説明

窒化ガリウム整流素子

【課題】経時劣化が少なく、低損失(バリガ性能指数が1.5GW/cm2以上)の窒化ガリウム整流素子を提供する。
【解決手段】窒化ガリウム整流素子1は、pn接合を形成するp型窒化ガリウム系半導体層及びn型窒化ガリウム系半導体層を備え、前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1018cm-3以下、又は前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1016cm-3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム系半導体を使用した窒化ガリウム整流素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は、シリコン(Si)に比べて禁制帯幅が広く、降伏電界強度が高く、耐熱性にも優れるため、高出力の整流素子やトランジスタなどの電子デバイス向け半導体材料に適している。例えば、代表的な整流素子であるpn接合型ダイオード(pnダイオード)において、GaNは従来の材料であるSiのみならず、最近開発が進んでいる炭化珪素(SiC)比較しても、物性的に圧倒的に優れている。
【0003】
図4は、pn接合型ダイオード(pnダイオード)の降伏電圧と素子のオン抵抗との理論限界における関係を示す(例えば、非特許文献1参照)。なお、同図の理論限界は、トレンチ構造などの微細加工を施していない単純な構造でのオン抵抗値を示している。高出力素子に求められる高い降伏電圧と低いオン抵抗とはトレードオフの関係にある。同図において、同じ降伏電圧で比較すると、GaNのオン抵抗はSiの0.1%以下であり、損失を大きく低減できると期待されている。
【0004】
近年、GaNを使用してSiより優れた特性のデバイスが実現しつつあることが報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
また、Siではスーパージャンクション(SJ)構造などの微細加工を施して性能を向上させた構造が開発されている。この構造はGaNなど、他の材料系でも有効に働くと考えられ、同様の性能向上効果が期待できる。そのため、微細加工技術そのものは、材料特性によってもたらされる性能格差を縮めるものではない。すなわち、構造上の工夫によって、GaNデバイスも図4に示す性能限界以上に性能を伸ばすことが十分可能である。
【0006】
特許文献1には、降伏電圧(逆方向耐圧)を高めるなどのために導入するアクセプタ不純物濃度を1×1019cm-3未満とすることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、結晶中の転位密度を5×106cm-2以下とすることにより高い降伏電圧を実現できることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.W.Jonhnson et al.,IEEE Trans.Electron Devices, ED-49(2002) ,32.
【非特許文献2】N.Ikeda et al., ISPSD 2008,p.289.
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−234907号公報
【特許文献2】特表2005−530334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
交流の整流を目的としたpn接合型整流素子、いわゆるpn接合型ダイオード(pnダイオード)には、従来よりSiが使用されてきた。Siは間接遷移型半導体材料であるために、電子正孔対の再結合確率が非常に小さく、少数キャリアの寿命が長い。このため大電流を流し、高い濃度でキャリアを注入すると、電子と正孔の両方が再結合することなく拡散電流として流れ、このために伝導度が増加し、伝導度変調が発生する。最近開発が進んでいるSiC半導体も間接遷移型半導体であり、同様の伝導度変調が発生するといわれる。
【0011】
一方、SiやSiCよりも物性的に優れ、整流素子として高特性が期待されるGaNは、前者とは異なり直接遷移型半導体材料であるため、非常に再結合速度が早い。少数キャリアの寿命はSiやSiCより非常に短く、拡散長も短い。そのために拡散電流が少なく、伝導度変調が発生しにくい。
【0012】
また、p型GaNを形成するためにドーピングするアクセプタ型不純物は、室温における熱エネルギー25meVよりもかなり深いエネルギー位置にアクセプタ準位を形成するため、正孔を放出しにくく、したがってp型層のキャリア濃度が低く、抵抗率が高くなる欠点がある。これにより素子全体としてもオン抵抗を下げにくい。例えば特許文献1には、前述したように降伏電圧(逆方向耐圧)を高めるなどのために導入するアクセプタ不純物濃度を1×1019cm-3未満とすることが開示されているが、降伏電圧が1kV無いにもかかわらず、オン抵抗が6.3mΩcm2と非常に高く、物性から予想される理想値からかけ離れている。物性から予想される理想値はこのレベルの降伏電圧であれば1mΩcm2以下となるはずで、これはオン抵抗低減に技術的な大きな問題があることを示している。
【0013】
特許文献2には、前述したように結晶中の転位密度を5×106cm-2以下とすることにより高い降伏電圧を実現できることが開示されているが、デバイス特性において最も重要な特性であるオン抵抗に関してなんらの記載もない。もちろん、オン抵抗を左右する要因についての記述もない。文献中にシート抵抗の記載はあるが、シート抵抗は最も抵抗率の低い層の情報を反映するだけであるため、オン抵抗を左右する最も抵抗率の高い層の情報は反映しておらず、特許文献2の発明者らがオン抵抗の重要性になんら気づいていないことを示している。
【0014】
上記により、GaN整流素子は、当初、物性から予測されたほどには損失が低下せず、またその重要性についても十分に考慮されていないことが分かってきた。オン抵抗は降伏電圧とトレードオフの関係にあり、降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数(バリガ性能指数)で性能が表されることが多い。このバリガ性能指数の改善が求められている。
【0015】
通電時に発生しやすく、損失の元と考えられているキャリア再結合の多くは、熱を発生して素子の温度を上昇させてしまい、損失を増大させるだけでなく素子特性をも経時劣化させてしまう。したがって従来は整流素子においてはキャリア再結合を徹底的に抑制することによって拡散電流を増やすべきものと考えられてきた。
【0016】
したがって、本発明の目的は、経時劣化が少なく、低損失(バリガ性能指数が1.5GW/cm2以上)の窒化ガリウム整流素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため、pn接合型ダイオード(pnダイオード)の損失の一つとされてきた発光再結合現象をむしろ逆に積極的に利用した本発明を案出したものである。すなわち、キャリアトラップ準位密度を低減して非発光再結合を抑えつつ発光させてしまえば、再結合により放出されるエネルギーは熱ではなく光となり、発熱が抑えられてオン抵抗は低下すると考えられる。さらに、その発光はp型層内で吸収されるので、深いアクセプタ準位からの正孔の励起を促し、正孔濃度を増加させられる。本発明の検証を行ったところ、実効的にオン抵抗は低下し、電流は増加した。オン抵抗は降伏電圧とトレードオフの関係にあり、降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数(バリガ性能指数)で性能が表されることが多い。本発明によって、性能指数が向上し、従来の限界性能を改善することができる。
【0018】
具体的には本発明は、上記目的を達成するため、以下の窒化ガリウム整流素子を提供する。
【0019】
[1]pn接合を形成するp型窒化ガリウム系半導体層及びn型窒化ガリウム系半導体層を備え、前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1018cm-3以下、又は前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1016cm-3以下である窒化ガリウム整流素子。
【0020】
[2]前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1018cm-3以下、及び前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1016cm-3以下である前記[1]に記載の窒化ガリウム整流素子。
【0021】
[3]前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1017cm-3以下、及び前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1015cm-3以下である前記[1]又[2]に記載の窒化ガリウム整流素子。
【0022】
[4]前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度がドーピングされたアクセプタ不純物濃度の35%以下、又は前記n型窒化ガリウム系半導体層の前記キャリアトラップ準位密度がドーピングされたドナー不純物濃度の35%以下である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の窒化ガリウム整流素子。
【0023】
[5]前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度がドーピングされたアクセプタ不純物濃度の35%以下、及び前記n型窒化ガリウム系半導体層の前記キャリアトラップ準位密度がドーピングされたドナー不純物濃度の35%以下である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の窒化ガリウム整流素子。
【0024】
[6]通電により発光可能な前記[1]乃至[5]のいずれかに記載の窒化ガリウム整流素子。
【0025】
[7]通電による発光出力が0.1nW/cm2を超え、0.1W/cm2未満である前記[6]に記載の窒化ガリウム整流素子。
【0026】
[8]素子の降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数が、1.5×109W/cm2以上である前記[1]乃至[7]のいずれかに記載の窒化ガリウム整流素子。
【0027】
[9]素子の降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数が、4×109W/cm2以上である前記[1]乃至[7]のいずれかに記載の窒化ガリウム整流素子。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、経時劣化が少なく、低損失(バリガ性能指数が1.5GW/cm2以上)の窒化ガリウム整流素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る窒化ガリウム整流素子の構成例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例に係る窒化ガリウム整流素子の構成例を示す図であ る。
【図3】図3は、本発明の他の実施例に係る窒化ガリウム整流素子の構成例を示す図である。
【図4】図4は、pn接合型ダイオード(pnダイオード)の降伏電圧(breakdown voltage)と素子のオン抵抗(specific on-resistance)との理論限界(limit)における関係を各材料についてすでに報告された実測値とともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0031】
[実施の形態の要約]
本実施の形態に係る窒化ガリウム整流素子は、pn接合を形成するp型窒化ガリウム系半導体層及びn型窒化ガリウム系半導体層を備えた窒化ガリウム整流素子において、前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1018cm-3以下、又は前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1016cm-3以下である。
【0032】
ここで、「窒化ガリウム系半導体層」とは、窒化ガリウムを含む半導体層であり、例えばGaN、GaAlN、InGaN又はInGaAlNなどからなる半導体層をいう。
【0033】
p型窒化ガリウム系半導体層又はn型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度を低減すると、非発光再結合が抑制されて発熱が抑えられる。その結果、熱による経時劣化が少なくなり、オン抵抗が低下してバリガ性能指数が向上する。
【0034】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る窒化ガリウム整流素子の構成例を示す断面図である。この窒化ガリウム整流素子1(以下、単に「素子1」ともいう。)は、pn接合型ダイオード(pnダイオード)により構成されたものであり、n+型GaN層(第1層)2、n-型GaN層(第2層)3、p型GaN層(第3層)4、p+型GaN層(第4層)5、アノード電極6及びカソード電極7を有する。
【0035】
+型GaN層2、及びn-型GaN層3は、ドナー準位より深いエネルギー位置にあるキャリアトラップ準位密度の合計が1×1016cm-3以下が好ましく、1×1015cm-3以下がより好ましい。
【0036】
また、n型層のn+型GaN層2及びn-型GaN層3は、キャリアトラップ準位密度の合計がドーピングされたドナー不純物濃度の35%以下が好ましい。本実施の形態のn+型GaN層2のドナー不純物濃度は、例えば2×1018cm-3であり、n-型GaN層3のドナー不純物濃度は、例えば2×1017cm-3である。
【0037】
p型GaN層4、及びp+型GaN層5は、アクセプタ準位より深いエネルギー位置にあるキャリアトラップ準位密度の合計が1×1018cm-3以下が好ましく、1×1017cm-3以下がより好ましい。
【0038】
また、p型層のp型GaN層4及びp+型GaN層5は、キャリアトラップ準位密度の合計がドーピングされたアクセプタ不純物濃度の35%以下が好ましい。本実施の形態のp型GaN層4のアクセプタ不純物濃度は、例えば2×1019cm-3であり、p+型GaN層5のアクセプタ不純物濃度は、例えば2×1020cm-3である。
【0039】
また、素子1の降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った値(性能指数)が1.5×109W/cm2(1.5×GW/cm2)以上が好ましい。
【0040】
GaNが直接遷移半導体であるため、再結合確率を減らして少数キャリアの寿命を延ばすのは容易ではない。そこで本実施の形態では、拡散電流の大小に関わらず、再結合確率が変わらなくても、オン抵抗が低減できる方法を提供する。
【0041】
(数値範囲の意義)
キャリア再結合には、発光再結合と非発光再結合とがある。これらがそれぞれオン抵抗にどのような影響を与えるかは必ずしも明らかではない。本実施の形態では、バンドギャップ中に存在するキャリアトラップ準位密度を低減することにより、オン抵抗が下がることを見出した。一般には、キャリアトラップ準位密度を下げてもトラップを介した再結合がバンド間の再結合に変わるだけであって、再結合確率そのものは変わらないと言われている。
【0042】
しかしながら、本発明者らによる検討によれば、キャリアトラップ準位密度を下げると、非発光再結合の相対的割合が減少すると推測される。その証拠として通電の際、素子1から僅かではあるが、発光が漏れるのが観測される場合がある。発光の一部、もしくは大部分はチップ外に放出されることなく、結晶中のp型層などにおいて吸収され、アクセプタ準位からのキャリアの励起などに関与すると考えられる。このためにオン抵抗に対して支配的な寄与をするp型層の抵抗率が下がってオン抵抗が下がったと考えられる。
【0043】
なお、窒化ガリウム系材料で使用されるマグネシウムや炭素、亜鉛などのアクセプタ型不純物は、p型半導体におけるキャリア供給源であるが、いずれも室温における熱エネルギーよりも深いエネルギー準位にアクセプタ準位を形成するため、一般にイオン化しにくく、言い換えればキャリアを放出しづらい。不純物濃度にもよるが、概ねドーピング濃度の10%程度のキャリアしか放出しない。したがって、p型層の抵抗率は、pn接合形成時のオン抵抗の支配的要因の一つとなっている。
【0044】
結晶中の固有欠陥、あるいは不純物によるキャリアトラップ準位は、使用する基板の種類や成長方法、成長条件などによって大きく変化する。この場合にいう「キャリアトラップ準位」とは、n型層における残留アクセプタ不純物準位や、p型層に残留ドナー準位など、多数キャリアをトラップする準位はすべてキャリアトラップ準位の扱いになる。
【0045】
オン抵抗は降伏電圧とトレードオフの関係にあるため、しばしば降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った「性能指数」が、ダイオードの性能として使用される。GaNにおいては、この性能指数が1.5GW/cm2を越えれば、従来素子に比べて大幅な改善と言える。本実施の形態では、p型層中のトラップ準位密度を1×1018cm-3以下、又はn型層中のトラップ準位密度を1×1016cm-3以下にすれば、性能指数1.5GW/cm2以上が実現可能となる。さらに好ましくは、p型層中のトラップ準位密度を1×1017cm-3以下にし、n型層中のトラップ準位密度を1×1015cm-3以下にすれば、オン抵抗はほぼ理論値付近まで低下し、性能指数は4GW/cm2以上となり、極めて損失の少ないダイオードが実現する。
【0046】
また、ドーピング濃度を下げて高い降伏電圧を得る場合においても、トラップ準位密度をそのトラップが存在する層に故意にドーピングされているドナー不純物の濃度、あるいはアクセプタ不純物の濃度のおおむね35%以下に低減することにより、素子のオン抵抗を相対的に低減でき、素子の特性を大きく改善できる。
【0047】
本実施の形態では、キャリア再結合に伴って、素子内部で発光が観測され、その強度も関与していると考えられる。同様の効果を得るために、外部光源によって光を照射する方法もある程度の効果を有すると考えられるが、外部光源を付加する方法では素子の製造コストを増してしまうため、整流ダイオードの製作技術としては不十分である。
【0048】
(窒化ガリウム整流素子の製造方法)
次に、窒化ガリウム整流素子1の製造方法の一例について説明する。
【0049】
基板として、GaN基板、サファイア基板、SiC基板又はSi基板を準備する。次に、基板上に、それぞれアンモニアガスと有機Ga原料又はGa塩化物を用いた気相成長法、すなわち有機金属気相成長(MOVPE)法、又はハイドライド気相成長(HVPE)法を用いて、ドナー不純物濃度が2×1018cm-3のn+型GaN層2を成長し、その後、ドナー不純物濃度を2×1017cm-3に減らしたn-型GaN層3を成長し、さらにアクセプタ不純物を2×1019cm-3ドーピングしたp型GaN層4、2×1020cm-3ドーピングしたp+型GaN層5を順次成長する。
【0050】
ドナー不純物には、Siを使用し、アクセプタ不純物には、マグネシウム(Mg)を使用する。成膜時の制御温度は900℃〜1100℃とする。
【0051】
次に、基板としてサファイア基板、SiC基板又はSi基板を用いた場合は、素子発熱時の放熱を考慮して、基板を剥離、研磨又はエッチングによって除去した後、さらにエッチング等により表面のダメージ層を取り除いて、n+型GaN層2の上にカソード電極7を形成し、p+型GaN層5上にアノード電極6を形成する。
【0052】
基板としてGaN基板を用いた場合も同様であるが、基板とエピ層の界面が判然としないこともあって、n型GaN基板については完全に除去されていないものもある。その後、蒸着法、フォトリソグラフィー法などを用いて、図1に示すオーミック電極を有するpn接合型ダイオード(pnダイオード)構造の窒化ガリウム整流素子1を作製する。
【0053】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、p層又はn層のキャリアトラップ準位濃度を低減したので、経時劣化が少なくなり、極めて損失の少ない(バリガ性能指数が1.5GW/cm2以上)窒化ガリウム整流素子を提供することができる。
【0054】
(実施例)
図2は、本発明の実施例1〜17に係る窒化ガリウム整流素子の構成例を示す図である。
【0055】
上記実施の形態と同一の条件で、図2に示す窒化ガリウム整流素子1におけるn+型GaN層2の厚さを0μm〜150μmの範囲で変化させ、n-型GaN層3の厚さを10μm〜20μmの範囲で変化させて試料を作成し、特性を測定した。
【0056】
(実施例1〜8)
実施例1〜8は、n+型GaN層2を厚さ0〜150μmで形成し、n-型GaN層3を厚さ10〜20μmで形成し、p型GaN層4を厚さ500nmで形成し、p+型GaN層5を厚さ20nmで形成した。
【0057】
トラップ準位密度は、観測されたすべてのキャリアトラップ準位の合計とした。DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)法、光DLTS法などにより計測した。Si濃度、Mg濃度は二次イオン質量分析測定により決定した。製作したものの中で明らかにプロセス不良と思われるものを除き、さらにそれぞれのタイプの測定結果の群から比較的特性のよいものを選択してまとめた結果を表1に示す。特性の違いが、GaNやSiC、サファイアやSiといった基板材料の種類(構成元素や結晶形態)によらず、その中に存在するトラップ準位の密度にのみ依存していることが分かった。
【0058】
発光出力は積分球とフォトディテクタを用いて電流通電時に観測された最大値とした。積分球を用いない場合、用いた場合に比べると検出される強度が著しく弱くなり、定量も難しいが発光は観測される。電流密度は最大10kA/cm2まで変化させて測定している。
【0059】
従来例1〜3、実施例1〜8、比較例1、2のいずれのダイオードにおいても降伏電圧は物性定数である降伏電界強度から予想されるとおりで、本実施例1〜8の場合では概ね200V程度あり、また従来例1〜3のダイオードの特性も、論文(Y.Yoshizumi, et al.,J.Cryst.Growth 298,875(2007).)で公表されている特性などから推定される値とほぼ同程度であった。オン抵抗は観測された最低値を示している。
【0060】
従来例1〜3は、p層中のトラップ準位密度は1×1018cm-3を超え、かつn層中のトラップ準位密度は1×1016cm-3を超えたため、オン抵抗は0.05mΩcm2を超え、性能指数は1.5×109W/cm2未満となった。
【0061】
実施例1、2は、n層中のトラップ準位密度は1×1016cm-3を超えたが、p層中のトラップ準位密度が1×1018cm-3以下となったため、オン抵抗は0.05mΩcm2以下となり、性能指数は1.5×109W/cm2以上となった。
【0062】
実施例3、4は、p層中のトラップ準位密度は1×1018cm-3を超えたが、n層中のトラップ準位密度が1×1016cm-3以下となったため、オン抵抗は0.05mΩcm2以下となり、性能指数は1.5×109W/cm2以上となった。
【0063】
実施例5〜8は、p層中のトラップ準位密度は1×1018cm-3以下となり、n層中のトラップ準位密度は1×1016cm-3以下となったため、オン抵抗は0.05mΩcm2以下となり、性能指数は1.5×109W/cm2以上となった。
【0064】
比較例1、2は、p層中のトラップ準位密度は1×1018cm-3を超え、かつn層中のトラップ準位密度は1×1016cm-3を超えたため、性能指数は1.5×109W/cm2未満となった。
【0065】
本実施例で作製した降伏電圧200V程度のデバイスでは、図4の傾向からも明らかなように、オン抵抗で0.05mΩcm2を下回るのでなければ、本質的にこの素子を採用するメリットがない。その点を考慮して、表1を見るならば、p型層中のトラップ準位密度では1×1018cm-3以下、又はn型層中のトラップ準位密度では1×1016cm-3以下にすれば、降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数が1.5GW/cm2を越え、従来素子に比べて大幅な改善が可能であると考えられる。さらに好ましくは、p型層中のトラップ準位密度で1×1017cm-3以下にし、n型層中のトラップ準位密度では1×1015cm-3以下にするならば(実施例6、7)、オン抵抗はほぼ理論値付近まで低下し、性能指数は4GW/cm2を越えて、極めて損失の少ないダイオードが製作できることが分かった。
【0066】
【表1】

【0067】
さらにこのように改善効果の高いデバイスは、微弱に発光していることが分かる。表1に示すように発光出力で0.1nW/cm2以上の発光が観測されているものが多い。発光に伴う寄生効果としてオン抵抗の低減効果があることを示している。おそらくは、p型層に存在するアクセプタ準位の正孔を励起して低抵抗化に寄与しているものと推定される。本実施例の構造は発光に適した構造ではないので、発光してもその発光を十分に外部に取り出すための構造を有していないため、内部の発光の状態を知ることはできないが、少なくとも外部において0.1nW/cm2以上の発光が観測されているチップについては、オン抵抗が低下しており、発光との関連性は明確である。なお、0.1W/cm2以上に強く発光する素子は、発光による効果が飽和するためか、あるいは発光効率を増す何らかの要因が阻害要因となって十分なオン抵抗向上が認められず、性能を低下させてしまうことも分かった。
【0068】
(実施例9〜17)
ドーピング不純物濃度を下げて、降伏電圧を変化させた場合のダイオード性能について、本発明を適用した効果を表2に示す。実施例1と同様の積層構造、および成膜条件を用いて、n-型GaN層3とp型GaN層4のドーピング濃度が数水準異なるものを作製し、比較検討した。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示すように、従来の方法ではドーピング濃度を下げることによって降伏電圧は向上するが、オン抵抗の上昇を招き、性能は向上しない。これは性能指数に関してはやはりトラップ準位密度が支配的に働いているためと考えられる。また、表2から明らかなように、定量的にはp型層中のトラップ準位密度NT1が1×1018cm-3以下、n型層中のトラップ準位密度NT2が1×1016cm-3以下としてもそれだけではまだ十分ではなく、その層におけるドーピング不純物濃度(p層中のアクセプタ不純物濃度NA、n層中のドナー不純物濃度ND)の概ね35%を超えない程度のトラップ準位密度に抑制する必要がある。これは、ドーピング不純物から放出されるキャリアが有効に働くために必要な条件と思われるが、その理由は明確ではない。実施例9〜17に示すように、NT1/NA及びNT2/NDの一方を35%以下にすれば、性能指数が1.5GW/cm2以上になった。さらに、実施例15〜17に示すように、NT1/NA及びNT2/NDの両方を35%以下にすれば、性能指数が4GW/cm2以上になった。
【0071】
これら本発明に基づいてトラップ密度を低減した試料については、いずれの試料からも発光が観測され、オン抵抗が低減している。なお、従来型からは発光は観測されていない。
【0072】
(実施例18〜23)
図3は、本発明の実施例18〜23に係る窒化ガリウム整流素子の構成例を示す図である。
【0073】
AlGaN混晶、InGaN混晶における効果を調べるため、アンモニアガスと有機Ga原料、有機Al原料、有機In原料もしくはGa塩化物、Al塩化物、In塩化物を用いたMOVPE法、HVPE法、もしくは有機金属原料も使用したHVPE法を使ってエピ膜を成長し、実施例1と同様に素子を製作した。素子構造は図3に示すように、GaNをそれぞれAlGaN、InGaN、またはAlInGaNとしたものである。Al組成は0.1〜0.3、In組成は0.1〜0.4で設計した。
【0074】
従来例8は、GaN型であり、各エピ層を厚さ0μm〜150μmのn+型GaN層2、厚さ10μm〜20μmのn-型GaN層3、厚さ500nmのp型GaN層4、厚さ20nmのp+型GaN層5で構成した。従来例9は、AlGaN型であり、各エピ層をn+型AlGaN層2、n-型AlGaN層3、p型AlGaN層4、p+型AlGaN層5で構成した。従来例10は、InGaN型であり、各エピ層をn+型InGaN層2、n-型InGaN層3、p型InGaN層4、p+型InGaN層5で構成した。従来例9、10の各エピ層の厚さは従来例8と同じである。
【0075】
実施例18、19は、AlGaN型であり、各エピ層をn+型AlGaN層2、n-型AlGaN層3、p型AlGaN層4、p+型AlGaN層5で構成した。実施例20、21は、InGaN型であり、各エピ層をn+型InGaN層2、n-型InGaN層3、p型InGaN層4、p+型InGaN層5で構成した。実施例22、23は、AlInGaN型であり、各エピ層をn+型AlInGaN層2、n-型AlInGaN層3、p型AlInGaN層4、p+型AlInGaN層5で構成した。実施例18〜23の各エピ層の厚さは従来例8と同じである。
【0076】
【表3】

【0077】
各層2〜5のエピ成長に当たっては基板上にまずGaNを含むバッファ層(第5層)を適宜成長して、素子製作時に基板を実施例1と同様に除去している。その上に実施例1と同様に膜厚、ドーピング濃度を設定したp型層、n型層をエピで形成し、種々の成長条件で成長したエピ膜に対して窒化ガリウム整流素子を作製して特性を測った。その中から、特性の比較的よいものを抜き出した。その結果を表3に示す。
【0078】
結果は概ねGaNの場合(表1の実施例5〜8)と同じ傾向で、トラップ密度が大きく影響し、微弱な発光が観測された。Al組成、In組成との関連性は明確には見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、pn接合を有するすべての電子デバイスに応用が可能である。すなわち、npn型バイポーラトランジスタ、pnp型バイポーラトランジスタ、npnp型サイリスタ、npn型又はpnp型MOSFET(酸化膜ゲート電界効果トランジスタ)、JFET(pn接合型電界効果トランジスタ)、GTO(ゲートターンオフサイリスタ)、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などに適用可能である。また、窒化ガリウム系半導体でこれらのデバイスを作製する際には、大きな性能向上が期待できる。
【0080】
なお、本発明は、上記実施の形態及び上記実施例に限定されず、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…窒化ガリウム整流素子、2…n+型GaN層、3…n-型GaN層、4…p型GaN層、5…p+型GaN層、6…アノード電極、7…カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pn接合を形成するp型窒化ガリウム系半導体層及びn型窒化ガリウム系半導体層を備え、
前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1018cm-3以下、又は前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1016cm-3以下である窒化ガリウム整流素子。
【請求項2】
前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1018cm-3以下、及び前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1016cm-3以下である請求項1に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項3】
前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1017cm-3以下、及び前記n型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度が1×1015cm-3以下である請求項1又2に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項4】
前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度がドーピングされたアクセプタ不純物濃度の35%以下、又は前記n型窒化ガリウム系半導体層の前記キャリアトラップ準位密度がドーピングされたドナー不純物濃度の35%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項5】
前記p型窒化ガリウム系半導体層のキャリアトラップ準位密度がドーピングされたアクセプタ不純物濃度の35%以下、及び前記n型窒化ガリウム系半導体層の前記キャリアトラップ準位密度がドーピングされたドナー不純物濃度の35%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項6】
通電により発光可能な請求項1乃至5のいずれか1項に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項7】
通電による発光出力が0.1nW/cm2を超え、0.1W/cm2未満である請求項6に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項8】
素子の降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数が、1.5×109W/cm2以上である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の窒化ガリウム整流素子。
【請求項9】
素子の降伏電圧の2乗をオン抵抗で割った性能指数が、4×109W/cm2以上である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の窒化ガリウム整流素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−33913(P2013−33913A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68566(P2012−68566)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】