説明

立体的回路基板の製造方法

【課題】 良好な電気的特性を有する立体的回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 絶縁性フィルム1の片面に配線2が形成されたフィルム状回路基板3と表面に接着剤層5が形成された円筒形状の筺体4とを準備し、筺体4の表面全周にフィルム状回路基板3をその配線2が形成された面側が筐体4との貼付面側となるように接着剤層5を介して貼り付けた後、絶縁性フィルム1を除去して筺体4の表面の接着剤層5に配線2を残す。絶縁性フィルム1の除去は、エッチング処理による溶解除去であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラなど円筒形状の筐体の表面の全周にわたって回路が形成されている立体的回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの電子機器の小型化、多機能化、および低コスト化に伴い、その筐体の内面や外面に、回路基板をコンパクトに実装することが要求されている。このため、回路基板として平面的なものではなく立体的なものが必要とされる場合がある。また、複写機の分野においても、現像用ローラなどの金属製または樹脂製の円筒形状の筺体の外表面の全周にわたって回路基板を形成して、立体的回路基板を製造することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような筺体の表面全周に回路基板を形成する手段として、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの絶縁性フィルムの表面に電極配線を設けたフィルム状回路基板を筺体の外周に貼り付ける方法がある。この方法は、フィルム状回路基板を、多量に且つ安価に製造することができるため、筺体に電極配線を直接形成する方法よりも容易な方法であるといえる。
【0004】
一方、特許文献2には、フィルムを円筒形状である缶体にロータリカッタ方式で貼り付ける方法が記載されている。この方法では、自立保持不能な柔軟性のあるフィルムを、高い精度で所定の長さに切断し、得られたフィルムを缶体に供給してラミネートを行うことにより、缶体へのフィルムの貼り付けを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−59568号公報
【特許文献2】特開平10−236446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のロータリカッタ方式による貼付け方法は、缶体やボトルなどの飲料容器の表面にラベルを貼ることを目的として開発されたものである。そのため、ラベルを貼る位置の精度などを厳密に管理する必要がなく、また、飲料容器の表面全周にラベルを貼り付ける場合は、フィルムの両端部で重なりや間隙が生じても問題となることはない。
【0007】
これに対して電子機器用のフィルム状回路基板を円筒形状の筺体の表面全周に貼り付ける場合、フィルム状回路基板の両端部で重なりや大きな間隙が生ずると、回路を構成する配線に短絡や導通不良が発生したり、トナーがこの間隙に入り込んだりして、回路の電気的特性に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、フィルム状回路基板の両端部は重なることなく、かつ、両端部間の間隙が許容される程度に小さくなるように、貼り付けることが要求される。
【0008】
しかしながら、このような要求に応じるべく、フィルム状回路基板を精度よく切断し、その両端部で重なりや大きな間隙が生じないように予め調整して筺体に貼り付けた場合であっても、フィルム状回路基板の切断工程において生ずるバラツキは避けることはできず、また、筺体自体にも仕上がり径にバラツキが存在するため、フィルム状回路基板の両端部での重なりや両端部間における許容範囲を超えた間隙の発生を完全に防止することができないのが現状である。
【0009】
このような両端部間において生じた間隙については、貼り付けたフィルム状回路基板の表面保護用に樹脂を塗布する際に間隙も埋設することができれば、短絡や導通不良の防止に有効である。しかしながら、現状では、表面保護用の樹脂を塗布したとしても両端部間の間隙や端部の段差を完全に埋めきれずに、フィルム状回路基板の端部が露出してしまう場合がある。
【0010】
本発明はこのような従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、ローラなど円筒形状の筐体の表面に、特に全周にわたって所望の回路を形成してなる立体的回路基板の製造に際して、フィルム状回路基板を筐体に貼り付けた時に両端部間に間隙が生じても、これに起因する電気的な特性への悪影響のない立体的回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明が提供する立体的回路基板の製造方法は、絶縁性フィルムの片面に配線が形成されたフィルム状回路基板と表面に接着剤層が塗布された円筒形状の筺体とを準備し、この筺体の表面全周にフィルム状回路基板をその配線が形成された面側が筐体との貼付面側となるように接着剤層を介して貼り付けた後、絶縁性フィルムを除去して筺体の表面の接着剤層に配線を残すことを特徴としている。
【0012】
上記本発明の立体的回路基板の製造方法においては、筺体に貼り付けられたフィルム状回路基板の絶縁性フィルムを、エッチング処理によって選択的に溶解除去するのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、立体的回路基板の製造に際して筐体に貼り付けられたフィルム状回路基板の絶縁性フィルムは後に除去されるため、フィルム状回路基板の両端部間の間隙に起因する電気的特性への悪影響がない。よって、良好な電気的特性を有する立体的回路基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法の途中の段階における筐体とこれに貼り付けられたフィルム状回路基板とを示す部分的な断面図であり、フィルム状回路基板は、その配線が形成された面側が筐体との接着面側となるように接着剤層を介して筺体の表面に貼り付けられている。
【図2】本発明の製造方法により製造した、筺体の表面に接着剤層を介して配線が形成された立体的回路基板の断面図である。
【図3】本発明の製造方法により製造した立体的回路基板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の立体的回路基板の製造方法においては、先ず絶縁性フィルムの片面に所定のパターンを有する配線が形成されたフィルム状回路基板と表面に接着剤層が塗布された円筒形状の筺体とを準備する。絶縁性フィルムには、円筒形状の筺体に容易に貼り付けることが可能な程度の可撓性を有し、且つ後述する配線のパターン形成の際のエッチング処理では溶解されないが、筺体に貼り付けた後のエッチング処理では溶解可能なものを使用する。
【0016】
具体的には、ポリイミドやPETを使用することができる。絶縁性フィルムの厚さは、10μm〜75μm程度が好ましい。10μmより薄いと剛性が不足し、取り扱いが困難になる。一方、75μmを超えると厚くなりすぎて、筺体に貼り付けた後のエッチング処理に時間がかかりすぎる。
【0017】
この絶縁性フィルムの片面に所定のパターンを有する配線を形成する方法は特に限定するものでなく、一般的な方法でよい。例えば、蒸着法またはスパッタリング法で絶縁性フィルムの片面に厚さ0.05〜0.1μm程度の銅やニッケルなどの金属薄膜を直接形成し、その金属薄膜上に電気めっき法により厚さ1〜10μm程度の同じ材質の金属層を形成する。
【0018】
次に、これら金属層と下地の金属薄膜とをフォトリソグラフ及びエッチング処理することにより所定のパターンを有する配線を形成することができる。片面に所定のパターンを有する配線が形成された絶縁性フィルムは、続いてカッター等の切断手段を用いて必要な大きさに切断される。これによりフィルム状回路基板が得られる。
【0019】
円筒形状の筐体は、立体的回路基板を構成する部材であり、用途に応じて金属製や樹脂製のものを使用することができる。この筐体の表面に形成する接着剤層は、後述する絶縁性フィルムの溶解の際に同時に溶解されないのであれば特に限定されるものでなく、例えば変性エポキシ系接着剤を使用することができる。
【0020】
この接着剤層の形成には、接着剤を塗布する方法や、シート状の接着剤を貼り付ける方法を挙げることができる。シート状の接着剤は、筐体に貼り付けた時に、筐体の円周方向における接着剤シートの両端部同士のつなぎ目が離間し、筐体の軸方向に延在する間隙が接着剤層に発生し、これが問題となるおそれがある。よって、このような間隙が生じない方法である接着剤を塗布する方法が好ましい。
【0021】
塗布により接着剤層を形成する方法には、一般的なスプレーによる塗布方式や浸漬によるディップコート方式などがある。筐体の表面に形成する接着剤層の厚みは、5μm〜100μm程度が好ましい。この厚みが5μm未満では、接着能力が低下し、ポリイミドエッチングを行った際に配線が剥がれる問題が発生する。一方、100μmを超えると過剰な接着剤を塗布することとなり、生産性やコストアップの問題が生じることとなる。
【0022】
続いて、接着剤層が硬化する前に、筺体の表面全周にフィルム状回路基板をその配線が形成された面側が筐体との貼付面側となるよう貼り付ける。これにより、筺体の表面全周に接着剤層を介してフィルム状回路基板が貼り付けられる。この状態で所定の時間以上保持し、接着剤層を硬化させる。
【0023】
次に、筺体に貼り付けられたフィルム状回路基板の絶縁性フィルムを除去する。絶縁性フィルムを除去する方法としては、エッチング処理により絶縁性フィルムのみを溶解除去する方法を挙げることができる。エッチング用の溶剤(エッチャント)には、市販されている溶剤など一般的に用いられているものでよく、例えばヒドラジンなどが良く知られている。これにより、円筒形状の筺体表面の接着剤層に配線が残るので、所定のパターンを有する配線が形成された立体的回路基板が得られる。尚、絶縁性フィルムの除去後に、配線が形成されている筺体表面を保護するため、筺体表面を樹脂で覆ってもよい。
【0024】
このように、本発明の立体的回路基板の製造方法では、フィルム状回路基板を筐体に貼り付けた時に、フィルム状回路基板の絶縁性フィルムの両端部に重なりや間隙が生じても、この絶縁性フィルムは後に除去されるので、これら重なりや間隙に起因する電気的特性への悪影響がない。よって、良好な電気的特性を有する立体的回路基板を得ることができる。尚、上記説明においては、筐体の外表面に配線を有する立体的回路基板の製造方法について説明したが、筐体の内表面に配線を有する立体的回路基板も同様に製造することができる。
【実施例】
【0025】
以下、図1〜3を参照しながら具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
絶縁性フィルム1としての厚さ25μmのポリイミドフィルムの片面に、スパッタリング法により厚さ0.1μmのCu薄膜を形成した後、このCu薄膜の上に硫酸銅めっきによって厚さ8μmのCu層を形成した。Cu薄膜とCu層とからなり、全体として8μmの厚みを有するこのCu金属層上に、ドライフィルムレジスト(旭化成製、AQ−1158)を張り、所定のマスクを用いて露光、現像を行ってレジストマスクを形成した。
【0027】
次に、エッチャントとして塩化鉄を使用するエッチング処理によりCu金属層をパターニングして配線2を形成した。その後、レジストマスクを水酸化ナトリウム水溶液を用いて除去した。このようにして得た配線2を有する絶縁性フィルム1を50.4mm×250mmの大きさに切断してフィルム状回路基板3を作製した。
【0028】
一方、筐体4には直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを使用した。このアルミパイプに対して、溶液タイプの変性エポキシ系接着剤(東亜合成株式会社製アロンマイティAS−60)をトルエンで2倍に希釈した溶液でディップコートを行うことによりアルミパイプの外表面に接着剤を塗布した。尚、ディップコートの際はアルミパイプの両端部を塞いだ。次に、熱風乾燥炉により100℃×2分の条件で乾燥することで、円筒形状の筺体4の外表面全周に接着剤層5を形成した。
【0029】
次に配線2が接着剤層5と接合されるように、フィルム状回路基板3をその配線2が形成されている面側が貼付面側となるように筺体4の外表面に貼り付けた。図1に、フィルム状回路基板3が筺体4の外表面に貼り付けられている状態を示す。図1に示すように、絶縁フィルム1の両端部間には間隙Gが生じている。このフィルム状回路基板3が貼り付けられた筺体4を150℃雰囲気で30分間保持して接着剤層5を硬化させた。
【0030】
次に、ポリイミドフィルムからなる絶縁性フィルム1を溶解するため、50℃に加温した50体積%のヒドラジン一水和物水溶液に、フィルム状回路基板3が張り付けられている筺体4を浸漬し、約30分間保持した。これにより、ポリイミドフィルムからなる絶縁性フィルム1は溶解して除去された。その結果、筐体4の外表面に形成されている接着剤層5には、Cu金属層による配線2のみが残り、図2及び図3に示すような立体的回路基板10が出来上がった。
【0031】
[実施例2]
実施例1と同様にして作製したフィルム状回路基板3の貼り付けられている筺体4に対して、ヒドラジン一水和物水溶液に代えてポリイミドエッチング液として市販されている東レエンジニアリング株式会社製TP3000を用いて、ポリイミドフィルムからなる絶縁性フィルム1を溶解した。溶解時の条件は、液温80℃で約10分間の浸漬とした。この場合も、実施例1と同様に、ポリイミドフィルムからなる絶縁性フィルム1は完全に除去されてCu金属層の配線2のみが残り、図2及び図3に示すような立体的回路基板10が出来上がった。
【符号の説明】
【0032】
1 絶縁性フィルム
2 配線
3 フィルム状回路基板
4 筐体
5 接着剤層
10 立体的回路基板
G 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムの片面に配線が形成されたフィルム状回路基板と表面に接着剤層が形成された円筒形状の筺体とを準備し、この筺体の表面全周にフィルム状回路基板をその配線が形成された面側が筐体との貼付面側となるように接着剤層を介して貼り付けた後、絶縁性フィルムを除去して筺体の表面の接着剤層に配線を残すことを特徴とする立体的回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記筺体に貼り付けられたフィルム状回路基板の絶縁性フィルムをエッチング処理によって溶解除去することを特徴とする請求項1に記載の立体的回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−238684(P2011−238684A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107256(P2010−107256)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】