説明

磁気センサ装置および紙葉類識別装置

【課題】 複数の磁気センサ素子を所定の間隙を空けて配置した場合でも、コア体の間を通って引き出したコイルの巻線端部がコア体と短絡するのを確実に防止可能な磁気センサ装置、およびこの磁気センサ装置を用いた紙葉類識別装置を提案すること。
【解決手段】 コア体11に励磁コイル12および差動検出用のコイル15を巻回した磁気センサ素子10を所定の間隙を空けて配置する。コイル12、15の巻線端部121、151は、コア体11の間を通って共通の共通端子台6の端子61、62まで引き回される。共通端子台6にはコア体11の間に向けて突出した突起63が形成されているので、コイル12、15の巻線端部121、151を突起63に沿って引き回し、その巻き弛みを防止し、巻線端部121、151とコア体11との短絡を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣や有価証券等の紙葉類における真贋や種類などを識別するための磁気センサ装置、およびこの磁気センサ装置を用いた紙葉類識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣や有価証券等の紙葉類における真贋や種類などを識別するための紙葉類識別装置としては、コア体にコイルを巻回した磁気センサによって、磁気インクにより紙幣に印刷されたパターンを検出する方式が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平4−52518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここに開示の装置では、紙葉類の搬送方向に沿って磁気センサ素子を配置しているが、複数の磁気センサ素子を紙葉類の搬送方向と交差する幅方向で所定の間隙を空けて配置して各磁気センサ素子からの出力に基づいて紙葉類を検出すれば、高い精度での検出を行うことができる。
【0004】
しかしながら、このような構成において、紙葉類において磁気センサ素子の間を通る部分からも情報を確実に検出するには、磁気センサ素子の間隔を狭める必要があるため、磁気センサ素子の間を通ってコイルの巻線端部を引き出した際、コイル巻線がコア体と短絡してしまうという問題点がある。このような問題点は、コイル巻線に樹脂層が被覆してあっても、かかる樹脂層は極めて薄いため、従来は避けられない問題である。
【0005】
以上の問題に鑑みて、本発明の課題は、複数の磁気センサ素子を所定の間隙を空けて配置した場合でも、コア体の間を通って引き出したコイルの巻線端部がコア体と短絡するのを確実に防止可能な磁気センサ装置、この磁気センサ装置を用いた紙葉類識別装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、コア体にコイルが巻回された磁気センサ素子が複数、被検出体に対する相対移動方向に交差する幅方向で所定の間隙を空けて配置されている磁気センサ装置において、前記コイルの巻線端部が各々、接続される複数の端子を保持する端子台を有し、当該端子台は、前記コア体の幅方向の両側位置に向けて突出する複数の突起を備え、前記コイルの巻線端部は各々、前記突起に沿って前記端子まで引き回されていることが好ましい。
【0007】
本発明において、コイルの巻線端部は、端子台からコア体の間に向けて突出した突起に沿って引き回されているため、端子に到る途中位置で突起に支持され、途中に弛みが発生しない。従って、磁気センサ素子の間隔を狭めることにより検出感度を高めた場合でも、コイル巻線がコア体と短絡するのを確実に防止することができる。
【0008】
本発明において、前記端子台は、前記複数の磁気センサ素子に対して共通の共通端子台として構成され、前記複数の突起は、隣接する突起の間に前記コア体を保持して前記共通端子台と前記磁気センサ素子とを位置決めしていることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記コイルは、前記コア体に対して、前記被検出体が通るセンサ面側で巻回された第1のコイルと、前記センサ面側とは反対側で巻回された第2のコイルとからなり、前記第1のコイルと前記第2のコイルは、前記コア体に対するターン数が等しく、かつ、前記突起に沿って引き回された引き出し部分の長さ寸法の差が1ターン当たりの長さ寸法の1/2倍以下であることが好ましい。差動検出方式の場合には、コア体のセンサ面側に第1のコイルが巻回され、センサ面側とは反対側に第2のコイルが巻回されるが、第1のコイルと第2のコイルとの長さ寸法の差を短くすれば、検出精度を向上することができる。それ故、微小な磁気量を感度よく検出することが求められる紙幣類識別装置で用いるのに適している。
【0010】
本発明に係る磁気センサ装置は、紙幣や有価証券等の紙葉類における真贋や種類などを識別するための紙葉類識別装置に用いることができ、この紙葉類識別装置では、磁気センサ素子によって、磁気インクにより紙葉類に印刷されたパターンなどを検出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、コイルの巻線端部は、端子台からコア体の間に向けて突出した突起に沿って引き回されているため、端子に到る途中位置で突起に支持され、途中に弛みが発生しない。従って、磁気センサ素子の間隔を狭めることにより検出感度を高めた場合でも、コイル巻線がコア体と短絡するのを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した磁気センサ装置、磁気センサ装置の製造方法およびこの磁気センサ装置を搭載した紙葉類識別装置を説明する。
【0013】
(全体構成)
図1は、本発明を適用した紙葉類識別装置の要部構成を示す構成図である。図2(a)、(b)は、本発明を適用した紙葉類識別装置に使用される自励式の磁気センサ素子の説明図、およびこの磁気センサ素子を搭載した磁気センサ装置を用いたときの駆動回路の説明図である。
【0014】
図1において、紙葉類識別装置1は、紙幣や小切手などの紙葉2の紙面に形成されているパターンを検出して、その真贋や種類を識別するため装置である。紙葉2には、磁気インクなどの磁性材料により印刷パターン21が形成されており、それらを検出することにより、紙葉2の真贋や種類を識別する。
【0015】
紙葉類識別装置1は、紙葉2を搬送路3に沿って搬送する搬送機構(図示せず)、搬送路3の途中位置に配置された磁気センサ装置10、この磁気センサ装置10に交流電流を供給する電源回路(図示せず)、磁気センサ装置10からの出力を処理する検出回路(図示せず)などを備えている。
【0016】
磁気センサ装置10では、搬送路3の幅方向(紙葉2の搬送方向に交差する方向)に向かって複数の磁気センサ素子100が所定の間隙を空けて配置されている。そして、磁気センサ装置10は、搬送される紙葉2のうち、その上方位置を通る部位のパターンを時系列に検出する。なお、紙葉2の搬送方向は矢印Wで示してある。
【0017】
磁気センサ装置10は、図2(a)に示す自励式の磁気センサ素子100を備えている。この磁気センサ素子100は、溝部16が開口するセンサ面110を備えたコア体11と、溝部16内に配置されたパターン検出用の励磁コイル12とを備えている。より具体的に説明すると、コア体11は、水平部111と、その中央、一方の端部、および他方の端部から搬送路およびその反対側に向けて延びた計6枚の垂直板部112、113、114、115、116、117とを備えており、垂直板部112、113、114の上端面によってセンサ面110が構成されている。このため、コア体11には、垂直板部112、113の間、および垂直板部112、114の間に、センサ面110で開口する溝部16が形成され、この溝部16内には、垂直板部112を巻回するように、巻線ボビン(図示せず)に巻回されたボイスコイルからなるパターン検出用の励磁コイル12(第1のコイル)が配置されている。
【0018】
また、コア体11には、垂直板部115、116の間、および垂直板部115、117の間にも、センサ面110とは反対側で開口する溝部17が形成され、この溝部17内には垂直板部115を巻回するように、巻線ボビン(図示せず)に巻回されたボイスコイルからなる差動検出用のコイル15(第2のコイル)が配置されている。ここで、パターン検出用の励磁コイル12と差動検出用のコイル15とは、後述する駆動回路において直列に接続され、その両端に交流電流に供給される。そして、パターン検出用の励磁コイル12と差動検出用のコイル15との接続点から信号が出力される。なお、溝部16、17には、励磁コイル12および差動検出用のコイル15が装着された後、樹脂が充填されることがある。
【0019】
このような磁気センサ素子100を搭載した磁気センサ装置10を用いて、差動検出法により信号検出を行う場合には、図2(b)に示す駆動回路が用いられる。この駆動回路は、複数の磁気センサ素子100各々に形成されたパターン検出用の励磁コイル12、および差動検出用のコイル15に交流電流を供給する共通の電気回路40と、各磁気センサ素子100に対応する複数のセンサ信号処理回路30とを有している。センサ信号処理回路30は、差動アンプ31、半波整流回路あるいは全波整流回路などの整流回路32、ローパスフィルタ33、増幅アンプ34などから構成されており、各磁気センサ素子100からの出力信号を増幅する。また、各センサ信号処理回路30から出力される出力パターンを照合することにより、紙葉2の真贋や種類を識別できる。
【0020】
(磁気センサ装置の詳細構成)
図3(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本発明を適用した磁気センサ装置の要部構成を示す正面図、底面図および側面図である。
【0021】
図3に示すように、本形態の磁気センサ装置10は、複数のコア体11が所定の間隙18を空けて配置され、かつ、複数のコア体11の各々には、巻線ボビン122、152に巻回された励磁コイル12、および差動検出用のコイル15が装着されている。ここで、磁気センサ素子100では、センサ面110の側に研磨が施されており、センサ面110側の平面度や寸法精度を高めてある。なお、図示を省略するが、センサ面110には耐磨耗板が接合される場合があり、この場合、耐磨耗板を接合した後、耐磨耗板の表面を研磨することがある。
【0022】
ここで、複数のコア体11はいずれも、溝16、17が開口する面に隣接する端面が連結板5に所定の間隙18を空けて接合されており、本形態の磁気センサ装置10では、複数の磁気センサ素子100が一体に構成されている。連結板5は、剛性を有しているものであれば、磁性材料あるいは非磁性材料のいずれであってもよく、剛性を確保するという点からすれば、SUS板やセラミックス板が好ましい。
【0023】
また、本形態の磁気センサ装置10では、連結板5が接合されている側とは反対側に、各磁気センサ素子100で共通の共通端子台6が取り付けられている。共通端子台6は、樹脂成形品であり、各磁気センサ素子100の励磁コイル12および差動検出用のコイル15から引き出された巻線端部が接続される複数の端子61、62が固着されている。共通端子台6にはプリント配線基板7が取り付けられており、端子61、62の基端側の端部71、72は、プリント配線基板7に接続されている。なお、磁気センサ装置10では、隣接するコア体11の間隙18には樹脂が充填されている。
【0024】
このように構成した共通端子台6には、複数のコア体11の各々の両側に向けて突出した段部64(ガイド)を備えた複数の突起63が形成されており、これらの突起63は、隣接する突起63の間にコア体11を保持して共通端子台6と磁気センサ素子100とを位置決めしている。
【0025】
また、各磁気センサ素子100の励磁コイル12および差動検出用のコイル15からの引き出し部分121、151は各々、突起63の段部64に掛けられることにより突起63に沿って両側から端子61、62まで緊張した状態で引き回されている。従って、励磁コイル12および差動検出用のコイル15の引き出し部分121、151をコア体11に接触させずに端子61、62まで引き回すことができる。それ故、コア体11が導電性を有している場合でも、引き出し部分121、151がコア体11を介して短絡するということがない。
【0026】
ここで、励磁コイル12および差動検出用のコイル15では、コア体11に対するターン数が等しい。しかも、端子61、62は、各磁気センサ素子100が配置されている方向において略一直線に並んでいる。しかも、励磁コイル12および差動検出用のコイル15からの引き出し部分121、151は各々、突起63に沿って両側から端子61、62まで緊張した状態で引き回されている。従って、励磁コイル12の引き出し部分121と、差動検出用のコイル15の引き出し部分151とでは、互いの長さ寸法の差が1ターン当たりの長さ寸法の1/2倍以下に設定することができる。このため、差動検出法を用いて検出する際、高い検出精度を得ることができる。
【0027】
(磁気センサ装置の製造方法)
図4(a)、(b)は、本発明を適用した磁気センサ装置の製造方法を示す説明図である。本形態の磁気センサ装置10を製造するにあたっては、図4(a)に示すように、まず、コア体11を複数形成することができる角棒状の母材4(角棒状のフェライト)と、連結板5とを準備した後、接合工程において、母材4の端面を連結板5の一方の面に熱硬化樹脂などにより接合する。
【0028】
次に、図4(b)に示すように、コイル巻回部分形成工程において、切削あるいは研削により、連結板5に固定された状態の母材4に対して、溝部16、17を形成するための溝加工を行い、コイルを巻回する部分(垂直板部112、115)を形成する。
【0029】
次に、母材分割工程において、連結板5に固定された状態の母材5を複数のコア体11に分割する。その結果、所定の間隙を空けて配置された複数のコア体11が形成される。
【0030】
次に、図3(a)、(b)、(c)を参照して説明したように、連結板5に固定されたコア体11に対して共通端子台6を取り付ける。
【0031】
次に、複数のコア体11の各々に、巻線ボビン122、152に巻回された励磁コイル12および差動検出用のコイル15を装着するとともに、その巻線端部を端子61、62に接続する。しかる後には、隣接する複数のコア体11の間隙18に樹脂を充填した後、硬化させる。
【0032】
なお、上記形態では、コイル巻回部分形成工程を行った後、母材分割工程を行ったが、母材分割工程を行った後、コイル巻回部分形成工程を行ってもよい。また、連結板5に母材4を接合する前に溝部16、17を形成するための溝加工を行った後、母材4を連結板5に接合してもよい。また、上記形態では、連結板5に固定されたコア体11に対して共通端子台6を取り付けた後、励磁コイル12および差動検出用のコイル15をコア体11に装着したが、励磁コイル12および差動検出用のコイル15をコア体11に装着した後、コア体11に対して共通端子台6を取り付けてもよい。
【0033】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の磁気センサ装置10では、各磁気センサ素子100の励磁コイル12および差動検出用のコイル15からの引き出し部分121、151(巻線端部)は各々、突起63の段部64に掛けられることにより突起63に沿って両側から端子61、62まで緊張した状態で引き回されている。従って、励磁コイル12および差動検出用のコイル15の引き出し部分121、151の弛みを防止できるので、引き出し部分121、151をコア体11に接触させずに端子61、62まで引き回すことができる。それ故、コア体11が導電性を有し、かつ、コア体11の間隔が狭い場合でも、引き出し部分121、151がコア体11を介して短絡するということがない。
【0034】
また、本形態では、磁気センサ装置10を製造するにあたって、母材4の端面を連結板5に接合した後、この状態で母材4を個々のコア体11に分割するため、コア体11相互の相対位置精度が高い。従って、磁気センサ素子100相互の相対位置精度が高いので、紙葉類識別装置1において、紙葉2を識別する際、高精度の識別が可能である。
【0035】
また、本形態において、複数の磁気センサ素子100が各々、連結板5にコア体11の端面が接合された状態の磁気センサ装置10を紙葉類識別装置1に搭載する。従って、複数の磁気センサ素子100を各々、紙葉類識別装置1に搭載する必要がないので、組立工程を簡素化でき、かつ、磁気センサ素子100相互の相対位置精度が高いまま、紙葉類識別装置1に搭載することができる。
【0036】
しかも、コア体11は、共通端子台6の突起63によって両側から保持された状態にあるため、コア体11が位置ずれしにくい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用した紙葉類識別装置の要部構成を示す構成図である。
【図2】(a)、(b)は、本発明を適用した紙葉類識別装置に使用される自励式の磁気センサ素子の説明図、およびこの磁気センサ素子を搭載した磁気センサ装置を用いたときの駆動回路の説明図である。
【図3】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本発明を適用した磁気センサ装置の要部構成を示す正面図、底面図および側面図である。
【図4】(a)、(b)は、本発明を適用した磁気センサ装置の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 紙葉類識別装置
2 紙葉
4 母材
5 連結板
6 共通端子台
10 磁気センサ装置
11 コア体
12 パターン検出用の励磁コイル
15 差動検出用のコイル
16、17 溝部
18 間隙
61、62 端子
63 突起
100 磁気センサ素子
121 励磁コイルの引き出し部分
151 差動検出用コイルの引き出し部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア体にコイルが巻回された磁気センサ素子が複数、被検出体に対する相対移動方向に交差する幅方向で所定の間隙を空けて配置されている磁気センサ装置において、
前記コイルの巻線端部が各々、接続される複数の端子を保持する端子台を有し、
当該端子台は、前記コア体の幅方向の両側位置に向けて突出する複数の突起を備え、
前記コイルの巻線端部は各々、前記突起に沿って前記端子まで引き回されていることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記端子台は、前記複数の磁気センサ素子に対して共通の共通端子台として構成され、
前記複数の突起は、隣接する突起の間に前記コア体を保持して前記共通端子台と前記磁気センサ素子とを位置決めしていることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記コイルは、前記コア体に対して、前記被検出体が通るセンサ面側で巻回された第1のコイルと、前記センサ面側とは反対側で巻回された第2のコイルとからなり、
前記第1のコイルと前記第2のコイルは、前記コア体に対するターン数が等しく、かつ、前記突起に沿って引き回された引き出し部分の長さ寸法の差が1ターン当たりの長さ寸法の1/2倍以下であることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された磁気センサ装置を搭載したことを特徴とする紙葉類識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−64840(P2007−64840A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252512(P2005−252512)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】