説明

磁気光学素子とその製造方法およびそれを用いて作製した光学デバイス

【課題】波長が1.3μm〜1.6μm帯の光に対するファラデー回転能が45°程度、かつ逆方向挿入損失が大きい値を有する磁気光学素子を提供する。
【解決手段】磁気光学素子は、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成されたものであって、フラックスとして鉛化合物を用いない液相エピタキシャル法によって育成された厚さが350μm以上有するものであり、かつ白金を含み、白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用の光学デバイスに用いられる磁気光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信あるいは光計測などの分野では、ファラデー効果を利用した各種のファラデー回転デバイスが数多く使用されている。例えば、反射戻り光を防止するためのデバイスである光アイソレータ、任意の波長の取り出しや多重化を行う波長多重通信方式の光Add/Dropモジュールに使われている光サーキュレータ、透過光量を可変制御するためのデバイスである可変光アッテネータなどであり、それらには偏光面を回転させる機能を有する磁気光学素子が組み込まれている。
【0003】
この磁気光学素子の構成に用いる構成部材の代表例としては、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶がある。そして、現在、液相エピタキシャル法によって育成した厚さ数十μm〜数百μm程度の結晶が磁気光学素子として広く用いられている。液相エピタキシャル法による結晶の育成は、生産性に優れており、必要なファラデー回転角を呈する磁気光学素子を、低価格で提供できる利点があるからである。
【0004】
液相エピタキシャル法によるビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の育成は、液相エピタキシャル育成装置を用いて行う。この液相エピタキシャル育成装置は、白金坩堝を電気炉内に設置した構造である。白金坩堝内に、所定の鉛を含有する酸化物原料(PbO−B−Biフラックス成分とビスマス置換希土類鉄ガーネット成分)を充填しておき、均一に混合攪拌された融液とする。温度制御した状態で吊り下げた非磁性ガーネット基板を融液表面に接触させることによって、該基板上に液相エピタキシャル法によって鉛を含有した単結晶を育成することができる。
【0005】
ここで、光通信で用いられる光アイソレータなどは、挿入された光の偏光面を45°回転させる必要がある。これら光学デバイスに組み込まれる磁気光学素子については、ファラデー回転能の関係から、波長1.3μm〜1.6μm帯の光通信に用いられる場合、偏光面を45°程度回転させるためには、厚さが350μm以上必要であり、従来、350μm以上の厚さを有する鉛を含有したビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶が使われてきた。
【0006】
近年、有害性が大きい化学物質が環境へ与える悪影響を避けるために、製品中への有害物質の含有を規制しようという動きが世界的な規模で進んでおり、鉛も有害物質として指定されている。しかし、前述のように、結晶育成の際に用いられるフラックス成分としての酸化鉛から鉛イオンがガーネット単結晶中に混入するため、磁気光学素子及びそれを用いた光学デバイス中に鉛が混入することを避けることが出来なかった。
【0007】
このため、鉛を含有しないビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成された磁気光学素子が必要とされているが、この有害な鉛を含有しないビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を育成した例としては、特許文献1あるいは特許文献2がある。しかし、これらは使用する波長帯として0.8μmを想定しているため、結晶厚が40〜60μmと極めて薄く、また、光吸収係数αがせいぜい100cm−1であるため、光吸収係数の波長依存性を考慮しても磁気光学素子の厚さを350μmとすると、順方向に光を入射させると数dBの光吸収となり、光挿入損失が大きくなるため、とても実用に耐えるレベルではない。
【0008】
また、光アイソレータなどに組み立てたときには、その役割から、逆方向から入射した光は大きく減衰させる必要があり、その逆方向損失は大きければ大きいほど良く、現在約35dB以上の値が求められる。しかし、先に挙げた特許文献1、2に紹介された鉛を含有しないビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶では、製品が用いられる1.3〜1.6μm帯の中心波長で求められる値以上の特性を有することはなかった。
つまり、厚さが350μm以上で、鉛を含有せず、光吸収係数が小さいつまり光ファイバの伝送損失が小さく、逆方向の光を減衰させるつまり逆方向挿入損失が大きい、波長1.3〜1.6μm帯用の磁気光学素子は、いまだ実用化はされておらず、これらの条件を満たした製品は存在しなかった。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−265809号公報
【特許文献2】特開昭61−265810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明では、波長が1.3μm〜1.6μm帯の光に対するファラデー回転能が45°程度、つまり、液相エピタキシャル法によって育成された厚さが350μm以上であっても、鉛を含有せず、かつ逆方向挿入損失が大きい値を有する磁気光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、磁気光学素子であって、該磁気光学素子は、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成されたものであって、該ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶は、フラックスとして鉛化合物を用いない液相エピタキシャル法によって育成された厚さが350μm以上有するものであり、かつ白金を含み、該白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすものであることを特徴とする磁気光学素子を提供する(請求項1)。
【0012】
本発明の磁気光学素子は、フラックスとして鉛化合物を用いずに液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上に育成され、かつ白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすようなビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成したものである。
このように、フラックス成分として鉛化合物であるPbOやPbF等を使用せずに育成された結晶によって構成しているため、その素子中に鉛を含有しないものである。従って、環境に悪影響を与えることがない磁気光学素子となっている。
【0013】
また、鉛化合物をフラックスに用いずに、少なくとも酸化ビスマス(Bi)を含んだフラックスを用いて育成されたが、この酸化ビスマスは坩堝の主成分である白金と反応するため、融液中に白金が多量に溶け出す。融液中の白金が高濃度になると、白金が結晶中の陽イオンサイトに取り込まれずに介在物として結晶に残留するため、結晶欠陥として作用して結晶中に歪みが発生する。このため、光学デバイスに加工した際に、逆方向挿入損失が小さくなってしまうという不良が発生する。しかし、本発明では、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中の白金の式量xが0.02≦x<0.04と、該結晶中の白金量を制限した結晶となっているため、白金が結晶中の陽イオンサイトに取り込まれないで介在物として結晶に残留することを抑制でき、従って、光学デバイスに加工した時に、前述した不良が発生する比率を小さく抑えることができる。
よって、液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上に育成したビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成したとしても、環境に悪影響を与えず、光学特性の良好な結晶を歩留り良く得ることができ、従って、低コストで高品質な磁気光学素子を得ることができる。
【0014】
また、上述した磁気光学素子を用いて作製された光学デバイスであって、該光学デバイスは、光アイソレータ、光サーキュレータ、光アッテネータのいずれかであることを特徴とする光学デバイスを提供する(請求項2)。
【0015】
このように、本発明の磁気光学素子を用いて作製された光アイソレータ、光サーキュレータ、光アッテネータは、そのデバイス中に鉛を含まず、環境に悪影響を与えることがない。また、波長が1.3μm〜1.6μmの光に対する光学特性が良好であるので、当該波長を利用した光通信に用いることができる光学デバイスを構成できる。
【0016】
また、本発明では、磁気光学素子の製造方法であって、白金坩堝に、少なくとも酸化ビスマスを含みかつ鉛化合物を含まないフラックスを入れて、希土類ガリウムガーネット単結晶基板上に液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上のビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を育成することによって、該ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中に鉛を含有させず、かつ式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすように白金を含有させた前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を準備し、該ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を用いて磁気光学素子を作製することを特徴とする磁気光学素子の製造方法を提供する(請求項3)。
【0017】
このように、本発明では、フラックスとして鉛化合物を用いられずに液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上になるように、かつ白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすようにビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を育成し、その結晶を用いて磁気光学素子を製造する。
すなわち、フラックス成分として鉛化合物であるPbOやPbFを使用せずに育成したため、結晶中に鉛を含有しない結晶を育成でき、よって、環境に悪影響を与えることがない磁気光学素子を製造することができる。
【0018】
また、結晶中の白金の式量xが0.02≦x<0.04となるように育成するため、白金が結晶中の陽イオンサイトに取り込まれないで介在物として結晶に入ることを抑制できる。よって、光学デバイスに加工した際に、逆方向挿入損失が小さくなる不良が発生する比率を小さく抑えることができ、よって、光学特性が良好な結晶を歩留り良く得ることができる。従って、低コストで高品質な磁気光学素子を作製することができる。
よって、液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上に育成したビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を用いて、環境に悪影響を与えず、光学特性の良好な結晶を歩留り良く製造することができ、従って、低コストで高品質な磁気光学素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の磁気光学素子は、その構成要素であるビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中に鉛を含むことなく、かつ光学特性が良好な結晶とすることができ、よって、環境に悪影響を与えず、かつ高品質な磁気光学素子とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、波長が1.3μm〜1.6μm帯の光に対するファラデー回転能が45°程度、つまり、液相エピタキシャル法によって育成された厚さが350μm以上であっても、鉛を含有せず、かつ逆方向挿入損失が大きい値を有する磁気光学素子の開発が待たれていた。
【0021】
そこで、本発明者らは、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の育成条件と結晶組成に着目し、特に逆方向挿入損失での不良率に注目して、育成条件または結晶組成と不良率の関係の解析を行い、鋭意検討を重ねた。
ここで、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の育成条件としては、結晶育成を開始する温度を変えること、結晶育成での基板の回転数を変えること、結晶育成に用いる単結晶基板結晶の口径を変えることを行った。
【0022】
その結果、本発明者らは、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中に取り込まれる白金の式量xと、作製された結晶を用いた光学デバイスの不良率との間に関係があることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の磁気光学素子は、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶から構成され、このビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶は、フラックスとして鉛化合物を用いずに、結晶を構成する各元素の酸化物の融液から、希土類ガリウムガーネット単結晶基板上に液相エピタキシャル法によって、育成された厚さが350μm以上有するものであり、また結晶中の白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすものである。
【0024】
このように、本発明の磁気光学素子は、フラックスとして鉛化合物を用いずに液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上に、かつ白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすように育成されたビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成したものである。
そして、フラックスとして鉛化合物を用いずに液相エピタキシャル法によって育成したものとすることで、本発明の磁気光学素子を構成するビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶は、フラックス成分として鉛化合物であるPbOやPbF等を使用せずに育成されているため、その結晶中に鉛を含有しないものである。従って、環境に悪影響を与えることがない磁気光学素子となっている。
【0025】
また、鉛化合物をフラックスに用いず、少なくとも酸化ビスマスを含むフラックスを用いて育成されたが、この酸化ビスマスは坩堝の主成分である白金と反応して融液中に白金が多量に溶け出す。融液中の白金が高濃度になり過ぎると、白金が結晶中の陽イオンサイトに取り込まれないで介在物として結晶に入ってしまうため、結晶欠陥として作用して結晶中に歪みが発生する。このため、光学デバイスに加工した際に、逆方向挿入損失が小さくなってしまうという不良が発生する。しかし、本発明では、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中の白金の式量xが0.02≦x<0.04と、該結晶中の白金量が制御された結晶となっているため、白金が結晶中の陽イオンサイトに取り込まれないで介在物として結晶に入ることを防止でき、従って、光学デバイスに加工した時に、前述した不良が発生する比率を小さく抑えることができる。
よって、液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上に育成したビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって磁気光学素子が構成されたとしても、環境に悪影響を与えず、光学特性の良好な磁気光学素子を歩留り良く得ることができ、従って、低コストで高品質な磁気光学素子を得ることができる。
【0026】
そして、光学デバイスを、上述した磁気光学素子を用いて作製されたものとすることができ、該光学デバイスを光アイソレータ、光サーキュレータ、光アッテネータのいずれかとすることができる。
このように、本発明の磁気光学素子を用いて作製された光アイソレータ、光サーキュレータ、光アッテネータのいずれかである光学デバイスは、デバイス中に鉛を含まず、環境に悪影響を与えることがない。また、波長が1.3μm〜1.6μmの光に対する光学特性が良好であるので、当該波長を利用した光通信に用いることができる。
【0027】
本発明の磁気光学素子の製造方法は以下のような工程とすることができ、以下にその一例を示すが、本発明の磁気光学素子の製造方法は以下に限定されるものではない。
【0028】
まず、白金製の坩堝を準備し、その中に、種々の組み合わせでフラックスと結晶を構成する元素の酸化物を投入する。後者としては、具体的には、Bi、希土類元素酸化物、Fe、および必要に応じてFeと置換する元素の酸化物を投入し、1,000〜1,200℃に加熱してこれを溶解させる。ここで、本発明では、フラックスとして多用されている鉛化合物を投入しない。
次に、融液の温度を700〜950℃に下げて、融液を過冷却状態にする。
その後、希土類ガリウムガーネット単結晶基板を回転させながら、過冷却状態にした融液に接触させることによって、希土類ガリウムガーネット単結晶基板上にビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を成長させる。
【0029】
ここで、少なくとも鉛化合物を用いずに酸化ビスマスを中心としたフラックスを用いて結晶を育成するが、この酸化ビスマスと白金坩堝が反応して、融液中に白金が多量に溶け出すという現象が発生する。前述のように、融液中の白金が高濃度になり過ぎると、白金が結晶中の陽イオンサイトに取り込まれきらないで介在物として結晶に残留するため、結晶欠陥として作用して結晶中に歪みが発生する。このため、光学デバイスに加工した際に、逆方向挿入損失が小さくなってしまうという不良が発生する。
そのため、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の育成中においては、温度を下げながら結晶を育成するため、育成後半では次第に融液中の白金濃度が高くなる。このため、結晶中の白金式量xもこれに伴って上昇し、結晶の品質が劣化することがあるため、適宜結晶の育成条件を変更することができる。
【0030】
また、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を成長させるために使用される希土類ガリウムガーネット単結晶基板として、サマリウム・ガリウム・ガーネット(以下、SGGと略記する)、ネオジム・ガリウム・ガーネット(以下、NGGと略記する)、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(以下、GGGと略記する)にCa、Mg、Zrの少なくとも1つを添加し、置換したGGG系のNOG[信越化学工業(株)製、商品名]を用いることができる。
これらは、Sm、Nd、Gdまたは必要に応じて、CaO、MgO、ZrOなどの置換剤を、それぞれGaの所定量と共にるつぼに仕込み、高周波誘導炉で各々の融点以上に加熱して溶融したのち、この溶液からチョクラルスキー法で単結晶を引き上げた後にウェハーに加工することで得ることができるものである。
【0031】
次に、作製したビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を用いて、磁気光学素子を作製する。
【0032】
このように、本発明の磁気光学素子を構成するビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶は、フラックス成分として鉛化合物であるPbOやPbF等を使用せずに育成されているため、その結晶中に鉛を含有しないものである。従って、環境に悪影響を与えることがない磁気光学素子となっている。
【0033】
また、本発明の製造方法では、フラックス成分として鉛化合物の代わりに結晶成分となるBiを主に使うため、前述のように、ルツボ材の主成分である白金とBiが反応して、融液中に白金が多量に溶け出すという現象が起きる。この融液中の白金は少量の場合はPt4+イオンとしてビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の結晶構造に取り込まれるためか、結晶欠陥の原因とならない。しかし、濃度が高くなるとビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の陽イオンサイトに取り込まれないで介在物として結晶に入るため、この介在物の回りに歪が生じる。このことが原因で、光アイソレータなどの製品としたときに逆方向挿入損失が一般的な基準値である35dBより小さくなるという不良の発生率が高くなると考えられる。
【0034】
しかし、本発明の製造方法によって製造された磁気光学素子は、結晶中の白金含有量が、式量で0.02以上でかつ0.04未満であるため、結晶中に白金が介在物として入ることが抑止されているため、上述のような、逆方向挿入損失が小さくなるといった不良が発生することを抑制することができる。
【0035】
なお、白金式量xは、液相エピタキシャル法において様々な育成条件を変更することで変化させることができるが、その条件としては、ルツボ材の主成分である白金の溶出と関係するルツボ壁面での融液の流れの強さ、つまり、単に融液の組成だけではなく、温度で変化する融液の粘性、流れを生み出す酸化物ガーネット基板結晶の口径とルツボ径の比率、基板結晶の回転速度などがあり、この溶出した白金がビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶に取り込まれる現象と関係する、温度で変化する融液の粘性、基板結晶の口径と回転速度、過冷却度、結晶成長速度などを制御することで、白金の式量xを所望範囲に調整することができる。
【0036】
そして、本発明における磁気光学素子の光吸収損失については、当業者で公知の方法、つまり、本来Fe3+であるべき鉄イオンの価数がFe2+あるいはFe4+に変化することを防ぐ、2価のイオンあるいは4価のイオンを添加すればよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜7)
液相エピタキシャル育成装置において、白金製の坩堝の中に、種々のフラックス成分と結晶成分とを投入し、1,000〜1,200℃まで加熱し、溶融させた。その後、700〜950℃まで降温し、NOGを回転させながら、融液に接触させる液相エピタキシャル法でビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を成長させた。成長させた厚さは後述する表1に挙げたとおりである。
【0038】
ここで、表1に、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶の組成と、育成された結晶厚さ、ファラデー回転角(入射光の波長は1.31μmとした)、介在物の有無を示す。表1において、上から順に、各々実施例1〜7とした。
作製した磁気光学素子の組成分析は、ICP−MS分析法で行った。ファラデー回転角の大きさとそのファラデー回転角となった時の磁気光学素子の厚さを示した。また、介在物の観察は光源とCCDに赤外線用を使った赤外線用の顕微鏡で観察した定性的な表現である。
ただし、表1では、光吸収損失を抑えるための添加イオンは微量であるため除いている。
【0039】
【表1】

【0040】
その後、実施例1〜5の磁気光学素子を用いて光アイソレータを作製した。偏光子としてはコーニング社製偏光ガラス(商品名;ポラコア)を用い、磁気光学素子の両側にシリコーン樹脂で両側の偏光方向が概略45°となるようにして貼り付け、熱硬化させた後に、1mm角となるようにダイシングソーで切断した。この磁気光学素子と1組の偏光ガラスからなるチップを円筒状の磁石に挿入し、金属筐体を用いて固定した後、光学特性を評価するために、逆方向挿入損失を測定し、中心波長1.31μmで35dB以下を不良としたときの不良率を評価した。
【0041】
(比較例)
実施例1において、磁気光学素子に用いられるビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中の白金の式量を0.044とした以外は、実施例1と同様の条件でビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を液相エピタキシャル法によって作製し、同様に光アイソレータを500個作製した。そして、作製した光アイソレータに対して実施例1と同様の評価を行った。
【0042】
実施例1〜5、比較例のいずれの磁気光学素子によって構成された光アイソレータも、光挿入損失は0.15dB〜0.45dBであった。磁気光学素子を構成するビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中の白金式量が大きくなるほど、光挿入損失は大きくなる傾向にあったが、実用上問題ないといえる0.5dB以下の値であった。
【0043】
図1は、本発明における実施例1〜5、比較例で作製した磁気光学素子を用いて作製された光アイソレータの、逆方向損失を評価した際の不良発生率とビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中の白金式量の関係を示した図である。
図1に示したように、結晶中の白金式量が0.035を越えた辺りから急激に不良が増大することが分かった。
よって、光アイソレータの製品として使うためには白金式量を0.04未満とする必要がある。より好ましくは0.035以下である。
【0044】
なお、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶で厚さが350μm以上の物については、前述したようにBiと白金ルツボとが反応するため、白金式量を0.02以下とすることは出来なかった。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明における実施例1〜5、比較例で作製した光アイソレータの逆方向損失を評価した際の不良発生率とビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中の白金式量の関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気光学素子であって、
該磁気光学素子は、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶によって構成されたものであって、
該ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶は、フラックスとして鉛化合物を用いない液相エピタキシャル法によって育成された厚さが350μm以上有するものであり、かつ白金を含み、該白金の式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすものであることを特徴とする磁気光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載された磁気光学素子を用いて作製された光学デバイスであって、該光学デバイスは、光アイソレータ、光サーキュレータ、光アッテネータのいずれかであることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
磁気光学素子の製造方法であって、
白金坩堝に、少なくとも酸化ビスマスを含みかつ鉛化合物を含まないフラックスを入れて、希土類ガリウムガーネット単結晶基板上に液相エピタキシャル法によって厚さ350μm以上のビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を育成することによって、該ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶中に鉛を含有させず、かつ式量xが0.02≦x<0.04の関係を満たすように白金を含有させた前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を準備し、
該ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を用いて磁気光学素子を作製することを特徴とする磁気光学素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84131(P2009−84131A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259088(P2007−259088)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】