説明

真空処理方法及び真空処理装置

【課題】アーキング現象発生を抑制して、被処理物品に良好に目的とする処理を施す。
【解決手段】ホルダ2に被処理物品Wを配置した状態で真空容器1内から排気し、容器1内へ加熱用ガスを供給するとともに該ガスを加熱して容器1内に加熱用ガス雰囲気を形成し、該加熱用ガス雰囲気のもとで物品W等を加熱し、容器1から排気することでアーキング発生促進物質を該物品W等から脱離させ、加熱用ガスとともに容器1外へ排出する。次いで物品Wに目的とする処理(例えば膜形成処理)を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空容器内の被処理物品支持ホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法及び真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器内の被処理物品支持ホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法及び真空処理装置は種々のものが知られている。
【0003】
その1例を挙げれば真空アーク蒸着方法及び装置がある。真空アーク蒸着方法及び装置では、例えば、真空容器内の物品ホルダに被処理物品を支持させ、該真空容器内を所定の減圧雰囲気に設定し、蒸発源のカソードを真空アーク放電により蒸発させるとともにイオン化し、該イオン化されたカソード材料をバイアスが印加されたホルダ上の被処理物品へ向かわせることで該被処理物品に該カソード材料を含む膜を形成する。このとき、被処理物品を支持したホルダにバイアスを印加することで、膜質の制御、膜の物品本体への密着力の制御等が可能になる。
【0004】
また、真空アーク蒸着方法及び装置においては、真空容器内に前記イオンと反応するガスを導入し、それらの反応生成物を含む膜を被処理物品に形成することもある。
【0005】
真空容器内ホルダに被処理物品を支持させ、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法及び装置としては、このほか、例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法等を利用し、被処理物品を支持したホルダにバイアスを印加しつつ該被処理物品上に膜形成する真空処理方法及び装置もある。
【0006】
さらに、被処理物品を支持したホルダにバイアスを印加しつつ該被処理物品をプラズマでエッチング処理する方法及び装置や、被処理物品を支持したホルダにバイアスを印加しつつ該被処理物品にイオンの注入を行う真空処理方法及び装置等もある。
【0007】
さらに、膜形成、エッチング等の本来の処理前に被処理物品を支持したホルダにバイアスを印加しつつ該被処理物品をプラズマクリーニングや、イオンボンバード等により浄化処理し、その後に本来の処理を行う真空処理方法及び装置もある。
【0008】
いずれにしても、真空容器内のホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法及び真空処理装置においては、ホルダに印加するバイアスが高電圧の場合、ホルダに配置された被処理物品や該ホルダ自身にアーク放電が発生することがある。
【0009】
このようにアーキング現象が発生すると被処理物品等にアーキング痕が残り、このアーキング痕は不良品の発生につながる。
【0010】
アーキング現象の発生を抑制するために、ホルダに印加するバイアス電圧を低く設定することが考えられるが、それでは、目的とする処理がうまく行えなくなり、例えば膜形成する場合には膜質の悪化、膜密着性不良等を招く。
【0011】
このようなアーキング現象の一因として被処理物品やそれを支持するホルダ等に吸着されていることがある油分、水分等を挙げることができる。これら油分、水分等が被処理物品への目的とする処理において物品加熱ヒータやプラズマ等により加熱されて被処理物品やそのホルダ等から急激に脱離してアーク放電(アーキング)が発生し易い状態が生じることがある。
【0012】
そこで、目的とする処理を実施するに先立ち、真空容器内を排気減圧し、その減圧下において被処理物品やそのホルダ等をヒータで加熱して吸着されている油分、水分等のアーキング発生促進物質を被処理物品等から速やかに脱離させたり、真空容器内の排気時間を長くとることで、アーキング発生促進物質を被処理物品等から脱離させる方法が採用される。
【0013】
しかし、真空容器内の排気時間を長くとることだけで、アーキング発生促進物質を被処理物品等から脱離させる方法では、目的とする処理完了までに要する全体の時間が長くなりすぎ、目的とする処理を施した物品の生産性が低下する。
【0014】
そのため、通常は、真空容器内を排気減圧するとともに被処理物品やそのホルダ等をそれに臨ませたヒータで加熱する手法が採られる。
【0015】
なお、アーキング現象に関しては、例えば、特開2001−262355号公報に、プラズマ生成用の電極として平行平板型電極を採用し、一方の電極にマッチングボックスを介して高周波電源を接続するとともに他方の電極に被成膜基板を配置して該基板に膜形成するプラズマCVD方法及び装置において、マッチングボックスから検出されるDCバイアス信号に基づいて成膜室内のアーキング現象を迅速に検出し、アーキング現象が検出されると成膜を停止することが記載されている。
【0016】
特開平8−1090473号公報には、ケイ素を主成分とするスパッタターゲットをスパッタリングして基板に酸化ケイ素膜を形成する酸化ケイ素膜の成膜方法において、該スパッタターゲットにパルス負電圧を印加することで該ターゲットにおけるアーキング現象を抑制することが記載されている。
【0017】
特開2006−120234号公報には、磁性金属に絶縁物が混入されたスパッタターゲットをスパッタリングして基板に膜形成する方法において、該ターゲットにDCパルス電圧を印加し、該DCパルス電圧印加は、スパッタリング時と非スパッタリング時とで電圧の正負を切り替てターゲットの絶縁物表面の電荷を中和することでスパッタターゲットでのアーキング現象を抑制することが記載されている。
【0018】
【特許文献1】特開2001−262355号公報
【特許文献2】特開平8−1090473号公報
【特許文献3】特開2006−120234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、前記した真空容器内を排気減圧するとともに被処理物品やそのホルダ等をそれに臨ませたヒータで加熱する手法は、被処理物品をその材質等故にあまり高温に加熱できない場合には適用できないか、適用しても、低温加熱ではアーキング発生促進物質の被処理物品等からの脱離が困難になり、十分に脱離効果を達成できない場合が生じる。
【0020】
また、被処理物品等の温度ムラが生じ易く、例えば、ホルダについて言えば、ヒータに直接的に臨む部分とそうでない部分とでは温度差が生じ、ヒータに直接的臨んでいない部分では十分加熱されず、その部分でのアーキング発生促進物質の脱離が困難になる。この問題を解決するために、より高温に加熱すると、ホルダに支持された被処理物品が、耐熱温度を超えてきて、熱的ダメージを受けてしまうことがある。
【0021】
なお、前記特開2001−262355号公報、特開平8−1090473号公報に記載されている手法は、基本的には、アーキングを短時間化したり、アーキングを小エネルギ化するものであり、アーキング現象の発生そのものを抑制するものではない。
【0022】
また、特開2001−262355号公報に記載の手法は、プラズマ生成用の電極として平行平板型電極を採用し、一方の電極にマッチングボックスを介して高周波電源を接続するとともに他方の電極に被成膜基板を配置して該基板に膜形成するプラズマCVD法及び装置を前提とするものであり、真空処理方法及び装置がそのような装置構成に基づくものでないときは適用できない。
【0023】
また、特開2006−120234号公報に記載の手法は、スパッタターゲットが絶縁性物質を含んでいる場合や、ターゲット表面に絶縁物質が存在していることを前提するものであり、つまり、ターゲット表面の帯電に起因するアーキング発生を抑制するものにすぎない。
【0024】
そこで本発明は、真空容器内の被処理物品支持ホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法及び装置であって、次の利点を有する真空処理方法及び装置を提供することを課題とする。
(a)真空容器内からの排気時間を長くとることで該真空容器内の被処理物品等のアーキング現象抑制対象部材からアーキング発生促進物質を脱離させる場合に比べると、目的とする処理が施された物品の生産性の低下を招くことなく、短時間で効率よく該物質を脱離させて該部材でのアーキング現象発生を抑制できる。
(b)アーキング現象抑制対象部材に熱的ダメージを与えたり、本来の目的とする処理に悪影響を与えたりしないで該部材でのアーキング現象発生を抑制できる。
(c)アーキング発生促進物質をアーキング現象抑制対象部材から該部材上での位置ムラなく脱離させ、それだけ確実にアーキング現象発生を抑制できる。
(d)被処理物品へ目的とする処理を実施する前に、該目的処理において不純物となるアーキング発生促進物質を効率よく真空容器外へ排出することができ、それだけ該目的処理時に不純物の影響を少なくして良好に目的処理を実施できる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記課題を解決するため本発明は次の真空処理方法及び真空処理装置を提供する。
(1)真空処理方法
真空容器内の被処理物品支持ホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法であり、
該目的処理前にアーキング現象抑制処理を施し、その後に該目的処理を実施し、
該アーキング現象抑制処理は、
前記ホルダに前記被処理物品を配置した状態で該真空容器内から排気して該真空容器内を所定減圧状態に設定し、
該所定減圧状態設定後に該真空容器内へ加熱用ガスを供給するとともに該加熱用ガスを加熱して該真空容器内に所定温度に加熱された加熱用ガス雰囲気を形成し、該加熱用ガス雰囲気により該真空容器内部材のうち少なくとも前記被処理物品を含むアーキング現象抑制対象部材を昇温させ、
該真空容器からの排気により該昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び該加熱用ガスを該真空容器外へ排出することで行う真空処理方法。
【0026】
(2)真空処理装置
真空容器内の被処理物品支持ホルダに配置される被処理物品に、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理装置であり、
前記真空容器と、
該真空容器内に設置された前記被処理物品支持ホルダと、
該ホルダに前記バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と、
該真空容器内から排気して該真空容器内を減圧するための排気装置と、
前記ホルダに被処理物品が配置され、該排気装置により該真空容器内が前記減圧雰囲気に設定され、該ホルダに該バイアス印加装置からバイアス電圧が印加されている状態で該被処理物品に前記目的とする処理を施すための手段と、
該真空容器内に加熱用ガスを供給する加熱用ガス供給装置と、
該加熱用ガス供給装置から該真空容器内へ供給される加熱用ガスを所定温度に加熱するためのガス加熱装置と
を備えている真空処理装置。
【0027】
本発明に係る真空処理方法及び装置によると、真空容器内ホルダに配置した被処理物品に目的とする処理を施す前にアーキング現象抑制処理を実施して、真空容器内のアーキング現象抑制対象部材(少なくとも最もアーキング現象発生を抑制したい被処理物品)について、それに吸着されていることがあるアーキング発生促進物質(通常、油分、水分等)を該部材から脱離させることができ、その後に目的とする処理を被処理物品に施すことができ、それにより少なくとも被処理物品におけるアーキング痕の発生を抑制して、また、アーキング発生促進物質が脱離することで被処理物品への印加バイアスが安定化して、それだけ品質良好な物品を得ることができる。
【0028】
アーキング現象抑制処理は、ホルダに被処理物品を配置した状態で真空容器内から排気して(真空処理装置では排気装置により排気して)該真空容器内を所定減圧状態に設定し、次いで真空容器内へ加熱用ガスを供給するとともに該加熱用ガスを加熱して(真空処理装置では加熱用ガス供給装置から加熱用ガスを供給するとともに該ガスをガス加熱装置で加熱して)真空容器内に所定温度に加熱された加熱用ガス雰囲気を形成し、該加熱用ガス雰囲気により該真空容器内部材のうち少なくとも前記被処理物品を含むアーキング現象抑制対象部材を昇温させ、該真空容器からの排気により該昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び該加熱用ガスを該真空容器外へ排出することで行うことができる。
【0029】
このとき、加熱用ガス雰囲気によるアーキング現象抑制対象部材の昇温の程度については、低くとも該部材からのアーキング発生促進物質の脱離が容易化される温度まで昇温させればよいのであるが、昇温した該部材から脱離するアーキング発生促進物質及び加熱用ガスを真空容器外へ排出するための真空容器からの排気は、支障がなければ(すなわち、該部材からアーキング発生促進物質を脱離させ、該物質を真空容器外へ排出するのに支障がなければ)、該部材をそのような温度へ向け昇温させている間にも行ってもよい。
【0030】
しかし、アーキング現象抑制対象部材を速やかに昇温させるために、そして真空容器からの排気により、昇温した該部材からアーキング発生促進物質を円滑に脱離させるために、アーキング現象抑制対象部材を低くとも該部材からのアーキング発生促進物質の脱離が容易化される温度まで昇温させたのちに、該昇温させられた部材から脱離するアーキング発生促進物質及び該加熱用ガスを真空容器外へ排出するための排気を開始してもよい。
【0031】
このようにアーキング現象抑制処理により、被処理物品へ目的とする処理を施すに先立って、該目的処理において不純物となるアーキング発生促進物質を効率よく真空容器外へ排出することができ、それだけ該目的処理時に不純物の影響を少なくして良好に目的処理を実施できる。また、アーキング現象抑制処理にひき続き目的とする処理のために真空容器から排気して該容器内を所定減圧状態に設定するとき、そのための排気時間を短くできる利点もある。
【0032】
真空容器内へ加熱用ガスを供給するに先だって、「ホルダに被処理物品を配置した状態で真空容器内から排気して該容器内を所定減圧状態に設定する」ときの、該所定減圧の程度は、現状の真空容器内雰囲気(例えば大気雰囲気)をアーキング現象抑制処理達成に支障のない程度まで前記加熱用ガス雰囲気と置き換え得る程度のものとすればよく、それには限定されないが、例えば、現状の真空容器内雰囲気の略全部を前記加熱用ガス雰囲気と置き換え得る程度のものとすればよい。
【0033】
真空容器内に加熱用ガス雰囲気を形成し、維持するときの該加熱用ガス雰囲気の前記所定温度は、アーキング発生促進物質の円滑な脱離を促すうえではできるだけ高温であることが好ましいが、その温度が被処理物品に熱的ダメージを与えたり、アーキング現象抑制処理後の本来の目的とする処理時に被処理物品に求められる温度を超える残熱を被処理物品に与えるような温度は好ましくない。
【0034】
例えば、樹脂、ゴム等の高分子材料を含む被処理物品、所謂低融点ガラスを含む被処理物品、アルミニウム等の比較的低融点金属を含む被処理物品等は耐熱温度が比較的低い。樹脂を含む被処理物品では100℃程度以下の加熱温度が好ましいことが多い。
また、例えば目的とする処理がダイアモンド状炭素膜の形成であったり、結晶成長させたくない膜の形成であるようなときには、該膜形成時の被処理物品の温度は比較的低温であることが好ましいことがある。ダイアモンド状炭素膜は、200℃以下での形成が好ましく、50℃〜150℃での形成がより好ましい。
【0035】
そこで、真空容器内に加熱用ガス雰囲気を形成するときの該加熱用ガス雰囲気の前記所定温度は、被処理物品の耐熱温度や、アーキング現象抑制処理後の本来の目的とする処理時の被処理物品に求められる温度を考慮して、被処理物品に熱的ダメージを与えない範囲で、また、アーキング現象抑制処理後の目的処理時に被処理物品に求められる温度を超える残熱を被処理物品に与えない範囲で選択決定すればよい。例えば、50℃程度でもアーキング発生促進物質の脱離は可能であるが、80℃程度以上でそのような範囲内の温度(例えば100℃程度)がより好ましい。
【0036】
このアーキング現象抑制処理では、アーキング現象抑制対象部材(少なくとも被処理物品)からのアーキング発生促進物質の脱離を、加熱用ガス雰囲気による該部材の加熱により生じさせるので、従来のように真空容器内からの排気時間を長くとることでアーキング現象抑制対象部材からアーキング発生促進物質を脱離させる場合に比べると、全体として、目的とする処理が施された物品の生産性の低下を招くことなく、短時間で効率よく該物質を脱離させて該部材でのアーキング現象発生を抑制できる。
【0037】
また、加熱用ガス雰囲気の温度は、アーキング現象抑制対象部材の耐熱温度や、アーキング現象抑制処理後の本来の目的とする処理時に被処理物品に求められる温度等を考慮して、アーキング現象抑制対象部材(特に被処理物品)に熱的ダメージを与えない範囲で、また、アーキング現象抑制処理後の目的処理時に被処理物品に求められる温度を超える残熱を被処理物品に与えない範囲で設定することができ、それによりアーキング現象抑制対象部材に熱的ダメージを与えたり、本来の目的とする処理に悪影響を与えたりしないで該部材でのアーキング現象発生を抑制できる。
【0038】
さらに、アーキング現象抑制対象部材を加熱用ガス雰囲気でムラなく加熱できるので、アーキング発生促進物質を該アーキング現象抑制対象部材から該部材上での位置ムラなく脱離させることができ、それだけ確実にアーキング現象発生を抑制できる。
【0039】
また、該アーキング現象抑制対象部材が導電性の部材である場合は勿論、例えば被処理物品が非導電性物品でそれを支持するホルダが導電性のホルダであるような場合でもそれらについてアーキング現象発生を抑制できる。
【0040】
以下に本発明に係る真空処理方法及び装置についてさらに説明する。
(1−1)真空処理方法について
前記アーキング現象抑制処理における前記加熱用ガスの加熱は前記真空容器内に設置したガス加熱装置で行ってもよく、該真空容器外に設置したガス加熱装置で行ってもよく、これらガス加熱装置を組み合わせて行ってもよい。
【0041】
真空容器内設置のガス加熱装置を採用する場合は、被処理物品等が加熱装置からの輻射熱で局部的に過度に加熱されないように被処理物品等と加熱装置との間に熱反射部材を設けることが望ましい。
【0042】
前記真空容器外設置のガス加熱装置を採用する場合、該加熱装置として、前記真空容器内へ供給される加熱用ガスを該加熱装置及び該真空容器間で循環させつつ加熱するガス加熱装置を採用してもよい。かかる真空容器外の加熱装置は、加熱用ガスを効率よく加熱することができる。また、真空容器構造等に影響されずにガス加熱装置の種類等の選択範囲を広くとることができるとともに真空容器内の構成の自由度が大きくなる。
【0043】
前記真空容器外設置のガス加熱装置を採用する場合において該加熱装置として、加熱用ガス供給装置からの加熱用ガスを加熱して前記真空容器内へ導くガス加熱装置を採用してもよい。このガス加熱装置を採用する場合は、該ガス加熱装置から該真空容器内への加熱された加熱用ガスの導入を該真空容器内ガスの該真空容器に設けられたガス放出部からの放出を許しつつ行ってもよい。そうすることで、所定温度に加熱された加熱用ガスが次々と真空容器内に供給され、アーキング現象抑制対象部材が所定温度へ速やかに昇温する。
【0044】
このように加熱用ガスの導入を該真空容器内ガスの放出を許しつつ行う場合、昇温した該部材から脱離するアーキング発生促進物質及び加熱用ガスの真空容器外への排出のための該真空容器からの排気にあたっては、前記真空容器のガス放出部を閉じることが望ましい。
【0045】
前記アーキング現象抑制処理において前記真空容器内に前記所定温度に加熱された加熱用ガス雰囲気を形成し、該加熱用ガス雰囲気により前記アーキング現象抑制対象部材を昇温させ、該真空容器からの排気により該昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び該加熱用ガスを該真空容器外へ排出するにあたっては、温度均一化用ガス攪拌装置で該真空容器内加熱用ガスを攪拌してもよい。
【0046】
前記加熱用ガスとしては、代表例として、窒素ガス及び不活性ガス(アルゴンガス等)から選ばれた少なくとも1種のガスを挙げることができる。
真空容器内へ供給する加熱用ガスは乾燥ガスであることが好ましい。ここで乾燥ガスとは、水分等の吸着時間の長い不純物の濃度が低いガスを意味する。純度99.9999%(所謂4ナイン)の市販の窒素ガスは好ましいものの一つである。
【0047】
アーキング現象抑制処理における真空容器内加熱用ガス雰囲気の気圧は、アーキング現象抑制対象部材の加熱がガスの熱伝導でなされる関係上、できるだけ高い方がよく、例えば、概ね0.01atm(0.01気圧)(略10.13ヘクトパスカル)以上を挙げることができる。加熱用ガス雰囲気の気圧の上限については、大気圧より高くてもよいが、真空容器の製造の容易化等の点から、概ね1atm(大気圧)(略1013ヘクトパスカル)程度以下でもよい。また、アーキング現象抑制対象部材からのアーキング発生促進物質の速やかな脱離のためも、概ね1atm(大気圧)(略1013ヘクトパスカル)程度以下を例示できる。
【0048】
従って、真空容器からの排気により、前記昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び加熱用ガスを該真空容器外へ排出するときの該真空容器内気圧として、0.01atm〜1atm程度を例示できる。
【0049】
本発明に係る真空処理方法において、前記被処理物品に施す目的とする処理としては、(1) イオンプレーティング法(真空アーク蒸着法、ホローカソード法等)、プラズマCVD法、スパッタリング法等による前記被処理物品への膜形成処理〔例えば炭素を主成分とする膜(例えばダイアモンド状炭素膜)の形成〕、
(2) プラズマによる被処理物品のエッチング処理、
(3) 被処理物品へのイオンの注入処理を例示できる。
膜形成、エッチング等の本来の処理前に、プラズマや、イオンボンバード等による被処理物品の少なくとも目的とする処理を施す部分の浄化処理を行ってもよい。
【0050】
(2−1)真空処理装置について
本発明に係る真空処理装置においても、前記ガス加熱装置は、真空容器内に設置されているもの、真空容器外に設置されているもの、それらの組み合わせからなるもののいずれでもよい。
【0051】
真空容器内に設置されたガス加熱装置については、それからの輻射熱で被処理物品等が局部的に加熱されることを防止するため、例えば、熱反射部材を間にして前記ホルダとは反対側に配置してもよい。
【0052】
真空容器外に配置されたガス加熱装置は、前記加熱用ガス供給装置からの加熱用ガスを加熱して真空容器内へ導くものでもよいが、加熱用ガスをより確実に所定温度に維持するために、加熱用ガス供給装置から真空容器内へ供給される加熱用ガスを該ガス加熱装置及び該真空容器間で循環させつつ加熱する加熱装置でもよい。
【0053】
真空容器外に配置されたガス加熱装置として、加熱用ガス供給装置からの加熱用ガスを加熱して真空容器内へ導くものを採用するときは、該ガス加熱装置から該真空容器内への加熱された加熱用ガスの導入を該真空容器内ガスの該真空容器からの放出を許しつつ行うためのガス放出部を真空容器に設けてもよい。
【0054】
また本発明に係る真空処理装置は、真空容器内温度を均一化するための温度均一化用ガス攪拌装置を備えていてもよい。
【0055】
いずれにしても、前記加熱用ガスは代表例として窒素ガス及び不活性ガス(アルゴンガス等)から選ばれた少なくとも1種のガスを挙げることができる。この場合も加熱用ガスは乾燥ガスであることが望ましい。
【0056】
本発明に係る真空処理装置は、前記真空容器内のガス温度を検出する温度検出装置及び(又は)前記ホルダに支持される被処理物品の温度を検出する温度検出装置を備えていてもよい。
【0057】
本発明に係る真空処理装置における前記被処理物品に目的とする処理を施す手段としては、
(1) イオンプレーティング法(真空アーク蒸着法、ホローカソード法等)、プラズマCVD法、スパッタリング法等により前記被処理物品に膜形成する手段〔例えば炭素を主成分とする膜(例えばダイアモンド状炭素膜)を形成する手段〕、
(2) プラズマにより被処理物品にエッチング処理を施す手段、
(3) 被処理物品へのイオンの注入の処理を行う手段を例示できる。
真空処理装置は、膜形成、エッチング等の本来の処理前に、被処理物品の少なくとも目的とする処理を施す部分にプラズマや、イオンボンバード等による浄化処理を行う手段を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0058】
以上説明したように本発明によると、真空容器内の被処理物品支持ホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法及び装置であって、次の利点を有する真空処理方法及び装置を提供することができる。
(a)真空容器内からの排気時間を長くとることで該真空容器内の被処理物品等のアーキング現象抑制対象部材からアーキング発生促進物質を脱離させる場合に比べると、目的とする処理が施された物品の生産性の低下を招くことなく、短時間で効率よく該物質を脱離させて該部材でのアーキング現象発生を抑制できる。
(b)アーキング現象抑制対象部材に熱的ダメージを与えたり、本来の目的とする処理に悪影響を与えたりしないで該部材でのアーキング現象発生を抑制できる。
(c)アーキング発生促進物質をアーキング現象抑制対象部材から該部材上での位置ムラなく脱離させ、それだけ確実にアーキング現象発生を抑制できる。
(d)被処理物品へ目的とする処理を実施する前に、該目的処理において不純物となるアーキング発生促進物質を効率よく真空容器外へ排出することができ、それだけ該目的処理時に不純物の影響を少なくして良好に目的処理を実施できる。
例えば目的処理が膜形成処理の場合には、膜中への不純物の混入が低減し、安定的に再現性よく良質の目的とする膜の形成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(1)第1実施形態
図1は本発明に係る真空処理装置の1例Aの構成の概略を示している。
図1の真空処理装置Aは真空アーク蒸着法により被処理物品(本例では基板S)に膜形成する装置である。
【0060】
図1の真空処理装置Aは、真空容器1を備えており、真空容器内には被処理物品Wを支持するためのホルダ2が設置されている。被処理物品Wは、ここでは板状部材である。以下、この被処理物品Wを「基板W」と称する。
【0061】
ホルダ2は、縦長の円筒形状のホルダで、下方へ突出する回転軸21を有しており、この軸21が真空容器底壁に設けた軸受け部22に回転可能に支持されるとともに該軸受け部の下方へ突出している。軸21の軸受け部下方へ突出した部分が歯車伝動機構23を介してモータ24で駆動できるようになっている。すなわち、ホルダ2はモータ24で回転させることができる。ホルダ2には図示省略のヒータが内蔵されている。
【0062】
基板Wは円筒形ホルダ2の周面上に支持させることができる。
ホルダ2には、従ってホルダ2に支持される基板Wには、出力可変のDCバイアス電源3から軸21を通して負のバイアス電圧を印加できる。
【0063】
真空容器1には、該容器内から排気したり、排気して容器内を減圧するための排気装置4が接続されている。
【0064】
また、真空容器1の側壁部に、ホルダ2に対向するように、膜形成手段の1例である真空アーク蒸着部5が搭載されている。真空アーク蒸着部5は蒸発源51を含んでいる。蒸発源の数は一つでもよいが、ここでは、ホルダ2が上下方向に長く、上下に複数段に基板Wが取り付けられる関係上、上下4段設けられている。
【0065】
蒸発源51は、それ自体既に知られているものであり、その詳細の説明は省略するが、基本的には、被処理物品に形成しようとする膜の成分を含むカソード50を真空アーク放電により蒸発させるとともにイオン化させ、該イオン化したカソード材料を被処理物品に飛翔させて膜形成するものである。このとき、イオン化カソード材料が円滑に被処理物品に向かうように該物品にバイアス(通常、負のバイアス)が印加されることがある。ここでは、そのためにホルダ2にバイアス電源3を接続してある。
【0066】
真空容器1には、さらに、加熱用ガスを供給する加熱用ガス供給装置6が接続されているとともに真空容器内にガス加熱装置7及び容器内雰囲気を攪拌する攪拌装置Fが設けられている。ガス加熱装置7は、複数枚の熱反射板からなる熱反射部材(熱リフレクタ)71を間にしてホルダ2とは反対側に配置されている。
【0067】
装置6から供給する加熱用ガスは本例では乾燥窒素ガスであるが、乾燥アルゴンガス等の乾燥不活性ガスでもよい。
攪拌装置Fは本例では攪拌ファン装置である。
【0068】
ガス加熱装置7は、ガス供給装置6から真空容器1内へ供給される加熱用ガスを所定温度に加熱するためのものであり、抵抗加熱ヒータ、ランプヒータ等を用いて構成できるが、ここでは抵抗加熱ヒータであるシースヒータを用いて構成している。
熱反射部材71は、ガス加熱装置7からの輻射熱でホルダ2やそれに搭載される基板W等が局部的に加熱される等して熱的ダメージを受けること防止するものである。
【0069】
なお、ガス加熱装置を抵抗加熱ヒータで構成する場合、そのヒータは、各種粒子からのヒータ線保護や異常放電発生防止のためにヒータ線が絶縁性材料で被覆されたシースヒータが望ましい。ランプヒータで構成する場合は、ランプヒータで加熱用ガスを直接加熱することは効率が悪いので、何らかの構造物をランプヒータで加熱し、該構造物とガスとの熱伝導でガスを加熱することが好ましい。
【0070】
以上のほか、真空容器1内の雰囲気温度を検出する温度検出装置T1及びホルダ2上に配置される基板Wの温度を検出する温度検出装置T2並びに容器1内気圧を知るための圧力計Pも設けられている。温度検出装置T1は真空容器内空間に配置した熱電対温度計S1を含むものであり、温度検出装置T2はホルダ2の基板取付け部位に配置した熱電対温度計S2を含むものである。
【0071】
以上説明した真空処理装置Aによると、基板Wに膜形成することができるが、該膜形成に先立って、アーキング現象抑制処理を実施できる。アーキング現象抑制処理は次のようにして実施する。
【0072】
まず、真空容器1内のホルダ2上に基板Wを取り付ける。その状態で容器1内から排気装置4にて排気し、容器1内に現存する気体ができるだけ排出されるように容器1内を 7×10-1Pa以下に減圧する。容器1内の圧力は圧力計Pで確認することができる。
【0073】
次いで、加熱用ガス供給装置6から容器1内へ窒素ガスを供給し、容器1内に供給された窒素ガスをガス加熱装置7で加熱する。このときガス温度は高い方が(例えば200℃程度の方が)効率的にアーキング発生促進物質の脱離を促すことができるが、基板Wへの膜形成処理においてそのような高温を採用できないときのように基板Wの耐熱性が低いときには、例えば略50℃以上略100℃程度までに(より好ましくは略100℃程度に)加熱された加熱用ガス雰囲気を形成して、且つ、攪拌装置Fで容器内ガスを攪拌することで容器内ガス温度を均一化しつつ、ホルダ2、該ホルダ上の基板W等を全体的に均一に、低くとも該基板W等からアーキング発生促進物質が容易に脱離可能となる温度まで加熱する。
【0074】
このとき、ホルダ2は回転させてもよい。容器1内の加熱用ガスの温度は温度検出装置T1で確認し、基板Wの温度は温度検出装置T2で確認する。
なお、基板W等のアーキング現象抑制対象部材からアーキング発生促進物質が容易に脱離可能となる該温度は例えば予め実験等により求めておくことができる。
【0075】
加熱ガス雰囲気による基板W等の前記温度へ向けての加熱途中に、支障がなければ(すなわち、基板Wからアーキング発生促進物質を脱離させ、該物質を真空容器1外へ排出するに支障がなければ)、排気装置4による容器1からの排気を行ってもよい。しかし、ここでは、基板W等のアーキング現象抑制対象部材を速やかに低くとも前記温度へ昇温させるために、そしてひき続く真空容器1からの排気により、昇温した該基板W等からアーキング発生促進物質を円滑に脱離させるために、基板W等を低くともアーキング発生促進物質の脱離が容易化される温度まで昇温させたのちに、排気装置4による容器1からの排気を再開する。
【0076】
アーキング現象抑制処理における真空容器1内の気圧は、ここでは概ね0.01atm(0.01気圧)(略10.13ヘクトパスカル)〜概ね1atm(大気圧)(略1013ヘクトパスカル)程度の範囲に設定する。
【0077】
このようにしてホルダ2、基板W等を加熱することで、それらに吸着されていることがあるアーキング発生促進物質(油分、水分等)を加熱用ガスと置換して脱離させ、脱離したアーキング発生促進物質を加熱用ガスとともに真空容器1外へ円滑に排出することができる。
【0078】
ホルダ2、基板W等からアーキング発生促進物質を除いてアーキング現象の発生を抑制するアーキング現象抑制処理を実施したのち、本来の膜形成処理を実施する。 膜形成処理においては、ガス供給装置6からの加熱用ガスの供給は停止するとともに、ガス加熱装置7及び攪拌装置Fを停止する。排気装置4については、真空容器1内を成膜圧に維持するように必要応じ運転する。
【0079】
膜形成は次のように行う。真空アーク蒸発部5における各蒸発源51において、アーク放電を発生させてカソード50を蒸発させるとともにイオン化する一方、バイアス電源3からホルダ2に、従ってホルダ2上の各基板Wに負のDCバイアスを印加し、これによりイオン化されたカソード材料を各基板Wに飛翔させて膜形成する。この膜形成においてはホルダ2を回転させる。
【0080】
この膜形成時には、ホルダ2、その上の基板W等から既に前記のようにアーキング発生促進物質が脱離除去されているので、ホルダ2、基板W等でのアーキング現象発生が抑制され、それにより基板W等におけるアーキング痕の発生が抑制され、それだけ良質の膜を得ることができる。
【0081】
形成される膜種については、カソード50の材料等により定まってくる。例えばカソード50として炭素を主成分とするカソードを採用することで炭素膜を形成できる。例えば、カソード50として炭素を主成分とするカソードを採用し、容器1内の成膜圧をダイアモンド状炭素膜形成のための所定成膜圧とし、図示省略のホルダ内蔵ヒータで基板W温度を、200℃以下、より好ましくは50℃〜150℃の範囲の温度で、且つ、基板に熱的ダメージを与えない温度に維持し、(例えば基板が合成樹脂製のものであれば100℃以下が好ましい)で加熱し、さらにホルダ2に、従って基板Wにバイアス電源3から予め定めた負のバイアスを印加することで、基板Wにダイアモンド状炭素膜を形成できる。
【0082】
複数の蒸発源51におけるカソード材料は全て同材料である必要はなく、異なる材料からなるカソード50、例えば、クロムからなるカソードとチタンからなるカソードを採用することで、クロムとチタンとが混在した、或いはそれら両者が積層された膜を形成することも可能である。
【0083】
さらに、イオン化されたカソード材料と反応するガスを図示省略のガス供給装置から容器1内へ供給することで、該イオン化されたカソード材料と該ガスとの反応生成物からなる膜を形成することも可能である。例えば、カソード50をTiAlからなるカソードとし、容器1内へ窒素ガスを供給することで、TiAlN膜を形成することができる。
【0084】
以上説明した膜形成では、アーキング現象抑制処理後、ひき続き膜形成したが、膜形成前に基板Wをプラズマクリーニングしてもよい。
例えば、図1に示すガス供給装置Gから、基板材料に応じたプラズマクリーニング用ガス(例えば基板が樹脂製であれば例えばアルゴンガス)を供給するとともに該ガスをアンテナaからの高周波放電によりプラズマ化させ、該プラズマのもとで基板Wを浄化処理し、その後に膜形成してもよい。なお、図1において、Mはマッチングボックス、PWは高周波電源である。
【0085】
このほか、放電用ガスとしてアルゴンガス等を容器1内へ導入し、基板Wに負の高電圧を印加してグロー放電を形成してクリーニングを行う方法、さらに容器1内でタングステン等のフィラメントを加熱して熱電子を放出させることで該容器内へ導入した放電用ガス(アルゴンガス等)をプラズマ化して、該プラズマでクリーニングする方法なども採用できる。
【0086】
以上説明した真空処理装置Aでは、加熱用ガスの加熱を真空容器1内設置のガス加熱装置7で行ったが、例えば図2に示すガス加熱装置8や図3に示すガス加熱装置9で加熱してもよい。図2に示す真空処理装置B、図3に示す真空処理装置Cは、ガス加熱装置の点及びそれに関連する部分の点を除けば、図1の真空処理装置Aと実質上同じものである。装置Aと同じ部品、部分等には装置Aと同じ参照符号を付してある。
【0087】
図2の真空処理装置Bにおけるガス加熱装置8は、ガス循環ポンプ81とガス加熱部82とを連設したものである。ガス循環ポンプ81の吸気管811及びガス加熱部82のガス吐出管821がそれぞれ真空容器1に接続されている。加熱部82は抵抗加熱ヒータ(例えばシースヒータ)、ランプヒータ、伝熱用部材をバーナーで加熱して該伝熱用部材でガスを加熱するもの等のいずれを採用したものでもよい。
【0088】
ガス加熱装置8によると、加熱用ガス供給装置6から真空容器1内へ供給される加熱用ガスがポンプ81へ吸引されてガス加熱部82へ送り込まれ、ここで加熱されて容器1内へ供給されるというように加熱装置8と容器1との間でガスを循環させつつガスを効率的に加熱できる。
【0089】
ガス加熱装置8によると、それは容器1外にあるので、ガス加熱方式(抵抗加熱ヒータ等による方式等)を広い範囲から選択でき、また、真空容器1内構成の自由度が大きくなる利点がある。
【0090】
図3の真空処理装置Cにおけるガス加熱装置9は、ガス供給装置6から真空容器1へ加熱用ガスが供給される途中で該ガスを加熱するものである。真空容器1には、容器内ガスを、供給されるガスで押し出し連続放出するための開閉弁V付きのガス放出部11が設けられている。
【0091】
このガス加熱方式によると、容器1内へ加熱された加熱用ガスを供給する一方、容器1内ガスを放出部11から連続的に容器外へ放出できるので、所定温度に加熱された加熱用ガスが次々と真空容器1内に供給され、基板W等のアーキング現象抑制対象部材が所定温度へ速やかに昇温する。
【0092】
基板W等から脱離するアーキング発生促進物質及び加熱用ガスの容器1外への排出のための排気装置4による排気は、基板W等がアーキング発生促進物質の脱離が容易化される温度まで昇温したのちに、開閉弁Vを閉じて行う。
加熱装置9は容器1外に設けられるので、前記図2の装置Bにおける容器外設置のガス加熱装置8と同様の利点もある。
【0093】
加熱装置9は、抵抗加熱ヒータ(例えばシースヒータ)、ランプヒータ、伝熱用部材をバーナーで加熱して該伝熱用部材でガスを加熱するもの等のいずれを採用したものでもよい。
【0094】
以上説明した真空処理装置A、B及びC及びそれらにより実施される真空処理方法では基板Wに膜形成したが、被処理物品の形態は板状のものに限定されない。自動車部品、機械部品(自動車部品を除く)、工具、さらには、自動車部品や機械部品等の成形に用いる金型等の成形型等でもよく、被処理物品の形態等に応じてホルダ2をそれに適するものに変更する等してそれらにも膜形成できる。
【0095】
また、以上説明した真空処理装置A、B及びC及びそれらにより実施される真空処理方法では目的とする処理が膜形成処理であったが、本発明は、プラズマCVD法、スパッタリング法等の他の方法を利用した膜形成にも適用でき、また、フラズマエッチング、イオンの注入等にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、アーキング現象発生を抑制して良好に目的とする処理を実施できる真空処理方法及び装置の提供に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係る真空処理装置の1例の構成の概略を示す図である。
【図2】本発明に係る真空処理装置の他の例の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明に係る真空処理装置のさらに他の例の構成の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
A、B、C 真空処理装置
1 真空容器
11 ガス放出部
2 ホルダ
21 ホルダの回転軸
22 軸受け部
23 歯車伝動装置
24 モータ
3 バイアス電源
4 排気装置
5 真空アーク蒸着部
51 蒸発源
50 カソード
6 加熱用ガス供給装置
7 ガス加熱装置
8 ガス加熱装置
81 ガス循環ポンプ
82 ガス加熱部
9 ガス加熱装置
T1、T2 温度検出装置
P 圧力計
G プラズマクリーニング用ガスの供給装置
a 高周波アンテナ
W 基板(被処理物品の1例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内の被処理物品支持ホルダに被処理物品を配置し、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ該被処理物品に減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理方法であり、
該目的処理前にアーキング現象抑制処理を施し、その後に該目的処理を実施し、
該アーキング現象抑制処理は、
前記ホルダに前記被処理物品を配置した状態で該真空容器内から排気して該真空容器内を所定減圧状態に設定し、
該所定減圧状態設定後に該真空容器内へ加熱用ガスを供給するとともに該加熱用ガスを加熱して該真空容器内に所定温度に加熱された加熱用ガス雰囲気を形成し、該加熱用ガス雰囲気により該真空容器内部材のうち少なくとも前記被処理物品を含むアーキング現象抑制対象部材を昇温させ、
該真空容器からの排気により該昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び該加熱用ガスを該真空容器外へ排出することで行う
ことを特徴とする真空処理方法。
【請求項2】
前記アーキング現象抑制処理における前記加熱用ガスの加熱は前記真空容器外に設置したガス加熱装置で行う請求項1記載の真空処理方法。
【請求項3】
前記真空容器外設置のガス加熱装置として、加熱用ガス供給装置からの加熱用ガスを加熱して前記真空容器内へ導くガス加熱装置を採用し、該ガス加熱装置から該真空容器内への加熱された加熱用ガスの導入を該真空容器内ガスの該真空容器に設けられたガス放出部からの放出を許しつつ行い、
前記真空容器からの排気により、前記昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び加熱用ガスを該真空容器外へ排出するにあたっては、前記真空容器のガス放出部を閉じる請求項2記載の真空処理方法。
【請求項4】
前記真空容器外設置のガス加熱装置として、前記真空容器内へ供給される加熱用ガスを該加熱装置及び該真空容器間で循環させつつ加熱するガス加熱装置を採用する請求項2記載の真空処理方法。
【請求項5】
前記アーキング現象抑制処理における前記加熱用ガスの加熱は前記真空容器内に設置したガス加熱装置で行う請求項1記載の真空処理方法。
【請求項6】
前記アーキング現象抑制処理において前記真空容器内に前記所定温度に加熱された加熱用ガス雰囲気を形成し、該加熱用ガス雰囲気により前記アーキング現象抑制対象部材を昇温させ、該真空容器からの排気により該昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び該加熱用ガスを該真空容器外へ排出するにあたり、温度均一化用ガス攪拌装置で該真空容器内加熱用ガスを攪拌する請求項1から5のいずれかに記載の真空処理方法。
【請求項7】
前記加熱用ガスとして窒素ガス及び不活性ガスから選ばれた少なくとも1種のガスを採用する請求項1から6のいずれかに記載の真空処理方法。
【請求項8】
真空容器からの排気により、前記昇温させられたアーキング現象抑制対象部材から脱離するアーキング発生促進物質及び前記加熱用ガスを該真空容器外へ排出するときの該真空容器内気圧は0.01atm〜1atmとする請求項1から7のいずれかに記載の真空処理方法。
【請求項9】
前記被処理物品に施す目的とする処理は該被処理物品に膜形成する膜形成処理である請求項1から8のいずれかに記載の真空処理方法。
【請求項10】
前記膜形成処理は前記被処理物品に炭素を主成分とする膜を形成する処理である請求項9記載の真空処理方法。
【請求項11】
前記アーキング現象抑制処理後、前記目的とする処理前に、プラズマのもとで該被処理物品の少なくとも該目的とする処理対象部分を浄化するプラズマ浄化処理を行う請求項1から10のいずれかに記載の真空処理方法。
【請求項12】
真空容器内の被処理物品支持ホルダに配置される被処理物品に、該ホルダにバイアス電圧を印加しつつ減圧雰囲気において目的とする処理を施す真空処理装置であり、
前記真空容器と、
該真空容器内に設置された前記被処理物品支持ホルダと、
該ホルダに前記バイアス電圧を印加するバイアス印加装置と、
該真空容器内から排気して該真空容器内を減圧するための排気装置と、
前記ホルダに被処理物品が配置され、該排気装置により該真空容器内が前記減圧雰囲気に設定され、該ホルダに該バイアス印加装置からバイアス電圧が印加されている状態で該被処理物品に前記目的とする処理を施すための手段と、
該真空容器内に加熱用ガスを供給する加熱用ガス供給装置と、
該加熱用ガス供給装置から該真空容器内へ供給される加熱用ガスを所定温度に加熱するためのガス加熱装置と
を備えていることを特徴とする真空処理装置。
【請求項13】
前記ガス加熱装置は前記真空容器外に設置されている請求項12記載の真空処理装置。
【請求項14】
前記ガス加熱装置は前記加熱用ガス供給装置からの加熱用ガスを加熱して前記真空容器内へ導くガス加熱装置であり、該真空容器は、該ガス加熱装置から該真空容器内への加熱された加熱用ガスの導入を該真空容器内からガス放出を許しつつ行うためのガス放出部を備えている請求項13記載の真空処理装置。
【請求項15】
前記ガス加熱装置は、前記加熱用ガス供給装置から前記真空容器内へ供給される加熱用ガスを該ガス加熱装置及び該真空容器間で循環させつつ加熱するガス加熱装置である請求項13記載の真空処理装置。
【請求項16】
前記ガス加熱装置は前記真空容器内に設置されている請求項12記載の真空処理装置。
【請求項17】
前記ガス加熱装置は熱反射部材を間にして前記ホルダとは反対側に設置されている請求項16記載の真空処理装置。
【請求項18】
前記真空容器内温度を均一化するための温度均一化用ガス攪拌装置を備えている請求項12から17のいずれかに記載の真空処理装置。
【請求項19】
前記加熱用ガスは窒素ガス及び不活性ガスから選ばれた少なくとも1種のガスである請求項12から18のいずれかに記載の真空処理装置。
【請求項20】
前記真空容器内のガス温度を検出する温度検出装置を備えている請求項12から19のいずれかに記載の真空処理装置。
【請求項21】
前記ホルダに支持される被処理物品の温度を検出する温度検出装置を備えている請求項12から20のいずれかに記載の真空処理装置。
【請求項22】
前記被処理物品に目的とする処理を施す手段は、前記被処理物品に膜形成するための手段である請求項12から21のいずれかに記載の真空処理装置。
【請求項23】
前記膜形成のための手段は、前記被処理物品に炭素を主成分とする膜を形成するための手段である請求項22記載の真空処理装置。
【請求項24】
プラズマのもとで前記被処理物品の少なくとも前記目的とする処理対象部分を浄化するための手段をさらに含んでいる請求項12から23のいずれかに記載の真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−1898(P2009−1898A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125793(P2008−125793)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】