説明

硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量も少ない、低分子量の(メタ)アクリル系ポリマー、該(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法、ならびに該(メタ)アクリル系ポリマーの使用

【課題】硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量も少ない、低分子量の(メタ)アクリル系ポリマー、該(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法、ならびに該(メタ)アクリル系ポリマーの使用を提供する。
【解決手段】本発明の(メタ)アクリル系ポリマーは、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーである。(メタ)アクリル系化合物の脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含む。(メタ)アクリル系ポリマーは、重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満であり、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、GPCによって測定される残存モノマー量が、10重量%以下、好ましくは7重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ(アクリル)系ポリマーに関する。詳細には、本発明は、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意でエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量も少ない、低分子量の(メタ)アクリル系ポリマーに関する。
【0002】
本発明は、さらに、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意でエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まない、低分子量の(メタ)アクリル系ポリマーを、溶液中でラジカル重合によって製造する方法に関する。
【0003】
本発明は、さらに、上記のようなポリマーの、高固形分の溶媒和性アクリル樹脂用の添加剤、油(オイル)系(特に、潤滑剤)の添加剤などといった、様々な用途分野での処方物の添加剤としての使用に関する。
【0004】
本発明において(メタ)アクリル系ポリマーとは、ポリアクリル酸アルキルおよび/またはポリメタクリル酸アルキルのことを指す。
【背景技術】
【0005】
(メタ)アクリル系ポリマーの分野で従来使用されてきた合成経路の一つは、溶剤中での(メタ)アクリル系モノマーのラジカル重合である。重合は、有機ペルオキシド化合物や亜硝酸化合物などの、フリーラジカルを生成する化合物を用いることによって開始される。これらの化合物は、場合によって、特に《レドックス》として知られる酸化−還元開始系のように、分解促進剤と併用してもよい。
【0006】
ラジカル重合において、ポリマーの連鎖長γは、以下の数式に基づく:
【0007】
【数1】

【0008】
上記の数式において、kp:成長反応速度定数、[M]:モノマー濃度、f:開始剤効率因子、kd:開始剤分解速度定数、kt:停止速度定数、[I]:開始剤濃度である。
【0009】
上記の方法で得られるポリマーの重量平均分子量は比較的高く、一般的には50,000g/モルを超える。しかし、一部の産業用途における効率上の理由や、特に、溶媒和性アクリル樹脂を配合するコーティング材の分野について言えることであるが、環境規制を満たすなどの理由により、低分子量のポリマーが必要となる場合がある。例えば、そのようなコーティング材の分野の場合、低分子量の樹脂を使用することにより、粘度調整を行わなくとも、溶媒和処方物の固形分を効率よく増加することができるので、揮発性有機化合物の配合量の削減につながる。
【0010】
さらに、(メタ)アクリル系ポリマーの一部の用途では、悪臭や変色などの問題を生じ得る硫黄含有化合物などの不純物を含まず、かつ、金属やハロゲン化物を含まないものが望ましいとされる。
【0011】
従来、溶媒中での低分子量(メタ)アクリル系ポリマーの合成には様々な問題が知られており、分子量を抑えるために代替的方法が数多く開発された。
【0012】
例えば、特許文献1および特許文献2に、極めて高い温度で行う熱重合方法が記載されている。これらの方法では、開始剤の分解反応速度を加速させることによって多数のラジカルを生成すると同時に、連鎖移動反応の発生確率も上昇させている。これにより、低粘度で低分子量のポリマー溶液が得られる。しかしながら、これらの方法は、一般的に150〜250℃、場合によっては300℃を超える温度を適用する工程を含むので、使用可能な溶媒は、沸点の高いものに限定される。すなわち、開始剤を高濃度で使用する必要があるだけでなく、エネルギーコストも高くなる。
【0013】
特許文献3は、低分子量のビニル系ポリマーの製造に関するものであり、高濃度の開始剤を添加することによって連鎖長の確実な制御が行われる。高希釈度の条件下での重合は、成長反応発生の確率を低下させるので、低分子量の達成につながる。しかし、この方法は、一般に使用する開始剤のコストが高い点、およびポリマー生産性の低さにより、産業上経済的でない。
【0014】
特許文献4では、触媒としてのアルコキシドアニオンおよび鎖長規制剤として作用するアルコールの存在下でアニオン重合させることによって、重量平均分子量400〜10,000のメタクリルエステルを製造する。分子量は、使用するアルコールの合計量とモノマーの投入量との比で制御する。触媒(例えば、ナトリウムメトキシドなど)は、塩酸などの鉱酸を用いた反応後に中和することができる。極性有機溶媒(ジメチルスルホキシドなど)を用いることにより、触媒の可溶性および効率を向上させることができる。このように製造したポリマーには、ハロゲン化物または硫黄化合物が微量に残っている可能性がある。
【0015】
ラジカル重合によって得られたポリマーの分子量を抑えるために極めて広く用いられている他の方法として、連鎖移動剤の使用が挙げられる。この添加剤は、活性成長中心(active growth centre)を早期に停止することにより、ポリマーの鎖長を制限する。連鎖移動剤は、モノマー自身(例えば、アリル系のモノマーなど)であってもよいし、溶媒であってもよい。溶媒の場合、特に、特許文献5に記載された方法で使用されるイソプロパノールなどのプロトン性溶媒が好ましい。産業的に最もよく使用される連鎖移動剤は、アルキルメルカプタン、特には、ラウリルメルカプタンなどの硫黄含有添加剤である(特許文献6、特許文献7)。これらの添加剤は、高い連鎖移動定数を有することから、分子量を効率的に制御することのできる好適な化合物とされるが、貯蔵時に変色の問題を引き起こし易いとともに悪臭を有するポリマーが生成されるという欠点を持つ。さらに、これらの添加剤は、硫黄が禁止されている用途には相性が悪い。その他のいわゆる制御ラジカル重合技術も、ポリマー鎖の分子量を制限することができる。そのような技術として、例えば、ニトロキシド媒介重合(NMP)、開始剤と移動剤の両方の役割を兼ねる化学種による重合、有機金属化合物の存在下での重合、硫黄含有化合物またはハロゲン含有化合物に依存した原子移動(ATRP/RAFT)による重合方法などが挙げられる。しかし、これらの方法には、実施が困難である点、硫黄含有化合物、金属化合物、ハロゲン化合物などの望ましくない不純物を生じ得る化合物の使用、高コストなどといった、様々な短所がある。
【0016】
特許文献8には、ヒドロキシル官能基を有するアクリル樹脂を製造する方法が記載されている。この方法では、アリルアルコールが溶媒と移動剤の両方の役割を果たし、開始剤が重合している間中、継続的に少量ずつ添加される。樹脂の数平均分子量は約500〜約10,000g/モルとなる。
【0017】
非特許文献1には、モノマーを添加する前に開始剤の一部または全部を反応容器に添加することによって低分子量のアクリル樹脂を合成する新たな方法が記載されている。モノマーは、アクリル酸と、メタクリル酸メチルと、アクリル酸2−エチルヘキシルと、メタクリル酸ヒドロキシエチルと、スチレンとの混合物である。ジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)を開始剤として使用し、o−キシレンを溶媒として使用する。重合温度は132℃とする。得られる樹脂の重量平均分子量は18,000〜30,000g/モルである。
【0018】
特許文献9には、溶液中でのラジカル重合によって製造される低分子量(Mw<20,000g/モル)の(メタ)アクリル系ポリマーが記載されている。この方法では、開始材料としてラジカル開始剤の全部を反応容器に添加してから、分解促進剤の存在下でモノマーを継続的に添加する。しかし、この製造方法では、残存モノマーレベルが高い(18%超ないし最大20%のレベルで残存し、すなわち、使用するモノマーの5分の1が未重合の状態で残ることになる)ので、油、炭化水素化合物、潤滑剤処方物用の添加剤などの想定される用途において、悪影響を及ぼしかねない。
【0019】
特許文献10には、C〜C12カルボン酸と、炭素数16超の鎖を有し且つ任意でオレフィン結合を有する脂肪アルコールとのオレフィンエステルによって得られるホモポリマーを、沸点150〜450℃の炭化水素留分中で使用することが記載され、このホモポリマーは、当該留分に添加される、エチレンとC〜Cカルボン酸のビニルエステルと炭素数1〜10のモノアルコールとのコポリマーおよび/またはターポリマーを含むフィルター通過性添加剤の効果を増強することが記載されている。このホモポリマーは、特許文献9(第13頁第7〜17行を参照されたい)に記載された動作態様に従って調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6844406号明細書
【特許文献2】米国特許第4117235号明細書
【特許文献3】米国特許第4652605号明細書
【特許文献4】米国特許第4056559号明細書
【特許文献5】米国特許第4301266号明細書
【特許文献6】仏国特許発明第2604712号明細書
【特許文献7】米国特許第3028367号明細書
【特許文献8】米国特許第5475073号明細書
【特許文献9】国際公開第2008/006998号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2008/006965号パンフレット
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Paint India 53 (8) (August 2003) by Asian PPG, pages 33-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
出願人は、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量も少ない、低分子量のメタクリル系ポリマーを開発した;残存モノマー量は、一般的に、重合反応に用いるモノマーに対して10重量%以下である。
【0023】
詳細には、上記の低分子量のポリマーは、極めて高速な開始系を用いた、溶媒中でのラジカル重合によって得られ、全部のモノマーを反応容器に投入した後に、少なくとも1種のラジカル開始剤(以降、ラジカル開始剤と称する)を継続的に添加することからなる。
【0024】
重合媒体中で極めて大量のラジカルが高速に生成されることにより、所与のモノマー濃度における成長鎖の連鎖長が制限されて、極めて低い分子量が達成できる。
【0025】
任意で、開始剤を分解促進剤と併用してもよい。これにより、媒体中でのフリーラジカルの生成速度をさらに加速することができる;すなわち、熱分解メカニズムとレドックス分解メカニズムとの組合せにより、フリーラジカルの濃度を上昇させることができる。移動剤を使用しないこと、そして、制御ラジカル重合技術を利用しないことにより、硫黄含有化合物、金属化合物、またはハロゲン化合物を含まないポリマーが得られる。硫黄含有化合物とは、鎖中に少なくとも1つの硫黄原子を含むあらゆる分子のことを指す。同様に、鎖中に少なくとも1つの金属原子、例えば、Fe,Co,Ni,Sn,Cr,Tiなど(必ずしもこれらに限定されない)を含む化合物を金属化合物と称し、鎖中に少なくとも1つのハロゲン原子、例えば、Cl,Br,F,Iなどを含む化合物をハロゲン化合物と称する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
以上を踏まえて、本発明の主題は、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満であり、硫黄含有化合物、金属化合物またはハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量の少ない(メタ)アクリル系ポリマーである。
【0027】
本発明のさらなる主題は、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上であり、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満であり、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量の少ない(メタ)アクリル系ポリマーを、溶液中でラジカル重合によって製造する方法において、まず、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖(炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含む)を有する少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーによって全体が構成される開始材料を、反応容器に投入した後、ラジカル開始剤、一般的には有機溶媒中の溶液の形態のラジカル開始剤を、継続的に添加することを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法である。
【0028】
本発明のさらなる主題は、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満であり、硫黄含有化合物、金属化合物またはハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量の少ない(メタ)アクリル系ポリマーの、高固形分の溶媒和性アクリル樹脂の処方物に配合される添加剤としての使用、または潤滑剤処方物などの油系処方物に配合される添加剤としての使用である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明によって明らかになる。
【0030】
直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、本発明にかかる(メタ)アクリル系ポリマーは、前記脂肪鎖が、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満、特には、5,000〜18,000g/モル、好ましくは6,000〜15,000g/モルである。
【0031】
特には、本発明のポリマーは、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖が炭素数12〜50、好ましくは炭素数16〜40、より好ましくは炭素数18〜22である(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーである。前記脂肪鎖は、少なくとも1つのエチレン不飽和部を含んでいてもよい。
【0032】
有利なことに、本発明のポリマーは低分子量のポリマーであるため、少量の揮発性有機化合物と組み合わせて低粘度で高固形分のアクリル樹脂が得られる。また、本発明のポリマーは、硫黄含有化合物や金属系またはハロゲン系の不純物を含まないので、悪臭に関連する問題や、貯蔵時の変色に関連する問題などの大きな問題を生じない。本発明のポリマーは、硫黄酸化物生成に関係する汚染削減を定めた欧州の規則を満足するものである。さらに、本発明のポリマーは、一部の用途(特には、石油関連用途)の処方物用添加剤を介して混入し得る金属系およびハロゲン系の不純物の含有量削減を課した技術的規制も満足する。
【0033】
本発明のさらなる主題である、本発明のポリマーの合成方法は、極めて高速な開始系を利用した溶液媒介中のラジカル重合からなり、詳細には、以下の動作態様からなる:
(a)全体が少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーのみで構成される開始材料を、単独でまたは任意で有機溶媒中の溶液の形態で、反応容器に投入し、この反応媒体を、好ましくは不活性雰囲気中で、例えば、窒素バブリングを行いながら、攪拌する工程;
(b)工程(a)に由来する開始材料を、重合温度に供する(昇温する)工程;
(c)前記重合温度で、ラジカル開始剤を、任意で有機溶媒中の溶液の形態で、継続的に添加する工程;
(d)工程(c)に由来する反応媒体を、数十分間のあいだ重合温度で保持する工程;
(e)前記反応媒体を50〜60℃の温度に冷却し、好ましくは酸化雰囲気中で、好ましくは攪拌しながら、少なくとも1種の重合禁止剤を添加する工程;および
(f)有機溶媒中の溶液の形態のポリマーを、好ましくは反応媒体中に存在する不純物をろ過除去してから、収集する工程。
【0034】
本発明の方法に使用される(メタ)アクリル系モノマーは、炭素数がC以上であり、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有し、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含み、一般に上市されている。例えば、そのような(メタ)アクリル系モノマーは、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有し、炭素数がC以上であるアルコールと、(メタ)アクリル酸とによる直接エステル化で得られたものでもよいし、直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有し、かつ、炭素数がC以上であるアルコールと、短鎖(メタ)アクリル酸エステルとの間のエステル交換で得られたものでもよく、前記アルコールは、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含んでいてもよい。
【0035】
特には、前記(メタ)アクリル系モノマーは、炭素数12〜50、好ましくは炭素数16〜40、より好ましくは炭素数18〜22の直鎖または分岐鎖を有する。本発明の方法に使用可能な(メタ)アクリル系モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル((メタ)アクリル酸ラウリルとしても知られる)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル((メタ)アクリル酸ミリスチルとしても知られる)、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル((メタ)アクリル酸セチルとしても知られる)、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル((メタ)アクリル酸ステアリルとしても知られる)、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどが挙げられる。本発明の方法には、これらのモノマーの混合物が使用されてもよいし、鎖の炭素数が少なくとも8であり且つ任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を有する直鎖アルコールまたは分岐鎖アルコール混合物のエステル化またはエステル交換によって得られるモノマーが使用されてもよい。モノマーは、その性状に応じて(例えば、常温で固体の場合に)反応容器に投入する前に加熱する必要があり得る。
【0036】
本発明の方法においてラジカル重合を開始するために使用されるラジカル開始剤(以降、ラジカル開始剤と称する)は、一般的には有機ペルオキシド化合物および/またはアゾ化合物である。
【0037】
前記有機ペルオキシド化合物として、特に、ジアシルペルオキシド類、アルキルペルオキシド類、アルキルパーエステル類、これらの混合物などが挙げられる。本発明の方法で使用可能な有機ペルオキシド化合物の例には、アセチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、クミルペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ペルオキシ−2−エチルヘキサン酸tert−ブチル(ペルオクタン酸t−ブチルとしても知られる)、ペルオキシ安息香酸tert−ブチル(特に好ましい化合物)、これらの混合物などが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0038】
前記アゾ化合物として、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル)ペンタンニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチル)ペンタンニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−カルボニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル、アゾビス(2−アセトキシ−2−プロパン)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2−(tert−ブチルアゾ)−4−メトキシ−2,4−ジメチル−ペンタンニトリル、2−(tert−ブチルアゾ)−2,4−ジメチルペンタンニトリル、2−(tert−ブチルアゾ)イソブチロニトリル、2−(tert−ブチルアゾ)−2−メチルブタンニトリル、1−(tert−アミルアゾ)シクロヘキサンカルボニトリル、1−(tert−ブチルアゾ)シクロヘキサンカルボニトリル、これらの組合せなどが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0039】
重合温度、およびモノマー混合物を継続的に添加する時間は、使用されるラジカル開始剤の化学的性質および反応速度論的分解特性に応じて、所望の分子量レベルが得られるように、調節される必要がある。
【0040】
任意でラジカル開始剤を溶解するために使用される有機溶媒は、同じく任意で少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーを添加する際に使用される有機溶媒と相性の良いものである必要がある。また、有機溶媒は、硫黄系、金属系およびハロゲン系の不純物のいずれも含まないものである必要がある。好ましくは、ラジカル開始剤と少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーの両方に対し、同一の有機溶媒が使用される。使用可能な溶媒として、特に、炭化水素化合物;脂肪族炭化水素化合物および/または芳香族炭化水素化合物の油留分、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンの異性体の全種類、Solvarex 10(登録商標)(TOTAL社製);これと等価な上市されている製品;および溶媒和性アクリル樹脂の調製に一般的に用いるあらゆる溶媒(例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン)などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。特には、使用される有機溶媒は、引火点が55℃を超えるものである。好ましくは、アニリン点が10℃を超える溶解力を有し且つ沸点が100℃を超える、蒸留由来の油留分が選択される。
【0041】
反応媒体の総重量に対するモノマーの濃度は、一般的に70重量%以下、好ましくは20〜50重量%である。
【0042】
重合温度は、一般的に50〜150℃、好ましくは80〜120℃、より好ましくは100〜110℃である。
【0043】
温度は、可能な限り、ラジカル開始剤を反応容器に継続的に添加するあいだ一定に保持される;好ましくは、温度の変動は±3℃以内である。
【0044】
ラジカル開始剤は、少なくとも1種のモノマーを投入した後に、任意で有機溶媒中の溶液の形態で、反応容器に継続的に添加される。ラジカル開始剤が添加される時間は、一般的には2〜10時間、好ましくは5〜7時間である。
【0045】
ラジカル開始剤の量は、一般的にはモノマーに対して2〜14重量%、好ましくは2〜6重量%である。
【0046】
本発明の一実施形態では、有機溶媒中の溶液の形態の分解促進剤が、ラジカル開始剤と併用される。反応媒体への分解開始剤の添加は、ラジカル開始剤の添加と同時であってもよいし、同時でなくてもよい。分解促進剤は、開始剤と同時にまたは別々に、継続的に添加されてもよい。好ましい一実施形態では、酸化剤の役割を果たす有機ペルオキシド化合物がラジカル開始剤として使用され、分解促進剤が還元剤として使用される。分解促進剤として、芳香族化合物、例えば、芳香族アミン類などが挙げられ、特には、芳香族第4級アミン、例えば、N,N’−ジアルキルアニリン系の誘導体などが挙げられる。特に、N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン、N,N’−ジメチル−p−トルイジン、エトキシル化p−トルイジン、例えば、N,N’−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンなどが挙げられる。好ましくは、促進剤を溶解するのに使用される有機溶媒は、ラジカル開始剤を任意で溶解するのに使用されるものと同じであるが、その他の相性の良い任意の溶媒であってもよい。
【0047】
分解促進剤を添加する場合、その量は、一般的にはモノマーに対して2〜14重量%、好ましくは2〜6重量%である。
【0048】
特に、開始剤と促進剤の使用量の重量比は、1:2〜1:0.5、好ましくは1:1.5〜1:0.8である。
【0049】
本発明の一実施形態において、モノマーの温度は、ラジカル開始剤を添加する前に重合温度に設定される。その理由は、酸素が空気と接触することで低活性のペルオキシドラジカルが形成されることのないように不活性雰囲気中で反応を実行する理由と同じである。
【0050】
本発明の一実施形態では、開始剤の継続的な添加の最後に、反応媒体の温度を10〜15℃急激に上昇させる。その後、熟成期間を実行する。この熟成期間では、任意で、最初に投与された開始剤の量の50%までを添加してもよく、好ましくは当該期間の最初に添加する。また、この熟成期間では、反応媒体が、重合温度で、一般的に1〜3時間保持される。上記の熟成期間(好ましい実施形態として任意で開始剤の添加が行われる)は、変換反応を最大限に達成して、最終的な樹脂に含まれる残存モノマー量を最小限に抑えるためのものである。熟成期間において任意で添加される開始剤の量は、一般的にはモノマーに対して0.5〜2重量%、好ましくは0.5〜1重量%である。
【0051】
反応の最後には、貯蔵時にポリマーの平均分子量を変化させる可能性がある、残存モノマーの後重合を防止するために、反応混合物に対して安定剤または重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤の例として、ヒドロキノン、例えば、メチルヒドロキノン(MMEHQ)などが挙げられる。
【0052】
本発明にかかる方法では、従来の技術では難しい、低分子量Mw(典型的には20,000g/モル)のポリマーが得られるという利点がある。また、本発明にかかる方法は、重合温度を低くすることができるだけでなく、また、硫黄含有移動剤を使用しない。さらに、本発明にかかる方法には、残存モノマーのレベルが低いという利点もあり、一般的に、残存モノマーの量は、投入されるモノマーの総重量の10%以下である。
【0053】
直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物から得られる、低分子量の(メタ)アクリル系ポリマーでは、前記脂肪鎖が、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、残存モノマー量が10重量%未満、好ましくは7重量%未満である。このような低分子量の(メタ)アクリル系ポリマーは、高固形分の溶媒和性アクリル樹脂の添加剤、油(オイル)系製品(特に、燃料、潤滑剤)の添加剤などといった、様々な用途分野での処方物の添加剤として使用可能である。高固形分の溶媒和性アクリル樹脂は、特に、コーティング材の分野、特には、自動車のペイントの分野で使用される。
【0054】
さらに、本発明は、コポリマーの、中間留分のフィルター通過可能限界温度(LFT)を改善するための従来の低温動作性添加剤および従来のフィルター通過性添加剤の活性を増強するための使用に関する。前述したような本発明の少なくとも1種の(メタ)アクリル系ポリマーが、低温動作性添加剤が配合された中間留分に添加される。
【0055】
本発明において、従来のフィルター通過性添加剤とは、少なくとも1種のαオレフィンおよび/または少なくとも1種のビニルエステルおよび/またはα−β不飽和カルボン酸の少なくとも1種のエステルに由来する単位を含むコポリマーである。一例として、エチレンと酢酸ビニルとのコポリマー(EVA)、エチレンとプロピオン酸ビニルとのコポリマー、エチレンと(メタ)アクリル酸アルキルとのコポリマー、エチレンとビニルエステルと(メタ)アクリル酸アルキルとのターポリマーなどが挙げられる。好ましくは、コポリマーおよびターポリマーは、ビニルエステルおよび/またはアクリルエステルの繰り返し単位を20〜40重量%含む。
【0056】
好ましい一実施形態において、フィルター通過性添加剤は、EVAである。
【0057】
好ましい一実施形態において、フィルター通過性添加剤は、エチレンとアクリル酸メチルとのコポリマーである。
【0058】
好ましい一実施形態において、フィルター通過性添加剤は、エチレンと2−エチルヘキサン酸ビニルとのコポリマーである。
【0059】
好ましい一実施形態において、フィルター通過性添加剤は、エチレンと酢酸ビニルとネオデカン酸ビニルとのターポリマーである。
【0060】
好ましい一実施形態において、フィルター通過性添加剤は、エチレンと酢酸ビニルとネオデカン酸ビニルとのターポリマーである。
【0061】
好ましい一実施形態において、フィルター通過性添加剤は、エチレンと酢酸ビニルと2−エチルヘキサン酸ビニルとのターポリマーである。
【0062】
フィルター通過性添加剤は、GPC(ゲル透過クロマトグラフ分析)を用いて測定される重量平均分子量Mwが一般的に3,000〜30,000g/モルで、GPCを用いて測定される数平均分子量Mnが一般的に1,000〜15,000である統計コポリマーである。
【0063】
上記のコポリマーは、任意の周知の重合方法(例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Edition, "Waxes", Vol. A 28, p.146;米国特許第3627838号明細書;欧州特許第007590号明細書などを参照されたい)、特には、ラジカル重合により、好ましくは高圧下、典型的には約1,000〜約3,000bar(100〜300Mpa)、より好ましくは1,500〜2,000bar(150〜200Mpa)の高圧下で、重合温度を一般的に160〜320℃、好ましくは200〜280℃とし、有機ペルオキシド化合物および/または酸化化合物もしくは窒素化合物から一般的に選択される少なくとも1種のラジカル開始剤と、分子量規制剤(ケトン、脂肪族アルデヒドなど)との存在下で調製されたものであってもよい。上記のコポリマーは、例えば、米国特許第6509424号明細書に記載された方法による、チューブ状の反応容器を用いて調製されたものであってもよい。
【0064】
本発明のコポリマーを配合する炭化水素系組成物は、内燃機関燃料(例えば、ディーゼル燃料など)、暖房設備に用いる家庭用燃料(FOD)、ケロシン、航空燃料油、重質燃料油などといった、あらゆる種類の燃料または燃料油から選択される。
【0065】
一般的に、前記炭化水素系組成物の硫黄分は、5,000ppm未満、好ましくは500ppm未満、より好ましくは50ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満であり、なおいっそう好ましくは、前記炭化水素系組成物は硫黄を含まない。
【0066】
前記炭化水素系組成物は、沸点が100〜500℃である中間留分を含む。この中間留分は、示差走査熱量計を用いて測定される結晶化開始温度COTが、−20℃以上である場合があり、一般的には−15℃〜+10℃である。この留分は、例えば、原油炭化水素の直留によって得られる留分、真空蒸留留分、水素化処理された留分、真空蒸留留分の接触分解および/または水素化分解によって得られる留分、ARDS(常圧残渣油脱硫)系および/またはビスブレーキング系の変換法によって得られる留分、フィッシャー=トロプシュ留分の高品質化に由来する留分、植物バイオマスおよび/または動物バイオマスのBTL(バイオマストゥリキッド)変換によって得られる留分、ならびにこれらの混合物からなる群から選択されてもよいし、植物油のエステル、動物油のエステル、およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0067】
前記炭化水素系組成物は、炭化水素化合物の直留などよりも複雑な精製過程に由来する留分、例えば、分解法、水素化分解法、接触分解法、ビスブレーキング法などに由来する留分を含んでいてもよい。
【0068】
前記炭化水素系組成物は、最新の由来源からの留分を含んでいてもよく、特には:
−接触法およびビスブレーキング法に由来し、炭素数が18を超える重質パラフィンを高濃度で含む、最も重質な留分;
−フィッシャー=トロプシュ法などの気体変換法に由来する合成留分;
−植物由来および/または動物由来のバイオマスに対する、特に、NexBTL(Next Generation BTL)などの処理によって得られる、合成留分;
−植物油および/もしくは動物油、ならびに/または植物油および/もしくは動物油のエステル;
−動物由来および/または植物由来のバイオディーゼル;
などが挙げられる。
【0069】
これらのような最新の由来源からの燃料基材は、単独でまたは従来の原油中間留分との混合物の形態で、燃料基材および/または家庭用燃料油基材として使用されてもよい。燃料基材は、一般的に、炭素数10以上、好ましくはC14〜C30の長いパラフィン鎖を有する。
【0070】
好ましくは、前記炭化水素系組成物は、結晶化開始温度COTが−5℃以上、より好ましくは−5〜+10℃の炭化水素中間留分である。
【0071】
好ましい一実施形態において、炭化水素中間留分は、炭素数が少なくとも18のn−パラフィン(ノルマルパラフィン)類を4重量%以上含む。
【0072】
好ましい一実施形態において、炭化水素中間留分は、炭素数が少なくとも24のn−パラフィン類を0.7重量%以上含み、より好ましくは、C24〜C40のn−パラフィン類を0.7〜2重量%含む。
【0073】
本発明のさらなる主題は、前述したような一般的に0〜500ppmの硫黄を含む炭化水素中間留分を主成分とし、かつ、少なくとも1種のフィルター通過性添加剤と前述したような本発明にかかる少なくとも1種の効果増強剤とを副成分とする、ディーゼル内燃機関(ディーゼルエンジン)燃料に関する。
【0074】
本発明のさらなる主題は、前述したような一般的に0〜5,000ppmの硫黄を含む炭化水素留分を主成分とし、かつ、少なくとも1種のフィルター通過性添加剤と前述したような本発明にかかる少なくとも1種の効果増強剤とを副成分とする、暖房用燃料油に関する。
【0075】
本発明のさらなる主題は、前述したような一般的に0〜5,000ppmの硫黄を含む炭化水素留分を主成分とし、かつ、少なくとも1種のフィルター通過性添加剤と前述したような本発明にかかる少なくとも1種の効果増強剤とを副成分とする、重質燃料油に関する。この重質燃料油は、特には、船用内燃機関(船用エンジン)および産業用ボイラに使用可能な内燃機関燃料である。
【0076】
好ましくは、低温動作性添加剤およびフィルター通過効率向上剤は、組成物の形態で使用され、この組成物は、一般的に、少なくとも1種のフィルター通過性添加剤を85〜98重量%と、少なくとも1種の(メタ)アクリル系ポリマーを2〜15重量%とを含む。前記(メタ)アクリル系ポリマーは、当該フィルター通過性添加剤のフィルター通過性向上効果を発揮させる添加剤として、先に記載されている。この組成物は、例えば、任意で溶液の形態とされる、少なくとも1種のフィルター通過性添加剤と、任意で溶液の形態とされる、フィルター通過効率向上剤とを常温で混合することで調製される。この組成物は、任意で他種の添加剤との混合物であるパッケージ添加剤の形態で、精製所で燃料に添加されてもよいし、および/または精製所を経た後に投入されてもよい。
【0077】
一般的に、少なくとも1種のフィルター通過性添加剤および少なくとも1種のフィルター通過効率向上剤を含む組成物は、前述したような炭化水素系組成物に対し、100〜1,000重量ppmの量が添加される。
【0078】
前記炭化水素系組成物は、前述したような低温動作性添加剤、すなわち、フィルター通過性添加剤と、本発明にかかるフィルター通過効率向上剤との他にも、本発明のコポリマーとは異なる、清浄剤、腐食防止剤、分散剤、抗乳化剤、消泡剤、防腐・防かび剤、消臭剤、セタン価向上剤、摩擦調整剤、油性向上剤、潤滑性向上剤、燃焼補助剤(触媒燃焼促進剤およびすす燃焼促進剤)、曇り点降下剤、流動点降下剤、フィルター通過可能限界温度降下剤、堆積防止剤、減摩耗剤、および導電性調節剤からなる群から選択される少なくとも1種の別の添加剤を含んでいてもよい。
【0079】
これらの添加剤に関して、特に、次のことがいえる:
a)セタン価向上剤は、特に、硝酸アルキル、好ましくは硝酸2−エチルヘキシル、アロイルペルオキシド、好ましくはベンジルペルオキシド、およびアルキルペルオキシド、好ましくはtert−ブチルペルオキシドから選択される(しかし、必ずしもこれらに限定されない)。
b)消泡剤は、特に、ポリシロキサン、オキシアルキル化ポリシロキサン、および植物油または動物油から誘導された脂肪酸アミドから選択される(しかし、必ずしもこれらに限定されない)。消泡剤の例は、欧州特許第861882号明細書、欧州特許第663000号明細書、欧州特許第736590号明細書などに記載されている。
c)清浄剤および/または腐食防止剤は、特に、アミン類、スクシンイミド、アルケニルスクシンイミド、ポリアルキルアミン、ポリアルキルポリアミン、およびポリエーテルアミンから選択される(しかし、必ずしもこれらに限定されない)。清浄剤および/または腐食防止剤の例は、欧州特許第938535号明細書などに記載されている。
d)油性向上剤または減摩耗剤は、特に、脂肪酸、および脂肪酸のエステル誘導体またはアミド誘導体から選択され、特には、モノオレイン酸グリセロール、モノカルボン酸または多環式カルボン酸の誘導体である(しかし、必ずしもこれらに限定されない)。油性向上剤または減摩耗剤の例は、欧州特許第680506号明細書、欧州特許第860494号明細書、国際公開第98/04656号パンフレット、欧州特許第915944号明細書、仏国特許出願公開第2772783号明細書、仏国特許発明第2772784号明細書などに記載されている。
e)曇り点降下剤は、特に、長鎖オレフィン類/(メタ)アクリルエステル/マレイミドのターポリマー、およびフマル酸/マレイン酸のエステルのポリマーからなる群から選択される(しかし、必ずしもこれらに限定されない)。曇り点降下剤の例は、欧州特許第0071513号明細書、欧州特許第100248号明細書、仏国特許発明第2528051号明細書、仏国特許発明第2528051号明細書、仏国特許発明第2528423号明細書、欧州特許第112195号明細書、欧州特許第172758号明細書、欧州特許第271385号明細書、欧州特許第291367号明細書などに記載されている。
f)堆積防止剤および/またはパラフィン分散剤は、特に、(メタ)アクリル酸/ポリアミンアミド化(polyamine amidified)(メタ)アクリル酸アルキルのコポリマー、ポリアミンアルケニルスクシンイミド、フタルアミド酸と二鎖型脂肪アミンとの誘導体、およびアルキルフェノール樹脂からなる群から選択される(しかし、必ずしもこれらに限定されない)。堆積防止剤および/またはパラフィン分散剤の例は、欧州特許第261959号明細書、欧州特許第593331号明細書、欧州特許第674689号明細書、欧州特許第327423号明細書、欧州特許出願公開第512889号明細書、欧州特許第832172号明細書、米国特許出願公開第2005/0223631号明細書、米国特許第5998530号明細書、国際公開第93/14178号パンフレットなどに記載されている。
g)多数の官能基を有する低温動作性添加剤は、欧州特許第573490号明細書に記載されているような硝酸アルケニルとオレフィンとのコポリマーからなる群から選択される。
h)防腐・防かび剤。
i)導電性向上剤。
j)燃焼向上剤
k)消臭剤。
【0080】
一般的に、上記のような別の添加剤は、炭化水素系組成物に(それぞれ)100〜1,000重量ppmの量が添加される。
【0081】
本発明の範囲を限定することのなく本発明を例示する後述の実施例では、以下の特性パラメータを使用した:
−細管粘度計(Walter Herzog社製)を用いて、NF EN ISO 3104規格に準拠して測定される40℃での動粘度(mm/s);
−Waters社製の参照カラムを5個(HR4+3+2+1+0.5)直列接続したものを備えたWaters社製のクロマトグラフと、溶出液としてのTHFとを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される、PMMA(ポリ(メタクリル酸メチル))当量で表される重量平均分子量(Mw)(g/モル);サンプルは、THFで0.5%に希釈したものを調製し、毎分1mlの溶出速度で溶出され、屈折率測定法によって検出される;
−ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される残存モノマー量;
−NF EN 116規格に準拠して測定されるフィルター通過可能限界温度(LFT);
−NF T 60 105規格に準拠して測定される流動点(PP);
−NF EN 23 015規格に準拠して測定される曇り点(CP);
−IP391規格に準拠して測定される芳香族分量;
−DSCを用いて測定される結晶化開始温度(COT);
−D 86規格に準拠して測定される蒸留温度;
−ASTM D4737規格に準拠して測定されるセタン価;
−NF EN ISO 12185規格に準拠して測定される40℃での密度(D40)および15℃での密度(D15)。
【0082】
以下の化合物を使用した:
−アクリル酸C18〜C22アルキル(融点:40℃;分子量:352g/モル)(Arkema France社製;商品名:Norsocryl(登録商標)A18〜22);
−アクリル酸ベヘニル(C22)を42〜46重量%、アクリル酸C18アルキルを40〜44重量%、アクリル酸C20アルキルを9〜13重量%、アクリル酸C16−アルキルを1.5重量%以下、およびアクリル酸C22+アルキルを2重量%以下含む、アクリル酸C18〜C22アルキル(Cognis社製;商品名:45%Benhenyl Acrylate);
−ペルオキシ安息香酸tert−ブチル(Arkema France社製;商品名:LUPEROX(登録商標)P);
−ペルオキシ−2−エチルヘキサン酸tert−ブチル(Arkema France社製;商品名:LUPEROX(登録商標)26);
−分解促進剤:N,N’−ジメチル−p−トルイジン(NNDPT)(Akzo Nobel社製;商品名:Accelerator(登録商標)NL−65−100、あるいは、Cognis社製;商品名:Bisomer(登録商標)PTE);
−有機溶媒:芳香族溶媒(Exxon Mobil社製;商品名:Solvesso 150(S150));
− 重合禁止剤:モノメチルエーテルヒドロキノン(MMEHQ)。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
予め窒素を用いて脱気されて窒素雰囲気下に置かれた200Lの重合反応容器に対し、70℃のオーブンで予め溶融された45%Benhenyl Acrylate(294.7重量部)とSolvesso 150(631.2重量部)とで構成される開始材料を投入した。この開始材料に対して、少量の窒素バブリング(1m/時)および攪拌(U字アンカー型攪拌翼;攪拌速度:75rpm)を行った後、100℃に昇温した。
【0084】
開始材料が重合温度(設定温度)に達した後、ペルオキシ安息香酸tert−ブチル(ラジカル開始剤)(12.7重量部)とSolvesso 150(芳香族溶媒)(61.3重量部)とを含む溶液を、計量ポンプを用いて、6時間半のあいだ攪拌しながら継続的に添加した。添加過程のあいだ、温度を100℃±2℃内に保持した。
【0085】
添加が完了すると、熟成過程を、攪拌を続けながら設定温度で1時間実行した。
【0086】
その後、攪拌を続けながら、反応媒体を60℃に冷却した。冷却後、窒素バブリングを停止し、MMEHQ(0.1重量部)を添加した。攪拌を15分間続けた。
【0087】
このようにして、Solvesso 150の溶液中でポリ(アクリル酸C18〜C22アルキル)が得られた。このポリ(アクリル酸C18〜C22アルキル)の特性は:固形分30%;Mw9,540g/モル;残存モノマー量6.7重量%;40℃での粘度5.99mm/sである。
【0088】
(実施例2)
ラジカル開始剤と分解促進剤(NNDPT)とを併用した以外は実施例1と同様に行った。分解促進剤(4重量部)を、開始剤の有機溶液と同時に、継続的に添加した。
【0089】
(実施例3)
ペルオキシ安息香酸tert−ブチルを、同一のモル比でペルオキシ−2−エチルヘキサン酸tert−ブチルに置き換えた以外は実施例1と同様に行った。
【0090】
(実施例4)
ラジカル開始剤と分解促進剤(NNDPT)とを併用した以外は実施例3と同様に行った。分解促進剤(4重量部)を、開始剤の有機溶液と同時に、継続的に添加した。
【0091】
(実施例5および実施例6(特許文献9に基づく比較例))
予め窒素を用いて脱気されて窒素雰囲気下に置かれた重合反応容器に対し、Solvesso 150(75重量部)とLUPEROX(登録商標)26(4重量部)とで構成される開始材料を投入した。この開始材料を、攪拌(U字アンカー型攪拌翼)しながら、100℃に昇温した。
【0092】
Norsocryl(登録商標)A18−22を70℃のオーブンで予め溶融した。次に、Solvesso 150(153.5重量部)と溶融したNorsocryl(登録商標)A18〜22(100重量部)とで構成される第1溶液Aを攪拌下で調製した。さらに、Accelerator(登録商標)NL−65−100(4重量部)とSolvesso 150(35重量部)とで構成される第2溶液Bを調製した。開始材料が設定温度に達すると、第1溶液Aと第2溶液Bとを、6時間半のあいだ攪拌しながら、同じ開始材料に対して別々に添加した。
【0093】
添加過程のあいだ、設定温度を100℃±2℃内に保持した。添加が完了すると、予めSolevesso 150(5重量部)に溶解したLUPEROX(登録商標)26(0.5重量部)を添加してから、熟成過程を、設定温度で1時間実行した。その後、反応容器を冷却し、MMEHQ(100ppm)を添加することにより、樹脂を安定化させた。
【0094】
実施例1〜6のポリマーB1〜B6の特性を、以下の表1にまとめる。
【0095】
【表1】

【0096】
(実施例7)
この実施例では、実施例1〜6のポリマーB1〜B6を家庭用燃料油に添加した際の、当該ポリマーによるLFT(フィルター通過可能限界温度)の改善効果を測定・比較した。フィルター通過性添加剤(LFT添加剤)およびフィルター通過効果増強剤のいずれも配合していない状態での、試験対象となる留分の特性を、以下の表2にまとめる。
【0097】
【表2】

【0098】
改善対象のLFT添加剤として、二種類のEVAコポリマー[EVA1+EVA2(EVA1+EVA2の重量比=15:85)]を、Solvesso 150またはSolvarex 10系の芳香族溶媒によって(EVA1+EVA2):溶媒=70:30となるように希釈した混合物を使用した。
【0099】
EVA1は、エチレン71.5重量%および酢酸ビニル28.5重量%を含む;EVA2は、エチレン69.5重量%および酢酸ビニル30.5重量%を含む。これら二種類のEVAのMwは、それぞれ、5,000g/モル、9,000g/モルであり、かつ、100℃での粘度は、それぞれ、0.3Pa・s−1、0.4Pa・s−1であった。
【0100】
LFT添加剤+効果増強剤B1〜B6が配合された燃料油のLFTと、LFT添加剤のみが配合された燃料油のLFTとを、LFT添加剤のみの場合とLFT添加剤+効果増強剤の場合の両方において様々な配合量(重量ppm)で比較した。
【0101】
結果を以下の表3にまとめる。
【0102】
【表3】

【0103】
(実施例8)
この実施例では、実施例1〜6のポリマーB1〜B6をディーゼル内燃機関燃料油に添加した際の、当該ポリマーによるLFT(フィルター通過可能限界温度)の改善効果を測定・比較した。フィルター通過性添加剤(LFT添加剤)および効果増強剤のいずれも配合していない状態での、試験対象となる留分の特性を、以下の表4にまとめる。
【0104】
【表4】

【0105】
改善対象のLFT添加剤として、二種類のEVAコポリマー[EVA1+EVA2(EVA1+EVA2の重量比=15:85)]を、Solvesso 150またはSolvarex 10系の芳香族溶媒によって(EVA1+EVA2):溶媒=70:30となるように希釈した混合物を使用した。
【0106】
EVA1は、エチレン71.5重量%および酢酸ビニル28.5重量%を含む;EVA2は、エチレン69.5重量%および酢酸ビニル30.5重量%を含む。これら二種類のEVAのMwは、それぞれ、5,000g/モル、9,000g/モルであり、かつ、100℃での粘度は、それぞれ、0.3Pa・s−1、0.4Pa・s−1であった。
【0107】
使用する効果増強剤は、前述の製品B1とする(表1を参照)。
【0108】
別の実施例では、メタクリル酸ステアリルとC20〜C24のα−オレフィンとN−タロウマレイミドとの統計ターポリマー(Total Additifs & Carburants Speciaux社製;商品名:CP8327;15℃での密度:890〜930kg/m;引火点:>55℃(NF EN ISO 22719規格);自己発火温度:>約450℃)を、曇り点(CP)を改善するために添加した。
【0109】
LFT添加剤+効果増強剤B1が配合された燃料油のLFTと、LFT添加剤のみが配合された燃料油のLFTとを、LFT添加剤のみの場合とLFT添加剤+効果増強剤の場合の両方において様々な配合量(重量ppm)で比較した。
【0110】
結果を以下の表5にまとめる。
【0111】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物から得られる、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、
当該(メタ)アクリル系ポリマーは、
重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満であり、
硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、
GPCによって測定される残存モノマー量が、10重量%以下、好ましくは7重量%以下である、(メタ)アクリル系ポリマー。
【請求項2】
請求項1において、(メタ)アクリル系化合物が、炭素数12〜50の直鎖または分岐鎖、好ましくは炭素数16〜40の直鎖または分岐鎖を有する、(メタ)アクリル系ポリマー。
【請求項3】
請求項1または2において、重量平均分子量が5,000〜18,000g/モルである、(メタ)アクリル系ポリマー。
【請求項4】
直鎖状または分岐鎖状の脂肪鎖を有する(メタ)アクリル系化合物による、(メタ)アクリル系ポリマーであって、前記脂肪鎖は、炭素数C以上で、任意で少なくとも1つのエチレン不飽和部を含むものであり、当該(メタ)アクリル系ポリマーは、重量平均分子量Mwが20,000g/モル未満であり、硫黄含有化合物、金属化合物およびハロゲン化合物を含まず、かつ、GPCによって測定される残存モノマー量が、10重量%以下、好ましくは7重量%以下である(メタ)アクリル系ポリマーを、溶液中でラジカル重合によって製造する方法において、
(a)全体が少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーのみで構成される開始材料を、単独でまたは任意で有機溶媒中の溶液の形態で、反応容器に投入し、この反応媒体を、好ましくは不活性雰囲気中で、例えば、窒素バブリングを行いながら、攪拌する工程と、
(b)工程(a)に由来する開始材料を、重合温度に昇温する工程と、
(c)前記重合温度で、ラジカル開始剤を、任意で有機溶媒中の溶液の形態で、継続的に添加する工程と、
(d)工程(c)に由来する反応媒体を、数十分間のあいだ重合温度で保持する工程と、
(e)前記反応媒体を50〜60℃の温度に冷却し、好ましくは酸化雰囲気中で、好ましくは攪拌しながら、少なくとも1種の重合禁止剤を添加する工程と、
(f)有機溶媒中の溶液の形態のポリマーを、好ましくは反応媒体中に存在する不純物をろ過除去してから、収集する工程と、
を含むことを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、(メタ)アクリル系モノマーが、炭素数12〜50の直鎖または分岐鎖、好ましくは炭素数16〜40の直鎖または分岐鎖を有することを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、ラジカル開始剤の量が、モノマーに対して2〜14重量%、好ましくは2〜6重量%であることを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項において、ラジカル開始剤が、有機ペルオキシド化合物であることを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか一項において、有機溶媒中の溶液の形態の分解促進剤が、ラジカル開始剤と併用され、当該開始剤と同時または別々に反応媒体に投入されることを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、分解促進剤が、芳香族アミン誘導体であることを特徴とする、(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系ポリマーの、高固形分の溶媒和性アクリル樹脂の処方物に配合される添加剤としての使用。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系ポリマーの、潤滑剤処方物、燃料処方物、可燃性処方物などの油系処方物に配合される添加剤としての使用。
【請求項12】
請求項11において、沸点150〜450℃の炭化水素系留分中で、当該留分に添加される、エチレンとC〜Cカルボン酸のビニルエステルと炭素数1〜10のモノアルコールとのコポリマーおよび/またはターポリマーを含むフィルター通過性添加剤の効果を増強する使用。

【公表番号】特表2012−521473(P2012−521473A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501359(P2012−501359)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050544
【国際公開番号】WO2010/109144
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】