説明

磁気トンネル接合、磁気ランダムアクセスメモリ、渦磁化状態の形成方法および渦磁化状態の切り換え方法

【課題】 フリー層およびリファレンス層が渦磁化状態を有し、高密度用途および高速用途に適用することが可能なMRAMを提供する。
【解決手段】 自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有する強磁性フリー層27に交換結合定数を低下させるためのドーパントが含まれていると共に、固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有する強磁性ピンド層25(リファレンス層)に交換結合定数を低下させるためのドーパントが含まれている。磁化状態を切り換えるために形状異方性を利用していた従来の場合とは異なり、交換結合定数やMst(飽和磁束密度×厚さ)などに代表される磁性膜に固有な膜特性を利用して磁化状態が切り換えられるため、大きな保磁力が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性変化を利用して情報を記録する磁気トンネル接合(MTJ;magnetic tunnel junction)、その磁気トンネル接合を備えた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM;magnetic random access memory )、ならびに渦磁化状態の形成方法および渦磁化状態の切り換え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリデバイスとして、磁気トンネル接合(MTJ)を備えた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)が知られている。このMRAMは、将来のメモリ用途において、高密度化、高速化(再生/記録速度=1ナノ秒〜30ナノ秒)および不揮発化を実現可能なメモリデバイスとして期待されている有力候補である。MRAMは、複数のMTJがアレイ状に配列された集合体であり、一般に、第1の水平面に平行配置された第1の導電線のアレイと、その第1の水平面と直交する方向において間隔を隔てて平行配置された第2の導電線のアレイと、第1の水平面と第2の水平面との間において第1の導電線および第2の導電線が互いに交差する箇所に配置されたMTJのアレイとを備えている。第1の導電線はワード線であり、第2の導電線はビット線であってもよいし、あるいは反対であってもよい。なお、第1の導電線は、下部電極である区分線であってもよい。第1の導電線の下方には、一般に、トランジスタやダイオードなどの他のデバイスが配置されている。
【0003】
MTJは、トンネルバリア層を挟んで2つの強磁性層が積層された積層構造を含んでいる。このトンネルバリア層は、酸化アルミニウム(Al2 3 )または酸化窒化アルミニウム(AlNX Y )などの薄い非磁性絶縁層である。2つの強磁性層のうちの一方はピンド層であり、他方はフリー層である。このピンド層の磁化(磁気モーメント)方向は、所定の方向に沿ってほぼ均一であると共に、隣接された反強磁性(AFM;anti-ferromagnetic)ピンニング層と交換結合されることにより固定されている。一方、フリー層の磁化方向は、外部磁界に応じて変化可能になっており、導電線に電流が供給されることにより生じた外部磁界に応じて変化する。フリー層の磁化方向がピンド層の磁化方向と平行である場合には、フリー層の磁化方向がピンド層の磁化方向と反平行である場合と比較して、トンネル電流が絶縁層(トンネルバリア層)を流れる際に抵抗が低くなる。MTJでは、2つの異なる磁化状態(抵抗レベル)のうちの1つが選択されることにより、情報が磁気的に記録される。
【0004】
再生動作時には、一般に、膜面直交電流型(CPP;current perpendicular to plane)構造を有するMTJにセンス電流を流すことにより、そのセンス電流を通じてMTJの磁化状態(抵抗レベル)が検出されるため、情報が磁気的に再生される。一方、記録動作時には、ビット線およびワード線に電流を供給して外部磁界を生じさせることにより、MTJの磁化状態が変化されるため、情報が磁気的に記録される。記録対象となるMTJ(選択セル)では、隣接セル(半選択セル)においてビット線またはワード線の一方に電流が供給される(ビット線磁界またはワード線磁界に晒される)のに対して、ビット線およびワード線の双方に電流が供給される(ビット線磁界およびワード線磁界の双方に晒される)。MTJのサイズや、フリー層のスイッチング磁界に影響を及ぼすMTJの形状によっては、選択セルに記録する際に、半選択セルの磁気的状態が意図せずに変化してしまう。
【0005】
情報(磁化状態)を消去されないように維持するためには、記録箇所である磁性層において面内磁気異方性が十分に強くなければならない。従来の設計では、磁気異方性として、矩形状パターン、楕円状パターン、目状パターンおよび菱型状パターンなどのパターン形状に基づく形状異方性を利用している。この種の設計に関する問題は、保磁力がMTJの形状、アスペクト比およびサイズに大きく依存するため、その保磁力がセルパターニングプロセスの精度の影響(セル形状やエッジ形状)を大きく受けることである。MTJのサイズに差異が生じると、スイッチング磁界を制御することが困難になる。
【0006】
現行のDRAM(dynamic random access memory)、SRAM(static random access memory )およびフラッシュメモリなどとMRMAを競合させるためには、セルサイズがサブミクロン寸法でなければならない。ところが、セルサイズがサブミクロン寸法になると、熱運動に起因してセル中の磁化(特に半選択セル中の磁化)がランダムに変化してしまう。半選択セルにおいて熱運動が生じることを防止するためには、磁気異方性をより強くしなければならない。言い換えれば、記録電流を極めて大きくしなければならないため、高電流消費および高電力消費に起因して、MRAMを既存の他のメモリと競合させることが困難になる。このことから、高密度用途および高速用途においてMRAMを適用可能にするためには、十分な磁気異方性を確保可能な代替手段が必要となる。
【0007】
図18は、従来のMRAM100の断面構成を表している。このMRAM100は、2つのMTJ104を有する2つのセルを含んでいる。具体的には、MRAM100は、基体102と、その基体102に設けられた2つの下部電極103と、絶縁層105により周囲を埋設された2つのMTJ4と、ビット線106と、絶縁層107と、絶縁層108により周囲を埋設されたワード線109とがこの順に積層された積層構造を有している。
【0008】
MTJ104およびワード線109は下部電極103に対応して配置されており、そのMTJ104は下部電極103に隣接されている。絶縁層107は、化学機械研磨(CMP;chemical mechanical polish)プロセスを使用して研磨されることにより平坦化されている。なお、MRAM100は、再生動作時および記録動作時において特定のMTJ104を選択するために使用される回路(図示せず)なども併せて備えている。
【0009】
図19は、図18に示したMRAM100のうちの主要部(MTJ104)の断面構成を拡大して表している。このMTJ104は、下部電極103に近い側から順に、ニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)などにより構成された1層または2層以上のシード層110と、白金マンガン合金(PtMn)などの反強磁性材料により構成された反強磁性(AFM)ピンニング層111と、コバルト鉄合金(CoFe)などの強磁性材料を含む多層構造を有するリファレンス層としての強磁性ピンド層112と、酸化アルミニウム(Al2 3 )などの絶縁性材料により構成されたトンネルバリア層113と、ニッケル鉄合金(NiFe)などの強磁性材料を含む多層構造を有する強磁性フリー層114と、1層または2層以上の保護層115とが積層された積層構造を有している。保護層115が1層である場合、その保護層115は、ビット線106と電気的に接続可能となるようにルテニウム(Ru)などの導電性材料により構成されている。このMTJ104は、強磁性ピンド層112が強磁性フリー層114よりも下部電極103に近い側に位置するボトムリファレンス構造を有している。なお、MTJ104は、強磁性フリー層114が強磁性ピンド層112よりも下部電極103に近い側に位置するトップリファレンス構造(下部電極103に近い側から順に、シード層110/強磁性フリー層114/トンネルバリア層113/強磁性ピンド層112/反強磁性ピンニング層111/保護層115)を有していてもよい。
【0010】
なお、MRAMおよびMTJに関連する技術としては、既にいくつかの技術が提案されている。
【0011】
具体的には、MTJのうちのリファレンス磁性領域に、ネット磁気モーメントがゼロとなるように渦磁化状態を形成するプロセスが知られている(例えば、特許文献1参照。)。MTJに磁界が供給されると、ビット容易軸またはネット供給磁界と直交する方向において渦中心がシフトされる。
【特許文献1】米国特許第6654278号明細書
【0012】
また、フリー層およびピンド層がほぼ円形状(等方性)を有すると共に渦磁化状態を有するMTJデバイスが知られている(例えば、特許文献2参照。)。MTJに記録電流が流れると、フリー層の渦磁化状態を第1の方向から第2の方向に変化させるように自己磁界が生じる。
【特許文献2】米国特許第6269018号明細書
【0013】
また、強磁性材料の閉ループが偶数の逆感度の磁区を有する磁気素子が知られている(例えば、特許文献3参照。)。ノッチを有する2つの円形ループが重ね合わされており、一方の円形ループの磁区が他方の円形ループの磁区と平行または反平行になっている。
【特許文献3】米国特許公開公報2004/0021539
【0014】
また、記憶素子のうちの円形状の第1の磁性膜にスピン渦を形成することにより、そのスピン渦の中心において垂直磁化を生じさせる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。第2の磁性膜は、上面および下面に垂直な磁化を有している。
【特許文献4】米国特許公開公報2002/0196658
【0015】
また、2つまたは4つの電流伝導バイアスバスバーの間にリング状素子を配置させるリング型再生方法および記録方法が知られている(例えば、特許文献5参照。)。バスバーのうちの1つは、渦磁界を生じさせるためにリング状素子の開口に延在しており、他のバスバーは、渦磁界を横切るように磁界を生じさせる。
【特許文献5】米国特許第6266289号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来のMRAMでは、上記したように、セルサイズがサブミクロン寸法になると記録電流を大きくしなければならないため、高密度用途および高速用途に適用することが困難である。したがって、セルサイズをサブミクロン寸法にしつつ、高密度用途および高速用途に適用することが可能なMRAM(MTJを含む)を確立する必要がある。この場合には、特に、MTJにおいて生じる渦磁化状態に着目して、渦磁化状態を形成および切り換えることが可能な方法を確立することも重要である。
【0017】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、フリー層およびリファレンス層が渦磁化状態を有し、高密度用途および高速用途に適用することが可能な磁気トンネル接合および磁気ランダムアクセスメモリを提供することである。
【0018】
また、本発明の第2の目的は、渦磁化状態を制御することが可能な渦磁化状態の形成方法および渦磁化状態の切り換え方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る磁気トンネル接合は、磁気ランダムアクセスメモリ中において第1の導電線と第2の導電線との間に配置されると共に長さおよび幅を有するものであり、(a)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有するフリー層と、(b)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に隣接された反強磁性層により固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有するリファレンス層と、(c)フリー層とリファレンス層との間に配置されたトンネルバリア層とを備えたものである。
【0020】
本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリは、基体上に配置されたものであり、(a)第1の水平面に配置された第1の導電線のアレイと、(b)第1の導電線と直交する方向において第1の水平面と平行な第2の水平面に配置された第2の導電線のアレイと、(c)第1の水平面と第2の水平面との間において第2の導電線が第1の導電線と交差する箇所に配置された磁気トンネル接合のアレイとを備え、磁気トンネル接合が、(1)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有するフリー層と、(2)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に隣接された反強磁性層により固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有するリファレンス層と、(3)フリー層とリファレンス層との間に配置されたトンネルバリア層とを含むものである。
【0021】
本発明に係る磁気トンネル接合または磁気ランダムアクセスメモリでは、自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有するフリー層に交換結合定数を低下させるためのドーパントが含まれていると共に、固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有するリファレンス層に交換結合定数を低下させるためのドーパントが含まれている。この場合には、磁化状態を切り換えるために形状異方性を利用していた従来の場合とは異なり、交換結合定数やMst(飽和磁束密度×厚さ)などに代表される磁性膜に固有な膜特性を利用して磁化状態が切り換えられるため、大きな保磁力が得られる。しかも、例えば、磁気トンネル接合が低アスペクト比の楕円状の平面形状を有していれば、その磁気トンネル接合が楕円状以外の平面形状を有している場合と比較して、セルサイズが小さくなる。
【0022】
本発明に係る渦磁化状態の形成方法は、磁気トンネル接合中に渦磁化状態を形成する方法であり、(a)第1の導電線が第1の軸に沿って配置された基体を準備する工程と、(b)第1の導電線上に楕円状の側壁と上面および下面と長さおよび幅とを有すると共に残留磁化が第1の方向に配向されたリファレンス層およびフリー層を含むように磁気トンネル接合を形成する工程と、(c)磁気トンネル接合の上面に隣接されると共に第1の軸と直交する第2の軸に沿うように第2の導電線を形成する工程と、(d)第1の導電線および第2の導電線に電流を供給して第1の方向と反対の第2の方向に逆磁界を生じさせることによりフリー層に渦磁化状態を誘発する工程と、(e)逆磁界を取り除く工程とを含むものである。
【0023】
本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法は、磁気トンネル接合中のフリー層において第1の回転方向から第2の回転方向に渦磁化状態を切り換える方法であり、(a)第1の導電線とその第1の導電線の上方に直交するように配置された第2の導電線と第1の導電線と第2の導電線との間に配置された磁気トンネル接合とが設けられ、その磁気トンネル接合が楕円状の側壁と上面および下面と長さおよび幅とを有すると共に第1の回転方向に配向された渦磁化状態を有するフリー層を含む基体を準備する工程と、(b)第1の軸に沿った第1の方向に第1の磁界を供給することにより渦磁化状態を破壊すると共にフリー層において第1の方向に残留磁化を生じさせる工程と、(c)第1の磁界を取り除く工程と、(d)第1の方向と反対の第2の方向に第2の磁界を供給することにより第1の回転方向と反対の第2の回転方向に渦磁化状態を誘発する工程と、(e)第2の磁界を取り除く工程とを含むものである。
【0024】
本発明に係る渦磁化状態の形成方法または渦磁化状態の切り換え方法では、磁気トンネル接合のうちのリファレンス層およびフリー層において、第1の方向に磁界が供給されることにより残留磁化が生じた後、その第1の方向と反対の第2の方向に逆磁界が供給されることにより渦磁化状態が誘発されると共に、第1の回転方向の渦磁化状態を有するフリー層において、第1の方向に磁界が供給された後に取り除かれることにより渦磁化状態が破壊されると共に残留磁化が生じた後、その第1の方向と反対方向に第2の磁界が供給された後に取り除かれることにより第2の回転方向に渦磁化状態が誘発される。この場合には、磁化状態を切り換えるために形状異方性を利用していた従来の場合と比較して、信頼性および選択性が確保される。
【0025】
本発明に係る磁気トンネル接合では、フリー層の回転方向およびリファレンス層の回転方向が時計回りまたは反時計回りであることにより低抵抗状態を生じさせる一方で、フリー層の回転方向がリファレンス層の回転方向と反対であることにより高抵抗状態を生じさせる。
【0026】
また、本発明に係る磁気トンネル接合では、磁気トンネル接合が厚さと第2の導電線に隣接された上面と第1の導電線に隣接された下面と楕円状の側壁とを有し、その磁気トンネル接合の長さおよび幅が側壁により規定されており、側壁により画定される楕円が長軸寸法を長さとすると共に短軸寸法を幅としたとき3よりも小さなアスペクト比(長さ/幅)を有していてもよい。あるいは、磁気トンネル接合が厚さと第2の導電線に隣接された上面と第1の導電線に隣接された下面と楕円状の側壁とを有し、側壁により画定される楕円が同一の長軸を有すると共にその長軸に沿って配置された第1の半楕円および第2の半楕円が組み合わされた非対称の楕円であり、第1の半楕円が第1の短軸寸法を有すると共に第2の半楕円が第1の短軸寸法よりも小さな第2の短軸寸法を有していてもよい。この場合には、非対称の楕円が長軸に沿った長さと第1の短軸寸法および第2の短軸寸法の総和である幅とを有し、長さに対する幅の比が5よりも小さくてもよい。
【0027】
また、本発明に係る磁気トンネル接合または磁気ランダムアクセスメモリでは、フリー層およびリファレンス層がニッケル、鉄およびコバルトのうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、ドーパントが炭素、窒素、ホウ素、ジルコニウム、タンタル、白金、ニオブまたはハフニウムのうちの1つであり、そのドーパントの含有量が1重量%以上40重量%以下の範囲内であってもよい。また、反強磁性層が白金マンガン合金、ニッケルマンガン合金、オスミウムマンガン合金、イリジウムマンガン合金、ルテニウムマンガン合金、ロジウムマンガン合金、パラジウムマンガン合金、ルテニウムロジウムマンガン合金またはクロムパラジウムマンガン合金を含んでいてもよい。この場合には、リファレンス層がロジウム、ルテニウム、クロムまたは銅(Cu)を含む結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたSyAP構造を有し、フリー層がロジウム、ルテニウム、クロムまたは銅を含む結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたSAF構造を有していてもよい。なお、フリー層は、第1の強磁性層が非強磁性金属スペーサを介して第2の強磁性層に反平行静磁性結合された複合層であってもよい。
【0028】
また、本発明に係る磁気トンネル接合では、第2の導電線が500nmよりも小さな厚さを有すると共に磁気トンネル接合の幅よりも大きな幅を有する導電性非磁性層を含むビット線であり、第1の導電線が500nmよりも小さな厚さを有すると共に磁気トンネル接合の幅の50%よりも大きなを幅を有する導電性材料を含むワード線であってもよい。この場合には、第1の導電線および第2の導電線が磁気トンネル接合に隣接された一面を含む4つの面を有し、磁気トンネル接合に隣接されていない3つの面に磁気被覆層が形成されていてもよい。また、フリー層が1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有し、リファレンス層が1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有していてもよい。
【0029】
本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリでは、磁気トンネル接合が厚さと第2の導電線に隣接された上面と第1の導電線に隣接された下面と楕円状の側壁とを有すると共に、その側壁により規定された長さおよび幅を有していてもよい。この場合には、側壁により画定される楕円が長軸寸法に等しい長さおよび短軸寸法に等しい幅を有し、幅に対する長さの比が3よりも小さくてもよい。あるいは、側壁により画定される楕円が同一の長軸を有すると共にその長軸に沿って配置された第1の半楕円および第2の半楕円が組み合わされた非対称の楕円であり、第1の半楕円が第1の短軸寸法を有すると共に第2の半楕円が第1の短軸寸法よりも小さな第2の短軸寸法を有していてもよい。この場合には、非対称の楕円が長軸に沿った長さと第1の短軸寸法および第2の短軸寸法の総和である幅とを有し、長さに対する幅の比が5よりも小さくてもよい。なお、磁気トンネル接合は5μmよりも小さな長さおよび幅を有していてもよい。
【0030】
また、本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリでは、第2の導電線が500nmよりも小さな厚さを有するビット線であり、第1の導電線が500nmよりも小さな厚さを有するワード線であってもよい。この場合には、ワード線およびビット線のうちの一方または双方が導電性層とその導電性層を被覆する磁気被覆層とを含み、磁気被覆層が導電性層のうちの磁気トンネル接合に隣接された面を被覆していなくてもよい。特に、第1の導電線が磁気トンネル接合の幅の50%よりも大きな幅を有し、第2の導電線が磁気トンネル接合の幅よりも大きな幅を有していてもよい。
【0031】
また、本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリでは、フリー層の回転方向およびリファレンス層の回転方向が時計回りまたは反時計回りであることにより磁気トンネル接合において低抵抗状態を生じさせる一方で、フリー層の回転方向がリファレンス層の回転方向と反対であることにより磁気トンネル接合において高抵抗状態を生じさせる。
【0032】
本発明に係る渦磁化状態の形成方法では、磁気トンネル接合を形成する工程が第1の方向に磁界を供給することにより残留磁化を生じさせる工程を含み、逆磁界の強度が残留磁化を生じさせるために供給した磁界の強度よりも小さくなるようにしてもよい。
【0033】
また、本発明に係る渦磁化状態の形成方法では、フリー層に第1の渦磁化状態を形成し、リファレンス層に第2の渦磁化状態を形成してもよい。この場合には、第1の渦磁化状態および第2の渦磁化状態が時計回り回転または反時計回り回転であることにより磁気トンネル接合において低抵抗状態を生じさせる一方で、第1の渦磁化状態の回転が第2の渦磁化状態の回転と反対であることにより磁気トンネル接合において高抵抗状態を生じさせる。
【0034】
また、本発明に係る渦磁化状態の形成方法では、側壁により画定される楕円が長軸寸法に等しい長さおよび短軸寸法に等しい幅を有し、幅に対する長さの比が3よりも小さくてもよい。あるいは、側壁により画定される楕円が同一の長軸を有すると共にその長軸に沿って配置された第1の半楕円および第2の半楕円が組み合わされた非対称の楕円であり、第1の半楕円が第1の短軸寸法を有すると共に第2の半楕円が第1の短軸寸法よりも小さな第2の短軸寸法を有していてもよい。特に、非対称の楕円が長軸に沿った長さと第1の短軸寸法および第2の短軸寸法の総和である幅とを有し、幅に対する長さの比が5よりも小さくてもよい。
【0035】
また、本発明に係る渦磁化状態の形成方法では、さらに、リファレンス層に隣接するように反強磁性層を形成することにより、その反強磁性層を利用して時計回りまたは反時計回りの回転となるように第2の渦磁化状態を固定する工程を含んでもよい。特に、第1の導電線および第2の導電線の双方が導電性層とその導電性層を被覆する磁気被覆層とを含み、磁気被覆層が導電性層のうちの磁気トンネル接合に隣接された面を被覆しないようにしてもよい。
【0036】
また、本発明に係る渦磁化状態の形成方法では、フリー層およびリファレンス層がニッケル、鉄およびコバルトのうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、ドーパントが炭素、窒素、ホウ素、ジルコニウム、タンタル、白金、ニオブまたはハフニウムのうちの1つであり、そのドーパントの含有量が1重量%以上40重量%以下の範囲内であるようにしてもよい。特に、磁気トンネル接合が磁気ランダムアクセスメモリ中において第1の導電線のアレイと第2の導電線のアレイとの間に配置された磁気トンネル接合のアレイのうちの一部であるようにしてもよい。
【0037】
本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法では、第2の磁界の強度が第1の磁界の強度よりも小くなるようにしてもよい。
【0038】
また、本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法では、磁気トンネル接合がさらに隣接された反強磁性層により第2の回転方向に固定された渦磁化状態を有するリファレンス層を含むようにし、(e)工程の後に磁気トンネル接合において低抵抗状態が生じるようにしてもよいし、あるいは反強磁性層により第1の回転方向に固定された渦磁化状態を有するリファレンス層を含むようにし、(e)工程の後に磁気トンネル接合において高抵抗状態が生じるようにしてもよい。
【0039】
また、本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法では、フリー層が100×103 A/m以上2000×103 A/m以下の範囲内の飽和磁化(Ms)を有すると共に1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有するようにしてもよい。
【0040】
また、本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法では、第1の回転方向が反時計回りであり、第2の回転方向が時計回りであり、第1の磁界の強度が+50×103 /(4π)A/m以上+500×103 /(4π)A/m以下の範囲内であり、第2の磁界の強度が−200×103 /(4π)A/m以上−5×103 /(4π)A/m以下の範囲内であるようにしてもよいし、あるいは第1の回転方向が時計回りであり、第2の回転方向が反時計回りであり、第1の磁界の強度が−500×103 /(4π)A/m以上−50×103 /(4π)A/m以下の範囲内であり、第2の磁界の強度が+5×103 /(4π)A/m以上+200×103 /(4π)A/m以下の範囲内であるようにしてもよい。
【0041】
また、本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法では、磁気トンネル接合がさらに渦磁化状態を有するリファレンス層を含み、フリー層およびリファレンス層がニッケル、鉄およびコバルトのうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、ドーパントが炭素、窒素、ホウ素、ジルコニウム、タンタル、白金、ニオブまたはハフニウムのうちの1つであり、そのドーパントの含有量が1重量%以上40重量%以下の範囲内であるようにしてもよい。
【0042】
また、本発明に係る渦磁化状態の切り換え方法では、第1の磁界および第2の磁界が1ナノ秒以上100ナノ秒以下の範囲内の時間に渡って供給されるようにしてもよい。特に、第1の磁界を取り除く工程が0ナノ秒以上10ナノ秒以下の範囲内において磁界を供給しない工程を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係る磁気トンネル接合または磁気ランダムアクセスメモリによれば、回転方向が自由な渦磁化状態を有するフリー層に交換結合定数を低下させるためのドーパントが含まれていると共に、回転方向が固定された渦磁化状態を有するリファレンス層に交換結合定数を低下させるためのドーパントが含まれているので、大きな保磁力が得られると共に、セルサイズが小さくなる。したがって、フリー層およびリファレンス層が渦磁化状態を有し、高密度用途および高速用途に適用することができる。
【0044】
本発明に係る渦磁化状態の形成方法または渦磁化状態の切り換え方法によれば、磁気トンネル接合のうちのリファレンス層およびフリー層において、第1の方向に磁界を供給することにより残留磁化を生じさせた後、その第1の方向と反対の第2の方向に逆磁界を供給することにより渦磁化状態を誘発すると共に、第1の回転方向の渦磁化状態を有するフリー層において、第1の方向に磁界を供給した後に取り除くことにより渦磁化状態を破壊すると共に残留磁化を生じさせた後、その第1の方向と反対方向に第2の磁界を供給した後に取り除くことにより第2の回転方向に渦磁化状態を誘発するようにしたので、信頼性および選択性が確保される。したがって、磁気トンネル接合の渦磁化状態を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0046】
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の構成について説明する。図1は、MRAM20の断面構成を表している。なお、本発明の磁気トンネル接合(MTJ)は本実施の形態に係るMRAMの一部を構成するものであるため、そのMTJについては以下で併せて説明する。
【0047】
このMRAM20は、図1に示したように、ワード線22と、絶縁層29により周囲を埋設されたMTJ30と、ビット線31とがこの順に積層された積層構造を有しており、基体21上に配置されている。なお、図1では、MRAM20のうちの1つのセルに対応する箇所を抜粋して示している。MRAM20に関する上記以外の主な構成は、例えば、図18に示した従来のMRAM100の構成と同様である。
【0048】
ワード線22は、第1の水平面(仮想面;XY面)に配置された第1の導電線であり、アレイ状に複数列に渡って配列されている。一方、ビット線31は、ワード線22と直交する方向(Z軸方向)において、第1の水平面と平行に配置された第2の水平面(仮想面;XY面)に配置された第2の導電線であり、アレイ状に複数行に渡って配列されている。これらのワード線22およびビット線31は、例えば、既存のダマシンプロセスまたは非ダマシンプロセス(シート状の金属膜を成膜した後にパターニングするプロセス)を使用して形成可能である。なお、ワード線22およびビット線31の配置位置は、例えば、反対であってもよい。
【0049】
MTJ30は、第1の水平面と第2の水平面との間において、ビット線31がワード線22と交差する箇所に配置されており、複数列および複数行に渡って配列されている。このMTJ30は、例えば、ワード線22に近い側から順に、シード層23と、AFMピンニング層24と、強磁性ピンド層25と、トンネルバリア層26と、強磁性フリー層27と、保護層28とが積層された積層構造を有しており、厚さ(Z軸方向の寸法)Tと、ビット線31に隣接された上面28Aと、ワード線22に隣接された下面23Aと、側壁30Aとを有している。このMTJ30は、例えば、上記した一連の層がワード線22を被覆するようにスパッタ成膜されることにより積層された後、その一連の層がエッチングおよびパターニングされることにより形成可能である。
【0050】
シード層23は、その上に形成される層を密に充填成長させることにより均一性を促進するものであり、例えば、ニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)などにより構成されている。
【0051】
AFMピンニング層24は、強磁性ピンド層25の磁化方向を固定(ピンニング)する反強磁性層であり、例えば、白金マンガン合金(PtMn)、ニッケルマンガン合金(NiMn)、オスミウムマンガン合金(OsMn)、イリジウムマンガン合金(IrMn)、ルテニウムマンガン合金(RuMn)、ロジウムマンガン合金(RhMn)、パラジウムマンガン合金(PdMn)、ルテニウムロジウムマンガン合金(RuRhMn)またはクロムパラジウムマンガン合金(CrPdMn)などの反強磁性材料により構成されている。
【0052】
強磁性ピンド層25は、AFMピンニング層24により磁化方向が固定されたリファレンス層であり、固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有している。この強磁性ピンド層25は、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)および鉄(Fe)のうちの1つ以上またはそれらの合金を含んでおり、約1nm〜20nmの厚さを有している。特に、強磁性ピンド層25は、上記した渦磁化状態を容易に形成可能とするために、交換結合定数を低下させるためのドーパントを含んでいる。このドーパントは,例えば、炭素(C)、窒素(N)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、白金(t)、ニオブ(Nb)またはハフニウム(Hf)のうちの1つ以上であり、そのドーパントの含有量は、例えば、約1重量%〜40重量%である。なお、強磁性ピンド層25は、例えば、薄い結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたシンセティック反平行ピンド(SyAP;synthetic anti-parallel pinned)構造を有していてもよい。この場合、結合層は、2つの強磁性層間の反平行磁気結合を強固に維持するものであり、例えば、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)または銅(Cu)などの非磁性材料により構成される。ただし、上記したドーパントは、結合層に含有されない。また、2つの強磁性層は、例えば、コバルト鉄合金(CoFe)などの強磁性材料により構成され、互いに僅かに異なる厚さを有する。
【0053】
トンネルバリア層26は、例えば、酸化アルミニウム(AlOx )などの絶縁性材料により構成されており、約1.1nm〜1.5nmの厚さを有している。このトンネルバリア層26は、例えば、アルミニウム(Al)がスパッタ成膜された後に酸化されることにより形成可能である。
【0054】
強磁性フリー層27は、外部磁界に応じて磁化方向が変化可能なものであり、自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有している。この強磁性フリー層27は、例えば、強磁性ピンド層25と同様の構成材料(ドーパントを含む)により構成されており、約1nm〜20nmの厚さを有している。なお、強磁性フリー層27は、例えば、薄い結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたシンセティック反強磁性(SAF;synthetic anti-ferromagnetic)構造を有していてもよい。この場合、結合層は、例えば、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)または銅(Cu)などの非磁性材料により構成され、2つの強磁性層は、例えば、ニッケル鉄合金(NiFe)などの強磁性材料により構成される。なお、強磁性フリー層27がSAF構造を有する場合には、トンネルバリア層26に隣接する一方の強磁性層において一方方向の回転の渦磁化状態を有する一方で、保護層28に隣接する他方の強磁性層において反対方向の回転の渦磁化状態を有することにより、ネット磁気モーメントがほぼゼロとなる。さらに、強磁性フリー層27は、例えば、一方の強磁性層(第1の強磁性層)が非強磁性金属スペーサを介して他方の強磁性層(第2の強磁性層)に反平行静磁性結合された複合層であってもよい。この場合、非強磁性金属スペーサは、例えば、クロム、タンタル、銀(Ag)、金(Au)、ジルコニウム、ニッケルクロム合金(NiCr)またはニッケル鉄クロム合金(NiFeCr)などの非強磁性金属材料により構成され、2つの強磁性層間において磁化が交換結合することを防止可能な厚さを有する。
【0055】
保護層28は、例えば、銅またはルテニウムなどの導電性材料により構成されており、約5nm〜40nmの厚さを有している。なお、保護層28は、例えば、最上層としてルテニウム層を含む複合層であってもよい。
【0056】
絶縁層29は、例えば、シリコン酸化物などの絶縁性材料により構成されている。この絶縁層29は、例えば、MTJ30およびその周辺を覆うように絶縁性材料が成膜された後、そのMTJ30が露出するまで絶縁性材料が研磨されて平坦化されることにより、上面28Aと共通の面を有するように形成可能である。
【0057】
なお、基体21は、例えば、シリコン基板または半導体基板などであり、トランジスタやダイオードなどのデバイスを含んでいる。
【0058】
次に、図1〜図3を参照して、MTJ30の詳細な構成について説明する。図2および図3は、MTJ30の平面構成(上面28A側から見た平面構成)を表している。
【0059】
MTJ30の側壁30Aは、例えば、図2に示したように、長軸32(X軸に平行な軸;寸法C)および短軸33(Y軸に平行な軸;寸法D)により規定された対称(長軸32を基準として対称)な楕円形状(楕円S)を有している。すなわち、MTJ30を構成している一連の層は、互いに等しい平面形状(楕円形状)を有している。MTJ30の長さおよび幅は、上記した側壁30Aにより規定されており、その側壁30Aにより画定される楕円Sは、例えば、長軸32の寸法Cを長さとすると共に短軸33の寸法Dを幅とするとき、約3よりも小さなアスペクト比(=長さ/幅=寸法C/寸法D)を有している。ただし、寸法C,Dは、例えば、約5μmよりも小さい。MTJ30のうちの上面28Aと下面23Aとの間の距離(厚さT)は、例えば、約5nm〜100nmである。なお、長軸32および短軸33とX軸およびY軸との間の対応関係は、例えば、反対であってもよい。すなわち、長軸32がY軸に平行であり、短軸33がX軸に平行であってもよい。
【0060】
なお、側壁30Aは、例えば、図3に示したように、同一の長軸32(寸法B)を有すると共にその長軸32に沿って配置された2つの半楕円S1(第1の半楕円),S2(第2の半楕円)が組み合わされた非対称(長軸32を基準として非対称)の楕円形状(楕円S)を有していてもよい。半楕円S1は、寸法E1(第1の短軸寸法)を有する短軸34を有し、一方、半楕円S2は、寸法E2(第2の短軸寸法)を有する短軸35を有している。ここでは、例えば、寸法E1が寸法E2よりも大きくなっている(E1>E2)。この場合の楕円Sは、例えば、長軸32に沿った長さ(寸法B)と、寸法E1,E2の総和である寸法Eとを有しており、長さに対する幅の比(=長さ/幅=寸法B/寸法E)は、約5よりも小さい。この場合においても、長軸32および短軸34,35とX軸およびY軸との間の対応関係は、例えば、反対であってもよい。
【0061】
次に、図1、図4および図5を参照して、ワード線22およびビット線31の詳細な構成について説明する。図4は、MRAM20の平面構成(上面28A側から見た平面構成)を表しており、図5は、ワード線22およびビット線31の断面構成を拡大して表している。図5では、(A)がワード線22を示し、(B)がビット線31を示している。
【0062】
ワード線22およびビット線31は、図4に示したように、MTJ30の配置位置において互いに交差している。
【0063】
ワード線22は、例えば、約500nmよりも小さな厚さを有している。特に、ワード線22は、例えば、図4および図5(A)に示したように、矩形状の断面形状を有する導電性層221と、その導電性層221の周囲を三方から被覆する磁気被覆層222とを含んでいる。導電性層221は、例えば、銅などの導電性非磁性材料により構成されており、MTJ30の幅(X軸方向の寸法)の約50%よりも大きな幅W1を有している。磁気被覆層222は、例えば、ニッケル鉄合金、コバルト鉄合金、コバルトニッケル鉄合金(CoNiFe)、あるいはコバルト、ニッケルまたは鉄を含む他の合金により構成されており、約1nm以上500nm未満の厚さを有している。この磁気被覆層222は、導電性層221のうちのMTJ30に隣接された一面(上面)を含む4つの面のうち、そのMTJ30に隣接された一面を被覆しておらず、すなわちMTJ30に隣接されていない他の3つの面(下面および2つの側面)を被覆するように設けられている。
【0064】
ビット線31は、例えば、約500nmよりも小さな厚さを有している。特に、ビット線31は、例えば、図4および図5(B)に示したように、矩形状の断面形状を有する導電性層311と、その導電性層311の周囲を三方から被覆する磁気被覆層312とを含んでいる。導電性層311は、例えば、導電性層221と同様の導電性非磁性材料により構成されており、MTJ30の幅(Y軸方向の寸法)よりも大きな幅W2を有している。磁気被覆層312は、例えば、磁気被覆層222と同様の合金により構成されており、約1nm以上500nm未満の厚さを有している。この磁気被覆層312は、導電性層311のうちのMTJ30に隣接された一面(下面)を含む4つの面のうち、そのMTJ30に隣接された一面を被覆しておらず、すなわちMTJ30に隣接されていない他の3つの面(上面および2つの面)を覆うように設けられている。
【0065】
次に、図1〜図6を参照して、MRAM20の製造方法に関連して、強磁性ピンド層25および強磁性フリー層27に形成される渦磁化状態の形成方法について説明する。図6は、MRAM20の抵抗状態を説明するためのものであり、(A)が低抵抗状態を示し、(B)が高抵抗状態を示している。図6では、MRAM20の抵抗状態を説明するために、図2および図3に示した平面構成に対応する強磁性ピンド層25および強磁性フリー層27の平面構成を示している。なお、MRAM20を構成する一連の構成要素の構成や材質等に関しては既に詳細に説明したので、それらの説明を以下では随時省略する。
【0066】
渦磁化状態を形成する際には、まず、ワード線22がY軸(第1の軸)に沿って配置された基体21を準備する。このワード線22を配置する際には、図5(A)に示したように、導電性層311および磁気被覆層312を含むようにする。
【0067】
続いて、ワード線22上に、楕円状の側壁30Aと、上面28Aおよび下面23Aと、長さ(例えば寸法C)および幅(例えば寸法D)とを有すると共に、残留磁化が第1の方向に配向された強磁性ピンド層25および強磁性フリー層27を含むように、MTJ30を形成する。この場合には、第1の方向に磁界を供給することにより、残留磁化を生じさせる。このMTJ30を形成する際には、図1に示したように、ワード線22上に、シード層23、AFMピンニング層24、強磁性ピンド層25、トンネルバリア層26、強磁性フリー層27および保護層28をこの順に形成することにより積層させる。この場合には、図2に示したように、側壁30Aにより画定される楕円Sが対称な楕円となるようにしてもよいし、あるいは図3に示したように、楕円Sが非対称な楕円となるようにしてもよい。このMTJ30は、MRAM20中においてワード線22のアレイとビット線31のアレイとの間に配置されたMTJ30のアレイのうちの一部となる。
【0068】
続いて、MTJ30の上面28Aに隣接されると共にY軸と直交するX軸(第2の軸)に沿うようにビット線31を形成する。このビット31を形成する際には、図5(B)に示したように、導電性層311および磁気被覆層312を含むようにする。
【0069】
最後に、ワード線22およびビット線31に電流を供給し、第1の方向と反対方向(第2の方向)に逆磁界を生じさせることにより、強磁性フリー層27に渦磁化状態を誘発する。この場合には、例えば、逆磁界の強度が、残留磁化を生じさせるために供給した磁界の強度よりも小さくなるようにする。
【0070】
この強磁性フリー層27に渦磁化状態を誘発する際には、図6に示したように、強磁性ピンド層25に渦磁化状態40(第1の渦磁化状態)を形成すると共に、強磁性フリー層27に渦磁化状態41(第2の渦磁化状態)を形成する。この場合には、強磁性ピンド層25および強磁性フリー層27に形成される渦磁化状態40,41の回転状態(時計回り回転または反時計回り回転)に応じて抵抗状態が変化することにより、MTJ30において閉磁束構造が構築される。
【0071】
具体的には、図6(A)に示したように、強磁性ピンド層25の渦磁化状態40が時計回り回転であると共に強磁性フリー層27の渦磁化状態41が時計回り回転である場合には、MTJ30が低抵抗状態(「0」の状態)となる。もちろん、ここでは図示していないが、上記した低抵抗状態は、強磁性ピンド層25の渦磁化状態40が反時計回り回転であると共に強磁性フリー層27の渦磁化状態41が反時計回り回転である場合においても、同様に得られる。
【0072】
一方、図6(B)に示したように、強磁性ピンド層25の渦磁化状態40が時計回り回転であると共に強磁性フリー層27の渦磁化状態41が反時計回り回転である場合には、MTJ30が高抵抗状態(「1」の状態)となる。もちろん、ここでは図示していないが、上記した高抵抗状態は、強磁性ピンド層25の渦磁化状態40が反時計回り回転であると共に強磁性フリー層27の渦磁化状態41が時計回り回転である場合においても、同様に得られる。
【0073】
次に、図1を参照して、強磁性フリー層27に形成された渦磁化状態の切り換え方法について説明する。
【0074】
渦磁化状態を切り換える際には、まず、ワード線22と、ワード線22の上方に直交するように配置されたビット線31と、ワード線22とビット線31との間に配置されたMTJ30とが設けられ、そのMTJ30が、楕円状の側壁30Aと、上面28Aおよび下面23Aと、長さ(例えば寸法C)および幅(例えば寸法D)とを有すると共に第1の回転方向に配向された渦磁化状態を有する強磁性フリー層27を含むように、基体21を準備する。この基体21を準備する際には、MTJ30が、AFMピンニング層24により回転方向が固定された渦磁化状態を有する強磁性ピンド層25を含むようにする。この場合には、例えば、強磁性ピンド層25が、第1の回転方向と反対の回転方向(第2の回転方向)に固定された渦磁化状態を有するようにしてもよいし、あるいは第1の回転方向に固定された渦磁化状態を有するようにしてもよい。また、基体21を準備する際には、例えば、強磁性フリー層27が、約100×103 A/m(=100emu/cc)〜2000×103 A/m(=2000emu/cc)の飽和磁化(Ms)を有すると共に、約1nm〜20nmの厚さを有するようにする。
【0075】
続いて、第1の軸に沿った第1の方向に第1の磁界を供給することにより、渦磁化状態を破壊すると共に強磁性フリー層27において第1の方向に残留磁化を生じさせた後、その磁界を取り除く。
【0076】
最後に、第1の方向と反対の方向(第2の方向)に第2の磁界を供給することにより、第1の回転方向と反対の第2の回転方向に渦磁化状態を誘発した後、その磁界を取り除く。この場合には、例えば、第2の磁界の強度が、第1の磁界の強度よりも小さくなるようにする。強磁性ピンド層25の渦磁化状態が第2の回転方向に固定された場合には、MTJ30において低抵抗状態が生じ、一方、強磁性ピンド層25の渦磁化状態が第1の回転方向に固定された場合には、MTJ30において高抵抗状態が生じる。これにより、強磁性フリー層27において渦磁化状態が第1の回転方向から反対の第2の回転方向に切り換えられる。
【0077】
特に、強磁性ピンド層25の渦磁化状態を切り換える場合の条件は、以下の通りである。
【0078】
すなわち、第1の回転方向が反時計回りであり、第2の回転方向が時計回りである場合には、第1の磁界の強度が約+50×103 /(4π)A/m(=+50Oe)〜+500×103 /(4π)A/m(=+500Oe)であり、第2の磁界の強度が約−200×103 /(4π)A/m(=−200Oe)〜−5×103 /(4π)A/m(=−5Oe)である。一方、第1の回転方向が時計回りであり、第2の回転方向が反時計回りである場合には、第1の磁界の強度が約−500×103 /(4π)A/m(=−500Oe)〜−50×103 /(4π)A/m(=−50Oe)であり、第2の磁界の強度が約+5×103 /(4π)A/m(=+5Oe)〜+200×103 /(4π)A/m(=+200Oe)である。また、第1の磁界および第2の磁界の供給時間は、約1ナノ秒〜100ナノ秒である。さらに、第1の磁界を取り除く場合には、約0ナノ秒〜10ナノ秒の時間に渡って磁界を供給しないようにする。
【0079】
本実施の形態に係るMRAMでは、交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有する強磁性フリー層27と、同様に交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有する強磁性ピンド層25と、強磁性フリー層27と強磁性ピンド層25との間に配置されたトンネルバリア層26とを備えるようにMTJ30が構成されている。この場合には、磁化状態を切り換えるために形状異方性を利用していた従来の場合とは異なり、交換結合定数やMst(飽和磁束密度×厚さ)などに代表される磁性膜に固有な膜特性を利用して磁化状態が切り換えられる。これにより、従来の場合よりも大きな保磁力が得られるため、記録ビットの安定性が向上すると共に、記録動作時において半選択セルが消去されにくくなる。しかも、この場合には、MTJ30が低アスペクト比の楕円状の平面形状を有しているため、そのMTJ30が楕円状以外の平面形状を有している場合と比較して、セルサイズが小さくなる。これにより、MTJ30の形成工程が簡略化されると共に、高密度化が実現される。したがって、強磁性フリー層27および強磁性ピンド層25が渦磁化状態を有し、高密度用途および高速用途に適用することができる。
【0080】
また、本実施の形態に係る渦磁化状態の形成方法では、MTJ30のうちの強磁性ピンド層25および強磁性フリー層27において、第1の方向に磁界を供給することにより残留磁化を生じさせた後、反対の第2の方向に逆磁界を供給することにより渦磁化状態を誘発するようにしたので、それらの強磁性ピンド層25および強磁性フリー層27に渦磁化状態が生じる。また、本実施の形態に係る渦磁化状態の切り換え方法では、第1の回転方向の渦磁化状態を有する強磁性フリー層27において、磁界を供給することにより渦磁化状態を破壊すると共に第1の方向に残留磁化を生じさせた後、反対の第2の方向に磁界を供給することにより反対の第2の回転方向の渦磁化状態を誘発するようにしたので、その強磁性フリー層27の渦磁化状態が第1の回転方向から第2の回転方向に切り換えられる。したがって、本実施の形態では、磁化状態を切り換えるために形状異方性を利用していた従来の場合と比較して、信頼性および選択性が確保されるため、MTJ30の渦磁化状態を制御することができる。
【実施例】
【0081】
次に、本発明に関する実施例について説明する。
【0082】
コンピュータシミュレーションを利用して、本発明のMRAMのうちの強磁性フリー層27の磁気特性を調べたところ、以下の一連の結果が得られた。
【0083】
まず、時計回り回転の渦磁化状態の形成メカニズムを調べたところ、図7および図8に示した結果が得られた。図7および図8は強磁性フリー層27の磁化状態に関するシミュレーション結果を表しており、図7はシミュレーション結果60を示し、図8はシミュレーション結果61を示している。図7および図8に示した複数の小さな矢印は、基体21に平行な水平面(X,Y座標)内おける磁化方向を示している。確認までに説明しておくと、X方向(−X,+X)は楕円Sの長軸32(寸法C)に沿った方向であり、Y軸方向(+Y)は、楕円Sの短軸33(寸法D)に沿った方向である(図2参照)。この渦磁化状態の形成メカニズムを調べる際には、アスペクト比(=寸法C/寸法D)=1.5、強磁性フリー層27の厚さ=8nm(飽和磁化(Ms)=600×103 A/m(=600emu/cc))とした。
【0084】
シミュレーション結果60(図7参照)から判るように、+X方向に100×103 /(4π)A/m(=100Oe)〜250×103 /(4π)A/m(=250Oe)となるように第1の磁界を供給した後、その第1の磁界を取り除いたところ、初期状態において残留磁化の磁化方向50が+X方向に沿ってセットされた。この磁化方向50は概ねX方向に平行であるが、「C」状態と呼ばれる強磁性フリー層27の各端部において僅かに曲がってセットされている。続いて、−X方向に第1の磁界よりも小さな75×103 /(4π)A/m(=75Oe)となるように第2の磁界を供給した後、その第2の磁界を取り除いたところ、シミュレーション結果61(図8参照)から判るように、時計回り回転の渦磁化状態41が誘発された。この渦磁化状態41は、第2の磁界を取り除いた後においても維持された。第2の磁界の強度は、上記した渦磁化状態41を誘発し得る臨界値(核生成磁界)に達していることが重要である。なお、第1の磁界および第2の磁界の供給時間は、大きな問題とはならない。
【0085】
続いて、反時計回り回転の渦磁化状態の形成メカニズムを調べたところ、図9および図10に示した結果が得られた。図9および図10は強磁性フリー層27の磁化状態に関する他のシミュレーション結果を表しており、図7および図8に示したシミュレーション結果に対応している。なお、渦磁化状態の形成メカニズムを調べる際の条件は、図7および図8に関して説明した場合と同様にした。
【0086】
シミュレーション結果62(図9参照)から判るように、−X方向に100×103 /(4π)A/m(=100Oe)〜250×103 /(4π)A/m(=250Oe)となるように第1の磁界を供給した後、その第1の磁界を取り除いたところ、初期状態において残留磁化の磁化方向51が−X方向に沿ってセットされた。「C」状態と呼ばれる強磁性フリー層27の各端部では、やはり磁化方向50が僅かに曲がってセットされている。続いて、+X方向に第1の磁界よりも小さな75×103 /(4π)A/m(=75Oe)となるように第2の磁界を供給した後、その第2の磁界を取り除いたところ、シミュレーション結果63(図10参照)から判るように、反時計回り回転の渦磁化状態42が誘発された。この渦磁化状態42は、やはり第2の磁界を取り除いた後においても維持された。
【0087】
続いて、渦磁化状態の切り換えメカニズムを調べたところ、図11〜図17に示した結果が得られた。図11および図12は強磁性フリー層27の磁化状態に関するモデリング結果を表しており、横軸のX方向(−X,+X)は供給磁界を示し、縦軸のY方向(−Y,+Y)は磁気応答(抵抗)を示している。このうち、図11は高抵抗状態から低抵抗状態へ切り換える場合のモデリング結果を示し、図12は低抵抗状態から高抵抗状態へ切り換える場合のモデリング結果を示している。また、図13は強磁性ピンド層25の磁化状態に関するシミュレーション結果を表し、図14〜図17は強磁性フリー層27の磁化状態に関するシミュレーション結果を表しており、いずれも図7および図8に示したシミュレーション結果に対応している。図11に示した渦磁化状態の切り換えメカニズムを調べる際には、図10に示したように、強磁性フリー層27の渦磁化状態を反時計回り回転となるように設定したと共に、シミュレーション結果64(図13参照)に示したように、強磁性ピンド層25の渦磁化状態を時計回り回転となるように固定した。また、図12に示した渦磁化状態の切り換えメカニズムを調べる際には、図8に示したように、強磁性フリー層27の渦磁化状態を時計周り回転となるように設定したと共に、シミュレーション結果64(図13参照)に示したように、やはり強磁性ピンド層25の渦磁化状態を時計回り回転となるように固定した。
【0088】
図11に示した結果から判るように、MTJ30は、点A(初期状態)において高抵抗状態であり、一方、強磁性フリー層27の渦磁化状態が切り換えられることにより点Eにおいて低抵抗状態に変化する。渦磁化状態を切り換える手順は、以下の通りである。すなわち、まず、ワード線22およびビット線31に電流を供給することにより、+X方向に第1の磁界を供給する。この第1の磁界の強度は、曲線71に沿って点Bまで増加される。これにより、シミュレーション結果65(図14参照)に示したように、強磁性フリー層27の渦磁化状態42Aは、X方向に平行な多くの残留磁化と共に、上方(第1の磁界と直交する方向)にシフトされる。この後、第1の磁化が点B(第1の臨界点)を越えて増加されると、シミュレーション結果66(図15参照)に示したように、渦磁化状態42Aが破壊されると共に残留磁化の磁化方向が+X方向に沿ってセットされた。続いて、第1の磁界を取り除く(曲線72)。この第1の磁界が取り除かれる過程では、残留磁化の磁化方向が点Cにおいて+X方向に沿ってセットされており、シミュレーション結果67(図16参照)に示したように、強磁性フリー層27は「C」状態となる。続いて、−X方向に第2の磁界を供給する。この第2の磁界の強度は、曲線73に沿って点D(第2の臨界点)まで増加される。これにより、シミュレーション結果68(図17参照)に示したように、強磁性フリー層27において時計回り回転の渦磁化状態41Aが誘発される。最後に、第2の磁界を取り除く(曲線74)。この第2の磁界が取り除かれる過程では、点Eにおいて低抵抗状態に移行するまで、渦磁化状態41Aが時計回り回転のまま維持される。この渦磁化状態41Aは、低エネルギー状態となるために、第2の磁界が取り除かれた後にY方向に沿ってシフトされる。
【0089】
具体的な一例を挙げると、強磁性フリー層27の厚さ=8nm、飽和磁化(Ms)=600×103 A/m(=600emu/cc)の場合には、点B(第1の臨界点)は供給磁界=約156×103 /(4π)A/m(=156Oe)に対応し、点D(第2の臨界点)は供給磁界=約−60×103 /(4π)A/m(=−60Oe)に対応する。もちろん、点B,Dに対応する供給磁界の値は、強磁性フリー層27の厚さ、形状および飽和磁化に依存して変化する。実際の動作時には、第1の磁界は、点Bに至るまで傾斜プログラムを実行することなく約156×103 /(4π)A/m以上となるように供給される。同様に、第2の磁界は、傾斜プログラムを実行することなく約−60×103 /(4π)A/mとなるように供給される。一般に、第1の磁界および第2の磁界は、約1ナノ秒〜100ナノ秒の時間に渡って供給される。なお、第1の磁界を供給した後に第2の磁界を供給するまでの間の時間(遅延時間)は重要でなく、約0ナノ秒〜10ナノ秒であればよい。
【0090】
また、図12に示した結果から判るように、MTJ30は、点Eにおいて低抵抗状態であり、一方、強磁性フリー層27の渦磁化状態が切り換えられることにより点Aにおいて高抵抗状態に変化する。渦磁化状態を切り換える手順は、以下の通りである。すなわち、まず、ワード線22およびビット線31に電流を供給することにより、−X方向に第1の磁界を供給する。この第1の磁界の強度は、傾斜プログラムを実行することなく供給されてもよいし、傾斜プログラムを使用することにより曲線75に沿って点Fまで増加されてもよい。これにより、強磁性フリー層27の渦磁化状態は、X方向に平行な多くの残留磁化と共に、第1の磁界と直交する方向にシフトされる。この後、第1の磁化が点F(第1の臨界点)を越えて増加されると、渦磁化状態が破壊されると共に残留磁化の磁化方向が−X方向に沿ってセットされる。続いて、第1の磁界を取り除く(曲線76)。この第1の磁界が取り除かれる過程では、残留磁化の磁化方向が点Gにおいて−X方向に沿ってセットされる。続いて、+X方向に第2の磁界を供給する。この第2の磁界の強度は、曲線77に沿って点H(第2の臨界点)まで増加される。これにより、強磁性フリー層27において反時計回り回転の渦磁化状態が誘発される。最後に、第2の磁界を取り除く(曲線78)。この第2の磁界が取り除かれる過程では、点Aにおいて高抵抗状態に移行するまで、渦磁化状態が反時計回り回転のまま維持される。この渦磁化状態41Aは、低エネルギー状態となるために、第2の磁界が取り除かれた後にY方向に沿ってシフトされる。なお、遅延時間は、図11を参照して説明した場合と同様である。
【0091】
具体的な一例を挙げると、強磁性フリー層27の厚さおよび飽和磁化(Ms)が図11を参照して説明した場合と同様の場合には、点F(第1の臨界点)は供給磁界=約−240×103 /(4π)A/m(=−240Oe)に対応し、点H(第2の臨界点)は供給磁界=約+140×103 /(4π)A/m(=+140Oe)に対応する。もちろん、点F,Hに対応する供給磁界の値は、強磁性フリー層27の厚さ、形状および飽和磁化に依存して変化する。
【0092】
上記した一連の結果から、本発明では、強磁性フリー層27の磁化状態が低抵抗状態と高抵抗状態との間において切り換えられるため、その磁化状態を制御可能であることが確認された。
【0093】
強磁性ピンド層25の渦磁化状態を固定するためには、その渦磁化状態を固定するAFMピンニング層24がアニールされる前に、渦磁化状態が生じていなければならない。例えば、AFMピンニング層24が白金マンガン合金により構成される場合には、そのAFMピンニング層24がアニールされず、MTJ30が所望のパターン形状となるようにパターニングされる。この場合には、+X方向に第1の磁界が供給された後、反対方向に第2の磁界が供給されることにより、強磁性ピンド層25において渦磁化状態が誘発される。この後、AFMピンニング層24がアニールされる。これにより、強磁性ピンド層25の渦磁化状態が時計回りまたは反時計回りの回転となるように固定される。なお、強磁性ピンド層25において渦磁化状態を誘発するためには、例えば、AFMピンニング層24のネール温度よりも高い温度で基体21を加熱した後に冷却(磁界供給なし)するようにしてもよい。
【0094】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。具体的には、本発明に係る磁気トンネル接合、磁気ランダムアクセスメモリ、渦磁化状態の形成方法および渦磁化状態の切り換え方法は、交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に自由な回転方向を伴う強磁性フリー層と、交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有する強磁性ピンド層と、強磁性フリー層と強磁性ピンド層との間に形成されたトンネルバリア層とを備えるように磁気トンネル接合を構成すると共に、強磁性ピンド層および強磁性フリー層に2種類の磁界(一方方向の磁界および反対方向の磁界(逆磁界))を供給することにより渦磁化状態を形成または切り換えることにより、高密度用途および高速用途に適用することが可能になると共に渦磁化状態を制御することが可能な限り、自由に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る磁気トンネル接合、磁気ランダムアクセスメモリ、渦磁化状態の形成方法および渦磁化状態の切り換え方法は、高密度用途および高速用途のMRAMに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施の形態に係るMRAMの断面構成を表す断面図である。
【図2】図1に示したMTJの平面構成を表す平面図である。
【図3】図1に示したMTJの他の平面構成を表す平面図である。
【図4】図1に示したMRAMの平面構成を表す平面図である。
【図5】図1に示したワード線およびビット線の断面構成を拡大して表す断面図である。
【図6】図1に示したMRAMの抵抗状態を説明するための平面図である。
【図7】強磁性フリー層の磁化状態(時計回り回転の渦磁化状態)に関するシミュレーション結果を表す図である。
【図8】強磁性フリー層の磁化状態(時計回り回転の渦磁化状態)に関する他のシミュレーション結果を表す図である。
【図9】強磁性フリー層の磁化状態(反時計回り回転の渦磁化状態)に関するシミュレーション結果を表す図である。
【図10】強磁性フリー層の磁化状態(反時計回り回転の渦磁化状態)に関する他のシミュレーション結果を表す図である。
【図11】強磁性フリー層の磁化状態(高抵抗状態から低抵抗状態)に関するモデリング結果を表す図である。
【図12】強磁性フリー層の磁化状態(低抵抗状態から高抵抗状態)に関するモデリング結果を表す図である。
【図13】強磁性ピンド層の磁化状態に関するシミュレーション結果を表す図である。
【図14】強磁性フリー層の磁化状態に関するシミュレーション結果を表す図である。
【図15】強磁性フリー層の磁化状態に関する他のシミュレーション結果を表す図である。
【図16】強磁性フリー層の磁化状態に関するさらに他のシミュレーション結果を表す図である。
【図17】強磁性フリー層の磁化状態に関するさらに他のシミュレーション結果を表す図である。
【図18】従来のMRAMの断面構成を表す断面図である。
【図19】図18に示したMRAMのうちの主要部の断面構成を拡大して表す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
20…MRAM、21…基体、22…ワード線、23…シード層、23A…下面、24…AFMピンニング層、25…強磁性ピンド層、26…トンネルバリア層、27…強磁性フリー層、28…保護層、28A…上面、29…絶縁層、30…MTJ、30A…側壁、31…ビット線、32…長軸、33…短軸、40,41,41A,42A…渦磁化状態、50,51…磁化方向、60〜68…シミュレーション結果、221,311…導電性層、222,312…磁気被覆層、B,C,D,E,E1,E2…寸法、S…楕円、S1,S2…半楕円、T…厚さ、W1,W2…幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ランダムアクセスメモリ中において第1の導電線と第2の導電線との間に配置されると共に長さおよび幅を有する磁気トンネル接合であって、
(a)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有するフリー層と、
(b)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に隣接された反強磁性層により固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有するリファレンス層と、
(c)前記フリー層と前記リファレンス層との間に配置されたトンネルバリア層と、を備えた
ことを特徴とする磁気トンネル接合。
【請求項2】
前記フリー層の回転方向および前記リファレンス層の回転方向が時計回りまたは反時計回りであることにより、低抵抗状態を生じさせる
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項3】
前記フリー層の回転方向が前記リファレンス層の回転方向と反対であることにより、高抵抗状態を生じさせる
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項4】
前記磁気トンネル接合が、厚さと、前記第2の導電線に隣接された上面と、前記第1の導電線に隣接された下面と、楕円状の側壁とを有し、その磁気トンネル接合の長さおよび幅が、前記側壁により規定されており、
前記側壁により画定される楕円が、長軸寸法を長さとすると共に短軸寸法を幅としたとき、3よりも小さなアスペクト比(長さ/幅)を有している
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項5】
前記磁気トンネル接合が、厚さと、前記第2の導電線に隣接された上面と、前記第1の導電線に隣接された下面と、楕円状の側壁とを有し、
前記側壁により画定される楕円が、同一の長軸を有すると共にその長軸に沿って配置された第1の半楕円および第2の半楕円が組み合わされた非対称の楕円であり、
前記第1の半楕円が第1の短軸寸法を有すると共に、前記第2の半楕円が前記第1の短軸寸法よりも小さな第2の短軸寸法を有している
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項6】
前記非対称の楕円が、長軸に沿った長さと、前記第1の短軸寸法および前記第2の短軸寸法の総和である幅とを有し、
長さに対する幅の比が、5よりも小さい
ことを特徴とする請求項5記載の磁気トンネル接合。
【請求項7】
前記フリー層および前記リファレンス層が、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)のうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、
前記ドーパントが、炭素(C)、窒素(N)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)またはハフニウム(Hf)のうちの1つであり、そのドーパントの含有量が、1重量%以上40重量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項8】
前記反強磁性層が、白金マンガン合金(PtMn)、ニッケルマンガン合金(NiMn)、オスミウムマンガン合金(OsMn)、イリジウムマンガン合金(IrMn)、ルテニウムマンガン合金(RuMn)、ロジウムマンガン合金(RhMn)、パラジウムマンガン合金(PdMn)、ルテニウムロジウムマンガン合金(RuRhMn)またはクロムパラジウムマンガン合金(CrPdMn)を含んでいる
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項9】
前記リファレンス層が、ロジウム、ルテニウム、クロムまたは銅(Cu)を含む結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたSyAP構造を有している
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項10】
前記フリー層が、ロジウム、ルテニウム、クロムまたは銅を含む結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたSAF構造を有している
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項11】
前記フリー層が、第1の強磁性層が非強磁性金属スペーサを介して第2の強磁性層に反平行静磁性結合された複合層である
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項12】
前記第2の導電線が、500nmよりも小さな厚さを有すると共に前記磁気トンネル接合の幅よりも大きな幅を有する導電性非磁性層を含むビット線である
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項13】
前記第1の導電線が、500nmよりも小さな厚さを有すると共に前記磁気トンネル接合の幅の50%よりも大きなを幅を有する導電性材料を含むワード線である
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項14】
前記第1の導電線および前記第2の導電線が、前記磁気トンネル接合に隣接された一面を含む4つの面を有し、
前記磁気トンネル接合に隣接されていない3つの面に磁気被覆層が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項15】
前記フリー層が、1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有し、
前記リファレンス層が、1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有している
ことを特徴とする請求項1記載の磁気トンネル接合。
【請求項16】
基体上に配置された磁気ランダムアクセスメモリであって、
(a)第1の水平面に配置された第1の導電線のアレイと、
(b)前記第1の導電線と直交する方向において、前記第1の水平面と平行な第2の水平面に配置された第2の導電線のアレイと、
(c)前記第1の水平面と前記第2の水平面との間において、前記第2の導電線が前記第1の導電線と交差する箇所に配置された磁気トンネル接合のアレイと、を備え、
前記磁気トンネル接合が、
(1)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に自由な回転方向を伴う渦磁化状態を有するフリー層と、
(2)交換結合定数を低下させるためのドーパントを含むと共に隣接された反強磁性層により固定された回転方向を伴う渦磁化状態を有するリファレンス層と、
(3)前記フリー層と前記リファレンス層との間に配置されたトンネルバリア層と、を含む
ことを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項17】
前記磁気トンネル接合が、厚さと、前記第2の導電線に隣接された上面と、前記第1の導電線に隣接された下面と、楕円状の側壁とを有すると共に、その側壁により規定された長さおよび幅を有している
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項18】
前記側壁により画定される楕円が、長軸寸法に等しい長さおよび短軸寸法に等しい幅を有し、
幅に対する長さの比が、3よりも小さい
ことを特徴とする請求項17記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項19】
前記側壁により画定される楕円が、同一の長軸を有すると共にその長軸に沿って配置された第1の半楕円および第2の半楕円が組み合わされた非対称の楕円であり、
前記第1の半楕円が第1の短軸寸法を有すると共に、前記第2の半楕円が前記第1の短軸寸法よりも小さな第2の短軸寸法を有している
ことを特徴とする請求項17記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項20】
前記非対称の楕円が、長軸に沿った長さと、前記第1の短軸寸法および前記第2の短軸寸法の総和である幅とを有し、
長さに対する幅の比が、5よりも小さい
ことを特徴とする請求項19記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項21】
前記磁気トンネル接合が、5μmよりも小さな長さおよび幅を有している
ことを特徴とする請求項17記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項22】
前記フリー層および前記リファレンス層が、ニッケル、鉄およびコバルトのうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、
前記ドーパントが、炭素、窒素、ホウ素、ジルコニウム、タンタル、白金、ニオブまたはハフニウムのうちの1つであり、そのドーパントの含有量が、1重量%以上40重量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項23】
前記反強磁性層が、白金マンガン合金、ニッケルマンガン合金、オスミウムマンガン合金、イリジウムマンガン合金、ルテニウムマンガン合金、ロジウムマンガン合金、パラジウムマンガン合金、ルテニウムロジウムマンガン合金またはクロムパラジウムマンガン合金を含んでいる
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項24】
前記リファレンス層が、ロジウム、ルテニウム、クロムまたは銅を含む結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたSyAP構造を有している
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項25】
前記フリー層が、ロジウム、ルテニウム、クロムまたは銅を含む結合層を挟んで2つの強磁性層が積層されたSAF構造を有する複合層である
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項26】
前記フリー層が、第1の強磁性層が非強磁性金属スペーサを介して第2の強磁性層に反平行静磁性結合された複合層である
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項27】
前記第2の導電線が、500nmよりも小さな厚さを有するビット線であり、
前記第1の導電線が、500nmよりも小さな厚さを有するワード線である
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項28】
前記ワード線および前記ビット線のうちの一方または双方が、導電性層と、その導電性層を被覆する磁気被覆層とを含み、
前記磁気被覆層が、前記導電性層のうちの前記磁気トンネル接合に隣接された面を被覆していない
ことを特徴とする請求項27記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項29】
前記第1の導電線が、前記磁気トンネル接合の幅の50%よりも大きな幅を有し、
前記第2の導電線が、前記磁気トンネル接合の幅よりも大きな幅を有している
ことを特徴とする請求項17記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項30】
前記フリー層の回転方向および前記リファレンス層の回転方向が時計回りまたは反時計回りであることにより、前記磁気トンネル接合において低抵抗状態を生じさせる
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項31】
前記フリー層の回転方向が前記リファレンス層の回転方向と反対であることにより、前記磁気トンネル接合において高抵抗状態を生じさせる
ことを特徴とする請求項16記載の磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項32】
磁気トンネル接合中に渦磁化状態を形成する方法であって、
(a)第1の導電線が第1の軸に沿って配置された基体を準備する工程と、
(b)前記第1の導電線上に、楕円状の側壁と、上面および下面と、長さおよび幅とを有すると共に、残留磁化が第1の方向に配向されたリファレンス層およびフリー層を含むように、磁気トンネル接合を形成する工程と、
(c)前記磁気トンネル接合の上面に隣接されると共に前記第1の軸と直交する第2の軸に沿うように第2の導電線を形成する工程と、
(d)前記第1の導電線および前記第2の導電線に電流を供給して前記第1の方向と反対の第2の方向に逆磁界を生じさせることにより、前記フリー層に渦磁化状態を誘発する工程と、
(e)逆磁界を取り除く工程と、を含む
ことを特徴とする渦磁化状態の形成方法。
【請求項33】
前記磁気トンネル接合を形成する工程が、前記第1の方向に磁界を供給することにより残留磁化を生じさせる工程を含み、
逆磁界の強度が、残留磁化を生じさせるために供給した磁界の強度よりも小さくなるようにする
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項34】
前記フリー層に第1の渦磁化状態を形成し、
前記リファレンス層に第2の渦磁化状態を形成する
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項35】
前記第1の渦磁化状態および前記第2の渦磁化状態が時計回り回転または反時計回り回転であることにより、前記磁気トンネル接合において低抵抗状態を生じさせる
ことを特徴とする請求項34記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項36】
前記第1の渦磁化状態の回転が前記第2の渦磁化状態の回転と反対であることにより、前記磁気トンネル接合において高抵抗状態を生じさせる
ことを特徴とする請求項34記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項37】
前記側壁により画定される楕円が、長軸寸法に等しい長さおよび短軸寸法に等しい幅を有し、
幅に対する長さの比が、3よりも小さい
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項38】
前記側壁により画定される楕円が、同一の長軸を有すると共にその長軸に沿って配置された第1の半楕円および第2の半楕円が組み合わされた非対称の楕円であり、
前記第1の半楕円が第1の短軸寸法を有すると共に、前記第2の半楕円が前記第1の短軸寸法よりも小さな第2の短軸寸法を有している
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項39】
前記非対称の楕円が、長軸に沿った長さと、前記第1の短軸寸法および前記第2の短軸寸法の総和である幅とを有し、
幅に対する長さの比が、5よりも小さい
ことを特徴とする請求項38記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項40】
さらに、前記リファレンス層に隣接するように反強磁性層を形成することにより、その反強磁性層を利用して時計回りまたは反時計回りの回転となるように前記第2の渦磁化状態を固定する工程を含む
ことを特徴とする請求項34記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項41】
前記第1の導電線および前記第2の導電線が、導電性層と、その導電性層を被覆する磁気被覆層とを含み、
前記磁気被覆層が、前記導電性層のうちの前記磁気トンネル接合に隣接された面を被覆しないようにする
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項42】
前記フリー層および前記リファレンス層が、ニッケル、鉄およびコバルトのうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、
前記ドーパントが、炭素、窒素、ホウ素、ジルコニウム、タンタル、白金、ニオブまたはハフニウムのうちの1つであり、そのドーパントの含有量が、1重量%以上40重量%以下の範囲内であるようにする
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項43】
前記磁気トンネル接合が、前記磁気ランダムアクセスメモリ中において前記第1の導電線のアレイと前記第2の導電線のアレイとの間に配置された前記磁気トンネル接合のアレイのうちの一部であるようにする
ことを特徴とする請求項32記載の渦磁化状態の形成方法。
【請求項44】
磁気トンネル接合中のフリー層において、第1の回転方向から第2の回転方向に渦磁化状態を切り換える方法であって、
(a)第1の導電線と、その第1の導電線の上方に直交するように配置された第2の導電線と、前記第1の導電線と前記第2の導電線との間に配置された磁気トンネル接合とが設けられ、その磁気トンネル接合が、楕円状の側壁と、上面および下面と、長さおよび幅とを有すると共に、前記第1の回転方向に配向された渦磁化状態を有するフリー層を含む基体を準備する工程と、
(b)第1の軸に沿った第1の方向に第1の磁界を供給することにより、渦磁化状態を破壊すると共に前記フリー層において前記第1の方向に残留磁化を生じさせる工程と、
(c)前記第1の磁界を取り除く工程と、
(d)前記第1の方向と反対の第2の方向に第2の磁界を供給することにより、前記第1の回転方向と反対の前記第2の回転方向に渦磁化状態を誘発する工程と、
(e)前記第2の磁界を取り除く工程と、を含む
ことを特徴とする渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項45】
前記第2の磁界の強度が、前記第1の磁界の強度よりも小くなるようにする
ことを特徴とする請求項44記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項46】
前記磁気トンネル接合が、さらに、隣接された反強磁性層により前記第2の回転方向に固定された渦磁化状態を有するリファレンス層を含むようにし、
(e)工程の後に、前記磁気トンネル接合において低抵抗状態が生じるようにする
ことを特徴とする請求項44記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項47】
前記磁気トンネル接合が、さらに、隣接された反強磁性層により前記第1の回転方向に固定された渦磁化状態を有するリファレンス層を含むようにし、
(e)工程の後に、前記磁気トンネル接合において高抵抗状態が生じるようにする
ことを特徴とする請求項44記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項48】
前記フリー層が、100×103 A/m以上2000×103 A/m以下の範囲内の飽和磁化(Ms)を有すると共に、1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有するようにする
ことを特徴とする請求項46記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項49】
前記フリー層が、100×103 A/m以上2000×103 A/m以下の範囲内の飽和磁化を有すると共に、1nm以上20nm以下の範囲内の厚さを有するようにする
ことを特徴とする請求項47記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項50】
前記第1の回転方向が、反時計回りであり、
前記第2の回転方向が、時計回りであり、
前記第1の磁界の強度が、+50×103 /(4π)A/m以上+500×103 /(4π)A/m以下の範囲内であり、
前記第2の磁界の強度が、−200×103 /(4π)A/m以上−5×103 /(4π)A/m以下の範囲内であるようにする
ことを特徴とする請求項48記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項51】
前記第1の回転方向が、時計回りであり、
前記第2の回転方向が、反時計回りであり、
前記第1の磁界の強度が、−500×103 /(4π)A/m以上−50×103 /(4π)A/m以下の範囲内であり、
前記第2の磁界の強度が、+5×103 /(4π)A/m以上+200×103 /(4π)A/m以下の範囲内であるようにする
ことを特徴とする請求項49記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項52】
前記磁気トンネル接合が、さらに、渦磁化状態を有するリファレンス層を含み、
前記フリー層および前記リファレンス層が、ニッケル、鉄およびコバルトのうちの1つ以上またはそれらの合金を含み、
前記ドーパントが、炭素、窒素、ホウ素、ジルコニウム、タンタル、白金、ニオブまたはハフニウムのうちの1つであり、そのドーパントの含有量が、1重量%以上40重量%以下の範囲内であるようにする
ことを特徴とする請求項44記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項53】
前記第1の磁界および前記第2の磁界が、1ナノ秒以上100ナノ秒以下の範囲内の時間に渡って供給されるようにする
ことを特徴とする請求項44記載の渦磁化状態の切り換え方法。
【請求項54】
前記第1の磁界を取り除く工程が、0ナノ秒以上10ナノ秒以下の範囲内において磁界を供給しない工程を含む
ことを特徴とする請求項44記載の渦磁化状態の切り換え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−41537(P2006−41537A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219594(P2005−219594)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】