説明

神経皮膚炎の外用治療用医薬を製造するための極限環境細菌から得られたオスモライトの使用

本発明は、神経皮膚炎の予防、手当ておよび/または治療のための例えばチンキ、ローション、O/Wエマルジョン、W/Oエマルジョン、クリーム、軟膏、ハイドロゲルまたはスプレーのような皮膚用製剤を製造するための、オスモライト、特にエクトインおよびヒドロキシエクトインならびに同等の効果を有するそれらの薬理学的に適合する塩および/または誘導体の使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
極限環境細菌(extremophilic bacteria)は、例えば200g/Lまでの塩化ナトリウムのような極めて高い塩濃度および60℃から110℃の範囲の温度のような、最も極端な条件下で生存および繁殖できる奇妙な微生物である。そのような生育条件は、正常(中温性)生物の即時の死をもたらし、あるいは少なくとも細胞構造の広範囲に亘る損傷につながるであろう。
【0002】
従って、近年、極限環境生物において見られる細胞構造の顕著な耐熱性、化学安定性および物理安定性の原因でありかつそれらをもたらす生化学的成分を同定するために、包括的な研究がなされている。
【0003】
細胞構造の高温安定性は、−そのかなりの程度において−オスモライトまたは適合性の溶質として知られている細胞内環境に存在する低分子有機物質によるものである。極限環境微生物中に見られるオスモライトは、ヒトまたは動物細胞によって産生されない。近年、様々な新しいオスモライトが極限環境微生物において初めて同定されている。そのようなオスモライトとして、例えば、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、フィロイン(firoin)、フィロイン-A(firoin-A)、ジグリセロールホスフェート(diglycerolphosphate)、サイクリックジホスホグリセレート(cyclic diphosphoglycerate)、1,3-ジマンノシル-ミオ-イノシトール-ホスフェート(1,3-dimannosyl-myo-inositol-phosphate)(DMIP)およびジイノシトールホスフェート(diinositol phosphate)が挙げられる。それらの全てが、極限環境微生物から得られ、精製および浄化され(特許文献1から3を参照)、それがなければ感受性である細胞に防御をもたらす低分子物質の公知の集合を形成する。場合によって、これら化合物が化粧品分野において、例えば熱や乾燥のような外部ストレス状態に対して皮膚細胞を防御するのに貢献することが既に分かっている(特許文献4を参照)。
【0004】
外部から引き起こされたストレスに対して皮膚を防御することあるいは組織構造の酵素分解によって生じる疾患を治療することを狙った局所用医薬品を好ましくは使用することがしばしば提案されている(特許文献5を参照)。一般的な他の疾患の他に、免疫系疾患、自己免疫関連疾患、炎症過程、ならびに急性および慢性炎症についてその中に記載されている。エクトインおよび他のオスモライトの使用を提案する特許文献6は、UV照射に対する皮膚の防御をもたらす化粧品に関連するものであり、それら製品はさらにヒト皮膚細胞の核酸に対する安定化効果を有するであろう。
【0005】
オスモライトのエクトインは、紫外線太陽放射の有害な影響に対して、健全で臨床的特徴のないヒト皮膚を防御する目的で化粧品中の保湿剤としても用いられている(特許文献7)。in vitroおよびin vivoでの検討の結果、エクトインの美容効果は、特に表皮のランゲルハンス細胞、ならびに表皮ケラチノサイトおよび皮膚繊維芽細胞の機能が、日焼けを生じさせるUV照射の炎症誘発効果に対してそれら細胞がより良好に防御されるように影響を受けるという事実に基づくものと考えられる。
【0006】
オスモライト、特にエクトインまたはヒドロキシエクトインによる皮膚疾患の全般的治療を意図した医薬品の製造は、本願の出願人であるBitop AG自身により以前に出願された特許文献8に記載されている。その中で、それら薬剤が、酵素および他の生体分子の安定化を促進させ、さらにその結果、変性条件の安定化を促進させ得ることが仮定されている。特許文献9−12において、その抗酸化効果のためエクトインをフリーラジカルスカベンジャーとして使用し、さらにこのような方法で、特に太陽放射により加速および増強される老化に対して皮膚を防御することが提案されている。さらには、酸化的現象の結果生じる望ましくない皮膚の状態もこのやり方で回避されるであろう。上記特許文献9−12において提案されているのと同様の仮定に基づき、特許文献13は、UV誘導免疫抑制の治療と共にエクトインを使用することについて記載している。
【0007】
神経皮膚炎(内因性湿疹またはアトピー性皮膚炎とも称される)は、適切な治療方法を欠くためしばしば数年または数十年に亘り続き、ほとんど有効に対処できない持続性の痒みによって特徴づけられ、患者に非常に大きな精神的緊張をもたらす非常によくある皮膚疾患である。この疾患の想定される原因の1つは、過度の乾燥および強い炎症傾向を示す敏感な皮膚である。この疾患は頻繁に、幼児期または思春期の間に発症する。新しい研究は、12歳までの年齢層がこの疾患に罹り得ることを示している。
【0008】
臨床的に言って、比較的ぼんやりと限定された丘疹、湿潤性、落屑性、表皮剥離、部分的重感染湿疹の皮膚変化が現れ、それらは最初に、顔、襟ぐり辺り、首および大きな間接領域に見られる。さらには、この疾患が慢性になると、皮膚変化の苔癬化がしばしば観察される。いわゆる乳児湿疹は生後3ヶ月程度の早期に発症することが多い。この疾患の多くの事例は、遊びおよび就学年齢の間に出くわす。特に、幼児は、痒い領域を常に引っ掻き、それによって皮膚が破れて裂け、さらに不注意により治療が困難である重感染を引き起こす。
【0009】
この重篤な疾患の潜在的な原因について確実なことはまだ何も言うことができない。この分野の熟練者がもつ関連意見は様々である。他のまだ正確には明らかにされていない因子の他に、身体の防御機構もこの疾患の発症に寄与するであろう。さらには、先天的な因子がこの疾患の発症を少なくとも促進し得ることも想定される。神経皮膚炎を患っている患者が、環境物質(患者以外では無害と考えられる)に対するアレルギー反応を示すことも分かっている。
【0010】
必然的に、治療はこれまで、症状を改善すること、特に不愉快な皮膚現象および痒みを治療することにかなり焦点が当てられてきた。原則として、局所治療は、グルココルチコステロイドまたはカルシニューリン阻害剤の使用および/または紫外線への暴露の制御を含む。治癒的治療を欠くため、現在採用されている対症療法の方策は、相互補完することが意図されている様々な可能性に取り組む。例えば、皮膚乾燥および皮膚の脂肪代謝の明らかな不備のため、治療方法は、冷湿布のみならず脂肪性軟膏またはオイルバスの使用も含む。このことは、例えば、高用量の月見草種油(EPOGAM(登録商標)カプセル)での治療を包含する。ここでの狙いは、代謝を介して皮膚にγ-リノレン酸を導入することである。炎症が生じた皮膚領域の治療の間、抗炎症剤が用いられる。抗ヒスタミン薬は痒みを軽減するであろう。コルチゾン製剤は、皮膚炎が生じるのを軽減するが、それらは疾患の直接の治癒にはつながらないであろう。抗体も感染皮膚領域の治療に必要であろう。
【0011】
前述した現在の技術状態から判断して、神経皮膚炎の治療の明確な治療パターンはまだ確立されておらず、それぞれの個々の場合に、それぞれの疾患パターに合わせて、上記の方法のいずれがおよび多数の可能性のある組合せのうちどれが最も有望であるかについて決定しなければならないことは明らかである。従って、特に、科学においてこの重篤な疾患の実際の原因に関する意見がまとまらない限り、およびこれまで提案された薬剤の内の1つが全ての態様において成功することが証明されない限り、治療におけるあらゆる進歩および全ての新規な選択が歓迎されなければならない。これまで知られている治療手段を注意深く比較検討したところ、個別の方法としてグルココルチコステロイド治療が最も効果的な治療方法であると考えられるが、それでもやはり、非常に大きな副作用を伴う治療方法であるということのみを想定できる。カルシニューリン阻害剤を用いる治療方法が比較的有効であるが、しかしながらその治療方法をUVまたは日光への同時暴露を伴って行う場合、いくらか癌の危険性があるという不利益を有する。
【背景技術】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第94903874号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第98121243号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10047444号明細書
【特許文献4】米国特許第6267973号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10006578号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第19834816号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第19990941号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0887418号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第19933460号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第19933461号明細書
【特許文献11】独国特許出願公開第19933463号明細書
【特許文献12】独国特許出願公開第19933466号明細書
【特許文献13】国際公開第01/72287号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、効果においてグルココルチコイドまたはカルシニューリン阻害剤を用いる治療法に匹敵するが副作用がより少ない神経皮膚炎の治療のための安全な薬剤を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
神経皮膚炎の治療のために、オスモライト、特にエクトインおよびヒドロキシエクトインの局所投与が、驚くほどに高い効果を示すことが見出された。
【0015】
プラセボ治療と比較して、患部皮膚の変化の予想外に加速された治癒が、オスモライト、特にエクトインおよびヒドロキシエクトインでの治療の間に達成された。迅速に効果が現れることの他に、このことは、グルココルチコイドの既知の多くの副作用を実際に本発明によって完全に回避できるため、特に長期的適用される場合に実質的な医療的進歩を意味する。本発明のオスモライトは、現在分かっている限りでは実際に副作用がないため、このことは、医薬品の安全性の顕著な向上とも考えられる。別の注目すべきことは、カルシニューリン阻害剤の効果を、本発明で提案される薬剤が有意に超えるという点である。既に説明したように、皮膚癌の危険性の増大は、通常、カルシニューリン阻害剤の適用を日光または人為的な紫外線への暴露を伴って同時に行う場合にその使用に関連して生じる。本発明は、そのような危険を伴なわず、かつより効果的な薬剤を提案および使用可能にする。
【0016】
本発明は、神経皮膚炎の局所的な予防、治療および手当てのための皮膚用製剤の製造のための、オスモライトならびにそれらの誘導体および/または薬理学的に適合する塩の使用に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に基づく活性薬剤のいくつかは、弱塩基または酸であり、その理由のため、ある例ではむしろ好ましく、それら薬剤の薬理学的に最も適合する中性塩の形態で用いられる。
【0018】
薬理学的に適合する塩(pharmacologically compatible salt)は、アルカリまたはアルカリ土類塩、特にカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウム塩を含むが、例えば、非毒性の脂肪族または芳香族アミンのような有機塩基との塩も含む。
【0019】
窒素原子が活性薬剤分子中に存在しかつ塩基性の性質が優勢である場合は、例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、マンデル酸、リンゴ酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸またはリン酸のような、薬理学的に問題のない有機または無機酸との塩が形成される。
【0020】
好ましいオスモライトは、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、ならびに同様の効果を有するそれらの誘導体および塩である。また、得策と思われる場合は、上記の活性薬剤の1つまたは共存する両方の活性薬剤と、他の活性薬剤とを含有する配合製剤であることが好ましい。
【0021】
同等の効果を有する誘導体は、上記のオスモライトの基本構造と比較して、構造的差異、特に官能基および置換基の構造的差異を示すが、本発明の範囲内に含まれる同等のまたは類似の効果を有する化合物である。ヒドロキシエクトインの例において、例えば関連アルコキシル基は、飽和または不飽和の直鎖または分枝のC1−C4アルキル基を用いて、水酸基から構成される。C1−C4カルボン酸を用いて、関連エステルが形成される。カルボキシル基からアミドが形成され、それ自体も、窒素原子に結合した飽和または不飽和の直鎖または分枝のC1−C4アルキル基を含んでいてよい。関連C1−C4アルコールを用いて、有効なエステルが得られる。カルボン酸基は、カルボニル基、スルホニル基またはスルホン酸基で置換されていてよい。上記の他のオスモライトの関連する修飾は、効果が維持または増強される類似の様式でもたらすことができる。
【0022】
概して、本発明に基づく活性薬剤またはそれらの組合せは、慣例の皮膚適合性でかつ薬理学的に問題のない補助的物質および添加剤を利用する公知のやり方で製薬的(galenically)に加工できる。そのような添加剤として、特に、乳化剤(emulgator)、溶媒、増粘剤、増量剤、安定化剤、防腐剤または酸化防止剤が挙げられる。
【0023】
さらには、必要と思われる場合は、例えばポリオキシエチレンソルビタン酸および胆汁酸のエステルまたは塩のような界面活性剤もバイオアベイラビリティを改善するために用いてもよい。しかしながら、病変皮膚の既存のアレルギー素質および全般的な感受性のため、本発明において、最小限の補助的物質を用いることが基本的に推奨される。
【0024】
本発明によって提案されるオスモライトの他に、治療に適切な他の活性薬剤を添加してもよい。そのような薬剤は、上述したような通常予め損傷を受けた皮膚のアレルギー現象または既知の感受性の危険のために本発明により提案される適用および使用を妨害するということがないことを条件に、例えば消炎剤ならびに抗菌剤、静真菌剤または殺菌剤等である。
【0025】
望ましい場合には、不溶性の補助的物質を含めることを可能にするため、例えばポリアクリレート、リグニン、タンニン酸塩またはそれらの誘導体のような分散剤を添加してもよい。例えば、コロイド状酸化ケイ素を増粘剤として使用できる。例えばグリセリン、グリコールまたは脂肪族アルコールのような親水性有機溶媒の助けにより、ハイドロゲルを作成できる。さらには、本発明に基づく活性薬剤を、活性物質含有ミクロソームまたはリポソームの形態で、あるいはリポソームまたはミクロソームのカプセルに入れた活性薬剤(liposomally or microsomally capsulated active agent)として、ミクロソームのカプセルに入れた回復酵素およびいわゆるActivesと共に、さらに必要に応じて他の補助的物質および他の活性薬剤と並行して、使用することも本発明の範囲内に含まれる。
【0026】
本発明に基づく活性薬剤を加工して、ヒト皮膚への適用に適した実際に全ての剤形の製剤を得ることができる。そのような製剤の剤形として、例えば、チンキ、ハイドロゲル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、ローション、クリーム、軟膏またはスプレー等が挙げられる。活性薬剤の濃度は通常、0.01から20質量%の間の範囲である。
【0027】
最も好ましい濃度は、用いられるキャリアー物質の質量に対して、0.1から2質量%の間の範囲と考えられる。
【0028】
以下の実施例は、本発明を説明するものであるが、いずれにおいても本発明の範囲を限定することを意味しない。
【実施例】
【0029】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経皮膚炎の局所的な予防、治療および/または手当てのための皮膚用製剤の製造のための、オスモライトならびに同等の効果を有するそれらの薬理学的に適合する塩および/または誘導体の使用。
【請求項2】
神経皮膚炎の局所的な予防、治療および/または手当てのための、オスモライトならびに同等の効果を有するそれらの薬理学的に適合する塩および/または誘導体の使用。
【請求項3】
エクトイン、ヒドロキシエクトイン、フィロイン、フィロイン-A、ジグリセロールホスフェート、サイクリックジホスホグリセレート、1,3-ジマンノシル-ミオ-イノシトール-ホスフェート(DMIP)および/またはジイノシトールホスフェートをオスモライトとして使用することを特徴とする請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
エクトインおよび/またはヒドロキシエクトイン、同等の効果を有するそれらの誘導体および/またはそれらの薬理学的に適合する塩をオスモライトとして使用することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の使用。
【請求項5】
皮膚用組成物が、通常用いられている補助的物質を含むチンキ、ローション、O/Wエマルジョン、W/Oエマルジョン、クリーム、軟膏、ハイドロゲルまたはスプレーであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の使用。
【請求項6】
化粧品または皮膚用製剤が、活性薬剤を含有するフレキシブルなリポソームを含む軟膏、クリームまたはローションであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項7】
皮膚用製剤が、ミクロソームのカプセルに入れられた活性薬剤を含む軟膏、クリームまたはローションであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項8】
他の活性薬剤を皮膚用製剤に添加することを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の使用。
【請求項9】
他の活性薬剤として、1または複数の鎮痛剤、消炎剤、止痒剤、抗菌剤、静真菌剤および/または殺菌剤を皮膚用製剤に添加することを特徴とする請求項8記載の使用。
【請求項10】
他の活性薬剤として、グルココルチコイドまたはカルシニューリン阻害剤を添加することを特徴とする請求項8または9記載の使用。

【公表番号】特表2009−513506(P2009−513506A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518076(P2006−518076)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007134
【国際公開番号】WO2005/002581
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(506006061)ビトップ アクツィエンゲゼルシャフト フュール ビオテヒニシェ オプティミールング (4)
【氏名又は名称原語表記】BITOP AKTIENGESELLSCHAFT FUER BIOTECHNISCHE OPTIMIERUNG
【Fターム(参考)】