説明

磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法および磁気記録媒体用ガラス基板

【課題】ガラス基板の主平面の研磨において、上側研磨パッドへのガラス基板の張り付きを防止するとともに、ガラス基板のリーチング痕を防止し、主平面の面内における均一な平滑性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】この磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス基板の形状付与工程と、ガラス基板の主平面研磨工程と、洗浄工程とを有し、主平面研磨工程において、研磨パッドの研磨面の実効面積率((A−B)/A×100)を、上側研磨パッドにおいて75〜98%とするとともに、下側研磨パッドにおいて99%以上(より好ましくは100%)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法、および磁気記録媒体用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体、特に磁気ディスク装置においては、急激な高記録密度化が進んでいる。磁気ディスク装置では、高速回転する記録媒体(ディスク)上にヘッドを僅かに浮上させて走査することによってランダムアクセスを実現しており、高記録密度と高速アクセスを両立させるために、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隔(ヘッド浮上量)を小さくすること、および磁気ディスクの回転数を上げることが求められる。磁気ディスクの基材は、従来アルミニウム(Al)にニッケル−リン(Ni−P)メッキを施した基板が主流であったが、高剛性で高速回転させても変形しにくく、表面の平滑性が高いガラス基板が使われるようになってきている。
【0003】
このような磁気ディスク装置における高記録密度化に伴い、磁気記録媒体用ガラス基板への要求特性は年々厳しくなっている。そして、磁気ディスク装置の高記録密度を達成するため、磁気ヘッドの浮上量を小さくする、ガラス基板の主平面の面積を有効活用するべく磁気ヘッドをガラス基板の端部まで通過させる等の検討が行われている。
【0004】
磁気ヘッドの浮上量を小さくする場合、磁気ディスクの主平面が平滑な面でないと、磁気ヘッドが磁気ディスクに接触し、障害が生じるおそれがある。また、磁気ヘッドをガラス基板の端部まで通過させる場合、磁気ディスクの主平面の平坦性が高くないと、磁気ヘッドの浮上姿勢が乱され、磁気ディスクに接触して障害が発生するおそれがある。
【0005】
磁気記録媒体用ガラス基板の製造において、ガラス基板の主平面を平滑な鏡面に仕上げるために、研磨パッドと研磨液とを用いる研磨が行われている。すなわち、研磨装置の上定盤と下定盤の表面にそれぞれ装着されたポリウレタン樹脂等からなる研磨パッドの研磨面を、ガラス基板の主平面に押し当てた状態で、砥粒を含有する研磨液をガラス基板と研磨パッドとの間に供給しながら、ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させて、ガラス基板の主平面を研磨する。ここで、研磨パッドとしては、供給される研磨液の流路となる溝が研磨面に形成されたものが使用されている。
【0006】
しかしながら、このようなガラス基板の主平面の研磨方法においては、研磨終了後にガラス基板が下定盤側の研磨パッドの研磨面上に置かれた場合、この研磨面に存在する溝に溜まった研磨液の作用により、ガラス基板の表層のアルカリ金属イオン等の成分が浸出(leaching)される。その結果、研磨後のガラス基板の主平面に、溝に対応する形状のリーチング痕が形成される。こうして形成されるリーチング痕の部分は周囲の領域に比べて表面粗さが大きくなるため、均一で平滑性の高いガラス基板の主平面を得ることができなかった。
【0007】
また、研磨されるガラス基板は薄くて軽いため、研磨後に上昇した上定盤側の研磨パッドに張り付きやすい。そのため、研磨後のガラス基板の回収作業に時間がかかるばかりでなく、上定盤側の研磨パッドに張り付いたガラス基板が落下し、キズが発生したり破損したりするおそれがあった。また、下定盤側の研磨パッドの溝に溜まった研磨液中に含まれる砥粒の凝集体や研磨屑が、ガラス基板の表面に微小なキズを発生させるおそれもあった。
【0008】
従来から、磁気記録媒体用ガラス基板の主平面の研磨において、ガラス基板の落下による破損を防止しかつ回収作業の効率を向上させる技術として、ガラス基板に対する下定盤側の吸着力を上定盤側に比べて大きくした状態で研磨する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、上定盤側の研磨パッドの溝同士の間隔(ピッチ)を下定盤側の研磨パッドに比べて狭くし、あるいは上定盤側の研磨パッドの溝幅を下定盤側の研磨パッドに比べて広くすることにより、上定盤側の研磨パッドとガラス基板との接触面積を下定盤側に比べて小さくし、それにより上定盤側の研磨パッドへのガラス基板の張り付きを防止する方法が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3のいずれの方法においても、使用される下定盤側の研磨パッドが研磨面に溝を有するものであるため、溝に溜まった研磨液によって生じるガラス基板のリーチング痕を防止することができず、研磨後のガラス基板の表面粗さの局所的な増大を抑えることができなかった。また、溝に溜まった研磨液中の砥粒の凝集体や研磨屑が、ガラス基板の表面に微小なキズを発生させることも防止できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−159353号公報
【特許文献2】特開2007−122879号公報
【特許文献3】WO2009/157306公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、ガラス基板の主平面の研磨において、上定盤側の研磨パッドへのガラス基板の張り付きを防止して、落下によるガラス基板の破損等を防止するとともに、研磨パッドの溝に滞留した研磨液によるガラス基板のリーチング痕の発生を防止し、主平面が平滑でかつ面内における表面粗さの均一性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス素基板に中央部に円孔を有する円盤形状を付与する形状付与工程と、円盤形状を付与された前記ガラス基板を、少なくとも上側研磨パッドの研磨面に溝部を有する対向配置された上下一対の研磨パッド間に配置し、該ガラス基板の両主平面に上側の研磨パッドの研磨面と下側の研磨パッドの研磨面をそれぞれ押し付けた状態で研磨液を供給し、前記上側の研磨パッドおよび下側の研磨パッドと前記ガラス基板とを相対的に摺動させることにより前記ガラス基板の主平面を研磨する研磨工程と、前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程と、を有する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であり、前記研磨パッドの研磨面の平面形状から算出された平面形状面積(A)から、前記研磨面に形成された溝部の面積(B)を除いた面積を、前記平面形状面積(A)で除した値で定義される研磨面の実効面積率((A−B)/A×100)が、
前記上側の研磨パッドにおいて75〜98%であり、かつ前記下側の研磨パッドにおいて99%以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記溝部は前記上側の研磨パッドの研磨面にのみ形成されており、前記下側の研磨パッドは、研磨面に溝部を有しないことが好ましい。また、前記研磨面に形成された前記溝部は、300μm〜3000μmの幅を有することが好ましい。さらに、前記上側の研磨パッドと前記下側の研磨パッドの少なくとも一方は、前記研磨面に最大径が5μm〜80μmの開孔を有する樹脂製の研磨パッドであることが好ましい。
【0014】
そして、前記研磨工程は、前記ガラス基板の上下両主平面を同時に研磨する工程であることができる。また、前記研磨工程は、平均粒径が1500nm以下の砥粒を含有する研磨液を用いて前記ガラス基板の両主平面を同時に研磨する研磨工程であることが好ましい。さらに、前記砥粒は、コロイダルシリカであることが好ましい。
【0015】
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、前記本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造されたガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板の記録再生領域において表面粗さの算術平均(Ra)が0.15nm以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、前記本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造されたガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板の記録再生領域において150μm〜1200μmの周期を有する微小うねりの平均(μWa)が0.12nm以下であることを特徴とする。
【0017】
本明細書において、「溝部」なる語は、幅に比べて長さが十分に長い線状の凹みだけでなく、幅と同等に近い長さを有する凹部や、研磨液を研磨面に供給するための穴部も含むものとする。
また、平均粒径は、粒度分布の累積50%点の粒子直径であるd50を示す。なお、粒子直径は、レーザー回折・散乱式等の粒度分布計、または動的光散乱方式の粒度分布測定機を使用して測定した値である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、ガラス基板の主平面の研磨における上定盤側の研磨パッドへのガラス基板の張り付きを防止して、落下によるガラス基板の破損等を防止するとともに、研磨パッドの溝に滞留した研磨液により生じるガラス基板のリーチング痕を防止し、平滑性に優れかつ面内で表面粗さが均一な主平面を有する磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明により製造される磁気記録媒体用ガラス基板の断面斜視図である。
【図2】本発明の製造方法における主平面研磨工程に使用される両面研磨装置の概略を示す一部断面斜視図である。
【図3】図2の両面研磨装置における上定盤側の研磨パッドを示し、(a)〜(c)は研磨面に形成される溝部の形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下に記載される実施形態に限定されない。
【0021】
まず、本発明により製造される磁気記録媒体用ガラス基板の一例を、図1に示す。図1に示す磁気記録媒体用ガラス基板10は、中央部に円形の貫通孔(以下、円孔という。)11を有する円盤形状を有し、円孔11の内壁面である内周側面101と、外周側面102、および上下1対の主平面103からなる円盤形状を有している。そして、内周側面101および外周側面102と上下両方の主平面103との交差部に、それぞれ面取り部104(内周面取り部および外周面取り部)が形成されている。
【0022】
<磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法>
このような磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)形状付与工程
フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法またはプレス成形法で成形されたガラス素基板を、中央部に円孔を有する円盤形状に加工した後、内周側面と外周側面の面取り加工を行う。
(2)主平面研削工程
ガラス基板の上下両主平面に研削加工を行う。研削加工は、遊離砥粒を用いてガラス基板を研削する遊離砥粒研削、または固定砥粒工具を用いてガラス基板を研削する固定砥粒研削により行う。
(3)端面研磨工程
ガラス基板の側面(内周側面および外周側面)と面取り部(内周面取り部および外周面取り部)に端面の研磨を行う。端面研磨は主平面研削工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。
(4)主平面研磨工程
ガラス基板の上下両主平面を研磨する。主平面の研磨工程は、1次研磨のみでもよく、1次研磨と2次研磨を行ってもよい。2次研磨の後にさらに3次研磨を行ってもよい。
(5)洗浄工程
ガラス基板の精密洗浄を行い、磁気記録媒体用ガラス基板を製造する。なお、こうして製造された磁気記録媒体用ガラス基板の上に磁性層等の薄膜を形成し、磁気ディスクを製造する。
【0023】
このような磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、各工程間にガラス基板の洗浄(工程間洗浄)やガラス基板表面のエッチング(工程間エッチング)を実施してもよい。また、磁気記録媒体用ガラス基板に高い機械的強度が求められる場合、ガラス基板の表層に強化層を形成する強化工程(例えば、化学強化工程)を、研磨工程前または研磨工程後、あるいは研磨工程間で実施してもよい。
【0024】
本発明において、ガラス基板を構成するガラスは、アモルファスガラスでも結晶化ガラスでもよく、表層に強化層を有する強化ガラス(例えば、化学強化ガラス)でもよい。また、ガラス素基板は、フロート法で成形されたものでも、フュージョン法、ダウンドロー法またはプレス成形法で成形されたものでもよい。
【0025】
本発明は、前記(4)主平面研磨工程に関し、より詳細には磁気記録媒体用ガラス基板の主平面の仕上げ研磨に係るものである。本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、円盤形状を付与された後端面を研磨されたガラス基板を、上下に対向配置された一対の研磨パッド間に配置し、このガラス基板の上下両主平面に上側の研磨パッドの研磨面と下側の研磨パッドの研磨面をそれぞれ押し付けた状態で、研磨面およびガラス基板の主平面に研磨液を供給し、前記上側の研磨パッドおよび下側の研磨パッドと前記ガラス基板とを相対的に摺動させることにより、前記ガラス基板の主平面を研磨する工程(主平面研磨工程)を有する。そして、このような主平面研磨工程において、上側の研磨パッドの研磨面の実効面積率を75〜98%にするとともに、下側の研磨パッドの研磨面の実効面積率を99%以上にすることを特徴とする。上側の研磨パッドの研磨面の実効面積率は、78〜98%が好ましく、85%〜98%がより好ましく、90〜98%が特に好ましい。下側の研磨パッドの研磨面の実効面積率は、100%がより好ましい。すなわち、下側の研磨パッドは、研磨面に実質的に溝部を有しないものであることが好ましい。
【0026】
ここで、研磨パッドの研磨面の実効面積率は、研磨面全体のうちで実際に研磨に効力を発揮する領域の面積の割合を示すものであり、以下の式で表される。
研磨面の実効面積率={(A−B)/A}×100
この式において、Aは、研磨パッドの研磨面の平面形状からそのまま算出された面積であり、溝部および凹部の面積を含む。Bは、研磨パッドの研磨面に形成された溝部(凹部を含む。)の総面積である。なお、研磨パッドの研磨面の平面形状とは、該研磨面の外周縁および内周縁で囲まれた平面図形の形状をいう。
【0027】
このような主平面の研磨工程を含む本発明の製造方法によれば、前記式で定義される研磨面の実効面積率を、上側の研磨パッドにおいて75〜98%とするとともに、下側の研磨パッドにおいて99%以上として、上側の研磨パッドの実効面積率を下側の研磨パッドの実効面積率に比べて低減しているので、研磨終了後のガラス基板は実効面積率が高い、すなわち溝部の面積がより小さい下側の研磨パッドの研磨面に張り付き、上側の研磨パッドの研磨面への張り付きが防止される。そのため、研磨後のガラス基板の回収作業が容易であるうえに、ガラス基板の落下によるキズや破損が生じるおそれがない。
【0028】
また、前記したように、研磨後のガラス基板が張り付く下側の研磨パッドの研磨面には、実質的に溝部が形成されていないので、溝部に滞留した研磨液に起因するリーチング痕がガラス基板に発生することがなく、凝集した砥粒や研磨屑に起因する微小キズが発生することもない。したがって、主平面の微小なキズが少なく、主平面の平滑性に優れ、かつ主平面の面内における表面粗さが均一な磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【0029】
本発明の製造方法における主平面研磨工程に使用される研磨装置の一例を図2に示す。この研磨装置20は、上下に対向して配置された上定盤201と下定盤202、およびこれらの間に配設されたキャリア30を有する両面研磨装置である。キャリア30は、その保持部に複数枚のガラス基板10を保持している。そして、この研磨装置20では、サンギア203とインターナルギア204をそれぞれ所定の回転比で回転駆動することで、キャリア30を自転させながらサンギア203の周りを公転するように移動させ、かつ上定盤201と下定盤202をそれぞれ所定の回転数で回転駆動して、キャリア30の保持部に保持されたガラス基板10の上下両主平面を研磨する。
【0030】
上定盤201と下定盤202のガラス基板10と対向する面には、それぞれ樹脂等からなる研磨パッド40、50が装着されている。ここで、符号40は上定盤201に装着された上側研磨パッドを示し、符号50は下定盤202に装着された下側研磨パッドを示す。そして、上側研磨パッド40の研磨面および下側研磨パッド50の研磨面をドレス治具により所定の平坦度と表面粗さにドレス処理してから研磨を行う。なお、研磨パッドの研磨面は、研磨対象物であるガラス基板10に接する面をいう。
【0031】
ガラス基板10は、キャリア30の保持部に保持された状態で、上側研磨パッド40の研磨面と下側研磨パッド50の研磨面との間に狭持されており、上定盤201を下降させて上側研磨パッド40の研磨面と下側研磨パッド50の研磨面を、それぞれガラス基板10の上下両主平面に押し付けた状態で、ガラス基板の両主平面および研磨パッドの研磨面に砥粒を含有する研磨液を供給するとともに、キャリア30を自転させながらサンギア203の周りを公転させ、かつ上定盤201と下定盤202をそれぞれ所定の回転数で回転させる。こうして、ガラス基板10の両主平面に対して上側研磨パッド40の研磨面と下側研磨パッド50の研磨面を摺動させることで、ガラス基板10の両主平面を同時に研磨する。
【0032】
このような研磨装置20において、上側研磨パッド40および下側研磨パッド50としては、軟質または硬質の発泡樹脂からなるもので、研磨面に最大径が5〜80μmの開孔を有する研磨パッドの使用が好ましい。軟質発泡ウレタン樹脂からなる研磨パッドがより好ましい。研磨面に存在する開孔の最大径は、好ましくは5〜70μm、さらに好ましくは10〜40μm、特に好ましくは10〜30μmである。研磨パッドの研磨面に存在する開孔の最大径が5μm未満である場合には、研磨液の保持性が十分でなく、効率的な研磨を行うことが難しい。反対に、研磨面に存在する開孔の最大径が80μmを超える場合には、研磨パッドの研磨面の凹凸が大きくなるため、研磨後のガラス基板の主平面の平滑性が低下するおそれがある。
【0033】
なお、研磨パッドの研磨面に存在する開孔の最大径は、研磨パッドの研磨面を顕微鏡で観察し、最も大きい開孔の直径(長径)を計ることで測定する。
【0034】
また、上側研磨パッド40は、その研磨面に溝部(凹部を含む。)を有しており、前記したように、研磨面の平面形状面積(A)から溝部の面積(B)を除いた面積を、平面形状面積(A)で除した値として定義される研磨面の実効面積率((A−B)/A×100)が、75〜98%となっている。この実効面積率の値は、78〜98%が好ましく、85%〜98%がより好ましく、90〜98%が特に好ましい。そして、下側研磨パッド50の研磨面には、溝部は形成されておらず、前記した研磨面の実効面積率((A−B)/A×100)が99%以上となっている。下側研磨パッド50の研磨面の実効面積率は、100%がより好ましい。
【0035】
上側研磨パッド40の研磨面に形成された溝部の形状は、図3(a)に示すような格子状や、図3(b)に示すような同心円状、図3(c)に示すような放射状とすることができる。また、渦巻き状とすることもできる。なお、図3(a)〜(c)においては、溝部を符号60で示している。さらに、本発明において、溝部にはこのような直線状や曲線状の凹溝の他に、平面形状が矩形、円形、楕円形等の凹部も含まれるので、これらいろいろな平面形状を有する凹部を適当な密度で形成することもできる。形成の容易さおよび研磨液の流路としての供給性の観点から、溝部60としては格子状のものが好ましい。
【0036】
溝部60の幅は300μm〜3000μmが好ましく、500μm〜2000μmがより好ましい。上側研磨パッド40の研磨面に形成される溝部60の幅が300μm未満では、加工が難しいばかりでなく、上側研磨パッド40への張り付きを完全になくすことが難しい。反対に、溝部60の幅が3000μmを超えると、溝部60に接するガラス基板10の主平面(上側主平面)の研磨後の表面の微小うねりが大きくなる。
【0037】
前記した研磨装置20によるガラス基板の主面研磨には、前記研磨パッドとともに、砥粒を含む研磨液を使用する。砥粒の平均粒径は1500nm以下が好ましく、100nm以下がさらに好ましく、40nm以下が特に好ましい。本明細書において、砥粒の平均粒径は、動的光散乱方式の粒度分布測定機(例えば、大塚電子社製、製品名:FPAR−1000AS)を用いて測定されるか、あるいは電子顕微鏡を用いて計測される。砥粒の平均粒径が100nmを超えると、平滑性の高い主平面を有する磁気記録媒体用ガラス基板が得られないおそれがある。
【0038】
研磨液に含有される砥粒は、特に限定されるものではなく、コロイダルシリカ、酸化セリウム粒子、酸化マンガン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化鉄粒子、酸化ジルコニウム粒子等から選定できる。前記砥粒の中でも、ガラス基板の主平面を平滑性よく研磨できる、研磨後のガラス基板の表面に付着した砥粒を洗浄除去し易い、などの理由で、コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0039】
研磨液には、前記砥粒の分散媒として水を含有する。水については特に制限はないが、他の成分に対する影響、不純物の混入、pH等への影響の少なさの点から、純水、超純水、イオン交換水等を使用することが好ましい。この研磨液のpHは特に限定されるものではないが、pH1〜6であることが好ましく、pH2〜6がさらに好ましく、pH3〜5が特に好ましい。また、この研磨液は、前記砥粒の分散剤を含有してもよい。分散剤としては、陰イオン性、陽イオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤や界面活性作用のある水溶性ポリマーを使用することができる。
【0040】
本発明に係る磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、こうしてガラス基板の主平面を研磨した後、ガラス基板の精密洗浄を行い、磁気記録媒体用ガラス基板を得る。
精密洗浄では、例えば、アルカリ性洗剤を用いたスクラブ洗浄を行った後、アルカリ性洗剤溶液へ浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄を順次行う。洗浄後の乾燥は、例えば、イソプロピルアルコール蒸気による蒸気乾燥により行うことができる。
【0041】
前記した研磨装置20により主平面の研磨を行う本発明の製造方法によれば、研磨面の実効面積率((A−B)/A×100)が、上側研磨パッド40の研磨面において75〜98%であるのに対して、下側研磨パッド50の研磨面においては99%以上となっているので、研磨終了後のガラス基板10は実効面積率が高い、すなわち溝部60の面積がより小さい下側研磨パッド50の研磨面に張り付き、上側研磨パッド40の研磨面に張り付くことがない。そのため、研磨後のガラス基板10の回収作業が容易であるうえに、ガラス基板10の落下によるキズや破損が生じるおそれがない。
【0042】
また、研磨後のガラス基板10が張り付く側である下側研磨パッド50の研磨面には、実質的に溝部60が形成されていないので、溝部60に滞留した研磨液に起因するリーチング痕がガラス基板10に生じることがなく、凝集した砥粒や研磨屑に起因する微小キズが発生することもない。したがって、以下に示すように、主平面の微小なキズが少なく、主平面の平滑性に優れ、かつ主平面の面内における表面粗さが均一な磁気記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【0043】
<磁気記録媒体用ガラス基板>
本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、図1に示すガラス基板10の上下両主平面103を前記した方法で研磨することにより得られるものであり、両主平面の表面粗さの算術平均(以下、表面粗さRaと示す。)が0.15nm以下であり、かつ表面粗さRaが主平面の磁気記録に使用される全ての領域において0.15nm以下になっている。なお、主平面の表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した値である。
【0044】
磁気記録媒体用ガラス基板の表面の平滑性を表す指標としては、50μm〜1200μmの周期を有する微小うねりの算術平均(以下、微小うねり(μWa)という。)がある。本発明の磁気記録媒体用ガラス基板は、主平面の150μm〜1200μmの周期を有する微小うねり(μWa)が、0.12nm以下となっている。微小うねり(μWa)は、0.11nm以下が好ましく、0.10nm以下がさらに好ましく、0.09nm以下が特に好ましい。主平面の微小うねり(μWa)は、測定領域を例えば1.0mm×0.7mmとして、走査型白色干渉計を用いて測定することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1〜6、比較例
フロート法で成形されたSiOを主成分とするガラス板を、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの磁気記録媒体用ガラス基板用に、中央部に円孔を有する円盤形状に加工した。この中央部に円孔を有する円盤状ガラス基板の内周側面と外周側面を、面取り幅0.15mm、面取り角度45°の磁気記録媒体用ガラス基板が得られるように面取り加工した。
【0047】
次いで、内周端面(内周側面と内周面取り部)を、酸化セリウム砥粒を含む研磨液と研磨ブラシを用いて研磨し、面取り加工等により内周端面に生じたキズを除去し、鏡面となるように研磨した後、外周端面(外周側面と外周面取り部)を、前記と同様に酸化セリウム砥粒を含む研磨液と研磨ブラシを用いて研磨し、外周端面のキズを除去し、鏡面となるように研磨した。端面研磨後のガラス基板に対しては、洗剤を用いたスクラブ洗浄と、洗剤に浸漬した状態での超音波洗浄を行い、酸化セリウム砥粒を洗浄・除去した。
【0048】
端面研磨後のガラス基板の上下両主平面を、硬質ウレタン製の研磨パッドと砥粒を含有する研磨液(平均粒径が1.0μmの酸化セリウムを含有する研磨液)を用い、両面研磨装置(スピードファム社製、製品名:DSM22B−6PV−4MH)により研磨(1次研磨)し、その後、酸化セリウム砥粒を洗浄除去した。
【0049】
次いで、1次研磨後のガラス基板の上下主平面を、平均粒径が20nmのコロイダルシリカを含有する研磨液を使用し、上定盤側および下定盤側にいずれも軟質発泡ウレタン製の研磨パッドが装着された両面研磨装置(スピードファム社製、製品名:DSM22B−6PV−4MH)により研磨(仕上げ研磨)を行った。なお、仕上げ研磨において1バッチは200枚とした。実施例1〜6においては、上側研磨パッドの研磨面にのみ格子状の溝部が形成されており、下側研磨パッドには溝部がない構成で研磨を行った。比較例においては、上側研磨パッドおよび下側研磨パッドの各研磨面に格子状の溝部が形成された構成で研磨を行った。上側研磨パッドおよび下側研磨パッドの各研磨面に形成された溝部の幅と、上側研磨パッドおよび下側研磨パッドの開孔の最大径、および上側研磨パッドおよび下側研磨パッドの研磨面の実効面積率を、表1に示す。
【0050】
なお、砥粒の平均粒径は、以下の装置により測定された値である。
また、研磨パッドの研磨面に形成された溝部の幅、研磨パッドの開孔の最大径は、下記方法によりそれぞれ測定した。そして、研磨パッドの研磨面の実効面積率は、研磨パッドの研磨面の平面形状面積(A)と、溝部の幅の測定値から算出された溝部の総面積(B)から、以下の式を用いて算出した。
研磨面の実効面積率={(A−B)/A}×100
さらに、研磨工程後のガラス基板の上側研磨パッドへの張り付き率、およびガラス基板表面のキズを、以下の方法により調べた。結果を表1に示す。
【0051】
[砥粒の平均粒径]
砥粒の平均粒径は、動的光散乱方式粒度分布測定機(大塚電子社製:FPAR-1000)を用いて測定した。
【0052】
[研磨パッドの研磨面に形成された溝部の幅]
研磨パッドの研磨面を顕微鏡で観察し、研磨パッドの研磨面に形成された溝部の幅をキーエンス社製のマイクロスコープにより測定した。
【0053】
[研磨パッドの開孔の最大径]
研磨パッドの研磨面を顕微鏡で観察し、断面に存在する最も大きい開孔の直径をキーエンス社製のマイクロスコープにより測定した。
【0054】
[上側研磨パッドへの張り付き率]
研磨終了後、上側研磨パッドに張り付いたガラス基板の枚数を数え、上側研磨パッドへの張り付き率を求めた。
【0055】
[ガラス基板表面のキズ]
研磨後のガラス基板の両主平面におけるキズの有無を、メタルハライドランプで300Kルクスの光を当てて目視で検査した。そして、幅5μm以上のキズの個数をカウントした。
【0056】
次に、仕上げ研磨を行ったガラス基板は、洗剤によるスクラブ洗浄、洗剤溶液に浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄、を順次行い、イソプロピルアルコール蒸気により乾燥した。
【0057】
洗浄乾燥後のガラス基板において、下側研磨パッドに接する主平面(以下、下側主平面と示す。)の表面粗さ均一性、表面粗さRaおよび微小うねりμWaを、以下に示す方法でそれぞれ測定した。測定結果を表1に示す。
【0058】
[表面粗さ均一性]
下側主平面の表面粗さと表面粗さ均一性を、光散乱方式表面観察機(KLA-Tencor社製、Candela 6100)により測定し、表面粗さが良好でかつ下側主平面の全領域で均一である良品の割合を調べた。なお、光散乱方式表面観察機においては、波長λが405nmの25mWレーザーをガラス基板の表面に照射し、P波(90°偏光)とS波(0°偏光)の正反射光量の変化により、ガラス基板表面の組成変化、形状変化を捉えることで、表面粗さの均一性を調べた。
【0059】
[ガラス基板の下側主平面の表面粗さRaおよび微小うねりμWa]
ガラス基板の下側主平面の表面粗さ均一領域および不均一領域において、表面粗さRaおよび微小うねりμWaをそれぞれ測定した。表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments社製、Nano Scope D3000)により測定した。また、微小うねりμWaは、150〜1200μmの周期を有する微小うねりの算術平均粗さであり、走査型白色干渉計(Zygo社製、New View 5032)を用いて測定した。
【0060】
なお、ガラス基板の表面粗さ不均一領域は、下側研磨パッドの研磨面に形成された溝部に当接され、研磨液によるリーチング痕が発生した溝痕部を意味する。研磨面に溝部のない下側研磨パッドを使用した実施例1〜6においては、表面粗さ不均一領域は存在せず、下側主平面の全領域が表面粗さ均一領域に相当する。したがって、表面粗さ不均一領域における表面粗さRaおよび微小うねりμWaの値は、比較例についてのみ記載した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1からわかるように、研磨面の実効面積率が上側研磨パッドにおいて75〜98%であるのに対して、下側研磨パッドにおいて99%以上となっている実施例1〜6においては、研磨工程後のガラス基板の上側研磨パッドへの張り付き率が0%であり、落下等に起因するガラス基板表面のキズは生じなかった。また、実施例1〜6で得られた磁気記録媒体用ガラス基板は、下側主平面の表面粗さRaが0.15nm以下で微小うねりμWaが0.12nm以下となっており、表面が極めて平滑なものであった。さらに、下側主平面の表面粗さの均一性も極めて高いものであった。
【0063】
それに対して比較例では、下側研磨パッドの研磨面に溝部が形成され、下側研磨パッドの研磨面の実効面積率が99%未満となっているので、上側研磨パッドへのガラス基板の張り付きが10%生じており、落下等に起因するガラス基板表面のキズも生じていた。また、比較例で得られた磁気記録媒体用ガラス基板は、下側主平面の溝痕部で表面粗さRaが0.20nmと大きくなっており、微小うねりμWaも溝痕部で0.18nmと大きくなっていた。そして、下側主平面の表面粗さの均一性が低くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、ガラス基板の主平面の研磨において、上定盤側の研磨パッドへのガラス基板の張り付きを防止するとともに、研磨液によるガラス基板のリーチング痕の発生を防止し、主平面の面内における均一な平滑性に優れた磁気記録媒体用ガラス基板を高い生産性で得ることができる。
【符号の説明】
【0065】
10…磁気記録媒体用ガラス基板、11…円孔、103…主平面、104…面取り部、20…研磨装置、30…キャリア、40…上側研磨パッド、50…下側研磨パッド、60…溝部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス素基板に中央部に円孔を有する円盤形状を付与する形状付与工程と、
円盤形状を付与された前記ガラス基板を、少なくとも上側研磨パッドの研磨面に溝部を有する対向配置された上下一対の研磨パッド間に配置し、該ガラス基板の両主平面に上側の研磨パッドの研磨面と下側の研磨パッドの研磨面をそれぞれ押し付けた状態で研磨液を供給し、前記上側の研磨パッドおよび下側の研磨パッドと前記ガラス基板とを相対的に摺動させることにより前記ガラス基板の主平面を研磨する研磨工程と、
前記ガラス基板を洗浄する洗浄工程と、を有する磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法であり、
前記研磨パッドの研磨面の平面形状から算出された平面形状面積(A)から、前記研磨面に形成された溝部の面積(B)を除いた面積を、前記平面形状面積(A)で除した値で定義される研磨面の実効面積率((A−B)/A×100)が、
前記上側の研磨パッドにおいて75〜98%であり、かつ前記下側の研磨パッドにおいて99%以上であることを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記溝部は前記上側の研磨パッドの研磨面にのみ形成されており、前記下側の研磨パッドは、研磨面に溝部を有しない請求項1に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記研磨面に形成された前記溝部は、300μm〜3000μmの幅を有する請求項1または2に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記上側の研磨パッドと前記下側の研磨パッドの少なくとも一方は、前記研磨面に最大径が5μm〜80μmの開孔を有する樹脂製の研磨パッドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記研磨工程は、前記ガラス基板の両主平面を同時に研磨する工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記研磨工程は、平均粒径が1500nm以下の砥粒を含有する研磨液を用いて前記ガラス基板の両主平面を同時に研磨する研磨工程である、請求項5に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記砥粒は、コロイダルシリカである請求項6に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造されたガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板の記録再生領域において表面粗さの算術平均(Ra)が0.15nm以下である磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造されたガラス基板であって、前記磁気記録媒体用ガラス基板の記録再生領域において150μm〜1200μmの周期を有する微小うねりの平均(μWa)が0.12nm以下である磁気記録媒体用ガラス基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−234604(P2012−234604A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104270(P2011−104270)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】