説明

移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法及び移動通信基地局装置

【課題】充放電回路を利用したウォームアップ方法は、電源断時間によっては、ウォームアップ時間を最適な時間に短縮することができない。また、温度上昇速度の恒温槽付水晶発振器の個体差分のウォームアップ時間を短縮することができない。
【解決手段】CPU102は、上位装置150からの現在時刻を一定時間毎に更新してFーROM103に更新記憶している。装置電源の瞬断が発生した場合、CPU102は、電源復旧時にF−ROM103に更新記憶されていた時刻を電源断時刻とし、また、電源が復旧したときに上位装置150から取得した現在時刻とから電源断時間を算出し、その電源断時間と、FーROM103から読み出した、予め恒温槽付水晶発振器104の出力クロックから算出された電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値とを用いて、恒温槽付水晶発振器104の個体差の影響のない、最短のウォームアップ時間を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法及び移動通信基地局装置に係り、特に移動通信システムにおける移動通信基地局装置の内部のクロックを発生する恒温槽付水晶発振器(OCXO)をウォームアップする方法と、その方法を用いた移動通信基地局装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムにおいて、移動局と無線通信する移動通信基地局装置では、無線送受信部に安定度の高いクロックが必要であるため、水晶振動子とその他温度の影響を受け易い回路部品とを一定の温度を保つ恒温槽に密封した恒温槽付水晶発振器(OCXO)により発生したクロックを使用している。この恒温槽付水晶発振器を使用するとき、水晶振動子は恒温槽内に実装されているヒータにより暖められた後、常に一定の温度に保たれる。
【0003】
しかし、上記の温度は比較的高い所定の温度(例えば、70〜80℃程度)に設定されることから、電源投入後、恒温槽内部の温度を規格の安定度で水晶振動子が安定動作する所定の設定温度に上昇させるためには、昇温のための時間(ウォームアップ時間)が必要となり、また、ウォームアップ時間はOCXOの品種毎に異なるため、電源投入後OCXOの品種に対応させた所定のウォームアップ時間を経過しなければ、規格の安定度を得ることができない。そこで、従来の移動通信基地局装置はOCXOのウォームアップ時間を得る為にウォームアップ回路を実装している。
【0004】
図6は従来の移動通信基地局装置の一例のブロック図を示す。同図において、移動通信基地局装置700は、恒温槽付水晶発振器(OCXO)701から出力されるクロックを、バッファ703を通して無線送受信部704へ供給して無線送受信部704を、クロックを基準として所定の送受信動作を行わせる。
【0005】
ここで、前述したように、恒温槽付水晶発振器(OCXO)を備えた移動通信基地局装置700では、電源投入後OCXOの品種に対応させた所定のウォームアップ時間を経過しなければ、規格の安定度を得ることができないため、電源投入後、一定時間(例えば、30分)経過した時点でタイムアウトするウォームアップタイマ702を備え、電源投入後ウォームアップタイマ702がタイムアウトするまでは、バッファ703は出力停止状態に制御され、ウォームアップタイマ702がタイムアウトし、バッファ703がイネーブル状態とされてから始めて、恒温槽付水晶発振器(OCXO)701から出力されるクロックがバッファ703を通して無線送受信部704へ供給される。従って、移動通信基地局装置700は、電源投入から一定のウォームアップ時間(例えば、30分)経過しない間は、送受信動作を停止しており、ウォームアップ時間経過してから送受信動作を開始するようにしている。
【0006】
ところが、電源投入からウォームアップ時間経過後、送受信動作中に、比較的短い電源の停止が発生して復旧した場合、OCXOの恒温槽が十分温まっていてOCXOの出力クロックの安定度が規格内の安定度であっても、ウォームアップタイマ702とバッファ703からなるウォームアップ回路は、リスタート時に再度同じウォームアップ時間が経過しなければ、OCXO701の出力クロックを無線送受信部704にしないように制御してしまう。従って、ウォームアップ回路により恒温槽は短時間で水晶が規格の安定度を得られる温度にされるが、移動通信基地局装置700は上記のウォームアップ時間である30分経過しなければ、送受信動作を開始できない。よって、電源の瞬断により無線通信サービスが比較的長く停止してしまうことになる。
【0007】
そこで、このリスタート時のウォームアップ時間を短縮する技術として、コンデンサと抵抗を用いた充放電回路と電圧レベルを検出するA/Dコンバータを用いたウォームアップ回路を用いて、電源が瞬断した場合のウォームアップ時間の短縮を図る方法が従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、OCXOの恒温槽に温度感知装置を実装し、恒温槽の温度が一定の温度に達したらウォームアップを終了し送受信を開始する方法と、装置電源がオフしている間はカウントダウンし、電源オン期間はカウントアップするカウンタ回路を実装し、一定のカウント値に達したらウォームアップを終了して送受信を開始する方法も従来知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
更に、OCXOから出力されるクロックの周波数が所定の安定度に達しない間は、恒温槽のウォームアップが完了していないと判定してOCXOから出力されるクロックを使用せず、クロックの周波数が所定の周波数安定度の範囲内に収束した時点で、OCXOから出力されるクロックを使用するようにしたウォームアップ方法も従来知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2000−151278号公報
【特許文献2】特開2003−309488号公報
【特許文献3】特開2004−064445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかるに、特許文献1記載の従来のウォームアップ方法で使用するコンデンサと抵抗からなる充放電回路は時定数を持つので、その充放電回路の電圧レベルは指数関数的に変化する。これに対して、電源断時間による必要な恒温槽のウォームアップ時間は一次関数的に変化する。例えば図7において、電源断時間による必要な恒温槽のウォームアップ時間は、Iで示すように一次関数的に変化するのに対して、CR充放電回路が与えるウォームアップ時間はIIで示すように指数関数的に変化するため、電源断時間によっては余分なウォームアップ時間IIIが発生する。つまり、電源断時間によっては、ウォームアップ時間を最適な時間に短縮することができないという欠点がある。また、コンデンサと抵抗、A/Dコンバータ等から構成される追加回路が必要であり、コストデメリットが生じてしまうという欠点もある。
【0012】
また、特許文献2記載の従来の2つのウォームアップ方法のうち前者の方法は、恒温槽の個体差による温度上昇速度の違いが考慮されていないため、図8に示すようにそのマージンを見込んだカウント値(ウォームアップ時間)にする必要があり、温度上昇速度の個体差分のウォームアップ時間を短縮することができないという欠点がある。また、後者の方法は、カウンタ回路と装置電源断中にカウンタ回路を動作させるためのバックアップ電源回路が必要となり、コストデメリットが生じるという欠点がある。
【0013】
更に、特許文献3記載の従来のウォームアップ方法は、OCXOから出力されるクロックの周波数の安定度のみを検出して、それが所定の周波数安定度範囲に達しているかどうかでウォームアップが完了しているか否かを間接的に判定しているが、ウォームアップが完了していない場合、電源断時間に応じて積極的にウォームアップ時間を短縮するための方法については言及されていない。
【0014】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、どんな電源断時間であっても、ウォームアップ時間を最適な時間に短縮し得る移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法及びその方法を用いた移動通信基地局装置を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明の他の目的は、恒温槽付水晶発振器の個体差のマージンを削減して、より一層のウォームアップ時間の短縮を図り得る移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法及びその方法を用いた移動通信基地局装置を提供することにある。
【0016】
更に、本発明の他の目的は、構成部品を削減した安価な構成でウォームアップ時間を短縮し得る移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法及びその方法を用いた移動通信基地局装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、恒温槽付水晶発振器から出力され、移動通信基地局装置内の各部に供給されるクロックを、所定の周波数安定度にするために、恒温槽付水晶発振器を所定の温度にウォームアップするウォームアップ方法であって、
上位装置から現在時刻を取得する第1のステップと、現在時刻を一定時間毎に更新記憶する第2のステップと、移動通信基地局装置の電源が断した後、電源が復旧した時に、第2のステップで最後に更新記憶された時刻を電源断時刻とし、この電源断時刻と電源が復旧した時に上位装置から取得した現在時刻とから電源断時間を算出する第3のステップと、予め測定して記憶装置に記憶されていた、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を読み出し、その電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値と電源断時間とに基づいて、ウォームアップ時間を算出する第4のステップと、記憶装置に記憶されているフラグを読み出して、電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であるか否かを判定する第5のステップと、第5のステップにより電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であると判定されたときは、当初のウォームアップ期間の終了時刻から電源断時刻を差し引いてウォームアップ残時間を算出する第6のステップと、ウォームアップ残時間が正の値のときは、第4のステップで算出したウォームアップ時間にウォームアップ残時間を加算した時間を、リスタートのウォームアップ時間として電源復旧時から恒温槽付水晶発振器のウォームアップを再開すると共に、フラグをウォームアップ期間中である値に設定し、ウォームアップ残時間が負の値のときは、第4のステップで算出したウォームアップ時間、電源復旧時から恒温槽付水晶発振器のウォームアップを開始する第7のステップと、第7のステップによるウォームアップの終了時にフラグをウォームアップ期間中でないことを示す値にクリアする第8のステップとを含むことを特徴とする。
【0018】
この発明では、移動通信基地局装置の電源が一時中断したあと復旧した場合(瞬断)に、電源が断していた時間(電源断時間)を算出し、その電源断時間に応じて、予め恒温槽付水晶発振器の個体差も考慮して測定しておいた電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を用いて、ウォームアップ時間を算出するようにしたため、電源断時間に依存することなく、恒温槽付水晶発振器の個体差の影響のない最適なウォームアップ時間を算出することができる。
【0019】
また、この発明では、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値は、個々の恒温槽付水晶発振器に対応した固有の値が与えられるため、恒温槽付水晶発振器の個体差によるマージンを削減することができる。
【0020】
ここで、上記の第4のステップは、算出したウォームアップ時間が、記憶装置に予め記憶されている最長ウォームアップ時間を越えるときは、最長ウォームアップ時間をウォームアップ時間として算出することを特徴とする。この発明では、ウォームアップ時間を短縮できないほど長い時間電源が断であった場合、無駄なウォームアップを不要にし、移動通信基地局の動作を開始させることができる。
【0021】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、電源断時刻が初期値のときは、上記の第4のステップは、記憶装置に予め記憶されている最長ウォームアップ時間をウォームアップ時間として算出することを特徴とする。これにより、装置初期起動時の場合は最長ウォームアップ時間でウォームアップできる。
【0022】
また、上記の目的を達成するため、本発明は電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値は、互いに異なる複数の電源断時間のそれぞれについて、電源復旧後に恒温槽付水晶発振器から出力されるクロックの周波数安定度が予め定めた所定の周波数安定度範囲内に収束するまでの時間を計測して、算出された値であることを特徴とする。この発明では、恒温槽付水晶発振器から出力されるクロックの周波数安定度が予め定めた所定の周波数安定度範囲内に収束するまでの時間を計測して電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を算出するようにしているので、恒温槽付水晶発振器の個体差だけでなく、装置の個体差を含めた全体の個体差に対応した電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を算出することができる。
【0023】
また、上記の目的を達成するため、本発明の恒温槽付水晶発振器から出力されるクロックを用いて動作し、クロックを所定の周波数安定度にするために、恒温槽付水晶発振器を所定の温度にウォームアップする機能を備えた移動通信基地局装置は、上位装置から回線を介して現在時刻を取得する現在時刻取得手段と、少なくとも予め測定して得られた電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値と、電源断時刻がウォームアップ期間中であるか否かを示すウォームアップ中フラグとが記憶されている記憶装置と、現在時刻取得手段により取得した現在時刻を一定時間毎に、記憶装置に更新記憶する時刻更新手段と、自装置の電源が断した後、電源が復旧した時に、記憶装置に最後に更新記憶されている時刻を電源断時刻とし、この電源断時刻と電源が復旧したときに現在時刻手段により取得した現在時刻とから電源断時間を算出し、その電源断時間と、記憶装置から読み出した電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値とを用いて、ウォームアップ時間を算出するウォームアップ時間算出手段と、自装置の電源が断した後、電源が復旧した時に、記憶装置から読み出したウォームアップ中フラグを読み出して、電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であるか否かを判定し、電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であると判定されたときは、当初のウォームアップ期間の終了時刻から電源断時刻を差し引いてウォームアップ残時間を算出するウォームアップ残時間算出手段と、ウォームアップ残時間が正の値のときは、ウォームアップ時間算出手段で算出したウォームアップ時間にウォームアップ残時間を加算した時間を、リスタートのウォームアップ時間として電源復旧時から恒温槽付水晶発振器のウォームアップを再開すると共に、フラグをウォームアップ期間中である値に設定し、ウォームアップ残時間が負の値のときは、算出したウォームアップ時間、電源復旧時から恒温槽付水晶発振器のウォームアップを開始するウォームアップ手段と、ウォームアップ手段によるウォームアップの終了時にウォームアップ中フラグをウォームアップ期間中でないことを示す値にクリアするクリア手段とを具備することを特徴とする。
【0024】
この発明では、第1の発明と同様に、移動通信基地局装置の電源が一時中断したあと復旧した場合(瞬断)に、電源が断していた時間(電源断時間)を算出し、その電源断時間に応じて、予め恒温槽付水晶発振器の個体差も考慮して測定しておいた電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を用いて、ウォームアップ時間を算出するようにしたため、電源断時間に依存することなく、恒温槽付水晶発振器の個体差の影響のない最適なウォームアップ時間を算出することができる。
【0025】
また、この発明では、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値は、個々の恒温槽付水晶発振器に対応した固有の値が与えられるため、恒温槽付水晶発振器の個体差によるマージンを削減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、恒温槽付水晶発振器(OCXO)を備えた移動通信基地局装置の電源が一時中断したあと復旧した場合(瞬断)に、電源断時間を算出し、その電源断時間に応じて、予め恒温槽付水晶発振器の個体差も考慮して測定しておいた電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を用いて、ウォームアップ時間を算出することで、電源断時間に依存することなく、恒温槽付水晶発振器の個体差の影響のない最適なウォームアップ時間を算出することができるため、電源断時間に依存せず、また恒温槽付水晶発振器の個体差も考慮した、最適なウォームアップ時間の設定ができ、ウォームアップ時間の短縮を図ることができる。
【0027】
また、本発明によれば、移動通信基地局装置の既存の回路部を利用して、恒温槽付水晶発振器の個体差によるマージンを削減することができるため、更なるウォームアップ時間の短縮を図ることができると共に、最小限の構成部品の追加だけの安価な構成でウォームアップ時間を短縮できる。
【0028】
更に、本発明によれば、恒温槽付水晶発振器の個体差だけでなく、装置の個体差を含めた全体の個体差に対応した電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を算出するようにしたため、装置の個体差による温度上昇速度変化のマージンのウォームアップ時間を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0030】
(第1の実施の形態)
図1は本発明になる移動通信基地局装置の第1の実施の形態のブロック図を示す。同図において、移動通信基地局装置100は、上位装置150とハイウェイ回線を通して接続されており、ハイウェイ回線からデータを抽出し移動通信基地局装置100内の各機能部にデータを配信する回線終端部101と、回線終端部101とのアクセス手段を持ち、上位装置150から時刻情報を受信することができる中央処理装置(CPU)102と、CPU102により所定の情報を記憶し読み出す不揮発性フラッシュメモリ(F−ROM:flash Read only memory)103と、水晶振動子とその他温度の影響を受け易い回路部品とを一定の温度を保つ恒温槽に密封した恒温槽付水晶発振器(OCXO)104と、OCXO104から出力されるクロックをCPU102の制御信号に基づいて、通過又は遮断するバッファ105と、バッファ105からのクロックに基づいて、移動局(図示せず)との間で無線通信する無線送受信部106とを有する。
【0031】
FーROM103は、図3に示すように、電源断時刻301、ウォームアップ終了時刻302、ウォームアップ中フラグ303、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値304、最長ウォームアップ時間305などを記憶しており、CPU102はこれらをアクセスして取得することができる。バッファ105は、CPU102により出力が制御され、装置起動時はディセーブルであり、CPU102がOCXO104のウォームアップ時間を経過したと判断したときにイネーブルにされる。なお、回線終端部101、CPU102、F−ROM103は既存の移動通信基地局装置に実装されている回路を利用することができる。このことにより、OCXO104の出力バッファ105の制御手段をCPU102に持たせるだけでよいので、従来よりもハードウェアの構成要素を削減することができ、コストを抑えられる。
【0032】
次に、図1の移動通信基地局装置100のウォームアップ動作を、図2の本発明のウォームアップ方法の第1の実施の形態の動作説明用フローチャートを使って説明する。移動通信基地局装置100が電源の断から復旧すると、CPU102はウォームアップ動作を行うため、開始(ステップ201)に遷移し、まず、回線終端部101を通して上位装置150から「現在時刻」を取得する一方、F−ROM103から図3に示した電源断時刻301と電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値304と最長ウォームアップ時間305とを取得する(ステップ202)。
【0033】
電源断時刻301の初期値はヌル(Null)であるが、CPU102が運用動作中のとき、CPU102がF−ROM103に、現在時刻情報を電源断時刻301に一定周期(例えば10秒周期)毎に更新する。従って、電源断前に最後に更新された電源断時刻301を電源断が発生した時刻と同等に扱える。現在時刻情報は上位装置101から「現在時刻」を取得した後、図示しないタイマなどに設定することによって得る。
【0034】
次に、CPU102は「現在時刻」と電源断時刻301から電源が断していた時間(電源断時間)を算出し、リスタートの為のウォームアップ時間を算出する(ステップ203)。このとき、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値304と電源断時間とからウォームアップ時間を、次の(1)式により算出する。
【0035】
ウォームアップ時間
=(電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値)×(電源断時間) (1)
電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値はOCXO104の恒温槽の温度上昇速度から算出される。このOCXO104の恒温槽個別の温度上昇速度は個体差が存在するので、図8にIV,V,VIで示すようにOCXO毎に電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値に差分がある。従って、OCXO毎に電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を与える。OCXOの恒温槽の温度上昇速度が速いほどこの傾き値は小さくなり、同じ電源断時間に対して必要なウォームアップ時間が短くなる。OCXO104毎の電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値は予め測定しておいたデータをF−ROM103に書き込む。
【0036】
例えば、図7に示すように電源断時間が60分のとき、ウォームアップ時間が30分必要な場合は、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値(α)は0.5となる。具体的には電源断時間が1分であればウォームアップ時間は30秒となる。
【0037】
また、算出したウォームアップ時間が「最長ウォームアップ時間」(たとえば図7に示すように30分)を超える場合は、最長ウォームアップ時間305をウォームアップ時間として適用する。これはウォームアップ時間を短縮できないほど、長い時間電源が断であった場合のウォームアップ動作となる。また、電源断時刻301がNullの場合も最長ウォームアップ時間305をウォームアップ時間として適用する。これは装置初期起動時のウォームアップ動作となる。
【0038】
次に、CPU102はF−ROM103からウォームアップ中フラグ303を取得する(ステップ204)。ウォームアップ中フラグ303の初期値はクリア(ウォームアップ中ではない)である。次に、CPU102はウォームアップ中フラグ303により起動前に、ウォームアップ中であったか判断する(ステップ205)。
【0039】
CPU102はウォームアップ中フラグ303がセットであれば、ウォームアップ中であったと判断し、F−ROM103から電源断前のウォームアップ終了時刻302(以下、これを「ウォームアップ終了時刻1」という)を取得し、現在時刻にて減算する。上記の減算の結果、正の値であれば、「ウォームアップ終了時刻1」から「電源断時刻」を減算し、前記ウォームアップ時間にこれを加算する(ステップ206)。
【0040】
図4はこの動作の詳細を示す。同図において、電源断が時刻t1で発生し、電源が時刻t2で復旧したものとし、現在時刻はt2であるものとする。また、電源断が時刻t1で発生する前からウォームアップが開始されており、ウォームアップ時間a経過した時点の時刻t1で電源断が発生したものとする。この電源断の時刻t1では、まだ、ウォームアップが終了していないため、当初のウォームアップ時間T1から上記のウォームアップ時間aを減算したウォームアップ時間bが残っている(ウォームアップ残時間)。すなわち、ウォームアップ残時間bは次式で表される。
【0041】
b=T1−a
=(ウォームアップ終了時刻1)−t1 (2)
ここで、上記のウォームアップ終了時刻1は、電源断が発生しなかった場合の当初のウォームアップの終了時刻t3である。
【0042】
電源断の時間は(t2−t1)であるが、この電源断時間から計算したウォームアップ時間は、図4にcで示される。これはウォームアップ終了を前提に計算される時間である。よって、ウォームアップ中に電源断した場合は、ウォームアップ残時間bを加算した時間T2をリスタートのウォームアップ時間とする。
【0043】
また、図4において、「ウォームアップ終了時刻1」(=t3)から現在時刻t2を減算した時間dの値が正の値であれば、ウォームアップ終了時刻前に復旧した場合となるので、ウォームアップ時間にウォームアップ残時間bを加算する意味がある。しかし、上記の時間dが負の値であれば、ウォームアップ終了時刻後に電源が復旧した場合となるが、この場合、ウォームアップ残時間bを加算する意味がなくなるので加算しない。これはウォームアップ時間を短縮できないほど十分に長い電源断時間であった場合のウォームアップ動作に相当する。
【0044】
ステップ206の処理に続いて、次に、CPU102はウォームアップ時間を経過したか判断する(ステップ207)。これは図示しないタイマなどを使用して時間を計測する。ウォームアップ時間を経過していなければ、一度だけ「現在時刻」とウォームアップ時間から(3)式に基づいて、電源断後のウォームアップ終了時刻(以下、これをウォームアップ終了時刻2という)を求め、F−ROM103にウォームアップ終了時刻(図3の302)として書き込むと共に、F−ROM103のウォームアップ中フラグ303をセットする(ステップ208)。これは前記したように、ウォームアップ中に電源断が発生した場合に、リスタートのウォームアップ時間を求める為に行う。
【0045】
ウォームアップ終了時刻2=(現在時刻)+(ウォームアップ時間) (3)
なお、「ウォームアップ終了時刻1」と「ウォームアップ終了時刻2」は図3に示すF−ROM103のメモリマップ上では、同じウォームアップ終了時刻302の記憶領域に書かれた時刻情報であり、書き込まれたタイミングが電源断前か電源断後かが異なるだけである。
【0046】
ステップ206又はステップ208の処理終了後に、CPU102は起動後ウォームアップ時間を経過したかどうか判定し(ステップ207)、ウォームアップ時間を経過したと判定した場合、バッファ105を出力イネーブル状態に制御して、OCXO104からのクロックをバッファ105を通して無線送受信部106に供給して無線送受信を開始ざせると共に、F−ROM103に記憶されているウォームアップ中フラグ302をクリアする(ステップ209)。最後に、CPU102はウォームアップ終了状態に遷移する(ステップ210)。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、CPU102が上位装置150から取得する現在時刻情報とF−ROM103に書き込まれている電源断時刻301、ウォームアップ終了時刻302、ウォームアップ中フラグ303、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値304、最長ウォームアップ時間305を取得してウォームアップ時間を算出するので、電源断時間に依存せずにウォームアップ時間の短縮を図ることができる。
【0048】
また、本実施の形態では、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値304は個々のOCXO固有の値が与えられるため、個体差によるマージンを削減することができ、更なるウォームアップ時間の短縮を図ることができる。更に、本実施の形態では、主な構成部であるCPU102、回線終端部101、F−ROM103は移動通信基地局装置の既存実装回路を使用することができるため、従来の方法に比べて構成部品を削減することができ、コストが抑えられる。
【0049】
(第2の実施の形態)
ところで、前述したように、図8のIV〜VIに示すようにOCXOの電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値には個体差が存在するが、このOCXOを移動通信基地局装置に実装した場合、装置の個体差により更に傾き値が変化することが考えられる。そこで、この第2の実施の形態では、その基本的構成は第1の実施の形態の通りであるが、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値の個体差について、前記装置の個体差をも考慮して更に工夫している。
【0050】
図5は本発明になる移動通信基地局装置の第2の実施の形態のブロック図を示す。同図中、図1と同一構成部分には同一符号を付し、その説明を省略する。図5において、試験用上位装置151は、第2の実施の形態の移動通信基地局装置110の正常性テストに用いられる試験用上位装置であり、実際の上位装置と同様に時刻情報データを移動通信基地局装置110に配信する。
【0051】
周波数安定度情報計測手段112は、OCXO104から出力されたクロックがバッファ105を通して入力され、そのクロックと別途入力される高周波数安定度のリファレンスクロックとの差分を計測し、その計測した差分情報を周波数安定度情報としてCPU111へ出力する手段で、正常性テスト時のみCPU111に接続される。CPU111は、周波数安定度情報計測手段112が接続されると、テストモードに遷移する。
【0052】
上記のテストモードでは、移動通信基地局装置110は、その正常性テストにおいて、ある時間電源を断とした後、電源を復旧させてOCXO104をウォームアップすると共に、CPU111はその時の周波数安定度情報計測手段112から入力される周波数安定度情報に基づいて、ウォームアップの結果、電源復旧時から所望の周波数安定度に達するまでの時間を計測し、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を算出する。上記の動作を電源時間を異ならせて、その都度上記の所望の周波数安定度に達するまでの時間を計測する。これにより、電源断時間が長いほど所望の周波数安定度に達するまでのウォームアップ時間が長くかかるが、上記の傾き値は電源断時間の違いに関係なく略一定となる。
【0053】
このようにして、CPU111により算出された電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値(図8のαに相当)は、CPU111によりF−ROM103に電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値304として書き込まれ、装置運用時、第1の実施の形態として示したウォームアップ時間の算出の際に使用される。
【0054】
このように、本実施の形態では、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値をOCXO104の個体差と装置(例えば装置110の筐体)の個体差の両方を考慮して総合的に修正し、F−ROM103に保持しているので、装置の個体差による温度上昇速度変化のマージンのウォームアップ時間を削減することができるという新たな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の移動通信基地局装置の第1の実施の形態のブロック図である。
【図2】本発明の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法の第一の実施の形態のフローチャートである。
【図3】図1中のF−ROMのメモリマップの一例である。
【図4】本発明によるウォームアップ中に電源断し復旧した場合のリスタートのウォームアップ時間の一例の説明図である。
【図5】本発明の移動通信基地局装置の第2の実施の形態のブロック図である。
【図6】従来の移動通信基地局装置の一例のブロック図である。
【図7】OCXOのウォームアップ時間とCR充放電回路によるウォームアップ時間との関係を示す図である。
【図8】OCXOのウォームアップ時間のばらつきの説明図である。
【符号の説明】
【0056】
100、110 移動通信基地局装置
101 回線終端部
102、111 中央処理装置(CPU)
103 F−ROM
104 恒温槽付水晶発振器(OCXO)
105 バッファ
106 無線送受信部
112 周波数安定度情報計測手段
150 上位装置
151 試験用上位装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温槽付水晶発振器から出力され、移動通信基地局装置内の各部に供給されるクロックを、所定の周波数安定度にするために、該恒温槽付水晶発振器を所定の温度にウォームアップするウォームアップ方法であって、
上位装置から現在時刻を取得する第1のステップと、
前記現在時刻を一定時間毎に更新記憶する第2のステップと、
前記移動通信基地局装置の電源が断した後、電源が復旧した時に、前記第2のステップで最後に更新記憶された時刻を電源断時刻とし、この電源断時刻と電源が復旧した時に前記上位装置から取得した現在時刻とから電源断時間を算出する第3のステップと、
予め測定して記憶装置に記憶されていた、電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を読み出し、その電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値と前記電源断時間とに基づいて、ウォームアップ時間を算出する第4のステップと、
前記記憶装置に記憶されているフラグを読み出して、前記電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であるか否かを判定する第5のステップと、
前記第5のステップにより前記電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であると判定されたときは、前記当初のウォームアップ期間の終了時刻から前記電源断時刻を差し引いてウォームアップ残時間を算出する第6のステップと、
前記ウォームアップ残時間が正の値のときは、前記第4のステップで算出した前記ウォームアップ時間に前記ウォームアップ残時間を加算した時間を、リスタートのウォームアップ時間として電源復旧時から前記恒温槽付水晶発振器のウォームアップを再開すると共に、前記フラグをウォームアップ期間中である値に設定し、前記ウォームアップ残時間が負の値のときは、前記第4のステップで算出した前記ウォームアップ時間、電源復旧時から前記恒温槽付水晶発振器のウォームアップを開始する第7のステップと、
前記第7のステップによるウォームアップの終了時に前記フラグをウォームアップ期間中でないことを示す値にクリアする第8のステップと
を含むことを特徴とする移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法。
【請求項2】
前記第4のステップは、算出した前記ウォームアップ時間が、記憶装置に予め記憶されている最長ウォームアップ時間を越えるときは、該最長ウォームアップ時間を前記ウォームアップ時間として算出することを特徴とする請求項1記載の移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法。
【請求項3】
前記電源断時刻が初期値のときは、前記第4のステップは、前記記憶装置に予め記憶されている最長ウォームアップ時間を前記ウォームアップ時間として算出することを特徴とする請求項1記載の移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法。
【請求項4】
前記電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値は、互いに異なる複数の電源断時間のそれぞれについて、電源復旧後に前記恒温槽付水晶発振器から出力されるクロックの周波数安定度が予め定めた所定の周波数安定度範囲内に収束するまでの時間を計測して、算出された値であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の移動通信基地局装置の恒温槽付水晶発振器のウォームアップ方法。
【請求項5】
恒温槽付水晶発振器から出力されるクロックを用いて動作し、該クロックを所定の周波数安定度にするために、該恒温槽付水晶発振器を所定の温度にウォームアップする機能を備えた移動通信基地局装置であって、
上位装置から回線を介して現在時刻を取得する現在時刻取得手段と、
少なくとも予め測定して得られた電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値と、電源断時刻がウォームアップ期間中であるか否かを示すウォームアップ中フラグとが記憶されている記憶装置と、
前記現在時刻取得手段により取得した前記現在時刻を一定時間毎に、前記記憶装置に更新記憶する時刻更新手段と、
自装置の電源が断した後、電源が復旧した時に、前記記憶装置に最後に更新記憶されている時刻を電源断時刻とし、この電源断時刻と電源が復旧したときに前記現在時刻手段により取得した現在時刻とから電源断時間を算出し、その電源断時間と、前記記憶装置から読み出した前記電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値とを用いて、ウォームアップ時間を算出するウォームアップ時間算出手段と、
自装置の電源が断した後、電源が復旧した時に、前記記憶装置から読み出した前記ウォームアップ中フラグを読み出して、前記電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であるか否かを判定し、前記電源断時刻が当初のウォームアップ期間中であると判定されたときは、前記当初のウォームアップ期間の終了時刻から前記電源断時刻を差し引いてウォームアップ残時間を算出するウォームアップ残時間算出手段と、
前記ウォームアップ残時間が正の値のときは、前記ウォームアップ時間算出手段で算出した前記ウォームアップ時間に前記ウォームアップ残時間を加算した時間を、リスタートのウォームアップ時間として電源復旧時から前記恒温槽付水晶発振器のウォームアップを再開すると共に、前記フラグをウォームアップ期間中である値に設定し、前記ウォームアップ残時間が負の値のときは、算出した前記ウォームアップ時間、電源復旧時から前記恒温槽付水晶発振器のウォームアップを開始するウォームアップ手段と、
前記ウォームアップ手段によるウォームアップの終了時に前記ウォームアップ中フラグをウォームアップ期間中でないことを示す値にクリアするクリア手段と
を具備することを特徴とする移動通信基地局装置。
【請求項6】
前記ウォームアップ時間算出手段は、算出した前記ウォームアップ時間が、前記記憶装置に予め記憶されている最長ウォームアップ時間を越えるときは、該最長ウォームアップ時間を前記ウォームアップ時間として算出することを特徴とする請求項5記載の移動通信基地局装置。
【請求項7】
前記電源断時刻が初期値のときは、前記ウォームアップ時間算出手段は、前記記憶装置に予め記憶されている最長ウォームアップ時間を前記ウォームアップ時間として算出することを特徴とする請求項5記載の移動通信基地局装置。
【請求項8】
テストモード時に、互いに異なる複数の電源断時間のそれぞれについて、電源復旧後に前記恒温槽付水晶発振器から出力されるクロックの周波数安定度を計測する第1の計測手段と、前記第1の計測手段により計測された前記周波数安定度が予め定めた所定の周波数安定度範囲内に収束するまでの時間を計測する第2の計測手段と、前記電源断時間と前記第2の計測手段により計測された時間とに基づいて、前記電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を算出する算出手段とを更に有し、該算出手段により算出された前記電源断時間対ウォームアップ時間の傾き値を前記記憶装置に記憶することを特徴とする請求項5乃至7のうちいずれか一項記載の移動通信基地局装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−189471(P2007−189471A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5460(P2006−5460)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】