説明

磁極検出器付き同期電動機

【課題】磁極検出器を用いずに電動機が一定の回転動作を行なうだけで、その駆動電流や電圧などの情報から間接的に磁極位置を算出する手法では、読み取った間接情報の誤りや外乱などによって磁極位置を誤検出する可能性が残ってしまう。
【解決手段】可動子と固定子のどちらか一方に磁石が設置され、磁石の近傍に磁極検出器を備えた同期電動機において、同期電動機の可動子の位置と組み立て調整後の磁極検出器により検出された磁石の第1の磁力データとを対応づけて記憶しておく記憶手段と、運転中の同期電動機の可動子の位置に対応した磁極検出器により検出した磁石の第2の磁力データと、第1の磁力データを比較する比較手段と、第2の磁力データが第1の磁力データより所定の閾値分大きいかまたは小さい場合に磁石の異常と判定する判別手段とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同期電動機に関し、特に同期電動機の磁石の磁力を検出する磁極検出器を備えた同期電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機を効率よく正確に駆動する為には、何らかの手段を用いて磁極位置を把握する必要がある。最近では磁極検出器を用いずに電動機が一定の回転動作を行なうだけで、その駆動電流や電圧などの情報から間接的に磁極位置を算出する手法(例えば、特許文献1)が多く提案されており、磁極検出器を使用しないものが増加する方向であるが、この場合は、読み取った間接情報の誤りや外乱などによって磁極位置を誤検出する恐れがある。
【0003】
工作機械や精密位置決め装置などに用いられる電動機は、磁極位置を誤検出した際の異常動作にて、ワークやツール、または機械に与える損傷ダメージが大きい場合があるため、より安全を重視して磁極検出器を用いるケースが未だに存在している。
そのような状況において同期電動機の磁石の異常を検出する技術として、磁極検出器を使用していない装置では位置・速度・電流・電圧データから磁石異常を判定する技術(特許文献2)があり、磁極検出器を使用している装置では取りつけ精度向上を図ったもの(特許文献3)はあるが、磁極検出器を用いて磁石の異常を判定する技術はこれまでに報告されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2005−143170号公報
【特許文献2】特開2006−14554号公報
【特許文献3】特許3641412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、磁力データの誤検出の恐れが少ない磁極検出器付き同期電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、可動子と固定子のどちらか一方に磁石が設置され、前記磁石の近傍に磁極検出器を備えた同期電動機において、前記同期電動機の可動子の位置と組み立て調整後の磁極検出器により検出された前記磁石の第1の磁力データとを対応づけて記憶しておく記憶手段と、運転中の前記同期電動機の可動子の位置に対応した磁極検出器により検出した前記磁石の第2の磁力データと、前記第1の磁力データを比較する比較手段と、前記第2の磁力データが前記第1の磁力データより所定の閾値分大きいかまたは小さい場合に磁石の異常と判定する判別手段とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、前記同期電動機の可動子の位置および速度と組み立て調整後の磁極検出器により検出された前記磁石の第1の磁力データとを対応づけて記憶しておく記憶手段と、運転中の前記同期電動機の可動子の位置および速度に対応した磁極検出器により検出した前記磁石の第2の磁力データと前記第1の磁力データを比較する比較手段と、前記第2の磁力データが前記第1の磁力データより所定の閾値分大きいかまたは小さい場合に磁石の異常と判別する判別手段とを有していてもよい。
【0008】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、前記磁極検出器より出力される信号は略90度位相が異なる正弦波状のA相信号とB相信号から構成されており、前記比較手段により比較する第1の磁力データと第2の磁力データは前記A相信号と前記B相信号のリサージュ波形であることを特徴とする。
【0009】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、前記判別手段により磁石の異常と判別されたときの位置または速度と磁力データを表示する表示手段を有していてもよい。
【0010】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、可動子と、固定子とを有し、前記可動子と前記固定子のいずれか一方に磁石が設けられた同期電動機であって、前記磁石に近接させて配置された磁極検出器をさらに有することを特徴とする。
【0011】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、前記可動子の位置を検出する位置検出器をさらに有していてもよい。
【0012】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、前記磁極検出器は、前記磁石からの磁力を測定することを特徴とする。
【0013】
本発明の磁極検出器付き同期電動機は、前記磁極検出器からの測定結果と、前記位置検出器の位置データとを対応させて表示する表示部をさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁極検出器付き同期電動機によれば、本来の磁極位置検出の動作を行なう以外に、移動中の磁石の磁力をモニタして、磁力データを直接読み取ることができるので、磁石の部分的な破損や位置ずれ、磁力の劣化を監視する機能を持たせることにより、外乱等による誤検出の恐れを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して、本発明に係る磁極検出器付き同期電動機について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0016】
本願発明の磁極検出器付き同期電動機をリニアモータに適用した場合の装置の概略図を図1に示す。リニアモータ10は、駆動装置20によって制御される。リニアモータ10は、互いに反対の極性を有する複数の固定電磁石を交互に直線状に配置した固定子(磁石列)1と、この固定子が発生する磁界中に配置され、この磁界と反発・吸引させる磁界を生じさせる巻線コイルを備えた可動子2とを有する。本実施例においては、固定子1に磁石が設置され、可動子2には磁石は設置されていない。さらに、リニアモータ10は、磁石を持たない可動子2の端部に設けられ、固定子1からの磁力を検出するための磁極検出器3と、固定子1と略平行に配置され、可動子2の位置を検出するための位置検出器4とを備えている。リニアモータ10の駆動装置20は、駆動部5と表示部6とを備えている。可動子2の巻線コイルへの電流の供給は、駆動部6との間に設けられた動力線7を通して行なわれる。磁極検出器3による測定結果は、磁極検出信号線8を介して駆動部5に送られ、位置検出器4の測定結果は、位置検出信号線9を介して、駆動部5に送られる。駆動部に送られた測定結果は、駆動部で処理され、その結果を表示部6に表示する。
【0017】
次に、本発明による磁石の異常の判断手法について説明する。まず、リニアモータ10の組み立て調整後の磁石の磁力データ(第1の磁力データ)を磁極検出器3により検出し、位置検出器4により測定した可動子2の位置データと対応づけて記憶手段12に記憶する。即ち、リニアモータを運転する前の状態における、各位置における磁石の磁力を基準値として記録しておく。
【0018】
次に、リニアモータ10の運転中の可動子2の位置に対応した磁力データ(第2の磁力データ)を磁極検出器3により検出し、磁極検出信号線8を介して駆動部5に送り、第1の磁力データと第2の磁力データとを駆動部5の比較手段13において比較する。
その次に、駆動部5の判別手段14において、第2の磁力データと第1の磁力データとの差分を算出し、この差分が所定の閾値より大きい場合は磁石の異常と判定し、所定の閾値以下である場合は正常と判定する。判定結果は、表示部6に表示することができる。
【0019】
次に、本願発明の磁極検出器付き同期電動機を回転モータに適用した場合の装置の概略図を図2(a)及び(b)に示す。図2(b)は一点差線で示したモータの回転中心軸を通る垂直面で切った断面であり、図2(a)は図2(b)のA−Aを一点鎖線で示した中心軸を中心に回転させた面で切った断面図である。回転モータ11は、駆動装置20によって制御される。回転モータ11は、互いに反対の極性を有する複数の固定電磁石を交互に円周上に配置した可動子2と、この可動子が発生する磁界中に配置され、この磁界と反発・吸引させる磁界を生じさせる巻線コイルを備えた固定子1とを有する。本実施例においては、可動子2に磁石が設置され、固定子1には磁石は設置されていない。さらに、回転モータ11は、可動子2に近接して設けられ、可動子2からの磁力を検出するための磁極検出器3と、可動子2の端部に配置され、可動子2の位置を検出するための位置検出器4とを備えている。回転モータ11の駆動装置20は、駆動部5と表示部6とを備えている。固定子1の巻線コイルへの電流の供給は、駆動部6との間に設けられた動力線7を通して行なわれる。磁極検出器3による測定結果は、磁極検出信号線8を介して駆動部5に送られ、位置検出器4の測定結果は、位置検出信号線9を介して、駆動部5に送られる。駆動部に送られた測定結果は、駆動部で処理され、その結果を表示部6に表示する。
【0020】
次に、本発明の磁石の異常の判断手法について説明する。まず、組み立て調整後の回転モータ11の磁石の磁力データ(第1の磁力データ)を磁極検出器3により検出し、磁極検出信号線8を介して駆動部5に送るとともに、可動子2の位置を位置検出器4により測定し、位置検出信号線9を介して駆動部5に送り、第1の磁力データを可動子2の位置と対応づけて駆動部5の記憶手段12に記憶する。
【0021】
次に、回転モータ11の運転中の可動子2の位置に対応した磁力データ(第2の磁力データ)を磁極検出器3により検出し、磁極検出信号線8を介して駆動部5に送り、第1の磁力データと第2の磁力データとを駆動部5の比較手段13において比較する。
【0022】
その次に、駆動部5の判別手段14において、第2の磁力データと第1の磁力データとの差分を算出し、この差分が所定の閾値より大きい場合は磁石の異常と判定し、所定の閾値以下である場合は正常と判定する。判別結果は表示部6に表示することができる。
【0023】
上記の実施例においては、図2(b)に示すように、磁極検出器3は回転モータの筐体内側の1箇所にのみ設けた例を示したが、複数個所に設置してもよい。複数個所に設置することで、1個の磁極検出器が故障した場合でも他の磁極検出器により磁力データの検出を継続して行なうことが可能となる。また、複数の磁極検出器により検出した磁力データを解析することにより、位置ずれに関して多くの情報を得ることができる。例えば、モータの上下部に、モータの中心軸に関して対称となる位置に設けることにより、垂直方向の磁石のずれの向きや、ずれ量に関する情報を得ることができる。さらに、磁石の近傍であってモータの軸方向に複数個の磁極検出器を配置することによりモータの軸方向のずれに関する多くの情報を得ることができる。
【0024】
さらに、磁極検出器を磁石近傍の複数個所に設け、各磁極検出器と記憶手段との間にスイッチを設けることにより、磁力データを検出する磁極検出器をスイッチにより切り替えることもできる。この場合には、複数の各磁極検出器に個別の記憶手段を設けることなく、1個の記憶手段を共有することにより効率的に利用できるので、回路構成を複雑化させることなく、磁石のずれに関して多くの情報を得ることができる。
【0025】
次に、本発明に用いる磁極検出器について説明する。図3に、一例として、リニアモータにおける磁石列からなる固定子1と、磁石列の一部の磁石上に所定の距離だけ離して配置された磁極検出器3を示す。固定子1は、N極とS極とを交互に配置している。磁極検出器3は、素子A31と素子B32とを有する。素子A、Bはホール素子であって、定電流を流しておき、磁石からの磁界によって生じる起電力を測定することで、磁界の大きさを知ることができる。
【0026】
磁極検出器3を図3に示すように固定子1上で横方向に移動させた場合の素子Aの出力(A相出力)及び素子Bの出力(B相出力)を図4に示す。図4において、X軸は時間であり、Y軸は出力である。磁石の配列が等間隔であり、素子Aと素子Bとの間隔も一定であるので、出力波形はほぼ同一であるが、素子AとBは位置が異なっているため、時間に関して位相がずれた波形となる。
【0027】
次に、出力結果から磁力を判定する方法について説明する。図5は、A相出力とB相出力のリサージュ波形である。A相出力とB相出力の位相差が約90度である場合には、リサージュ波形はほぼ円形となる。その円の半径が磁極検出器の出力電圧であり、磁界の強さを表す。運転中の半径の値をR、組立調整後の値をR1、許容範囲をΔとすると、
R1−Δ<R<R1+Δ
である場合に、正常と判定する。
次に、この判定方法を利用して、磁石に異常が生じた場合の測定例について説明する。
【実施例1】
【0028】
図6を用いて、リニアモータを構成する固定子の磁石列の一部に異常が生じた場合の測定例について説明する。図6(a)は、N極とS極とを交互に複数配置した磁石列からなる固定子1と、固定子1上に所定の間隔を設けて配置した磁極検出器3を示す。固定子1は第1区間61、第2区間62、第3区間63に分けられ、第2区間62において磁力が低下しているとする。磁極検出器3は可動子(図示せず)に取り付けられ、可動子が固定子1の第1区間〜第3区間上を移動することにより、各区間の磁力を測定することができる。磁極検出器3は2個のホール素子を有し、それぞれの測定結果は磁極検出信号線によって駆動部に送られる。上記の2個のホール素子の出力結果から、リサージュ波形が得られ、第1区間〜第3区間におけるリサージュ波形の例を図6(b)〜(d)に示す。
【0029】
次に、磁極の異常の判定方法について説明する。まず、磁力が低下する前の組立後に、可動子に取り付けた磁極検出器3を固定子1上で移動させ、その位置と磁極検出器3から検出された第1の磁力データR1とを相互に関連付けて記憶手段に記憶しておく。次に、リニアモータを運転し、磁極検出器3の位置と関連付けて、磁極検出器3から検出した第2の磁力データRと上記の第1の磁力データR1とを比較手段において比較する。さらに、判別手段において、第1の磁力データR1と第2の磁力データRとの差分が、閾値Δより大きければ異常と判定し、閾値Δ以下であれば正常と判定する。
【0030】
次に、運転中の磁力データから磁石の異常の有無の判定方法について説明する。図6(b)及び(d)に示すように、第1区間61及び第3区間63において磁力は低下していないため、リサージュ波形から求められる第2の磁力データRは、第1の磁力データR1との差分が閾値Δ以下であるため、磁石は正常と判定される。一方、図6(c)に示すように、磁気検出器3が第2区間62を移動しているときには、第2区間62における固定子1の磁石の磁力が低下しているため、リサージュ波形から求められる第2の磁力データRは、第1の磁力データR1から閾値Δを引いた値よりも小さくなっているため、異常と判定される。
本実施例では、特定の区間の磁石の磁力が低下した例を示したが、磁力が増大した場合でも同様にして異常を検出することができる。
さらに位置検出器のデータから計算した可動子の速度データまたは可動子に直接速度検出器を取りつけて、その出力である速度データと磁力変化した磁石の磁力と可動子の速度を対応づけて表示または判定することもできる。
【0031】
以上のようにして、可動子に取り付けた磁極検出器3からの磁力データから、ある区間における磁石の異常を検出することが可能となる。さらに、第1及び第2の磁力データを位置データと関連付けて記憶しているため、異常が生じた磁石の位置を特定することができる。また、速度データと関連付けて記憶して判断することにより、運転するモータの速度と磁石の位置ずれとの間の関係についての情報も得ることができる。さらに、測定時間と対応付けて記憶しておけば、磁力の経時的変化を知ることも可能である。
【実施例2】
【0032】
次に、図7を用いて、第2の実施例について説明する。本実施例では、リニアモータを例にとって説明する点は実施例1と同様であるが、実施例1では磁力が低下している場合について説明したが、本実施例では磁石の位置がずれた場合について説明する。
図7(a)は、N極とS極とを交互に複数配置した磁石列からなる固定子1と、固定子1上に所定の間隔を設けて配置した磁極検出器3を示す。固定子1は第1区間71、第2区間72、第3区間73に分けられ、第2区間72において磁石の位置がずれているとする。磁極検出器3は可動子(図示せず)に取り付けられ、可動子が固定子1の第1区間〜第3区間上を移動することにより、各区間の磁力を測定することができる。磁極検出器3は2個のホール素子を有し、それぞれの測定結果は磁極検出信号線によって駆動部に送られる。上記の2個のホール素子の出力結果から、リサージュ波形が得られ、第1区間〜第3区間におけるリサージュ波形の例を図7(b)〜(d)に示す。
【0033】
次に、運転中の磁力データから磁石の異常の有無の判定方法について説明する。図7(b)及び(d)に示すように、第1区間71及び第3区間73においては、磁石の位置ずれは生じていないため、リサージュ波形から求められる第2の磁力データRは、第1の磁力データR1との差分が閾値Δ以下であるため、磁石は正常と判定される。一方、図7(c)に示すように、磁気検出器3が第2区間72を移動しているときには、第2区間72における固定子1の磁石の一部に位置ずれが生じているため、リサージュ波形から求められる第2の磁力データRは、部分的に第1の磁力データR1から閾値Δを引いた値よりも小さくなっているため、異常と判定される。
【0034】
以上のようにして、可動子に取り付けた磁極検出器3からの磁力データから、ある区間における磁石の位置ずれを検出することが可能となる。さらに、第1及び第2の磁力データを位置データと関連付けて記憶しているため、位置ずれが生じた磁石の位置を特定することができる。また、測定時間と対応付けて記憶しておけば、位置ずれの経時的変化を知ることも可能である。
さらに位置検出器のデータから計算した可動子の速度データまたは可動子に直接速度検出器を取りつけてその出力である速度データと位置ずれした磁石の磁力と可動子の速度を対応づけて表示または判定することもできる。
【実施例3】
【0035】
次に、図8を用いて、回転モータを構成する可動子の磁石の一部に異常が生じた場合の測定例について説明する。図8(a)は、N極とS極とを円周上に交互に複数配置した磁石からなる可動子2と、可動子2の外周部に所定の間隔を設けて配置した磁極検出器3を示す。可動子2は第1区間81及び第2区間82に分けられ、第2区間82において磁石の位置が外周方向にずれているとする。磁極検出器3はモータの筐体に取り付けられ、可動子2が磁極検出器近傍を通過することにより、各区間の磁力を測定することができる。図8(a)は第1区間の可動子2が、磁極検出器3に接近している様子を示し、図8(b)は、第2区間82の可動子2が、磁極検出器3に接近している様子を示す。磁極検出器3は2個のホール素子を有し、それぞれの測定結果は磁極検出信号線によって駆動部に送られる。上記の2個のホール素子の出力結果から、リサージュ波形が得られ、第1区間81及び第2区間82におけるリサージュ波形の例を図8(c)及び(d)に示す。
【0036】
次に、磁極の異常の判定方法について説明する。まず、磁力が低下する前の組立後に、モータの筐体に磁極検出器3を取り付け、モータを回転させて可動子2を構成する磁石を磁極検出器3に接近させ、その位置と磁極検出器3から検出された第1の磁力データR1とを相互に関連付けて記憶手段に記憶しておく。次に、回転モータを運転し、磁極検出器3の位置と関連付けて、磁極検出器3から検出した第2の磁力データRと上記の第1の磁力データR1とを比較手段において比較する。さらに、判別手段において、第1の磁力データR1と第2の磁力データRとの差分が、閾値Δより大きければ異常と判定し、閾値Δ以下であれば正常と判定する。
【0037】
次に、運転中の磁力データから磁石の異常の有無の判定方法について説明する。図8(b)に示すように、第1区間81において磁石の位置ずれは生じていないため、リサージュ波形から求められる第2の磁力データRは、第1の磁力データR1との差分が閾値Δ以下となり、磁石は正常と判定される。一方、図8(d)に示すように、磁気検出器3が第2区間82を移動しているときには、第2区間82における可動子2の磁石の位置がずれているため、リサージュ波形から求められる第2の磁力データRは、第1の磁力データR1から閾値Δを加えた値よりも大きくなっており、異常と判定される。
本実施例では、特定の区間の磁石が磁極検出器3に接近する方向にずれた場合の例を示したが、磁石が磁極検出器3から遠ざかる方向にずれた場合でも同様にして異常を検出することができる。
【0038】
以上のようにして、モータの筐体に取り付けた磁極検出器3によって測定した磁力データから、ある区間における磁石の異常を検出することが可能となる。さらに、第1及び第2の磁力データを位置データと関連付けて記憶しているため、異常が生じた磁石の位置を特定することができる。また、測定時間と対応付けて記憶しておけば、磁力の経時的変化を知ることも可能である。
さらに位置検出器のデータから計算した可動子の速度データまたは可動子に直接速度検出器を取りつけてその出力である速度データと磁力変化した磁石の磁力と可動子の速度を対応づけて表示または判定することもできる。
【0039】
以上、リニアモータ及び回転モータを例にとって説明したが、他の方式のモータあるいは電動機であっても、磁石を利用し、可動部分を有するものであれば、本願発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の磁極検出器付きリニアモータ及び駆動装置である。
【図2】本発明の磁極検出器付き回転モータ及び駆動装置である。
【図3】固定子である磁石列および磁極検出器である。
【図4】磁極検出器の素子からの出力波形である。
【図5】A相出力とB相出力のリサージュ波形である。
【図6】本発明によるリニアモータの磁力の低下の検出方法を示す。
【図7】本発明によるリニアモータの磁石の位置ずれの検出方法を示す。
【図8】本発明による回転モータの磁力の位置ずれの検出方法を示す。
【符号の説明】
【0041】
1 固定子
2 可動子
3 磁極検出器
4 位置検出器
5 駆動部
6 表示部
7 動力線
8 磁極検出信号線
9 位置検出信号線
10 リニアモータ
11 回転モータ
20 駆動装置
31 素子A
32 素子B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子と固定子のどちらか一方に磁石が設置され、前記磁石の近傍に磁極検出器を備えた同期電動機において、
前記同期電動機の可動子の位置と組み立て調整後の磁極検出器により検出された前記磁石の第1の磁力データとを対応づけて記憶しておく記憶手段と、
運転中の前記同期電動機の可動子の位置に対応した磁極検出器により検出した前記磁石の第2の磁力データと、前記第1の磁力データとを比較する比較手段と、
前記第2の磁力データが前記第1の磁力データより所定の閾値分大きいかまたは小さい場合に磁石の異常と判定する判別手段とを有する磁極検出器付き同期電動機。
【請求項2】
前記同期電動機の可動子の位置および速度と、組み立て調整後の磁極検出器により検出された前記磁石の第1の磁力データとを対応づけて記憶しておく記憶手段と、
運転中の前記同期電動機の可動子の位置および速度に対応した磁極検出器により検出した前記磁石の第2の磁力データと、前記第1の磁力データとを比較する比較手段と、
前記第2の磁力データが前記第1の磁力データより所定の閾値分大きいかまたは小さい場合に磁石の異常と判別する判別手段とを有する請求項1に記載の磁極検出器付き同期電動機。
【請求項3】
前記磁極検出器より出力される信号は略90度位相が異なる正弦波状のA相信号とB相信号から構成されており、
前記比較手段により比較する第1の磁力データと第2の磁力データは前記A相信号と前記B相信号のリサージュ波形であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁極検出器付き同期電動機。
【請求項4】
前記判別手段により磁石の異常と判別されたときの位置または速度と磁力データを表示する表示手段を有する請求項1ないし3に記載の磁極検出器付き同期電動機。
【請求項5】
可動子と、
固定子とを有し、
前記可動子と前記固定子のいずれか一方に磁石が設けられた同期電動機であって、
前記磁石に近接させて配置された磁極検出器をさらに有することを特徴とする磁極検出器付き同期電動機。
【請求項6】
前記可動子の位置を検出する位置検出器をさらに有する請求項5に記載の磁極検出器付き同期電動機。
【請求項7】
前記磁極検出器は、前記磁石からの磁力を測定することを特徴とする請求項5または6に記載の磁極検出器付き同期電動機。
【請求項8】
前記磁極検出器からの測定結果と、前記位置検出器の位置データまたは速度データとを対応させて表示する表示部をさらに有する請求項7に記載の磁極検出器付き同期電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−72023(P2009−72023A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239864(P2007−239864)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】