説明

空圧ブースタ装置

【課題】複雑な構造を必要とすることなく、エアコンの冷媒を高圧源に利用できる空圧ブースタ装置を提供する。
【解決手段】エアコン1のコンプレッサ11を挟んだ位置に形成される高圧分岐点11aと、低圧分岐点11bでエアコン管路10にブレーキ管路20を接続し、冷媒Rfがシリンダ25を経由して流通する閉回路のブレーキ循環系を形成する。高圧分岐点を介してシリンダに供給された冷媒は、シリンダの内部で空気を圧縮した後、低圧分岐点を介してエアコン管路に戻る。そして、シリンダで圧縮された高圧空気は、ブースタ本体3に供給される。この構成によって、ブースタ本体に冷媒が直接供給されない空圧ブースタ装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置に備わるブースタ装置に関し、より詳細には、高圧空気でブレーキ操作力を倍力するブースタ本体を備える空圧ブースタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に備わるブレーキ装置には、運転者のブレーキ操作力を倍力するブースタ装置が備わっている。そして、ブースタ装置には、圧縮された高圧空気で運転者のブレーキ操作力を倍力するブースタ本体が備わる空圧ブースタ装置がある。
【0003】
このような空圧ブースタ装置に関し、例えば特許文献1には、コンプレッサで圧縮されて高圧になったエアコン用の冷媒で運転者のブレーキ操作力を倍力するブースタ本体を備える空圧ブースタ装置の技術が開示されている。
【特許文献1】特表2007−516900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される空圧ブースタ装置は、コンプレッサで圧縮された高圧のエアコン用冷媒をブースタ本体に直接供給する構成であることから、エアコンにおける冷媒の循環系にブースタ本体を経由する冷媒の循環系を接続した循環系が閉回路で構成されることが必要になる。したがって、高圧の冷媒をブースタ本体からエアコンの循環系に戻すための管路が必要になり、ブースタ本体の構造が複雑になるという問題がある。
【0005】
また、ブースタ本体を経由する循環系から冷媒が漏出すると、エアコンの能力が低下するばかりでなく周囲環境にも負担を与えることから、ブースタ本体を含んだ循環系に、エアコンの循環系と同じ程度に高い気密性が要求されることになり、気密性の高いブースタ本体が必要になる。したがって汎用のブースタ本体を使用することができず、空圧ブースタ装置のコストアップにつながるという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、複雑な構造を必要とすることなくエアコンの冷媒を高圧源に利用できる空圧ブースタ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明は、エアコンのコンプレッサで圧縮される冷媒を高圧源としてブースタ本体内を加圧し、ブレーキ操作力を倍力する空圧ブースタ装置とする。そして、前記コンプレッサと前記ブースタ本体の間に、前記コンプレッサで圧縮される冷媒で空気を圧縮し、圧縮した前記空気を前記ブースタ本体の高圧側に供給するシリンダを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、エアコンのコンプレッサと空圧ブースタ装置に備わるブースタ本体の高圧側の間に、エアコンのコンプレッサで圧縮される冷媒で空気を圧縮するシリンダを備えることができ、さらに、シリンダで圧縮した空気をブースタ本体の高圧側に供給できる。したがって、運転者がブレーキペダルを操作するときのブレーキ操作力を、コンプレッサで圧縮される冷媒を高圧源とするシリンダで圧縮した空気で倍力することができる。
【0009】
また、本発明は、前記シリンダは、前記コンプレッサの高圧側及び低圧側に連通して前記冷媒が流通する閉回路を形成する第1空間と、前記ブースタ本体の高圧側に連通する第2空間と、がピストンによって区分されるとともに、前記ピストンの摺動に応じて伸縮するベローズを前記第1空間の少なくとも一部に備え、前記コンプレッサで圧縮されて前記第1空間に供給される前記冷媒が前記ピストンを押動して前記第2空間内の空気を圧縮し、前記第2空間で圧縮した前記空気を、前記ブースタ本体の高圧側に供給することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シリンダの内部をピストンで第1空間と第2空間に区分できるとともに、ピストンの摺動に応じて伸縮するベローズを第1空間に備えることができる。そして、エアコンのコンプレッサで圧縮された冷媒をシリンダの第1空間に供給して第1空間を伸長し、ピストンをシリンダの第2空間の側に摺動させることができ、第2空間で空気を圧縮してブースタ本体の高圧側に供給できる。したがって、直接冷媒をブースタ本体に供給する構成と異なり、エアコンに冷媒を戻すための配管が備わる複雑な構造のブースタ本体や、冷媒の漏出を防止する高い気密性を備えるブースタ本体を必要としないで空圧ブースタ装置を構成できる。
【0011】
また、本発明は、前記コンプレッサの高圧側と前記シリンダの間に、前記コンプレッサで圧縮された前記冷媒を蓄えるアキュムレータを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によると、コンプレッサで圧縮した冷媒をアキュムレータに蓄えることができる。そして、アキュムレータに蓄えた冷媒をシリンダに供給することで、コンプレッサで圧縮した冷媒を応答性よくシリンダに供給でき空気を圧縮できる。したがって、圧縮した空気を、応答性よくブースタ本体の高圧側に供給できる。すなわち、空圧ブースタ装置において、運転者のブレーキ操作力を応答性よく倍力できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な構造を必要とすることなくエアコンの冷媒を高圧源に利用できる空圧ブースタ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るエアコンと空圧ブースタ回路を示す図である。図1に示すように、エアコン1には、冷媒Rfが流通するエアコン管路10が配管されて閉回路の循環系が形成されている。
以下、「上流」は冷媒Rfの流れに対する上流を示し、「下流」は冷媒Rfの流れに対する下流を示す。
また、エアコン管路10の配管でエアコン1に形成される、冷媒Rfの循環系をエアコン循環系と称する。
【0015】
エアコン管路10に接続されるコンプレッサ11で圧縮された高温高圧の冷媒Rfは、コンデンサ12において冷却ファン13で強制冷却されて液化し、リキッドタンク14に蓄えられる。
リキッドタンク14からエクスパンションバルブ15に流入した冷媒Rfは急減圧され、エバポレータ16で蒸発して気化する。このとき冷媒Rfの気化熱で冷却された外気(冷気)をブロアファン17で車室内に取り込んで、車室内を冷却する。
エバポレータ16で気化した冷媒Rfはエアコン管路10を流通してコンプレッサ11に戻る。
【0016】
エクスパンションバルブ15は感温筒18を備える絞り弁からなり、感温筒18で車室内の温度を検知しながら、エバポレータ16の出口付近で冷媒Rfの蒸発が終わるように弁開度を調節する。
【0017】
このようにエアコン1には、冷媒Rfが流通するエアコン管路10が閉回路を構成するように配管され、冷媒Rfのエアコン循環系が形成される。
【0018】
コンプレッサ11とコンデンサ12の間、すなわちコンプレッサ11の下流には高圧分岐点11aが形成され、コンプレッサ11で圧縮された高温高圧の冷媒Rfを空圧ブースタ回路2に供給するブレーキ管路20が接続される。
以下、ブレーキ管路20の配管で空圧ブースタ回路2を形成する冷媒Rfの循環系をブレーキ循環系と称する。
エバポレータ16とコンプレッサ11の間、すなわちコンプレッサ11の上流には低圧分岐点11bが形成され、ブレーキ循環系を流通した冷媒Rfをエアコン循環系に戻すためのブレーキ配管20が接続される。
なお、高圧分岐点11aはコンプレッサ11の下流側に形成されることから、請求項に記載のコンプレッサ11の高圧側に相当し、低圧分岐点11bはコンプレッサ11の上流側に形成されることから、請求項に記載のコンプレッサ11の低圧側に相当する。
【0019】
高圧分岐点11aからブレーキ循環系に供給された高圧の冷媒Rfは、高圧分岐点11aとアキュムレータ24の間に備わる第1開閉弁21が開弁しているときにアキュムレータ24に供給され、アキュムレータ24に高圧の状態で蓄えられる。
アキュムレータ24とシリンダ25の間に備わる第2開閉弁22が開弁すると、アキュムレータ24に蓄えられている高圧の冷媒Rfは、ブレーキ管路20を流通してシリンダ25に供給される。そして、シリンダ25と低圧分岐点11bの間に備わる第3開閉弁23が開弁すると、シリンダ25から排出される冷媒Rfは、ブレーキ管路20を流通して低圧分岐点11bでエアコン管路10に流入する。
なお、シリンダ25には、逆止弁26aを介してフィルタ26が接続される。
【0020】
第1開閉弁21、第2開閉弁22、及び第3開閉弁23は、制御装置4によって、その開閉が制御される構成が好適である。この場合、制御装置4は、例えばブレーキペダル31や図示しないエンジンのスロットル開度に基づいて、第1開閉弁21、第2開閉弁22、及び第3開閉弁23の開閉を設定し、各開閉弁の開閉を制御する機能を有する。そのため、制御装置4は、ブレーキペダル31の操作量、及び図示しないエンジンのスロットル開度を検知する機能を有する構成が好ましい。ブレーキペダル31の操作量は、例えば、ブレーキペダル31のストローク量を検出する図示しないストロークセンサで検出できる。また、図示しないエンジンのスロットル開度は、例えば、図示しないスロットル弁の回転角度を検出する図示しない角度センサで検出できる。
【0021】
また、第1開閉弁21は、高圧分岐点11aの側からアキュムレータ24の側に冷媒Rfを流通させる一方向弁、第2開閉弁22は、アキュムレータ24の側からシリンダ25の側に冷媒Rfを流通させる一方向弁、第3開閉弁23は、シリンダ25の側から低圧分岐点11bの側に冷媒Rfを流通させる一方向弁であればよいが、それぞれ冷媒Rfが双方向に流通可能な2方向弁であってもよい。
【0022】
このように空圧ブースタ回路2に配管されてブレーキ循環系を形成するブレーキ管路20は、高圧分岐点11aと低圧分岐点11bとでエアコン循環系を構成するエアコン管路10と接続する。
このような構成によって、エアコン管路10で形成されるエアコン循環系とブレーキ管路20で形成されるブレーキ循環系を含んだ、閉回路からなる冷媒Rfの循環系が形成される。
【0023】
また、空圧ブースタ回路2には、ブースタ本体3が備わる。ブースタ本体3には、シリンダ25で圧縮される高圧空気が空気管路30を介して供給され、ブレーキペダル31を運転者が操作するときのブレーキ操作力を倍力する。
そして、空気管路30には、高圧空気の逆流を防止するための逆止弁30aが備わる。空気管路30に備わる逆止弁30aによって、シリンダ25で圧縮された高圧空気の流れが、シリンダ25からブースタ本体3に向かう一方向に規制される。
なお、空圧ブースタ回路2に備わる、ブースタ本体3、シリンダ25、アキュムレータ24、第1開閉弁21、第2開閉弁22、第3開閉弁23、及び制御装置4を含んで請求項に記載の空圧ブースタ装置が構成される。
【0024】
図2は、シリンダの内部構成を示す図である。
シリンダ25は、例えば円筒状の筐体25aからなり、筐体25aの内部には、筐体25aに沿って摺動可能なピストン25cが備わって、筐体25aの内部を2つの空間に区分している。
【0025】
ピストン25cで区分される筐体25aの1つの空間には、ピストン25cを他の空間の側に付勢する戻しばね25dが備わっている。戻しばね25dが備わる空間を第2空間25fと称する。
第2空間25fには、大気中の空気を供給する空気供給管26bが接続され、空気供給管26bの大気側の端部には、逆止弁26aを介してフィルタ26が備わる。
フィルタ26は、第2空間25fに供給される空気を浄化する機能を有する。
また、第2空間25fには、圧縮した高圧空気をブースタ本体3に供給するための空気管路30が接続される。
さらに、ピストン25cと筐体25aの間隙をシールするシール部材25iが備わり、第2空間25fの気密性を確保している。
【0026】
第2空間25fと、ピストン25cで区分される空間には、ピストン25cの摺動方向に伸縮自在なベローズ25bが備わる。ベローズ25bは、ピストン25cと筐体25aをピストン25cの摺動方向に接続し、筐体25aとピストン25cとベローズ25bとで囲まれた閉空間を形成する。この閉空間を第1空間25eと称する。
【0027】
ベローズ25bは、ゴムなど気密性の高い柔軟な素材からなることが好ましく、ベローズ25bとピストン25c、及びベローズ25bと筐体25aの接合部分は、高い気密性を維持する気密構造で接合する構成が好適である。
このような構成によって、第1空間25eを気密性の高い空間とすることができる。
なお、ベローズ25bは、筐体25aとピストン25cの間の全域に備わる構成に限定されず、例えば、筐体25aとピストン25cの間の一部にベローズ25bが備わる構成であってもよい。
また、筐体25aの第1空間25eの側には、第1空間25eと筐体25aの間の空間、すなわち、ベローズ25bと筐体25aの間の空間を大気と連通するための貫通孔25jが開口している。
【0028】
第1空間25eには、2本のブレーキ配管20が接続される。一方のブレーキ配管20は第2開閉弁22を介してアキュムレータ24(図1参照)に接続され、第2開閉弁22が開弁しているときに、アキュムレータ24に蓄えられる高圧の冷媒Rfが第1空間25eに供給される。
他方のブレーキ配管20は、第3開閉弁23を介して低圧分岐点11b(図1参照)でエアコン管路10(図1参照)に接続され、第3開閉弁23が開弁しているときに、第1空間25e内の冷媒Rfがエアコン管路10に排出される。
このように、2本のブレーキ配管20が接続された第1空間25eを含んで、冷媒Rfが流通する、閉回路のブレーキ循環系が形成される。
【0029】
第2開閉弁22が開弁して、アキュムレータ24(図1参照)とシリンダ25の第1空間25eがブレーキ管路20を介して連通すると、アキュムレータ24に蓄えられている高圧の冷媒Rfが第1空間25eに供給されて第1空間25e内が高圧になる。そして、ピストン25cを第1空間25eの側から押す力が戻しばね25dの付勢力より強くなるとピストン25cを押動し、ピストン25cは、ベローズ25bを伸長しながら第2空間25fの側に摺動する。
このとき、ベローズ25bと筐体25aの間の空間には、貫通孔25jから大気中の空気が流入する。
【0030】
その結果、第2空間25fの容積が減少して第2空間25f内の空気を圧縮し、第2空間25f内の空気は高圧空気になる。
なお、フィルタ26を第2空間25fに接続する空気供給管26bには逆止弁26aが備わっていることから、第2空間25f内の高圧空気がフィルタ26を通過して大気に排気されることを防止できる。
【0031】
第3開閉弁23が開弁して第1空間25eとエアコン管路10(図1参照)がブレーキ管路20を介して連通すると、低圧分岐点11bはコンプレッサ11(図1参照)の上流で冷媒Rfは低圧であることから、第1空間25e内の冷媒Rfが低圧分岐点11bからエアコン管路10に吸引されて第1空間25e内が減圧する。
そして、戻しばね25dの付勢力でピストン25cがベローズ25bを収縮しながら第1空間25eの側に摺動する。その結果、第2空間25fの容積が増大して第2空間25f内が減圧する。
このとき、ベローズ25bと筐体25aの間の空間の空気は、貫通孔25jから大気中に排出される。
このように第2空間25f内が減圧すると、大気中の空気がフィルタ26を通過して第2空間25f内に供給され、第2空間25f内が大気圧に維持される。
【0032】
以上のように、シリンダ25は、アキュムレータ24(図1参照)に蓄えられる高圧の冷媒Rfを第1空間25eに供給することで、冷媒Rfを高圧源として第2空間25f内の空気を高圧空気に圧縮し、第1空間25eの冷媒Rfをエアコン管路10(図1参照)に排気することで第2空間25f内の空気の圧力を大気圧まで減圧する機能を有する。
【0033】
なお、図2において、ピストン25cと筐体25aをベローズ25bが連結して第1空間25eを形成するシリンダ25としたが、第1空間25eはこの形状に限定されるものではない。
【0034】
図3の(a)、(b)は第1空間の別の形状を示す図である。
例えば、図3の(a)に示すように、一端が閉塞して側面がベローズ状に形成される有底の筒状部材25gの開口側を、筐体25aに、気密構造で密着し、側面がピストン25cの摺動方向に伸縮するように取り付ける構成であってもよい。そして、有底の筒状部材25gの内部空間を第1空間25eとする。
この場合、閉塞した側がピストン25cに当接するように有底の筒状部材25gを取り付けることで、図2に示す構成のシリンダ25と同等の機能を実現できる。
図3の(a)に示す有底の筒状部材25gは、例えば閉塞した一端とベローズ状の側面とを一体に成形することで、閉塞した一端の側の気密性を容易に高めることができる。したがって、気密性の高い第1空間25eを容易に形成できる。
【0035】
または、図3の(b)に示すように、両端が閉塞し側面がベローズ状に形成される密閉状の筒状部材25hを、側面がピストン25cの摺動方向に伸縮するようにピストン25cと筐体25aの間に備える構成であってもよい。
そして、密閉状の筒状部材25hにブレーキ管路20を、気密構造で直接接続する構成とすれば、図2に示す構成のシリンダ25と同等の機能を実現できる。
図3の(b)に示すような密閉状の筒状部材25hは、気密性を高めることが容易であることから、気密性の高い第1空間25eを容易に形成できる。
【0036】
図2に戻って、シリンダ25の第2空間25fで圧縮された高圧空気は、空気管路30を経由してブースタ本体3に供給される。
ブースタ本体3は、ブレーキペダル31を運転者が操作するときのブレーキ操作力を高圧空気で倍力する機能を有する。
【0037】
運転者がブレーキペダル31を操作した(踏み込んだ)とき、シリンダ25の第2空間25fから供給される高圧空気が、ブースタ本体3の図示しない高圧側に流入する。そして、ブレーキペダル31の動作によって図示しないマスタシリンダの側に押し出される出力杆3aを押し出すように高圧空気がアシストして、ブレーキ操作力を倍力する。
図示しないマスタシリンダは、押し出された出力杆3aに応じて、空圧ブースタ回路2に備わる図示しないピストンシリンダ等に油圧を供給して制動力を発生させる。
【0038】
一方、運転者がブレーキペダル31を解放して、ブレーキペダル31が戻る動作をすると、高圧空気はブースタ本体3から排出され、出力杆3aは図示しない戻しばねによって、ブースタ本体3に引き込まれる。
図示しないマスタシリンダは、ブースタ本体3に引き込まれる出力杆3aに応じて、空圧ブースタ回路2に備わる図示しないピストンシリンダ等への油圧の供給を停止して制動力を解除する。
なお、ブースタ本体3の構成は公知の技術であり、詳細な図示は省略している。
【0039】
図4、及び図5は、空圧ブースタ回路に備わる開閉弁の状態を示す図であり、図4の(a)は通常時、(b)はブレーキ操作の前段階を示す図である。また、図5の(a)はブレーキ操作中、(b)はブレーキ解除時を示す図である。
通常時は、運転者がブレーキペダル31を操作しない状態を示し、前段階は、運転者がブレーキペダル31を操作する前の段階で、例えば図示しないエンジンのスロットル開度がアイドル開度の状態になったときを示す。
また、ブレーキ操作中は、運転者がブレーキペダル31を踏み込んでいる状態を示し、ブレーキ解除時は、運転者がブレーキペダル31を解放した状態を示す。
なお、アイドル開度は、図示しないエンジンがアイドル運転をするときのスロットル開度である。
【0040】
図2に示す制御装置4は、ブレーキペダル31の操作量及び図示しないエンジンのスロットル開度に基づいて、通常時、ブレーキ操作の前段階、ブレーキ操作中、及びブレーキ解除時を検知する構成とする。
例えば、図示しないエンジンのスロットル開度がアイドル開度ではなく、ブレーキペダル31の操作量が「0」のとき、制御装置4は通常時と判定する。
また、図示しないエンジンのスロットル開度がアイドル開度で、ブレーキペダル31の操作量が「0」のとき、制御装置4はブレーキ操作の前段階と判定する。
【0041】
さらに、図示しないエンジンのスロットル開度がアイドル開度の場合、ブレーキペダル31の操作量が、ブレーキペダル31が踏み込まれる方向に変化するとき、制御装置4はブレーキ操作中と判定し、ブレーキペダル31の操作量が、ブレーキペダル31が戻る方向に変化するとき、制御装置4はブレーキ解除時と判定する。
【0042】
運転者がブレーキペダル31を操作しない通常時、制御装置4は、図4の(a)に示すように、第1開閉弁21、第2開閉弁22、及び第3開閉弁23の全てを閉弁する。このとき、冷媒Rfは、エアコン管路10の配管で形成されるエアコン循環系を循環し、アキュムレータ24は加圧前の状態にある。
【0043】
運転者が図示しないアクセルペダルを解放して図示しないエンジンのスロットル開度をアイドル開度にした状態、すなわち、ブレーキ操作の前段階になると、制御装置4は、図4の(b)に示すように第1開閉弁21を開弁する。
第1開閉弁21の開弁によって、アキュムレータ24とエアコン管路10が、高圧分岐点11a、ブレーキ管路20を介して連通する。高圧分岐点11aにおける冷媒Rfはコンプレッサ11で圧縮された高圧の状態であり、高圧の冷媒Rfの一部がアキュムレータ24に流入する。このとき第2開閉弁22は閉弁状態であることから、アキュムレータ24に高圧の冷媒Rfが蓄えられ、アキュムレータ24は加圧中になる。
【0044】
運転者がブレーキペダル31を踏み込んでブレーキ操作中の状態になると、制御装置4は、図5の(a)に示すように第1開閉弁21を閉弁するとともに第2開閉弁22を開弁する。
第2開閉弁22の開弁によって、アキュムレータ24とシリンダ25の第1空間25eがブレーキ管路20を介して連通し、アキュムレータ24に蓄えられた高圧の冷媒Rfがシリンダ25の第1空間25eに流入する。
高圧の冷媒Rfの流入によって第1空間25eが高圧になりピストン25cを第2空間25fの側に押動する。
【0045】
シリンダ25の第2空間25fは容積が減少して内部の空気を圧縮し、圧縮された高圧空気が空気管路30を経由してブースタ本体3に供給される。
そして、ブースタ本体3は、運転者がブレーキペダル31を操作するときのブレーキ操作力を、供給された高圧空気で倍力する。
【0046】
運転者がブレーキペダル31を解放すると、制御装置4は、図5の(b)に示すように第2開閉弁22を閉弁するとともに、第3開閉弁23を開弁する。
第3開閉弁23の開弁によって、シリンダ25の第1空間25eとエアコン管路10とがブレーキ管路20、低圧分岐点11bを介して連通する。
低圧分岐点11bにおける冷媒Rfは、エクスパンションバルブ15(図1参照)で減圧されてエバポレータ16(図1参照)で気化した低圧の状態であり、第1空間25e内の高圧の冷媒Rfは、低圧分岐点11bからエアコン管路10に吸引される。
【0047】
冷媒Rfがエアコン管路10に吸引されると第1空間25e内は減圧し、シリンダ25のピストン25cは、戻しばね25dの付勢力によって第1空間25eの側に摺動する。
そして、第2空間25fの容積が増大して第2空間25f内が減圧し、フィルタ26(図2参照)、逆止弁26a(図2参照)、空気供給管26b(図2参照)を経由した空気が第2空間25f内に流入する。その結果、第2空間25f内は大気圧に維持される。
【0048】
さらに、所定の時間が経過したら、制御装置4は第3開閉弁23を閉弁し、図4の(a)に示す、通常時の状態に戻す。
このときの所定の時間は、シリンダ25の性能等に基づいて適宜設定すればよい。
【0049】
このように、本実施形態に係る、図1に示すブースタ本体3は、運転者がブレーキペダル31を操作するときのブレーキ操作力を、シリンダ25から供給される高圧空気で倍力することができる。
さらに、シリンダ25から供給される高圧空気は、大気中から取り込んだ空気をシリンダ25の第2空間25f(図2参照)で圧縮したものであり、ブースタ本体3から大気中に排気しても環境に負担を与えるおそれがない。したがって、例えば高圧空気を排気する排気口を備えるような簡単な構造でブースタ本体3を構成できる。
【0050】
また、例えば高圧の冷媒をブースタ本体に供給する構成の場合、ブースタ本体から高圧の冷媒の冷媒が漏出することを確実に防止することが要求され、高い気密性を有する専用のブースタ本体が必要になる。
このような専用のブースタ本体は、コストが上昇する要因になる。
これに対し、本実施形態に係るブースタ本体は、高い気密性を必要としないことから、例えば汎用のブースタ本体を利用することもできる。換言すると、気密性の高い専用のブースタ本体を必要とすることなく高圧の冷媒を利用することができ、空圧ブースタ装置のコストを低減できる。
【0051】
また、空圧ブースタ装置の場合、ブースタ本体に供給する高圧空気を発生させるための高圧源(コンプレッサ等)が必要になることから、空圧ブースタ装置の構成が複雑になる、コストが上昇する、等の問題がある。
本実施形態に係る空圧ブースタ装置は、エアコンで発生する高圧の冷媒を利用してブースタ本体に供給する高圧空気を発生する構成であり、専用の高圧源を必要としない。
したがって、構造を複雑にすることなく、且つ低コストで、空圧ブースタ装置を構成できる。
また、前記したように、汎用のブースタ本体を利用することも可能で、コストの上昇をさらに抑制できる。
【0052】
なお、前記したように、図1に示す空圧ブースタ回路2の第1開閉弁21、第2開閉弁22、及び第3開閉弁23は一方向弁に限定されず、それぞれ双方向に冷媒Rfが流通可能な2方向弁であってもよい。
【0053】
特に、第1開閉弁21を2方向弁にする構成によって、エアコン1の能力を向上できる。
例えば、アイドルストップ機能を有するエンジンを備える車両の場合、車両が停車してエンジンがアイドルストップするとエアコンのコンプレッサが停止する。したがって、高圧の冷媒の循環が停止してエアコンの能力が低下する。換言すると、車両の停車によってエアコンの能力が低下する。
【0054】
そこで、制御装置4(図1参照)が図示しないエンジンのアイドルストップを検知可能な構成とし、さらに、制御装置4が図示しないエンジンのアイドルストップを検知した場合、第1開閉弁21(図1参照)を開弁する構成とする。
【0055】
図6は、2方向弁の第1開閉弁を備える空圧ブースタ回路を示す図であり、(a)は、ブレーキ操作中を示す図、(b)は、アキュムレータからエアコン管路に冷媒を供給する状態を示す図である。
図6の(a)に示すように、高圧分岐点11aとアキュムレータ24の間に、2方向弁の第1開閉弁21aを備える構成とする。
【0056】
運転者が車両を停止するときは図示しないアクセルペダルを解放してブレーキペダル31を踏み込むことから、制御装置4はブレーキ操作中と判定し、図6の(a)に示すように、第1開閉弁21aと第3開閉弁23を閉弁するとともに第2開閉弁22を開弁する。そして、アキュムレータ24に蓄えられている高圧の冷媒Rfをシリンダ25の第1空間25eに供給する。
【0057】
この状態で車両が停車し、図示しないエンジンのアイドルストップを制御装置4が検知した場合、制御装置4は、図6の(b)に示すように第1開閉弁21aを開弁する。
図示しないエンジンのアイドルストップによってコンプレッサ11は停止し、高圧分岐点11aにおける冷媒Rfの圧力は低くなることから、第1開閉弁21aが2方向弁の場合、アキュムレータ24に蓄えられている高圧の冷媒Rfは、ブレーキ管路20を流通し、高圧分岐点11aからエアコン管路10に流入する。このように、高圧の冷媒Rfをエアコン管路10の配管で形成されるエアコン循環系で循環させることができる。
この構成によって、図示しないエンジンのアイドルストップによってコンプレッサ11が停止した場合であっても、エアコン循環系に高圧の冷媒Rfを循環させることができ、エアコン1の能力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態に係るエアコンと空圧ブースタ回路を示す図である。
【図2】シリンダの内部構成を示す図である。
【図3】(a)、(b)は第1空間の別の形状を示す図である。
【図4】空圧ブースタ回路に備わる開閉弁の状態を示す図であり、(a)は通常時、(b)はブレーキ操作の前段階を示す図である。
【図5】空圧ブースタ回路に備わる開閉弁の状態を示す図であり、(a)はブレーキ操作中、(b)はブレーキ解除時を示す図である。
【図6】2方向弁の第1開閉弁を備える空圧ブースタ回路を示す図であり、(a)は、ブレーキ操作中を示す図、(b)は、アキュムレータからエアコン管路に冷媒を供給する状態を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 エアコン
2 空圧ブースタ回路
3 ブースタ本体(空圧ブースタ装置)
4 制御装置(空圧ブースタ装置)
11 コンプレッサ
11a 高圧分岐点(コンプレッサの高圧側)
11b 低圧分岐点(コンプレッサの低圧側)
21,21a 第1開閉弁(空圧ブースタ装置)
22 第2開閉弁(空圧ブースタ装置)
23 第3回閉弁(空圧ブースタ装置)
24 アキュムレータ(空圧ブースタ装置)
25 シリンダ(空圧ブースタ装置)
25b ベローズ
25c ピストン
25e 第1空間
25f 第2空間
Rf 冷媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアコンのコンプレッサで圧縮される冷媒を高圧源としてブースタ本体内を加圧し、ブレーキ操作力を倍力する空圧ブースタ装置において、
前記コンプレッサと前記ブースタ本体の間に、
前記コンプレッサで圧縮される冷媒で空気を圧縮し、圧縮した前記空気を前記ブースタ本体の高圧側に供給するシリンダを備えることを特徴とする空圧ブースタ装置。
【請求項2】
前記シリンダは、
前記コンプレッサの高圧側及び低圧側に連通して前記冷媒が流通する閉回路を形成する第1空間と、前記ブースタ本体の高圧側に連通する第2空間と、がピストンによって区分されるとともに、前記ピストンの摺動に応じて伸縮するベローズを前記第1空間の少なくとも一部に備え、
前記コンプレッサで圧縮されて前記第1空間に供給される前記冷媒が前記ピストンを押動して前記第2空間内の空気を圧縮し、
前記第2空間で圧縮した前記空気を、前記ブースタ本体の高圧側に供給することを特徴とする請求項1に記載の空圧ブースタ装置。
【請求項3】
前記コンプレッサの高圧側と前記シリンダの間に、前記コンプレッサで圧縮された前記冷媒を蓄えるアキュムレータを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空圧ブースタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−149581(P2010−149581A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327739(P2008−327739)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】