説明

研磨布用ドレッサー

【課題】本発明は、特に、ダイヤモンド砥粒を金属製支持材にろう付されたドレッサーにおいて、個々のダイヤモンド砥粒の向きを制御することによって、パッド表面の研削性能に優れたドレッサ−を提供することを目的とする。
【解決手段】金属製支持材の表面に複数個の砥粒が単層に固着された研磨布用ドレッサーであって、前記砥粒それぞれは、複数の晶癖面を有する単結晶砥粒であり、前記固着された砥粒の数のうち、前記複数の晶癖面のうちの一つの晶癖面が前記支持材の表面と略平行に配置された砥粒の数が、80%以上であることを特徴とする研磨布用ドレッサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的かつ機械的平面研磨(Chemical Mechanical Planarization、以下CMPと略す)の工程で、研磨布の平坦性を維持するため、および、目詰まりや異物除去を行うために使用されるドレッサーに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハの表面を研磨する装置、あるいは、集積回路を製造する途中の配線や絶縁層の表面を平坦化する装置、磁気ハードディスク基板に使用されるAl板やガラス板の表面を平坦化する装置、等ではCMP研磨が用いられている。CMP研磨とは、例えば、ウレタン製の研磨パッドが貼り付けられた回転基板に、微細な砥粒を含むスラリー液を供給しながら、被研磨面を押し当てて、被研磨面を平坦化する方法である。当然のことながら、この研磨パッドの研磨能力は使用時間と共に低下していくが、この低下を抑制するために、一定時間毎に研磨パッド表層部を研削して研磨パッドの平坦性を維持しながら、常に新しい面が出るようにドレッシングしている。このドレッシングに使用する部品をドレッサーと呼び、金属基板に砥粒を電着、あるいは、ろう付け等によって接合させたものである。
【0003】
最近では、集積回路のライン/スペ−スの極狭化によるパターン露光装置の焦点深度の低下、あるいは磁気ハードディスクの記録容量増加、などに伴って、スクラッチ傷を無くすという従来からの要求に加えて、被研磨面のうねり低減など、平坦性への要求が益々高くなってきている。これらの要求に応えていくためには、ドレッシングによってパッド表面を均一に研削してパッド平坦性を維持することが必要であるとともに、パッドの目詰まりや異物を除去するためのパッド研削力も必要となる。更に、通常、ドレッシング時間とともにパッド研削力は低下していくが、この研削力低下をできるだけ抑制し、ドレッサ−寿命を延ばすことが、実用上、CMP工程を安定化させる上で重要となっている。
【0004】
均一なパッド研削を目的としたドレッサーとしては、以下のものが開示されている。特許文献1には、円盤状台金の表面に超砥粒を単層固着した超砥粒層を有するパッドコンディショナーであって、この砥粒層に複数の領域を設け、各領域のそれぞれの全面に超砥粒を正三角形配置させ、さらに、円盤状台金の中心軸側よりも外周側の領域の砥粒間隔を小さくしたドレッサーが開示されている。特許文献2は、円盤状の母材の一面に砥粒層を電着したドレッサーであって、隣り合う砥粒の中心間隔を砥粒平均粒径の2〜10倍としたものである。特許文献3には、ポリッシングパッド面に接する端面の内周側にエッジを鈍化した超砥粒面を設け、かつ、それより外周側に鋭利なエッジを持つ超砥粒面を設けたドレッサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−55944号公報
【特許文献2】特開2001−121418号公報
【特許文献3】特開2001−113456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、従来からパッド表面を均一に研削することを目的とするドレッサーが報告されてはいるものの、これらは砥粒の二次元配置の仕方、砥粒の間隔を変えたもの、あるいは、砥粒エッジ形状の異なる複数の砥粒を用いたものであり、個々の砥粒の向きに着目しているものではない。また、特に、ろう付けによってダイヤモンド砥粒を固定する場合には、溶融したろう材の中で砥粒が揺らいでしまい、砥粒の向きが変わるために、ダイヤモンド砥粒の向きを制御したドレッサーは知られていない。
【0007】
本発明は、特に、ダイヤモンド砥粒が金属製支持材にろう付されたドレッサーにおいて、個々のダイヤモンド砥粒の向きを制御することによって、パッド表面の研削性能に優れたドレッサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)金属製支持材の表面に複数個の砥粒が単層に固着された研磨布用ドレッサーであって、前記砥粒それぞれは、複数の晶癖面を有する単結晶砥粒であり、前記固着された砥粒の総数のうち、前記複数の晶癖面のうちの一つの晶癖面が前記支持材の表面と略平行に配置された砥粒の数が、80%以上であることを特徴とする研磨布用ドレッサー。
(2)前記砥粒の平均粒径が5μm以上300μm以下であることを特徴とする前項(1)に記載の研磨布用ドレッサー。
(3)前記砥粒が前記金属製支持材の表面にろう付けされていることを特徴とする前項(1)または(2)に記載の研磨布用ドレッサー。
(4)前記砥粒がダイヤモンド砥粒であることを特徴とする前項(1)〜(3)のいずれか1項に記載の研磨布用ドレッサー。
(5)前記金属製支持材がステンレス鋼製であることを特徴とする前項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の研磨布用ドレッサー。
【発明の効果】
【0009】
本発明のドレッサーを用いることによって、個々の単結晶砥粒(好ましくはダイヤモンド砥粒)のパッド研削力が略均一となるため、十分なパッド研削力が維持され、かつ、優れたパッド平坦性の確保も可能となる。更に、個々の砥粒のパッドへの当接が均一化されるため、ドレッサーの寿命が長くなるという効果が発現する。もちろん、単結晶砥粒をろう付けした場合には、砥粒の脱落抑制という特徴も得られる。このためCMP研磨のパッドコンディショナーに本発明のドレッサーを適用すれば、製品基板の平坦性が向上して優れた品質が達成されるとともに、高い生産性も維持できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のドレッサーの製法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
半導体集積回路のCMP研磨、あるいは、Alやガラスの磁気ハ−ドディスク基板のCMP研磨において特に、パッド平坦性が重要となる。一枚のドレッサー表面には、その面積にもよるが、通常、数千個から数万個の単結晶砥粒(例えばダイヤモンド砥粒、好ましくは人工ダイヤモンド砥粒)が固定されている。しかしながら、これらの単結晶砥粒の粒毎のパッド研削力は大きく異なるため、効率良くパッド平坦性を維持することは容易ではなかった。本発明者らは、砥粒として使用する単結晶砥粒の形状に注目した。例えば、略正方八面体の形状を有する単結晶ダイヤモンド砥粒の一つの晶癖面が、研削されるパッド表面に略平行に当接すれば、一つの晶癖面の周囲を構成する鋭利なエッジ部位がパッドを効率的に研削することができると想定し、その検証を行った結果、本発明を完成させるに至った。
【0012】
前記の通り、パッド表面と単結晶砥粒(好ましくはダイヤモンド砥粒)の晶癖面とが、略平行に当接するためには、単結晶砥粒の一つの晶癖面を金属製支持材の表面に略平行に配置させればよい。このように単結晶砥粒を配置することによって、単結晶砥粒の一つの晶癖面の周囲を構成する鋭利なエッジによって、パッド表面が効率的に研削されるようになる。このように配置された単結晶砥粒の数が、ドレッサー全面に固定されている砥粒の総数に対して、80%以上であれば本発明の効果が発現される。
【0013】
単結晶砥粒の平均粒径は5μm以上300μm以下であればよい。砥粒の大きさは、CMP研磨される被研磨物によるが、半導体集積回路のCMP研磨の場合には、比較的大きな単結晶砥粒(好ましくはダイヤモンド砥粒)が使用され;Alやガラスの磁気ハードディスク基板のCMP研磨の場合には、比較的小さな単結晶砥粒(好ましくはダイヤモンド砥粒)が使用される。粒径5μm未満では、単結晶砥粒の一つの晶癖面を金属製支持材の表面に略平行に配置されることが容易ではなくなる。粒径300μm超では、研磨されたパッドの凹凸が大きくなり、パッド平坦性が低下しやすい。さらに、粒径10μm以上200μm以下であれば、ドレッサーの製作のし易さ、パッド平坦性の点からより好ましい。
【0014】
単結晶砥粒の平均粒径は、JIS B 4130に準じて測定されうる。ただし、平均粒径が小さくなると、JIS B 4130では測定できない場合があるので、その場合には以下の通りに測定すればよい。単結晶砥粒をSEMで直接観察して、個々の粒径を実測する。約100個程度の単結晶砥粒の平均値を平均粒径とする。個々の粒径の測定に際し、SEMで撮影した写真を市販の画像処理ソフトを用いて処理すれば効率的に平均粒径を求めることができる。
【0015】
本発明のドレッサーにおいて、単結晶砥粒は支持体表面に単層に配置される。本発明のドレッサーにおいては、個々の単結晶砥粒の配置の仕方、および、単結晶砥粒の金属製支持材へのろう付け方法に特徴がある。
【0016】
本発明のドレッサーの製造プロセスの例を、図1を参照して説明する。図1に示すように、まず、金属製支持材2の上に箔状のろう材1をスポット溶接等で仮固定する。その後、ろう材1を溶融させて金属製支持材2の表面と合金化させて接合してもよいし、仮固定のままでもよい。一方、粉体状のろう材を使用する場合には、ダイヤモンド砥粒を金属製支持材の上に均一に散布した後に、ろう材を溶融させて金属製支持材表面と合金化させる(ステップ1)。
【0017】
次に、フラット板4の上に、単結晶砥粒3(例えば、略正方八面体のダイヤモンド砥粒)を単層に配置して、フラット板4に軽い振動を与える。すると、単結晶砥粒3の一つの晶癖面がフラット板の表面に密着して平行になる。この軽い振動によって、より面積の大きな晶癖面がフラット板に密着するので、単結晶砥粒3のぐらつきが少なくなりより安定な配置となる(ステップ2)。
【0018】
単結晶砥粒3が配置されたフラット板4の上に、ろう材1が付いている面を下側に向けた状態で金属製支持材2を載置して、ろう材1と単結晶砥粒3とを接触させる(ステップ3)。この状態で、熱処理炉に挿入して、単結晶砥粒3と金属製支持材2とをろう付けする(ステップ4)。ろう付け熱処理は、上下面を逆にして行ってもよい。フラット板4を単結晶砥粒3から外して、本発明のドレッサーを得ることができる(ステップ5)。
【0019】
この製法によって製造されたドレッサーは、単結晶砥粒の一つの晶癖面が、均一な厚みのろう材を介して金属支持材の表面と密着している。よって、砥粒脱落の抑制という、ろう付けの特徴が得られる。さらに、個々の単結晶砥粒のパッド研削力が略均一となるため、十分なパッド研削力が維持され、かつ、優れたパッド平坦性の確保も可能となる。更に、単結晶砥粒の高さは略均一となり、個々の単結晶砥粒がパッドに対して均一に当接するようになる。その結果、個々の単結晶砥粒に掛かる負荷(加重)が減少して、砥粒の摩耗が減少し、ドレッサー寿命が延びる効果が発現される。
【0020】
ろう材の厚みはダイヤモンド砥粒の大きさをdとした場合に、0.4d〜0.6dであることが好ましい。0.4d未満では、ダイヤモンド砥粒のろう材への埋没度が低くなり、ダイヤモンド砥粒の保持力が低下する懸念が生じる。0.6d超の場合には、単結晶砥粒の晶癖面の周囲を構成する鋭利なエッジ部が、ろう材で覆われることがあり、パッド研削力が低下する。粉体状のろう材を使用する場合には、溶融後、再凝固した時のろう材の厚みを0.4d〜0.6dとすることが好ましい。
【0021】
フラット板は、ろう材と合金化反応を起こさないセラミックス板が好ましく、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、などが好ましい。これらの表面を機械加工後、鏡面加工すれば容易にフラット板とすることが可能である。
【0022】
単結晶砥粒をろう付けするときの温度は、ろう材の融点をTm℃とした場合、Tm℃〜(Tm+20)℃とする。(Tm+20)℃より温度を上げてしまうと、ろう材の表面張力が低下して、金属製支持材からフラット板側へ、ろう材が垂れやすくなるからである。図1のステップ3の上下面を逆さにした状態でろう付けした場合であっても、(Tm+20)℃より温度を上げてしまうと、溶融したろう材とフラット板とが接触してしまう部位が生じるため好ましくない。Tm℃〜(Tm+20)℃の温度に保持する時間は、5分以上20分以下が好ましい。5分未満では、単結晶砥粒とろう材との合金化反応が不足して、単結晶砥粒の保持力が低下し易くなる。一方、20分超保持してもろう付け状態には影響しない。
【0023】
単結晶砥粒の配置パタ−ンは、ランダム的であっても、規則的であってもよい。規則的に配置する場合には、三角形、四角形、五角形、六角形等のマトリクスの各頂点に単結晶砥粒を配置してもよい。また、種々のパタ−ン領域に砥粒を配置することが可能である。所定位置に開口部を有する篩などを、フラット板の上に配置し、その篩の開口部を通して砥粒をフラット板に落とし込めば、所定規則で単結晶砥粒を配置することができる。前記したように、フラット板に軽い振動を与える場合には、篩を配置したまま行うことが好ましい。
【0024】
フラット板の上に篩を配置したまま、ダイヤモンド砥粒をろう付けしてもよい。ただしこの場合には、有機系材料の箔の所定位置を開口させた篩を使用することが好ましい。ろう付け温度まで昇温する途中で、篩自体を分解、揮発させてしまうためである。
【0025】
金属製支持材の材質は、酸性あるいはアルカリ性のスラリーとの反応性が低いステンレス鋼が好ましい。代表的なステンレスであるSUS304、SUS316、SUS430、などが好適である。炭素鋼等の一般構造用鋼の表面にNi等のめっきをしたものも使用可能である。また、金属製支持材の形状は、特に規定するものではなく、八角形、二十角形等の多角形の形状でもよいが、金属製支持材自体が回転しながらパッドを研削するので、均一研削性を担保するためには円盤状であることが好ましい。
【0026】
ろう材は、Bni-2やBni-5などのJIS規格材に代表されるNi-Cr-Fe-Si-系、Ni-Si-B系や、Ni-Cr-Si-B系が適用できる。ろう材が箔の場合には、スポット溶接で仮付け可能である。粉体の場合には、例えば、セルロース系のバインダー等をろう粉と混練したものを金属製支持材に塗布すればよい。ろう付け熱処理は、10−3Pa程度に真空引きした後、所定の温度まで昇温する。バインダーは、昇温の途中で殆どが気化される。
【0027】
なお、本発明のドレッサーの研削用の単結晶砥粒は、ダイヤモンド砥粒に限らず、研削能力のある単結晶粒子(立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、及び酸化アルミニウム)であってもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
平均粒径dが150μmの単結晶人工ダイヤモンド砥粒を用いてドレッサーを作製し、パッド研削レイト(研削速度)、パッド平坦性を評価した。
【0030】
使用した金属製支持材は、直径100mm、厚み4mmの円盤状SUS304ステンレスであり、表面をフラットに機械加工した。金属性支持体の表面に配置されたダイヤモンド砥粒は、正方形マトリックスの各頂点に位置するようにパターニングされ、かつダイヤモンド砥粒同士の間隔を0.4mmとした。具体的には、金属製支持材の片側の面に描いた半径25mmの円と半径48mmの円の間のリング状領域に、ダイヤモンド砥粒を配置した。より具体的に、このリング状領域を、等角度(90°)で4つのアーク状領域に分割し、隣り合うア−ク状領域同士のギャップ(2mm幅)には、ダイヤモンド砥粒を配置しなかった。各アーク状領域に、正方形マトリックスの各頂点に位置するようにダイヤモンド砥粒を規則的に配置した。
【0031】
ダイヤモンド砥粒の具体的配置手順は、以下の通りとした。先ず、ステンレス製支持材の、ダイヤモンド砥粒を配置する領域に、スポット溶接で箔状のろう材を仮付けした。箔状のろう材はJIS規格Bni-2組成とし、厚さ40μmの箔を2枚重ねて使用した。使用したろう材の実測融点は、1000℃であった。ろう材をスポット溶接した支持材を、真空中で5分間1000℃での熱処理を施し、支持材上でろう材を一旦、溶融させた後、さらに凝固させて両者を一体化させた。
【0032】
フラット板には、板厚5mm、一辺が120mmのアルミナ製板を使用した。ラップ研磨装置を用いて、フラット板の表面を鏡面研磨した。
【0033】
次に、ダイヤモンド砥粒が通り抜ける程度の穴が、正方形マトリックスの各頂点に配置された篩を作製した。篩の材質は、通常のスクリ−ン印刷に使用される有機系材質とし、篩の厚みは約120μmとした。公知のフォトリソグラフィ−とエッチングを用いて、有機系材質のフィルムに、正方形マトリックスの各頂点に配置されるように、直径170μmの円形の開口部を形成し、開口部同士の間隔を0.4mmとした。有機系材質のフィルムにおける半径25mmの円と半径48mmの同心円に挟まれるリング状領域に、開口部を設け;かつ、リング状領域を等角度(90°)で4つのアーク状領域に分割し、隣り合うアーク形状領域同士のギャップ(2mm幅)には、開口部を設けなかった。
【0034】
作製した篩を、フラット板の上に置いて、篩を通してダイヤモンド砥粒を配置した。フラット板の上に密着させて配置した篩の端部をテ−プで固定して、ずれを抑制した。篩の上からダイヤモンド砥粒を散布して、個々の開口部位を通してダイヤモンド砥粒を落とし込んだ。篩上の余分なダイヤモンド砥粒は、刷毛で取り除いた。その後、実体顕微鏡を用いて開口部の中を観察した。観察の結果、一つの開口部の中には一つのダイヤモンド砥粒が入っていることを確認した。この状態のまま、フラット板を超音波振動板の上に載置して、軽い振動を与えた。この振動によって、篩の開口部内壁に引っ掛かって宙吊り状態になっていたダイヤモンド砥粒が、フラット板表面に接地した。その結果、ダイヤモンド砥粒の一つの晶癖面がフラット板表面に密着した。
【0035】
このダイヤモンド砥粒が規則配列されたフラット板の上に、ろう材が配置された面を下に向けた状態で支持材を被せて、支持体のろう材とフラット板のダイヤモンド砥粒とを接触させた。この状態で真空加熱炉に挿入して、1010℃で10分間のろう付け処理を行った。有機系材質の篩は、昇温途中の約500℃までに分解消失した。ろう付け処理後、フラット板とダイヤモンド砥粒は容易に分離させることができた。
【0036】
このような製法によって、本発明のドレッサーを10枚製造した。1枚のドレッサーの各々のア−ク状領域のほぼ中心部近傍に10mm×10mmの観察部位を設定し、レーザー顕微鏡を用いて、観察部位にある全てのダイヤモンド砥粒の晶癖面の、支持材表面に対する平行度を評価した。具体的には、ドレッサーの支持材を計測器の測定台に載置して、個々のダイヤモンド砥粒の形状プロファイルを求めた。ダイヤモンド砥粒の一つの晶癖面の周囲を構成するエッジの、支持体表面からの高さを求めた。各エッジの支持体表面からの高さの最大差(最高−最低)が、3μm以内である場合に、そのダイヤモンド砥粒の一つの晶癖面が、支持材と略平行にあると評価した。1枚のドレッサーについて、4つのアーク状領域の中心部近傍の観察部位に含まれる全てのダイヤモンド砥粒を観察し、略平行となっているダイヤモンド砥粒数の割合を求めた。同様の測定を、全10枚のドレッサーについて行った。
【0037】
作製したドレッサーを用いて、実際にパッドを研削した。パッドは発砲ポリウレタン製であり、パッドの直径は250mmである。このパッドを研磨盤の上に貼り付けた。回転機構とパッドの半径方向に揺動機構とを有する装置にドレッサーを固定し、加圧機構によって2.5kgの加重を加えて、パッドに押し付けた。ドレッサーの中心をパッドの中心に合わせつつ、パッド中心から30mm〜90mmの範囲で半径方向に揺動させた。パッド回転数は95rpm、ドレッサー回転数は85rpm、揺動は10往復/分とした。パッド回転方向とドレッサーの回転方向は同じ方向にした。研削全面が水の膜で覆われる程度に水を供給した。
【0038】
研削開始後5分が経過した時点で一端、研削を中断して、パッド厚みを測定した。パッド厚みは、互いに直交する2本の直径上に沿って、マイクロメ−タで測定した。1つの直径を等間隔で10等分し、等分した部位のほぼ真中付近の20点の厚み測定値の平均を求めてパッド厚みとした。再び研削を続けて、10時間後、15時間後および20時間が経過した時点で研削を中断して、同様にパッド厚みを測定した。
【0039】
パッドの研削レイトは、パッド厚みの減少量と、その研削時間から求めた。
【0040】
パッド平坦性は、各研削時間経過後に測定した20点のパッド厚みの値のうち、最大値から最小値を引いた値として評価した。ただし、5分後ではドレッシング効果が十分に得られていなかったので、平坦性は評価しなかった。
【0041】
比較材として、従来の手法でドレッサーを製造した。まず上記実施例と同様に、ステンレス製支持材の所定部位にろう材をスポット溶接し、真空熱処理によって支持材とろう材を一体化させた。次に、ろう材の上に、有機系の糊を薄く均一に塗布した。金属製の篩を、ろう材の上に置いた。金属製の篩の開口部の大きさや間隔は、実施例で用いた篩と同様とした。篩にダイヤモンド砥粒を散布した後、篩上の余分な砥粒を取り除いた。金属製篩を静かに取り除いた後、真空加熱炉に挿入して、1010℃で10分間のろう付け処理を行った。このようにして、比較材としてのドレッサーを全10枚製造した。金属製支持材と略平行になっているダイヤモンド砥粒数の割合、パッドの研削レイト、及び、パッド平坦性を同様に求めた。
【0042】
本発明のレッサ−、および、比較材のドレッサーの両者において、パッド研削後にダイヤモンド砥粒の脱落は一切無かった。
【0043】
結果を表1、および、表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1の結果からわかるように、本発明の実施例であるNo.1〜No.10のドレッサーの略平行のダイヤモンド砥粒の割合は、80%以上となっている。同様な製法によっても略平行の砥粒数の割合が81%〜94%とふれている理由は、略平行状態にあるダイヤモンド砥粒の一部が、ろう付けの際に揺らいでしまうためと考えられる。いずれにしても、上記割合は80%以上であった。パッド研削後の結果に関しては、本発明のドレッサーによれば、パッド研削レイトが高く、使用時間が長くなった場合でも研削レイトの低下は抑制されている。パッド平坦性も、使用時間依存性がほとんどなく、1μm以下の優れた値が維持されている。
【0047】
これに対して表2の結果からわかるように、比較例であるNo.11〜No.20の従来の製法で作製したドレッサーでは、略平行のダイヤモンド砥粒の割合は23〜37%と本発明のドレッサーに比較して半分以下と低くなっている。研削レイトは、本発明ドレッサーよりも低く、使用時間による低下も大きくなっている。平坦性においても3μm近くまで低下し、使用時間による低下も大きくなっている。
【0048】
[実施例2]
平均粒径が3μm、6μm、12μm、50μm、85μm、150μm、200μm、280μm、320μmの単結晶人工ダイヤモンド砥粒を使用した。
【0049】
平均粒径3μm、および、6μmの砥粒を規則配列させることは容易でないため、ランダム配置とした。具体的には、実施例1と同じアルミナ製フラット板の上に、所定量の単結晶人工ダイヤモンド砥粒を散布して、軽い振動を与えて、ダイヤモンド砥粒の晶癖面をフラット板の表面に密着させた。砥粒同士の間隔は、平均粒径3μmの砥粒では約5μm;平均粒径6μmの砥粒では約10μmになるようにした。
【0050】
平均粒径12μm〜320μmの砥粒は、実施例1と同様の手法で、正方形マトリックスの各頂点に配置した。マトリックスの正方形の一辺の長さを砥粒の大きさの3倍とした。有機系材質の篩の開口部の大きさは、砥粒の大きさの1.2倍とした。有機系材質の篩の厚みは、砥粒の大きさの1.1倍とした。
【0051】
金属製支持材の材質、形状、およびダイヤモンド砥粒の配置領域は実施例1と同様とした。先ず、ステンレス製支持材のダイヤモンド砥粒の配置領域にスポット溶接で箔状のろう材を仮付けした。箔状のろう材はJIS規格BNi-2組成とし、厚みは、砥粒の粒径の55%に調整した。ろう材をスポット溶接した支持材を真空中5分の1000℃での熱処理を施し、支持材の上でろう材を一端、溶融させた後、凝固させて両者を一体化させた。
【0052】
平均粒径3μm、および、6μmの砥粒を散布したフラット板の上に、ろう材側を下に向けた状態で支持材を被せて、支持体のろう材とフラット板のダイヤモンド砥粒とを接触させた。以降の手順は実施例1と同じである。
【0053】
平均粒径12μm〜320μmのダイヤモンド砥粒に関しては、実施例1と同様に作製した。各大きさの砥粒につき、3枚のドレッサーを作製した。略平行な砥粒数の割合、パッド研削レイト、平坦性の評価を同様に実施した。
【0054】
【表3】

【0055】
表3のNo.21〜No.23に示されるように、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が5μm未満(3μm)であると、略平行である砥粒の割合は80%未満となってしまった。パッド平坦性は良くなるが、パッド研削レイトは1μm/分と小さくなってしまう。このような低いパッド研削レイトでは、ドレッシングの時間が長くなるため、生産性が低下する問題が生じる。一方、表3のNo.45〜No.47に示されるように、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が300μm超のドレッサーでは、平坦性が1μmを超えて低下した。
【0056】
表3のNo.24〜No.44に示されるように、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が6μmから280μmのドレッサーでは、略平行のダイヤモンド砥粒の割合は、80%以上となった。本発明のドレッサ−では、パッド研削レイトが高く、使用時間が長くなった場合でも研削レイトの低下は抑制されている。平坦性においても、使用時間依存性がほとんど無く、1μm以下の優れた値が維持されている。
【符号の説明】
【0057】
1 ろう材
2 金属製支持材
3 単結晶砥粒
4 フラット板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製支持材の表面に複数個の砥粒が単層に固着された研磨布用ドレッサーであって、
前記砥粒それぞれは、複数の晶癖面を有する単結晶砥粒であり、
前記固着された砥粒の総数のうち、前記複数の晶癖面のうちの一つの晶癖面が前記支持材の表面と略平行に配置された砥粒の数が、80%以上であることを特徴とする研磨布用ドレッサー。
【請求項2】
前記砥粒の平均粒径が5μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項3】
前記砥粒が前記金属製支持材の表面にろう付けされていることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項4】
前記砥粒がダイヤモンド砥粒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨布用ドレッサー。
【請求項5】
前記金属製支持材がステンレス鋼製であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨布用ドレッサー。

【図1】
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【公開番号】特開2010−274352(P2010−274352A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127819(P2009−127819)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】