説明

真空式転がり軸受構成及び真空ポンプ

【解決手段】本発明は、外側軸受環(36)を有する転がり軸受(28)を備えた、特に真空ポンプに適した真空式転がり軸受構成に関する。外側軸受環(36)とハウジング要素(40,50)との間に保持スリーブ(42)が配置されている。転がり軸受(28)からの放熱を改善するために、保持スリーブ(42)は突出部(52)を有している。従って、特には径方向に延びるこの環状の突出部(52)は少なくとも1つの更なる熱伝達面(56,58) を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプのような真空ポンプに特に適した真空式ローラ軸受構成に関する。更に本発明は、このような真空式転がり軸受構成を備えた真空ポンプ、特にターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
支持のために、例えば真空ポンプのロータ軸を支持するために、転がり軸受が使用され得る。このような構成では、転がり軸受の領域に真空が存在し得る。真空ポンプの転がり軸受は、10-1mbar未満の圧力に晒されることが多い。転がり軸受の領域に前記真空が既に存在するため、潤滑剤が相当な応力を受け、その結果、転がり軸受の動作寿命が短くなる。更に、転がり軸受の領域の周囲温度が比較的高い。この理由は、主に真空ではハウジングへの放熱が不十分なためである。特に付勢された軸受では、付勢式軸受に固有の高摩擦により軸受に生じた温度が危険である。転がり軸受に支持された公知の真空ポンプでは、特に付勢された軸受の場合の放熱が、主に付勢ばね又はかなり断熱効果を有するOリング(減衰環)を介して行われる。このような構成によって得られる放熱は比較的低く、軸受の動作寿命を、特に温度の影響によっても制限する。
【0003】
転がり軸受の動作寿命が温度の影響により制限されるという上述された不利点を回避するために、真空ポンプに磁気式の軸受を設けることが知られている。しかしながら、このような軸受は複雑且つ高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−172288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、放熱が改善された、特に真空ポンプでの使用のための真空式転がり軸受構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の目的は、請求項1に定義されているような真空式転がり軸受構成と、請求項9に定義されているように、このような真空式転がり軸受構成を備えた真空ポンプとによって達成される。
【0007】
本発明の真空式転がり軸受構成は、真空ポンプ、特にはターボ分子真空ポンプのロータ軸を支持するために特に適している。真空式転がり軸受構成は、外側軸受環を有する転がり軸受を備えている。前記外側軸受環はローラ体を囲んでおり、転がり軸受は任意には内側軸受環を更に有している。内側軸受環は省略されることも可能で、又はロータ軸自体によって形成されることも可能である。特に、転がり軸受は市販されている従来の転がり軸受である。真空式転がり軸受構成は、外側軸受環とハウジング要素との間に配置された保持スリーブを更に備えている。前記ハウジング要素は熱を放散する構成要素であるか、又は、保持スリーブがハウジング要素に直接ではなく間接的に連結されるように中間部材が更に設けられ得る。放熱を改善するために、保持スリーブは突出部を有しており、従って、突出部は、ハウジング要素に接して配置されハウジング要素に面する熱伝達面を形成している。前記突出部とハウジング要素との間に、十分な熱伝達を保護するために軸受グリース及び/又は熱伝導板が設けられていることが好ましい。
【0008】
特に好ましい実施形態によれば、外側軸受環が、保持スリーブによって直接付勢又は固定されていない。保持スリーブは、例えば外側軸受環にばね力を伝えるために使用され得るに過ぎない。好ましい実施形態によれば、スロットが保持スリーブの前記突出部とハウジング要素との間に設けられている。従って、前記好ましい実施形態によれば、保持スリーブの突出部はハウジング要素に直接接して配置されていない。熱伝達のために、前記スロット、つまり隙間は、ハウジング要素への更なる熱伝達を保護するために熱伝導ペーストで充填され得る。
【0009】
前記突出部は、転がり軸受の回転軸に対して径方向に向いていることが好ましい。好ましい実施形態によれば、保持スリーブと一体に形成された突出部が環状であることが好ましい。言うまでもなく、特に外側に向いた複数の径方向の突出部を設けることが更に可能であり、複数の突出部は、この場合、例えば星形に配置され得る。また単一の、好ましくは環状の突出部は、好ましい実施形態では外側に向いている。このため、保持スリーブ内に、例えば外側軸受環のための例えばばねのような押圧要素が簡単に配置され得るという利点がある。
【0010】
可能な限り最適な熱伝達を保証するために、突出部は溝に突出するように構成されている。前記溝は更なる熱伝達面を設けるべく形成されていることが好ましく、更なる熱伝達面は、前記第1の熱伝達面の反対側に配置されていることが好ましい。熱伝達面全体を拡げた結果、転がり軸受で生じた熱が、ハウジングカバーとハウジングカバーに連結されたハウジング部材とに更に一層放散され得る。
【0011】
好ましい実施形態によれば、前記溝は、ハウジングカバーとハウジングの構成要素であるハウジング部材自体とによって形成されている。ハウジングの構成要素であるハウジング部材は、上向きに開いた凹部を有して形成されており、溝を形成するために、前記凹部はその後ハウジングカバーによって閉じられる。このため、保持スリーブがハウジング部材の凹部内に外側から簡単に挿入されることができ、その後、溝がハウジングカバーを用いてハウジング部材を閉じることにより形成されるという利点がある。
【0012】
本発明の保持スリーブの更なる好ましい実施形態によれば、保持スリーブは少なくとも1つの好ましくはリブ状の延長部を更に有している。前記1又は複数の延長部が保持スリーブと一体に形成されていることが好ましい。少なくとも1つの延長部を設けることによって、熱伝達面全体が更に拡げられ、従って放熱が高められ得る。特にリブ状の前記延長部は、ハウジング部材の凹部内に延びていることが好ましい。このため、延長部が、好ましくはハウジング部材に完全に囲まれており、十分な放熱が保証されるという利点がある。更に、延長部が例えばハウジングカバーの凹部内に延びるように、前記凹部がハウジングカバー又は別の構成要素にも設けられ得る。言うまでもなく、これらの実施形態は組み合わせられ得る。凹部が、転がり軸受の長手軸に平行に、つまり略軸方向に延びていることが特に好ましい。ここで、ハウジングカバーが設けられる場合、まず、ハウジング部材、つまりハウジングの構成要素が径方向の溝を形成するために凹部を有することが可能であり、径方向の溝から軸方向に延びる凹部が設けられ、該凹部が転がり軸受の長手軸を環状に特に囲むことが可能である。従って、対応して形成された保持スリーブは外側から挿入され得る。保持スリーブとハウジング部材及びハウジングカバーとの間の隙間が全て、十分な熱伝導性を有する媒体、特に軸受グリース、熱伝導ペースト等で充填されていることが好ましい。
【0013】
更なる好ましい実施形態によれば、保持スリーブは押圧配置スリーブとして形成されている。これは、保持スリーブが、外側軸受環に接して配置されているだけでなく、例えばばねのような押圧部材を介して配置されており、軸方向に作用する力を外側軸受環に加えることにより実現されている。このため、転がり軸受が加圧により配置され、付勢される。押圧部材として、ばねが設けられることが可能であり、保持スリーブの内部に配置されていることが好ましい。
【0014】
更に、保持スリーブであって前記押圧配置スリーブは、外側軸受環と一体に形成され得る。
【0015】
本発明は、上述されているような少なくとも1つの真空式転がり軸受構成を備えた真空ポンプ、特にはターボ分子ポンプに更に関する。対応する真空ポンプは、ロータ部材を支持するロータ軸を備えている。該ロータ軸は、ポンプハウジング内に配置されており、ステータ要素に囲まれている。本発明によれば、ロータ軸は、典型的な場合2つの軸受構成に支持されている。該軸受構成の少なくとも1つは、転がり軸受を備えており、上述されているように、本発明に係る真空式転がり軸受構成として構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ターボ分子ポンプの一部の第1の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】ターボ分子ポンプの一部の第2の実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を、添付図面を参照して以下に更に詳細に説明する。
【0018】
ターボ分子ポンプの部分概略断面図に図示されているように、このターボ分子ポンプは、ロータ部材12を支持するロータ軸10を備えている。前記ロータ部材12は径方向の外側に延びる個々のロータディスク14を有している。該ロータディスク14間に、ステータディスク16が配置されている。該ステータディスク16は、環状の保持要素18によって保持され、ポンプハウジング20内に固定されている。電動機(不図示)の長手軸22回りをロータ軸10が回転することによって、送られるべき気体が、入口(不図示)を通って吸い込まれ、ポンプ出口26を通って矢印24によって示された方向に排出される。
【0019】
ロータ軸10は2つの軸受によって支持されている。図1には、通常下部軸受である軸受28のみが図示されている。軸受28は玉軸受であり、内側軸受環30が軸ジャーナル32上に密に押圧されている。ローラ体34が、外側軸受環36に囲まれている。該外側軸受環36は、ハウジング部材40内にOリング38を介して弾性的に径方向に保持されている。保持スリーブ42が、外側軸受環36の外面に接して配置されている。この略円筒状の保持スリーブ42は、径方向の内側に突出する、特には環状の突出部44を軸受28に面した端部に有している。更に、押圧要素がばね46の形態で保持スリーブ42内に設けられている。ばね46はハウジングカバー50の内面48に支持されている。従って、前記押圧要素であるばね46は、軸方向に作用する力を外側軸受環36に加えるために有効である。ばね46によって、外側軸受環36は軸方向、つまり図1によれば上向きに変位する。このようにして、玉軸受28が付勢される。
【0020】
前記保持スリーブであって押圧配置スリーブ42は、図示された実施形態では径方向の外側に延びる環状の突出部52を有している。図示された実施形態では、前記突出部52は保持スリーブ42と一体に形成されている。突出部52は、前記ハウジング部材40に形成された溝54内に延びている。該溝54は、ハウジング部材40の凹部と前記ハウジングカバー50とによって形成されている。突出部52によって、少なくとも2つの熱伝達面56,58 が形成されている。該熱伝達面56,58 と溝54との間の中間領域に、例えば軸受グリース、熱伝導ペーストのような熱伝達媒体が設けられている。更なる熱伝達が突出部52の外側側面で行われる。
【0021】
熱伝達面56,58と溝54の内壁との間に、好ましくは前記突出部52を囲む隙間、つまりスロットが設けられている。この隙間、つまりスロットは熱伝導ペースト等で充填され得る。本発明の図示された実施形態では、外側軸受環36が、保持スリーブ42によって直接付勢されず、ばね46によって付勢されている。従って、外側軸受環36は、内側の前記突出部44とハウジングカバー50の内面48とに支持されたばね46によって付勢されている。
【0022】
前記ハウジングカバー50を設けることにより、組立工程が容易に行なわれる。従って、ハウジングカバー50が開いた状態で、保持スリーブ42は押圧要素であるばね46と共に簡単に挿入され得る。
【0023】
図2に示された第2の実施形態では、同様の構成要素及び同一の構成要素は同一の参照番号によって示されている。
【0024】
第2の実施形態は、保持スリーブ42の構成に関して第1の実施形態とは異なる。第2の実施形態によれば、保持スリーブ42は、径方向に突出して特には環状の突出部52に加えて複数の延長部60を有している。これらのリブ状の延長部60は軸方向に、つまり長手軸22と平行に向いている。図示された好ましい実施形態では、延長部60は夫々環状であり、長手軸22と保持スリーブ42の内部とを囲んでいる。この場合延長部60は同軸であることが好ましい。
【0025】
前記延長部60は、ハウジング部材40に配置されたスロット状の凹部62内に突出している。従って、延長部60の外面が同様に熱伝達面として機能し、更にこの場合、上述された隙間が、例えば軸受グリース、熱伝導ペーストのような熱伝達媒体によって充填されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側軸受環(36)を有する転がり軸受(28)と、
前記外側軸受環(36)とハウジング要素(40,50) との間に配置され、突出部(52)を有する保持スリーブ(42)と
を備えており、前記突出部(52)は、前記ハウジング要素(40,50) に面して、特には前記ハウジング要素(40,50) に接して配置された熱伝達面(58)を有する特には真空ポンプのための真空式転がり軸受構成において、
前記突出部(52)は、溝(54)内に延びて、2つの熱伝達面(56,58)を有しており、該2つの熱伝達面は、特に反対方向に向いて、両方共ハウジング要素(40,50) に熱を伝達すべく機能することを特徴とする真空式転がり軸受構成。
【請求項2】
特には熱伝達媒体で充填された隙間が、前記突出部(52)とハウジング要素(40,50)との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項3】
前記突出部(52)は、径方向に突出しているか、又は環状であるか、又は径方向に突出して環状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項4】
前記溝(54)は、ハウジングカバー(50)とハウジング部材(40)とによって形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項5】
前記突出部(52)に連結されており、特には前記突出部(52)と一体に形成されている少なくとも1つの延長部(60)を更に備えており、
該延長部(60)は、更なる熱伝達面を形成するために前記ハウジング要素(40,50) の少なくとも1つの凹部(62)内に突出していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項6】
前記少なくとも1つの延長部(60)は略軸方向に延びていることを特徴とする請求項5に記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項7】
前記保持スリーブ(42)は、前記外側軸受環(36)のための保持スリーブとして形成されており、特に押圧部材(46)と協働することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項8】
前記保持スリーブ(42)及び前記外側軸受環(36)は、一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の真空式転がり軸受構成。
【請求項9】
ロータ部材(12)を支持するロータ軸(10)と、
ポンプハウジング(20)内に配置され、前記ロータ軸(10)を囲むステータ部材(16)と、
前記ロータ軸(10)を支持する軸受構成(28,42) と
を備えた真空ポンプ、特にはターボ分子ポンプにおいて、
前記軸受構成(28,42)は、請求項1乃至8のいずれかに記載の転がり軸受構成を備えていることを特徴とする真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−507558(P2013−507558A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532575(P2012−532575)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064879
【国際公開番号】WO2011/042452
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(508206070)オーリコン レイボルド バキューム ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】