説明

皮膚血行促進剤

【課題】皮膚の血行を促進しながらも皮膚刺激性が極めて低く、経皮吸収による血行促進作用の発現が可能な、身体の健康と美容に貢献し得る皮膚血行促進剤を提供すること。
【解決手段】ヘリオトロピルアセトン、ヘリオトロピルアセテート、ピペロニルアルコール及び1,2−メチレジオキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の化合物を有効成分として含むことを特徴とする皮膚血行促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の血流量を増加させる皮膚血行促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の血行を促進することは、身体の健康と美容にとって大変有益である。例えば、皮膚血流量を増加させて、皮膚温度を上昇させることにより、冷え性や肩こりなどの血液循環不調による症状等を安全かつ効果的に改善できることが知られている(特許文献1)。
【0003】
こうしたなか、カプサイシン或いはカプサイシンを含有する唐辛子末、唐辛子エキス等は、皮膚の温度感覚受容体を活性化させて血行促進作用を発現することから、血行促進剤として有用であることが知られている(非特許文献1)。その他、血行促進作用を有する有効成分として、ビタミンE類(特許文献2)、天然植物抽出物(特許文献3)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−235016号公報
【特許文献2】特開平11−43436号公報
【特許文献3】特許第3660833号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ファーマコロジカル レビュー(PHARMACOLOGICAL REVIEWS)」、第51巻、1999年、p.159−211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カプサイシン或いはカプサイシンを含有する唐辛子末、唐辛子エキス等は非常に皮膚刺激性が高く、また、ビタミンE類や天然植物抽出物等の成分では、経皮吸収させて充分な血行促進作用を得ることは困難であり、検討の余地がある。
従って、本発明の課題は、皮膚の血行を充分に促進しながらも皮膚刺激性が極めて低く、経皮吸収による血行促進作用の発現が可能な皮膚血行促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、後述する特定の4種の化合物が優れた皮膚の血行促進作用を発現し、かつ皮膚刺激性が極めて低く、これを有効成分として用いることで上記の課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、ヘリオトロピルアセトン、ヘリオトロピルアセテート、ピペロニルアルコール及び1,2−メチレジオキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する皮膚血行促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚血行促進剤によれば、従来の血行促進剤と同等或いはそれ以上の血行促進効果を示し、しかも皮膚刺激性が極めて低い。そのため、極めて高い血行促進効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の皮膚血行促進剤を前腕内側部に塗布した際における、比較例1及び実施例1〜5の血流変化結果を示す説明図である。
【図2】本発明の皮膚血行促進剤を前腕内側部に塗布した際における、比較例2及び実施例6〜7の血流変化結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮膚血行促進剤は、下記式(I)で表されるヘリオトロピルアセトン、下記式(II)で表されるヘリオトロピルアセテート、下記式(III)で表されるピペロニルアルコール、及び下記式(IV)で表される1,2−メチレンジオキシベンゼンからなる群より選ばれる化合物の1種又は2種以上を有効成分とするものであり、これらの成分が血行促進作用を発現する。
【0012】
【化1】

【0013】
従来より、血行促進効果をもたらすことが知られているアニスアルデヒドやシンナムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物は、生体組織中のアミノ基との反応性が高いため、一般に皮膚刺激やアレルギー反応を引き起こす可能性が高いことが知られている。これに対し、本発明で用いる上記有効成分は、いずれもその構造内にアルデヒド基を有さない化合物であるため、非常に皮膚刺激性が低い。
【0014】
なお、上記有効成分のうち、特にヘリオトロピルアセトン及びピペロニルアルコールは、各々、美白効果(特許第4537545号公報)やメラニン生成抑制効果(特許第4456334号公報)をもたらす成分であることが既に知られている。しかしながら、これらの成分が皮膚の血行を促進する作用をもたらすという報告は一切なく、これらを血行促進剤の有効成分として利用した試みは未だなされていない。
【0015】
上記有効成分の総含有量は、配合する他の成分の種類及び使用目的等により適宜変動し得るが、血行促進効果を充分に発揮させる観点から、通常、皮膚血行促進剤全量中、好ましくは0.0001〜20質量%であり、より好ましくは0.001〜10質量%であり、更に好ましくは0.01〜5質量%であり、最も好ましくは0.1〜3質量%である。なお、上記有効成分は、市販品として入手可能な開始物質から常法に従って合成してもよく、これらを含む精油や香料、植物の抽出物等を用いてもよい。植物の抽出物等を用いる場合は、乾燥固形分として上記範囲内の含有量を満たすよう配合すればよい。
【0016】
上記有効成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、血行促進作用の持続時間を延長させ得る観点から、2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。また、2種以上を組み合わせる際、その組み合わせの種類を使用目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘリオトロピルアセトンとヘリオトロピルアセテートとの2種を組み合わせて使用した場合、それぞれ単独で使用した場合よりも血行促進作用の持続時間を延長させることができる。また、上記成分の2種を組み合わせる場合、各成分の含有量比(質量比)は、配合する他の成分の種類や使用目的により適宜変動し得るが、好ましくは1/1000〜1000/1であり、更に好ましくは1/100〜100/1であり、特に好ましくは1/10〜10/1である。
【0017】
本発明の皮膚血行促進剤には、上記有効成分のほか、通常、化粧品や医薬品等で用いられる他の成分、例えば、上記有効成分以外の成分を含む粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、合成エステル油、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、水溶性高分子化合物、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸誘導体、有機アミン類、合成樹脂エマルション、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、色素、香料、水等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0018】
なかでも、特に、皮膚の温度感覚受容体TRP(Transient Receptor Potential)チャネルを活性化するTRPアゴニストと上記有効成分とを併用することによって、血行促進作用が更に増強される。
【0019】
上記TRPアゴニストとしては、具体的には、バニリルブチルエーテル、ジンゲロール、ジンゲロン、クレオゾール、バニリン、エチルバニリン、カンファー、ボルネオール、チモール、カルバクロール、シネオール、リモネン、ピネン、テルピネン、メントール、シンナムアルデヒド、リナロール、ゲラニオール、ネロール等が挙げられる。これらTRPアゴニストのなかでも、皮膚刺激性が低い点で、カンファー、ポルネオール、リモネン、シネオール、ピネン、メントール、ネロールが好ましい。
【0020】
これらTRPアゴニストの含有量は、上記有効成分とともに血行促進作用を更に増強させる観点から、皮膚血行促進剤全量中、好ましくは0.0001〜20質量%であり、より好ましくは0.001〜10質量%であり、最も好ましくは0.01〜1質量%である。上記有効成分と上記TRPアゴニストとの含有量比(質量比)は、配合する他の成分の種類や使用目的により適宜変動し得るが、好ましくは1/1000〜1000/1であり、更に好ましくは1/100〜100/1であり、特に好ましくは1/10〜1/1である。
【0021】
本発明の皮膚血行促進剤は、皮膚外用剤として使用するのが最適である。皮膚外用剤とは、化粧料、医薬品、医薬部外品として、外皮(頭皮を含む)に適用されるものを指し、その用途は多岐に亘る。例えば、クリーム、化粧水、乳液、パック、美容液等のフェーシャル化粧料やスキンケア化粧料、ボディー化粧料、頭皮頭髪化粧料、洗浄料、ジェル、軟膏等として用いることができる。それぞれ液状、乳液状、ペースト状、ゲル状、粉末状、顆粒状、ペレット状等のいずれの形態を呈していてもよい。これら所望の用途に応じ、上記有効成分のほか、その他の成分を適宜選択して配合すればよい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1〜9、比較例1〜5]
表1〜2に示す処方に従って未架橋状態の含水ゲル原液を調製した後、各成分を含有するゲルシートを作製した。
具体的には、まず、グリセリンとプロピレングリコールとの混合液を混練機に投入し、コハク酸水溶液に分散させたカルボキシメチルセルロース、乾燥水酸化アルミニウムゲル、パラオキシ安息香酸メチルの順に添加して、水溶性ゲルを調製した。次いで得られたゲルに、ヘリオトロピルアセトン、ヘリオトロピルアセテート、ピペロニルアルコール、1,2−メチレンジオキシベンゼンを各々混合し、この未架橋状態のゲルを、PET(ポリエチレン)フィルムと不織布とを積層したEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)フィルムに挟み込み、ベーカー式アプリケーターによって含水ゲルの厚さが1.5mmとなるように展延した。更に、50℃で5日間熟成し、含水ゲル層の架橋反応を完了させて、ゲルシートを得た。その後、正方形(面積25cm2)に型抜きを行った。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
<血行促進作用の評価>
実施例1〜7及び比較例1〜2で得られた各シートを前腕内側部に7分間貼付し、貼付前と貼付後のそれぞれの血流量とその皮膚状態を観察した。血流量は、前腕部の血流をリアルタイム血流画像化装置FLPI(Moor Instruments Ltd.製、Moor FLPI)によって測定した。シート貼付後の血流量を、シートを貼付する前の前腕部の皮膚血流量を100%として、約0.5分間毎に保持した時間後の血流量を相対値で示し、血行促進作用効果の指標とした。各シート3回試験を行った平均値を図1〜図2に示す。
【0027】
図1によれば、有効成分を含有しない比較例1のシート(図1のグラフ(a))では、血流量はゲルシート貼付前よりも低く、貼付前の90%程度の血流量を示すことがわかる。これは、ゲルシートに含有する水分が皮膚に移行したことで、水の蒸散熱によって皮膚表面温度が低下し、血流量がシート貼付前に比べて減少したためと考えられる。この比較例1の血流量変化挙動を指標として、本発明の血行促進剤の血行促進作用について評価を行った。本評価では、シート貼付前の血流量に対し、比較例1の血流量(約90%)を上回る血流量を示した際に、血行促進作用が認められると判断した。
【0028】
ヘリオトロピルアセトンを含有させた実施例1のシート(図1のグラフ(b))を貼付すると、シート剥離直後から血流量が増加し、シート剥離後約4分で最大血流増加率を示し、貼付前血流量と比較するとその血流値は約120%を示した。血流増加が認められた条件においては、シート貼付箇所の皮膚紅潮が観察されたが、刺激感はなかった。シート剥離後約8分後に血流増加率は貼付前血流量と比較すると95%程度となった。
【0029】
ヘリオトロピルアセテートを含有させた実施例2のシート(図1のグラフ(c))を貼付すると、シート剥離後5分後から血流量が増加し、約7分後に最大血流増加率約115%(貼付前血流量との比較)となった。血流量が増加した際に、皮膚紅潮が認められたが、刺激感はなかった。シート剥離後10分で血液量は比較例1と同等になった。
【0030】
ピペロニルアルコールを含有した実施例3のシート(図1のグラフ(d))を貼付すると、シート剥離後2分後から血流量が増加し、3分後に最大血流増加率約110%(貼付前血流量との比較)となったが、刺激感はなかった。
【0031】
1,2−メチレンジオキシベンゼンを含有した実施例4のシート(図1のグラフ(e))を貼付すると、シート剥離直後から血流量の増加が認められ、シート剥離後約1.5分後に最大血流増加率約120%(貼付前血流量との比較)の値を示したが、刺激感はなかった。
【0032】
ヘリオトロピルアセトンを含有させた実施例1のシートでは、シート剥離後約6分以降で貼付前の血流量よりも下がり、ヘリオトロピルアセテートを含有させた実施例2のシートでは、シート剥離後9分以降で血流量が貼付前より下がる。一方、ヘリオトロピルアセトンとヘリオトロピルアセテートとを含有させた実施例5のシート(図1のグラフ(f))を貼付すると、ヘリオトロピルアセトン又はヘリオトロピルアセテートを1種単独で使用した実施例1又は実施例2よりも、貼付前の血流量を上回る時間が長くなり、シート剥離後12分でも血流値は100%を超えていた。このことから本発明の血行促進剤を組み合わせることによる血行促進作用の持続性が示されたが、刺激感はなかった。これらの結果より、ヘリオトロピルアセトン、ヘリオトロピルアセテート、ピペロニルアルコール及び1,2−メチレンジオキシベンゼンの成分を2種以上組み合わせた際、更に血行促進作用持続時間が延長される効果が発揮できることがわかる。
【0033】
図2によれば、ヘリオトロピルアセトンとカンファーとを含有させた実施例7のシート(グラフ(g))を貼付すると、カンファーのみを含有させた比較例2のシート及びヘリオトロピルアセトンのみを含有させた実施例6のシートによる血行促進作用より、血流増加率が高まったが、刺激感はなかった。このことから、本発明の有効成分とTRPアゴニストとを組み合わせることによって、血行促進作用が更に高まることがわかる。
【0034】
<血行促進レベル及び感覚評価>
実施例1〜4及び8〜9並びに比較例3〜5で得られた各シートを用い、本発明における有効成分であるヘリオトロピルアセトン、ヘリオトロピルアセテート、ピペロニルアルコール、1,2−メチレンジオキシベンゼンによって知覚される皮膚感覚について、従来から血行促進作用をもたらすことが知られているカプサイシンと比較した。
具体的には、各シートを用い、下記に示す方法に従って、シートを7分間貼付した後に剥離した直後における前腕内側部の血行促進レベル及び皮膚感覚を評価した。
【0035】
血行促進レベルは、以下の基準に従って、シート貼付前の血流増加量を基準(100%)とした血流増加量を示し、これを指標として評価した。
+ :シート貼付前に比べ、100〜150%の血流増加量が認められた。
++ :シート貼付前に比べ、150〜200%の血流増加量が認められた。
+++:シート貼付前に比べ、200%以上の血流増加量が認められた。
【0036】
皮膚感覚は、皮膚において知覚される「温感」、「冷感」及び「刺激感」の種類に分けて評価し、いずれも知覚されなかった場合を「無」として評価した。
結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3によれば、カプサイシンは、個体の感受性や嗜好性に左右されやすいことが既に知られており、ヒトによって温感が刺激につながることも多いものであるところ、これと血行促進作用レベルが同等である場合(例えば、比較例3〜4と、実施例1〜4)、本発明における有効成分によって知覚される皮膚感覚は、このカプサイシンよりも極めて低く、皮膚刺激性の低い成分であることが証明された。また、実施例8〜9に示されるように、仮に本発明における有効成分の含有量を増やしても、依然として皮膚刺激性の低い特性を保持できることもわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリオトロピルアセトン、ヘリオトロピルアセテート、ピペロニルアルコール及び1,2−メチレジオキシベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する皮膚血行促進剤。
【請求項2】
前記化合物の含有量が、前記皮膚血行促進剤全量中、0.0001〜20質量%である請求項1に記載の皮膚血行促進剤。
【請求項3】
更に皮膚の温度感覚受容体TRP(Transient Receptor Potential)チャネルを活性化するTRPアゴニストを含有する請求項1又は2に記載の皮膚血行促進剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106947(P2012−106947A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256706(P2010−256706)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】