説明

直動案内ユニット

【課題】 この直動案内ユニットは,エンドキャップを構成するエンドキャップ本体とスペーサとで方向転換路を曲路に形成してボールの転走をスムーズにする。
【解決手段】エンドキャップ3に形成された方向転換路14は,スライダ2の摺動方向に見た状態が軌道路16の中心Okから軌道レール1の上部角部18を回ってリターン路15の中心Orへ単一Rでなる曲路10に形成されている。リターン路15間のスパンPrは,軌道路16間のスパンPkよりも短い長さでケーシング3の幅方向中央寄りに延びている。単一Rでなる曲路10は,摺動方向に見て180°円弧でなる半円に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,軌道溝を備えた軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから成る直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,直動案内ユニットは,断面矩形状の軌道レールにスライダが跨架して,スライダが軌道レール上を転動体を介して摺動自在なものであり,各種組立装置,半導体製造装置,検査・測定装置等の各種機械装置に広く使用されている。近年,直動案内ユニットは,潤滑等のメンテナンスフリーなものが求められると共に,高精度,小型化,滑らかな往復運動等の性能を達成でき,高速摺動や高タクト可能なタイプのものが求められている。特に,直動案内ユニットは,軌道レールを竪軸即ち縦軸や垂直軸として適用するタイプのものが多くなり,スライダには軌道レール上を一層滑らかに摺動運動できることが求められている。直動案内ユニットについては,スライダは,ケーシングの両端に方向転換路を有するエンドキャップを配設した構造を有しており,エンドキャップに形成された方向転換路は,スライダが跨架した軌道レールの両側面に形成された軌道路から軌道レールの上部角部を回ってケーシングの中心寄り位置のリターン路へ転動体のボールを案内するものになっており,狭隘形タイプに形成されているものが知られている。
【0003】
直動案内ユニットとして,本出願人によって先に出願されたスライダを狭隘形に形成した無限直線運動用玉軸受が知られている。該無限直線運動用玉軸受は,トラックレールの両側面に各一条列の軌道溝を長手方向にそれぞれ形成したタイプであり,ケーシング内部に形成されるリターン孔は負荷ボールの位置より上部内側に形成され,方向転換路は通路の中心で左右対称な形状となって側板の内面に形成されている。上記無限直線運動用玉軸受は,負荷域のボールが徐々にケーシングの外側円弧上に送り出され,U字状の軌跡を通って方向転換路からリターン路へ進んで行くものに構成されていた(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,直動案内ユニットとして,本出願人によって先に出願されたスライダを狭隘形に形成した狭隘形直動案内ユニットが知られている。該狭隘形直動案内ユニットは,1つの例として,方向転換路がケーシングの摺動方向軸に直交し且つ側板内の断面において単一の中心を有する円弧で形成され,その円弧中心は,負荷軌道路にあるボールの中心を通って軌道溝を有するレール状部材の側面と平行な直線上にあるように形成されている。リターン孔は,円弧で形成される方向転換路の最大高さのレベルになるようにケーシング内に形成され,負荷軌道溝が形成されたレール状部材及びケーシングのそれぞれの側面が傾斜面にそれぞれ形成されている。また,上記狭隘形直動案内ユニットは,別の例として,レール状部材の垂直な側面に軌道溝が形成され,ボール中心を通る垂直線上に中心を有し,半径の円弧で方向転換路を形成し,その円弧の最大高さレベルにおいて,ケーシング内にリターン孔を形成したものであり,負荷域にあるボールのほぼ真上にリターン孔が形成されている(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,直線式ボール・ガイド・レールとして,連続的にスライダ本体とエンド・キャップ及びレールの間に転がるボールが直線レールに沿って案内される騒音を減少させるものが知られている。該直線式ボール・ガイド・レールは,スライダ本体のゲーテ形ボール・グローブの上方の所にノン・ロード・ボール循環通孔が穿孔されたものであり,エンド・キャップに一対のU形ボール回転グルーブが設けられ,U形ボール回転グルーブには一つの半円と一つの直線から成るボール回転コースが有り,回転グルーブの断面は半円形を成し,5つのボールを収容でき,ボールの回転を完成して,ボールはゲーテ形ボール・グルーブからU形ボール回転グルーブに入った後,ボール回転グルーブに沿い180°回り,エンド・キャップの中央位置に転がり,ノン・ロード・ボール循環通孔の中に入る。また,エンドキャップのU形ボール回転グルーブにキャップ・プレートが置かれ,キャップ・プレートには2つのU形ボール回転グルーブに協同する溝が有り,溝は半円形を成し,キャップ・プレートの両半円形端部と中央円孔に円弧状インバース・アングルが形成されている(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,本出願人が開発した直線運動ころがり軸受が知られている。該直線運動ころがり軸受は,無限循環路の構成にあって,直線路から曲線路に,又は曲線路から直線路に転動体が移動するものであり,変曲点においては,無限循環路に沿った方向に転動体の移動変動が生じるものである(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開昭60−256619号公報
【特許文献2】特開平1−126422号公報
【特許文献3】登録実用新案第3008835号公報
【特許文献4】特公平6−54129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,直動案内ユニットは,半導体製造装置,検査・測定装置等の各種の機械装置の発達に伴って,一層の潤滑のメンテナンスフリーと共に,一層の高速摺動及び高タクト可能なものが求められるようになった。上記狭隘形直動案内ユニットは,方向転換路が単一Rで形成されているもののリターン孔を方向転換路の最大高さのレベルで形成しなければならないため,レール状部材を台形状に形成しなければならず,また,垂直な側面でなるレール状部材では,リターン孔を負荷域にあるボールのほぼ真上に形成しなければならなかった。
【0008】
また,上記直線式ボール・ガイド・レールは,ボール循環の円滑さを増進したものになっているが,ボール回転コースが1つの半円と1つの直線とで構成されているので,所謂,方向転換路において変曲点が多い通路に形成されており,ボールの転走を阻害する要因が多く,スライダそのものの摺動がぎくしゃくする問題があり,また,U形ボール回転グルーブは,半円形の溝を合わせたものであり,合わせ位置がボールの転動中心軌跡と合致してしまい,ボール案内が不安定なものになっていた。更に,上記直線式ボール・ガイド・レールは,円弧状インバース・アングルが形成されているが,エンドキャップとキャップ・プレートとの嵌合部分が角部状な形状に形成されているので,通路が不連続に形成され,ボール循環が阻害されるものになっていた。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,主としてエンドキャップの構成に特徴を有するものであり,従来の直動案内ユニットに比較して,スライダの幅方向のスパンを短くコンパクトに構成可能にしたにもかかわらず,方向転換路を転動体のボールの転走を妨げることがない曲路に形成してボールが限りなく滑らかに高速に案内されることを可能にした直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,長手方向両側面に第1軌道溝が形成された長手状で断面矩形状の軌道レール及び前記軌道レールに跨架して相対摺動自在なスライダから成り,前記スライダは,前記第1軌道溝に対向して第2軌道溝が形成され且つ前記第1と第2軌道溝間に形成された軌道路に平行に延びる一対のリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面に取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とに連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,並びに前記軌道路,前記リターン路及び前記方向転換路で構成される循環路を転動する複数の転動体であるボールを有する直動案内ユニットにおいて,
前記リターン路は,前記リターン路間のスパンが前記軌道路間のスパンよりも短い長さで前記ケーシングの幅方向中央寄りに延びており,
前記方向転換路は,前記スライダの摺動方向に見た状態が前記軌道路の中心から前記軌道レールの上部角部を回って前記リターン路の中心へ1つの曲率半径でなる曲路に形成されていることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0011】
この直動案内ユニットにおいて,前記1つの曲率半径でなる前記曲路は,前記摺動方向に見て,180°円弧でなる半円に形成されている。
【0012】
また,前記エンドキャップは,前記方向転換路の内周溝曲面が幅方向両側にそれぞれ形成されたスペーサと,前記スペーサが嵌入され且つ前記方向転換路の外周溝曲面が幅方向両側に形成されたエンドキャップ本体とで構成されている。
【0013】
前記方向転換路は,前記エンドキャップ本体に形成した嵌合凹部に前記スペーサに形成した嵌合部を嵌入して前記エンドキャップ本体に前記スペーサが位置決めされて前記エンドキャップ本体の前記外周溝曲面と前記スペーサの前記内周溝曲面とが対向して配置され,前記エンドキャップの前記嵌合凹部と前記スペーサの前記嵌合部とは,前記軌道路側と前記リターン路側との端部分がアール状の曲部に形成されている。
【0014】
この直動案内ユニットは,前記ケーシングには潤滑剤含浸可能なパイプ部材が嵌挿される嵌挿孔が形成され,前記エンドキャップには前記嵌挿孔に嵌挿される接続管部が一体構造に形成され,前記パイプ部材と前記嵌挿孔の両端に位置する前記接続管部とが連通して前記リターン路が形成されるものである。
【0015】
また,この直動案内ユニットは,前記スペーサには,前記エンドキャップ本体に形成された給油孔に対向して連通し且つ前記接続管部を通って前記リターン路と前記方向転換路へ連通する給油溝が形成されている。
【0016】
また,この直動案内ユニットは,前記エンドキャップ本体の前記方向転換路の前記外周溝曲面と前記外周溝曲面に対向する前記スペーサの前記方向転換路の前記内周溝曲面とのいずれか一方が前記方向転換路の通路中心軸線の位置よりも僅かに深く形成され,他方が前記方向転換路の前記通路中心軸線の位置よりも僅かに浅く形成されて,前記一方側で前記ボールの循環案内をし易くしたものである。
【0017】
また,この直動案内ユニットにおいて,前記エンドキャップは,前記ケーシングの色とは異なる色の青色に着色された合成樹脂材から形成されている。
【発明の効果】
【0018】
この直動案内ユニットは,上記のように,スライダの軸心方向である摺動方向に見た状態が軌道路の中心から軌道レールの上部角部を回ってリターン路の中心へ1つの曲率半径(単一R)でなる曲路に形成されているので,リターン路間のスパンを軌道路間のスパンよりも短い長さに形成したにもかかわらず,方向転換路でのボールの転走が極めてスムーズになり,スライダの軌道レール上での摺動運動がギクシャクせずにスムーズになり,一層の高速摺動及び高タクトを可能し,しかもエンドキャップを通じてリターン路にスムーズに潤滑剤を供給してボールを潤滑でき,潤滑のメンテナンスフリーを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの実施例を説明する。この直動案内ユニットは,特に,潤滑についてメンテナンスフリーを実現すると共に,スライダ2の幅方向の長さ即ちスパンを短く構成可能にしたにもかかわらず,転動体のボール5の循環を限りなく滑らかにしてスライダ2を軌道レール1上でスムーズに摺動させることができ,高速化,高タクト化を実現できるように構成したことを特徴としている。具体的には,この直動案内ユニットは,特に,エンドキャップ4に形成する方向転換路14をエンドキャップ本体7とそれに嵌入するスペーサ6とで相補的構造に構成し,方向転換路14と転走するボール5とのすきまを全長にわたって均一な形状に方向転換路14を形成し,ボール5の循環案内を高精度に高速に転走させることを実現したことに特徴を有するものである。この直動案内ユニットは,長手状即ち長尺で断面矩形状の軌道レール1にスライダ2が跨架し,ケーシング3の両側に形成される一対のリターン路15間の長さ即ちスパンPrが軌道路16間のスパンPkよりも小さく形成され,リターン路15がケーシング3の幅方向中央寄りに延びている構造に形成された狭隘形タイプに構成されている。
【0020】
この直動案内ユニットは,概して,図1に示すように,長手状であって長手方向の両側面17に沿って軌道溝11(第1軌道溝)が設けられた軌道レール1,軌道レール1に対して跨架して転動体であるボール5を介して摺動自在なスライダ2から構成されている。スライダ2は,軌道溝11に対向する軌道溝12(第2軌道溝)が設けられ,また,軌道溝11と軌道溝12とで形成された負荷軌道路である軌道路16を転動する複数の転動体であるボール5を有している。軌道レール1には,軌道レール1をベッド,機台,他部品等のベース66に取り付けるための取付け孔57が形成されている。スライダ2は,主として,一対の軌道溝12及び一対のリターン路15が形成されたケーシング3,ケーシング3の両端面13に配設され且つ一対の方向転換路14が形成されたエンドキャップ4,及びエンドキャップ4の端面に取り付けられたエンドシール35から構成されている。ケーシング3は,軌道レール1の上面70に対向する上部58,及び上部58の両側からそれぞれ垂下して軌道溝12が形成された袖部59から断面逆U字状に両袖部59と上部58とから凹部64に形成されている。また,エンドキャップ4は,ケーシング3に対応して上部60と上部60の両側からそれぞれ垂下した袖部61から断面逆U字状に両袖部61と上部60とから凹部65に形成されている。ケーシング3の上部58には,ボール5が転走するリターン路15を形成するための嵌挿孔30が一対形成されている。
【0021】
この直動案内ユニットにおいて,スライダ2の下面には,下面シール34が取り付けられている。エンドキャップ4とエンドシール35は,ケーシング3の取付け用ねじ穴54に取付けねじ67を螺入することによって固定される。ケーシング3には,上面68にワーク,機器等の他部品を取り付けるためのねじ穴55が形成されている。エンドキャップ4には,エンドシール35の端面に配設したグリースニップル36から供給された潤滑剤を方向転換路14とケーシング3におけるリターン路15とに供給するため,潤滑剤供給路としての給油溝31が形成されている。スライダ2には,ボール5の脱落を防止するため,ボール5を保持する保持バンド37が軌道レール1の軌道溝11間の逃げ溝69を挿通するように設けられている。スライダ2は,ボール5が無限循環転走するように,軌道レール1との間に負荷軌道路16,一端が負荷軌道路16の両端にそれぞれ連通する一対の方向転換路14,及び方向転換路14の他端に連通するリターン路15を備えている。言い換えれば,スライダ2は,ボール5が負荷軌道路16,一方のエンドキャップ4の方向転換路14,リターン路15及び他方のエンドキャップ4の方向転換路14から成る無限循環路20を転走するように,構成されている。
【0022】
この直動案内ユニットは,潤滑に関してメンテナンスフリーの仕様に構成されており,ケーシング3には,互いに平行に延びる一対の嵌挿孔30が形成され,しかも嵌挿孔30がケーシング3に形成された軌道溝12に平行に延びている。嵌挿孔30に嵌挿されたパイプ部材8は,潤滑剤を含浸できる多孔質構造を有してボール5が転走するためのリターン路15を形成し,ボール5に潤滑剤を供給する機能を果たし,ボール5の循環もさらに滑らかになっている。図16及び図17には,ケーシング10の嵌挿孔30に嵌挿配置されたパイプ部材8が示されている。パイプ部材8は,一種のスリーブの構造であり,超高分子量のポリエチレン微粒子で焼結してパイプ状に成形されたものであり,微粒子間に作られた多孔が連通したオープンポアの多孔質構造を持つ焼結樹脂の成形体から構成されており,成形体に形成されている多孔に潤滑剤が含浸される構造に構成されている。パイプ部材8は,内側の通し孔がリターン路15に形成されており,ボール5よりも僅かに大きな径の孔に形成され,また,断面円形でなる外側の外径がケーシング3の嵌挿孔30に僅かな隙間を持って挿入されるサイズに形成されている。また,パイプ部材8の内側の孔は,この実施例では転動体がボール5であるので,断面円形に形成されている。従って,パイプ部材8は,材料や構造の上からも剛性を有しており,潤滑剤を含浸吸収し,潤滑剤を多孔に保持し,排出できる構造に形成されている。
【0023】
この直動案内ユニットは,上記の構成において,特に,方向転換路14を形成するエンドキャップ4の構成に特徴を有するものである。エンドキャップ4に形成された方向転換路14は,特に,ボール5を滑らかに循環案内するために,方向転換路14の変曲点を極力少なくし,しかもリターン路15及び軌道路16との境界部での高精度な構成の曲路10によってリターン路15と軌道路16とに接続して全体としてスムーズな循環路20を構成したものであり,ボール循環方向への移動変動を最も小さく構成しており,エンドキャップ4を構成するエンドキャップ本体7及びスペーサ6について方向転換路14を形成するための相補的構造の最良な形状を有している。エンドキャップ4は,エンドキャップ本体7の上部における嵌合凹部43にスペーサ6の上部における嵌合部44を嵌合すると共に,エンドキャップ本体7の側部における嵌合凹部23(25)にスペーサ6の側部における嵌合部24(25)を嵌合することによって,両者を正確に位置決めして整合させることができる。エンドキャップ本体7には,ケーシング3の位置決め穴56に係合する位置決め用の凸部39,取付けねじ67を通す取付け用孔38,下面シール34を取り付けるための取付け用爪49,保持バンド37を係止するバンド溝53(図9),グリースニップル36を取り付けるためのねじ孔52,及びボール5の転走においてボール5のスムーズな転走を可能にするためのすくい凸部42が形成されている。
【0024】
エンドキャップ4には,幅方向に隔置して一対の方向転換路14が両側にそれぞれ形成されている。エンドキャップ4に形成された方向転換路14は,ボール5を滑らかに循環案内するため,第1として,従来例に比較して,方向転換路14を軸心方向即ち摺動方向(図1のX方向)に見て,1つの曲率半径R(以下,単一Rという)に形成することによって,変曲点が少なくなり,より正確な循環路を算定することが可能になっている。具体的には,方向転換路14は,スライダ2の軸心方向である摺動方向に見た状態が,軌道路16の中心Okとリターン路15の中心Orとの中間を中心Oとして,軌道路16の中心Okから軌道レール1の上部角部18を回ってリターン路15の中心Orへ単一Rでなる立体的な曲路10に形成されている。第2として,単一Rでなる曲路10は,摺動方向に見て,180°円弧でなる半円に形成されており,方向転換路14を180°円弧でなる半円に形成することによって,さらに正確な循環路20を算定し易いものにしている。即ち,方向転換路14は,エンドキャップ本体7とスペーサ6との各部品を組み立てた構成体であって各部品の製作誤差が避けられないものであるが,通路における変曲点を少なく構造し,角度分割を無くして出来るだけ単一Rに形成することによってボール5の転走に対して変動要素が極力小さなものになるように構成されている。
【0025】
この直動案内ユニットにおいて,循環路20を構成する方向転換路14,リターン路15及び軌道路16について,図2を参照して説明する。図2の(a)におけるZ方向(軌道路中心Okとリターン路中心Orとを結ぶ直線方向)から循環路20の中心軌跡41を見ると,図2の(b)に示すようになっている。循環路20は,直線路である軌道路16,軌道路16に平行に直線路でなるリターン路15,及び軌道路16の両端とリターン路15の両端のそれぞれに連通し,図1のX方向から見て単一Rで180°の円弧,且つ図2のZ方向から見て半径R0 の単一R0 で90°円弧になる曲路10に形成された方向転換路14から構成されている。エンドキャップ4は,方向転換路14の溝状の外周溝曲面22が内面側に形成されたエンドキャップ本体7と,エンドキャップ本体7に嵌入して外周溝曲面22,32に対向して方向転換路14の溝状の内周溝曲面21,33が外面側に形成されたスペーサ6とから構成されている。更に,エンドキャップ本体7の外周溝曲面22,32とスペーサ6の内周溝曲面21,33とは,互いに整合することによって立体的な曲路10から成る方向転換路14が形成されている。言い換えれば,方向転換路14の中間部の主たる部分は,エンドキャップ本体7の外周溝曲面22とスペーサ6の内周溝曲面21との整合によって単一Rの曲路10に形成されている。また,軌道路6とリターン路15とに接続する方向転換路14の両端部分は,軌道路16とリターン路15へと続くように曲がり込んだエンドキャップ本体7の外周溝曲面32とスペーサ6の内周溝曲面33との整合によって形成され,軌道路6とリターン路15へと摺動方向へ滑らかに続くように,曲がり込んで立体的な曲路10になって延びている。
【0026】
この直動案内ユニットでは,方向転換路14を構成する曲路10は,従来のような平面的な曲線路ではなく,外周溝曲面22と内周溝曲面21とによるX方向から見て単一Rの曲路部分と外周溝曲面32と内周溝曲面33とによるZ方向から見てR0 の曲路部分とが連続する立体的な曲路10に形成されている。そして,方向転換路14は,エンドキャップ本体7の外周溝曲面22,32とスペーサ6の内周溝曲面21,33とが対向して形成されており,両者の嵌合部25が互いに嵌合,即ち,スペーサ6に形成した嵌合部24がエンドキャップ本体7に形成した嵌合凹部23に嵌入して位置決めすることによって,エンドキャップ本体7の外周溝曲面22,32とスペーサ6の内周溝曲面21,33とが整合即ち合体することになり,軌道路16とリターン路15との端部分と該端部分間の中央部分とが所定の曲率半径R0 ,Rの曲路10から成る方向転換路14に形成される。また,方向転換路14の通路は,ボール5に対して僅かの隙間を有し,該隙間が方向転換路全体に渡って均一なサイズに形成されている。
【0027】
更に,この直動案内ユニットは,エンドキャップ本体7とスペーサ6との嵌合構成に特徴を有するものであり,極めて特徴の有る分割構造に構成されている。第1には,エンドキャップ本体7とスペーサ6との嵌合部25にあって,それらの嵌合部25は,方向転換路14の中心軌跡40即ち循環路20の中心軌跡41を越えて相手側に形成しないように形成したものであり,結果的に,嵌合部25の両側となる軌道路16側とリターン路15側とがR部27に形成されている。図4及び図5に示すように,リターン路15側がR部嵌合凹部47とR部嵌合部48とのR部嵌合になり,軌道路16側がR部嵌合凹部50とR部嵌合部51とのR部嵌合に構成されている。また,この直動案内ユニットは,嵌合部25が方向転換路14の中心軌跡40を越えて相手側に延び出さない構造に構成されていることに対して,例えば,中心軌跡40を越える場合は,その越えた部分から断面円形状に通路を狭くしなければならないが,成形上など製作上狭く作ることは不可能になっている。また,特に,軌道路16側及びリターン路15側のR部嵌合部48,51は,直線路(軌道路16及びリターン路15)から曲路10へ,又は曲路10から直線路への変曲点R0 部になっており,滑らかなボール5の循環に多大な影響を与える部分になっている。第2には,エンドキャップ本体7の方向転換路14の外周溝曲面22が形成された外周溝22(図7),及びスペーサ6の方向転換路14の内周溝曲面21が形成された内周溝21(図11)は,どちらか一方が方向転換路14の通路中心軌跡40の位置よりも僅かに深く形成され,他方が方向転換路14の通路中心軌跡40の位置よりも僅かに浅く形成されている。この実施例では,図7に示すように,より一層安定した循環案内できる上記外周溝が僅かに深く形成され,深い溝の壁面側で主にボール5の循環案内をし易く構成されている。
【0028】
エンドキャップ4には,連通するリターン路15の一部であるリターン路部19が形成された接続管部9が一体構造に形成されている。ケーシング3にエンドキャップ4を取り付けて一体構造に構成することによって,方向転換路14とリターン路15との接続が連続し,ボール5が滑らかに循環できるようになっている。この実施例では,具体的には,接続管部9は,エンドキャップ4と一体構造に形成されており,エンドキャップ本体7の外周溝即ち外周溝曲面32に連続してリターン路15の一部の周面が形成され,背面になる端面から突出して半円筒状に形成された接続管分割部45と,スペーサ6の内周溝の内周溝曲面33に連続してリターン路15の一部の周面が形成され,背面になる端面から突出して半円筒状に形成された接続管分割部46と合体してパイプ状に形成される。また,接続管部9は,ケーシング3の嵌挿孔30に嵌入する外径に形成されている。接続管部9の内周面28の内径は,パイプ部材8のリターン路15を形成する内周面の内径と同一径に形成されていることがボール5の転走をスムーズにして好ましい。また,接続管部9の長さは,ボール直径の半分以上に形成され,より直線路での連通となり,パイプ部材8との接続部,即ちパイプ部材8の端面62と接続管部9の端面63との当接部におけるボール5の循環に与える影響を最小なものにしている。
【0029】
また,この直動案内ユニットは,図3,図4,図6,及び図10に示すように,エンドキャップ本体7には,中央位置に給油のための給油口29が形成され,スペーサ6には,給油口29に対向して給油溝31が形成されている。スペーサ6側に給油の圧力を受け止める給油溝31を形成したことによって,よりグリースや潤滑油の潤滑剤の漏れが防止されている。また,給油溝31は,給油口29に対向する中央位置から両側のリターン路15側に延び接続管部9の外側を軌道レール1側に沿って回り込み,リターン路15の入口部と方向転換路14の入口に開口するように延びて形成されている。即ち,エンドキャップ4の上部60である外部に潤滑剤が漏れないように形成されている。また,エンドキャップ本体7とスペーサ6とで給油通路をエンドキャップ4の内部に形成したので,潤滑剤が漏れないものになっている。また,エンドキャップ4は,ケーシング3の色とは異なる青色(例えば,アクアブルー)に着色された合成樹脂材から形成され,メンテナンスフリーと共に高精度な摺動ができる構造のものであることを示している。
【0030】
図18には,この発明による直動案内ユニット(本発明品)と従来品とを比較した試験結果が示されており,本発明品と従来品とは,特に,軌道レール1を垂直に立てた場合,即ち,立軸(縦軸)姿勢に設置された場合であって,それぞれの摺動抵抗に関する測定結果が示されている。図18において,横軸はスライダ2のストローク(mm)を示し,縦軸は摺動抵抗(N)を示しており,(a)が本発明品であって図の左側がスライダ2の下方向摺動を示し,図の右側がスライダ2の上方向摺動を示しており,また,(b)が従来品であって図の左側がスライダ2の下方向摺動を示し,図の右側がスライダ2の上方向摺動を示している。図18から分かるように,本発明品は,特に,(a)に示すようにスライダ2が下行き即ちスライダ2が下降する場合にも,(b)に示す従来品に比較してスライダ2が滑らかに摺動することが確認された。従って,この発明による直動案内ユニットは,メンテナンスフリー,高速摺動及び高タクト摺動,及び直動案内ユニットの各種の姿勢に好適に対応でき,スライダ2が軌道レール1上を良好に摺動できるものになっている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明による直動案内ユニットは,半導体製造装置,組立装置,検査装置,医療機器,測定装置等の各種装置に適用して往復運動を行う部品に対して高精度,小型化,滑らかな往復運動等の性能を発揮でき,高速化,高タクト化された半導体製造装置等の各種装置にあって潤滑のメンテナンスフリーを確実に行い,転動体のスムーズな転走によってスライダが軌道レール上をスムーズに摺動移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による直動案内ユニットを示す部分断面を含む斜視図である。
【図2】図1の直動案内ユニットの片側を示したものであり,(a)は摺動方向であるX矢視方向に見て循環路を説明するための説明図であり,(b)は(a)に示すZ矢視方向から見た循環路の中心軌跡を一部の直線部分を省略して示す説明図である。
【図3】図1の直動案内ユニットから取り外したエンドキャップを,ケーシング側になる背面から見たエンドキャップの斜視図である。
【図4】図3のエンドキャップからスペーサを外したエンドキャップ本体の斜視図である。
【図5】図3のエンドキャップからエンドキャップ本体を外したスペーサを正面から見たスペーサの斜視図である。
【図6】図4に示すエンドキャップ本体の背面図である。
【図7】図6に示すエンドキャップ本体のB−B断面における断面図である。
【図8】図6に示すエンドキャップ本体のA−A断面における断面図である。
【図9】図6に示すエンドキャップ本体の正面図である。
【図10】図5に示すスペーサの正面図である。
【図11】図10に示すスペーサのE矢視図である。
【図12】図10に示すスペーサのC−C断面における断面図である。
【図13】図10に示すスペーサの背面図である。
【図14】図1の直動案内ユニットに組み込まれたケーシングの正面図である。
【図15】図14に示すケーシングの側面図である。
【図16】図1の直動案内ユニットに組み込まれたパイプ部材の正面図である。
【図17】図16に示すパイプ部材の側面図である。
【図18】本発明品の摺動状況を従来品と比較した試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4 エンドキャップ
5 ボール(転動体)
6 スペーサ
7 エンドキャップ本体
8 パイプ部材
9 接続管部
10 曲路
11 軌道溝(第1軌道溝)
12 軌道溝(第2軌道溝)
13 端面
14 方向転換路
15 リターン路
16 軌道路
17 側面
18 上部角部
20 循環路
21,33 内周溝曲面
22,32 外周溝曲面
23 嵌合凹部
24 嵌合部
29 給油孔
30 嵌挿孔
31 給油溝
47 R部嵌合凹部
48 R部嵌合部
Pr リターン路間のスパン
Pk 軌道路間のスパン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向両側面に第1軌道溝が形成された長手状で断面矩形状の軌道レール及び前記軌道レールに跨架して相対摺動自在なスライダから成り,前記スライダは,前記第1軌道溝に対向して第2軌道溝が形成され且つ前記第1と第2軌道溝間に形成された軌道路に平行に延びる一対のリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面に取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とに連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,並びに前記軌道路,前記リターン路及び前記方向転換路で構成される循環路を転動する複数の転動体であるボールを有する直動案内ユニットにおいて,
前記リターン路は,前記リターン路間のスパンが前記軌道路間のスパンよりも短い長さで前記ケーシングの幅方向中央寄りに延びており,
前記方向転換路は,前記スライダの摺動方向に見た状態が前記軌道路の中心から前記軌道レールの上部角部を回って前記リターン路の中心へ1つの曲率半径でなる曲路に形成されていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記1つの曲率半径でなる前記曲路は,前記摺動方向に見て,180°円弧でなる半円に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記エンドキャップは,前記方向転換路の内周溝曲面が幅方向両側にそれぞれ形成されたスペーサと,前記スペーサが嵌入され且つ前記方向転換路の外周溝曲面が幅方向両側に形成されたエンドキャップ本体とで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記方向転換路は,前記エンドキャップ本体に形成した嵌合凹部に前記スペーサに形成した嵌合部を嵌入して前記エンドキャップ本体に前記スペーサが位置決めされて前記エンドキャップ本体の前記外周溝曲面と前記スペーサの前記内周溝曲面とが対向して配置され,前記エンドキャップの前記嵌合凹部と前記スペーサの前記嵌合部とは前記軌道路側と前記リターン路側との端部分がアール状の曲部に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記ケーシングには潤滑剤含浸可能なパイプ部材が嵌挿される嵌挿孔が形成され,前記エンドキャップには前記嵌挿孔に嵌挿される接続管部が一体構造に形成され,前記パイプ部材と前記嵌挿孔の両端に位置する前記接続管部とが連通して前記リターン路が形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記スペーサには,前記エンドキャップ本体に形成された給油孔に対向して連通し且つ前記接続管部を通って前記リターン路と前記方向転換路へ連通する給油溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記エンドキャップ本体の前記方向転換路の前記外周溝曲面と前記外周溝曲面に対向する前記スペーサの前記方向転換路の前記内周溝曲面とのいずれか一方が前記方向転換路の通路中心軸線の位置よりも僅かに深く形成され,他方が前記方向転換路の前記通路中心軸線の位置よりも僅かに浅く形成されて,前記一方側で前記ボールの循環案内をし易くしたことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
前記エンドキャップは,前記ケーシングの色とは異なる色の青色に着色された合成樹脂材から形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−329401(P2006−329401A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157525(P2005−157525)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】