説明

空気入りタイヤおよびその製造方法

【課題】その内面に物体を係合させて取付けることができる空気入りタイヤであって、その係合力に経時的な劣化や低下を生ずることが少なく、長期にわたって所望の係合力を維持できる空気入りタイヤとその製造方法を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ1において、タイヤ内面2に、少なくとも一部において奥が広くなっている袋状の断面空間3を有する機械的留め具として機能する係合受け部4を有する。一方、空気入りタイヤ1の製造方法は、前記係合受け部4の形状を有する型転写部材を生タイヤの内面に設置し、該生タイヤを加硫成形した後に、該加硫成形タイヤから前記型転写部材を取り除くことにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、空気入りタイヤの内面に物体を取付ける新規な方法を実現する空気入りタイヤとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤの内周面に、さまざまな機能を有する物体を配設することが種々検討されてきている。
【0003】
たとえば、生タイヤのインナーライナー等に、フック・アンド・ループ留め具あるいはフック・アンド・フック留め具等の、所謂、面ファスナーを用いてタイヤタグ(高周波識別タグ)あるいはチップ等を取付けるという取付け方法が提案されている(特許文献1)。また、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に面ファスナーを加硫接着し、そのタイヤ内表面に該面ファスナーを介して吸音材を取付けたという空気入りタイヤが提案されている(特許文献2)。
【0004】
これら特許文献1、同2に提案されている面ファスナーは、取付け時において比較的強い係合力を実現し、また、取付け作業の際にも多少の位置的なズレなどを問題にせず面状での係合を実現できる点で好ましいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−517581号公報
【特許文献2】特許第3916625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、一方で、これら特許文献に提案されている面ファスナーは、空気入りタイヤの内周面が湾曲した環状の曲面であること等により、面ファスナーの個々の係合素子の係合状態が理想的なものとならずに、端部や中央部などでその一部が浮いてしまい、得られる係合力の大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)を生じることがあり、期待どおりの係合力が得られないことがあった。
【0007】
また、比較的、温度が高めの状況のもとで高速での転動による変形と圧縮が長時間繰り返されることにより、部分的な物理的劣化の発生とそれが進行していくことによる面ファスナー全体の係合力の経時的な劣化・低下が生じて、所望おりの係合力を長期間にわたって維持することが難しい場合があった。
【0008】
上述したような点に鑑み、本発明の目的は、その内面に物体を係合させて取付けることができる空気入りタイヤであって、特に得られる係合力が大きくかつその大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに比較的高温下かつ高速でのタイヤ転動に伴う変形と圧縮が長時間繰返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少なく、長期にわたって所望の係合力を維持できる空気入りタイヤとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、下記(1)の構成を有する。
(1)タイヤ内面に、少なくとも一部において奥が広くなっている袋状の断面空間を有する機械的留め具として機能する係合受け部を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【0010】
また、かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、以下の(2)〜(7)のいずれかの構成を有するのが好ましい。
(2)前記係合受け部が、タイヤ周方向に断続的に配置されていることを特徴とする上記(1)記載の空気入りタイヤ。
(3)前記係合受け部が、タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値Tsと、前記袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値Thが、次式(a)の関係を有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の空気入りタイヤ。
1.2≦Th/Ts≦5.0 ………(a)式
(4)前記係合受け部がゴムからなり、JIS硬度が50〜90であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(5)前記係合受け部と係合する形状及び寸法を有する機械的留め具を有する物体を、該機械的留め具を前記係合受け部と係合させることにより、タイヤ内面に取付けたことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(6)前記物体が、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体であることを特徴とする上記(5)に記載の空気入りタイヤ。
(7)前記物体が有する機械的留め具は、軸部の直径Dsと係合部の直径Dh、タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値Tsと、前記袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値Thが、次式(b)〜(d)の関係を有することを特徴とする上記(5)または(6)記載の空気入りタイヤ。
0.8Ts≦Ds≦1.2Ts ………(b)式
0.6Th≦Dh≦1.1Th ………(c)式
1.2≦Dh/Ds≦5.0 ………(d)式
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤを製造する方法は、以下の(8)の構成からなる。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の空気入りタイヤを製造する方法であって、前記係合受け部の形状を有する型転写部材を生タイヤの内面に設置し、該生タイヤを加硫成形した後に、該加硫成形タイヤから前記型転写部材を取り除くことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にかかる本発明によれば、その内面に物体を係合させて取付けることができる空気入りタイヤであり、得られる係合力が大きく、かつその大きさにばらつき(該タイヤ内での位置的なばらつき。タイヤ間でのばらつき)が生じることがほとんどなく、さらに、長時間繰り返される過酷な使用条件によっても、その係合力に経時的な劣化や低下が生ずることが少なく、長期にわたり所望の係合力を維持できる空気入りタイヤが提供される。
【0013】
請求項2にかかる本発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果を有する他に、タイヤ内面に物体を係合させて取付ける際の位置決めが、タイヤ周方向及び幅方向ともに正確かつ容易にできる。
【0014】
請求項3にかかる本発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果を有する他に、係合受け部の製造が非常にしやすいものである。
【0015】
請求項4にかかる本発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果を有する他に、高い係合力とその耐久性に優れた係合受け部を有する空気入りタイヤが提供される。
請求項5もしくは請求項6にかかる本発明によれば、タイヤ内表面に、所望の機能を有する物体を、大きな係合力と優れたその耐久性を実現しつつ取付けることができる新規な空気入りタイヤが提供されるものである。
【0016】
請求項6もしくは請求項7にかかる本発明によれば、タイヤ内表面に、所望の機能を有する物体を、大きな係合力と優れたその耐久性を実現しつつ取付けることができる新規な空気入りタイヤが提供されるものである。
【0017】
請求項8にかかる本発明によれば、タイヤ内面に、所望の機能を有する物体を、大きな係合力と優れたその耐久性を実現しつつ取付けることのできる新規な空気入りタイヤを、簡易に製造することのできる空気入りタイヤの製造方法が提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)、(b)は、本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示した一部断面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は、本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示した一部断面図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤに使用される係合受け部の形状例を示した要部断面モデル図である。
【図4】図1(a)に示した、本発明の空気入りタイヤに使用される係合受け部の形状例を示した要部断面モデル図である。
【図5】本発明の空気入りタイヤに使用される図4にモデル図を示した係合受け部に係合される物体側の係合部を係合させたときの状態を説明する要部断面モデル図である。
【図6】(a)、(b)、(c)は、それぞれ本発明の空気入りタイヤの係合受け部の他の形態例をモデル的に示した平面図である。
【図7】(a)〜(d)は、該取付けられる物体5の好ましい構造の各種態様例をモデル的に示した概略断面図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明の空気入りタイヤを製造する1例方法に使用できる係合受け部の転写形成用部材の形状例を示した要部断面モデル図である。
【図9】(a)は本発明の空気入りタイヤの実施例で採用した形態を説明する一部断面斜視図、(b)は比較例で採用した形態を説明する一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、更に詳しく本発明の空気入りタイヤについて説明する。
【0020】
本発明の空気入りタイヤは、図1(a)、(b)にその構造をモデル的に示したように、空気入りタイヤ1のタイヤ内面2に、少なくとも一部において奥が広くなっている袋状の断面空間3を有する機械的留め具として機能する係合受け部4を有することを特徴とする。
【0021】
かかる構成により、機械的留め具として機能する係合受け部4を介して、タイヤ内面2に所望する機能を有する任意の物体5を取付けることができる。
【0022】
係合受け部4は、図1(a)に示したように、盛り上がらせて形成したタイヤ内面2の所定の箇所に袋状の断面空間3を設けて形成してもよく、あるいは、図1(b)に示したように、フラットな形態のままでタイヤ内面2の所定の箇所に袋状の断面空間3を設けて形成してもよい。係合受け部4の製造に際しては、例えば、前記した奥が広くなっている袋状の断面空間3に対応する凸形状を有する加硫ブラダーを使用して製造することができる。また、係合受け部4は、図1に示したようにタイヤ内面のトレッド部に対応した領域に設けられる場合が好ましいが、その他、ビード部に対応する部分に設けてもよい。係合受け部4をサイドウォール部に対応する部分に設けることは、サイドウォール部はタイヤ走行に伴い大きな変形を繰り返し受けるものなので、一般にその大きな変形に追従することができず係合が外れやすく好ましくない。
【0023】
タイヤ内面2に取付けられる物体5には、タイヤの係合受け部4の、奥が広くなっている袋状の断面空間3と対となる形状を有する留め具材6が配されており、該留め具材6をタイヤの係合受け部4に係合させることにより、取付けを所望する任意の機能を有する物体5をタイヤ内面に取付けることができる。
【0024】
本発明にかかる該物体の取付け法によれば、面ファスナーを利用してタイヤ内面に物体を取付ける場合と比較して、タイヤ内面と取付けられる物体の係合位置の位置決めが、自動的に正確に行なわれこととなり、該物体の設置位置に、より高度な正確さが要される場合にも簡単に対応することができる。これは、タイヤ内面という狭い湾曲面状の立体空間内でのことであるので意義は大きい。上述の位置決めの正確さは、タイヤ幅方向での位置と周方向での位置の双方ともにである。
【0025】
また、係合力の点では、前述した先行特許文献のような面ファスナーを利用して物体を取付ける場合と比較して、係合力が安定して大きくかつその係合力の経時的な低下・劣化も小さく、長期にわたり係合状態を正確かつ強固に維持することができる。また、ホック・スナップボタン類などの機械的留め具の凹部材と凸部材を、それぞれタイヤ内面と取付けられる物体の双方に設置する場合よりも、一般的に低コストで構成することができる点で優位である。
【0026】
係合受け部4は、タイヤ周方向に断続的に配置されていてもよく、あるいは、連続的に配置されていてもよい。図2(a)はタイヤ周方向に断続的に係合受け部4を配置した場合を示し、この態様のものは、取付けられる物体の位置決めをタイヤ周方向とタイヤ幅方向の双方ともに優れた状態で正確に係合させることができる。図2(b)は、タイヤ周方向に連続的に係合受け部4を配置した場合を示している。この図2(b)は、いわゆるチャック付ポリ袋等の係合部の一方に用いられている連続した凹部状、溝状などの形態を有するものであり、特にタイヤ幅方向での取付けられる物体の取付け位置の位置決めが正確にでき、また、周方向の係合力が全周にわたり均一でかつ安定して大きいものである。図2(c)は、図1(a)に示したような、盛り上がらせて形成したタイヤ内面2の所定の箇所に袋状の断面空間3と係合受け部4を形成させたものの一部断面斜視図を示している。この図2(c)のような構造にして係合受け部4を構成すると、係合受け部4は断続的に存在するものでとあっても、タイヤ内周面の形状を内周上同一にすることができ、タイヤのユニフォーミティを悪化させることが少ない点で優れている。
【0027】
係合受け部4は、図3に示したように、開孔に方向性がある形態のものとし、交互に、例えば180度異なる方向から取付けられる物体5の留め具材6を挿入して係合させるようにしてもよい。図3で矢印D−Dはタイヤ周方向を示し、該係合受け部4のA−A断面図、B−B断面図をそれぞれ図3上の右側に示している。このように物体5の留め具材6を、交互に、例えば180度異なる方向から挿入して係合させるようにすると、外力によって全体の留め具材6が外れて係合が解かれてしまうことが抑制される点で優れるものとなる。
【0028】
係合受け部4は、図4(図1(a)の係合受け部の拡大図)に示した如く、タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値Tsと、前記袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値Thが、次式(a)の関係を有することが好ましい。
1.2≦Th/Ts≦5.0 ………(a)式
【0029】
Th/Tsが5.0よりも大きいと製造することが一般に難しく、Th/Tsが1.2よりも小さいと係合力が不足するので、いずれも好ましくない。より好ましくは、1.5≦Th/Ts≦4.0を満足することである。
【0030】
また、係合受け部4はゴムからなり、該ゴムのJIS硬度が50〜90であることが好ましい。係合受け部4がゴムからなる場合、係合力の大小に大きく関係するからであり、JIS硬度が50未満では係合力が不足しがちであり、また、90よりも大きいときは物体側の機械的留め具を装着するのが困難となるので好ましくない。係合受け部4を構成するゴムは、耐久性に優れ劣化しにくいことひいては係合力が低下・劣化しないことから、ブチルゴムであることが好ましい。
【0031】
本発明によれば、タイヤ内面2にある機械的留めとして機能する係合受け部4と、所望の機能を有する物体5の留め具6とが係合されることにより、タイヤ内面に所望の機能を有する物体5が係合されている空気入りタイヤを提供できる。
【0032】
図5、図4に示したように、前記物体が有する機械的留め具6は、軸部の直径Dsと係合部の直径Dh、タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値Tsと、前記袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値Thが、次式(b)〜(d)の関係を有することが好ましい。
0.8Ts≦Ds≦1.2Ts ………(b)式
0.6Th≦Dh≦1.1Th ………(c)式
1.2≦Dh/Ds≦5.0 ………(d)式
【0033】
特に、組み立ての容易さ、係合受け部への負担の度合いから、最も好ましいDh/Dsの範囲は、2≦Dh/Ds≦4である。
【0034】
また、図6(a)〜(c)に示したように、係合受け部4の袋状空間部分の上方の天井部には、切込み7を形成し、取付けられる物体5の留め具材6を挿入しやすいようにしてもよい。切込み7は、図6(a)〜(c)に示したような2本の切込み7が一直線上にあるもの、あるいは120度の中心角で3本の切込みが放射状にあるもの、あるいは90度の中心角で4本の切込みが放射状(十字状)にあるものなどのいずれでもよい。
【0035】
図7(a)〜(d)に、該取付けられる物体5の好ましい構造の各種例をモデル的に示した。6が留め具材であり、物体5に、該留め具材6を予め設置したシート材(布・フィルム・ゴムシート等)8を貼り付けるかあるいは該シート材8によって包被することによって、該物体を構成できる(図7(a)〜(c))。同図(a)は物体5のタイヤ側の面だけを該シート材8によって包被している例、(b)は物体5の反タイヤ側の面の一部以外を除いて該シート材8によって包被している例、(c)は物体5の全部の面を該シート材8によって包被している例を示している。
【0036】
物体5が、例えばスポンジのように全体が柔らかいものの場合には、該物体の上面と下面間を挟んで留め具材6を設置しても良い。この態様が図7(d)に示したものであり、シート材8は使用しなくてもよく、あるいは適宜に使用してもよい。シート材8は、適宜な可撓性を有した布、フィルム、ゴムシート等を使用することが好ましい。
【0037】
物体5は、その所望の特性に対応して決定されればよく、特に限定されるものではないが、例えば、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体である場合などが好ましいものである。特に、スポンジあるいは発泡合成樹脂材などの弾性多孔質材料からなる吸音材は、近年、タイヤ発生騒音の低減下が強く望まれているので本発明で使用される物体として好ましいものである。また、面ファスナー部材も、さらにその面ファスナー部材が、他の物体を良好に取付けするための介在体として機能できるので、本発明で使用される物体として有用なものである。
【0038】
該組合せのうち、特に、具体的効果が期待できるのは、(イ)バランスウェイトと吸音材、(ロ)吸音材と紫外線検知材、(ハ)吸音材と乾燥剤、(ニ)電子回路と乾燥剤、等の組合せである。すなわち、一方の物体(第1の物体)の持つ特別な機能を、その機能を長期にわたり安定して発揮させることを実現させるのに有効な機能物体として、第2の物体を併用することが、特に有効である。
【0039】
また、本発明において、タイヤ内面において、係合受け部4はタイヤ内面に少なくとも2箇所設置され、タイヤ幅方向で該設置位置が実質的に同一な、単数または複数の列をなして配置されていることが好ましい。例えば、センター(タイヤ赤道)に1列、あるいは左右両方のトレッド端付近にて各1列、あるいは、一方のトレッド端付近のみに設けられた並列な2列、一方のトレッド端付近のみに設けられた千鳥配列のように移相をずらした2列、などが好ましい例である。列は、複数列あってもよい。また、係合受け部4を設置する領域は、タイヤの内面であれば良いが、取付けられる物体の機能に応じて、トレッド部に対応する領域、あるいはビード部に対応する領域のいずれかに設けるのが好ましい。
【0040】
本発明者らの知見によれば、設置領域はトレッド部に対応した領域あるいはビード部に対応した領域が実際的であり好ましく、前述した如く、サイドウォール部は走行中タイヤ内面の変形が大きく好ましくない。
【0041】
上述した本発明の空気入りタイヤを製造する方法は、特に限定されるものではないが、前記係合受け部4の形状を有する型転写部材を生タイヤの内面に設置し、生タイヤを加硫成形した後に、加硫成形タイヤから前記型転写部材9を取り除くことにより製造することが簡単であり好ましい方法である。図8(a)、(b)にその型転写部材9の態様例を示した。
【0042】
すなわち、係合受け部4の形状を有する型転写部材9を埋め込んだ未加硫のゴムシート12を、予めインナーライナー10(さらに、あるいはインナーライナー10およびカーカス11の積層体)と貼り合わせておき、これを成形ドラムに巻いてタイヤを加硫成形した後、係合受け部4の形状を有する型転写部材9だけを取り除けば所望の係合受け部4を有する空気入りタイヤを製造することができる。12はタイヤ内面に盛り上がらせて形成した係合受け部であり、12Eは該係合受け部12のタイヤ周方向に延びて存在する12の係合受け部の端部である。
【0043】
この方法では、タイヤ内面に盛り上がらせて形成した係合受け部12(およびその内部の袋状の断面空間)は、加硫成形されたゴムによって形成されていることから、タイヤとの一体性、耐久性など十分に高いものとして得られる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例と比較例により本発明の具体的構成と効果について説明する。
【0045】
実施例1、比較例1
図9(a)に示した態様の本発明の実施例1と、図9(b)に示した比較例1の空気入りタイヤについて、それぞれ物体を係合させて、その係合力と係合力の耐久性について比較実験を行った。
【0046】
実施例1のものは、図1(a)に示した形状を有する係合受け部4が、一方のトレッド端付近のみにかつ全周にわたり等ピッチ(10mm)で並列な2列を形成して設けられていて、該2列の幅方向の係合受け部の端部から端部までの距離が30mm、図4に示したTh=3.0mm、Ts=1.0mmのものである。
【0047】
この実施例1のものは、図8に示したように、係合受け部の形状を有する型転写部材9を埋め込んだブチルゴムからなるゴムシート12を、予めインナーライナー10とカーカス11の積層体に貼り合わせておき、これを成形ドラムに巻いてタイヤを加硫成形し、しかる後、加硫成形タイヤから係合受け部4の形状を有する型転写部材9だけを取り除き製造した。
【0048】
比較例1のものは、タイヤセンター部に幅30mmのテープ状に面ファスナー(フック材)13を、タイヤ内面の全周にわたり加硫接着により接合させたものである。
それぞれに取付ける物体は、幅100mm、厚さ20mmの吸音材(発泡ポリウレタン樹脂)とした。
【0049】
その詳細は、実施例1に対する物体として、全周にわたり等ピッチ(10mm)で留め具(凸型)(金属製ホックの一方側部材)が並列な2列で設けられていて、該2列の幅方向の留め具材の端部から端部までの距離が30mmのものを使用した。
【0050】
比較例1に対する物体としては、全周にわたり幅30mmのテープ状に面ファスナー(ループ材)13を設けた。
【0051】
いずれも、吸音材(発泡ポリウレタン樹脂)は、織布で全体をカバーしてその上に、留め具(凸型)あるいは面ファスナー(ループ材)13を挟んで固定したものである。
【0052】
以上の方法により、それぞれの試験タイヤ内面に吸音材をそれぞれの係合法により係合させて取付けて、その後、吸音材を引き剥がすという試験を50回繰り返した。
【0053】
その引き剥がしをする際の抵抗力としての係合力の大小と、その係合力を初回、10回目、50回目で比較して係合力の劣化のレベルを求めた。
【0054】
引き剥がしは、JIS L3416に準じた測定方法で、90度の角度で引き剥がすときのピール強力を求め、その値を指数化して比較評価した。
【0055】
その結果を表1に示した。本発明によれば、比較例1のものに比較して係合力の絶対値が大きくかつその劣化も非常に小さいことがわかる。
【0056】
【表1】

【符号の説明】
【0057】
1:空気入りタイヤ
2:タイヤ内面
3:袋状の断面空間
4:係合受け部
5:物体
6:留め具材
7:切込み
8:シート材(布・フィルム・ゴムシート等)
9:係合受け部の形状を有する型転写部材
10:インナーライナー
11:カーカス
12:係合受け部4の形状を有する型転写部材を埋め込んだゴムシート
12E:ゴムシート12の周方向に延びる端部
13:面ファスナー
D−D:タイヤ周方向
Ts:タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値
Th:袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値
Ds:軸部の直径
Dh:係合部の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面に、少なくとも一部において奥が広くなっている袋状の断面空間を有する機械的留め具として機能する係合受け部を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記係合受け部が、タイヤ周方向に断続的に配置されていることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記係合受け部が、タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値Tsと、前記袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値Thが、次式(a)の関係を有することを特徴とする請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
1.2≦Th/Ts≦5.0 ………(a)式
【請求項4】
前記係合受け部がゴムからなり、JIS硬度が50〜90であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記係合受け部と係合する形状及び寸法を有する機械的留め具を有する物体を、該機械的留め具を前記係合受け部と係合させることにより、タイヤ内面に取付けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記物体が、(a)センサーを含む電子回路、(b)バランスウェイト、(c)ランフラット中子、(d)脱酸素剤、乾燥剤および/または紫外線検知発色剤を塗布または搭載した物体、(e)吸音材、(f)面ファスナー部材、のいずれか一つかまたはそれらの複数を組合せた物体であることを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記物体が有する機械的留め具は、軸部の直径Dsと係合部の直径Dh、タイヤ内表面部の穴または溝の直径または幅の最小値Tsと、前記袋状の部分の穴または溝の直径または幅の最大値Thが、次式(b)〜(d)の関係を有することを特徴とする請求項5または6記載の空気入りタイヤ。
0.8Ts≦Ds≦1.2Ts ………(b)式
0.6Th≦Dh≦1.1Th ………(c)式
1.2≦Dh/Ds≦5.0 ………(d)式
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤを製造する方法であって、前記係合受け部の形状を有する型転写部材を生タイヤの内面に設置し、該生タイヤを加硫成形した後に、該加硫成形タイヤから前記型転写部材を取り除くことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−25319(P2012−25319A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167843(P2010−167843)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】