発振素子
【課題】 反平行結合を用いた積層膜であっても、理論的な予測では発振周波数は数十GHz台と低く、テラヘルツ波の周波数を実現するには至っていない。
【解決手段】 第一の磁性層と、第二の磁性層と、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層との間に挿入される結合中間層とで構成される積層膜と、前記積層膜に対し、電流を前記積層膜の膜面に垂直に通電する電極とを具備し、通電しない状態では前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とでそれらの磁化が結合中間層を介して相対角度が+90度及び-90度に磁気結合する部分を有し、通電時に前記第二の磁性層の磁化が発振して電磁波もしくは光を発振することを特徴とする。
【解決手段】 第一の磁性層と、第二の磁性層と、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層との間に挿入される結合中間層とで構成される積層膜と、前記積層膜に対し、電流を前記積層膜の膜面に垂直に通電する電極とを具備し、通電しない状態では前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とでそれらの磁化が結合中間層を介して相対角度が+90度及び-90度に磁気結合する部分を有し、通電時に前記第二の磁性層の磁化が発振して電磁波もしくは光を発振することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波発振素子に係わり、特にテラヘルツ波を発生する小型高周波発振素子に関する。
【背景技術】
【0002】
「テラヘルツ波」は広い意味では赤外線の一種だが、周波数が電磁波と光の中間に位置する波動である。本明細書では周波数0.1THz〜100THzを指すものとする。
【0003】
テラヘルツ周波数領域には固体や気体の種々の励起(フォノン、プラズモン、超伝導エネルギーギャップ、分子間振動など)が存在する。このためテラヘルツ波を各種材料に照射すると、吸収や反射などの相互作用が発生し、これを利用した各種材料の分析・検査が期待されている。
【0004】
従来のテラヘルツ波発生技術は、フェムト秒レーザーを用いた方式である。しかしながら、特に、医療診断・検査や環境測定で多数の検体に対して用いる場合は、小型で安価なデバイスが求められるのに対し、フェムト秒レーザーは大型・高価であるため汎用性が低くテラヘルツ波発生源として普及に至っていない。
【0005】
更に、大気中ではテラヘルツ波はおもに水蒸気による吸収により減衰が大きく伝搬距離が限られることから、発信素子−検体−受信素子の全体を小型化することの有効性は高く、これを実現するためには発信素子と受信素子それぞれを小型化することが必要である。
【0006】
これに対し、小型で高周波発信できる素子として、磁性体中の磁化が歳差運動することでGHz帯域の高周波を発振する、スピントルク発振素子(STO: Spin Torque Oscillator)が提案され(非特許文献1)、実験検証された(非特許文献2)。STOとは、強磁性体にスピンをもつ電流を流したとき、強磁性体の磁化が電流のスピンと相互作用して歳差運動する現象である。歳差運動の周波数が発振周波数となる。この現象はスピンをもつ電流の電流密度を1×108A/cm2程度と高くする必要があるため、微細な素子に電流を流して発現させるため、小型化の要求されるテラヘルツ波発振素子に適した現象である。発振周波数は、いまだ数GHzから数十GHz台と低いが、通常観測されるアコースティックモードに比べてオプティカルモードを使うと、数倍以上の発振周波数が得られる。オプティカルモードを実現するには、2層の磁性層を反平行に磁気結合させた積層膜が適すると理論的に示唆され提案されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. C. Slonczewski, J. Magn. Magn. Mater. 159, L1 (1996).
【非特許文献2】S. I. Kiselev et al, Nature 425, 308 (2003).
【非特許文献3】T. Seki et. al., Appl. Phys. Lett., 94, 212605 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、反平行結合を用いた積層膜であっても、理論的な予測では発振周波数は数十GHz台と低く、テラヘルツ波の周波数を実現するには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発振素子は、第一の磁性層と、第二の磁性層と、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層との間に挿入される結合中間層とで構成される積層膜と、前記積層膜に対し、電流を前記積層膜の膜面に垂直に通電する電極とを具備し、通電しない状態では前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とでそれらの磁化が結合中間層を介して相対角度が+90度及び-90度に磁気結合する部分を有し、通電時に前記第二の磁性層の磁化が発振して電磁波もしくは光を発振することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す見取り図である。
【図2】本発明の第一の実施形態におけるMR曲線、磁化曲線を示す図である。
【図3】本発明の第一の実施形態の発振状態を示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態の比較例を示す見取り図である。
【図5】本発明の第一の実施形態の比較例の発振状態を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施形態を示す見取り図である。
【図7】本発明の第二の実施形態の発振状態を示す図である。
【図8】本発明の第三の実施形態を示す見取り図である。
【図9】本発明の第三の実施形態の発振状態を示す図である。
【図10】本発明の第四の実施形態を示す見取り図である。
【図11】本発明の第五の実施形態を示す見取り図である。
【図12】本発明の第六の実施形態を示す見取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様の構成を示す。なお、図1等の見取り図は模式的または概念的な図であり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも実際の素子と同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る発振素子の見取り図である。まず初めに図を用いて発振素子の構成について説明する。
【0013】
本実施形態の発振素子は、第一の磁性層10と、第一の磁性層10上に設けられた結合中間層11と、結合中間層11上に設けられた第二の磁性層12を備えている。そしてこれら第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12とで構成される積層膜を挟むように上部電極14、下部電極13が形成されている。上部電極14、下部電極13は電流を積層膜の膜面に垂直に通電するように構成されている。
【0014】
第一の磁性層10、第二の磁性層12は通電しない状態ではそれらの磁化が結合中間層11を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分、及び-90度に磁気結合する複数の部分を有している。この一例が図1に示すような、第二の磁性層12が複数の磁区に分離され、それぞれが第一の磁性層10の磁化に対し+90度、及び-90度に磁気結合している構成である。
【0015】
第一の磁性層10ならびに第二の磁性層12は、強磁性体、例えばFe、Co、Niなどの3d遷移金属を含む合金を用いることができる。更にこれにCu、Al、Mg、Pd、Pt、Ru、などの添加元素を加えた合金を用いることができる。
【0016】
結合中間層11は、第一の磁性層10の磁化と第二の磁性層12の磁化を直交に結合する作用を有する。結合中間層11の材料としては、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Zn、あるいはこれらのいずれかを含む合金を酸化した酸化物を含む層を用いることができる。
【0017】
次に、動作原理について説明する。
【0018】
本実施形態の発振素子は、通電しない状態での第一の磁性層10、第二の磁性層12間の磁気結合の状態を90°結合とすると、スピントルク発振(Spin Torque Oscillation; STO)の発現する電流密度まで通電したときに高い発振周波数を得ることができることが特徴である。そこで、通電しない状態の90°結合と、通電した状態のSTOについて順次説明する。
【0019】
まず90°結合についてであるが、一般的に強磁性層/結合中間層/強磁性層構造の磁気結合は、結合中間層の膜厚に対して強磁性結合と反強磁性結合を周期的に振動するRKKY相互作用を示す。これに対し、結合中間層の材料によっては強磁性結合でも反強磁性結合でもない90°結合を示す場合がある。古くはFe/Cr/Fe三層構造おいて観測され、その後CoFe/Mn/CoFe三層構造でも90°結合が報告された。しかし、これらの90°結合のエネルギーは非常に小さいため、安定状態が得られにくく、デバイス応用には適さなかった。これに対し、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Zn、あるいはこれらのいずれかを含む合金を酸化した酸化物を含む結合中間層を用いると、これまでの金属の結合中間層に比べて強く安定な90°結合が得られることを見出した。
【0020】
どのような場合に90°結合が大きく発現するか、2層の強磁性層の間に挿入された層を介して強磁性層が結合するエネルギーを用いて説明する。磁気結合エネルギーEexは、
【数1】
で表される。ここでA12は通常の双一次交換結合定数、B12は双二次交換結合定数である。第1項は2層の強磁性層の磁化が相対的に平行あるいは反平行のときに最小となり、A12<0のとき反平行、A12>0のとき平行となる。第2項は2層の強磁性層の磁化のなす角が0°(平行)、90°、180°(反平行)、270°のいずれかの場合に最小となる。B12<0では90°、270°、B12>0では0°、180°となる。ここで、90°と270°のとるエネルギーは縮退しているので、以下では90°あるいは270°の相対角度をとる結合を90°結合と呼ぶ。90°結合は、第1項よりも第2項の寄与が大きく、第2項のエネルギーが90°あるいは270°で最小となる条件、すなわち、|A12|<|B12|かつB12<0のときに生じる。|A12|<|B12|という条件は、A12<0(反平行)とA12>0(平行)の状態が混在し、競合する場合に誘起される。そして、|B12|が大きいほど90°結合は安定となる。
【0021】
ここで、Feの酸化物を含む結合中間層の双二次交換結合定数B12を求めるため、モデル膜作成した。膜構成は、下地層/反強磁性層IrMn(7nm)/第一の磁性層Fe10Co90 (2 nm)/結合中間層/第二の磁性層Fe10Co90 (2 nm)/Cu(3nm)/Fe10Co90 (2 nm)/保護層である。結合中間層は、Fe(2 nm)を酸素暴露量3 キロラングミュア(kL)で自然酸化した。90°結合が破れる磁場H90から双二次交換結合定数B12を求めるためには、第一あるいは第二の磁性層の磁化を固着する必要がある。ここでは、第一の磁性層を反強磁性層IrMnによって磁化を一方向に固着しておいた。図2(a)に磁化曲線を、図2(b)にMR曲線をそれぞれ示す。IrMnによる固着方向と挿引磁場のなす角は±90°である。図2より、90°結合の破れる磁場H90は450 Oeとわかった。なお、挿引した磁場の符号に対して磁化曲線とMR曲線は対称であった。これは、IrMnによる固着方向と挿引磁場に対して+90°に磁場を印加した場合に90°結合が破れる磁場の大きさと、-90°に磁場を印加した場合に270°結合が破れる磁場の大きさが同じであることを示す。これより、90°結合と270°結合が同じエネルギーで生じていることも明らかである。ここでは、+90°で磁気結合した領域と、+270°で磁気結合した領域が存在することを意味する。なお、+270°は−90°と等価であるので、±90°で磁気結合している、とも言える。
【0022】
双二次交換結合定数B12を見積もる。飽和磁化Ms、膜厚t1、t2の2層の強磁性層の90°結合が磁場H90で破れる場合のB12は、次のように表わされる。
【数2】
Fe10Co90の飽和磁化Msは約1.8 Tであり、結合中間層において全てのFe層が酸化されて磁気モーメントを失うと仮定してこれらの値を(2)式に代入すると、B12は-0.26 mJ/m2と求めることが出来た。この絶対値は、結合中間層が非磁性体のAu、Al、Ag、Cuの場合には、双二次交換結合定数B12の絶対値が0.003〜0.1 erg/cm2に比べ、非常に大きい。
【0023】
同様にして、Co、Ni、FeCo合金、NiFe合金、CoNi合金、FeCoNi合金、Cr、Mn、Znを酸化して作成した結合中間層の双二次交換結合定数B12を求めたところ、その絶対値はいずれも0.2 erg/cm2以上が得られた。
【0024】
次に、通電した状態のSTOについて説明する。
【0025】
STOは、第一の磁性層10/結合中間層11/第二の磁性層12から成る積層膜の積層方向に、第二の磁性層12から閾値以上の電流を流したとき、電流を担う電子が第一の磁性層10の磁化状態を反映したスピンを持って第二の磁性層12に到達し、第二の磁性層12の磁化が相互作用によって回転トルクを受け、歳差運動をして高周波発振するという現象である。閾値の電流は、一般的に108A/cm2程度であり、これ以下ではSTOは発現しない。したがって、閾値以下の電流を流したときの磁化状態は、通電していない状態と同じである。本発明では、「通電しない状態」を「閾値以上の電流を流さない状態」という意味で用いる。
【0026】
この発振周波数を高めるため、Optical modeの発振を用いたSTOが提案されている。通常観測されるSTOのAcoustic modeに比べ、発振周波数が数倍以上である。Optical modeの発振は、第一の磁性層10と第二の磁性層12が反平行に磁気結合したときに得られると理論計算から予測され、実験がなされている。この理論予測から、2層の磁性体が90°磁気結合する積層膜では通電時に前記第二の磁性層12の磁化が更に高い発振周波数で発振して電磁波もしくは光を発振する可能性に気づき、本発明に至った。
【0027】
これを実証するため、磁性層間の磁気結合の状態を反映させ、STOの発振状態を計算した。第一の磁性層10/中間層11/第二の磁性層12からなる積層膜の磁気結合の状態は、異方性エネルギーEani、ゼーマンエネルギーEzeeman、反磁場エネルギーEdemag、そして磁性層間の磁気結合エネルギーEexを用いて、以下の式で表される。
【数3】
jは磁性層の番号、tは磁性層の膜厚である。ここで、磁性層間の磁気結合エネルギーEex以外を決定するパラメータを以下のように固定し、A12と B12を様々に変化させ、STOの状態について計算を用いて調べた。
【0028】
第一の磁性層の膜厚t1=3nm、
第二の磁性層の膜厚t2=10nm、
第一および第二の磁性層の飽和磁化Ms=1700 emu/cm3、
第一の磁性層の異方性定数K1=4x105 erg/cm2、
第二の磁性層の異方性定数K2=1.5x105 erg/cm2、
素子の形状・一辺が64nmの正方形
(実施例1)
第一の実施形態における積層膜において、第一の磁性層10と第二の磁性層12の磁化が直交に磁気結合する。実施例1では、直交に結合する磁気結合エネルギーを、以下のように定めた。
【0029】
双一次交換結合定数A12は-0.03 erg/cm2
双二次交換結合定数B12は−0.26 erg/cm2
双二次交換結合定数B12は、本発明において先に述べた実験で調べた値である。これを式(1)、(3)に代入して積層膜のエネルギーが求められる。これを初期状態として、電流密度108A/cm2の電流を第一の磁性体10から第二の磁性体12へと通電する。スピンを持った伝導電子は、第二の磁性体12から第一の磁性体10へと流れる。
【0030】
図3(a)は、計算結果の発振状態である。発振Oに比べ、高い周波数での発振1−A、発振1−Bが観測できる。このことから、磁性層を90°磁気結合させた積層膜では、反平行結合の場合よりも高い周波数で発振することが出来ることがわかった。反平行結合の比較例で得られた発振Oよりも、実施例1の発振1−Aは25 GHz、発振1−Bは35 GHzと高い周波数で発振する。すなわち、90°結合を用いたSTOでは、従来のSTOよりも高い発振周波数を得ることが出来ると実証された。さらに比較例の場合には発振を観測出来なかった高周波領域の100 GHz付近まで小さな発振を多数観測できた。本発明の課題であるテラヘルツ波の周波数は0.1THz〜100THzであり、これを実現することが出来た。
【0031】
図3(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層10の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層12の磁化状態である。初期状態で90°の関係に磁化が結合しているが、1000ps後、磁化は反平行の関係にある。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12が複雑に相互作用し、発振している。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、直交に結合する磁気結合エネルギーを、以下のように定めた。
【0033】
双一次交換結合定数A12は-0.03 erg/cm2、
双二次交換結合定数B12は+0.26 erg/cm2
双二次交換結合定数B12は、本発明において先に述べた実験で調べた絶対値を用い、符号を反転した値である。これを用い、積層膜の発振状態を計算した。
【0034】
図4(a)は、計算結果の発振状態である。反平行結合の比較例で得られた発振Oよりも高い周波数で、実施例2の発振2−A、2−B、2-C、2-Dは観測できた。発振2-Dの周波数は47 GHzである。すなわち、90°結合を用いたSTOでは、従来のSTOよりも高い発振周波数を得ることが出来ると実証された。さらに比較例の場合には発振を観測出来なかった高周波領域の100 GHz付近まで小さな発振を多数観測できた。本発明の課題であるテラヘルツ波の周波数は0.1THz〜100THzであり、これを実現することが出来た。さらに、実施例1と双二次交換結合定数B12の符号を反転しただけで、高周波の発振が多く得られ、符号を検討することによって更に高い周波数での発振が得られる可能性が示唆された。
【0035】
図4(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層10の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層の磁化状態である。初期状態で90°の関係に磁化が結合しているが、1000ps後、磁化は反平行の関係にある。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12が複雑に相互作用し、発振している。
【0036】
(実施例3)
実施例3では、直交に結合する磁気結合エネルギーを、実施例1と同じよう以下のように定めた。
【0037】
双一次交換結合定数A12は-0.03 erg/cm2、
双二次交換結合定数B12は−0.26 erg/cm2
実施例1と異なるのは、初期の磁化状態である。図5(b)、(c)にあるように、+90°結合の領域と、−90°結合の領域を設けた。これを用い、積層膜の発振状態を計算した。
【0038】
図5(a)は、計算結果の発振状態である。反平行結合の比較例で得られた発振Oよりも、実施例3の発振3−Aは20 GHzと高い周波数で発振する。すなわち、90°結合を用いたSTOでは、従来のSTOよりも高い発振周波数を得ることが出来ると実証された。さらに比較例の場合には発振を観測出来なかった高周波領域の100 GHz付近まで小さな発振を多数観測できた。本発明の課題であるテラヘルツ波の周波数は0.1THz〜100THzであり、これを実現することが出来た。
【0039】
図5(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層12の磁化状態である。初期状態で±90°の関係に磁化が結合しているが、1000ps後、磁化は反平行の関係にある。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12が複雑に相互作用し、発振している。
【0040】
(比較例)
図6は比較例に係る発振素子の見取り図である。比較例でも、第一の磁性層10と第二の磁性層12の磁化が反平行に結合する。結合中間層にCrを用いた場合、
双一次交換結合定数A12は-0.8 erg/cm2、
双二次交換結合定数B12は−0.03 erg/cm2
である。これを式(1)、(3)に代入して積層膜のエネルギーが求められる。これを初期状態として、電流密度108A/cm2の電流を第一の磁性体10から第二の磁性体12へと通電する。スピンを持った伝導電子は、第二の磁性体12から第一の磁性体10へと流れる。
【0041】
図7(a)は、横軸が周波数、縦軸が発振強度とした発振状態の計算結果である。発振していれば、ピークとして観測できる。図7(a)で強度の強いピークは周波数約15GHzにあり、この周波数で発振していることが分かる。この発振を、「発振O」とする。この発振0は実施例1〜3での発振1-A、1-B、2-A、2-B、2-C、3-Aのいずれの発振の周波数よりも小さく、本発明の課題である周波数0.1 THz〜100Htzのテラヘルツ波には到底及ばない。さらに、他の実施例とは異なり0.1THz付近に小さな発振を観測できないことから、本発明の実施例としては不適当であることがわかる。
【0042】
図7(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層10の磁化の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の磁化の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層の磁化状態である。(b)、(c)より初期状態で完全に反平行の関係にあった磁化が、(d)、(e)より発振を始めても比較的反平行の状態を保っている。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12とが複雑に相互作用し発振している。
【0043】
(第2の実施形態)
図8に、本発明の第2の実施形態の発振素子を示す。第1の実施形態と異なる点は、前述の積層膜のほかに、反強磁性層が設置される点である。反強磁性層は第一の磁性層の下に設け、反強磁性層との交換結合エネルギーによって、第一の磁性層の磁化を一方向に固着する。反強磁性層には、IrMn、PtMn、FeMn、NiMnが適する。これらを主成分とする合金であってもよい。
【0044】
STOでは第一の磁性層と第二の磁性層が互いに相互作用するが、片方の磁化を一方向に固着することで、発振の制御性が向上する。
【0045】
(第3の実施形態)
図9に、本発明の第3の実施形態の発振素子を示す。第1の実施形態と異なる点は、前述の積層膜のほかに、反強磁性層15、第三の磁性層16、反平行結合層17が設置される点である。反強磁性層15は第三の磁性層16の磁化を一方向に固着する。そして反平行結合層17を介して、第三の磁性層16と第一の磁性層10の磁化は反平行に結合する。第一の磁性層10と第三の磁性層16の磁化が反平行となると、静磁エネルギーが小さくなって第一の磁性層10の磁化が安定となる。STOでは第一の磁性層10と第二の磁性層12が互いに相互作用するが、片方の磁化を一方向に固着することで、発振の制御性が向上する。
【0046】
第三の磁性層16は、Fe、Co、Niあるいはこれらを含む合金が用いられる。反平行結合層17には、Ru、Ir、Rhなどが用いられる。
【0047】
(第4の実施形態)
図10に、本発明の第4に実施形態の発振素子を示す。第1の実施形態と異なる点は、結合中間層が、酸化層11bと金属層11aから構成され、金属層11aが貫通して第一の磁性層10と第二の磁性層12を接続している点である。このような構造では、電流が酸化層11bを通らず金属層11aだけに集中して流れ、発振周波数を上げる作用を持つ。この構造と90°磁気結合による高周波化を併用すると、相乗効果を得ることも可能である。
【0048】
酸化層11bはAl、Mg、Zr、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを酸化させた酸化物を用いることができる。金属層11aはAl、Mg、Zr、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znの未酸化領域、あるいは酸化されにくい貴金属Cu、Au、Agが用いられる。
【0049】
(第5の実施形態)
図11に、本発明の第5に実施形態の発振素子を示す。
【0050】
まず構造について説明する。第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12を含む積層膜のほかに、反強磁性層15、第四の磁性層18、非磁性層19が設置される。そしてこれら第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12とで構成される積層膜を挟むように上部電極14、下部電極13が形成されている。上部電極14、下部電極13は電流を積層膜の膜面に垂直に通電するように構成されている。
【0051】
第一の磁性層10、第二の磁性層12は通電しない状態ではそれらの磁化が結合中間層11を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分、及び-90度に磁気結合する複数の部分を有している。この一例が図1に示すような、第二の磁性層12が複数の磁区に分離され、それぞれが第一の磁性層10の磁化に対し+90度、及び-90度に磁気結合している構成である。
【0052】
反強磁性層15は第四の磁性層18の磁化を一方向に固着する。第四の磁性層18と第一の磁性層10の間には非磁性層19が存在し、第一の磁性層10の磁化と第四の磁性層18の磁化の磁気結合は非常に弱く、第一の磁性層10の磁化は第四の磁性層18とは独立に変化し、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。
【0053】
第四の磁性層18は、Fe、Co、Niあるいはこれらを含む合金が用いられる。非磁性層19には、上記電気抵抗変化量の大きくなるような非磁性層が適する。Cu、Au、Ag、Al、Al2O3、MgOなどが用いられる。
【0054】
動作について説明する。第一の磁性層10の磁化と第二の磁性層12の磁化は結合中間層11を介して90°磁気結合をしており、閾値以上電流を流すとともに歳差運動する。第一の磁性層10と第四の磁性層18の磁化は独立であり、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。第一の磁性層10の磁化が歳差運動すると、第一の磁性層10の磁化と第四の磁性層18の磁化の相対角度が高周波で変化し、大きな発振強度が得られる。
【0055】
(第6の実施形態)
図12に、本発明の第6の実施形態の発振素子を示す。
【0056】
まず構造について説明する。第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12を含む積層膜のほかに、反強磁性層15、第四の磁性層18、非磁性層19が設置される。そしてこれら第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12とで構成される積層膜を挟むように上部電極14、下部電極13が形成されている。上部電極14、下部電極13は電流を積層膜の膜面に垂直に通電するように構成されている。
【0057】
第一の磁性層10、第二の磁性層12は通電しない状態ではそれらの磁化が結合中間層11を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分、及び-90度に磁気結合する複数の部分を有している。この一例が図1に示すような、第二の磁性層12が複数の磁区に分離され、それぞれが第一の磁性層10の磁化に対し+90度、及び-90度に磁気結合している構成である。
【0058】
反強磁性層15は第四の磁性層18の磁化を一方向に固着する。第四の磁性層18と第一の磁性層10の間には非磁性層19が存在し、第一の磁性層10の磁化と第四の磁性層18の磁化の磁気結合は非常に弱く、第一の磁性層10の磁化は第四の磁性層18とは独立に変化し、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。
【0059】
第四の磁性層18は、Fe、Co、Niあるいはこれらを含む合金が用いられる。非磁性層19は、酸化層19bと金属層19aから成り、金属層19aが貫通して第一の磁性層10と第四の磁性層18を接続する。上記電気抵抗変化量の大きくなるよう、酸化層はAl、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを酸化させた酸化物が用いられ、金属層はCu、Au、Ag、Al、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つが用いられる。
【0060】
動作について説明する。第一の磁性層の磁化と第二の磁性層の磁化は結合中間層を介して90°磁気結合をしており、閾値以上電流を流すとともに歳差運動する。第一の磁性層と第四の磁性層の磁化は独立であり、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。第一の磁性層の磁化が歳差運動すると、第一の磁性層の磁化と第四の磁性層の磁化の相対角度が高周波で変化し、大きな発振強度が得られる。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 第一の磁性層
11 結合中間層
11a 金属層
11b 酸化層
12 第二の磁性層
13 下部電極
14 上部電極
15 反強磁性層
16 第三の磁性層
17 反平行結合層
18 第四の磁性層
19 非磁性層
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波発振素子に係わり、特にテラヘルツ波を発生する小型高周波発振素子に関する。
【背景技術】
【0002】
「テラヘルツ波」は広い意味では赤外線の一種だが、周波数が電磁波と光の中間に位置する波動である。本明細書では周波数0.1THz〜100THzを指すものとする。
【0003】
テラヘルツ周波数領域には固体や気体の種々の励起(フォノン、プラズモン、超伝導エネルギーギャップ、分子間振動など)が存在する。このためテラヘルツ波を各種材料に照射すると、吸収や反射などの相互作用が発生し、これを利用した各種材料の分析・検査が期待されている。
【0004】
従来のテラヘルツ波発生技術は、フェムト秒レーザーを用いた方式である。しかしながら、特に、医療診断・検査や環境測定で多数の検体に対して用いる場合は、小型で安価なデバイスが求められるのに対し、フェムト秒レーザーは大型・高価であるため汎用性が低くテラヘルツ波発生源として普及に至っていない。
【0005】
更に、大気中ではテラヘルツ波はおもに水蒸気による吸収により減衰が大きく伝搬距離が限られることから、発信素子−検体−受信素子の全体を小型化することの有効性は高く、これを実現するためには発信素子と受信素子それぞれを小型化することが必要である。
【0006】
これに対し、小型で高周波発信できる素子として、磁性体中の磁化が歳差運動することでGHz帯域の高周波を発振する、スピントルク発振素子(STO: Spin Torque Oscillator)が提案され(非特許文献1)、実験検証された(非特許文献2)。STOとは、強磁性体にスピンをもつ電流を流したとき、強磁性体の磁化が電流のスピンと相互作用して歳差運動する現象である。歳差運動の周波数が発振周波数となる。この現象はスピンをもつ電流の電流密度を1×108A/cm2程度と高くする必要があるため、微細な素子に電流を流して発現させるため、小型化の要求されるテラヘルツ波発振素子に適した現象である。発振周波数は、いまだ数GHzから数十GHz台と低いが、通常観測されるアコースティックモードに比べてオプティカルモードを使うと、数倍以上の発振周波数が得られる。オプティカルモードを実現するには、2層の磁性層を反平行に磁気結合させた積層膜が適すると理論的に示唆され提案されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. C. Slonczewski, J. Magn. Magn. Mater. 159, L1 (1996).
【非特許文献2】S. I. Kiselev et al, Nature 425, 308 (2003).
【非特許文献3】T. Seki et. al., Appl. Phys. Lett., 94, 212605 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、反平行結合を用いた積層膜であっても、理論的な予測では発振周波数は数十GHz台と低く、テラヘルツ波の周波数を実現するには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発振素子は、第一の磁性層と、第二の磁性層と、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層との間に挿入される結合中間層とで構成される積層膜と、前記積層膜に対し、電流を前記積層膜の膜面に垂直に通電する電極とを具備し、通電しない状態では前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とでそれらの磁化が結合中間層を介して相対角度が+90度及び-90度に磁気結合する部分を有し、通電時に前記第二の磁性層の磁化が発振して電磁波もしくは光を発振することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す見取り図である。
【図2】本発明の第一の実施形態におけるMR曲線、磁化曲線を示す図である。
【図3】本発明の第一の実施形態の発振状態を示す図である。
【図4】本発明の第一の実施形態の比較例を示す見取り図である。
【図5】本発明の第一の実施形態の比較例の発振状態を示す図である。
【図6】本発明の第二の実施形態を示す見取り図である。
【図7】本発明の第二の実施形態の発振状態を示す図である。
【図8】本発明の第三の実施形態を示す見取り図である。
【図9】本発明の第三の実施形態の発振状態を示す図である。
【図10】本発明の第四の実施形態を示す見取り図である。
【図11】本発明の第五の実施形態を示す見取り図である。
【図12】本発明の第六の実施形態を示す見取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様の構成を示す。なお、図1等の見取り図は模式的または概念的な図であり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも実際の素子と同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る発振素子の見取り図である。まず初めに図を用いて発振素子の構成について説明する。
【0013】
本実施形態の発振素子は、第一の磁性層10と、第一の磁性層10上に設けられた結合中間層11と、結合中間層11上に設けられた第二の磁性層12を備えている。そしてこれら第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12とで構成される積層膜を挟むように上部電極14、下部電極13が形成されている。上部電極14、下部電極13は電流を積層膜の膜面に垂直に通電するように構成されている。
【0014】
第一の磁性層10、第二の磁性層12は通電しない状態ではそれらの磁化が結合中間層11を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分、及び-90度に磁気結合する複数の部分を有している。この一例が図1に示すような、第二の磁性層12が複数の磁区に分離され、それぞれが第一の磁性層10の磁化に対し+90度、及び-90度に磁気結合している構成である。
【0015】
第一の磁性層10ならびに第二の磁性層12は、強磁性体、例えばFe、Co、Niなどの3d遷移金属を含む合金を用いることができる。更にこれにCu、Al、Mg、Pd、Pt、Ru、などの添加元素を加えた合金を用いることができる。
【0016】
結合中間層11は、第一の磁性層10の磁化と第二の磁性層12の磁化を直交に結合する作用を有する。結合中間層11の材料としては、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Zn、あるいはこれらのいずれかを含む合金を酸化した酸化物を含む層を用いることができる。
【0017】
次に、動作原理について説明する。
【0018】
本実施形態の発振素子は、通電しない状態での第一の磁性層10、第二の磁性層12間の磁気結合の状態を90°結合とすると、スピントルク発振(Spin Torque Oscillation; STO)の発現する電流密度まで通電したときに高い発振周波数を得ることができることが特徴である。そこで、通電しない状態の90°結合と、通電した状態のSTOについて順次説明する。
【0019】
まず90°結合についてであるが、一般的に強磁性層/結合中間層/強磁性層構造の磁気結合は、結合中間層の膜厚に対して強磁性結合と反強磁性結合を周期的に振動するRKKY相互作用を示す。これに対し、結合中間層の材料によっては強磁性結合でも反強磁性結合でもない90°結合を示す場合がある。古くはFe/Cr/Fe三層構造おいて観測され、その後CoFe/Mn/CoFe三層構造でも90°結合が報告された。しかし、これらの90°結合のエネルギーは非常に小さいため、安定状態が得られにくく、デバイス応用には適さなかった。これに対し、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Zn、あるいはこれらのいずれかを含む合金を酸化した酸化物を含む結合中間層を用いると、これまでの金属の結合中間層に比べて強く安定な90°結合が得られることを見出した。
【0020】
どのような場合に90°結合が大きく発現するか、2層の強磁性層の間に挿入された層を介して強磁性層が結合するエネルギーを用いて説明する。磁気結合エネルギーEexは、
【数1】
で表される。ここでA12は通常の双一次交換結合定数、B12は双二次交換結合定数である。第1項は2層の強磁性層の磁化が相対的に平行あるいは反平行のときに最小となり、A12<0のとき反平行、A12>0のとき平行となる。第2項は2層の強磁性層の磁化のなす角が0°(平行)、90°、180°(反平行)、270°のいずれかの場合に最小となる。B12<0では90°、270°、B12>0では0°、180°となる。ここで、90°と270°のとるエネルギーは縮退しているので、以下では90°あるいは270°の相対角度をとる結合を90°結合と呼ぶ。90°結合は、第1項よりも第2項の寄与が大きく、第2項のエネルギーが90°あるいは270°で最小となる条件、すなわち、|A12|<|B12|かつB12<0のときに生じる。|A12|<|B12|という条件は、A12<0(反平行)とA12>0(平行)の状態が混在し、競合する場合に誘起される。そして、|B12|が大きいほど90°結合は安定となる。
【0021】
ここで、Feの酸化物を含む結合中間層の双二次交換結合定数B12を求めるため、モデル膜作成した。膜構成は、下地層/反強磁性層IrMn(7nm)/第一の磁性層Fe10Co90 (2 nm)/結合中間層/第二の磁性層Fe10Co90 (2 nm)/Cu(3nm)/Fe10Co90 (2 nm)/保護層である。結合中間層は、Fe(2 nm)を酸素暴露量3 キロラングミュア(kL)で自然酸化した。90°結合が破れる磁場H90から双二次交換結合定数B12を求めるためには、第一あるいは第二の磁性層の磁化を固着する必要がある。ここでは、第一の磁性層を反強磁性層IrMnによって磁化を一方向に固着しておいた。図2(a)に磁化曲線を、図2(b)にMR曲線をそれぞれ示す。IrMnによる固着方向と挿引磁場のなす角は±90°である。図2より、90°結合の破れる磁場H90は450 Oeとわかった。なお、挿引した磁場の符号に対して磁化曲線とMR曲線は対称であった。これは、IrMnによる固着方向と挿引磁場に対して+90°に磁場を印加した場合に90°結合が破れる磁場の大きさと、-90°に磁場を印加した場合に270°結合が破れる磁場の大きさが同じであることを示す。これより、90°結合と270°結合が同じエネルギーで生じていることも明らかである。ここでは、+90°で磁気結合した領域と、+270°で磁気結合した領域が存在することを意味する。なお、+270°は−90°と等価であるので、±90°で磁気結合している、とも言える。
【0022】
双二次交換結合定数B12を見積もる。飽和磁化Ms、膜厚t1、t2の2層の強磁性層の90°結合が磁場H90で破れる場合のB12は、次のように表わされる。
【数2】
Fe10Co90の飽和磁化Msは約1.8 Tであり、結合中間層において全てのFe層が酸化されて磁気モーメントを失うと仮定してこれらの値を(2)式に代入すると、B12は-0.26 mJ/m2と求めることが出来た。この絶対値は、結合中間層が非磁性体のAu、Al、Ag、Cuの場合には、双二次交換結合定数B12の絶対値が0.003〜0.1 erg/cm2に比べ、非常に大きい。
【0023】
同様にして、Co、Ni、FeCo合金、NiFe合金、CoNi合金、FeCoNi合金、Cr、Mn、Znを酸化して作成した結合中間層の双二次交換結合定数B12を求めたところ、その絶対値はいずれも0.2 erg/cm2以上が得られた。
【0024】
次に、通電した状態のSTOについて説明する。
【0025】
STOは、第一の磁性層10/結合中間層11/第二の磁性層12から成る積層膜の積層方向に、第二の磁性層12から閾値以上の電流を流したとき、電流を担う電子が第一の磁性層10の磁化状態を反映したスピンを持って第二の磁性層12に到達し、第二の磁性層12の磁化が相互作用によって回転トルクを受け、歳差運動をして高周波発振するという現象である。閾値の電流は、一般的に108A/cm2程度であり、これ以下ではSTOは発現しない。したがって、閾値以下の電流を流したときの磁化状態は、通電していない状態と同じである。本発明では、「通電しない状態」を「閾値以上の電流を流さない状態」という意味で用いる。
【0026】
この発振周波数を高めるため、Optical modeの発振を用いたSTOが提案されている。通常観測されるSTOのAcoustic modeに比べ、発振周波数が数倍以上である。Optical modeの発振は、第一の磁性層10と第二の磁性層12が反平行に磁気結合したときに得られると理論計算から予測され、実験がなされている。この理論予測から、2層の磁性体が90°磁気結合する積層膜では通電時に前記第二の磁性層12の磁化が更に高い発振周波数で発振して電磁波もしくは光を発振する可能性に気づき、本発明に至った。
【0027】
これを実証するため、磁性層間の磁気結合の状態を反映させ、STOの発振状態を計算した。第一の磁性層10/中間層11/第二の磁性層12からなる積層膜の磁気結合の状態は、異方性エネルギーEani、ゼーマンエネルギーEzeeman、反磁場エネルギーEdemag、そして磁性層間の磁気結合エネルギーEexを用いて、以下の式で表される。
【数3】
jは磁性層の番号、tは磁性層の膜厚である。ここで、磁性層間の磁気結合エネルギーEex以外を決定するパラメータを以下のように固定し、A12と B12を様々に変化させ、STOの状態について計算を用いて調べた。
【0028】
第一の磁性層の膜厚t1=3nm、
第二の磁性層の膜厚t2=10nm、
第一および第二の磁性層の飽和磁化Ms=1700 emu/cm3、
第一の磁性層の異方性定数K1=4x105 erg/cm2、
第二の磁性層の異方性定数K2=1.5x105 erg/cm2、
素子の形状・一辺が64nmの正方形
(実施例1)
第一の実施形態における積層膜において、第一の磁性層10と第二の磁性層12の磁化が直交に磁気結合する。実施例1では、直交に結合する磁気結合エネルギーを、以下のように定めた。
【0029】
双一次交換結合定数A12は-0.03 erg/cm2
双二次交換結合定数B12は−0.26 erg/cm2
双二次交換結合定数B12は、本発明において先に述べた実験で調べた値である。これを式(1)、(3)に代入して積層膜のエネルギーが求められる。これを初期状態として、電流密度108A/cm2の電流を第一の磁性体10から第二の磁性体12へと通電する。スピンを持った伝導電子は、第二の磁性体12から第一の磁性体10へと流れる。
【0030】
図3(a)は、計算結果の発振状態である。発振Oに比べ、高い周波数での発振1−A、発振1−Bが観測できる。このことから、磁性層を90°磁気結合させた積層膜では、反平行結合の場合よりも高い周波数で発振することが出来ることがわかった。反平行結合の比較例で得られた発振Oよりも、実施例1の発振1−Aは25 GHz、発振1−Bは35 GHzと高い周波数で発振する。すなわち、90°結合を用いたSTOでは、従来のSTOよりも高い発振周波数を得ることが出来ると実証された。さらに比較例の場合には発振を観測出来なかった高周波領域の100 GHz付近まで小さな発振を多数観測できた。本発明の課題であるテラヘルツ波の周波数は0.1THz〜100THzであり、これを実現することが出来た。
【0031】
図3(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層10の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層12の磁化状態である。初期状態で90°の関係に磁化が結合しているが、1000ps後、磁化は反平行の関係にある。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12が複雑に相互作用し、発振している。
【0032】
(実施例2)
実施例2では、直交に結合する磁気結合エネルギーを、以下のように定めた。
【0033】
双一次交換結合定数A12は-0.03 erg/cm2、
双二次交換結合定数B12は+0.26 erg/cm2
双二次交換結合定数B12は、本発明において先に述べた実験で調べた絶対値を用い、符号を反転した値である。これを用い、積層膜の発振状態を計算した。
【0034】
図4(a)は、計算結果の発振状態である。反平行結合の比較例で得られた発振Oよりも高い周波数で、実施例2の発振2−A、2−B、2-C、2-Dは観測できた。発振2-Dの周波数は47 GHzである。すなわち、90°結合を用いたSTOでは、従来のSTOよりも高い発振周波数を得ることが出来ると実証された。さらに比較例の場合には発振を観測出来なかった高周波領域の100 GHz付近まで小さな発振を多数観測できた。本発明の課題であるテラヘルツ波の周波数は0.1THz〜100THzであり、これを実現することが出来た。さらに、実施例1と双二次交換結合定数B12の符号を反転しただけで、高周波の発振が多く得られ、符号を検討することによって更に高い周波数での発振が得られる可能性が示唆された。
【0035】
図4(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層10の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層の磁化状態である。初期状態で90°の関係に磁化が結合しているが、1000ps後、磁化は反平行の関係にある。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12が複雑に相互作用し、発振している。
【0036】
(実施例3)
実施例3では、直交に結合する磁気結合エネルギーを、実施例1と同じよう以下のように定めた。
【0037】
双一次交換結合定数A12は-0.03 erg/cm2、
双二次交換結合定数B12は−0.26 erg/cm2
実施例1と異なるのは、初期の磁化状態である。図5(b)、(c)にあるように、+90°結合の領域と、−90°結合の領域を設けた。これを用い、積層膜の発振状態を計算した。
【0038】
図5(a)は、計算結果の発振状態である。反平行結合の比較例で得られた発振Oよりも、実施例3の発振3−Aは20 GHzと高い周波数で発振する。すなわち、90°結合を用いたSTOでは、従来のSTOよりも高い発振周波数を得ることが出来ると実証された。さらに比較例の場合には発振を観測出来なかった高周波領域の100 GHz付近まで小さな発振を多数観測できた。本発明の課題であるテラヘルツ波の周波数は0.1THz〜100THzであり、これを実現することが出来た。
【0039】
図5(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層12の磁化状態である。初期状態で±90°の関係に磁化が結合しているが、1000ps後、磁化は反平行の関係にある。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12が複雑に相互作用し、発振している。
【0040】
(比較例)
図6は比較例に係る発振素子の見取り図である。比較例でも、第一の磁性層10と第二の磁性層12の磁化が反平行に結合する。結合中間層にCrを用いた場合、
双一次交換結合定数A12は-0.8 erg/cm2、
双二次交換結合定数B12は−0.03 erg/cm2
である。これを式(1)、(3)に代入して積層膜のエネルギーが求められる。これを初期状態として、電流密度108A/cm2の電流を第一の磁性体10から第二の磁性体12へと通電する。スピンを持った伝導電子は、第二の磁性体12から第一の磁性体10へと流れる。
【0041】
図7(a)は、横軸が周波数、縦軸が発振強度とした発振状態の計算結果である。発振していれば、ピークとして観測できる。図7(a)で強度の強いピークは周波数約15GHzにあり、この周波数で発振していることが分かる。この発振を、「発振O」とする。この発振0は実施例1〜3での発振1-A、1-B、2-A、2-B、2-C、3-Aのいずれの発振の周波数よりも小さく、本発明の課題である周波数0.1 THz〜100Htzのテラヘルツ波には到底及ばない。さらに、他の実施例とは異なり0.1THz付近に小さな発振を観測できないことから、本発明の実施例としては不適当であることがわかる。
【0042】
図7(b)〜(e)に各磁性層の磁化状態を示す。(b)は通電しないときの第一の磁性層10の磁化の初期状態、(c)は通電しないときの第二の磁性層12の磁化の初期状態、(d)は通電を開始して1000ps後の第一の磁性層10の磁化状態、(e)は通電を開始して1000ps後の第二の磁性層の磁化状態である。(b)、(c)より初期状態で完全に反平行の関係にあった磁化が、(d)、(e)より発振を始めても比較的反平行の状態を保っている。しかし、これは1000psを切り出してみたものであり、常に反平行を保持しているとは限らない。第一の磁性層10と第二の磁性層12とが複雑に相互作用し発振している。
【0043】
(第2の実施形態)
図8に、本発明の第2の実施形態の発振素子を示す。第1の実施形態と異なる点は、前述の積層膜のほかに、反強磁性層が設置される点である。反強磁性層は第一の磁性層の下に設け、反強磁性層との交換結合エネルギーによって、第一の磁性層の磁化を一方向に固着する。反強磁性層には、IrMn、PtMn、FeMn、NiMnが適する。これらを主成分とする合金であってもよい。
【0044】
STOでは第一の磁性層と第二の磁性層が互いに相互作用するが、片方の磁化を一方向に固着することで、発振の制御性が向上する。
【0045】
(第3の実施形態)
図9に、本発明の第3の実施形態の発振素子を示す。第1の実施形態と異なる点は、前述の積層膜のほかに、反強磁性層15、第三の磁性層16、反平行結合層17が設置される点である。反強磁性層15は第三の磁性層16の磁化を一方向に固着する。そして反平行結合層17を介して、第三の磁性層16と第一の磁性層10の磁化は反平行に結合する。第一の磁性層10と第三の磁性層16の磁化が反平行となると、静磁エネルギーが小さくなって第一の磁性層10の磁化が安定となる。STOでは第一の磁性層10と第二の磁性層12が互いに相互作用するが、片方の磁化を一方向に固着することで、発振の制御性が向上する。
【0046】
第三の磁性層16は、Fe、Co、Niあるいはこれらを含む合金が用いられる。反平行結合層17には、Ru、Ir、Rhなどが用いられる。
【0047】
(第4の実施形態)
図10に、本発明の第4に実施形態の発振素子を示す。第1の実施形態と異なる点は、結合中間層が、酸化層11bと金属層11aから構成され、金属層11aが貫通して第一の磁性層10と第二の磁性層12を接続している点である。このような構造では、電流が酸化層11bを通らず金属層11aだけに集中して流れ、発振周波数を上げる作用を持つ。この構造と90°磁気結合による高周波化を併用すると、相乗効果を得ることも可能である。
【0048】
酸化層11bはAl、Mg、Zr、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを酸化させた酸化物を用いることができる。金属層11aはAl、Mg、Zr、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znの未酸化領域、あるいは酸化されにくい貴金属Cu、Au、Agが用いられる。
【0049】
(第5の実施形態)
図11に、本発明の第5に実施形態の発振素子を示す。
【0050】
まず構造について説明する。第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12を含む積層膜のほかに、反強磁性層15、第四の磁性層18、非磁性層19が設置される。そしてこれら第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12とで構成される積層膜を挟むように上部電極14、下部電極13が形成されている。上部電極14、下部電極13は電流を積層膜の膜面に垂直に通電するように構成されている。
【0051】
第一の磁性層10、第二の磁性層12は通電しない状態ではそれらの磁化が結合中間層11を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分、及び-90度に磁気結合する複数の部分を有している。この一例が図1に示すような、第二の磁性層12が複数の磁区に分離され、それぞれが第一の磁性層10の磁化に対し+90度、及び-90度に磁気結合している構成である。
【0052】
反強磁性層15は第四の磁性層18の磁化を一方向に固着する。第四の磁性層18と第一の磁性層10の間には非磁性層19が存在し、第一の磁性層10の磁化と第四の磁性層18の磁化の磁気結合は非常に弱く、第一の磁性層10の磁化は第四の磁性層18とは独立に変化し、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。
【0053】
第四の磁性層18は、Fe、Co、Niあるいはこれらを含む合金が用いられる。非磁性層19には、上記電気抵抗変化量の大きくなるような非磁性層が適する。Cu、Au、Ag、Al、Al2O3、MgOなどが用いられる。
【0054】
動作について説明する。第一の磁性層10の磁化と第二の磁性層12の磁化は結合中間層11を介して90°磁気結合をしており、閾値以上電流を流すとともに歳差運動する。第一の磁性層10と第四の磁性層18の磁化は独立であり、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。第一の磁性層10の磁化が歳差運動すると、第一の磁性層10の磁化と第四の磁性層18の磁化の相対角度が高周波で変化し、大きな発振強度が得られる。
【0055】
(第6の実施形態)
図12に、本発明の第6の実施形態の発振素子を示す。
【0056】
まず構造について説明する。第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12を含む積層膜のほかに、反強磁性層15、第四の磁性層18、非磁性層19が設置される。そしてこれら第一の磁性層10、結合中間層11、第二の磁性層12とで構成される積層膜を挟むように上部電極14、下部電極13が形成されている。上部電極14、下部電極13は電流を積層膜の膜面に垂直に通電するように構成されている。
【0057】
第一の磁性層10、第二の磁性層12は通電しない状態ではそれらの磁化が結合中間層11を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分、及び-90度に磁気結合する複数の部分を有している。この一例が図1に示すような、第二の磁性層12が複数の磁区に分離され、それぞれが第一の磁性層10の磁化に対し+90度、及び-90度に磁気結合している構成である。
【0058】
反強磁性層15は第四の磁性層18の磁化を一方向に固着する。第四の磁性層18と第一の磁性層10の間には非磁性層19が存在し、第一の磁性層10の磁化と第四の磁性層18の磁化の磁気結合は非常に弱く、第一の磁性層10の磁化は第四の磁性層18とは独立に変化し、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。
【0059】
第四の磁性層18は、Fe、Co、Niあるいはこれらを含む合金が用いられる。非磁性層19は、酸化層19bと金属層19aから成り、金属層19aが貫通して第一の磁性層10と第四の磁性層18を接続する。上記電気抵抗変化量の大きくなるよう、酸化層はAl、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを酸化させた酸化物が用いられ、金属層はCu、Au、Ag、Al、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つが用いられる。
【0060】
動作について説明する。第一の磁性層の磁化と第二の磁性層の磁化は結合中間層を介して90°磁気結合をしており、閾値以上電流を流すとともに歳差運動する。第一の磁性層と第四の磁性層の磁化は独立であり、その相対角度によって発振素子の電気抵抗が変化する。第一の磁性層の磁化が歳差運動すると、第一の磁性層の磁化と第四の磁性層の磁化の相対角度が高周波で変化し、大きな発振強度が得られる。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 第一の磁性層
11 結合中間層
11a 金属層
11b 酸化層
12 第二の磁性層
13 下部電極
14 上部電極
15 反強磁性層
16 第三の磁性層
17 反平行結合層
18 第四の磁性層
19 非磁性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の磁性層と、第二の磁性層と、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層との間に挿入される結合中間層とで構成される積層膜と、
前記積層膜に対し、電流を前記積層膜の膜面に垂直に通電する電極と、
を具備し、
前記第一の磁性層、前記第二の磁性層のいずれか一方が、通電しない状態では前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とでそれらの磁化が結合中間層を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分及び-90度に磁気結合する複数の部分を有し、
通電時に前記第二の磁性層の磁化が発振して電磁波もしくは光を発振することを特徴とする発振素子。
【請求項2】
前記結合中間層が、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物を有することを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項3】
前記結合中間層が、Al、Mg、Zr、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物層と金属層とから成り、前記金属層は前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とを接続することを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項4】
前記第一の磁性層は、磁化が面内の一方向に固着されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の発振素子。
【請求項5】
電流方向が前記第一の磁性層から前記結合中間層を経て前記第二の磁性層へと流れる方向であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の発振素子。
【請求項6】
前記積層膜は、第一の磁性層の結合中間層と接する面とは反対面に接する反平行結合層と、前記反平行結合層の前記第一の磁性層と接する面とは反対面に接する第三の磁性層と、前記第三の磁性層の前記反平行結合層と接する面とは反対面に接する反強磁性層とをさらに具備し、
前記反強磁性層はIrMn、PtMn、FeMn、NiMnのうちいずれか1つを含む合金からなり、
前記反平行結合層はRu、Ir、Rhのうちいずれか1つを有し、
前記反平行結合層により前記第一の磁性層の磁化と前記第三の磁性層の磁化とがそれぞれ反平行に向くことを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項7】
前記積層膜は、第一の磁性層の結合中間層と接する面とは反対面に接する非磁性層と、前記非磁性層の前記第一の磁性層と接する面とは反対面に接する第四の磁性層と、前記第四の磁性層の前記非磁性層と接する面とは反対面に接する反強磁性層とをさらに具備し、
前記非磁性層は、Cu、Au、Ag、Al、Al2O3、MgOのうちいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項8】
前記積層膜は、第一の磁性層の結合中間層と接する面とは反対面に接する非磁性層と、前記非磁性層の前記第一の磁性層と接する面とは反対面に接する第四の磁性層と、前記第四の磁性層の前記非磁性層と接する面とは反対面に接する反強磁性層とをさらに具備し、
前記非磁性層は、Al、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物と、Cu、Au、Ag、Al、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む金属層とを有し、
前記金属層は前記第一の磁性層と前記第二の磁性層を接続することを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項1】
第一の磁性層と、第二の磁性層と、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層との間に挿入される結合中間層とで構成される積層膜と、
前記積層膜に対し、電流を前記積層膜の膜面に垂直に通電する電極と、
を具備し、
前記第一の磁性層、前記第二の磁性層のいずれか一方が、通電しない状態では前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とでそれらの磁化が結合中間層を介して相対角度が+90度に磁気結合する複数の部分及び-90度に磁気結合する複数の部分を有し、
通電時に前記第二の磁性層の磁化が発振して電磁波もしくは光を発振することを特徴とする発振素子。
【請求項2】
前記結合中間層が、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物を有することを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項3】
前記結合中間層が、Al、Mg、Zr、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物層と金属層とから成り、前記金属層は前記第一の磁性層と前記第二の磁性層とを接続することを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項4】
前記第一の磁性層は、磁化が面内の一方向に固着されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の発振素子。
【請求項5】
電流方向が前記第一の磁性層から前記結合中間層を経て前記第二の磁性層へと流れる方向であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の発振素子。
【請求項6】
前記積層膜は、第一の磁性層の結合中間層と接する面とは反対面に接する反平行結合層と、前記反平行結合層の前記第一の磁性層と接する面とは反対面に接する第三の磁性層と、前記第三の磁性層の前記反平行結合層と接する面とは反対面に接する反強磁性層とをさらに具備し、
前記反強磁性層はIrMn、PtMn、FeMn、NiMnのうちいずれか1つを含む合金からなり、
前記反平行結合層はRu、Ir、Rhのうちいずれか1つを有し、
前記反平行結合層により前記第一の磁性層の磁化と前記第三の磁性層の磁化とがそれぞれ反平行に向くことを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項7】
前記積層膜は、第一の磁性層の結合中間層と接する面とは反対面に接する非磁性層と、前記非磁性層の前記第一の磁性層と接する面とは反対面に接する第四の磁性層と、前記第四の磁性層の前記非磁性層と接する面とは反対面に接する反強磁性層とをさらに具備し、
前記非磁性層は、Cu、Au、Ag、Al、Al2O3、MgOのうちいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【請求項8】
前記積層膜は、第一の磁性層の結合中間層と接する面とは反対面に接する非磁性層と、前記非磁性層の前記第一の磁性層と接する面とは反対面に接する第四の磁性層と、前記第四の磁性層の前記非磁性層と接する面とは反対面に接する反強磁性層とをさらに具備し、
前記非磁性層は、Al、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む酸化物と、Cu、Au、Ag、Al、Mg、Zr、Cr、Mn、Znのうち少なくとも1つを含む金属層とを有し、
前記金属層は前記第一の磁性層と前記第二の磁性層を接続することを特徴とする請求項1に記載の発振素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−74494(P2012−74494A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217488(P2010−217488)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]