説明

移動体シミュレーション装置およびその方法

【課題】実行性能を向上させた動的タイムステップ制御方式を適用した移動体シミュレーションを提供する。
【解決手段】論理時刻刻み幅Δtを設定してシミュレーション時刻を進めるタイムステップ法による移動体シミュレーションを行い、経路網がノードとリンクで現された経路網情報、各移動体毎の前記経路網上の移動ルートがノードとリンクで現された計画路データを含む移動体情報を入力し、前記経路網上の移動体の前記計画路データに従い、ノード又はリンクが一致する位置に従って、現模擬位置から他の移動体を認知する可能性のある位置に相当する他の移動体との会合可能性区間までの移動時間に基づく論理時刻刻み幅Δtを決定するΔt決定手段と、決定された論理時刻刻み幅Δtに基づいて模擬時刻を進める動的タイムステップ制御により移動体の模擬を行う行動模擬手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体の行動シミュレーションを行う移動体シミュレーション装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、船舶、車両、人等が多数登場する移動体シミュレーションでは、各移動体が複雑に影響を及ぼし合うために、どのようなイベントがいつ、どこで発生するかを特定するのは非常に困難である。従って、このような特徴を持つ移動体シミュレーションでは、発生するイベントを時系列にならべて、時系列順に処理するイベント駆動型のシミュレーションを実現するのは困難である。このようなシミュレーションでは、論理時刻の刻み幅(Δt)を定義して、このΔtに基づいてシミュレーション時刻を進めるタイムステップ法を用いるのが一般的である。タイムステップ法では、定義するΔtに模擬精度が左右されるが、複数の移動体を同時に模擬できるため、並列シミュレーション技術を用いることにより高速化が図れるという特長がある。
【0003】
しかし、移動体毎に移動速度は異なるため、タイムステップ法により全ての移動体を同一のΔtに基づいて模擬するのは非効率である。模擬精度及び模擬結果が同じであれば、可能な限りΔtを大きくした方が、他の移動体との情報交換及び移動体自身の模擬に要する処理負荷が小さくなり、実行性能の向上が図れることになる。この概念に基づいて提案された方式が「動的タイムステップ制御方式」である(非特許文献1参照)。
【0004】
動的タイムステップ制御方式は、各移動体は他の移動体と会合状態でない場合は、自身の状態情報だけを利用して模擬できるとして、他の移動体と情報交換する必要が無いと考え、Δtを大きくする方式である。ここで会合状態とは、他の移動体と「見る」または「見られる」(「探知」または「被探知」)状態、すなわち認知した状態のことである。なお、動的タイムステップ制御方式では、他の移動体と自身の位置情報、両者の直線距離、そして両者の最大速度情報を利用して、該直線距離上を互いが最高速度で近づき合うと仮定して、会合可能性時刻を求める。そして、他の全ての移動体に対して求めた該会合可能性時刻の中で現在時刻から最も近い未来の時刻を当該移動体の次の模擬時刻に設定するものである。
【0005】
【非特許文献1】「移動物体を対象とした分散シミュレーション時刻同期方式」、信学技報CST2005−49、pp.57−62、2006年1月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような動的タイムステップ制御方式を、道路網上を移動体が移動するアプリケーションへ適用する場合、単純に実装してしまうのは非効率である。何故なら、移動体は道路網上しか移動せず、移動体間を結ぶ直線距離に基づいて会合可能性時刻及び模擬時刻を求める方法では、例えば互いを背にして反対方向に移動する2つの移動体の場合でも、実際には起こりえない2つの移動体の間の点に基づいて会合可能性時刻及び模擬時刻が求められ、次のΔtが実質よりもかなり小さくなってしまうためである。
【0007】
この発明は、移動体が経路網に沿って移動するアプリケーションのための移動体の行動シミュレーションを、実行性能を向上させた動的タイムステップ制御方式を適用して行う移動体シミュレーション装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、論理時刻刻み幅Δtを設定してシミュレーション時刻を進めるタイムステップ法に基づく移動体シミュレーション装置であって、経路網がノードとリンクで現された経路網情報、各移動体毎の前記経路網上の移動ルートがノードとリンクで現された計画路データを含む移動体情報を入力し、前記経路網上の移動体の前記計画路データに従い、ノード又はリンクが一致する位置に従って、現模擬位置から他の移動体を認知する可能性のある位置に相当する他の移動体との会合可能性区間までの移動時間に基づく論理時刻刻み幅Δtを決定するΔt決定手段と、決定された論理時刻刻み幅Δtに基づいて模擬時刻を進める動的タイムステップ制御により移動体の模擬を行う行動模擬手段と、を備えたことを特徴とする移動体シミュレーション装置、およびこれに基づく移動体シミュレーション方法にある。
【発明の効果】
【0009】
この発明では、動的タイムステップ制御方式でのタイムステップを求める際に、各移動体の計画路データを利用することで大きいタイムステップ間隔で実現でき、移動体シミュレーションの実行性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の実施の形態を説明する前に、従来の動的タイムステップ制御方式は、最悪時を想定して次の模擬時刻を決める保守的方式となる。図12は、移動体(MO:Moving Object)、MOa、MOb、MOcが存在する場合のMOaの次の模擬時刻を決定するためのΔtの算出例を示したものである。この例の場合では、Δt<Δtとなるため、ΔtがMOaの次の模擬時刻を決定するためのΔtとなる。このようにして、他の全ての移動体に対して求めた該会合可能性時刻の中で現在時刻から最も近い未来の時刻を当該移動体の次の模擬時刻に設定するものである。
【0011】
また図13は、実際には起こりえない2つの移動体の間の点に基づいて会合可能性時刻及び模擬時刻が求められた場合の例を示したものであり、道路網は、交差点をノード(N−1、N−2・・・)、道路をリンク(R−1、R−2・・・)、目的地を目的地(D−1、D−2)で表現している。この例のように、該動的タイムステップ制御方式を単純に実装してしまうと、移動体Aと移動体Bとの会合可能性地点が道路R−11上になり、Δtも大きく取れないことになる。現状から判断しても移動体Aと移動体Bが道路R−11上で会合する可能性はなく、実際の動きに即さない非効率な実行になってしまう。
【0012】
この発明では、該動的タイムステップ制御方式を、道路網上を移動体が移動するアプリケーションへ適用する場合において、各移動体の計画路データを利用する。これにより、より実際の動きに即した観点から、次のΔtを大きくすることができる。しかし、この場合、会合可能性時刻ではなく、会合可能性地点を用いて次のΔtを求める必要がある。この会合可能性地点では、自身または会合対象の移動体のどちらが先に該地点を通過するか不明である。
【0013】
そこでまずは、最悪時を想定して該会合可能性地点で速度が0になる走行モデルを作成する。この走行モデルとは、基本的に、等加速状態、等速状態、そして追従状態より構成される。そして、追従状態に入る時刻を次の模擬時刻とする。このように追従状態になる時に該移動体を起動(模擬)させることにより、該追従状態が会合対象の移動体との関係でどのような状態になろうとも、因果関係に矛盾が生じないように対応することができる。これは、追従状態では細かいΔtで模擬することにより実現するものである。
【0014】
なお、この発明は、自身及び関係する移動体の計画路データが変更されるまでの間で有効なものであり、変更された場合は再度会合可能性地点を求め、Δtを再計算する必要がある。
【0015】
またこの発明は、航空機、船舶、車両等からなる移動体が経路網(航空路網、航路網、道路網)上を移動するシミュレーション全般に適用可能であるが、以下では一例として道路網に適用した場合について説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明による移動体シミュレーション装置の最も簡単な構成を示す構成図である。移動体シミュレーション装置は例えば、情報処理部1と表示部2及び入力操作部3を備えたコンピュータと、これに接続されたデータベース4とからなる。データベース4は後述する処理に使用されるような、交差点がノードで表現され交差点間を繋ぐ道路がリンクで表現された道路網のための道路網データ及び各道路の距離データ及び制限速度データを含む道路網情報、各移動体毎の道路網上の移動ルートを示すノードとリンクと目的地で現される計画路データさらに道路網上の静止している移動体又は物体である静止体の位置データを含む移動体情報、論理時刻刻み幅Δtひいては次の模擬時間を決定するために移動体を移動させるための予め設定された構成(走行パターン)を有する走行モデル情報、追従状態での追従モデル情報、移動体に係わる道路網上に生じるイベントに関する道路上イベント情報、等を格納している。
【0017】
情報処理部1は、入力操作部3から入力される指示やデータ、データベース4に格納された各種情報を入力して、自らのメモリ(図示省略)に内蔵されたプログラムに従って移動体の行動シミュレーションを行い、またシミュレーション状態を表示部2に表示し得る。情報処理部1は、Δt決定手段1aと行動模擬手段1bの機能ブロックで示され得る。
【0018】
なお、データベース4に格納された情報は、ネットワーク等によりリンクされた他のコンピュータから随時得るものであってもよい。さらに、図1の情報処理部はネットワークによりリンクされた複数台のコンピュータで構成して、並行処理するものであってもよい。
【0019】
図2はこの発明における各移動体の計画路データを活用して論理時刻刻み幅Δtを大きくする場合の例を示したものである。道路網は、交差点をノード(N−1、N−2・・・)、道路をリンク(R−1、R−2・・・)、目的地を目的地(D−1、D−2)で表現している。道路網上に移動体AとBのみが存在し、現時点におけるそれぞれの計画路が以下の場合は、両者の会合可能性地点は、それぞれに共通なもののうち最も近いN−2となる。
【0020】
移動体Aの計画路:<R−9、N−6、R−6、(N−2)、R−3、N−3、D−1>
移動体Bの計画路:<R−13、N−7、R−10、N−5、R−5、N−1、R−2、(N−2)、R−3、N−3、R−4、N−4、D−2>
【0021】
次にこの会合可能性地点(現模擬位置、現模擬時刻)に基づいて、各移動体の次の模擬時刻を決めるための論理時刻刻み幅Δtを算出する必要がある。しかし、会合可能性地点N−2をどちらの移動体が先に通過するかを算出するのは非常に困難である。図2の例では、2つの移動体しか存在せず、また道路上イベント情報に基づく信号の挙動が既知であるため、比較的容易に算出可能であるが、例えば、移動体AまたはBが他の移動体CとN−2地点以外の会合可能性地点を有している場合は、この算出が非常に困難となる。これは、移動体が他の移動体を追従して動作する場合、加減速しながら動作することになるためで、会合地点に到着する時刻やその移動距離の算出が難しくなる。
【0022】
走行モデル情報に基づく移動体の走行モデルは一般的に、等加速状態、等速状態、追従(加速、減速を行う)状態の3つの状態に分類することができる。図3に所定の速度パターンを有する走行モデルの例を示す。移動体は前方検索範囲を有し、この範囲に移動体または静止体等の障害物がなければ等加速運動を開始する。しかし制限速度(または最高速度)に達した場合はその速度を超えないようにこの速度を維持して走行する。なお、該前方検索範囲(処理中の移動体が前方を見る距離範囲)はその時点の処理中の移動体の速度に比例して大きくする。また該前方検索範囲内に該障害物が存在した場合は追従運動を開始する。これらの運動は最小のΔt=δtの間隔で加減速度aを求めることにより、次のδt後の状態(位置)を決定する。
【0023】
下記式(1)は追従運動を行っている際の次のδt時の加速度aを決定するための追従モデルの例である。
【0024】
(t+δt)=c×[{v(t)−v(t)}/{X(t)−X(t)}] (1)
【0025】
ここで、
t:時刻
δt:最小Δt
c,m:定数
X:移動体位置座標
a:移動体加速度
v:移動体速度
s:自移動体
f:前方移動体
:自移動体加速度
(t):前方移動体速度
(t):自移動体速度
(t):前方移動体位置座標
(t):自移動体位置座標
【0026】
以上のことより、前方障害物までの距離がある程度ある場合は図3の(a)に示す走行モデル例1のように走行し、前方障害物までの距離が短くなると図3の(b)に示す走行モデル例2のように制限速度に達することなく等加速状態と追従状態のみの走行モデルとなる。また、既に追従状態である場合は図3の(c)に示す走行モデル例3のような走行モデルになる。
【0027】
この発明では、移動体の計画路上に他の移動体との会合可能性地点が存在し、その地点までに障害物が存在しない場合は、まず該地点で速度が0になる走行モデルを作成する。そして追従状態に入るまでの時間をΔtとして次の模擬時刻(現模擬時刻+Δt)を決定する。
【0028】
図4はこのΔt算出例を示したものであり、図4の(a)に示す走行モデル中のハッチングした面積が該Δtの間の走行距離となる。また、追従状態にある場合には、上記Δtのように大きく取れず、最小のΔt=δtの間隔で模擬することとなる。そして、会合可能性地点(N−2)で速度V=0になると仮定して、制限速度(Vmax)と現在の自移動体速度に基づいて走行モデルを作成し、Δt及び追従運動区間L0を算出する。
【0029】
なお図4の(b)は距離の観点で説明したものであり、自移動体から会合可能性地点までの距離がdであり、会合可能性区間である追従運動区間がL0であった場合、以下のように模擬を行う。
L0≧dの場合、追従運動により毎時刻最小δtで模擬を行う。
L0<dの場合、追従運動区間に入るまでδtを大きく取ってΔtとして模擬を行う。
従って、L0<dの場合、Δtを大きく取れ、移動距離を上記ハッチングした面積(図4(a))を求めることにより一括計算できるため、実行性能向上が図れることになる。
【0030】
図5は、図1に示すΔt決定手段1aにおける各移動体に関して次の論理時刻刻み幅Δtを算出する動作の一例を示す動作フローチャートである。
【0031】
図5に従って動作を説明すると、移動体情報、道路網情報、道路上イベント情報に基づき、自身(処理中の移動体)の計画路データに基づく最寄の移動体又は静止体からなる障害物、または目的地までの距離d1を算出する(ステップS1)。次に、自身の移動体と他の移動体の計画路データの比較を行う(ステップS2)。そして会合可能性地点の存在の有無を判定する(ステップS3)。
【0032】
ステップS3で会合可能性地点が有れば、会合可能性地点までの距離をd2とし、距離d2と上記距離d1の小さい方の距離値をdとし、走行モデル情報及び道路網情報に基づき、その地点で速度が0になる走行モデルを作成する(ステップS4)。
【0033】
一方、ステップS3で会合可能性地点が無い場合には、上記距離d1をdとして、走行モデル情報及び道路網情報に基づき、その地点で速度が0になる走行モデルを作成する(ステップS5)。
【0034】
そして作成した走行モデルに基づいて会合可能性区間である追従運動区間L0を算出する(ステップS6)。そして追従運動区間L0と決定した上記dを比較し(ステップS7)、追従運動区間L0がd以上であれば、次の論理時刻刻み幅Δtを最小値δtに設定する(ステップS8)。一方、追従運動区間L0がd未満であれば、追従運動区間に入るまでの時間を次のΔtに設定する(ステップS9)。
【0035】
また、図4の(b)にN−6の交差点に信号があり、その状態(赤、青、黄)変化が未知である場合や、計画路上の会合可能性地点よりも手前の地点に移動体が存在する場合も、その地点で速度が0になる走行モデルを作成し、上記同様の処理を行うことになる。
【0036】
なお、この発明は各移動体の計画路が変わらない間のみ適用可能なものであり、変更が生じた場合は、再度、更新された計画路データに基づいて会合可能性地点を求め、次の論理時刻刻み幅Δt及び模擬時刻(現模擬時刻+Δt又はδt)を計算し直す必要がある。
【0037】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2におけるΔtの算出例を示したものである。図6に示すように、計画路上において会合可能性地点が存在したとしてもその手前の最寄地点に移動体が存在する場合、その前方移動体がその時点で最大減速処理(急ブレーキ)を実施したと仮定して、走行モデルを作成し、実施の形態1と同様にΔtを計算し、次の模擬時刻を算出する。このような走行モデルを作成することにより、上記計画路上の最寄地点に移動体が存在する場合は、Δtをより大きく取れるというメリットがある。
【0038】
すなわち、前方移動体が当該時刻から減速を開始したと仮定し、速度V=0になる地点を基準に走行モデルを作成して、Δt及び追従運動区間L0を算出することにより、前方移動体の当該時刻の地点で自移動体が速度0になるように走行モデルを作成するよりもΔtを大きくとることができる。
【0039】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3におけるΔtの算出例を示したものである。図7に示すように、計画路上において会合可能性地点が存在したとしてもその手前の最寄地点に静止体が存在する場合、静止体は対象とする時間内は移動しないものであるので、追従運動区間も含めて、Δtを大きく設定してしまうことが可能となる。すなわち、前方静止体で速度V=0になるように、制限速度(Vmax)と現在の自移動体速度に基づいて走行モデルを作成し、Δtを算出する。従って、図7の走行モデル中のハッチング部分の面積値が、該Δtの間に移動できる距離となる。
【0040】
実施の形態4.
図8はこの発明の実施の形態4におけるシミュレーションを説明するための図である。図8の(a)はこの実施の形態における道路網の道路状況の一例を示し、(b)は(a)の道路網上における各移動体A、B、C、Dの計画路データの一例を示す。図示の計画路データに示すように移動体A、B、C、Dの計画路データが既知である場合に、各移動体間の会合可能性地点より、該対毎(2つの移動体毎)の会合可能性時刻を算出する。そして(c)に示すようにイベントリストを作成して、時系列順に登録し、時刻の近い順に対応する移動体群を模擬する。
【0041】
なお、この場合、移動体同士の会合可能性地点は、N−3、N−4、N−6、N−7の4地点であり、各移動体の目的地は、D−1、D−2、D−3、D−4であるが、図8の(c)に示すように、(a)に示す初期状態では、自移動体の次模擬時刻決定要因となる会合可能性地点での会合可能性時刻及び模擬対象の移動体のみ該イベントリストに登録しておくものとする。そして時刻進行とともに次模擬時刻決定要因となる会合可能性地点及びその対象となる移動体も次の候補に変わるため、(c)の未確定候補の枠内に示された未確定候補のイベントが新たに該リストに登録され、実行されることになる。なお、例えばTBC(N−6)は移動体BとCのN−6地点における会合可能性時刻を示したものであり、この時刻になった場合は移動体BとCを模擬する。
【0042】
また図9は、図8の(c)のイベントリストに登録する移動体模擬時刻の算出例を示したものである。図9の(a)は、移動体BとCの模擬時刻導出例を示したものであり、両移動体に対して、上述した方法に基づいて会合可能性地点N−6までの走行モデルを作成し、追従運動に入るまでをΔtに設定する。移動体Bの会合可能性地点N−6に対するΔtは、Tであり、移動体Cの会合可能性地点N−6に対するΔtは、Tである。そして、TとTの小さい方の時刻がTBCに設定される。これにより、移動体BとCの次模擬時刻(=TBC)を互いに因果関係に矛盾が生じない時刻に設定することができる。
【0043】
なお図9の(b)は、移動体BとDの次模擬時刻導出例を示したものである。この場合、移動体Bは移動体Dとの会合可能性地点N−7にたどり着くまでに移動体Cとの会合可能性地点N−6を通過して来る必要がある。このような場合でも、移動体Bは(b)に示す会合可能性地点N−7までの走行モデルを作成し、Δt(=T)を算出する。そして移動体DとBのΔtと比較して、小さい方の値がTBDに設定される。
【0044】
実施の形態5.
図10はこの発明の実施の形態5におけるシミュレーションを説明するための図である。図10の(a)はこの実施の形態における道路網の道路状況の一例を示し、(b)は(a)の各移動体A、B、C、Dの計画路データの一例、(c)はこの発明適用前のイベントリストの一例、(d)はこの発明適用後のイベントリストの一例を示す。実施の形態5において、例えば、図10の(a)に示すように、移動体Aの移動体Cに対する会合可能性地点N−3での会合可能性時刻TAC(N−3)が非常に小さい場合や、移動体Dの移動体Bに対する会合可能性地点N−7での会合可能性時刻TBD(N−7)が非常に小さい場合では、(c)に示すようにTAC(N−3)及びTBD(N−7)がTBC(N−6)よりも近い時刻にイベントリストに登録されてしまい、移動体Cは時刻TAC(N−3)で、移動体Bは時刻TBD(N−7)で、明らかに意味のない模擬を行うことになってしまう。
【0045】
この問題を解決するために、該リストから抽出した該当する組の全ての移動体を模擬するのではなく、該組中の任意の移動体(移動体A)にとって、それ以外の移動体が次の会合可能性対象である場合にのみ、該移動体(移動体A)を模擬するように変える。これにより、(d)に示すように、時刻TAC(N−3)での移動体Cの模擬、及び時刻TBC(N−7)での移動体Bの模擬を省くことができる。
【0046】
実施の形態6.
図11はこの発明の実施の形態6におけるシミュレーションを説明するための図である。図11の(a)はイベントリストの一例、(b)と(c)は走行モデル、(d)はイベント削除の条件を示す。実施の形態4及び5の更なる改良として、例えば、2つの移動体A、Bの会合可能性地点Nにおいて、該地点を通過する時刻が、互いの模擬結果に影響を及ぼさないほど離れている場合は、該イベントリストからこれらの移動体の模擬に関するイベントTAB(N)を削除することが可能となる。すなわち例えば、図8に示す、移動体AとCが会合可能性地点N−3を通過する時刻が互いの模擬結果に影響を及ぼさないほど離れていれば(時間軸上で離れていれば)、図11の(a)に示すようにそのためのイベントTAC(N−3)を削除する。
【0047】
該イベントTAC(N−3)の削除可/不可は以下のプロセスで判定する。
(1) 図11の(b)に示すように、移動体AがN−3地点まで、最も時間を要する場合と最も早く到達できる場合の走行モデルを作成し、両方の場合の所要時間(TA−s(N−3)、TA−f(N−3))を算出する。
(2) 次に図11の(c)に示すように、移動体Cに関しても同様に、両方の場合の所要時間(TC−s(N−3)、TC−f(N−3))を算出する。
(3) そして図11の(d)に示すように、両移動体間で、N−3地点に到達する可能性のある時間帯を比較し、重なっていなければ、例えば当該イベントTAC(N−3)を削除でき(上側図)、重なっていれば当該イベントTAC(N−3)は削除できないことになる(下側図)。
【0048】
なお、(1)及び(2)で算出する、最も時間を要する場合の所要時間は、対象とする該会合可能性地点に到達するまでに存在する各会合可能性地点(該会合可能性地点を含む)で速度が0になると仮定した(b)及び(c)の上側図に示す走行モデルに基づいて算出する。また、最も早く到達する場合の所要時間は、対象とする該会合可能性地点に到達するまでに存在する各会合可能性地点(該会合可能性地点を含む)に関係なく、等加速運動及び等速運動(Vmax)によりN−3地点まで走行すると仮定した(b)及び(c)の下側図に示す走行モデルに基づいて所要時間を算出する。
【0049】
なお、3つ以上の移動体が同一の会合可能性地点を共有している場合も同様の方法により、該イベントの削除可否を判定すれば良い。また、移動体間で、計画路データによる会合可能性地点が1点のみで共有している場合はこの実施の形態の処理を適用可能であるが、図3に示すように複数地点(図2中のN−2、R−3、N−3)で共有している場合は、追従状態になる可能性を判定して適用する。
【0050】
その他、シミュレーションの進行とともに、該走行モデルを再作成していけば、当該会合可能性地点での到達可能性時間を精度良くしていくことができるので、当該イベントを削除できる可能性を高めていくことができる。
【0051】
なお上述のように、この発明は、航空機、船舶、車両等からなる移動体が経路網(航空路網、航路網、道路網)上を移動するシミュレーション全般に適用可能であり、一般には経路網及びその際の計画路データは、交差部がノードで表現され交差部間を繋ぐ経路がリンクで表現され、道路上イベント情報は経路上イベント情報となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明による移動体シミュレーション装置の構成の一例を示す構成図である。
【図2】この発明における各移動体の計画路データを活用して論理時刻刻み幅Δtを大きくする場合の例を説明するための図である。
【図3】この発明における走行モデルの一例を説明するための図である。
【図4】この発明におけるΔt算出の一例を説明するための図である。
【図5】この発明による移動体シミュレーション装置のΔt決定手段の動作の一例を示す動作フローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2におけるΔtの算出例を説明するための図である。
【図7】この発明の実施の形態3におけるΔtの算出例を説明するための図である。
【図8】この発明の実施の形態4におけるシミュレーションを説明するための図である。
【図9】図8の(c)のイベントリストに登録する移動体模擬時刻の算出例を説明するための図である。
【図10】この発明の実施の形態5におけるシミュレーションを説明するための図である。
【図11】この発明の実施の形態6におけるシミュレーションを説明するための図である。
【図12】動的タイムステップ制御方式の基本概念を説明するための図である。
【図13】移動体シミュレーションに動的タイムステップ制御方式を単純に適用した場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1 情報処理部、1a Δt決定手段、1b 行動模擬手段、2 表示部、3 入力操作部、4 データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
論理時刻刻み幅Δtを設定してシミュレーション時刻を進めるタイムステップ法に基づく移動体シミュレーション装置であって、
経路網がノードとリンクで現された経路網情報、各移動体毎の前記経路網上の移動ルートがノードとリンクで現された計画路データを含む移動体情報を入力し、前記経路網上の移動体の前記計画路データに従い、ノード又はリンクが一致する位置に従って、現模擬位置から他の移動体を認知する可能性のある位置に相当する他の移動体との会合可能性区間までの移動時間に基づく論理時刻刻み幅Δtを決定するΔt決定手段と、
決定された論理時刻刻み幅Δtに基づいて模擬時刻を進める動的タイムステップ制御により移動体の模擬を行う行動模擬手段と、
を備えたことを特徴とする移動体シミュレーション装置。
【請求項2】
Δt決定手段において、他の移動体を前方検索範囲内で検索すると共に前記前方検索範囲の大きさを処理中の移動体の走行速度に応じて変えることを特徴とする請求項1に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項3】
Δt決定手段において、論理時刻刻み幅Δtを求めるために移動体を移動させる予め設定された構成を有する走行モデル情報を入力し、移動体の次の論理時刻刻み幅Δtを決める際の会合対象が移動体、又は他の移動体との会合可能性地点である場合は、前記走行モデル情報に基づき該移動体又は該会合可能性地点の位置で速度が0になる、現模擬位置から等加速運動、等速運動、前記会合可能性区間である追従運動より構成される走行モデルを作成し、現模擬時刻から、前記追従運動に入る時刻から速度が0になるまでの時刻の間のいずれかの時刻までを論理時刻刻み幅Δtとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項4】
移動体の次の論理時刻刻み幅Δtを決める際の会合対象が移動体である場合、この移動体がその時点より減速を開始したと仮定して速度が0になる地点を基準に走行モデルを作成し、現模擬時刻から追従運動に入る時刻までを論理時刻刻み幅Δtとすることを特徴とする請求項3に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項5】
移動体の次の論理時刻刻み幅Δtを決める際の会合対象が静止体である場合、この静止体の地点で速度が0になるように走行モデルを作成し、現模擬時刻からこの走行モデルに基づいて該速度が0になるまでを論理時刻刻み幅Δtとすることを特徴とする請求項3に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項6】
各移動体の計画路データより、会合する可能性のある移動体の組全てに対して、各組中の移動体毎に算出した会合可能性時刻の最も近い時刻を、当該組の移動体群の次模擬時刻として時系列順に登録したリストを作成し、該リストから時刻の近い順に対象とする移動体群を模擬することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項7】
リストから時系列順に組となっている移動体群を模擬する際に、該組中の任意の移動体にとって、同じ組内の他の移動体が次の会合可能性対象である場合にのみ、該移動体を模擬することを特徴とする請求項6に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項8】
各組の移動体群の会合可能性地点において、該地点を通過する時刻が、互いの模擬結果に影響を及ぼさないほど時間軸上で離れている場合は、リストから該組に関する登録を削除することを特徴とする請求項6に記載の移動体シミュレーション装置。
【請求項9】
論理時刻刻み幅Δtを設定してシミュレーション時刻を進めるタイムステップ法に基づく移動体シミュレーション方法であって、
経路網がノードとリンクで現された経路網情報、各移動体毎の前記経路網上の移動ルートがノードとリンクで現された計画路データを含む移動体情報を入力し、前記経路網上の移動体の前記計画路データに従い、ノード又はリンクが一致する位置に従って、現模擬位置から他の移動体を認知する可能性のある位置に相当する他の移動体との会合可能性区間までの移動時間に基づく論理時刻刻み幅Δtを決定する工程と、
決定された論理時刻刻み幅Δtに基づいて模擬時刻を進める動的タイムステップ制御により移動体の模擬を行う工程と、
を備えたことを特徴とする移動体シミュレーション方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2008−151736(P2008−151736A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342457(P2006−342457)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】