説明

空気入りタイヤ及びその製造方法

【課題】製造コストを下げ、作業くずの量を減少させる。
【解決手段】空気入りタイヤ1は複数のコード8を備えたタイヤ構成要素5,7,14を有し、複数のコード8は個別にディップされ、個別に粘着性を付与され、個別にタイヤ構成要素5,7,14に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、特に、高性能自動車用及び自動2輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動2輪車用タイヤは非常に広いトレッドを利用しており、自動2輪車がコーナリング中に深く傾いたときに路面との良好な接触を実現するように、トレッドは横断方向の断面において鋭く湾曲している。あらゆる条件下で一貫して接地面積、つまり「タイヤフットプリント」を維持することは、乗り物の全体的なハンドリングを決定する主要な要因である。ラジアル構造のレース用自動2輪車用タイヤにおいて特に重要なのが、レース条件下でコーナリング速度を最大にするための安定性を備えた、高いコーナリング能力の特性である。
【0003】
従来の自動2輪車用ラジアルレースタイヤは、タイヤのビードからトレッドの縁部まで半径方向かつ軸線方向に外向きに延びる短尺のサイドウォールを有している。ビードは、テーパー状のビード座上でホイールリムと係合する。サイドウォールは、半径方向に延びるカーカスプライによって補強されており、膨脹圧力によって張力が掛けられたときに、サイドウォールの形状と協働して、コーナリングフォースに耐えるように、湾曲しているトレッド領域の位置を固定するように作用する。
【0004】
従来のタイヤの鋭く湾曲しているトレッド領域は、良好な路面グリップのために路面接触部分においてトレッドが局所的に平坦になる十分な柔軟性を備える一方で、コーナリング時に自動2輪車のバンクオーバーを可能にするのに必要な構造的な剛性を実現するように、補強ブレーカによって特別に補強される場合がある。
【0005】
従来の自動2輪車用レースタイヤでは、中央部に硬いトレッドコンパウンドを使用し、ショルダ部にこれと異なるトレッドコンパウンドを使用することがある。それはレースサーキットによっては、不均一なショルダ摩耗とグリップとを必要としているからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4850412号明細書
【特許文献2】米国特許第6886320号明細書
【特許文献3】米国特許第6988520号明細書
【特許文献4】米国特許第7252129号明細書
【特許文献5】米国特許第7614436号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなタイヤを製造するための従来のプロセスは、押し出しまたはゴム引きのステップを有しているが、このステップは製造コストを増大させ、作業くずを増加させることがある。コストを下げてタイヤを製造する、あらゆる新規で革新的な方法は、商業的に望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、複数のコードを備えたタイヤ構成要素を有し、その複数のコードは個別にディップされ、個別に粘着性を付与され、個別にタイヤ構成要素に取り付けられている。タイヤ構成要素は、例えば、空気入りタイヤの高速性能と製作性を改良するトレッド補強構造であってよい。
【0009】
本発明の他の態様によれば、複数のコードは複数の単フィラメントまたは撚られた複数の糸である。
【0010】
本発明の一態様において、複数のコードは400〜3500Dtexの複数のアラミドコードである。Dtexは、1500〜1800Dtexの範囲、例えば1670Dtex〜1680Dtexが好ましい。
【0011】
本発明の一態様において、複数のコードは4から7の範囲の、好ましくは5と6の撚り係数を有している。「撚り係数」は、コード内の1本または2本以上の糸がコードの長さ方向の軸線に対してなすらせん角度の指標となる数を指す。本明細書で使用される場合、コードの撚り係数(TM)は、繊維技術ではよく知られた以下の式によって求められる。
TM=0.0137CT×(CD)1/2
ここで、TMは撚り係数(twist multiplier)、CTはコード長1インチ(2.54cm)当たりの巻数、CDは1本以上の糸、及び/または、コードの糸のサブグループのデニールの総和であり、糸のサブグループについては撚られる前の糸を基準とする。コードの撚り係数は、引張り強度、弾性係数、伸び及び疲労などの、コードの物理的特性を特徴付ける。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、トレッド補強構造は複数のコードを備え、複数のコードは個別にディップされ粘着性が付与され、空気入りタイヤの円周方向に対して−5°から+5°の範囲の角度に向けられている。
【0013】
本発明のさらに他の態様によれば、複数のコードはそれぞれ、1本、2本、3本、または4本以上の撚られたアラミド糸で構成されている。
【0014】
本発明のさらに他の態様によれば、タイヤ構成要素は、ベルト構造、カーカス、オーバーレイ、アンダートレッド及びエイペックスからなる群から選択される。
【0015】
本発明のさらに他の態様によれば、ディップ工程中またはディップ工程後に、コードに対して粘着性を付与する仕上げが施される。
【0016】
本発明のさらに他の態様によれば、タイヤ構成要素は、半径方向にみて、トレッドと、少なくとも1つのブレーカと、少なくとも1つのカーカスプライとの間の少なくともいずれかに配置されているオーバーレイである。
【0017】
本発明のさらに他の態様によれば、粘着性が付与された複数のコードは、未硬化の空気入りタイヤの製造プロセス中に、カーカス構造に直接取り付けられる。
【0018】
本発明のさらなる他の態様によれば、複数のコードは、アラミド、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVA(ポリビニルアルコール)、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、POK(ポリオレフィンケトン)、レーヨン、ナイロン、カーボン及びガラス繊維の1つから形成されている。
【0019】
本発明の方法により空気入りタイヤを形成することができる。本方法は、第1に、個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョンにディップすることによって、個々のコードを事前処理するステップと、第2に、個々のコードを乾燥させるステップと、第3に、ディップされ乾燥された個々のコードの表面に、第2の溶液すなわちエマルジョンで粘着性を付与するステップと、第4に、粘着性が付与された個々のコードを未硬化のタイヤ構成要素の表面に取り付けるステップと、を有することが好ましい。
【0020】
本発明の他の態様によれば、粘着性が付与された個々のコードは、タイヤ構築ドラム上で未硬化のタイヤ構成要素に取り付けられる。
【0021】
本発明のさらに他の態様によれば、未硬化のタイヤ構成要素は、カーカス、ベルト構造、オーバーレイ、アンダートレッド及びトレッド緩衝層からなる群から選択される。
【0022】
本発明のさらに他の態様によれば、第2の溶液すなわちエマルジョンは、溶剤に溶解しているゴム化合物を有している。溶剤はトルエンなどの石油誘導体を有していることが好ましい。
【0023】
本発明のさらに他の態様によれば、上記の取り付けるステップは、個々のコードをゴム引きせずに行われる。
【0024】
本発明のさらに他の態様によれば、ディップすることは、個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョンにディップすることと、乾燥するステップの前に、接着促進剤を適用するステップとディップされた個々のコードを別の溶液すなわちエマルジョンにディップすることの少なくとも一方を行うことと、を有する。
【0025】
本発明のさらに他の態様によれば、別の溶液すなわちエマルジョンは、レソルシノールホルムアルデヒド(RFL)樹脂を含むゴムラテックスを有する水性エマルジョンである。
【0026】
開示された本発明においては、以下の定義が優先的に適用される。
【0027】
「エイペックス」は、半径方向にみてビードコアの上方でかつプライとプライ折り返し部との間に位置しているエラストマのフィラー要素を意味する。
【0028】
「環状の」は、輪のように構成されていることを意味する。
【0029】
「アスペクト比」は、断面幅に対する断面高さの比を意味する。
【0030】
「軸線方向の」及び「軸線方向に」は、本明細書では、タイヤの回転軸に平行なラインまたは方向を指す。
【0031】
「ビード」は、環状の引張り部材を有するタイヤの一部分を意味する。プライコードに覆われ、設計リムに嵌められる形状に作られている。フリッパ、チッパ、エイペックス、トウガード及びチェーファー等の他の補強部材を有することもあれば、有しないこともある。
【0032】
「ベルト構造」は、織られまたは織られていない平行なコードで構成された、少なくとも2つの環状層または環状プライを意味する。ベルト構造はトレッドの下方に位置し、ビードに固定されておらず、タイヤの赤道面に対して傾斜したコードを有している。ベルト構造は、比較的小さい角度で傾斜した平行なコードで構成された複数のプライを有していることもあり、このようなプライは拘束層として機能する。
【0033】
「バイアスタイヤ」(クロスプライ)は、カーカスプライの補強コードが、タイヤの赤道面に対して約25°〜65°の角度でビードからビードへタイヤを斜めに横切って延びているタイヤを意味する。複数のプライが存在する場合、プライコードは、層毎に交互に、互いに反対の角度で延びている。
【0034】
「ブレーカ」は、互いに平行に延びる補強コードで構成された、少なくとも2つの環状層または環状プライであって、補強コードがタイヤの赤道面に対して、カーカスプライの平行な補強コードと同じ角度を有している環状層または環状プライを意味する。ブレーカは通常、バイアスタイヤと組み合わされる。
【0035】
「ケーブル」は、2本以上の撚り糸を1本に撚り合わせて構成されたコードを意味する。
【0036】
「カーカス」は、プライ上のベルト構造、トレッド、アンダートレッド及びサイドウォールのゴムとは別に設けられたタイヤ構造を意味し、ビードを含む。
【0037】
「周方向」は、赤道面(EP)に平行かつ軸線方向と垂直に環状タイヤの表面の周囲に沿って延びるラインまたは方向を意味する。
【0038】
「コード」は、撚られた糸の集合体などの、1本または2本以上の撚られた糸または撚られていない糸を意味する。「コード」は、タイヤのプライを構成する補強用素線の1つとして呼ばれることもある。
【0039】
「コード角度」は、赤道面に対してコードが形成する、タイヤの平面図における左右の鋭角を意味する。「コード角度」は硬化され膨張させられていないタイヤで計測される。
【0040】
「デニール」は、9000メートル当たりのグラム数で表される重量(線密度を表すための単位)を意味する。Dtexは、10000メートル当たりのグラム数で表される重量を意味する。
【0041】
「エラストマ」は、変形後に大きさと形状を回復可能な弾力性のある物質を意味する。
【0042】
「赤道面(EP)」は、タイヤの回転軸に垂直でトレッドの中心を通る平面を意味する。
【0043】
「織物」は、実質的に1方向に延びているコードで形成された網状体を意味し、コードは撚られていてもよく、高弾性係数材料のフィラメント(同様に撚られていてもよい)からなっていてもよい。
【0044】
「繊維」は、フィラメントの基本要素を構成している天然物または人工物の単位である。直径または幅の少なくとも100倍の長さを有していることによって特徴づけられる。
【0045】
「フィラメントカウント」は、糸を構成しているフィラメントの本数を意味する。例えば、1000デニールのポリエステルは約190本のフィラメントを有している。
【0046】
「高張力鋼(HT)」は、0.20mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも3400MPaの炭素鋼を意味する。
【0047】
「内側」はタイヤの内側に向かうことを意味し、「外側」はタイヤの外側に向かうことを意味する。
【0048】
「LASE」は、特定の伸びでの負荷である。
【0049】
「横方向」は、軸線方向を意味する。
【0050】
「撚り長さ」は、撚られているフィラメントまたは素線が他のフィラメントまたは素線の周りを360度回転するときに進む距離を意味する。
【0051】
「メガ張力鋼(MT)」は、0.20mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも4500MPaの炭素鋼を意味する。
【0052】
「半径方向の」及び「半径方向に」は、タイヤの回転軸に向けて、または回転軸から離れるように、半径方向に向かう方向を意味する。
【0053】
「サイドウォール」は、トレッドとビードとの間のタイヤの部分を意味する。
【0054】
「スーパー張力鋼(ST)」は、0.20mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも3650MPaの炭素鋼を意味する。
【0055】
「テナシティ」は、歪の生じていない試料の単位線密度当たりの力として表される応力(gm/texまたはgm/デニール)であり、繊維で使用される。
【0056】
「引張り強度」は力/断面積で表される応力である。強度(単位:psi)=12800×比重×デニール当たりテナシティ(単位:グラム)である。
【0057】
「トレッド」は、型で作られ、押出成形され、または形成されたゴム要素を意味し、タイヤケーシングに接合された際に、タイヤの通常空気圧下で常用荷重が作用しているときに路面と接触するタイヤの部分を含む。
【0058】
「ウルトラ張力鋼(UT)」は、0.2mmのフィラメント直径で引張り強さが少なくとも4000MPaの炭素鋼を意味する。
【0059】
「糸」は、織物繊維またはフィラメントの連続素線に対する一般的な用語である。糸は1)1つに撚られた多数の繊維、2)撚らずにまとめられた多数のフィラメント、3)ある程度撚られてまとめられた多数のフィラメント、4)撚られているかいないかに拘わらず1本のフィラメント(単フィラメント)、または5)撚られているかいないかに拘わらず狭い帯状の材料、のいずれかの形態で生じる。
【0060】
本発明のさらなる態様は、添付の模式的な図面及び以下の実施形態の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明が使用される例示的な自動2輪車用タイヤの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1に示す例示的な自動2輪タイヤ1は、ビード領域10,11で終端している一対のサイドウォール19,20を有している。各ビード領域10,11は、非延伸性の環状のビードコア12,13によって補強されている。各ビード領域12,13の間を、1つまたは2つ以上のプライからなるタイヤカーカス補強プライ構造14が延びている。プライは、各ビード領域12,13において、各ビードコア12,13の周りを内側から外側に横方向に巻かれ各プライ折り返し部15,16を形成することによって固定されている。カーカス補強プライ構造14は、例えば、実質的に半径方向に向けられた複数のナイロン織物コードの単一プライを有することができる。各ビード領域10,11は、硬質ゴムからなるエイペックス部材17,18をさらに有することができる。エイペックス部材17,18は、各ビードコア12,13に固定され、半径方向外向きに向かって狭くかつテーパー状になっている。
【0063】
例示的なタイヤ1のカーカスプライ織物は、ポリエステル、レーヨン、ナイロンまたはパラアラミドのコードを有していてもよい。さらに、自動2輪車の後輪用タイヤの場合、実質的に90度で交差しているコードからなる単一プライのカーカスが特に有利なことがある。一方、前輪用には、コードが70〜88度の角度で交差している2つのプライを備えた自動2輪車用タイヤを利用することもできる。
【0064】
例示的なタイヤ1は、キャンバー値が例えば0.6の凸状のトレッド領域2を有することができ、トレッド領域2は、ブレーカ集合体(またはベルト構造)によって補強されているトレッド縁部3,4と、本発明によるオーバーレイ8と、を備えている。外側表面に沿って計測したトレッドの幅TWは、例えば220mmである。ブレーカ集合体は、0個、1つまたは2つのブレーカプライ5,7を有していてもよい。例として、1つまたは2つのブレーカプライ5,7は、パラアラミドコードタイヤ織物を有していてもよく、あるいは鋼製の単フィラメントプライなど、他の適切な材料及び構成を有していてもよい。
【0065】
図1に示す例示的なタイヤ1では、ブレーカプライ5,7内の複数のコードは、タイヤ1の円周方向に対して25度の角度で互いに対して反対方向に傾斜していてよい。半径方向内側のブレーカプライ7は、幅Biが例えば200mmであり、幅Boが例えば220mmである半径方向外側のブレーカプライ5よりも狭くすることができる。ブレーカプライ5,7は鋼製コードも有していてもよい。
【0066】
オーバーレイ8は、個別にディップ(浸漬)されその後個別に粘着性が付与された(つまりゴム引きされていない)複数の連続コード(single end cord)を有することができる。複数のコードは個別にディップしてもよいが、ディップ工程/ディップ機械を並列に通しながら数本のコードを同時にディップしてもよい。個々のコードは、例えば単フィラメント、240/240tpm(メートル当たりの巻数)で1680/3Dtexのパラアラミド、その他の適切な構成とすることができる。粘着性仕上げのための材料の選択は、タイヤで使用するために選択される材料に大きく依存する場合がある。当業者はそのような適切な材料を定めることができる。粘着性仕上げは、樹脂とゴムラテックスの水性混合物または溶剤混合物内で連続コードを被覆するなど、様々な方法で実現することができる。
【0067】
本発明の例示的な方法は、第1に、個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョンにディップすることによって、個々のコードを事前処理するステップと、第2に、個々のコードを乾燥させるステップと、第3に、ディップされて乾燥された個々のコードに第2の溶液すなわちエマルジョンで粘着性を付与するステップと、第4に、粘着性が付与された個々のコードを未硬化のタイヤ構成要素の表面上に取り付けるステップと、を有することができる。
【0068】
第2の溶液すなわちエマルジョンは、溶剤中に溶解している従来の未加硫のゴム化合物を含んでいる。溶剤は、トルエンなどの石油誘導体つまり蒸留液を含んでいることが好ましい。
【0069】
ディップステップは、ディップ工程の一部として、個々のコードを接着促進剤で処理することを含んでもよい。接着促進剤の典型的な例には、レゾルシノールホルムアルデヒドラテックス(RFL)、イソシアネート系材料、エポキシ系材料、及びメラミンホルムアルデヒド樹脂系材料を含んでいる。この目的で、ディップステップは、個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョン(つまり第1の槽)にディップするステップと、その後、乾燥ステップの前に、ディップされた個々のコードを別の溶液すなわちエマルジョン(つまり第2の槽)にディップするステップと、を含むことができる。
【0070】
別の溶液すなわちエマルジョンは、レゾルシノールホルムアルデヒド(RFL)樹脂を含むゴムラテックスを有する水性エマルジョン(分散系)であることが好ましい。RFL樹脂は、コードとゴムとの間の接着の主要な要素であることができ、ラテックスはまた、RFL樹脂の弾性係数を低下させる。
【0071】
ディップして乾燥させた個々のコードの表面に粘着性を付与するステップは、未加硫タイヤの構築プロセス中における接着つまりグリーンタックを容易に行うために、粘着性仕上げを施すステップを有している。そのような粘着性仕上げのための材料の選択は、タイヤで使用するために選択される材料に大きく依存することになるが、当業者は、自らの一般知識に基づき、それらを適切に容易に決定することができる。粘着性仕上げは、樹脂とゴムラテックスの水性混合物内でコードを被覆したり、未加硫のゴム化合物の溶剤溶液すなわちエマルジョンでコードを被覆したりするなど、様々な方法によって実現することができる。
【0072】
オーバーレイ8の複数のコードは、タイヤ1の円周方向に対して−5°から+5°の範囲の角度に向けることができる。未硬化のタイヤの製造中に、複数のコードは、中間の製造工程を経ることなく、1つ若しくは2つのカーカスプライ14の最も外側(ブレーカが適用されない場合)、または1つ若しくは2つのブレーカの最も外側(図1のブレーカ5)に、個別に、直接配置することができる。
【0073】
このようにして、本発明によるオーバーレイ8とブレーカ5,7は、トレッドクラウン補強構造を提供する。また、全体的な製造効率とコストを削減しながら、自動2輪車用タイヤの高速性能を最適化し、優れたハンドリング特性を実現することができる。本発明によれば、このことは、個別にディップされ個別に粘着性が付与された、ディップされた連続(Single End Dipped(SED))コードを利用することによって達成される。SEDコードの他の適切な材料は、アラミド、PEN、PET、PVA、PBO、POK、レーヨン、ナイロン6、ナイロン4,6、ナイロン6,6、カーボン、ガラス繊維の少なくとも1つであってもよい。さらに、オーバーレイ8用のコードは、2本または3本のコードの小さいストリップでゴム引きされてもよい。
【0074】
本発明によれば、まず、コードを第1の「古典的な」溶液にディップし、次に、第2の溶液すなわちエマルジョンによって、コードに(前述のように)粘着性を付与してもよい。コードにいったん粘着性が付与されると、コードは、オーバーレイ8、カーカス14、ブレーカ5,7、トレッドベース、アンダートレッド、エイペックス17,18等の未加硫の構成要素に接着される十分な粘着性を有することになる。これによって、追加のゴム引きステップを含み、しばしばより多くの作業くずを生じさせる従来のタイヤ製造方法に対する改良がもたらされる。さらに、コードの特性はゴム引きと保管によって影響されない。また、織りとゴム引きに対して横糸が不要となるため、本工程はより単純で効率的な方法を提供する。
【0075】
本発明によれば、この「容易に利用できる」(ready to use)SEDコードオーバーレイ8は、タイヤ製造機での巻き付け中にコードの引張り力がよりよく制御される「継ぎ目のない」ベルトを実現することができる。このことは、自動2輪車のラジアルカーカスの曲率の故に、複数のコードを備えたストリップにとって重要である場合がある。トレッド縁部のコードは、トレッド中央のコードに比べて際だって短いことがある。
【0076】
前述のように、本発明によるSEDコードのオーバーレイ8またはSEDコードの他のタイヤ構成要素は、タイヤ1の優れたハンドリング性能だけでなく、製造コストの削減も実現する。さらに、本発明の方法は、空気入りタイヤを製造するための効率を高め、コストを低減させる。こうして、空気入りタイヤの構造及び挙動は、これまで完全でかつ満足できる理論が提案されていないほど複雑であるにも拘わらず、SEDコードと上記の方法はいずれも、空気入りタイヤの性能と製造方法の少なくともいずれかを改善する。テンプル著、「空気入りタイヤの力学」(2005)を参照。古典的な複合理論の基礎はタイヤ力学において容易に理解されるのに対して、空気入りタイヤの多くの構成要素によってもたらされる複雑さがタイヤ性能を予測する問題を複雑にしている。メイニ(Mayni)著、「タイヤ力学の複合的効果(Composite Effects of Tire Mechanics)」(2005)を参照。さらに、ポリマー及びゴムの、時間、周波数及び温度に関する非線形挙動のために、空気入りタイヤの解析的な設計は、今日の工業分野において最も困難でかつ過小評価されている工学的課題の1つである。
【0077】
空気入りタイヤはいくつかの必須構造要素を有している。米国運輸省、「空気入りタイヤの力学」、ページ207〜208(1981)を参照。一つの重要な構造要素はオーバーレイであり、通常は天然または合成ゴムである弾性係数の低いポリマー材料の母材に埋め込まれ接合された、天然繊維、合成ポリマー、ガラス繊維、引き抜き加工された細径の硬鋼、その他の金属等の、柔軟性があり弾性係数の高い多数のコードから作られている。同書、ページ207〜208を参照。
【0078】
柔軟性があり弾性係数の高いコードは通常、1つの層として配置されている。同書、ページ208を参照。当産業界全般における製造業者は、オーバーレイコードの撚りの違いが空気入りタイヤの雑音特性、ハンドリング、耐久性、快適性などに与える効果について、合意したり効果を予測したりすることができない(「空気入りタイヤの力学」、ページ80〜85)。
【0079】
これらの複雑さを、タイヤ性能とタイヤ構成要素との相互関係についての以下の表に示している。
【0080】
【表1】

【0081】
表からわかるように、オーバーレイコードの特性は、空気入りタイヤの他の構成要素に影響を与え(つまり、オーバーレイはエイペックス、カーカスプライ、ベルト、トレッド等に影響を与え)、多くの構成要素が、機能特性のグループ(雑音、ハンドリング、耐久性、快適性、高速及び質量)に影響を与えるように相互関連し、かつ相互作用する。この結果、これらの構造物は全く予測できない複雑な複合体となる。従って、1つの構成要素の変化でさえも、上述の10個もの機能特性の改善または悪化に直接つながるだけでなく、1つの構成要素と他の6つもの構造構成要素との間の相互作用を改変することがある。それによって、これら6つの相互作用の各々は、これら10個の機能特性を間接的に改善したり悪化させたりすることがある。これらの機能特性の各々が改善するか、悪化するか、影響されないか、あるいはそれらの程度は、発明者等によって実施された実験と試験なしには、間違いなく予測不可能であっただろう。
【0082】
従って、例えば、空気入りタイヤのオーバーレイ構造(つまり、撚り、コード構成等)が空気入りタイヤのある1つの機能特性を改善する意図で修正された時に、任意の数の他の機能特性が許容できない程度に悪化することがある。さらに、オーバーレイと、エイペックス、カーカスプライ、ベルト(またはブレーカ)及びトレッドと、の間の相互作用が、空気入りタイヤの機能特性に許容できない程度に影響することもある。オーバーレイの修正は、1つの機能特性すら改善しないこともあるが、それはこれらの複雑な相互関係のためである。
【0083】
従って、前述のように、多くの構成要素の相互関係の複雑さが、本発明に従ったオーバーレイ8の実際の修正結果を、無限に存在する考え得る結果から予測または予知できないものとしている。広範な実験によってのみ、本発明のオーバーレイ8及びコードが、空気入りタイヤにとって、特に重要で、予期不能かつ予測不能な選択肢であることがわかった。
【0084】
以上の説明は、本発明を実施するための、現在考えられる最良の1つまたは2つ以上の形態についてのものである。この説明は、本発明の一般的な原理の例を示す目的でなされており、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明の範囲は、添付の請求項を参照することによって最もよく決定することができる。模式図に示している参照番号は明細書において参照している参照番号と同じである。本出願の目的上、図面に示されているさまざまな例では、同様の構成要素に対し同一の参照番号を用いている。複数の例示的な構造では同様の構成要素を採用しており、それらの位置または量が異なっている。それによって本発明の代替の構成を実現することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 タイヤ
2 トレッド領域
5,7 ブレーカ(プライ)
8 オーバーレイ
10,11 ビード領域
14 カーカスプライ
19,20 サイドウォール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコードを備えたタイヤ構成要素を有し、前記複数のコードは個別にディップされ、個別に粘着性を付与され、個別に前記タイヤ構成要素に取り付けられている、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ構成要素は複数の前記コードを備えたトレッド補強構造であり、前記複数のコードは個別にディップされ粘着性が付与され、前記空気入りタイヤの円周方向に対して−5°から+5°の範囲の角度に向けられている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数のコードは2本または3本の撚られたアラミド糸で構成されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記タイヤ構成要素は、ベルト構造、カーカス、オーバーレイ、アンダートレッド及びトレッド緩衝層からなる群から選択される、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
ディップ工程中またはディップ工程後に、ディップされた複数のコードに対して、前記タイヤ構成要素への粘着性を付与する仕上げが施される、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記タイヤ構成要素は、半径方向にみてトレッドとブレーカとの間、または半径方向にみてトレッドと少なくとも1つのカーカスプライとの間に配置されているオーバーレイである、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記複数のコードは、未硬化の空気入りタイヤの製造プロセス中に前記タイヤ構成要素に直接取り付けられている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記タイヤ構成要素はカーカス構造である、請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記複数のコードは、アラミド、PEN、PET、PVA、PBO、POK、レーヨン、ナイロン、カーボン及びガラス繊維の1つから形成されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
個々のコードを第1の溶液すなわちエマルジョンにディップすることによって、前記個々のコードを事前処理するステップと、
ディップされた前記個別のコードを乾燥させるステップと、
ディップされ乾燥された前記個々のコードの表面に、第2の溶液すなわちエマルジョンで粘着性を付与するステップと、
粘着性が付与された前記個々のコードを未硬化のタイヤ構成要素の表面に取り付けるステップと、
を有する、空気入りタイヤの形成方法。
【請求項11】
粘着性が付与された前記個々のコードは、タイヤ構築ドラム上で前記未硬化のタイヤ構成要素に取り付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記未硬化のタイヤ構成要素は、カーカス、ベルト構造、オーバーレイ、アンダートレッド及びトレッド緩衝層からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の溶液すなわちエマルジョンは、溶剤に溶解しているゴム化合物を有している、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記溶剤は石油誘導体を有している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記取り付けるステップは、前記個々のコードをゴム引きせずに行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ディップすることは、前記個々のコードを前記第1の溶液すなわちエマルジョンにディップするステップと、ディップされた前記個々のコードを別の溶液すなわちエマルジョンにディップするステップと、を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記別の溶液すなわちエマルジョンは、レソルシノールホルムアルデヒド(RFL)樹脂を含むゴムラテックスを有する水性エマルジョンである、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−62047(P2012−62047A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199225(P2011−199225)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(590002976)ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー (256)
【氏名又は名称原語表記】THE GOODYEAR TIRE & RUBBER COMPANY
【住所又は居所原語表記】1144 East Market Street,Akron,Ohio 44316−0001,U.S.A.
【Fターム(参考)】