説明

積層フィルム

【課題】 無機薄膜を形成した積層体としレトルト処理した後も酸素、水蒸気に対するガスバリア性に優れ、レトルト処理後に層間剥離の起こらない密着性を有し、かつ製造が容易で経済性に優れた積層フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 プラスチック基材フィルムの少なくとも片面に被覆層が形成され、当該被覆層が、オキサゾリン基含有量が5.1〜9.0mmol/gであるオキサゾリン基含有水溶性ポリマーを10〜80重量%、水性アクリル系樹脂を10〜80重量%、水性ポリウレタン系樹脂および/または水性ポリエステル系樹脂を10〜70重量%含有する樹脂混合物を硬化させてなり、かつ被覆層の厚みが0.01μm以上、5μm以下であることを特徴とする無機薄膜形成用の積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、医薬品等の包装分野に用いられる積層フィルムに関し、詳しくは、無機薄膜を形成した積層体としレトルト処理を施した際においても、無機薄膜との間の密着性に優れ、ガスバリア性の優れた積層体を提供する積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等に用いられる包装材料は、蛋白質、油脂の酸化抑制、味、鮮度の保持、医薬品の効能維持のために、酸素、水蒸気などのガスを遮断する性質、すなわちガスバリア性を備えることが求められている。また、太陽電池や、有機ELなどの電子デバイスや、電子部品などで使用されるガスバリア性材料は、食品包材以上に高いガスバリア性を必要とする。
【0003】
従来より、プラスチックからなる基材フィルムの表面にアルミニウムなどの金属薄膜、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機酸化物の薄膜を形成したガスバリア性積層体は、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品用途において一般的に用いられている。中でも、酸化ケイ素や酸化アルミニウム、これらの混合物などの無機酸化物の薄膜を形成したものは、透明であり内容物の確認が可能であることから広く使用されている。
【0004】
しかしながら、上記のガスバリア性積層体は、形成工程において局部的に高温となり、基材に損傷を生じたり、低分子量部或いは可塑剤などの添加剤部などの分解、脱ガスなどを起因とする無機薄膜層中に欠陥、ピンホール等を発生し、ガスバリア性が低下する場合がある。さらに、印刷、ラミネート、製袋など包装材料の後加工の際に、無機薄膜層がひび割れてクラックが発生し、ガスバリア性が低下する問題がある。特に、上述の工程により無機薄膜層がダメージを受けると、その後のレトルト処理によりガスバリア性が大幅に低下し、また無機薄膜とそれに接する樹脂間の層間接着強度が低下して内容物が漏れ出たりする問題がある。
【0005】
上記ガスバリア性積層体の他に、基材フィルムの上に樹脂組成物をコートすることによるガスバリア性フィルムも多く提案されている。特にそれ自体高い酸素バリア性を持つポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いたコート剤が実用化されている。
【0006】
さらに、上記ビニルアルコール系樹脂にモンモリロナイトなどの無機層状化合物を配合したガスバリア性を有する層をプラスチックからなる基材フィルムにコートしたガスバリア性フィルムも提案されている。例えば、基材フィルム上にポリビニルアルコール、架橋剤、無機層状化合物で構成されたガスバリア性を有する層を設ける例、基材フィルム上にエチレン−ビニルアルコール系共重合体、水溶性ジルコニウム系架橋剤、無機層状化合物からなるガスバリア性を有する層を設ける例(例えば、特許文献1、2参照)が挙げられる。これらのガスバリア性フィルムは樹脂を架橋しているため、耐湿性や、ボイル程度の耐水性には耐えられるものの、レトルト用に用いた場合には120〜130℃の加圧下で行われるレトルト処理後のガスバリア性、ラミネート強度が十分満足できるものではなかった。
【0007】
一方、無機薄膜を形成したガスバリア性積層体の欠点を改善する方法として、無機薄膜の上にさらにガスバリア性を有する層を設ける試みがなされている。その例として、無機薄膜上に水溶性高分子と無機層状化合物および金属アルコキシドあるいはその加水分解物をコートしてゾルゲル法により無機薄膜上に無機層状化合物を含有する無機と水溶性高分子の複合体を形成させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法はレトルト後も優れた特性を示すが、コート液の安定性が低く、コートの開始と終了時(すなわち工業的に流通するロールフィルムとした場合のロール外周部分と内周部分)で特性が異なる、フィルム幅方向の乾燥・熱処理の僅かな違いにより特性が異なる、製造時の環境により品質の違いが大きい、といった問題を抱えていた。さらには、ゾルゲルコートが柔軟性に乏しいため、フィルムに折り曲げや衝撃が加わった際にピンホールが発生しやすく、ガスバリア性が低下する場合があるといった問題も指摘されている。
【0008】
このような背景のもと、無機薄膜層上にゾルゲル反応などを伴わないコート法、すなわち、樹脂を主体としコート時には架橋反応を伴う程度のコート法による改良が望まれていた。このような方法のガスバリア性積層体としては、無機薄膜上に特定の粒径およびアスペクト比の無機層状化合物を含有する樹脂層をコートしたガスバリア性積層体(例えば、特許文献4)、無機薄膜上にシランカップリング剤を含むバリア性樹脂をコートしたガスバリア性積層体(例えば、特許文献5)が開示されている。
【0009】
また、無機薄膜を形成したガスバリア性積層体の劣化を改善する他の方法として、ポリエステル基材フィルムと、例えば蒸着法により形成した無機薄膜層との間に各種水性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、またはポリウレタンとポリエステルの混合物からなる被覆層を設ける方法が知られている(例えば、特許文献6)。更に、湿熱下での被覆層の耐水性の向上のため、各種水性ポリウレタンおよび/または水性ポリエステル樹脂とオキサゾリン基含有水溶性ポリマーから成る被覆層を設ける方法が知られている(例えば、特許文献7)。また、基材フィルムからのオリゴマー析出による無機薄膜層の劣化を防止するため、各種水性アクリル樹脂と、オキサゾリン基含有水溶性ポリマーの混合物から成る被覆層を設ける方法が知られている(例えば、特許文献8参照)。この場合、オキサゾリン基を添加して架橋させることで耐水性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−349769号公報
【特許文献2】特開2008−297527号公報
【特許文献3】特開2000−43182号公報
【特許文献4】特許3681426号公報
【特許文献5】特許3441594号公報
【特許文献6】特許2605816号公報
【特許文献7】特開2002−301787号公報
【特許文献8】特許3881463号公報
【0011】
しかし、これらの方法であっても、ボイルや高湿下での特性の改良は認められるものの、レトルト後、特に長時間処理後のガスバリア性、ラミネート強度が十分満足できかつ安定した品質のガスバリア性フィルムは得られていないのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものであり、その目的は、無機薄膜を形成した積層体としレトルト処理した後も酸素、水蒸気のバリア性に優れ、レトルト処理後に層間剥離の起こらない密着性を有し、無機蒸着膜層が破損しにくく、かつ製造が容易で経済性に優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、プラスチック基材フィルムの少なくとも片面に被覆層が形成され、当該被覆層が、オキサゾリン基含有量が5.1〜9.0mmol/gであるオキサゾリン基含有水溶性ポリマーを10〜80重量%、水性アクリル系樹脂を10〜80重量%、水性ポリウレタン系樹脂および/または水性ポリエステル系樹脂を10〜70重量%含有する樹脂混合物を硬化させて成ることを特徴とする被覆層を設けることで、無機薄膜層を形成した積層体としレトルト処理した後も酸素、水蒸気に対するバリア性に優れ、レトルト処理後に層間剥離の起こらない密着性を有する積層フィルムを提供できるという事実を見出し、本願発明に至ったものである。
【0014】
前記の課題は、以下の解決手段により達成することができる。
1.プラスチック基材フィルムの少なくとも片面に被覆層が形成され、当該被覆層が、オキサゾリン基含有量が5.1〜9.0mmol/gであるオキサゾリン基含有水溶性ポリマーを10〜80重量%、水性アクリル系樹脂を10〜80重量%、水性ポリウレタン系樹脂および/または水性ポリエステル系樹脂を10〜70重量%含有する樹脂混合物を硬化させてなり、かつ被覆層の厚みが0.01μm以上、5μm以下であることを特徴とする無機薄膜形成用の積層フィルム。
2.前記.1記載のオキサゾリン基含有水溶性ポリマーの数平均分子量Mnが2×10〜6×10であることを特徴とする無機薄膜形成用の積層フィルム。
3.前記1.または2.に記載の積層フィルムの被覆層の上に無機薄膜層を積層してなることを特徴とする積層フィルム。
4.前記1〜3.の何れかに記載の積層フィルムであって、無機薄膜層が、アルミナ、シリカの混合物であることを特徴とする積層フィルム。
5.被覆層が、塗布液の塗布後に少なくとも1方向に延伸して形成されたものである前記1〜4.の何れかに記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層フィルムに無機薄膜層を形成した積層体はレトルト処理した後も酸素バリア性、水蒸気バリア性に優れ、かつラミネート強度に優れる。
また、前記積層体は産安定性および経済性に優れ、均質の特性が得られやすい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の積層フィルム及びその製造方法の実施の形態を説明する。
[基材フィルム]
基材フィルムとしては、例えば、プラスチックを溶融押し出しして、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムである。プラスチック原料はフィルムとして利用される様なプラスチック原料であれば特に制限はなく、ナイロン4・6、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12などで代表されるポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどで代表される、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどで代表されるポリオレフィンの他、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ乳酸などを挙げることができる。耐熱性や寸歩安定性、透明性の点でポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに他の成分を共重合したものが好ましい。
【0017】
本発明におけるプラスチック原料は再生原料でも特に支障はなく、例えば、ポリエステルフイルム製品の製造過程で発生するスクラップフィルムのチップ状に加工した再生ポリエステルを省資源化の観点から使用してもよい。斯かる再生ポリエステルの使用割合は、特に制限されないが、原料ポリエステル中の割合として10〜100重量%の範囲が好ましい。
【0018】
本発明における基材フィルムは、フィルム表面の突起を形成する添加粒子、析出粒子、その他の触媒残渣を用途に応じて当業者が常用する量の範囲で含有していてもよい。また、上記の突起形成剤以外の添加剤として、必要に応じて、帯電防止剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、着色剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤などを含有していてもよい。
【0019】
基材フィルムの厚みとしては、機械強度、透明性等、所望の目的に応じて任意の膜厚のものを使用することができる。特に限定されないが、通常は5〜250μmであることが推奨され、包装材料として用いる場合は10〜60μmであることが望ましい。
【0020】
また本発明における基材フィルムは、1種または2種以上のプラスチックフィルムの積層型フィルムであってもよい。積層型フィルムとする場合の積層体の種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
【0021】
[被覆層]
本発明における被覆層に用いる樹脂混合物は、オキサゾリン基含有量が5.1〜10.0mmol/gであるオキサゾリン基含有水溶性ポリマーを10〜80重量%、水性アクリル系樹脂を10〜80重量%、水性ポリウレタン系樹脂および/または水性ポリエステル系樹脂を10〜70重量%の割合で含有する。
【0022】
上記オキサゾリン基はその極性から特に金属酸化物といった無機薄膜との親和性が高く、無機薄膜層形成時に金属酸化物との良好な密着性を示す。また、被覆層中に存在する未反応のオキサゾリン基は、基材フィルムおよび被覆層の加水分解により発生したカルボン酸末端と反応し、架橋を形成する。いわば、加水分解による無機薄膜層との密着性の低下を自己修復により防止できる。以上の効果により、レトルト時でも無機薄膜層・被覆層・基材フィルム間の密着性が強固になり、結果として薄膜のひび割れや劣化を防止でき、ガスバリア性およびラミネート強度を維持する効果を持つ。
【0023】
(オキサゾリン基を有する樹脂)
オキサゾリン基を有する樹脂としては、オキサゾリン基を有する重合体、例えばオキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体を、必要に応じその他の重合性不飽和単量体と従来公知の方法(例えば溶液重合、乳化重合等)によって共重合させることにより得られる重合体を挙げることができる。
【0024】
オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどを挙げることができる。
【0025】
上記のその他の重合性不飽和単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜24個のアルキルまたはシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数2〜8個のヒドロキシアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上適宜選択される。
【0026】
本発明で用いられるオキサゾリン基を有する樹脂は水溶性樹脂であることで、他の樹脂との相溶性や基材フィルムへの濡れ性が向上し、他の樹脂との架橋反応効率も上がるこおで被覆層の透明性も向上する。
【0027】
オキサゾリン基を有する樹脂を水溶性にするために、他の重合性不飽和単量体として親水性単量体を含有させるのが好ましい。親水性単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールのモノエステル化合物等のポリエチレングリコール鎖を有する単量体、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。なかでも、水への溶解性の高い(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールのモノエステル化合物等のポリエチレングリコール鎖を有する単量体を含有していることが好ましい。
【0028】
本発明では、オキサゾリン基を有する樹脂は、その他の樹脂と反応、結合し、最終的に硬化することで、被覆層の凝集力を向上させる。
その他の樹脂としては、前述したアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂であり、それぞれの樹脂はカルボン酸基を多量に含有し、酸価が高いものが好ましい。
【0029】
また、本発明に用いるオキサゾリン基を有する化合物のオキサゾリン含有量は、5.1〜9.0mmol/gであることが好ましい。これまで5.0mmol/g程度までのオキサゾリンが使用されている例がみられるが(例えば、特許文献8参照)が、オキサゾリン基量が大きいことにより他樹脂に含まれるカルボン酸等の官能基との架橋反応が促進され、より耐熱水性が得られる。さらに分子当たりのオキサゾリン基含有量を増加させることは、低オキサゾリン基量化合物の添加量増加によりオキサゾリン基の総量を増加させる場合に比べて、より優れた耐熱水性向上効果が得られる。
【0030】
また、本発明に用いるオキサゾリン基を有する化合物の数平均分子量Mnは1×10〜10×10であることが好ましい。より好ましくは2×10〜8×10の範囲である。1×10未満であると熱水処理により被覆層、および無機蒸着層が動きやすくなり、処理後のバリア低下が大きくなる傾向がり、10×10を超えると水溶液としての粘度が高く均一な塗布液調合の際に扱い難い他、塗膜が不均一になる傾向がある。
造ができることで被覆層の凝集力が向上し、耐水性をより向上させることができる。
【0031】
前記オキサゾリンを有する樹脂は前記樹脂混合物中に10〜80重量%含まれるが、好ましく13〜70重量%、より好ましくは15〜60重量%の範囲である。オキサゾリン基含有水溶性ポリマーの配合割合が10重量%未満の場合はオキサゾリン基による架橋が不十分であり、80重量%を超える場合は被覆層の耐熱水性および耐溶剤性が不十分である他、被覆層の透明性が悪化する傾向がある。
【0032】
オキサゾリン基含有水溶性ポリマーの重合方法としては、例えば、オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体と必要に応じて少なくとも1種のその他の重合性不飽和単量体とベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の重合開始剤とを水溶性有機溶剤に溶解して加熱する方法が挙げられる。オキサゾリン基含有ポリマーの水溶性塗料は、得られた重合体溶液に水を加えて加熱蒸留し、一部または全部の溶剤を除去することにより得られる。また、上記の水溶性ポリマーの重合方法は、n−ブチルリチウム等を触媒として使用するアニオン重合方法であってもよい。
【0033】
前記の水性アクリル系樹脂は、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレートを主要な成分とする樹脂であり、具体的には、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレート成分の含有割合が通常40〜95モル%、共重合可能で且つ官能基を有するビニル単量体成分の含有割合が通常5〜60モル%の水溶性または水分散性樹脂である。
【0034】
上記のビニル単量体における官能基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基またはその塩、アミド基またはアルキロール化されたアミド基、アミノ基(置換アミノ基を含む)、アルキロール化されたアミノ基またはそれらの塩、水酸基、エポキシ基などが挙げられ、特に、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基などが好ましい。これらの基は、樹脂中に2種類以上含有されていてもよい。
【0035】
前記の水性アクリル系樹脂において、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレートの含有量を40モル%以上にすることにより、塗布性、塗膜の強度、耐ブロッキング性が特に良好になる。そして、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレートを95モル%以下とし、共重合成分として特定の官能基を有する化合物を水性アクリル系樹脂に5モル%以上導入することにより、水溶化ないし水分散化を容易にすると共にその状態を長期にわたり安定化することが出来る。その結果、被覆層とポリエステルフィルム層との接着性の改善、被覆層内での反応による被覆層の強度、耐水性、耐薬品性の改善などを図ることが出来る。
【0036】
上記のアルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートのアルキル基としては、例えば、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。カルボキシル基や酸無水物などを有する化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸など、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、さらに、無水マレイン酸が挙げられる。スルホン酸基またはその塩を有する化合物としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、これらスルホン酸のナトリウム等の金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0037】
上記のアミド基またはアルキロール化されたアミド基を有する化合物としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、メチロール化アクリルアミド、メチロール化メタクリルアミド、ウレイドビニルエーテル、β−ウレイドイソブチルビニルエーテル、ウレイドエチルアクリレート等が挙げられる。
【0038】
上記のアミノ基やアルキロール化されたアミノ基またはそれらの塩を有する化合物としては、例えば、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、2−アミノエチルビニルエーテル、3−アミノプロピルビニルエーテル、2−アミノブチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、それらのアミノ基をメチロール化したもの、ハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、サルトン等により4級化したもの等が挙げられる。
【0039】
上記の水酸基を有する化合物としては、例えば、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、β−ヒドロキシプロピルアクリレート、β−ヒドロキシプロピルメタクリレート、β−ヒドロキシビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。エポキシ基を有する化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0040】
更に、併用し得る化合物としては、例えば、アクリロニトリル、スチレン類、ブチルビニルエーテル、マレイン酸モノ又はジアルキルエステル、フマル酸モノ又はジアルキルエステル、イタコン酸モノ又はジアルキルエステル、メチルビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
前記混合樹脂中の水性アクリル系樹脂の配合割合は、通常10〜80重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲とされる。水性アクリル系樹脂の配合割合が10重量%未満の場合は、耐水性、耐溶剤性の効果が十分に発揮されない傾向にあり、80重量%を超える場合は、バリア層の接着性が悪化する傾向にある。そして、水性アクリル系樹脂は、好ましくは後述の水性ポリウレタン系樹脂及び/またはポリエステル系樹脂と共に使用される。
【0042】
水性アクリル系樹脂は、オキサゾリン基含有水溶性ポリマーに加えることにより、被覆層全体として耐水性や耐溶剤性を向上する。従って、レトルト等の熱水処理による被覆層上無機薄膜の破壊を抑制する効果があると考えられる。
【0043】
前記の水性ポリウレタン系樹脂は、特に制限されないが、低分子の親水性分散剤などを含有しないものが好適に使用される。水性ポリウレタン系樹脂は、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを常法に従って反応させることにより製造される水溶性または水分散性樹脂である。水性ポリウレタン系樹脂は、水媒体との親和性を高めるため、カルボキシル基またはその塩(以下、単にカルボキシル基と省略)を含有するもの等を用いることができる。
【0044】
上記のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。
【0045】
上記のポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などが挙げられる。
【0046】
上記の飽和ポリエステルのジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、p−キシレンジオール等の芳香族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリ(オキシアルキレン)グリコール等が挙げられる。
【0047】
水性ポリエステル系樹脂は、水媒体との親和性を高めるため、カルボキシル基などの親水基を含有するものが好ましい。また、このカルボキシル基は先述のとおりオキサゾリンとの架橋反応により被覆層の凝集を高める働きも持つ。飽和または不飽和ポリエステルの側鎖へのカルボキシル基の導入は、カルボン酸を有するジオキサン化合物をポリエステルと反応させる方法、不飽和カルボン酸をポリエステルにラジカル的にグラフトする方法、ポリエステルとハロゲノ酢酸を反応させて芳香族環に置換基を導入する方法、ポリエステルと多価無水カルボン酸化合物とを反応させる方法等により容易に行うことが出来る。
【0048】
水性ポリエステル系樹脂のカルボキシル基は対イオンを有していてもよく、斯かる対イオンとしては、通常一価イオン、好ましくは水素イオン又はアンモニウムイオンを含むアミン系オニウムイオンが挙げられる。
【0049】
前記混合樹脂中の水性ポリエステル系樹脂及び/または水性ポリエステル系樹脂の配合割合は、通常10〜70重量%、好ましくは10〜50重量%の範囲とされる。水性ポリエステル系樹脂の配合割合が10重量%未満、70重量%を超える場合にはいずれも、耐水性を悪化させる傾向にある。
【0050】
本発明における塗布液は、被覆層の接着性、耐水性、耐溶剤性、機械的強度の改良のため、架橋剤として、例えば、エポキシ系、メチロール化またはアルキロール化した尿素系、メラミン系、グアナミン系、アクリルアミド系、ポリアミド系などの化合物、アジリジン化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコーアルミネートカップリング剤、過酸化物、光反応性のビニル化合物や感光性樹脂などを接着性を悪化させない範囲内で少量含有していてもよい。
【0051】
従来、無機薄膜層と基材フィルムあるいは被覆層を設けた積層フィルムとの密着性が不十分であると、無機薄膜層を形成した積層体をレトルト処理した時の湿熱環境下では層間に水が入り込み、無機薄膜層との界面での剥離が生じる。この剥離部分をきっかけとして無機薄膜層に割れや浮きが生じる結果、バリア性およびラミネート強度が低下してしまう。
【0052】
また、レトルト処理時の層間剥離は基材フィルムと被覆層との間にも起こる。すなわち、レトルト処理時には、基材フィルムを構成する例えばポリエステル樹脂などのプラスチックまたは被覆層中の樹脂が加水分解し結合が分断される。その結果、基材フィルムと被覆層との間の密着性不良が起こり、上記同様にガスバリア性およびラミネート強度が低下する原因となる。
【0053】
これらの問題に対し、本発明に無機薄膜層を形成した積層体は、上記態様により、レトルト処理後も蒸着フィルムのガスバリア性および層間密着性を維持することができる。
【0054】
次に、被覆層の構成に関して詳細に説明する。
【0055】
前記被覆層の厚みは、ガスバリア性、経済性、層間密着性、透明性の観点から0.01μm以上、5μm以下である必要があり、0.02μm以上3μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.03μm以上1μm以下である。被覆層の厚みが0.01μm未満の場合は被覆層の厚みが不均一になったり被覆抜けなどの欠陥が生じ易くなる、基材フィルムとの十分な層間密着性が得られない、レトルトによるバリア性の悪化が大きいなどの傾向があり、5μmを超えると、フィルムの透明性悪化、製造コスト増加で経済性が悪くなるなどの問題が生じる。
【0056】
前記混合樹脂を硬化させる方法は例えばコート法を採用し、コートの途中あるいはその後で加熱することが例示できる。
コート法の中でも好適な方法としてオフラインコート法、インラインコート法があり、例えば、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター又はこれら以外の塗布装置を使用する方法が挙げられる。基材フィルムを製造する工程で行うインラインコート法の場合、コート時の乾燥、熱処理の条件はコート厚み、装置の条件にもよるが、コート後直ちに直角方向の延伸工程に送入し、延伸工程の予熱ゾーンあるいは延伸ゾーンで乾燥させることが好ましい。このような場合、通常50〜250℃程度で行う。
なお、基材フィルムにコロナ放電処理、その他の表面活性化処理を施してもよい。
【0057】
更に必要であれば、被覆層中に、静電防止剤や滑り剤、アンチブロッキング剤などの公知の無機、有機の各種添加剤を含有させるとは本発明の目的を阻害しない限り任意である。
【0058】
[無機薄膜層]
本発明の積層フィルムは被覆層のさらにその上に無機薄膜層を積層した積層体として用いることが好ましい。無機薄膜層には無機酸化物、例えばシリカ、アルミナ、またはアルミナとシリカの混合物が用いられる。特に、薄膜層の柔軟性と緻密性を両立できる点から、アルミナとシリカの複合酸化物を用いることが好ましい。アルミナとシリカの混合比は、金属分の重量比で、Alが、20〜70%の範囲が好ましい。Al濃度が、20%以下であると、十分な水蒸気バリア性を得ることが出来ず、70%以上であると、無機薄膜層が硬くなり、印刷やラミネートといった二次加工において、バリア膜が破壊され、バリア性が低下する問題が懸念される。
【0059】
本発明の積層体において、無機薄膜層の膜厚は通常1〜800nm、好ましくは5〜500nmである。膜厚が1nm未満では満足のいくガスバリア性が得られ難く、また、800nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上の効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0060】
無機薄膜層を形成する典型的な製法を酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜の形成により説明すると、蒸着法による無機薄膜形成法としては真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法、あるいはCVD法(化学蒸着法)などが適宜用いられる。
例えば真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiOとAlの混合物、あるいはSiOとAlの混合物などが用いられる。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱などを採用することができ、また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気などを導入したり、オゾン添加、イオンアシストなどの手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。
さらに、積層フィルムにバイアスを印加したり、積層フィルムを加熱したり冷却するなど、成膜条件も任意に変更することができる。上記蒸着材料、反応ガス、基板バイアス、加熱・冷却などは、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。
【0061】
なお、蒸着後に接着性や耐水接着性、耐擦傷性、更なるクラック抑制機能などを付与するため、蒸着面に樹脂保護層を設けてもよい。
【0062】
本発明により、レトルト処理後の酸素バリア性、水蒸気バリア性に優れ、かつ層間密着性が高くラミネート強度に優れた積層体を得ることができる。
【0063】
[ヒートシール性樹脂層]
本発明の積層体は、通常包装材料として使用するため、無機薄膜層上にシーラントと呼ばれるヒートシール性樹脂層が形成して用いられることが多い。ヒートシール性樹脂層の形成は、通常押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。ヒートシール性樹脂層を形成する熱可塑性重合体としては、シーラント接着性が十分に発現できるものであればよく、HDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン樹脂類、PP樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂などを使用できる。
【0064】
本発明により、レトルト処理後の酸素バリア性、水蒸気バリア性に優れ、かつ層間密着性が高くラミネート強度に優れた積層体を得ることができる。
【0065】
また、太陽電池用として用いる場合は、本発明のガスバリア性積層フィルムに、フッ素系フィルムや耐加水分解性ポリエステルフィルム等の耐候性フィルム、光反射性白色フィルム、黒色系の着色フィルム等を積層してバックシートとして用いることができる。
あるいは、本発明のガスバリア性積層フィルム同士をガスバリア性樹脂組成物層が内側になるように積層して用いることもできる。
太陽電池受光面側のフィルムとして用いる場合には、本発明のガスバリア性積層フィルムに防汚コート、反射低減コート、防眩コート、ハードコート等を設けたり、これらのコートを施した他のフィルムを積層しても良い。また、有機ELや電子ペーパー等の用途の場合にも防汚コート、反射低減コート、防眩コート、ハードコート等を設けたり、これらのコートを施した他のフィルムを積層しても良い。これらの他のコート及び他のフィルムは本発明のガスバリア性積層フィルムのどちらの面の設けても良い。
【実施例】
【0066】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は当然以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた評価方法は以下の通りである。
【0067】
(1)ラミネート積層体の作成
実施例、比較例で得られた積層体の無機薄膜層の上に、ウレタン系2液硬化型接着剤を用いてドライラミネート法により熱接着性樹脂として厚み70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績株式会社製、P1146)を貼り合わせ、40℃にて4日間エージングして実施例1〜10、比較例1〜10のラミネートガスバリア性積層フィルムを得た。
【0068】
(2)水蒸気透過度
上記(1)で作成したラミネート積層体を所定温度、所定時間のレトルト処理後、40℃にて1日間乾燥後、JIS K7129 B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN−W3/33MG MOCOM社製)を用い、温度40℃、湿度100%RHの雰囲気下で水蒸気透過度を測定した。なお、ガスバリア性フィルムへの調湿は、基材層側からガスバリア層側に水蒸気が透過する方向とした。
【0069】
(3)酸素透過度
上記(1)で作成したラミネート積層体を所定温度、所定時間のレトルト処理後、40℃にて1日間乾燥後、JIS K7126 B法に準じて、酸素透過度測定装置(OX−TRAN 2/20 MOCOM社製)を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で酸素透過度を測定した。
【0070】
(4)ラミネート強度の測定方法
上記(1)で作成したラミネート積層体を所定温度、所定時間のレトルト処理後、ラミネート積層体を幅15mm、長さ200mmに切り出して試験片とし、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、東洋ボールドウィン社製の「万能引張試験機(STM−T−50BP)」を用いてラミネート強度測定した。なお、引張速度は200mm/分、ガスバリア性積層フィルム層と無延伸ポリプロピレンフィルム層との層間に水を付けて剥離角度90度で剥離したときの強度を測定した。
【0071】
(5)被覆層の平均厚みの測定
当該試料を斜め切削し、被覆層表面から被覆層/基材フィルム界面の高さ測定をSPMで行うことにより、膜厚測定を実施した。
【0072】
ダイプラウインテス社製SAICAS NN04を使用して斜め切削を実施した。切刃にはダイアモンドナイフを使用し、水平速度500nm/s、垂直速度20nm/sで斜め切削を行った。(切削速度は試料によって最適条件を選ぶため、本条件に限らない。)被覆層/基材フィルム界面は、被覆層と基材フィルムの物性が異なるため、切削角度が界面で変化することや、SPMによる位相像でコート層と基材でコントラストが変化すること、被覆層と基材フィルムでは切削面の凹凸状態が変化することなどから容易に認識することが可能である。
【0073】
斜め切削面は走査型プローブ顕微鏡SPMを用いて観察した。SPMはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPA300(Nanonaviプローブステーション)を使用した。カンチレバーは同社から提供されるDF3又はDF20を使用し、観察モードはDFMモードを使用した。観察は被覆層表面及び斜め切削面が1視野内に入るように実施し、被覆層表面の平坦化処理を行うことにより、観察像の傾き補正を実施した。平坦化処理はSPM付属のソフトウエアの機能であるマニュアル傾き補正を使用し、X方向・Y方向の傾き補正を行った。なお、被覆層/基材フィルム界面は観察視野全体の平坦化処理(ソフトウエアの機能である、2次傾き補正等)を行った像から、切削法の欄で記述した方法で決定した。
【0074】
(6)固有粘度
JIS K 7367−5に準拠し、溶媒としてフェノール(60質量%)と1,1,2,2−テトラクロロエタン(40質量%)の混合溶媒を用い、30℃で測定した。
【0075】
(7)数平均分子量
樹脂0.03gをテトラヒドロフラン10mlに溶かし、GPC−LALLS装置低角度光散乱光度計LS−8000(東ソー株式会社製、テトラヒドロフラン溶媒、リファレンス:ポリスチレン)を用い、カラム温度30℃、流量1ml/分、カラム(昭和電工社製shodex KF−802、804、806)を用い、数平均分子量を測定した。
【0076】
樹脂A―1:
オキサゾリン基含有水溶性ポリマー(オキサゾリン基含有量7.7mmol/g)の10重量%水溶液として、日本触媒(株)社製「エポクロスWS−300」を使用した。
【0077】
樹脂A−2:
オキサゾリン基含有水溶性ポリマー(オキサゾリン基含有量4.5mmol/g)の40重量%溶液(水/1−メトキシ−2−イソプロパノール=1/2容量比)として、日本触媒(株)社製「エポクロスWS−500」を使用した。
【0078】
樹脂A−3:
オキサゾリン基含有水性ポリマー(オキサゾリン基含有量1.8mmol/g)の40重量%水分散体として、日本触媒(株)社製「エポクロスK2030E」を使用した。
【0079】
樹脂B−1:
アクリル酸エステル共重合体の25重量%エマルジョンとして、ニチゴー・モビニール(株)社製「モビニール7980」を使用した。
【0080】
樹脂B−2:
水溶性アクリル樹脂の44重量%水溶液として、大成ファインケミカル(株)社製「3PX−299」を使用した。
【0081】
樹脂C−1:
水分散ポリウレタン樹脂の30%の水分散液として、三井化学ポリウレタン(株)社製「タケラックW−605」を使用した。
【0082】
樹脂C−2:
自己架橋型ポリウレタン樹脂の43%の水分散液として、日華化学(株)社製「ネオステッカー1700」を使用した。
【0083】
樹脂C−3:
アクリルグラフトポリエステル樹脂の25%の水分散液として、竹本油脂(株)社製「AGN201」を使用した。
【0084】
(2)ポリエステル基材フィルムの製造および塗布液のコート
極限粘度0.62(30℃、フェノール/テトラクロロエタン=60/40)のポリエチレンテレフタレート樹脂を予備結晶化後,本乾燥し,Tダイを有する押出し機を用いて280℃で押出し,表面温度40℃のドラム上で急冷固化して無定形シートを得た。次に得られたシートを加熱ロールと冷却ロールの間で縦方向に100℃で4.0倍延伸を行った。そして、得られた一軸延伸フィルムの片面に,表1実施例1に示す成分を含有する塗布液をファウンテンバーコート法によりコートした。乾燥しつつテンターに導き、100℃で予熱、120℃で4.0倍横方向に延伸し、6%の横方向の弛緩を行いながら225℃で熱処理を行い、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに被覆層が形成された積層フィルムを得た。
【0085】
(3)蒸着
次に(2)で得られた積層フィルムの被覆面へ蒸着するために、蒸着源として、3mm〜5mm程度の粒子状SiO(純度99.9%)とAl(純度99.9%)を用いて、電子ビーム蒸着法で、得られた塗布フィルム上に酸化アルミニウムと二酸化ケイ素の複合無機酸化物層の形成を行った。
【0086】
(実施例2〜9、比較例1〜10)
塗布液を変更あるいは塗布しない以外は、実施例1と同様の手順でサンプル作製、評価を行なった。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(4)太陽電池バックシート用積層シートの作製
(4)−1.原料ポリエステル樹脂の重合
(ポリエステル樹脂(a)の重合)
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、高純度テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.03質量部、トリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kg/cm、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻した。
15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃の減圧下で固有粘度が0.65dl/gに到達するまで重縮合反応を行った。
重縮合にて得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従ってチップ化しポリエステルを得た。この際、溶融樹脂が約275℃に保たれ状態で濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は5μmステンレス焼結体フィルターで樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行った。
【0089】
(ポリエステル樹脂(b)の重合)
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、高純度テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.03質量部、トリエチルアミンを0.16質量部と平均粒径2.5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、生成PETに対し、2000ppmとなるよう添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kg/cm、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻した。
15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃の減圧下で固有粘度が0.65dl/gに到達するまで重縮合反応を行った。
重縮合にて得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従ってチップ化しポリエステルを得た。この際、溶融樹脂が約275℃に保たれ状態で濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は20μmステンレス焼結体フィルターで樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行った。
【0090】
(4)−2.ポリエステル基材フィルムの製造
ポリエステル樹脂(a)及びポリエステル樹脂(b)をそれぞれ回転型真空重合装置を用い、0.5mmHgの減圧下、220℃で固相重合を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を得た。
【0091】
基材フィルムの中間層用原料としてポリエステル樹脂(A)を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層B層用)に、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を平均粒径2.5μmのシリカ粒子濃度が0.06質量%になるように配合し、押出機1(外層A層用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2つのポリエステル樹脂を、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、A層/B層/A層の厚さの比は1.5:7:1.5となるように各押し出し機の吐出量を調整した。また、この時の押し出し機内における溶融樹脂の滞留時間は15分間であった。次にこの未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後、周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。
【0092】
得られた一軸配向PETフィルムを引き続き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.3倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、最高温度235℃で熱固定処理し、30℃の冷却工程で幅方向に3%の緩和処理を行なった。尚、予熱工程、横延伸工程、熱固定工程における炉内の熱風風速は20m/秒とし、冷却工程の冷却風風速は10m/秒とした。また、熱風及び冷却風は濾過精度1μmのフィルターを通して循環させた。こうして厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに被覆層が形成されたフィルムを得た。
【0093】
(4)−3.積層シートの作製
実施例1及び比較例1記載のガスバリア性積層フィルム、ポリエステル基材フィルムを21cm×30cmに切り、ガスバリア性積層フィルムとポリエステル基材フィルムとをガスバリア性樹脂組成物層が内側になるように2枚重ね合わせて、ドライラミネーションした。
接着剤はドライラミネーション用ポリウレタン接着剤(大日本インキ社製 製品名:LX951/KMW70)を使い、接着剤量は3.5g/mとした。エージング条件としては、室温エージング1日後、40℃でのエージングを1日施した。
【0094】
(4)−4.評価
得られた積層シートに対して、121℃、100%RH、30分間処理後、40℃にて1日間乾燥した。湿熱処理前および湿熱処理後の試料について、JIS K7129 B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN‐W3/33MG MOCOM社製)を用い、温度40℃、湿度100%RHの雰囲気下で水蒸気透過度を測定した。なお、積層シートへの調湿は、基材層側から無機薄膜層側に水蒸気が透過する方向とした。
結果を表2に示した。
【0095】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明により、無機薄膜を形成した積層体としレトルト処理した後も酸素バリア性、水蒸気バリア性に優れ、かつ層間密着性が高くラミネート強度に優れた積層体を得ることができる。また、生産安定性および経済性に優れ、均質の特性が得られやすいガスバリア性積層体となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材フィルムの少なくとも片面に被覆層が形成され、当該被覆層が、オキサゾリン基含有量が5.1〜9.0mmol/gであるオキサゾリン基含有水溶性ポリマーを10〜80重量%、水性アクリル系樹脂を10〜80重量%、水性ポリウレタン系樹脂および/または水性ポリエステル系樹脂を10〜70重量%の割合で含有する樹脂混合物を硬化させてなり、かつ被覆層の厚みが0.01μm以上、5μm以下であることを特徴とする無機薄膜形成用の積層フィルム。
【請求項2】
請求項1記載のオキサゾリン基含有水溶性ポリマーの重量平均分子量Mwが1×10〜10×10であることを特徴とする無機薄膜形成用の積層フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層フィルムの被覆層の上に無機薄膜層を積層してなることを特徴とする積層フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の積層フィルムであって、無機薄膜層が、アルミナ、シリカの混合物であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項5】
被覆層が、塗布液の塗布後に少なくとも1方向に延伸して形成されたものである請求項1〜4の何れかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の積層フィルムの無機薄膜層側にポリエステル基材フィルムを積層したことを特徴とする太陽電池バックシート用積層体。

【公開番号】特開2011−224981(P2011−224981A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68080(P2011−68080)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】