説明

窒化アルミニウム単結晶の製造方法

【課題】実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を、低コストで短時間に得ることができ、かつ、生産性・汎用性が高い窒化アルミニウム単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】酸窒化アルミニウム及び/又は加熱により酸窒化アルミニウムに変換される酸窒化アルミニウム前駆体を含む原料組成物10を、1600〜2400℃の温度で加熱することにより窒化アルミニウムを合成し、前記窒化アルミニウムを結晶成長させることによって窒化アルミニウム単結晶を得る窒化アルミニウム単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度や放熱性向上のための分散材(フィラー)として、或いは電子・電機部品等の基板材、放熱材、又は構造材として、特に、半導体レーザー素子や発光ダイオードをはじめとする発熱量が大きい電子・電機部品等の基板材、放熱材、又は構造材として有望な窒化アルミニウム(AlN)単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電機部品、光学機器部品、或いはOA機器部品のような発熱量が大きい部品を用いる機器や装置においては、発生する熱を速やかに放散させることが要求される。従って、従来、これらの部品と接触する基板材や放熱材(ヒートシンク)、又はこれらの部品の構成材(以下、「基板材等」と記す)としては、熱伝導率が高く、放熱性に優れた金属材料(例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等)が用いられてきた。
【0003】
しかしながら、近年、これらの部品が用いられる機器や装置は小型化、高密度化、高出力化される傾向にあり、基板材等に要求される放熱性のレベルは一層高いものとなっている。また、機械的強度や電気絶縁性等の金属材料では十分に付与できない特性が求められる場合もある。このような背景の下、放熱性に加え、機械的強度、耐熱性、耐食性、電気絶縁性等の種々の特性にも優れる窒化アルミニウムが基板材等として利用されるようになりつつある。
【0004】
窒化アルミニウムはその焼結体を基板材等の構成材料として用いることが一般的であるが、最近では、より高性能な基板材等を構成できる可能性がある、窒化アルミニウム単結晶(バルク単結晶ないしはウィスカー)が注目されている。バルク単結晶は焼結体と同様に、その放熱性を利用した基板材等としての用途の他、エネルギーバンドギャップが広い(6.2eV)ことから半導体レーザー素子や発光ダイオードとしての用途、或いは窒化ガリウム(GaN)と格子定数や熱膨張係数が同程度であることから半導体レーザー素子や発光ダイオード用の基板材としての用途が期待されている。一方、ウィスカーについても、機械的強度や放熱性に優れていることから、金属やプラスチックの機械的強度や放熱性を向上させるための分散材(フィラー)としての用途が期待されている。
【0005】
窒化アルミニウム単結晶の製造方法としては、窒化法、フラックス法、化学輸送法、昇華法、化学気相合成法等の種々の方法が知られている。しかしながら、窒化アルミニウムは熱に対して安定な物質であるため、高温条件下でも溶融し難く、結晶を大きく成長させることは極めて困難である。従って、基板材等として実用可能な十分な大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を製造したという報告例は極めて少ない状況にある。
【0006】
数少ない報告例の中のいくつかを紹介すると、例えば、窒化物の粉末に該窒化物と加熱下に反応して該窒化物を分解気化させる酸化物の粉末を混合し、得られた混合粉末を窒素雰囲気中等において、該窒化物の昇華温度又は溶融温度よりも低い温度で加熱することにより窒化物粉末を分解気化せしめ、この分解気化成分を気相から基板上に結晶成長させることを特徴とする窒化物単結晶の製造方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、10mm×10mm以上、厚さ300μm以上のバルク材として十分大型の窒化アルミニウム単結晶が得られるとされている。
【0007】
また、窒素を金属アルミニウムの溶融体と接触させて溶融体中に窒化アルミニウムを形成し、その窒化アルミニウムを溶融体と物理的に接触している種結晶上に堆積させる、窒化アルミニウムのバルク単結晶の製造方法も報告されている(例えば、特許文献2参照)。この方法によれば、1インチφ(約2.5cmφ)以上の窒化アルミニウム単結晶が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−53495号公報
【特許文献2】特表2003−505331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記の方法は、機械的強度や放熱性を向上させるための分散材として、或いは電子・電機部品等の基板材等として、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を得られるものの、結晶の成長に長時間を要することから、その生産性の面においてなお改善の余地を残していた。
【0010】
具体的には、特許文献1に記載の方法は反応温度における保持時間が24時間程度と長いことから、結晶成長速度が遅いと考えられる。従って、この方法は、工業的レベルでの実用化を考慮した場合には、十分に満足できる結晶成長速度を得られる製造方法とは言えず、生産性・コストの面で問題があった。また、特許文献2に記載の方法は1.6mm/時間程度と比較的速い結晶成長速度を達成することができるが、窒素ガスのインジェクタ、結晶の引き上げ装置、各種制御装置等の複雑な機構を備えた、高価な特殊装置により実施する必要がある。この方法の場合、汎用装置を利用することができず、汎用性に欠けるため、必ずしも工業的レベルでの実用化に適した製造方法とはいえなかった。即ち、現在のところ、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を、低コストで短時間に得ることができ、かつ、生産性・汎用性が高い窒化アルミニウム単結晶の製造方法は未だ開示されておらず、そのような方法を創出することが産業界から切望されている。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を、低コストで短時間に得ることができ、かつ、生産性・汎用性が高いという、従来の方法と比較して有利な効果を奏する窒化アルミニウム単結晶の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上述の課題を解決するべく鋭意研究した結果、酸窒化アルミニウムを含む原料組成物を、1600〜2400℃の温度で加熱することにより窒化アルミニウムを合成し、その窒化アルミニウムを結晶成長させることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明によれば、以下の窒化アルミニウム単結晶の製造方法が提供される。
【0013】
[1] 酸窒化アルミニウム及び/又は加熱により酸窒化アルミニウムに変換される酸窒化アルミニウム前駆体を含む原料組成物を、1600〜2400℃の温度で加熱することにより窒化アルミニウムを合成し、前記窒化アルミニウムを結晶成長させることによって窒化アルミニウム単結晶を得る窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0014】
[2] 前記酸窒化アルミニウムとして、Al2230、Al2327、Al、Al及びAlの群から選択される少なくとも1種を用いる前記[1]に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0015】
[3] 前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を、炭素の存在下で行う前記[1]又は[2]に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0016】
[4] 前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を、黒鉛製ないしは窒化物製の反応容器にて行う前記[1]〜[3]のいずれかに記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0017】
[5] 前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を、窒素ガス及び/又は窒素化合物ガスを含有し、かつ、前記窒素ガス及び/又は前記窒素化合物ガスの分圧が1kPa〜1MPaの反応雰囲気中で行う前記[1]〜[4]のいずれかに記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0018】
[6] 前記炭素として粉末状の炭素(炭素粉末)を用い、前記炭素粉末を前記原料組成物に混合せしめた状態で前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を行う前記[3]〜[5]のいずれかに記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0019】
[7] 前記反応雰囲気中に単結晶基板を存在させることにより、前記単結晶基板の表面に、前記窒化アルミニウムを結晶成長させる前記[1]〜[6]のいずれかに記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【0020】
[8] 前記原料組成物の温度と、前記単結晶基板の温度との温度差を20℃以上に制御した状態で前記窒化アルミニウムを結晶成長させる前記[7]に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を、低コストで短時間に得ることができ、かつ、生産性・汎用性が高いという、従来の方法と比較して有利な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】式(2)、(6)〜(8)の各反応について、温度とギブズの自由エネルギー(ΔG)との関係を示したグラフである。
【図2】式(2)、(3)、(6)〜(8)の各反応について、温度と発生するAlO分圧の関係を示したグラフである。
【図3】本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法に使用し得る加熱炉の概略断面図である。
【図4】参考例17の製造方法により得られた板状の窒化アルミニウム単結晶を示す顕微鏡写真である。
【図5】参考例3の製造方法により得られた針状の窒化アルミニウム単結晶を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明の製造方法は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の製造方法を説明するのに先立って、参考までに類似の方法である酸化アルミニウムと窒化アルミニウムを含む原料組成物を使用して窒化アルミニウム単結晶を製造する方法(以下、「参考製造方法」と記す。)について説明する。参考製造方法は、酸化アルミニウムと、窒化アルミニウムとを含む原料組成物を、1600〜2400℃の温度で加熱することにより窒化アルミニウムを合成し、その窒化アルミニウムを結晶成長させるものである。このような製造方法は、機械的強度や放熱性を向上させるための分散材として、或いは電子・電機部品等の基板材等として、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を、低コストで短時間に得ることができ、かつ、生産性・汎用性が高いという、従来の方法と比較して有利な効果を奏するものである。なお、本明細書において、「窒化アルミニウム単結晶」というときは、窒化アルミニウムの板状単結晶、針状単結晶、バルク単結晶の他、ウィスカーも含むものとする。
【0025】
(1)原料組成物:
前記参考製造方法では、酸化アルミニウムを含む原料組成物を使用する。窒化アルミニウム合成の際のアルミニウム源としては、酸化アルミニウムの他、金属アルミニウムが用いられる場合もあるが、以下の点において好ましくない。即ち、金属アルミニウムは低温から溶融・揮発するものの、溶融物表面に窒化物被膜が形成され易いため、その揮発、ひいては合成反応が阻害されるという問題がある。また、大きい単結晶を得るためには高温で合成及び結晶成長を行うことが有利とされているが、低温から溶融・揮発する金属アルミニウムはこのような反応には不向きである。
【0026】
これに対し、酸化アルミニウムを原料とする場合、下記式(2)に示すような反応により、窒化アルミニウムが生成する。具体的には、下記式(2−1)に示すような還元反応が進行して気体分子であるAlOが発生し、次いで、下記式(2−2)に示すように、AlO(或いはその誘導体)が窒素と反応して窒化アルミニウムが生成する。この方法は、AlOを窒化アルミニウムの単結晶源とする方法であるが、AlOの揮発速度は比較的速いため、結晶成長速度を速くする点で有利である。
Al+3C+N→2AlN+3CO …(2)
Al+2C→AlO+2CO …(2−1)
AlO+C+N→2AlN+CO …(2−2)
【0027】
前記参考製造方法は、原料組成物を高温で加熱する工程を含むので、原料組成物に含まれる酸化アルミニウムの一部又は全部に代えて、加熱により酸化アルミニウムに変換される酸化アルミニウム前駆体を用いてもよい。酸化アルミニウム前駆体としては、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH))、硫酸アルミニウム(Al(SO)、アルミニウムアルコキシド(Al(RO):但し、Rはアルキル基)等が挙げられるが、硫酸アルミニウムのように副生する酸性ガスの除去設備を必要とせず、金属アルコキシドのように原料費が高価ではない点において水酸化アルミニウムを好適に用いることができる。
【0028】
前記参考製造方法は、上記の酸化アルミニウムの他、窒化アルミニウムを含む原料組成物を使用する点に特徴がある。酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを含む原料組成物を使用した場合の窒化アルミニウム生成過程はまだ明らかではないが、窒化アルミニウムを原料組成物中に含有せしめることにより、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとの反応によって直接的に(下記式(3)参照)、或いは酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとの反応で生じた酸窒化アルミニウムを経て間接的に(下記式(4)〜(8)参照)、窒化アルミニウムの単結晶源であるAlOが生成するものと考えられる。
Al(s)+4AlN(s)→3AlO(g)+2N(g) …(3)
Al2230(s)+20C(s)→10AlO(g)+2AlN(s)+20CO(g) …(4)
Al2327(s)+18C(s)→9AlO(g)+5AlN(s)+18CO(g) …(5)
Al(s)→3AlO(g)+2N(g) …(6)
Al(s)→3AlO(g)+AlN(s)+2N(g) …(7)
Al(s)→3AlO(g)+3AlN(s)+2N(g) …(8)
【0029】
前記参考製造方法は、前記式(2)に示した酸化アルミニウムのみを使用した場合と比べ、窒化アルミニウムの結晶核が生成し易くなる傾向があることから、窒化アルミニウム単結晶の製造に適している方法と言える。このような方法によれば、窒化アルミニウムの結晶成長が促進され、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を短時間で製造することが可能となる。中でも、前記式(4)〜(8)に示すような、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとの反応で生じた酸窒化アルミニウムを経て間接的にAlOを生成させる方法は、安定して高品質な窒化アルミニウム単結晶を製造することができる点において好ましい。
【0030】
更に、前記参考製造方法は、酸化アルミニウムのみを原料とした場合とは異なり、無色透明な窒化アルミニウム単結晶を得ることができ、単結晶の熱伝導率が低下し難いという利点がある。これは、前記式(3)〜(8)に示すように、窒化アルミニウムが生成する際に副生する一酸化炭素の量比が少ないことによるものである。特に、前記式(6)〜(8)に示す酸窒化アルミニウムを経て間接的にAlOを生成させる方法は、副生する一酸化炭素の量比が極めて少ないため好ましい。これに対し、酸化アルミニウムのみを原料とすると、前記式(2)に示すように、反応系で多量に一酸化炭素が発生し、生成した窒化アルミニウム単結晶に固溶することに起因して、単結晶が青色に着色したり、或いは単結晶の熱伝導率が低下する等の問題が生ずる場合がある。
【0031】
なお、窒化アルミニウム合成の際のアルミニウム源として、窒化アルミニウム粗結晶を単独で用いる例は過去にも存在する。しかしながら、このような方法は、前記参考製造方法とはその技術的思想を異にし、以下のような問題がある。即ち、窒化アルミニウム粗結晶は、昇華温度が高く、その速度も遅いために、低温では十分な結晶成長速度を得難いという問題があり、高温で結晶成長させる場合には、そのような高温に対応し得る特殊設備が必要となるために、汎用性に欠けるという問題があった。また、窒化アルミニウムを単独で原料とした場合、その原料費が高いことに起因して生産コストが高くなるという問題もあった。
【0032】
一方、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの混合物を原料とする方法は、これらの物質の状態図から判断すれば酸窒化アルミニウムの副生が予想されるため、好ましい方法ではないというのが従来の技術常識であった。
【0033】
しかしながら、本発明者は、前記参考製造方法が、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの混合物を原料としても、酸窒化アルミニウムを残存させることなく、窒化アルミニウム単結晶を得ることができる方法であることを見出した。そして、前記参考製造方法は、結晶成長速度を速くすることができるとともに、結晶成長温度を低下させることも可能であり、汎用の設備を利用できるという利点がある。更に、窒化アルミニウム粗結晶を単独で用いた場合と比較して原料費が安価であり、生産コストを低く抑えられるという利点もある。
【0034】
また、前記参考製造方法は、原料組成物を高温で加熱する工程を含むので、原料組成物に含まれる窒化アルミニウムの一部又は全部に代えて、加熱により窒化アルミニウムに変換される窒化アルミニウム前駆体を用いてもよい。窒化アルミニウム前駆体としては、例えば、金属アルミニウム、炭化アルミニウム(Al、Al等)、ベーマイト(AlO(OH)(Al・HO))、塩化アルミニウム(AlCl)等が挙げられるが、安定で、取扱いが容易である点において窒化アルミニウムを好適に用いることができる。
【0035】
更に、前記参考製造方法においては、その一部が酸化された窒化アルミニウム(例えば、窒化アルミニウム粉末の表面部分が酸化された状態のもの等)やその一部が窒化された酸化アルミニウムのように、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムが共存した状態にあるものを原料組成物に含有せしめてもよい。このような原料組成物を用いても同様の条件にて窒化アルミニウムの合成・結晶成長を行うことが可能である。
【0036】
酸化アルミニウムや窒化アルミニウムの形態は特に限定されないが、混合が容易で反応も進行し易いという点において、粉末状のものを用いることが一般的である。
【0037】
原料組成物の組成については特に限定されないが、下記式(1)の関係を満たすものとすることが好ましく、下記式(9)の関係を満たすものとすることが更に好ましく、下記式(10)の関係を満たすものとすることが特に好ましい。
(NAO+NAO−pre):(NAN+NAN−pre)=95:5〜10:90 …(1)
(NAO+NAO−pre):(NAN+NAN−pre)=90:10〜12:88 …(9)
(NAO+NAO−pre):(NAN+NAN−pre)=80:20〜17:83 …(10)
(但し、NAO:酸化アルミニウムのモル数、NAO−pre:酸化アルミニウム前駆体の酸化アルミニウム換算のモル数、NAN:窒化アルミニウムのモル数、NAN−pre:窒化アルミニウム前駆体の窒化アルミニウム換算のモル数)
【0038】
上記範囲より酸化アルミニウムの比率が多くなると、結晶育成中の一酸化炭素分圧が高くなるために、生成した窒化アルミニウム単結晶の着色や熱伝導率の低下を引き起こすおそれがある点において好ましくない。一方、上記範囲より窒化アルミニウムの比率が多くなると、反応に寄与しない窒化アルミニウムの量が増えることに加え、原料揮発温度、ひいては結晶生成温度を上昇させることとなる。従って、収率が低下したり、結晶成長速度が遅くなるおそれがある点において好ましくない。
【0039】
上記原料組成物は、各原料を所定量秤量し、従来公知の混合方法によって混合することにより得られる。混合方法としては、例えば、従来公知の混合機、又は粉砕機(例えば、ボールミルやメディア式粉砕機等)を用いて混合する方法が挙げられる。原料組成物が少量の場合には、袋や容器等に原料を投入し、振盪する方法(手混合)により混合を行ってもよい。
【0040】
本発明の製造方法は、前記参考製造方法における酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを含む原料組成物に代えて、酸窒化アルミニウムを含む原料組成物を用いる製造方法である。酸窒化アルミニウムを含む原料組成物についても、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを含む原料組成物と同様の条件にて窒化アルミニウムの合成・結晶成長を行うことができる。
【0041】
本明細書において、「酸窒化アルミニウム」というときは、一般式:Al(但し、x,y,zは各々1以上の整数を示す。)で示される化合物を意味する。例えば、Al2230、Al2327、Al、Al、Al等を挙げることができる。そして、これらに酸化アルミニウムや窒化アルミニウムが固溶したものも、本明細書にいう「酸窒化アルミニウム」に含むものとする。
【0042】
酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを含む原料組成物を用いた場合には液相から揮発したガス成分により窒化アルミニウムの結晶が生成するが、酸窒化アルミニウムを含む原料組成物を用いた場合には固相から揮発したガス成分により窒化アルミニウムの結晶を生成させることができ、高純度の窒化アルミニウム単結晶を製造することが可能となる。特に、酸窒化アルミニウムの粉末を原料として用いた場合、その表面積が大きいため、結晶成長を迅速に行うことができるという利点がある。
【0043】
また、酸窒化アルミニウムを含む原料組成物を用いると、一酸化炭素の副生を抑えることができ、生成した窒化アルミニウム単結晶の着色や熱伝導率の低下を有効に防止することができる点においても好ましい。これは、前記式(3)〜(8)に示すように、窒化アルミニウムが生成する際に副生する一酸化炭素の量比が少ないことによる。特に、前記式(6)〜(8)に示す酸窒化アルミニウム(Al、Al、Al)を原料とすると、副生する一酸化炭素の量比を極めて少なくすることができるため好ましい。
【0044】
更に、酸窒化アルミニウムを含む原料組成物を用いると、より低温で反応を進行させることができる点においても好ましい。図1は前記式(2)、(6)〜(8)の各反応について、温度とギブズの自由エネルギー(ΔG)との関係を示したグラフである。このグラフから明らかなように、酸窒化アルミニウムを原料とする前記式(6)〜(8)の反応では、自由エネルギーが負の値をとる1100℃前後から反応が進行する。これに対し、酸化アルミニウムを原料とする前記式(2)の反応では、1400℃前後の高温とならないと反応が進行しない。
【0045】
更にまた、前記式(6)〜(8)に示す酸窒化アルミニウム(Al、Al、Al)を原料とすると、結晶育成中に原料組成物の窒化等による原料組成のずれや、反応温度の影響を受け難く、安定して高品質な窒化アルミニウム単結晶を製造することができる点において好ましい。図2は前記式(2)、(3)、(6)〜(8)の各反応について、温度と発生するAlO分圧の関係を示したグラフである。このグラフから明らかなように、前記式(6)〜(8)に示す酸窒化アルミニウムを原料として用いると、直線の傾斜が緩やかであり、温度が変化しても安定的に窒化アルミニウムの単結晶源であるAlOが供給されている。即ち、反応温度の影響を受け難く、安定して高品質な窒化アルミニウム単結晶を製造することができると言える。これに対し、酸化アルミニウムを原料とする前記式(2)の反応、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムを原料とする前記式(3)の反応では、温度変化によってAlOの供給量が変動していることから、反応温度の影響により、窒化アルミニウム単結晶の品質が影響を受けるおそれがある。
【0046】
(2)窒化アルミニウムの合成・結晶成長:
本発明の製造方法においては、上記原料組成物を、1600〜2400℃の温度で加熱する。このような条件とすることにより、目的物である窒化アルミニウムが合成され、その窒化アルミニウムが結晶成長して窒化アルミニウム単結晶を得ることができる。
【0047】
本発明の製造方法においては、生成した窒化アルミニウムの酸化を防止するべく反応雰囲気を非酸素雰囲気とするため、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス含有雰囲気中で反応及び結晶成長を行うことが一般的である。本発明の製造方法においては、酸窒化アルミニウム等の窒素源となり得る窒素化合物を原料組成物中に含有せしめるため、必ずしも窒素源となり得る窒素ガスや窒素化合物ガス(例えば、アンモニア(NH)等)を含有する雰囲気中で合成・結晶成長を行う必要はない。但し、生成した窒化アルミニウムを安定化させ、窒化アルミニウムの生成反応を促進させるという観点から、窒素ガスや窒素化合物ガスを含有する雰囲気中で合成・結晶成長を行うことが好ましい。中でも、反応系から排出されるアンモニア等の窒素化合物の除去設備が不要である点において、窒素ガスを含有する雰囲気中で合成・結晶成長を行うことが特に好ましい。
【0048】
反応雰囲気の圧力は特に限定されないが、窒素ガス及び/又は窒素化合物ガスの分圧が1kPa〜1MPa以下の反応雰囲気中で行うことが好ましく、10〜500kPaの範囲内にあることがより好ましく、10〜200kPaの範囲内にあることが特に好ましい。上記範囲未満であると、生成した窒化アルミニウムが不安定となり、分解するために、窒化アルミニウムの結晶成長速度が遅くなるおそれがある点において好ましくない。一方、上記範囲を超えると、酸窒化アルミニウム等の原料が窒化され易くなるために、結晶成長を促進させる効果が十分に発揮されなくなるおそれがある点において好ましくない。
【0049】
また、反応雰囲気の酸素濃度についても特に限定されないが、一般には、1mol%以下の範囲内に制御することが好ましいとされている。上記範囲を超えると、得られる結晶に酸素が固溶することに起因して、窒化アルミニウム結晶の品質が低下するおそれがある点において好ましくない。
【0050】
本発明の製造方法においては、窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を炭素存在下で反応を行うことが好ましい。窒化アルミニウムのアルミニウム源として酸窒化アルミニウムを用いているため、酸窒化アルミニウム還元剤としての炭素を反応系内に存在させることが好ましいからである。
【0051】
「炭素存在下」とする方法としては、反応容器や加熱装置として黒鉛製のものを用いる方法等が挙げられる。具体的には、反応容器として黒鉛坩堝を使用する方法や加熱装置として黒鉛ヒータを使用する方法等を好適に用いることができる。また、炭素として粉末状の炭素(炭素粉末)を用い、炭素粉末を原料組成物に混合せしめた状態で窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を行うことも好ましい形態の一つである。
【0052】
窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を窒化物製の反応容器にて行うことも好ましい。窒化物は一般に融点が高く、本発明のような高温条件下の反応であっても、安定して使用することができるためである。窒化物としては、例えば、窒化ホウ素(BN)、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化アルミニウム(AlN)等が挙げられるが、中でも、より安定な窒化ホウ素を好適に用いることができる。
【0053】
本発明の製造方法における温度条件としては、1600〜2400℃の範囲内とすることが必要であり、2000〜2300℃の範囲内とすることが好ましく、2100〜2300℃の範囲内とすることがより好ましい。上記範囲未満であると、窒化アルミニウムの合成に携わる原子又は分子の移動が遅くなるために、窒化アルミニウム結晶の成長速度が遅くなるおそれがある点において好ましくない。一方、上記範囲を超えると、窒化アルミニウムの分解温度に近づくために、生成した窒化アルミニウムが不安定となり分解するおそれがある点において好ましくない。
【0054】
なお、本発明の製造方法における最適な温度条件は、原料組成物の種類、その他の製造条件により、1600〜2400℃の範囲内で変動する。その製造条件において、AlOガスが十分に揮発する温度以上、生成した窒化アルミニウムが不安定となり分解する温度以下とすることが好ましい。この際、AlOガスが十分に揮発する温度を低下させるために、他の物質ないし化合物を添加することも好ましい形態の一つである。AlOガスが十分に揮発する温度を低下させる物質ないし化合物の例としては、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物や遷移金属化合物などが挙げられる。
【0055】
また、本発明の製造方法においては、反応雰囲気中に単結晶基板を存在させることにより、その単結晶基板の表面に、窒化アルミニウムを結晶成長させることが好ましい。この結晶成長は、単結晶基板を構成する単結晶と方位を同じくするエピタキシャル成長であり、電子・電機部品等の基板材等として使用し得る十分な大きさを備え、かつ、結晶欠陥の少ない高品質の窒化アルミニウム単結晶を製造することに資する。単結晶基板を構成する単結晶としては、窒化アルミニウムは勿論のこと、サファイア、炭化珪素(SiC)等を好適に用いることができる。
【0056】
このように単結晶基板の表面に窒化アルミニウムを結晶成長させる方法を採る場合には、原料組成物の温度と、単結晶基板の温度との温度差を20℃以上に制御した状態で窒化アルミニウムを結晶成長させることがより好ましい。
【0057】
温度差をこの20℃以上に制御することにより、窒化アルミニウムの結晶成長が促進されるとともに、熱による単結晶基板の損傷が抑制されるという効果を得ることができる。一方、温度差が上記範囲未満であると、窒化アルミニウムの合成に携わる反応性の高い原子や分子の一部が単結晶基板と反応するために、単結晶基板が損傷してしまうおそれがある点において好ましくない。結晶成長の促進・単結晶基板の損傷抑制という観点からは、温度差の上限は特に制限されないが、別途、冷却装置等を付設する必要がなく、汎用設備でそのまま実施することができるという点において、温度差を300℃以内に制御することが好ましく、200℃以内に制御することがより好ましい。
【0058】
なお、原料組成物の温度と単結晶基板の温度との温度差を20℃以上に制御する方法は特に限定されないが、例えば、制御系統が独立した2以上のヒータを用い、反応容器近傍を高温に、単結晶基板の配置位置近傍をそれより低温に制御することによって、反応雰囲気内に温度勾配をつける方法等が挙げられる。
【0059】
以上説明した本発明の製造方法は、実用可能性のある大きさを備えた窒化アルミニウム単結晶を、低コストで短時間に得ることができ、かつ、生産性・汎用性が高いという、従来の方法と比較して有利な効果を奏するものである。そして、適切な条件を設定することにより、2時間程度の短時間で最大外径1cmを超える板状の単結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法につき実施例を用いて具体的に説明するが、本発明の製造方法はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例の製造方法については、得られた窒化アルミニウム単結晶のサイズについて評価を行った。単結晶のサイズは、針状単結晶の場合は長さと最大外径を、板状単結晶の場合は最大外径と厚さを、以下の方法により評価した。なお、本明細書及び表において、「針状単結晶」というときは、その形状が針状の単結晶の他、三角柱状の単結晶も含むものとする。
【0061】
[針状単結晶]
針状単結晶については、反応終了後の生成物を、目視観察することにより長さを測定し、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察することにより最大外径を測定した。本明細書において「最大外径」というときは、長さ方向と直交する断面の形状が三角形である場合には最長の辺の長さ、四角形以上の多角形である場合には最長の対角線の長さ、円形である場合には直径の長さ、楕円形の場合には長径の長さを意味するものとする。確認できる最大の結晶が、長さ20mm以上、最大外径0.5mm以上の針状結晶である場合には「◎」、長さ10mm以上、最大外径0.5mm以上の針状結晶である場合には「○」、長さ5mm以上、最大外径0.2mm以上の針状結晶である場合には「△」、長さ5mm以上、最大外径0.2mm以上の針状結晶を確認できなかった場合には「×」として表記した。
【0062】
[板状単結晶]
板状単結晶については、反応終了後の生成物を、目視観察することにより最大外径を測定し、光学顕微鏡で観察することにより厚さを測定した。確認できる最大の結晶が、最大外径10mm以上、厚さ0.5mm以上の板状結晶である場合には「◎」、最大外径5mm以上、厚さ0.2mm以上の板状単結晶である場合には「○」、最大外径1mm以上、厚さ0.1mm以上の板状単結晶である場合には「△」、最大外径1mm以上、厚さ0.1mm以上の板状単結晶を確認できなかった場合には「×」として表記した。
【0063】
(参考例1〜19、比較例1〜6)
本発明の製造方法の実施例に先立って前記参考製造方法により窒化アルミニウム単結晶を製造した例を参考例として示す。酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを表1に記載のモル比で混合して原料組成物を調製した。混合は、ポリエチレン製の袋の内部に酸化アルミニウム、及び窒化アルミニウムを投入し、振盪する方法により行った。
【0064】
【表1】

【0065】
上記のように調製した原料組成物については、図3に示すような炭素ヒータ22と真空チャンバ30を備えた加熱炉20により、窒化アルミニウムの合成・結晶成長を行った。まず、原料組成物10を上部開口部を有する第1の坩堝12(窒化ホウ素製:内径40mmφ×高さ50mm)に充填し、この第1の坩堝12を、同様に上部開口部を有し、第1の坩堝より大なる第2の坩堝14(炭素製:内径90mmφ×高さ70mm)に装填し、蓋体16(炭素製:外径100mmφ×厚さ5mm)により第2の坩堝14の上部開口部を閉塞した後、加熱炉20の真空チャンバ30内部のステージ24上に配置した。なお、いずれの参考例、比較例においても、炭素源として原料組成物に炭素粉末を加えることはせず、炭素ヒータ22、坩堝14、蓋体16のみを炭素源とした。また、反応雰囲気中に単結晶基板を存在させることはせず、坩堝12の内壁に結晶を成長させた。
【0066】
ガス排出口28から真空ポンプにより排気を行うことにより、真空チャンバ30の内部を内圧が5×10−4Paとなるまで減圧した後、ガス導入口26から窒素ガスないしアルゴンガスを導入し、表1に記載の雰囲気圧力となるように調整した。その後、20℃/分の昇温速度で表1に記載の温度まで昇温し、その温度で2時間保持した後、炉冷することにより、窒化アルミニウムの合成・結晶成長を試みた。その結果を表1に示す。
【0067】
[評価]
表1に示すように、参考例1〜19の製造方法によれば条件の如何に拘らず、2時間という短時間で、フィラーとして十分実用可能な大きさを備えた、長さ5mm以上、最大外径0.2mm以上の針状結晶(三角柱状結晶も含む)、最大外径1mm以上、厚さ0.1mm以上の板状結晶を得ることができた。これらの結晶を、エネルギー分散X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray analysis)により分析したところ、結晶中には酸素は検出されず、その構成元素がアルミニウムと窒素のみであることが確認された。また、X線回折法(XRD:X−ray Diffraction)により、窒化アルミニウム結晶であることが確認された。
【0068】
更に、走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、針状結晶は結晶形状が六角形を呈していることから、(0001)方向に成長した単結晶であると推測された。また、板状結晶はX線回折により、板状の面が(0001)方向を向いている単結晶であることが確認された。三角柱状単結晶の成長面は複雑でありまだ明らかになっていないものの、結晶面の一つは(102)方向を向いており、その面でのX線ロッキングカーブ半値幅は18秒という極めて良好な値を示した。即ち、結晶性に優れ、欠陥が極めて少ない結晶であることが確認された。更に、これらの単結晶はいずれも一酸化炭素の固溶に起因する青色着色は認められなかった。
【0069】
参考例1〜19の製造方法の中では、参考例5,6,11,15〜17の製造方法が、電子・電機部品等の基板材として十分実用可能な大きさを備えた、最大外径10mm以上、厚さ0.5mm以上の板状単結晶を得ることができ、極めて良好な結果を示した。図4は、参考例17の製造方法により得られた板状単結晶を示す顕微鏡写真である。また、参考例2,4,7〜10,12〜14,18,19の製造方法も、基板材として実用可能性のある大きさを備えた、最大外径5mm以上、厚さ0.2mm以上の板状単結晶を得ることができ、比較的良好な結果を示した。今後、反応雰囲気中に単結晶基板を存在させる等、製造条件を詳細に検討することにより、更に大きい板状単結晶を得ることも期待できる。
【0070】
一方、参考例2,3,5,10,15の製造方法については、長さ20mm以上、最大外径0.5mm以上の針状結晶を得ることができ、極めて良好な結果を示した。図5は、参考例3の製造方法により得られた針状単結晶を示す顕微鏡写真である。また、参考例1,17の製造方法についても、長さ10mm以上、最大外径0.5mm以上の針状結晶を得ることができ、比較的良好な結果を示した。
【0071】
なお、参考例6,11,15,17の製造方法では板状単結晶が、参考例2,3,10の製造方法では針状結晶が優位に形成された。このように、製造条件により、作製する単結晶の形状を制御することも可能であることが分かった。
【0072】
一方、原料組成物として、酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムを単独で用いた比較例1〜6の製造方法では、長さ5mm以上、最大外径0.2mm以上の針状単結晶、或いは最大外径1mm以上、厚さ0.1mm以上の板状単結晶の生成は全く確認できなかった。
【0073】
(実施例1〜15)
予め合成しておいた酸窒化アルミニウム(合成ALON)を原料としたことを除いては、参考例1と同様にして窒化アルミニウムの合成・結晶成長を試みた。窒化アルミニウムの合成・結晶成長の条件は表2に記載の通りとした。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
[評価]
表2に示すように、実施例1〜15の製造方法によれば条件の如何に拘らず、2時間という短時間で、フィラーとして十分実用可能な大きさを備えた、長さ10mm以上、最大外径0.5mm以上の針状結晶(三角柱状結晶も含む)、最大外径1mm以上、厚さ0.1mm以上の板状結晶を得ることができた。これらの結晶を、エネルギー分散X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray analysis)により分析したところ、結晶中には酸素は検出されず、その構成元素がアルミニウムと窒素のみであることが確認された。また、X線回折法(XRD:X−ray Diffraction)により、窒化アルミニウム結晶であることが確認された。
【0076】
更に、走査型電子顕微鏡による観察を行ったところ、針状結晶は結晶形状が六角形を呈していることから、(0001)方向に成長した単結晶であると推測された。また、板状結晶はX線回折により、板状の面が(0001)方向を向いている単結晶であることが確認された。三角柱状単結晶の成長面は複雑でありまだ明らかになっていないものの、結晶面の一つは(102)方向を向いており、その面でのX線ロッキングカーブ半値幅は18秒という極めて良好な値を示した。即ち、結晶性に優れ、欠陥が極めて少ない結晶であることが確認された。更に、これらの単結晶はいずれも一酸化炭素の固溶に起因する青色着色は認められなかった。
【0077】
実施例1〜15の製造方法の中では、実施例1,4〜8,10〜15の製造方法が、電子・電機部品等の基板材として十分実用可能な大きさを備えた、最大外径10mm以上、厚さ0.5mm以上の板状単結晶を得ることができ、極めて良好な結果を示した。一方、実施例2,3,9,10の製造方法については、長さ20mm以上、最大外径0.5mm以上の針状結晶を得ることができ、極めて良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法は、金属やプラスチックの機械的強度や放熱性を向上させるための分散材(フィラー)、半導体レーザー素子や発光ダイオードをはじめとする電子・電機部品等の基板材、放熱材、又は構造材として有望な窒化アルミニウム単結晶(バルク単結晶ないしはウィスカー)の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
10:原料組成物、12:第1の坩堝、14:第2の坩堝、16:蓋体、20:加熱炉、22:炭素ヒータ、24:ステージ、26:ガス導入口、28:ガス排出口、30:真空チャンバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸窒化アルミニウム及び/又は加熱により酸窒化アルミニウムに変換される酸窒化アルミニウム前駆体を含む原料組成物を、1600〜2400℃の温度で加熱することにより窒化アルミニウムを合成し、前記窒化アルミニウムを結晶成長させることによって窒化アルミニウム単結晶を得る窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記酸窒化アルミニウムとして、Al2230、Al2327、Al、Al及びAlの群から選択される少なくとも1種を用いる請求項1記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を、炭素の存在下で行う請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を、黒鉛製ないしは窒化物製の反応容器にて行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を、窒素ガス及び/又は窒素化合物ガスを含有し、かつ、前記窒素ガス及び/又は前記窒素化合物ガスの分圧が1kPa〜1MPaの反応雰囲気中で行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記炭素として粉末状の炭素(炭素粉末)を用い、前記炭素粉末を前記原料組成物に混合せしめた状態で前記窒化アルミニウムの合成及び結晶成長を行う請求項2〜5のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記反応雰囲気中に単結晶基板を存在させることにより、前記単結晶基板の表面に、前記窒化アルミニウムを結晶成長させる請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記原料組成物の温度と、前記単結晶基板の温度との温度差を20℃以上に制御した状態で前記窒化アルミニウムを結晶成長させる請求項7に記載の窒化アルミニウム単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−180126(P2010−180126A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54598(P2010−54598)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【分割の表示】特願2005−160809(P2005−160809)の分割
【原出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】