真空蒸着装置
【課題】蒸着材料の利用効率を向上させつつ、基板へのスプラッシュの付着を阻止することができる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る真空蒸着装置において、蒸発源40は、複数のチムニ(筒状部)42を有し、これらチムニから蒸着材料の蒸気を放出することで、対向する基板T上に蒸着膜を形成する。チムニの先端部と基板との間の距離L1を100mm以下とすることで、チムニの直上に位置する基板に対する蒸発物質の付着量を増加させる。これにより、蒸着レートが向上するとともに、蒸着材料の利用効率を高めることが可能となる。また、チムニを有することで、スプラッシュが基板へ到達することを効果的に阻止することが可能となる。
【解決手段】本発明に係る真空蒸着装置において、蒸発源40は、複数のチムニ(筒状部)42を有し、これらチムニから蒸着材料の蒸気を放出することで、対向する基板T上に蒸着膜を形成する。チムニの先端部と基板との間の距離L1を100mm以下とすることで、チムニの直上に位置する基板に対する蒸発物質の付着量を増加させる。これにより、蒸着レートが向上するとともに、蒸着材料の利用効率を高めることが可能となる。また、チムニを有することで、スプラッシュが基板へ到達することを効果的に阻止することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料の蒸気を発生させ当該蒸気を基板に向けて放出する蒸発源を備えた真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型のガラス基板に対する金属膜、酸化膜、有機材料膜の成膜に真空蒸着法が広く用いられている。真空蒸着法は、スパッタリング法、CVD法等とともに知られる真空成膜法のひとつであり、真空排気された蒸着室の内部に、成膜されるべき基板と蒸発源を対向配置し、蒸発源から放出される蒸着材料の蒸気(蒸発物質)を基板上に堆積させて成膜する。
【0003】
蒸発源としては、種々の方式が知られている。例えば下記特許文献1には、原料物質を収納するルツボと、原料物質を加熱して原料物質の蒸気を発生させる加熱素子と、原料物質の蒸気をルツボから基材に向けて放出する長方形状のスロットを有する煙突(チムニ)とを有する蒸発源が記載されている。このように蒸気の放出口が基板の幅方向に延在するように形成された蒸発源は、いわゆるラインソース(ライン形蒸発源)と呼ばれている。
【0004】
また、近年においては、CIGS(Cu(InGa)Se2)系の太陽電池の開発が進められている。CIGSの代表的な製造方法は、多元蒸着法、セレン化法、RTP(Rapid Thermal Processing)法等が挙げられる。このうち、多元蒸着法及びRTP法においてはセレン(以下、「Se」ともいう。)の蒸着プロセスが採用されている。Seを成膜するための真空蒸着装置の蒸発源には、主にラインソースが使用されている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−502494号公報(段落[0037]、図3A〜C)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化合物薄膜太陽電池の最新技術 P1〜17、P94〜114 シーエムシー出版 2007年6月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空蒸着技術の分野においては、蒸着材料の利用効率の向上が求められている。例えば基板面内の膜厚分布を確保しようとした場合、基板端部近傍の蒸発レートを基板中央部に対して高くする必要があると同時に、基板端部の外側にも蒸気の放出口を設置する必要がある。しかしながら、蒸発源にラインソースを用いた場合、ラインソースは蒸気の指向性が低いため、蒸着材料の利用効率の向上が図れない。
【0008】
また、ラインソースは、蒸気放出口が一方向に延びたスロット形状を有しているため、蒸着材料の溶解時に発生したスプラッシュが基板に到達しやすいという問題がある。基板へのスプラッシュの付着は膜特性の劣化を招くため、生産性低下の要因となる。したがって、スプラッシュの付着から基板を阻止する必要がある。そこで、基板を蒸発源から遠ざけることでスプラッシュの付着を阻止することも可能であるが、蒸発源から基板を遠ざけると蒸着材料の利用効率はさらに悪化してしまう。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸着材料の利用効率を向上させつつ、基板へのスプラッシュの付着を阻止することができる真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の筒状部とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の筒状部は、上記基板に向かって突出するように上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記筒状部の先端部と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の他の形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の筒状部とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の筒状部は、上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記基板対向面と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】上記真空蒸着装置における成膜室の内部の様子を示す概略斜視図である。
【図3】上記真空蒸着装置を構成する蒸発源の平面図である。
【図4】上記蒸発源の要部の断面図である。
【図5】上記蒸発源の要部の平面図である。
【図6】上記蒸発源を用いて成膜したときの基板の膜厚分布を示す一実験結果である。
【図7】比較例に係る蒸発源を用いて成膜したときの基板の膜厚分布を示す一実験結果である。
【図8】本発明の実施形態に係る蒸発源を用いて成膜したのとき基板の膜厚分布を示すシミュレーション結果である。
【図9】本発明に係る蒸発源を用いたときの成膜レートと比較例に係る蒸発源を用いたときの成膜レートを比較した図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部断面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部断面図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部の平面図及び断面図である。
【図13】本発明の第5の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の筒状部とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の筒状部は、上記基板に向かって突出するように上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記筒状部の先端部と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【0014】
上記真空蒸着装置において、蒸発源は、基板対向面に形成された複数の筒状部を有し、これら筒状部から蒸着材料の蒸気を放出することで、対向する基板上に蒸着膜を形成する。筒状部の先端部と基板との間の距離を100mm以下とすることで、筒状部の直上に位置する基板に対する蒸発物質の付着量を増加させる。これにより、蒸着レートが向上するとともに、蒸着材料の利用効率を高めることが可能となる。筒状部の先端部と基板との間の距離が100mmを越えると、蒸着材料の利用効率の向上効果が小さくなる。また、上記距離の下限は、蒸着材料の種類、筒状部のアスペクト比(高さ/内径の比)、筒状部の配置間隔、蒸着室の真空度などに応じて決定され、例えば5mmである。
【0015】
また、上記真空蒸着装置によれば、筒状部の直上に位置する基板に対して膜厚分布が一様な領域を形成することができる。したがって、筒状部の配置間隔を最適化することによって、大型基板に対して膜厚の面内均一性を向上させることが可能となる。
【0016】
さらに、上記筒状部によって蒸気の放出口を構成することにより、容器内で発生したスプラッシュを筒状部の内周面によって受け止めることができる。これにより、スプラッシュが基板へ到達することを効果的に阻止することが可能となる。
【0017】
上記筒状部の形状は特に限定されず、例えば円筒形状とすることができる。当該筒状部の内径及び高さ(基板対向面からの突出高さ)は適宜設定可能である。この場合、筒状部の高さ寸法はその内径よりも大きくすることができる。これにより、スプラッシュの放出防止効果を高めることができるとともに、蒸着材料の蒸気の指向性をより一層向上させることができる。
【0018】
上記容器は、開口部を有する容器本体と、上記基板対向面を形成し上記開口部を被覆する蓋部材とを有するように構成とすることができる。上記複数の筒状部は、上記蓋部材に一体的に形成することができる。
これにより、蒸発源の構成の簡素化を図りつつ、蒸着材料の利用効率の高い蒸発源を構成することが可能となる。
【0019】
筒状部の配置形態は特に限定されない。本発明の一実施形態では、上記蒸発源は、複数の第1の列群と、複数の第2の列群とを有する。上記第1の列群は、上記第1の方向に平行に上記筒状部が第1の間隔をおいて配置される。上記第2の列群は、上記第2の方向に平行に上記筒状部が上記第2の間隔をおいて配置される。
このように、筒状部を基板対向面上にマトリックス状あるいはグリッド状に配置することによって、基板の表面に対して筒状部を均一に対向させることが可能となる。これにより、基板上の各点において成膜レートのバラツキを抑えられ、膜厚均一性に優れた成膜処理が実現可能となる。
【0020】
上記第2の列群は、上記第2の方向に関して、上記基板の幅寸法を越えて延在してもよい。この場合、上記第1の列群に属する上記筒状部のうち、上記第2の方向に関して上記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部(以下、「外側筒状部」ともいう。)は、上記基板の端部に向かって傾いていてもよい。
これにより、基板の端部領域の成膜レートを高めて、基板全面に対する膜厚の均一化を図ることが可能となる。
【0021】
上記と同様の効果は、上記外側筒上部を以下のように構成することによっても得ることができる。すなわち、
(1)上記外側筒状部の内径を、それ以外の残余の筒状部の内径よりも大きくする。
(2)上記外側筒状部の高さを、それ以外の残余の筒状部の高さよりも大きくする。
(3)上記外側筒状部を、上記第1の間隔よりも小さい第3の間隔で配置させる。
【0022】
上記ヒータは、複数の線状ヒータで構成することができる。上記線状ヒータは、上記第1の方向又は上記第2の方向に延在し、上記筒状部の軸心を通る軸線を挟むようにして配置される。
これにより、筒状部を介しての蒸気の放出を妨げることなく、容器内において蒸着材料を効率よく溶融または昇華させることができる。
【0023】
上記真空蒸着装置は、上記容器の温度を検出する検出部と、上記検出部の出力に基づいて上記ヒータを制御するコントロールユニットとをさらに具備してもよい。上記コントロールユニットは、上記蒸着材料の湯面と上記容器の内部上面との間の距離が、上記筒状部の高さより小さくなるように上記ヒータの加熱温度を制御することができる。
これにより、筒状部の直上に位置する基板に対して膜厚分布が一様な領域を効率よく形成することができる。
【0024】
本発明の他の実施形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の貫通孔とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の貫通孔は、上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記基板対向面と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【0025】
上記真空蒸着装置において、蒸発源は、基板対向面に形成された複数の貫通孔を有し、これら貫通孔から蒸着材料の蒸気を放出することで、対向する基板上に蒸着膜を形成する。基板対向面と基板との間の距離を100mm以下とすることで、貫通孔の直上に位置する基板に対する蒸発物質の付着量を増加させる。これにより、蒸着レートが向上するとともに、蒸着材料の利用効率を高めることが可能となる。
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置を示す概略図である。本実施形態の真空蒸着装置1は、インライン式の真空蒸着装置として構成されている。
【0028】
真空蒸着装置1は、仕込み室11と、第1のバッファ室12と、成膜室13と、第2のバッファ室14と、取出し室15とを備える。これらの各室11〜15は、第1〜第4のゲートバルブG1〜G4を介して接続されている。真空蒸着装置1は、後述するように、仕込み室11から第1のバッファ室12、成膜室13、第2のバッファ室14及び取出し室15の順で基板を搬送し、取出し室15から成膜処理した基板を外部へ取り出すことが可能に構成されている。装置内における基板の搬送には、典型的には、基板を保持するキャリアと、当該キャリアを搬送する機構を含む搬送機構が用いられる。なお、上記搬送機構として、基板のみを各室間で搬送する機構が採用されてもよい。
【0029】
仕込み室11は、第1の真空バルブ21を介して第1の真空ポンプ31と接続されている。仕込み室11に搬送された基板は、仕込み室11が真空ポンプ31によって所定の真空度にまで排気された後、第1のゲートバルブG1を介して第1のバッファ室12へ搬送される。仕込み室11には、基板を脱ガスするための加熱機構が設置されてもよい。
【0030】
第1のバッファ室12は、第2の真空バルブ22を介して第2の真空ポンプ32と接続されており、所定の真空度に維持されている。第1のバッファ室12に基板が搬送された後、第1のバッファ室12は成膜室13と同等の真空度(例えば10−3Pa台)にまで更に排気される。その後、基板は、第2のゲートバルブG2を介して成膜室13へ搬送される。第1のバッファ室12は、仕込み室11と成膜室13との間を高真空雰囲気によって分離する機能を有する。また、第1のバッファ室12には、基板を脱ガスするための加熱機構が設置されてもよい。
【0031】
成膜室13は、第3の真空バルブ23を介して第3の真空ポンプ33と接続されており、所定の真空度(例えば5〜8×10−3Pa)に維持されている。成膜室13に搬送された基板は、成膜室13において成膜処理が行われる。基板は、成膜室13において、真空蒸着法によって成膜される。成膜処理が施された基板は、第3のゲートバルブG3を介して、第2のバッファ室14へ搬送される。なお、成膜処理の詳細については後述する。
【0032】
第2のバッファ室14は、第4の真空バルブ24を介して第4の真空ポンプ34と接続されており、成膜室13と同等の真空度に維持されている。第2のバッファ室14に搬送された基板は、続いて、第4のゲートバルブG4を介して取出し室15へ搬送される。第2のバッファ室14は、成膜室13と取出し室15との間を高真空雰囲気によって分離する機能を有する。
【0033】
取出し室15は、第5の真空バルブ25を介して第5の真空ポンプ35と接続されており、独立して真空排気可能に構成されている。取出し室15は、第2のバッファ室14から基板が搬送される際は所定の真空度に維持されており、基板が搬送された後はゲートバルブG4が閉塞された状態で大気圧に調整される。これにより、成膜済みの基板が取出し室15から装置の外部へ取り出される。
【0034】
真空蒸着装置1の構成は上記の例に限られず、要求されるタクトタイム、真空処理の種類等に応じて適宜変更することが可能である。例えば、タクトタイムが遅い場合は、第1のバッファ室12及び第2のバッファ室14を設置しなくてもよい。また、タクトタイムが早い場合は、第1のバッファ室12及び第2のバッファ室14に加え、成膜室13の前段及び後段に更にバッファ室を増設してもよい。
【0035】
次に、成膜室13の構成について説明する。成膜室13は、真空蒸着法によって基板を成膜する蒸着室として構成されている。
【0036】
図2は成膜室13の内部の様子を示している。成膜室13は、蒸発源40を備える。蒸発源40は、成膜室13の底部に設置されており、基板Tは上記搬送機構によって蒸発源40の直上を通過する。
【0037】
基板Tは、典型的には、ガラス基板で構成されている。図2において、基板Tは、X軸方向に長さ方向、Y軸方向に幅方向、Z軸方向に厚さ方向を有する矩形状に形成されている。基板Tは、矢印Aで示すようにX軸方向に搬送される。
【0038】
上記搬送機構の構成は特に限定されず、例えば、基板Tを支持するキャリアの周縁部を支持する支持部と、この支持部を成膜室13のX軸方向に移動させる駆動部などを含む。上記支持部は、ローラでもよいし、クランプであってもよい。なお、図2及び図3において、基板Tを支持するキャリアの図示は省略されている。
【0039】
蒸発源40は、成膜すべき蒸着材料を収容し、蒸着材料の蒸気(蒸発物質)を基板Tの表面に堆積させる。基板Tが蒸発源40に対して相対的に移動することで、基板Tのほぼ全面が成膜される。以下、蒸発源40の詳細について説明する。
【0040】
図2に示すように、蒸発源40は、容器41と、容器41の上面に形成された複数のチムニ42(筒状部)とを有する。容器41は、内部空間を有する直方形状の箱で構成されており、X軸方向に長さ方向、Y軸方向に幅方向、Z軸方向に高さ方向を有する。容器41は、基板Tよりも短い長さ寸法を有し、基板Tよりも大きな幅寸法を有する。容器41の内部空間には、蒸着材料と、この蒸着材料を加熱溶解するヒータ43(図4)が収容されている。容器41の上面41aは、基板Tと対向する基板対向面を構成し、XY平面に平行に形成されている。
【0041】
チムニ42は、容器41の上面41aの複数箇所に形成されている。チムニ42は、基板Tに向かって突出するように容器41の上面41aに形成されている。チムニ42の形状は円筒形状であるが、これに限られず、多角筒形状であってもよい。チムニ42は、容器41の内部空間と蒸着室13との間を連通させ、蒸着材料の蒸気を基板Tに向けて放出する。
【0042】
図3は、蒸発源40をZ軸方向から見た概略平面図である。本実施形態において、蒸発源40は、第1の列群と第2の列群とを有する。第1の列群を構成する各列x1〜x9は、X軸方向に複数のチムニ42が間隔aをあけて等間隔に配置されてなり、これらの列x1〜x9がY軸方向に配列されることで、上記第1の列群が形成される。第2の列群を構成する各列y1〜y3は、Y軸方向に複数のチムニ42が間隔bをあけて等間隔に配置されてなり、これらの列y1〜y3がX軸方向に配列されることで、上記第2の列群が形成される。間隔a及びbは、それぞれ同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。上記のように、チムニ42が規則的に配置されることによって、基板Tに対して均一な分布でチムニ42を対向させることができ、これにより膜厚の均一性を高めることが可能となる。
【0043】
図4は、蒸発源40をYZ平面で切断したときの要部の拡大断面図である。図5は、図4に示した蒸発源の平面図である。
【0044】
蒸発源40の容器41は、開口部411aを有する容器本体411と、上記基板対向面(容器41の上面41a)を形成し開口部411aを被覆する蓋部材412とを有する。これにより、蒸発源40の構成の簡素化を図りつつ、蒸着材料の利用効率の高い蒸発源を構成することが可能となる。
【0045】
容器本体411は、Mo等の高融点金属材料からなり、その内部空間に蒸着材料50を収容する。蓋部材412もMo等の高融点金属材料からなり、容器本体411の内部空間を閉塞する板状部材で構成される。蓋部材412の面内には複数の貫通孔が形成されており、これらの貫通孔に、所定の高さ(H)及び所定の内径(D)を有するチムニ42がそれぞれ設けられている。チムニ42は、蓋部材412と一体形成されてもよいし、別部材として構成されてもよい。チムニ42は、蓋部材412と同一の材料で構成されているが、勿論これに限られない。また、容器本体411及び蓋部材412は、蒸着材料を加熱する温度、及び、高温で蒸着材料に対して耐性を有する材料であればよく、高融点金属のほかに、ステンレススチール、アルミニウム、セラミックス等を使用してもよい。
【0046】
チムニ42の高さH及び内径Dの大きさは特に限定されない。本実施形態において、チムニ42の高さHは、内径Dよりも大きく形成されており、例えば、H=6mm、D=4mmである。この場合、チムニ42の配置間隔(a、b)を例えば40mmとすることができる。蒸発源40は、チムニ42の先端部と基板Tとの間の距離(Z軸方向に沿った距離)L1が100mm以下となるように、成膜室13に設置されている。
【0047】
距離L1の下限は、蒸着材料の種類、筒状部のアスペクト比(高さ/内径の比)、筒状部の配置間隔、蒸着室の真空度などに応じて決定され、例えば5mmである。距離L1が5mm以下の場合、基板Tの撓みなどにより、基板Tと接触するおそれがある。
【0048】
蒸着材料50は特に限定されず、真空蒸着法によって成膜可能な金属材料、金属酸化物材料、有機材料が用いられる。本実施形態ではSeが用いられる。なお、In、Zn、Te、Ba等の比較的低融点の物質を効率よく成膜することが必要なプロセスにも、本発明は適用可能である。
【0049】
蒸着材料50を溶解または昇華するヒータ43は、蒸着材料50の表面と蓋部材412との間に複数設置されている。図5は、容器41の要部平面図である。ヒータ43は、線状ヒータからなり、X軸方向に沿って容器41を貫通するように設置されている。ヒータ43の両端部43aは、容器41の外側に突出しており、図示しない電力供給源を備えたコントロールユニットに接続されている。
【0050】
図4及び図5に示すように、ヒータ43は、チムニ42の軸心を通る軸線を挟むようにY軸方向に配列されており、各々のヒータ43の間隔はほぼ同等に設定されている。これにより、容器41内の均熱性が高まり、温度分布を生じさせることなく蒸着材料50を一様に加熱することが可能となる。また、チムニ42の直下にヒータ43が位置しないため、ヒータ43によって蒸気の放出が阻害されることはない。
【0051】
蒸発源40は、さらに、ヒータ43の温度を検出するセンサ44を備えている。センサ44は熱電対で構成され、ヒータ43に隣接して容器41の内部に設置されている。センサ44は、上記コントロールユニットに接続されており、当該コントロールユニットは、センサ44の出力に基づいてヒータ43の温度を制御する。
【0052】
また、蒸発源40の容器41の温度を検出する放射温度計45(検出部)が成膜室13の外部に設置されている。放射温度計45は上記コントロールユニットに接続されており、当該コントロールユニットは放射温度計45の出力に基づいてヒータ43による蒸着材料50の加熱温度を制御する。本実施形態では、容器41の温度から蒸着材料50の液面の高さを検出し、ヒータ43による蒸着材料の加熱温度を制御する。上記コントロールユニットは、図4において、蒸着材料50の表面(湯面)と容器41の蓋部材412の内面との間の距離L2がチムニ42の高さHより小さくなるように、蒸着材料50の液面の高さを制御する。
【0053】
本実施形態の蒸発源40は、以上のように構成される。次に、蒸発源40の作用について説明する。
【0054】
蒸発源40の容器41に収容された蒸着材料(Se)は、ヒータ43によって、その融点(約217℃)以上の温度(例えば230℃〜280℃)に加熱されることで溶解する。一方、基板Tは、蒸発源40の直上領域をX軸方向に沿って一定の速度で搬送される。蒸着材料50の蒸気(蒸発物質)は、チムニ42から放出され、チムニ42の先端部に対向する基板Tの表面に堆積する。このようにして、蒸発源40は、その直上を通過する基板Tの表面を順次成膜する。
【0055】
通常、基板に付着しなかった蒸着材料は、蒸着室(チャンバ)の内壁面、防着板、排気系を構成する各種構造体(マニホールド、バルブ、コールドトラップ、真空ポンプ等)に付着する。これらに付着した蒸着材料は、パーティクルの発生源となるおそれがあるため、装置の稼動を定期的に停止させてクリーニングを実行する必要がある。蒸着材料の付着量が多い場合、クリーニングを頻繁に実施する必要があるため、装置の稼働率が低下する。また、バルブ類に付着した蒸着材料は、バルブのシート面の異物となり、リークの原因となる。さらに、コールドトラップや真空ポンプに付着した蒸着材料は、これらの排気性能を低下させる可能性がある。そして、蒸着材料に環境負荷が比較的高いSeが用いられる場合、排気系を通過した蒸着材料を捕獲するためのトラップ機構が必要となる。
【0056】
本実施形態の蒸発源40は、チムニ42を備えているため、容器41から放出される蒸着材料50の蒸気の指向性が高まり、基板Tに効率よく蒸気を付着させることができる。これにより、蒸着材料の利用効率を高めることができる。この効果は、蒸発源と基板との間の距離(以下、「E/S距離」ともいう。)が小さいほど顕著に得られる。
【0057】
図6は、内径4mm、高さ6mmのチムニを備えた蒸発源を用いて基板を成膜したときの、チムニひとつあたりの膜厚分布を示す実験結果である。(A)はE/S距離が100mm、(B)はE/S距離が50mm、(C)はE/S距離が30mmのときの実験結果である。ここでの「E/S距離」は、チムニの先端部から基板までの距離とした。横軸の「蒸発源直上」の位置は、チムニの軸心位置である。縦軸は、膜厚の最大値を1としたときの膜厚を表している。図6に示すように、E/S距離が小さくなるほど、蒸発源の直上位置における膜厚の一定領域(平坦部)が周辺位置へ広がることがわかる。上記膜厚の一定領域(平坦部)は、E/S距離が80mm以下で発生するものと推察される。蒸着材料の液面高さ(L2)を制御することによっても、上記膜厚の一定領域(平坦部)を制御することも可能である。また、E/S距離が小さくなるほど、蒸発源の直上位置とその周辺位置との間の膜厚分布の勾配が大きくなることがわかる。これは、蒸発源から放出される蒸気が蒸発源の直上位置へ高い指向性をもって放出されることを意味している。
【0058】
比較として、チムニを備えていない蒸発源を用いて基板を成膜したときの、膜厚分布を図7に示す。蒸気の放出口は、蒸発源を構成する容器の上面に形成した直径4mmの丸穴とした。(A)はE/S距離が100mm、(B)はE/S距離が50mm、(C)はE/S距離が30mmのときの実験結果である。ここでの「E/S距離」は、上記容器の上面と基板との間の距離とした。図7に示すように、チムニなしの蒸発源においても、図6に示す実験結果と同様な傾向が認められたが、その効果が小さいことがわかる。すなわち、蒸発源の直上付近に現れる膜厚の一定領域(平坦部)が、図6の結果からではE/S距離が50mm以下で顕在化するのに対して、図7の結果からでは同距離では認められなかった。また、E/S距離が100mmの場合で対比すると、図6(A)の方が図7(A)に比べて、蒸発源の直上位置とその周辺位置との間の膜厚分布の勾配が大きい。このことからも、チムニを設けることで、蒸気の指向性が向上し、蒸着材料の利用効率が高まることが明らかである。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、蒸着材料の利用効率を高めることができるので、蒸着に必要な蒸着材料の量を従来よりも少なくすることができる。これにより、材料コストの低減を図ることができる。また、基板以外の部位に付着する蒸着材料の量を低減できるので、クリーニングに要する費用の削減を図ることができるとともに、ポンプの性能低下を抑制することができる。さらに、排気系を通過した蒸着材料を捕獲するためのトラップ機構を簡素化することも可能となる。
【0060】
また、本実施形態の蒸発源40によれば、上記構成のチムニ42を多数備えているので、図6(B)に示したような膜厚の一定領域(平坦部)を利用して、基板T上に均一な膜厚で蒸着材料を蒸着させることが可能である。図8は、E/S距離が50mm、チムニ42の配置間隔(図3における間隔b)を40mmとしたときの、基板Tの膜厚分布のシミュレーション結果を示している。図6(B)の膜厚分布を基板の幅方向に重ね合わせることで、基板Tに対してほぼ一様な膜厚を蒸着することが可能なことが確認できる。この例における膜厚分布及び蒸着材料の利用効率(基板への付着効率)を算出したところ、膜厚分布は±0.6%以下、利用効率は89.6%であった。なお、付着効率は、図8において、「有効範囲」の付着量を「e1」、当該「有効範囲」の両側に示される「基板以外に付着する蒸発物質」の量を「e2」及び「e3」とて、(e1÷(e1+e2+e3))×100(%)とした。
【0061】
一方、本実施形態によれば、蒸発源40を上述のように構成したことにより、以下の効果を奏することができる。
【0062】
蒸着材料の蒸気を複数のチムニ42を介して基板Tへ到達させるようにしているので、従来のラインース型の蒸発源に比べて、蒸発源で発生したスプラッシュが基板に到達することを防止することができる。したがって、E/S距離を従来よりも小さく設定したとしても、スプラッシュの付着による成膜不良を防ぐことが可能となる。スプラッシュの付着防止効果は、チムニ42の高さHが大きいほど、あるいは、チムニ42の内径Dが小さいほど顕著に得られる。
【0063】
蒸発源40はチムニ42を備えているので、蒸発源40から放出される蒸着材料の蒸気のコンダクタンスが低下し、蒸発源40の内部と外部との間に圧力差をもたせることができる。これにより、蒸発源40内部の高圧化及び均一化を実現でき、蒸着レートを向上させることができるとともに、チムニ42毎の蒸気放出量のバラツキを抑制することができる。したがって、大型基板に対しても均一な膜厚で成膜することができる。また、通常のクヌーセンセルを用いた蒸着に比べて、蒸発源の内部の圧力を高く設定することができる。
【0064】
図7(A)に示した蒸発源と図6(B)に示した蒸発源を使用し、230℃〜280℃の温度範囲における成膜レートを測定した結果を図9に示す。図6(B)の構成による蒸発源の方が図7(A)の構成による蒸発源に比べ、約4倍の成膜レートが得られることが分かった。チムニを設置し、E/S距離を近づけた蒸発源の構成の方が、成膜レートを同じとした場合、蒸発源の温度を低温化でき、また、蒸発源の温度を同じとした場合、成膜時間を短縮できる。以上のことから、本発明に係る蒸発源を使用した場合、基板の温度上昇を抑えることが可能となり、特に低融点物質の成膜において基盤からの再蒸発を防止することができる。また、蒸発源の温度を低くすることができるため、スプラッシュの発生を効果的に抑えることが可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態においては、上記コントロールユニットによって、蒸着材料50の表面(湯面)と容器41の蓋部材412の内面との間の距離L2がチムニ42の高さHより小さくなるように、蒸着材料50の液面(湯面)の高さが制御される。これにより、チムニ42の直上に位置する基板に対して膜厚分布が一様な領域を効率よく形成することが可能となる。
【0066】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0067】
本実施形態の蒸発源40Aは、基板Tの幅方向の端面Taよりも外方側に位置する列x1及びx9(図では列x9のみ示す。)に属するチムニ42aが、基板Tの端面Taに向かって傾いて形成されている点で、第1の実施形態と異なる。本実施形態によれば、チムニ42aによって基板Tの端面Taに向かう蒸気の指向性を高めることができるため、当該端面Taに付着する蒸発物質の量を増加させることができる。これにより、基板の端面Ta領域の成膜レートが高まり、基板Tの中央側と端面側とで膜厚の均一化を図ることができるとともに、蒸着材料の利用効率の更なる向上を図ることができる。
【0068】
(第3の実施形態)
図11は、本発明の第3の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0069】
本実施形態の蒸発源40Bは、基板Tの幅方向の端面Taよりも外方側に位置する列x1及びx9(図では列x9のみ示す。)に属するチムニ42bが、それ以外の残余のチムニ42の内径及び高さが大きく形成されている点で、第1の実施形態と異なる。本実施形態によれば、チムニ42aによって基板Tの端面Taに向かう蒸気の指向性を高めることができるため、当該端面Taに付着する蒸発物質の量を増加させることができる。これにより、基板の端面Ta領域の成膜レートが高まり、基板Tの中央側と端面側とで膜厚の均一化を図ることができるとともに、蒸着材料の利用効率の更なる向上を図ることができる。なお、上述の効果は、チムニ42bの内径及び高さのいずれか一方のみを他のチムニ42のそれよりも大きく形成することによっても、得ることができる。
【0070】
(第4の実施形態)
図12(A)、(B)は、本発明の第4の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0071】
本実施形態の蒸発源40Cは、基板Tの幅方向の端面Taよりも外方側に位置する列x1及びx9(図では列x9のみ示す。)に属するチムニ42cが、それ以外の他の列(x1〜x8)に属するチムニ42よりも小さい間隔c(<a)で配置され、当該他の列に属するチムニ42よりも数多く配置されている点で、第1の実施形態と異なる。本実施形態によれば、チムニ42aによって基板Tの端面Taに向かう蒸気の指向性を高めることができるため、当該端面Taに付着する蒸発物質の量を増加させることができる。これにより、基板の端面Ta領域の成膜レートが高まり、基板Tの中央側と端面側とで膜厚の均一化を図ることができるとともに、蒸着材料の利用効率の更なる向上を図ることができる。
【0072】
(第5の実施形態)
図13は、本発明の第5の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
本実施形態の蒸発源60は、容器本体611の開口部611aを閉塞する蓋部材612に複数の貫通孔62が形成されている。これら複数の貫通孔62は、蒸着材料の蒸気を容器61の内部から基板Tへ向けて放出する。本実施形態において、蓋部材612の厚み(V)は、容器本体611に収容された蒸着材料50の湯面から蓋部材612の内面までの距離(L2)よりも大きく形成されている。すなわち、貫通孔62は、上述の第1の実施形態に係るチムニ42(筒状部)としての機能を有する。
【0074】
上述のように構成される蒸発源60は、蓋部材612の上面(基板対向面)が、基板Tに対して距離L1だけ離間する位置に、蒸着室内に設置される。距離L1は、100mm以下に設定されており、例えば50mmである。距離L1の下限は、蒸着材料の種類、筒状部のアスペクト比(高さ/内径の比)、筒状部の配置間隔、蒸着室の真空度などに応じて決定され、例えば5mmである。距離L1が5mm以下の場合、基板Tの撓みなどにより、基板Tと接触するおそれがある。
【0075】
以上のように構成される本実施形態の蒸発源60においても、第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。すなわち、本実施形態によれば、蒸着材料の利用効率を高めることができ、蒸着に必要な蒸着材料の量を従来よりも少なくすることができる。これにより、材料コストの低減を図ることができる。
【0076】
上述したように、貫通孔62はチムニ42と同等の機能を有するため、上述したようなチムニ42の配置例、構成例をそのまま、当該貫通孔62に対しても適用することができる。すなわち、貫通孔62は、図3に示したように、容器の蓋部材に対してグリッド状に配置されてもよい。また、図10〜図12に示したように、基板Tの端面Taより外方側に位置する貫通孔62の軸心を斜めに傾斜したり、内径や深さを大きくしたり、配置間隔を狭めたりすることができる。
【0077】
さらに、上述の第1の実施形態と同様に、容器61の温度を検出する放射温度計45の出力に基づいて、ヒータ43による蒸着材料50の加熱温度を制御するコントロールユニットを備えてもよい。蒸着材料50の表面(湯面)と蓋部材612の内面との間の距離L2が貫通孔62の深さVより小さくなるように、蒸着材料50の液面の高さを制御することで、貫通孔62の直上に位置する基板Tに対して膜厚分布が一様な領域を効率よく形成することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0079】
例えば以上の実施形態では、真空蒸着装置として、インライン式の真空蒸着装置を例に挙げて説明したが、これに代えて、バッチ式の真空蒸着装置にも本発明は適用可能である。また、仕込み室と取出し室とを共通の室とし、当該室と成膜室(蒸着室)との間で基板を搬送する、いわゆるインターバック式の真空蒸着装置にも、本発明は適用可能である。
【0080】
以上の実施形態では、蒸発源に対して基板を移動させながら成膜する通過成膜方式を例に挙げて説明したが、これに限られず、蒸発源に対して基板を静止(停止)させて成膜する固定成膜方式にも本発明は適用可能である。
【0081】
以上の実施形態では、蒸発源として複数のチムニを基板の幅方向及び搬送方向にそれぞれ平行な列群で構成したが、チムニの配列形態はこの例に限られない。例えば、基板の幅方向及び搬送方向にそれぞれ交差する方向に複数のチムニを配置させてもよい。
【0082】
さらに、図10〜12に示した実施形態では、基板Tの端面よりも外方に位置するチムニ42a〜42cについて上述の構成を適用したが、E/S距離、膜厚分布の仕様等に応じて、隣接する他の列に属するチムニにも同様な構成を適用することが可能である。また、図10〜図12に示した構成を適宜組み合わせて、再外列のチムニ列x1、x9を構成してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…真空蒸着装置
13…成膜室
40、40A、40B、40C、60…蒸発源
41、61…容器
411、611…容器本体
412、612…蓋部材
42、42a、42b、42c…チムニ
43…ヒータ
50…蒸着材料
62…貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料の蒸気を発生させ当該蒸気を基板に向けて放出する蒸発源を備えた真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型のガラス基板に対する金属膜、酸化膜、有機材料膜の成膜に真空蒸着法が広く用いられている。真空蒸着法は、スパッタリング法、CVD法等とともに知られる真空成膜法のひとつであり、真空排気された蒸着室の内部に、成膜されるべき基板と蒸発源を対向配置し、蒸発源から放出される蒸着材料の蒸気(蒸発物質)を基板上に堆積させて成膜する。
【0003】
蒸発源としては、種々の方式が知られている。例えば下記特許文献1には、原料物質を収納するルツボと、原料物質を加熱して原料物質の蒸気を発生させる加熱素子と、原料物質の蒸気をルツボから基材に向けて放出する長方形状のスロットを有する煙突(チムニ)とを有する蒸発源が記載されている。このように蒸気の放出口が基板の幅方向に延在するように形成された蒸発源は、いわゆるラインソース(ライン形蒸発源)と呼ばれている。
【0004】
また、近年においては、CIGS(Cu(InGa)Se2)系の太陽電池の開発が進められている。CIGSの代表的な製造方法は、多元蒸着法、セレン化法、RTP(Rapid Thermal Processing)法等が挙げられる。このうち、多元蒸着法及びRTP法においてはセレン(以下、「Se」ともいう。)の蒸着プロセスが採用されている。Seを成膜するための真空蒸着装置の蒸発源には、主にラインソースが使用されている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−502494号公報(段落[0037]、図3A〜C)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化合物薄膜太陽電池の最新技術 P1〜17、P94〜114 シーエムシー出版 2007年6月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空蒸着技術の分野においては、蒸着材料の利用効率の向上が求められている。例えば基板面内の膜厚分布を確保しようとした場合、基板端部近傍の蒸発レートを基板中央部に対して高くする必要があると同時に、基板端部の外側にも蒸気の放出口を設置する必要がある。しかしながら、蒸発源にラインソースを用いた場合、ラインソースは蒸気の指向性が低いため、蒸着材料の利用効率の向上が図れない。
【0008】
また、ラインソースは、蒸気放出口が一方向に延びたスロット形状を有しているため、蒸着材料の溶解時に発生したスプラッシュが基板に到達しやすいという問題がある。基板へのスプラッシュの付着は膜特性の劣化を招くため、生産性低下の要因となる。したがって、スプラッシュの付着から基板を阻止する必要がある。そこで、基板を蒸発源から遠ざけることでスプラッシュの付着を阻止することも可能であるが、蒸発源から基板を遠ざけると蒸着材料の利用効率はさらに悪化してしまう。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸着材料の利用効率を向上させつつ、基板へのスプラッシュの付着を阻止することができる真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の筒状部とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の筒状部は、上記基板に向かって突出するように上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記筒状部の先端部と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の他の形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の筒状部とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の筒状部は、上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記基板対向面と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】上記真空蒸着装置における成膜室の内部の様子を示す概略斜視図である。
【図3】上記真空蒸着装置を構成する蒸発源の平面図である。
【図4】上記蒸発源の要部の断面図である。
【図5】上記蒸発源の要部の平面図である。
【図6】上記蒸発源を用いて成膜したときの基板の膜厚分布を示す一実験結果である。
【図7】比較例に係る蒸発源を用いて成膜したときの基板の膜厚分布を示す一実験結果である。
【図8】本発明の実施形態に係る蒸発源を用いて成膜したのとき基板の膜厚分布を示すシミュレーション結果である。
【図9】本発明に係る蒸発源を用いたときの成膜レートと比較例に係る蒸発源を用いたときの成膜レートを比較した図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部断面図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部断面図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部の平面図及び断面図である。
【図13】本発明の第5の実施形態に係る蒸発源の構成を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の筒状部とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の筒状部は、上記基板に向かって突出するように上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記筒状部の先端部と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【0014】
上記真空蒸着装置において、蒸発源は、基板対向面に形成された複数の筒状部を有し、これら筒状部から蒸着材料の蒸気を放出することで、対向する基板上に蒸着膜を形成する。筒状部の先端部と基板との間の距離を100mm以下とすることで、筒状部の直上に位置する基板に対する蒸発物質の付着量を増加させる。これにより、蒸着レートが向上するとともに、蒸着材料の利用効率を高めることが可能となる。筒状部の先端部と基板との間の距離が100mmを越えると、蒸着材料の利用効率の向上効果が小さくなる。また、上記距離の下限は、蒸着材料の種類、筒状部のアスペクト比(高さ/内径の比)、筒状部の配置間隔、蒸着室の真空度などに応じて決定され、例えば5mmである。
【0015】
また、上記真空蒸着装置によれば、筒状部の直上に位置する基板に対して膜厚分布が一様な領域を形成することができる。したがって、筒状部の配置間隔を最適化することによって、大型基板に対して膜厚の面内均一性を向上させることが可能となる。
【0016】
さらに、上記筒状部によって蒸気の放出口を構成することにより、容器内で発生したスプラッシュを筒状部の内周面によって受け止めることができる。これにより、スプラッシュが基板へ到達することを効果的に阻止することが可能となる。
【0017】
上記筒状部の形状は特に限定されず、例えば円筒形状とすることができる。当該筒状部の内径及び高さ(基板対向面からの突出高さ)は適宜設定可能である。この場合、筒状部の高さ寸法はその内径よりも大きくすることができる。これにより、スプラッシュの放出防止効果を高めることができるとともに、蒸着材料の蒸気の指向性をより一層向上させることができる。
【0018】
上記容器は、開口部を有する容器本体と、上記基板対向面を形成し上記開口部を被覆する蓋部材とを有するように構成とすることができる。上記複数の筒状部は、上記蓋部材に一体的に形成することができる。
これにより、蒸発源の構成の簡素化を図りつつ、蒸着材料の利用効率の高い蒸発源を構成することが可能となる。
【0019】
筒状部の配置形態は特に限定されない。本発明の一実施形態では、上記蒸発源は、複数の第1の列群と、複数の第2の列群とを有する。上記第1の列群は、上記第1の方向に平行に上記筒状部が第1の間隔をおいて配置される。上記第2の列群は、上記第2の方向に平行に上記筒状部が上記第2の間隔をおいて配置される。
このように、筒状部を基板対向面上にマトリックス状あるいはグリッド状に配置することによって、基板の表面に対して筒状部を均一に対向させることが可能となる。これにより、基板上の各点において成膜レートのバラツキを抑えられ、膜厚均一性に優れた成膜処理が実現可能となる。
【0020】
上記第2の列群は、上記第2の方向に関して、上記基板の幅寸法を越えて延在してもよい。この場合、上記第1の列群に属する上記筒状部のうち、上記第2の方向に関して上記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部(以下、「外側筒状部」ともいう。)は、上記基板の端部に向かって傾いていてもよい。
これにより、基板の端部領域の成膜レートを高めて、基板全面に対する膜厚の均一化を図ることが可能となる。
【0021】
上記と同様の効果は、上記外側筒上部を以下のように構成することによっても得ることができる。すなわち、
(1)上記外側筒状部の内径を、それ以外の残余の筒状部の内径よりも大きくする。
(2)上記外側筒状部の高さを、それ以外の残余の筒状部の高さよりも大きくする。
(3)上記外側筒状部を、上記第1の間隔よりも小さい第3の間隔で配置させる。
【0022】
上記ヒータは、複数の線状ヒータで構成することができる。上記線状ヒータは、上記第1の方向又は上記第2の方向に延在し、上記筒状部の軸心を通る軸線を挟むようにして配置される。
これにより、筒状部を介しての蒸気の放出を妨げることなく、容器内において蒸着材料を効率よく溶融または昇華させることができる。
【0023】
上記真空蒸着装置は、上記容器の温度を検出する検出部と、上記検出部の出力に基づいて上記ヒータを制御するコントロールユニットとをさらに具備してもよい。上記コントロールユニットは、上記蒸着材料の湯面と上記容器の内部上面との間の距離が、上記筒状部の高さより小さくなるように上記ヒータの加熱温度を制御することができる。
これにより、筒状部の直上に位置する基板に対して膜厚分布が一様な領域を効率よく形成することができる。
【0024】
本発明の他の実施形態に係る真空蒸着装置は、蒸着室と、搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記搬送機構は、第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、上記蒸着室内において上記基板を上記第1の方向に沿って搬送する。
上記蒸発源は、容器と、ヒータと、複数の貫通孔とを含む。上記容器は、蒸着材料を収容し、上記基板と対向する基板対向面を有する。上記ヒータは、上記容器の内部に設置され、上記蒸着材料を加熱する。上記複数の貫通孔は、上記基板対向面に形成され、上記蒸着材料の蒸気を上記容器の内部から上記基板へ向けて放出する。上記基板対向面と上記基板との間における上記第3の方向に沿った距離は、100mm以下である。
【0025】
上記真空蒸着装置において、蒸発源は、基板対向面に形成された複数の貫通孔を有し、これら貫通孔から蒸着材料の蒸気を放出することで、対向する基板上に蒸着膜を形成する。基板対向面と基板との間の距離を100mm以下とすることで、貫通孔の直上に位置する基板に対する蒸発物質の付着量を増加させる。これにより、蒸着レートが向上するとともに、蒸着材料の利用効率を高めることが可能となる。
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置を示す概略図である。本実施形態の真空蒸着装置1は、インライン式の真空蒸着装置として構成されている。
【0028】
真空蒸着装置1は、仕込み室11と、第1のバッファ室12と、成膜室13と、第2のバッファ室14と、取出し室15とを備える。これらの各室11〜15は、第1〜第4のゲートバルブG1〜G4を介して接続されている。真空蒸着装置1は、後述するように、仕込み室11から第1のバッファ室12、成膜室13、第2のバッファ室14及び取出し室15の順で基板を搬送し、取出し室15から成膜処理した基板を外部へ取り出すことが可能に構成されている。装置内における基板の搬送には、典型的には、基板を保持するキャリアと、当該キャリアを搬送する機構を含む搬送機構が用いられる。なお、上記搬送機構として、基板のみを各室間で搬送する機構が採用されてもよい。
【0029】
仕込み室11は、第1の真空バルブ21を介して第1の真空ポンプ31と接続されている。仕込み室11に搬送された基板は、仕込み室11が真空ポンプ31によって所定の真空度にまで排気された後、第1のゲートバルブG1を介して第1のバッファ室12へ搬送される。仕込み室11には、基板を脱ガスするための加熱機構が設置されてもよい。
【0030】
第1のバッファ室12は、第2の真空バルブ22を介して第2の真空ポンプ32と接続されており、所定の真空度に維持されている。第1のバッファ室12に基板が搬送された後、第1のバッファ室12は成膜室13と同等の真空度(例えば10−3Pa台)にまで更に排気される。その後、基板は、第2のゲートバルブG2を介して成膜室13へ搬送される。第1のバッファ室12は、仕込み室11と成膜室13との間を高真空雰囲気によって分離する機能を有する。また、第1のバッファ室12には、基板を脱ガスするための加熱機構が設置されてもよい。
【0031】
成膜室13は、第3の真空バルブ23を介して第3の真空ポンプ33と接続されており、所定の真空度(例えば5〜8×10−3Pa)に維持されている。成膜室13に搬送された基板は、成膜室13において成膜処理が行われる。基板は、成膜室13において、真空蒸着法によって成膜される。成膜処理が施された基板は、第3のゲートバルブG3を介して、第2のバッファ室14へ搬送される。なお、成膜処理の詳細については後述する。
【0032】
第2のバッファ室14は、第4の真空バルブ24を介して第4の真空ポンプ34と接続されており、成膜室13と同等の真空度に維持されている。第2のバッファ室14に搬送された基板は、続いて、第4のゲートバルブG4を介して取出し室15へ搬送される。第2のバッファ室14は、成膜室13と取出し室15との間を高真空雰囲気によって分離する機能を有する。
【0033】
取出し室15は、第5の真空バルブ25を介して第5の真空ポンプ35と接続されており、独立して真空排気可能に構成されている。取出し室15は、第2のバッファ室14から基板が搬送される際は所定の真空度に維持されており、基板が搬送された後はゲートバルブG4が閉塞された状態で大気圧に調整される。これにより、成膜済みの基板が取出し室15から装置の外部へ取り出される。
【0034】
真空蒸着装置1の構成は上記の例に限られず、要求されるタクトタイム、真空処理の種類等に応じて適宜変更することが可能である。例えば、タクトタイムが遅い場合は、第1のバッファ室12及び第2のバッファ室14を設置しなくてもよい。また、タクトタイムが早い場合は、第1のバッファ室12及び第2のバッファ室14に加え、成膜室13の前段及び後段に更にバッファ室を増設してもよい。
【0035】
次に、成膜室13の構成について説明する。成膜室13は、真空蒸着法によって基板を成膜する蒸着室として構成されている。
【0036】
図2は成膜室13の内部の様子を示している。成膜室13は、蒸発源40を備える。蒸発源40は、成膜室13の底部に設置されており、基板Tは上記搬送機構によって蒸発源40の直上を通過する。
【0037】
基板Tは、典型的には、ガラス基板で構成されている。図2において、基板Tは、X軸方向に長さ方向、Y軸方向に幅方向、Z軸方向に厚さ方向を有する矩形状に形成されている。基板Tは、矢印Aで示すようにX軸方向に搬送される。
【0038】
上記搬送機構の構成は特に限定されず、例えば、基板Tを支持するキャリアの周縁部を支持する支持部と、この支持部を成膜室13のX軸方向に移動させる駆動部などを含む。上記支持部は、ローラでもよいし、クランプであってもよい。なお、図2及び図3において、基板Tを支持するキャリアの図示は省略されている。
【0039】
蒸発源40は、成膜すべき蒸着材料を収容し、蒸着材料の蒸気(蒸発物質)を基板Tの表面に堆積させる。基板Tが蒸発源40に対して相対的に移動することで、基板Tのほぼ全面が成膜される。以下、蒸発源40の詳細について説明する。
【0040】
図2に示すように、蒸発源40は、容器41と、容器41の上面に形成された複数のチムニ42(筒状部)とを有する。容器41は、内部空間を有する直方形状の箱で構成されており、X軸方向に長さ方向、Y軸方向に幅方向、Z軸方向に高さ方向を有する。容器41は、基板Tよりも短い長さ寸法を有し、基板Tよりも大きな幅寸法を有する。容器41の内部空間には、蒸着材料と、この蒸着材料を加熱溶解するヒータ43(図4)が収容されている。容器41の上面41aは、基板Tと対向する基板対向面を構成し、XY平面に平行に形成されている。
【0041】
チムニ42は、容器41の上面41aの複数箇所に形成されている。チムニ42は、基板Tに向かって突出するように容器41の上面41aに形成されている。チムニ42の形状は円筒形状であるが、これに限られず、多角筒形状であってもよい。チムニ42は、容器41の内部空間と蒸着室13との間を連通させ、蒸着材料の蒸気を基板Tに向けて放出する。
【0042】
図3は、蒸発源40をZ軸方向から見た概略平面図である。本実施形態において、蒸発源40は、第1の列群と第2の列群とを有する。第1の列群を構成する各列x1〜x9は、X軸方向に複数のチムニ42が間隔aをあけて等間隔に配置されてなり、これらの列x1〜x9がY軸方向に配列されることで、上記第1の列群が形成される。第2の列群を構成する各列y1〜y3は、Y軸方向に複数のチムニ42が間隔bをあけて等間隔に配置されてなり、これらの列y1〜y3がX軸方向に配列されることで、上記第2の列群が形成される。間隔a及びbは、それぞれ同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。上記のように、チムニ42が規則的に配置されることによって、基板Tに対して均一な分布でチムニ42を対向させることができ、これにより膜厚の均一性を高めることが可能となる。
【0043】
図4は、蒸発源40をYZ平面で切断したときの要部の拡大断面図である。図5は、図4に示した蒸発源の平面図である。
【0044】
蒸発源40の容器41は、開口部411aを有する容器本体411と、上記基板対向面(容器41の上面41a)を形成し開口部411aを被覆する蓋部材412とを有する。これにより、蒸発源40の構成の簡素化を図りつつ、蒸着材料の利用効率の高い蒸発源を構成することが可能となる。
【0045】
容器本体411は、Mo等の高融点金属材料からなり、その内部空間に蒸着材料50を収容する。蓋部材412もMo等の高融点金属材料からなり、容器本体411の内部空間を閉塞する板状部材で構成される。蓋部材412の面内には複数の貫通孔が形成されており、これらの貫通孔に、所定の高さ(H)及び所定の内径(D)を有するチムニ42がそれぞれ設けられている。チムニ42は、蓋部材412と一体形成されてもよいし、別部材として構成されてもよい。チムニ42は、蓋部材412と同一の材料で構成されているが、勿論これに限られない。また、容器本体411及び蓋部材412は、蒸着材料を加熱する温度、及び、高温で蒸着材料に対して耐性を有する材料であればよく、高融点金属のほかに、ステンレススチール、アルミニウム、セラミックス等を使用してもよい。
【0046】
チムニ42の高さH及び内径Dの大きさは特に限定されない。本実施形態において、チムニ42の高さHは、内径Dよりも大きく形成されており、例えば、H=6mm、D=4mmである。この場合、チムニ42の配置間隔(a、b)を例えば40mmとすることができる。蒸発源40は、チムニ42の先端部と基板Tとの間の距離(Z軸方向に沿った距離)L1が100mm以下となるように、成膜室13に設置されている。
【0047】
距離L1の下限は、蒸着材料の種類、筒状部のアスペクト比(高さ/内径の比)、筒状部の配置間隔、蒸着室の真空度などに応じて決定され、例えば5mmである。距離L1が5mm以下の場合、基板Tの撓みなどにより、基板Tと接触するおそれがある。
【0048】
蒸着材料50は特に限定されず、真空蒸着法によって成膜可能な金属材料、金属酸化物材料、有機材料が用いられる。本実施形態ではSeが用いられる。なお、In、Zn、Te、Ba等の比較的低融点の物質を効率よく成膜することが必要なプロセスにも、本発明は適用可能である。
【0049】
蒸着材料50を溶解または昇華するヒータ43は、蒸着材料50の表面と蓋部材412との間に複数設置されている。図5は、容器41の要部平面図である。ヒータ43は、線状ヒータからなり、X軸方向に沿って容器41を貫通するように設置されている。ヒータ43の両端部43aは、容器41の外側に突出しており、図示しない電力供給源を備えたコントロールユニットに接続されている。
【0050】
図4及び図5に示すように、ヒータ43は、チムニ42の軸心を通る軸線を挟むようにY軸方向に配列されており、各々のヒータ43の間隔はほぼ同等に設定されている。これにより、容器41内の均熱性が高まり、温度分布を生じさせることなく蒸着材料50を一様に加熱することが可能となる。また、チムニ42の直下にヒータ43が位置しないため、ヒータ43によって蒸気の放出が阻害されることはない。
【0051】
蒸発源40は、さらに、ヒータ43の温度を検出するセンサ44を備えている。センサ44は熱電対で構成され、ヒータ43に隣接して容器41の内部に設置されている。センサ44は、上記コントロールユニットに接続されており、当該コントロールユニットは、センサ44の出力に基づいてヒータ43の温度を制御する。
【0052】
また、蒸発源40の容器41の温度を検出する放射温度計45(検出部)が成膜室13の外部に設置されている。放射温度計45は上記コントロールユニットに接続されており、当該コントロールユニットは放射温度計45の出力に基づいてヒータ43による蒸着材料50の加熱温度を制御する。本実施形態では、容器41の温度から蒸着材料50の液面の高さを検出し、ヒータ43による蒸着材料の加熱温度を制御する。上記コントロールユニットは、図4において、蒸着材料50の表面(湯面)と容器41の蓋部材412の内面との間の距離L2がチムニ42の高さHより小さくなるように、蒸着材料50の液面の高さを制御する。
【0053】
本実施形態の蒸発源40は、以上のように構成される。次に、蒸発源40の作用について説明する。
【0054】
蒸発源40の容器41に収容された蒸着材料(Se)は、ヒータ43によって、その融点(約217℃)以上の温度(例えば230℃〜280℃)に加熱されることで溶解する。一方、基板Tは、蒸発源40の直上領域をX軸方向に沿って一定の速度で搬送される。蒸着材料50の蒸気(蒸発物質)は、チムニ42から放出され、チムニ42の先端部に対向する基板Tの表面に堆積する。このようにして、蒸発源40は、その直上を通過する基板Tの表面を順次成膜する。
【0055】
通常、基板に付着しなかった蒸着材料は、蒸着室(チャンバ)の内壁面、防着板、排気系を構成する各種構造体(マニホールド、バルブ、コールドトラップ、真空ポンプ等)に付着する。これらに付着した蒸着材料は、パーティクルの発生源となるおそれがあるため、装置の稼動を定期的に停止させてクリーニングを実行する必要がある。蒸着材料の付着量が多い場合、クリーニングを頻繁に実施する必要があるため、装置の稼働率が低下する。また、バルブ類に付着した蒸着材料は、バルブのシート面の異物となり、リークの原因となる。さらに、コールドトラップや真空ポンプに付着した蒸着材料は、これらの排気性能を低下させる可能性がある。そして、蒸着材料に環境負荷が比較的高いSeが用いられる場合、排気系を通過した蒸着材料を捕獲するためのトラップ機構が必要となる。
【0056】
本実施形態の蒸発源40は、チムニ42を備えているため、容器41から放出される蒸着材料50の蒸気の指向性が高まり、基板Tに効率よく蒸気を付着させることができる。これにより、蒸着材料の利用効率を高めることができる。この効果は、蒸発源と基板との間の距離(以下、「E/S距離」ともいう。)が小さいほど顕著に得られる。
【0057】
図6は、内径4mm、高さ6mmのチムニを備えた蒸発源を用いて基板を成膜したときの、チムニひとつあたりの膜厚分布を示す実験結果である。(A)はE/S距離が100mm、(B)はE/S距離が50mm、(C)はE/S距離が30mmのときの実験結果である。ここでの「E/S距離」は、チムニの先端部から基板までの距離とした。横軸の「蒸発源直上」の位置は、チムニの軸心位置である。縦軸は、膜厚の最大値を1としたときの膜厚を表している。図6に示すように、E/S距離が小さくなるほど、蒸発源の直上位置における膜厚の一定領域(平坦部)が周辺位置へ広がることがわかる。上記膜厚の一定領域(平坦部)は、E/S距離が80mm以下で発生するものと推察される。蒸着材料の液面高さ(L2)を制御することによっても、上記膜厚の一定領域(平坦部)を制御することも可能である。また、E/S距離が小さくなるほど、蒸発源の直上位置とその周辺位置との間の膜厚分布の勾配が大きくなることがわかる。これは、蒸発源から放出される蒸気が蒸発源の直上位置へ高い指向性をもって放出されることを意味している。
【0058】
比較として、チムニを備えていない蒸発源を用いて基板を成膜したときの、膜厚分布を図7に示す。蒸気の放出口は、蒸発源を構成する容器の上面に形成した直径4mmの丸穴とした。(A)はE/S距離が100mm、(B)はE/S距離が50mm、(C)はE/S距離が30mmのときの実験結果である。ここでの「E/S距離」は、上記容器の上面と基板との間の距離とした。図7に示すように、チムニなしの蒸発源においても、図6に示す実験結果と同様な傾向が認められたが、その効果が小さいことがわかる。すなわち、蒸発源の直上付近に現れる膜厚の一定領域(平坦部)が、図6の結果からではE/S距離が50mm以下で顕在化するのに対して、図7の結果からでは同距離では認められなかった。また、E/S距離が100mmの場合で対比すると、図6(A)の方が図7(A)に比べて、蒸発源の直上位置とその周辺位置との間の膜厚分布の勾配が大きい。このことからも、チムニを設けることで、蒸気の指向性が向上し、蒸着材料の利用効率が高まることが明らかである。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、蒸着材料の利用効率を高めることができるので、蒸着に必要な蒸着材料の量を従来よりも少なくすることができる。これにより、材料コストの低減を図ることができる。また、基板以外の部位に付着する蒸着材料の量を低減できるので、クリーニングに要する費用の削減を図ることができるとともに、ポンプの性能低下を抑制することができる。さらに、排気系を通過した蒸着材料を捕獲するためのトラップ機構を簡素化することも可能となる。
【0060】
また、本実施形態の蒸発源40によれば、上記構成のチムニ42を多数備えているので、図6(B)に示したような膜厚の一定領域(平坦部)を利用して、基板T上に均一な膜厚で蒸着材料を蒸着させることが可能である。図8は、E/S距離が50mm、チムニ42の配置間隔(図3における間隔b)を40mmとしたときの、基板Tの膜厚分布のシミュレーション結果を示している。図6(B)の膜厚分布を基板の幅方向に重ね合わせることで、基板Tに対してほぼ一様な膜厚を蒸着することが可能なことが確認できる。この例における膜厚分布及び蒸着材料の利用効率(基板への付着効率)を算出したところ、膜厚分布は±0.6%以下、利用効率は89.6%であった。なお、付着効率は、図8において、「有効範囲」の付着量を「e1」、当該「有効範囲」の両側に示される「基板以外に付着する蒸発物質」の量を「e2」及び「e3」とて、(e1÷(e1+e2+e3))×100(%)とした。
【0061】
一方、本実施形態によれば、蒸発源40を上述のように構成したことにより、以下の効果を奏することができる。
【0062】
蒸着材料の蒸気を複数のチムニ42を介して基板Tへ到達させるようにしているので、従来のラインース型の蒸発源に比べて、蒸発源で発生したスプラッシュが基板に到達することを防止することができる。したがって、E/S距離を従来よりも小さく設定したとしても、スプラッシュの付着による成膜不良を防ぐことが可能となる。スプラッシュの付着防止効果は、チムニ42の高さHが大きいほど、あるいは、チムニ42の内径Dが小さいほど顕著に得られる。
【0063】
蒸発源40はチムニ42を備えているので、蒸発源40から放出される蒸着材料の蒸気のコンダクタンスが低下し、蒸発源40の内部と外部との間に圧力差をもたせることができる。これにより、蒸発源40内部の高圧化及び均一化を実現でき、蒸着レートを向上させることができるとともに、チムニ42毎の蒸気放出量のバラツキを抑制することができる。したがって、大型基板に対しても均一な膜厚で成膜することができる。また、通常のクヌーセンセルを用いた蒸着に比べて、蒸発源の内部の圧力を高く設定することができる。
【0064】
図7(A)に示した蒸発源と図6(B)に示した蒸発源を使用し、230℃〜280℃の温度範囲における成膜レートを測定した結果を図9に示す。図6(B)の構成による蒸発源の方が図7(A)の構成による蒸発源に比べ、約4倍の成膜レートが得られることが分かった。チムニを設置し、E/S距離を近づけた蒸発源の構成の方が、成膜レートを同じとした場合、蒸発源の温度を低温化でき、また、蒸発源の温度を同じとした場合、成膜時間を短縮できる。以上のことから、本発明に係る蒸発源を使用した場合、基板の温度上昇を抑えることが可能となり、特に低融点物質の成膜において基盤からの再蒸発を防止することができる。また、蒸発源の温度を低くすることができるため、スプラッシュの発生を効果的に抑えることが可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態においては、上記コントロールユニットによって、蒸着材料50の表面(湯面)と容器41の蓋部材412の内面との間の距離L2がチムニ42の高さHより小さくなるように、蒸着材料50の液面(湯面)の高さが制御される。これにより、チムニ42の直上に位置する基板に対して膜厚分布が一様な領域を効率よく形成することが可能となる。
【0066】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0067】
本実施形態の蒸発源40Aは、基板Tの幅方向の端面Taよりも外方側に位置する列x1及びx9(図では列x9のみ示す。)に属するチムニ42aが、基板Tの端面Taに向かって傾いて形成されている点で、第1の実施形態と異なる。本実施形態によれば、チムニ42aによって基板Tの端面Taに向かう蒸気の指向性を高めることができるため、当該端面Taに付着する蒸発物質の量を増加させることができる。これにより、基板の端面Ta領域の成膜レートが高まり、基板Tの中央側と端面側とで膜厚の均一化を図ることができるとともに、蒸着材料の利用効率の更なる向上を図ることができる。
【0068】
(第3の実施形態)
図11は、本発明の第3の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0069】
本実施形態の蒸発源40Bは、基板Tの幅方向の端面Taよりも外方側に位置する列x1及びx9(図では列x9のみ示す。)に属するチムニ42bが、それ以外の残余のチムニ42の内径及び高さが大きく形成されている点で、第1の実施形態と異なる。本実施形態によれば、チムニ42aによって基板Tの端面Taに向かう蒸気の指向性を高めることができるため、当該端面Taに付着する蒸発物質の量を増加させることができる。これにより、基板の端面Ta領域の成膜レートが高まり、基板Tの中央側と端面側とで膜厚の均一化を図ることができるとともに、蒸着材料の利用効率の更なる向上を図ることができる。なお、上述の効果は、チムニ42bの内径及び高さのいずれか一方のみを他のチムニ42のそれよりも大きく形成することによっても、得ることができる。
【0070】
(第4の実施形態)
図12(A)、(B)は、本発明の第4の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0071】
本実施形態の蒸発源40Cは、基板Tの幅方向の端面Taよりも外方側に位置する列x1及びx9(図では列x9のみ示す。)に属するチムニ42cが、それ以外の他の列(x1〜x8)に属するチムニ42よりも小さい間隔c(<a)で配置され、当該他の列に属するチムニ42よりも数多く配置されている点で、第1の実施形態と異なる。本実施形態によれば、チムニ42aによって基板Tの端面Taに向かう蒸気の指向性を高めることができるため、当該端面Taに付着する蒸発物質の量を増加させることができる。これにより、基板の端面Ta領域の成膜レートが高まり、基板Tの中央側と端面側とで膜厚の均一化を図ることができるとともに、蒸着材料の利用効率の更なる向上を図ることができる。
【0072】
(第5の実施形態)
図13は、本発明の第5の実施形態による蒸発源の構成を示している。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
本実施形態の蒸発源60は、容器本体611の開口部611aを閉塞する蓋部材612に複数の貫通孔62が形成されている。これら複数の貫通孔62は、蒸着材料の蒸気を容器61の内部から基板Tへ向けて放出する。本実施形態において、蓋部材612の厚み(V)は、容器本体611に収容された蒸着材料50の湯面から蓋部材612の内面までの距離(L2)よりも大きく形成されている。すなわち、貫通孔62は、上述の第1の実施形態に係るチムニ42(筒状部)としての機能を有する。
【0074】
上述のように構成される蒸発源60は、蓋部材612の上面(基板対向面)が、基板Tに対して距離L1だけ離間する位置に、蒸着室内に設置される。距離L1は、100mm以下に設定されており、例えば50mmである。距離L1の下限は、蒸着材料の種類、筒状部のアスペクト比(高さ/内径の比)、筒状部の配置間隔、蒸着室の真空度などに応じて決定され、例えば5mmである。距離L1が5mm以下の場合、基板Tの撓みなどにより、基板Tと接触するおそれがある。
【0075】
以上のように構成される本実施形態の蒸発源60においても、第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。すなわち、本実施形態によれば、蒸着材料の利用効率を高めることができ、蒸着に必要な蒸着材料の量を従来よりも少なくすることができる。これにより、材料コストの低減を図ることができる。
【0076】
上述したように、貫通孔62はチムニ42と同等の機能を有するため、上述したようなチムニ42の配置例、構成例をそのまま、当該貫通孔62に対しても適用することができる。すなわち、貫通孔62は、図3に示したように、容器の蓋部材に対してグリッド状に配置されてもよい。また、図10〜図12に示したように、基板Tの端面Taより外方側に位置する貫通孔62の軸心を斜めに傾斜したり、内径や深さを大きくしたり、配置間隔を狭めたりすることができる。
【0077】
さらに、上述の第1の実施形態と同様に、容器61の温度を検出する放射温度計45の出力に基づいて、ヒータ43による蒸着材料50の加熱温度を制御するコントロールユニットを備えてもよい。蒸着材料50の表面(湯面)と蓋部材612の内面との間の距離L2が貫通孔62の深さVより小さくなるように、蒸着材料50の液面の高さを制御することで、貫通孔62の直上に位置する基板Tに対して膜厚分布が一様な領域を効率よく形成することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0079】
例えば以上の実施形態では、真空蒸着装置として、インライン式の真空蒸着装置を例に挙げて説明したが、これに代えて、バッチ式の真空蒸着装置にも本発明は適用可能である。また、仕込み室と取出し室とを共通の室とし、当該室と成膜室(蒸着室)との間で基板を搬送する、いわゆるインターバック式の真空蒸着装置にも、本発明は適用可能である。
【0080】
以上の実施形態では、蒸発源に対して基板を移動させながら成膜する通過成膜方式を例に挙げて説明したが、これに限られず、蒸発源に対して基板を静止(停止)させて成膜する固定成膜方式にも本発明は適用可能である。
【0081】
以上の実施形態では、蒸発源として複数のチムニを基板の幅方向及び搬送方向にそれぞれ平行な列群で構成したが、チムニの配列形態はこの例に限られない。例えば、基板の幅方向及び搬送方向にそれぞれ交差する方向に複数のチムニを配置させてもよい。
【0082】
さらに、図10〜12に示した実施形態では、基板Tの端面よりも外方に位置するチムニ42a〜42cについて上述の構成を適用したが、E/S距離、膜厚分布の仕様等に応じて、隣接する他の列に属するチムニにも同様な構成を適用することが可能である。また、図10〜図12に示した構成を適宜組み合わせて、再外列のチムニ列x1、x9を構成してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1…真空蒸着装置
13…成膜室
40、40A、40B、40C、60…蒸発源
41、61…容器
411、611…容器本体
412、612…蓋部材
42、42a、42b、42c…チムニ
43…ヒータ
50…蒸着材料
62…貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着室と、
第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、前記蒸着室内において前記基板を前記第1の方向に沿って搬送する搬送機構と、
蒸着材料を収容し前記基板と対向する基板対向面を有する容器と、前記容器の内部に設置され前記蒸着材料を加熱するヒータと、前記基板に向かって突出するように前記基板対向面に形成され、前記蒸着材料の蒸気を前記容器の内部から前記基板へ向けて放出する複数の筒状部とを含み、前記筒状部の先端部と前記基板との間における前記第3の方向に沿った距離が100mm以下である蒸発源と
を具備する真空蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記容器は、
開口部を有する容器本体と、
前記基板対向面を形成し、前記開口部を被覆する蓋部材とを有し、
前記複数の筒状部は、前記蓋部材に一体的に形成されている
真空蒸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の真空蒸着装置であって、
前記蒸発源は、
前記第1の方向に平行に前記筒状部が第1の間隔をおいて配置された複数の第1の列群と、
前記第2の方向に平行に前記筒状部が第2の間隔をおいて配置された複数の第2の列群とを有する
真空蒸着装置。
【請求項4】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、前記基板の端部に向かって傾いている
真空蒸着装置。
【請求項5】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、残余の筒状部よりも大きい内径を有する
真空蒸着装置。
【請求項6】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、残余の筒状部よりも大きい突出高さを有する
真空蒸着装置。
【請求項7】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、前記第1の間隔よりも小さい第3の間隔をおいて配置されている
真空蒸着装置。
【請求項8】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記ヒータは、前記筒状部の軸心を通る軸線を挟むようにして配置された、前記第1の方向又は前記第2の方向に延在する複数の線状ヒータである
真空蒸着装置。
【請求項9】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記筒状部は円筒形状であり、前記第3の方向に沿った前記基板対向面からの前記筒状部の突出高さは、前記筒状部の内径よりも大きい
真空蒸着装置。
【請求項10】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記容器の温度を検出する検出部と、前記検出部の出力に基づいて前記ヒータを制御するコントロールユニットとをさらに具備し、
前記コントロールユニットは、前記蒸着材料の湯面と前記容器の内部上面との間の距離が、前記筒状部の高さより小さくなるように前記ヒータの加熱温度を制御する
真空蒸着装置。
【請求項11】
蒸着室と、
第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、前記蒸着室内において前記基板を前記第1の方向に沿って搬送する搬送機構と、
蒸着材料を収容し前記基板と対向する基板対向面を有する容器と、前記容器の内部に設置され前記蒸着材料を加熱するヒータと、前記基板対向面に形成され、前記蒸着材料の蒸気を前記容器の内部から前記基板へ向けて放出する複数の貫通孔とを含み、前記基板対向面と前記基板との間における前記第3の方向に沿った距離が100mm以下である蒸発源と
を具備する真空蒸着装置。
【請求項1】
蒸着室と、
第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、前記蒸着室内において前記基板を前記第1の方向に沿って搬送する搬送機構と、
蒸着材料を収容し前記基板と対向する基板対向面を有する容器と、前記容器の内部に設置され前記蒸着材料を加熱するヒータと、前記基板に向かって突出するように前記基板対向面に形成され、前記蒸着材料の蒸気を前記容器の内部から前記基板へ向けて放出する複数の筒状部とを含み、前記筒状部の先端部と前記基板との間における前記第3の方向に沿った距離が100mm以下である蒸発源と
を具備する真空蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記容器は、
開口部を有する容器本体と、
前記基板対向面を形成し、前記開口部を被覆する蓋部材とを有し、
前記複数の筒状部は、前記蓋部材に一体的に形成されている
真空蒸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の真空蒸着装置であって、
前記蒸発源は、
前記第1の方向に平行に前記筒状部が第1の間隔をおいて配置された複数の第1の列群と、
前記第2の方向に平行に前記筒状部が第2の間隔をおいて配置された複数の第2の列群とを有する
真空蒸着装置。
【請求項4】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、前記基板の端部に向かって傾いている
真空蒸着装置。
【請求項5】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、残余の筒状部よりも大きい内径を有する
真空蒸着装置。
【請求項6】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、残余の筒状部よりも大きい突出高さを有する
真空蒸着装置。
【請求項7】
請求項3に記載の真空蒸着装置であって、
前記第2の列群は、前記第2の方向に関して、前記基板の幅寸法を越えて延在し、
前記第1の列群に属する前記筒状部のうち、前記第2の方向に関して前記基板の端部よりも外方側に位置する筒状部は、前記第1の間隔よりも小さい第3の間隔をおいて配置されている
真空蒸着装置。
【請求項8】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記ヒータは、前記筒状部の軸心を通る軸線を挟むようにして配置された、前記第1の方向又は前記第2の方向に延在する複数の線状ヒータである
真空蒸着装置。
【請求項9】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記筒状部は円筒形状であり、前記第3の方向に沿った前記基板対向面からの前記筒状部の突出高さは、前記筒状部の内径よりも大きい
真空蒸着装置。
【請求項10】
請求項1に記載の真空蒸着装置であって、
前記容器の温度を検出する検出部と、前記検出部の出力に基づいて前記ヒータを制御するコントロールユニットとをさらに具備し、
前記コントロールユニットは、前記蒸着材料の湯面と前記容器の内部上面との間の距離が、前記筒状部の高さより小さくなるように前記ヒータの加熱温度を制御する
真空蒸着装置。
【請求項11】
蒸着室と、
第1の方向に長さ方向、第2の方向に幅方向及び第3の方向に厚み方向を有する基板を支持し、前記蒸着室内において前記基板を前記第1の方向に沿って搬送する搬送機構と、
蒸着材料を収容し前記基板と対向する基板対向面を有する容器と、前記容器の内部に設置され前記蒸着材料を加熱するヒータと、前記基板対向面に形成され、前記蒸着材料の蒸気を前記容器の内部から前記基板へ向けて放出する複数の貫通孔とを含み、前記基板対向面と前記基板との間における前記第3の方向に沿った距離が100mm以下である蒸発源と
を具備する真空蒸着装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−270363(P2010−270363A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122694(P2009−122694)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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