説明

筒体内面乾燥装置

【課題】筒体の内面を効率良く且つ塗装品質を損なうことなく良好に乾燥させて乾燥工程の短時間化を図り得る筒体内面乾燥装置を提供する。
【解決手段】筒体1の内面に施された塗装面を乾燥させる筒体内面乾燥装置に関し、前記筒体1の内部に対し挿脱し得るよう該筒体1の軸線と平行に進退動する挿入ロッド3を備え、該挿入ロッド3の先端側の適宜位置に前記筒体1の内部で該筒体1の内面に向けドライエア14を吹き出し得るよう仕上げ乾燥用エアノズル15を設けると共に、前記挿入ロッド3の基端側の適宜位置に前記筒体1の外部から前記挿入ロッド3の挿入方向に向けドライエア14を吹き出す荒乾燥用エアノズル16を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒体内面乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジェットエンジンのシャフトには、図3に一例を示す如き直径が150mm前後で長さが3000mm前後のような細長い筒体1によって構成されたものがあり、この種のシャフトでは、その内面と外面に40〜70μmの薄い膜厚の塗装膜を形成することが実施されている。
【0003】
この薄い膜厚の塗装膜は、塗布後に焼き付け処理を行うことで筒体1と一体化されるようになっているため、その焼き付け処理の安定性を保持し得るよう前記塗装膜の膜厚の誤差を30μm程度内に収めなければならないという厳しい要求がある。
【0004】
このため、10μm以下程度の極めて薄い塗装膜を6〜7回に分けて重ね塗りして、膜厚の誤差が少ない塗装膜を実現するようにしているが、その重ね塗りの各塗装の間には、塗装面を乾燥させる工程を介在させなければならず、従来においては、作業者がエアガンにより手作業で塗装面の乾燥を行うようにしていた。
【0005】
尚、塗装面を乾燥させる技術に関連する先行技術文献情報としては、例えば、下記の特許文献1や特許文献2等が既に存在している。
【特許文献1】特開平4−9589号公報
【特許文献2】特開昭64−90064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エアガンにより手作業で塗装面の乾燥を行う従来手段では、いくら筒体1の端部からエアガンでドライエアを吹き付けても、筒体1が細長く形成されているために、その内部の奥までドライエアが行き渡り難く、筒体1の内面が乾燥し終えるまでに時間がかかって乾燥工程が長くなるという問題があった。
【0007】
また、筒体1の内部の奥までドライエアを行き渡らせるべく吹き付け力を過剰に上げてしまうと、未だ塗装面の乾燥が進んでいない初期段階で筒体1の端部付近の塗装膜がドライエアの強い吹き付けにより乱れ、筒体1の内面における塗装品質が損なわれてしまう危険性があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、筒体の内面を効率良く且つ塗装品質を損なうことなく良好に乾燥させて乾燥工程の短時間化を図り得る筒体内面乾燥装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筒体の内面に施された塗装面を乾燥させる筒体内面乾燥装置であって、前記筒体の内部に対し挿脱し得るよう該筒体の軸線と平行に進退動する挿入ロッドを備え、該挿入ロッドの先端側の適宜位置に前記筒体の内部で該筒体の内面に向けドライエアを吹き出し得るよう仕上げ乾燥用エアノズルを設けると共に、前記挿入ロッドの基端側の適宜位置に前記筒体の外部から前記挿入ロッドの挿入方向に向けドライエアを吹き出す荒乾燥用エアノズルを設けたことを特徴とするものである。
【0010】
而して、筒体の内面に塗装を施した後に該筒体の内面の乾燥工程を行うに際しては、挿入ロッドの先端側を筒体の内部に挿入して基端側の荒乾燥用エアノズルを前記挿入ロッドの端部に近接させ、次いで、前記荒乾燥用エアノズルから前記挿入ロッドの挿入方向に向けて筒体の端部付近の塗装膜が乱れない程度の勢いでドライエアを吹き出し、後述する筒体の内部での仕上げ乾燥にて塗装膜が乱れない程度まで乾くよう筒体の内面の荒乾燥を外部から行い、この荒乾燥が完了した段階でドライエアの吹き出しを仕上げ乾燥用エアノズルに切り替え、該仕上げ乾燥用エアノズルから筒体の内面に向けドライエアを吹き出しながら挿入ロッドを進退動させて筒体の内面の全域の仕上げ乾燥を筒体の内部で行う。
【0011】
また、本発明においては、挿入ロッドが筒体の内面を塗装する塗装ガンにより構成されていることが好ましく、このようにすれば、塗装工程を終えた塗装ガンを筒体に挿入した状態のまま迅速に乾燥工程に移行することが可能となり、しかも、塗装工程のための装置構成をそのまま流用することが可能となる。
【0012】
更に、本発明においては、筒体を該筒体の軸線を中心に回転駆動可能に支持する支持台を備えることが好ましく、このようにすれば、筒体を支持台上で回転させながら荒乾燥や仕上げ乾燥を行うことで前記筒体の内面に満遍なくドライエアを吹き付けて乾かしていくことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明の筒体内面乾燥装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0014】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、荒乾燥用エアノズルからのドライエアの吹き出しにより筒体の外部から内面の荒乾燥を行い、この荒乾燥により筒体の内部でドライエアを内面に吹き付けても塗装膜の乱れを起こさない状態とした上で、ドライエアの吹き出しを仕上げ乾燥用エアノズルに切り替えて挿入ロッドを進退動させながら筒体の内面の全域の仕上げ乾燥を筒体の内部で行うことができるので、筒体の内面を効率良く且つ塗装品質を損なうことなく良好に乾燥させることができ、これにより乾燥工程を従来よりも大幅に短時間化することができる。
【0015】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、塗装工程を終えた塗装ガンを筒体に挿入した状態のまま迅速に乾燥工程に移行することができるので、特に重ね塗り等で塗装工程と乾燥工程を繰り返すような場合の作業効率を大幅に向上することができ、しかも、塗装工程のための装置構成をそのまま流用することができるので、設備コストの大幅な削減を図ることができる。
【0016】
(III)本発明の請求項3に記載の発明によれば、筒体を支持台上で回転させながら荒乾燥や仕上げ乾燥を行うことで前記筒体の内面に満遍なくドライエアを吹き付けて乾かしていくことができ、均一でむらの無い良好な乾燥を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、先に図3で説明したジェットエンジンのシャフトを成す筒体1を対象とし、その内面に施された塗装面を乾燥させる筒体内面乾燥装置を示しているが、ここに図示している例では、前記筒体1の内面を塗装する塗装装置を兼ねた構造の筒体内面乾燥装置としてある。
【0019】
即ち、図1に装置の全体構成を示している通り、本形態例の筒体内面乾燥装置においては、支持台2上に水平設置された筒体1の内部に対し挿脱し得るよう該筒体1の軸線と平行に進退動する挿入ロッド3が備えられているが、この挿入ロッド3が前記筒体1の内面を塗装する塗装ガンにより構成されるようになっており、前記挿入ロッド3の先端に装備された塗装ノズル4の噴射口5から前記筒体1の内面に向け塗料が噴射されるようになっている。
【0020】
この挿入ロッド3は、前記筒体1の軸線と平行に設けたガイドレール6に沿って移動する移動台車7により水平状態で支持されており、前記ガイドレール6内に張設された図示しない無端状チェーンを駆動装置8で循環駆動することにより前記移動台車7がガイドレール6に沿い移動して筒体1が進退動操作されるようになっている。
【0021】
また、前記支持台2の上面には、前記筒体1と平行に延びる左右一対の駆動シャフト9が、図示しない駆動装置により回転駆動可能に設けられ、該各駆動シャフト9の長手方向の一方の端部には、両鍔付きのプーリ10が外嵌装着されていると共に、前記各駆動シャフト9の長手方向の他方の端部には、軸心方向に長いローラ11が外嵌装着されており、これら各プーリ10と各ローラ11とにより前記筒体1の両端部がリング形の治具12,13を介して支持されている。
【0022】
つまり、前記各駆動シャフト9を同じ方向に回転することにより各治具12,13を介し筒体1が軸心を中心として回転駆動されるようになっており、一方の治具12が両鍔付きのプーリ10で支えられているのは、筒体1の軸心方向への移動を抑えるためであり、他方の治具13が軸心方向に長いローラ11で支えられているのは、長さの異なる他の筒体1にも対応できるようにするためである。
【0023】
そして、図2に拡大して示す如く、本形態例においては、前述の如き塗装ガンで構成された挿入ロッド3の先端側の適宜位置に、前記筒体1の内部で該筒体1の内面に向けドライエア14を吹き出し得るよう仕上げ乾燥用エアノズル15を設けると共に、前記挿入ロッド3の基端側の適宜位置に前記筒体1の外部から前記挿入ロッド3の挿入方向(図2中における左方向)に向けドライエア14を吹き出す荒乾燥用エアノズル16を設けるようにしている。
【0024】
ここで、前記仕上げ乾燥用エアノズル15は、前記挿入ロッド3の先端側に内蔵された形式で設けられており、該挿入ロッド3の外周面に噴射口17を開口して前記挿入ロッド3の挿入方向(図2中における左方向)に向け斜めにドライエア14を吹き出し得るようにしてある。
【0025】
即ち、このように斜めにドライエア14を吹き出すようにすれば、仕上げ乾燥用エアノズル15の噴射口17から実際に筒体1の内面にドライエア14が当たるまでの距離を長くとることが可能となり、できるだけドライエア14を拡散させて広範囲に且つ風の勢いを十分に弱めて吹き付けることが可能となる。
【0026】
また、前記荒乾燥用エアノズル16は、前記挿入ロッド3の基端側に支持具18を介して外嵌装着された形式で設けられており、ここに図示している例では、前記挿入ロッド3の円周方向二箇所(一箇所でも可)に対で設けられ、前記仕上げ乾燥用エアノズル15よりも大風量のドライエア14を吹き出し得るよう相対的に容量が大きなものとしてある。
【0027】
尚、図2中の符号19は前記仕上げ乾燥用エアノズル15に挿入ロッド3の内部を通してドライエア14を導くためのエアチューブ、20は荒乾燥用エアノズル16にドライエア14を導くためのエアチューブを示し、これらのエアチューブ19,20には、湿度調整された常温のドライエア14が導かれるようになっている。
【0028】
而して、挿入ロッド3の先端側を筒体1の内部に挿入し、該筒体1を支持台2上で回転させつつ挿入ロッド3を進退動させ、塗装ノズル4の噴射口5から前記筒体1の内面に向け塗料を噴射すると、前記筒体1の内面に螺旋状に塗料が噴射されて塗装が施されることになるが、このように筒体1の内面に塗装を施した後に該筒体1の内面の乾燥工程を行うに際しては、挿入ロッド3の先端側を筒体1の内部に挿入した状態のまま基端側の荒乾燥用エアノズル16を前記挿入ロッド3の端部に近接させ、次いで、前記荒乾燥用エアノズル16から前記挿入ロッド3の挿入方向に向けて筒体1の端部付近の塗装膜が乱れない程度の勢いでドライエア14を吹き出して筒体1の内面の荒乾燥を外部から行い、この荒乾燥が完了した段階でドライエア14の吹き出しを仕上げ乾燥用エアノズル15に切り替え、該仕上げ乾燥用エアノズル15から筒体1の内面に向けドライエア14を吹き出しながら挿入ロッド3を進退動させて筒体1の内面の全域の仕上げ乾燥を筒体1の内部で行う。
【0029】
この際、先行して行われる荒乾燥では、次の仕上げ乾燥での仕上げ乾燥用エアノズル15からのドライエア14の吹き付けにより塗装膜が乱れない程度まで塗装面を乾かしておくことが重要であり、基本的には荒乾燥の時間管理を適切に行うようにすれば良い。
【0030】
また、前述の荒乾燥や仕上げ乾燥を行うに際しては、塗装工程と同じように筒体1を支持台2上で回転させながら行うことが好ましく、このようにすれば、筒体1を支持台2上で回転させながら荒乾燥や仕上げ乾燥を行うことで前記筒体1の内面に満遍なくドライエア14を吹き付けて乾かしていくことが可能となる。
【0031】
ただし、仕上げ乾燥用エアノズル15や荒乾燥用エアノズル16を筒体1の円周方向にバランスよく複数設けることで、筒体1を支持台2上で回転させずに乾燥工程を実施することも可能であることは言うまでもない。
【0032】
従って、上記形態例によれば、荒乾燥用エアノズル16からのドライエア14の吹き出しにより筒体1の外部から内面の荒乾燥を行い、この荒乾燥により筒体1の内部でドライエア14を内面に吹き付けても塗装膜の乱れを起こさない状態とした上で、ドライエア14の吹き出しを仕上げ乾燥用エアノズル15に切り替えて挿入ロッド3を進退動させながら筒体1の内面の全域の仕上げ乾燥を筒体1の内部で行うことができるので、筒体1の内面を効率良く且つ塗装品質を損なうことなく良好に乾燥させることができ、これにより乾燥工程を従来よりも大幅に短時間化することができる。
【0033】
更に、本形態例においては、挿入ロッド3を筒体1の内面を塗装する塗装ガンにより構成しているので、塗装工程を終えた塗装ガンを筒体1に挿入した状態のまま迅速に乾燥工程に移行することができて、特に重ね塗り等で塗装工程と乾燥工程を繰り返すような場合の作業効率を大幅に向上することができ、しかも、塗装工程のための装置構成をそのまま流用することができるので、設備コストの大幅な削減を図ることができる。
【0034】
また、筒体1を該筒体1の軸線を中心に回転駆動可能に支持する支持台2を備えているので、筒体1を支持台2上で回転させながら荒乾燥や仕上げ乾燥を行うことで前記筒体1の内面に満遍なくドライエア14を吹き付けて乾かしていくことができ、均一でむらの無い良好な乾燥を実現することができる。
【0035】
更に、上述の形態例では特に説明していないが、必要に応じ前記支持台2に筒体1を水平方向に旋回する機能を付しておき、筒体1の挿入ロッド3と対峙する向きを180゜反転させながら前記筒体1の内面を長手方向の半分ずつ乾燥させることも可能であり、このようにすれば、挿入ロッド3の長さや移動ストロークを短縮することができて装置の小型化を図ることができる。
【0036】
尚、本発明の筒体内面乾燥装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、挿入ロッドを塗装ガンとは別体に設けても良いこと、筒体の支持台は必ずしも筒体を回転駆動する機能を備えていなくても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を実施する形態の一例の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1の挿入ロッドの詳細を示す断面図である。
【図3】筒体の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 筒体
2 支持台
3 挿入ロッド(塗装ガン)
14 ドライエア
15 仕上げ乾燥用エアノズル
16 荒乾燥用エアノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体の内面に施された塗装面を乾燥させる筒体内面乾燥装置であって、前記筒体の内部に対し挿脱し得るよう該筒体の軸線と平行に進退動する挿入ロッドを備え、該挿入ロッドの先端側の適宜位置に前記筒体の内部で該筒体の内面に向けドライエアを吹き出し得るよう仕上げ乾燥用エアノズルを設けると共に、前記挿入ロッドの基端側の適宜位置に前記筒体の外部から前記挿入ロッドの挿入方向に向けドライエアを吹き出す荒乾燥用エアノズルを設けたことを特徴とする筒体内面乾燥装置。
【請求項2】
挿入ロッドが筒体の内面を塗装する塗装ガンにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の筒体内面乾燥装置。
【請求項3】
筒体を該筒体の軸線を中心に回転駆動可能に支持する支持台を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の筒体内面乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−297630(P2009−297630A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153690(P2008−153690)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】