説明

磁気記録膜用スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】結晶粒の成長を抑制し、低透磁率かつ高密度とすることにより、成膜効率化および膜特性の向上が実現できる磁気記録膜用スパッタリングターゲット、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなるスパッタリングターゲットであって、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録膜を形成する際に用いられるスパッタリングターゲット、およびその製造方法に関する。より詳しくは、低透磁率かつ高密度である磁気記録膜用スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部記録装置として採用されるハードディスク装置には、高性能なコンピュータおよびデジタル家電等に対応し得る高密度記録性が要求される。近年、このような高密度記録性を充足する垂直磁気記録方式が注目されており、該方式に用いられる垂直磁化膜としては、Co系合金磁性膜が多く採用されている。これら磁性膜においては、各相の結晶粒子の大きさおよびバラツキを抑制して、各粒子間の磁気的相互作用を低減すれば、媒体ノイズを低減し、記録密度を向上させることが可能となること等が知られている。
【0003】
こうしたCo系合金磁性膜は、現在スパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより得られるが、得られる膜の高密度記録化、高保磁力化等を実現するため、用いるスパッタリングターゲットの品質向上を目指すべく様々な研究開発が行われている。
【0004】
たとえば、特許文献1にはCo系合金からなるスパッタリングターゲットが開示されており、該ターゲットはCo系合金磁性膜の保磁力の向上およびノイズの低減を実現するため、合金相とセラミックス相を均質に分散させたものである。該ターゲットはある程度微細な混合相を形成しており、高い相対密度を示しているが、ターゲットを製造する際における焼結温度が1000〜1300℃と比較的高温であるため、結晶粒の成長を充分に抑制することができず、透磁率についてもさらに改善すべきものであった。
【0005】
また、特許文献2には、少なくともCoを含有する金属相と、セラミックス相とを有するスパッタリングターゲットが開示されている。該ターゲットは相対密度99%以上と高密度ではあるが、酸化物相の長軸粒径は10μm以下に留まっている。これは焼結温度が1150〜1250℃と依然として高温であることに起因するものと考えられ、結晶粒の成長を充分に抑制するものとはいえなかった。
【0006】
一方、特許文献3には、保磁力および媒体ノイズを低減するための、Coを含む合金相とセラミックス相からなる高密度面内磁気記録媒体用スパッタリングターゲットが開示されている。該ターゲットの合金相とセラミックス相とは微細かつ均質に分散したものであり、パーティクルを低減し得るものではあるが、その該ターゲットの密度については具体的に検討されておらず、また透磁率についても改善の余地があった。
【特許文献1】特開平10−88333号公報
【特許文献2】特開2006−45587号公報
【特許文献3】特開2006−313584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれのスパッタリングターゲットにおいても、結晶粒子の粒成長の抑制、低透磁率、および高密度という品質をすべて満足に充足し得るものではなかった。
本発明ではこれらの品質をバランスよく保持できるスパッタリングターゲット、すなわち結晶粒の成長を抑制し、低透磁率かつ高密度とすることにより、成膜効率化および膜特性の向上が実現できる磁気記録膜用スパッタリングターゲット、およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなるスパッタリングターゲットであって、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上であることを特徴としている。
【0009】
また、前記スパッタリングターゲットの表面を走査型分析電子顕微鏡で観察した際における、前記マトリックス相が形成する粒子の平均粒径、および前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径がともに0.05μm以上7.0μm未満であり、かつ前記マトリックス相が形成する粒子の平均粒径が、前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径よりも大きいものであってもよい。
【0010】
さらに、X線回折分析において、式(I)で表されるX線回折ピーク強度比が0.7〜1.0であるのが望ましい。
【0011】
【数1】

また、前記金属酸化物相が、Si、Ti、Taより選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含むものでもよく、前記マトリックス相がさらにCrを含んでいてもよい。
【0012】
さらに、本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、焼結温度800〜1050℃で焼結することにより得られるのが好ましく、通電焼結法により焼結して得られるのが好ましい。
【0013】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法は、CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなり、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上である磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
CoおよびPtを含む金属と金属酸化物とを粉末にし、該粉末を焼結温度800〜1050℃で焼結した後、300〜1000℃/hrの速度で降温する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、高密度であり、かつ結晶粒子の粒成長を充分に抑制したスパッタリングターゲットであるので、パーティクルおよびアーキングの発生を低減することができる。また、低透磁率であるので、スパッタ速度を向上させることができ、該スパッタリングターゲットをスパッタリングして磁気記録膜を形成する際、高速成膜化を実現することが可能となる。
【0015】
さらに本発明の製造方法によれば、上記スパッタリングターゲットを容易かつ高速に得ることができ、製造工程の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲット、およびその製造方法について具体的に説明する。
<磁気記録膜用スパッタリングターゲット>
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲット(以下、「本発明のスパッタリングターゲット」ともいう)は、CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなるスパッタリングターゲットであって、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上であることを特徴としている。
【0017】
前記マトリックス相はCoおよびPtとからなり、通常、該ターゲット100モル%中、Coを1〜80モル%、好ましくは1〜75モル%、より好ましくは1〜70モル%の量で、Ptを1〜20モル%、好ましくは1〜15モル%、より好ましくは5〜15モル%の量で含まれる。なお、前記金属として、さらにCrを1〜20モル%、好ましくは1〜15モル%、より好ましくは5〜15モル%の量で含有してもよい。
【0018】
また、前記金属酸化物相は金属元素の酸化物からなり、通常、該ターゲット100モル%中、0.01〜20モル%、好ましくは0.01〜15モル%、より好ましくは0.01〜10モル%の量で含まれる。
【0019】
金属酸化物としては、具体的には、SiO、SiO2、TiO2、Ta25、Al23、MgO、CaO、Cr23、ZrO2、B23、Sm23、HfO2、Gd23が挙げられ、なかでもSi、Ti、Taより選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であるのが好ましい。残部には、本発明の効果を損なわない範囲で他の元素を含有してもよい。例えば、タンタル、ニオブ、銅、ネオジムなどが挙げられる。
【0020】
なお、金属酸化物相には、上記金属酸化物のほか、マトリックス相を構成する金属が大気中で、あるいは焼結時に酸化された酸化物も微量に含まれる場合がある。たとえば、金属としてCrを含む場合、その一部がCr23となって金属酸化物相に存在し得る。
【0021】
前記マトリックス相に含まれるCoは磁性状態または非磁性状態のどちらをもとり得る性質を有するが、該金属相が均質に分散することでこのCoが非磁性状態を呈しやすくなるため、ターゲットにおける重要な物性の一つでもある透磁率を低下させることが可能となる。本発明のスパッタリングターゲットの透磁率は、通常6〜15、好ましくは6〜12、より好ましくは6〜9である。このように低い透磁率を有するターゲットであると、漏磁束が高くなるため、スパッタリング速度を向上させることができ、高速成膜化が容易となる。また、ターゲット自体の寿命を伸ばし、ターゲット1枚あたりの量産性を向上させることもできる。
【0022】
本発明のスパッタリングターゲットの相対密度は、焼結後の該スパッタリングターゲットについてアルキメデス法に基づき測定した値であり、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上であり、上限値については特に限定されないが、通常100%以下である。上記相対密度の値を有するターゲット、いわゆる高密度のターゲットとすることにより、該ターゲットをスパッタリングした際における熱衝撃や温度差などに起因するターゲットの割れを防止するとともに、ターゲット厚を無駄なく有効に活用することができる。また、パーティクルおよびアーキングの発生を有効に低減することもできるとともに、スパッタリング速度を向上させる効果をもたらす。したがって、連続生産における欠損を抑制し、ターゲット単位面積あたりの成膜数を向上させ、かつ高速成膜化を実現することが可能となる。
【0023】
なお、アルキメデス法とは、ターゲット焼結体の空中重量を、体積(=ターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比重)で除し、下記式で表される理論密度ρ(g/c
3)に対する百分率で定義される相対密度(%)を求める方法である;
【0024】
【数2】

(式(X)中、C1〜Ciはそれぞれターゲット焼結体の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ〜ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
【0025】
また、このような高密度のスパッタリングターゲットは、成膜された膜の抵抗率を低下させることができ、本発明のスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより、安定した膜特性を有する磁気記録膜を形成することが可能となる。
【0026】
このような成分からなるスパッタリングターゲットにおいては、マトリックス相および金属酸化物相の双方ともに粒子を形成している。たとえば図1に示されるように、ターゲット表面を走査型分析電子顕微鏡(SEM)で観察すると、上記金属酸化物相からなる粒子は黒色で表示され、それ以外の粒子がマトリックス相である。本発明のスパッタリングターゲットはこれらマトリックス相および金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径が、通常0.05〜7.0μm未満、好ましくは0.05〜6.0μm、より好ましくは0.5〜6.0μmである。なお、平均粒径とは、スパッタリングターゲットの切断面を走査型分析電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEM像1000倍視野に対角線を引き、この線上に存在するマトリックス相および金属酸化物相が形成する粒子それぞれについて最大粒径および最小粒径を測定し、これらを平均した値を意味する。
【0027】
また、マトリックス相が形成する粒子の平均粒径は、金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径よりも常に大きい値を示す。
マトリックス相および金属酸化物相が形成する微細な粒子の平均粒径が上記範囲内であり、かつマトリックス相が形成する粒子の平均粒径が、前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径よりも大きい値を示した状態であると、これらの粒子が充分に分散され、かつ該粒子の粒成長が効果的に低減された状態、すなわちマトリックス相と金属酸化物相とが均質に分散している状態を維持することができ、該ターゲットをスパッタリングして成膜する際、特に固溶した金属酸化物相が塊状となって膜に付着するようなパーティクルを有効に低減することができるとともに、アーキングの発生をも抑制することができる。また、得られる膜の均質性および緻密性も向上させることができる。
【0028】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、X線回折分析において、式(I)で表されるX線回折ピーク強度比が通常0.7〜1.0、好ましくは0.8〜1.0である。
【0029】
【数3】

なお、本明細書においてCo−fcc[002]面のX線回折ピークとは、X線源にCuを用いた場合に、2θ=51°付近に現れるピークを意味する。また、Co−hcp[1
03]面のX線回折ピークとは、X線源にCuを用いた場合に、2θ=82°付近に現れ
るピークを意味する。さらに、X線回折ピーク強度とは、単純にこれらピーク高さと半値幅を乗じた値(ピーク高さ×半値幅)を意味する。
【0030】
本発明のようなCoおよびPtを含むマトリックス相に存在する結晶は、fcc構造(立方最密充填構造)、またはhcp構造(六方最密充填構造)を形成するが、これらの結晶構造は互いに相転移し得る。マトリックス相に存在する結晶がfcc構造を形成している場合には、2θ=51°付近にCo−fcc[002]面のX線回折ピークが発現し、同結晶がhcp構造を形成している場合には、2θ=82°付近にCo−hcp[103]面のX線回折ピークが発現する。したがって、式(I)で表されるX線回折ピーク強度比の値が上記範囲内であると、マトリックス相においてhcp構造よりもfcc構造が多く形成されていることとなる。このように、本発明のスパッタリングターゲットのマトリックス相において、fcc構造を形成する結晶が多く存在することが、得られるターゲットの透磁率を低下させる一因になっているものと推定される。
【0031】
本発明のスパッタリングターゲットの焼結温度は、後述するように該ターゲットの組成にも影響され得るが、通常800〜1050℃、好ましくは900〜1050℃、より好ましくは950〜1050℃である。焼結温度が上記範囲内であると、比較的低温で焼結できるとともに得られるターゲットの密度が必要以上に低下するおそれがない。このような低温で焼結することで、上記マトリックス相および金属酸化物が形成する微細な粒子の粒成長を有効に抑制したスパッタリングターゲットを得ることが可能となる。
【0032】
さらに、上記焼結温度で焼結したターゲットは、通常300〜1000℃/hr、好ましくは500〜1000℃/hr、より好ましくは700〜1000℃/hrの速度で、上記焼結温度から200℃まで降温するのが望ましい。降温速度が上記範囲内であると、急激に降温することが可能となり、上記マトリックス相および金属酸化物が形成する微細な粒子の粒成長を有効に抑制することができる。
【0033】
こうしたCoおよびPtを含むマトリックス相に存在する結晶が形成するfcc構造は、同結晶が形成するhcp構造よりも高温域で安定に存在し得るが、上記のように急激に降温することで、一度fcc構造を形成した結晶を封じ込め、hcp構造へ相転移するのを抑制し、fcc構造を有する結晶粒子を有効に保持することができるものと推定される。このため、本発明のスパッタリングターゲットのマトリックス相に存在する結晶の多くがfcc構造を有し、上述のようなX線回折ピーク強度比を示すものと考えられる。
【0034】
上記焼結温度条件、降温速度条件を充足する焼結方法であれば特に制限されないが、通電焼結法であるのが好ましい。この方法であると、低温焼結が可能であるとともに高速降温の制御が容易である。
【0035】
通電焼結法とは、加圧加電下において大電流を印加することにより焼結をする方法であり、放電プラズマ焼結法、放電焼結法、またはプラズマ活性化焼結法をも含むものである。この方法は、原料粉末の間隙に生じる放電現象を利用して、放電プラズマ等による粒子表面における活性化作用および電場により生じる電解拡散効果やジュール熱による熱拡散効果、加圧による塑性変形圧力などが焼結の駆動力となって焼結が促進される。該方法を用いると、上記焼結温度程度の低温度域であっても成形体を充分に焼結することができ、また高速降温を容易に実現することができる。
【0036】
<磁気記録膜>
本発明のスパッタリングターゲットは、磁気記録膜、特に垂直磁化膜の形成に好適に用いられる。垂直磁化膜とは、その磁化容易軸が非磁性基板に対して主に垂直方向に向け、記録密度の向上を図る垂直磁気記録方式による記録膜である。本発明のスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより、高品質な磁気記録膜を高速成膜することが可能となる。
【0037】
成膜の際に採用されるスパッタリング方式としては、通常、DCマグネトロンスパッタリング方式またはRFマグネトロンスパッタリング方式が好適である。膜厚は特に限定されるものではないが、通常5〜100nmであり、5〜20nmが好適である。
【0038】
こうして得られる磁気記録膜は、CoおよびPtを目標とする組成比の約95%以上の組成比で含有することが可能である。また、該磁気記録膜は、マトリックス相が形成する粒子の平均粒径が、前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径よりも大きいという関係を保持しつつ、マトリックス相および金属酸化物相が形成する粒子の大きさを低減した本発明のスパッタリングターゲットから得られることから、均質性および緻密性が高い。さらに、この磁気記録膜は保磁力だけでなく、垂直磁気異方性および垂直抗磁力のような磁気特性にも優れることから、特に垂直磁化膜として好適に用いることができる。
【0039】
<磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法>
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法は、CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなり、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上である磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法であって、CoおよびPtを含む金属と、金属酸化物とからなる粉末を成形し、次いで焼結温度800〜1050℃で焼結した後、300〜1000℃/hrの速度で降温する工程を含むことを特徴としている。
【0040】
本発明のスパッタリングターゲットを得るには、CoおよびPtを含む金属と、金属酸化物とからなる粉末を用いる。該粉末は、以下の方法により、粉末(A)から得られる粉末(B)を用いる。
【0041】
粉末(A)は、Coと金属酸化物とをメカニカルアロイングすることにより得る。金属としてCrを含有させる場合には、まずCoとCrとの合金をアトマイズするのが好ましい。この場合に原料として用いる合金は、Cr濃度が、通常5〜95原子%、好ましくは10〜70原子%である。この合金をアトマイズすることにより、粉末を得る。
【0042】
アトマイズ法としては、特に限定されず、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、真空アトマイズ法、遠心アトマイズ法等のいずれであってもよいが、ガスアトマイズ法が好ましい。出湯温度は、通常1420〜1800℃、好ましくは1420〜1600℃である。ガスアトマイズ法を用いる場合、通常N2ガスまたはArガスを噴射するが、Arガスを
噴射すると、酸化を抑制することができるとともに球状の粉末が得られるので好ましい。上記合金をアトマイズすることで、平均粒径が10〜600μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜80μmのアトマイズ粉が得られる。
【0043】
そして、Coを含む金属またはCoとCrとの合金、あるいはこれらのアトマイズ粉と金属酸化物とをメカニカルアロイングして粉末(A)を得る。用いる金属酸化物は金属元素の酸化物からなり、具体的には、SiO、SiO2、TiO2、Ta25、Al23、MgO、CaO、Cr23、ZrO2、B23、Sm23、HfO2、Gd23が挙げられ、なかでもSi、Ti、Taより選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であるのが好ましい。残部には、本発明の効果を損なわない範囲で他の元素を含有してもよい。例えば、タンタル、ニオブ、銅、ネオジムなどが挙げられる。メカニカルアロイングは、通常ボールミルにて行う。
【0044】
この粉末(A)の粉砕率は、通常30〜95%、好ましくは50〜95%、より好ましくは80〜90%である。粉砕率が上記範囲であると、粉末(A)を充分に微細化してターゲット内におけるマトリックス相と金属酸化物相とを均質に分散させることができるとともに、粉砕率の上昇に伴い増加する傾向にあるジルコニウムまたは炭素などの不純物の混入を適度に抑制することができる。
【0045】
さらに、金属としてCrを含有させる場合、上記のような粉末(A)を得る代わりに、Cr含有粉末を直接用いて、次工程以降の処理を行ってもよい。また、該Cr含有粉末は、CoとCrのほか、金属酸化物等を含有しているのが好ましい。
【0046】
次に、前記粉末(A)とPtとを混合し、粉末(B)を得る。Ptは、単体粉末を用いるのが好ましい。混合方法は、特に限定されないが、ブレンダーミル混合が好適である。
なお、次工程である焼結工程に移行する前に粉末(B)を整粒してもよい。整粒には、振動ふるいを用いる。整粒することにより、粉末(B)の均質性をさらに高めることができる。
【0047】
得られた粉末(B)を焼結することにより、本発明のスパッタリングターゲットを得る。焼結温度は、通常800〜1050℃、好ましくは900〜1050℃、より好ましくは950〜1050℃である。焼結時の圧力は、通常10〜100MPa、好ましくは20〜80MPa、より好ましくは30〜60MPaである。焼結雰囲気は、通常、非酸素雰囲気であるのが望ましく、なかでもAr雰囲気であるのが好ましい。
【0048】
焼結開始時から最高焼結温度に到達するまでは、通常250〜6000℃/h、好ましくは1000〜6000℃/hの速度で、通常10min〜4hかけて昇温する。
最高焼結温度保持時間(焼結時間)は、通常3min〜5h程度である。最高焼結温度保持時間が上記範囲内であると、マトリックス相および金属酸化物が形成する微細な粒子の粒成長を有効に抑制することができるとともに、得られるターゲットの相対密度を向上させることができる。
【0049】
さらに、上記焼結温度から200〜400℃まで、通常300〜1000℃/hr、好ましくは500〜1000℃/hr、より好ましくは700〜1000℃/hrの速度で、通常1〜3hかけて降温する。
【0050】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、焼結温度を上記範囲内とし、かつ降温速度を上記範囲内とすること、すなわち比較的低温下で焼結し、かつ高速で降温することに特徴を有している。そのため、マトリックス相および金属酸化物相が形成する粒子の粒成長を有効に抑制することができるとともに、マトリックス相に存在する結晶が形成するfcc構造を有効に保持することができるので、得られるターゲットの品質を向上させることが可能となる。したがって、本発明の製造方法によれば、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上のスパッタリングターゲットを容易に得ることができる。
【0051】
特に、好適な焼結温度および最高焼結温度保持時間は、ターゲットの組成により変動し得る。具体的には、たとえば、スパッタリングターゲットの組成がCo66モル%、Pt15モル%、Cr10モル%、TiO29モル%からなる場合、焼結温度は800〜95
0℃程度、最高焼結温度保持時間(焼結時間)は3min〜5hであるのが好ましい。
【0052】
また、スパッタリングターゲットの組成がCo68モル%、Pt12モル%、Cr8モル%、SiO212モル%からなる場合、焼結温度は900〜1050℃程度、最高焼結
温度保持時間(焼結時間)は5min〜2hであるのが好ましい。
【0053】
さらに、スパッタリングターゲットの組成がCo64モル%、Pt16モル%、Cr16モル%、Ta255モル%からなる場合、焼結温度は980〜1050℃程度、最高焼結温度保持時間(焼結時間)は5min〜2hであるのが好ましい。
【0054】
上記のような焼結条件を充足すれば、用いる焼結方法に特に制限はないが、通電焼結法によるのが好ましい。たとえば、この通電焼結法を用いた場合、所定の形状の治具に原料粉末を充填した後、焼結温度800〜1050℃の場合、圧力20〜50Pa、焼結時間3min〜5hの条件を採用することができる。したがって、従来より多く採用されているホットプレス(HP)法を用いて低温域で焼結すると、マトリックス相および金属酸化物相が形成する粒子の粒成長はある程度抑制できるものの、高密度のターゲットを得られにくい傾向にあるが、通電焼結法を用いれば、種々の焼結温度条件を制御しやすいため、低温域で焼結しても上記粒子の粒成長を抑制するとともに高密度化されたターゲットを容易に得られやすい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各評価は以下の手順に従って行った。
【0056】
《相対密度》
アルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲット焼結体の空中重量を、体積(=スパッタリングターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比
重)で除し、上記式(X)に基づく理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率の値を相対
密度(単位:%)とした。
【0057】
《透磁率》
BHトレーサ(東英工業(株)製、出力磁場1kOe)を用いて測定した。
《マトリックス相および金属酸化物相からなる粒子の平均粒径》
ターゲット切断面を走査型分析電子顕微鏡(日本電子データム(株)製)で観察し、SEM像(加速電圧20kV)1200μm×1600μm中に存在するマトリックス相および金属酸化物相からなる粒子を、画像上に対角線引いた線分上に存在する全ての粒子について、最大粒径および最小粒径を測定し、これを平均した値をマトリックス相および金属酸化物相それぞれの平均粒径とした。
【0058】
《X線回折ピーク強度比》
X線回折分析装置(型式:MXP3、(株)マックサイエンス製)を用い、以下の測定条件に従って、得られたスパッタリングターゲットにおけるCo−fcc[002]面のX線回折ピーク強度およびCo−hcp[103]面のX線回折ピーク強度を測定し、上記式(I)に基づきX線回折ピーク強度比を算出した。
X線源:Cu
パワー:40kV、30mA
測定法:2θ/θ、連続スキャン
スキャンスピード:4.0deg/min
【0059】
《パーティクル数》
得られたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング処理を施した。基板としてガラスを用い、これをスパッタリング装置(型式:MSL−464、トッキ(株)製)に設置し、以下の条件下で上記スパッタリングターゲットをスパッタリングし、φ2.5インチのスパッタリングターゲット中に発生したパーティクルの数を測定した。
プロセスガス:Ar
プロセス圧力:10mTorr
投入電力:3.1W/cm2
スパッタ時間:15sec
【0060】
[実施例1]
CoCrの合金2kgを超小型ガスアトマイズ装置(日新技研社製)を用いて、出湯温度1650℃(放射温度計で測定)下、50kg/cm2のArガスを噴射してガスアト
マイズすることにより粉末を得た。得られた粉末は平均粒径150μm以下の球状粉末であった。
【0061】
次いで、得られた粉末と、TiO2粉末(平均粒径約0.5μm)とを用い、ボールミ
ルにてメカニカルアロイングを施し、粉末(A)を得た。
得られた粉末(A)に、さらにPt粉末(平均粒径約0.5μm)およびCo粉末と同様の粉末をそれぞれ投入して、Co66Cr10Pt15(TiO2)9の組成比となるように混合し、粉末(B)を得た。混合にはボールミルを用いた。
得られた粉末(B)は、さらに振動ふるいを用いて整粒した。
次いで、粉末(B)を成形型に入れ、通電焼結装置を用い、以下の条件下で焼結した。
【0062】
[焼結条件]
結雰囲気:Ar雰囲気
昇温速度:800℃/hr、昇温時間:1h
焼結温度:800℃
最高焼結温度保持時間:10min
圧力:50MPa
降温速度:400℃/hr(最高焼結温度から200℃まで)、降温時間:1.5h
得られた焼結体を切削加工することにより、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。この焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2〜4、参考例1〜2]
実施例1と同様の粉末を用い、表1に示す組成比となるように混合して粉末(B)を得、表1に示す焼結条件に従った以外は実施例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。これらの焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
実施例1と同様の粉末を用い、表1に示す組成比となるように混合して粉末(B)を得た後、ホットプレス装置を用い、以下の条件下で焼結した以外は実施例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。この焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
焼結雰囲気:Ar雰囲気
昇温速度:450℃/hr、昇温時間:2h
焼結温度:900℃
最高焼結温度保持時間:1h
圧力:30MPa
降温速度:150℃/hr(最高焼結温度から300℃まで)、降温時間:4h
【0065】
[比較例2〜4]
比較例1と同様の粉末を用い、表1に示す組成比となるように混合して粉末(B)を得、表1に示す焼結条件に従った以外は比較例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。これらの焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0066】
[実施例5〜7、参考例3〜4]
TiO2粉末の代わりにSiO2粉末(平均粒径約0.5μm)を用い、表1に示す組成比となるように混合して粉末(B)を得、表1に示す焼結条件に従った以外は実施例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。これらの焼結体を用いた各
測定結果を表1に示す。
【0067】
[実施例8〜9]
TiO2粉末の代わりにTa25粉末(平均粒径約0.5μm)を用い、表1に示す組
成比となるように混合して粉末(B)を得、表1に示す焼結条件に従った以外は実施例1と同様にして、φ4インチのスパッタリングターゲットを得た。これらの焼結体を用いた各測定結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例3で得られたスパッタリングターゲットの切断面のSEM像である。
【図2】実施例7で得られたスパッタリングターゲットの切断面のSEM像である。
【図3】比較例3で得られたスパッタリングターゲットの切断面のSEM像である。
【図4】比較例4で得られたスパッタリングターゲットの切断面のSEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなるスパッタリングターゲットであって、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットの表面を走査型分析電子顕微鏡で観察した際における、前記マトリックス相が形成する粒子の平均粒径、および前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径がともに0.05μm以上7.0μm未満であり、
かつ前記マトリックス相が形成する粒子の平均粒径が、前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
X線回折分析において、式(I)で表されるX線回折ピーク強度比が0.7〜1.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【数1】

【請求項4】
前記金属酸化物相が、Si、Ti、Taより選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記マトリックス相がさらにCrを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
焼結温度800〜1050℃で焼結することにより得られることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項7】
通電焼結法により焼結して得られることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項8】
CoおよびPtを含むマトリックス相と、金属酸化物相とからなり、透磁率が6〜15、相対密度が90%以上である磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
CoおよびPtを含む金属と金属酸化物とを粉末にし、該粉末を焼結温度800〜1050℃で焼結した後、300〜1000℃/hrの速度で降温する工程を含むことを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
前記スパッタリングターゲットの表面を走査型分析電子顕微鏡で観察した際における、前記マトリックス相が形成する粒子の平均粒径、および前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径がともに0.05μm以上7.0μm未満であり、
かつ前記マトリックス相が形成する粒子の平均粒径が、前記金属酸化物相が形成する粒子の平均粒径よりも大きい磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
X線回折分析において、式(I)で表されるX線回折ピーク強度比が0.7〜1.0で
ある磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることを特徴とする請求項8または9に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。
【数2】

【請求項11】
前記金属酸化物相が、Si、Ti、Taより選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
前記マトリックス相がさらにCrを含む磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
通電焼結法により焼結することを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−102707(P2009−102707A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276570(P2007−276570)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】