説明

積層フィルムおよびその製造方法

本発明は、熱寸法安定性やクッション性、低誘電特性に優れたフィルムを提供することを目的とする。すなわち本発明は、少なくとも2層のフィルムからなる積層フィルムであって、その少なくとも1層が熱可塑性樹脂組成物からなり二軸配向したフィルムであり、他の少なくとも1層が網目構造を有するフィルムである、積層フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、積層フィルムに関するものであり、例えば、回路基板、磁気記録媒体、工程紙・離形材料、製版印刷材料、光学・ディスプレイ材料、成形材料、建材、電気絶縁材料などの各種工業材料用途において、好適に使用できる積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
フィルムは、磁気記録媒体、回路材料、製版・印刷材料、工程・離型材料用、印刷材料用、成形材料用、電気絶縁材料等の各種工業材料用、農業用、包装用、建材用などの大量に需要のある各種分野で使用されている。
しかし近年、各用途において、更なるフィルムの高性能化が要望されている。
近年、携帯電話などの電子機器の技術進歩に伴って、プレキシブルプリント回路基板(FPC)の需要が急激に伸びており、更にこうした機器の小型化、軽量化に対応してFPCの薄膜化が進んでいる。このため、FPC用の銅貼りポリイミドフィルムにおける銅の薄膜化やポリイミドフィルムの薄膜化も同時進行しているが、これによってフィルムの剛性自体が低下してFPCを製造する際の加工が困難になる。この加工時の取り扱いを簡便にするため、加工終了後に剥離・除去できる微粘着性の補強用フィルムを予め貼り付けて剛性を持たせる方法が用いられている。補強用フィルムとして、例えばポリエステルフィルムを用いることがある。このような方法によるFPC製造では、補強用フィルムを張り付けた状態で加熱プレス処理したり、キュアしたり、ICチップを実装したりする工程があるが、銅貼りポリイミドフィルムと比較してポリエステルフィルムは熱膨張係数が大きく、熱寸法安定性が十分でないため、FPC製造工程途中で、熱変形を起こして反り返ったり、平面性が悪化するなどの問題が発生していた。
また、電気、電子部品分野において、ポリフェニレンサルファイドフィルムは耐熱性に優れ、吸水による寸法変化が小さい等の利点を有するため、回路用成形基板の有望素材とされているが、熱膨張係数が大きいという問題点があった。この問題点に対し、ガラス繊維や粒状の無機充填材を添加するといった解決手段が開示されているが(特許文献1,2参照。)、これらの方法では、必ずしも満足のいく効果が得られず、また、フィルムの平面性や表面平滑性、さらにはコスト面で難点があった。
また、建築物の床材などでは断熱クッション性が求められることがある。断熱クッション性を有する素材としてはポリオレフィンフォームが知られているが、これは薄いフィルムとすることが困難なため、床材の下に設ける断熱クッション材としては不満足なものであるなど用途も限られたものとなり、薄いフィルムとして断熱クッション性を有するものが求められていた。
また、プリンター印字基材や像形成用材料などの印刷材料用フィルムにもクッション性が求められ、例えばポリエステルに対してポリエステル以外の熱可塑性樹脂や無機粒子を混合し延伸を施すことにより空隙を設けたフィルムが開示されている(特許文献3,4,5参照)。しかし、このようなフィルムは、熱がかかったときの寸法安定性や柔軟性が十分でないという難点を有していた。
また、近年の電子機器においては、高機能のための高速信号処理化とデジタル化への要求が一層高まり、当該用途に使用されるフィルムに対しても高性能化が求められている。特に、プリント配線基板、ケーブル被覆絶縁およびモータートランス部材の絶縁などに用いられる熱可塑性樹脂フィルムの場合、高速信号処理化にともなう高周波化に対応した電気特性として、伝送時の損失を抑制するための低誘電率化と低誘電正接化が求められている。特に、モーターなどの回転機を有する機器では、高効率化と高機能化のために精密制御できるインバーター制御が行われており、絶縁部材における高周波成分の漏洩電流の増加が起こり易くなる。
絶縁フィルムに低誘電性を付与するために、気体の比誘電率が1と低いことを利用した独立気泡の空孔を形成する方法があり、例えば、(ア)発泡剤を発泡させることにより気泡を形成する方法(特許文献6参照。)、(イ)非相溶樹脂を混合し延伸成形で微多孔を形成する方法(特許文献7および特許文献8参照。)、(ウ)2成分以上の樹脂からなる熱可塑性樹脂をスピノーダル分解により相分離せしめ、少なくとも1成分の樹脂をエッチングや熱分解、アルカリ分解などで除去して微多孔を形成する方法(特許文献9参照。)がある。
しかしながら、上記(ア)の方法で得られた熱可塑性樹脂フィルムは、空孔の分布が不均一なものとなるため、誘電率が測定部位により安定しないことや、発泡剤による空孔形成により成形加工性や耐熱性が損なわれることがあった。また、上記(イ)の方法で得られた熱可塑性樹脂フィルムは、非相溶樹脂の混合のために分散制御が十分でなく、空孔に分布が生じたり、成形加工性が損なわれることがあった。さらに、上記(ウ)の方法で得られた熱可塑性樹脂フィルムは、空孔を形成するために少なくとも1成分の樹脂を除去する必要があり、工程が複雑で実用的な適用は困難であることがあった。
特許文献1:特開平5−310957号公報
特許文献2:特許2952923号公報
特許文献3:特公平6−96281号公報
特許文献4:特開平2−29438号公報
特許文献5:特開平6−322153号公報
特許文献6:特許3115215号公報
特許文献7:特開平9−286867号公報
特許文献8:特開平11−92577号公報
特許文献9:特開2003−64214号公報
そこで本発明は、熱寸法安定性やクッション性、低誘電特性に優れたフィルムを提供することを目的とする。
尚、特許文献10,11には、液晶性ポリマーをポリエステル中に分散させてなるフィルムが開示されている。しかし、後述するような網目構造、亀裂あるいは空隙は開示されていない。
特許文献10:特開平10−298313号公報
特許文献11:特開平11−5855号公報
【発明の開示】
本発明は、以下の構成よりなる。
(1) 少なくとも2層のフィルムからなる積層フィルムであって、その少なくとも1層が熱可塑性樹脂組成物からなり二軸配向したフィルムであり、他の少なくとも1層が網目構造を有するフィルムである、積層フィルム。
(2) 前記網目構造を有するフィルムの層の両外面に、熱可塑性樹脂からなり二軸配向した層が積層されてなる上記(1)記載の積層フィルム。
(3) 前記網目構造を有するフィルムの層が非延性の樹脂組成物からなる、上記(1)または(2)記載の積層フィルム。
(4) 前記網目構造を有するフィルムの層が液晶性ポリマーを含有する、上記(1)〜(3)のいずれか記載の積層フィルム。
(5) 前記網目構造を有するフィルムの層がさらに非液晶性ポリエステルを含有する、上記(4)記載の積層フィルム。
(6) 非液晶性ポリエステルがポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはその変性体である、上記(5)記載の積層フィルム。
(7) 前記網目構造を有するフィルムの層に対する液晶性ポリマーの含有量が20〜90重量%である、上記(4)〜(6)のいずれか記載の積層フィルム。
(8) 積層フィルム全体に対する液晶ポリマーの含有量が3〜30重量%である上記(4)〜(7)のいずれか記載の積層フィルム。
(9) 前記網目構造を有するフィルムの層の厚みが積層フィルム全体の厚みの1〜90%である、上記(1)〜(8)のいずれか記載の積層フィルム。
(10) 前記網目構造を有するフィルムの層の厚みが積層フィルム全体の厚みの10〜80%である、上記(9)記載の積層フィルム。
(11) 二軸配向したフィルムの層の熱可塑性樹脂組成物が、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸から選ばれる少なくとも一種を含む、上記(1)〜(10)のいずれか記載の積層フィルム。
(12) 積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率がともに2〜7GPaである上記(1)〜(11)のいずれか記載の積層フィルム。
(13) 積層フィルムの長手方向および幅方向の温度150℃における熱収縮率がともに0〜2%である上記(1)〜(12)のいずれか記載の積層フィルム。
(14) 積層フィルムの長手方向および幅方向の熱膨張係数がともに3〜45ppm/℃である上記(1)〜(13)のいずれか記載の積層フィルム。
(以上、(1)〜(14)を、「第1群の本発明の積層フィルム」と呼ぶ。)
(15) 少なくとも2層のフィルムからなる積層フィルムであって、その少なくとも1層が熱可塑性樹脂組成物からなり二軸配向したフィルムであり、他の少なくとも1層が非延性の樹脂組成物からなるフィルムであり、積層フィルムの比重が0.2〜1.2である積層フィルム。
(16) 前記非延性の樹脂組成物からなる層の両外面に、熱可塑性樹脂からなり二軸配向した層が積層されてなる上記(15)記載の積層フィルム。
(17) 前記非延性の樹脂組成物が液晶性ポリマーを含有する、上記(15)または(16)記載の積層フィルム。
(18) 前記非延性の樹脂組成物がさらに非液晶性ポリエステルを含む上記(17)記載の積層フィルム。
(19) 非液晶性ポリエステルがポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはその変性体である、上記(18)記載の積層フィルム。
(20) 前記非延性の樹脂組成物に対する液晶性ポリマーの含有量が20〜90重量%である、上記(17)〜(19)のいずれか記載の積層フィルム。
(21) 積層フィルム全体に対する液晶ポリマーの含有量が3〜30重量%である上記(17)〜(20)のいずれか記載の積層フィルム。
(22) 前記非延性の樹脂組成物からなる層の厚みが積層フィルム全体の厚みの1〜90%である、上記(15)〜(21)のいずれか記載の積層フィルム。
(23) 前記非延性の樹脂組成物からなる層の厚みが積層フィルム全体の厚みの10〜80%である、上記(22)記載の積層フィルム。
(24) 二軸配向したフィルムの層の熱可塑性樹脂組成物が、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸から選ばれる少なくとも一種を含む、上記(15)〜(23)のいずれか記載の積層フィルム。
(25) 積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率がともに2〜7GPaである上記(15)〜(24)のいずれか記載の積層フィルム。
(26) 積層フィルムの長手方向および幅方向の温度150℃における熱収縮率がともに0〜2%である上記(15)〜(25)のいずれか記載の積層フィルム。
(27) 積層フィルムの長手方向および幅方向の熱膨張係数がともに3〜45ppm/℃である上記(15)〜(26)のいずれか記載の積層フィルム。
(以上、(15)〜(27)を、「第2群の本発明の積層フィルム」と呼ぶ。)
(28) 少なくとも2層の樹脂組成物を共押出しする積層フィルムの製造方法であって、その少なくとも1層に熱可塑性樹脂組成物を用い、他の少なくとも1層に非延性の樹脂組成物を用い、二軸延伸によって非延性の樹脂組成物を用いた層に亀裂を生じせしめる積層フィルムの製造方法。
(29) 前記非延性の樹脂組成物を用いる層の両外側の層に熱可塑性樹脂組成物を用いる上記(28)記載の積層フィルムの製造方法。
(30) 上記(1)〜(27)のいずれか記載の積層フィルムを用いた回路材料。
(31) 上記(1)〜(27)のいずれか記載の積層フィルムを用いた離型材料。
(32) 上記(1)〜(27)のいずれか記載の積層フィルムを用いた電気絶縁材料。
本発明により、熱寸法安定性やクッション性、低誘電特性に優れたフィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の積層フィルムの、網目構造を有するフィルムの層に見られる代表的な網目構造を模式的に示した図である。
図2は、実施例1で得られた積層フィルムにおけるA層中で見られる網目構造を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の積層フィルムは、少なくとも2層のフィルムからなり、その少なくとも1層が熱可塑性樹脂組成物からなる。
当該熱可塑性樹脂組成物を構成するポリマーとしては、二軸延伸が可能なものであればよいが、例えば、ポリエステル、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸等、およびこれらの共重合体を挙げることができる。また、これらのポリマーの少なくとも一種を含むブレンド物でもよい。本発明では、二軸延伸性、本発明の効果発現の観点から、なかでもポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸が好ましく、特に、ポリエステルまたはポリフェニレンスルフィド、とりわけポリエステルが好ましい。
ポリエステルは、他の素材からは得られないような大面積のフィルムの連続生産が可能であり、その強度、耐久性、透明性、柔軟性、表面特性の付与が可能などの特長を活かして、様々な用途への適用が可能である。
ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸などの酸成分とジオールを主たる構成成分とするものが好ましい。
芳香族ジカルボン酸成分としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸等を用いることができ、なかでも、テレフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。脂環族ジカルボン酸成分としては例えば、ヘキサヒドロテレフタル酸、1、3−アダマンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等を用いることができる。脂肪族ジカルボン酸成分としては例えば、アジピン酸、コハク酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等を用いることができる。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、また、ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシ酸等を一部共重合してもよい。
また、ジオール成分としては例えば、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、p−キシレングリコールなどの芳香族ジオール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができ、なかでも、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等を好ましく用いることができ、エチレングリコールを特に好ましく用いることができる。これらのジオール成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ポリエステルには、ラウリルアルコール、イソシアン酸フェニル等の単官能化合物が共重合されていてもよいし、トリメリット酸、ピロメリット酸、グリセロール、ペンタエリスリトール、2,4−ジオキシ安息香酸、等の3官能化合物などが、過度に分枝や架橋をせずポリマーが実質的に線状である範囲内で共重合されていてもよい。また、酸成分、ジオール成分以外に、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸なども、本発明の効果が損なわれない程度の少量、共重合せしめることができる。
ポリエステルとしてさらには、機械的強度、生産性および取り扱い性等の点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートおよびその共重合体または変性体よりなる群から選ばれた少なくとも一種類の使用が好ましい。かかるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートとは、酸成分として、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸を少なくとも80モル%以上含有するポリマーであり、少量の他のジカルボン酸成分を共重合してもよい。また、ジオール成分として、エチレングリコールを80モル%以上含有するポリマーとするが、他のジオール成分を共重合成分として加えてもよい。
ポリエステルの固有粘度としては、製膜性、耐熱性、加水分解性、加工安定性、寸法安定性などの観点から、下限値としては0.50dl/g以上が好ましく、0.55dl/g以上がより好ましく、0.6dl/g以上がさらに好ましい。また上限値としては、2.0dl/g以下が好ましく、1.4dl/g以下がより好ましく、1.0dl/g以下がさらに好ましい。
ポリフェニレンスルフィド(PPS)としては、フェニレンスルフィド成分を80モル%以上含むものが好ましく、90モル%以上含むものがより好ましい。フェニレンスルフィド成分を80モル%以上含むことで、結晶性や熱転移温度などの高いPPSを得ることができ、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性、誘電特性などを得ることができる。またかかる含有量のフェニレンスルフィド成分を確保できれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていてもよい。かかる単位としては例えば、トリハロベンゼンなどの3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位などを挙げることができ、このうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。共重合の態様としては、ランダム型またはブロック型のいずれであってもよい。
前述したPPSの特徴の他、熱融着特性、吸湿寸法安定性等を所望してPPSを樹脂組成物の構成成分として採用する場合には、PPS成分を60重量%以上含む組成物とすることが好ましい。PPSの含有量を60重量%以上とすることで、PPSの特徴を樹脂組成物としても得ることができる。かかる含有量のPPSを確保できれば、PPS以外のポリマー、無機または有機のフィラー、滑剤、着色剤などを添加してもよい。
また、PPSを主な成分とする樹脂組成物の溶融粘度としては、300℃、剪断速度2000sec−1のもとで、500〜50000ポイズが好ましく、より好ましくは1000〜20000ポイズである。
熱可塑性樹脂組成物からなる層は、二軸配向していることが重要である。二軸配向していることにより、様々な用途に供しうる強度を得ることができる。
第1群の本発明の積層フィルムは、他の少なくとも1層が網目構造を有するフィルムであることが重要である。網目構造あるいは空隙を有する構造とすることにより、低誘電率や、優れたクッション性を得ることができる。また、積層フィルムとしての剛性を低減することになるので、優れた形態安定性をえることができる。また、熱膨張を低減させ、優れた熱寸法安定性を得ることができる。
この網目構造は、フィルム層内で、フィブリル状、ロッド状、または数珠状形態の線状構成要素が網目状連なった形態をなしている。また、例えば、フィルム表面に平行な面において長手方向及び/又は幅方向に空隙が連なった擬網目状でもよい。この網目構造において、網目を構成する要素が湾曲していてもよいし、また、本発明の効果を特に阻害しない限りにおいて、部分的にその連なりが切れていてもよい。
また、フィルムの厚み方向については、網目構造が形成されている構造、あるいは空隙が連なった構造のいずれも好ましい。
また線状構成要素を形成する物質は、後述する非延性の樹脂組成物全体であってもよいし、同じく後述する、非延性の樹脂組成物に含有される液晶性ポリマー等、非延性を発現せしめる一部の物質であってもよい。
前記したフィブリル状、ロッド状、または数珠状等の線状構成要素の、透過型電子顕微鏡写真で観察される短径は、5nm〜100μmが好ましく、より好ましくは50nm〜10μm、さらに好ましくは0.1μm〜5μmである。図1において、太線部分が網目構造を形成する線状構成要素を示し、また、Dがその線状構成要素の短径を示す。当該短径を100μm以下とすることで、製膜性を維持し、フィルム表面のうねりを抑え、フィルムの平面性を維持し、各種用途に供しうるフィルムの加工性を維持することができる。一方、当該短径は細くてもよいが、現実的に得られるのは5nm以上である。
この網目構造を有するフィルムの層中に、径のサイズが異なる線状構成要素が含まれていてもよいし、サイズが異なる複数の網目構造が形成されていてもよいし、線状構成要素の内部にさらに微細な網目構造が形成されていてもよい。これらの場合には、より大きな網目構造を形成している線状構成要素の径を上記の好ましい範囲に制御するとよい。
網目構造における空隙率としては、本発明の種々の効果の発現の観点から、層面中の面積分率で20〜80%であることが好ましく、30〜70%がより好ましく、30〜60%がさらに好ましい。
尚、本発明の積層フィルムで言う「他の少なくとも1層」も、フィルムであり、例えば不織布は含まない。
上記のような、網目構造あるいは空隙に関する態様は、第2群の本発明の積層フィルムにも、好ましい態様として共通する。
上記のような網目構造あるいは空隙は、例えば該当する層に非延性の樹脂組成物を採用することによって得ることができる。
すなわち、第2群の本発明の積層フィルムは、他の少なくとも1層が非延性の樹脂組成物からなることが重要である。
本発明で言う非延性の樹脂組成物とは、実施例の「測定方法」にて後述する、温度100℃における伸度が50%以下である樹脂組成物である。すなわち、引張試験における応力ひずみ曲線の立ち上がりが急激なものである。かかる非延性の樹脂組成物からなる層を、熱可塑性樹脂組成物からなる層と積層させて二軸延伸することにより、網目構造あるいは空隙を形成することができる。
非延性の樹脂組成物の少なくとも一部を構成し、非延性を発現せしめる樹脂として具体的には、液晶性ポリマーを含有するものであることが好ましい。あるいは、第1群の本発明の積層フィルムの網目構造を有するフィルムの層は、液晶性ポリマーを含有することが好ましい。
液晶性ポリマーとしては例えば、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる共重合ポリエステルを採用することができる。
市販品としては、“シベラス”(東レ(株)製)、“ベクトラ”(ポリプラスチックス(株)製)、“ゼナイト”(デュポン社製)、“スミカスーパー”(住友化学(株)製)、“ザイダー”(ソルベイ社製)、“上野LCP”(上野製薬(株)製)、“タイタン”(イーストマン社製)等を適宜選択して採用することができる。
液晶性ポリマーとして好ましいものを構造単位の観点でみると、
下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位を含む共重合ポリエステル、
下記(I)、(III)および(IV)の構造単位を含む共重合ポリエステル、
下記(I)、(II)および(IV)の構造単位を含む共重合ポリエステル、
または、これらのブレンドポリマーが挙げられる。

但し式中のRは、

を示し、R

から選ばれた一種以上の基を示し、Rは、

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示す。
また、上記構造単位(I)、(II)および(IV)からなる共重合ポリエステルの場合には、R

であるものが特に好ましい。
また、上記構造単位(I)、(III)および(IV)からなる共重合ポリエステルの場合には、R

であり、R

であるものが特に好ましい。
また、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合ポリエステルの場合には、R

であり、R

であり、R

であるものが特に好ましい。
これらの共重合ポリエステルにおいて、構造単位(II)は構造単位(IV)とポリマーにおける繰り返し単位を形成し、構造単位(III)も構造単位(IV)とポリマーにおける繰返し単位を形成する。すなわち、これらの共重合ポリエステルにおいて、構造単位(II)および/または(III)のモル数の和と構造単位(IV)のモル数とは実質的に等しいことになる。ここで「実質的に」とは、必要に応じて、ポリエステルの末端基のうちのカルボキシル末端基あるいはヒドロキシル末端基のいずれかを多くしてもよく、その場合には構造単位(IV)のモル数は構造単位(II),(III)のモル数の和と厳密には等しくならないが、このような場合も含まれることを意味する。
上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合ポリエステルの場合には、上記構造単位(I),(II),(III)のモル数の和に対する(I),(II)のモル数の和の分率は、5〜95モル%が好ましく、30〜90モル%がより好ましく、50〜80モル%がさらに好ましい。また、構造単位(I),(II),(III)のモル数の和に対する(III)のモル数の分率は、5〜95モル%が好ましく、10〜70モル%がより好ましく、20〜50モル%が最も好ましい。また、構造単位(I)/(II)のモル比は流動性の点から好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。
上記構造単位(I)、(III)および(IV)からなる共重合ポリエステルの場合には、上記構造単位(I),(III)のモル数の和に対する(I)のモル数の分率は、5〜95モル%が好ましく、50〜80モル%がより好ましい。
上記構造単位(I)、(II)および(IV)からなる共重合ポリエステルの場合には、構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合ポリエステルおよび/または構造単位(I)、(III)および(IV)からなる共重合ポリエステルとブレンドして用いることが好ましい。このブレンドポリマーの場合には、構造単位(I),(II),(III)のモル数の和に対する(I),(II)のモル数の和の分率は、5〜95モル%が好ましく、30〜90%がより好ましく、50〜80モル%がさらに好ましい。
また液晶性ポリマーとしての共重合ポリエステルは、上記構造単位(I)〜(IV)以外に他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で共重合していてもよい。かかる共重合成分としては、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸や、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ジオールや、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールや、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸や、p−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸などを採用することができる。
液晶性ポリマーの流動開始温度としては、200〜360℃が網目構造あるいは空隙の形成の点から好ましく、230〜320℃が後述する非液晶性ポリエステルとの混合性の点からもより好ましい。
非延性の樹脂組成物の少なくとも一部を構成し、非延性を発現せしめる樹脂として、液晶性ポリマー以外には、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸等を挙げることができる。
本発明の積層フィルムは、非延性の樹脂組成物が、非延性を発現せしめるポリマー以外のポリマーもさらに含有することが好ましい。あるいは、第1群の本発明の積層フィルムの網目構造を有するフィルムの層は、さらに非延性を発現せしめるポリマー以外のポリマーを含むことが好ましい。非延性の樹脂組成物に非延性を発現せしめるポリマー以外のポリマーも含有させることにより、積層フィルムとして二軸延伸をする際に熱可塑性樹脂組成物の層にある程度は追随して、網目構造あるいは空隙を生産性良く形成させることができる。
非延性を発現せしめるポリマー以外のポリマーとしては、網目構造を有するフィルムの層あるいは非延性の樹脂組成物からなるフィルムの層と隣接するフィルムの層を構成する熱可塑性樹脂組成物のポリマーと同一であることがフィルム層間での接着性および本発明の効果発現の観点から好ましく、かかる熱可塑性樹脂組成物としては、前述のとおりポリエステルが特に好ましいので、非延性を発現せしめるポリマー以外のポリマーとしても、非液晶性ポリエステルが好ましい、ということになる。非液晶性ポリエステルは、熱可塑性樹脂組成物としてのポリエステルでも前述したように、芳香族ジカルボン酸、脂環族カルボン酸または脂肪族ジカルボン酸などの酸成分やジオール成分から構成されるものである。
液晶性ポリマーと混合して用いる非液晶性ポリエステルの固有粘度としては、フィルム成形加工の安定性や液晶性ポリマーとの混合性の観点から、0.55〜3.0dl/gが好ましく、より好ましくは、0.60〜2.0dl/gである。
網目構造を有するフィルムの層に対する、あるいは非延性の樹脂組成物に対する液晶性ポリマーの含有量は、下限値としては20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、さらには35重量%以上、さらには40重量%以上が好ましい。また上限値としては、90重量%以下が好ましく、85重量%以下がより好ましく、さらには80重量%以下、さらには70重量%以下が好ましい。液晶性ポリマーの含有量を20重量%以上とすることで、網目構造あるいは空隙を得ることができ、90重量%以下とすることで、製膜破れの多発を抑えることができる。
また積層フィルム全体に対する液晶性ポリマーの含有量としては、3〜30重量%が好ましく、より好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは7〜23重量%である。積層フィルム全体に対する液晶性ポリマーの含有量を3重量%以上とすることで、網目構造あるいは空隙を十分に形成することができ、後述するような積層フィルムとしての比重や、クッション性、柔軟性の付与、平面性の改良等の効果を得ることができる。また、30重量%以下とすることで、延伸時の破れの発生を抑えることができる。
本発明の積層フィルムの積層数としては、2〜1000が好ましい。積層の位置関係としては、網目構造を有するフィルムの層あるいは非延性の樹脂組成物からなるフィルムの層をA層とし、熱可塑性樹脂組成物からなり二軸配向したフィルムの層等をB層、C層とすると、本発明の効果の発現ならびにフィルムの加工性および生産性の観点から、B/A/B、C/B/A/B/C、C/B/A/B等の積層構成のように、A層の両外面に熱可塑性樹脂からなり二軸配向した層が積層されてなる構成が好ましい。とりわけ、A層の両外面に同一の樹脂による同一の厚みの層が積層されてなる3層積層構成(B/A/B)が、フィルム加工時の変形抑止、平面性保持の観点で特に好ましい。
本発明の積層フィルムには、本発明の効果を阻害しない範囲内で、核生成剤、熱分解防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料などを添加してもよい。
また、特に積層フィルムの最外層には、表面に易滑性、耐磨耗性、耐スクラッチ性等を付与するために、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤や、界面活性剤や、表面突起を形成するための無機粒子あるいは有機粒子を添加することも好ましい。また、重合反応時に触媒等を添加することによりいわゆる内部粒子を析出させてもよい。
無機粒子としては例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ジルコニアなどの酸化物や、クレー、マイカ、カオリン、タルク、モンモリナイトなどの複合酸化物や、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩や、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩や、チタン酸バリウム、チタン酸カリウムなどのチタン酸塩や、リン酸カルシウムなどのリン酸塩などを用いることができる。酸化ケイ素としては湿式または乾式シリカやコロイド状シリカがあり、真球状でも多孔質であってもよい。
また、有機粒子としては、粒子を構成する部分のうち少なくとも一部がフィルムを構成する樹脂に対して不溶であればよく、例えば、ポリスチレンもしくは架橋ポリスチレン粒子や、スチレン・アクリル系及びアクリル系架橋粒子、スチレン・メタクリル系架橋粒子などのビニル系粒子や、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド、シリコン、ポリテトラフルオロエチレンなどの粒子を用いることができる。
表面突起を形成するための無機粒子あるいは有機粒子の粒径、配合量、形状などを適宜選択することにより、積層フィルムの表面粗さを調整することができる。その平均粒子径としては0.01〜3μmが好ましく、添加量としては0.001〜3重量%が好ましい。また、1種類の粒子を単独で用いてもよいし、平均粒子径の異なる粒子を2種類以上組み合わせて用いてもよい。
本発明の積層フィルムの厚みは、全般的には500μm以下が好ましく、0.5〜400μmがより好ましく、薄膜用途や作業性などの観点からは10〜300μmがさらに好ましく、20〜200μmがさらに好ましくい。また用途別には、磁気テープ用途では2.0〜10μm、コンデンサー用途では0.5〜15μm、回路材料用途や離型材料用途では、12〜250μm、電気絶縁材料用途では75〜400μmとするのが好ましい。
積層フィルム全体に対する、網目構造を有するフィルムの層あるいは非延性の樹脂組成物からなるフィルムの層の厚みは、下限値としては1%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、さらには15以上、さらには20%以上、さらには30%以上が好ましい。また上限値としては、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、さらには75%以下、さらには70%以下、さらには60%以下が好ましい。1%以上とすることで、熱寸法安定性向上の効果を得ることができ、10%以上とすることで、積層フィルムの比重を低減することによりクッション性を付与することができる。また、90%以下とすることで、フィルム破れの多発を防ぐことができる。
第2群の本発明の積層フィルムは、比重が0.2〜1.2であることが重要である。また、第1群の本発明の積層フィルムは、比重が当該範囲内であることが好ましい。本発明の積層フィルムとしてより好ましくは0.3〜1.0であり、さらに好ましくは0.4〜0.7である。比重を1.2以下とすることは、フィルム中の空隙が十分であることを意味し、フィルムのクッション性等、本発明の効果を得ることができる。一方、比重を0.2以上とすることで、フィルム中の空隙が多すぎず、強度と寸法安定性のバランスをとることができる。
本発明の積層フィルムは、その長手方向(MD)および幅方向(TD)のヤング率がともに2〜7GPaであることが好ましい。下限値として、より好ましくは2.5GPa、さらに好ましくは3GPaである。また上限値としてより好ましくは6GPa、さらに好ましくは5GPaである。7GPa以下とすることで、変形・カールを抑え、形態安定性を向上させることができる。また2GPa以上とすることで、腰を保ち、取扱い性を損なわない。
本発明の積層フィルムは、その長手方向(MD)および幅方向(TD)の、温度150℃における熱収縮率がともに0〜2%であることが、フィルムの加工時や使用時の耐熱性の観点から好ましい。上限値として、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%以下である。2%以下とすることで、耐熱性を保ち、熱寸法安定性を得ることができる。さらに、熱収縮率を1.0%以下とすることで、良好な平面性を維持することができる。また下限値として、より好ましくは0.01%以上である。0.01%以上とすることで、フィルムの膨張によるしわの発生や平面性の悪化を防ぐことができる。
本発明の積層フィルムは、その長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱膨張係数がともに3〜45ppm/℃であることが好ましい。下限値として、より好ましくは4ppm/℃以上、さらに好ましくは5ppm/℃以上、さらに好ましくは10ppm/℃以上である。上限値として、より好ましくは35ppm/℃以下、さらに好ましくは30ppm/℃以下、さらに好ましくは25ppm/℃以下、さらに好ましくは20ppm/℃以下である。かかる範囲内とすることにより、回路材料用フィルム、離型フィルムや印刷材料などの用途における加工の際に熱変形によりカールするのを防ぐことができる。
本発明の積層フィルムは、クッション率が10〜50%であることが好ましく、より好ましくは15〜45%、さらに好ましくは20〜40%である。クッション率を10%以上とすることで、フィルムの柔軟性が高まり、例えば、壁紙などの建材用途に用いた場合の加工性が向上する。また、同じ面積あたりのコストの低減も期待できる。また、クッション率を50%以下にとどめることで、積層フィルムの強度と寸法安定性のバランスを取ることができ、また生産性を維持できる。
本発明の積層フィルムは、温度30℃、周波数10kHzにおける誘電率が1.3〜3.0であることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.7、さらに好ましくは1.7〜2.5である。誘電率を3.0以下とすることで、電気絶縁材料に用いた場合、もれ電流などによる電力損失やそれによる発熱を抑制することができ、本発明の効果を得ることができる。また、空隙率を適度に制御して、フィルムの強度や生産性とのバランスをとることも考慮すると、誘電率1.3程度にまで小さくすれば十分である。
また、本発明の積層フィルムには、上記のような構成に加えさらに、他のポリマー層、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデンまたはアクリル系ポリマーなどからなる層を、直接あるいは接着剤などの層を介して、積層させて用いてもよい。
また、本発明の積層フィルムは、用途に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工、エッチングなどの加工が施されたものであってもよい。
本発明の積層フィルムは、工程材料、離型材料、印刷材料、成形材料、建材、磁気記録媒体用材料、回路材料、電気絶縁材料などの各種工業材料の用途に好適に用いることができる。
本発明の積層フィルムにおける網目構造あるいは空隙は、次のようにして得ることができる。すなわち、本発明の積層フィルムの製造方法は、少なくとも2層の樹脂組成物を共押出しする積層フィルムの製造方法であって、その少なくとも1層に熱可塑性樹脂組成物を用い、他の少なくとも1層に非延性の樹脂組成物を用い、二軸延伸によって非延性の樹脂組成物を用いた層に亀裂を生じせしめる積層フィルムの製造方法である。
熱可塑性樹脂組成物および非液晶性ポリエステルとして例えばポリエチレンテレフタレートは、次のいずれかのプロセスで製造することができる。
(1)テレフタル酸とエチレングリコールとを原料とし、直接、エステル化反応によって低分子量のポリエチレンテレフタレートまたはオリゴマーを得て、さらに、三酸化アンチモンやチタン化合物等の触媒を用いて重縮合するプロセス。
(2)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールとを原料とし、エステル交換反応によって低分子量体を得て、さらに、三酸化アンチモンやチタン化合物等の触媒を用いて重縮合するプロセス。
プロセス(1)のエステル化は無触媒でも反応が進行する一方、プロセス(2)のエステル交換反応は、マンガン、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、リチウム、チタン等の化合物を触媒に用いて進行させるのが良く、またエステル交換反応が実質的に終了した後に、当該反応に用いた触媒を不活性化する目的で、リン化合物を添加することも良い。リン化合物としては、亜リン酸、リン酸、リン酸トリエステル、ホスホン酸、ホスホネート等を挙げることができ、また二種以上を併用してもよい。
前記エステル化反応あるいはエステル交換反応は130〜260℃の温度条件下で行うのが好ましく、重縮合反応は高真空下で温度220〜300℃で行うのが好ましい。
さらに具体的なポリエチレンテレフタレートの製法の例としては、テレフタル酸とエチレングリコールとをエステル化反応させ、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応させることにより、ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)を得ることができる。次にこのBHTを重合槽に移送し、真空下で280℃に加熱して重合反応を進めることができる。ここで、固有粘度が0.5程度のポリエステルを得られるので、これをペレット状にし、180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で133Pa(1mmHg)程度の減圧下で、10〜50時間、固相重合させると良い。
また、エステル化反応あるいはエステル交換から重縮合反応までの任意の段階で、前述したような各種の添加剤を添加してもよい。
また、ポリエチレンテレフタレートに粒子を含有させる方法としては、エチレングリコールに粒子をスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールをテレフタル酸と重合させる方法が好ましい。粒子を添加する方法としては例えば、粒子の合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルの状態から、一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性がよい。また、粒子のスラリーを直接所定のポリエチレンテレフタレートのペレットと混合し、ベント式2軸混練押出機を用いて、ポリエチレンテレフタレートに練り込む方法も有効である。
粒子の含有量を調節する方法としては、上記方法で高濃度の粒子のマスターチップを作っておき、それを製膜時に、粒子を実質的に含有しないチップで希釈して粒子の含有量を調節する方法が有効である。
熱可塑性樹脂としてPPSは、例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で230〜280℃、高圧下で反応させて得ることができる。その際、重合度調整剤として苛性カリ、カルボン酸アルカリ金属塩などを添加すると良い。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーが得られる。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄・乾燥してPPSの粉末を得る。このPPSの粉末を酸素分圧1.3MPa(10Torr)以下、好ましくは665Pa(5Torr)以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、665Pa(5Torr)以下の減圧下で乾燥するとよい。かくして得られるPPSは、実質的に線状のポリマーであり、しかも溶融結晶化温度Tmcが160〜190℃の範囲にあるので、安定した延伸製膜が可能になる。
非延性の樹脂組成物が好ましく含有する前記のような液晶性ポリマーの例として前記のような共重合ポリエステルは、例えば、前記構造単位(I)〜(IV)のうち、構造単位(III)を含まない場合は下記(3)または(4)の方法が好ましく、構造単位(III)を含む場合は下記(5)の方法が好ましい。
(3)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、4,4’−ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸と、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマー、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなどの芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で上記(1)または(2)の方法により製造する方法。
上記方法(3)〜(5)における重縮合反応は、無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を添加した方が好ましい場合もある。
また、上記構造単位(I)は例えば、p−ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成することができる。また、構造単位(II)は例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドキシナフタレン、2,7−ジヒドキシナフタレン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどの芳香族ジヒドロキシ化合物などから生成することができる。また、構造単位(III)は例えば、エチレングリコールなどから生成することができる。また、構造単位(IV)は例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成することができる。
本発明において、液晶性ポリマーを他のポリマーと混合する場合、その方法としては、溶融押出前に予め液晶性ポリマーと他のポリマーとを予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法や、溶融押出時に混合して溶融混練させる方法などがある。マスターチップ化する方法は、均一な分散状態を得ることによりフィルムの品質、製膜性が良好である点で好ましい。
マスターチップを作製し、未延伸の積層フィルムとするまでを、熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、液晶性ポリマーとして、上野製薬製液晶性ポリエステル“上野LCP”5000を用いた場合を例に説明する。なお、“上野LCP”5000は、前述の構造単位としては(I)を有する。
マスターチップにおける上記液晶性ポリマーとPETとの重量比としては、95/5〜50/50とするのが好ましい。
液晶性ポリマーと熱可塑性樹脂とを混合・混練する方法としては例えば、各々別々に溶融押出機にて溶融してから混合してもよいし、また、予め紛体原料をヘンシェルミキサー、ボールミキサー、ブレンダー、タンブラー等の混合機にて乾式予備混合し、その後、溶融混練機にて溶融混練してもよい。
溶融混練機としては例えば二軸混練押出機が好ましい。
例えば、液晶ポリマーのペレットとPET等のペレットとを、マスターチップとするための所望の割合で混合して、ベント式の二軸混練押出機に供給し、280〜320℃にて溶融混練する。さらにベント式二軸押出機としては、分散不良を低減させる観点から、二軸3条または二軸2条タイプのスクリューを装備したものが好ましく、そのときの滞留時間は1〜5分が好ましい。
このようにして得られるマスターチップを、非延性の樹脂組成物に対する液晶性ポリマーの所望の含有量に対応させてさらにPET等のチップを混合して、180℃程度で3時間以上真空乾燥した後、圧縮ゾーンを270〜320℃の温度に加熱した押出機に投入する。PETと混合する場合、圧縮ゾーンの温度は290〜310℃とするのがより好ましい。
一方、別の押出機には、PET等に適宜粒子を混合した原料を、乾燥した上で投入する。
そしてこれらを溶融押出しする際、押出機内で異物や変質ポリマーを除去するフィルトレーションを行うことも、フィルム中への異物混入を可能な限り低減させる上で好ましい。その際に使用するフィルターとしては例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網などを用いることが好ましい。
また、定量供給性を向上させるためにギアポンプを設けることも好ましい。
押出機を経たそれぞれの溶融ポリマーを、フィードブロックにて合流させ、積層させ、Tダイのスリットからシート状に吐出し、このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム(キャスティングロール)上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得ることができる。
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、熱可塑性樹脂組成物を用いた層を二軸配向させ、また非延性の樹脂組成物を用いた層に亀裂を生じせしめる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸方法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
延伸条件等については、積層の構成や、各層を構成する樹脂組成物の成分により適宜設定すればよいが、全般的には、およそ次のようにすることが好ましい。
延伸倍率は、フィルムの長手方向および幅方向のそれぞれについて一段階もしくは二段階以上の多段階で、1.2〜6.0倍とするのが好ましく、より好ましくは2.5〜4.5倍である。
延伸温度は、90〜180℃とするのが好ましく、さらには、熱可塑性樹脂組成物を用いる層の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg〜Tg+40(℃)とすることが好ましい。
さらに、用途や所望のフィルム特性に応じて、再延伸を行なってもよい。再延伸の倍率としては、長手方向および/または幅方向に1.1倍以上が好ましい。
延伸後の熱処理の温度は、熱可塑性樹脂組成物を用いる層の熱可塑性樹脂組成物の融点をTm(℃)としたとき、150〜Tm(℃)とするのが好ましく、より好ましくは200〜245℃で、延伸後の熱処理の時間としては、0.3〜30秒とすることが好ましい。
さらに、熱処理時および/または熱処理後のフィルムを冷却する時に、幅方向および/または長手方向に1〜10%の弛緩処理を施すことも、本発明の効果を得る上で好ましく、より好ましくは9%以下である。
また、巻き取った後の積層フィルムに対し、50〜120℃の温度条件下で5分〜500時間、エージング処理することも好ましい。
次に、液晶性ポリマーを含む非延性の樹脂組成物を用いた層の両外側に熱可塑性樹脂組成物を用いた層を配する3層構成の場合の、長手方向、幅方向の順に延伸を行う逐次二軸延伸法を例に説明する。
未延伸ポリエステルフィルムを加熱ロール群で加熱し、この例では、延伸は多段延伸とすることが好ましく、特に、長手方向の延伸に先立ち、長手方向に微延伸を施すことも好ましい。この微延伸は、ポリマーの分子鎖内および分子鎖間に蓄積されたひずみを除去し、その後の延伸をしやすくして、非延性の樹脂組成物を用いた層に網目構造あるいは空隙形成させるために有効である。かかる微延伸の延伸倍率としては、1.05〜1.8倍が好ましく、より好ましくは1.1〜1.5倍、さらに好ましくは1.15〜1.3倍である。またかかる微延伸の延伸温度としては、熱可塑性樹脂組成物を用いる層の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とすると、Tg+10〜Tg+70(℃)が好ましく、より好ましくは、Tg+15〜Tg+60(℃)、さらに好ましくはTg+20〜Tg+50(℃)である。
長手方向(MD方向)の延伸の延伸倍率としては、上記微延伸の延伸倍率も含め、2〜5倍が好ましく、より好ましくは2.5〜4.5倍、さらに好ましくは3〜4倍である。尚、当該延伸倍率には、後述する再縦延伸の延伸倍率は含まれない。長手方向の延伸の延伸温度としては、熱可塑性樹脂組成物を用いた層の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とすると、Tg〜Tg+60(℃)が好ましく、より好ましくはTg+5〜Tg+55(℃)、さらに好ましくはTg+10〜Tg+50(℃)の範囲である。
長手方向の延伸の後、20〜50℃の冷却ロール群で冷却すると良い。
幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを好ましく用いることができる。フィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行うことができる。その延伸倍率としては、2.0〜6.0倍が好ましく、より好ましくは3.0〜5.0倍、さらに好ましくは3.5〜4.5倍である。尚、当該延伸倍率には、後述する再縦延伸の延伸倍率は含まれない。またその延伸温度としては、熱可塑性樹脂組成物を用いる層の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とすると、Tg〜Tg+80(℃)が好ましく、より好ましくはTg+10〜Tg+70(℃)、さらに好ましくはTg+20〜Tg+60(℃)の範囲である。
幅方向の延伸の後、20〜50℃の冷却ロール群で冷却すると良い。
さらに、所望のフィルム特性に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行うこともできる。
再縦延伸は、フィルムを加熱ロール群で加熱することによって長手方向に施すことができる。その延伸倍率としては、熱可塑性樹脂組成物を用いる層の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とすると、1.1〜2.5倍が好ましく、より好ましくは1.2〜2.4倍、さらに好ましくは1.3〜2.3倍である。またその延伸温度としては、Tg〜Tg+100(℃)が好ましく、より好ましくはTg+20〜Tg+80(℃)、さらに好ましくはTg+40〜Tg+60(℃)である。
再横延伸は、テンターを用いて幅方向に施すことができる。その延伸倍率としては、1.1〜2.5倍が好ましく、より好ましくは1.15〜2.2倍、さらに好ましくは1.2〜2.0倍である。またその延伸温度としては、熱可塑性樹脂組成物を用いる層の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とすると、Tg〜250(℃)が好ましく、より好ましくはTg+20〜240(℃)、さらに好ましくはTg+40〜220℃である。
延伸処理に次いで、フィルムを緊張下で、または幅方向に弛緩しながら、熱固定すると良い。熱固定温度としては、150〜250℃が好ましく、より好ましくは170〜245℃、さらに好ましくは190〜240℃である。熱固定にかける時間は0.2〜30秒が好ましい。
さらにこのフィルムを40〜180℃の温度ゾーンで幅方向に弛緩しながら冷却するのが好ましい。このときの弛緩率としては、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜10%とすることが好ましく、より好ましくは2〜8%、さらに好ましくは3〜7%である。
さらに、フィルムを室温まで冷却して巻き取り、本発明の積層フィルムを得ることができる。
【実施例】
[測定・判定方法]
(1)固有粘度
オストワルド粘度計を用いて、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度および溶媒粘度から下式により固有粘度[η]を算出した。試料数3にて、それぞれについてその測定・算出をして、平均値をとった。
ηsp/C=[η]+K[η]・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマ重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。
(2)ガラス転移温度(Tg)
擬似等温法にて下記装置および条件で、JIS K 7121に準じて比熱測定を行った。
装置: TA Instrument社製温度変調DSC
測定条件:
加熱温度 :270〜570K(RCS冷却法)
温度校正 :高純度インジウムおよびスズの融点
温度変調振幅:±1K
温度変調周期:60秒
昇温ステップ:5K
試料重量 :5mg
試料容器 :アルミニウム製開放型容器(22mg)
参照容器 :アルミニウム製開放型容器(18mg)
ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。試料数3にて、それぞれについてその測定・算出をして、平均値をとった。
Tg=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
(3)融解温度(Tm)
示唆走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)と、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上300℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度26℃/分で昇温した。そのとき観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を、融解温度(Tm)とした。試料数3にて、それぞれについてその測定・算出をして、平均値をとった。
(4)樹脂組成物の非延性
樹脂組成物をポリイミドフィルム(東レデュポン製“カプトン”)の上に置いて、プレス成形機にて温度300℃(融点が300℃以上の場合は400℃)で圧力10kg/cmで10秒間圧縮して、0.2ミリ秒ごとに脱気を8回実施してシートを作製した。得られたシートの幅10mm、長さ20mmの試料の破断強度をASTM−D882にしたがって、温度100℃、引張速度100mm/分で測定した。試料数3にて、伸度の平均値が50%以下であるものを非延性と判定した。
(5)溶融押出時のポリマーの滞留時間
押出機の供給部にトレーサーとしてカーボンブラックを1重量%添加し、押出機、短管、フィルターを経てTダイの先端からトレーサーがポリマーとともに吐出してくる様子を観察した。押出機の供給部にトレーサーを供給した時刻をt1とし、カーボンブラックがポリマーとともに口金から吐出し始め、その後、吐出するポリマーからカーボンブラックがなくなる過程において下記のように時刻t2を定義し、(t2−t1)を滞留時間とした。
時刻t2は、日立製作所製の分光光度計U−3410を用いて波長550nmの光に対するキャストフィルム中央部の全光線透過率を測定し、下記関数F(t)が0.98になった時刻tをもって定義した。
F(t)=(カーボンブラック投入後の時刻tにおけるキャストフィルムの全光線透過率)/(カーボンブラック投入前のキャストフィルムの全光線透過率)
(6)製膜時の破れ頻度
製膜時におけるフィルム破れを観察して、次の基準で判定した。
◎:フィルム破れが皆無である。
○:フィルム破れが極くまれに生じる。
△:フィルム破れが時々生じる。
×:フィルム破れが頻発する。
(7)フィルムの比重
4cm×5cmの大きさに試料を切り出し、比重計(ミラージュ貿易社製SD−120L)を用いて、JIS K 7112に従った水中置換法により、23℃で水中に浸してから1分後の比重を測定した。その測定値を25℃比重に換算した。
(8)フィルムの誘電率
JIS C 2318に準拠して測定した。アルミニウムをフィルムの表裏に蒸着後、誘電率測定装置(TAインスツルメンツ製DEA2970)を用いて、温度30℃、周波数10kHzで測定した。試料数3にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
(9)ヤング率
ASTM−D882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”)を用いて測定した。測定は下記の条件で行った。試料数10にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
試料サイズ:幅10mm×掴み間隔100mm
引張り速度:10mm/分
測定環境 :温度23℃、湿度65%RH
(10)熱収縮率
JIS C 2318に従って、次の条件で測定した。試料数10にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
試料サイズ:幅10mm、標線間隔200mm
測定条件 :温度150℃、処理時間30分、無荷重状態
150℃熱収縮率を次式より求めた。
熱収縮率(%)=[(L0−L)/L0]×100
L0:加熱処理前の標線間隔
L :加熱処理後の標線間隔
(11)熱膨張係数
熱機械測定装置(セイコーインスツルメンツ社製TMA/SS6100)を用いた。試料幅4mm、試料長さ(チャック間距離)20mmのサンプルに対し、荷重3gを負荷し、室温から170℃まで昇温速度10℃/分で昇温させ、10分間保持した。その後、40℃まで10℃/分で降温させ、20分間保持した。このときの降温時の150℃から50℃までの寸法変化量から、下記式により熱膨張係数α(1/℃)を求めた。試料数3にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
α={(L150−L50)/L0}/△T
L0 :23℃における初期試料長さ
L150:降温時の150℃における試料長さ
L50 :降温時の50℃における試料長さ
△T :温度変化量(150−50=100)
(12)フィルムの寸法安定性
JIS C 6472に記載の銅貼りポリイミドフィルムのフィルム側に、測定対象のフィルムを汎用塩化ビニル系樹脂と可塑剤とからなる接着剤により貼り合わせて、温度160℃、圧力2.9MPa(30kg/cm)、時間30分の条件でロールを用いて圧着した。得られた圧着フィルムからMD方向25cm×TD方向25cmの試料を切り出して定盤上に置き、その状態で4隅のカール状態を観測し、4隅の反り量(mm)の平均値を求めて、下記の基準に従って評価した。◎と○が合格である。
◎:反り量が5mm未満である。
○:反り量が5mm以上、10mm未満である。
×:反り量が10mm以上である。
(13)フィルムのクッション率
5cm×5cmに切り出した試料に対して、3mmφ硬球の標準測定子(No.2109−10)を取り付けたダイヤルゲージ(三豊製作所製)を用いて、押さえ部分上部に50gの荷重をかけ、その状態で30秒間保持した時の厚みを読みとった。また、同じサンプルの別の箇所に対して、同様に500gの荷重をかけ、その状態で30秒間保持した時のフィルム厚みを読みとった。そして下記式からクッション率を算出した。試料数5にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
クッション率(%)=[1−(500g荷重時のフィルム厚み)/(50g荷重時のフィルム厚み)]×100
(14)平面性
フィルムの試料をMD方向25cm×TD方向25cmの大きさに切り出し、平らな台の上に無荷重の状態でおき、温度160℃で30分間処理した。その後、コルク製台上に広げ、表面が不織布で巻かれた棒でフィルム表面をならして、フィルムと台の間の空気を完全に排除した。そして3分間放置した後に、フィルムの状態を観察し、台からフィルムが浮き上がった部分の個数を数えた。浮き上がった個数が、5個以下のものを◎、6個以上10個以下のものを○、11個以上15個以下のものを△、16個以上のものを×とした。
(15)電気絶縁材料におけるもれ電流
フィルムをスロットライナーおよびウェッジとしてモーターに組み込み、AC9000とVG32の冷媒、オイルの組み合わせでもれ電流を測定し以下の判定を行った。
○:漏れ電流が0.8mA未満である。
△:漏れ電流が0.8〜1mAである。
×:漏れ電流が1mAを超える。
(16)層の厚み比率
フィルムの試料をエポキシ樹脂に包埋し、フィルムの長手方向かつ厚み方向に切断し、その切断面の透過型電子顕微鏡写真を撮り、写真から特定の層と積層フィルム全体の厚みを測定し、積層フィルム全体の厚みに対する特定の層の厚み比率を算出した。
(17)層中の空隙率、線状構成要素の径
フィルムの試料をフィルム表面と平行に切断し、空隙等を有する層の切断面を露出させ、透過型電子顕微鏡写真を撮影した。この写真の画像をイメージアナライザーソフトで解析して、層中の空隙率を測定した。
また、その切断面に網目構造が観察される場合、その網目構造を形成する線状構成要素のうち無作為に抽出した100部位について短径Diを測定し、次式から平均径Dを求め、線状構成要素の径とした。
D=ΣDi/100
【実施例1】
(PETの合成)
ジメチルテレフタレート100重量部とエチレングリコール60重量部の混合物に、エステル交換反応触媒として140℃で酢酸カルシウムを添加し、230℃まで加熱昇温してメタノールを留出させてエステル交換反応を行った。次いで、そのエステル交換反応による生成物に、重合触媒として三酸化アンチモン、熱安定剤としてリン酸を加え重縮合反応槽に移送した。次いで、230℃からさらに290℃まで加熱昇温しながら反応系内を徐々に0.1kPaまで減圧し、290℃、減圧下で内部を攪拌しメタノールを留出させながら重合し、固有粘度0.62、ガラス転移温度78℃、融点255℃の、実質的に粒子を添加されていないポリエチレンテレフタレート(PET)(無粒子PETとも呼ぶ。)を合成した。
(樹脂組成物Bの作製)
上記の無粒子PETのチップに、平均径2.5μmの凝集シリカ粒子を含有量2重量%となるように添加して粒子添加用のマスターチップとし、さらに当該マスターチップと前記の無粒子PETのチップとを、粒子が0.1重量%となるように配合し、180℃で3時間真空乾燥した後、圧縮ゾーンを280℃に加熱した押出機Iに供給した。
およそこのようにして各実施例・比較例で得られる樹脂組成物を「樹脂組成物B」と総称し、樹脂組成物Bからなる層を「B層」と総称する。
(樹脂組成物Aの作製)
上記の無粒子PETのチップ50重量部と液晶性ポリマーとして上野製薬(株)製“上野LCP”5000(LCP1と呼ぶ。)50重量部とを、180℃で3時間真空乾燥した後、混練ゾーンを290℃に加熱したベント式同方向回転二軸混練押出機(スクリュー直径25mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=28)に投入し、スクリュー回転数200回転/分、滞留時間2分で溶融押出してストランド状に吐出し、冷水で冷却した後、直ちにカッティングして、ブレンドポリマーのチップを得た。非延性の判定における伸度は20%であった。
このブレンドポリマーのチップを、180℃で3時間真空乾燥した後、圧縮ゾーンを280℃に加熱した押出機IIに供給した。
およそこのようにして各実施例・比較例で得られる樹脂組成物を「樹脂組成物A」と総称し、樹脂組成物Aからなる層を「A層」と総称する。
(未延伸積層フィルムの作製)
それぞれの押出機で溶融した樹脂組成物A,Bを、それぞれフィルターで濾過し、3層用の矩形の合流ブロック(フィードブロック)を使用して、B/A/Bの3層積層とした。合流ブロックを通過させるポリマーの流量は、延伸・弛緩処理後の最終的な積層フィルムの全体の厚みが50μm、積層厚み比がB/A/B=1/1/1となるように、それぞれのラインに設置されたギヤポンプの回転数を調節し、押出量を制御することによって合わせた。
このように積層させた溶融ポリマーを押出し、表面温度25℃のキャストドラム上に、静電荷を印可させながら密着させて冷却固化し、ドラフト比(口金スリット間隙/未延伸フィルム厚さの比)8で引き取って未延伸積層フィルムを作製した。
(延伸・弛緩処理)
この未延伸積層フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、フィルムの長手方向に、延伸温度100℃、延伸倍率3.5倍で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、フィルムの幅方向に、延伸温度105℃、延伸倍率3.7倍で延伸を行った。
引き続いて235℃の温度で3秒間熱処理を行った後、150℃にコントロールされた冷却ゾーンで幅方向に3%弛緩処理を行い、その後、100℃にコントロールされた冷却ゾーンで幅方向に1%弛緩処理を施し、その後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ50μm(A層およびB層の各層毎の厚みは16.7μm、すなわちA層の厚み比率は33%)の積層フィルムを作製した。
本実施例のフィルムは製膜時にフィルム破れもなく、生産性も良好であった。
得られた積層フィルムの構成と物性を表1〜3に示す。本実施例の積層フィルムは、液晶ポリマーを含有する樹脂組成物AからなるA層が網目構造を有しており、熱膨張係数が小さく、腰も小さく、回路材料として使用する際の寸法安定性にも優れていた。また、低誘電特性にも優れていた。網目構造を形成する線状構成要素であるフィブリルの平均径は3.5μmであった。
【実施例2】
積層フィルムの厚さ50μmにおけるB/A/Bの厚み比率を12.5/25/12.5に変更した以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【実施例3】
樹脂組成物Aの作製において、液晶性ポリマーとして、下記組成で融点265℃、分子量18000の液晶性ポリエステル(LCP2と呼ぶ。)を使用した。
(LCP2の共重合組成)
p−ヒドロキシ安息香酸 56.8モル%
4,4’−ジヒドロキシビフェニル 5.9モル%
エチレングリコール 15.7モル%
テレフタル酸 21.6モル%
また、樹脂組成物AにおけるPET/LCP2の重量分率を30/70と変更した。非延性の判定における伸度は15%であった。
それら以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを作製した。
【実施例4】
(PPS樹脂)
実施例1の無粒子PETにかえて、東レ(株)製の線状PPS樹脂(“ライトン”T1881、ガラス転移温度92℃、融点285℃)を採用した。
(樹脂組成物Bの作製)
上記PPS樹脂に、平均粒径0.7μmのシリカ粉末を0.2重量%、ステアリン酸カルシウムを0.05重量%添加し、均一に分散配合させたものを樹脂組成物Bとして、180℃で3時間真空乾燥した後、圧縮ゾーンを295℃に加熱した押出機Iに供給した。
(樹脂組成物Aの作製)
上記のPPS樹脂(“ライトン”T1881)50重量部とLCP1を50重量部とを、180℃で3時間真空乾燥した後、混練ゾーンを305℃に加熱したベント式同方向回転二軸混練押出機(スクリュー直径25mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=28)に投入し、スクリュー回転数200回転/分、滞留時間90秒で溶融押出してストランド状に吐出し、冷水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドポリマーのチップを作製した。非延性の判定における伸度は10%であった。
このブレンドポリマーのチップを樹脂組成物Aとして、180℃で3時間真空乾燥した後、圧縮ゾーンを300℃に加熱した押出機IIに供給した。
(未延伸積層フィルムの作製)
上記の樹脂組成物A,Bを用い、ドラフト比を5とした以外は実施例1と同様にして未延伸積層フィルムを作製した。
(延伸・弛緩処理)
この未延伸フィルムを、実施例1と同様の縦延伸機を用いて、フィルムの長手向に、延伸温度105℃、延伸倍率3.1倍で延伸した。その後、実施例1と同様にテンターにて、フィルムの幅方向に、延伸温度115℃、延伸倍率3.2倍で延伸を行った。
引き続いて255℃の温度で3秒間熱処理を行った後、150℃にコントロールされた冷却ゾーンで幅方向に4%弛緩処理を行い、その後、100℃にコントロールされた冷却ゾーンで幅方向に1%弛緩処理を施し、その後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ50μm(A層およびB層の各層毎の厚み16.7μm、すなわちA層の厚み比率は33%)の積層フィルムを作製した。本実施例のフィルムは製膜時にフィルム破れもなく、生産性も良好であった。
得られた積層フィルムの構成と物性を表1〜3に示す。本実施例の積層フィルムは、液晶性ポリマーを含有する樹脂組成物AからなるA層が網目構造を有しており、熱膨張係数が比較例2で示す単層のPPSフィルムと比較して大幅に小さく、腰も小さく、回路材料として好適な特性を有していた。また、低誘電特性にも優れていた。網目構造を形成する線状構成要素の平均のフィブリル径は3μmであった。
[比較例1]
実施例1で用いたのと同様の樹脂組成物Bのみを使用して、厚さ50μmの単膜のPETフィルムとした以外は実施例1同様にしてフィルムを作製した。
[比較例2]
実施例4で用いたのと同様の樹脂組成物Bのみを使用して、厚さ50μmの単膜のPPSフィルムとした以外は実施例4同様にして、フィルムを作製した。
[比較例3]
樹脂組成物AにおけるPET/LCP1の重量分率を95/5と変更した。非延性の判定のおける伸度は500%であった。
それ以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを作製した。
樹脂組成物Aが非延性でなかった比較例3の積層フィルムでは、A層中に網目構造が見られず、得られたフィルムの特性も比較例1のPETフィルムに比べて大差なかった。
[比較例4]
樹脂組成物AにおけるPET/LCP1の重量分率を5/95と変更した以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムの作製を試みた。
しかし、フィルム破れが多発したため、安定製膜できず、また得られたフィルムはA層中に網目構造が見られず、フィルム表面性も不良であった。
実施例1〜4,比較例1〜4の層構成をまとめたものを表1に示す。

また、実施例1〜4,比較例1〜4の評価結果を表2,3に示す。


【実施例5】
(PETの合成)
テレフタル酸ジメチル194重量部とエチレングリコール124重量部に、酢酸マグネシウム4水塩0.1重量部を加え、230℃まで加熱昇温してメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。次いで、リン酸トリメチル0.05重量部のエチレングリコール溶液、および三酸化アンチモン0.05重量部を加えて5分間撹拌した後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を230℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を0.1kPaまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。3時間重合反応させ所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻して重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングして固有粘度0.62の、実質的に粒子を添加されていないポリエチレンテレフタレート(PET)(無粒子PETとも呼ぶ。)のペレットを得た。この無粒子PETのガラス転移温度は78℃であり、融点は255℃であった。
(樹脂組成物Bの作製)
上記の無粒子PETチップに、平均径2.5μmの凝集シリカ粒子を含有量2重量%となるように添加して粒子添加用のマスターチップとし、さらに当該マスターチップと前記の無粒子PETのチップとを、粒子が0.1重量%になるように配合し、180℃で3時間真空乾燥した後、樹脂組成物Bとして、圧縮ゾーンを280℃に加熱した押出機Iに供給した。
(樹脂組成物Aの作製)
上記の無粒子PETのチップ50重量部とLCP1を50重量部とを180℃で3時間真空乾燥した後、混練ゾーンを290℃に加熱したベント式同方向回転二軸混練押出機(スクリュー直径25mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=28)に投入し、スクリュー回転数200回転/分、滞留時間2分で溶融押出してストランド状に吐出し、冷水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドポリマーのチップを得た。非延性の判定における伸度は20%であった。
このブレンドポリマーのチップを、180℃で3時間真空乾燥した後、樹脂組成物Bとして、圧縮ゾーンを280℃に加熱した押出機IIに供給した。
(未延伸積層フィルムの作製)
それぞれの押出機で溶融した樹脂組成物A,Bを、それぞれフィルターで濾過し、3層用の矩形の合流ブロック(フィードブロック)を使用して、B/A/Bの3層積層とした。合流ブロックを通過させるポリマーの流量は、延伸・弛緩処理後の最終的な積層フィルムの全体の厚みが50μm、積層厚み比がB/A/B=20/60/20となるように、それぞれのラインに設置されたギヤポンプの回転数を調節し、押出量を制御することによって合わせた。
このように積層させた溶融ポリマーを押出し、表面温度25℃のキャストドラム上に、静電荷を印加させながら密着させて冷却固化し、ドラフト比(口金スリット間隙/未延伸フィルム厚さの比)8で引き取って未延伸積層フィルムを作製した。
(延伸・弛緩処理)
この未延伸積層フィルムを、ロール式延伸機にて、フィルムの長手方向に、延伸温度105℃、延伸倍率1.2倍で延伸し、続いてさらに延伸温度85℃、延伸倍率3.0倍で延伸した。さらに、テンターを用いて、フィルムの幅方向に、延伸温度100℃、延伸倍率4.0倍で延伸した。
続いて、定長下で温度230℃で10秒間熱処理した後、200℃で幅方向に1%の弛緩処理を施し、厚さ50μmの積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムの構成と特性を表4〜6に示す。この積層フィルムは、低誘電特性、クッション性や柔軟性、低熱膨張性および平面性に優れたものであった。
【実施例6〜9】
樹脂組成物Aに対する液晶性ポリマーLCP1の含有量やA層の厚み比率を表4のように変更した以外は、実施例5と同様にして積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムの構成と特性を表4〜6に示す。これらの積層フィルムも低誘電特性、クッション性や柔軟性、低熱膨張性および平面性に優れたものであった。非延性の判定における伸度は、25%(実施例6)、40%(実施例7)、5%(実施例8)であった。実施例6〜8は、樹脂組成物AからなるA層において、フィルム表面に平行な面に長手方向に空隙が連なったり、網目を構成する要素が途中で切れたりした擬網目状構造を有していた。また、実施例9では、A層において網目構造を有していた。
【実施例10】
液晶性ポリマーとして、LCP1にかえてLCP2を使用した。非延性の判定における伸度は、30%であった。それ以外は実施例5と同様にして、積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムの構成と特性を表4〜6に示す。この積層フィルムも、低誘電特性、クッション性や柔軟性、低熱膨張性および平面性に優れたものであった。
【実施例11】
液晶性ポリマーとして、下記組成で融点220℃の液晶性ポリエステル(LCP3と呼ぶ。)を使用した。
LCP3の共重合組成
p−ヒドロキシ安息香酸 31.2モル%
4,4’−ジヒドロキシビフェニル 4.9モル%
エチレングリコール 29.5モル%
テレフタル酸 34.4モル%
非延性の判定における伸度は、45%であった。
それ以外は実施例5と同様にして、積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムの特性を表4〜6に示す。この積層フィルムは、低誘電特性、低熱膨張性および平面性に優れたものであった。
【実施例12】
実施例4の樹脂組成物Aの作製において、液晶性ポリマーとして、LCP1にかえて東レ(株)製の液晶性樹脂(“シベラス”(登録商標)、融点315℃)(LCP4と呼ぶ。)を用い、また、ベント式同方向回転二軸混練押出機の混練ゾーンの加熱温度を325℃とした。非延性の判定における伸度は、15%であった。それら以外は、実施例4と同様にして積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムの特性を表4〜6に示す。この積層フィルムは、低熱膨張性や誘電特性に優れたものであった。
【実施例13】
(樹脂組成物Bの作製)
実施例5と同様にして、樹脂組成物Bを作製し、押出機Iに供給した。
(樹脂組成物Aの作製)
実施例5の液晶性ポリマーLCP1にかえてポリメチルペンテン(三井化学製、DX820)(PMP)40重量部を用いて、また実施例5の無粒子PETにかえて、分散剤として分子量4000のポリエチレングリコール(PEG)を6重量%共重合したPETを60重量部用い、これらを混合して、180℃で3時間真空乾燥した後、混練ゾーンを290℃に加熱したベント式同方向回転二軸混練押出機(スクリュー直径25mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=28)に投入し、スクリュー回転数200回転/分、滞留時間2分で溶融押出してストランド状に吐出し、冷水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドポリマーのチップを得た。非延性の判定における伸度は45%であった。このブレンドポリマーのチップを、180℃で3時間真空乾燥した後、樹脂組成物Aとして、圧縮ゾーンを280℃に加熱した押出機IIに供給した。
(未延伸積層フィルムの作製)
それぞれの押出機で溶融した樹脂組成物A,Bを、それぞれフィルターで濾過し、3層用のマルチマニホールド(口金積層)を使用して、B/A/Bの3層積層とした。マルチマニホールドを通過させるポリマーの流量は、延伸・弛緩処理後の最終的な積層フィルムの全体の厚みが50μm、積層厚み比がB/A/B=20/60/20となるように、それぞれのラインに設置されたギヤポンプの回転数を調節し、押出量を制御することによって合わせた。
このように積層させた溶融ポリマーを押出し、表面温度25℃のキャストドラム上に、静電荷を印加させながら密着させて冷却固化し、ドラフト比(口金スリット間隙/未延伸フィルム厚さの比)8で引き取って未延伸積層フィルムを作製した。
(延伸・弛緩処理)
この未延伸フィルムを実施例5と同様にして延伸等して、積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムの特性を表4〜6に示す。この積層フィルムは、低誘電特性に優れており、低熱膨張性や平面性についても合格レベルであった。
【実施例14】
実施例5の液晶性ポリマーLCP1にかえてGEプラスチックス製のポリエーテルイミド(“ウルテム”1010)(PEI)を用いた以外は実施例5と同様にして、積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムの特性を表4〜6に示す。この積層フィルムは、低誘電特性に優れており、低熱膨張性や平面性についても合格レベルであった。
[比較例5,6]
樹脂組成物Aに対する液晶性ポリマーLCP1の含有量やA層の厚み比率を表4のように変更した以外は、実施例5と同様にして積層フィルムを作製した。
得られた積層フィルムの特性を表5,6に示す。比重が本発明の範囲外であり、低誘電特性、クッション性、柔軟性や低熱膨張性および平面性に不十分なフィルムであった。
[比較例7]
実施例5で用いたのと同様の樹脂組成物Bだけを用いて、厚さ50μmの単膜のPETフィルムとした以外は実施例5と同様にして、フィルムを作製した。
得られたフィルムの特性を表5,6に示す。低誘電特性、クッション性、柔軟性や低熱膨張性に不十分なフィルムであった。



[比較例8]
実施例5で用いたのと同様の樹脂組成物A,Bを用い、その層構成を逆転させてA/B/Aとした以外は実施例5と同様にして、積層フィルムの作製を試みた。
しかし、延伸においてフィルム破れが多発して二軸延伸した積層フィルムを得ることができなかった。
[比較例9]
実施例5で用いたのと同様の樹脂組成物A,Bを用い、その層構成をA/Bの2層構成とし、積層厚み比がA/B=1/2となるようにした以外は実施例5と同様にして積層フィルムの作製を試みた。
しかし、延伸においてフィルム破れが多発して二軸延伸した積層フィルムを得ることができなかった。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層のフィルムからなる積層フィルムであって、その少なくとも1層が熱可塑性樹脂組成物からなり二軸配向したフィルムであり、他の少なくとも1層が網目構造を有するフィルムである、積層フィルム。
【請求項2】
前記網目構造を有するフィルムの層の両外面に、熱可塑性樹脂からなり二軸配向した層が積層されてなる請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記網目構造を有するフィルムの層が非延性の樹脂組成物からなる、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記網目構造を有するフィルムの層が液晶性ポリマーを含有する、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記網目構造を有するフィルムの層がさらに非液晶性ポリエステルを含有する、請求の範囲4第項記載の積層フィルム。
【請求項6】
非液晶性ポリエステルがポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはその変性体である、請求の範囲第5項記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記網目構造を有するフィルムの層に対する液晶性ポリマーの含有量が20〜90重量%である、請求の範囲第4項記載の積層フィルム。
【請求項8】
積層フィルム全体に対する液晶ポリマーの含有量が3〜30重量%である請求の範囲第4項記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記網目構造を有するフィルムの層の厚みが積層フィルム全体の厚みの1〜90%である、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記網目構造を有するフィルムの層の厚みが積層フィルム全体の厚みの10〜80%である、請求の範囲第9項記載の積層フィルム。
【請求項11】
二軸配向したフィルムの層の熱可塑性樹脂組成物が、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸から選ばれる少なくとも一種を含む、請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項12】
積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率がともに2〜7GPaである請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項13】
積層フィルムの長手方向および幅方向の温度150℃における熱収縮率がともに0〜2%である請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項14】
積層フィルムの長手方向および幅方向の熱膨張係数がともに3〜45ppm/℃である請求の範囲第1項記載の積層フィルム。
【請求項15】
少なくとも2層のフィルムからなる積層フィルムであって、その少なくとも1層が熱可塑性樹脂組成物からなり二軸配向したフィルムであり、他の少なくとも1層が非延性の樹脂組成物からなるフィルムであり、積層フィルムの比重が0.2〜1.2である積層フィルム。
【請求項16】
前記非延性の樹脂組成物からなる層の両外面に、熱可塑性樹脂からなり二軸配向した層が積層されてなる請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項17】
前記非延性の樹脂組成物が液晶性ポリマーを含有する、請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項18】
前記非延性の樹脂組成物がさらに非液晶性ポリエステルを含む請求の範囲第17項記載の積層フィルム。
【請求項19】
非液晶性ポリエステルがポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはその変性体である、請求の範囲第18項記載の積層フィルム。
【請求項20】
前記非延性の樹脂組成物に対する液晶性ポリマーの含有量が20〜90重量%である、請求の範囲第17項記載の積層フィルム。
【請求項21】
積層フィルム全体に対する液晶ポリマーの含有量が3〜30重量%である請求の範囲第17項記載の積層フィルム。
【請求項22】
前記非延性の樹脂組成物からなる層の厚みが積層フィルム全体の厚みの1〜90%である、請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項23】
前記非延性の樹脂組成物からなる層の厚みが積層フィルム全体の厚みの10〜80%である、請求の範囲第22項記載の積層フィルム。
【請求項24】
二軸配向したフィルムの層の熱可塑性樹脂組成物が、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ乳酸から選ばれる少なくとも一種を含む、請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項25】
積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率がともに2〜7GPaである請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項26】
積層フィルムの長手方向および幅方向の温度150℃における熱収縮率がともに0〜2%である請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項27】
積層フィルムの長手方向および幅方向の熱膨張係数がともに3〜45ppm/℃である請求の範囲第15項記載の積層フィルム。
【請求項28】
少なくとも2層の樹脂組成物を共押出しする積層フィルムの製造方法であって、その少なくとも1層に熱可塑性樹脂組成物を用い、他の少なくとも1層に非延性の樹脂組成物を用い、二軸延伸によって非延性の樹脂組成物を用いた層に亀裂を生じせしめる積層フィルムの製造方法。
【請求項29】
前記非延性の樹脂組成物を用いる層の両外側の層に熱可塑性樹脂組成物を用いる請求の範囲第28項記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項30】
請求の範囲第1または15項記載の積層フィルムを用いた回路材料。
【請求項31】
請求の範囲第1または15項記載の積層フィルムを用いた離型材料。
【請求項32】
請求の範囲第1または15項記載の積層フィルムを用いた電気絶縁材料。

【国際公開番号】WO2004/060656
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564517(P2004−564517)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016702
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】