説明

移動通信用基地局アンテナ

【課題】複数のアレイアンテナを用いて移動通信用基地局アンテナを構成する場合であっても、アンテナ特性を低下させることがない技術を提供する。
【解決手段】移動通信用基地局アンテナ30は、水平方向に並べて配置された2つのアレイアンテナ31a,31bを備える。アレイアンテナ31のアンテナ素子35は、第1〜第3グループG1〜G3に分けられている。第1給電ポート37−1は、一方のアレイアンテナ31aの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子35a及び他方のアレイアンテナ31bの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子35bに接続されている。第2給電ポート37−2は、一方のアレイアンテナ31aの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子35a及び他方のアレイアンテナ31bの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子35bに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のユーザの同時接続が可能な移動通信用基地局アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動通信に用いられる基地局においては、複数のユーザの同時接続を可能とするため、周波数分割多重アクセス(FDMA;Frequency Division Multiple Access)、時間分割多重アクセス(TDMA;Time Division Multiple Access)、符号分割多重アクセス(CDMA:Code Division Multiple Access)などの手法が提案されており、商用のシステムに導入されている。
しかし、近年の移動通信の普及に伴うユーザの急激な増加のため、移動通信システムに割り当てられた周波数チャネルの許容量以上の通信要求が発生し、周波数資源を逼迫する問題が発生している。
【0003】
そこで、周波数の利用効率を上げてチャネル容量の拡大を実現するために、1つの周波数帯域で複数のユーザとの通信を実現する空間分割多重アクセス(SDMA;Space Division Multiple Access)が提案されている。空間分割多重アクセスでは、基地局アンテナの指向性の主ビーム方向を所望のユーザの方向に向け、他のユーザ方向には指向性のヌル方向を向けることで、複数のユーザを空間の違いによって分離して、多重アクセスを実現している。
【0004】
そのような空間分割多重アクセスを実現するための具体的な態様としては、複数のアンテナを用いてチャネル容量を拡大するMIMO(Multiple Input Multiple Output)と呼ばれる無線通信技術がある。MIMO技術では、送信データを複数の信号(ストリーム)に分けて同時送信するため、複数のアンテナを設置する必要がある。
【0005】
特許文献1では、複数のアレイアンテナを直線状、もしくは円周状に配置し、それら複数のアレイアンテナの組み合わせによって空間分割多重アクセスを実現する移動通信用基地局アンテナが提案されている。
また、非特許文献1では、V−H偏波(垂直・水平偏波)及び斜め45度偏波を用いたアレイアンテナ4つを水平方向に並べて配置して空間分割多重アクセスを実現する移動通信用基地局アンテナが提案されている。
【0006】
ところで、近年では、携帯電話をはじめとする移動通信の普及により、街中には移動信用基地局アンテナが満ち溢れている。移動通信用基地局アンテナは一般に、鉄塔や高い建物の屋上などに設置される。このため、移動通信用基地局アンテナ全体の設置占有面積が大きくなることは、設置費用の増大や景観を損ねることにつながるので、好ましくない。
また、複数のアレイアンテナをアンテナの長手方向に直線状に設けることは、設置上の不都合や景観上の不都合があるので、やはり好ましくない。
【0007】
しかも、アレイアンテナの場合、アレイアンテナを構成するアンテナ素子の数は移動通信用基地局で要求されるアンテナ指向性に基づいて決定されるので、設置上の不都合や景観上の不都合があるからといって、アンテナ素子の数を減らすことは不可能である。
また、上述したMIMO技術を導入する場合においても、周波数の利用効率を上げてチャネル容量の拡大を実現するためには、アレイアンテナを複数配置することが必要となるが、アンテナ全体の設置占有面積が大きくなることは、上述の通り好ましくない。
【0008】
このように、近年では、設置占有面積を大幅に増大させることなく空間分割多重アクセスを可能とする移動通信用基地局アンテナの実現が強く望まれるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−313525号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K.Nishimori、他2名、「Channnel Capacity Measurement of 8×2 MIMO Transmission by Antenna Configuration in an Actual Cellular Environment」、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION、VOL.54、NO.11、2006年11月、pp.3285−3291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記の特許文献1、非特許文献1では、空間分割多重アクセスを実現するために、アレイアンテナを直線状、もしくは円周状に配置していることに起因して、移動通信用基地局アンテナ全体の設置占有面積が大きくなってしまうという問題がある。
また、上記の特許文献1、非特許文献1にて提案された技術以外で、移動通信用基地局アンテナの設置占有面積を大幅に増大させることなく空間分割多重アクセスを実現するためには、2つのアレイアンテナ間の距離を小さくすればよいようにも考えられる。ところが、そのようにすると、2つのアレイアンテナ間のアイソレーンョンが低下し、それに因ってアンテナ利得などのアンテナ特性が低下するという、別の不都合が生じてしまう。
このように、従来の技術では、移動通信用基地局アンテナ全体の設置占有面積が大きくなってしまうことを回避しつつ、空間分割多重アクセスを実現することは、極めて困難ないし不可能であった。
【0012】
その一方で、2つのアレイアンテナを用いて移動通信用基地局アンテナを構成する場合、設置占有面積を小さなものにしたいとの要望は、上述した通りであるが、その前提として2つのアレイアンテナを用いてもそれぞれのアンテナ自体の性能を損なうことがないようにすることが求められる。仮に設置占有面積を小さくしたとしても、個々のアンテナ特性が低下してしまっては、移動通信用基地局アンテナとして意味をなさなくなってしまうからである。
【0013】
そこで本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、複数のアレイアンテナを用いて移動通信用基地局アンテナを構成する場合であっても、アンテナ特性を低下させることがない技術の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の移動通信用基地局アンテナは、同一の偏波特性を有するアンテナ素子が垂直方向に複数個配列された少なくとも2つのアレイアンテナを、水平方向に隣接して並べて配置した移動通信用基地局アンテナであって、2つのアレイアンテナに電力を供給する第1及び第2給電ポートを備え、第1給電ポートは、2つのアレイアンテナのうち、一方のアレイアンテナの一部のアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの一部のアンテナ素子に接続されており、第2給電ポートは、2つのアレイアンテナのうち、一方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子に接続されていることを特徴とする。なお、アンテナ素子には、単なるアンテナ素子のみならず、アンテナ素子を組み合わせたアンテナ素子対も含まれる。
【0015】
本発明の移動通信用基地局アンテナは、同一の偏波特性を有するアンテナ素子が垂直方向に複数個配列された少なくとも2つのアレイアンテナを、水平方向に隣接して並べて配置している。アレイアンテナは、例えば、水平方向に2つ隣接して並べて配置してもよく、水平方向に3つ以上並べて配置してもよい。
【0016】
そして、ここでは、仮にアレイアンテナを水平方向に2つ隣接して並べて配置したものとする。この場合、移動通信用基地局アンテナは、2つのアレイアンテナに電力を供給する第1及び第2給電ポートを備える。つまり、移動通信用基地局アンテナは、2つのアレイアンテナに対して、2つの給電ポートを備えている。なお、アレイアンテナのアンテナ素子として、V−H偏波用のアンテナ素子対や、斜め45度偏波用のアンテナ素子対を用いる場合、これらのアンテナ素子対に対しては合計4つの給電ポートが必要となることもあるが、本発明の概念としては、そのような場合も含めて、2つのアレイアンテナに対して2つの給電ポートで給電するものとする。
【0017】
そして、第1給電ポートは、2つのアレイアンテナのうち、一方のアレイアンテナの一部のアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの一部のアンテナ素子に接続されており、第2給電ポートは、2つのアレイアンテナのうち、一方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子に接続されている。
【0018】
このように、本発明の移動通信用基地局アンテナによれば、第1給電ポートが一方のアレイアンテナの全てのアンテナ素子に給電し、第2給電ポートが他方のアレイアンテナの全てのアンテナ素子に給電するのではなく、第1給電ポートが一方のアレイアンテナの一部と他方のアレイアンテナの一部とに分散して電力を供給し、第2給電ポートが一方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子と他方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子とに分散して電力を供給する。その結果として、第1給電ポートからの電力は一方のアレイアンテナにのみに供給され、第2給電ポートからの電力は他方のアレイアンテナにのみに供給されることがなくなり、供給する電力の偏りが軽減される。そして、供給する電力の偏りが軽減されることにより、それぞれのアレイアンテナから発せられる水平面主ビームがアンテナ正面方向から傾くことを低減させることができ、アンテナ特性が低下することを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数のアレイアンテナを用いて移動通信用基地局アンテナを構成する場合であっても、アンテナ特性を低下させることがない技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図3】第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを模式的に示す図である。
【図4】遮蔽板12の作用・効果について説明する図である。
【図5】第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの垂直偏波アンテナ素子と給電ポートとの電気的接続に関する構成の一態様を示す図である。
【図6】移動通信用基地局アンテナ10a,10bの水平面(x−y平面)における主ビーム放射パターンを示す図である。
【図7】比較例の移動通信用基地局アンテナ10Z−1,10Z−2を示す図である。
【図8】比較例の移動通信用基地局アンテナ10Z−1,10Z−2の水平面(x−y平面)における主ビーム放射パターンを示す図である。
【図9】第2実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図10】移動通信用基地局アンテナ20a,20bの水平面(x−y平面)の主ビーム放射パターンを示す図である。
【図11】2つの遮蔽板12を配置した例を示す図である。
【図12】第3実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図13】移動通信用基地局アンテナの角度の定義について説明する図である。
【図14】第3実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
【図15】第4実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図16】第4実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
【図17】第5実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図18】第5実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
【図19】第6実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図20】第6実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
【図21】第7実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図22】第7実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
【図23】第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【図24】第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
【図25】ポート間結合について説明する図である。
【図26】本発明の変形形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図であって、図2(a)は移動通信用基地局アンテナの正面図であり、図2(b)は移動通信用基地局アンテナの平面図(底面図)であり、図2(c)はアンテナ素子15を単体で示す図であり、図2(d)はアンテナ素子16を単体で示す図である。
図1に示すように、移動通信用基地局アンテナ10は、空間分割多重アクセス方式の通信に用いられるアンテナであり、例えば複数のアンテナを用いてチャネル容量を拡大するMIMO(Multiple Input Multiple Output)と呼ばれる無線通信技術に使用される。MIMO技術では、送信データを複数の信号(ストリーム)に分けて同時送信するため、複数のアンテナを設置する必要がある。本実施形態では、2つのアレイアンテナ11a,11bを、水平方向(図中x方向)に隣接して並べて配置している。
【0022】
図2(a)に示すように、アレイアンテナ11a,11bは、遮蔽板12を間に挟んで左右に2つ配置されており、各アレイアンテナには、それぞれ8個のアンテナ素子対14が配置されている。アンテナ素子対14は、2つのアンテナ素子15,16を断面十字型となるように組み合わせることにより構成される。アンテナ素子対14は、2つのアンテナ素子15,16により、偏波される電波を共用して送受信することができる。
また、図2(b)に示すように、アンテナ素子対14は、反射板13上に配置されており、2つのアンテナ素子対14の間に配置される遮蔽板12は、隣り合うアンテナ素子対14の電気的な干渉をより防止するために、アンテナ素子対14の上背よりも高い上背を有する。
【0023】
ここで、アンテナ素子対14の詳細について説明する。
このアンテナ素子対14は、アンテナ素子15と、アンテナ素子16とを組み合わせることによって構成されている。
アンテナ素子15及びアンテナ素子16には、プリントダイポールアンテナを用いている。
アンテナ素子15及びアンテナ素子16は、それぞれ土台となる略長方形形状の誘電体基板を備えており、この誘電体基板に、ダイポール素子や給電線路導体、接地導体等が形成されている。
【0024】
図2(c)に示すように、アンテナ素子15には、アンテナ素子15の上端側から下端側に向かって延びる所定の長さのスリット(切り込み)S1が形成されている。
また、図2(d)に示すように、アンテナ素子16には、アンテナ素子15とは逆に、アンテナ素子16の下端側から上端側に向かって延びる所定の長さのスリットS2が形成されている。
そして、アンテナ素子15の上方からアンテナ素子16を押し込んで、スリットS1とスリットS2とを係合させることにより、アンテナ素子15とアンテナ素子16とが交差した状態で結合し、アンテナ素子対14を形成することができる。
【0025】
図3は、第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを模式的に示す図である。
移動通信用基地局アンテナ10は、水平方向(図中x方向)に並べて配置された2つのアレイアンテナ11a,11bと、その間に配置された遮蔽板12と、アレイアンテナ11a,11bの背面に配置された反射板13とによりその主要部が構成されている。ここで、2つのアレイアンテナ11a,11bを総称する場合には、単に「アレイアンテナ11」と呼ぶものとする(なお、アレイアンテナはアンテナ素子対アレイと呼ばれることもある)。また、以下の説明では、アレイアンテナ11aに含まれている各構成要素には、記号aをその符号の数字に付し、アレイアンテナ11bに含まれている各構成要素には、記号bをその符号の数字に付すものとする。また、それらの各構成要素について総称する場合には、記号aや記号bは付さないで、単に符号の数字のみを記すものとする。
【0026】
アレイアンテナ11aには、8個のアンテナ素子対14aが、垂直方向(図中z方向)に配列して形成されている。また、同様に、アレイアンテナ11bには、8個のアンテナ素子対14bが、垂直方向に配列して形成されている。これらアンテナ素子対14aとアンテナ素子対14bは、同一の偏波特性を有するアンテナ素子対であり、かつ同一のピッチで垂直方向に配列されている。
【0027】
各アンテナ素子対14は、それぞれ垂直偏波アンテナ素子15と水平偏波アンテナ素子16とを直交させて一対に組み合わせているものである。それらの各アンテナ素子としては、上述したようにプリントダイポールアンテナであってもよいが、半波長ダイポールアンテナや、パッチアンテナ等を用いることも可能である。
【0028】
遮蔽板12は、2つのアレイアンテナ11a,11bの間に、垂直方向(図1におけるz方向)に伸びた状態に設けられており、両アレイアンテナ11a,11b間(図1における主にx方向)における電磁気的な干渉等を遮蔽することにより、両アレイアンテナ11a,11b間での良好なアイソレーンョンを確保するものである。
この遮蔽板12としては、金属又はそれに類する導電体からなる遮蔽板を用いることができる。また、遮蔽板12としては、磁性体や誘電体からなる電波吸収体を用いることもできる。
【0029】
反射板13は、アレイアンテナ11a,11bの背面に設けられており、この移動通信用基地局アンテナ10における各アレイアンテナ11a,11bの全体的な指向性(例えば図1におけるy方向を主軸とする指向性)をより確実に得るためのものである。
【0030】
本実施形態では、アレイアンテナ11に給電するための給電ポート17が、合計4つ設けられている。それら4つの給電ポート17は、垂直偏波アンテナ素子15a、垂直偏波アンテナ素子15b、水平偏波アンテナ素子16a、水平偏波アンテナ素子16bに、ほぼ等しい電力を供給するように設定されている。
【0031】
次に、本発明の第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの作用について説明する。
従来の技術では、2つのアレイアンテナを水平方向に並列して隣接して配置すると、それらアレイアンテナ同士の間のアイソレーンョン確保が困難となっていた。その結果として、アレイアンテナ同士の距離を大きく取らなければならず、アンテナ設置占有面積が増大するという問題が発生していた。
しかし、第1実施形態の移動通信用基地局アンテナ10では、水平方向に並列して隣接して配置されたアレイアンテナ11a,11bの間に、垂直方向に伸びた遮蔽板12を備えるようにしたので、この遮蔽板12によりアレイアンテナ11a,11b同士の間のアイソレーンョンを飛躍的に改善することができ、その結果、アレイアンテナ11a,11b間の距離を大きく離す必要がなくなり、アンテナ設置占有面積の増大を回避することが可能となる。
【0032】
図4は、遮蔽板12の作用・効果について説明する図である。なお、ここでは説明の簡潔化のために、垂直偏波アンテナ素子15と水平偏波アンテナ素子16とを直交して一対に組み合わせてなるアンテナ素子対14の代りに、垂直偏波アンテナ素子15a,15bを左右1対のみ備えたものについて説明する。
【0033】
アンテナ10Xは、図4(a)の正面図及び図4(b)の平面図に示すように、遮蔽板12を備えていないアンテナであり、図示しない給電ポートに接続された垂直偏波アンテナ素子15aと、50Ω終端が接続された垂直偏波アンテナ素子15bと、反射板13とを備えている。
【0034】
他方、アンテナ10Yは、図4(c)の正面図及び図4(d)の平面図に示すように、遮蔽板12(金属遮蔽板)を備えたアンテナであり、遮蔽板12以外の構成はアンテナ10Xと同様に、図示しない給電ポートに接続された垂直偏波アンテナ素子15aと、50Ω終端が接続された垂直偏波アンテナ素子15bと、反射板13とを備えている。そして、遮蔽板12と反射板13とは、電気的に接続されている。
【0035】
アンテナ10Xにおける垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bとの間での電磁気的結合量のシミュレーションを実施したところ、−9.0dBであった。
他方、アンテナ10Yにおける垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bとの間での電磁気的結合量のシミュレーションを実施したところ、−27.1dBであった。
【0036】
このシミュレーション結果から、垂直偏波アンテナ素子15a,15b間に遮蔽板12を設けることで、それら水平方向に左右一対で隣接して配置された垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bとの間のアイソレーンョンを、飛躍的に改善することができることが分かった。これにより、アンテナ素子間距離を大きく取る必要がなくなる。
また、垂直偏波アンテナ素子15a,15b間に遮蔽板12を設けることにより、従来技術の場合に生じていた、設置占有面積の増大を回避するために無理に垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bとの間の距離を縮めることに起困して指向性などのアンテナ特性が低下するという問題を解消することができる。
【0037】
このように、第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ10によれば、主に指向性などのアンテナ特性を低下させることなく、かつその移動通信用基地局アンテナ10の全体的な設置占有面積の大幅な増大を回避しつつ、指向性の良好な空間分割多重アクセスなどの空間分割通信を実現することが可能となる。
【0038】
なお、3つ以上のアレイアンテナを水平方向に並べて配置する場合にも、その各アレイアンテナ同士の間に遮蔽板12を設けるようにすることで、上記の実施の形態の場合と同様に、アンテナ特性を低下させることなく、かつ設置占有面積を大幅に増大させることなく、空間分割多重アクセスのような空間分副通信が可能な移動通信用基地局アンテナ10を実現することが可能となるという効果が得られる。
【0039】
図5は、第1実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの垂直偏波アンテナ素子と給電ポートとの電気的接続に関する構成の一態様を示す図である。なお、ここでは説明の簡潔化のために、垂直偏波アンテナ素子15と水平偏波アンテナ素子16とを直交して一対に組み合わせてなるアンテナ素子対14の代りに、水平偏波アンテナ素子16は省略して、垂直偏波アンテナ素子15のみを備えたものについて説明する。また、この図5では、電力供給系ごとに図5(a)と図5(b)とに分けて図示してあるが、これは便宜上、図示の煩雑化を回避するために敢えて分けて図示しているのであって、実際には、図5(a)に示した電力供給系と図5(b)に示した電力供給系とが組み合わされた構成となっている(以下同様)。
【0040】
図5(a)(b)に示すように、本実施形態では、2つのアレイアンテナ11a,11bに電力を供給する第1及び第2給電ポート17−1,17−2を備えている。
図5(a)に示すように、一方の電力供給系の構成では、第1給電ポート17−1が電力分配器18に接続されている。そして電力分配器18は、第1給電ポート17−1から供給されて来た電力をA:Bの比率でアレイアンテナ11a,11bに分配するように設定されている。その各電力は、配線回路系19を介してアレイアンテナ11a,11bにそれぞれ分配される。電力分配器18により、効率良く電力を分配することができる。
【0041】
また、同様に、図5(b)に示すように、他方の電力供給系の構成では、第2給電ポート17−2は電力分配器18に接続されており、電力分配器18は、第2給電ポート17−2から供給されてきた電力をC:Dの比率でアレイアンテナ11a,11bに分配するように設定されている。その各電力は、配線回路系19を介してアレイアンテナ11a,11bにそれぞれ分配される。AとBは、ほぼ等しく、またCとDは、ほぼ等しい値に設定されている。
【0042】
また、図5(a)、(b)に示した各電力供給系を有する構成の移動通信用基地局アンテナ10a,10bでは、いずれの場合も、一方のアレイアンテナ11aにおける給電ポート17からの給電の対象となるアンテナ素子数は4個であり、かつ他方のアレイアンテナ11bにおける給雷ポート35からの給電の対象となるアンテナ素子数は4個であり、それらの個数は等しくなっている。
【0043】
すなわち、各電力系統において、電力分配器18によって2つのアレイアンテナ11a,11bに分配された2系統の電力は、2つのアレイアンテナ11a,11bにおける互いに等しい個数のアンテナ素子へと、それぞれ給電されている。ただし、各電力供給系において、電力分配器18によって2つのアレイアンテナ11a,11bに分配された2糸統の電力は、遮蔽板12を挟んで水平方向に左右一対になって並んでいる各2つの垂直偏波アンテナ素子15a,15b毎について着目すると、そのうちの一方のみに供給されると共に他方には供給されないように設定されている。このような電力供給系とすることにより、電力供給の左右対称性をより向上させている。
【0044】
また、1つのアレイアンテナ11における電力が供給される垂直偏波アンテナ素子15は、そのアレイアンテナ11の配列内で2個ずつ連続して2個置きに(いわゆる「2個ずつ飛び飛びに」)選択されている。このように連続して配置することにより、電力の供給をある程度密集させることができ、1つずつ交互に配置する場合と比較して、ポート間アイソレーションを低減させることができる。
【0045】
このように、本実施形態では、図5(a)に示すように、第1給電ポート17−1は、2つのアレイアンテナ11a,11bのうち、一方のアレイアンテナ11aの一部のアンテナ素子(1,2番目、5,6番目のアンテナ素子15a)及び他方のアレイアンテナ11bの一部のアンテナ素子(3,4番目、7,8番目のアンテナ素子15b)に接続されている。なお、アンテナ素子の数え方は、垂直方向でみて上から数えた番号である(以下同様)。
【0046】
また、図5(b)に示すように、第2給電ポート17−2は、2つのアレイアンテナ11a,11bのうち、一方のアレイアンテナ11aの残りのアンテナ素子(3,4番目、7,8番目のアンテナ素子15a)及び他方のアレイアンテナ11bの残りのアンテナ素子(1,2番目、5,6番目のアンテナ素子15b)に接続されている。
【0047】
本実施形態では、アンテナ素子15が垂直方向に8個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が2個、2個、2個、2個と交互に給電ポートに接続されている(8素子;2−2−2−2分配)。
【0048】
図6は、移動通信用基地局アンテナ10a,10bの水平面(x−y平面)における主ビーム放射パターンを示す図である。
移動通信用基地局アンテナ10a,10bのいずれの場合においても、アレイアンテナ11aの水平面主ビーム101(図6(a);移動通信用基地局アンテナ10aからの水平面主ビーム)、アレイアンテナ11bの水平面主ビーム102(図6(b);移動通信用基地局アンテナ10bからの水平面主ビーム)は、アンテナ正面方向(y方向)となる。これは、2つのアレイアンテナ11a,11bに、ほぼ等しい電力を供給しているためであり、水平面における放射導体構造がアンテナ正面方向(y方向)に対して概ね対称構造となるためである。
【0049】
ここで、上記の「ほぼ等しい」とは、例えば何らかの外乱や誤差の混入等に起因して電力の供給に若干の差異が生じたとしても、それが実貿的にアレイアンテナ11の水平面主ビーム101,102の有意な偏りを生じさせない程度のものである場合を意味している。なお、以下では、表現の簡潔化のために、そのような「ほぼ等しい」ということも含めて、単に「等しい」と記載するものとする。
【0050】
また、例えば9個のような奇数個のアレイアンテナ11を上方の略半分と下方の略半分との2つのグループに分ける、といった場合には、例えば上方の4個と下方の5個との2つのグループに分ける、もしくは逆に上方の5個と下方の4個との2つのグルーフに分けるようにすることなどが可能である。
【0051】
図7は、比較例の移動通信用基地局アンテナ10Z−1,10Z−2を示す図であり、図8は、比較例の移動通信用基地局アンテナ10Z−1,10Z−2の水平面(x−y平面)における主ビーム放射パターンを示す図である。
図7(a)に示すように、比較例の移動通信用基地局アンテナ10Zは、第1給電ポート17−1から配線回路系19を介して一方のアレイアンテナ11aのみに給電するので、水平面における放射導体構造は、アンテナ正面方向に対して非対称なものとなる。このため、図8(a)に示したように、水平面主ビーム103は、アンテナ正面方向から傾いたものとなってしまい、エリア設計が難しくなるという不都合が発生する。
このことは、図7(b)に示すように、第2給電ポート17−2から配線回路系19を介して他方のアレイアンテナ11bのみに給電する構造の場合も同様である。ただし図7(b)に示した構造の場合には、水平面主ビーム104の傾く方向は、給電側が反対側であることによって、図8(b)に示したように、水平面主ビーム103とは逆の方向に傾むいた水平面主ビーム104となる。
【0052】
このように、第1実施形態の移動通信用基地局アンテナ10によれば、給電ポート17−1,17−2を、電力分配器18によって2つのアレイアンテナ11a,11bのアンテナ素子15a,15bに接続し、1つの給電ポート17から一方のアレイアンテナ11aに給電される電力と他方のアレイアンテナ11bに給電される電力とをほぼ等しくし、それに加えて一方のアレイアンテナ11aにおいて給電されるアンテナ素子数と他方のアレイアンテナ11bにおいて給電されるアンテナ素子数とをほぼ等しくすることで、水平面における放射導体構造をアンテナ正面方向に対して概ね対称とすることができる。その結果、水平面主ビームがアンテナ正面方向から傾くことなく、かつ2つのアレイアンテナ11a,11bの水平面主ビーム101,102の放射パターンがほぼ等しくなって、所望のエリア設計を容易に実現することが可能となる。
【0053】
また、第1実施形態の移動通信用基地局アンテナ10によれば、図7に示すように、第1給電ポート17−1が一方のアレイアンテナ11aの全てのアンテナ素子15aに給電し、第2給電ポート17−2が他方のアレイアンテナ11bの全てのアンテナ素子15bに給電するのではなく、図5に示すように、第1給電ポート17−1が2つのアレイアンテナ11a,11bに分散して電力を供給し、第2給電ポート17−2もまた2つのアレイアンテナ11a,11bに分散して電力を供給する。その結果として、それぞれの給電ポートからの電力供給の偏りが軽減され、アレイアンテナ11a,11bから発せられる水平面主ビームがアンテナ正面方向から傾くことを低減させることができ、アンテナ特性が低下することを防止することができる。
【0054】
〔第2実施形態〕
図9は、本発明の第2実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。この図は、第1実施形態の態様とは別の垂直偏波アンテナ素子と給電ポートとの電気的接続関係を示した図である。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と共通する事項については、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0055】
図9(a)に移動通信用基地局アンテナ20aとして示したような一つの電力供給系の構成では、第1給電ポート27−1は、電力分配器28に接続されており、電力分配器28では、1:1の比率に電力を分配して、それらの電力を垂直偏波アンテナ素子25a,25bへとそれぞれ送出するように設定されている。
また、図9(b)に移動通信用基地局アンテナ20bとして示したような他の一つの電力供給系の構成の場合も同様に、第2給電ポート27−2は、電力分配器28に接続されており、電力分配器28では、1:1の比率に電力を分配して、それらの電力を垂直偏波アンテナ素子25a,25bへとそれぞれ送出するように設定されている。
【0056】
いずれの構成も、アレイアンテナ21における第1及び第2給電ポート27−1,27−2からの電力分配器28を介しての給電の対象となるアンテナ素子数は、4個ずつであり、その個数は等しくなっている。ただし、移動通信用基地局アンテナ20aと移動通信用基地局アンテナ20bとでは、アレイアンテナ21a,21bにおける給電の対象となる垂直偏波アンテナ素子25a,25bの配置が、互いに左右対称に逆の配置構成となっている。
【0057】
また、図9(c)に移動通倍用基地局アンテナ20aとして示したような一つの電力供給系の構成では、第1給電ポート27−1は、電力分配器28に接続されており、電力分配器28は、1:1の比率に電力を分配して、それらの電力を水平偏波アンテナ素子24a,24bへとそれぞれ送出するように設定されている。
また、図9(d)に移動通信用基地局アンテナ20bとして示したような他の一つの電力供給系の構成も同様に、第2給電ポート27−2は、電力分配器28に接続されており、電力分配器28は、1:1の比率に電力を分配して、それらの電力を水平偏波アンテナ素子24a,24bへとそれぞれ送出するように設定されている。
【0058】
いずれの構成も、アレイアンテナ21における第1及び第2給電ポート27−1,27−2からの電力分配器28を介しての給電の対象となるアンテナ素子数は、4個ずつであり、その個数は等しくなっている。ただし、移動通信用基地局アンテナ20aと移動通信用基地局アンテナ20bとでは、アレイアンテナ21a,21bにおける給電の対象となる水平偏波アンテナ素子24a,24bの配置が、互いに左右対称に逆の配置構成となっている。このように、アレイアンテナ21a,21bの各アンテナ素子に対して、上方・下方に分けて電力を供給することにより、電力供給の対称性を向上させつつ、配線しやすい構成としている。
【0059】
図10は、移動通信用基地局アンテナ20a,20bの水平面(x−y平面)の主ビーム放射パターンを示す図である。
この図において、図10(a)は、図9(a)の構造の場合の主ビーム放射パターン201を示している。図10(b)は、図9(b)の構造の場合の主ビーム放射パターン202を示している。図10(c)は、図9(c)の構造の場合の主ビーム放射パターン203を示している。図10(d)は、図9(d)の構造の場合の主ビーム放射パターン204を示している。
いずれの場合においても、水平面主ビーム201〜204は、アンテナの正面方向(y方向)となる。これは、2つのアレイアンテナ21a,21bに対して等しい電力を供給しているためであり、水平面における放射導体構造がアンテナ正面方向(y方向)に対して概ね対称構造となるためである。
【0060】
しかも、図9(a)に示した移動通信用基地局アンテナ20aの場合では、第1給電ポート27−1からの電力は、電力分配器28で分配された後、一方の配線回路系29を介して、上半分の4個の垂直偏波アンテナ素子25aに供給され、他方の配線回路系29を介して、下半分の4個の垂直偏波アンテナ素子25bに供給される。
また、図9(b)に示した移動通信用基地局アンテナ20bの場合では、第2給電ポート27−2からの電力は、電力分配器28で分配された後、一方の配線回路系29を介して、下半分の4個の垂直偏波アンテナ素子25aに供給され、他方の配線回路系29を介して、上半分の4個の垂直偏波アンテナ素子25bに供給される。
【0061】
また、図9(c)に示した移動通信用基地局アンテナ20aの場合では、第1給電ポート27−1からの電力は、電力分配器28で分配された後、一方の配線回路系29を介して、上半分の4個の水平偏波アンテナ素子24aに供給され、他方の配線回路系29を介して、下半分の4個の水平偏波アンテナ素子24bに供給される。
また、図9(d)に示した移動通信用基地局アンテナ20bでは、第2給電ポート27−2からの電力は、電力分配器28で分配された後、一方の配線回路系29を介して、下半分の4個の水平偏波アンテナ素子24aに供給され、他方の配線回路系29を介して、上半分の4個の水平偏波アンテナ素子24bに供給される。
【0062】
ここで、図9では、垂直偏波アンテナ素子25a,25bは、図9(a)及び図9(b)に示し、水平偏波アンテナ素子24a,24bは、図9(c)及び図9(d)に示したが、実際にはこれらは組み合わされて、第1実施形態で説明したアンテナ素子対14を構成し、一つの移動通信用基地局アンテナ内に組み込まれて用いられる。つまり、実際には、一つの電力供給系の移動通信用基地局アンテナの構成としては、図9(a)に示した垂直偏波アンテナ素子25a,25bと図9(c)に示した水平偏波アンテナ素子24a,24bとが組み合わされて設けられ、かつ他の電力供給系の移動通信用基地局アンテナの構成としては、図9(b)に示した垂直偏波アンテナ素子25a,25bと図9(d)に示した水平偏波アンテナ素子24a,24bとが組み合わされて設けられる。
【0063】
このように、移動通信用基地局アンテナにおいて並列して隣接して配置された2つのアレイアンテナ21a,21bに含まれている垂直偏波アンテナ素子25a,25bや水平偏波アンテナ素子24a,24bのうち、給電される素子同士が隣り合うこと最小限にした構成とすることにより、遮蔽板22による作用効果と相まって、隣接して配置された2つのアレイアンテナ21a,21b間でのアイソレーンョンの改善を、さらに効果的に達成することができる。
【0064】
また、第2実施形態によれば、第1実施形態のものと同様に、第1給電ポート27−1が2つのアレイアンテナ21a,21bに分散して電力を供給し、第2給電ポート27−2もまた2つのアレイアンテナ21a,21bに分散して電力を供給するので、それぞれの給電ポートからの電力供給の偏りが軽減され、アレイアンテナ21a,21bから発せられる水平面主ビームがアンテナ正面方向から傾くことを低減させることができ、アンテナ特性が低下することを防止することができる。
【0065】
図11は、2つの遮蔽板12を配置した例を示す図である。
上述した第1実施形態では、2つのアレイアンテナ11a,11b間に1枚の遮蔽板12を設けた場合について説明したが、複数(例えば2枚)の遮蔽板12を水平方向に並べて配置することもできる。これにより、2つのアレイアンテナ11a,11b間のアイソレーンョンを、さらに効果的に改善することが可能となる。
【0066】
ここで、遮蔽板12を2枚配置した場合の作用・効果について説明する。なお、ここでは説明の簡潔化のために、垂直偏波アンテナ素子15と水平偏波アンテナ素子16とを直交して一対に組み合わせてなるアンテナ素子対14の代りに、水平偏波アンテナ素子16は省略して、垂直偏波アンテナ素子15a,15bを1対のみ備えたものについて説明する。
アンテナ90aは、図11(a)の正面図及び図11(b)の平面図に示したように、遮蔽板12を1枚のみ備えたアンテナであり、図示しない給電ポートに接続された垂直偏波アンテナ素子15aと、50Ω終端が接続された垂直偏波アンテナ素子15bと、反射板13とを備えている。反射板13と遮蔽板12とは、電気的に接統されている。
他方、アンテナ90bは、図11(c)の正面図及び図11(d)の平面図に示したように、2枚の遮蔽板12を、所定の間隙X1を隔てて配置したアンテナであり、その他の構成はアンテナ90aと同様に、図示しない給電ポートに接続された垂直偏波アンテナ素子15aと、50Ω終端が接続された垂直偏波アンテナ素子15bと、反射板13とを備えている。そして、反射板13と2枚の遮蔽板12とは、電気的に接続されている。
【0067】
アンテナ90aにおける垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bと間での電隣気的結合量のシミュレーションを実施したところ、−27.1dBであった。他方、アンテナ90bにおける垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bと間での電磁気的結合量のシミュレーションを実施したところ、−29.2dBであった。
【0068】
このように、垂直偏波アンテナ素子15a,15b間に遮蔽板12を2枚設けることで、それら隣接して配置された垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bとの間でのアイソレーンョンをさらに効果的に改善することができる。
また、それら垂直偏波アンテナ素子15a,15b間に、1枚の遮蔽板12の代りに2枚の遮蔽板12を所定の間隙X1を有して設けることにより、従来技術の場合に生じていた、設置占有面積の増大を回避するために無理に垂直偏波アンテナ素子15aと垂直偏波アンテナ素子15bとの間の距離を縮めることに起因してアンテナ特性が低下するという問題をさらに効果的に解消することができる。
このような複数の遮蔽板12を水平方向に並べて配置する形態は、上述した第1及び第2実施形態に適用することができ、また、後述する各実施形態にも適用することができる。
【0069】
〔第3実施形態〕
図12は、本発明の第3実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
第3実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ30(30a,30b)は、2つのアレイアンテナ31a,31bに電力を供給する第1及び第2給電ポート37−1,37−2を備えている。
図12(a)に示すように、第1給電ポート37−1は、アレイアンテナ31aの1〜3番目、8〜10番目のアンテナ素子35a及びアレイアンテナ31bの4〜7番目のアンテナ素子35bに接続されている。
また、図12(b)に示すように、第2給電ポート37−2は、アレイアンテナ31aの4〜7番目のアンテナ素子35a及びアレイアンテナ31bの1〜3番目、8〜10番目のアンテナ素子35bに接続されている。
【0070】
ここで、アンテナ素子35(35a,35b)は、垂直方向(図中Z方向)でみて上から順に、少なくとも2つ以上のアンテナ素子35を有する第1〜第3グループG1〜G3に分けられている。1つのグループには、最低でも2つのアンテナ素子35が配置されている。
【0071】
そして、図12(a)に示すように、第1給電ポート37−1は、一方のアレイアンテナ31aの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子35a及び他方のアレイアンテナ31bの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子35bに接続されている。
また、図12(b)に示すように、第2給電ポート37−2は、一方のアレイアンテナ31aの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子35a及び他方のアレイアンテナ31bの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子35bに接続されている。
【0072】
ここで、奇数グループとは、グループ分けしたアンテナ素子のうち奇数番目に配置されるグループをいい、例えば第1,第3,第5・・・グループのことである。また、偶数グループとは、グループ分けしたアンテナ素子のうち偶数番目に配置されるグループをいい、例えば第2,第4,第6・・・グループのことをいう。
【0073】
本実施形態では、アンテナ素子35が垂直方向に10個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が3個、4個、3個と交互に給電ポートに接続されている(10素子;3−4−3分配)。
【0074】
次に、移動通信用基地局アンテナの角度の定義について説明する。
図13は、移動通信用基地局アンテナの角度の定義について説明する図である。
図13に示すように、垂直角度θは、移動通信用基地局アンテナの垂直方向の角度を示すパラメータである。垂直角度θは、移動通信用基地局アンテナ30を中心として、天頂部分(天井部分)が垂直角度θ=0°であり、そこから前方(図中矢印Aの方向)に回り込んで垂直角度θ=90°となり、さらに下方に回りこんで最下部分が垂直角度θ=180°となり、後ろに回り込んで垂直角度θ=270°となり、最後に天頂部分に戻って垂直角度θ=360°となる。なお、垂直角度θ=360°は、垂直角度θ=0°と同様である。
【0075】
一方、水平角度φは、移動通信用基地局アンテナの水平方向の角度を示すパラメータである。水平角度φは、移動通信用基地局アンテナ30の真後ろ(正面は、図中矢印Aの方向)を基準として、その真後ろ部分が水平角度φ=0°であり、そこから反時計周りに90°回転した移動通信用基地局アンテナ30の右手方向が水平角度φ=90°であり、さらに反時計周りに90°回転して、移動通信用基地局アンテナ30の正面方向が水平角度φ=180°であり、さらに反時計周りに90°回転して、移動通信用基地局アンテナ30の左手方向が水平角度φ=270°であり、移動通信用基地局アンテナ30の真後ろに戻ってφ=360°となる。なお、水平角度φ=360°は、水平角度φ=0°と同様である。
【0076】
例えば、水平角度φ=0°部分についての垂直面指向性を確かめたい場合は、この球体を水平角度φ=0°部分で垂直カット(輪切りに)して移動通信用基地局アンテナ30から発せられるビームの形状を調査すればよい。
また、垂直角度θ=98°部分についての水平面指向性を確かめたい場合は、この球体を垂直角度θ=98°部分で水平カットして移動通信用基地局アンテナ30から発せられるビームの形状を調査すればよい。
【0077】
次に、移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて説明する。
図14は、第3実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。この図では、所定の垂直角度における電力と水平角度との関係を示している。図中において、縦軸は電力〔dB〕を示し、横軸は水平角度〔deg〕を示している。また、図中、実線は垂直角度が98〔deg〕の場合を示しており、破線は垂直角度が102〔deg〕の場合を示しており、点線は垂直角度が106〔deg〕の場合を示している。なお、これらの関係は、以下に示すグラフについても同様である。
【0078】
図12に示すようなアレイアンテナの素子配列では、図14に示すような水平面指向性になる。最大放射方向は(水平角度φ、垂直角度θ)=(180°、98°)の方向であり、水平方向より大地側に8°チルト(傾斜)している。
【0079】
ここで、アンテナの放射電磁界はアンテナ固有の方向特性を持ち、これを放射指向性あるいは放射指向特性という。そして、アンテナの指向性のうち最大方向及びその近傍が主ビームであり、それ以外のものはサイドローブ(サブビーム)と呼ばれる。サイドローブとは、アンテナの指向性を示す図において、主ビーム方向以外に生じるローブのことをいう。本実施形態では、主ビームが垂直角度θ=98°となり、サイドローブは垂直角度θ=98°以外の部分、すなわち、垂直角度θ=102°及び106°となる。本実施形態の構成では、最大放射方向を含む水平面(カット面θ=98°)以外の水平面(カット面θ=102°及び106°)であっても、ビームの左右の対称性が良い。
【0080】
このように、第3実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ30によれば、主ビームのみならず、サイドローブまで含めてバランスよく正面方向に放射される移動通信用基地局アンテナを提供することができる。
したがって、第1グループG1のアンテナ素子の個数の値を、第3グループG3のアンテナ素子の個数の値と等しくすれば(本実施形態では、1つ(1本)のアレイアンテナに含まれるアンテナ素子の個数は共に3個)、水平面指向性の左右のバランスが良い特性が得られることが分かった。本実施形態では、10素子;3−4−3分配の素子配列の例で説明したが、例えば8素子;2−4−2分配や、7素子;2−3−2分配等であっても同様の効果を得ることができる。
【0081】
〔第4実施形態〕
図15は、本発明の第4実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
第4実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ40は、2つのアレイアンテナ41a,41bに電力を供給する第1及び第2給電ポート47−1,47−2を備えている。
図15(a)に示すように、第1給電ポート47−1は、アレイアンテナ41aの1〜5番目のアンテナ素子45a及びアレイアンテナ41bの6〜10番目のアンテナ素子45bに接続されている。
また、図15(b)に示すように、第2給電ポート47−2は、アレイアンテナ41aの6〜10番目のアンテナ素子45a及びアレイアンテナ41bの1〜5番目のアンテナ素子45bに接続されている。
【0082】
本実施形態では、アンテナ素子45が垂直方向に10個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が5個、5個と交互に給電ポートに接続されている(10素子;5−5分配)。
【0083】
図16は、第4実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
図15に示すようなアレイアンテナの素子配列では、図16に示すような水平面指向性になる。最大放射方向は(水平角度φ、垂直角度θ)=(180°、98°)の方向であり、水平方向より大地側に8°チルトしている。最大放射方向を含む水平面(カット面θ=98°)では、ビームの左右の対称性が良いが、それ以外の水平面(カット面θ=102°及び106°)では、ビームの左右の対称性が悪くなっている。
【0084】
このように、第4実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ40によれば、サイドローブについてはバランスよく正面方向にビームを放射することはできないが、主ビームについては、ビームの左右の対称性を良くすることができる。
【0085】
〔第5実施形態〕
図17は、本発明の第5実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
第5実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ50は、2つのアレイアンテナ51a,51bに電力を供給する第1及び第2給電ポート57−1,57−2を備えている。
図17(a)に示すように、第1給電ポート57−1は、アレイアンテナ51aの1,3,5,7,9番目(奇数番目)のアンテナ素子55a及びアレイアンテナ51bの2,4,6,8,10番目(偶数番目)のアンテナ素子55bに接続されている。
また、図17(b)に示すように、第2給電ポート57−2は、アレイアンテナ51aの2,4,6,8,10番目(偶数番目)のアンテナ素子55a及びアレイアンテナ51bの1,3,5,7,9番目(奇数番目)のアンテナ素子55bに接続されている。
【0086】
本実施形態では、アンテナ素子55が垂直方向に10個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が1個ずつ交互に給電ポートに接続されている(10素子;交互分配)。
【0087】
図18は、第5実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
図17に示すようなアレイアンテナの素子配列では、図18に示すような水平面指向性になる。最大放射方向を含む水平面(カット面θ=98°)では、ビームの左右の対称性が良いが、それ以外の水平面、特にカット面θ=106°では、ビームの波形が右側に寄ってしまい、ビームの左右の対称性が少し悪くなっている。
【0088】
このように、第5実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ50によれば、サイドローブについてはバランスよく正面方向にビームを放射することはできないが、主ビームについては、ビームの左右の対称性を良くすることができ、バランスよく正面方向にビームを放射することができる。
【0089】
〔第6実施形態〕
図19は、本発明の第6実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
第6実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ60は、2つのアレイアンテナ61a,61bに電力を供給する第1及び第2給電ポート67−1,67−2を備えている。
図19(a)に示すように、第1給電ポート67−1は、アレイアンテナ61aの1,2番目、5〜7番目のアンテナ素子65a及びアレイアンテナ61bの3,4番目のアンテナ素子65bに接続されている。
また、図19(b)に示すように、第2給電ポート67−2は、アレイアンテナ61aの3,4番目のアンテナ素子65a及びアレイアンテナ61bの1,2番目、5〜7番目のアンテナ素子65bに接続されている。
【0090】
すなわち、図19(a)に示すように、第1給電ポート67−1は、一方のアレイアンテナ61aの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子65a及び他方のアレイアンテナ61bの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子65bに接続されている。
また、図19(b)に示すように、第2給電ポート67−2は、一方のアレイアンテナ61aの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子65a及び他方のアレイアンテナ61bの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子65bに接続されている。
【0091】
本実施形態では、アンテナ素子65が垂直方向に7個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が2個、2個、3個と交互に給電ポートに接続されている(7素子;2−2−3分配)。
【0092】
また、本実施形態では、アレイアンテナの素子数が7であり、各アンテナ素子65へ分配給電する電力比は、図中上から順に概ね5:20:25:25:15:5:5となるように電力分配器68を調整している。
ここで、アレイアンテナのアンテナ素子を上から順に3つのグループに分ける(第1〜第3グループG1〜G3)。
このとき、各グループに分配給電された電力の和の比は、
G1:G2:G3
=5+20:25+25:15+5+5
=25:50:25
=1:2:1
となっている。
ここで、各アンテナ素子の放射パワーは、各アンテナ素子に供給される電力に比例するため、放射パワーの比についても、G1:G2:G3=1:2:1となる。
【0093】
また、左右のアレイアンテナ61a,61bに分配給電された電力の和の比は、図19(a)の場合で算出すると、
アレイアンテナ61a:アレイアンテナ61b
=5+20+15+5+5:25+25
=50:50
=1:1
となっている。
ここで、各アンテナ素子の放射パワーは、各アンテナ素子に供給される電力に比例するため、放射パワーの比についても、アレイアンテナ61a:アレイアンテナ61b=1:1となる。
【0094】
またこのとき、近隣に配列する別のポート(図中(a)(b)の2つの給電ポート67−1,67−2)に属するアンテナ素子と隣接するアンテナ素子の組み合せの数は、4個である(図中矢印P1参照)。
【0095】
図20は、第6実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。なお、図中、実線は垂直角度が90〔deg〕の場合を示しており、破線は垂直角度が98〔deg〕の場合を示しており、一点鎖線は垂直角度が106〔deg〕の場合を示している。なお、これらの関係は、以下に示すグラフについても同様である。
【0096】
図19に示すようなアレイアンテナの素子配列では、図20に示すような水平面指向性になる。最大放射方向は(水平角度φ、垂直角度θ)=(180°、98°)の方向であり、水平方向より大地側に8°チルトしている。最大放射方向を含む水平面(カット面θ=98°)以外の水平面(カット面θ=90°及び106°)であっても、ビームの左右の対称性が良い。
【0097】
また、本実施形態の素子配列では、近隣に配列する別のポートに属するアンテナ素子と隣接するアンテナ素子の組み合せの数が4と小さいため(図19中矢印P1参照)、ポート間結合の影響が少なく、ポート間アイソレーションが劣化しないという利点がある。
【0098】
このように、第6実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ60によれば、主ビームのみならずサイドローブまで含めてバランスよく正面方向に放射され、しかも、ポート間アイソレーションも劣化させることがない移動通信用基地局アンテナを提供することができる。
【0099】
したがって、第1グループG1のアンテナ素子に供給される総電力の値を、第3グループG3のアンテナ素子に供給される総電力の値と等しくすれば、主ビームのみならずサイドローブまで含めてバランスよく正面方向に放射され、なおかつポート間アイソレーションも劣化させない移動通信用基地局アンテナを提供することができることが分かった。
【0100】
また、第1グループG1のアンテナ素子に供給される総電力の値と第3グループG3のアンテナ素子に供給される総電力の値とを加えた値を、第2グループG2のアンテナ素子に供給される総電力の値と等しくしても、主ビームのみならずサイドローブまで含めてバランスよく正面方向に放射され、なおかつポート間アイソレーションも劣化させない移動通信用基地局アンテナを提供することができることが分かった。
【0101】
〔第7実施形態〕
図21は、本発明の第7実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
第7実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ70は、2つのアレイアンテナ71a,71bに電力を供給する第1及び第2給電ポート77−1,77−2を備えている。
図21(a)に示すように、第1給電ポート77−1は、アレイアンテナ71aの1,2番目、6,7番目のアンテナ素子75a及びアレイアンテナ71bの3〜5番目のアンテナ素子75bに接続されている。
また、図21(b)に示すように、第2給電ポート77−2は、アレイアンテナ71aの3〜5番目のアンテナ素子75a及びアレイアンテナ71bの1,2番目、6,7番目のアンテナ素子75bに接続されている。
【0102】
すなわち、図21(a)に示すように、第1給電ポート77−1は、一方のアレイアンテナ71aの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子75a及び他方のアレイアンテナ71bの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子75bに接続されている。
また、図21(b)に示すように、第2給電ポート77−2は、一方のアレイアンテナ71aの偶数グループ(第2グループG2)のアンテナ素子75a及び他方のアレイアンテナ71bの奇数グループ(第1グループG1及び第3グループG3)のアンテナ素子75bに接続されている。
【0103】
本実施形態では、アンテナ素子75が垂直方向に7個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が2個、3個、2個と交互に給電ポートに接続されている(7素子;2−3−2分配)。
【0104】
また、本実施形態では、アレイアンテナの素子数が7であり、各素子へ分配給電する電力比は、図中上から順に概ね5:20:25:25:15:5:5となるように電力分配器78を調整している。この点は、第6実施形態と同様である。
ここで、アレイアンテナのアンテナ素子を、上から順に3つのグループに分ける(第1〜第3グループG1〜G3)。
このとき、各グループに分配給電された電力の和の比は、
G1:G2:G3
=5+20:25+25+15:5+5
=25:65:10
=5:13:2
となっている。
【0105】
また、左右のアレイアンテナ71a,71bに分配給電された電力の和の比は、図21(a)の場合で算出すると、
アレイアンテナ71a:アレイアンテナ71b
=5+20+5+5:25+25+15
=35:65
=7:13
となっている。
【0106】
またこのとき、近隣に配列する別のポート(図中(a)(b)の2つの給電ポート77−1,77−2)に属するアンテナ素子と隣接するアンテナ素子の組み合せの数は、4個であり(図中矢印P2参照)、第6実施形態と同様に、ポート間アイソレーションは劣化しない。
【0107】
図22は、第7実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
図21に示すようなアレイアンテナの素子配列では、図22に示すような水平面指向性になる。最大放射方向は(水平角度φ、垂直角度θ)=(180°、98°)の方向であり、水平方向より大地側に8°チルトしている。最大放射方向を含む水平面(カット面θ=98°)では、ビームの左右の対称性が良いが、それ以外の水平面(カット面θ=90°及び106°)では、ビームの左右の対称性が悪くなっている。
【0108】
このように、第7実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ70によれば、サイドローブについてはバランスよく正面方向にビームを放射することはできないが、ポート間アイソレーションは劣化させることなく、しかも、主ビームについては、ビームの左右の対称性を良くすることができ、バランスよく正面方向にビームを放射することができる。
【0109】
〔第8実施形態〕
図23は、本発明の第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ80は、2つのアレイアンテナ81a,81bに電力を供給する第1及び第2給電ポート87−1,87−2を備えている。
図23(a)に示すように、第1給電ポート87−1は、アレイアンテナ81aの1,3,5,7番目(奇数番目)のアンテナ素子85a及びアレイアンテナ81bの2,4,6番目(偶数番目)のアンテナ素子85bに接続されている。
また、図23(b)に示すように、第2給電ポート87−2は、アレイアンテナ81aの2,4,6番目(偶数番目)のアンテナ素子85a及びアレイアンテナ81bの1,3,5,7番目(奇数番目)のアンテナ素子85bに接続されている。
【0110】
本実施形態では、アンテナ素子85が垂直方向に7個配置され、垂直方向でみて上から順に、アンテナ素子が1個ずつ交互に給電ポートに接続されている(7素子;交互分配)。そして、この形態は、ビームの左右の対称性を改良するための構成案であり、上から順に1素子毎に、左右を反転してアンテナ素子を配置している。
【0111】
図24は、第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナの水平面指向性ついて示す図である。
図23に示すようなアレイアンテナの素子配列では、図24に示すような水平面指向性になる。最大放射方向を含む水平面(カット面θ=98°)でビームの左右の対称性が良く、それ以外の水平面(カット面θ=90°及び106°)でも、ビームの左右の対称性が良い。
【0112】
図25は、ポート間結合について説明する図である。
第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ80は、ビームの左右の対称性は良いが、このような構成では、図25に示すように、近隣に配列する別のポート(図23中(a)(b)の2つの給電ポート87−1,87−2)に属するアンテナ素子と隣接するアンテナ素子の組み合せの数が12と大きいため(図25中矢印P3参照)、ポート間結合が大きくなり、ポート間アイソレーションが若干劣化してしまう。
【0113】
このように、第8実施形態に係る移動通信用基地局アンテナ80によれば、ポート間アイソレーションは若干劣化してしまうが、主ビームについてもサイドローブについてもビームの左右の対称性を良くすることができ、バランスよく正面方向にビームを放射することができる。
【0114】
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、各種の変形や置換を伴って実施することができる。
【0115】
アレイアンテナは、水平方向に2つ配置する例で説明したが、水平方向に3つ以上配置してもよい。アンテナ素子対は、V−H偏波の例で説明したが、斜め45度偏波のアンテナ素子対であってもよい。
【0116】
図26は、本発明の変形形態に係る移動通信用基地局アンテナを示す図である。
移動通信用基地局アンテナ110(110a,110b)は、第3実施形態のものと似たタイプであるが(図12参照)、第3実施形態のものが10素子;3−4−3分配であったのに対して、この形態は、8素子;2−4−2分配となっている。
【0117】
すなわち、図26(a)に示すように、第1給電ポート117−1は、アレイアンテナ111aの1,2番目、7,8番目のアンテナ素子115a及びアレイアンテナ111bの3〜6番目のアンテナ素子115bに接続されている。
また、図26(b)に示すように、第2給電ポート117−2は、アレイアンテナ111aの3〜6番目のアンテナ素子115a及びアレイアンテナ111bの1,2番目、7,8番目のアンテナ素子115bに接続されている。
【0118】
このため、第1グループG1のアンテナ素子の個数の値と、第3グループG3のアンテナ素子の個数の値とが等しいのみならず、それに加えて、第1グループG1のアンテナ素子の個数と第3グループG3のアンテナ素子の個数とを加えた値が第2グループG2のアンテナ素子の個数の値と等しい。これにより、より対象性のよい素子配列が実現され、水平面指向性の左右のバランスが極めて優れた移動通信用基地局アンテナとすることができる。
【0119】
上述した各実施形態で挙げた移動通信用基地局アンテナの構成はいずれも好ましい例示であり、これらを適宜変形して実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0120】
10 移動通信用基地局アンテナ
11a,11b アレイアンテナ
12 遮蔽板
13 反射板
14 アンテナ素子対
15 垂直偏波アンテナ素子
16 水平偏波アンテナ素子
17 給電ポート
17−1 第1給電ポート
17−2 第2給電ポート
18 電力分配器
19 配線回路系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の偏波特性を有するアンテナ素子が垂直方向に複数個配列された少なくとも2つのアレイアンテナを、水平方向に隣接して並べて配置した移動通信用基地局アンテナであって、
前記2つのアレイアンテナに電力を供給する第1及び第2給電ポートを備え、
前記第1給電ポートは、
前記2つのアレイアンテナのうち、一方のアレイアンテナの一部のアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの一部のアンテナ素子に接続されており、
前記第2給電ポートは、
前記2つのアレイアンテナのうち、一方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの残りのアンテナ素子に接続されていることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記アンテナ素子は、
前記垂直方向でみて上から順に、少なくとも2つ以上のアンテナ素子を有する第1〜第N(Nは3以上の整数)グループに分けられており、
前記第1給電ポートは、
前記2つのアレイアンテナのうち、一方の前記アレイアンテナの奇数グループのアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの偶数グループのアンテナ素子に接続されており、
前記第2給電ポートは、
前記2つのアレイアンテナのうち、一方の前記アレイアンテナの偶数グループのアンテナ素子及び他方のアレイアンテナの奇数グループのアンテナ素子に接続されていることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項3】
請求項2に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記Nは、3であり、
前記アンテナ素子は、第1〜第3グループに分けられており、
前記第1グループのアンテナ素子の個数と前記第3グループのアンテナ素子の個数とを加えた値は、前記第2グループのアンテナ素子の個数の値と等しいことを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項4】
請求項2に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記Nは、3であり、
前記アンテナ素子は、第1〜第3グループに分けられており、
前記第1グループのアンテナ素子の個数の値は、前記第3グループのアンテナ素子の個数の値と等しいことを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項5】
請求項2に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記Nは、3であり、
前記アンテナ素子は、第1〜第3グループに分けられており、
前記第1グループのアンテナ素子に供給される総電力の値は、前記第3グループのアンテナ素子に供給される総電力の値と等しいことを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項6】
請求項2に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記Nは、3であり、
前記アンテナ素子は、第1〜第3グループに分けられており、
前記第1グループのアンテナ素子に供給される総電力の値と前記第3グループのアンテナ素子に供給される総電力の値とを加えた値は、前記第2グループのアンテナ素子に供給される総電力の値と等しいことを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記2つのアレイアンテナの間に設けられ、両アレイアンテナ間における電磁気的な干渉を遮蔽する遮蔽板をさらに備えることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記各給電ポートに接続され、前記電力を前記2つのアレイアンテナに略等しく分配する電力分配器をさらに備えることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項9】
請求項8に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記電力分配器によって前記2つのアレイアンテナに分配された2系統の電力は、前記2つのアレイアンテナにおける互いに等しい個数のアンテナ素子へとそれぞれ給電されることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記電力分配器によって前記2つのアレイアンテナに略等しく分配された2系統の電力は、それぞれ、各アレイアンテナにおける配列内で少なくとも1箇所連続している部分を有する複数個のアンテナ素子に供給されることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項11】
請求項8から10のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記電力分配器によって前記2つのアレイアンテナに略等しく分配された2系統の電力は、前記遮蔽板を挟んで水平方向に並んでいる2つの前記アンテナ素子のうち一方にのみ供給されることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項12】
請求項8から11のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記電力分配器によって前記2つのアレイアンテナに略等しく分配された2系統の電力は、その一方が、前記2つのアレイアンテナのうちの一方のアレイアンテナにおける複数個配列されているアンテナ素子のうち前記垂直方向でみて上方に配列されているアンテナ素子に供給され、かつ他方が、前記2つのアレイアンテナのうちの他方のアレイアンテナにおける複数個配列されているアンテナ素子のうち前記垂直方向でみて下方に配列されているアンテナ素子に供給されることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項13】
請求項7から12のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記遮蔽板は、複数枚あり、その複数枚の前記遮蔽板が、所定の間隙を有して、隣り合うアレイアンテナ間に平行に設けられていることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記アンテナ素子は、偏波特性が互いに直交又は所定の角度で交差する2個のアンテナ素子を組み合わせたアンテナ素子対であることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項15】
請求項7から14のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記遮蔽板は、金属又はそれに類する導電体からなることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の移動通信用基地局アンテナにおいて、
前記アレイアンテナは、空間分割多重アクセス方式の通信に用いられるものであることを特徴とする移動通信用基地局アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−65014(P2012−65014A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205558(P2010−205558)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】