説明

発振子及び該発振子を有する発振器

【課題】振動片のスティッキングを防止して歩留まりを向上させること。
【解決手段】基端部35から先端部39に向かってX方向に延びるように形成され、該X方向に直交するY方向に振動する振動片36と、基端部35を介して振動片36を片持ち状に支持する振動子アイランド34と、を有する振動子32と、振動片36に対してギャップdを空けた状態で他方向に沿って振動片36を間に挟むように配置され、電圧が印加された時に静電引力を発生させて振動片36を振動させる電極部33a,33bとを備え、振動片36の幅は、基端部35から先端部39に向かうにつれて漸次縮小するように形成されている発振子30を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS技術を利用した発振子及び該発振子を有する発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスを用いて、1つの基板に機械的構造と電子回路とを集積させた微小デバイスであるMEMS(Micro Electro Mechanical System)が注目されている。このMEMSは、半導体プロセスを利用して製造されることから、加工精度の高さ、量産の容易さ、電子回路と機械的構造とを一定成形することで精密な動作制御が可能等といった利点があり、IT関連のみならず、通信や化学、医療やバイオ等といった様々な分野に応用されている。
【0003】
そして、MEMS技術を発振子に利用することで、デバイスの占有面積が小さいこと、高いQ値(インダクタンスと抵抗値との比)を得られること、他の半導体デバイスとの集積が可能なこと、等の特長を利用することができ、発振周波数を有する制御や、通信機用の駆動源等として好適に利用することが考えられる。
このようなMEMS技術を応用した発振子としては、片持ち状態で支持された振動片を、静電引力を利用して固定電極の間で振動させる発振子がしられている(例えば、非特許文献1参照)。この発振子について図面を参照して簡単に説明する。
【0004】
図9に示すように、発振子100は、振動子アイランド(ベース部)101と、この振動子アイランド101に基端部102が片持ち状に支持された角柱形状の振動片103と、この振動片103と一定距離を空けた状態で振動片103を間に挟むように配置された一対の電極部104とを備えている。一対の電極部104には、振動片103の駆動または振動の検出のうち少なくともいずれか一方を行う電極パッド105が形成されている。そして、この電極パッド105を介して電極部104に電圧が印加されると、電極部104に静電引力が発生する。この静電引力によって、振動片103は、その幅方向(各電極部104に接近離間する方向)に振動するものである。
【非特許文献1】Renata Melamud,Bongsang Kim,Matthew A.Hopcroft,S.Chandorkar,M.Agarwal,C.M.Jha,and T.W.kenny”COMPOSITE FLEXURAL−MODE RESONATOR WITH CONTROLLABLE TURNOVER TEMPERATURE,”MEMS 2007,Kobe,Japan, 21−25 January 2007,p.199−202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では振動片103と電極部104との間の距離(ギャップ)を可能な限り狭く形成して、低電圧で駆動することができる高性能な発振子100のニーズが高まっている。
ここで、上述した振動片103と電極部104とのギャップは、感度に影響を与えるものである。つまり、ギャップを狭くするほど、振動片103と電極部104との距離が接近するので、両者間に作用する静電容量の値が大きくなり、高感度で高性能な発振子100になるとともに、低電圧での駆動が可能になる。そのため、上述したように可能な限りギャップを狭くすることが望まれている。
【0006】
しかしながら、上述の発振子100にあっては、図10に示すように、製造中に振動片103が途中で撓んで折れ曲がり電極部104の側面104aに固着する、いわゆるスティッキングが生じるという問題がある。具体的に説明すると、発振子100は半導体プロセスを利用して製造されるが、その際、ギャップを形成した後に液体を使用する状況が多々ある。例えば振動片103をエッチングで形成した後に水洗浄する水洗工程がある。そのため、どうしてもギャップに液体が入り込んでしまう。そして、何らかの原因(例えば、衝撃を受ける等)により振動片103が途中で撓み、折れ曲がってしまうと、ギャップに入り込んだ液体を介してスティッキングが生じてしまう。
【0007】
このようにスティッキングが生じると、電極部104に固着した振動片103を再び剥すことは難しく、デバイス(発振子100)として機能しなくなってしまう。これに対して、アルコール等を用いて、ギャップに入り込んだ液体を置換する方法も考えられるが、ギャップを狭く形成するにつれて、その効果が高く望めない。その結果、歩留まりが悪く、製造コストのロスに繋がってしまう。特に振動片103が長い場合や、ギャップが狭い程スティッキングが起きる確率が高くなってしまうものであった。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、振動片のスティッキングを防止して歩留まりを向上させた上で、高性能な発振子及び該発振子を有する発振器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る発振子は、基端部から先端部に向かって一方向に延びるように形成され、該一方向に直交する他方に振動する振動片と、前記基端部を介して前記振動片を片持ち状に支持するベース部と、を有する振動子と、前記振動片に対して所定距離を空けた状態で前記他方向に沿って前記振動片を間に挟むように配置され、電圧が印加された時に静電引力を発生させて前記振動片を振動させる電極部とを備え、前記振動片は、前記基端部と前記先端部とが異なる幅に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係る発振子においては、振動片の基端部と先端部とを異なる幅で形成することで、基端部から先端部に向かって、従来のように一律な幅ではなく、変化をつけることができる。そのため、振動片の剛性を長さ方向における部位によって異なるように形成することができ、基端部から先端部に向かう途中での撓みによる折れ曲がりが発生しにくくなる。したがって、半導体プロセスにより振動子を製造する場合に、振動片を形成した後に液体を使用する状況があっても、振動片が途中で撓んで折れ曲がり電極部に固着してしまうことがない。その結果、振動片のスティッキングを防止して歩留まりを向上させた上で、振動片と電極部との間のギャップを可能な限り狭く形成して高感度で高性能な振動子を形成することが可能になるとともに、低電圧での駆動が可能になる。
【0011】
本発明に係る発振子は、上記発振子において、前記振動片の幅が、前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次変化するように形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係る発振子においては、振動片の幅を基端部から先端部に向かうにつれて漸次変化させるので、途中で振動片の幅を急激に変化させるのではなく、なだらかに変化させ続けることができる。つまり、途中で同じ幅が続く区間をなくすことができ、振動片の基端部から先端部に向かって幅を連続的に変化させることができる。したがって、基端部から先端部に向かういずれの箇所においても、撓みによる折れ曲がりが発生しにくくなる。よって、スティッキングをより効果的に防止することができる。また、振動片の外形形状が急激に変化しないので、振動片の性能を維持した上でスティッキングを防止することができる。
【0013】
本発明に係る発振子は、上記発振子において、前記振動片の幅が、前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次縮小するように形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明に係る発振子においては、基端部の幅が先端部の幅に比べ幅広に形成されることとなるため、基端部における振動片の剛性を維持した上でスティッキングを防止することができる。
【0015】
本発明に係る発振子は、上記発振子において、前記電極部が、前記所定距離が前記振動子の前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次狭くなるように形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る発振子においては、基端部の幅を先端部の幅に比べ幅広に形成すると、振動片のバネ定数が増大して振動片が振動し難くなるが、振動片の先端部に向かうにつれ電極部と振動子との間の所定距離が狭くなるように電極部を形成することで、振動片の先端部側に大きな静電引力を伝えることができる。よって、振動片が振動しやすくなり、低電圧で振動片の大きな振動変位を得ることができる。そのため、振動片の剛性を確保した上で、高感度で高性能な振動子を形成することが可能になる。
【0017】
本発明に係る発振子は、上記発振子において、前記振動片の幅が、前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次拡大するように形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本発明に係る発振子においては、振動片の基端部が先端部より小さく形成されることとなるため、振動片のバネ定数が低下し、低電圧で振動片の大きな振動変位を得ることができるため、高感度で高性能な振動子を形成することが可能になる。そのため、振動片の性能を維持した上でスティッキングを防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る発振器は、上記本発明の発振子を有することを特徴とするものである。
【0020】
本発明に係る発振器においては、低電圧で駆動させることができる、高感度で高性能な発振子を有しているので、発振器自体の高品質化及び高性能化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る発振子によれば、振動片のスティッキングを防止して歩留まりを向上させた上で、ギャップを可能な限り狭く形成して高感度で高性能な振動子を形成することが可能になるとともに、低電圧での駆動が可能になる。
また本発明に係る発振器によれば、低電圧で駆動させることができる、高感度で高性能な発振子を有しているので、発振器自体の高品質化及び高性能化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の発振子及び該発振子を有する発振器の第1実施形態を図1〜6に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、携帯電話や携帯情報端末機器等の種々の電子部品に用いられる発振器として説明する。また、以下に示す各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を異ならせてある。
【0023】
図1は、発振器の斜視図である。また、図2は発振器を構成する発振子の平面図であり、図3は図1のA−A’線に沿う断面図である。
図1に示すように、発振器10は、IC基板20と発振子30とを備えている。
IC基板20は、図示しない電気回路を介して外部電源に電気的に接続されており、外部電源から供給される電圧を発振子30に印加して、発振子30の駆動を行うものである。IC基板20の上面には、アルミニウム(Al)や金(Au)等からなる電極パッド21が形成されている。このIC基板20は、後述するシリコン支持層11及びBOX層12上に載置されている。
【0024】
発振子30は、シリコン支持層11(例えば、厚さ300〜800μm)と、二酸化珪素(SiO)のBOX(Buried Oxide)層12と、シリコン活性層(例えば、厚さ5〜100μm)44とが順次積層された、いわゆるSOI(Silicon−On−Insulator)基板45を用いて半導体プロセス技術によって製造されるものである。ただし、SOI基板45に限らず、シリコン等の半導体基板で発振子30を製造しても構わない。これらの層の内、シリコン活性層44にはシリコン支持層11の外周に沿って立ち上がるフレーム31と、このフレーム31の内側に配置された振動子32及び一対の電極部33a,33bとが構成されている。
【0025】
そして、上述したように、シリコン支持層11上に積層されたBOX層12上にIC基板20が載置されている。このように本実施形態では、シリコン支持層11を介してIC基板20と発振子30とが一体的にパッケージングされている。よって、シリコン支持層11は、IC基板20も同時に支持する共通基板として機能する。なお、IC基板20はフレーム31に対して若干の隙間を空けた状態で載置されている。
【0026】
図2,3に示すように、振動子32は、平面視略T字状のものであり、振動子アイランド34(ベース部)と、この振動子アイランド34に基端部35を介して片持ち状に支持された振動片36とを備えている。
【0027】
振動子アイランド34は、平面視矩形状のものであり、シリコン支持層11上にBOX層12を介して形成されている。振動子アイランド34の上面には、電極パッド37が形成されており、上述したIC基板20の電極パッド21とワイヤー38を介して電気的に接続されることにより、振動子32に電圧が印加されるように構成されている。
【0028】
振動片36は、振動部アイランド34に、その基端部35が支持されるとともに、振動子アイランド34の長手方向に沿う側面34aに直交するX方向(一方向)に延出しているものである。また、振動片36は、その下面36aとシリコン支持層11の上面11aとの間にギャップを有しつつ(図3参照)延出しており、その延出方向(X方向)と直交するY方向(振動片36の幅方向(他方向))に振動可能に構成されている。
【0029】
ここで、振動片36は、その基端部35と先端部39とが異なる幅で形成されている。具体的には、基端部35の幅W1が、先端部39の幅W2に比べ幅広に形成されており、W1>W2になるように設定されている。また、振動片36は、基端部35から先端部39に向かうにつれて連続的に漸次縮小するテーパ形状に形成されている。したがって、振動片36は、平面視で略台形状に形成されることとなる。
【0030】
振動子32の両側方には、振動子32に対してギャップdを空けた状態で、振動子32を間に挟むように一対の電極部33a,33bが配置されている。一対の電極部33a,33bは、振動片36の幅方向に沿って形成されている。各電極部33a,33bは、電極部アイランド40a,40bと、電極パッド41a,41bとを備えている。
【0031】
電極部アイランド40a,40bは、シリコン支持層11上にBOX層12を介して形成されており、その側面48a,48bと振動子32の側面32aとが略平行にギャップdを有しつつ、振動子32の側方を囲むように形成されている。
【0032】
電極部アイランド40a,40bの上面には、その上面のほぼ全域に亘って電極パッド41a,41bが形成されている。この電極パッド41a,41bのうち、一方の電極バッド41aが振動片36の駆動用電極パッドとして構成されており、他方の電極パッド41bが振動片の振動の検出用電極パッドとして構成されている。そして、上述したIC基板20の電極パッド21とワイヤー42a,42bによりそれぞれ電気的に接続されることで、各電極部33a,33bに電圧が印加されるように構成されている。なお、各電極パッド41a,41bは必ずしも振動子32の駆動用、検出用電極パッドである必要はなく、少なくとも振動子32の駆動用電極パッドを備えていればよい。
【0033】
なお、発振器10には、通常、発振子30におけるフレーム31の内側を真空状態に維持するため、発振子30を覆うように封止基板が設けられるが、本実施形態の各図においては、説明をわかり易くするため、本実施形態においては封着基板の記載を省略する。
【0034】
次に、図1〜3に基づいて本実施形態の発振器の作用について説明する。
まず、図示しない外部電源から電気回路を介してIC基板20に電圧を印加する。すると、IC基板20は、電極パッド21及びワイヤー38,42aを介して振動子32の電極パッド37及び電極部33aの電極パッド41aに電圧を印加する。
【0035】
電極パッド41aと、振動子32の電極パッド37とに電圧を印加すると、その電極部33aと振動子32との間に電圧が印加され、両者の間に静電引力が発生する。その結果、振動片36が、Y方向、つまり振動子36の両側方にギャップdを介して配置された一対の電極部33a,33bに接近離間するように振動することとなる。
【0036】
振動片36が振動すると、振動片36と電極部33bとの間のギャップが変化し、振動片36と電極部33bとの間の静電容量が変化する。そして、その静電容量の変化を共振周波数として電極パッド41bにより検出する。そして、検出された共振周波数は、検出信号として電極パッド41bからワイヤー42bを介してIC基板20へと出力されるものである。
【0037】
ここで、振動片36と電極部33a,33bとのギャップdは、感度に影響を与えるものであり、可能な限り狭く形成することが好ましい。つまり、ギャップdを狭くするほど、振動片36と電極部33a,33bとの距離が接近するので、両者間に作用する静電容量の値が大きくなり、低電圧で振動片36の大きな振動変位、検出信号を得ることができる。そのため、高感度で高性能な発振子を形成することが可能になる。そこで、本実施形態では、前記ギャップdが例えば0.1〜2.0μm程度に設定されている。
【0038】
次に、図4〜6に基づいて、発振器の製造方法について説明する。図4〜図6は、図1のA−A’線に相当する断面を図示している。なお、発振器の製造方法の各工程は、以下に説明の工程順番に限定されるものではない。
【0039】
図4はスタート基板となるSOI基板45の断面図である。図5は、SOI基板45のシリコン活性層11上に電極パッド37(図1参照),41a,41bを形成した状態を示す断面図である。
まず、図4に示すように、シリコン支持層11上にBOX層12、シリコン活性層44が順次積層されたSOI基板45を準備し、このSOI基板45上に、後に電極パッド37,41a,41bとなる図示しないメタル層を形成する(メタル層成膜工程)。具体的には、スパッタリング法や真空蒸着法等によりSOI基板45の全面に成膜する。
【0040】
次に、図5に示すように、SOI基板45上に成膜されたメタル層をパターニングして、上述した形状の電極パッド37,41a,41b(図5では電極パッド41a,41bのみを示す)に形成する(電極パッド工程)。具体的には、フォトリソグラフィ技術により露光・現像した図示しないレジストマスクを介してドライエッチングを行うことで、SOI基板45上に成膜されたメタル層をパターニングする。
【0041】
図6はシリコン活性層をエッチング加工してパターニングした状態を示す断面図である。
上述した電極パッド37,41a,41bを形成した後、図6に示すように、シリコン活性層44を上述した形状のフレーム31、電極部アイランド34a,34b及び振動子32に各々分離する(分離工程)。具体的には、フォトリソグラフィ技術により露光・現像した図示しないレジストマスクを介してドライエッチングを行うことで、シリコン活性層44を貫通してBOX層12の上面まで到達する凹部を形成する。
【0042】
この時、フレーム31の外側の領域のシリコン活性層44もBOX層12の上面が露出するようにエッチングし、IC基板20が載置されるスペースを確保する。なお、フレーム31の外側の領域(IC基板20が載置される領域)は、シリコン支持層11が露出するまでエッチングして、BOX層12を除去しても構わない。
【0043】
フレーム31、電極部アイランド34a,34b及び振動子32に各々分離した後、振動子32の振動片36形成領域のBOX層12を除去する(BOX層除去工程:図3参照)。具体的には、シリコン活性層44に形成した凹部内をエッチングすることで、振動片36がシリコン支持層11から分離され、振動子アイランド34(図1参照)に片持ち状に支持された振動子32が形成される。なお、このエッチングはドライエッチングまたはウェットエッチングのいずれの方法で行っても構わない。
【0044】
次に、SOI基板45上のフレーム31の外側であって、上述した分離工程においてBOX層12を露出させた領域にIC基板20(図1参照)を実装する。そして、このIC基板20の電極パッド21と、発振子30の各電極パッド37,41a,41bとをワイヤーボンディングにより接続することで、本実施形態の発振器10(図1参照)が完成する。
【0045】
ところで、半導体プロセスを利用して発振子30を製造する際、エッチングを行った後の洗浄工程として、液体(例えば、水等)を用いて洗浄する工程が含まれる。このような洗浄工程のうち、振動片36をシリコン支持層11から分離した後に行われる洗浄工程においては、振動片36と電極部33a,33bとの間に形成されたギャップや、振動片36の下方へ液体が入り込んでしまう場合がある。
【0046】
この時、従来のように一律な幅で形成された角柱形状の振動片103(図9,10参照)では、液体が入り込んだ状態で外部から衝撃を受ける等の問題が生じると、振動片103が途中で撓んで折れ曲がり、ギャップに入り込んだ液体を介して電極部104の側面104aにスティッキングしてしまう。
【0047】
そこで、上述の実施形態よれば、振動片36の基端部35の幅W1と先端部39の幅W2とを、W1>W2になるように設定するとともに、基端部35から先端部39との間を、基端部35から先端部39に向かうにつれ連続的に漸次縮小するテーパ形状に構成した。このように構成することで、振動片36の基端部35から先端部39に向かって、従来のように一律な幅ではなく、変化をつけることができる。そのため、振動片36の剛性を長さ方向における部位によって異なるように形成することができ、基端部35から先端部39に向かう途中での撓みによる折れ曲がりが発生しにくくなる。
【0048】
これにより、半導体プロセスにより発振子30を製造する場合に、振動片36を形成した後に液体を使用する状況があっても、振動片36が途中で撓んで折れ曲がり電極部33a,33b(電極部アイランド34a,34b)の側面48a、48bに固着してしまうことがない。その結果、安価に振動片36のスティッキングを防止して歩留まりを向上させた上で、振動片36と電極部33a,33bとの間のギャップdを可能な限り狭く形成して低電圧で振動片36の大きな振動変位、検出信号を得ることができる。したがって、高感度で高性能な振動子32を形成することが可能になる。
【0049】
加えて、振動片36の基端部35から先端部39との間を先端部39に向かうにつれ連続的に漸次縮小するテーパ形状に形成するので、途中で振動片36の幅を急激に変化させるのではなく、なだらかに変化させ続けることができる。つまり、途中で同じ幅が続く区間をなくすことができ、振動片36の基端部35から先端部39に向かって幅を連続的に変化させることができる。
したがって、振動片36の長手方向に沿う部位でギャップdの変化を少なくすることができるため、基端部35から先端部39に向かういずれの箇所においても、撓みによる折れ曲がりが発生しにくくなる。よって、スティッキングをより効果的に防止することができる。また、振動片36の外形形状が急激に変化しないので、振動片36の性能を維持した上でスティッキングを防止することができる。
【0050】
さらに、振動片36の基端部35を先端部39に比べ幅広に形成したことで、基端部35における剛性も確保することができる。
このように、本実施形態の発振器10は、高感度で高性能な発振子30を有しているので、発振器10自体の高品質化及び高性能化を図ることができる。
【0051】
ところで、本実施形態の振動片36のように振動子アイランド34に、その基端部35が片持ち状態で支持された振動子32は、振動子アイランドに両持ち状態で支持された振動子に比べ、振動片36に作用する支持応力が少ない。そのため、発振子30の設計の自由度を向上させることができる。
【0052】
次に、図7に基づいて本発明の第2実施形態について説明する。図7は、第2実施形態に係る発振子の平面図である。なお、本実施形態は、振動子の形状について上記第1実施形態と相違しているため、発振器の構成、その他第1実施形態と同様の構成については同一符号を付し説明は省略する。
【0053】
図7に示すように、本実施形態の振動子54は、振動片50の基端部51の幅W3が先端部の幅W4に比べ小さく形成され、W3<W4になるように設定されている。また、振動片50は、その基端部51から先端部52に向かうにつれ連続的に漸次拡大する逆テーパ形状に形成されている。したがって、振動片50は平面視で略台形状に形成されることとなる。
そして、振動子54の両側方には、ギャップdを介して振動片50の周縁に略平行に一対の電極部53a,53bが配置されている。
【0054】
したがって、本実施形態によれば、上述の第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、振動片50の基端部51を先端部52に比べて小さく形成することで、振動片50のバネ定数が低下し、振動片50が振動しやすくなる。
そのため、より低電圧で振動片50の大きな振動変位、検出信号を得ることができるため、高感度で高性能な振動子54を形成することが可能になる。したがって、振動片50の性能を維持した上で、安価にスティッキングを防止することができる。
【0055】
次に、図8に基づいて本発明の第3実施形態について説明する。図8は、第3実施形態に係る発振子の平面図である。なお、本実施形態は、電極部の形状について上記第1実施形態と相違しているため、発振器の構成、その他第1実施形態と同様の構成については同一符号を付し説明は省略する。
【0056】
図8に示すように、本実施形態の振動片36は、上述の第1実施形態と同様のものであり、基端部35の幅W1と先端部39の幅W2がW1>W2に設定されるとともに、基端部35から先端部39に向かうにつれ連続的に漸次縮小するテーパ形状に形成されている。
【0057】
ここで、本実施形態においては、電極部60a,60bの電極部アイランド61a,61bの幅を設定することで、振動片36と電極部60a,60bとの間のギャップを振動片36の長手方向において異なるように形成している。具体的には、振動片36の先端部39側における振動片36と電極部60a,60bとの間のギャップd2が、基端部35側におけるギャップd1に比べ狭くなるように形成され。d2<d1になるように設定されている。また、基端部35から先端部39までの間のギャップは、基端部35から先端部39に向かうにつれ連続的に狭くなるように形成されている。
【0058】
ところで、振動片36の基端部35を先端部39に比べ拡大させることで振動片36のバネ定数が増大し、振動片36が振動し難くなってしまう。
そこで、本実施形態では、振動片36の先端部39に向かうにつれ電極部60a,60bと振動子32との間のギャップが狭くなるように、電極部60a,60bの電極部アイランド61a,61bの幅を設定する構成とした。この構成によれば、振動片36の先端部39側に向かうにつれて大きな静電引力が伝わるため、振動片36が振動しやすくなる。そのため、第1実施形態と同様の効果を奏することに加え、低電圧で振動片36の大きな振動変位、検出信号を得ることができる。そのため、振動片36の剛性を確保した上で、高感度で高性能な振動子32を形成することが可能になる。
【0059】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0060】
例えば、振動片の形状は、上述したように基端部と先端部とが異なる幅に形成されていれば、例えばステップ形状、振動片の中途部を最も拡大させる形状等、種々の形状に設計変更可能である。
また、第3実施形態では、第1実施形態の振動片を用い、振動片と電極部との間のギャップが先端部に向かうにつれ狭くなるように電極部の幅を設定したが、例えば第2実施形態の振動片と電極部との間のギャップが狭くなるように電極部の幅を設定しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態における発振器の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施の形態における発振子の平面図である。
【図3】図1のA−A’線に沿う断面図である。
【図4】本発明の実施形態における発振器のメタル層成膜工程を示す工程図である。
【図5】本発明の実施形態における発振器の電極パッド工程を示す工程図である。
【図6】本発明の実施形態における発振器の分離工程を示す工程図である。
【図7】本発明の第2実施の形態における発振子の平面図である。
【図8】本発明の第3実施の形態における発振子の平面図である。
【図9】従来における発振子の斜視図である。
【図10】スティッキングを説明する発振子の平面図である。
【符号の説明】
【0062】
10発振器 30発振子 32,54振動子 33a,33b,53a,53b,60a,60b電極部 34振動子アイランド(ベース部) 35,51基端部 36,50振動片 39,52先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端部から先端部に向かって一方向に延びるように形成され、該一方向に直交する他方に振動する振動片と、前記基端部を介して前記振動片を片持ち状に支持するベース部と、を有する振動子と、
前記振動片に対して所定距離を空けた状態で前記他方向に沿って前記振動片を間に挟むように配置され、電圧が印加された時に静電引力を発生させて前記振動片を振動させる電極部とを備え、
前記振動片は、前記基端部と前記先端部とが異なる幅に形成されていることを特徴とする発振子。
【請求項2】
前記振動片の幅は、前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次変化するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の発振子。
【請求項3】
前記振動片の幅は、前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次縮小するように形成されていることを特徴とする請求項2記載の発振子。
【請求項4】
前記電極部は、前記所定距離が前記振動子の前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次狭くなるように形成されていることを特徴とする請求項3記載の発振子。
【請求項5】
前記振動片の幅は、前記基端部から前記先端部に向かうにつれて漸次拡大するように形成されていることを特徴とする請求項2記載の発振子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発振子を有することを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−60172(P2009−60172A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223175(P2007−223175)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】