発進クラッチ制御装置
【課題】 発進クラッチの温度が上昇することによるクラッチの劣化を防止することができる発進クラッチ制御装置を提供する。
【解決手段】 制御手段は、発進クラッチが締結過渡状態にあって発進クラッチの累積仕事量Qscが所定値Qsc1を超えたとき、協調トルクTQSCを制限して発進クラッチの温度上昇を抑制すると共に、発進クラッチを冷却するオイルの供給量OSを増加させて発進クラッチの温度の減少を促進させる。
【解決手段】 制御手段は、発進クラッチが締結過渡状態にあって発進クラッチの累積仕事量Qscが所定値Qsc1を超えたとき、協調トルクTQSCを制限して発進クラッチの温度上昇を抑制すると共に、発進クラッチを冷却するオイルの供給量OSを増加させて発進クラッチの温度の減少を促進させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の発進時に当該車両の駆動源が出力するトルクを制御する発進クラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の発進時にクラッチの伝達トルクを制御する制御装置として、例えば、下記特許文献1に記載された発進クラッチ制御装置が知られている。これによれば、車両の発進時に良好な発進性能を得るために、大きい入力トルクが得られるエンジン回転数が低い状態で発進制御を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−72353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クラッチを作動させる力を伝達する媒体としてオイルを使用し、オイルポンプからクラッチ内部にオイルを供給する場合、エンジンが回転する度にオイルを供給するため、オイルの流量は、エンジンの回転数にほぼ比例する。このため、エンジン回転数が低いときには、供給されるオイルの量が減少し、オイルによる冷却力も低下する。この状態が継続すると、クラッチの温度が許容できる温度よりも高い状態が継続して、クラッチの劣化を早める原因になる。
【0005】
本発明は、発進クラッチの温度が上昇することによるクラッチの劣化を防止することができる発進クラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の駆動側と被駆動側との間に設けられた発進クラッチによって双方間の接続を制御する制御装置であって、前記発進クラッチの駆動軸の回転数を検知する駆動軸回転数検知手段と、前記発進クラッチの被駆動軸の回転数を検知する被駆動軸回転数検知手段と、前記発進クラッチを冷却する流体を供給する流体供給手段と、当該車両の駆動源及び前記流体供給手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を推定する累積仕事量推定部を備え、前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が所定値を超えたときに、前記駆動源の出力トルクを制限するトルク出力制限処理と、前記流体供給手段が供給する流体の供給量を増加させる供給量増加処理とを実行することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、制御手段は、発進クラッチが締結過渡状態(所謂半クラッチの状態)にあり、発進クラッチの累積仕事量(具体的には、発進クラッチに溜まった熱量)が所定値を超えたとき、駆動源の出力トルクを制限すると共に、発進クラッチを冷却する流体の供給量を増加させる。これによって、発進クラッチに伝達されるトルクを減少させることで発進クラッチの温度の上昇を抑制すると共に、発進クラッチを冷却する流体の供給量を増加することで発進クラッチの温度の減少を促進させる。従って、発進クラッチの温度が許容できない温度になるのを阻止して、発進クラッチの劣化を防止することができる。
【0008】
本発明において、前記制御手段は、前記累積仕事量推定部で前記累積仕事量を推定するために前記発進クラッチに生じる熱エネルギーを推定し、前記供給量増加処理において、前記熱エネルギーが前記流体に吸収されるように前記流体の供給量を増加することが好ましい。これによれば、累積仕事量推定部で累積仕事量を推定するために発進クラッチに生じる熱エネルギーを推定する。供給量増加処理は、このときの熱エネルギーを吸収できるように流体の供給量を増加するため、より効果的に発進クラッチの温度の上昇を抑制できる。
【0009】
本発明において、前記駆動源は、電動機と内燃機関とで構成され、前記流体供給手段は、前記電動機又は前記内燃機関の回転数の増加に応じて前記流体の供給量を増加するように構成され、前記制御手段は、前記トルク出力制限処理において前記電動機の出力トルクを制限し、前記供給量増加処理において前記電動機又は前記内燃機関の回転数を増加することで前記流体供給手段による前記流体の供給量を増加させることが好ましい。
【0010】
これによれば、制御手段は、トルク出力制限処理において電動機の出力トルクを制限して発進クラッチに伝達されるトルクを減少する。また、制御手段は、供給量増加処理において電動機又は内燃機関の回転数を増加させて冷却用の流体の供給量を増加する。これによって、発進クラッチの温度の上昇を抑制すると共に、発進クラッチの温度の減少を促進することができる。
【0011】
また、供給量増加処理が発進クラッチに生じる熱エネルギーを吸収できるように、電動機又は内燃機関の回転数を増加させて流体の供給量を増加するため、発進クラッチの冷却のために大容量のオイルポンプを必要とせず、燃費の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る発進クラッチ制御装置の概略構成を示す図。
【図2】図1の制御装置のCPUが実行する発進クラッチの制御処理の手順を示すフローチャート。
【図3】図2のステップST1の前条件確認処理の手順を示すフローチャート。
【図4】図2のステップST2の仕事量・仕事率算出処理の手順を示すフローチャート。
【図5】図2のステップST3の制御状態選択処理の手順を示すフローチャート。
【図6】図2のステップST4のトルク協調制御処理の手順を示すフローチャート。
【図7】図2のステップST5のストール保護モード設定処理の手順を示すフローチャート。
【図8】図2のステップST6のクラッチ制御処理の手順を示すフローチャート。
【図9】入力軸の回転数と発進クラッチの伝達トルクの補正係数Kpstとの関係を示す図。
【図10】仕事率PWSCとオイル供給量OSとの特性を示す図。
【図11】本実施形態の協調トルクTQSC、入力軸の回転数Ndr、クラッチ圧目標値PCCMD、オイル供給量OS、仕事率PWSC、累積仕事量Qsc、及び発進クラッチ温度TSCの時間変化に対する各パラメータの変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る発進クラッチ制御装置の構成を示す図である。本実施形態は、モータ(電動機)MG及びエンジン(内燃機関)ENGを駆動源とするハイブリッド車両のクラッチ制御装置であり、当該車両の変速機は無段変速機(CVT)を用いている。
【0014】
駆動軸2は、モータMG又はエンジンENGからの出力が伝達される。駆動軸2は、駆動ギア2aが固定されており、駆動ギア2aは、駆動軸2がモータMG又はエンジンENGからの出力によって回転することで一体に回転する。駆動軸2は、前後進切換機構3及び前進クラッチ4を介して変速機の入力軸5に連結されている。入力軸5には、可変油圧シリンダ6によりV溝幅すなわち伝動ベルト7の巻き径が変更可能な可変プーリ(以下、「駆動側プーリ」という)8が設けられている。
【0015】
伝動ベルト7は、変速機の駆動側プーリ8と、変速機の従動軸9に設けられた可変プーリ(以下、「従動側プーリ」という)11とに、巻き掛けられている。従動側プーリ11も、可変油圧シリンダ10によってV溝幅すなわち伝動ベルト7の巻き径が変更可能になっている。
【0016】
以上の構成要素3〜11により無段変速機が構成される。従動軸9は、図示しないクラッチピストンを有する発進クラッチ12を介して、出力歯車13を設けた出力軸14と連結され、出力歯車13は、中間歯車15及び16を介して差動装置17に連結されている。
【0017】
インギヤ時には、エンジンENGから駆動軸2に伝達された回転力は、前進クラッチ4を介して駆動側プーリ8に伝達され、更に伝動ベルト7を介して従動側プーリ11に伝達される。そして、アクセルペダルの踏み込みに応じて、従動側プーリ11の回転力が発進クラッチ12を介して出力軸14に伝達され、出力軸14の回転力は、出力歯車13、中間歯車15、16及び差動装置17を介して、図示しない左右の駆動車輪に伝達される。
【0018】
発進クラッチ12は、発進クラッチ12のクラッチピストンに油圧がかかることによって動作し、この油圧は発進クラッチ油圧制御装置34によって制御される。発進クラッチ油圧制御装置34の油吸入側は、油圧ポンプ35を介して油タンク36に接続されている。発進クラッチ油圧制御装置34は、ソレノイドへの通電によって動作するリニアソレノイド弁(LS)を備えており、油タンク36に溜まっているオイルを使用してクラッチピストンの油圧を発生させるものである。
【0019】
電子コントロールユニット(ECU)20には、前記油圧シリンダ6及び10等の油圧を制御するための制御装置31が接続されている。モータMG及びエンジンENGは、ECU20によって出力トルク及び回転が制御される。また、ECU20は、モータMG及びエンジンENGの出力トルク及び回転を、制御装置31の出力する電気信号に従って制御する場合もある。
【0020】
制御装置31は、各種演算処理を実行するCPU31aと、該CPU31aで実行される各種演算プログラム、後述する各種テーブル及び演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)31bと、各種電気信号を入力すると共に、演算結果等に基づいて駆動信号(電気信号)を外部に出力するための入出力インタフェース31cとで構成されている。また、制御装置31のCPU31aは、発進クラッチ12の累積仕事量を推定する累積仕事量推定部を備える。
【0021】
制御装置31には、ECU20が出力するエンジン回転数NE、スロットル弁開度AP、吸気管内絶対圧PBAの各値が供給される。
【0022】
また、制御装置31には、入力軸5の回転数Ndrを検出するために駆動側プーリ8の近傍に取り付けられた入力軸回転センサ21からの出力、従動軸9の回転数Ndnを検出するために従動側プーリ11の近傍に取り付けられた従動軸回転センサ22からの出力、及び車速VELを検出するために出力軸14の近傍に取り付けられた出力軸回転センサ23からの出力も供給される。なお、入力軸5の回転数Ndrは、前進クラッチ4が完全に締結している状態では、エンジン回転数NE及びモータMGの回転数と同じ値となる。
【0023】
また、制御装置31は、上記発進クラッチ油圧制御装置34のリニアソレノイド弁を作動させるための電流信号を供給すると共に、そのソレノイドにかかる電圧値LSVを検知するようになっている。
【0024】
更に、制御装置31には、自動変速機のセレクタ(減速比選択装置)40が接続され、該セレクタ40のセレクトレバー(図示せず)の状態が検出されて制御装置31に供給される。本実施形態では、セレクタ40は、ニュートラル(N)、パーキング(P)、ドライブ(D)、リバース(R)、セカンド(S)及びロー(L)の6種類のレンジを選択可能になっている。
【0025】
制御装置31は、制御油圧発生装置33a,33bに対し、駆動側プーリ油圧(DR)及び従動側プーリ油圧(DN)を発生させるための信号、発進クラッチ油圧制御装置34のリニアソレノイド弁を作動させる信号、及び、ECU20に対しエンジンENGの出力トルクを制御するための信号をそれぞれ出力する。
【0026】
高圧(PH)発生装置32の油吸入側は、油圧ポンプ35を介して油タンク36に接続されている。高圧発生装置32の油供給側は制御油圧発生装置33a,33bの油吸入側に接続され、高圧発生装置32から油圧が制御油圧発生装置33a,33bに供給される。
【0027】
制御油圧発生装置33aの油供給側は前記油圧シリンダ6に接続され、制御油圧発生装置33bの油供給側は前記油圧シリンダ10の油吸入側に接続され、制御装置31からの制御信号に応じて調圧された油圧が、それぞれ油圧シリンダ6及び10に供給される。
【0028】
こうして制御油圧発生装置33a,33bから油圧シリンダ6及び10へ供給された油圧に応じて、それぞれ駆動側プーリ8及び従動側プーリ11のV溝幅が決定されることで、無段変速機の変速比が決定される。
【0029】
また、油圧ポンプ35は、従動ギア35bが固定されている従動軸35aに接続されている。従動ギア35bは中間ギア37に噛み合いし、中間ギア37は駆動ギア2aに噛み合いしている。これによって、モータMG又はエンジンENGの回転が、駆動軸2、駆動ギア2a、中間ギア37、従動ギア35b及び従動軸35aを介して油圧ポンプ35に伝達される。油圧ポンプ35は、伝達される回転が多くなるに従い、油タンク36から流出するオイルの量が多くなるように構成されている。
【0030】
油タンク36のオイルは、流路を循環することにより発進クラッチ12等を冷却する。すなわち、発進クラッチ12は、締結過渡状態時に発生する摩擦熱で温度が上昇した場合でも、オイルが循環することで冷却される。制御装置31は、オイルが循環する量を増加することで、発進クラッチ12等の冷却を促進することができる。すなわち、ECU20は駆動源としてのモータMG又はエンジンENGの回転数を増加させることで、油圧ポンプ35に伝達する回転数を増加し、発進クラッチ12等の冷却を促進することができる。本実施形態では、油圧ポンプ35が本発明における流体供給手段に相当する。
【0031】
また、油タンク36のオイルは、発進クラッチ12等を冷却することでオイルの温度(以下、「油温」という)OTが上昇するので、流路の一部に設けられているオイルクーラー(図示省略)等によって冷却される。
【0032】
本実施形態では、制御装置31が、発進クラッチ制御も行なう発進クラッチ制御装置として構成されている。従って、制御装置31のCPU31aによって、発進クラッチ制御処理が実行される。
【0033】
次に、本発明の制御手段としての制御装置31のCPU31aによって実行される発進クラッチ制御処理について説明する。本実施形態では、このCPU31aが本発明における累積仕事量推定部として動作し、またトルク出力制限処理及び供給量増加処理を実行する。
【0034】
図2は、制御装置31のCPU31aが実行する制御処理の手順を示すフローチャートである。本フローチャートで示される制御処理プログラムは、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
【0035】
この制御処理において、初めのステップST1では、車両の状態が正常か否かを判定する前条件確認を行なう。次にステップST2に進み、仕事量・仕事率の算出を行なう。次にステップST3に進み、制御状態の選択を行なう。次にステップST4に進み、トルク協調制御を行なう。次にステップST5に進み、ストール保護モード設定を行なう。次にステップST6に進み、クラッチ制御を行ない、本制御処理を終了する。
【0036】
以下、図3〜図11を参照してステップST1〜ST6の処理を説明する。
【0037】
図3は、図2のステップST1で行なわれる前条件確認処理の手順を示すフローチャートである。
【0038】
まず、ステップST11では、車両の動作状態が正常か否かの判定を行なう。例えば、エンジン回転数NE、入力軸5の回転数Ndr、従動軸9の回転数Ndn、車速VELなどの値が正常か否かの判定、及び、発進クラッチ12のリニアソレノイドなどの動作が正常か否かの判定を行なう。これらのどれか一つに異常があったときは仕事率の算出ができないため、正常でない(ステップST11の判定結果がNO)と判断してステップST12に進み、仕事率・仕事量算出モードをオフにする。続いて、ステップST13に進み、前条件不成立状態に設定し、図3の処理を終了する。
【0039】
前記ステップST11で正常と判断されたとき(ステップST11の判定結果がYESのとき)は、ステップST14に進み、仕事率・仕事量算出モードをオンにする。続いて、ステップST15に進み、ドライブバイワイヤDBWが正常か否かの判定を行い、正常でないときは、前記ステップST13に進む。
【0040】
前記ステップST15で正常と判断されたとき(ステップST15の判定結果がYESのとき)は、ステップST16に進み、前記セレクタ40のセレクトレバーがリバース(R)に入っているか否かの判定を行い、入っていると判定されたとき(ステップST16の判定結果がYESのとき)は、前記ステップST13に進む。
【0041】
ステップST16でリバース(R)に入っていないと判定されたとき(ステップST16の判定結果がNOのとき)は、ステップST17に進み、前記セレクタ40のセレクトレバーがドライブ(D)、セカンド(S)、ロー(L)のいずれかのギヤにインギヤが完了しているか否かの判定を行い、完了していなかったとき(ステップST17の判定結果がNOのとき)は、前記ステップST13に進む。ステップST17でインギヤが完了していたとき(ステップST17の判定結果がYESのとき)は、ステップST18に進み、前条件成立状態に設定し、図3の処理を終了する。
【0042】
以上の処理により、車両の状態が正常であり、前進段に入っているときは前条件成立状態に設定され、それ以外のときは前条件不成立状態に設定される。
【0043】
図4は、図2のステップST2で行なわれる仕事量・仕事率算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0044】
まず、ステップST101では、前記ステップST12、ST14で設定された仕事率・仕事量算出モードがオンかオフかを判定する。仕事率・仕事量算出モードがオンのとき(ステップST101の判定結果がYESのとき)は、ステップST102に進み、車両がイグニッションオン直後の状態か否かの判定を行なう。イグニッションオン直後の状態のとき(ステップST102の判定結果がYESのとき)は、ステップST103に進む。
【0045】
ステップST103は、外気温TAが所定の値TA2未満か否か、エンジンENGを冷却する冷却水の水温TWが所定の値TW2未満か否か、そして、前記外気温TAと前記水温TWとの差(絶対値)が所定の値TDAW2未満であるか否かの判定を行なう。所定値TA2及びTW2は、外気温TA及び水温TWが充分冷えていることを判定できるような値に設定される。所定値TDAW2は、エンジンENGをオフにしてから長時間放置されていることを判定できるような値に設定される。すなわち、外気温TAと水温TWとの差が殆どないことにより、長時間放置されているか否かの判定を行なう。
【0046】
ステップST103で、外気温TAが所定の値TA2未満であり、冷却水の水温TWが所定の値TW2未満であり、且つ外気温TAと水温TWとの差が所定の値TDAW2未満である場合(ステップST103の判定結果がYESの場合)は、ステップST104に進み、発進クラッチ12の累積仕事量Qscを0に初期化して、ステップST105に進む。ステップST103で、外気温TAが所定の値TA2以上であるか、冷却水の水温TWが所定の値TW2以上であるか、又は外気温TAと水温TWとの差が所定の値TDAW2以上である場合(ステップST103の判定結果がNOの場合)は、前記ステップST105に進む。すなわち、車両が充分長い時間放置された状態であると判断されたときのみ、累積仕事量Qscが0に初期化される。これは、発進クラッチ12が充分に冷えていない状態でイグニッションがオンされたときに、累積仕事量Qscが0に初期化されることを回避するための処理である。
【0047】
前記ステップST105はイグニッションオン直後の状態をオフにする。このため、前記ステップST102の判定結果がYESの状態になるのは、イグニッションオン直後の最初の一回だけになり、前記ステップST103〜ST105の処理は、一回だけ実行される。これ以降は、後述するステップST106〜ST110の処理が実行されることになる。
【0048】
すなわち、累積仕事量Qscが0に初期化される可能性があるのはイグニッションオン後の最初だけになり、充分長い時間放置されていない状態でイグニッションがオンされたときは、累積仕事量Qscは0に初期化されない。
【0049】
前記ステップST102でイグニッションオン直後の状態でないと判定されたとき(ステップST102の判定結果がNOのとき)は、ステップST106に進み、現制御周期における発進クラッチ12の仕事率PWSCを算出する。その算出方法は、次のとおりである。
【0050】
まず、次式1により発進クラッチ12のクラッチピストンの推力FSCを算出する。
【0051】
FSC=(PCCMD+Pcf−PCRP)×ASC …式1
ここで、PCCMDは発進クラッチ12に作用する圧力の目標値(クラッチ圧目標値)、Pcfは発進クラッチ12内部のオイルが回転して発生する遠心力によって発生する圧力、PCRPは発進クラッチ12のクリープ力発生圧、ASCは発進クラッチ12のピストンの面積である。
【0052】
上式1の(PCCMD+Pcf−PCRP)によって、発進クラッチ12の駆動側と被駆動側とに作用する圧力が求められ、前記クラッチピストンの面積を乗算することによって、発進クラッチ12のクラッチピストンの推力FSCが算出される。
【0053】
次に、次式2によって仕事率PWSCを算出する。
【0054】
PWSC=FSC×(従動側プーリ11の回転数−車体側回転数)×KQ …式2
ここで、従動側プーリ11の回転数は、従動側回転センサ22の出力であり、発進クラッチ12の駆動軸の回転数を表し、車体側回転数は、発進クラッチ12の被駆動軸の回転数を表す。また、KQは、発進クラッチ12のクラッチピストンの推力に従動側プーリ11の回転数と車体側回転数の差を乗算した結果を発進クラッチ12の仕事率に換算するための係数である。発進クラッチ12の被駆動軸と車両の車輪の間は、固定されたギア比の歯車のみで構成されており、発進クラッチ12の被駆動軸の回転数は、車速VELとこのギア比とから算出される。
【0055】
従動側回転センサ22が本発明における駆動軸回転数検知手段に相当し、出力軸回転センサ23の出力から発進クラッチ12の被駆動軸の回転数を決定する処理が本発明における被駆動軸回転数検知手段に相当する。
【0056】
上記のように仕事率を算出後、ステップST107に進み、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW以上であるか否かの判定を行なう。所定値PWについては後述する。
【0057】
ステップST107で仕事率PWSCが所定の値PW以上であった場合(ステップST107の判定結果がYESの場合)には、ステップST108に進み、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCから所定の値PW2を引いた値を時間軸で制御周期分積分して得られた仕事量を現時点の累積仕事量Qscに加算した値と、予め定めた仕事量上限値QscMaxとで、値の小さい方を新たな累積仕事量Qscとして設定する。
【0058】
所定値PW2は、仕事率PWSCの補正が目的であり、通常は0に設定される。仕事量上限値QscMaxは、累積仕事量Qscが増え続けないようにするために設定される。これは、発進クラッチ12の温度(以下、「発進クラッチ温度」という)TSCの上昇は、発進クラッチ12が滑り続けている間、上昇し続けることはなく、ある程度の温度で上昇が飽和するためである。
【0059】
以上により、累積仕事量Qscが現時点の累積仕事量以上になるように算出される。ステップST101で仕事率・仕事量計算モードがオフであった場合(ステップST101の判定結果がNOの場合)、又はステップST107で仕事率PWSCが所定の値PW未満であった場合(ステップST107の判定結果がNOの場合)には、ステップST109に進み、仕事率減算値PWDNを設定する。仕事率減算値PWDNは、累積仕事量Qscを減算するための値である。エンジン回転数NEと油温OTとに基づいてオイルによる発進クラッチ12の冷却力が決定される。仕事率減算値PWDNは、この冷却力に基づいて決定される値である。
【0060】
前記油温OTは、CPU31aによって次のようにして推定される。発進クラッチ油温制御装置34のソレノイドに供給される電流値とソレノイドにかかる電圧値LSVとからソレノイドの抵抗値を求め、ソレノイドの抵抗値と温度との関係を表したテーブルに基づいてソレノイドの温度を決定し、この温度を油温OTと推定している。
【0061】
前記ステップST109の終了後、ステップST110に進み、仕事率減算値PWDNを時間軸で制御周期分積分して得られた仕事量を累積仕事量Qscから減じた値を新たな累積仕事量Qscとして設定する。但し、累積仕事量Qscが負になったときは、0を設定する。よって、累積仕事量Qscが現時点の累積仕事量以下になるように算出される。
【0062】
以上のように、累積仕事量Qscは、ステップST108で増加し、ST110で減少する。現制御周期の仕事率PWSCが小さいときはクラッチへの負荷が低い(クラッチに生じる熱が少ない)から、オイルによる冷却が十分機能するため、仕事量(クラッチに溜まる熱)を累積する必要がない。前記所定値PWは、この切り替えを行なえるような値に設定される。
【0063】
ステップST105、ST108、ST110の処理が終了すると、図4の処理を終了する。
【0064】
ステップST106〜110の処理が、本発明における累積仕事量推定部に相当する。
【0065】
図5は、図2のステップST3で行なわれる制御状態選択処理の手順を示すフローチャートである。
【0066】
まず、ステップST200では、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW3を超えているか否かを判定する。仕事率PWSCが所定の値PW3を超えていないとき(ステップST200の判定結果がNOのとき)は、ステップST201に進み、油温OTに基づいてタイマーの値を設定して、ステップST202に進む。仕事率PWSCが所定の値PW3を超えているとき(ステップST200の判定結果がYESのとき)は、タイマーの値は設定せずにステップST202に進む。超えているときにタイマーの値を設定しない理由は後述する。
【0067】
前記ステップST201は、タイマーの値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定し、ステップST202に進む。このように設定する理由は後述する。
【0068】
ステップST202は、タイマーの値が0か否かを判定する。タイマーの値が0でないとき(ステップST202の判定結果がNOのとき)はステップST203に進み、油温OTに基づいて所定の値Qsc1を設定し、ステップST204に進む。所定値Qsc1の値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定する。このように設定する理由は後述する。
【0069】
前記ステップST204は、ステップST108又はST110で設定された累積仕事量QscがステップST203で設定された所定値Qsc1より大きいか否かを判定する。累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きくないとき(ステップST204の判定結果がNOのとき)はステップST205に進み、保護制御モードをオフにする。
【0070】
前記ステップST202でタイマーの値が0のとき(ステップST202の判定結果がYESのとき)か、又は前記ステップST204で累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きいとき(ステップST204の判定結果がYESのとき)は、ステップST206に進み、保護制御モードをオンにする。
【0071】
ステップST205、ST206の処理が終わったら、ステップST207に進み、タイマーの値を更新し、図5の処理を終了する。タイマーの値は、現時点の値より小さくなるように設定され、現時点の値が0のときは0が設定される。
【0072】
以上より、保護制御モードがオンになる条件は、タイマーが0になるか、累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きいかである。
【0073】
仕事率PWSCが所定値PW3を超えているとき(例えば、ストール状態)には、タイマーの値は設定されずにステップST207で更新された値のままになる。ストール状態が続いたときは、タイマーの値が更新されていき、ある期間続くとタイマーが0になる。すなわち、タイマーの値は、ストール状態になっていない状態での油温OTに対するストール状態の継続を許容できる期間を意味している。よって、ステップST201で、タイマーの値は、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定している。
【0074】
また、ステップST203で、所定値Qsc1の値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定している理由は、ストール状態が短期間でも、油温OTが高いことにより、オイルの潤滑量が少なく冷却力が不充分であるため、発進クラッチ12の劣化の原因になるため、油温OTが高いときには保護制御モードをオンにしたほうがよいからである。なお、油温OTがある所定の温度を超えたときには、所定値Qsc1を0に設定することにより、保護制御モードを強制的にオンにすることもできる。
【0075】
図6は、図2のステップST4で行なわれるトルク協調制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0076】
まず、ステップST300では、ステップST13、ST18で設定した前条件が成立状態にあるか否かの判定を行ない、成立状態にあるとき(ステップST300の判定結果がYESのとき)は、ステップST301に進む。
【0077】
前記ステップST301は、前記ステップST205、ST206で設定した保護制御モードがオンかオフかの判定を行ない、オンのとき(ステップST301の判定結果がYESのとき)は、ステップST302に進む。
【0078】
ステップST302は、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW4を超えているか否かの判定を行ない、超えているとき(ステップST302の判定結果がYESのとき)はステップST303に進む。所定値PW4は、現制御周期で発進クラッチ12に生じる熱がオイルの冷却力に対してトルク制限をする必要があるか否かを判別できるように設定される。
【0079】
ステップST303は、アクセルペダルの踏み込みに応じて決定されるアクセルペダル要求トルクTQAPが、目標トルクを超えているか否かの判定を行なう。アクセルペダル要求トルクTQAPが目標トルクを超えていたとき(ステップST303の判定結果がYESのとき)はステップST304に進む。目標トルクは、エンジンENGの出力トルクやクラッチの耐熱性能によって決定される値である。
【0080】
ステップST304は、前回の協調トルクTQSCと減算値DTQの差の値と、目標トルクとで、値の大きい方を協調トルクTQSCとして設定し、ステップST305に進む。減算値DTQは、減算用の一定値として予め設定されている。
【0081】
ステップST305は、連続協調状態をオンに設定し、ステップST306に進む。連続協調状態とは、前回の協調トルク設定時に、アクセルペダル要求トルクTQAPよりも小さなトルクに設定した状態を指す。
【0082】
ステップST306は、モータMG及びエンジンENGの出力トルクの合計トルクが協調トルクTQSCとなるように制御を行う。ステップST306の処理が終了すると図6の処理を終了する。
【0083】
ステップST303でアクセルペダル要求トルクTQAPが目標トルクを超えていないと判定されたとき(ステップST303の判定結果がNOであったとき)は、ステップST307に進み、アクセルペダル要求トルクTQAPを協調トルクTQSCとして設定し、ステップST308に進む。
【0084】
ステップST308は、協調トルクTQSCの制限を行なわない状態であるため、連続協調状態をオフに設定し、ステップST306に進む。
【0085】
ステップST300で前条件が成立状態にないとき(ステップST300の判定結果がNOのとき)、ステップST301で保護制御モードがオフのとき(ステップST301の判定結果がNOのとき)、ステップST302で仕事率PWSCが所定値PW4を超えていないとき(ステップST302の判定結果がNOのとき)のいずれかであるときは、ステップST309に進む。
【0086】
ステップST309は、連続協調状態にあるか否かを判定し、連続協調状態でないとき(ステップST309の判定結果がNOのとき)は、出力トルクを制限する必要がないため、前記ステップST307に進む。連続協調状態のとき(ステップST309の判定結果がYESのとき)は、ステップST310に進む。
【0087】
ステップST310は、前回の協調トルクTQSCと加算値DTQの和と、アクセルペダル要求トルクTQAPとで値の小さい方を協調トルクTQSCとして設定し、ステップST311に進む。ここでは、現時点で出力トルクの制限をかける必要がないときでも、前時点で出力トルクの制限を行なっていたときに、アクセルペダル要求トルクTQAPを協調トルクTQSCとして設定することにより出力トルクの急激な変化が発生することを防止するため、加算値DTQを設定し、出力トルクを徐々に増加させている。
【0088】
ステップST311は、ステップST310で設定された協調トルクTQSCがアクセルペダル要求トルクTQAPより小さいか否かを判定し、小さいとき(ステップST311の判定結果がYESのとき)は、前記ステップST306に進み、大きいとき(ステップST311の判定結果がNOのとき)は、前記ステップST308に進む。すなわち、現制御周期で、エンジンENGの出力トルクに制限をかけなかったときは、連続協調状態をオフに設定している。
【0089】
ステップST301〜304及びステップST309〜310の処理が、本発明におけるトルク出力制限処理に相当する。
【0090】
図7は、図2のステップST5で行なわれるストール保護モード設定処理の手順を示すフローチャートである。
【0091】
まず、ステップST401では、ストール保護モードがオンであるか否かを判定する。ここで、ストール保護モードとは後述するステップST405又はST407で設定されるモードであり、ストール保護モードがオンの場合には、後述するように入力軸5の回転数Ndrが増加するように制御される。ストール保護モードがオフである場合(ステップST401の判定結果がNOの場合)には、ステップST402に進み、前条件が成立状態にあるか否かの判定を行ない、成立状態にあるとき(ステップST402の判定結果がYESの場合)は、ステップST403に進む。
【0092】
ステップST403では、前記ステップST205又はST206で設定した保護制御モードがオンかオフかの判定を行ない、オンである場合(ステップST403の判定結果がYESの場合)には、ステップST404に進む。
【0093】
ステップST404では、前記ステップST107と同様に、ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW以上であるか否かの判定を行なう。仕事率PWSCが所定の値PW以上の場合(ステップST404の判定結果がYESの場合)には、ステップST405に進み、ストール保護モードをオンにして図7の制御処理を終了する。ステップST402で前条件が成立状態にない場合(ステップST402の判定結果がNOの場合)、ステップST403で保護制御モードがオフの場合(ステップST403の判定結果がNOの場合)、ステップST404で仕事率PWSCが所定の値PW以上ではない場合(ステップST404の判定結果がNOの場合)には、図7の制御処理を終了する。すなわち、この場合には、ストール保護モードをオフのままとする。
【0094】
前記ステップST401でストール保護モードであると判定された場合(ステップST401の判定結果がYESの場合)には、ステップST406に進み、発進クラッチ12が締結過渡状態であるか否かを判定する。発進クラッチ12が締結過渡状態ではないと判定される場合(ステップST406の判定結果がNOの場合)には、ステップST407に進み、ストール保護モードをオフにして図7の制御処理を終了する。
【0095】
ステップST406で、発進クラッチ12が締結過渡状態であると判定された場合(ステップST406の判定結果がYESの場合)には、ステップST408に進み、車速VELが所定の速度V1以上であるか否かを判定する。ここで、所定の速度V1は、通常の走行中か否かを判定できる値(例えば、5km/h)に設定される。車速VELが所定の速度V1以上である場合(ステップST408の判定結果がYESの場合)には、走行中であると判定し、図7の制御処理を終了する。すなわち、発進クラッチ12が締結過渡状態である場合に走行中(回転数が高い)である場合には、発進クラッチ12の保護のために、ストール保護モードはオンのままとする。車速VELが所定の速度V1未満である場合(ステップST408の判定結果がNOの場合)には、ステップST409に進む。
【0096】
ステップST409では、「エンジン回転数NEが所定の回転数NE1以上であるか」及び「スロットル弁開度APが所定の開度AP1以上であるか」の少なくともいずれかの判定結果がYESとなる場合には、エンジンがストール中であり、発進クラッチ12の保護が必要として、ストール保護モードはオンのままとして、図7の制御処理を終了する。
【0097】
ここで、所定の回転数NE1は、走行中ではなく(車速VELが所定の速度V1未満)、発進クラッチ12の被駆動側の回転数(車速VELに応じた回転数)が低い場合に、発進クラッチ12の駆動側の回転数が大きくなり、締結過渡状態の発進クラッチ12の摩擦熱が高くなると予測される回転数(例えば、2000rpm)に設定される。また、所定の開度AP1は、現時点ではエンジン回転数NEが所定の回転数NE1未満であるがスロットル弁開度APが高く、これからエンジン回転数NEが上昇して発進クラッチ12の摩擦熱が高くなると予測される開度(例えば、4/8)に設定される。
【0098】
ステップST409で、「エンジン回転数NEが所定の回転数NE1未満であり」且つ「スロットル弁開度APが所定の開度AP1未満である」場合(ステップST409の判定結果がNOの場合)には、前記ステップST407に進み、ストール保護モードをオフにして図7の制御処理を終了する。
【0099】
図8は、図2のステップST6で行なわれる発進クラッチ12の制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0100】
まず、ステップST501では、ストール保護モードがオンであるか否かを判定する。ストール保護モードがオンでなかった場合(ステップST501の判定結果がNOの場合)、ステップST502に進み、図9の実線で示される通常マップを選択する。
【0101】
図9は、入力軸5の回転数Ndr(横軸)と発進クラッチ12の伝達トルクT2の補正係数Kpst(縦軸)との関係を示す図である。実線はストール保護モードがオフのときに使用するマップ(通常マップ)を示し、破線はストール保護モードがオンのときにクリープ走行をしているときのマップ(クリープ走行用の保護マップ)を示し、一点鎖線はストール保護モードがオンのときに通常走行(アクセルペダル操作による走行)をしているときのマップ(通常走行用の保護マップ)を示す。
【0102】
図9に示されるように、クリープ走行用の保護マップ及び通常走行用の保護マップは通常マップに比べて、補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが高く設定される。特に、クリープ走行用の保護マップでは所定の回転数N1以上のときに、又は、通常走行用の保護マップでは所定の回転数N2以上のときに、通常マップよりも補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが高く設定される。また、通常走行用の保護マップは、所定の回転数N1〜N3では、クリープ走行用の保護マップに比べて補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが低く設定され、所定の回転数N3以降ではクリープ走行用の保護マップと同じ値に設定される。
【0103】
ステップST501で、ストール保護モードがオンであると判定された場合(ステップST501の判定結果がYESの場合)、ステップST503に進み、スロットル弁開度APが0であるか否かを判定する。スロットル弁開度APが0でなかった場合(ステップST503の判定結果がNOの場合)には、ステップST504に進み、図9の一点鎖線で示される通常走行用の保護マップを選択する。ステップST503でスロットル弁開度APが0であると判定された場合(ステップST503の判定結果がYESの場合)には、ステップST505に進み、図9の破線で示されるクリープ走行用の保護マップを選択する。
【0104】
ステップST503の判定によって、走行中又は走行を開始しようとしている状態か(スロットル弁開度APが0ではない)、クリープ走行中又はクリープ走行に移行しようとしている状態か(スロットル弁開度APが0)を判定している。クリープ走行時には発進クラッチ12の滑りを大きくしたいため、低回転のときのクラッチ締結圧を低く設定する。
【0105】
ステップST502,ST504又はST505の処理が終了すると、次にステップST506に進み、ステップST502,ST504又はST505で選択したマップによって発進クラッチ12の伝達トルクT2の補正係数Kpstを現時点の入力軸5の回転数Ndrから決定する。
【0106】
次にステップST507に進み、ステップST506で決定された補正係数Kpstとトルク容量係数Kとから、次式3によって基本トルクT1を算出する。
【0107】
T1=K×Kpst …式3
ここでトルク容量係数Kとは、入力軸5の回転数Ndrと出力軸回転センサ23の出力回転数(車速VEL)との回転数の差、スロットル弁開度APに応じて決定される値である。
【0108】
次にステップST508に進み、ステップST507で算出された基本トルクT1を、次式4によって現時点で選択されているギヤのギヤレシオRGで補正して、発進クラッチ12の伝達トルクT2を算出する。
【0109】
T2=T1×RG …式4
次にステップST509に進み、発進クラッチ12の駆動側と被駆動側で伝達するトルクの値が、前記ステップST508で算出した伝達トルクT2の値となるように、発進クラッチ12へ作用する油圧(発進クラッチ12の締結圧)を制御する。伝達トルクT2を増加する場合には、前述のクラッチ圧目標値PCCMDを増加する。すなわち、発進クラッチ12の締結圧(クラッチ圧目標値PCCMD)を増加させることで発進クラッチ12の駆動側と被駆動側との滑りが小さくなり、駆動側と被駆動側との間で伝達可能なトルク(伝達トルクT2)が増加する。このようにクラッチ圧目標値PCCMDと伝達トルクT2とは相関があり、例えば、お互いの対応関係をテーブル化してメモリ31bに予め記憶しておくことで、一方が決定すれば他方を得られるようになっている。
【0110】
ステップST509の処理が終了すると図8の制御処理を終了する。
【0111】
図9に示されるように、ストール保護モードがオンのとき(クリープ走行用の保護マップ又は通常走行用の保護マップを使用するとき)は、オフのとき(通常マップを使用するとき)に比べて入力軸5の回転数Ndrに対する補正係数Kpstが小さくなるように設定される。
【0112】
式3及び式4より、伝達トルクT2は、補正係数Kpstの減少に従って減少する。このため、ストール保護モードがオンのときには伝達トルクT2が小さくなる。伝達トルクT2が小さくなるということは、発進クラッチ12の駆動側と被駆動側との滑りが大きくなるということである。このため、被駆動側の回転数を伝達トルクT2が小さくなる前と同じ回転数に保つには、被駆動側の回転数に対する駆動側の回転数を大きくする必要があり、入力軸5の回転数Ndrすなわちエンジン回転数NE又はモータMGの回転数が増加する。これにより、油圧ポンプ35に伝達される回転が増加して、油タンク36から流出するオイルの量(オイル供給量)OSが増加する。このため、発進クラッチ12の冷却が促進される。
【0113】
図8の処理、特にステップST501の判定結果がYESであった場合のST503〜ST509の処理が、本発明における供給量増加処理に相当する。
【0114】
また、上述のように伝達トルクT2を小さくすることで駆動側と被駆動側との滑りが大きくなるので、摩擦熱によって発進クラッチ温度TSCが上昇する(発進クラッチ12の仕事率PWSCが増加する)。このため、通常走行用の保護マップ及びクリープ走行用の保護マップは、伝達トルクT2の減少により発進クラッチ12に生じる熱エネルギー(発熱量)を、入力軸5の回転数Ndrの増加によるオイル供給量OSの増加によって吸収可能なように予め設定されている。
【0115】
図10は、仕事率PWSCとオイル供給量OSとの関係を示す。横軸が仕事率PWSCで、縦軸がオイル供給量OSである。実線で示された曲線は、仕事率PWSCで仕事をしているときの発進クラッチ12の発熱量と、オイル供給量OSによる冷却力とが釣り合う点を結んだ線を表したものである。この曲線より図10の左上の領域は冷却力が発熱量に勝り発進クラッチ12を冷却できる領域であり、右下の領域は冷却力が発熱量に劣り発進クラッチ12に熱が溜る領域である。
【0116】
従って、通常走行用の保護マップ及びクリープ走行用の保護マップは、入力軸5の回転数Ndrに応じたオイル供給量OSと、補正係数Kpstに応じた仕事率PWSCとが図10に示される曲線上若しくは曲線より左上の領域になるように設定される。これによって、上述したように、通常走行用の保護マップ及びクリープ走行用の保護マップを用いたときに、伝達トルクT2の減少により発進クラッチ12に生じる熱エネルギー(発熱量)を吸収可能となる。
【0117】
また、上述したように、通常走行用の保護マップは、所定の回転数N1〜N3では、クリープ走行用の保護マップに比べて補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが低く設定され、所定の回転数N3以降ではクリープ走行用の保護マップと同じ値に設定される。これによって、高回転(Ndr≧N3)で走行しているときには、アクセルペダル操作の有無が切り替わったときであっても伝達トルクT2が一定になり、クラッチ圧目標値PCCMDも一定になる。低回転(Ndr<N3)で走行しているときには、クリープ走行時には発進クラッチ12の滑りを大きくしたいため、伝達トルクT2を小さくし、クラッチ圧目標値PCCMDを小さくしている。
【0118】
また、本実施形態では、発進クラッチ12の制御処理を実行するときの回転数の範囲においては、モータMGは回転数を増加させるとトルクが減少するトルク特性を有し、エンジンENGは回転数を増加させるとトルクが増加するトルク特性を有している。
【0119】
図8のステップST509で伝達トルクT2になるように発進クラッチ12を制御するとき、ストール保護モードがオンの場合には、オフの場合に比べて入力軸5の回転数Ndrを増加させるために、モータMG又はエンジンENGの回転数を増加する。また、図6のステップST306ではモータMG及びエンジンENGの出力トルクが協調トルクTQSCとなるように制御する(基本的にはトルクの出力を制限する)。
【0120】
すなわち、制御装置31のCPU31aは、図2の全ステップST1〜ST6を実行することで、入力軸5の回転数Ndrの増加と共に、モータMG及びエンジンENGの出力トルクを減少させる制御を行なう。
【0121】
そこで、制御装置31のCPU31aは、入力軸5の回転数Ndrを増加させる場合にはモータMGの回転数を増加させる。そして、制御装置31のCPU31aは、この回転数の増加によってモータMGの出力トルクが減少したときにモータMG及びエンジンENGの出力トルクの合計トルクが協調トルクTQSCまで減少しない場合には、エンジンENGの出力トルクを減少させて協調トルクTQSCまで減少させる制御をする。このように本実施形態では、図2の各ステップST1〜ST6の各処理間で関わり合う処理については互いに協調動作するようにプログラムが規定されている。
【0122】
図11は、制御装置31のCPU31aが上述した図2〜図8のフローチャートに従って実行する発進クラッチ制御処理によって、発進クラッチ12が締結過渡状態であるときの、(a)協調トルクTQSC、(b)入力軸5の回転数Ndr、(c)クラッチ圧目標値PCCMD、(d)オイル供給量OS、(e)仕事率PWSC、(f)累積仕事量Qsc、及び(g)発進クラッチ温度TSC、の各値の時間変化(以下、「パターン」という)の一例を示す。図11の縦軸は各パラメータの値であり、横軸は時間である。
【0123】
時刻t0以降、エンジンENG及びモータMGの回転数が上昇することで入力軸5の回転数Ndrが徐々に上昇し、これに従って他のパラメータも徐々に上がる。
【0124】
時刻t1は、協調トルクTQSCが、TQ1を超えた時刻を示し、時刻t2は、累積仕事量Qscが出力トルクを制限するための値(トルク制限実行閾値)Qsc1を超えた時刻を示し、時刻t3は、協調トルクTQSCがTQ1の値に制限された時刻を示す。また、入力軸5の回転数Ndrと同じ回転数となるエンジン回転数NEは、時刻t1〜t2の間に前述の所定の回転数NE1以上となる。また、図11(c)のP1は、クラッチ圧目標値PCCMDが値P1を超え、且つ所定時間の間クラッチ圧目標値PCCMDに変動ないと見做せる場合に発進クラッチ12が完全に締結している状態であると判定する値である。
【0125】
また、時刻t2以降、各パラメータは、それぞれ破線と実線で2つのパターンが示されている。実線は本実施形態によりエンジンENGの出力トルクを制限すると共に、ストール保護モードがオンである場合のパターンであり、破線は従来の制御を用いた場合のパターンである。
【0126】
時刻t1で協調トルクTQSCがTQ1を超えているが、累積仕事量QscがQsc1を超えていないので時刻t2まではトルク制限が行なわれない。時刻t2で累積仕事量QscがQsc1を超えると、図5のステップST204の判定結果がYESになり、ステップST206で保護制御モードがオンになる。これにより、図7のステップST402及びステップST403の判定結果がそれぞれYES(前条件が成立状態、且つ保護制御モードがオン)となる。このとき、仕事率PWSCが所定の値PW以上である場合、すなわち図4のステップST107で累積仕事量Qscを増加させるように判定されるような仕事率PWSCである場合には、図7のステップST404の判定結果がYESになりストール保護モードをオンにする。
【0127】
次の制御周期が実行される場合には、ストール保護モードがオンであり(ステップST401の判定結果がYES)、発進クラッチ12は締結過渡状態であり(ステップST406の判定結果がYES)、ステップST408又はステップST409の判定が実行される。このとき、上述したように、車速VELが所定の速度V1以上であるか、エンジン回転数NEが所定の回転数NE1以上であるか又はスロットル弁開度APが所定の開度AP1以上である場合には、ストール保護モードはオンのまま維持される。図11では、時刻t2以降はエンジン回転数NE(入力軸5の回転数Ndr)は所定の回転数NE1より大きくなっているため、ストール保護モードはオンのまま維持される。
【0128】
このため、時刻t2以降は、通常走行用の保護マップ又はクリープ走行用の保護マップに基づいて発進クラッチ12の伝達トルクT2が決定される。このとき、伝達トルクT2が小さくなるように決定されると共に、入力軸5の回転数Ndrが大きくなるように設定される。これによって、図11(d)に示されるようにオイル供給量OSが増加する。また、発進クラッチ12の滑りが大きくなるので、図11(e)に示されるように発進クラッチ12の仕事率PWSCが従来(破線)よりも上昇する。
【0129】
上述したように、通常走行用の保護マップ又はクリープ走行用の保護マップは、伝達トルクT2が小さくなることによって生じる発進クラッチ12の熱エネルギーを吸収できるように設定されているので、仕事率PWSCが増加しても発進クラッチ12に熱量が溜まることはない。このため、仕事率PWSCが通常よりも上昇することで図11(f)に示されるように累積仕事量Qscが増加した場合であっても、発進クラッチ12に熱量が溜まることが抑制されているので、図11(g)に示されるように発進クラッチ温度TSCの上昇は従来に比較して緩やかになる。
【0130】
このように累積仕事量Qscは、発進クラッチ温度TSCそのものを表すものではなく、発進クラッチ12を熱から充分に保護できるように高目に設定されている。例えば、ストール状態が長く続いた後は、入力軸5の回転数Ndrの増加によりオイル供給量OSが増加して発進クラッチ12の冷却力が増加した場合であっても連続したストール状態のときには累積仕事量が累積されている。これは、発進クラッチ12の熱エネルギーを吸収したオイルがオイルクーラーによって冷却された場合であっても、必ずしも熱エネルギーを吸収する前の油温OTまで冷却されるわけではないからである。累積仕事量Qscがこのように設定されていることで、発進クラッチ12に溜まる熱量が多くなることを抑制できる。
【0131】
なお、仕事率PWSC、累積仕事量Qscは、オイル供給量OS又は入力軸5の回転数Ndrから得られる発進クラッチ12を冷却する力を考慮するように算出されるようにしてもよい。
【0132】
以上のように、本実施形態では、クラッチ締結過渡状態にあって、油温OTが所定値より高いか又は累積仕事量Qscが油温OTによって決定された所定値Qsc1を超えたときに、発進クラッチ12の仕事率PWSCが高い場合には、駆動源としてのモータMG及びエンジンENGの出力トルクを制限すると共に、駆動源としてのモータMGの回転数を上昇させる。
【0133】
これにより、発進クラッチ12に作用するトルクが減少すると共に、入力軸5の回転数Ndrが増加してオイル供給量OSが増加することで、発進クラッチ12の冷却力が増加するため、クラッチの劣化を防止することができる。
【0134】
また、入力軸5の回転数Ndrを増加させることでオイル供給量OSを増加できるので、油圧ポンプ35を小型化できる。これによって、オイルフリクションの増大と燃費の低下を防止することができる。
【0135】
また、本実施形態では、ストール保護モードがオンのときに使用される通常走行用の保護マップ又はクリープ走行用の保護マップが、入力軸5の回転数Ndrに応じたオイル供給量OSと、補正係数Kpstに応じた仕事率PWSCとが発進クラッチ12に生じる熱エネルギーを吸収できるように設定される。詳細には、図10に示される曲線上若しくは曲線より左上の領域になるように設定される。これによって、ストール保護モードがオンのときに、伝達トルクT2の減少により発進クラッチ12に生じる熱エネルギー(発熱量)を吸収可能となる。
【0136】
尚、本実施形態では、エンジン回転数NEが増加することで供給量が増加する油圧ポンプ35を流体供給手段として構成しているがこれに限らない。例えば、流体供給手段は、駆動源とは独立して作動可能に構成された電力によって作動するポンプ(電動ポンプ)であってもよい。この場合には、駆動源の出力トルクを減少させると共に、電動ポンプからのオイルの供給量が増加するように制御すれば、本発明の効果である発進クラッチ12の保護ができる。
【0137】
また、駆動源として、モータMG及びエンジンENGを備えるハイブリッド自動車としているがこれに限らず、出力トルクの制御が可能であればよい。例えば、モータMGのみで構成される電気自動車、又はエンジンENGのみで構成されるエンジン自動車であってもよい。この場合には、例えば、図2の制御を行なうときに使用される駆動源の回転数の範囲において、トルクを減少に伴い回転数が増加するトルク特性の駆動源であれば、流体供給手段として、本実施形態のように駆動源の回転数の増加に応じてオイルの供給量が増加する油圧ポンプで構成すればよい。このようなトルク特性の駆動源ではない場合、又はこのようなトルク特性であってもトルクの減少によって得られる回転数の増加によるオイルの供給量が発進クラッチ12を充分に冷却できない場合においては、駆動源とは独立して作動可能に構成された電力によって作動するポンプ(電動ポンプ)で構成すればよい。
【符号の説明】
【0138】
ENG…エンジン(内燃機関)、MG…モータ(電動機)、9…従動軸(発進クラッチの駆動軸)、12…発進クラッチ、14…出力軸(発進クラッチの被駆動軸)、22…従動軸回転センサ(駆動軸回転数検知手段)、23…出力軸回転センサ(被駆動軸回転数検知手段)、31…制御装置(制御手段)、31a…CPU(制御手段,累積仕事量推定部,トルク出力制限処理,供給量増加処理,被駆動軸回転数検知手段)、31b…記憶装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の発進時に当該車両の駆動源が出力するトルクを制御する発進クラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の発進時にクラッチの伝達トルクを制御する制御装置として、例えば、下記特許文献1に記載された発進クラッチ制御装置が知られている。これによれば、車両の発進時に良好な発進性能を得るために、大きい入力トルクが得られるエンジン回転数が低い状態で発進制御を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−72353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クラッチを作動させる力を伝達する媒体としてオイルを使用し、オイルポンプからクラッチ内部にオイルを供給する場合、エンジンが回転する度にオイルを供給するため、オイルの流量は、エンジンの回転数にほぼ比例する。このため、エンジン回転数が低いときには、供給されるオイルの量が減少し、オイルによる冷却力も低下する。この状態が継続すると、クラッチの温度が許容できる温度よりも高い状態が継続して、クラッチの劣化を早める原因になる。
【0005】
本発明は、発進クラッチの温度が上昇することによるクラッチの劣化を防止することができる発進クラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の駆動側と被駆動側との間に設けられた発進クラッチによって双方間の接続を制御する制御装置であって、前記発進クラッチの駆動軸の回転数を検知する駆動軸回転数検知手段と、前記発進クラッチの被駆動軸の回転数を検知する被駆動軸回転数検知手段と、前記発進クラッチを冷却する流体を供給する流体供給手段と、当該車両の駆動源及び前記流体供給手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を推定する累積仕事量推定部を備え、前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が所定値を超えたときに、前記駆動源の出力トルクを制限するトルク出力制限処理と、前記流体供給手段が供給する流体の供給量を増加させる供給量増加処理とを実行することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、制御手段は、発進クラッチが締結過渡状態(所謂半クラッチの状態)にあり、発進クラッチの累積仕事量(具体的には、発進クラッチに溜まった熱量)が所定値を超えたとき、駆動源の出力トルクを制限すると共に、発進クラッチを冷却する流体の供給量を増加させる。これによって、発進クラッチに伝達されるトルクを減少させることで発進クラッチの温度の上昇を抑制すると共に、発進クラッチを冷却する流体の供給量を増加することで発進クラッチの温度の減少を促進させる。従って、発進クラッチの温度が許容できない温度になるのを阻止して、発進クラッチの劣化を防止することができる。
【0008】
本発明において、前記制御手段は、前記累積仕事量推定部で前記累積仕事量を推定するために前記発進クラッチに生じる熱エネルギーを推定し、前記供給量増加処理において、前記熱エネルギーが前記流体に吸収されるように前記流体の供給量を増加することが好ましい。これによれば、累積仕事量推定部で累積仕事量を推定するために発進クラッチに生じる熱エネルギーを推定する。供給量増加処理は、このときの熱エネルギーを吸収できるように流体の供給量を増加するため、より効果的に発進クラッチの温度の上昇を抑制できる。
【0009】
本発明において、前記駆動源は、電動機と内燃機関とで構成され、前記流体供給手段は、前記電動機又は前記内燃機関の回転数の増加に応じて前記流体の供給量を増加するように構成され、前記制御手段は、前記トルク出力制限処理において前記電動機の出力トルクを制限し、前記供給量増加処理において前記電動機又は前記内燃機関の回転数を増加することで前記流体供給手段による前記流体の供給量を増加させることが好ましい。
【0010】
これによれば、制御手段は、トルク出力制限処理において電動機の出力トルクを制限して発進クラッチに伝達されるトルクを減少する。また、制御手段は、供給量増加処理において電動機又は内燃機関の回転数を増加させて冷却用の流体の供給量を増加する。これによって、発進クラッチの温度の上昇を抑制すると共に、発進クラッチの温度の減少を促進することができる。
【0011】
また、供給量増加処理が発進クラッチに生じる熱エネルギーを吸収できるように、電動機又は内燃機関の回転数を増加させて流体の供給量を増加するため、発進クラッチの冷却のために大容量のオイルポンプを必要とせず、燃費の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る発進クラッチ制御装置の概略構成を示す図。
【図2】図1の制御装置のCPUが実行する発進クラッチの制御処理の手順を示すフローチャート。
【図3】図2のステップST1の前条件確認処理の手順を示すフローチャート。
【図4】図2のステップST2の仕事量・仕事率算出処理の手順を示すフローチャート。
【図5】図2のステップST3の制御状態選択処理の手順を示すフローチャート。
【図6】図2のステップST4のトルク協調制御処理の手順を示すフローチャート。
【図7】図2のステップST5のストール保護モード設定処理の手順を示すフローチャート。
【図8】図2のステップST6のクラッチ制御処理の手順を示すフローチャート。
【図9】入力軸の回転数と発進クラッチの伝達トルクの補正係数Kpstとの関係を示す図。
【図10】仕事率PWSCとオイル供給量OSとの特性を示す図。
【図11】本実施形態の協調トルクTQSC、入力軸の回転数Ndr、クラッチ圧目標値PCCMD、オイル供給量OS、仕事率PWSC、累積仕事量Qsc、及び発進クラッチ温度TSCの時間変化に対する各パラメータの変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る発進クラッチ制御装置の構成を示す図である。本実施形態は、モータ(電動機)MG及びエンジン(内燃機関)ENGを駆動源とするハイブリッド車両のクラッチ制御装置であり、当該車両の変速機は無段変速機(CVT)を用いている。
【0014】
駆動軸2は、モータMG又はエンジンENGからの出力が伝達される。駆動軸2は、駆動ギア2aが固定されており、駆動ギア2aは、駆動軸2がモータMG又はエンジンENGからの出力によって回転することで一体に回転する。駆動軸2は、前後進切換機構3及び前進クラッチ4を介して変速機の入力軸5に連結されている。入力軸5には、可変油圧シリンダ6によりV溝幅すなわち伝動ベルト7の巻き径が変更可能な可変プーリ(以下、「駆動側プーリ」という)8が設けられている。
【0015】
伝動ベルト7は、変速機の駆動側プーリ8と、変速機の従動軸9に設けられた可変プーリ(以下、「従動側プーリ」という)11とに、巻き掛けられている。従動側プーリ11も、可変油圧シリンダ10によってV溝幅すなわち伝動ベルト7の巻き径が変更可能になっている。
【0016】
以上の構成要素3〜11により無段変速機が構成される。従動軸9は、図示しないクラッチピストンを有する発進クラッチ12を介して、出力歯車13を設けた出力軸14と連結され、出力歯車13は、中間歯車15及び16を介して差動装置17に連結されている。
【0017】
インギヤ時には、エンジンENGから駆動軸2に伝達された回転力は、前進クラッチ4を介して駆動側プーリ8に伝達され、更に伝動ベルト7を介して従動側プーリ11に伝達される。そして、アクセルペダルの踏み込みに応じて、従動側プーリ11の回転力が発進クラッチ12を介して出力軸14に伝達され、出力軸14の回転力は、出力歯車13、中間歯車15、16及び差動装置17を介して、図示しない左右の駆動車輪に伝達される。
【0018】
発進クラッチ12は、発進クラッチ12のクラッチピストンに油圧がかかることによって動作し、この油圧は発進クラッチ油圧制御装置34によって制御される。発進クラッチ油圧制御装置34の油吸入側は、油圧ポンプ35を介して油タンク36に接続されている。発進クラッチ油圧制御装置34は、ソレノイドへの通電によって動作するリニアソレノイド弁(LS)を備えており、油タンク36に溜まっているオイルを使用してクラッチピストンの油圧を発生させるものである。
【0019】
電子コントロールユニット(ECU)20には、前記油圧シリンダ6及び10等の油圧を制御するための制御装置31が接続されている。モータMG及びエンジンENGは、ECU20によって出力トルク及び回転が制御される。また、ECU20は、モータMG及びエンジンENGの出力トルク及び回転を、制御装置31の出力する電気信号に従って制御する場合もある。
【0020】
制御装置31は、各種演算処理を実行するCPU31aと、該CPU31aで実行される各種演算プログラム、後述する各種テーブル及び演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)31bと、各種電気信号を入力すると共に、演算結果等に基づいて駆動信号(電気信号)を外部に出力するための入出力インタフェース31cとで構成されている。また、制御装置31のCPU31aは、発進クラッチ12の累積仕事量を推定する累積仕事量推定部を備える。
【0021】
制御装置31には、ECU20が出力するエンジン回転数NE、スロットル弁開度AP、吸気管内絶対圧PBAの各値が供給される。
【0022】
また、制御装置31には、入力軸5の回転数Ndrを検出するために駆動側プーリ8の近傍に取り付けられた入力軸回転センサ21からの出力、従動軸9の回転数Ndnを検出するために従動側プーリ11の近傍に取り付けられた従動軸回転センサ22からの出力、及び車速VELを検出するために出力軸14の近傍に取り付けられた出力軸回転センサ23からの出力も供給される。なお、入力軸5の回転数Ndrは、前進クラッチ4が完全に締結している状態では、エンジン回転数NE及びモータMGの回転数と同じ値となる。
【0023】
また、制御装置31は、上記発進クラッチ油圧制御装置34のリニアソレノイド弁を作動させるための電流信号を供給すると共に、そのソレノイドにかかる電圧値LSVを検知するようになっている。
【0024】
更に、制御装置31には、自動変速機のセレクタ(減速比選択装置)40が接続され、該セレクタ40のセレクトレバー(図示せず)の状態が検出されて制御装置31に供給される。本実施形態では、セレクタ40は、ニュートラル(N)、パーキング(P)、ドライブ(D)、リバース(R)、セカンド(S)及びロー(L)の6種類のレンジを選択可能になっている。
【0025】
制御装置31は、制御油圧発生装置33a,33bに対し、駆動側プーリ油圧(DR)及び従動側プーリ油圧(DN)を発生させるための信号、発進クラッチ油圧制御装置34のリニアソレノイド弁を作動させる信号、及び、ECU20に対しエンジンENGの出力トルクを制御するための信号をそれぞれ出力する。
【0026】
高圧(PH)発生装置32の油吸入側は、油圧ポンプ35を介して油タンク36に接続されている。高圧発生装置32の油供給側は制御油圧発生装置33a,33bの油吸入側に接続され、高圧発生装置32から油圧が制御油圧発生装置33a,33bに供給される。
【0027】
制御油圧発生装置33aの油供給側は前記油圧シリンダ6に接続され、制御油圧発生装置33bの油供給側は前記油圧シリンダ10の油吸入側に接続され、制御装置31からの制御信号に応じて調圧された油圧が、それぞれ油圧シリンダ6及び10に供給される。
【0028】
こうして制御油圧発生装置33a,33bから油圧シリンダ6及び10へ供給された油圧に応じて、それぞれ駆動側プーリ8及び従動側プーリ11のV溝幅が決定されることで、無段変速機の変速比が決定される。
【0029】
また、油圧ポンプ35は、従動ギア35bが固定されている従動軸35aに接続されている。従動ギア35bは中間ギア37に噛み合いし、中間ギア37は駆動ギア2aに噛み合いしている。これによって、モータMG又はエンジンENGの回転が、駆動軸2、駆動ギア2a、中間ギア37、従動ギア35b及び従動軸35aを介して油圧ポンプ35に伝達される。油圧ポンプ35は、伝達される回転が多くなるに従い、油タンク36から流出するオイルの量が多くなるように構成されている。
【0030】
油タンク36のオイルは、流路を循環することにより発進クラッチ12等を冷却する。すなわち、発進クラッチ12は、締結過渡状態時に発生する摩擦熱で温度が上昇した場合でも、オイルが循環することで冷却される。制御装置31は、オイルが循環する量を増加することで、発進クラッチ12等の冷却を促進することができる。すなわち、ECU20は駆動源としてのモータMG又はエンジンENGの回転数を増加させることで、油圧ポンプ35に伝達する回転数を増加し、発進クラッチ12等の冷却を促進することができる。本実施形態では、油圧ポンプ35が本発明における流体供給手段に相当する。
【0031】
また、油タンク36のオイルは、発進クラッチ12等を冷却することでオイルの温度(以下、「油温」という)OTが上昇するので、流路の一部に設けられているオイルクーラー(図示省略)等によって冷却される。
【0032】
本実施形態では、制御装置31が、発進クラッチ制御も行なう発進クラッチ制御装置として構成されている。従って、制御装置31のCPU31aによって、発進クラッチ制御処理が実行される。
【0033】
次に、本発明の制御手段としての制御装置31のCPU31aによって実行される発進クラッチ制御処理について説明する。本実施形態では、このCPU31aが本発明における累積仕事量推定部として動作し、またトルク出力制限処理及び供給量増加処理を実行する。
【0034】
図2は、制御装置31のCPU31aが実行する制御処理の手順を示すフローチャートである。本フローチャートで示される制御処理プログラムは、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
【0035】
この制御処理において、初めのステップST1では、車両の状態が正常か否かを判定する前条件確認を行なう。次にステップST2に進み、仕事量・仕事率の算出を行なう。次にステップST3に進み、制御状態の選択を行なう。次にステップST4に進み、トルク協調制御を行なう。次にステップST5に進み、ストール保護モード設定を行なう。次にステップST6に進み、クラッチ制御を行ない、本制御処理を終了する。
【0036】
以下、図3〜図11を参照してステップST1〜ST6の処理を説明する。
【0037】
図3は、図2のステップST1で行なわれる前条件確認処理の手順を示すフローチャートである。
【0038】
まず、ステップST11では、車両の動作状態が正常か否かの判定を行なう。例えば、エンジン回転数NE、入力軸5の回転数Ndr、従動軸9の回転数Ndn、車速VELなどの値が正常か否かの判定、及び、発進クラッチ12のリニアソレノイドなどの動作が正常か否かの判定を行なう。これらのどれか一つに異常があったときは仕事率の算出ができないため、正常でない(ステップST11の判定結果がNO)と判断してステップST12に進み、仕事率・仕事量算出モードをオフにする。続いて、ステップST13に進み、前条件不成立状態に設定し、図3の処理を終了する。
【0039】
前記ステップST11で正常と判断されたとき(ステップST11の判定結果がYESのとき)は、ステップST14に進み、仕事率・仕事量算出モードをオンにする。続いて、ステップST15に進み、ドライブバイワイヤDBWが正常か否かの判定を行い、正常でないときは、前記ステップST13に進む。
【0040】
前記ステップST15で正常と判断されたとき(ステップST15の判定結果がYESのとき)は、ステップST16に進み、前記セレクタ40のセレクトレバーがリバース(R)に入っているか否かの判定を行い、入っていると判定されたとき(ステップST16の判定結果がYESのとき)は、前記ステップST13に進む。
【0041】
ステップST16でリバース(R)に入っていないと判定されたとき(ステップST16の判定結果がNOのとき)は、ステップST17に進み、前記セレクタ40のセレクトレバーがドライブ(D)、セカンド(S)、ロー(L)のいずれかのギヤにインギヤが完了しているか否かの判定を行い、完了していなかったとき(ステップST17の判定結果がNOのとき)は、前記ステップST13に進む。ステップST17でインギヤが完了していたとき(ステップST17の判定結果がYESのとき)は、ステップST18に進み、前条件成立状態に設定し、図3の処理を終了する。
【0042】
以上の処理により、車両の状態が正常であり、前進段に入っているときは前条件成立状態に設定され、それ以外のときは前条件不成立状態に設定される。
【0043】
図4は、図2のステップST2で行なわれる仕事量・仕事率算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0044】
まず、ステップST101では、前記ステップST12、ST14で設定された仕事率・仕事量算出モードがオンかオフかを判定する。仕事率・仕事量算出モードがオンのとき(ステップST101の判定結果がYESのとき)は、ステップST102に進み、車両がイグニッションオン直後の状態か否かの判定を行なう。イグニッションオン直後の状態のとき(ステップST102の判定結果がYESのとき)は、ステップST103に進む。
【0045】
ステップST103は、外気温TAが所定の値TA2未満か否か、エンジンENGを冷却する冷却水の水温TWが所定の値TW2未満か否か、そして、前記外気温TAと前記水温TWとの差(絶対値)が所定の値TDAW2未満であるか否かの判定を行なう。所定値TA2及びTW2は、外気温TA及び水温TWが充分冷えていることを判定できるような値に設定される。所定値TDAW2は、エンジンENGをオフにしてから長時間放置されていることを判定できるような値に設定される。すなわち、外気温TAと水温TWとの差が殆どないことにより、長時間放置されているか否かの判定を行なう。
【0046】
ステップST103で、外気温TAが所定の値TA2未満であり、冷却水の水温TWが所定の値TW2未満であり、且つ外気温TAと水温TWとの差が所定の値TDAW2未満である場合(ステップST103の判定結果がYESの場合)は、ステップST104に進み、発進クラッチ12の累積仕事量Qscを0に初期化して、ステップST105に進む。ステップST103で、外気温TAが所定の値TA2以上であるか、冷却水の水温TWが所定の値TW2以上であるか、又は外気温TAと水温TWとの差が所定の値TDAW2以上である場合(ステップST103の判定結果がNOの場合)は、前記ステップST105に進む。すなわち、車両が充分長い時間放置された状態であると判断されたときのみ、累積仕事量Qscが0に初期化される。これは、発進クラッチ12が充分に冷えていない状態でイグニッションがオンされたときに、累積仕事量Qscが0に初期化されることを回避するための処理である。
【0047】
前記ステップST105はイグニッションオン直後の状態をオフにする。このため、前記ステップST102の判定結果がYESの状態になるのは、イグニッションオン直後の最初の一回だけになり、前記ステップST103〜ST105の処理は、一回だけ実行される。これ以降は、後述するステップST106〜ST110の処理が実行されることになる。
【0048】
すなわち、累積仕事量Qscが0に初期化される可能性があるのはイグニッションオン後の最初だけになり、充分長い時間放置されていない状態でイグニッションがオンされたときは、累積仕事量Qscは0に初期化されない。
【0049】
前記ステップST102でイグニッションオン直後の状態でないと判定されたとき(ステップST102の判定結果がNOのとき)は、ステップST106に進み、現制御周期における発進クラッチ12の仕事率PWSCを算出する。その算出方法は、次のとおりである。
【0050】
まず、次式1により発進クラッチ12のクラッチピストンの推力FSCを算出する。
【0051】
FSC=(PCCMD+Pcf−PCRP)×ASC …式1
ここで、PCCMDは発進クラッチ12に作用する圧力の目標値(クラッチ圧目標値)、Pcfは発進クラッチ12内部のオイルが回転して発生する遠心力によって発生する圧力、PCRPは発進クラッチ12のクリープ力発生圧、ASCは発進クラッチ12のピストンの面積である。
【0052】
上式1の(PCCMD+Pcf−PCRP)によって、発進クラッチ12の駆動側と被駆動側とに作用する圧力が求められ、前記クラッチピストンの面積を乗算することによって、発進クラッチ12のクラッチピストンの推力FSCが算出される。
【0053】
次に、次式2によって仕事率PWSCを算出する。
【0054】
PWSC=FSC×(従動側プーリ11の回転数−車体側回転数)×KQ …式2
ここで、従動側プーリ11の回転数は、従動側回転センサ22の出力であり、発進クラッチ12の駆動軸の回転数を表し、車体側回転数は、発進クラッチ12の被駆動軸の回転数を表す。また、KQは、発進クラッチ12のクラッチピストンの推力に従動側プーリ11の回転数と車体側回転数の差を乗算した結果を発進クラッチ12の仕事率に換算するための係数である。発進クラッチ12の被駆動軸と車両の車輪の間は、固定されたギア比の歯車のみで構成されており、発進クラッチ12の被駆動軸の回転数は、車速VELとこのギア比とから算出される。
【0055】
従動側回転センサ22が本発明における駆動軸回転数検知手段に相当し、出力軸回転センサ23の出力から発進クラッチ12の被駆動軸の回転数を決定する処理が本発明における被駆動軸回転数検知手段に相当する。
【0056】
上記のように仕事率を算出後、ステップST107に進み、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW以上であるか否かの判定を行なう。所定値PWについては後述する。
【0057】
ステップST107で仕事率PWSCが所定の値PW以上であった場合(ステップST107の判定結果がYESの場合)には、ステップST108に進み、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCから所定の値PW2を引いた値を時間軸で制御周期分積分して得られた仕事量を現時点の累積仕事量Qscに加算した値と、予め定めた仕事量上限値QscMaxとで、値の小さい方を新たな累積仕事量Qscとして設定する。
【0058】
所定値PW2は、仕事率PWSCの補正が目的であり、通常は0に設定される。仕事量上限値QscMaxは、累積仕事量Qscが増え続けないようにするために設定される。これは、発進クラッチ12の温度(以下、「発進クラッチ温度」という)TSCの上昇は、発進クラッチ12が滑り続けている間、上昇し続けることはなく、ある程度の温度で上昇が飽和するためである。
【0059】
以上により、累積仕事量Qscが現時点の累積仕事量以上になるように算出される。ステップST101で仕事率・仕事量計算モードがオフであった場合(ステップST101の判定結果がNOの場合)、又はステップST107で仕事率PWSCが所定の値PW未満であった場合(ステップST107の判定結果がNOの場合)には、ステップST109に進み、仕事率減算値PWDNを設定する。仕事率減算値PWDNは、累積仕事量Qscを減算するための値である。エンジン回転数NEと油温OTとに基づいてオイルによる発進クラッチ12の冷却力が決定される。仕事率減算値PWDNは、この冷却力に基づいて決定される値である。
【0060】
前記油温OTは、CPU31aによって次のようにして推定される。発進クラッチ油温制御装置34のソレノイドに供給される電流値とソレノイドにかかる電圧値LSVとからソレノイドの抵抗値を求め、ソレノイドの抵抗値と温度との関係を表したテーブルに基づいてソレノイドの温度を決定し、この温度を油温OTと推定している。
【0061】
前記ステップST109の終了後、ステップST110に進み、仕事率減算値PWDNを時間軸で制御周期分積分して得られた仕事量を累積仕事量Qscから減じた値を新たな累積仕事量Qscとして設定する。但し、累積仕事量Qscが負になったときは、0を設定する。よって、累積仕事量Qscが現時点の累積仕事量以下になるように算出される。
【0062】
以上のように、累積仕事量Qscは、ステップST108で増加し、ST110で減少する。現制御周期の仕事率PWSCが小さいときはクラッチへの負荷が低い(クラッチに生じる熱が少ない)から、オイルによる冷却が十分機能するため、仕事量(クラッチに溜まる熱)を累積する必要がない。前記所定値PWは、この切り替えを行なえるような値に設定される。
【0063】
ステップST105、ST108、ST110の処理が終了すると、図4の処理を終了する。
【0064】
ステップST106〜110の処理が、本発明における累積仕事量推定部に相当する。
【0065】
図5は、図2のステップST3で行なわれる制御状態選択処理の手順を示すフローチャートである。
【0066】
まず、ステップST200では、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW3を超えているか否かを判定する。仕事率PWSCが所定の値PW3を超えていないとき(ステップST200の判定結果がNOのとき)は、ステップST201に進み、油温OTに基づいてタイマーの値を設定して、ステップST202に進む。仕事率PWSCが所定の値PW3を超えているとき(ステップST200の判定結果がYESのとき)は、タイマーの値は設定せずにステップST202に進む。超えているときにタイマーの値を設定しない理由は後述する。
【0067】
前記ステップST201は、タイマーの値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定し、ステップST202に進む。このように設定する理由は後述する。
【0068】
ステップST202は、タイマーの値が0か否かを判定する。タイマーの値が0でないとき(ステップST202の判定結果がNOのとき)はステップST203に進み、油温OTに基づいて所定の値Qsc1を設定し、ステップST204に進む。所定値Qsc1の値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定する。このように設定する理由は後述する。
【0069】
前記ステップST204は、ステップST108又はST110で設定された累積仕事量QscがステップST203で設定された所定値Qsc1より大きいか否かを判定する。累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きくないとき(ステップST204の判定結果がNOのとき)はステップST205に進み、保護制御モードをオフにする。
【0070】
前記ステップST202でタイマーの値が0のとき(ステップST202の判定結果がYESのとき)か、又は前記ステップST204で累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きいとき(ステップST204の判定結果がYESのとき)は、ステップST206に進み、保護制御モードをオンにする。
【0071】
ステップST205、ST206の処理が終わったら、ステップST207に進み、タイマーの値を更新し、図5の処理を終了する。タイマーの値は、現時点の値より小さくなるように設定され、現時点の値が0のときは0が設定される。
【0072】
以上より、保護制御モードがオンになる条件は、タイマーが0になるか、累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きいかである。
【0073】
仕事率PWSCが所定値PW3を超えているとき(例えば、ストール状態)には、タイマーの値は設定されずにステップST207で更新された値のままになる。ストール状態が続いたときは、タイマーの値が更新されていき、ある期間続くとタイマーが0になる。すなわち、タイマーの値は、ストール状態になっていない状態での油温OTに対するストール状態の継続を許容できる期間を意味している。よって、ステップST201で、タイマーの値は、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定している。
【0074】
また、ステップST203で、所定値Qsc1の値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定している理由は、ストール状態が短期間でも、油温OTが高いことにより、オイルの潤滑量が少なく冷却力が不充分であるため、発進クラッチ12の劣化の原因になるため、油温OTが高いときには保護制御モードをオンにしたほうがよいからである。なお、油温OTがある所定の温度を超えたときには、所定値Qsc1を0に設定することにより、保護制御モードを強制的にオンにすることもできる。
【0075】
図6は、図2のステップST4で行なわれるトルク協調制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0076】
まず、ステップST300では、ステップST13、ST18で設定した前条件が成立状態にあるか否かの判定を行ない、成立状態にあるとき(ステップST300の判定結果がYESのとき)は、ステップST301に進む。
【0077】
前記ステップST301は、前記ステップST205、ST206で設定した保護制御モードがオンかオフかの判定を行ない、オンのとき(ステップST301の判定結果がYESのとき)は、ステップST302に進む。
【0078】
ステップST302は、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW4を超えているか否かの判定を行ない、超えているとき(ステップST302の判定結果がYESのとき)はステップST303に進む。所定値PW4は、現制御周期で発進クラッチ12に生じる熱がオイルの冷却力に対してトルク制限をする必要があるか否かを判別できるように設定される。
【0079】
ステップST303は、アクセルペダルの踏み込みに応じて決定されるアクセルペダル要求トルクTQAPが、目標トルクを超えているか否かの判定を行なう。アクセルペダル要求トルクTQAPが目標トルクを超えていたとき(ステップST303の判定結果がYESのとき)はステップST304に進む。目標トルクは、エンジンENGの出力トルクやクラッチの耐熱性能によって決定される値である。
【0080】
ステップST304は、前回の協調トルクTQSCと減算値DTQの差の値と、目標トルクとで、値の大きい方を協調トルクTQSCとして設定し、ステップST305に進む。減算値DTQは、減算用の一定値として予め設定されている。
【0081】
ステップST305は、連続協調状態をオンに設定し、ステップST306に進む。連続協調状態とは、前回の協調トルク設定時に、アクセルペダル要求トルクTQAPよりも小さなトルクに設定した状態を指す。
【0082】
ステップST306は、モータMG及びエンジンENGの出力トルクの合計トルクが協調トルクTQSCとなるように制御を行う。ステップST306の処理が終了すると図6の処理を終了する。
【0083】
ステップST303でアクセルペダル要求トルクTQAPが目標トルクを超えていないと判定されたとき(ステップST303の判定結果がNOであったとき)は、ステップST307に進み、アクセルペダル要求トルクTQAPを協調トルクTQSCとして設定し、ステップST308に進む。
【0084】
ステップST308は、協調トルクTQSCの制限を行なわない状態であるため、連続協調状態をオフに設定し、ステップST306に進む。
【0085】
ステップST300で前条件が成立状態にないとき(ステップST300の判定結果がNOのとき)、ステップST301で保護制御モードがオフのとき(ステップST301の判定結果がNOのとき)、ステップST302で仕事率PWSCが所定値PW4を超えていないとき(ステップST302の判定結果がNOのとき)のいずれかであるときは、ステップST309に進む。
【0086】
ステップST309は、連続協調状態にあるか否かを判定し、連続協調状態でないとき(ステップST309の判定結果がNOのとき)は、出力トルクを制限する必要がないため、前記ステップST307に進む。連続協調状態のとき(ステップST309の判定結果がYESのとき)は、ステップST310に進む。
【0087】
ステップST310は、前回の協調トルクTQSCと加算値DTQの和と、アクセルペダル要求トルクTQAPとで値の小さい方を協調トルクTQSCとして設定し、ステップST311に進む。ここでは、現時点で出力トルクの制限をかける必要がないときでも、前時点で出力トルクの制限を行なっていたときに、アクセルペダル要求トルクTQAPを協調トルクTQSCとして設定することにより出力トルクの急激な変化が発生することを防止するため、加算値DTQを設定し、出力トルクを徐々に増加させている。
【0088】
ステップST311は、ステップST310で設定された協調トルクTQSCがアクセルペダル要求トルクTQAPより小さいか否かを判定し、小さいとき(ステップST311の判定結果がYESのとき)は、前記ステップST306に進み、大きいとき(ステップST311の判定結果がNOのとき)は、前記ステップST308に進む。すなわち、現制御周期で、エンジンENGの出力トルクに制限をかけなかったときは、連続協調状態をオフに設定している。
【0089】
ステップST301〜304及びステップST309〜310の処理が、本発明におけるトルク出力制限処理に相当する。
【0090】
図7は、図2のステップST5で行なわれるストール保護モード設定処理の手順を示すフローチャートである。
【0091】
まず、ステップST401では、ストール保護モードがオンであるか否かを判定する。ここで、ストール保護モードとは後述するステップST405又はST407で設定されるモードであり、ストール保護モードがオンの場合には、後述するように入力軸5の回転数Ndrが増加するように制御される。ストール保護モードがオフである場合(ステップST401の判定結果がNOの場合)には、ステップST402に進み、前条件が成立状態にあるか否かの判定を行ない、成立状態にあるとき(ステップST402の判定結果がYESの場合)は、ステップST403に進む。
【0092】
ステップST403では、前記ステップST205又はST206で設定した保護制御モードがオンかオフかの判定を行ない、オンである場合(ステップST403の判定結果がYESの場合)には、ステップST404に進む。
【0093】
ステップST404では、前記ステップST107と同様に、ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW以上であるか否かの判定を行なう。仕事率PWSCが所定の値PW以上の場合(ステップST404の判定結果がYESの場合)には、ステップST405に進み、ストール保護モードをオンにして図7の制御処理を終了する。ステップST402で前条件が成立状態にない場合(ステップST402の判定結果がNOの場合)、ステップST403で保護制御モードがオフの場合(ステップST403の判定結果がNOの場合)、ステップST404で仕事率PWSCが所定の値PW以上ではない場合(ステップST404の判定結果がNOの場合)には、図7の制御処理を終了する。すなわち、この場合には、ストール保護モードをオフのままとする。
【0094】
前記ステップST401でストール保護モードであると判定された場合(ステップST401の判定結果がYESの場合)には、ステップST406に進み、発進クラッチ12が締結過渡状態であるか否かを判定する。発進クラッチ12が締結過渡状態ではないと判定される場合(ステップST406の判定結果がNOの場合)には、ステップST407に進み、ストール保護モードをオフにして図7の制御処理を終了する。
【0095】
ステップST406で、発進クラッチ12が締結過渡状態であると判定された場合(ステップST406の判定結果がYESの場合)には、ステップST408に進み、車速VELが所定の速度V1以上であるか否かを判定する。ここで、所定の速度V1は、通常の走行中か否かを判定できる値(例えば、5km/h)に設定される。車速VELが所定の速度V1以上である場合(ステップST408の判定結果がYESの場合)には、走行中であると判定し、図7の制御処理を終了する。すなわち、発進クラッチ12が締結過渡状態である場合に走行中(回転数が高い)である場合には、発進クラッチ12の保護のために、ストール保護モードはオンのままとする。車速VELが所定の速度V1未満である場合(ステップST408の判定結果がNOの場合)には、ステップST409に進む。
【0096】
ステップST409では、「エンジン回転数NEが所定の回転数NE1以上であるか」及び「スロットル弁開度APが所定の開度AP1以上であるか」の少なくともいずれかの判定結果がYESとなる場合には、エンジンがストール中であり、発進クラッチ12の保護が必要として、ストール保護モードはオンのままとして、図7の制御処理を終了する。
【0097】
ここで、所定の回転数NE1は、走行中ではなく(車速VELが所定の速度V1未満)、発進クラッチ12の被駆動側の回転数(車速VELに応じた回転数)が低い場合に、発進クラッチ12の駆動側の回転数が大きくなり、締結過渡状態の発進クラッチ12の摩擦熱が高くなると予測される回転数(例えば、2000rpm)に設定される。また、所定の開度AP1は、現時点ではエンジン回転数NEが所定の回転数NE1未満であるがスロットル弁開度APが高く、これからエンジン回転数NEが上昇して発進クラッチ12の摩擦熱が高くなると予測される開度(例えば、4/8)に設定される。
【0098】
ステップST409で、「エンジン回転数NEが所定の回転数NE1未満であり」且つ「スロットル弁開度APが所定の開度AP1未満である」場合(ステップST409の判定結果がNOの場合)には、前記ステップST407に進み、ストール保護モードをオフにして図7の制御処理を終了する。
【0099】
図8は、図2のステップST6で行なわれる発進クラッチ12の制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0100】
まず、ステップST501では、ストール保護モードがオンであるか否かを判定する。ストール保護モードがオンでなかった場合(ステップST501の判定結果がNOの場合)、ステップST502に進み、図9の実線で示される通常マップを選択する。
【0101】
図9は、入力軸5の回転数Ndr(横軸)と発進クラッチ12の伝達トルクT2の補正係数Kpst(縦軸)との関係を示す図である。実線はストール保護モードがオフのときに使用するマップ(通常マップ)を示し、破線はストール保護モードがオンのときにクリープ走行をしているときのマップ(クリープ走行用の保護マップ)を示し、一点鎖線はストール保護モードがオンのときに通常走行(アクセルペダル操作による走行)をしているときのマップ(通常走行用の保護マップ)を示す。
【0102】
図9に示されるように、クリープ走行用の保護マップ及び通常走行用の保護マップは通常マップに比べて、補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが高く設定される。特に、クリープ走行用の保護マップでは所定の回転数N1以上のときに、又は、通常走行用の保護マップでは所定の回転数N2以上のときに、通常マップよりも補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが高く設定される。また、通常走行用の保護マップは、所定の回転数N1〜N3では、クリープ走行用の保護マップに比べて補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが低く設定され、所定の回転数N3以降ではクリープ走行用の保護マップと同じ値に設定される。
【0103】
ステップST501で、ストール保護モードがオンであると判定された場合(ステップST501の判定結果がYESの場合)、ステップST503に進み、スロットル弁開度APが0であるか否かを判定する。スロットル弁開度APが0でなかった場合(ステップST503の判定結果がNOの場合)には、ステップST504に進み、図9の一点鎖線で示される通常走行用の保護マップを選択する。ステップST503でスロットル弁開度APが0であると判定された場合(ステップST503の判定結果がYESの場合)には、ステップST505に進み、図9の破線で示されるクリープ走行用の保護マップを選択する。
【0104】
ステップST503の判定によって、走行中又は走行を開始しようとしている状態か(スロットル弁開度APが0ではない)、クリープ走行中又はクリープ走行に移行しようとしている状態か(スロットル弁開度APが0)を判定している。クリープ走行時には発進クラッチ12の滑りを大きくしたいため、低回転のときのクラッチ締結圧を低く設定する。
【0105】
ステップST502,ST504又はST505の処理が終了すると、次にステップST506に進み、ステップST502,ST504又はST505で選択したマップによって発進クラッチ12の伝達トルクT2の補正係数Kpstを現時点の入力軸5の回転数Ndrから決定する。
【0106】
次にステップST507に進み、ステップST506で決定された補正係数Kpstとトルク容量係数Kとから、次式3によって基本トルクT1を算出する。
【0107】
T1=K×Kpst …式3
ここでトルク容量係数Kとは、入力軸5の回転数Ndrと出力軸回転センサ23の出力回転数(車速VEL)との回転数の差、スロットル弁開度APに応じて決定される値である。
【0108】
次にステップST508に進み、ステップST507で算出された基本トルクT1を、次式4によって現時点で選択されているギヤのギヤレシオRGで補正して、発進クラッチ12の伝達トルクT2を算出する。
【0109】
T2=T1×RG …式4
次にステップST509に進み、発進クラッチ12の駆動側と被駆動側で伝達するトルクの値が、前記ステップST508で算出した伝達トルクT2の値となるように、発進クラッチ12へ作用する油圧(発進クラッチ12の締結圧)を制御する。伝達トルクT2を増加する場合には、前述のクラッチ圧目標値PCCMDを増加する。すなわち、発進クラッチ12の締結圧(クラッチ圧目標値PCCMD)を増加させることで発進クラッチ12の駆動側と被駆動側との滑りが小さくなり、駆動側と被駆動側との間で伝達可能なトルク(伝達トルクT2)が増加する。このようにクラッチ圧目標値PCCMDと伝達トルクT2とは相関があり、例えば、お互いの対応関係をテーブル化してメモリ31bに予め記憶しておくことで、一方が決定すれば他方を得られるようになっている。
【0110】
ステップST509の処理が終了すると図8の制御処理を終了する。
【0111】
図9に示されるように、ストール保護モードがオンのとき(クリープ走行用の保護マップ又は通常走行用の保護マップを使用するとき)は、オフのとき(通常マップを使用するとき)に比べて入力軸5の回転数Ndrに対する補正係数Kpstが小さくなるように設定される。
【0112】
式3及び式4より、伝達トルクT2は、補正係数Kpstの減少に従って減少する。このため、ストール保護モードがオンのときには伝達トルクT2が小さくなる。伝達トルクT2が小さくなるということは、発進クラッチ12の駆動側と被駆動側との滑りが大きくなるということである。このため、被駆動側の回転数を伝達トルクT2が小さくなる前と同じ回転数に保つには、被駆動側の回転数に対する駆動側の回転数を大きくする必要があり、入力軸5の回転数Ndrすなわちエンジン回転数NE又はモータMGの回転数が増加する。これにより、油圧ポンプ35に伝達される回転が増加して、油タンク36から流出するオイルの量(オイル供給量)OSが増加する。このため、発進クラッチ12の冷却が促進される。
【0113】
図8の処理、特にステップST501の判定結果がYESであった場合のST503〜ST509の処理が、本発明における供給量増加処理に相当する。
【0114】
また、上述のように伝達トルクT2を小さくすることで駆動側と被駆動側との滑りが大きくなるので、摩擦熱によって発進クラッチ温度TSCが上昇する(発進クラッチ12の仕事率PWSCが増加する)。このため、通常走行用の保護マップ及びクリープ走行用の保護マップは、伝達トルクT2の減少により発進クラッチ12に生じる熱エネルギー(発熱量)を、入力軸5の回転数Ndrの増加によるオイル供給量OSの増加によって吸収可能なように予め設定されている。
【0115】
図10は、仕事率PWSCとオイル供給量OSとの関係を示す。横軸が仕事率PWSCで、縦軸がオイル供給量OSである。実線で示された曲線は、仕事率PWSCで仕事をしているときの発進クラッチ12の発熱量と、オイル供給量OSによる冷却力とが釣り合う点を結んだ線を表したものである。この曲線より図10の左上の領域は冷却力が発熱量に勝り発進クラッチ12を冷却できる領域であり、右下の領域は冷却力が発熱量に劣り発進クラッチ12に熱が溜る領域である。
【0116】
従って、通常走行用の保護マップ及びクリープ走行用の保護マップは、入力軸5の回転数Ndrに応じたオイル供給量OSと、補正係数Kpstに応じた仕事率PWSCとが図10に示される曲線上若しくは曲線より左上の領域になるように設定される。これによって、上述したように、通常走行用の保護マップ及びクリープ走行用の保護マップを用いたときに、伝達トルクT2の減少により発進クラッチ12に生じる熱エネルギー(発熱量)を吸収可能となる。
【0117】
また、上述したように、通常走行用の保護マップは、所定の回転数N1〜N3では、クリープ走行用の保護マップに比べて補正係数Kpstに対する入力軸5の回転数Ndrが低く設定され、所定の回転数N3以降ではクリープ走行用の保護マップと同じ値に設定される。これによって、高回転(Ndr≧N3)で走行しているときには、アクセルペダル操作の有無が切り替わったときであっても伝達トルクT2が一定になり、クラッチ圧目標値PCCMDも一定になる。低回転(Ndr<N3)で走行しているときには、クリープ走行時には発進クラッチ12の滑りを大きくしたいため、伝達トルクT2を小さくし、クラッチ圧目標値PCCMDを小さくしている。
【0118】
また、本実施形態では、発進クラッチ12の制御処理を実行するときの回転数の範囲においては、モータMGは回転数を増加させるとトルクが減少するトルク特性を有し、エンジンENGは回転数を増加させるとトルクが増加するトルク特性を有している。
【0119】
図8のステップST509で伝達トルクT2になるように発進クラッチ12を制御するとき、ストール保護モードがオンの場合には、オフの場合に比べて入力軸5の回転数Ndrを増加させるために、モータMG又はエンジンENGの回転数を増加する。また、図6のステップST306ではモータMG及びエンジンENGの出力トルクが協調トルクTQSCとなるように制御する(基本的にはトルクの出力を制限する)。
【0120】
すなわち、制御装置31のCPU31aは、図2の全ステップST1〜ST6を実行することで、入力軸5の回転数Ndrの増加と共に、モータMG及びエンジンENGの出力トルクを減少させる制御を行なう。
【0121】
そこで、制御装置31のCPU31aは、入力軸5の回転数Ndrを増加させる場合にはモータMGの回転数を増加させる。そして、制御装置31のCPU31aは、この回転数の増加によってモータMGの出力トルクが減少したときにモータMG及びエンジンENGの出力トルクの合計トルクが協調トルクTQSCまで減少しない場合には、エンジンENGの出力トルクを減少させて協調トルクTQSCまで減少させる制御をする。このように本実施形態では、図2の各ステップST1〜ST6の各処理間で関わり合う処理については互いに協調動作するようにプログラムが規定されている。
【0122】
図11は、制御装置31のCPU31aが上述した図2〜図8のフローチャートに従って実行する発進クラッチ制御処理によって、発進クラッチ12が締結過渡状態であるときの、(a)協調トルクTQSC、(b)入力軸5の回転数Ndr、(c)クラッチ圧目標値PCCMD、(d)オイル供給量OS、(e)仕事率PWSC、(f)累積仕事量Qsc、及び(g)発進クラッチ温度TSC、の各値の時間変化(以下、「パターン」という)の一例を示す。図11の縦軸は各パラメータの値であり、横軸は時間である。
【0123】
時刻t0以降、エンジンENG及びモータMGの回転数が上昇することで入力軸5の回転数Ndrが徐々に上昇し、これに従って他のパラメータも徐々に上がる。
【0124】
時刻t1は、協調トルクTQSCが、TQ1を超えた時刻を示し、時刻t2は、累積仕事量Qscが出力トルクを制限するための値(トルク制限実行閾値)Qsc1を超えた時刻を示し、時刻t3は、協調トルクTQSCがTQ1の値に制限された時刻を示す。また、入力軸5の回転数Ndrと同じ回転数となるエンジン回転数NEは、時刻t1〜t2の間に前述の所定の回転数NE1以上となる。また、図11(c)のP1は、クラッチ圧目標値PCCMDが値P1を超え、且つ所定時間の間クラッチ圧目標値PCCMDに変動ないと見做せる場合に発進クラッチ12が完全に締結している状態であると判定する値である。
【0125】
また、時刻t2以降、各パラメータは、それぞれ破線と実線で2つのパターンが示されている。実線は本実施形態によりエンジンENGの出力トルクを制限すると共に、ストール保護モードがオンである場合のパターンであり、破線は従来の制御を用いた場合のパターンである。
【0126】
時刻t1で協調トルクTQSCがTQ1を超えているが、累積仕事量QscがQsc1を超えていないので時刻t2まではトルク制限が行なわれない。時刻t2で累積仕事量QscがQsc1を超えると、図5のステップST204の判定結果がYESになり、ステップST206で保護制御モードがオンになる。これにより、図7のステップST402及びステップST403の判定結果がそれぞれYES(前条件が成立状態、且つ保護制御モードがオン)となる。このとき、仕事率PWSCが所定の値PW以上である場合、すなわち図4のステップST107で累積仕事量Qscを増加させるように判定されるような仕事率PWSCである場合には、図7のステップST404の判定結果がYESになりストール保護モードをオンにする。
【0127】
次の制御周期が実行される場合には、ストール保護モードがオンであり(ステップST401の判定結果がYES)、発進クラッチ12は締結過渡状態であり(ステップST406の判定結果がYES)、ステップST408又はステップST409の判定が実行される。このとき、上述したように、車速VELが所定の速度V1以上であるか、エンジン回転数NEが所定の回転数NE1以上であるか又はスロットル弁開度APが所定の開度AP1以上である場合には、ストール保護モードはオンのまま維持される。図11では、時刻t2以降はエンジン回転数NE(入力軸5の回転数Ndr)は所定の回転数NE1より大きくなっているため、ストール保護モードはオンのまま維持される。
【0128】
このため、時刻t2以降は、通常走行用の保護マップ又はクリープ走行用の保護マップに基づいて発進クラッチ12の伝達トルクT2が決定される。このとき、伝達トルクT2が小さくなるように決定されると共に、入力軸5の回転数Ndrが大きくなるように設定される。これによって、図11(d)に示されるようにオイル供給量OSが増加する。また、発進クラッチ12の滑りが大きくなるので、図11(e)に示されるように発進クラッチ12の仕事率PWSCが従来(破線)よりも上昇する。
【0129】
上述したように、通常走行用の保護マップ又はクリープ走行用の保護マップは、伝達トルクT2が小さくなることによって生じる発進クラッチ12の熱エネルギーを吸収できるように設定されているので、仕事率PWSCが増加しても発進クラッチ12に熱量が溜まることはない。このため、仕事率PWSCが通常よりも上昇することで図11(f)に示されるように累積仕事量Qscが増加した場合であっても、発進クラッチ12に熱量が溜まることが抑制されているので、図11(g)に示されるように発進クラッチ温度TSCの上昇は従来に比較して緩やかになる。
【0130】
このように累積仕事量Qscは、発進クラッチ温度TSCそのものを表すものではなく、発進クラッチ12を熱から充分に保護できるように高目に設定されている。例えば、ストール状態が長く続いた後は、入力軸5の回転数Ndrの増加によりオイル供給量OSが増加して発進クラッチ12の冷却力が増加した場合であっても連続したストール状態のときには累積仕事量が累積されている。これは、発進クラッチ12の熱エネルギーを吸収したオイルがオイルクーラーによって冷却された場合であっても、必ずしも熱エネルギーを吸収する前の油温OTまで冷却されるわけではないからである。累積仕事量Qscがこのように設定されていることで、発進クラッチ12に溜まる熱量が多くなることを抑制できる。
【0131】
なお、仕事率PWSC、累積仕事量Qscは、オイル供給量OS又は入力軸5の回転数Ndrから得られる発進クラッチ12を冷却する力を考慮するように算出されるようにしてもよい。
【0132】
以上のように、本実施形態では、クラッチ締結過渡状態にあって、油温OTが所定値より高いか又は累積仕事量Qscが油温OTによって決定された所定値Qsc1を超えたときに、発進クラッチ12の仕事率PWSCが高い場合には、駆動源としてのモータMG及びエンジンENGの出力トルクを制限すると共に、駆動源としてのモータMGの回転数を上昇させる。
【0133】
これにより、発進クラッチ12に作用するトルクが減少すると共に、入力軸5の回転数Ndrが増加してオイル供給量OSが増加することで、発進クラッチ12の冷却力が増加するため、クラッチの劣化を防止することができる。
【0134】
また、入力軸5の回転数Ndrを増加させることでオイル供給量OSを増加できるので、油圧ポンプ35を小型化できる。これによって、オイルフリクションの増大と燃費の低下を防止することができる。
【0135】
また、本実施形態では、ストール保護モードがオンのときに使用される通常走行用の保護マップ又はクリープ走行用の保護マップが、入力軸5の回転数Ndrに応じたオイル供給量OSと、補正係数Kpstに応じた仕事率PWSCとが発進クラッチ12に生じる熱エネルギーを吸収できるように設定される。詳細には、図10に示される曲線上若しくは曲線より左上の領域になるように設定される。これによって、ストール保護モードがオンのときに、伝達トルクT2の減少により発進クラッチ12に生じる熱エネルギー(発熱量)を吸収可能となる。
【0136】
尚、本実施形態では、エンジン回転数NEが増加することで供給量が増加する油圧ポンプ35を流体供給手段として構成しているがこれに限らない。例えば、流体供給手段は、駆動源とは独立して作動可能に構成された電力によって作動するポンプ(電動ポンプ)であってもよい。この場合には、駆動源の出力トルクを減少させると共に、電動ポンプからのオイルの供給量が増加するように制御すれば、本発明の効果である発進クラッチ12の保護ができる。
【0137】
また、駆動源として、モータMG及びエンジンENGを備えるハイブリッド自動車としているがこれに限らず、出力トルクの制御が可能であればよい。例えば、モータMGのみで構成される電気自動車、又はエンジンENGのみで構成されるエンジン自動車であってもよい。この場合には、例えば、図2の制御を行なうときに使用される駆動源の回転数の範囲において、トルクを減少に伴い回転数が増加するトルク特性の駆動源であれば、流体供給手段として、本実施形態のように駆動源の回転数の増加に応じてオイルの供給量が増加する油圧ポンプで構成すればよい。このようなトルク特性の駆動源ではない場合、又はこのようなトルク特性であってもトルクの減少によって得られる回転数の増加によるオイルの供給量が発進クラッチ12を充分に冷却できない場合においては、駆動源とは独立して作動可能に構成された電力によって作動するポンプ(電動ポンプ)で構成すればよい。
【符号の説明】
【0138】
ENG…エンジン(内燃機関)、MG…モータ(電動機)、9…従動軸(発進クラッチの駆動軸)、12…発進クラッチ、14…出力軸(発進クラッチの被駆動軸)、22…従動軸回転センサ(駆動軸回転数検知手段)、23…出力軸回転センサ(被駆動軸回転数検知手段)、31…制御装置(制御手段)、31a…CPU(制御手段,累積仕事量推定部,トルク出力制限処理,供給量増加処理,被駆動軸回転数検知手段)、31b…記憶装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動側と被駆動側との間に設けられた発進クラッチによって双方間の接続を制御する制御装置であって、
前記発進クラッチの駆動軸の回転数を検知する駆動軸回転数検知手段と、
前記発進クラッチの被駆動軸の回転数を検知する被駆動軸回転数検知手段と、
前記発進クラッチを冷却する流体を供給する流体供給手段と、
当該車両の駆動源及び前記流体供給手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を推定する累積仕事量推定部を備え、
前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が所定値を超えたときに、前記駆動源の出力トルクを制限するトルク出力制限処理と、前記流体供給手段が供給する流体の供給量を増加させる供給量増加処理とを実行することを特徴とする発進クラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発進クラッチ制御装置において、
前記制御手段は、前記累積仕事量推定部で前記累積仕事量を推定するために前記発進クラッチに生じる熱エネルギーを推定し、
前記供給量増加処理において、前記熱エネルギーが前記流体に吸収されるように前記流体の供給量を増加することを特徴とする発進クラッチ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発進クラッチ制御装置において、
前記駆動源は、電動機と内燃機関とで構成され、
前記流体供給手段は、前記電動機又は前記内燃機関の回転数の増加に応じて前記流体の供給量を増加するように構成され、
前記制御手段は、前記トルク出力制限処理において前記電動機の出力トルクを制限し、前記供給量増加処理において前記電動機又は前記内燃機関の回転数を増加することで前記流体供給手段による前記流体の供給量を増加させることを特徴とする発進クラッチ制御装置。
【請求項1】
車両の駆動側と被駆動側との間に設けられた発進クラッチによって双方間の接続を制御する制御装置であって、
前記発進クラッチの駆動軸の回転数を検知する駆動軸回転数検知手段と、
前記発進クラッチの被駆動軸の回転数を検知する被駆動軸回転数検知手段と、
前記発進クラッチを冷却する流体を供給する流体供給手段と、
当該車両の駆動源及び前記流体供給手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を推定する累積仕事量推定部を備え、
前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が所定値を超えたときに、前記駆動源の出力トルクを制限するトルク出力制限処理と、前記流体供給手段が供給する流体の供給量を増加させる供給量増加処理とを実行することを特徴とする発進クラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発進クラッチ制御装置において、
前記制御手段は、前記累積仕事量推定部で前記累積仕事量を推定するために前記発進クラッチに生じる熱エネルギーを推定し、
前記供給量増加処理において、前記熱エネルギーが前記流体に吸収されるように前記流体の供給量を増加することを特徴とする発進クラッチ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発進クラッチ制御装置において、
前記駆動源は、電動機と内燃機関とで構成され、
前記流体供給手段は、前記電動機又は前記内燃機関の回転数の増加に応じて前記流体の供給量を増加するように構成され、
前記制御手段は、前記トルク出力制限処理において前記電動機の出力トルクを制限し、前記供給量増加処理において前記電動機又は前記内燃機関の回転数を増加することで前記流体供給手段による前記流体の供給量を増加させることを特徴とする発進クラッチ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−219849(P2012−219849A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83511(P2011−83511)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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