説明

発泡成形吸音体およびその製造方法

【課題】接着用樹脂を使用することなく、吸音体に好ましい細孔構造と構造強度の両立を図る。
【解決手段】本発明の発泡成形吸音体を構成する発泡成形体1は、所定の形状に構成された型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる無数の発泡セル11、11、・・で構成される発泡成形体であって、隣接する発泡セル11、11、・・が接触面11a、11a、においてそれ自体が軟化溶融して結合している。この発泡成形体1は、少なくとも3個の発泡セル11に囲まれる空間12(図1では、5個の発泡セル11に囲まれる空間12が例示してある)が連なって形成される連通気孔からなる3次元細気孔を備え、この3次元細気孔は、全体の容積に対する細気孔の全容積比である容積気孔率が10〜40%であって、かつ少なくとも0.16MPaの引裂き強度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる発泡成形吸音体およびその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から発泡ポリスチレン樹脂や発泡ポリオレフィン樹脂は多孔質吸音材料として期待され、その開発が要望されていた。ところが、この種の発泡樹脂成形体は、用途が「魚箱」のような生鮮食品保管・搬送BOXに代表されるように断熱保冷性が重視された結果、実質的に無通気性の材料に仕上げられていて、吸音材料に適した細孔構造を持っていなかった。
【0003】
そこで、発泡樹脂成形体の適当な細孔構造を付与する研究が行なわれたが、好ましい細孔気孔率を実現するには、加熱温度条件を下げる必要があり、その結果、発泡セルの結合強度が低下し、成形体として実用的な構造強度が得られず、実用化に成功していなかった。このような点を改善するものとして、特許文献1にあるような「吸音体」が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3268094号公報(特開平7−168577号公報):特許請求に範囲、段落〔0017〕〔0018〕など。
【0005】
この特許文献1の吸音体では、原料である発泡性樹脂粒子の表面にその粒子の軟化発泡温度よりも低い温度で熱接着しうる接着用樹脂を付着しておき、成形時に、発泡量を調節して細孔構造を残してながら、この接着用樹脂でもって発泡セル同士を接着接合するものであって、従来実現できなかった、吸音体に好ましい細孔構造と構造強度の両立を意図したものである。
【0006】
ところが、この吸音体は、接着用樹脂を用いることから以下のような解決課題があって、実用上の問題となった。
1)接着用樹脂が付加されるため、材料費や加工費がコストアップとなる。
2)接着用樹脂のため発泡性樹脂粒子の流動性が低下し、充填装置が目詰まりしたり、型内の充填度に不均一になりやすいなど操作性に劣る。
3)接着用樹脂の低温軟化特性が原因となり吸音材の耐熱性や長期耐久性が大幅に低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、接着用樹脂を使用することなく、吸音体に好ましい細孔構造と構造強度の両立を図るもので、接着用樹脂に起因するコストアップ、操作性あるいは耐熱性や長期耐久性の低下を防止できる発泡成形吸音体およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、発泡性樹脂粒子を用いた発泡成形において、発泡性樹脂粒子を融着温度条件下で膨張量を制御することによって、粒子間に間隙を設けながら粒子相互が軟化融着して強固に結合するという本件発明者が見出した知見に基づくものである。
【0009】
(発泡成形吸音体の発明)
上記の課題は、物の発明であるところの、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる無数の発泡セルで構成される発泡成形体であって、隣接する発泡セルが接触面においてそれ自体が軟化溶融して結合されるとともに、少なくとも3個の発泡セルに囲まれる空間が連なって形成される連通気孔からなり、容積気孔率が10〜40%である3次元細気孔を備え、かつ少なくとも0.16MPaの引裂き強度を有する発泡成形体からなることを特徴とする本発明の発泡成形吸音体によって、解決することができる。
【0010】
前記このような発泡成形体は、発泡性樹脂粒子の膨張量を融着温度条件下で制御することで実現できる。その詳細については、発泡成形吸音体の製造法として追って説明する。
また本発明は、前記発泡成形体の外表面の一部または全部に、より容積気孔率の少ない表層部を付加した形態に具体化でき、この場合、前記表層部が、当該発泡成形体の発泡成形時に一体に成形されたものであるのが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、前記した発泡成形体の一部に、より強度の大なる増強発泡体を付加した形態に好ましく具体化できる。この場合、前記増強発泡体が、当該発泡成形体の発泡成形時に一体に成形されたものであるのが好ましい。
【0012】
また、本発明は、このような構成を有するとともに、前記表層部の厚さが発泡成形吸音体の全体の厚さの10〜45%であり、自動車用内装部材として用いられる発泡成形吸音体として具体化される。また、前記表層部を車室側に向けて設置し、この発泡成形吸音体によって車体フロア面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材として用いられる発泡成形吸音体としても具体化される。この場合、前記表層部の厚さが5〜40mmであるのが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、同様に、前記表層部の厚さが発泡成形吸音体の全体の厚さの10〜45%であり、建築用吸音部材、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として用いられる発泡成形吸音体として具体化される。また、この場合、前記表層部の厚さが5〜40mmであるのが好ましい。
【0014】
(発泡成形吸音体の製造方法の発明)
さらに、上記の問題は、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる発泡成形体で構成される発泡成形吸音体の製造方法であって、発泡性樹脂粒子を加熱水蒸気の存在下で、その発泡性樹脂粒子の融着温度に加熱した後、発泡量を制御しながら発泡セルを融着させるとともに冷却して、前記した物の発明で規定した発泡成形体を得ることを特徴とする本発明の発泡成形吸音体に製造方法によって解決することができる。
【0015】
本発明では、前記発泡量の制御を、発泡性樹脂粒子に対する圧力を制御することにより行なう形態に具体化できる。この場合、圧力制御を前記発泡性樹脂粒子の融着完了温度まで行なうのが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、前記融着温度に加熱した後、圧力制御しつつ冷却するに当たり、予め型内の加熱水蒸気を空気で置換する形態、または型内の加熱水蒸気を空気で置換しながら行なうのが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の発泡成形吸音体によれば、接着用樹脂を使用することなく、吸音体に好ましい10〜40%の容積気孔率を有する細孔構造と、取扱い、搬送に耐え、かつ構造体として実用的構造強度として、0.16MPaの引裂き強度を有する発泡成形体から構成されるので、接着用樹脂に起因するコストアップは抑制され、また発泡性樹脂粒子の有する本来の特性が活かすことができ、操作性あるいは耐熱性や長期耐久性の問題も解消できる利点が得られる。
【0018】
また、前記の発泡成形体の外表面に、より容積気孔率の少ない表層部を付加したものは、その表層部が保護層として機能する他、吸音体としては遮音層または反射層として機能して吸音効果を高める利点が得られる。さらに、発泡成形体の一部に、より構造強度の大なる増強発泡体を付加したものは、単なる吸音材としての役割に止まらず、強度を負担する構造部材を兼ねる用途にも適用できるという利点が得られるのである。
【0019】
また、本発明の発泡成形吸音体の製造方法によれば、発泡性樹脂粒子の発泡・融着工程に新規な操作を行なうことにより、接着用樹脂を使用することなく、前記した発泡成形吸音体を製造することができる。また、前記発泡量を発泡性樹脂粒子に対する圧力によって制御する場合は、発泡性樹脂粒子の発泡時の内圧と外圧とのバランスをとり発泡量を調節して、好ましい容積気孔率を実現できるので、従来の発泡樹脂原料資材をそのまま利用できる利点があり、その減圧速度を制御しつつ冷却するに当たり、型内の加熱水蒸気を空気で置換するようにすれば、加熱水蒸気の潜熱による温度条件の変動要因が排除できるから、発泡・融着工程条件が安定する利点が得られる。
【0020】
かくして、本発明の発泡成形吸音体およびその製造方法は、このように、接着用樹脂を使用することなく、吸音体に好ましい細孔構造と構造強度を得るという従来困難であった問題を解決して、接着用樹脂に起因するコストアップ、操作性あるいは耐熱性や長期耐久性の低下を防止できるという優れた効果がある。よって本発明は、従来の問題点を解消した発泡成形吸音体およびその製造方法として、工業的価値はきわめて大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の発泡成形吸音体およびその製造方法に係る実施形態について、図1〜4を参照しながら説明する。
(発泡成形吸音体)
本発明の発泡成形吸音体は、先ず、図1に例示する次に述べる発泡成形体1からなる点に特徴がある。その発泡成形体1は、所定の形状に構成された型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる無数の発泡セル11、11、・・で構成される発泡成形体であって、隣接する発泡セル11、11、・・が接触面11a、11a、においてそれ自体が軟化溶融して結合しているものである。すなわち、その融着結合部は、文字通り発泡樹脂素材が融合しているのであるから、発泡樹脂素材と全く同一の物性を持つのである。
【0022】
次に、この発泡成形体1は、少なくとも3個の発泡セル11に囲まれる空間12(図1では、5個の発泡セル11に囲まれる空間12が例示してある)が連なって形成される連通気孔からなる3次元細気孔を備えていて、少なくとも次の物性を有するものである。
【0023】
すなわち、この3次元細気孔は、全体の容積に対する細気孔の全容積比である容積気孔率が10〜40%であって、かつ少なくとも0.16MPaの引裂き強度を有するのである。
なお、この3次元細気孔は、多数の枝分かれしてジグザグ、曲がりくねり、その内径は拡大・縮小の変化を不規則に繰り返すという複雑な空間経路を持っているので、進入した音波に対し、反射、干渉、共振などの減衰効果が作用するという吸音基本機能を発揮するのである。
【0024】
この容積気孔率が10%を下回る場合は、高強度を得るには好都合であるが、吸音効果が不足するので吸音体としては好ましくない。また、40%を超える場合は、吸音効果が低下する傾向を示すうえ、機械的強度が得られ難いという構造上の理由から好ましくない。また、本発明の吸音体の強度としてはは、ハンドリングに耐える形状保持強度が最低、必要であり、好ましくは構造体としての機械的強度を持つことが好ましい。この点から、機械的強度を代表する尺度として、引裂き強度で評価するのが適当であり、かつ少なくとも0.16MPa、好ましくは0.22MPa以上であるのが好ましい。
【0025】
本発明の発泡成形体を構成する発泡セルの形状にも以下のような特徴がある。すなわち、その発泡セルのカット断面は、略円形ないし長円形断面を持つ粒体であって、その大きさは長径基準で1.5〜5.5mmのものが好ましい。この範囲外の場合は、吸音作用に必要な細気孔容積が得られ難いからである。
また、個々の発泡セルは、その長径/短径の範囲が3.0までの略長円形断面粒体であるのが、吸音作用に必要な細気孔容積が得られ易いので好ましい。
【0026】
また、本発明は、図2に示すように、前記発泡成形体1の片面により容積気孔率の少ない表層部2を一体に設けるのが好ましい。この表層部2は、発泡成形体1の保護層として機能する他、吸音体としては遮音層または反射層として機能して吸音効果を高めるものであるから、発泡成形体1より容積気孔率の少ないことが必要であり、目的よっては、無通気性の強固な樹脂層であってもよい。
【0027】
なお、この表層部2は、図2のような片面の他、片面の一部、両面の一部または全部のように目的に応じて配置できる。また、前記表層部2は、発泡成形体1に別途、貼付したものでもよいが、その発泡成形体の発泡成形時に一体に成形されたものが、製造コスト面から好ましい。なお、このような構造の発泡成形吸音体を製造するには、表層部2に相当する部位の加熱条件を調整することで可能である。
【0028】
さらに、本発明は、図3に示すように、発泡成形体1の一部に、より引裂き強度の大なる増強発泡体3を設けたものとして具体化すれば、単に吸音材としてのみならず、強度を負担する構造部材を兼ねる用途にも応用範囲が広がり、好ましいものとなる。
なお、図3の事例では、屈曲角を有する発泡成形体1の角部分に増強発泡体3を配し、さらに表層部2をも併せて備えた構造を示すが、増強発泡体3としては前記表層部2と同様に容積気孔率を少なく設定して強度を向上させたものが適用できる。この場合も、この増強発泡体3を発泡成形体1の発泡成形時に加熱条件を調整して一体に成形するようにしたものが製造コストの面から好適である。
【0029】
次に、本発明をその用途面から補足する。本発明は、吸音材としてのみならず、強度を負担する構造部材を兼ねる材料であるから、適度な吸音性と強度を要求される自動車用内装部材に好適である。図5に示すようにダッシュボード51、車室内壁52、フロア53などに用いられ得るが、この場合、前記表層部2の厚さを発泡成形吸音体の全体の厚さの10〜45%、発泡成形体1部分の厚さを残部(90〜55%)とするのが適当である。特に、フロア53に用いられる場合には、図6に略示するように、前記表層部2を車室側に向けて設置し、車体フロアとの間に発泡成形体1を介在させて、この発泡成形吸音体によって車体フロア53a面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材として好ましく用いられる。この場合、前記表層部の厚さが5〜40mmであるのが好ましい。
【0030】
さらに、本発明は、建築物の壁用、天井用など吸音内装部材の他、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として広く用いられ得るのはいうまでもないが、この場合、前記表層部2は強度を有する化粧面を構成するのであるが、その厚さを発泡成形吸音体の全体の厚さの10〜45%とするのが好ましく、より具体的には、前記表層部2の厚さが5〜40mmであるのが好ましい。
【0031】
(発泡成形吸音体の製造方法)
本発明の発泡成形吸音体の製造方法について、図4(A)(B)を参照して説明する
図4は、発泡成形方法における重要な操作条件である、発泡性樹脂粒子が充填されるキャビティ内の圧力(圧力曲線4,5)と温度(温度曲線4a,5a)を縦軸に、時間経過を横軸にして、その挙動を模式的にやや誇張して示したグラフであり、図4(A)は従来の無通気性の発泡成形方法の場合、図4(B)は本発明の方法の場合である。
【0032】
本発明の方法も、所定の型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して発泡成形体を製作する点を要点としていることは、従来の基本的手法と変わるところはない。
先ず、従来から製造されている、本発明のような気孔構造を持たない無通気性の発泡成形体の製造工程を、本件発明者の知見に基づいて、図4(A)を参照して解説すると、以下のA1)昇温工程、A2)融着温度加熱工程、A3)発泡融着工程、A4)冷却・取出し工程に大別される。
【0033】
(対比する従来方法)
A1)昇温工程:キャビティ内を加熱昇温する工程で、発泡樹脂粒子の充填に続いて、チャンバ内排気、キャビティ内の加熱蒸気による一方向排気、同じく逆方向排気などにより、内部を水蒸気で昇温するとともに水蒸気で充満させる。圧力曲線4、温度曲線4aは実際はジグザグに上昇するが、温度曲線4aは遅れて圧力曲線4を追う形になる。
【0034】
A2)融着温度加熱工程:発泡樹脂粒子を発泡(膨張)させ、かつ融着させて、キャビティ形状に沿った所定の形状に成形するために、加熱水蒸気により全体を加熱してむら無く融着温度に加熱する工程。なお、この工程では、発泡樹脂粒子は融着温度に相当する蒸気圧で加圧され圧縮された粒径形状となって、キャビティ内を自由に流動可能な状態に保たれている。
【0035】
A3)発泡融着工程:均一に融着温度に加熱されたa点において、蒸気の供給を止め、排気弁を開いて圧力を開放する工程。この場合、圧縮された発泡樹脂粒子は融着温度のまま、急激な減圧にさらされるので、内圧によって急激に発泡(膨張)して相互間の空隙を押し潰しさらに相互に押圧して境界面が融着することになる。ここでは、圧力は圧力曲線4が示すように、急激に低下するものの、キャビティ内の温度は、膨張した発泡樹脂粒子(発泡セル)は断熱性なので追随することなく、温度曲線4aのように、融着完了温度:b点まで遅れて低下する。ここで、融着完了温度は前記融着現象が進行しなくなる温度をいう。
【0036】
A4)冷却・取出し工程:型内を冷水などで冷却し、所定形状に発泡成形された成形物を取り出す工程。温度は急激に低下する。
かくして、隣接する発泡セルが全面的に融着して、実質的に無通気性の発泡成形方体が得られるのである。
【0037】
(本発明の方法)
次に、本発明の発泡成形吸音体の製造方法を図4(B)を参照して説明する。
本発明の要点である発泡成形体は、大別してB1)昇温工程、B2)融着温度加熱工程、B3)発泡融着工程、B4)冷却・取出し工程によって得られる。ここで、B1)昇温工程、B2)融着温度加熱工程は、発泡性樹脂粒子を加熱水蒸気の存在下で、その発泡性樹脂粒子の融着温度に均一に加熱する工程であって、先に解説したA1工程、A2工程と同様である。
【0038】
B3)発泡融着工程:本発明の特徴とする工程であり、B2工程に続いて、発泡性樹脂粒子の発泡(膨張)量を制御しながら発泡セルを融着させる工程である。具体的には、先のA3工程のように急激に減圧させるのではなく、蒸気の供給と排気を調節して、圧力曲線5が図4(B)に示すa点からc点に変化するように、ある圧力経路に沿って圧力を制御しながら、最終的に減圧する点が重要である。
【0039】
図4(B)の事例では、キャビティ内が均一な設定融着温度になったa点から、温度が融着完了温度であるb点にいたる間を、キャビティ内圧力を制御終了圧力:c点まで制御しながら減圧している。この圧力制御の目的は、融着温度域にある発泡性樹脂粒子を、粒子の内圧(粒子内圧)と外圧(キャビティ内圧力)とをバランスさせながら発泡(膨張)させる、すなわち、減圧制御してこの発泡(膨張)量を調節して、発泡性樹脂粒子の相互間に空間(容積気孔率)を残しつつ、かつ押し圧させ接触面では融着させようとする点にある。かくして、本発明の発泡成形吸音体の実質的構成材料である、前記した所定の容積気孔率を持つ3次元細気孔を備えながら所定の引裂き強度で代表される強度に融着結合した発泡セルからなる発泡成形体が得られるのである。
【0040】
また、一般的に、減圧速度を大とすれば膨張が促進され容積気孔率は低下し、減圧速度を小とすれば膨張が抑制され容積気孔率は増大することになるが、発泡性樹脂粒子の発泡特性は、樹脂種類や予備発泡処理によって変化するので、減圧速度の程度、減圧曲線、および制御終了圧力cの値は予めに使用する発泡性樹脂粒子に基づいて予備テストを行い定めるものとする。
【0041】
また、この圧力制御は、使用する発泡性樹脂粒子の融着完了温度のb点に至るまで行なうのが適当である。この融着完了温度は、発泡セルの融着が進行しなくなる温度であるから、この温度以下にまで圧力制御しても目的とする効果が期待できない。
なお、本発明における融着温度や、この融着完了温度は、使用する発泡性樹脂粒子の主に樹脂種類によって定まる値であり、例えば、ポリオレフィン樹脂の場合は、下限融着温度は130〜135℃であり、上限は160℃までが好ましい。また、融着完了温度は125〜129℃である。したがって、a点における設定融着温度は、この下限融着温度を基準にして上限までの間に設定するものである。
【0042】
以上説明した発泡成形方法融着工程の後、B4)冷却・取出し工程となるが、この工程は従前のA4工程と同様である。
かくして、本発明の発泡成形吸音体を構成するところの、隣接する発泡セルそれ自体が軟化溶融して結合しており、容積気孔率が10〜40%である3次元細気孔と少なくとも0.16MPaの引裂き強度を有する発泡成形体が得られる。
【0043】
また、この発泡融着工程における圧力制御するに当たり、型内に充満している加熱水蒸気を予め空気で置換するか、またはその圧力制御を行いながら加熱水蒸気を空気で置換するのが好ましい。その理由は、圧力制御に際して通常、水蒸気の大部分は凝縮水に変化するのであるが、その場合、大きな容積変化を伴うとともに、液化の顕熱が発生するなどして、工程中の温度・圧力の予想外の影響を与えるおそれがあり、圧力制御の安定性を損なうおそれがあるからである。また、空気を用いる場合は、水蒸気に比較して温度の昇降制御も容易に行なえるという利点も得られる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の製造方法の実施例およびそれに得られた発泡成形体の特性を説明する。
なお、製造条件の諸元は次の通りであった。
a)使用発泡樹脂:
種類;ポリオレフィン樹脂、粒度;2.5〜3.5mm、予備発泡処理;済み。
b)金型:
キャビティの両側にベントホールを備えた加熱水蒸気による通常の加熱タイプの開閉金型。
【0045】
c)融着温度加熱工程までの昇温工程:
発泡樹脂粒子の充填、チャンバ内排気、キャビティ内の加熱蒸気による一方向排気、同じく逆方向排気などは従来から知られている条件で行なう。
d)融着温度加熱工程:
両側のチャンバに0.3〜0.35MPaの加熱水蒸気を20秒間導入し、キャビティ内の発泡樹脂粒子を設定融着温度(143〜149℃)にまで加熱する。
【0046】
e)発泡・融着工程:
加熱終了のa点から水蒸気の供給を止め、空気を供給しつつ、排気弁を開いて、水蒸気と空気を入れ替えながら減圧速度を調節する。予め確認しておいた融着完了温度のb点(129℃)に相当する時点まで、図4(B)に示すようなa点からb点に至る圧力曲線51に沿って減圧制御を行い、圧力c点(0.18MPa)で減圧制御を終了する。なお、この圧力曲線51、使用発泡樹脂粒子、加熱条件、予定容積気孔率、予定強度などの諸元に適用するよう予め予備テストによって定めておくものとする。
【0047】
f)冷却・取出し工程:チャンバへの給気を停止し、排気弁を開いて、内部に気体を排気し、同時にチャンバ内に冷水を注水して冷却する。その後、金型を開いて成形体を取り出す。
【0048】
かくして得られた発泡成形体は、容積気孔率が20%、引裂き強度が0.22MPaの構造体であって、ハンドリングは勿論、構造部材として利用可能な強度を持つことが確認された。また、そのカット断面の観察結果、発泡セルは略円形ないし長円形断面を持つ粒体であって、それぞれ隣接する発泡セルが接触面においてそれ自体が軟化溶融して結合していることが認められた。なお、本発明における引裂き強度は、JIS−K6767規定の方法で測定したものである。
【0049】
また、このような発泡セルに囲まれる空間は、成形体内に網の目のように連通した気孔を構成し、全体として3次元細孔構造が作られていることも観察され、その吸音特性は、
試料厚さ15mm、100〜3000Hzの周波数領域の測定(JIS(A)1405)において、吸音率が30%以上のピークを持つ低音吸音性に優れる点が確認できた。
【0050】
かくして、本発明の発泡成形体からなる吸音体は、このような3次元細孔構造による吸音効果と、発泡樹脂が持つ本来の材料強度、耐熱性、耐久性を利用した騒音防止用吸音体、例えば、自動車用内装部材、車両用フロアフラット材、住宅壁など建築物用吸音材、産業機器用、道路の騒音防止用、工場や地下鉄などの排気消音ダクト用として広く有用なことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の発泡成形体の模式的断面図。
【図2】本発明の発泡成形体の別形態を示す模式的断面図。
【図3】本発明の発泡成形体の他の別形態を示す模式的断面図。
【図4】本発明の製造法を説明するための圧力、温度と時間の関係を示す模式的経過グラフ(B)および従来の参考グラフ(A)。
【図5】自動車内装を示す断面イラスト図。
【図6】本発明の自動車用内装部材の断面略図。
【符号の説明】
【0052】
1:発泡成形体、11:発泡セル、11a:接触面、12:空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる無数の発泡セルで構成される発泡成形体であって、隣接する発泡セルが接触面においてそれ自体が軟化溶融して結合されるとともに、少なくとも3個の発泡セルに囲まれる空間が連なって形成される連通気孔からなり、容積気孔率が10〜40%である3次元細気孔を備え、かつ少なくとも0.16MPaの引裂き強度を有する発泡成形体からなることを特徴とする発泡成形吸音体。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡成形体の外表面の一部または全部に、より容積気孔率の少ない表層部を付加したことを特徴とする発泡成形吸音体。
【請求項3】
前記表層部が、当該発泡成形体の発泡成形時に一体に成形されたものである請求項2に記載の発泡成形吸音体。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の発泡成形体の一部に、より強度の大なる増強発泡体を付加したことを特徴とする発泡成形吸音体。
【請求項5】
前記増強発泡体が、当該発泡成形体の発泡成形時に一体に成形されたものである請求項4に記載の発泡成形吸音体。
【請求項6】
型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる発泡成形体で構成される発泡成形吸音体の製造方法であって、発泡性樹脂粒子を加熱水蒸気の存在下で、その発泡性樹脂粒子の融着温度に加熱した後、発泡量を制御しながら発泡セルを融着させるとともに冷却して、請求項1に記載の発泡成形体を得ることを特徴とする発泡成形吸音体に製造方法。
【請求項7】
前記発泡量の制御を、発泡性樹脂粒子に対する圧力を制御することにより行なう請求項6に記載の発泡成形吸音体に製造方法。
【請求項8】
前記圧力制御を前記発泡性樹脂粒子の融着完了温度まで行なうようにした請求項7に記載の発泡成形吸音体の製造方法。
【請求項9】
前記融着温度に加熱した後、圧力制御しつつ冷却するに当たり、予め型内の加熱水蒸気を空気で置換することを特徴とする請求項7または8に記載の発泡成形吸音体の製造方法。
【請求項10】
前記融着温度に加熱した後、圧力制御しつつ冷却するに当たり、型内の加熱水蒸気を空気で置換しながら行なうことを特徴とする請求項7または8に記載の発泡成形吸音体の製造方法。
【請求項11】
請求項2、3、4、5のいずれかに記載の発泡成形吸音体であって、前記表層部の厚さが発泡成形吸音体の全体の厚さの10〜45%であり、自動車用内装部材として用いられる発泡成形吸音体。
【請求項12】
請求項2、3、4、5のいずれかに記載の発泡成形吸音体であって、前記表層部を車室側に向けて設置し、この発泡成形吸音体によって車体フロア面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材として用いられる発泡成形吸音体。
【請求項13】
請求項12記載の発泡成形吸音体であって、前記表層部の厚さが5〜40mmである発泡成形吸音体。
【請求項14】
請求項2、3、4、5のいずれかに記載の発泡成形吸音体であって、前記表層部の厚さが発泡成形吸音体の全体の厚さの10〜45%であり、建築用吸音部材、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として用いられる発泡成形吸音体。
【請求項15】
請求項14記載の発泡成形吸音体であって、前記表層部の厚さが5〜40mmである発泡成形吸音体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−110982(P2006−110982A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37960(P2005−37960)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(391023057)株式会社ダイセン工業 (14)
【Fターム(参考)】