説明

矩形波発振器、電磁誘導加熱装置、及び電磁誘導加熱調理装置

【課題】 簡素な回路構成をもって、その発振周波数を遠隔操作可能な矩形波発振器を得る。
【解決手段】 第1電流調整用素子13と第1ダイオード27とが直列接続された第1直列回路29と、第2電流調整用素子31と第2ダイオード33とが直列接続された第2直列回路35と、を並列に接続して構成された並列回路17を備え、電流調整指令信号が第1及び第2電流調整用素子25,31に入力されることを通じて、回路を流通する電流が可変調整され、第2インバータ15の出力端子から、電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号出力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矩形波発振信号を出力する矩形波発振器に係り、特に、この矩形波発振器を備え、電磁誘導によって調理容器などの加熱媒体を加熱する電磁誘導加熱装置、及び調理容器を備えた電磁誘導加熱調理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
矩形波発振器とは、周期的に電圧や電流が変化する矩形波信号を発生させるように構成された発振器のことをいう。従来の矩形波発振器の一例として、例えば特許文献1に示すように、任意のデューティ比の矩形波信号を発振させることができるものが知られている。
【0003】
このうち、従来技術に係る矩形波発振器の構成及び動作について、図面を参照して説明する。図7は、従来技術に係る矩形波発振器101の回路図を示す。
【0004】
同図に示すように、矩形波発振器101は、一対のインバータ103,105を順方向に直列接続するとともに、その接続点P101に可変抵抗107の一端を接続し、その接続他端P103とインバータ103の入力端子103in間に固定抵抗109を介挿する一方で、前記接続他端P103とインバータ105の出力端子105out間にコンデンサ111を介挿して構成されている。なお、固定抵抗109の両端には、不図示の直流電源が接続されている。また、可変抵抗107とコンデンサ111とで、CR微分回路を構成している。さらに、一対のインバータ103,105は順方向に直列接続されているので、これらインバータ103,105における各出力は、一方がHighレベル(以下、「Highレベル」を「Hレベル」と省略する。)のときには他方がLowレベル(以下、「Lowレベル」を「Lレベル」と省略する。)となるようになっている。
【0005】
このように構成された従来技術に係る矩形波発振器101の動作について、直流電源の投入直後において、一方のインバータ103の出力がHレベルであり、他方のインバータ105の出力がLレベルであると仮定して説明する。この場合のインバータ103の出力電流は、インバータ103,可変抵抗107,コンデンサ111,インバータ105の経路を辿って順次流れる。このとき、コンデンサ111に電荷が充電されて、接続点P103の電位が徐々に上昇してゆく。すると、接続点P103の電位は、固定抵抗109を通してインバータ103の入力端子103inに印加される。これを受けて、インバータ103において、入力電位とスレッショルド電位の大小関係が比較される。そして、入力電位がスレッショルド電位を越えると、直前とは逆に、一方のインバータ103の出力がLレベル、他方のインバータ105の出力がHレベルとなる。この場合のインバータ105の出力電流は、インバータ105,コンデンサ111,可変抵抗107,インバータ103の経路を辿って順次流れる。このとき、コンデンサ111に充電されていた電荷が放電されるとともに、直前とは逆極性の電荷が充電されて、接続点P103の電位が徐々に下降してゆく。すると、接続点P103の電位は、固定抵抗109を通してインバータ103の入力端子103inに印加される。これを受けて、インバータ103において、入力電位とスレッショルド電位の大小関係が比較される。そして、入力電位がスレッショルド電位を下回るに至ると、直前とは逆に、一方のインバータ103の出力がHレベル、他方のインバータ105の出力がLレベルとなる。以下同様に、インバータ103における入力電位とスレッショルド電位の大小関係変化並びにコンデンサ111の充放電に係るタイミングに従う発振動作が繰り返し行われることを通じて、インバータ105の出力端子105outには周期的な矩形波信号が出現して、かかる発振動作が持続されることになる。
【0006】
ところで、矩形波発振器101の発振周波数を、任意の値に遠隔調整したいという要望を生じる場合がある。
【0007】
しかしながら、従来技術に係る矩形波発振器101では、矩形波発振器101の発振周波数は、同回路内に設けられたCR微分回路の時定数特性、具体的には例えば同回路を流通する電流の大きさに依存して変化する。そこで、可変抵抗107の抵抗値を変化させることを通じて回路を流通する電流の大きさを変化させ、これをもって発振周波数を可変調整させることになる。すなわち、従来技術に係る矩形波発振器101において、発振周波数を遠隔調整するといった要望に応えるには、可変抵抗107の抵抗値を遠隔調整する必要があるが、そのための回路構成が複雑化するという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平5−299980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、従来技術に係る矩形波発振器では、その発振周波数を遠隔調整しようと試みた場合に、回路構成の複雑化を招来する点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、簡素な回路構成をもって、その発振周波数を遠隔操作可能な矩形波発振器を得ることを目的として、順方向に直列接続された一対の第1インバータ及び第2インバータと、前記一対のインバータ間の接続点に接続される並列回路と、前記並列回路にその一端が接続される第1抵抗と、前記第1抵抗の他端点と、前記第1インバータの入力端子との間に介挿される第2抵抗と、前記第1抵抗の他端点と、前記第2インバータの出力端子との間に介挿されるコンデンサと、を備えて構成される矩形波発振器であって、前記並列回路は、第1電流調整用素子と第1ダイオードとが直列接続された第1直列回路と、第2電流調整用素子と第2ダイオードとが直列接続された第2直列回路と、を並列に接続して構成され、前記第1ダイオードは、そのカソード端子を前記一対のインバータ間の接続点に指向させて設けられる一方、前記第2ダイオードは、そのアノード端子を前記一対のインバータ間の接続点に指向させて設けられ、前記第1及び第2電流調整用素子には、電流調整指令信号が入力されており、前記第2インバータの出力端子から、前記電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号出力を得ることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明実施例に係る矩形波発振器では、第1及び第2電流調整用素子に、電流調整指令信号が入力される構成を採用したので、従って、第1及び第2電流調整用素子において、第1抵抗とコンデンサとからなるCR微分回路に供給される電流が可変調整されて、第2インバータの出力端子から、電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号出力を得ることが可能となる結果として、簡素な回路構成をもって、その発振周波数を遠隔操作可能な矩形波発振器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
簡素な回路構成をもって、その発振周波数を遠隔操作可能な矩形波発振器を得るといった目的を、第1電流調整用素子と第1ダイオードとが直列接続された第1直列回路と、第2電流調整用素子と第2ダイオードとが直列接続された第2直列回路と、を並列に接続して構成された並列回路を備え、電流調整指令信号が第1及び第2電流調整用素子に入力されることを通じて、回路を流通する電流が可変調整され、第2インバータの出力端子から、電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号出力を得ることで実現した。
【実施例1】
【0013】
[矩形波発振器の回路構成]
図1は、本発明実施例に係る矩形波発振器11の回路図を示す。
【0014】
同図に示すように、矩形波発振器11は、順方向に直列接続された一対の第1インバータ13及び第2インバータ15と、一対のインバータ13,15間の接続点(以下、「第1接続点」という。)P1に接続される並列回路17と、この並列回路17にその一端が接続される第1抵抗19と、この第1抵抗19の他端点(以下、「第2接続点」という。)P2と第1インバータ13の入力端子13inとの間に介挿される第2抵抗21と、第2接続点P2と第2インバータ15の出力端子15outとの間に介挿されるコンデンサ23と、を備えて構成されている。なお、第2抵抗21の両端には、不図示の直流電源が接続されている。また、第1抵抗19とコンデンサ23とで、CR微分回路24を構成している。さらに、一対の第1及び第2インバータ13,15は順方向に直列接続されているので、第1インバータ13及び第2インバータ15における各出力は、一方がHレベルのときには他方がLレベルとなるようになっている。
【0015】
並列回路17は、第1電界効果トランジスタ(以下、「電界効果トランジスタ」を「FET」(FET:Field effect transistor) と略称する。この「第1FET」は、本発明の「第1電流調整用素子」に相当する。)25と第1ダイオード27とが直列接続された第1直列回路29と、第2FET(本発明の「第2電流調整用素子」に相当する。)31と第2ダイオード33とが直列接続された第2直列回路35と、を並列に接続して構成されている。また、第1ダイオード27は、そのカソード端子27kを第1接続点P1に指向させて設けられる一方、第2ダイオード33は、そのアノード端子33aを第1接続点P1に指向させて設けられている。これにより、第1直列回路29では、第2接続点P2から第1接続点P1に指向する電流の流れを許容する一方、第2直列回路35では、第1接続点P1から第2接続点P2に指向する電流の流れを許容するように構成されている。
【0016】
本発明で第1及び第2電流調整用素子として機能する第1及び第2FET25,31は、その電気的特性が共通のFETであり、第1及び第2FET25,31の各ゲート端子Gには、本発振器11の外部から与えられる電流調整指令信号を、各ゲート端子Gに印加するのに適した電位態様に変換する一対の第1及び第2信号変換器37,39が接続されている。これにより、第1及び第2FET25,31の各ゲート端子Gには、第1及び第2信号変換器37,39をそれぞれ介して、電流調整指令信号が入力されるように構成されている。なお、外部から与えられる電流調整指令信号が、第1及び第2FET25,31の各ゲート端子Gに印加するのに適した電位態様で送られてくる場合には、第1及び第2信号変換器37,39を省略することができる。
[矩形波発振器の動作]
かかる構成を備えた本発明実施例1に係る矩形波発振器11の動作について、直流電源の投入直後において、第1インバータ13の出力がHレベルであり、第2インバータ15の出力がLレベルであると仮定して説明する。この場合の第1インバータ13の出力電流は、第1インバータ13,第1接続点P1,第2ダイオード33,第2FET31,第1抵抗19,第2接続点P2,コンデンサ23,第2インバータ15の経路を辿って順次流れる。このとき、コンデンサ23に電荷が充電されて、第2接続点P2の電位が徐々に上昇してゆく。すると、第2接続点P2の電位は、第2抵抗21を通して第1インバータ13の入力端子13inに印加される。これを受けて、第1インバータ13において、入力電位とスレッショルド電位の大小関係が比較される。そして、入力電位がスレッショルド電位を越えると、直前とは逆に、第1インバータ13の出力がLレベル、第2インバータ15の出力がHレベルとなる。この場合の第2インバータ15の出力電流は、第2インバータ15,コンデンサ23,第2接続点P2,第1抵抗19,第1ダイオード27,第1FET25,第1接続点P1,第1インバータ13の経路を辿って順次流れる。このとき、コンデンサ23に充電されていた電荷が放電されるとともに、直前とは逆極性の電荷が充電されて、第2接続点P2の電位が徐々に下降してゆく。すると、第2接続点P2の電位は、第2抵抗21を通して第1インバータ13の入力端子13inに印加される。これを受けて、第1インバータ13において、入力電位とスレッショルド電位の大小関係が比較される。そして、入力電位がスレッショルド電位を下回るに至ると、直前とは逆に、第1インバータ13の出力がHレベル、第2インバータ15の出力がLレベルとなる。以下同様に、第1インバータ13における入力電位とスレッショルド電位の大小関係変化、並びにコンデンサ23の充放電に係るタイミングに従う発振動作が繰り返し行われることを通じて、第2インバータ15の出力端子15outには、周期的な矩形波信号が出現して、かかる発振動作が持続されることになる。
【0017】
ところで、矩形波発振器11の発振周波数を、任意の値に遠隔調整したいという要望を生じる場合がある。ここで、矩形波発振器11の発振周波数は、同回路内に設けられたCR微分回路24の時定数特性、具体的には例えば同回路を流通する電流の大きさに依存して変化する。従って、CR微分回路24を流通する電流の大きさを可変調整することができれば、矩形波発振器11の発振周波数を調整することができることになる。
【0018】
そこで、本発明実施例に係る矩形波発振器11では、第1及び第2FET25,31の各ゲート端子Gに、第1及び第2信号変換器37,39をそれぞれ介して、電流調整指令信号が入力される構成を採用している。この電流調整指令信号は、適宜の信号伝送媒体を介して、遠隔操作信号として与えるように構成してもよい。
【0019】
従って、第1及び第2FET25,31において、第1抵抗19とコンデンサ23とからなるCR微分回路24に供給される電流が可変調整されて、第2インバータ15の出力端子15outから、電流調整指令信号(遠隔操作信号)に従って周波数変調された矩形波発振信号出力を得ることが可能となる結果として、簡素な回路構成をもって、その発振周波数を遠隔操作可能な矩形波発振器を得ることができる。
【実施例2】
【0020】
次に、実施例1に係る矩形波発振器11を備えた電磁誘導加熱装置について、図2を参照して説明する。
[電磁誘導加熱装置の回路構成]
図2は、本発明実施例に係る電磁誘導加熱装置41の回路図を示す。
【0021】
同図に示すように、電磁誘導加熱装置41は、主回路43と、同主回路43の制御を司る制御回路45と、を含んで構成されている。
【0022】
このうち、主回路43は、三相交流電源ACと、その電源ラインに設けられ、同電源より供給される電流を検知する電流センサ51及び同電源より供給される電圧を検知する電圧センサ53と、三相交流電源ACから供給される交流電圧を整流して直流電圧に変換する三相ブリッジ回路55と、三相ブリッジ回路55で整流された直流電圧を平滑化する平滑コンデンサ57と、コンデンサ59と誘導加熱コイル(以下、「ワークコイル」という。)61とを直列接続して構成される直列共振回路63と、三相ブリッジ回路55で整流されて平滑コンデンサ57で平滑化された直流電圧を受けて、直列共振回路63に高周波電流を供給する高周波インバータ回路65と、を備えて構成されている。
【0023】
高周波インバータ回路65は、4つのスイッチング素子S1,S2,S3,S4を、いわゆるフルブリッジ形に配置して構成されている。すなわち、高周波インバータ回路65は、一対のスイッチング素子S1,S2を直列接続する一方で、これらと並列に、一対のスイッチング素子S3,S4を直列接続して構成されている。なお、一対のスイッチング素子S1,S2の接続点(以下、「第3接続点」という。)P3と、一対のスイッチング素子S3,S4の接続点(以下、「第4接続点」という。)P4との間には、前述の直列共振回路63が介挿されている。
【0024】
4つのスイッチング素子S1,S2,S3,S4は、例えば、MOSFET(金属酸化膜形FET:Metal Oxide Semiconductor FET: MOSFET)や、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor: IGBT)等を好適に用いることができる。本発明実施例2では、スイッチング素子S1,S2,S3,S4として、その電気的特性が共通のMOSFETを採用した例を挙げて説明を進めることとする。なお、スイッチング素子S1,S2,S3,S4における各ゲート端子には、後述するS1,S2,S3,S4駆動回路からの駆動制御信号が入力され、かかる駆動制御信号の入力を受けて、一対のスイッチング素子S1,S4、又は一対のスイッチング素子S2,S3が、それぞれ対になって駆動されるように構成されている。また、ダイオードD1〜D4は、各スイッチング素子S1,S2,S3,S4に内蔵された寄生ダイオードである。
【0025】
一方、制御回路45は、PFM (Pulse Frequency Modulation)方式による電磁誘導加熱制御を実行する機能を有し、電力検知回路71と、偏差増幅器73と、加算器75と、減算増幅器77と、矩形波発振器11と、反転回路78と、一対の第1及び第2デッドタイム生成回路79,81と、4つのS1,S2,S3,S4駆動回路83,85,87,89と、を備えて構成されている。
【0026】
電力検知回路71は、電流センサ51及び電圧センサ53でそれぞれ検知された三相交流電源における電流値及び電圧値に基づき、時々刻々と変化する消費電力を演算し、この演算結果を電力検知電圧信号E2として出力する機能を有している。
【0027】
偏差増幅器73は、外部設定電圧信号E1と、電力検知回路71から送られてきた電力検知電圧信号E2とを入力し、これらの偏差分(E1−E2)を演算するとともに、その演算結果(E1−E2)を出力する機能を有している。
【0028】
加算器75は、外部設定電圧信号E1と、偏差増幅器73から送られてきた演算結果(E1−E2)とを入力し、これらを加算する演算を行うとともに、その演算結果(2E1−E2)を出力する機能を有している。
【0029】
減算増幅器77は、不図示の基準電源より与えられる基準電圧信号Estと、加算器75から送られてきた演算結果(2E1−E2)とを入力し、これらの偏差分(Est−(2E1−E2))を演算するとともに、その演算結果(Est−(2E1−E2))を出力する機能を有している。
【0030】
矩形波発振器11は、実施例1にて詳説した通り、減算増幅器77から送られてきた演算結果(Est−(2E1−E2))を、電流調整指令信号として入力する一方で、この電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号を出力する機能を有している。
【0031】
反転回路78は、矩形波発振器11から送られてきた矩形波発振信号を入力する一方で、同入力信号を反転して出力する機能を有している。
【0032】
第1デッドタイム(以下、「デッドタイム」を「DT」と省略する。)生成回路79は、矩形波発振器11から送られてきた矩形波発振信号を直接入力するとともに、入力した矩形波信号波形の立ち上がり部分に関し、同立ち上がり時点から所定時間(Td1)だけ遅延させることで、原信号波形と比較してオン期間を短くした信号波形を生成する機能を有している。
【0033】
一方、第2DT生成回路81は、矩形波発振器11から送られてきた矩形波発振信号を反転回路78を介して入力するとともに、入力した矩形波信号波形の立ち上がり部分に関し、同立ち上がり時点から所定時間(Td2)だけ遅延させることで、原信号波形と比較してオン期間を長くした信号波形を生成する機能を有している。
【0034】
4つのS1,S2,S3,S4駆動回路83,85,87,89のうち、一対のS1,S4駆動回路83,85は、第1DT生成回路79から送られてきた矩形波信号を入力するとともに、入力した矩形波信号に基づく駆動制御信号Es1,Es4を、一対のスイッチング素子S1,S4にそれぞれ出力する機能を有している。
【0035】
そして、一対のS2,S3駆動回路87,89は、第2DT生成回路81から送られてきた矩形波信号を入力するとともに、入力した矩形波信号に基づく駆動制御信号Es2,Es3を、一対のスイッチング素子S2,S3にそれぞれ出力する機能を有している。
[電磁誘導加熱装置の動作]
かかる構成を備えた本発明実施例2に係る電磁誘導加熱装置41の動作について、各機能部における信号の流れに着目し、各機能部毎の信号出力に係る図面を適宜参照して説明してゆく。
【0036】
図3及び図4は、偏差増幅器及び加算器の出力信号を示す図、図5は、減算増幅器における入力信号及び出力信号を対比して示す図、図6は、直列共振回路における最終的な出力信号波形と、各機能部における出力信号波形とを対比して示すタイムチャート図である。
【0037】
まず、電力検知回路71は、電流センサ51及び電圧センサ53でそれぞれ検知された三相交流電源における電流値及び電圧値に基づき、時々刻々と変化する消費電力を演算し、この演算結果を電力検知電圧信号E2として偏差増幅器73に出力する。
【0038】
これを受けて偏差増幅器73は、外部設定電圧信号E1と、電力検知回路71から送られてきた電力検知電圧信号E2とを入力し、これらの偏差分(E1−E2)を演算するとともに、その演算結果(E1−E2)を加算器75に出力する。
【0039】
これを受けて加算器75は、外部設定電圧信号E1と、偏差増幅器73から送られてきた演算結果(E1−E2)とを入力し、これらを加算する演算を行うとともに、その演算結果(2E1−E2)を出力する。
【0040】
ここで、外部設定電圧信号E1と電力検知電圧信号E2の偏差分(E1−E2)が正値か負値かによって、偏差増幅器73及び加算器75の各出力信号は変わってくる。
【0041】
(E1−E2)が正値である、すなわち、検知電力が設定値に満たないときには、偏差増幅器73で得られた偏差分(E1−E2)の絶対値が(図3(1)参照)、加算器75において外部設定電圧E1に加算(2E1−E2)されて出力される(図3(2)参照)。
【0042】
これに対し、(E1−E2)が負値である、すなわち、検知電力が設定値を越えているときには、偏差増幅器73で得られた偏差分(E1−E2)の絶対値が(図4(1)参照)、加算器75において外部設定電圧E1から減算(2E1−E2)されて出力される(図4(2)参照)。
【0043】
ここで、本発明実施例に係るPFM方式による電磁誘導加熱制御では、高周波インバータ回路65におけるスイッチング電圧信号波形と、直列共振回路63に流れる負荷電流Iwkの信号波形との間の位相角(図6(5)参照)の大きさに応じて、直列共振回路63における出力電力を可変調整している。すなわち、直列共振回路63の共振点において、前記位相角がゼロのときに出力電力が最大となる一方、負荷電流Iwkの信号波形を前記スイッチング電圧の信号波形に対して遅れ位相にして、かつ、その位相角を大きくしてゆくと、逆に出力電力は小さくなってゆく。なお、実際には、前記位相角が若干の遅れ位相のときに、出力電力が最大となるように設計してある。
【0044】
前記位相角(図6(5)参照)は、矩形波発振器11における発振周波数を増減することで調整可能である。すなわち、発振周波数を高くすると位相角は大きくなり、このときの出力電力は小さくなってゆく。これとは逆に、発振周波数を共振周波数付近まで低くすると位相角は小さくなり、このときの出力電力は大きくなってゆく。
【0045】
ここで、矩形波発振器11では、第1及び第2FET25,31の各ゲート端子Gに印加される、電流調整指令信号に係る入力電圧が大きくなると発振周波数は高くなる一方、電流調整指令信号に係る入力電圧が小さくなると発振周波数は低くなる。
【0046】
さて、前述した通り、加算器75の出力信号は、外部設定電圧信号E1と電力検知電圧信号E2の偏差分(E1−E2)が正値か負値かによって、設定電圧E1に対して偏差分(E1−E2)の絶対値を加算するか減算するかが分かれることから、偏差分(E1−E2)が正値か負値かに係る切替時点付近で、矩形波発振器11に与えられる電流調整指令信号に係る入力電圧レベルが非線形に大きく変わってくる。そのため、加算器75の出力信号を矩形波発振器11にそのまま入力したのでは、狙った出力電力を実現するための適正な発振周波数を得ることができない。
【0047】
そこで、基準電源より与えられる基準電圧信号Estと、加算器75から送られてきた演算結果(2E1−E2)とを入力し、これらの偏差分(Est−(2E1−E2))を演算するとともに、その演算結果(Est−(2E1−E2))を矩形波発振器11に出力する減算増幅器77を、加算器75と矩形波発振器11との間に設けている。
【0048】
すなわち、外部設定電圧を所定値E1に設定した際において、電力検知電圧E2が経時的に線形に漸次減少してきたときには、基準電圧信号Estに対する減算増幅器77の入力信号(2E1−E2)は、図5(1)に示すような略線形の経時特性を示す。また、このときの減算増幅器77の出力信号(Est−(2E1−E2))は、図5(2)に示すような略線形の経時特性を示す。
【0049】
かかる減算増幅器77の出力信号(Est−(2E1−E2))を矩形波発振器11に与えると、矩形波発振器11は、減算増幅器77から送られてきた演算結果(Est−(2E1−E2))を、電流調整指令信号として入力する一方で、この電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号を出力する。具体的には、矩形波発振器11では、偏差分(E1−E2)が正値のとき(図5(1)(2)における時間軸上の右側)には、その入力電圧が小さくなって発振周波数は低くなる一方、偏差分(E1−E2)が負値のとき(図5(1)(2)における時間軸上の左側)には、その入力電圧が大きくなって発振周波数は高くなる。このように、減算増幅器77の出力信号を矩形波発振器11に与えたとしても、前述したように、偏差分(E1−E2)が正値か負値かに係る切替時点付近で、矩形波発振器11に与えられる電流調整指令信号に係る入力電圧レベルが非線形に大きく変わってくるといった不具合を招来することはない。
【0050】
次いで、反転回路78は、矩形波発振器11から送られてきた矩形波発振信号(図6(1)参照)を入力する一方で、同入力信号を反転(図6(2)参照)して出力する。
【0051】
第1DT生成回路79は、矩形波発振器11から送られてきた矩形波発振信号(図6(1)参照)を直接入力するとともに、入力した矩形波信号波形の立ち上がり部分に関し、同立ち上がり時点から所定時間(Td1)だけ遅延させることで、原信号波形と比較してオン期間を短くした信号波形(図6(3)参照)を生成する。
【0052】
一方、第2DT生成回路81は、矩形波発振器11から送られてきた矩形波発振信号(図6(1)参照)を反転回路78を介して入力するとともに、入力した矩形波信号波形(図6(2)参照)の立ち上がり部分に関し、同立ち上がり時点から所定時間(Td2)だけ遅延させることで、原信号波形と比較してオン期間を長くした信号波形(図6(4)参照)を生成する。
【0053】
ここで、第1及び第2DT生成回路79,81を設けたのは、スイッチング素子S1とS2、又はスイッチング素子S3とS4が同時にオン駆動されることを回避して、同素子の焼損事故を未然に防止するためである。
【0054】
次に、4つのS1,S2,S3,S4駆動回路83,85,87,89のうち、一対のS1,S4駆動回路83,85は、第1DT生成回路79から送られてきた矩形波信号(図6(3)参照)を入力するとともに、入力した矩形波信号に基づく駆動制御信号Es1,Es4を、一対のスイッチング素子S1,S4にそれぞれ出力する。
【0055】
一方、一対のS2,S3駆動回路87,89は、第2DT生成回路81から送られてきた矩形波信号(図6(4)参照)を入力するとともに、入力した矩形波信号に基づく駆動制御信号Es2,Es3を、一対のスイッチング素子S2,S3にそれぞれ出力する。
【0056】
このように、駆動制御信号Es1,Es4と、駆動制御信号Es2,Es3とが、各スイッチング素子S1,S2,S3,S4にそれぞれ入力されると、直列共振回路63におけるワークコイル61には、所定の周波数に調整された交流電流(図6(5)参照)が流れる。すると、交番磁界が発生してワークコイル61に対して配置された、磁性体材料で形成された調理容器67に渦電流が発生し、調理容器67を発熱させることができる。この発熱によって、調理容器67内に収容されている食材を加熱調理することができる。
【0057】
[その他]
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、あるいは技術思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う矩形波発振器、この矩形波発振器を備えた電磁誘導加熱装置、及び調理容器を備えた電磁誘導加熱調理装置もまた、本発明における技術的範囲の射程に包含されるものである。
【0058】
すなわち、本発明実施例において、電磁誘導加熱装置の一例として、調理容器を備えた電磁誘導加熱調理装置を例示して説明したが、本発明はかかる実施例に限定されるものではなく、調理装置以外の電磁誘導加熱の要請がある全ての装置に本発明を適用可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明実施例に係る矩形波発振器の回路図である(実施例1)。
【図2】本発明実施例に係る電磁誘導加熱装置の回路図である(実施例2)。
【図3】偏差増幅器及び加算器の出力信号を示す図である(実施例2)。
【図4】偏差増幅器及び加算器の出力信号を示す図である(実施例2)。
【図5】減算増幅器における入力信号及び出力信号を対比して示す図である(実施例2)。
【図6】直列共振回路における最終的な出力信号波形と、各機能部における出力信号波形とを対比して示すタイムチャート図である。(実施例2)。
【図7】従来技術に係る矩形波発振器101の回路図である。
【符号の説明】
【0060】
11 矩形波発振器
13 第1インバータ
15 第2インバータ
17 並列回路
19 第1抵抗
21 第2抵抗
23 コンデンサ
25 第1FET(第1電流調整用素子)
27 第1ダイオード
29 第1直列回路
31 第2FET(第2電流調整用素子)
33 第2ダイオード
35 第2直列回路
37 第1信号変換器
39 第2信号変換器
41 電磁誘導加熱装置
43 主回路
45 制御回路
59 共振コンデンサ
61 誘導加熱コイル(ワークコイル)
63 直列共振回路
65 高周波インバータ回路
67 調理容器
71 電力検知回路
73 偏差増幅器
75 加算器
77 減算増幅器
78 反転回路
79 第1デッドタイム生成回路
81 第2デッドタイム生成回路
83 S1駆動回路
85 S2駆動回路
87 S3駆動回路
89 S4駆動回路
S1,S2,S3,S4 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
順方向に直列接続された一対の第1インバータ及び第2インバータと、
前記一対のインバータ間の接続点に接続される並列回路と、
前記並列回路にその一端が接続される第1抵抗と、
前記第1抵抗の他端点と、前記第1インバータの入力端子との間に介挿される第2抵抗と、
前記第1抵抗の他端点と、前記第2インバータの出力端子との間に介挿されるコンデンサと、
を備えて構成される矩形波発振器であって、
前記並列回路は、
第1電流調整用素子と第1ダイオードとが直列接続された第1直列回路と、
第2電流調整用素子と第2ダイオードとが直列接続された第2直列回路と、
を並列に接続して構成され、
前記第1ダイオードは、そのカソード端子を前記一対のインバータ間の接続点に指向させて設けられる一方、
前記第2ダイオードは、そのアノード端子を前記一対のインバータ間の接続点に指向させて設けられ、
前記第1及び第2電流調整用素子には、電流調整指令信号が入力されており、
前記第2インバータの出力端子から、前記電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号出力を得る、
ことを特徴とする矩形波発振器。
【請求項2】
請求項1記載の矩形波発振器であって、
前記第1及び第2電流調整用素子は、その電気的特性が共通のFETであり、
前記電流調整指令信号を、前記第1及び第2FETの各ゲート端子に印加するのに適した電位態様に変換する一対の第1及び第2信号変換器をさらに備え、
前記第1及び第2FETの各ゲート端子には、前記第1及び第2信号変換器をそれぞれ介して、前記電流調整指令信号が入力される、
ことを特徴とする矩形波発振器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の矩形波発振器を備えた電磁誘導加熱装置であって、
共振コンデンサと共に直列共振回路を形成する誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルに高周波電流を供給する高周波インバータ回路と、
前記高周波インバータ回路に印加される電力を検知する電力検知回路と、
予め定められる電力設定値と、前記電力検知回路における検知電力との偏差を求める偏差増幅器と、
前記電力設定値に、前記偏差増幅器における演算結果を加算する加算器と、
基準電源より与えられる基準電圧と、前記加算器における演算結果との偏差を求める減算増幅器と、
前記減算増幅器における演算結果を、前記電流調整指令信号として入力する一方で、当該電流調整指令信号に従って周波数変調された矩形波発振信号を出力する前記矩形波発振器と、
前記矩形波発振器から出力される矩形波発振信号を入力する一方で、同入力信号を反転して出力する反転回路と、
前記矩形波発振器から出力される矩形波発振信号を直接入力するとともに、該入力した矩形波信号波形の立ち上がり部分に関し、同立ち上がり時点から所定時間だけ遅延させることで、原信号波形と比較してオン期間を短くした信号波形を生成する第1デッドタイム生成回路と、
前記矩形波発振器から出力される矩形波発振信号を前記反転回路を介して入力するとともに、該入力した矩形波信号波形の立ち上がり部分に関し、同立ち上がり時点から所定時間だけ遅延させることで、原信号波形と比較してオン期間を長くした信号波形を生成する第2デッドタイム生成回路と、
を備え、
前記高周波インバータ回路は、
一対のスイッチング素子S1,S2を直列接続する一方で、これらと並列に、一対のスイッチング素子S3,S4を直列接続することで、4つのスイッチング素子S1,S2,S3,S4をフルブリッジ形に配置して構成されており、
前記一対のスイッチング素子S1,S2の接続点と、前記一対のスイッチング素子S3,S4の接続点との間には、前記直列共振回路が介挿され、
前記第1デッドタイム生成回路で生成された矩形波信号は、前記一対のスイッチング素子S1,S4にそれぞれ出力される一方で、
前記第2デッドタイム生成回路で生成された矩形波信号は、前記一対のスイッチング素子S2,S3にそれぞれ出力される、
ことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項3記載の電磁誘導加熱装置であって、
前記4つのスイッチング素子S1,S2,S3,S4は、その電気的特性が共通のFETである、
ことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の電磁誘導加熱装置であって、
前記誘導加熱コイルで加熱される、磁性体材料で形成された調理容器を設けたことを特徴とする電磁誘導加熱調理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−111659(P2009−111659A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281263(P2007−281263)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000125587)梶原工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】