説明

積層型セラミックコンデンサ

【課題】 容量の経時変化である容量温度特性がEIA規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足し、加速試験における抵抗変化率が小さく(平均寿命が長く)、信頼性に優れる積層型セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO、CaO、BaO、およびSrのグループから選択される少なくとも1種からなる第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種からなる第3副成分と、Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物からなる第4副成分と、CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)からなる第5副成分とを有し、誘電体層を構成する結晶粒子にZrが拡散されており、平均粒径の結晶粒子において、Zrの拡散層深さが結晶粒子の径に対して10〜35%までの深さとなるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型セラミックコンデンサに関し、特に、容量の経時変化である容量温度特性がEIA規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足し、加速試験における抵抗変化率が小さく(平均寿命が長く)、信頼性に優れる積層型セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品として、例えば積層型セラミックコンデンサ(積層チップコンデンサ)は、小型、大容量、高信頼性の電子部品として広く利用されている。近年、機器の小型化・高性能化に伴い、積層型セラミックコンデンサに対するさらなる小型化、大容量化、低価格化、高信頼性化への要求はますます厳しくなっている。
【0003】
積層型セラミックコンデンサは、通常、内部電極層形成用のペーストと誘電体層形成用のペーストとをシート法や印刷法等により積層し、積層体中の内部電極層と誘電体層とを同時に焼成して製造される。
【0004】
内部電極層の導電材としては、従来より一般にPdやPd合金が用いられてきたが、Pdは高価であるために、近年では比較的安価なNiやNi合金等の卑金属が使用されるようになってきている。
【0005】
内部電極層の導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いた場合、大気中で焼成を行うと内部電極層が酸化してしまう。そのため、誘電体層と内部電極層との同時焼成を還元性雰囲気で行う必要がある。しかしながら、還元性雰囲気中で焼成すると、誘電体層が還元され、比抵抗が低くなってしまう。このため、非還元性の誘電体材料が開発されている。
【0006】
しかしながら、非還元性の誘電体材料を用いた積層型セラミックコンデンサは、電界の印加によるIR(絶縁抵抗)の劣化が著しく(すなわちIR寿命が短く)、信頼性が低くなってしまうという問題がある。
【0007】
また、誘電体を直流電界にさらすと、比誘電率εrが経時的に劣化するという問題が生じる。また、コンデンサには、直流電圧を重畳して使用する場合があり、一般に強誘電体を主成分とする誘電体を有するコンデンサに直流電圧を印加すると、誘電率が印加された直流電圧に依存して変化する特性(DCバイアス特性という)や、直流電圧印加の容量温度特性(Tcバイアス特性という)が低下するという問題もある。特に近年の要請に伴って積層型セラミックコンデンサを小型化および大容量化するために誘電体層を薄くすると、直流電圧を印加したときの誘電体層に印加される電界が強くなるため、比誘電率εrの経時変化、すなわち容量の経時変化が著しく大きくなってしまったり、Tcバイアス特性が低下するという問題が顕著になってくる。
【0008】
さらに、積層型セラミックコンデンサには、温度特性が良好であることも要求され、特に、用途によっては、厳しい条件下での温度特性が平坦であることが求められる。近年、自動車のエンジンルームに搭載されるエンジン電子制御ユニット(ECU)、クランク角センサ、アンチロックブレーキシステム(ABS)モジュール等の各種電子装置は、エンジン制御、駆動制御およびブレーキ制御を安定して行うためのものなので、回路の温度安定性が良好であることが要求される。
【0009】
これらの電子装置が使用される環境は、寒冷地の冬季には−20℃程度以下まで温度が下がり、また、エンジン始動時には、夏季では+130℃程度まで温度が上がることが予想される。最近では、電子装置とその制御対象機器とをつなぐワイヤハーネスを削減する傾向があり、電子装置が車外に設置されることもあるので、電子装置にとっての環境はますます厳しくなっている。従って、これらの電子装置に用いられるコンデンサは、広い温度範囲において温度特性が平坦であることが要求される。
【0010】
温度特性に優れた温度補償用コンデンサ材料としては、(Sr,Ca)(Ti,Zr)O3系、Ca(Ti,Zr)O3系等が一般に知られているが、これらの組成物は比誘電率が非常に低いので、容量の大きいコンデンサを作製することが実質的に不可能である。
【0011】
誘電率が高く、平坦な容量温度特性を有する誘電体磁器組成物として、BaTiO3を主成分とし、Nb25−Co34、MgO−Y、希土類元素(Dy,Ho等)、Bi23−TiO2等を添加した組成が知られている。しかしながら、BaTiO3系の高誘電体材料は、EIA規格のX7R特性(−55〜125℃、ΔC/C=±15%以内)を満足することはできるものの、上記の厳しい環境で使用される自動車の電子装置には対応することが十分であるとは言えなかった。上記の厳しい環境で使用される電子装置にはEIA規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足する誘電体磁器組成物が必要とされる。
【0012】
このような実状に基づき本出願人は、すでに比誘電体率が高く、X8R特性を備え、還元性雰囲気中での焼成が可能な誘電体磁器組成物の提案を行っている(特許第3348081号、特許第3341003号、特開2001−31467号公報)。
【0013】
しかしながら、積層型セラミックコンデンサのさらなる小型化に伴い、高信頼性化への要求はますます厳しくなっており、さらなる性能の向上が求められている。
【0014】
【特許文献1】特許第3348081号
【特許文献2】特許第3341003号
【特許文献3】特開2001−31467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであり、その目的は、容量温度特性がEIA規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足し、加速試験における抵抗変化率が小さく(IR平均寿命が長く)、信頼性に優れる積層型セラミックコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明らが積層型セラミックコンデンサを構成する誘電体層の組成と、誘電体層を構成する結晶粒子のZrの拡散状態について鋭意研究を行なったところ、特に、結晶粒子のZrの拡散状態によって、コンデンサの信頼性特性が格段と向上することを見出し本発明に想到したものである。
【0017】
すなわち、本発明は、誘電体層と内部電極層が交互に積層された積層体の構造を備える積層型セラミックコンデンサであって、前記誘電体層が、チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO、CaO、BaO、およびSrOのグループから選択される少なくとも1種からなる第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種からなる第3副成分と、Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物からなる第4副成分と、CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)からなる第5副成分と、を有し、チタン酸バリウムを含む主成分100モルに対する、第1副成分の含有量(モル)をy1、第2副成分の含有量(モル)をy2、第3副成分の含有量(モル)をy3、第4副成分の含有量(モル)をy4、および第5副成分の含有量(モル)をy5とした場合、y1の値が、0.1〜3.0モルの範囲内にあり、y2の値が、2〜10モルの範囲内にあり、y3の値が、0.01〜0.5モルの範囲内にあり、y4の値が、0.5〜7モル(但し、このモル数はR1単独での比率である)の範囲内にあり、y5の値が、5モル以下(零を含まない)の範囲内にあり、
前記誘電体層を構成する結晶粒子にZrが拡散されており、平均粒径の結晶粒子において、Zrの拡散層深さが結晶粒子の径に対して10〜35%までの深さであるように構成される。
【0018】
また、本発明の好ましい態様として、前記誘電体層を構成する結晶粒子の平均粒径が0.2〜0.55μmであるように構成される。
【0019】
また、本発明の好ましい態様として、前記誘電体層を構成する結晶粒子の平均粒径が0.2〜0.35μmであるように構成される。
【0020】
また、本発明の好ましい態様として、前記酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分が、SiO2を主成分とし、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1種の元素)、Li2OおよびB23から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでなる複合酸化物として構成される。
【0021】
また、本発明の好ましい態様として、前記酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分が、(Ba,Ca)xSiO2+x(ただし、x=0.7〜1.2)であるように構成される。
【0022】
また、本発明の好ましい態様として、前記誘電体層の厚さが2〜7μmであるように構成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、本発明は、誘電体層と内部電極層が交互に積層された積層体の構造を備える積層型セラミックコンデンサであって、前記誘電体層が、チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO、CaO、BaO、およびSrOのグループから選択される少なくとも1種からなる第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種からなる第3副成分と、Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物からなる第4副成分と、CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)からなる第5副成分と、を有し、チタン酸バリウムを含む主成分100モルに対する、第1副成分の含有量(モル)をy1、第2副成分の含有量(モル)をy2、第3副成分の含有量(モル)をy3、第4副成分の含有量(モル)をy4、および第5副成分の含有量(モル)をy5とした場合、y1の値が、0.1〜3.0モルの範囲内にあり、y2の値が、2〜10モルの範囲内にあり、y3の値が、0.01〜0.5モルの範囲内にあり、y4の値が、0.5〜7モル(但し、このモル数はR1単独での比率である)の範囲内にあり、y5の値が、5モル以下(零を含まない)の範囲内にあり、前記誘電体層を構成する結晶粒子にZrが拡散されており、平均粒径の結晶粒子において、Zrの拡散層深さが結晶粒子の径に対して10〜35%までの深さであるように構成されているので、EIA規格のX8R特性を満足することはもとより、加速試験における抵抗変化率が小さく(IR平均寿命が長く)、信頼性に優れる誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0024】
特に、小型化・大容量化を目的として誘電体層をさらに薄層化した場合や、定格電圧を向上させた場合において、本願発明の効果は顕著になり、特に厳しい環境下で使用される自動車用途においては有効である。また、使用する誘電体磁器組成物がPb、Bi、Zn等を含有していないので、還元性雰囲気での焼成が可能であり、直流電界下での容量の経時変化が小さいという効果も発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明の電子部品の好適な一例として積層型セラミックコンデンサを取りあげて、構成部材である誘電体磁器組成物とともに説明する。
【0026】
(積層型セラミックコンデンサの説明)
本発明の電子部品の好適な一例である積層型セラミックコンデンサの概略構成について、図1〜図3を参照しつつ説明する。図1は、積層型セラミックコンデンサの一実施形態を示す斜視図であり、図2は、図1に示される積層型セラミックコンデンサのA−A線矢視断面図であり、図3は、積層構造の形成過程を分かりやすく説明するための斜視図である。
【0027】
図1〜図3に示されるように、本発明の積層型セラミックコンデンサ1は、第1内部電極層23と第2内部電極層28とが誘電体層7を介して交互に積層された素子本体2と、この素子本体2の対向する端面に設けられた一対の外部電極11,15とを備えている。素子本体2は、通常、直方体形状とされるが、特に形状に制限はない。また、素子本体2の寸法も特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、(0.6〜5.6mm)×(0.3〜5.0mm)×(0.3〜2.5mm)程度の大きさとすることができる。
【0028】
本発明における内部電極層23、28は、上述したように誘電体層7を介して交互に積層された第1内部電極層23と第2内部電極層28から構成されている。このような構造を形成するための好適例が図3に示されており、この図によれば、誘電体層7と第1内部電極層23を有するシート体73と、誘電体層7と第2内部電極層28を有するシート体78とが互いに順次繰り返し多層に積層される。
【0029】
積層される第1内部電極層23は、図3に示されるように前記第1外部電極11側に露出する接続部23aを有し、この接続部23aは第1外部電極11に接続されている。図3に示されるごとく第1内部電極層23は、誘電体層7との関係で、誘電体層7の外周枠から露出している部分は接続部23aのみ(より正確には接続部の端部のみ)である。
【0030】
この一方で、積層される第2内部電極層28は、図3に示されるように第2外部電極15側に露出する接続部28aを有し、この接続部28aは第2外部電極15に接続されている。図3に示されるごとく第2内部電極層28は、誘電体層7との関係で、誘電体層7の外周枠から露出している部分は接続部28aのみ(より正確には接続部28aの端部のみ)である。
【0031】
なお、本発明では、第1内部電極層23と第2内部電極層28とをまとめて単に、「内部電極層23,28」と表現することもある。
【0032】
誘電体層7の構成
誘電体層7は、チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO、CaO、BaO、およびSrOのグループから選択される少なくとも1種からなる第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種からなる第3副成分と、Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物からなる第4副成分と、CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)からなる第5副成分とを有する誘電体磁器組成物の結晶粒子で構成された焼結体からなっている。
【0033】
主成分であるチタン酸バリウム100モルに対する第1副成分〜第5副成分の構成比率は以下の通りである。すなわち、
チタン酸バリウムを含む主成分100モルに対する、
第1副成分の含有量(モル)をy1、
第2副成分の含有量(モル)をy2、
第3副成分の含有量(モル)をy3、
第4副成分の含有量(モル)をy4、および
第5副成分の含有量(モル)をy5とした場合、
y1の値は、0.1〜3.0モル、好ましくは0.5〜2.5モルの範囲内にあり、
y2の値は、2〜10モル、好ましくは2〜5モルの範囲内にあり、
y3の値は、0.01〜0.5モル、好ましくは0.1〜0.4モルの範囲内にあり、
y4の値は、0.5〜7モル、好ましくは0.5〜5モルの範囲内にあり、
y5の値が、5モル以下(零を含まない)、好ましくは0.5〜3モルの範囲内にあるように構成される。
【0034】
なお、第4副成分の上記モル量は、第1の希土類元素(R1)の酸化物の酸化物のモル比ではなく、R1単独のモル量である。すなわち、例えば、第4副成分として、Ybの酸化物を用いた場合、第4副成分のモル量が1モルであることは、Yb23のモル量が1モルなのではなく、Ybのモル量が1モルであることを意味する。つまり、Yb23を1モル含有していれば、Ybは2モル含有となる。
【0035】
本明細書では、主成分および各副成分を構成する各酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各副成分の上記モル含有量は、各副成分を構成する酸化物に含有される金属量から化学量論組成の酸化物に換算して求める。
【0036】
上記第1副成分(MgO、CaO、BaO、およびSrOのグループから選択される少なくとも1種)の含有割合が、3.0モルを超えて多くなり過ぎると、焼結性が悪化してしまうという不都合が生じる傾向がある。また、0.1モル未満と少なくなり過ぎると、容量温度変化率が大きくなってしまい温度安定性に欠けてしまうという不都合が生じる傾向がある。第1副成分の中では、特にMgOを用いるのが好適である。また、2種類以上の第1副成分を用いる場合には、これらの総和が上記0.1〜3.0モルの範囲内であればよい。
【0037】
第2副成分は、酸化シリコンを主成分として含有するものである。この第2副成分の含有量が2モル未満となると、容量温度特性が悪くなり、またIR(絶縁抵抗)が低下する。一方、第2副成分の含有量が10モルを超えると、IR寿命が不十分となるとともに誘電率の急激な低下が生じる傾向がある。
【0038】
このような第2副成分は、SiO2を主成分とし、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1種の元素)、Li2OおよびB23から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでなる複合酸化物であることが好ましい。より好ましくは、(Ba,Ca)xSiO2+xで表される複合酸化物である。ここで、xは0.7〜1.2、より好ましくは0.8〜1.1である。xが小さ過ぎる場合、すなわちSiO2が多すぎると、主成分のチタン酸バリウムと反応して誘電体特性を悪化させてしまうという不都合が生じる傾向がある。一方、xが大き過ぎると、融点が高くなって焼結性を悪化させるという不都合が生じる傾向がある。なお、Baと、Caとの比率は任意であって、一方の元素だけを含有するようにしてもよい。
【0039】
第3副成分(V25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種)は、主として、キュリー温度以上での容量温度特性を平坦化する効果と、IR寿命を向上させる効果とを有している。第3副成分の含有割合が0.01モル未満となると、上述の本来の効果が発現しなくなってしまうという不都合が生じる傾向がある。また、0.5モルを超えると、IR寿命が著しく低下するという不都合が生じる傾向がある。第3副成分の中では、特にV25を用いるのが好適である。また、2種類以上の第3副成分を用いる場合には、これらの総和が上記0.01〜0.5モルの範囲内であればよい。
【0040】
第4副成分は、Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物である。第4副成分(R1の酸化物)は、主として、キュリー温度を高温側にシフトさせる効果と、容量温度特性を平坦化させる効果を有している。第4副成分の含有率が0.5モル未満となり含有率が低くなり過ぎると、上記の添加効果が発現できなくなるという不都合が生じる傾向がある。また、7モルを超えて含有率が多くなりすぎると、焼結性が悪化する傾向にある。第4副成分の中では、特性改善効果が高く、しかも安価であるYb酸化物を用いることが好ましい。
【0041】
第5副成分は、CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)を含むものである。この第2副成分は、主として、キュリー温度を高温側へシフトさせる効果と、容量温度特性を平坦化させる効果を有している。また、いわゆるCR積(静電容量(μF)と絶縁抵抗(MΩ)との積)、直流絶縁破壊強度を改善する効果もある。第5副成分の添加がないと、上記の添加効果が発現できなくなるという不都合が生じる傾向があり、また、5モルを超えて含有率が多くなりすぎると、IR寿命が不十分となったり、容量温度特性(X8R特性)が悪くなってしまうことがある。第5副成分であるCaZrO3の添加形態は特に限定されるものではなく、CaO等のCaから構成される酸化物、CaCO3等の炭酸塩、有機化合物、CaZrO3等を挙げることができる。第5副成分におけるCaとZrの比率は特に限定されず、チタン酸バリウムに固溶させない程度に決定すればよい。通常、Zrに対するCaのモル比(Ca/Zr)については、0.5〜1.5、好ましくは0.8〜1.5、より好ましくは0.9〜1.1とするのがよい。
【0042】
第4副成分(R1酸化物)および第5副成分の含有量を調整することで、容量温度特性(X8R)特性を平坦化し、高温加速寿命等を改善することができる。特に、上述した数値範囲内では、異相の析出が抑制され、組織の均一化を図ることができる。
【0043】
さらに本発明においては、第6副成分として、Y、Dy、Ho、Tb、GdおよびEuのグループから選択される少なくとも1種の第2の希土類元素(R2)の酸化物を含有させることが好ましい。第6副成分(R2の酸化物)は、主として、IR寿命を改善する効果を示し、容量温度特性への悪影響も少ない。第6副成分は、主成分であるチタン酸バリウム100モルに対して、9モル以下、特に0.5〜9モルであることが好ましい。なお、第6副成分の上記モル量は、第2の希土類元素(R2)の酸化物の酸化物のモル比ではなく、R2単独のモル量である。第6副成分の中では、特性改善効果が高く、しかも安価であるY酸化物を用いることが好ましい。
【0044】
第4副成分および第6副成分の合計の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、好ましくは13モル以下、さらに好ましくは10モル以下にするのが良い。焼結性を良好に保つためである。
【0045】
また本発明においては、第7副成分として、MnOおよびCr23をさらに含有させてもよい。この第7副成分は、主として、焼結を促進する効果と、IRを高くする効果を発現させることができる。このような第7副成分の含有量は、チタン酸バリウムを含む主成分100モルに対して0.5モル以下、特に、0.01〜0.5モルとされる。含有量が多すぎると容量温度特性に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0046】
また、本発明の誘電体磁気組成物中には、上記酸化物のほか、Al23が含まれていても良い。Al23は、容量温度特性にあまり影響を与えず、焼結性、IRを改善する効果を有する。ただし、Al23の含有量が多すぎると焼結性が悪化してIRが低くなる傾向がある。そのため、Al23を含有させる場合、チタン酸バリウム100モルに対して、1モル以下、さらに好ましくは誘電体磁器組成物全体の1モル%以下とするのがよい。
【0047】
上記誘電体層を形成する磁器組成物のキュリー温度(強誘電体から常誘電体への相転移温度)は、誘電体磁器組成物の組成を選択することにより変更することができるが、X8R特性を満足させるためには、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上とするのが良い。キュリー温度は、DSC(示差走査熱量測定)等によって測定することができる。なお、Sr,ZrおよびSnの少なくとも1種が、ペロブスカイト構造を構成するチタン酸バリウム中のBaまたはTiを置換している場合、キュリー温度が低温側にシフトするため、125℃以上での容量温度特性が悪くなってしまう。このため、これらの元素を含むチタン酸バリウム系複合酸化物(例えば(Ba,Sr)TiO3はできるだけ主成分として用いるべきでない。ただし、Sr,ZrおよびSnの少なくとも1種が不純物として含有されるレベル(例えば、誘電体磁器組成物全体の0.1モル%程度以下)であれば問題はない。
【0048】
次に、誘電体層を構成する結晶粒子(以下、「誘電体粒子」という)について説明する。
【0049】
誘電体粒子は、上述した誘電体層を構成するものであり、本発明においては、その誘電体粒子にZrが拡散されており、平均粒径の結晶粒子において、Zrの拡散層深さが誘電体粒子(結晶粒子)の径に対して10〜35%、好ましくは15〜30%までの深さであることを特徴とするものである。誘電体粒子(結晶粒子)の直径をDとした場合、Zrの拡散領域は粒子の外部表層にシェル状に形成されているから、Zrの拡散層深さをTとした場合、T/D×100=10〜35%となるように設定される。
【0050】
T/D×100の値が、10%未満となると、容量温度特性がEIA規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満たさなくなってしまう。さらに、格段と優れた平均寿命が得られなくなってしまう。T/D×100の値が、35%を超えても同様な問題が生じてしまう。なお、上記の定義によるT/D×100の値のMAX(最大値)は50%である。
【0051】
Zrの拡散層深さを調整することのできるパラメータとしては、焼成温度、焼成時間、主成分のBa/Ti比率、第5副成分であるZr化合物の添加量、高分子分散剤の使用、有機塩の使用による液相添加やコート粉の使用および仮焼き時間等種々のパラメータが挙げられる。特に、有機塩の使用による液相添加は、粒子の外周部に均一にシェル状のZr拡散層を形成させるという観点から有効である。
【0052】
Zrの拡散層深さの求め方は、平均粒径を有する結晶粒子をピックアップしてその粒径に対して粒の端から端まで一直線になるように透過型電子顕微鏡で線分析を行ない、その後90度ずらして同一粒径において、線分析を行いZrの拡散の深さを求めた。これをn=10の粒子サンプル数で行い、平均値をZrの拡散層の深さとした。
【0053】
このような所定の深さのZrの拡散層を備える誘電体粒子の平均粒径は、誘電体層の厚さに応じて例えば0.1〜3.0μm程度とすればよいが、特に好ましくは0.2〜0.55μmの範囲、さらに好ましくは0.2〜0.35μmの範囲に設定するのがよい。平均粒径が0.2μm未満となると、誘電体層を薄層化したとき(例えば層間の厚さを3.5μmよりも小さくしたとき)や、素子本体を多層化したとき(例えば誘電体層の層数を100以上にしたとき)に、X8R特性を満たさなくなることがある。また、誘電体粒子の平均粒径が0.55μmを超えると、容量の経時変化が大きくなる傾向がある。好ましい範囲である0.2〜0.35μmの粒径を用いた積層型セラミックコンデンサでは、その容量温度特性がEIA規格のX8R特性を満足すると共に容量の経時変化が小さいという上記の特性に加え、Tcバイアス特性に優れるという効果を奏する。特に、誘電体粒子の平均粒径を0.35μm以下とすることにより、Tcバイアス特性の優れた積層型セラミックコンデンサを得ることができる。
【0054】
また、本発明においては、その誘電体粒子の最大粒径(D100)と平均粒径(D50)との差である(D100−D50)の値が、0.1μm以下することが望ましい。
【0055】
本発明における誘電体層の厚さは、一層あたり、通常、40μm以下、特に30μm以下とされる。厚さの下限は、通常、2μm程度である。本発明は、特に2〜7μmに薄層化された誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの容量温度特性の改善に有効である。なお、誘電体層の積層数は、通常、2〜300程度とされる。
【0056】
本発明の積層型セラミックコンデンサは、80℃以上、特に、125〜150℃の環境下で使用される機器用電子部品として用いて好適である。このような温度範囲において、容量の温度特性がEIA規格のX8R特性(−55〜150℃、ΔC/C=±15%以内)を満足し、加速試験における抵抗変化率が小さく(平均寿命が長く)、信頼性に優れる積層型セラミックコンデンサとなる。
【0057】
内部電極層23,28の構成
内部電極層に含有される導電材は特に限定されるものではないが、上述のごとく誘電体層7の構成材料が耐還元性を有するために、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属は、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、Co、Al、W等のグループから選択される1種以上とNiとの合金が好ましい。Ni合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。
【0058】
なお、NiまたはNi合金中には、P、C、Nb、Fe、Cl、B、Li、Na、K、F、S等の各種微量成分が0.1重量%以下含有されてもよい。焼成前のペースト中に含有される状態での平均粒子径は、0.4μm以下、特に、0.01〜0.2μmとすることが望ましい。より高度な薄層化を実現できるようにするためである。
【0059】
内部電極層(内部電極主要層)の厚みは、積層型セラミックコンデンサの用途等に応じて適宜設定することができ、例えば、0.5〜5μm、特に0.5〜2.5μm程度とすることができる。
【0060】
外部電極11,15の構成
外部電極に含有される導電材は特に限定されるものではないが、本発明では、安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極の厚さは用途に応じて適宜決定することができる。通常、その厚さは、10〜50μm程度とされる。
【0061】
また、外部電極には、導電材の焼結性を向上させること、積層体との接着性を確保することを目的として、ガラスを含有させてもよい。
【0062】
積層型セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の積層型チップコンデンサの製造方法について説明する。
【0063】
まず最初に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法により、誘電体層と内部電極層を交互に積層していき、素子本体の原型(積層体)を形成する。次いで、積層体の外部電極側の両端面に外部電極を印刷、転写、貼り付け、またはディッピング等で形成する。しかる後、焼成することにより積層型チップコンデンサを製造することができる。製造工程ごとの詳細を以下(1)〜(5)として順次説明する。
【0064】
(1)チップ状積層体(素子本体)の作製
いわゆる印刷法を用いる場合、誘電体層形成用ペーストおよび内部電極層形成用ペーストが、ポリエチレンテレフタレート等の支持体上に順次、積層印刷される。このとき、第1内部電極層11および第2の内部電極層15は、それぞれ図2や図3に示されるように、誘電体層形成用ペーストの外枠に対して所定の形態が得られるように印刷される。誘電体層と内部電極層とが順次積層印刷された後、このものは所定形状に切断されチップ化され、しかる後、支持体から剥離されてチップ状積層体(素子本体の原型)が形成される。
【0065】
また、いわゆるシート法を用いる場合、誘電体層形成用ペーストを用いて誘電体のグリーンシートが複数枚、形成される。それらのグリーンシートの上に内部電極層形成用ペーストが塗設され、図3に示されるようなシート体73,78が形成される。これらは順次積層され、所定の加熱・加圧操作を経た後、所定形状に切断されてチップ状積層体(素子本体の原型)が形成される。
【0066】
上記工程において、一般に使用されるペーストの組成例について以下に説明を加えておく。
【0067】
<誘電体層形成用ペースト>
誘電体層形成用ペーストとしては、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練分散したものが使用される。
【0068】
誘電体原料には、上記の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択して、混合して用いることができる。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0069】
誘電体原料の平均粒子径は、通常、平均粒子径0.1〜5μm程度の粉末が使用される。誘電体層形成用ペースト中の誘電体原料の含有量は、通常、30〜80重量%程度とされる。
【0070】
誘電体層形成用ペーストに使用される有機ビヒクルは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダとしては、例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラールとメタクリル酸エステルとの共重合体、アクリル酸エステル系共重合体等の公知の樹脂バインダが使用される。また、バインダを溶解するための有機溶剤として、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の有機溶剤が使用される。このようなバインダや有機溶剤の誘電体層形成用ペースト中における含有量は特に制限はないが、通常、バインダは1〜5重量%程度、有機溶剤は10〜50重量%程度とされる。
【0071】
<内部電極層形成用ペースト>
内部電極層形成用ペーストは、上述の各種導電性金属や合金と、上記有機ビヒクルとを混練分散して調製される。
【0072】
(2)脱バインダ処理工程
上記のようにして作製されたチップ状積層体は、焼成される前に、脱バインダ処理が施されることが好ましい。この脱バインダ処理の条件は、使用した材料等を考慮して適宜設定することができ、例えば、内部電極層の導電材にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、下記の条件で行うことが特に好ましい。
【0073】
脱バインダ処理条件
昇温速度 :5〜300℃/時間、特に10〜100℃/時間
保持温度 :180〜400℃、特に200〜300℃
温度保持時間:0.5〜24時間、特に5〜20時間
雰囲気 :空気中
【0074】
(3)焼成工程
本発明におけるチップ状積層体の焼成時の雰囲気は、内部電極層ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよい。導電材として、NiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10-9〜10-4Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記10-9Pa未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、内部電極層が途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が10-4Paを超えると、内部電極が酸化してしまう傾向がある。
【0075】
焼結時の保持温度は、1100〜1400℃、好ましくは1200〜1360℃、より好ましくは1200〜1320℃とされる。保持温度が1100℃未満となると、緻密化が不十分となる傾向が生じ、また、1400℃を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0076】
さらに、昇温速度は、50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間とするのがよい。温度保持時間は、0.5〜8時間、特に、1〜3時間とするのがよい。冷却速度は、50〜500℃/時間、特に、200〜300℃/時間とするのがよい。なお、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましい。雰囲気ガスとしては、例えば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0077】
(4)アニール工程
還元雰囲気で焼成した場合、焼成後の積層体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これにより絶縁抵抗の加速寿命を著しく長くすることができる。
【0078】
アニール雰囲気の酸素分圧は、10-3Pa以上、特に10-2〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、誘電体層の再酸化が困難であり、また、酸素分圧が上記範囲を超えると、内部電極層の酸化が進行するおそれがある。
【0079】
アニールの保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が500℃未満であると誘電体層の再酸化が不十分となり、絶縁抵抗の加速寿命が短くなり、1100℃を超えると内部電極層の酸化が進行し、静電容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応し、加速寿命も短くなる。
【0080】
なお、アニール工程は昇温および降温だけから構成してもよい。この場合、温度保持時間をとる必要はなく、保持温度は最高温度と同義である。また、温度保持時間は、0〜20時間、特に2〜10時間が好ましい。雰囲気ガスにはN2と加湿したH2ガスを用いることが好ましい。
【0081】
なお、上述の脱バインダ処理、焼成、および、アニールの各工程において、N2、H2や混合ガス等を加湿するには、例えば、ウエッター等を使用することができる。この場合の水温は、5〜75℃程度が好ましい。
【0082】
脱バインダ処理、焼成、および、アニールの各工程は、連続して行っても、独立して行ってもよい。これらの工程を連続して行う場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて2段階の焼成の保持温度まで順次昇温して焼成を行い、次いで、冷却し、アニール工程での保持温度に達したときに雰囲気を変更してアニールを行うことが好ましい。
【0083】
また、これらの工程を独立して行う場合、脱バインダ処理工程は、所定の保持温度まで昇温し、所定時間保持した後、室温にまで降温する。その際、脱バインダ雰囲気は、連続して行う場合と同様なものとする。さらに、アニール工程は、所定の保持温度にまで昇温し、所定時間保持した後、室温にまで降温する。その際のアニール雰囲気は、連続して行う場合と同様とする。また、脱バインダ工程と、焼成工程とを連続して行い、アニール工程だけを独立して行うようにしてもよく、あるいは、脱バインダ工程だけを独立して行い、焼成工程とアニール工程を連続して行ってもよい。
【0084】
(5)外部電極形成工程
上記のように作製したチップ状積層体(素子本体の原型)の対向する両端面側に外部電極形成用ペーストを印刷あるいは転写する。その後、焼成して、外部電極を形成する。また、ディッピングにより塗布後、焼成して、形成することもできる。
【0085】
外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、N2とH2の混合ガス等の還元雰囲気中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。
【0086】
<外部電極形成用ペースト>
外部電極形成用ペーストとしては、導電材としてPd、Ag、Au、Cu、Pt、Rh、Ru、Ir等の金属の少なくとも1種、あるいは、これらの合金が使用され、上記の内部電極層用ペーストと同様にして調製される。
【0087】
なお、上述の各種ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択された添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0088】
上述してきたように製造される本発明の積層型セラミックコンデンサは、必要に応じてリード線が設けられ、ハンダ付け等によりプリント基板上等に実装され使用される。
【実施例】
【0089】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
誘電体材料を作製するための出発原料として、それぞれの平均粒径が0.1〜1.0μmに含まれる主成分原料(BaTiO3)、および第1副成分〜第7副成分の原料を用意した。
【0090】
第1副成分の原料としてMgCO3を用い、
第2副成分の原料として(Ba0.6Ca0.4)SiO3を用い、
第3副成分の原料としてV25を用い、
第4副成分(R1)の原料としてYb23を用い、
第5副成分の原料としてCaZrO3およびCaとZrの有機金属塩を用いた。
第6副成分(R2)の原料としてY23を用い、
第7副成分の原料として、MnCO3を用いた。
【0091】
なお、第2副成分の原料である(Ba0.6Ca0.4)SiO3は、BaCO3、CaCO3およびSiO2をボールミルに入れて16時間湿式混合した後、これを乾燥し、1150℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルに入れて100時間湿式粉砕することにより製造した。
【0092】
また、第5副成分の原料であるCaZrO3は、CaCO3およびZrCO3をボールミルに入れて16時間湿式混合した後、これを乾燥し、1150℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルに入れて24時間湿式粉砕することにより製造した。
【0093】
なお、主成分であるBaTiO3は、BaCO3およびTiO2をそれぞれ秤量し、ボールミルに入れて約16時間湿式混合した後、これを乾燥し、1100℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルに入れて16時間湿式粉砕して作製したものを用いても同様の特性が得られた。また、主成分であるBaTiO3は、水熱合成粉、蓚酸塩法などによって作製されたものを用いても同様の特性が得られた。
【0094】
これらの原料を、焼成後の組成が、主成分であるBaTiO3の100モルに対して、第1副成分のMgOが1.1モル、第2副成分の(Ba0.6Ca0.4)SiO3が2.5モル、第3副成分のV25を0.06モル、第4副成分のYb23が2.00モル、第5副成分のCaZrO3が2.00モル、第6副成分のY23が3.00モル、および第7副成分のMnOが0.3モルとなるように配合して、ボールミルに入れて約16時間湿式混合した後、これを乾燥させて誘電体材料とした。なお、主成分と副成分を混合する前に、副成分のみを最初に混合分散させ、しかる後、主成分と副成分を混合処理した。
【0095】
このようにして得られた乾燥後の誘電体原料100重量部と、アクリル樹脂4.8重量部と酢酸エチル100重量部と、ミネラルスプリット6重量部と、トルエン4重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。なおCaおよびZrの有機金属塩は酢酸エチルに溶解させて添加した。またZrの拡散層深さの異なる種々のサンプルを作製するためにCaZrO3と有機金属塩の割合を調節した。
【0096】
次いで、平均粒径0.4μmのNi粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解させたもの)40重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練してペースト化し、内部電極層用のペーストを得た。
【0097】
次いで、平均粒径0.5μmのCu粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解させたもの)35重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練してペースト化し、外部電極層用のペーストを得た。
【0098】
次いで、上記誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ4.5μmのグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシートか(内部電極層用ペーストを印刷していないグリーンシート)とを積層、圧着して、グリーンチップを得た。内部電極を有するシートの積層数は4層とした。
【0099】
次いで、グリーンチップを所定サイズに切断し、下記の要領で脱バインダ処理、焼成およびアニ−ルを行なって、積層セラミック焼成体を得た。
【0100】
すなわち、脱バインダ処理は、昇温時間15℃/時間、保持温度280℃、保持時間8時間、空気雰囲気の条件で行なった。
【0101】
焼成に際し、昇温速度は200℃/時間、保持温度は1270〜1320℃、冷却速度は300℃/時間、焼成雰囲気は加湿したN2+H2混合ガス雰囲気(酸素分圧は10-11気圧(10-6Pa))の条件で行なった。
【0102】
アニ−ルは、保持温度900℃、温度保持時間9時間、冷却速度300℃/時間、加湿したN2ガス雰囲気(酸素分圧は10-7気圧(10-2Pa))の条件で行なった。なお、焼成の際の雰囲気ガスの加湿には、水温を20℃としたウェッターを用い、アニ−ルの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を30℃としたウェッターを用いた。
【0103】
次いで、積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極用ペーストを端面に転写し、加湿したN2+H2混合ガス雰囲気中において、800℃にて10分間焼成して外部電極を形成して積層型セラミックコンデンサのサンプルを得た。
【0104】
このようにして得られた各サンプルのサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は、4であり、誘電体層1層当たりの厚さは3.5μmであり、内部電極層の1層当たりの厚さは1.0μmであった。また、得られた積層型セラミックコンデンサのサンプルは、還元雰囲気での焼成においても還元されることはなく、また、内部電極として使用したニッケルの酸化は見られなかった。
【0105】
(各特性の評価方法と結果)
作製された各積層型セラミックコンデンサのサンプルについて、(1)容量温度特性、および(2)平均寿命を評価した。
【0106】
(1)容量温度特性
コンデンササンプルに対し、−55〜150℃の温度範囲で最も容量温度特性が悪くなる150℃の温度環境下での静電容量の変化率(%)を測定することにより評価した。
静電容量の測定にはLCRメータを用い、周波数1kHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。測定結果に対しては、X8R特性(−55〜150℃、ΔC=±15%以内)を満足するか否かで評価した。満足するものを「○」、満足しないものを「×」表示した。
【0107】
(2)平均寿命
コンデンササンプルに対し、200℃の温度条件下で、10.0V/μmの直流電圧を印加する加速試験状態で、抵抗が1桁変化するまでの時間(hr)を測定した。測定対象のサンプル個数は10個とし、各サンプルに対し、抵抗が1桁変化するまでの時間(hr)の平均値を求め、この値を平均寿命とした。
【0108】
平均寿命10時間(hr)以上の特性を有するサンプルが極めて優れた信頼性を有するものとして評価した。誘電体層の厚さが3.5μmであるX8R特性を有する積層型セラミックコンデンサにおいては、平均寿命10時間(hr)以上という基準は、極めて厳しい評価基準と言え、従来開示の技術では到底達成できないレベルであると言える。
【0109】
これらの評価結果を下記表1に示した。
【0110】
なお、Zr拡散層の深さは、透過型電子顕微鏡でZrの分布を測定することにより求めた。表1に記載されているZr拡散領域(%)の値は、平均粒径Dの結晶粒子におけるZrの拡散層深さTの割合、すなわち、(T/D×100)の値を示している。
【0111】
【表1】

【0112】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明の積層型セラミックコンデンサにおける誘電体層は、チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO、CaO、BaO、およびSrOのグループから選択される少なくとも1種からなる第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種からなる第3副成分と、Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物からなる第4副成分と、CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)からなる第5副成分と、を有し、誘電体層を構成する結晶粒子にZrが拡散されており、平均粒径の結晶粒子において、Zrの拡散層深さが結晶粒子の径に対して10〜35%までの深さであるように構成されているので、EIA規格のX8R特性を満足するとともに、加速試験における抵抗変化率が小さく(平均寿命が長く)、極めて高い信頼性が発現する。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、積層型セラミックコンデンサに関する産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、積層型セラミックコンデンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示される積層型セラミックコンデンサのA−A線矢視断面図である。
【図3】図3は、積層構造の形成過程を分かりやすく説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0115】
1…積層型セラミックコンデンサ
2…素子本体
7…誘電体層
11,15…外部電極
23,28…内部電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層が交互に積層された積層体の構造を備える積層型セラミックコンデンサであって、
前記誘電体層が、
チタン酸バリウムを含む主成分と、
MgO、CaO、BaO、およびSrOのグループから選択される少なくとも1種からなる第1副成分と、
酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、
25、MoO3およびWO3のグループから選択される少なくとも1種からなる第3副成分と、
Sc、Er、Tm、YbおよびLuのグループから選択される少なくとも1種の第1の希土類元素(R1)の酸化物からなる第4副成分と、
CaZrO3、またはCaOとZrO2の混合体(CaO+ZrO2)からなる第5副成分と、を有し、
チタン酸バリウムを含む主成分100モルに対する、
第1副成分の含有量(モル)をy1、
第2副成分の含有量(モル)をy2、
第3副成分の含有量(モル)をy3、
第4副成分の含有量(モル)をy4、および
第5副成分の含有量(モル)をy5とした場合、
y1の値が、0.1〜3.0モルの範囲内にあり、
y2の値が、2〜10モルの範囲内にあり、
y3の値が、0.01〜0.5モルの範囲内にあり、
y4の値が、0.5〜7モル(但し、このモル数はR1単独での比率である)の範囲内にあり、
y5の値が、5モル以下(零を含まない)の範囲内にあり、
前記誘電体層を構成する結晶粒子にZrが拡散されており、平均粒径の結晶粒子において、Zrの拡散層深さが結晶粒子の径に対して10〜35%までの深さであることを特徴とする積層型セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体層を構成する結晶粒子の平均粒径が0.2〜0.55μmである請求項1に記載の積層型セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記誘電体層を構成する結晶粒子の平均粒径が0.2〜0.35μmである請求項1に記載の積層型セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分が、SiO2を主成分とし、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1種の元素)、Li2OおよびB23から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでなる複合酸化物である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層型セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分が、(Ba,Ca)xSiO2+x(ただし、x=0.7〜1.2)である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の積層型セラミックコンデンサ。
【請求項6】
前記誘電体層の厚さが2〜7μmである請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の積層型セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−13206(P2006−13206A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189634(P2004−189634)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】