説明

積層樹脂成形体の製造方法

【課題】表皮層と樹脂発泡体とが積層された積層樹脂成形体として、軟質なものを簡便に、しかも、効率よく製造する。
【解決手段】成形装置10を構成する下型12、第1横型14、第2横型16及び上型18によって、キャビティ20が形成される。そして、第1横型14に対し、キャビティ20の延在方向に沿って原材料28が流動するように注入機22が設置される一方、第2横型16に送気管30が設けられる。注入機22から原材料28が射出される際、送気管30を介してキャビティ20に圧縮エア等のガスが供給され、このガスにより原材料28が注入機22側に押圧される。この状態で原材料28内に独立気泡40が形成されている最中に前記ガスの圧力が低減され、これにより各独立気泡40から亀裂が伝播して互いに連なり、連続気泡が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め所定形状に成形され且つ成形型のキャビティに配置された樹脂製表皮材の一端面に樹脂発泡体を設けることで積層樹脂成形体を得る積層樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のインストルメンタルパネルは、樹脂材からなる基材層、気泡が略均一に分散した樹脂発泡体からなる中間層、樹脂材からなる表皮層がこの順序で互いに接合された積層体から構成されている。中間層が樹脂発泡体であるために、クッション感覚に優れた軟質なものとなる。
【0003】
この種の積層体は、はじめに、表皮層の一端面に中間層を積層して積層樹脂成形体とし、次に、この積層樹脂成形体における中間層と、別途作製された基材層とが、真空成形機内で成形されながら接合されることによって製造される。
【0004】
ここで、前記積層樹脂成形体は、所定形状に予め成形された状態で成形用金型のキャビティに挿入された表皮層の一端面上に中間層を設けることで作製される(例えば、特許文献1参照)。具体的には、表皮層が挿入されたキャビティに、樹脂発泡体の原材料である主剤及び硬化剤を同時に供給する。主剤は、硬化剤に接触することによって硬化する。
【0005】
主剤には、発泡剤が含まれている。主剤及び硬化剤が充填された成形用金型を加熱すると、発泡剤の作用下に発泡が生じる。このようにして発泡した主剤が硬化することにより、中間層が形成される。
【0006】
ところで、発泡樹脂中の気泡が独立気泡であると、積層体としては、押圧された際に変形し難いものとなる。そこで、独立気泡同士を連通させて連続気泡とする、いわゆる破泡が行われる。例えば、特許文献2には、樹脂発泡体からなる成形品を圧縮することによって破泡を行う従来技術が開示されている。また、特許文献3においては、樹脂発泡体からなる成形品の内部に圧縮空気を拡散させることによって破泡を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3698660号公報
【特許文献2】実公平3−10026号公報
【特許文献3】特公平6−18924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表皮層の一端面に積層された中間層(樹脂発泡体)に対して破泡を行う場合には、特許文献2に従来技術として記載されている真空減圧が採用されることがある。すなわち、成形用金型から積層樹脂成形体を取り出し、次に、該積層樹脂成形体の周囲の圧力を低減する手法である。
【0009】
このように減圧がなされると、積層樹脂成形体の周囲の圧力に比して各独立気泡内の圧力が大きくなるため、該独立気泡の一部から微小な亀裂が生じる。この亀裂同士が連なることによって、連続気泡が形成される。亀裂の一部は樹脂発泡体の表面まで伝播するので、連続気泡には、大気が進入することになる。
【0010】
その後、積層樹脂成形体を再び成形用金型に挿入し、型閉じを行ってキャビティの排気を行う。これにより、気泡内に進入した大気が排出される。
【0011】
しかしながら、上記のように型開き、破泡及び型閉じを行うことは煩雑である上、長時間を要することになる。
【0012】
また、積層樹脂成形体を取り出した後に周囲の圧力を低減して連続気泡の形成を行うと、積層樹脂成形体を拘束する枠体が存在しないため、積層樹脂成形体に不可避的な変形(寸法変化)が生じる。すなわち、積層樹脂成形体は、寸法変化が生じたまま成形用金型に戻され、この状態で前記の排気が行われる。結局、積層樹脂成形体を矯正することができないので、寸法精度が良好でなくなる。
【0013】
すなわち、従来技術に係る積層樹脂成形体の製造方法には、連続気泡を形成するために繁雑な作業を行う必要があるとともに生産効率が低く、さらに、寸法精度が良好ではないという不具合が顕在化している。
【0014】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、十分に軟質な積層樹脂成形体を簡便に、しかも、効率よく製造することが可能な積層樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するために、本発明は、予め所定形状に成形され且つ成形型のキャビティに配置された樹脂製成形体の一端面に樹脂発泡体を設けることで積層樹脂成形体を得る積層樹脂成形体の製造方法であって、
供給手段から供給された原材料が前記キャビティを流動している最中に、前記キャビティに気体を供給して前記原材料を押圧し、
前記原材料に発泡が生じている最中に、前記気体の圧力を低減して破泡を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明においては、樹脂発泡体の原材料(例えば、主剤及び硬化剤)の流動を抑制するように気体が供給される。この気体が原材料を囲繞して擬似的な殻を形成し、この殻の中で原材料が押圧される。従って、原材料中で生成した独立気泡の圧力と、供給された気体の圧力とが均衡することになる。
【0017】
そして、発泡が継続している最中に前記気体の圧力が低減されると、前記殻が原材料から取り除かれた状態となる。その結果、独立気泡の圧力が原材料の周囲の圧力に比して大きくなり、このため、独立気泡を起点として亀裂が伝播し始める。この亀裂同士が連なることによって、連続気泡が形成される。
【0018】
すなわち、本発明によれば、積層樹脂成形体を形成した後に真空減圧等の煩雑な後作業を行うことなく連続気泡を形成することができる。このため、作業が簡素化するとともに、積層樹脂成形体を得るまでの時間が著しく短縮される。
【0019】
しかも、このようにして作製された積層樹脂成形体は、真空減圧等の公知の破泡手法によって形成された連続気泡を具備する積層樹脂成形体に比して軟質であり、クッション感覚が著しく良好である。
【0020】
以上から諒解されるように、本発明によれば、原材料の流動を抑制する方向に気体を供給し、且つ発泡の継続中に前記気体の圧力を低減するという極めて簡便な操作を行うことにより、軟質な積層樹脂成形体を効率よく製造することができる。
【0021】
なお、気体の供給開始時の圧力は、前記原材料の流動を停止可能な程度とすることが好ましい。この場合、前記殻によって原材料を確実に囲繞することができるので、連続気泡を形成することが一層容易となるからである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、樹脂発泡体の原材料の流動を抑制するように気体を供給して前記原材料を押圧し、その後、前記気体の圧力を低減することで、原材料中に形成された独立気泡の圧力を該原材料の周囲の圧力に比して高くし、各独立気泡から亀裂を伝播させて連なり合わせて連続気泡を形成するようにしている。このため、連続気泡を形成するための真空減圧等の後作業が不要となるので、積層樹脂成形体の製造作業が簡素となるとともに、該積層樹脂成形体を効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る積層樹脂成形体の製造方法を実施するための成形装置の要部縦断面構成図である。
【図2】図1の成形装置のキャビティに樹脂発泡体の原材料を充填しながら第2横型側から圧縮エアを導入している状態を示す要部縦断面構成図である。
【図3】各独立気泡から伝播した亀裂が連なり合って連続気泡が形成された状態を拡大して示す要部縦断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る積層樹脂成形体の製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る積層樹脂成形体の製造方法を実施するための成形装置10の要部縦断面構成図である。この成形装置10は、下型12、第1横型14、第2横型16及び上型18を成形型として有し、これら型12、14、16、18の各々には、図示しない変位機構(例えば、流体圧シリンダ等)が取り付けられている。すなわち、下型12、第1横型14、第2横型16及び上型18は、前記変位機構の作用下に互いに離間・接近が可能であり、互いに接近した際に型閉じがなされてキャビティ20が形成される一方、互いに離間した際に型開きがなされる。
【0026】
この場合、キャビティ20は水平方向に延在する。そして、第1横型14には、樹脂発泡体の原材料となる主剤及び硬化剤を供給する供給手段としての注入機22が設置されている。すなわち、この注入機22には、キャビティ20に主剤を供給するための主剤供給管24と、該主剤に添加される硬化剤を供給するための硬化剤供給管26が連結されている。主剤及び硬化剤は注入機22内で混合され、原材料28として注入機22からキャビティ20に供給される。
【0027】
また、第2横型16には、キャビティ20の延在方向に沿って延在する貫通孔29が形成されており、この貫通孔29には、送気管30が挿入されている。この送気管30の先端部は第2横型16の側面外方から突出しており、さらに、レギュレータ32を介してガス供給管34が連結されている。図示しないガス供給源に連結された該ガス供給管34には、バルブ36が介装されている。
【0028】
この中、レギュレータ32には、該レギュレータ32を操作する図示しないアクチュエータと、該アクチュエータを制御する図示しないアクチュエータ制御手段とが付設されている。
【0029】
一方、バルブ36は、電気的ないし光学的通信手段(図示せず)を介して該バルブ36の開度を制御するバルブ開度制御手段(図示せず)に接続されている。バルブ36の開度は、このバルブ開度制御手段の指令信号により、段階的又は連続的に変更可能である。
【0030】
前記アクチュエータ制御手段及び前記バルブ開度制御手段は、同一の制御盤内に制御回路として設けられており、この制御盤によって成形装置10の一連の動作が制御される。
【0031】
以上の構成において、下型12、第1横型14、第2横型16及び上型18の各々には、図示しない排気通路が複数個形成されている。また、キャビティ20には、樹脂材からなり、且つ下型12の上端面の形状に対応する形状に成形された表皮層38が挿入されている。
【0032】
本実施の形態に係る積層樹脂成形体の製造方法は、上記のように構成された成形装置10を用い、以下のようにして実施される。
【0033】
先ず、注入機22に対し、主剤供給管24から主剤を供給するとともに硬化剤供給管26から硬化剤を供給する。注入機22内で混合された主剤及び硬化剤は、原材料28として注入機22からキャビティ20に供給される。なお、原材料28がキャビティ20に充填される最中、該キャビティ20に残留していた大気は、原材料28に押圧されることに伴い、前記排気通路を介してキャビティ20の外部に排出される。
【0034】
ここで、本実施の形態においては、原材料28の充填を開始した直後、ないし所定量の原材料28が導入された後、図2に示すように、前記ガス供給源から前記ガス供給管34及び前記送気管30を介して、キャビティ20に圧縮エアを導入する。なお、圧縮エアに代替して窒素、アルゴン等を導入するようにしてもよい。
【0035】
圧縮エアは、原材料28の流動方向に対して逆方向に流通するように導入される。このため、原材料28は、圧縮エアによって該原材料28の流動方向と逆方向に押圧され、その結果、該原材料28の充填速度が第2横型16側から低減し、最終的に、原材料28が停止する。換言すれば、本実施の形態においては、原材料28を停止させることが可能な圧力で圧縮エアがキャビティ20に供給される。
【0036】
その一方で、原材料28中の主剤に含まれた発泡剤が発泡して独立気泡40が生成するとともに、硬化剤の作用下に主剤が硬化し始める。これにより、原材料28の樹脂発泡体42への変化が開始される。
【0037】
上記したように、本実施の形態においては、第2横型16側から圧縮エアが導入され、このために原材料28(樹脂発泡体42)の流動が停止している。従って、原材料28(樹脂発泡体42)は、圧縮エアに囲繞された状態となる。換言すれば、原材料28(樹脂発泡体42)は、擬似的に、圧縮エアによって形成される圧縮性の殻に覆われる。そして、この状態で、原材料28(樹脂発泡体42)中の発泡が継続される。従って、生成した独立気泡40内の圧力は、擬似的な殻(圧縮エア)の圧力と均衡する。
【0038】
この発泡が継続している最中、レギュレータ32を操作することによって圧縮エアの供給圧力を低減する。すなわち、減圧を行う。
【0039】
この減圧に伴い、原材料28(樹脂発泡体42)を覆う擬似的な殻が取り除かれる。その結果、独立気泡40の圧力がキャビティ20内の圧力を上回るようになり、このため、図3に示すように、各独立気泡40を起点として亀裂44が伝播する。この亀裂44同士は最終的に互いに連なり、これにより、連続気泡46が形成される。同時に、キャビティ20の全体が原材料28で満たされるとともに、該原材料28の樹脂発泡体42への変化が起こる。勿論、樹脂発泡体42は表皮層38に接合し、これにより、表皮層38上に樹脂発泡体42(中間層)が積層された積層樹脂成形体が得られるに至る。
【0040】
このように、原材料28をキャビティ20に充填する際、該キャビティ20に対して圧縮エアを供給し、且つ原材料28内で発泡が継続している最中に圧縮エアの圧力を低減することにより、原材料28から樹脂発泡体42を形成している間に連続気泡46を設けることが可能となる。
【0041】
その後、前記変位機構の作用下に、下型12、第1横型14、第2横型16及び上型18を互いに離間するように変位させれば型開きが行われ、積層樹脂成形体が露呈する。上記したように、この積層樹脂成形体における樹脂発泡体42には既に連続気泡46が形成されており、従って、従来技術のように、真空減圧等を行う必要がない。
【0042】
すなわち、本実施の形態によれば、連続気泡46を形成するための煩雑な後作業(真空減圧等)を行う必要がない。そして、このために積層樹脂成形体を得るまでの時間も著しく短縮される。要するに、積層樹脂成形体を簡便に、しかも、効率よく製造することができる。その上、本実施の形態に係る製造方法によって作製された積層樹脂成形体は、真空減圧等、従来公知の破泡手法によって得られた連続気泡を有する積層樹脂成形体に比して軟質であり、クッション感覚が著しく良好である。
【0043】
この積層樹脂成形体には、真空成形機において樹脂発泡体42側に基材層が積層されると同時に該基材層とともに成形が施され、これにより、自動車のインストルメンタルパネル等の最終製品が製造される。勿論、この最終製品も、クッション感覚が著しく優れたものとなる。
【0044】
以上のように、本実施の形態によれば、一層軟質な積層樹脂成形体を簡便に、しかも、効率よく製造することができる。
【0045】
なお、上記した実施の形態においては、水平方向に延在するキャビティ20を例示して説明したが、キャビティ20の形状は特にこれに限定されるものではなく、如何なる形状のものであってもよい。
【0046】
また、圧縮エア等の供給開始時の圧力は、原材料28を停止可能な程度に特に限定されるものではなく、少なくとも、原材料28の流動を遅延させる程度であればよい。
【符号の説明】
【0047】
10…成形装置 12、14、16、18…型
20…キャビティ 22…注入機
28…原材料 32…レギュレータ
34…ガス供給管 38…表皮層
40…独立気泡 42…樹脂発泡体
44…亀裂 46…連続気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め所定形状に成形され且つ成形型のキャビティに配置された樹脂製成形体の一端面に樹脂発泡体を設けることで積層樹脂成形体を得る積層樹脂成形体の製造方法であって、
供給手段から供給された原材料が前記キャビティを流動している最中に、前記キャビティに気体を供給して前記原材料を押圧し、
前記原材料に発泡が生じている最中に、前記気体の圧力を低減して破泡を行うことを特徴とする積層樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記気体は、前記原材料の流動を停止可能な圧力で供給が開始されることを特徴とする積層樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−37280(P2011−37280A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237390(P2010−237390)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2007−244107(P2007−244107)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】