説明

真空蒸着装置及び薄膜の製造方法

【課題】膜厚センサの使用寿命が長い真空蒸着装置及び薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】
真空槽21と、真空槽21内を真空排気する真空排気装置27と、真空槽21内に露出する放出口11a、11bから蒸着材料の蒸気を放出する放出装置12a、12bと、放出口11a、11bと対面する位置に基板26を保持する基板保持部25と、放出された蒸気が入射する位置に配置され、付着した蒸気からなる付着膜の膜厚を測定する膜厚センサ15a、15bとを有し、基板保持部25に保持された基板26に薄膜を形成する真空蒸着装置2であって、膜厚センサ15a、15bに向けてレーザーを照射するレーザー照射装置18a、18bを有し、膜厚センサ15a、15bに付着した付着膜にレーザーが照射されると、膜厚センサ15a、15bから付着膜が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置及び薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は従来の真空蒸着装置101の内部構成図を示している。
従来の真空蒸着装置101は、真空槽121と、真空槽121内を真空排気する真空排気装置127と、真空槽121内に露出する放出口111から蒸着材料の蒸気を放出する放出装置112と、放出口111と対面する位置に基板を保持する基板保持部125とを有している。符号126は、基板保持部125に保持された基板を示している。
【0003】
真空槽121内の真空雰囲気を維持しながら、電源装置117からヒーター113に電力を供給して、放出装置112を加熱し、放出装置112内に配置された蒸着材料を蒸発させる。
シャッター114を開いて、放出口111から蒸気を放出させると、放出された蒸気の一部は基板保持部125に保持された基板126の表面に到達し、基板126の表面に蒸着材料の粒子からなる薄膜が形成される。
【0004】
真空槽121内には膜厚センサ115が配置されている。膜厚センサ115は水晶等のセラミックスからなる振動子である。膜厚センサ115と放出口111との間には補助シャッター116が配置されている。不図示の他の蒸発源で成膜するときには、補助シャッター116を閉じておき、膜厚センサ115に入射しようとする蒸気を遮断する。
【0005】
膜厚センサ115で測定を行う際には、補助シャッター116を開く。放出口111から放出された蒸気の一部は、膜厚センサ115に到達し、付着して付着膜が形成される。膜厚センサ115は、振動周波数の低減量から、付着膜の膜厚や成膜レートを測定する。
制御装置119は、膜厚センサ115の測定結果に基づいて、電源装置117から出力する電力量を増加又は減少させ、付着膜の成膜レートが予め定められた範囲に収まるように調整する。
【0006】
基板126上の成膜レートと、膜厚センサ115上の成膜レートとの関係を予め求めておくと、膜厚センサ115で測定された成膜レートから、基板126上の成膜レートが分かる。
基板126の表面に形成される薄膜が所定の厚みになったら、シャッター114を閉じて、成膜を終える。
【0007】
複数枚の基板126で成膜を繰り返すと、膜厚センサ115に付着した付着膜の膜厚が大きくなり、膜厚センサ115は膜厚を正確に測定できなくなる。
そのため、従来の真空蒸着装置101では、付着膜の膜厚が所定の厚みより大きくなると、シャッター114を閉じて、ヒーター113の加熱を停止し、真空槽121内を大気に開放した状態で、膜厚センサ115を新品に交換する必要があり、コストが高かった。そして、交換の時には、長時間のあいだ生産ができなくなり、生産性が悪いという問題があった。
【0008】
特に有機成膜の場合には、膜厚センサ115に有機膜がある程度付着すると、リニア性や精度が出なくなるため、無機成膜の場合よりも、膜厚センサ115の使用寿命が短く、問題が大きかった。なお、本発明で「使用寿命」とは使用を開始してから、正確な測定が不可能になり、使用できなくなるまでの時間を言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3839674号公報
【特許文献2】特開平11−222670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、膜厚センサの使用寿命が長い真空蒸着装置及び薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、前記真空槽内に露出する放出口から蒸着材料の蒸気を放出する放出装置と、前記放出口と対面する位置に基板を保持する基板保持部と、放出された前記蒸気が入射する位置に配置され、付着した前記蒸気からなる付着膜の膜厚を測定する膜厚センサと、を有し、前記基板保持部に保持された前記基板に薄膜を形成する真空蒸着装置であって、前記膜厚センサに向けてレーザーを照射するレーザー照射装置を有し、前記膜厚センサに付着した前記付着膜にレーザーが照射されると、前記膜厚センサから前記付着膜が除去される真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記真空槽内には、前記蒸気が到達する位置である第一の位置と、前記レーザーが到達する位置である第二の位置が配置され、前記膜厚センサを、前記第一の位置と前記第二の位置との間を移動させる移動装置を有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記膜厚センサを複数個有し、前記移動装置は、複数の前記膜厚センサのうち、前記第一の位置に配置された一の前記膜厚センサを前記第二の位置に移動し、他の一の前記膜厚センサを前記第一の位置に移動するように構成された真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記膜厚センサから除去された前記付着膜が、前記基板保持部に保持された前記基板に入射するのを遮断する防着板を有する真空蒸着装置である。
本発明は真空蒸着装置であって、前記蒸着材料は有機物であり、前記基板に形成される前記薄膜と前記膜厚センサに付着する前記付着膜は有機薄膜である真空蒸着装置である。
本発明は、真空排気された真空槽内に露出する放出口から蒸着材料の蒸気を放出させ、放出された前記蒸気が入射する位置に配置された膜厚センサに付着した前記蒸気からなる付着膜の膜厚を測定しながら、前記放出口と対面する位置に配置された基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記基板に薄膜を形成した後、前記放出口から前記蒸気の放出を停止し、前記真空槽内の真空雰囲気を維持しながら、前記薄膜センサに向けてレーザーを照射し、前記膜厚センサから前記付着膜を除去する薄膜の製造方法である。
本発明は、真空排気された真空槽内に露出する放出口から蒸着材料の蒸気を放出させ、放出された前記蒸気が入射する第一の位置に配置された膜厚センサに付着した前記蒸気からなる付着膜の膜厚を測定しながら、前記放出口と対面する位置に配置された基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記第一の位置とは異なる第二の位置に向けてレーザーを照射するレーザー照射装置を用いて、前記真空槽内の真空雰囲気を維持し、前記放出口から前記蒸気の放出を継続し、前記基板に薄膜を形成しながら、前記第一の位置に配置された前記薄膜センサを前記第二の位置に移動させ、前記第二の位置に配置された前記薄膜センサに向けて前記レーザー照射装置からレーザーを照射し、前記第二の位置に配置された前記膜厚センサから前記付着膜を除去する薄膜の製造方法である。
本発明は薄膜の製造方法であって、前記第一の位置に配置された前記薄膜センサを前記第二の位置に移動させ、別の膜厚センサを前記第一の位置に移動させる薄膜の製造方法である。
本発明は薄膜の製造方法であって、前記薄膜センサから除去された前記付着膜が前記基板に入射するのを遮断する防着板を用いて、前記第二の位置に配置された前記膜厚センサから前記付着膜を除去した後、除去された前記付着膜を前記防着板に付着させる薄膜の製造方法である。
本発明は薄膜の製造方法であって、前記蒸着材料は有機物であり、前記基板に形成される前記薄膜と前記膜厚センサに付着する前記付着膜は有機薄膜である薄膜の製造方法である。
【0012】
膜厚センサは振動子であり、付着膜の量が増加すると、膜厚センサの振動周波数は低減する。膜厚センサは振動周波数の低減量から、付着膜の膜厚や単位時間当たりの膜厚増加量(成膜レート)を算出する。
【0013】
膜厚センサ上の付着膜の成膜レートと、基板上の薄膜の成膜レートは正比例する。したがって、Tooling factor(T/F)=(基板上成膜レート)/(膜厚センサ上成膜レート)を予め求めておけば、付着膜の測定値から、基板上の薄膜の膜厚や基板上の成膜レートを測定できる。
【0014】
成膜が続くと、付着膜の膜厚が厚くなって、T/Fの比率がずれ、測定精度が悪くなったり、振動子の振動が停止し、測定ができなくなったりする。なお、本発明で「測定精度」とは、膜厚センサが測定した基板上の薄膜の膜厚と、実際に基板上に成膜された薄膜の膜厚との差のことである。
【0015】
測定精度が悪くなる振動周波数を予め求めておき、成膜中に振動周波数が予め求めておいた振動周波数より大きい所定の振動周波数になったら、膜厚センサをクリーニングする。
【発明の効果】
【0016】
膜厚センサに付着した付着膜をレーザーで除去して再使用することにより、膜厚センサの使用寿命が長くなる。膜厚センサを交換するために真空槽内を大気に開放する回数を減らすことができるので、コストが下がり、かつ生産性が上がる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一例の真空蒸着装置の内部構成図
【図2】本発明の第二例の真空蒸着装置の内部構成図
【図3】膜厚測定装置の構造を説明するための図
【図4】膜厚センサの移動を説明するための第一図
【図5】膜厚センサの移動を説明するための第二図
【図6】従来の真空蒸着装置の内部構成図
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第一例の真空蒸着装置の構造>
本発明の第一例の真空蒸着装置の構造を説明する。図1は第一例の真空蒸着装置2の内部構成図を示している。
【0019】
第一例の真空蒸着装置2は、真空槽21と、真空槽21内を真空排気する真空排気装置27と、真空槽21内に露出する放出口11a、11bから蒸着材料の蒸気を放出する放出装置12a、12bと、放出口11a、11bと対面する位置に基板を保持する基板保持部25とを有している。符号26は、基板保持部25に保持された基板を示している。
【0020】
本実施例では、第一例の真空蒸着装置2は、放出装置12a、12bを二個有しているが、放出装置12a、12bの数は二個に限定されず、一個でもよいし三個以上でもよい。以下では二個の放出装置12a、12bを第一、第二の放出装置と呼ぶ。
【0021】
第一、第二の放出装置12a、12bは、第一、第二の放出口11a、11bが設けられた中空の筐体であり、第一、第二の放出口11a、11bを上方に向けた状態で真空槽21内に配置され、第一、第二の放出装置12a、12bの内部空間は真空槽21の内部空間と第一、第二の放出口11a、11bを介して接続されている。
【0022】
本実施例では、第一、第二の放出装置12a、12bはるつぼであり、内部に固体又は液体の蒸着材料を収容できるように構成されている。蒸着材料は、蒸発温度が後述する膜厚センサの融点よりも低いものが使用され、本実施例では有機物が使用される。
【0023】
第一、第二の放出装置12a、12bの外周側面には、線状の抵抗加熱装置である第一、第二のヒーター13a、13bが巻き回されて取り付けられている。第一、第二のヒーター13a、13bには第一、第二の電源装置17a、17bがそれぞれ電気的に接続されており、第一、第二の電源装置17a、17bから第一、第二のヒーター13a、13bに電力を供給すると、第一、第二のヒーター13a、13bが発熱して、第一、第二の放出装置12a、12bが個別に加熱されるようになっている。
第一、第二のヒーター13a、13bにより、第一、第二の放出装置12a、12bを加熱すると、第一、第二の放出装置12a、12b内の蒸着材料が加熱され、蒸発される。
【0024】
本実施例では、第一、第二のヒーター13a、13bは、線状の抵抗加熱装置であったが、第一、第二の放出装置12a、12b内の蒸着材料を加熱して、蒸発できるならば、抵抗加熱装置に限定されず、インダクション加熱装置(誘導加熱装置)等の他の加熱装置も含まれる。
【0025】
また、第一、第二の放出装置12a、12bは、内部に蒸着材料の蒸気を供給できるならば上記構成に限定されず、真空槽21の外側に固体又は液体の蒸着材料を収容する材料容器を配置し、第一、第二の放出装置12a、12bの内部空間と材料容器の内部空間を配管で接続し、材料容器内で蒸発材料の蒸気を発生させ、発生した蒸気を配管を介して第一、第二の放出装置12a、12bの内部に導入するように構成してもよい。
【0026】
第一、第二の放出口11a、11bには第一、第二のシャッター14a、14bが設けられている。第一、第二のシャッター14a、14bを開くと、蒸着材料の蒸気は第一、第二の放出口11a、11bから真空槽21内に個別に放出され、第一、第二のシャッター14a、14bを閉じると、蒸着材料の蒸気は遮断されて真空槽21内に放出されないようになっている。
【0027】
基板保持部25は、第一、第二の放出装置12a、12bの上方に配置され、基板26の表面を下方に向けて露出させた状態で、基板26を水平に保持できるように構成されている。
基板保持部25にはモーターが接続されており、モーターは動力を基板保持部25に伝達して、基板保持部25を基板保持部25に保持された基板26と一緒に、鉛直な回転軸線の周りに回転できるよう構成されている。
【0028】
基板26を鉛直な回転軸線の周りに回転させながら、第一、第二のシャッター14a、14bを開いて、第一、第二の放出口11a、11bからそれぞれ蒸気を放出させると、放出された蒸気は基板26の表面全体に均等に到達し、基板26に均一な膜厚の薄膜が形成される。蒸着材料が有機物の場合には、有機薄膜が形成される。
【0029】
第一、第二の放出口11a、11bから放出された蒸気が入射する位置には第一、第二の膜厚センサ15a、15bが配置されている。第一、第二の膜厚センサ15a、15bは、水晶等のセラミックスからなる振動子であり、セラミックスには融点が蒸着材料の蒸発温度より高いものが用いられる。
第一、第二の膜厚センサ15a、15bに蒸着材料の蒸気が付着すると、付着した蒸気からなる付着膜が形成される。蒸着材料が有機物の場合には、有機薄膜が形成される。
【0030】
本実施例では、第一の膜厚センサ15aは、第二の放出装置12bよりも第一の放出装置12aに近い位置に配置され、第二の膜厚センサ15bは、第一の放出装置12aよりも第二の放出装置12bに近い位置に配置されている。第一の膜厚センサ15aには第一の放出口11aから放出された蒸気が到達するが、第二の放出口11bから放出された蒸気はほとんど到達しないようになっており、第二の膜厚センサ15bには第二の放出口11bから放出された蒸気が到達するが、第一の放出口11aから放出された蒸気はほとんど到達しないようになっている。
【0031】
第一、第二の膜厚センサ15a、15bは、それぞれの振動周波数の低減量から、付着した付着膜の膜厚や付着膜の成膜レートを測定できるように構成されている。
基板保持部25に保持された基板26上の成膜レートと、第一、第二の膜厚センサ15a、15b上の成膜レートとの関係を予め求めておくと、第一、第二の膜厚センサ15a、15bで測定された成膜レートから、基板26上の成膜レートが分かるようになっている。
【0032】
第一、第二の膜厚センサ15a、15bには制御装置19が接続されている。制御装置19は、第一、第二の膜厚センサ15a、15bで測定された付着膜の成膜レートに基づいて、第一、第二の電源装置17a、17bから出力する電力量を増加又は減少させ、付着膜の成膜レートを予め定められた範囲に収めるように構成されている。
【0033】
第一、第二の膜厚センサ15a、15bと第一、第二の放出口11a、11bとの間には第一、第二の補助シャッター16a、16bがそれぞれ配置されている。第一、第二の補助シャッター16a、16bを開くと、第一、第二の放出口11a、11bから放出された蒸気は第一、第二の膜厚センサ15a、15bに到達し、第一、第二の補助シャッター16a、16bを閉じると蒸気は遮断され、第一、第二の膜厚センサ15a、15bに到達しないようになっている。
【0034】
真空槽21の外側には、第一、第二の膜厚センサ15a、15bに向けてレーザーを照射するレーザー照射装置18a、18bが配置されている。
真空槽21の槽壁のうち、第一、第二のレーザー照射装置18a、18bと第一、第二の膜厚センサ15a、15bとの間の部分には、レーザーを透過する第一、第二の透過窓23a、23bが設けられている。第一、第二の透過窓23a、23bの材質は例えば石英である。
【0035】
第一、第二のレーザー照射装置18a、18bから放出されたレーザーは、第一、第二の透過窓23a、23bを通って真空槽21内に進入し、第一、第二の補助シャッター16a、16bが閉じた状態で、第一、第二の膜厚センサ15a、15bにそれぞれ到達するようになっている。
【0036】
第一、第二の膜厚センサ15a、15bに付着した付着膜にレーザーが照射されると、付着膜のうちレーザーが当たった部分は局所的に加熱されて気化し、気化物は急激な熱膨張により飛散して(すなわち、アブレーションして)、第一、第二の膜厚センサ15a、15bから付着膜が除去される。
第一、第二の膜厚センサ15a、15bの融点は、蒸発材料の蒸発温度よりも高くされており、レーザーが照射されても第一、第二の膜厚センサ15a、15bは損傷しないようになっている。
【0037】
また、レーザーにより第一、第二の膜厚センサ15a、15bの表面部分が局所的に加熱されるので、第一、第二の膜厚センサ15a、15bの周囲の部材(例えば第一、第二の補助シャッター16a、16bや真空槽21の壁面)は加熱されず、周囲の部材の付着膜が気化されて、真空槽21内が汚染されることはない。
【0038】
なお、第一、第二のレーザー照射装置18a、18bは、第一、第二の膜厚センサ15a、15bにレーザーを照射できるならば、真空槽21の外側に配置された構成に限定されず、真空槽21の内側に配置されてもよい。この場合には、真空槽21の槽壁から第一、第二の透過窓23a、23bを省略することができる。
【0039】
<第一例の真空蒸着装置の使用方法>
第一例の真空蒸着装置2を用いた薄膜の製造方法を説明する。
【0040】
(準備工程)
第一、第二の放出装置12a、12b内に固体又は液体の蒸着材料を収容する。本実施例では、第一の放出装置12a内にホストの有機蒸着材料を収容し、第二の放出装置12b内にドーパントの有機蒸着材料を収容するが、第一、第二の放出装置12a、12b内に同じ種類の蒸着材料を配置してもよい。
【0041】
試験又はシミュレーションにより、基板保持部25に保持された基板26上の成膜レートと、第一、第二の膜厚センサ15a、15b上の成膜レートとの関係を予め求めておく。
また、第一、第二の膜厚センサ15a、15b上の成膜レートの許容範囲をあらかじめ定めておく。
【0042】
さらに、例えば基板保持部25にダミー基板を保持させた状態で、第一、第二の膜厚センサ15a、15bの洗浄を行わずに連続して成膜し、ダミー基板上の膜厚を第一、第二の膜厚センサ15a、15b以外の他の機器(例えば、段差計)で測定し、第一、第二の膜厚センサ15a、15bの振動周波数を記録し、第一、第二の膜厚センサ15a、15bの測定精度が悪くなるときの振動周波数を求める。第一、第二の膜厚センサ15a、15bの洗浄を行うときの振動周波数を、ここで求めた振動周波数より大きい値に予め定めておく。
【0043】
なお、試験中に第一、第二の膜厚センサ15a、15bを使用した場合は、試験の後に、第一、第二の膜厚センサ15a、15bを新品に交換するか、後述するようにレーザーを用いて第一、第二の膜厚センサ15a、15bから付着膜を除去しておく。
【0044】
真空排気装置27により真空槽21内を真空排気し、真空雰囲気にする。以後真空排気を継続して、真空槽21内の真空雰囲気を維持する。
第一、第二のシャッター14a、14bと、第一、第二の補助シャッター16a、16bを閉じておく。
【0045】
真空槽21内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽21内に基板26を搬入し、成膜すべき表面を下方に向けて露出した状態で、基板保持部25に保持させる。基板保持部25に保持された基板26の表面は第一、第二の放出口11a、11bと対面する。
【0046】
第一、第二のシャッター14a、14bと第一、第二の補助シャッター16a、16bを閉じておく。
第一、第二の電源装置17a、17bから第一、第二のヒーター13a、13bに電力を供給して、第一、第二の放出装置12a、12b内の蒸着材料を加熱し、蒸気を発生させる。
【0047】
(成膜工程)
モーターを動作させて、基板保持部25に保持された基板26を鉛直な回転軸線の周りに回転させておく。
第一、第二のシャッター14a、14bと第一、第二の補助シャッター16a、16bを開ける。
【0048】
第一、第二の放出装置12a、12b内の蒸気は第一、第二の放出口11a、11bから真空槽21内に放出される。
第一、第二の放出口11a、11bから放出された蒸気の一部は、基板保持部25に保持された基板26の表面に到達し、基板26の表面に、ホストの有機蒸着材料とドーパントの有機蒸着材料の混合物からなる有機薄膜が形成される。
一方、第一、第二の放出口11a、11bから放出された蒸気の一部は、第一、第二の膜厚センサ15a、15bに到達し、付着して、有機薄膜である付着膜が形成される。
【0049】
制御装置19は、第一、第二の膜厚センサ15a、15bで測定された付着膜の成膜レートをそれぞれ監視しており、付着膜の成膜レートがあらかじめ定められた許容範囲より小さいときは、第一、第二の電源装置17a、17bに個別に制御信号を送って出力電力を増加させ、成膜レートを増加させて許容範囲内にする。また、付着膜の成膜レートがあらかじめ定められた許容範囲より大きいときは、第一、第二の電源装置17a、17bに個別に制御信号を送って出力電力を減少させ、成膜レートを減少させて許容範囲内にする。このようにして、付着膜の成膜レートはあらかじめ定められた範囲内に収まるように調整される。
【0050】
第一、第二の膜厚センサ15a、15b上の成膜レートと、基板26上の成膜レートとの関係はあらかじめ求めてあり、第一、第二の膜厚センサ15a、15bでの測定値から、基板26の表面に形成される薄膜の厚みを求める。
基板26の表面に所定の厚みの薄膜を形成した後、第一、第二のシャッター14a、14bを閉じて、第一、第二の放出口11a、11bからの蒸気の放出を停止する。
【0051】
(基板交換工程)
モーターによる基板26の回転を停止する。
真空槽21内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの基板26を真空槽21の外側に搬出し、次いで、別の未成膜の基板26を真空槽21内に搬入して、基板保持部25に保持させる。
【0052】
次いで、上述の成膜工程を行う。
基板交換工程と、成膜工程とを所定枚数の基板で繰り返し行って、複数枚の基板に蒸着材料の粒子から成る薄膜を形成する。
【0053】
(膜厚センサ洗浄工程)
第一、第二の膜厚センサ15a、15bのいずれか一方の振動周波数が、予め定めておいた洗浄を行うときの振動周波数になったら、第一、第二のシャッター14a、14bを閉じて、第一、第二の放出口11a、11bからの蒸気の放出を停止する。真空槽11内に基板26が配置されている場合には、基板26を真空槽11の外側に搬出しておく。
【0054】
制御装置19は第一、第二のレーザー照射装置18a、18bに制御信号を送って、第一、第二の膜厚センサ15a、15bに向かってレーザーを照射させる。
第一、第二の膜厚センサ15a、15bに付着した付着膜にレーザーが照射されると、付着膜はレーザーにより加熱されて気化し、第一、第二の膜厚センサ15a、15bから付着膜が除去される。真空槽21内は真空雰囲気に維持されており、付着膜が有機薄膜の場合、レーザーのパワーと時間とを調整して、付着膜の残渣が第一、第二の膜厚センサ15a、15b上に残らないようにする。
【0055】
膜厚センサ15a、15bの表面の面積に対してレーザーの断面積が小さい場合には、レーザーが膜厚センサ15a、15bの表面全体に当たるようにレーザーの照射位置を移動させながら照射して、膜厚センサ15a、15bの表面全体から付着膜を除去する。
【0056】
レーザー照射中に補助シャッター16a、16bは加熱されない。
除去された付着膜の気化物は、真空排気装置27により真空槽21の外側に真空排気されたり、補助シャッター16a、16b上に付着したりする。
【0057】
第一、第二の膜厚センサ15a、15bの振動周波数が所定の振動周波数以上(新品時の振動周波数を含む)になったら、制御装置19は第一、第二のレーザー照射装置18a、18bに制御信号を送って、レーザーの照射を停止させる。
真空槽21内の真空雰囲気を維持しながら、未成膜の基板26を真空槽21内に搬入し、基板保持部25に保持させる。
【0058】
次いで、上述の成膜工程と基板交換工程を繰り返す。
膜厚センサ洗浄工程では、真空槽21内を大気に開放せず、真空槽21内の真空雰囲気を維持しながら行うため、第一、第二の膜厚センサ15a、15bの洗浄後、成膜工程を再開する前に、真空槽21内に真空雰囲気を形成する時間と手間を省略でき、生産性が上がる。
【0059】
<第二例の真空蒸着装置の構造>
本発明の第二例の真空蒸着装置の構造を説明する。図2は第二例の真空蒸着装置3の内部構成図を示している。
【0060】
第二例の真空蒸着装置3は、真空槽22と、真空槽22内を真空排気する真空排気装置28と、真空槽22内に露出する放出口31から蒸着材料の蒸気を放出する放出装置32と、放出口31と対面する位置に基板を保持する基板保持部45とを有している。符号46は、基板保持部45に保持された基板を示している。
【0061】
放出装置32は、放出口31が設けられた中空の筐体であり、放出口31を上方に向けた状態で真空槽22内に配置され、放出装置32の内部空間は真空槽22の内部空間と放出口31を介して接続されている。
本実施例では、放出装置32はるつぼであり、内部に固体又は液体の蒸着材料を収容できるように構成されている。蒸着材料は、蒸発温度が後述する膜厚センサの融点よりも低いものが使用され、例えば有機材料が使用される。
【0062】
放出装置32の外周側面には、線状の抵抗加熱装置であるヒーター33が巻き回されて取り付けられている。ヒーター33には電源装置37が電気的に接続されており、電源装置37からヒーター33に電力を供給すると、ヒーター33が発熱して、放出装置32が加熱されるようになっている。
【0063】
ヒーター33により、放出装置32を加熱すると、放出装置32内の蒸着材料が加熱され、蒸発される。
本実施例では、ヒーター33は、線状の抵抗加熱装置であったが、放出装置32内の蒸着材料を加熱して、蒸発できるならば、抵抗加熱装置に限定されず、インダクション加熱装置(誘導加熱装置)等の他の加熱装置も含まれる。
【0064】
また、放出装置32は、内部に蒸着材料の蒸気を供給できるならば上記構成に限定されず、真空槽22の外側に固体又は液体の蒸着材料を収容する材料容器を配置し、放出装置32の内部空間と材料容器の内部空間を配管で接続し、材料容器内で蒸発材料の蒸気を発生させ、発生した蒸気を配管を介して放出装置32の内部に導入するように構成してもよい。
【0065】
放出口31にはシャッター34が設けられている。シャッター34を開くと、蒸着材料の蒸気は放出口31から真空槽22内に放出され、シャッター34を閉じると、蒸着材料の蒸気は遮断されて真空槽22内に放出されないようになっている。
【0066】
基板保持部45は、放出装置32の上方に配置され、基板46の表面を下方に向けた状態で、基板46を水平に保持できるように構成されている。
シャッター34を開いて、放出口31から蒸発材料の蒸気を放出させると、放出された蒸気は基板46の表面に到達し、基板46の表面に薄膜が形成される。蒸着材料が有機物の場合には、有機薄膜が形成される。
【0067】
放出された蒸気が入射する位置には、膜厚測定装置50が配置されている。図4は膜厚測定装置50の正面図を示している。
膜厚測定装置50は、複数の膜厚センサ551〜554と、膜厚センサ551〜554を保持するセンサ保持部51と、センサ保持部51の表面を覆うように配置され、膜厚センサ551〜554と対面可能な位置に第一、第二の開口56、57が設けられた遮蔽部52とを有している。
【0068】
膜厚センサ551〜554は、水晶等のセラミックスからなる振動子であり、セラミックスには融点が蒸着材料の蒸発温度よりも高いものが用いられる。
センサ保持部51は、ここでは円錐台形状に形成され、膜厚センサ551〜554は、センサ保持部51の外周に沿って等間隔に並んで配置され、センサ保持部51の外周側面に固定されている。
【0069】
遮蔽部52は、センサ保持部51の外周側面を覆うように配置され、膜厚センサ551〜554のうち、一の膜厚センサ551を第一の開口56から露出させると、他の一の膜厚センサ553が第二の開口57から露出され、残りの膜厚センサ552、554は遮蔽部52で遮蔽されるようになっている。
【0070】
センサ保持部51の上底と下底の円の中心を通る軸線を回転軸線と呼ぶと、センサ保持部51にはセンサ保持部51を回転軸線の周りに回転させる移動装置が取り付けられている。
移動装置によりセンサ保持部51を回転軸線の周りに回転させると、各膜厚センサ511〜514は第一の開口56から露出する位置と、第二の開口57から露出する位置との間を移動するようになっている。
【0071】
本実施例では、センサ保持部51には複数個の膜厚センサ551〜554が固定されており、移動装置は、センサ保持部51を回転軸線の周りに回転させて、複数の膜厚センサ551〜554のうち、第一の開口56から露出する位置に配置された一の膜厚センサ符号551を第二の開口57から露出する位置に移動させ、他の一の膜厚センサ553を第一の開口56から露出する位置に移動させるようになっている(図5参照)。
【0072】
図2を参照し、膜厚測定装置50は、第一の開口56が放出装置32の放出口31に向いた状態で、真空槽22内に配置されている。
以下では、膜厚センサ551〜554が第一の開口56から露出する位置を第一の位置と呼び、第二の開口57から露出する位置を第二の位置と呼ぶ。
【0073】
第一の開口56には補助シャッター58が設けられている。一の膜厚センサ551を第一の位置に配置した状態で、補助シャッター58を開くと、放出口31から放出された蒸着材料の蒸気は第一の位置に配置された膜厚センサ551に到達し、補助シャッター58を閉じると、蒸気は遮断されて第一の位置に配置された膜厚センサ551に到達しないようになっている。すなわち、第一の位置は蒸気が到達する位置である。
【0074】
膜厚センサ551〜554に蒸着材料の蒸気が付着すると、付着した蒸気からなる付着膜が形成される。蒸着材料が有機物の場合には、有機薄膜が形成される。膜厚センサ551〜554は、振動周波数の低減量から、付着した付着膜の膜厚を測定できるようになっている。
【0075】
基板保持部45に保持された基板46上の成膜レートと、第一の位置に配置された膜厚センサ551の成膜レートとの対応関係をあらかじめ求めておくと、第一の位置に配置された膜厚センサ551で測定された成膜レートから、基板46上の成膜レートが分かるようになっている。
【0076】
膜厚センサ551〜554には制御装置39が接続されている。制御装置39は、膜厚センサ551〜554で測定された膜厚に基づいて、電源装置37から出力する電力量を増加又は減少させ、成膜レートを予め定められた範囲に収めるように構成されている。
【0077】
真空槽22の外側には、第二の開口57に向けてレーザーを照射するレーザー照射装置38が配置されている。
真空槽22の槽壁のうち、レーザー照射装置38と第二の開口57との間の部分には、レーザーを透過する透過窓30が設けられている。透過窓30の材質は例えば石英である。
【0078】
一の膜厚センサ553を第二の位置に配置した状態で、レーザー照射装置38からレーザーを放出させると、放出されたレーザーは、透過窓30を通って真空槽22内に進入し、第二の位置に配置された膜厚センサ553に到達するようになっている。すなわち、第二の位置はレーザーが到達する位置である。
【0079】
膜厚センサ553に付着した付着膜にレーザーが照射されると、付着膜のうちレーザーが当たった部分は局所的に加熱されて気化し、気化物は急激な熱膨張により飛散して(すなわち、アブレーションして)、膜厚センサ553から付着膜が除去される。
膜厚センサ553の融点は、蒸発材料の蒸発温度よりも高くされており、レーザーが照射されても膜厚センサ553は損傷しないようになっている。
【0080】
また、レーザーにより第二の位置に配置された膜厚センサ553の表面部分が局所的に加熱されるので、他の膜厚センサ551、552、554は加熱されず、他の膜厚センサ551、552、554から付着膜が除去されることはない。すなわち、第一の位置に配置された膜厚センサ551では膜厚測定を継続できるようになっている。また第二の位置に配置された膜厚センサ553の周囲の部材(例えばセンサ保持部51や後述する防着板53)も加熱されず、周囲の部材の付着膜が気化されて、真空槽22内が汚染されることはない。
【0081】
なお、レーザー照射装置38は、第二の位置に配置された膜厚センサ553にレーザーを照射できるならば、真空槽22の外側に配置された構成に限定されず、真空槽22の内側に配置されてもよい。この場合には、真空槽22の槽壁から透過窓30を省略することができる。
真空槽22内には、膜厚センサ553から除去された付着膜が、基板保持部45に保持された基板46に入射するのを遮断する防着板53が配置されている。
【0082】
本実施例では防着板53は筒形状にされ、第二の開口57と透過窓30の間の空間を取り囲んで配置され、一端の開口は第二の開口57の外周を取り囲んで防着板53に固定されている。ここでは、他端の開口と真空槽22の槽壁との間には隙間があり、防着板53の内側の空間と真空槽22の内側の空間は接続されている。
【0083】
第二の位置に配置された膜厚センサ553にレーザーを照射して、付着した付着膜を気化させると、付着膜の気化物は防着板53に付着して遮断され、基板保持部45に保持された基板46には到達しないようになっており、かつ、第一の位置に配置された膜厚センサ551にも到達しないようになっている。
【0084】
<第二例の真空蒸着装置の使用方法>
第二例の真空蒸着装置3を用いた薄膜の製造方法を説明する。
【0085】
(準備工程)
放出装置32内に固体又は液体の蒸着材料を収容する。本実施例では放出装置32内に有機蒸着材料を収容する。
試験又はシミュレーションにより、基板保持部45に保持された基板46上の成膜レートと、第一の位置に配置された膜厚センサ551上の成膜レートとの関係を予め求めておく。
【0086】
また、第一の位置に配置された膜厚センサ551上の成膜レートの許容範囲をあらかじめ定めておく。
さらに、例えば基板保持部45にダミー基板を保持させた状態で、第一の位置に配置された膜厚センサ551の交換を行わずに連続して成膜し、ダミー基板上の膜厚を当該膜厚センサ551以外の他の機器(例えば、段差計)で測定し、当該膜厚センサ551の振動周波数を記録し、当該膜厚センサ551の測定精度が悪くなるときの振動周波数を求める。当該膜厚センサ551の交換を行うときの振動周波数を、ここで求めた振動周波数より大きい値に予め定めておく。
【0087】
なお、試験中に膜厚センサ551〜554を使用した場合は、試験の後に、膜厚センサ551〜554を新品に交換するか、後述するようにレーザーを用いて膜厚センサ551〜554から付着膜を除去しておく。
【0088】
真空排気装置28により真空槽22内を真空排気し、真空雰囲気にする。このとき、防着板53で囲まれた空間も真空雰囲気にされる。以後真空排気を継続して、真空槽22内の真空雰囲気を維持する。
【0089】
真空槽22内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽22内に基板46を搬入し、成膜すべき表面を下方に向けて露出した状態で、基板保持部45に保持させる。基板保持部45に保持された基板46の表面は放出口31と対面する。
【0090】
シャッター34と補助シャッター58を閉じておく。
電源装置37からヒーター33に電力を供給して、放出装置32内の蒸着材料を加熱し、蒸気を発生させる。
複数の膜厚センサ551〜554のうち、一の膜厚センサ551を第一の位置に配置し、他の一の膜厚センサ553を第二の位置に配置しておく。
【0091】
(成膜工程)
シャッター34と補助シャッター58を開ける。
放出装置32内の蒸気は放出口31から真空槽22内に放出される。
放出口31から放出された蒸気の一部は、基板保持部45に保持された基板46の表面に到達し、基板46の表面に蒸着材料の粒子からなる有機薄膜が形成される。
【0092】
一方、放出口31から放出された蒸気の一部は、補助シャッター58を通過して、第一の位置に配置された膜厚センサ551に到達し、付着して、有機薄膜である付着膜が形成される。
【0093】
制御装置39は、第一の位置に配置された膜厚センサ551で測定された付着膜の膜厚を監視しており、第一の位置に配置された膜厚センサ551の成膜レートがあらかじめ定められた許容範囲より小さいときは、電源装置37に制御信号を送って出力電力を増加させ、成膜レートを増加させて許容範囲内にする。また、第一の位置に配置された膜厚センサ551での成膜レートがあらかじめ定められた許容範囲より大きいときは、電源装置37に制御信号を送って出力電力を減少させ、成膜レートを減少させて許容範囲内にする。このようにして、付着膜の成膜レートはあらかじめ定められた許容範囲内に収まるように調整される。
【0094】
第一の位置に配置された膜厚センサ551での成膜レートと、基板保持部45に保持された基板46での成膜レートとの関係をあらかじめ求めており、基板46の表面に形成される薄膜の厚みを、第一の位置に配置された膜厚センサ551での測定値から求める。
【0095】
第一の位置に配置された膜厚センサ551の振動周波数が、予め定めておいた交換を行うときの振動周波数になると、制御装置39は移動装置に制御信号を送って、センサ保持部51を回転させ、図4を参照し、付着膜が付着した膜厚センサ551を第一の位置から移動させ、別の未成膜の膜厚センサ552を第一の位置に移動させ、第一の位置に配置された新しい膜厚センサ552で成膜レートの測定を継続する。
【0096】
このようにして、放出口31からの蒸気の放出を継続しながら、膜厚センサを交換でき、膜厚センサの測定精度が低下することを防止できる。
膜厚センサの交換を繰り返して、図5を参照し、付着膜が付着した膜厚センサ551が第二の位置に配置されると、制御装置39はレーザー照射装置38に制御信号を送って、第二の位置に配置された膜厚センサ551に向かってレーザーを照射させる。
【0097】
膜厚センサ551に付着した付着膜にレーザーが照射されると、付着膜はレーザーで加熱されて気化し、膜厚センサ551から付着膜が除去される。防着板53で囲まれた空間も真空雰囲気に維持されており、付着膜が有機薄膜の場合、レーザーのパワーと時間とを調整して、付着膜の残渣が膜厚センサ551上に残らないようにする。
【0098】
膜厚センサ551の表面の面積に対してレーザーの断面積が小さい場合には、レーザーが膜厚センサ551の表面全体に当たるようにレーザーの照射位置を移動させながら照射して、膜厚センサ551の表面全体から付着膜を除去する。
【0099】
レーザー照射中に防着板53は加熱されない。
除去された付着膜の気化物は、防着板53に付着して遮断され、基板保持部45に保持された基板46に到達しないので、基板46に形成される薄膜の品質は劣化しない。また、除去された付着膜の気化物は、第一の位置に配置された膜厚センサ553にも到達しないので、第一の位置に配置された膜厚センサ553の測定精度は低下しない。
【0100】
第二の位置に配置された膜厚センサ551の振動周波数が所定の振動周波数以上(新品時の振動周波数を含む)になったら、制御装置39はレーザー照射装置38に制御信号を送って、レーザーの照射を停止させる。
図2を参照し、基板46の表面に所定の厚みの薄膜を形成した後、シャッター34を閉じて、放出口31からの蒸気の放出を停止する。
【0101】
(基板交換工程)
真空槽22内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの基板46を真空槽22の外側に搬出し、次いで、別の未成膜の基板46を真空槽22内に搬入して、基板保持部45に保持させる。
【0102】
次いで、上述の成膜工程を行う。
基板交換工程と、成膜工程とを複数枚の基板で繰り返し行って、複数枚の基板に蒸着材料の薄膜を形成する。
第二例の真空蒸着装置3では、第一例の真空蒸着装置2とは異なり、成膜工程を継続しながら膜厚センサの洗浄を行うことができるので、より生産性が上がる。
【0103】
なお、上述の第二例の真空蒸着装置3では、膜厚測定装置50は、膜厚センサ551〜554を四個有していたが、膜厚センサ551〜554の数は一個又は二個以上であれば特に限定されない。膜厚センサが一個の場合には、第一例の真空蒸着装置2と同様に、膜厚センサの洗浄を行う際に成膜工程を停止する必要があるため、膜厚センサの数は二個以上が好ましい。
【0104】
また、膜厚センサ551〜554は環状に並んだ状態でセンサ保持部51に保持されたいたが、直線状に並んだ状態でセンサ保持部51に保持されていてもよい。この場合には、移動装置はセンサ保持部51を膜厚センサの列に平行な方向に往復移動させるように構成する。
【符号の説明】
【0105】
2、3……真空蒸着装置
21、22……真空槽
27、28……真空排気装置
11a、11b、31……放出口
12a、12b、32……放出装置
15a、15b、551、552、553、554……膜厚センサ
25、35……基板保持部
26、36……基板
18a、18b、38……レーザー照射装置
53……防着板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、
前記真空槽内に露出する放出口から蒸着材料の蒸気を放出する放出装置と、
前記放出口と対面する位置に基板を保持する基板保持部と、
放出された前記蒸気が入射する位置に配置され、付着した前記蒸気からなる付着膜の膜厚を測定する膜厚センサと、
を有し、前記基板保持部に保持された前記基板に薄膜を形成する真空蒸着装置であって、
前記膜厚センサに向けてレーザーを照射するレーザー照射装置を有し、
前記膜厚センサに付着した前記付着膜にレーザーが照射されると、前記膜厚センサから前記付着膜が除去される真空蒸着装置。
【請求項2】
前記真空槽内には、前記蒸気が到達する位置である第一の位置と、前記レーザーが到達する位置である第二の位置が配置され、
前記膜厚センサを、前記第一の位置と前記第二の位置との間を移動させる移動装置を有する請求項1記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記膜厚センサを複数個有し、
前記移動装置は、複数の前記膜厚センサのうち、前記第一の位置に配置された一の前記膜厚センサを前記第二の位置に移動し、他の一の前記膜厚センサを前記第一の位置に移動するように構成された請求項2記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記膜厚センサから除去された前記付着膜が、前記基板保持部に保持された前記基板に入射するのを遮断する防着板を有する請求項2又は請求項3のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸着材料は、有機物であり、前記基板に形成される前記薄膜と前記膜厚センサに付着する前記付着膜は有機薄膜である請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
真空排気された真空槽内に露出する放出口から蒸着材料の蒸気を放出させ、放出された前記蒸気が入射する位置に配置された膜厚センサに付着した前記蒸気からなる付着膜の膜厚を測定しながら、前記放出口と対面する位置に配置された基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記基板に薄膜を形成した後、前記放出口から前記蒸気の放出を停止し、前記真空槽内の真空雰囲気を維持しながら、前記薄膜センサに向けてレーザーを照射し、前記膜厚センサから前記付着膜を除去する薄膜の製造方法。
【請求項7】
真空排気された真空槽内に露出する放出口から蒸着材料の蒸気を放出させ、放出された前記蒸気が入射する第一の位置に配置された膜厚センサに付着した前記蒸気からなる付着膜の膜厚を測定しながら、前記放出口と対面する位置に配置された基板に薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記第一の位置とは異なる第二の位置に向けてレーザーを照射するレーザー照射装置を用いて、
前記真空槽内の真空雰囲気を維持し、前記放出口から前記蒸気の放出を継続し、前記基板に薄膜を形成しながら、前記第一の位置に配置された前記薄膜センサを前記第二の位置に移動させ、前記第二の位置に配置された前記薄膜センサに向けて前記レーザー照射装置からレーザーを照射し、前記第二の位置に配置された前記膜厚センサから前記付着膜を除去する薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記第一の位置に配置された前記薄膜センサを前記第二の位置に移動させ、別の膜厚センサを前記第一の位置に移動させる請求項7記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記薄膜センサから除去された前記付着膜が前記基板に入射するのを遮断する防着板を用いて、
前記第二の位置に配置された前記膜厚センサから前記付着膜を除去した後、除去された前記付着膜を前記防着板に付着させる請求項7又は請求項8のいずれか1項記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記蒸着材料は、有機物であり、前記基板に形成される前記薄膜と前記膜厚センサに付着する前記付着膜は有機薄膜である請求項6乃至請求項9のいずれか1項記載の薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126938(P2012−126938A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277572(P2010−277572)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】