説明

穴あきハニカム構造体の製造方法

【課題】穴部を研削する際のチッピングの発生を有効に防止するとともに、簡便且つ安価に穴あきハニカム構造体を製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法は、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒22が配置されたボールエンドミル24を用いて、ハニカム構造体10の外壁2の表面から、この外壁2及び隔壁3の一部を研削して穴部5を形成する工程を備えた製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の一部にセンサー等を挿入可能な、ハニカム構造体の外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を貫通する穴部が形成された穴あきハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、穴部を研削する際のチッピングの発生を有効に防止することができ、簡便且つ安価に穴あきハニカム構造体を製造することが可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス規制の強化に伴い、触媒を担持したハニカム構造体にあっても、排ガス浄化性能を向上させる試みが種々行われている。上記排ガス規制の対象となる有害物質の多くは、運転開始直後の触媒温度が低い状態で多量に排出される。
【0003】
このため、近年では、触媒を担持したハニカム構造体を、エキゾーストマニホールド(以下、「エキマニ」と省略することがある)直下に搭載して、高温の排ガスで触媒を直ちに活性化することにより、エンジンの始動直後に排出される有害物質を低減するコンバーターシステムの実用化が開始されている。
【0004】
一方、触媒を担持したハニカム構造体にあっては、浄化手段として搭載した後に、その浄化性能をモニタリングすることにより、浄化性能の劣化状況を見定めることも、有害物質の排出を低減する上で極めて重要であり、例えば、ハニカム構造体の前後に2つの酸素センサーを配置してモニタリングすることが行われている。
【0005】
しかし、ハニカム構造体及びセンサーを、エキマニ直下に搭載する場合には、ハニカム構造体やセンサーを配設するためのスペースが狭く、センサーのスペースを確保するために、ハニカム構造体を大幅に縮小化せざるをえず、触媒容量の大幅な低減により意図した浄化性能が得られないという問題があった。
【0006】
このようなことから、ハニカム構造体の隔壁の一部を切削して、溝、穴又は縁取りを設けることにより、ハニカム構造体にセンサー挿入領域を確保する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−225576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなハニカム構造体の隔壁の一部を切削して溝や縁取りを形成する際には、グラインダーが用いられ、一方、隔壁の一部を研削して穴を形成する際には、軸付砥石、ドリル、エンドミル等が用いられている。
【0009】
しかしながら、上記したセンサー挿入領域のように、実際にハニカム構造体の外壁から隔壁の一部を貫通する穴部を形成する場合には、このような従来公知の研削工具を用いて研削加工を行うと、研削工具の切れ味が加工時に急速に低下してしまい、チッピングが発生してしまうという問題があった。また、このように切れ味が低下した研削工具を用いて加工を継続して行うと、穴部の形状が歪んでしまったり、加工時にハニカム構造体が破損してしまったりするという問題もあった。更に、このような研削工具は比較的高価であるため、加工費用が増大して、製造コストが掛かるという問題もあった。
【0010】
また、従来公知の方法で研削加工を行う場合には、チッピングの発生を抑制するために、研削するピッチを短くして、研削工具を頻繁に抜き出しながら加工しなければならず、穴部を形成する工程が極めて煩雑であるという問題もあった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、ハニカム構造体の一部にセンサー等を挿入可能な、ハニカム構造体の外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を貫通する穴部が形成された穴あきハニカム構造体を製造する方法において、穴部を研削する際のチッピングの発生を有効に防止するとともに、簡便且つ安価に穴あきハニカム構造体を製造することが可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、上記した穴部を形成する場合には、研削加工中の切り粉の排出を十分に行えるような研削工具、即ち、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて、ハニカム構造体の外壁から、この外壁及び隔壁の一部を研削して穴部を形成することによって、チッピングの発生を有効に防止することができ、上記課題を達成することが可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、以下に示す穴あきハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0014】
[1] セラミックス原料と金属原料との少なくとも一方を含有する成形用原料を混合し混練して坏土を得る工程(A)と、得られた前記坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る工程(B)と、得られた前記ハニカム成形体を乾燥し、焼成して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、前記隔壁を囲むように配置された外壁とを有するハニカム構造体を得る工程(C)と、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて、得られた前記ハニカム構造体の前記外壁の表面から、前記外壁及び前記隔壁の一部を研削して、前記外壁及び前記隔壁の一部を貫通する穴部が形成された穴あきハニカム構造体を得る工程(D)と、を備えた穴あきハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[2] 前記ボールエンドミルとして、前記砥粒が電着によって配置されたものを用いる前記[1]に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【0016】
[3] 前記軸付砥石として、最大溝幅が0.5mm以上の前記溝が2つ以上形成され、且つ2つ以上の前記溝の溝幅の総和が砥石回転方向の周長の30%以下のものを用いる前記[1]に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【0017】
[4] 前記軸付砥石、又は前記ボールエンドミルの1回転当たりの送り量を0.002〜0.15mmとして前記外壁及び前記隔壁の一部を研削する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【0018】
[5] 前記ハニカム構造体の前記外壁の表面に対して、前記外壁の表面の法線方向又は前記法線方向から±45°の範囲で傾斜した方向に、前記穴部を形成する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【0019】
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の穴あきハニカム構造体の製造方法によって製造された穴あきハニカム構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法によれば、穴部を研削する際のチッピングの発生を有効に防止することができ、簡便且つ安価に穴あきハニカム構造体を製造することができる。
【0021】
具体的には、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて研削加工を行うことにより、軸付砥石の溝又はボールエンドミルの切刃の隙間から、加工時に発生する切り粉が排出されるため、上記した工具の先端(即ち、砥粒が配置された部位)への切り粉の付着を有効に防止することができる。
【0022】
このため、研削工具の切れ味が低下し難く、チッピングの発生を有効に防止することができ、正常な形状の穴部を安定して連続的に形成することができる。また、工具も高温になり難いため、工具の寿命が長くなり、穴あきハニカム構造体を安価に製造することができる。更に、上記工具を用いることによって、1つの穴部を形成する際に、1回の送り(即ち、1ステップ)で研削することが可能となり、加工工程が極めて簡便なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0024】
[1]穴あきハニカム構造体の製造方法:
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法は、図1〜図3に示すような、流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁3と、この隔壁3を囲むように配置された外壁2とを備え、外壁2の表面から、外壁2及び隔壁3の一部を貫通する穴部5が形成された穴あきハニカム構造体1を製造する方法である。
【0025】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法は、セラミックス原料と金属原料との少なくとも一方を含有する成形用原料を混合し混練して坏土を得る工程(A)と、得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る工程(B)と、得られたハニカム成形体を乾燥し、焼成して、上記した隔壁及び外壁を有するハニカム構造体を得る工程(C)と、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて、得られたハニカム構造体の外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を研削して、外壁及び隔壁の一部を貫通する穴部が形成された穴あきハニカム構造体を得る工程(D)と、を備えた製造方法である。
【0026】
このように構成することによって、穴部を研削する際のチッピングの発生を有効に防止することができ、簡便且つ安価に穴あきハニカム構造体を製造することができる。
【0027】
具体的には、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて研削加工を行うことにより、軸付砥石の溝又はボールエンドミルの切刃の隙間から、加工時に発生する切り粉が排出されるため、上記した工具の先端(即ち、砥粒が配置された部位)への切り粉の付着を有効に防止することができる。
【0028】
このため、研削工具の切れ味が低下し難く、チッピングの発生を有効に防止することができ、正常な形状の穴部を安定して連続的に形成することができる。また、工具も高温になり難いため、工具の寿命が長くなり、穴あきハニカム構造体を安価に製造することができる。更に、上記工具を用いることによって、1つの穴部を形成する際に、1回の送り(即ち、1ステップ)で研削することが可能となり、加工工程が極めて簡便なものとなる。また、研削加工時における異音も発生しなくなる。なお、研削加工時の異音は、研削工具の切れ味が低下したことや、加工が正常に行われていないことを判断する目安となる。
【0029】
なお、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法によって製造される、図1〜図3に示すような穴あきハニカム構造体1は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等のハニカムフィルターや触媒担体として用いることができる。このような穴あきハニカム構造体1は、上記した穴部5に、その浄化性能等をモニタリングするためのセンサー等の種々のセンサーを配置して用いることができる。
【0030】
ここで、図1は、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法によって製造される穴あきハニカム構造体の一例を示す斜視図であり、図2は、図1に示す穴あきハニカム構造体を端面側から見た平面図であり、図3は、図1に示す穴あきハニカム構造体を側面側から見た平面図である。
【0031】
以下、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法の各工程について更に具体的に説明する。
【0032】
[1−1]工程(A):
工程(A)は、セラミックス原料と金属原料との少なくとも一方を含有する成形用原料を混合し混練して坏土を得る工程である。
【0033】
この工程(A)に用いられるセラミックス原料は、従来公知のハニカム構造体を製造する際に用いられるセラミックス原料を好適に用いることができる。坏土に用いられるセラミックス原料としては、坏土を成形した成形体を焼成した後にセラミックスとなる原料であればよく、例えば、ケイ素、チタン、ジルコニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コージェライト化原料、チタン酸アルミニウム、及びサイアロンからなる群より選択される少なくとも1種のセラミックス原料を挙げることができる。
【0034】
また、金属原料としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の金属を挙げることができる。なお、これらセラミックス原料や金属原料は、1種単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0035】
成形用原料としては、上記したセラミックス原料や金属原料に、必要に応じて、例えば、バインダ、造孔剤、分散剤、分散媒等を含有するものであってもよい。
【0036】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、成形時に坏土に流動性を付与し、且つ焼成前のハニカム成形体の機械的強度を維持する補強剤としての機能を果たす添加剤として、有機バインダを用いることが好ましい。
【0037】
有機バインダとしては、例えば、有機高分子を挙げることができる。具体的には、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。有機バインダは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
有機バインダの含有割合については特に制限はないが、坏土全体に対して、2〜10質量%とすることが好ましい。少な過ぎると十分な成形性を得られないことがあり、多過ぎると焼成工程で発熱し、クラックが発生することがある。
【0039】
また、高気孔率の穴あきハニカム構造体を製造する場合には、成形用原料に造孔剤を含有させることが好ましい。造孔剤としては、例えば、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、又は発泡樹脂(アクリロニトリル系プラスチックバルーン等)等を挙げることができる。
【0040】
このような造孔剤は、気孔の形状、大きさ、及び分布等を、穴あきハニカム構造体の用途に応じて調整することが可能である。また、気孔率を増大させて、高気孔率の穴あきハニカム構造体を得ることができる。これら造孔剤は気孔を形成する代わりに、自身は焼成時に焼失する。
【0041】
このような造孔剤の中でも、二酸化炭素や有害ガスの発生及びクラックの発生を抑制する観点から、発泡樹脂を好適に用いることができる。特に、発泡樹脂からなるマイクロカプセルは、中空であることから、少量の樹脂の添加で高気孔率の多孔質ハニカム構造体を得られることに加え、焼成時の発熱が少なく、熱応力によるクラックの発生を低減することが可能である。
【0042】
造孔剤の含有割合については特に制限はないが、坏土全体に対して、0.1〜50質量%とすることが好ましい。少な過ぎると十分な気孔率を得ることができないことがあり、多過ぎると気孔率が高すぎ、強度が不十分になることがある。
【0043】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、均質な成形用原料の混合物を得るために、成形用原料に分散剤を含有させることが好ましい。分散剤としては界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤は、原料粒子の分散性を向上させるとともに、成形工程においては原料粒子を配向し易くさせる働きがある。
【0044】
このような界面活性剤としては、陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、両イオン性のいずれであってもよいが、陰イオン性界面活性剤を好適に用いることができる。このような陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩や、非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン(又はソルビトール)脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0045】
界面活性剤の含有割合については特に制限はないが、坏土全体に対して、0.01〜5質量%とすることが好ましい。少な過ぎると成形用原料を構成する各成分の配合を均質にし難いことがあり、多過ぎると、バインダの働きが阻害され成形できないことがある。
【0046】
また、成形用原料に分散媒として水を含有させることが好ましい。分散媒を含有させる割合は、成形時における坏土が適当な硬さを有するものとなるようにその量を調整することができるが、好ましくは、坏土全体に対して、15〜50質量%である。少な過ぎると坏土が固く成形し難くなることがあり、多過ぎると坏土が軟らかくなり過ぎることがある。
【0047】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法において、上述した有機バインダ、造孔剤、分散剤、及び分散媒の全部又は一部については、成形用原料を混合する際に添加してもよいが、混練する際に添加してもよい。
【0048】
成形用原料を混合する装置については特に制限はなく、従来公知の混合装置、例えば、ヘンシェルミキサー等を使用することができる。
【0049】
また、混合した成形用原料を混練して坏土を調製する装置についても特に制限はなく、例えば、シグマニーダー、バンバリーミキサー、スクリュー式の押出混練機、真空土練機等の従来公知の混練装置を使用することができる。坏土の形状については特に制限はないが、この後の成形の工程において成形装置に導入し易い形状、例えば、円柱状等であることが好ましい。
【0050】
[1−2]工程(B):
工程(B)は、上述した工程(A)によって得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る工程である。
【0051】
ハニカム成形体の成形方法については特に制限はなく、押出成形、射出成形、プレス成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。中でも、上述のように調製した坏土を、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。
【0052】
このようなハニカム成形体は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を備えた成形体である。なお、ハニカム構造体における外壁については、上記した坏土を成形する段階で、一体的にハニカム成形体として成形してもよいし、また、この段階では外壁の無い状態のハニカム成形体を成形し、得られたハニカム成形体又はその成形体を焼成した焼成体の外周面に外壁となるコーティング材を塗工して外壁を形成してもよい。
【0053】
なお、この工程(B)によって得られるハニカム成形体の隔壁の厚さについては特に制限はない。例えば、近年、圧力損失、及び熱容量の低減等の要請から製造されている薄い隔壁のハニカム構造体についても適応可能である。具体的な隔壁の厚さとしては、0.01〜0.50mmであることが好ましい。
【0054】
ハニカム成形体を構成する隔壁により区画形成されるセルとしては、例えば、断面形状が円形、楕円形、長円形、四角形、八角形、又は左右非対称な異形形状等のものを挙げることができる。また、ハニカム成形体のセル密度は、得られるハニカム構造体の強度及び有効GSA(幾何学的表面積)、更にはガスが流れる場合の圧力損失を考慮して、6〜2000セル/平方インチ(0.9〜311セル/cm)であることが好ましく、50〜400セル/平方インチ(7.8〜62セル/cm)であることがより好ましい。
【0055】
また、ハニカム成形体の形状は、目的に応じて適宜好ましい形状とすればよく、例えば、径方向の断面形状が、三角形、長方形、正方形、菱形、台形、楕円、円形、トラックサークル形状、半楕円形、又は半円形等のものを挙げることができる。
【0056】
[1−3]工程(C):
工程(C)は、上述した工程(B)によって得られたハニカム成形体を乾燥し、焼成して、隔壁及び外壁を有するハニカム構造体を得る工程である。
【0057】
ハニカム成形体を乾燥する場合には、従来公知の乾燥方法によって乾燥することが可能である。具体的な乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥、及び熱風乾燥からなる群より選択される少なくとも1種の乾燥方法を用いることが好ましい。なお、このようにしてハニカム成形体を乾燥した後、必要に応じてハニカム成形体の両端面を所定の長さに切断加工してもよい。
【0058】
また、ハニカム構造体として、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止された所定のセル(所定のセル)と、一方の端部が目封止され且つ他方の端部が開口された残余のセル(残余のセル)とが交互に配設されたDPF等のフィルタを製造する際には、ハニカム成形体を焼成する前に、乾燥前又は乾燥後のハニカム成形体のセルの端部を目封止することが好ましい。
【0059】
目封止の方法については特に制限はないが、例えば、まず、ハニカム成形体の一方の端面に粘着シートを貼付し、画像処理を利用したレーザー加工等により目封止すべきセルに対応する部分のみに孔を開け、目封止形成用のマスクを形成する。また、セラミックス原料等を含有する目封止スラリーを、貯留容器等に貯留しておく。
【0060】
そして、上記マスクを施した側の端部を、貯留容器中に浸漬して、マスクの孔を通して目封止すべきセルに目封止スラリーを充填して目封止部を形成する。他方の端部についても、同様に、ハニカム成形体の他方の端面に粘着シートを貼付し、一方の端部において目封止されていないセルに対応する部分に孔を開け、上記一方の端部に目封止部を形成した方法と同様にして目封止部を形成する。
【0061】
目封止スラリーをセルに充填して目封止部を形成した後には、目封止部を乾燥させることが好ましい。乾燥方法は特に限定されず、上述したハニカム成形体の乾燥方法に挙げられた方法を採用することができる。
【0062】
次に、ハニカム成形体を、所定の温度に加熱して焼成する。焼成の条件としては、坏土に用いた原料等の種類によって適宜最適な条件を設定することができる。焼成装置としては、燃焼炉、電気炉等を使用することが好ましい。
【0063】
なお、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、ハニカム成形体が、成形時に隔壁と一体的に形成された外壁を有していないものである場合には、セメント等の材料を用いて、焼成後の構造体の外周に外壁を形成する。また、ハニカム成形体が、成形時に隔壁と一体的に形成された外壁を有している場合であっても、必要に応じて焼成後の構造体の外周を研削して所定形状とし、セメント等の材料を用いて外壁を再度形成してもよい。
【0064】
以上のようにして、図4に示すような、流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁3と、この隔壁3を囲むように配置された外壁4とを有するハニカム構造体10を得る。ここで、図4は、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法の工程(C)にて得られるハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【0065】
[1−4]工程(D):
工程(D)は、その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて、得られたハニカム構造体の外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を研削して穴部を形成し、外壁及び隔壁の一部を貫通する穴部が形成された穴あきハニカム構造体を得る工程である。
【0066】
[1−4A]軸付砥石:
軸付砥石としては、例えば、図5A及び図5Bに示すような、円筒状の台金11の外周面及び端面に砥粒12を一層以上配置した軸付砥石14であり、その加工方向に沿って溝13が形成されたものを挙げることができる。
【0067】
研削加工時には、この溝13から切り粉が排出されるため、軸付砥石14の先端への切り粉の付着を有効に防止することができる。このため、軸付砥石14の切れ味が低下し難く、チッピングの発生を有効に防止することができる。また、加工時に軸付砥石14が高温になり難いため、砥石部分(砥粒12を配置した部分)の寿命が長くなり、穴あきハニカム構造体を安価に製造することができる。更に、1つの穴部5(図1参照)を形成する際に、1回の送り(1ステップ)で研削することが可能となり、加工工程が極めて簡便なものとなる。
【0068】
ここで、図5A及び図5Bは、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法に用いられる軸付砥石の一例を示す模式図であり、図5Aは、軸付砥石を側面から見た平面図、図5Bは、軸付砥石を先端側から見た平面図である。
【0069】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法に用いられる軸付砥石の台金は、従来公知の軸付砥石の台金と同様に構成されたものを好適に用いることができる。素材については特に制限はないが、ステンレス鋼であることが好ましい。
【0070】
また、この軸付砥石の砥粒の種類についても特に制限はなく、全ての天然砥石及び人造砥石を用いることができるが、粒径が50〜300μmのダイヤ砥粒であることが好ましく、粒径が100〜200μmのダイヤ砥粒であることが更に好ましい。このような粒径を用いることによって、セラミックス又は焼結金属を主たる成分とするハニカム構造体に対して、良好に研削加工を行うことができる。また、上記砥粒はCBN(cubic boron nitride:立方晶窒化硼素)でもよい。
【0071】
図5A及び図5Bにおいては、その先端の中央部分にて合流する四本の溝13が形成された軸付砥石14の例を示しているが、上記したように加工方向に沿って形成された溝から切り粉を排出させて、軸付砥石の先端への切り粉の付着を有効に防止することができるものであれば、溝の本数については4本に限定されることはない。なお、複数の溝が、軸付砥石の先端の中央部分にて合流する場合には、この中央部分から延びる溝の数が上記溝の本数となる。
【0072】
また、溝の幅についても特に制限はなく、切り粉を排出させることができるとともに、溝が形成された軸付砥石が砥石として十分に機能する程度の大きさであればよい。
【0073】
なお、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、溝幅が0.5mm以上の溝が2つ以上形成され、且つ2つ以上の上記溝の溝幅の総和が砥石回転方向の周長の30%以下の軸付砥石を好適に用いることができる。なお、溝幅が1mm以上で、且つ溝幅の総和が砥石回転方向の周長の3%〜25%に相当するものであることが更に好ましい。
【0074】
溝幅が0.5mm未満であると、切り粉の排出が十分に行われず、軸付砥石の先端に切り粉が付着して切れ味が低下してしまうことがある。一方、溝幅が砥石回転方向の周長の30%を超えると、軸付砥石の砥粒が配置される部位の面積が少なくなり、軸付砥石の寿命が短くなってしまうことがある。なお、上記周長は、砥石回転方向の最大周長のことである。
【0075】
また、溝の深さについては、溝幅の0.3倍以上であることが好ましく、1倍以上であることが更に好ましい。また、溝の深さは、砥石径の1/4以下であることが好ましい。溝の深さが溝幅の0.3倍未満であると、切り粉の排出が十分に行われず、軸付砥石の先端に切り粉が付着して切れ味が低下してしまうことがある。一方、溝の深さが砥石径の1/4を超えると、砥石が破壊することがある。なお、上記砥石径は、軸付砥石の砥石部分の最大直径のことである。
【0076】
また、台金11の外周面及び端面に配置される砥粒12の厚さは、砥粒径の3倍以上であることが好ましい。また、すべてが砥粒を含んだメタルボンドあってもよい。
【0077】
[1−4B]ボールエンドミル:
ボールエンドミルとしては、例えば、図6A及び図6Bに示すような、2つ以上のボール切刃21を備え、その先端に砥粒22が配置されたボールエンドミル24を挙げることができる。
【0078】
このようなボールエンドミルは、研削加工時には、ボールエンドミルの切刃の隙間から切り粉が排出されるため、ボールエンドミルの先端への切り粉の付着を有効に防止することができる。このため、ボールエンドミルの砥粒の切れ味が低下し難く、チッピングの発生を有効に防止することができる。また、上記した軸付砥石と同様に、工具の寿命が長くなり、穴あきハニカム構造体を安価に製造することができるとともに、穴部を1回の送り(1ステップ)で研削することが可能となり、加工工程が極めて簡便なものとなる。
【0079】
ここで、図6A及び図6Bは、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法に用いられるボールエンドミルの一例を示す模式図であり、図6Aは、ボールエンドミルを側面から見た平面図、図6Bは、ボールエンドミルを先端側から見た平面図である。
【0080】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法に用いられるボールエンドミルの切刃は、公知のボールエンドミルの切刃と同様に構成されたものを好適に用いることができる。素材については特に制限はないが、ステンレス鋼であることが好ましい。
【0081】
なお、ボールエンドミル以外の肩部が鋭角な一般ドリル等を用いたとしても、穴部を研削する際のチッピングの発生を抑制することはできない。また、砥粒が配置されていない単なるボールエンドミルでは、ボール切刃の摩耗が激しすぎて、均一な大きさの穴部を形成するためには、ボールエンドミルを頻繁に交換しなければならない。このため、研削加工におけるコストが増大してしまう。
【0082】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法に用いられるボールエンドミルの先端に配置する砥粒の種類については特に制限はなく、全ての天然砥石及び人造砥石を用いることができるが、粒径が50〜300μmのダイヤ砥粒であることが好ましく、粒径が100〜200μmのダイヤ砥粒であることが更に好ましい。このように構成することによって、セラミックス又は焼結金属を主たる成分とするハニカム構造体に対して、良好に研削加工を行うことができるまた、なお、この砥粒としては、CBNを用いることもできる。
【0083】
本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、このボールエンドミルとして、上記した砥粒が電着によって配置されたものを用いることが好ましい。このように構成することによって、先端部分に配置された砥粒の切れ味が低下した場合には、ボールエンドミルの先端に砥粒を再度電着させることによって、ボールエンドミルの切れ味をよみがえらせることができる。このため、製造コストを低減することが可能となる。
【0084】
ボールエンドミルの先端に配置される砥粒(砥粒の層)の厚さについては特に制限はないが、例えば、砥粒径の3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることが更に好ましい。例えば、配置される砥粒の厚さが3倍未満であると、砥粒の脱落により十分な切れ味を発現させることができないことがある。
【0085】
また、このようにボールエンドミルの先端に砥粒が配置される場合には、加工中における砥粒の剥離を防止するための下地層を配置することが好ましい。このような下地層としては、例えば、ニッケルめっき層等を挙げることができる。また、コーティングされた砥粒を使用し、下地層との接合強度を増すことで、砥粒の剥離防止することもできる。
【0086】
[1−4C]穴部の形成:
上記した軸付砥石又はボールエンドミルを用いて、ハニカム構造体の外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を研削して穴部を形成する際には、例えば、図7A及び図7B、又は図8A及び図8Bに示すように、まず、穴部5を形成する部位(研削加工を行う部位)が上方を向くように、即ち、ハニカム構造体10を、その端面が横向きになるようにして載置する。次に、軸付砥石14又はボールエンドミル24を回転させながら、ハニカム構造体10の外壁2の表面から、この外壁2及び隔壁3の一部を研削する。
【0087】
ここで、図7A及び図7Bは、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法における工程(D)の一例を説明する斜視図であり、図8A及び図8Bは、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法における工程(D)の他の例を説明する斜視図である。
【0088】
研削加工を行う際の条件については、穴部を形成するハニカム構造体の素材、外壁や隔壁の厚さ、また、穴部の内径や深さ等に応じて適宜決定することができる。なお、特に限定されることはないが、軸付砥石又はボールエンドミルを、1回転当たりの送り量が、0.0002〜0.15mmとなるように、外壁及び隔壁の一部を研削することが好ましい。なお、1回転当たりの送り量は、0.004〜0.1mmであることが更に好ましく、0.05〜0.1mmであることが特に好ましい。
【0089】
このように構成することによって、研削加工中に、砥石の溝又はボールエンドミルの切刃の隙間から切り粉を良好に排出させることができ、研削工具の切れ味が低下し難くなる。なお、1回転当たりの送り量が0.002mm未満であると、砥粒表面ですべりが発生し、焼き付き現象が発生することがある。一方、1回転当たりの送り量が0.15mmを越えると、チッピングを生じさせることがある。
【0090】
また、軸付砥石又はボールエンドミルの送り速度(研削速度)についても制限はなく、上記した各種条件に応じて適宜決定することができる。具体的な送り速度としては、上記1回転当たりの送り量の範囲であればよい。
【0091】
なお、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、1つの穴部を形成する際に、1回の送り(1ステップ)で研削することが製造タクトの面から好ましい。
【0092】
また、形成する穴部の内径や深さ、また穴部の数については、穴あきハニカム構造体の使用目的に応じて適宜決定することができる。
【0093】
また、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、特に限定されることはないが、ハニカム構造体の外壁の表面に対して、外壁の表面の法線方向に向けて、穴部を形成することが好ましい。このように構成することによって、穴部を良好に形成することができる。
【0094】
なお、本実施形態の穴あきハニカム構造体の製造方法においては、ハニカム構造体の外壁の表面に対して、上記法線方向から±45°の範囲で傾斜した方向に、穴部を形成することもできる。
【0095】
例えば、図9A及び図9Bに示すように、ハニカム構造体10の上記法線方向Xから、ハニカム構造体10の軸方向Yに沿って、±45°の範囲で傾斜した方向に穴部を形成することもできる。
【0096】
また、例えば、図10A及び図10Bに示すように、ハニカム構造体10の上記法線方向Xから、ハニカム構造体10の外周方向Zに沿って、±45°の範囲で傾斜した方向に穴部を形成することもできる。
【0097】
ここで、図9A及び図10Aは、穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の更に他の例を説明する斜視図である。また、図9Bは、図9Aに示す穴あきハニカム構造体を一方の端面側から見た平面図であり、図10Bは、図10Aに示す穴あきハニカム構造体を一方の端面側から見た平面図である。
【0098】
なお、このようにハニカム構造体に穴部を形成する場合には、上記したように、ハニカム構造体の外壁の表面に対する法線方向から±45°までの範囲であれば、外壁への工具進入時の1回転当たりの送り量を、通常の研削時(即ち、法線方法への研削時)における送り量の1倍以下とすることで、良好な穴加工が可能である。外壁進入時の送り速度は、角度が大きくなるほど、遅くすることが好ましく、例えば、最大傾斜となる45°では、送り量を0.5〜0.1倍程度にして送り速度を遅くすることが好ましい。
【0099】
以上のようにして、穴部を研削する際のチッピングの発生を有効に防止することができ、簡便且つ安価に穴あきハニカム構造体を製造することができる。
【0100】
[2]穴あきハニカム構造体:
次に、本発明の穴あきハニカム構造体の一の実施形態について具体的に説明する。本実施形態の穴あきハニカム構造体は、これまでに説明した本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法によって製造された穴あきハニカム構造体である。
【0101】
この穴あきハニカム構造体は、図1〜図3に示すように、流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁3と、隔壁3を囲むように配置された外壁2とを備え、外壁2の表面から、外壁2及び隔壁3の一部を貫通する穴部5が形成されたものである。
【0102】
穴あきハニカム構造体を構成する多孔質の隔壁は、セラミックス原料と金属原料との少なくとも一方を含有する成形用原料からなる坏土を成形し、乾燥、焼成することによって得られたものである。なお、上記した成形用原料は、これまでに説明した穴あきハニカム構造体の製造方法の実施形態において説明した成形用原料と同様に構成されたものを好適に用いることができる。
【0103】
穴あきハニカム構造体を構成する外壁は、上記した成形用原料を用いて隔壁と一体的に形成されたものであってもよいし、セメント等の材料を用いて、隔壁の外周を覆うように形成されたものであってもよい。
【0104】
なお、穴あきハニカム構造体の外周形状や隔壁の厚さ、また、セルの断面形状やセル密度等については、上記穴あきハニカム構造体の製造方法にて好ましい形態として挙げたものと同様に構成されていることが好ましい。
【0105】
また、穴部の内径や深さ、また穴部の数については、穴あきハニカム構造体の使用目的に応じて適宜決定することができる。
【0106】
本実施形態の穴あきハニカム構造体は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等のハニカムフィルターや、触媒担体等として用いることができる。特に、本実施形態の穴あきハニカム構造体は、その浄化性能等をモニタリングするためのセンサー等を挿入可能な穴部が形成されているため、自動車の排ガスを処理するDPFや触媒担体として好適に用いることができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、各種評価方法を以下に示す。
【0108】
[チッピング]:ハニカム構造体に穴部を形成するための研削工具の先端の状態を、顕微鏡(KEYENCE製、商品名「Hirox」)を用いて確認した。評価方法としては、研削前、及び穴部を100個加工する毎に行い、研削工具の先端の砥粒突き出し量が十分で、脱落が少ない場合を○、砥粒突き出し量と脱落の両方が、半分以上の場合を△、砥粒突き出し量と脱落との少なくとも一方が、半分以下の場合を×とした。
【0109】
[研削加工時の加工音]:穴部の研削加工時の加工音を、官能的(聴覚的)に評価した。評価方法としては、異音が発生している音を聞き、大、中、小、無しの4段階で評価した。
【0110】
[穴部の形状]:ハニカム構造体に形成された穴部の内径を、穴部を50個加工する毎に、工具顕微鏡(オリンパス製、商品名「MTM250」)にて測定した。
【0111】
実施例、及び比較例において、セラミックス原料を含有する成形用原料を混合し混練して坏土を得、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得、このハニカム成形体を乾燥し、焼成して、隔壁及び外壁を有するハニカム構造体を得、得られたハニカム構造体の外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を研削して穴部を形成して穴あきハニカム構造体を製造した。
【0112】
実施例、及び比較例においては、上記した成形用原料として、コージェライト化原料を用いて、端面形状が直径140mmの円形、長さが150mmの円筒状であり、セル形状は1.03mm×1.03mmの四角形、外壁の厚さは300μm、隔壁厚さは62μm、セル密度は600セル/平方インチのハニカム構造体を製造した。
【0113】
(実施例1)
研削工具として、図5A及び図5Bに示すような、円筒状の台金11の外周面及び端面に砥粒12が配置され、その加工方向に沿って溝13が形成された軸付砥石14を用いて、上記した構成の200個のハニカム構造体に、それぞれ深さ20mmの穴部を形成して穴あきハニカム構造体を製造した。
【0114】
上記軸付砥石は、粒径100〜150μmのダイヤ砥粒が、厚さ3mmに配置されたものを用いた。また、軸付砥石の溝の幅は1.5mmとし、その先端の中央部分にて合流するような四本の溝が形成されたものを用いた。また、軸付砥石の砥粒が配置されている部位の外径(最大部位の外径)は、18mmとした。なお、この軸付砥石の砥粒が配置されている部位の全面積に対する、上記溝の総面積の割合(以下、「溝割合」という)は、10.6%である。
【0115】
実施例1においては、軸付砥石の回転数を3000rpmとし、送り速度を6mm/minとして、1つの穴部を1回の送り(1ステップ)で形成した。チッピング、研削加工時の加工音、及び穴部の形状の測定の評価結果について、表1に示す。なお、上記実施例1における1回転当たりの送り量は、0.002mmである。
【0116】
【表1】

【0117】
(実施例2〜8)
実施例1と同様の軸付砥石を用いて、回転数、送り速度、1回転当たりの送り量、及び溝割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、200個の穴あきハニカム構造体を製造した。
【0118】
(実施例9〜15)
溝幅の効果を確認するために、軸付き砥石の溝幅を表2に示すように変更するとともに、回転数、送り速度、1回転当たりの送り量、及び溝割合を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によって、200個の穴あきハニカム構造体を製造した。
【0119】
【表2】

【0120】
(実施例16)
研削工具として、図6A及び図6Bに示すような、2つのボール切刃21を備え、その先端に砥粒22が配置されたボールエンドミル24を用いて、上記した構成の200個のハニカム構造体に、それぞれ深さ20mmの穴部を形成して穴あきハニカム構造体を製造した。
【0121】
ボールエンドミルとしては、その先端に粒径100〜150μmのダイヤ砥粒が、厚さ0.5mmで配置されたものを用いた。
【0122】
実施例16においては、ボールエンドミルの回転数を3000rpmとし、送り速度を12mm/minとして、1つの穴部を1回の送り(1ステップ)で形成した。チッピング、研削加工時の加工音、及び穴部の形状の測定の評価結果について、表3に示す。
【0123】
【表3】

【0124】
(実施例17〜21)
実施例16と同様のボールエンドミルを用いて、回転数、送り速度、1回転当たりの送り量を表3に示すように変更した以外は、実施例16と同様の方法によって、200個の穴あきハニカム構造体を製造した。
【0125】
(比較例1〜3)
研削工具として、円筒状の台金の外周面及び端面に砥粒が配置された軸付砥石を用いて、上記した構成の200個のハニカム構造体に、それぞれ深さ20mmの穴部を形成して穴あきハニカム構造体を製造した。上記軸付砥石としては、粒径100〜150μmのダイヤ砥粒が、厚さ3mmで配置されたものを用いた。比較例1〜3における、回転数、送り速度、1回転当たりの送り量、及び溝割合を表4に示す。
【0126】
【表4】

【0127】
(比較例4〜7)
研削工具として、2つのボール切刃を備えたボールエンドミルを用いて、上記した構成の200個のハニカム構造体に、それぞれ深さ20mmの穴部を形成して穴あきハニカム構造体を製造した。比較例4〜7における、回転数、送り速度、1回転当たりの送り量を表5に示す。
【0128】
【表5】

【0129】
(比較例8〜11)
研削工具として、先端角118°で、肩部が鋭角な一般ドリルに、実施例16に用いたものと同様のダイヤモンド砥粒がコーティングされたドリルを用いて、上記した構成の200個のハニカム構造体に、それぞれ深さ20mmの穴部を形成して穴あきハニカム構造体を製造した。比較例8〜11における、回転数、送り速度、送り量を表5に示す。
【0130】
実施例1〜21の製造方法においては、軸付砥石の溝又はボールエンドミルの切刃の隙間から、加工時に発生する切り粉を排出させることができ、研削工具の切れ味が低下し難く、チッピングの発生を有効に防止することができ、正常な形状の穴部を安定して形成することができた。また、200個の穴あきハニカム構造体において、穴部の形状の変化が極めて少なく、安定した形状の穴部が形成された穴あきハニカム構造体を連続的に製造することができた。更に、1つの穴部を形成する際に、1回の送り(1ステップ)で研削することが可能となり、加工工程が極めて簡便なものであった。
【0131】
なお、実施例14においては、軸付砥石の溝幅が比較的広く、その溝割合が大きかったため、加工数の増大に伴い、軸付砥石が徐々に摩耗して穴部の直径が小さくなっているが、軸付砥石自体の切れ味の低下は見られなかった。
【0132】
一方、比較例1〜3の製造方法においては、10穴程度より加工中に異音が発生し、顕微鏡により工具を観察したところ、砥粒突き出し量が十分でなくなっていた。
【0133】
また、比較例4〜7の製造方法においては、砥粒を付けていない、超硬合金の未からなるボールエンドミルを用いているため、ボール切刃の摩耗が激しく、穴部の直径が小さくなる等の現象が生じてしまった。この比較例4〜7の製造方法は、再利用が可能な、砥粒が配置されたボールエンドミル(例えば、実施例5)よりも、穴部を加工するコストが最大で10倍程度まで大きくなることがわかった。
【0134】
また、比較例8〜11の製造方法においては、ボールエンドミルのように、肩部が丸形状でない、肩部が鋭角な一般ドリルを用いているため、穴部にチッピングが生じ、穴部の加工は殆ど不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法は、その外壁の表面から、外壁及び隔壁の一部を貫通する、センサー等を挿入可能な穴部が形成されたハニカム構造体を製造する方法として用いることができる。このような穴あきハニカム構造体は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等のハニカムフィルターや、触媒担体等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態によって製造される穴あきハニカム構造体の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す穴あきハニカム構造体を端面側から見た平面図である。
【図3】図1に示す穴あきハニカム構造体を側面側から見た平面図である。
【図4】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態の工程(C)にて得られるハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【図5A】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に用いられる軸付砥石の一例を示す模式図であり、軸付砥石を側面から見た平面図である。
【図5B】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に用いられる軸付砥石の一例を示す模式図であり、軸付砥石を先端側から見た平面図である。
【図6A】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に用いられるボールエンドミルの一例を示す模式図であり、ボールエンドミルを側面から見た平面図である。
【図6B】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態に用いられるボールエンドミルの一例を示す模式図であり、ボールエンドミルを先端側から見た平面図である。
【図7A】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の一例を説明する斜視図である。
【図7B】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の一例を説明する斜視図である。
【図8A】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の他の例を説明する斜視図である。
【図8B】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の他の例を説明する斜視図である。
【図9A】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の更に他の例を説明する斜視図である。
【図9B】図9Aに示す穴あきハニカム構造体を一方の端面側から見た平面図である。
【図10A】本発明の穴あきハニカム構造体の製造方法の一の実施形態における工程(D)の更に他の例を説明する斜視図である。
【図10B】図10Aに示す穴あきハニカム構造体を一方の端面側から見た平面図である。
【符号の説明】
【0137】
1:穴あきハニカム構造体、2:外壁、3:隔壁、4:セル、5:穴部、10:ハニカム構造体、11:台金、12:砥粒、13:溝、14:軸付砥石、21:ボール切刃、22:砥粒、24:ボールエンドミル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス原料と金属原料との少なくとも一方を含有する成形用原料を混合し混練して坏土を得る工程(A)と、
得られた前記坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る工程(B)と、
得られた前記ハニカム成形体を乾燥し、焼成して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、前記隔壁を囲むように配置された外壁とを有するハニカム構造体を得る工程(C)と、
その表面に加工方向に沿った溝が形成された軸付砥石、又はその先端に砥粒が配置されたボールエンドミルを用いて、得られた前記ハニカム構造体の前記外壁の表面から、前記外壁及び前記隔壁の一部を研削して、前記外壁及び前記隔壁の一部を貫通する穴部が形成された穴あきハニカム構造体を得る工程(D)と、を備えた穴あきハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記ボールエンドミルとして、前記砥粒が電着によって配置されたものを用いる請求項1に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記軸付砥石として、最大溝幅が0.5mm以上の前記溝が2つ以上形成され、且つ2つ以上の前記溝の溝幅の総和が砥石回転方向の周長の30%以下のものを用いる請求項1に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記軸付砥石、又は前記ボールエンドミルの1回転当たりの送り量を0.002〜0.15mmとして前記外壁及び前記隔壁の一部を研削する請求項1〜3のいずれか一項に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ハニカム構造体の前記外壁の表面に対して、前記外壁の表面の法線方向又は前記法線方向から±45°の範囲で傾斜した方向に、前記穴部を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の穴あきハニカム構造体の製造方法によって製造された穴あきハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2009−172518(P2009−172518A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13765(P2008−13765)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】