass−C型LC発振器では、発振開始用のスターター回路の付加や、発振開始時のみバイアス電圧を変えるなどの工夫が必要となる。なお、一旦発振が開始されると、VT=VBとなる時点でのゲインが無くとも、インダクタLT及びLBに蓄えられた磁気エネルギーによる慣性のため、発振を持続させることが出来る。
【0025】
また、通常のClass−C型CMOS−LC発振器800、n型MOSトランジスタ及びp型MOSトランジスタに、別々のバイアス電圧VBIASn及びVBIASpを供給する必要がある。つまり、バイアス電源回路が2つ必要となるため、バイアス電源回路によるチップ面積と消費電力の増大が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一態様である発振回路は、第1の出力ノードと第2の出力ノードとの間に並列に接続された容量及びインダクタを少なくとも有するタンク回路と、前記第1の出力ノードと前記第2の出力ノードとの間に接続された第1のインバータと、入力端が前記第1のインバータの出力端と接続され、出力端が前記第1のインバータの入力端と接続される第2のインバータと、を備え、前記第1のインバータは、第1の電圧源と前記第1の出力ノードとの間に接続される第1導電型の第1のMISトランジスタと、前記第1の電圧源と電圧が異なる第2の電圧源と前記第1の出力ノードとの間に接続される前記第1導電型とは異なる第2導電型の第2のMISトランジスタと、を備え、前記第2のインバータは、前記第1の電圧源と前記第2の出力ノードとの間に接続される前記第1導電型の第3のMISトランジスタと、前記第2の電圧源と前記第2の出力ノードとの間に接続される前記第2導電型の第4のMISトランジスタと、を備え、前記第1のMISトランジスタの制御端子は、前記第2の出力ノードと直接的に接続され、前記第3のMISトランジスタの制御端子は、前記第1の出力ノードと直接的に接続され、前記第2のMISトランジスタの制御端子は、第1の容量素子を介して前記第2の出力ノードと接続されるとともに、第1の抵抗素子を介して第3の電圧源と接続され、前記第4のMISトランジスタの制御端子は、第2の容量素子を介して前記第1の出力ノードと接続されるとともに、第2の抵抗素子を介して前記第3の電圧源と接続されるものである。本発明の一態様である発振回路は、前記第2及び前記第4のトランジスタが容量素子を介して出力ノードと接続される。更に、前記第2及び前記第4のトランスタのみにバイアス電圧(第3の電圧源)を供給すればよい。これにより、回路面積を低減しつつ、ノイズを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、小型かつノイズ抑制に優れる発振回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1にかかる発振回路100の基本構成を示す回路図である。
【図2】シミュレーションで用いたインダクタのモデルを示す構成図である。
【図3】シミュレーションで用いるインダクタの等価回路を示す回路図である。
【図4】直列インダクタンスLs及び直列抵抗Rsの周波数特性を示すグラフ。
【図5A】従来型CMOS−LC発振器700のゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示すグラフである。
【図5B】Class−C型CMOS−LC発振器800のゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示すグラフである。
【図5C】発振回路100のゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示すグラフである。
【図6】発振回路100及び従来型COMS−LC発振器700の位相ノイズのシミュレーション値のオフセット周波数fo依存性を示すグラフである。
【図7】実施の形態2にかかる発振回路200の構成を示すブロック図である。
【図8】実施の形態3にかかる発振回路300の構成を示すブロック図である。
【図9】シリコン基板上に形成される通常のLC発振器400のモデルを示す構成図である。
【図10】一般的なLC発振器のオフセット周波数foに対する位相ノイズの依存性を示すグラフである。
【図11A】従来型LC発振器500の基本構成を示す回路図である。
【図11B】Class−C型LC発振器600の基本構成を示す回路図である。
【図12】従来型LC発振器500及びClass−C型LC発振器600の電圧波形及び電流波形を示すグラフである。
【図13】従来型CMOS−LC発振器700の基本構成を示す回路図である。
【図14】Class−C型CMOS−LC発振器800の基本構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態1にかかる発振回路100の基本構成を示す回路図である。発振回路100は、インバータ1、インバータ2、タンク回路(LCタンク部)3、p型MISトランジスタMC、結合容量CG1及びCG2、抵抗RG1及びRG2により構成される。インバータ1とインバータ2とは、入力と出力が相互に接続されている。また、タンク回路3は、インバータ1の出力とインバータ2の出力との間に接続される。
【0030】
インバータ1は、n型MISトランジスタM1及びp型MISトランジスタM3により構成される。p型MISトランジスタM3のソースは、p型MISトランジスタMCを介して電源電位と接続される。p型MISトランジスタM3のドレインは、インバータ1の出力ノードOUTBと接続される。n型MISトランジスタM1のソースは、グランドと接続される。n型MISトランジスタM1のドレインは、インバータ1の出力ノードOUTBと接続される。
【0031】
p型MISトランジスタM3のゲート端子は、インバータ2の出力ノードOUTTと接続される。n型MISトランジスタM1のゲート端子は、結合容量CG1を介して、インバータ2の出力ノードOUTTと接続される。更に、n型MISトランジスタM1のゲート端子には、抵抗RG1を介して、バイアス電圧VBIASが印加される。
【0032】
インバータ2は、n型MISトランジスタM2及びp型MISトランジスタM4により構成される。p型MISトランジスタM4のソースは、p型MISトランジスタMCを介して電源電位と接続される。p型MISトランジスタM4のドレインは、インバータ2の出力ノードOUTTと接続される。n型MISトランジスタM2のソースは、グランドと接続される。n型MISトランジスタM2のドレインは、インバータ2の出力ノードOUTTと接続される。
【0033】
p型MISトランジスタM4のゲート端子は、インバータ1の出力ノードOUTBと接続される。n型MISトランジスタM2のゲート端子は、結合容量CG2を介して、インバータ1の出力ノードOUTBと接続される。更に、n型MISトランジスタM2のゲート端子には、抵抗RG2を介して、バイアス電圧VBIASが印加される。
【0034】
タンク回路3は、インダクタL1、可変容量(バラクタ)Cv1及びCv2により構成される。インダクタL1は、出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間に接続される。可変容量Cv1及びCv2は、出力ノードOUTTと出力ノードOUTBとの間に、インダクタL1と並列に接続される。可変容量は、シリコン基板上においては、MISトランジスタのゲート容量やソース・ドレイン部の接合容量で実現できる。並列接続されたインダクタL1と可変容量Cv1及びCv2とは、共振回路(LCタンク)を構成する。タンク回路3における共振周波数は、可変容量Cv1と可変容量Cv2との接続点の制御電圧VCNTを変化させることで調整する。
【0035】
p型MISトランジスタMCのゲート端子には制御電圧VREFが印加される。p型MISトランジスタMCは、制御電圧VREFにより制御される電流源として動作する。
【0036】
上述のように、p型MISトランジスタM3のゲート端子は、出力ノードOUTTと直結される。p型MISトランジスタM4のゲート端子は、出力ノードOUTBと直結される。一方、n型MISトランジスタM1のゲート端子は、結合容量CG1を介して出力ノードOUTTと接続される。n型MISトランジスタM2のゲート端子は、結合容量CG2を介して出力ノードOUTBと接続される。従って、n型MISトランジスタM1のゲート端子のバイアス電圧VBIASを、出力ノードOUTTの電圧と異なる値とすることができる。同様に、n型MISトランジスタM2のゲート端子のバイアス電圧VBIASを、出力ノードOUTBの電圧と異なる値とすることができる。
【0037】
発振回路100は、n型MISトランジスタ部をClass−C型構成とし、p型MISトランジスタ部を通常のインバータ構成としている。これにより、図14に示すClass−C型CMOS−LC発振器800と比べて、バイアス制御電圧を1つ省略することができる。従って、発振回路100によれば、バイアス電源回路のチップ面積と消費電力を低減できる。
【0038】
また、発振回路100では、n型MISトランジスタのみがClass−C動作を行う。Class−C型構成の採用は、MISトランジスタが発するノイズ、特に1/fノイズの影響軽減に有効である。一般に、n型MISトランジスタの1/fノイズは、p型MISトランジスタの1/fノイズよりも大きい。そのため、n型MISトランジスタ部のみをClass−C型構成とした場合ノイズは、n型及びp型MISトランジスタの両方をClass−C型構成とした場合のノイズと、大きな変化は無い。従って、n型MISトランジスタ部のみをClass−C型構成とすることにより、有効にMISトランジスタからのノイズを抑制することができる。
【0039】
更に、p型MISトランジスタを通常のインバータ回路とすることで、Class−C型LC発振器の欠点である、発振を開始しづらいという問題点を解消することができる。つまり、p型MISトランジスタ側は、出力ノードOUTTの電圧と出力ノードOUTBの電圧とが同じ場合でもゲインが得られるので、発振初期の微小信号を効果的に増幅することができる。
【0040】
従って、発振回路100によれば、ノイズを抑制しつつ容易に発振が可能な発振回路を提供することが可能である。
【0041】
次に発振回路100の動作を、回路シミュレーションにより示す。このシミュレーションでは、図13に示す従来型CMOS−LC発振器700、図14に示すClass−C型CMOS−LC発振器800及び発振回路100の回路特性を、回路シミュレータSPICEにより計算した。また、本シミュレーションでは、90nmノードのCMOSプロセスによるMISトランジスタを仮定した。インダクタは、このプロセスで90nmノードのCMOSプロセスで実現可能であるものとする。図2は、シミュレーションで用いるインダクタのモデルを示す構成図である。図2に示すように、このインダクタは、3回巻きで3層の配線層からなるインダクタを直列接続した構造とする。配線層は、適宜ビア等により接続される。このインダクタの下部の引き出し線は、出力ノードOUTT及び出力ノードOUTBと接続される。
【0042】
図3は、シミュレーションで用いるインダクタの等価回路を示す回路図である。図3では、見かけ上の直列インダクタンスLsと直列抵抗Rsとを示している。直列インダクタンスLsの一端とグランドとの間には、容量Csub1及び抵抗Rsub1が直列に接続されている。直列抵抗Rsの一端とグランドとの間には、容量Csub2及び抵抗Rsub2が直列に接続されている。
【0043】
図4は、直列インダクタンスLs及び直列抵抗Rsの周波数特性を示すグラフである。なお、本シミュレーションにおける電源電圧は1Vとした。
【0044】
図5Aは、従来型CMOS−LC発振器700のゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示すグラフである。図5Bは、lass−C型CMOS−LC発振器800のゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示すグラフである。図5Cは、発振回路100のゲート電圧及びドレイン電圧の時間変化を示すグラフである。従来型CMOS−LC発振器700、Class−C型CMOS−LC発振器800及び発振回路100は、約20GHzで発振する。従来型CMOS−LC発振器700では、ゲート電圧とドレイン電圧とが等しい。発振回路100では、バイアス電圧VBIASの調整によりゲート電圧を調整することができる。ここでは、MISトランジスタM1及びM2のゲート電圧の最大値は、ドレイン電圧よりも約0.1V低く設定されている。従ってMISトランジスタM1及びM2がオフとなる時間が、従来型CMOS−LC発振器700よりも長くなる。
【0045】
すなわち、MISトランジスタM1及びM2のゲート端子に供給するバイアス電圧VBIASを、出力ノードOUTT及びOUTBのDCオフセット電圧よりも低い電圧にしている。これにより、MISFETから発生するノイズの影響を低減することができる。
【0046】
図6は、発振回路100及び従来型COMS−LC発振器700の位相ノイズのシミュレーション値のオフセット周波数fo依存性を示すグラフである。従来型COMS−LC発振器700の位相ノイズは、オフセット周波数foが約100kHzとなる近傍で変曲点を有する。
【0047】
従来型COMS−LC発振器700の位相ノイズは、この変曲点よりも高周波数側では、オフセット周波数に対して1/foの傾きで減少する。この領域における位相ノイズは、主に熱ノイズに起因する。熱ノイズは、インダクタなどの受動素子の寄生抵抗やMISトランジスタにより発生する。小面積のLC発振器ではインダクタの直列抵抗が大きいので、ここでのノイズの原因は主にインダクタの寄生抵抗である。
【0048】
この変曲点よりも低周波数側では、オフセット周波数に対して1/foの傾きで減少する。この領域における位相ノイズは、主に1/fノイズに起因する。受動素子は、1/fノイズを発しない。よって、1/fノイズは、MISトランジスタにより発生する。
【0049】
発振回路100と従来型COMS−LC発振器700とを比較すると、変曲点よりも低周波数側の領域では、発振回路100のノイズが小さい。変曲点よりも低周波数側の領域では、両者は差が無いことが分かる。
【0050】
前述のように、Class−C動作はMISトランジスタの発するノイズの影響を低減できるが、受動素子のノイズは低減できない。図6は、この傾向を表している。図6により、発振回路100によれば、MISトランジスタの発するノイズが支配的となる領域におけるノイズを効果的に低減できることが分かる。
【0051】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2にかかる発振回路について説明する。図7は、実施の形態2にかかる発振回路200の構成を示すブロック図である。発振回路200は、図1に示す発振回路100、振幅検出回路21及び電圧源22により構成される。発振回路100の出力ノードOUTT及びOUTBは、振幅検出回路21の入力と接続される。振幅検出回路21は、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧に応じた検出信号VAMPを、電圧源22に出力する。出力VAMPは、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧振幅に対して単調に変化するものとする。例えば出力VAMPは、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧振幅が大きいときに電圧が高くなり、電圧振幅が小さい時に電圧が低くなる。又は、検出信号VAMPは、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧振幅が大きいときに電圧が低くなり、電圧振幅が小さい時に電圧が高くなる。
【0052】
本構成では、出力ノードOUTT及びOUTBの振幅変動をフィードバック制御する。従って、本構成によれば、出力ノードOUTT及びOUTBの振幅変動を効果的に抑制することができる。
【0053】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3にかかる発振回路について説明する。図8は、実施の形態3にかかる発振回路300の構成を示すブロック図である。発振回路300は、発振回路に200に比較器31を追加した構成を有している。振幅検出回路21の検出信号VAMPは、比較器31の非反転入力端子に入力される。比較器31の反転入力端子には、リファレンス電圧REFBIASが入力される。比較器31は、検出信号VAMPとリファレンス電圧REFBIASの比較結果である比較信号VCMPを、電圧源22に出力する。発振回路300のその他の構成は、発振回路200と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
発振回路300は、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧振幅が、リファレンス電圧REFBIASで決定される一定値より大きければ、バイアス電圧VBIASを低くする。一方、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧振幅が、リファレンス電圧REFBIASで決定される一定値より小さければ、バイアス電圧VBIASを高くする。これにより、出力ノードOUTT及びOUTBの電圧振幅は、リファレンス電圧REFBIASで決定される一定値とすることができる。従って、発振回路300によれば、MISトランジスタのばらつきなどによる振幅変動を効果的に抑制できる。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、図1に示す発振回路100における可変容量Cv1及びCv2は、固定容量とすることも可能である。
【0056】
また、図1のタンク回路3はあくまで例示である。従って、タンク回路3は、他の構成を有するタンク回路に置き換えることができることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1、2 インバータ
3 タンク回路
21 振幅検出回路
22 電圧源
31 比較器
41 LCタンク部
42 インバータ部
100、200、300 発振回路
400 LC発振器
500 従来型LC発振器500
600 Class−C型LC発振器
700 従来型CMOS−LC発振器
800 Class−C型CMOS−LC発振器
CG1、CG2、CG11〜14 結合容量
Cp、Csub1、Csub2 容量
Cv1、Cv2、Cv11、Cv12 可変容量
INV1、INV2 インバータ
L1、L11、LB、Lt、Lp インダクタ
Ls 直列インダクタンス
M1、M2 n型MISトランジスタ
M11、M12、MCN MISトランジスタ
M3、M4、MC p型MISトランジスタ
M21、M22 n型MOSトランジスタ
M23、M24、MC2 p型MOSトランジスタ
OUTT、OUTB 出力ノード
REFBIAS リファレンス電圧
RG1、RG2、RG11〜14、Rp、Rsub1、Rsub2 抵抗
Rs 直列抵抗
VAMP 検出信号
VBIAS、VBIASn、VBIASp バイアス電圧
VCMP 比較信号
VCNT、VREF 制御電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の出力ノードと第2の出力ノードとの間に並列に接続された容量及びインダクタを少なくとも有するタンク回路と、
前記第1の出力ノードと前記第2の出力ノードとの間に接続された第1のインバータと、
入力端が前記第1のインバータの出力端と接続され、出力端が前記第1のインバータの入力端と接続される第2のインバータと、を備え、
前記第1のインバータは、
第1の電圧源と前記第1の出力ノードとの間に接続される第1導電型の第1のMISトランジスタと、
前記第1の電圧源と電圧が異なる第2の電圧源と前記第1の出力ノードとの間に接続される前記第1導電型とは異なる第2導電型の第2のMISトランジスタと、を備え、
前記第2のインバータは、
前記第1の電圧源と前記第2の出力ノードとの間に接続される前記第1導電型の第3のMISトランジスタと、
前記第2の電圧源と前記第2の出力ノードとの間に接続される前記第2導電型の第4のMISトランジスタと、を備え、
前記第1のMISトランジスタの制御端子は、前記第2の出力ノードと直接的に接続され、
前記第3のMISトランジスタの制御端子は、前記第1の出力ノードと直接的に接続され、
前記第2のMISトランジスタの制御端子は、第1の容量素子を介して前記第2の出力ノードと接続されるとともに、第1の抵抗素子を介して第3の電圧源と接続され、
前記第4のMISトランジスタの制御端子は、第2の容量素子を介して前記第1の出力ノードと接続されるとともに、第2の抵抗素子を介して前記第3の電圧源と接続される、
発振回路。
【請求項2】
前記第3の電圧源の電圧は、前記第1の出力ノードのDCオフセット電圧及び前記第2の出力ノードのDCオフセット電圧よりも低いことを特徴とする、
請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記第1の出力ノードの出力振幅及び前記第2の出力ノードの出力振幅に対応した検出信号を出力する振幅検出回路を更に備え、
前記第3の電圧源は、前記検出信号に応じて当該第3の電圧源の電圧を変化させることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記検出回路は、前記第1の出力ノードの電圧と前記第2の出力ノードの電圧との差に対応した電圧信号を前記検出信号として出力することを特徴とする、
請求項3に記載の発振回路。
【請求項5】
前記検出信号として出力された前記電圧信号と、外部から供給される基準電圧と、を比較し、比較結果を前記第3の電圧源に出力する比較器を更に備え、
前記第3の電圧源は、前記電圧信号の増大に応じて当該第3の電圧源の電圧を増大させることを特徴とする、
請求項4に記載の発振回路。
【請求項6】
前記第1のMISトランジスタ及び前記第3のMISトランジスタは、p型MOSトランジスタであり、
前記第2のMISトランジスタ及び前記第4のMISトランジスタは、n型MOSトランジスタであることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−244086(P2011−244086A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112351(P2010−112351)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】