説明

発電設備の遠隔監視システム

【課題】始動時におけるデータを集中的に収集することにより、運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができる発電設備の遠隔監視システムを提供すること。
【解決手段】定置式の発電設備2の運転状態を遠隔監視して予防保全を行う遠隔監視システム1は、発電設備2の近傍に設置され、発電設備2の運転データを収集する監視端末4と、監視端末4との間に通信回線81を介して接続され、監視端末4から送信された運転データを受信すると共に、運転データに基づいて発電設備2の異常診断を行う遠隔監視センター5とを有する。監視端末4は、発電設備2における予め設定した始動運転期間の運転データである始動運転データを、始動運転期間後の定常運転状態の運転データである定常運転データを収集する収集時間間隔よりも短い収集時間間隔で収集するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定置式の発電設備の運転状態を遠隔監視して予防保全を行う発電設備の遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コージェネレーションシステム等に用いられる発電設備は、エネルギー供給設備という性質上、トラブル発生時にはその影響が非常に大きい。そのため、このような発電設備には、遠隔監視システムが設置されていることが多い。
遠隔監視システムは、発電設備を遠隔監視しながら、その運転状態を把握し、万が一の故障時にも迅速に対応することを可能にしている。一方で、遠隔監視システムは、日常の運転状態に関する各種データを収集し、発電設備の健全性を確認したり、異常及びその兆候を調査したりする等、正常な運転の維持を図るための予防保全としても用いられている。
【0003】
遠隔監視による予防保全は、収集したデータを用いて解析することが基本である。そのため、予防保全の能力は、収集するデータの質に左右される。ここで、データの質とは、監視するデータの種類、分解能、収集期間(保存期間)、収集時間間隔等である。特に、収集期間、収集時間間隔については、遠隔監視システムにおける遠隔監視センターのデータ容量が有限であることから、可能な限り収集期間は短く、収集時間間隔は長くすることが好ましい。しかし、予防保全の観点から見ると、より細かな解析を行う必要があるため、その逆が望ましい。
【0004】
したがって、現在の遠隔監視システムでは、これらのバランスを考慮し、適切なデータ収集期間、収集時間間隔が設定されている。
例えば、特許文献1及び2では、設備の状態によってデータを収集する周期を変化させ、正常時は長周期で、異常時は短周期でデータを収集し、データの負荷を軽減すると共に必要なデータを監視することができる遠隔監視システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−296222号公報
【特許文献2】特開昭60−196032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、遠隔監視システムを用いた場合でも、故障の種類によっては遠隔監視で収集するような比較的収集時間間隔の長いデータでは異常及びその兆候を掴むことができず、予防保全を十分に図ることができないことがある。また、この問題を解決するために収集時間間隔を短くすることも考えられるが、上述のごとく、遠隔監視センターのデータ容量には限りがあるため、有効な手段とは言えない。
【0007】
また、上述した特許文献1及び2の遠隔監視システムは、異常発生時に短周期のデータを収集するものであり、結果的に異常発生前には短周期のデータによる解析を行うことができず、やはり予防保全を十分に図ることはできない。
よって、データ容量の問題を考慮した上で、発電設備の異常及びその兆候を効果的に検知することができ、予防保全を十分に図ることができる遠隔監視システムが望まれている。
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、始動時におけるデータを集中的に収集することにより、運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができる発電設備の遠隔監視システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、定置式の発電設備の運転状態を遠隔監視して予防保全を行う発電設備の遠隔監視システムにおいて、
上記発電設備の近傍に設置され、該発電設備の運転データを収集する監視端末と、
該監視端末との間に通信回線を介して接続され、該監視端末から送信された運転データを受信すると共に、該運転データに基づいて上記発電設備の異常診断を行う遠隔監視センターとを有し、
上記監視端末は、上記発電設備における予め設定した始動運転期間の運転データである始動運転データを、上記始動運転期間後の定常運転状態の運転データである定常運転データを収集する収集時間間隔よりも短い収集時間間隔で収集するよう構成されていることを特徴とする発電設備の遠隔監視システムにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発電設備の遠隔監視システムは、上記発電設備の運転データを収集する監視端末と、上記運転データに基づいて上記発電設備の異常診断を行う遠隔監視センターとを有する。そして、上記監視端末は、始動運転期間の始動運転データを、その後の定常運転状態の定常運転データを収集する収集時間間隔よりも短い収集時間間隔で収集するよう構成されている。これにより、運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができる。
【0011】
すなわち、通常収集している上記定常運転データのみでは、データの収集時間間隔が荒く、精度の高いデータ解析や予防保全を実現することができない。また、過度的な動きをする始動時の運転状態を把握することができず、始動時に生じる異常及びその兆候を検知することが困難である。
そこで、本発明の遠隔監視システムでは、上記発電設備の始動時において、定常時に収集する周期よりも短い周期でデータを収集し、始動時における詳細なデータを得ることができるようにしている。
【0012】
そのため、上記定常運転データからでは困難であった上記発電設備の始動時における異常及びその兆候を、上記始動運転データによって検知することができる。特に、始動時の過度的なデータを細かく採取することで、始動時の運転状態をより詳しく把握することができ、精度の高い異常検知を実現することができる。これにより、上記発電設備の始動時における異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、故障を未然に防いで予防保全を図ることができる。
【0013】
また、始動時のデータを細かく採取し、始動時の運転状態を十分に把握することにより、定常時に生じる異常を未然に防ぐという効果も得られる。つまり、定常時に生じる異常の中には、その兆候が始動時に見られる場合もある。そのため、本発明の遠隔監視システムによれば、定常時に生じる異常の兆候を始動時のデータから検知し、定常時の異常発生を未然に防ぐことができる。これにより、上記発電設備の予防保全をより一層図ることができる。
【0014】
また、本発明の遠隔監視システムでは、短周期のデータを収集するタイミングを定常時ではなく、始動時という短期間に限定している。そのため、データ量が膨大となって上記遠隔監視センターのデータ容量を圧迫することを抑制することができる。これにより、データを効率的に収集して上記発電設備における異常及びその兆候を精度良く検知することができ、上記発電設備の予防保全を十分に図ることができる。
【0015】
このように、本発明によれば、始動時におけるデータを集中的に収集することにより、運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができる発電設備の遠隔監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における、遠隔監視システムの構成を示す説明図。
【図2】実施例における、時間とエンジン回転数及び発電出力との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、上記監視端末としては、入出力点、中央演算装置、記憶装置等を備えた、いわゆるシーケンサ、PLC(Programable Logic Controler)、コンピュータ等で構成することができる。
また、上記遠隔監視センターとしては、入出力点、中央演算装置、記憶装置等を備えた、いわゆるコンピュータ等で構成することができる。
また、上記監視端末と上記遠隔監視センターとの間を接続する上記通信回線としては、インターネット、ローカルエリアネットワーク、専用回線、電話回線等を用いることができる。
【0018】
また、上記発電設備の遠隔監視システムにおいて、上記始動運転データ及び上記定常運転データの収集時間間隔については、上記発電設備の運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができるように、上記発電設備の種類、運転条件等に応じて、最適な収集時間間隔を設定すればよい。
【0019】
また、上記遠隔監視センターは、上記始動運転データにおける所定の監視対象項目を解析すると共に、その解析結果に基づいて上記発電設備における異常及びその兆候の有無を判定するよう構成されていることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記発電設備の種類、構成等に応じて、上記始動運転データのうちの異常検知に必要な上記監視対象項目の解析を行うことにより、上記発電設備における異常及びその兆候をより一層効果的に検知することができる。
【0020】
また、上記発電設備は、原動機と該原動機によって駆動する発電機とを備えたコージェネレーションシステムであり、上記原動機は、エンジン又はタービンであることが好ましい(請求項3)。
上記原動機をエンジン又はタービンとするコージェネレーションシステムは、エネルギー供給設備という性質上、トラブル発生時の影響が非常に大きい。そのため、本発明の遠隔監視システムを適用し、予防保全によって正常な運転の維持を図ることが非常に有効である。
【0021】
また、上記始動運転期間は、上記原動機が運転を開始してから該原動機の回転が定格回転数に達するまでの期間であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記定常運転データからでは困難であった上記発電設備の異常検知をより効果的に行うことができ、上記発電設備の予防保全に役立てることができる。
【0022】
また、上記原動機は、始動時から所定の回転数に達するまでの運転を補助する始動補助装置を備えており、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間において上記原動機が上記始動補助装置の補助を受けずに自立運転に移行する直前の上記原動機及び上記始動補助装置の回転数であることが好ましい(請求項5)。
通常、上記原動機が自立運転に移行する直前の該原動機の回転数は、上記始動補助装置の回転数と同一であり、その回転数は該始動補助装置の能力によって決まる。そのため、上記始動補助装置に何らかの異常や能力の劣化が発生した場合には、その回転数が低下する。よって、上記原動機及び上記始動補助装置の回転数を観察することにより、上記始動補助装置の異常発生、劣化度合いを検知することができる。
なお、上記始動補助装置としては、電気モーター、油圧装置等を用いることができる。
【0023】
また、上記原動機は、複数の気筒を備えた多気筒エンジンであり、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間における上記エンジンの上記各気筒の出口排気温度であることが好ましい(請求項6)。
上記気筒の出口排気温度が上昇したり低下したりする場合、上記気筒の燃焼に何らかの異常が発生していることが多く、例えば点火プラグ、燃料噴射弁等の異常が考えられる。しかしながら、上記定常運転状態では、上記エンジンが暖まっているため、点火プラグ、燃料噴射弁等に異常があった場合でも、その影響が上記気筒の出口排気温度に現れにくい。一方、上記始動運転期間では、上記エンジンが冷えた状態からの運転であるため、燃焼異常が発生して直接トラブルに繋がることが多い。よって、上記エンジンの上記各気筒の出口排気温度の推移を観察することにより、上記定常運転状態では確認することができない上記エンジンの上記各気筒周辺部における異常及びその兆候を検知することができる。
【0024】
また、上記原動機は、ガスタービンであり、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間において上記ガスタービンの振動値が最大となる特定の回転数域における該ガスタービンの回転数又は振動値であることが好ましい(請求項7)。
上記原動機としてガスタービンを用いた場合、上記始動運転期間の途中における特定の回転数域において、上記ガスタービンに発生する振動が最も大きくなる現象が見られることがある。この回転数域は、上記ガスタービン固有の回転数であるため、始動時に毎回同じ現象が見られる。よって、上記始動運転期間において上記ガスタービンの振動値が最大となる特定の回転数域における該ガスタービンの回転数又は振動値を観察することにより、上記ガスタービンにおける異常及びその兆候を検知することができる。
【0025】
また、上記始動運転期間は、上記原動機が運転を開始してから上記発電機の送電量が定格発電出力に達するまでの期間であることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記定常運転データからでは困難であった上記発電設備の異常検知をより効果的に行うことができ、上記発電設備の予防保全に役立てることができる。
【0026】
また、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間における上記発電機の発電出力の単位時間当たりの上昇割合であることが好ましい(請求項9)。
上記始動運転期間では、上記発電機が所定の発電出力に達するまで、その発電出力を上昇させる。この発電出力の上昇割合は、上記発電設備への出力増加指令によって決まり、基本的には一定である。よって、上記始動運転期間における上記発電機の発電出力の単位時間当たりの上昇割合を観察することにより、上記発電設備の異常及びその兆候を検知することができる。
また、上記発電設備は、上記定常運転状態において最も安定するように設計されている。そのため、上記始動運転期間のような上記発電機の発電出力が上昇している状態では、上記発電設備を構成する部品の劣化度合い等が上記定常運転状態よりも現れ易く、異常及びその兆候を検知し易い。それ故、上記の効果を特に有効に発揮することができる。
【0027】
また、上記発電設備は、発電機を備えたコージェネレーションシステムであり、上記発電機は、燃料電池であることが好ましい(請求項10)。
上記原動機を燃料電池とするコージェネレーションシステムは、エネルギー供給設備という性質上、トラブル発生時の影響が非常に大きい。そのため、本発明の遠隔監視システムによる予防保全によって正常な運転の維持を図ることが有効である。
【0028】
また、上記始動運転期間は、上記発電機が運転を開始してから該発電機の送電量が定格発電出力に達するまでの期間であることが好ましい(請求項11)。
この場合には、上記定常運転データからでは困難であった上記発電設備の異常検知をより効果的に行うことができ、上記発電設備の予防保全に役立てることができる。
【0029】
また、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間における上記発電機の発電出力の単位時間当たりの上昇割合であることが好ましい(請求項12)。
上述したとおり、上記始動運転期間における上記発電機の発電出力の単位時間当たりの上昇割合を観察することにより、上記発電設備の異常及びその兆候を検知することができ、またそれを検知し易い。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例にかかる発電設備の遠隔監視システムについて、図を用いて説明する。
本例の遠隔監視システム1は、図1に示すごとく、定置式の発電設備2の運転状態を遠隔監視して予防保全を図るものであり、発電設備2の近傍に設置され、発電設備2の運転データを収集する監視端末4と、監視端末4との間に通信回線81を介して接続され、監視端末4から送信された運転データを受信すると共に、運転データに基づいて発電設備2の異常診断を行う遠隔監視センター5とを有する。
そして、監視端末4は、発電設備2における予め設定した始動運転期間の運転データである始動運転データを、始動運転期間後の定常運転状態の運転データである定常運転データを収集する収集時間間隔T2よりも短い収集時間間隔T1(<T2)で収集するよう構成されている。
以下、これを詳説する。
【0031】
図1に示すごとく、発電設備2は、ガスエンジン(原動機)21とガスエンジン21によって駆動する発電機22とを備えたコージェネレーションシステムである。
本例のコージェネレーションシステムは、ガスエンジン21の出力によって発電機22を駆動させて発電を行うと共に、ガスエンジン21の運転による冷却水や排ガスの排熱を冷暖房や給湯器等に利用するシステムである。
【0032】
また、発電設備2において、ガスエンジン21は、複数のシリンダ(気筒)を備えた多気筒エンジンであり、始動時から所定の回転数に達するまでの運転を補助する始動補助装置211を備えている。
また、発電設備2におけるガスエンジン21、発電機22等の機器には、各機器の運転データを計測する計測器(図示略)が設けられている。
【0033】
同図に示すごとく、発電設備2の近傍には、制御盤3及び監視端末4が設置されている。制御盤3は、通信回線81を介して発電設備2におけるガスエンジン21、発電機22等の機器に接続されており、各機器の計測器から各種運転データを受信することができるよう構成されている。また、監視端末4は、通信回線81を介して制御盤3に接続されており、制御盤3から運転データを受信して収集することができるよう構成されている。
【0034】
また、監視端末4は、通信回線81(通信網80)を介して遠隔監視センター5に接続されている。遠隔監視センター5は、監視端末4から送信された運転データを受信すると共に、サーバ51にて運転データを収集・保存し、さらには運転データの解析を行うことができるよう構成されている。また、遠隔監視センター5は、サーバ51にて収集・保存・解析した運転データを監視用パソコン52で閲覧できるよう構成されている。
【0035】
そして、本例の遠隔監視システム1において、監視端末4は、予め設定した始動運転期間の運転データである始動運転データを、始動運転期間後の定常運転状態の運転データである定常運転データを収集する収集時間間隔T2よりも短い収集時間間隔T1(<T2)で収集するよう構成されている。
本例において、始動運転期間は、ガスエンジン21が運転を開始してからガスエンジン21の回転が定格回転数に達するまでの期間である(後述する図2の時間P0〜P1)。
【0036】
また、遠隔監視センター5は、始動運転データにおける所定の監視対象項目を解析すると共に、その解析結果に基づいて発電設備2における異常及びその兆候の有無を判定するよう構成されている。
本例において、始動運転データの監視対象項目は、始動運転期間においてガスエンジン21が始動補助装置211の補助を受けずに自立運転に移行する直前のガスエンジン21及び始動補助装置211の回転数、始動運転期間におけるガスエンジン21の各シリンダの出口排気温度等である。
【0037】
なお、遠隔監視センター5は、始動運転期間だけでなく、定常運転状態(後述する図2の時間P1〜)の定常運転データにおける所定の監視対象項目を解析すると共に、その解析結果に基づいて発電設備2における異常及びその兆候の有無を判定するよう構成されている。
【0038】
次に、本例の遠隔監視システム1を用い、発電設備2の運転状態を遠隔監視する具体例について、図1及び図2を用いて説明する。
なお、図2は、時間とガスエンジン21のエンジン回転数及び発電機22の発電出力との関係を示したものである。同図では、ガスエンジン21のエンジン回転数の変化をグラフa、発電機22の発電出力の変化をグラフbとして示した。
【0039】
まず、発電設備(コージェネレーションシステム)2の運転を開始する。具体的には、原動機であるガスエンジン21の運転を開始し、その回転数を上昇させる。なお、発電設備2の運転は、手動又はタイムスケジュールにより行われる。
ガスエンジン21は、図2に示すごとく、始動時(時間P0)から所定の回転数F1に達するまでの間、始動補助装置211によって補助を受けながらの運転となる。
【0040】
ガスエンジン21の運転が開始されると、監視端末4は、ガスエンジン21、発電機22等の各機器の運転データを各機器の計測器から制御盤3を介して一定の収集時間間隔T1で受信し、その運転データを収集する。本例の収集時間間隔T1は、1秒である。そして、監視端末4は、受信した運転データを遠隔監視センター5に送信する。
一方、遠隔監視センター5は、監視端末4から送信された運転データをサーバ51にて受信し、その運転データをサーバ51内のデータベースに保存する。
【0041】
次いで、ガスエンジン21は、図2に示すごとく、回転数F1に達したところで、始動補助装置211の補助を受けない自立運転に移行する。そして、ガスエンジン21は、さらに回転数を上昇させ、定格回転数F2に達する。本例では、このガスエンジン21が運転を開始してからガスエンジン21の回転が定格回転数F2に達するまでの期間(時間P0〜P1)を始動運転期間としている。
ガスエンジン21の回転が定格回転数F2に達して定常運転状態になると、それ以降(時間P1〜)、監視端末4は、運転データを一定の収集時間間隔T2で受信し、その運転データを収集する。本例の収集時間間隔T2は、60秒である。
【0042】
一方、遠隔監視センター5は、サーバ51内のデータベースに保存された始動運転期間(時間P0〜P1)における運転データを、1つの始動運転データとしてデータベースに保存する。そして、予めデータベース内に組み込んだプログラム(異常検知ロジック)により、始動運転データの監視対照項目について解析を行う。
本例の監視対象項目は、上述のごとく、始動運転期間においてガスエンジン21が始動補助装置211の補助を受けずに自立運転に移行する直前のガスエンジン21及び始動補助装置211の回転数、始動運転期間におけるガスエンジン21の各シリンダの出口排気温度等である。
【0043】
次いで、遠隔監視センター5は、各異常検知ロジックが出力する解析結果(数値)をデータベースに保存する。そして、解析結果の上下限判定やこれまでの解析結果との比較等を行うことにより、今回の始動運転データから出力された解析結果に対して、発電設備2における異常及びその兆候の有無を判定する。
管理者等は、始動運転データの解析結果及び異常判定結果を監視用パソコン52で閲覧し、これを見て対応する。例えば、異常及びその兆候を検知した場合には、それを管理者等に通知(メールや監視画面に警告ポップアップを表示させる等)するようにしてもよい。
【0044】
また、始動運転期間後の定常運転状態(時間P1〜)においては、監視端末4は、運転データを一定の収集時間間隔T2で受信し、その運転データを収集して遠隔監視センター5に送信する。一方、遠隔監視センター5は、その運転データ(定常運転データ)に基づいてデータの解析を行い、定常運転状態における発電設備2の異常及びその兆候の有無を判定する。
すなわち、本例の遠隔監視システム1は、このように、発電設備2の運転が開始されてから、常時、運転状態の遠隔監視を行う。
【0045】
次に、本例の遠隔監視システム1における作用効果について説明する。
本例の遠隔監視システム1は、図1、図2に示すごとく、発電設備2の運転データを収集する監視端末4と、運転データに基づいて発電設備2の異常診断を行う遠隔監視センター5とを有する。そして、監視端末4は、始動運転期間(時間P0〜P1)の始動運転データを、その後の定常運転状態(時間P1〜)の定常運転データを収集する収集時間間隔T2よりも短い収集時間間隔T1(<T2)で収集するよう構成されている。これにより、運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができる。
【0046】
すなわち、通常収集している定常運転データのみでは、データの収集時間間隔が荒く、精度の高いデータ解析や予防保全を実現することができない。また、過度的な動きをする始動時の運転状態を把握することができず、始動時に生じる異常及びその兆候を検知することが困難である。
そこで、本例の遠隔監視システム1では、発電設備2の始動時において、定常時に収集する周期よりも短い周期でデータを収集し、始動時における詳細なデータを得ることができるようにしている。
【0047】
そのため、定常運転データからでは困難であった発電設備2の始動時における異常及びその兆候を、始動運転データによって検知することができる。特に、始動時の過度的なデータを細かく採取することで、始動時の運転状態をより詳しく把握することができ、精度の高い異常検知を実現することができる。これにより、発電設備2の始動時における異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、故障を未然に防いで予防保全を図ることができる。
【0048】
また、始動時のデータを細かく採取し、始動時の運転状態を十分に把握することにより、定常時に生じる異常を未然に防ぐという効果も得られる。つまり、定常時に生じる異常の中には、その兆候が始動時に見られる場合もある。そのため、本例の遠隔監視システム1によれば、定常時に生じる異常の兆候を始動時のデータから検知し、定常時の異常発生を未然に防ぐことができる。これにより、発電設備2の予防保全をより一層図ることができる。
【0049】
また、本例の遠隔監視システム1では、短周期のデータを収集するタイミングを定常時ではなく、始動時という短期間に限定している。そのため、データ量が膨大となって遠隔監視センター5のデータ容量を圧迫することを抑制することができる。これにより、データを効率的に収集して発電設備2における異常及びその兆候を精度良く検知することができ、発電設備2の予防保全を十分に図ることができる。
【0050】
また、本例では、遠隔監視センター5は、始動運転データにおける所定の監視対象項目を解析すると共に、その解析結果に基づいて発電設備2における異常及びその兆候の有無を判定するよう構成されている。そのため、発電設備2の種類、構成等に応じて、始動運転データのうちの異常検知に必要な監視対象項目の解析を行うことにより、発電設備2における異常及びその兆候をより一層効果的に検知することができる。
【0051】
また、発電設備2は、ガスエンジン21とガスエンジン21によって駆動する発電機22とを備えたコージェネレーションシステムである。原動機をガスエンジン21とするコージェネレーションシステムは、エネルギー供給設備という性質上、トラブル発生時の影響が非常に大きい。そのため、本例の遠隔監視システム1を適用し、予防保全によって正常な運転の維持を図ることが非常に有効である。
【0052】
また、始動運転期間は、ガスエンジン21が運転を開始してからガスエンジン21の回転が定格回転数F2に達するまでの期間(時間P0〜P1)である。そのため、定常運転データからでは困難であった発電設備2の異常検知をより効果的に行うことができ、発電設備2の予防保全に役立てることができる。
【0053】
また、原動機であるガスエンジン21は、始動時から所定の回転数F1に達するまでの運転を補助する始動補助装置211を備えている。そして、始動運転データの監視対象項目は、始動運転期間においてガスエンジン21が始動補助装置211の補助を受けずに自立運転に移行する直前のガスエンジン21及び始動補助装置211の回転数である。すなわち、通常、ガスエンジン21が自立運転に移行する直前のガスエンジン21の回転数は、始動補助装置211の回転数と同一であり、その回転数は始動補助装置211の能力によって決まる。そのため、始動補助装置211に何らかの異常や能力の劣化が発生した場合には、始動補助装置211の回転数が低下する。よって、ガスエンジン21及び始動補助装置211の回転数を観察することにより、始動補助装置211の異常発生、劣化度合いを検知することができる。
【0054】
また、原動機であるガスエンジン21は、複数のシリンダを備えた多気筒エンジンである。そして、始動運転データの監視対象項目は、始動運転期間におけるガスエンジン21の各シリンダの出口排気温度である。すなわち、シリンダの出口排気温度が上昇したり低下したりする場合、シリンダの燃焼に何らかの異常が発生していることが多く、例えば点火プラグ、燃料噴射弁等の異常が考えられる。しかしながら、定常運転状態ではエンジンが暖まっているため、点火プラグ、燃料噴射弁等に異常があった場合でも、その影響が出口排気温度に現れにくい。一方、始動運転期間では、エンジンが冷えた状態からの運転であるため、燃焼異常が発生してトラブルに繋がることが多い。よって、ガスエンジン21の各シリンダの出口排気温度の推移を観察することにより、定常運転状態では確認することができないガスエンジン21の各シリンダ周辺部における異常及びその兆候を検知することができる。
【0055】
このように、本例の遠隔監視システム1は、発電設備2の始動時におけるデータを集中的に収集することにより、発電設備2の運転状態の異常及びその兆候を迅速かつ適切に検知し、予防保全を十分に図ることができる。
【0056】
なお、本例では、図2に示すごとく、始動運転期間を原動機であるガスエンジン21が運転を開始してからガスエンジン21の回転が定格回転数F2に達するまでの期間(時間P0〜P1)としたが、例えば、原動機であるガスエンジン21が運転を開始してから発電機22の送電量が定格発電出力G1に達するまでの期間(時間P0〜P2)とすることもできる。
このとき、例えば、始動運転期間の監視対象項目を発電機22の発電出力の単位時間当たりの上昇割合とすることにより、発電設備2の運転状態の異常及びその兆候を容易に検知することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 遠隔監視システム
2 発電設備
4 監視端末
5 遠隔監視センター
81 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定置式の発電設備の運転状態を遠隔監視して予防保全を行う発電設備の遠隔監視システムにおいて、
上記発電設備の近傍に設置され、該発電設備の運転データを収集する監視端末と、
該監視端末との間に通信回線を介して接続され、該監視端末から送信された運転データを受信すると共に、該運転データに基づいて上記発電設備の異常診断を行う遠隔監視センターとを有し、
上記監視端末は、上記発電設備における予め設定した始動運転期間の運転データである始動運転データを、上記始動運転期間後の定常運転状態の運転データである定常運転データを収集する収集時間間隔よりも短い収集時間間隔で収集するよう構成されていることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項2】
請求項1において、上記遠隔監視センターは、上記始動運転データにおける所定の監視対象項目を解析すると共に、その解析結果に基づいて上記発電設備における異常及びその兆候の有無を判定するよう構成されていることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記発電設備は、原動機と該原動機によって駆動する発電機とを備えたコージェネレーションシステムであり、上記原動機は、エンジン又はタービンであることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項4】
請求項3において、上記始動運転期間は、上記原動機が運転を開始してから該原動機の回転が定格回転数に達するまでの期間であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項5】
請求項4において、上記原動機は、始動時から所定の回転数に達するまでの運転を補助する始動補助装置を備えており、
上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間において上記原動機が上記始動補助装置の補助を受けずに自立運転に移行する直前の上記原動機及び上記始動補助装置の回転数であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項6】
請求項4において、上記原動機は、複数の気筒を備えた多気筒エンジンであり、
上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間における上記エンジンの上記各気筒の出口排気温度であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項7】
請求項4において、上記原動機は、ガスタービンであり、
上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間において上記ガスタービンの振動値が最大となる特定の回転数域における該ガスタービンの回転数又は振動値であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項8】
請求項3において、上記始動運転期間は、上記原動機が運転を開始してから上記発電機の送電量が定格発電出力に達するまでの期間であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項9】
請求項8において、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間における上記発電機の発電出力の単位時間当たりの上昇割合であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項10】
請求項1又は2において、上記発電設備は、発電機を備えたコージェネレーションシステムであり、上記発電機は、燃料電池であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項11】
請求項10において、上記始動運転期間は、上記発電機が運転を開始してから該発電機の送電量が定格発電出力に達するまでの期間であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。
【請求項12】
請求項11において、上記始動運転データの上記監視対象項目は、上記始動運転期間における上記発電機の発電出力の単位時間当たりの上昇割合であることを特徴とする発電設備の遠隔監視システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−262468(P2010−262468A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112578(P2009−112578)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】