説明

積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物

【課題】セラミックグリーンシートを薄層化しても、シートアタック現象を十分に防ぐことのできる積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物を提供する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物は、ビニルアセタール構成単位を60〜80モル%、ビニルアルコール構成単位を19〜38モル%、酢酸ビニル構成単位を10モル%以下、およびエチレン性不飽和二重結合を有する構成単位を0.3〜10モル%有する変性ポリビニルアセタール(A)と、光重合開始剤(B)とを含有する。
この感光性組成物を、光架橋させることで、耐溶剤性を発現したセラミックグリーンシートが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層セラミックコンデンサーを製造するには、まず、セラミック粉末と誘電体層用のバインダー(以下バインダー成分という)などを混合した誘電体層用のスラリーを支持シート上に塗布し加熱して塗膜を乾燥させて、セラミックグリーンシート(以下、セラミックシートという)を作製する。
【0003】
次に、ニッケルなどの導電体粉末と電極用バインダーとを溶剤に溶解して電極ペーストを調製し、この電極ペーストを上記セラミックシート上に印刷し、乾燥させて電極層を形成する。
【0004】
さらにセラミックシートを支持シートから剥離してセラミックシートと電極層を有する積層体ユニットを積層し、加圧し得られた積層体を切断してグリーンチップを作製し、グリーンチップからバインダーを脱脂後、焼結することで積層セラミックコンデンサーが製造される。
【0005】
ところで、近年の電子機器の小型化に伴い、電子部品の小型化と高性能化が要求され、積層セラミックコンデンサーについても小型化、大容量化が推進されている。これに対しては、積層セラミックコンデンサーに使用されているセラミックシートを薄層化して多層に積層することで積層セラミックコンデンサーの小型化、大容量化を可能としている。
【0006】
上記のような薄層化の要請に応じ、セラミックシートの厚みを薄くすると、セラミックシートに電極ペーストを印刷する際に、電極ペーストに含まれる溶剤によってセラミックシートに含まれるバインダー成分が溶解されるシートアタック現象が発生し易くなる。このシートアタック現象によって、セラミック層にピンホール、クラック、皺などが発生するとショート不良等を起こし、目的とする電気特性が得られず、生産時の歩留まりも低下する。
【0007】
そこで、従来から、セラミックシートに含まれるバインダー成分を溶解し難い溶剤を電極ペーストの溶剤として選択することでシートアタック現象を防止する方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0008】
特許文献1においては、セラミックシートのバインダー成分として従来から多用されているポリビニルブチラール樹脂が使用されている。
【特許文献1】特開2002−252142公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1で提案されているように、電極ペーストの溶剤を選択してシートアタック現象を防止する場合でも、電極用バインダーが導電性無機成分へ容易に吸着し、電極ペーストの溶剤中で安定した分散性を有するように、電極ペーストの溶剤が電極用バインダーを十分に溶解する性質を有することが必要である。このような電極用バインダーを十分に溶解する溶剤は、わずかながらもバインダー成分をも溶解するのでさらなるセラミックシート薄層化の要請に応じて、セラミックシートの厚みを薄くするとシートアタック現象を十分に防止できない。
【0010】
なお、ポリビニルブチラール樹脂を水溶性化することも考えられるが、そうするとバインダーが吸湿性を帯びてセラミックシートの成形性が低下するため、薄層化自体が困難である。
【0011】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、セラミックシートを薄層化しても、シートアタック現象を十分に防ぐことのできる積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、エチレン性不飽和二重結合を有するポリビニルアセタールに対して活性エネルギー線を照射して光架橋させることで、電極ペーストの溶剤によって溶かされない性質(以下、耐溶剤性という)を発現できるという知見を得た。
【0013】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、下記一般式(1)で表される構成単位を60〜80モル%、下記一般式(2)で表される構成単位を19〜38モル%、下記一般式(3)で表される構成単位を10モル%以下、および下記一般式(4)で表される構成単位を0.3〜10モル%有する変性ポリビニルアセタール(A)と、光重合開始剤(B)とを含有することを特徴とする積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物である。
【0014】
【化5】

〔但し、一般式(1)中、Rは炭素数1〜10の鎖状アルキル基、環状アルキル基及びアリール基から選ばれる炭化水素基を示す。〕
【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

〔但し、一般式(4)中、Rはエチレン性不飽和二重結合を有する基を示す。〕
【0018】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記変性ポリビニルアセタール(A)は、ポリビニルアセタールの水酸基残基に(メタ)アクリロイル基を含むイソシアネート化合物との反応によるか、もしくはポリビニルアセタールの水酸基残基と(メタ)アクリロイル基を含むオキシラン化合物との反応によって得られるところに特徴を有する。
【0019】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載のものにおいて、前記変性ポリビニルアセタール(A)100重量部に対して、エチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個有する化合物10〜200重量部を、さらに含有してなるところに特徴を有する。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記変性ポリビニルアセタール(A)100重量部に対して、未変性のポリビニルアセタール10〜300重量部を、さらに含有してなるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0021】
<請求項1の発明>
変性ポリビニルアセタール(A)と光重合開始剤(B)とを含む感光性組成物は、セラミックシートの誘電体層用のバインダー成分として、セラミック原料などに混合されて誘電体層用のスラリーとされる。この誘電体層用のスラリーを支持シート上に塗布した後、乾燥し紫外線などの活性エネルギー線を照射すると活性エネルギー線の照射を受けることで光重合開始剤(B)が触媒として作用し、それに伴なって変性ポリビニルアセタール(A)の構成単位が有しているエチレン性不飽和二重結合の部分が架橋反応をすることで硬化する(以下、光硬化という)。この光硬化により、セラミックシートの溶解性を変化させるから、セラミックシートの耐溶剤性を発現させることができ、シートアタック現象を防止することができる。
【0022】
また、一般式(1)で表されるビニルアセタール単位を60〜80モル%、一般式(2)で表されるビニルアルコール単位を19〜38モル%、一般式(3)で表される酢酸ビニル単位を10モル%以下、および一般式(4)で表されるエチレン性不飽和二重結合を含有する構成単位を0.3〜10モル%有するから、良好な架橋密度のセラミックシートが得られる。
【0023】
<請求項2の発明>
(メタ)アクリロイル基を含むイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基を含むオキシラン化合物はそれぞれがポリビニルアセタールの水酸基残基との縮合時の反応性に優れ、縮合物の安定性の点で良好である。したがって(メタ)アクリロイル基を含むイソシアネート化合物とポリビニルアセタールの水酸基残基との縮合反応または(メタ)アクリロイル基を含むオキシラン化合物とポリビニルアセタールの水酸基残基との縮合反応によって得られた生成物は本発明における変性ポリビニルアセタール(A)を得るために好適に用いられる。
【0024】
<請求項3の発明>
請求項1または2に記載の感光性組成物にさらにエチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個含有する化合物を含有するから、架橋反応の効率が上昇する。
【0025】
<請求項4の発明>
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の感光性組成物にさらに、未変性のポリビニルブチラールを含有するから、架橋反応において架橋密度が高くなり過ぎることがなく適度な架橋密度のセラミックシートが得られる。その結果、耐溶剤性を発現しつつ、強度にも優れたセラミックシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明の積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物(以下、本発明の感光性組成物という)は、変性ポリビニルアセタール(A)と、光重合開始剤(B)とを含有する。
【0028】
本発明において、変性ポリビニルアセタール(A)は、ポリビニルアセタールに水酸基との反応性を有する官能基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(以下、変性用モノマーという)を反応させることにより得られる。そして、変性ポリビニルアセタール(A)は、一般式(1)で表されるビニルアセタール単位、一般式(2)で表されるビニルアルコール単位、一般式(3)で表される酢酸ビニル単位および一般式(4)で表されるエチレン性不飽和二重結合を含有する単位を構成単位として有する。
【0029】
一般式(1)中のRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などの鎖状アルキル基、シクロヘキサンなどの環状アルキル基およびフェニル基、トリル基などのアリール基があげられる。この中でも特にブチル基が好ましい。
【0030】
一般式(4)中のRは、ポリビニルアセタールのビニルアルコール単位の水酸基と変性用モノマーとの反応により導入されたエチレン性不飽和二重結合を有する基である。
すなわち一般式(4)で表される構成単位は、ポリビニルアセタールの構成単位の一つであるビニルアルコール単位の水酸基に対し、変性用モノマーを反応させることにより、アセタール結合、ウレタン結合、エステル結合またはエーテル結合から選ばれる少なくとも一つの結合を介してエチレン性不飽和二重結合を導入することにより得られる。
【0031】
変性ポリビニルアセタール(A)の合成に使用されるポリビニルアセタールは、分子量が10000ないし150000のものが好ましい。分子量が10000未満のものはシートアタック現象を抑えることができない上に、十分な強度のセラミックグリーンシートを得られず、150000を超えるものは高粘度となり取り扱いが困難となる。また、セラミック混合スラリーの粘度の調整、セラミックグリーンシートの強度や伸度の調整を目的として、2種以上のポリビニルアセタールを組み合わせて使用することもできる。
【0032】
変性用モノマーとしては、ビニロキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ビニロキシエチル(メタ)アクリレート、ジビニルエーテルの片末端へ水酸基を有する(メタ)アクリレートを付加させた化合物等のエチレン性不飽和基とビニルエーテル基を有する化合物、(メタ)アクリル酸、けい皮酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する化合物、無水マレイン酸、無水アコニット酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和基と酸無水物基を有する化合物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のエチレン性不飽和基とカルボン酸エステル基を有する化合物、(メタ)アクリル酸クロリド、けい皮酸クロリド等のエチレン性不飽和基とカルボン酸のハロゲン化物を有する化合物、イソシアネートメチル(メタ)アクリレート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)イソシアナート、多価イソシアネートヘ水酸基含有アクリレートを部分的に反応させた反応物等のエチレン性不飽和基とイソシアネート基を有する化合物、グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等のアクリルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド化合物、α―エチルグリシジルアクリレート、クロトニルグリシジルエーテル、イタコン酸モノアルキルモノグリシジルエステル等のエチレン性不飽和基とオキシラン基を有する化合物等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタアクリレートを総称する用語である。
【0033】
これらの中でも、エチレン性不飽和基としては(メタ)アクリロイル基が光照射による反応性の点から好ましく、水酸基と反応性を有する官能基としてはイソシアナート基またはオキシラン基がポリビニルアセタールとの反応性と反応生成物の安定性の点から好ましい。したがって、変性用モノマーとしては(メタ)アクリロイル基を含むイソシアネート化合物または(メタ)アクリロイル基を含むオキシラン化合物が好ましい。
【0034】
エチレン性不飽和基とイソシアネート基を有する化合物(以下、重合性イソシアナート化合物という)とポリビニルアセタールとの反応は、イソシアナート基の高い反応性により反応触媒が不要な場合もあるが、一例として、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫―2−エチルヘキソエート、ジブチル錫マレエート、トリエチルアミン、ジアザビシクロオクタンなどの化合物を使用することができる。反応条件に制限は無いが、触媒の使用の如何に係わらず、通常50〜90℃の温度範囲で約2〜6時間の反応により達成される。
【0035】
また、エチレン性不飽和基とオキシラン基を有する化合物(以下、重合性オキシラン化合物という)とポリビニルアセタールとの反応に使用する触媒に制限はない。例えば、酸触媒としては、硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸、BF等のルイス酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸などが使用できる。塩基性触媒としては、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ピリジン等の3級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等のリン化合物などが使用できる。
【0036】
反応条件に制限はないが、通常、室温〜120℃の温度範囲で反応を行う。
【0037】
本発明において変性ポリビニルアセタール(A)には一般式(1)ないし(4)で表される構成単位が以下の割合で含まれる。
【0038】
一般式(1)で表される構成単位は、60〜80モル%であることが好ましい。60モル%未満のものは、使用する有機溶剤に対する溶解性やポリビニルアセタールの持つ柔軟性が低し、80モル%を越えるものは実際には合成できない。
【0039】
一般式(2)で表される構成単位は、19〜38モル%であることが好ましい。19モル%未満では硬化膜の架橋密度が高くなりすぎることから、セラミックシートが硬く脆くなり、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム等の支持体上に塗布されたシートを光照射した後に巻き取る際や積層時に剥離ベースから剥離する際にシートに亀裂を生じやすくなり、38モル%を超えると光硬化により十分な架橋密度が得られず、シートアタック現象を十分に抑えることができない。
【0040】
一般式(3)で表される構成単位は、10モル%以下であることが好ましく、少ないほど良い。10モル%を超えると水酸基量の低下を招き、変性用モノマーとポリビニルアセタールとの反応性が低下する。
【0041】
一般式(4)で表される構成単位は0.3〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5モル%である。0.3モル%未満では光硬化により十分な架橋密度が得られず、シートアタック現象を十分に抑えることができず、10モル%を超えると硬化膜の架橋密度が高くなりすぎてセラミックシートが硬く脆くなり、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム等の支持体上に塗布されたシートを光照射した後に巻き取る際や積層時に支持体から剥離する際にシートに亀裂を生じやすくなる。
【0042】
本発明で用いることができる光重合開始剤(B)としては、一例として、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ビス−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、ビス−N,N−ジエチルアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4'−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等のチオキサントン類、エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン、アントラキノン−2−スルホン酸塩、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸塩等のアントラキノン類、アセトフェノン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル類、2,4,6−トリハロメチルトリアジン類、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体類、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体類、ベンジルジメチルケタール、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェナントレンキノン、9,10−フェナンスレンキノン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン類、9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9'−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体、ビスアシルフォスフィンオキシドおよびこれらの混合物等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの光重合開始剤(B)は、変性ポリビニルアセタール(A)とエチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個有する化合物(後述する)と未変性のポリビニルアセタール(後述する)との合計100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0043】
これらの光重合開始剤(B)に加え、増感剤、促進剤等を添加することもできる。一例として、p−ジメチル安息香酸エチル、p−ジメチル安息香酸イソアミル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0044】
本発明の感光性組成物においては、上記した変性ポリビニルアセタール(A)と、光重合開始剤(B)に加えて、エチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個有する化合物(以下、重合性モノマーという)を含有するものが好ましく(請求項3の発明)、さらに未変性のポリビニルアセタールを含有するもの(請求項4の発明)が特に好ましい。
【0045】
重合性モノマーには、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミド基、(メタ)アクリルアミド基等、不飽和結合を少なくとも1個有するもので、ビニルモノマーと称される重合性の化合物に加えて、分子量が10000以下であるような重合性のプレポリマーないしはオリゴマーも含まれる。
【0046】
このような重合性モノマーとしては、一例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−フルオロエチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜23のもの)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリグリセリンポリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物(エチレン基の数が2〜14のもの)、プロピレングリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物(エチレン基の数が2〜14のもの)、ソルビトールポリグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、グリセリントリグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールFジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、フェノールノボラックポリ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラックポリ(メタ)アクリレート、フェノールノボラックエポキシの(メタ)アクリル酸付加物、クレゾールノボラックエポキシの(メタ)アクリル酸付加物、多価カルボン酸(無水フタル酸、無水ピロメリット酸等)と水酸基およびエチレン性不飽和基を有する化合物(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)とのエステル化物、多価カルボン酸(無水フタル酸、無水ピロメリット酸等)とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系モノマー、スチレン、α―メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル系モノマー、ウレタンアクリレートなどが挙げられる。
【0047】
これらの重合性モノマーは、単独または2種以上を組み合わせて使用することもできる。重合性モノマーは変性ポリビニルアセタール(A)100重量部に対して10〜200重量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは20〜100重量部である。重合性モノマーの量が10重量部未満では、光硬化性の向上が見られず、200重量部を超えて使用すると、シートアタック現象を抑えることはできるが、ポリビニルアセタールの持つ柔軟性や靭性の効果が低下し、特に薄膜のシートを成型した場合、シートに亀裂を生じやすくなる。
【0048】
また、本発明で使用される未変性ポリアセタールは、光硬化膜の架橋密度を調整し、セラミックグリーンシートの可撓性、強度、伸度を調整することを目的とするものであり、変性ポリビニルアセタール(A)100重量部に対して10〜300重量部の範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは30〜100重量部である。10重量部未満では添加の効果が確認できなくなり、300重量部を超えると、十分な架橋密度が得られず、シートアタックに耐えることができない。
【0049】
本発明の感光性組成物には、他の成分として、重合禁止剤、可塑剤、消泡剤、界面活性剤、カップリング剤、レベリング剤、沈降防止剤等、公知のものを必要に応じて配合することができる。また、本発明の感光性組成物は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、テルピネオール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の溶剤で希釈して使用することもできる。この希釈溶剤は単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本発明の感光性組成物を使用したセラミックシートの作成方法としては特に制限はないが一例として、まずセラミック粉末を有機溶剤に分散した溶液中に本発明の感光性組成物と可塑剤を加え、ボールミル等の混合装置により均一に混合し、濾過および脱泡を行うことによりセラミックスラリーを調製する。次いで、このスラリーをドクターブレード、3本ロールリバースコーター等を用いて、剥離性の支持体上に塗布し、加熱乾燥した後、乾燥膜を光硬化することにより得られる。
【0051】
セラミックスラリーの調製に使用できる有機溶剤としては、本発明の感光性組成物を溶解し、セラミックスラリーに適度な混練性を与えるものであればよい。一例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、テルピネオール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等があげられ、これらの溶剤を単独または、二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
セラミックスラリーを調製する際に用いられるセラミック粉末としては、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネルムライト、結晶化ガラス、炭化ケイ酸、窒化ケイ酸、窒化アルミニウムなどが挙げられ、単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
またこれらのセラミック粉末には、MgO−SiO−CaO系、B−SiO系、PbO−B−SiO系、CaO−SiO−MgO−B系またはPbO−SiO−B−CaO系等のガラスフリットを添加してもよい。
【0054】
本発明の感光性組成物は、溶媒成分を除いた不揮発成分として、セラミック粉末100重量部に対して3〜20重量部の範囲で配合することが好ましい。20重量部を超えると、グリーンシートを焼成する際にシートの収縮率が大きくなり、3重量部未満では、セラミック粉末に分散されるバインダー成分の量が不十分となり、セラミックシートの柔軟性が低下し、焼結後に亀裂等が発生し易くなる。
【0055】
セラミックシートを光硬化する際に使用できる活性エネルギー線としては、例えば、近紫外線、紫外線、電子線、X線などが挙げられるが、これらの中で紫外線が好ましく、その光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ハロゲンランプ、殺菌灯などが使用できる。露光量は、光源の照度、セラミックシートの塗布膜厚、露光環境等によって異なるが、通常50〜3000mJ/cm2 の範囲で硬化させることができる。
【0056】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)エチレン性不飽和二重結合を有する変性ポリビニルアセタール(A)の合成
【0057】
(合成例1)
乾燥空気雰囲気の攪拌機つき容器に、ポリビニルアセタール(積水化学工業(株)製:商品名「エスレックBM−S」、分子量約5.3×10、ブチラール化度73mol%、重合度800)100重量部、トルエン335重量部を入れ、60℃で溶解した。この溶液に、ジブチル錫ジラウレート0.12重量部を入れ、攪拌しながら2−イソシアナートエチルメタクリレート(昭和電工(株)製:商品名「カレンズMOI」)11.8重量部(「エスレックBM−S」のビニル系単位全体に対して5モル%となる量)を滴下した。60℃で6時間攪拌し、エチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアセタールa(以下、変性アセタールaとする)を得た。反応の終了は、赤外分光分析により、2250cm−1のイソシアナート基に帰属される吸収の消失により確認した。合成例1ないし4において、「エスレックBM−S」のビニル系単位全体とはビニルアセタール単位とビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを総括したものをいう。
【0058】
(合成例2)
トルエンを371重量部、ジブチル錫ジラウレートを0.24重量部、2−イソシアナートエチルメタクリレートを23.6重量部(「エスレックBM−S」のビニル系単位全体に対して10モル%となる量)使用したこと以外は合成例1と同様にして、エチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアセタールb(以下、変性アセタールbとする)を得た。合成例1と同様の方法で、反応の終了を確認した。
【0059】
(合成例3)
トルエンを332重量部使用して、合成例1と同様にポリビニルアセタールをトルエンに溶解した。この溶液を攪拌しながら、グリシジルメタクリレート10.8重量部(「エスレックBM−S」のビニル系単位全体に対して5モル%となる量)を滴下した。100℃で8時間攪拌し、エチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアセタールc(以下、変性アセタールcとする)を得た。反応の終了は、赤外分光分析により、820cm−1のオキシラン環に帰属される吸収の消失により確認した。
【0060】
(合成例4)
トルエンを365重量部、グリシジルメタクリレートを21.6重量部(「エスレックBM−S」のビニル系単位全体に対して10モル%となる量)使用したこと以外は合成例3と同様にして、エチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアセタールd(以下、変性アセタールdとする)を得た。合成例3と同様の方法で反応の終了を確認した。
【0061】
(2)感光性組成物の調製(実施例1ないし10、比較例1)
未変性ポリビニルアセタールとしてポリビニルアセタール(積水化学工業(株)製:商品名「エスレックBM−S」、分子量約5.3×10、ブチラール化度73mol%、重合度800)、重合性モノマーとしてポリエチレングリコール#400ジメタクリレート(新中村化学工業(株)製:商品名「NKエステル9G」)、光重合開始剤として2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製:商品名「イルガキュア369」)を使用し、合成例1ないし4によって得られた変性アセタールa,b,c,dおよび未変性のポリビニルアセタールをそれぞれ25%のトルエン溶液とし、以下に示す表1に記載の配合組成となるように実施例1ないし10および比較例1の感光性組成物を調製した。表1における各成分の配合量は、変性アセタール100重量部に対する量を示し、表中の未変性アセタールは未変性ポリビニルアセタールを示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(3)セラミックスラリーの調製
ボールミルに、セラミック粉末(堺化学工業(株)製:商品名「BT−03」)100重量部、ポリエチレングリコール系分散剤1.0重量部、トルエン40重量部、エタノール20重量部、分散媒体としてジルコニアビーズ(直径2mm)250重量部を入れ、5時間分散した。この分散液に、(2)で調製した感光性組成物67重量部、ジオクチルフタレート3.0重量部を入れ、15時間分散し、テトロンメッシュ♯300を介して濾過処理を行うことによりセラミックスラリーを得た。
【0064】
(4)セラミックシートの作成
上記のセラミックスラリーを、ブレードコート法によりポリエチレンテレフタレートフイルム上に乾燥膜厚が3μmになるように塗布し(乾燥条件は80℃、10分)、高圧水銀灯にて300mJ/cmの紫外線を照射して硬化を行うことにより、セラミックシートを得た。
【0065】
(5)シートアタック耐性試験
上記のセラミックシートを、エタノールまたはテルピネオールに15分間浸漬し、シートアタック耐性を評価した。評価結果を以下の表2に示す。表中の○は形状保持したものを示し、×は形状を保持できなかったものを示す。
【0066】
【表2】

【0067】
(6)試験結果と考察
実施例1ないし10の感光性組成物を使用して作成されたセラミックシートは、浸漬後も形状を保持していたが、比較例1の感光性組成物を使用して作成したセラミックシートは、亀裂やしわが発生し、形状を保持することができなかった。
【0068】
比較例1の感光性組成物には、変性ポリビニルアセタール(A)成分が含有されていないが、実施例1ないし10の本発明の感光性組成物には変性ポリビニルアセタール(A)成分が含有されている。従って、実施例1ないし10の感光性組成物を使用してセラミックシートを作成すると、活性エネルギー線の照射を受けることで光重合開始剤(B)が触媒として作用し、それに伴なって変性ポリビニルアセタール(A)の構成単位が有しているエチレン性不飽和二重結合の部分が架橋反応をすることで光硬化する。この光硬化により、セラミックシートの溶解性を変化させるから、セラミックシートの耐溶剤性を発現させることができ、シートアタック現象を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位を60〜80モル%、下記一般式(2)で表される構成単位を19〜38モル%、下記一般式(3)で表される構成単位を10モル%以下、および下記一般式(4)で表される構成単位を0.3〜10モル%有する変性ポリビニルアセタール(A)と、
光重合開始剤(B)とを含有することを特徴とする積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物。
【化1】

〔但し、一般式(1)中、Rは炭素数1〜10の鎖状アルキル基、環状アルキル基及びアリール基から選ばれる炭化水素基を示す。〕
【化2】

【化3】

【化4】

〔但し、一般式(4)中、Rはエチレン性不飽和二重結合を有する基を示す。〕
【請求項2】
前記変性ポリビニルアセタール(A)は、ポリビニルアセタールの水酸基残基に(メタ)アクリロイル基を含むイソシアネート化合物との反応によるか、もしくはポリビニルアセタールの水酸基残基と(メタ)アクリロイル基を含むオキシラン化合物との反応によって得られることを特徴とする請求項1に記載の積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物。
【請求項3】
前記変性ポリビニルアセタール(A)100重量部に対して、エチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個有する化合物10〜200重量部を、さらに含有してなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアセタール(A)100重量部に対して、未変性のポリビニルアセタール10〜300重量部を、さらに含有してなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサーの誘電体層用感光性組成物。

【公開番号】特開2007−115827(P2007−115827A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304588(P2005−304588)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(596000154)中京油脂株式会社 (13)
【Fターム(参考)】