説明

空燃比検出装置の故障判定装置

【課題】オープンループ運転時に触媒に吸着された炭化水素や一酸化炭素による影響を正確に把握して、精度の高い故障判定を可能とする。
【解決手段】エンジン1の作動中に燃料供給を停止し、当該燃料供給の停止後の下流側酸素濃度センサ32により検出された排気の空燃比の変化に基づいて当該下流側酸素濃度センサ32の故障判定をする故障判定手段を備え、燃料供給の停止前において空燃比をリッチ状態にしてオープンループ運転するエンリッチ運転モードでのエンジン1の吸入空気量を積算し、当該吸入空気量積算値Qolが所定値Qolhを超えた場合に下流側酸素濃度センサ32の故障判定を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気系に設けられた触媒の下流側に配置した空燃比検出装置の故障判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)の排気系には、排気を浄化するために、通常、三元触媒やNOx吸蔵触媒等の触媒が備えられている。そして、これらの触媒の下流に、空燃比制御を行なうために、酸素濃度センサのような空燃比を検出する空燃比検出装置が備えられているものがある。
また、内燃機関の燃料噴射モードを負荷等に応じて切り換える技術も知られている。燃料噴射モードは、例えば排気の空燃比をフィードバックしながらストイキオやリーン状態で運転を行う通常運転モードや、負荷の大きい場合等にリッチ化するように空燃比をオープンループ制御するエンリッチ運転モード、減速時等のような無負荷時に燃料噴射を停止する燃料カットモードがある。
【0003】
そして、触媒の下流に設けられた空燃比検出装置の故障判断をするために、燃料カットモード開始(燃料カット開始)から所定時間が経過した後に空燃比検出装置により排気がリッチであることが検出された場合に、空燃比検出装置が故障であると判定する技術が開示されている(特許文献1)。
また、このように触媒の下流側の空燃比検出装置の故障判定を行う際に、燃料カット前にエンリッチ運転モードよってリッチ運転を続けると、排気中の炭化水素や一酸化炭素が増加し、これらの成分が触媒に多く吸着された状態で燃料カットが開始された場合、触媒に吸着された炭化水素や一酸化炭素が酸化されるまで触媒から流出する排気がリッチとなり、所定時間を超えて空燃比検出装置がリッチであることを検出して空燃比検出装置が故障していると誤判定をする虞がある。
【0004】
これに対し、特許文献1では、燃料カット前のオープンループ運転の継続時間に基づいて、燃料カットモード開始からの所定時間、即ち故障判定用の閾値を変更する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4062765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、燃料カット前のオープンループ運転の継続時間に基づいて故障判定の条件を変更しているため、燃料カット前のオープンループ運転の状態によっては、同じ継続時間であっても触媒に吸着される炭化水素や一酸化炭素の量が異なり、正確に故障判定用の閾値を設定することができず、精度の高い故障判定を行うことが困難である。
【0007】
本発明の目的は、オープンループ運転時に触媒に吸着される炭化水素や一酸化炭素による影響を正確に把握して、精度の高い故障判定を行うことが可能な故障判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の空燃比検出装置の故障判定装置は、内燃機関の排気系に設けられた触媒の下流側に配置された空燃比検出装置の故障判定装置であって、内燃機関の作動中に燃料供給を停止し、当該燃料供給の停止後の空燃比検出装置により検出された排気の空燃比の変化に基づいて当該空燃比検出装置の故障判定をする故障判定手段と、燃料供給の停止前において空燃比をリッチ状態にして運転する第1の運転モードでの内燃機関の吸入空気量を積算する吸入空気量積算手段と、吸入空気量積算手段により演算された吸入空気量の積算値に基づいて故障判定手段による空燃比検出装置の故障判定を制限する故障判定制限手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の空燃比検出装置の故障判定装置は、請求項1において、故障判定制限手段は、吸入空気量の積算値が所定値を超えた場合に空燃比検出装置の故障判定を禁止することを特徴とする。
また、請求項3の空燃比検出装置の故障判定装置は、請求項1において、故障判定制限手段は、吸入空気量積算手段により演算された吸入空気量の積算値に基づいて、故障判定手段における空燃比検出装置の故障判定用の閾値を変更させることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の吸入空気量積算手段は、請求項1〜3のいずれか1項において、燃料供給の停止前において空燃比をストイキオまたはリーン状態で運転する第2の運転モード、及び燃料供給を停止する第3の運転モードのうち少なくともいずれか一方での内燃機関の吸入空気量を、第1の運転モードでの吸入空気量の積算値から減算することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5の空燃比検出装置の故障判定装置は、請求項1〜4のいずれか1項において、故障判定手段は、燃料供給の停止後の空燃比検出装置により検出された排気の空燃比が所定範囲を変化する所要時間に基づいて、空燃比検出装置の故障判定をすることを特徴とする。
また、請求項6の空燃比検出装置の故障判定装置は、請求項1〜4のいずれか1項において、故障判定手段は、燃料供給の停止から空燃比検出装置により検出された排気の空燃比が所定空燃比に到達するまでの所要時間に基づいて、空燃比検出装置の故障判定をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の空燃比検出装置の故障判定装置によれば、燃料供給の停止前において空燃比をリッチ状態にして運転する第1の運転モードでの内燃機関の吸入空気量が積算され、当該積算値に基づいて故障判定が制限されるので、燃料供給の停止時に触媒に炭化水素や一酸化炭素が多く吸着されていることを原因とする故障判定手段での空燃比検出装置の故障の誤判定を回避することが可能となる。
【0013】
特に、吸入空気量積算手段により、燃料供給の停止前におけるリッチ状態運転時での内燃機関の吸入空気量を積算することで、燃料供給の停止時における触媒での炭化水素や一酸化炭素の吸着量を推定して、故障判定時における影響を正確に把握することができる。これにより、故障判定の制限を正確に行うことができ、精度の高い故障判定を行うことが可能となる。
【0014】
本発明の請求項2の空燃比検出装置の故障判定装置によれば、燃料供給の停止前における第1の運転モードでの内燃機関の吸入空気量の積算値が所定値を超えた場合に空燃比検出装置の故障判定が禁止されるので、誤判定される可能性の高い状態での故障判定を回避して、精度の高い故障判定を行うことが可能となる。
本発明の請求項3の空燃比検出装置の故障判定装置によれば、燃料供給の停止前において第1の運転モードでの内燃機関の吸入空気量の積算値に基づいて故障判定手段における故障判定用の閾値が変更されるので、燃料供給の停止時に触媒に炭化水素や一酸化炭素が多く吸着されていることによる影響を正確に反映させて、故障判定手段での空燃比検出装置の故障判定を精度良く行うことが可能となる。
【0015】
本発明の請求項4の空燃比検出装置の故障判定装置によれば、燃料供給の停止前において空燃比をストイキオまたはリーン状態で運転する第2の運転モード、及び燃料供給を停止する第3の運転モードでの内燃機関の吸入空気量を、第1の運転モードでの吸入空気量の積算値から減算するので、第2及び第3の運転モード時における触媒での炭化水素や一酸化炭素の吸着量の低下を反映させて、燃料供給の停止時での触媒の炭化水素や一酸化炭素の吸着量をより正確に推定することができる。
【0016】
本発明の請求項5の空燃比検出装置の故障判定装置によれば、燃料供給の停止後の排気の空燃比が所定範囲を変化する所要時間に基づき、例えば当該所要時間が所定時間を超えることで、燃料供給停止による所定範囲での空燃比の低下を正確に検出できていないと見なし、空燃比検出装置が故障であることを判定することが可能となる。
本発明の請求項6の空燃比検出装置の故障判定装置によれば、燃料供給の停止から排気の空燃比が所定空燃比に到達するまでの所要時間に基づき、例えば当該所要時間が所定時間を超えることで、燃料供給停止により低下する空燃比を正確に検出できていないと見なし、空燃比検出装置が故障であることを判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の故障判定装置が適用されたエンジンの吸排気系の概略構成図である。
【図2】燃料カット前後での吸入空気量積算演算値及び酸素濃度センサの出力値の推移の一例を示すタイムチャートである。
【図3】吸入空気量積算値と空燃比低下の所要時間との関係の一例を示すグラフである。
【図4】吸入空気量積算値と各判定状況との関係の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の故障判定装置が適用されたエンジン1(内燃機関)の吸排気系の概略構成図である。
エンジン1は、車両に搭載され、例えば燃料を噴射弁から筒内に燃料を直接噴射する筒内燃料噴射式のガソリンエンジンである。
【0019】
図1に示すように、エンジン1の吸気通路2には、吸入空気流量を調節する電子制御式のスロットルバルブ10が設けられている。スロットルバルブ10には、スロットルバルブ10の開き度合を検出するスロットルポジションセンサ11が備えられている。
また、スロットルバルブ10の上流側の吸気通路2には、吸気流量を検出するエアフローセンサ12が設けられている。
【0020】
更にエンジン1には、クランク角を検出するクランク角センサ20、図示しないカム角センサや水温センサや等のエンジン1の運転状況を検出するセンサが設けられている。
エンジン1の排気通路3には、三元触媒等の排気浄化触媒30が介装されている。
排気浄化触媒30の上流側には排気浄化触媒30に流入する排気中の酸素濃度を検出する上流側酸素濃度センサ31と、下流側には排気浄化触媒30通過後の排気中の酸素濃度を検出する下流側酸素濃度センサ32(空燃比検出装置)とが設けられている。
【0021】
ECU40は、エンジン1の運転制御をはじめとして総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
ECU40の入力側には、上記スロットルポジションセンサ11、エアフローセンサ12、クランク角センサ20、上流側酸素濃度センサ31、下流側酸素濃度センサ32、及び図示しない水温センサ、アクセルの開度を検出するアクセルポジションセンサ、車速センサ、その他エンジン1及び車両の運転状態を検出するセンサ類からの検出情報が入力される。
【0022】
ECU40の出力側には、上記スロットルバルブ10や燃料噴射弁4、点火プラグ5等の各種出力デバイスが接続されている。ECU40は、各種センサ類からの検出情報に基づいて目標スロットル開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期等を演算し、各種出力デバイスにそれぞれ出力することで、スロットルバルブ10、燃料噴射弁4等を制御する。
【0023】
特に、ECU40は、エンジン1の燃料噴射モードを負荷等に応じて切り換える。燃料噴射モードは、例えばストイキオ状態あるいはリーン状態となるように排気の空燃比をフィードバックしながら運転を行う通常運転モード(第2の運転モード)や、負荷の大きい場合等に空燃比をリッチ化するようにオープンループ制御するエンリッチ運転モード(第1の運転モード)、減速時等のような無負荷時に燃料噴射を停止する燃料カットモード(第3の運転モード)がある。なお、通常運転モードでは上流側酸素濃度センサ31及び下流側酸素濃度センサ32からの出力に基づいてフィードバック運転を行い、エンリッチ運転モード及び燃料カットモードでは、オープンループ運転を行う。
【0024】
また、ECU40は、下流側酸素濃度センサ32の故障判定機能を有している。
下流側酸素濃度センサ32の故障判定は、エンジン運転中に燃料カットモードに移行して燃料噴射を停止(燃料カット)した際に、下流側酸素濃度センサ32により検出した排気の空燃比の変化に基づいて下流側酸素濃度センサ32の故障判定を行う(故障判定手段)。
【0025】
図2は、燃料カット前後での吸入空気量積算値Qol及び下流側酸素濃度センサ32の出力値Vの推移の一例を示すタイムチャートである。図中実線は燃料カット開始前に通常運転を行った場合、図中破線は燃料カット開始前にエンリッチ運転を行った場合を示している。
図2中実線で示すように、例えば通常運転モードによる空燃比のフィードバック運転から燃料カットすると、下流側酸素濃度センサ32の出力値Vは、燃料カット開始からタイムラグをおいて下がり始める。そして、このときの下流側酸素濃度センサ32の出力値の低下度合い、具体的には下流側酸素濃度センサ32の出力値Vが所定範囲(V1からV2まで)変化する際の所要時間Tslopeは略一定の値となる。また、燃料カット開始から下流側酸素濃度センサ32の出力値Vが所定値V2まで低下するまでの所要時間Trlも略一定の値となる。
【0026】
ECU40は、この所要時間Tslopeを測定し、この値があらかじめ設定された閾値Ta以下である場合には下流側酸素濃度センサ32が正常であると判定し、閾値Taを超える場合には下流側酸素濃度センサ32が故障であると判定する。また、所要時間Tslopeの代わりに、所要時間Trlを測定し、あらかじめ設定された閾値Tb以下である場合には下流側酸素濃度センサ32が正常であると判定し、閾値Tbを超える場合には下流側酸素濃度センサ32が故障であると判定してもよい。
【0027】
更に、本実施形態では、燃料カット開始前にエンリッチ運転モードであった場合に、上記下流側酸素濃度センサ32の故障判定を制限する機能を有する。
図2中破線で示すように、例えばエンリッチ運転モードによる空燃比のオープンループ運転から燃料カットすると、下流側酸素濃度センサ32の出力値Vは、燃料カット開始からタイムラグをおいて下がり始めるものの、その下がり方は図2中実線で示す通常運転モードからの燃料カット時と比べて緩やかなものとなる(所要時間Tslope’及びTrl’がTslope、Trlより大きくなる。)。したがって、下流側酸素濃度センサ32が故障していると誤判定する虞がある。
【0028】
そこで、ECU40は、燃料カット開始前におけるオープンループ運転時における吸入空気量積算値Qolを演算し(吸入空気量積算手段)、当該吸入空気量積算値Qolが閾値Qolhを超えた場合には、上記下流側酸素濃度センサ32の故障判定を禁止する(故障判定禁止手段)。なお、触媒に吸着された炭化水素や一酸化炭素が下流側酸素濃度センサ32の出力値Vに与える影響を確実に除去するため、この下流側酸素濃度センサ32の故障判定の禁止の解除は、吸入空気量積算値Qolが0以下に低下した場合に行う。また、ECU40電源ON時には、初期設定として、下流側酸素濃度センサ32の故障判定の禁止は解除される。
【0029】
図3は、吸入空気量積算値Qolと所要時間Tslopeとの関係の一例を示すグラフである。
図3に示すように、オープンループ運転時の吸入空気量積算値Qolが図中Qbを超えたあたりから、所要時間Tslopeが故障判定用の閾値Taを超す傾向となる。当該Qbは、排気浄化触媒30の容量や、炭化水素や一酸化炭素の吸着能力によって定められる値であって、このQbをあらかじめ確認の上、閾値Qolhとして設定すればよい。
【0030】
次に、オープンループ運転時の吸入空気量積算値Qolの演算方法について説明する。
ECU40は、下表1の(1)〜(6)の優先順位で夫々の条件が成立した場合に、所定時間(例えば100ms)毎にエアフローセンサ12により検出した吸入空気量を積算または減算し、吸入空気量積算値Qol(n)を演算する。
【0031】
【表1】

表1に示すように、ECU40電源投入時あるいはドライビングサイクル開始時(優先順位1、2)には、初期値として吸入空気量積算値Qolを0とする。エンストモード中、始動モード中、または始動後経過時間所定時間以下である場合(優先順位3)には、吸入空気量積算値Qol(n)を前回の演算値Qol(n-1)から増減させない。
【0032】
燃料カットモード中、詳しくは全気筒燃料カットモード中またはオーバラン燃料カットモード中または片バンク燃料カットモード中(V型エンジンのみ適用)(優先順位4)では、前回の演算値Qol(n-1)から、吸入空気量Qaに係数A1(例えば10)を掛けた値を減算して、吸入空気量積算値Qol(n)を求める。通常運転モード中、詳しくは空燃比フィードバック運転モード中またはストイキオフィードバック運転モード中(優先順位5)では、前回の演算値Qol(n-1)から、吸入空気量Qaに係数A2(例えば1)を掛けた値を減算して、吸入空気量積算値Qol(n)を求める。このように、燃料カット時(優先順位4)とフィードバック運転時(優先順位5)では空燃比をリッチからリーン側にする要因となるので、吸入空気量積算値Qol(n)を前回の演算値Qol(n-1)より減少させる。なお、燃料カット時の方がフィードバック運転時より大幅に空燃比をリッチからリーン側にするので、吸入空気量積算値Qol(n)の減少量を演算するための燃料カット時の係数A1は、フィードバック運転時の係数A2より大きな値に設定されている。
【0033】
上記以外のオープンループ運転時(エンリッチ運転モード)では、空燃比をリッチ側にすることから、吸入空気量積算値Qol(n)を前回の演算値Qol(n-1)より増加させる。また、吸入空気量積算値Qolは、排気浄化触媒30の炭化水素や一酸化炭素の最大吸着可能量から上限値Qhが設けられている。
なお、V型エンジンのようにバンク毎に燃料噴射を制御するエンジンでは、各バンク毎に吸入空気量積算値Qolを演算すればよい。
【0034】
図4は、吸入空気量積算値Qolと各判定状況との関係の一例を示すタイムチャートである。
図4では、上記のように制御するエンジン1において、互いに時間をおいて2回の燃料カットモードを実行し、その前に各運転モードを実行した場合での吸入空気量積算値Qolの推移と、それに伴う故障判定禁止及び故障判定実行許可の判定状況の推移を示すタイムチャートである。
【0035】
図4に示すように、区間1では、燃料カットを除くオープンループ運転時であるので、吸入空気量積算値Qolが増加する(上記表1の優先順位6の条件に該当)。ここで、吸入空気量積算値Qolが所定値Qolhを超えた時点で故障判定禁止となる(ポイントA)。なお、区間1において、吸入空気量積算値Qolが上限値Qhに達した場合は、上限値Qhに維持される。区間2では、フィードバック運転時であるので、吸入空気量積算値Qolは減少する(上記表1の優先順位5の条件に該当)。また、区間3では、燃料カットモード(上記表1の優先順位4の条件に該当)であるので、吸入空気量積算値Qolは減少する。そして、吸入空気量積算値が0以下となれば故障判定禁止が解除される(ポイントB)。実際の故障判定は、燃料カット開始時に故障判定禁止が成立している場合に実行不能となるので、本図での1回目の燃料カットモード時には故障判定は行われない(ポイントC)。
【0036】
その後も同様に、吸入空気量積算値Qolの積算が続けられるが、図3に示すように、2回目の燃料カットモード開始時には、吸入空気量積算値Qolが閾値Qolhを超えていないので、故障判定禁止が解除されている。したがって、2回目の燃料カットモード時には故障判定実行が許可される(ポイントD)。
以上のように、本実施形態では、燃料カット時に下流側酸素濃度センサの故障判定を行う際に、それまでのオープンループ運転での吸入空気量積算値Qolが閾値Qolhを超えた場合には、故障判定の禁止を行うようにしている。これにより、排気浄化触媒30に炭化水素や一酸化炭素が多く吸着されていることを原因とする下流側酸素濃度センサ32の故障の誤判定を回避することが可能となる。
【0037】
特に、本実施形態では、故障判定の禁止を燃料カットモード開始前のオープンループ運転時間に基づいて判定するのではなく、吸入空気量積算値Qolを演算して判定するので、燃料カットモード開始時での排気浄化触媒30での炭化水素や一酸化炭素の吸着量を推定することができ、故障判定時の影響を正確に把握することができる。これにより、故障判定の禁止を正確に行うことができ、精度の高い故障判定を行うことが可能となる。
【0038】
また、燃料カットモード及び通常運転モードでフィードバック運転する場合に、吸入空気量積算値Qolを減算するので、その後の燃料カット開始時における排気浄化触媒30に吸着されている炭化水素や一酸化炭素による影響を正確に推定することができる。
なお、本実施形態では、吸入空気量積算値Qolが閾値Qolhを超えたときに、故障判定の禁止を行なうが、本願発明はこれに限定するものではない。例えば吸入空気量積算値Qolに基づいて下流側酸素濃度センサ32の故障判定用の閾値TaまたはTbを変化させるようにしてもよい。詳しくは、吸入空気量積算値Qolが大きくなるにしたがって、故障判定用の閾値TaまたはTbを大きくすればよい。このようにすれば、吸入空気量積算値Qolが大きくなるにしたがって、排気浄化触媒30に吸着されている炭化水素や一酸化炭素による影響により下流側酸素濃度センサ32の検出値の変化が小さくなる(所要時間Tslope、Trlが大きくなる)が、故障判定用の閾値TaまたはTbを大きくすることで、故障であると誤判定され難くなる。
【0039】
また、本発明は上記実施形態のように筒内燃料噴射式のガソリンエンジンだけでなく、各種内燃機関に適用可能であり、その排気系に設けられた各種触媒の下流側に配置された空燃比検出装置の故障判定に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
30 排気浄化触媒
32 下流側酸素濃度センサ
40 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系に設けられた触媒の下流側に配置された空燃比検出装置の故障判定装置であって、
前記内燃機関の作動中に燃料供給を停止し、当該燃料供給の停止後の前記空燃比検出装置により検出された排気の空燃比の変化に基づいて当該空燃比検出装置の故障判定をする故障判定手段と、
前記燃料供給の停止前において空燃比をリッチ状態にして運転する第1の運転モードでの前記内燃機関の吸入空気量を積算する吸入空気量積算手段と、
前記吸入空気量積算手段により演算された前記吸入空気量の積算値に基づいて前記故障判定手段による前記空燃比検出装置の故障判定を制限する故障判定制限手段と、を備えたことを特徴とする空燃比検出装置の故障判定装置。
【請求項2】
前記故障判定制限手段は、前記吸入空気量の積算値が所定値を超えた場合に前記空燃比検出装置の故障判定を禁止することを特徴とする請求項1に記載の空燃比検出装置の故障判定装置。
【請求項3】
前記故障判定制限手段は、前記吸入空気量積算手段により演算された前記吸入空気量の積算値に基づいて、前記故障判定手段における前記空燃比検出装置の故障判定用の閾値を変更させることを特徴とする請求項1に記載の空燃比検出装置の故障判定装置。
【請求項4】
前記吸入空気量積算手段は、前記燃料供給の停止前において空燃比をストイキオまたはリーン状態で運転する第2の運転モード、及び燃料供給を停止する第3の運転モードのうち少なくともいずれか一方での前記内燃機関の吸入空気量を、前記第1の運転モードでの吸入空気量の積算値から減算することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空燃比検出装置の故障判定装置。
【請求項5】
前記故障判定手段は、前記燃料供給の停止後の前記空燃比検出装置により検出された排気の空燃比が所定範囲を変化する所要時間に基づいて、前記空燃比検出装置の故障判定をすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空燃比検出装置の故障判定装置。
【請求項6】
前記故障判定手段は、前記燃料供給の停止から前記空燃比検出装置により検出された排気の空燃比が所定空燃比に到達するまでの所要時間に基づいて、前記空燃比検出装置の故障判定をすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空燃比検出装置の故障判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−251461(P2012−251461A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123351(P2011−123351)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】