説明

硬化性樹脂組成物およびプリプレグならびにこれを用いた複合材料

【課題】本発明は、硬化性に優れ、ボイドの発生を抑制でき、硬化収縮がない硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】オキセタン化合物を5〜100質量%含むカチオン重合性化合物(A)と、カチオン重合開始剤(B)と、特定の酸増殖剤(C)とを含有する硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物およびプリプレグならびにこれを用いた複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーや環境汚染防止の観点から、紫外線や電子線等のエネルギー線によって液状の樹脂組成物を迅速に硬化させる方法が広く普及してきている。これらの硬化反応として、ラジカル重合反応、カチオン重合反応が幅広く用いられている。
【0003】
ラジカル重合反応では、活性エネルギー線照射によって発生するフリーラジカル種によって開始されるアクリル基やメタクリル基を有するモノマーまたはオリゴマーの連鎖的反応により重合される。この重合反応は迅速であり、また、モノマー自体が反応性希釈剤の役目を果たすため溶媒を用いる必要がないので、省エネルギーで、環境汚染防止という観点から好適に用いられる。
しかしながら、ラジカル重合反応は、空気中の酸素と容易に反応するラジカル種が成長種であるために、ラジカル種が空気中の酸素と反応して失活し、十分な硬化がなされないという問題がある。
特に、空気中の酸素が容易に内部拡散する薄い塗膜においてはこの酸素阻害効果が顕著である。そのため、紫外線硬化の場合、光源の強度を著しく高める必要があり、電子線硬化の場合には、照射時に不活性ガス(例えば、窒素ガス)の雰囲気下で行う必要がある。
また、ラジカル重合反応において、アクリル系またはメタクリル系モノマーの重合は体積収縮を伴い、成形品に応力歪みが発生するという問題がある。特に、紫外線硬化の場合には、光の透過性による制約のために、厚膜硬化や、顔料や各種フィラーが共存する硬化には不適当である。
【0004】
一方、カチオン重合反応は、ラジカル重合反応と異なり、酸素阻害効果がなく、エポキシ基等の開環重合反応は体積収縮の度合いが小さいため、成形品の応力歪みが低減される。また、エポキシ基由来の酸素原子の極性によって基板表面への接着性、密着性が良好であり、柔軟性に優れた硬化被膜を与える。更に、エネルギー線照射時または照射後の加熱処理によって、硬化被膜の特性を一層向上させることができる。これらの点から、ラジカル重合反応に比べてカチオン重合反応は有利であるが、硬化速度が前者に比較して遅いため、十分に硬化を行うためには活性エネルギー線照射の他、更に加熱処理を必要とする場合が多い。また、エネルギー線を吸収する顔料やフィラー等が分散した樹脂組成物または厚い被膜の硬化は、エネルギー線が到達できない内部では十分に硬化されないという問題があった。
【0005】
特許文献1には、炭素繊維強化複合材(CFRP)のようなエネルギー線の遮蔽性が高い樹脂組成物系に特定の2元系以上からなる光重合開始剤系(反応触媒系)を存在させることによりUVを照射するだけで該樹脂組成物を完全に硬化させることを目的とした技術が記載されている。具体的には、UVに代表されるエネルギー線を樹脂組成物に照射した際、エネルギー線源からのエネルギーとは別のエネルギーを樹脂内部に自己発生させ、更に発生したエネルギーにより連続的にかかるエネルギーを発生させ、かかるエネルギーもしくはかかるエネルギーとエネルギー線源からのエネルギーにより樹脂組成物を硬化させることを特徴とする樹脂硬化方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、可視光または紫外線レーザ光を光源とすることにより連鎖硬化を可能とする高感度の感光性樹脂組成物および硬化方法を提供することを目的とした技術が記載されている。具体的には、可視光線または紫外線レーザ光を照射した際、樹脂内部にカチオンを発生させて樹脂の硬化を行い、その硬化反応熱により熱・光分解型硬化促進剤を分解させてカチオンを発生させる連鎖反応を伴い、樹脂組成中の反応熱エネルギーおよびカチオンのエネルギーにより樹脂内にエネルギー線遮蔽物の存在の有無に関わらず連鎖硬化するようにした感光性樹脂組成物において、特定量の(a)光カチオン重合開始剤(b)熱・光分解型硬化促進剤(c)カチオン重合または架橋反応により高分子量化する化合物1種以上を含有することを特徴とする上記感光性樹脂組成物が記載されている。
【0007】
特許文献3には、流動性組成物を前駆体としてエネルギー線の作用によって低温・短時間で硬化させて応力歪みが低減された成形加工品を製造することを目的とした技術が記載されている。具体的には、カチオン重合性有機化合物と、エネルギー線感受性カチオン重合開始剤と、エネルギー線感受性カチオン重合開始剤より発生した酸により新たに自己触媒的に酸を発生するモノあるいはジスルホン酸シクロアルキルエステルからなる酸増殖剤とを必須成分とするエネルギー線硬化性樹脂組成物が記載されている。
【0008】
特許文献4には、感光性材料の感度の大幅な向上と光硬化樹脂の架橋効率の大幅な向上などを図ることを目的とした、4、4′−イソプロピリデンビスシクロヘキサンジスルホン酸エステルからなる増殖性強酸発生剤と、活性エネルギー線によって酸を発生する酸発生剤、及び、酸触媒反応性高分子からなることを特徴とする感活性エネルギー線樹脂組成物が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−193322号公報
【特許文献2】特開2001−2760号公報
【特許文献3】特開2001−48905号公報
【特許文献4】特開2002−62641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者は、検討した結果、特許文献1および2に記載の硬化方法では、得られる硬化物にボイド(気泡)が残るという問題を見出した。また、特許文献3および4に記載の樹脂組成物は、樹脂の種類によっては、硬化収縮が生じ、硬化性が十分でなく、硬化物にボイドが残ることがあるという問題を見出した。
【0011】
そこで、本発明は、硬化性に優れ、ボイドの発生を抑制でき、硬化収縮がない硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記問題について鋭意検討した結果、特許文献1および2に記載の硬化方法において硬化物にボイド(気泡)が残る原因は、これらの硬化反応では反応熱により内部温度が高温(例えば、150℃以上)になり、低沸点の成分(例えばエポキシ樹脂)が揮発することにあることを知見した。同様に、特許文献3および4に記載の樹脂組成物においてボイド(気泡)が残る原因は、例えば、エポキシ樹脂を用いた場合、エポキシ樹脂の反応性が十分ではないため内部温度が高くなり、低沸点の成分(例えばエポキシ樹脂)が揮発することにあると考えられる。
本発明者は、更に、硬化性樹脂組成物の成分として、オキセタン化合物を特定の割合で含むカチオン重合性化合物と、カチオン重合開始剤と、特定の酸増殖剤とを含有させると、硬化性に優れ、ボイドの発生を抑制でき、更に、硬化収縮がない硬化性樹脂組成物が得られることを知見した。
本発明者はこれらの知見に基づき、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、下記(1)〜(3)を提供する。
(1)オキセタン化合物を5〜100質量%含むカチオン重合性化合物(A)と、
カチオン重合開始剤(B)と、
下記式(1)で表される酸増殖剤および/または下記式(2)で表される酸増殖剤(C)と
を含有する硬化性樹脂組成物。
【化2】



(式(1)中、R1、R2は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、式(2)中、R3、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも3つの水素がフッ素置換された炭素数1〜8のアルキル基、またはアリール基である。)
(2)上記(1)に記載の硬化性樹脂組成物と、炭素繊維とを含有するプリプレグ。
(3)上記(2)に記載のプリプレグの硬化物である複合材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化性に優れ、ボイドの発生を抑制でき、硬化収縮がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、オキセタン化合物を5〜100質量%含むカチオン重合性化合物(A)と、カチオン重合開始剤(B)と、上記式(1)で表される酸増殖剤および/または上記式(2)で表される酸増殖剤(C)とを含有する硬化性樹脂組成物である。
以下、本発明の組成物に用いられるカチオン重合性化合物(A)、カチオン重合開始剤(B)および酸増殖剤(C)を詳細に説明する。
【0016】
<カチオン重合性化合物(A)>
本発明の組成物に用いられるカチオン重合性化合物(A)は、カチオン重合性基を分子内に少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ有する化合物である。カチオン重合性化合物(A)は、2種以上のカチオン重合性基を有していてもよい。
【0017】
カチオン重合性基は、特に限定されず、例えば、エポキシ基(例えば、脂環式エポキシ基、2−メチルエポキシ基)、オキセタン残基、ビニルエーテル残基、イソブチレン残基、シクロペンタジエン残基等が挙げられる。
オキセタン残基は、オキセタンの炭素原子から少なくとも1つの水素原子を除去して得られる基であり、例えば、オキセタニル基等が挙げられる。
ビニルエーテル残基は、ビニルエーテル基のビニル基上の水素原子をアルキル基により置換した基であり、例えば、ビニルエーテル基、2−メチル−ビニルエーテル基等が挙げられる。
【0018】
上記カチオン重合性化合物(A)は、熱により架橋しうる基(以下、「架橋性基」ともいう。)を有するのが好ましい。
この架橋性基としては、例えば、エポキシ基、シアネート基、アクリロイル基、オキセタン残基、ビニルエーテル残基等が挙げられる。上記カチオン重合性化合物(A)がこのような架橋性基を有すると、外部からの熱またはカチオン重合反応の反応熱により架橋されて硬化が進行するため硬化性に優れた組成物が得られる。
【0019】
上記重合性化合物(A)は、オキセタン化合物を5〜100質量%含む。オキセタン化合物は、分子内に少なくとも1つのオキセタン残基を有する化合物である。具体的には、例えば、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタン等の1官能オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1−エチル(3−オキセタニル)]メチル}エーテル等の2官能オキセタン等が挙げられる。
これらの化合物は、アロンオキセタンOXT−101、OXT−121、OXT−211、OXT−221およびOXT−212(いずれも東亞合成(株)製)として市販されている。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
オキセタン化合物の反応性は、オキセタン残基の酸素−炭素間の分極がエポキシ基の酸素−炭素間の分極よりも大きいため、エポキシ化合物の反応性よりも高い。そのため、重合性化合物(A)がオキセタン化合物を5〜100質量%含むと、低温・短時間で硬化でき、ボイドの発生を抑制できる組成物が得られる。更に、この組成物には硬化収縮が実質的になく、成形品に応力歪みが生じることがない。これらの特性により優れる点から、上記重合性化合物(A)は、オキセタン化合物を5〜50質量%含むのが好ましい。
【0021】
オキセタン化合物以外のカチオン重合性化合物(A)としては、例えば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、イソブチレン化合物、シクロペンタジエン化合物、環状エーテル類、環状ケトン類、ラクトン類、ビニルアレーン類、脂環式ビニル化合物、スピロオルソエステル類、スピロオルソカーボネート類等が挙げられる。
これらの中でも、耐熱性が高く、安価であるという点から、エポキシ化合物が好適に用いられる。エポキシ化合物をオキセタン化合物と併用すると、重合初期速度、成長反応速度ともに高速となり、硬化性に優れた組成物が得られるという利点もある。
【0022】
エポキシ化合物としては、具体的には、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル等の1官能性エポキシ化合物;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネート、ヒダントインエポキシ等の含複素環エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトール−ポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂;芳香族、脂肪族もしくは脂環式のカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂;スピロ環含有エポキシ樹脂;o−アリル−フェノールノボラック化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ビスフェノールAのそれぞれの水酸基のオルト位にアリル基を有するジアリルビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;シッフ系化合物、スチルベン化合物およびアゾベンゼン化合物のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシイソプロピル)シクロヘキサンとエピクロルヒドリンとの反応生成物等の含フッ素脂環式、芳香環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0023】
上記エポキシ化合物の中でも特に、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル樹脂が好適に用いられる。更に、脂環式エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルペンチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、グリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルも好適に用いられる。また、これらを適宜併用するのが好ましい。
【0024】
<カチオン重合開始剤(B)>
本発明の組成物に用いられるカチオン重合開始剤(B)は、ルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物であり、例えば、光カチオン重合開始剤、光・熱カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤、プロトン酸(ブレンステッド酸)開始剤、ハロゲン化金属、有機金属化合物が挙げられる。
【0025】
上記光カチオン重合開始剤は、光(例えば、紫外線、紫外線レーザー光、可視光線または赤外線)によりルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物である。具体的には、例えば、ジアゾニウム塩タイプ、ヨードニウム塩タイプ、ホスホニウム塩タイプ、スルホニウム塩タイプ等のオニウム塩タイプ;ピリニジウム塩タイプ;鉄−アレーン化合物タイプ;スルホン酸エステルタイプ、ホウ素化合物等の化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中でも、下記一般式(3)〜(5)で表される鉄・アレーン錯体系は可視光領域(400〜500nm)に吸収を持つカチオン重合開始剤であり、配位子交換を経てエポキシ重合を行うという点から好適に用いられる。
【0026】
【化3】

【0027】
上記式(3)〜(5)中、X-は、BF4-、PF6-、AsF6-またはSbF6-を表し、R5はアルキル基を表す。
【0028】
上記光・熱カチオン重合開始剤は、光または熱により分解し、ルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物である。上記光・熱カチオン重合開始剤としては、例えば、下記式(6)または(7)で表されるスルホニウム塩の少なくとも1種を含む化合物、下記式(8)または下記式(9)で表されるオニウム塩の少なくとも1種を含む化合物、下記式(10)〜(12)のいずれかで表される化合物が好適に用いられる。
【0029】
【化4】

【0030】
上記式(6)〜(9)中、X-は式(3)〜(5)と同様であり、R6は、H、CH3、ハロゲンまたはNO2を表し、R7は、H、CH3C(O)またはCH3OC(O)を表す。
上記式(10)中、X-は式(3)〜(5)と同様であり、R8は、H、CH3、アセチル基またはメトキシカルボニル基であり、R9は、それぞれ独立に、H、ハロゲンまたは炭素数1〜4のアルキル基であり、R10は、H、ハロゲンまたはメトキシ基であり、R11は、炭素数1〜4のアルキル基である。
上記式(11)中、R12は、炭素数1〜18の脂肪族基、R13は、炭素数1〜18の脂肪族基または炭素数6〜18の置換もしくは非置換の芳香族基であり、R12とR13は互いに結合して環を形成してもよい。Yは、下記式(13)で表されるスルホニオ基、H、ハロゲン、ニトロ基、アルコキシ基、炭素数1〜18の脂肪族基、炭素数6〜18の置換もしくは非置換のフェニル基、フェノキシ基またはチオフェノキシ基である。Zは、式MQまたはMQp-1OH(MはB、P、AsまたはSbであり、Qはハロゲン原子、pは4または6の整数である)で示される陰イオンである。n、mは、それぞれ独立に、1〜2の整数である。
【0031】
【化5】

【0032】
上記式(13)中、R12、R13は、上記式(11)と同様である。
【0033】
上記式(12)中、X-は式(3)〜(5)と同様であり、R14は、それぞれ独立に、Hまたは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0034】
更に、上記光・熱カチオン重合開始剤としては、上記式(6)〜(12)の化合物の他にベンジルスルホニウム塩やホスホニウム塩等任意のオニウム塩を用いることができる。特に、ピレニルホスホニウム塩は、ピレニルメチルカチオン生成効率がよい。
【0035】
上記光・熱カチオン重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記熱カチオン重合開始剤は、熱により分解し、ルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物である。上記光・熱カチオン重合開始剤としては、具体的には、例えば、下記式(14)〜(17)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化6】

【0038】
式中、X-は上記式(3)〜(5)と同様である。
【0039】
上記プロトン酸(ブレンステッド酸)開始剤としては、無機酸および有機酸が挙げられる。無機酸としては、具体的には、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の他、CF3SO3H、ClSO3H、FSO3H、HClO4等の超強酸が挙げられる。有機酸としては、具体的には、例えば、CF3COOH、CCl3COOH等が挙げられる。
上記ハロゲン化金属としては、具体的には、例えば、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、SbCl5、MoCl6、FeCl3等が挙げられる。
上記有機金属化合物としては、具体的には、例えば、EtAlCl2、Et2AlCl、Et3Al、Me3Al等が挙げられる。
【0040】
上記カチオン重合開始剤(B)の含有量は、カチオン重合性化合物(A)100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。この範囲であると、反応性が良好であり、また、硬化物の硬度が低下してゲル状となることがない。
【0041】
本発明の組成物に、カチオン重合開始剤(B)として光カチオン重合開始剤を単独で使用した場合、光により発生したカチオンが、カチオン重合性化合物(A)と反応する。また、光・熱カチオン重合開始剤を単独で使用した場合、光または熱により発生したカチオンが、カチオン重合性化合物(A)と反応する。
一方、光カチオン重合開始剤および光・熱カチオン重合開始剤を併用して光照射した場合、主に、光に対してより反応性の高い光カチオン重合開始剤からカチオンが発生し、光に対する反応性が比較的低い光・熱カチオン重合開始剤は、その一部が反応してカチオンを発生し得る。これらのカチオンがカチオン重合性化合物(A)と反応し、その反応熱により光・熱カチオン重合開始剤が分解してカチオンを発生し、連鎖反応が起きる。そのため、得られる組成物は、硬化性に優れ、組成物内にフィラー等のエネルギー線遮蔽物が存在する場合でも光照射により硬化できる。したがって、本発明の組成物においては、光カチオン重合開始剤および光・熱カチオン重合開始剤の両方を含有するのが好ましい。
【0042】
<酸増殖剤(C)>
本発明で用いられる酸増殖剤(C)は、下記式(1)で表される酸増殖剤および/または下記式(2)で表される酸増殖剤である。
【0043】
【化7】

【0044】
式(1)中、R1、R2は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基またはアラルキル基である。
上記アルキル基は、特に限定されないが、炭素数1〜15のアルキル基が好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
上記アリール基は、特に限定されないが、炭素数6〜10のアリール基が好ましい。具体的には、例えば、フェニル基、p−トリル基、p−イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピレニル基、チエニル基、フリル基等が挙げられる。
上記アラルキル基は、特に限定されないが、炭素数6〜15のアラルキル基が好ましい。具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0045】
上記式(2)中、R3、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも3つの水素がフッ素置換された炭素数1〜8のアルキル基、またはアリール基である。
上記炭素数が1から15のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
上記少なくとも3つの水素がフッ素置換された炭素数1〜8のアルキル基としては、具体的には、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロブチル基、ノナフルオロペンチル基等が挙げられる。
上記アリール基としては、特に限定されないが、炭素数6〜10のアリール基が好ましい。具体的には、例えば、フェニル基、p−トリル基、p−イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピレニル基、チエニル基、フリル基等が挙げられる。
【0046】
上記酸増殖剤(C)の含有量は、カチオン重合性化合物(A)100質量部に対して0.05〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。この範囲であると、反応速度を向上させる効果が顕著で、硬化物の物性面への影響も少ない。
【0047】
一般に、酸増殖剤は、上記カチオン重合開始剤から発生した酸の触媒作用によって、自ら酸を発生して自己触媒的に酸を増殖するものである。1つの酸分子が1つの酸増殖剤分子を分解して1つの酸を発生することができれば、1回の反応で1つの酸分子が増殖して計2つの酸分子となり、酸の発生はねずみ算的に増えることになる。即ち、酸増殖剤の添加により、急激に酸が増加し、その結果、塩基性物質によるカチオン重合反応の停止や副反応による酸の消失も防止でき、カチオン重合反応を大幅に加速できる。
また、酸増殖剤は、熱的に安定で、長期保存にも変質しない特性が要求されるが、上記式(1)で表される酸増殖剤および式(2)で表される酸増殖剤は、これらの特性に優れている上、更に、反応速度を大幅に向上できる。そのため、本発明の組成物は、2液型のみならず1液型としても使用できる。また、短時間に硬化でき、反応熱による内部温度の上昇が比較的少ない。更に、上記酸増殖剤の存在により、酸増殖剤未添加のものに比べて、カチオン重合開始剤の添加量を大幅に低減することができる。
【0048】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、上記カチオン重合性化合物(A)以外の熱可塑性樹脂、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0049】
上記熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ナイロン等が挙げられる。
【0050】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物が挙げられる。
【0051】
反応遅延剤としては、具体的には、例えば、アルコール系等の化合物が挙げられる。
【0052】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0053】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル(株)製)、ディスパロン(楠本化成(株)製)等が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0055】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0056】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法を用いることができる。
【0057】
本発明の組成物は、使用されるカチオン重合開始剤(B)の種類に応じて硬化手段を適宜選択できる。例えば、光カチオン重合開始剤を含む場合は、紫外線や可視光線等を照射して硬化することができる。必要に応じて、光照射後に加熱処理を行うことができる。
【0058】
上述したように、本発明の組成物は、硬化性に優れ、ボイドの発生を抑制でき、硬化収縮がない。したがって、本発明の組成物は、本発明の組成物が有する特性を活かして広範な用途に用いられる。例えば、接着剤、封止剤、塗料、コーティング剤、インキ、トナー、シーラント、プリプレグのマトリクス樹脂、光造形用樹脂等が挙げられる。特に、プリプレグのマトリクス樹脂に好適に用いられる。
【0059】
以下、本発明のプリプレグを詳細に説明する。
本発明のプリプレグは、上述した本発明の組成物と、炭素繊維とを含有する。
【0060】
上記炭素繊維は、特に限定されず、例えば、繊維織布状、長繊維状のものを用いることができる。
炭素繊維の含有量は、プリプレグ全体の容積に対して30〜65体積%が好ましく、40〜60体積%がより好ましい。
【0061】
本発明のプリプレグは、炭素繊維以外にも、ケブラー等のアラミド繊維、ガラス繊維等の強化繊維を含有してもよい。
【0062】
本発明のプリプレグは、従来公知の方法により製造することができ、具体的には、炭素繊維に本発明の組成物を含浸させて製造される。含浸させる際は、ホットメルト法、ウェット法を用いることができる。ウェット法でプリプレグの製造を行う場合は、本発明の組成物を溶剤に溶解させ、ワニスを調製してから炭素繊維に含浸させる。ワニス調製時に使用する溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類の溶剤が好ましい。溶剤の使用量は、本発明の組成物100質量部に対して、1〜20質量部であるのが、乾燥工程が短くて済むので好ましい。また、本発明の組成物が比較的低粘度である場合、本発明の組成物をそのまま炭素繊維に含浸させてプリプレグを製造することができる。
【0063】
本発明のプリプレグは、ボイドの発生を抑制でき、硬化収縮がない。
また、従来、炭素繊維を含有するプリプレグは、光硬化させる際に光が炭素繊維に吸収されるため十分に硬化できない問題があった。一方、本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂として用いられる本発明の組成物が、カチオン重合開始剤(B)として光カチオン重合開始剤および光・熱カチオン重合開始剤を含む場合には、上述したように、カチオン重合反応が連鎖的に進行するため、部分的に光が照射された場合でも十分に硬化される。
【0064】
本発明の複合材料は、上述した本発明のプリプレグの硬化物である。
本発明の複合材料は、本発明のプリプレグを光または熱により硬化させて得ることができる。
本発明の複合材料は、本発明のプリプレグが硬化性に優れ、ボイドの発生を抑制でき、硬化収縮がないため、優れた物性を有し、応力歪みがない。
本発明の複合材料は、これらの優れた特性を活かして、種々の成形材料に用いることができ、例えば、航空機、自動車等の構造材料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜6および比較例1〜4>
下記第1表の各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、撹拌機を用いて混合し、第1表に示される各組成物を得た。
次に、炭素繊維製織物(約15cm×20cm×0.2mm)に得られた各組成物を含浸させたものを10枚重ね、この両面をガラス板で挟みこんだ。190mW/cm2の強度の紫外線を片面あたり400mJ/cm2となるように両面照射して硬化させた。得られた硬化物(複合材料)を用いて、下記の方法により硬化性、硬化収縮、ボイドの有無および表面温度を評価した。
結果を第1表に示す。
【0066】
(硬化性)
得られた複合材料の表面を指で押して、硬化状態を観察することにより硬化性を評価した。内部までしっかり硬化して十分な硬さになっているものを「○」、表面は硬化しているものの内部の硬化が十分でないものを「△」、硬化が十分でなく全体的に柔らかいものを「×」とした。
【0067】
(硬化収縮)
得られた複合材料の長さ方向の収縮率(%)を測定した。収縮率は、下記式により求められる。
【0068】
収縮率(%)=100×(複合材料の長さ)/(硬化前の長さ)
【0069】
(ボイド)
得られた複合材料をビスフェノールA型エポキシ樹脂で包埋して、研磨し、実体顕微鏡でボイドの有無を観察した。
【0070】
(表面温度)
各組成物を上述したように紫外線硬化させる際に、各組成物表面の温度を非接触型温度計で測定した。硬化中の最高到達温度を第1表に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
第1表に示す各成分は下記のとおりである。
・オキセタン化合物(下記式(18)で表される化合物):OXT−121、東亞合成社製
・エポキシ化合物(下記式(19)で表される化合物):CY−179、ハンツマンアドバンストマテリアル社製
・光カチオン重合開始剤(スルホニウム塩):SP−170、旭電化工業社製
・光・熱カチオン重合開始剤(スルホニウム塩):SI−80L、三新化学工業社製
・酸増殖剤1(下記式(20)で表される化合物):アクプレス、日本ケミックス社製
・酸増殖剤2(下記式(21)で表される化合物):4,4′−イソプロピリデンビスシクロヘキシルビス(p−トルエンスルホナート)
【0073】
【化8】

【0074】
式(18)中、nは1または2である。
【0075】
第1表に示す結果から明らかなように、酸増殖剤を含有しない組成物(比較例1および2)は、硬化収縮があり、硬化性が低く、ボイドを生じた。
酸増殖剤を含有するが、オキセタンの含有量が3質量部である組成物(比較例3および4)は、硬化性は改善されるものの十分ではなく、ボイドを生じ、硬化収縮もあった。
実施例1〜6の組成物は、いずれも、硬化性に優れ、硬化収縮およびボイドが無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキセタン化合物を5〜100質量%含むカチオン重合性化合物(A)と、
カチオン重合開始剤(B)と、
下記式(1)で表される酸増殖剤および/または下記式(2)で表される酸増殖剤(C)と
を含有する硬化性樹脂組成物。
【化1】



(式(1)中、R1、R2は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、式(2)中、R3、R4は、それぞれ独立に、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも3つの水素がフッ素置換された炭素数1〜8のアルキル基、またはアリール基である。)
【請求項2】
前記カチオン重合開始剤(B)が、光カチオン重合開始剤および光・熱カチオン重合開始剤である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物と、炭素繊維とを含有するプリプレグ。
【請求項4】
請求項3に記載のプリプレグの硬化物である複合材料。

【公開番号】特開2006−232972(P2006−232972A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48749(P2005−48749)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】