説明

積層体とバリア性フィルム基板の製造方法、バリア材料、デバイスおよび光学部材

【課題】有機層と無機層の密着性が十分に高くて、バリア性に優れている有機無機積層型の積層体を簡便な方法で提供する。
【解決手段】少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体の製造法であって、無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させる工程と、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を吸着させた無機層上に有機層を設置する工程を含む積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機無機積層型の積層体に関し、詳しくは特定の製造方法にしたがって製造することによりバリア性を高め、有機層と無機層の密着性を向上させた有機無機積層型の積層体に関する。さらに本発明は、この積層体を含むバリア性フィルム基板、および、前記バリア性フィルム基板を用いたデバイスおよび光学部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や有機EL素子(有機電界発光素子)等の分野においては、重くて割れやすいガラス基板に代わって、プラスチックフィルム基板が採用され始めている。例えば、プラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、プラスチックフィルム上に酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)が知られている。プラスチックフィルム基板はロールトゥロール(Roll to Roll)方式に適用可能であることから、コストの点でも有利である。しかし、プラスチックフィルム基板はガラス基板と比較して水蒸気バリア性に劣るという問題がある。このため、プラスチックフィルム基板を液晶表示素子に用いると、水蒸気が液晶セル内に侵入し、表示欠陥が発生しやすい。
【0003】
この問題を解決するために、プラスチックフィルム上に有機層と無機層の積層体を形成したバリア性フィルム基板が開発されている。このような有機無機積層型のバリア性フィルム基板として、水蒸気透過率が0.1g/m2/day未満を実現するもの(例えば、特許文献3および4参照)や、水蒸気透過率が0.01g/m2/day未満を実現するもの(例えば、特許文献5参照)が提案されている。しかしながら、有機無機積層型のバリア性フィルム基板には、有機層と無機層の密着性が悪く、バリア性フィルム基板にかかる力学的な応力や、デバイス製造時のパターニングや洗浄の際に生じる有機層の膨張や収縮によって、無機層が破壊されたり、有機層と無機層が剥離したりするという問題があった。
【0004】
このような問題に対処するために、有機層に混合されたシランカップリング剤によって無機層との密着性を上げる方法が提案されている(特許文献6参照)。ここでは、無機層の上に、シランカップリング剤を含むアクリル系樹脂の溶液を塗布することにより有機層を形成している。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭58−217344号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献3】特開2003−335880号公報
【特許文献4】特開2003−335820号公報
【特許文献5】特開2005−7741号公報
【特許文献6】特開2001−125079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法を追試したところ、有機層と無機層の密着性は十分な程度にまで向上しておらず、有機EL素子などのデバイスに用いるにはなお一層の密着性の向上が必要であることが判明した。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、有機層と無機層の密着性が十分に高くて、バリア性に優れている有機無機積層型の積層体やバリア性フィルム基板を簡便な方法で提供することを第一の目的として検討を進めた。また、本発明者らは、これらの積層体やバリア性フィルム基板を用いて、耐久性が高いデバイスや光学部材を提供することを第二の目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、有機層と無機層の密着性を大きく向上させるためには、特定の条件で製造することが必要であることを見出した。また、そのような特定の条件で製造することにより、驚くべきことにバリア性も一段と向上することが判明した。これらの知見に基づいて、本発明者らは以下に記載する本発明を提供するに至った。
[1] 少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体の製造方法であって、無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させる工程と、前記有機カップリング剤を吸着させた無機層上に有機層を設置する工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
[2] 前記有機カップリング剤が珪素原子を含むことを特徴とする[1]に記載の積層体の製造方法。
[3] 前記有機カップリング剤が下記一般式(1)で表されることを特徴とする[2]に記載の積層体の製造方法。
一般式(1)
(R1m−Si−(R2n
[上式において、R1はハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルケニル基、炭素数6以下のアルコキシ基、炭素数6以下のアシルオキシ基、炭素数6以下のジアルキルアミノ基を表し、R2は炭素数2以上の有機基を表す。mは1〜3の整数であり、nは4−mの整数である。mが2または3であるとき、2つまたは3つのR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、nが2または3であるとき、2つまたは3つのR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[4] 一般式(1)のmが3であり、nが1であることを特徴とする[3]に記載の積層体の製造方法。
[5] 一般式(1)のR2がエチレン性二重結合を含む有機基であることを特徴とする[3]または[4]に記載の積層体の製造方法。
[6] 一般式(1)のR2が(メタ)アクリレート基を含む有機基であることを特徴とする[3]または[4]に記載の積層体の製造方法。
[7] 前記有機層の設置を、モノマー含有層を形成した後に該モノマーを重合することにより行うことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
[8] 前記モノマーとして(メタ)アクリレートモノマーを用いることを特徴とする[7]に記載の積層体の製造方法。
【0007】
[9] 無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させたことを特徴とするバリア材料。
[10] 無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤が吸着した構造を有することを特徴とするバリア材料。
[11] 無機層の表面から1nmの深さまでの領域における、前記有機カップリング剤に由来する珪素原子またはチタン原子の濃度が3原子%以上であることを特徴とする[9]または[10]に記載のバリア材料。
[12] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法により製造される積層体。
[13] 無機層の有機層に対する界面から1nmの深さまでの領域における、前記有機カップリング剤に由来する珪素原子またはチタン原子の濃度が3原子%以上であることを特徴とする[12]に記載の積層体。
[14] 基材フィルム上に無機層を形成し、さらに[1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法により積層体を形成する工程を含むことを特徴とするバリア性フィルム基板の製造方法。
[15] [14]に記載の製造方法により製造されたバリア性フィルム基板。
【0008】
[16] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を用いたデバイス。
[17] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
[18] 前記デバイスが有機EL素子である[16]または[17]に記載のデバイス。
[19] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造により製造された積層体を封止フィルムとして用いた光学部材。
[20] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の製造方法により、基板上に積層体を設ける工程を含むデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体やバリア性フィルム基板は、有機層と無機層の密着性が高くて、水蒸気透過率が低いという特徴を有する。このような特徴を有する積層体やバリア性フィルム基板は、本発明の製造方法によれば簡便に製造することができる。本発明のデバイスや光学部材は、十分な耐久性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明の積層体とバリア性フィルム基板の製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
<積層体とその製造方法>
(基本構成と特徴)
本発明の積層体は、無機層の上に有機層を積層した構造を含む積層体であり、無機層と有機層の間に有機カップリング剤が用いられていることを特徴とする。本発明の積層体の製造方法は、無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させる工程と、前記有機カップリング剤を吸着させた無機層上に有機層を設置する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。この中では、無機層形成時の基材フィルム等への熱の影響を回避することができ、生産速度が速く、均一な薄膜層を得やすい点で、物理的気相成長法(PVD)や化学的気相成長法(CVD)を用いることが好ましい。
【0013】
無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
【0014】
本発明により形成される無機層の平滑性は、10μm角の平均粗さ(Ra値)として2nm未満であることが好ましく、1nm以下がより好ましい。このため、無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
無機層の平滑性は、PHI(Physical Electronics USA Inc.)社製X線光電子分光法装置Quantera SXM(X線源Al-Kα)を用いて加速電圧3kVで Arエッチングし、内部組成を分析をすることで測定することができる。また、10μm角の平均粗さ(Ra値)は、市販の原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。
【0015】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内である。無機層の厚みは、好ましくは20〜200nmであり、より好ましくは30〜90nmである。無機層の厚みは、前記のX線光電子分光法装置Quantera SXMを用いて前記と同様の内部組成を分析をすることで測定することができる。
本発明では、無機層の上に有機層を形成した後、さらに有機層の上に無機層を形成してもよい。また、さらに有機層と無機層の交互積層を繰り返して、複数の無機層を形成してもよい。これらの場合、各無機層は同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上の無機層を形成する場合は、各無機層の上に有機層を形成する際に、本発明の製造方法を適用することができる。なお、本発明の積層体には、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されるような有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層が存在していてもよい。
【0016】
(有機カップリング剤)
本発明の製造方法では、無機層の表面に有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させる。本発明で用いる有機カップリング剤は、珪素原子またはチタン原子を含む化合物である。すなわち、シランカップリング剤かチタンカップリング剤を用いるが、好ましくはシランカップリング剤を用いる。
【0017】
本発明で用いるシランカップリング剤は、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
一般式(1)
(R1m−Si−(R2n
[上式において、R1はハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルケニル基、炭素数6以下のアルコキシ基、炭素数6以下のアシルオキシ基、炭素数6以下のジアルキルアミノ基を表し、R2は炭素数2以上の有機基を表す。mは1〜3の整数であり、nは4−mの整数である。mが2または3であるとき、2つまたは3つのR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、nが2または3であるとき、2つまたは3つのR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0018】
一般式(1)において、R1は好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基であり、より好ましくはアルコキシ基である。R1がハロゲン原子以外である場合、炭素数は好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4である。一般式(1)において、R1が複数存在する場合は、R1は互いに同一であっても異なっていても構わないが、好ましいのは同一である場合である。
【0019】
一般式(1)において、R2で表される有機基の炭素数は、好ましくは2〜18であり、より好ましくは3〜14であり、さらに好ましくは4〜10である。有機基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルケニルカルボニルオキシ基などを挙げることができる。これらの例示有機基は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、例えばアミノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、グリシジル基、イソシアナート基、ヒドロキシル基、アクリロイルオキシプロピルアミノ基などを挙げることができる。R2で表される有機基として好ましいのはエチレン性二重結合を含む有機基であり、さらに好ましくは(メタ)アクリレート基を含む有機基である。また、R2で表される有機基に含まれるエチレン性二重結合は、有機層を形成する際に用いるモノマーに含まれるエチレン性二重結合と同じであることが好ましい。特に好ましくは、R2で表される有機基に含まれるエチレン性二重結合は、有機層を形成する際に用いるモノマーに含まれるエチレン性二重結合が、ともに(メタ)アクリレート基である場合である。一般式(1)において、R2が複数存在する場合は、R2は互いに同一であっても異なっていても構わないが、好ましいのは同一である場合である。
【0020】
一般式(1)において、mは1〜3の整数であり、nは4−mの整数であるが、好ましくはmが2または3であり、nが1または2である場合であり、より好ましくはmが3であり、nが1である場合である。
【0021】
本発明の製造方法では、有機カップリング剤として1種類の化合物を単独で用いてもよいし、2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。好ましいのは、1種類の化合物を単独で用いる場合である。
【0022】
以下に本発明で用いることができる有機カップリング剤の具体例を挙げるが、本発明で用いることができる有機カップリング剤はこれらの具体例に限定されるものではない。また、珪素原子やチタン原子に類する原子を含む有機カップリング剤も使用可能であるが、好ましいのは珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤である。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
本発明における有機カップリング剤の使用量は、無機層表面に対して単分子層が生成する量であれば良い。典型的には1平方メートル当たり0.01mg〜100mgであることが好ましく、0.05mg〜50mgであることがより好ましく、0.1mg〜10mgであることがさらに好ましい。無機層表面から1nmの深さまでの領域における、有機カップリング剤に由来する珪素原子またはチタン原子の水素原子を除く全原子中に占める割合は1原子%以上であり、3原子%以上が好ましい。
【0026】
(気相分子堆積法)
本発明の製造方法では、無機層の表面に有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させる。
気相分子堆積法とは、有機カップリング剤を気相から供給し、無機材料表面に反応させ、単分子層を形成する反応手法のこと意味する。気相分子堆積法の詳細については、T.M.Mayer他"Chemical Vapor deposition of fluoroalkylsilane monolayer films for adhesion control in microelectromechanical systems", Journal of Vacuum Science and Technology B, vol. 18,no. 5, 2433-2440, (2000年)、J. Sakata他"Anti Stiction on silanization coating to silicon microstructures by a vapor deposition process", Transducers'99, vol. 1,26-29(1999)等の文献に詳しく記載されている。
気相分子堆積法は、通常10Pa〜2000Paの真空条件下で行うことができ、本発明では20Pa〜1000Paにすることが好ましい。気相分子堆積法を実施するための装置として、ガス導入機構、酸素プラズマ発生機構、および基板加熱機構を有する真空槽などを挙げることができる。有機カップリング剤を無機層表面に反応させる前に、無機層表面をクリーニング、活性化することが好ましい。無機層表面のクリーニングは酸素プラズマ処理が好ましく用いられる。無機層表面の活性化にはクリーニング直後の無機層表面に10Pa〜2000Paの水蒸気を作用させる処理が好ましく用いられる。反応ガス導入の際、単分子層を形成するに適切な量のガスを計量して導入することが好ましい。計量にはマスフローコントロラー等の計量、制御装置が用いられる。また、無機層が成膜されている基板を加熱することも反応を促進する上で好ましい。好ましい加熱温度としては30℃〜200℃、より好ましくは50℃〜100℃である。
【0027】
無機層の表面に有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させることによって、新しいバリア材が提供される。このバリア材は、無機層の表面に有機カップリング剤が共有結合により化学吸着している構造を有しているため、カップリング剤と無機層とは強固に結合している。カップリング剤が不飽和性の二重結合や反応性官能基(アミノ基、エポキシ基、イソシアナート基など)を有する場合、上層である有機層とも共有結合を持つため、有機層との結合も強固となる。すなわち、この場合、カップリング剤が下層の無機層と上層の有機層を共有結合で結びつけることにより、高い密着性を発現できることとなる。本発明のバリア材は、以下に記載するように有機層を形成することによってさらに高バリア性を有する積層体を提供するための中間材料として有用である。
【0028】
(有機層)
本発明の製造方法では、有機カップリング剤を吸着させた無機層上に有機層を設置する。
有機層は、通常、ポリマーからなる層である。具体的には、ポリエステル、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂の層である。
【0029】
本発明の有機層は、重合することによりポリマーを形成するポリマー前駆体(例えば、モノマー)を塗布することにより形成することが好ましい。本発明に用いることができる好ましいモノマーとしては、アクリレートおよびメタクリレートが挙げられる。アクリレートおよびメタクリレートの好ましい例としては、例えば、米国特許第6,083,628号明細書および米国特許第6,214,422号明細書に記載の化合物が挙げられる。
以下に本発明に好ましく用いられるアクリレート、メタクリレートの具体例を示すが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されない。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
有機層の形成方法としては、通常の溶液塗布法や真空製膜法等を挙げることができる。溶液塗布法としては、例えばディップコ−ト法、エアーナイフコ−ト法、カーテンコ−ト法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2,681,294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法により塗布することができる。真空製膜法としては、特に制限はないが、本発明において、米国特許4842893号、4954371号、5032461号各明細書に記載のフラッシュ蒸着法が好ましい。フラッシュ蒸着法はモノマー中の溶存酸素を低下させる効果を有し、重合率を高めることができるため特に有用である。
【0036】
モノマー重合法としては特に限定は無いが、加熱重合、光(紫外線、可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。これらのうち、光重合が特に好ましい。光重合を行う場合は、光重合開始剤を併用する。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えばイルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えばダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Esacure)シリーズ(例えばエザキュアTZM、エザキュアTZT)、同じくオリゴマー型のエザキュアKIPシリーズ等が挙げられる。
【0037】
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm2以上が好ましく、2J/cm2以上がより好ましい。アクリレート、メタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。このような方法としては不活性ガス置換法(窒素置換法、アルゴン置換法など)、減圧法が挙げられる。このうち、減圧硬化法はモノマー中の溶存酸素濃度を低下させる効果を有するため、より好ましい。
窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。フラッシュ蒸着法で形成したモノマー皮膜を、減圧条件下、2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが最も好ましい。このような方法を取ることで、重合率を高めることができ、硬度の高い有機層を得ることができる。モノマーの重合は、モノマー混合物を塗布または蒸着等により目的の場所に配置した後に行うことが好ましい。また、有機層のモノマーの重合を行う際には、有機カップリング剤に存在する重合性基(例えばエチレン性二重結合)も一緒に重合させることが好ましい。
【0038】
モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0039】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。
また、有機層は平滑であることが好ましい。有機層の平滑性は10μm角の平均粗さ(Ra値)として2nm以下が好ましく、1nm以下であることがより好ましい。有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0040】
有機層は2層以上積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の有機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが望ましい。また、本発明の積層体には、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されるような無機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層が存在していてもよい。
【0041】
(積層体の性能)
本発明の製造方法により得られる積層体は、有機層と無機層の密着性が高いという特徴も有する。後述する実施例に記載される試験方法にしたがって測定した密着性はJIS K5600−5−6(ISO2409)に準拠したクロスカット剥離法における密着数として50以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましい。いかなる理論にも拘泥するものではないが、このような密着性の向上は、無機層上に有機カップリング剤を高密度に化学結合させることができたことと、有機カップリング剤が有機層との親和性が高いことによるものと予測される。このような密着性向上効果は、エチレン性二重結合を有する有機カップリング剤を用いることにより、さらに高めることができる。
【0042】
また、本発明の製造方法により得られる積層体は、水蒸気透過率が低いという特徴を有する。本発明の積層体の水蒸気透過率は40℃相対湿度90%の測定環境において、通常0.01g/m2・day以下であり、好ましくは0.005g/m2・day以下であり、より好ましくは0.001g/m2・day以下である。このような水蒸気透過率の改善効果は従来技術からはまったく予期せざるものであり、有機カップリング剤が無機層の欠陥を修復する効果があるためであろうと推定される。
さらに、本発明の製造方法により得られる積層体は、水蒸気透過率の温度依存性が良好であるという利点も有する。
【0043】
(積層体の用途)
本発明の積層体は、バリア性積層体として有用である。本発明の積層体は、支持体の上に設けて用いるのが一般的であるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体としては、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明の積層体はバリア性フィルム基板のバリア層として用いることができる。また、本発明の積層体およびバリア性フィルム基板は、ガスバリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明の積層体およびバリア性フィルム基板は、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0044】
<バリア性フィルム基板>
バリア性フィルム基板は、基材フィルム上に本発明の積層体を形成することにより製造することができる。すなわち、基材フィルム上に硬化性を有する有機層を形成したうえで、本発明の製造方法にしたがって積層体を形成することにより製造することができる。本発明の積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。また、基材フィルムの片面に本発明の積層体が設けられており、反対面には本発明以外の有機無機積層体が設けられていてもよい。
本発明のバリア性フィルム基板は大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
バリア性フィルム基板を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
【0045】
バリア性フィルム基板は、基材フィルムと有機無機積層型の積層体以外に、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、機能層を挙げることができる。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。機能層は、有機無機積層型の積層体の上、積層体と基材フィルムの間、有機無機積層型の積層体が形成されていない基材フィルムの反対面などのいずれに設置してもよい。
【0046】
(基材フィルム)
本発明におけるバリア性フィルム基板は、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、金属支持体(アルミニウム、銅、ステンレス等)ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0047】
本発明のバリア性フィルム基板を後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0048】
本発明のバリア性フィルム基板を円偏光板と組み合わせて使用する場合、バリア性フィルム基板のバリア層面(少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体を形成した面)がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき円偏光板よりセルの内側にバリア性フィルム基板が配置されることになるため、バリア性フィルム基板のレターデーション値が重要になる。このような態様でのバリア性フィルム基板の使用形態は、(1)レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたバリア性フィルム基板と円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたバリア性フィルム基板に直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0049】
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしてはセルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック、)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0050】
本発明のバリア性フィルム基板を有機EL素子等のデバイスとして利用する場合には、プラスチックフィルムは透明であることが望ましい。このような透明性が求められる用途に用いる場合は、光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のバリア性フィルム基板をディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えばポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のバリア性フィルム基板に用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層の詳細については、上記のとおりである。
【0051】
<デバイス>
本発明の積層体およびバリア性フィルム基板は空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0052】
本発明の積層体は、デバイスの膜封止にも用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明の積層体を設ける方法である。積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0053】
本発明のバリア性フィルム基板は、デバイスの基板として用いることができるだけでなく、固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、バリア性フィルム基板を重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0054】
(有機EL素子)
バリア性フィルム基板用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0055】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明のバリア性フィルム基板は、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB(Electrically Controlled Birefringence)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)型、IPS(In-Plane Switching)型であることが好ましい。
【0056】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0057】
<光学部材>
本発明の積層体を用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるバリア性フィルム基板を基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0059】
<実施例1> バリア性フィルム基板の製造と評価
(1−1)基材フィルムの準備
20cm四方のポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)を用意して、これを基材フィルムとした。
【0060】
(1−2)有機層の形成
基材フィルムの平滑面上に、エポキシ(メタ)アクリレートモノマー(ダイセルサイテック社製、商品名:エベクリル3702)100重量部と重合開始剤(シイベルヘグナー社製、商品名:ESACURE KTO46)6.7質量部との混合溶液を、ワイヤーバーを用いて塗布した。窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約1.2J/cm2)することにより硬化させ、膜厚1.1μmの有機層を形成した。
【0061】
(1−3)無機層の形成
スパッタリング装置を用いて、(1−2)で形成した有機層上に無機層(酸化アルミニウム層)を形成した。ターゲットとしてアルミニウムを、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を用いた。製膜圧力は0.1Pa、到達膜厚は50nmであった。
【0062】
(1−4)有機カップリング剤の吸着
気体導入機構、酸素プラズマ照射機構および基板加熱機構の付いた真空槽の中に、(1−3)で得られた積層体の形成された基板フィルムを置き、基板温度60℃、圧力60Paの条件下で酸素プラズマを20秒間照射した。このときRF電源の投入電力は150Wであった。続いて内圧が1.5Paとなるように水蒸気を導入した。次に表1に示した有機カップリング剤を、内圧が3Paとなるように真空槽内に導入し10分間反応させた。
【0063】
(1−5)有機層の形成
無機層の上に、エポキシ(メタ)アクリレートモノマー(ダイセルサイテック社製、商品名:エベクリル3702)100重量部と重合開始剤(シイベルヘグナー社製、商品名:ESACURE KTO46)6.7質量部との混合溶液を、ワイヤーバーを用いて塗布した。窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)することにより硬化させ、膜厚1.1μmの有機層を形成した。
【0064】
(1−6)無機層の形成
スパッタリング装置を用いて、最上層の有機層上に無機層(酸化アルミニウム層)を形成した。ターゲットとしてアルミニウムを、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を用いた。製膜圧力は0.1Pa、到達膜厚は50nmであった。
【0065】
(1−7)有機カップリング剤の吸着
気体導入機構、酸素プラズマ照射機構および基板加熱機構の付いた真空槽の中に、(1−6)で得られた積層体の形成された基板フィルムを置き、基板温度60℃、圧力60Paの条件下で酸素プラズマを20秒間照射した。このときRF電源の投入電力は150Wであった。続いて内圧が1.5Paとなるように水蒸気を導入した。次に表1に示した有機カップリング剤を、内圧が3Paとなるように真空槽内に導入し10分間反応させた。
【0066】
(1−8)有機層の形成
最上層の無機層の上に、エポキシ(メタ)アクリレートモノマー(ダイセルサイテック社製、商品名:エベクリル3702)100重量部と重合開始剤(シイベルヘグナー社製、商品名:ESACURE KTO46)6.7質量部との混合溶液を、ワイヤーバーを用いて塗布した。窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)することにより硬化させ、膜厚1.1μmの有機層を形成した。これによって、バリア性フィルム基板BF−1、BF−2、BF−3を得た。
【0067】
(1−9)バリア性フィルム基板の水蒸気透過率の測定
上記(1−8)で製造した各バリア性フィルム基板の40℃・相対湿度90%、および60℃・相対湿度90%における水蒸気透過率を、G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-8頁に記載のカルシウムを用いた水蒸気透過率測定法により測定した。水蒸気透過率の測定結果を表1に示す。
【0068】
(1−10)有機層と無機層の密着性の測定
上記(1−8)で製造したバリア性フィルム基板を40℃・相対湿度90%にて24時間保持した。その後、バリア性フィルム基板の有機層と無機層の密着性を、JIS K5600−5−6(ISO2409)に準拠したクロスカット剥離法で調べた。密着性は、膜破壊の起きなかった面積の比率(百分率)で表し、表1に示した。評価値が大きいほど、密着性が高いことを表す。
【0069】
<比較例1> 比較用バリア性フィルム基板の製造と評価
実施例1の(1−4)および(1−7)を行わなかったことの他は実施例1と同じ方法によりバリア性フィルム基板BF−4を製造した。実施例1と同じ方法により水蒸気透過率と密着性を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1の結果から明らかなように、本発明の製造方法にしたがって製造したバリア性フィルム基板は、水蒸気透過率が十分に低くて、有機層と無機層の密着性が高い。また、水蒸気透過率の温度依存性が小さく、高温でも水蒸気透過率が低いことが確認された。
【0072】
<実施例2> 有機EL素子の製造
実施例1で製造した各バリア性フィルム基板を25mm×25mmに切り出し、その表面に直流電源を用いてスパッタ法にてインジウム錫酸化物(ITO、インジウム/錫=95/5モル比)の陽極を形成した(厚み0.2μm)。この陽極上に正孔注入層として銅フタロシアニン(CuPc)を真空蒸着法にて10nm設け、その上に正孔輸送層として、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジンを真空蒸着法にて40nm設けた。この上にホスト材として4,4’−N,N’−ジカルバゾ−ルビフェニル、青発光材としてビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナート−N,C2'](ピコリネート)イリジウム錯体(Firpic)、緑発光材としてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体(Ir(ppy)3)、赤発光材としてビス(2 −フェニルキノリン)アセチルアセトナ−トイリジウムをそれぞれ100/2/4/2の質量比になるように共蒸着して40nmの発光層を得た。さらにその上に電子輸送材として2,2’,2’’−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス[3−(2−メチルフェニル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン]を1nm/秒の速度で蒸着して24nmの電子輸送層を設けた。この有機化合物層の上にパタ−ニングしたマスク(発光面積が5mm×5mmとなるマスク)を設置し、蒸着装置内でフッ化リチウムを1nm蒸着し、さらにアルミニウムを100nm蒸着して陰極を設けた。陽極、陰極よりそれぞれアルミニウムのリード線を出して発光素子を作成した。該素子を窒素ガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ガラスキャップと紫外線硬化型接着剤(長瀬チバ製、XNR5493)で封止して発光素子を作製した。
製造した各有機EL素子は良好に発光した。またまた、本発明のバリア性フィルム基板を用いた有機EL素子は、ダークスポットの発生もなく、100日以上にわたり安定に発光して十分な耐久性を示した。
【0073】
<実施例3> 有機EL素子の封止
実施例2におけるガラスキャップによる封止の代わりに、実施例1と同じ方法により有機層および無機層を製膜することにより封止した。これによって、ガラスキャップと同等の優れたバリア性を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の積層体やバリア性フィルム基板は、水蒸気透過率が低くて、有機層と無機層の密着性が高い。このため、デバイスや光学部材の基板や封止フィルムとして利用すれば、これらの耐久性を改善することができるため有用である。また、本発明の製造方法によれば、このような特徴を有する積層体やバリア性フィルムを簡便に製造することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体の製造方法であって、無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させる工程と、前記有機カップリング剤を吸着させた無機層上に有機層を設置する工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記有機カップリング剤が珪素原子を含むことを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記有機カップリング剤が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項2に記載の積層体の製造方法。
一般式(1)
(R1m−Si−(R2n
[上式において、R1はハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルケニル基、炭素数6以下のアルコキシ基、炭素数6以下のアシルオキシ基、炭素数6以下のジアルキルアミノ基を表し、R2は炭素数2以上の有機基を表す。mは1〜3の整数であり、nは4−mの整数である。mが2または3であるとき、2つまたは3つのR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、nが2または3であるとき、2つまたは3つのR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項4】
一般式(1)のmが3であり、nが1であることを特徴とする請求項3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)のR2がエチレン性二重結合を含む有機基であることを特徴とする請求項3または4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)のR2が(メタ)アクリレート基を含む有機基であることを特徴とする請求項3または4に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記有機層の設置を、モノマー含有層を形成した後に該モノマーを重合することにより行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記モノマーとして(メタ)アクリレートモノマーを用いることを特徴とする請求項7に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤を気相分子堆積法によって吸着させたことを特徴とするバリア材料。
【請求項10】
無機層の表面に、珪素原子またはチタン原子を含む有機カップリング剤が吸着した構造を有することを特徴とするバリア材料。
【請求項11】
無機層の表面から1nmの深さまでの領域における、前記有機カップリング剤に由来する珪素原子またはチタン原子の濃度が3原子%以上であることを特徴とする請求項9または10に記載のバリア材料。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により製造される積層体。
【請求項13】
無機層の有機層に対する界面から1nmの深さまでの領域における、前記有機カップリング剤に由来する珪素原子またはチタン原子の濃度が3原子%以上であることを特徴とする請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
基材フィルム上に無機層を形成し、さらに請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により積層体を形成する工程を含むことを特徴とするバリア性フィルム基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法により製造されたバリア性フィルム基板。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を用いたデバイス。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により製造された積層体を封止フィルムとして用いたデバイス。
【請求項18】
前記デバイスが有機EL素子である請求項16または17に記載のデバイス。
【請求項19】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造により製造された積層体を封止フィルムとして用いた光学部材。
【請求項20】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により、基板上に積層体を設ける工程を含むデバイスの製造方法。

【公開番号】特開2009−196318(P2009−196318A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43379(P2008−43379)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】